エステル書残篇

第1章

1:1[11:2]アルタシヤスタ大王在位の第二年、ニサンの月の第一日、ベニアミンの族なるキシの子シメイの子ヤイロの子モルデカイ一つの夢を見たり。 1:2[11:3]彼はユダヤ人にして、スサの町に住み、大なる人にて、王の宮廷に仕ふる者、 1:3[11:4]又バビロンの王ネブカデネザルがユダの王エコニヤと共にエルサレムより移せし俘囚人の一人なりしが、その夢は次の如し。 1:4[11:5]視よ、騷音と混亂、雷と地震、及び地上の鳴動を。 1:5[11:6]視よ、二つの大なる龍戰はんとて出で來れり。その叫は大なりき。 1:6[11:7]その叫によりて、すべての國人戰の用意をなし、義しき民に逆ひて戰はんとせり。 1:7[11:8]視よ、暗黑と陰欝、患難と苦痛、又悲哀と地上に於ける大なる混亂の日を。 1:8[11:9]義しき國人は皆心憂へ、その災害を恐れて、滅亡に備へたり。 1:9[11:10]ここに於て、彼ら神に向ひて叫びしがその叫より、小き泉の如きもの出で、大なる河となり、洪水となれり。 1:10[11:11]光と日昇り、低き者は高くせられ、自ら高しとする者は滅ぼされたり。 1:11[11:12]モルデカイこの夢を見、神の爲さんと定め給ひし事を見し時目ざめ、その夢を心に保ちて夜に至り、如何にかしてこれを知らんと願へり。

第2章

2:1[12:1]モルデカイは宮廷にて、宮殿を守る王の二人の宦官、ビグダン及びテレシと共に眠れり。 2:2[12:2]その時かれ、彼等の語るを聞きて、その目的を索り、彼らがアルタシヤスタ王を弑せんとするを知りたれば、これを王に告げぬ。 2:3[12:3]王二人の宦官を詮議せしに、彼等その罪を白狀したれば、之を死刑に處したり。 2:4[12:4]而して王此等の事を記憶にとどめんがため記錄を作り、モルデカイも亦之を記しぬ。 2:5[12:5]王はモルデカイに命じて宮廷に仕へしめ、彼に報を與ヘたり。 2:6[12:6]然るに王に貴ばれしブゲ人ハンメダタの子ハマン、王の二人の宦宮のためにモルデカイとその民を苦しめんことを謀れり。

第3章

3:1[est:1:1]アハシユエロスすなはち印度よりエテオピヤまで百二十七州を治めたるアハシユエロスの世 3:2[est:1:2]アハシユエロス王シユシヤンの城にてその國の祚に坐しをりける當時 3:3[est:1:3]その治世の第三年にその牧伯等および臣僕等のために酒宴を設けたりペルシヤとメデアの武士および貴族と諸州の牧伯等その前にありき 3:4[est:1:4]時に王その盛なる國の富有とその大なる威光の榮を示して衆多の日をわたり百八十日に及びぬ 3:5[est:1:5]これらの日のをはりし時王また王の宮の園の庭にてシユシヤンに居る大小のすべての民のために七日の間酒宴を設けたり 3:6[est:1:6]白緑青の帳幔ありて細布と紫色の紐にて銀の環および蝋石の柱に繋がるまた牀榻は金銀にして赤白黄黒の蝋石の上に居らる 3:7[est:1:7]金の酒盃にて酒を賜ふその酒盃は此と彼おのおの異なり王の用ゐる酒をたまふこと夥だし王の富有に適へり 3:8[est:1:8]その飮むことは法にかなひて誰も強ることを爲ず其は王人として各々おのれの好むごとく爲しむべしとその宮内のすべての有司に命じたればなり 3:9[est:1:9]后ワシテもまたアハシユエロス王に屬する王宮の内にて婦女のために酒宴をまうけたり 3:10[est:1:10]第七日にアハシユエロス王酒のために心樂み王の前に事ふる七人の侍從メホマン、ビスタ、ハルボナ、ビグタ、アバグタ、セタルおよびカルカスに命じ 3:11[est:1:11]后ワシテをして后の冠冕をかぶりて王の前に來らしめよと言り是は彼觀に美しければその美麗を民等と牧伯等に見さんとてなりき 3:12[est:1:12]しかるに后ワシテ侍從が傳へし王の命に從ひて來ることを肯はざりしかば王おほいに憤ほりて震怒その衷に燃ゆ 3:13[est:1:13]是において王時を知る智者にむかひて言ふ(王はすべて法律と審理に明かなる者にむかひて是の如くするを常とせり 3:14[est:1:14]時に彼の次にをりし者はペルシヤおよびメデアの七人の牧伯カルシナ、セタル、アデマタ、タルシシ、メレス、マルセナ、メムカンなりき是みな王の面を見る者にして國の第一に位せり) 3:15[est:1:15]后ワシテ、アハシユエロス王が侍從をもて傳へし命を爲ざれば法律にしたがひて如何に彼になすべきや 3:16[est:1:16]メムカン王と牧伯たちの前に答へて曰ふ后ワシテは唯王にむかひて惡き事をなしたる而已ならず一切の牧伯たちおよびアハシユエロス王の各州のもろもろの民にむかひてもまた之を爲るなり 3:17[est:1:17]后のこの事あまねく一切の婦女に聞えて彼らつひにその夫を藐め觀て言んアハシユエロス王后ワシテに己のまへに來れと命じたりしに來らざりしと 3:18[est:1:18]而して后の此所行を聞るペルシヤとメデアの諸夫人もまた今日王のすべての牧伯等に是のごとく言ん然すれば必らず藐視と忿怒多く起るべし 3:19[est:1:19]王もし之を善としたまはばワシテは此後ふたたびアハシユエロス王の前に來るべからずといふ王命を下し之をペルシヤとメデアの律法の中に書いれて更ること無らしめ而してその后の位を彼に勝れる他の者に與へたまへ 3:20[est:1:20]王の下したまはん御詔この大なる御國に徧ねく聞えわたる時は妻たる者ことごとくその夫を大小となく共に敬まふべしと 3:21[est:1:21]王と牧伯等この言を善としければ王メムカンの言のごとく爲たり 3:22[est:1:22]かくて王の諸州に徧ねく書をおくりもろもろの州にその文字にしたがひて書おくりもろもろの民にその言語にしたがひて書おくり凡て男子たる者はその家の主となるべくまたおのれの民の言を用ひてものいふべしと諭しぬ

第4章

4:1[est:2:1]これらの事の後アハシユエロス王忿怒とけてワシテおよび彼が爲たる所またその彼にむかひて議定めしところの事を憶ひおこせり 4:2[est:2:2]ここに王の前に事ふる僕等いひけるは請ふ美しき少き處女等を王のために尋もとめん 4:3[est:2:3]願はくは王御國の各州において官吏を擇び之をして美はしき處女をことごとくシユシヤンの城に集めしめ婦人を管理る王の侍從ヘガイの手にわたして婦人の局に入らしめ而して潔淨の物をこれに與へたまへ 4:4[est:2:4]斯して王の御意に適ふ女子を取りワシテに代りて后とならしめたまへと王この事を善として然なしぬ 4:5[est:2:5]茲にシユシヤンの城に一人のユダヤ人ありその名をモルデカイと曰ひキシの曾孫シメイの孫ヤイルの子にしてベニヤミン人なり 4:6[est:2:6]かれはバビロンの王ネブカデネザルが擄へゆきしユダのヱコニヤとともに擄はれ往る俘囚の中にありてヱサレムより移されたる者なり 4:7[est:2:7]かれその叔父の女ハダツサすなはちエステルを養ひ育てたり是は父も母もなかりければなりこの女子顏貌勝れてうるはしかりしがその父母の死たる後モルデカイこれを取ておのれの女となせるなり 4:8[est:2:8]王の命令と詔言の聞え傳はり衆多の女子シユシヤンの城にあつめられてヘガイの手にわたされし時エステルも亦王の家に携へられてゆき婦人を管理るヘガイの手に交されしが 4:9[est:2:9]この女子ヘガイの意にかなひて之が惠を受たり即はちヘガイすみやかに之に潔淨の物およびその分を與へまた王の家の中より七人の侍女を擧てこれに附そはしめ彼とその侍女等を婦人の局の中なる最も佳き處に移しぬ 4:10[est:2:10]エステルはおのれの民をもおのれの宗族をも顯はさざりき其はモルデカイこれを顯はすなかれと彼に言ふくめたればなり 4:11[est:2:11]またモルデカイはエステルの模樣およびその如何になれるかを知んため日々に婦人の局の庭の前をあゆめり 4:12[est:2:12]女子はおのおの婦人の則にしたがひて十二ケ月を經しかる後順番にいりてアハシユエロス王にいたる是その潔淨の日を終るはかくのごとくなるが故なり即ち沒藥の油を用ふること六ヶ月また各種の薫物および婦人の潔淨ごとにあつる物等を用ふること六ヶ月 4:13[est:2:13]女子の王にいたるは是のごとしその婦人の局より出て王の家にゆく時には凡てその望む物をことごとく與へらる 4:14[est:2:14]而して夕に往き朝におよびて婦人の第二の局に還り妃嬪をつかさどる王の侍從シヤシガスの手に屬す王これを喜こびて名をさして召すにあらざれば重ねて王にいたることなし 4:15[est:2:15]ここにモルデカイの叔父アビハイルの女すなはちモルデカイが取ておのれの女となしたるエステル入て王にいたるべき順番にあたりけるが彼は婦人をつかさどる王の侍從ヘガイが言きかせたる事の外には何をももとめざりきエステルは凡て彼を見る者によろこばれたり 4:16[est:2:16]かくエステルは王の家に召いれられてアハシユエロス王にいたれり是その治世の第七年十月即ちテベテの月なり 4:17[est:2:17]王一切の婦人に超てエステルを愛しければエステルはすべての處女にまさりて王の前に恩寵と厚情を得たり王つひに后の冕をかれの首に戴かせ彼をしてワシテにかはりて后とならしむ 4:18[est:2:18]ここにおいて王おほいなる酒宴を設けてそのもろもろの牧伯と臣僕を饗すこれをエステルの酒宴と稱ふまた諸州に租税をゆるし王の富有にかなひて物を賜ふ 4:19[est:2:19]再度處女の集められし時モルデカイは王の門に坐しをりぬ 4:20[est:2:20]エステルはモルデカイがかれに言ふくめたる如くして未だおのれの宗族をもおのれの民をも顯はさざりきエステルはモルデカイの言語にしたがふことその彼に養なひ育てられし時と異ならざりき 4:21[est:2:21]當時モルデカイ王の門に坐し居ける時王の侍從にて戸を守る者の中ビグタンおよびテレシの二人怨むる事ありてアハシユエロス王を弑せんともとめたりしが 4:22[est:2:22]その事モルデカイに知れければモルデカイこれを后エステルに告げエステルまたモルデカイの名をもてこれを王に告げたり 4:23[est:2:23]ここにおいて此事をしらべさせしにその然ること顯はれければ彼ら二人は木にかけられその事は王の前なる日誌の書にかきしるさる

第5章

5:1[est:3:1]これらの事の後アハシユエロス王アガグ人ハンメダタの子ハマンを貴びこれを高くして己とともにある一切の牧伯の上にその席を定めしむ 5:2[est:3:2]王の門にある主の諸臣みな跪づきてハマンを拜せり是は王斯かれになすことを命じたれぱなり然れどもモルデカイは跪まづかず又これを拜せざりき 5:3[est:3:3]ここをもて王の門にある王の諸臣モデカイにむかひて言ふ汝いかなれば王の命に背くやと 5:4[est:3:4]かれらモルデカイに日々かく言ふといへども聽ざりければその事の爲をふさるべきか否を見んとてハマンにこれを告たり其はモルデカイおのれのユダヤ人なることを語りたればなり 5:5[est:3:5]ハマン、モルデカイの跪づかずまた己を拜せざるを見たればハマン忿怒にたへざりしが 5:6[est:3:6]ただモルデカイ一人を殺すは事小さしと思へり彼らモルデカイの屬する民をハマンに顯はしければハマンはアハシユエロスの國の中にある一切のユダヤ人すなはちモルデカイの屬する民をことごとく殺さんと謀れり 5:7[est:3:7]アハシユエロス王の十二年正月即ちニサンの月にハマンの前にて十二月すなはちアダルの月まで一日一日のため一月一月のためにプルを投しむプルは即ち籤なり 5:8[est:3:8]ハマンかくてアハシユエロス王に言けるは御國の各州にある諸民の中に散されて別れ別れになりをる一の民ありその律法は一切の民と異りまた王の法律を守らずこの故にこれを容しおくは王の益にあらず 5:9[est:3:9]王もしこれを善としたまはば願くは彼らを滅ぼせと書くだしたまへさらば我王の事をつかさどる者等の手に銀一萬タラントを秤り交して王の府庫に入しめん 5:10[est:3:10]王すなはち指環をその手より取はづしアガグ人ハンメダタの子ハマンすなはちユダヤ人の敵たる者に交し 5:11[est:3:11]しかしてハマンに言けるはその銀はなんぢに與ふその民もまた汝にあたふれば汝に善と見ゆるごとく爲よ 5:12[est:3:12]ここにおいて正月の十三日に王の書記官を召あつめ王に屬する州牧各州の方伯およびもろもろの民の牧伯にハマンが命ぜんとする所をことごとく書しるさしむ即ちもろもろの州におくるものは其文字をもちひもろもろの民におくるものはその言語をもちひおのおのアハシユエロス王の名をもてこれを書き王の指環をもてこれに印したり 5:13[est:3:13]しかして驛卒をもて書を王の諸州におくり十二月すなはちアダルの月の十三日において一日の内に一切のユダヤ人を若き者老たる者小兒婦人の差別なくことごとく滅ぼし殺し絶しかつその所有物を奪ふべしと諭しぬ

第6章

6:1[13:1]書翰の寫はこれなり。『大王アルタシヤスタ印度よりエテオピアに至る百二十州の方伯及び總督らに書を送る。 6:2[13:2]我は諸國民を征服し、全世界を統治してより、濫にわが權威を用ひず、常に公平と寛容とをもてわが民を平穩無事ならしめ、又僻遠の地に至るまで通路を設けて、天下萬民の待望む平和を來らしめんことを努めたり。 6:3[13:3]我わが顧問らにいかにしてこれを來らしむべきかを問ひたるに、我等の間にてことに智慧に優れ、確なる好意と忠實とを認められ、この國にて第二の位を與へられたるハマンは、 6:4[13:4]かく告げたり。全世界の諸國民の中に散在する一つの惡き民ありて、諸國民と反する律法を有ち、常に諸王の命を輕んじ、ために我らの恭しく企つる我らの國の統一は、行はれずと。 6:5[13:5]されば我らは、この民のみ獨すべての人々に背き、我等の律法に反する生活をなし、我らの國に惡しき影響を及ぼし、力を盡してすべての害を釀し、我らの國の堅く立つを妨ぐるが故に、 6:6[13:6]左の宣言をなす。卽ち國務の總裁にして我らの第二の父たるハマンの汝らに送る書に認めある者どもは、今年十二月卽ちアダルの月の十四日に、すべてその妻子と共に、聊の慈悲も憐憫もなく、悉くその敵の劍にて滅ぼさるべきものなり。 6:7[13:7]又すべて年老い、且邪惡なるものは、一日の中に忽ち陰府に入り、かくて今より後我らの國務整へられ、何の憂もなきに至るべし。』 6:8[est:3:14]この詔旨を諸州に傳へてかの日のために準備をなさしめんとてその書る物の寫本を一切の民に開きて示せり 6:9[est:3:15]驛卒王の命によりて急ぎて出ゆきぬこの詔書はシユシヤンの城に於て出されたりかくて王とハマンは坐して酒飮ゐたりしがシユシヤンの邑は惑ひわづらへり

第7章

7:1[est:4:1]モルデカイ凡てこの爲れたる事を知しかばモルデカイ衣服を裂き麻布を纒ひ灰をかぶり邑の中に行て大に哭き痛く號び 7:2[est:4:2]王の門の前までも斯して來れり其は麻布をまとふては王の門の内に入ること能はざればなり 7:3[est:4:3]すべて王の命とその詔書と到れる諸州にてはユダヤ人の中におほいなる哀みあり斷食哭泣號呼おこれりまた麻布をまとふて灰の上に坐する者おほかりき 7:4[est:4:4]ここにエステルの侍女およびその侍從等きたりてこれを告ければ后はなはだしく憂ひ衣服をおくり之をモルデカイにきせてその麻布を脱しめんとしたりしがうけざりき 7:5[est:4:5]ここをもてエステルは王の侍從の一人すなはち王の命じて己に侍らしむるハタクといふ者を召しモルデカイの許に往きてその何事なるか何故なるかを知きたれと命ぜり 7:6[est:4:6]ハタクいでて王の門の前なる邑の廣場にをるモルデカイにいたりしに 7:7[est:4:7]モルデカイおのれの遇たるところを具にこれに語りかつハマンがユダヤ人を滅ぼす事のために王の府庫に秤りいれんと約したる銀の額を告げ 7:8[est:4:8]またその彼等をほろぼさしむるためにシユシヤンにおいて書て與へられし詔書の寫本を彼にわたし之をエステルに見せかつ解あかしまた彼に王の許にゆきてその民のためにこれに衿恤を請ひその前に願ふことを爲べしと言つたへよと言り 7:9[est:4:9]ハタクかへり來りてモルデカイの言詞をエステルに告ければ 7:10(なし) 7:11(なし) 7:12[est:4:10]エステル、ハタクに命じモルデカイに言をつたへしむ云く 7:13[est:4:11]王の諸臣がよび王の諸州の民みな知る男にもあれ女にもあれ凡て召れずして内庭に入て王にいたる者は必ず殺さるべき一の法律ありされど王これに金圭を伸れば生るを得べしかくて我此三十日は王にいたるべき召をかうむらざるなり 7:14[est:4:12]エステルの言をモルデカイに告げけるに 7:15[est:4:13]モルデカイ命じてエステルに答へしめて曰く汝王の家にあれば一切のユダヤ人の如くならずして免かるべしと心に思ふなかれ 7:16[est:4:14]なんぢ若この時にあたりて默して言ずば他の處よりして助援と拯救ユダヤ人に興らんされど汝どなんぢの父の家は亡ぶべし汝が后の位を得たるは此のごとき時のためなりしやも知るべからず 7:17[est:4:15]エステルまたモルデカイに答へしめて曰く 7:18[est:4:16]なんぢ往きシユシヤンにをるユダヤ人をことごとく集めてわがために斷食せよ三日の間夜晝とも食ふことも飮むこともするなかれ我とわが侍女等もおなじく斷食せんしかして我法律にそむく事なれども王にいたらん我もし死べくば死べし 7:19[est:4:17]ここにおいてモルデカイ往てエステルが凡ておのれに命じたるごとく行なへり 7:20[13:8]ここに於てモルデカイは、主のすべての御業を思ひめぐらし、祈りて、 7:21[13:9]言へり『ああ主よ、主よ、全能の王よ、全世界は汝の力の中にあり。汝若しイスラエルを救はんと定め給はば、誰か汝に逆ひ得ん。 7:22[13:10]汝は天と地と、天下のあらゆる奇しきものとを造り給へり。 7:23[13:11]汝はすべてのものの主にして、世には主に在す汝を拒み得るものなし。 7:24[13:12]主よ、汝は凡ての事を知り給ふ。汝は、我が高ぶれるハマンに禮せざりしは、輕蔑にも傲慢にもあらず、又光榮を求むるためにもあらざるを知り給へり。 7:25[13:13]我はイスラエルの救のために、甘んじて彼の足の裏に接吻をもなせり。 7:26[13:14]されどわがこれを爲ししは、人の榮光を神の榮光に優れりとせざるに由る。又唯神なる汝の外には、何ものにも跪伏さざるに由る。ああ神よ、我は決して傲慢によりこれをなせしにあらず。 7:27[13:15]ああ主よ、神よ、王よ、アブラハムの神よ、汝の民を赦し給へ。そは彼ら我らを亡ぼさんとて眼を我らに向く。彼らは始より汝のものなる嗣業を亡ぼさんことを欲せり。 7:28[13:16]汝のためにエジプトより救ひ出し給へる汝の分を輕しめ給ふ勿れ。 7:29[13:17]わが祈を聽きて汝の嗣業を憐み給へ。ああ主よ、我らの悲哀を歡喜に代へ、我らを活かし、汝の御名を讚めしめ給へ。汝を讚むるものの口を亡ぼし給ふ勿れ、ああ主よ。』 7:30[13:18]すべてのイスラエルも同じく、心を盡して主に呼はれり。彼らの死その眼の前に迫り居たればなり。

第8章

8:1[14:1]后エステルも亦死の恐の中にありたれば、主の御許に至り、 8:2[14:2]その美しき衣服を脱ぎて、苦惱と悲歎との衣を着け、價高き香油に代へて灰と糞とを頭に蒙り、その身を甚しく卑くし、喜のために常に飾りしすべての部分を、その亂れたる髮にて蔽ひ、 8:3[14:3]イスラエルの主なる神に祈ていへり『ああ主よ、汝のみ我等の王にましませり。願くは心さびしき婦なる我を助け給へ。汝の外に我助手はなし。 8:4[14:4]わが危險は迫り近けり。 8:5[14:5]ああ主よ、わが幼かりし時より、わが族の中にて聞きたるは、汝はイスラエルをすべての民らの中より選び、我らの先祖を彼らの祖先の中より永久の嗣業として選び、彼らに約束し給ひし事を爲し終へ給へることなり。 8:6[14:6]然るに我らは、汝の御前に罪を犯したれば、汝我らを敵の手に渡し給へり。 8:7[14:7]そは我ら彼らの神々を拜したればなり。ああ主よ、汝は義しく在せり。 8:8[14:8]然るに彼らは、我らが俘囚の苦痛の中にあるをもて滿足せず、その偶像と手を打ち合ひ、 8:9[14:9]汝が御口をもて定め給ひし事を廢し、汝の嗣業を滅し、汝を讚むるものの口を塞ぎ、汝の家と汝の祭壇との榮光を消し、 8:10[14:10]異邦人の口を開きて偶像を讚美せしめ、肉の王を永久に崇めしめたり。 8:11[14:11]ああ主よ、汝の主權を無きが如き者どもに與へ給ふことなく、又彼らをして我らの倒るるを笑はしめ給ふことなく、反つて彼らの計畫を彼らに返し、我らに逆ひてこれを始めし彼らを世の見せしめとなし給へ。 8:12[14:12]ああ主よ、我らを覺え給ひて、我らの苦惱の時に汝自らを示し、我に勇氣を與へ給へ。ああ神々の王にして、すべての主權を保ち給ふ主よ。 8:13[14:13]獅子の前にて、わが口に雄辯を與へ給へ。その心を變へ、我らに逆ひて戰ふものを憎ましめ給へ。彼及び彼と心同じきものとを滅し給へ。 8:14[14:14]汝の御手をもて我らを救ひ、孤獨にして汝の外に助なき我らを助け給へ。 8:15[14:15]ああ主よ、汝は一切のことを知り給ふ。我がいかに不義の光榮を憎み、割禮なき者及びすべての異邦人の寢床を厭ふかを知り給ふ。 8:16[14:16]汝はわがなくてならぬものを知り給ふ。そは我は人の前に出づる日に、わが頭の上に高き位のしるしを戴くを厭ふ。われこれを月のものの布片の如くに厭ひ、我が獨り居る時も之を着けぬなり。 8:17[14:17]汝の婢はハマンの食卓に食せず、王の饗筵にも出でず、又獻祭の酒をも飮みしことなし。 8:18[14:18]汝の婢は、此處に來りし日より今日に至るまで、汝によりて喜ぶ外に何の喜をも持たず。ああ主よ、アブラハムの神よ、 8:19[14:19]すべてのものに勝りて力ある神よ、希望なきものの聲を聽き、害ふものの手より我らを救ひ、我を恐怖より救ひ出し給へ。』

第9章

9:1[15:1]三日目に彼その祈禱を終へし時、その悲哀の衣を脱ぎて、晴衣を纒ひたり。 9:2[15:2]卽ち彼はすべてのものをみそなはし給ふ救主なる神に祈りたる後、晴衣を着け、二人の侍女を伴ひ、 9:3[15:3]一人の侍女に寄りかかりて、なよやかに歩を運び、 9:4[15:4]他の侍女は、かれの裳をとれり。 9:5[15:5]彼はその美しさ完く、その容貌は快活にして愛らしかりき。されどその心は恐怖のために惱みぬ。 9:6[15:6]やがて彼、すべての戸を過ぎて王の前に立ちぬ。王はその玉座に坐し、黄金と寳石とをもてまばゆく飾りたる、威めしき王衣もて身を裝ひ、いと畏しく見えたり。 9:7[15:7]王は威光に輝く顏を擧げて、つらつら彼を視たり。后は倒れ、青ざめ、氣を失ひて、彼を導きし侍女の頭の上に身をかがめたり。 9:8[15:8]その時神、王の心を變へて柔和ならしめ給ひければ、王は憂ひてその玉座より躍び下り、再び氣づくまでその腕にて彼を抱き、優しき言をもて慰め曰けるは 9:9[15:9]『エステルよ、こは何事ぞや、我は汝の兄弟なり、心を安んぜよ。 9:10[15:10]汝は死ぬることあらじ、わが命令はわが臣民に關るのみ、近く寄れ。』 9:11[15:11]かくて彼、その金圭を彼の頸の上に置き、 9:12[15:12]彼を抱きて、『我に語れ』といへり。 9:13[15:13]その時彼いひぬ『わが主よ、われ汝を見るに、神の御使の如く、わが心は汝の威光の故に恐れ惑ふ。 9:14[15:14]主よ、汝は驚くべく、汝の御顏は恩惠にて滿てり。』 9:15[15:15]されど彼は、その語り居る時、再び氣を喪ひて倒れたり。 9:16[15:16]王は憂ひ、彼の僕らは皆、彼を慰めたり。 9:17[est:5:1]第三日にエステル后の服を着王の家の内庭にいり王の家にむかひて立つ王は王宮の玉座に坐して王宮の戸口にむかひをりしが 9:18[est:5:2]王后エステルが庭にたちをるを見てこれに恩をくはへ其手にある金圭をエステルの方に伸しければエステルすすみよりてその圭の頭にさはれり 9:19[est:5:3]王かれに言けるは后エステルなんぢ何をもとむるやなんぢの願意は何なるや國の半分にいたるとも汝にあたふべし 9:20[est:5:4]エステルいひけるは王もし善としたまはば願くは今日わが王のために設けたる酒宴に王とハマンと臨みたまへ 9:21[est:5:5]ここに於て王ハマンを急がしめてエステルの言るごとくならしめよと命じ王とハマンやがてエステルが設けたる酒宴に臨めり 9:22[est:5:6]酒宴の時王またエステルに言けるは汝の所求は何なるやかならずゆるさるべしなんぢの願意は何なるや國の半分にいたるとも成就らるべし 9:23[est:5:7]エステル言けるは我が所求わが願意は是なり 9:24[est:5:8]われもし王の目の前に恩を得王もしわが所求をゆるしわが願意を成就しむることを善としたまはば願くは王とハマンまたわが設けんとする酒宴に臨みたまへわれ明日王の宣まへる言にしたがはん 9:25[est:5:9]かくてハマンはその日よろこび心たのしみて出きたりけるがハマン、モルデカイが王の門に居て己にむかひて起もあがらず身動もせざるを見しかば痛くモルデカイを怒れり 9:26[est:5:10]されどもハマン耐忍びて家にかへりその朋友等および妻ゼレシをまねき來らしめ 9:27[est:5:11]而してハマンその富の榮耀とその子の衆多ことと凡て王の己を貴とびし事また己をたかくして王の牧伯および臣僕の上にあらしむることを之に語れり 9:28[est:5:12]しかしてハマンまた言けらく后エステル酒宴を設けたりしが我のほかは何人をも王とともに之に臨ましめず明日もまた我は王とともに后に招かれをるなり 9:29[est:5:13]然れどユダヤ人モルデカイが王の門に坐しをるを見る間は是らの事も快樂からず 9:30[est:5:14]時にその妻ゼレシとその一切の朋友かれに言けるは請ふ高五十キユビトの木を立しめ明日の朝モルデカイをその上に懸んことを王に奏せ而して王とともに樂しみてその酒宴におもむけとハマンこの事を善としてその木を立しめたり

第10章

10:1[est:6:1]その夜王ねむること能はざりければ命じて日々の事を記せる記録の書を持きたらしめ王の前にこれを讀しめけるに 10:2[est:6:2]モルデカイ曾て王の侍從の二人戸を守る者なるビグタンとテレシがアハシユエロス王を殺さんと謀れるを告たりと記せるに遇ふ 10:3[est:6:3]王すなはち言けるは之がために何の榮譽と爵位をモルデカイにあたへしや王に事ふる臣僕等こたへて何をも彼にあたへしこと無しといへり 10:4[est:6:4]ここにおいて王誰ぞ庭にあるやと問ふこの時ハマンは己がモルデカイのために設けたる木にモルデカイを懸ることを王に奏せんとして已に王の家の外庭に來りて居る 10:5[est:6:5]王の臣僕等王につげてハマン庭に立をると言ければ王かれをして入來らしめよと言ふ 10:6[est:6:6]ハマンやがて入きたりしに王かれにいひけるは王の尊とばんと欲する人には如何になさば善らんかとハマン心におもひけるは王の尊ばんとずる者は我にあらずして誰ぞやと 10:7[est:6:7]ハマンすなはち王にいひけるは王の尊ばんと欲する人のためには 10:8[est:6:8]王の着たまへる衣服を携さへ來らしめかつ王の乘たまへる馬即ちその頭に王の冠冕を戴ける馬をひき來らしめ 10:9[est:6:9]これを王の最も貴とき一人の牧伯の手にわたし王の尊ばんとする人に其衣服を衣せしめこれを馬にのせて邑の街衢をみちびき通り王の尊とばんと欲する人には是のごとくなすべしと呼はらしむべし 10:10[est:6:10]王ハマンに言けるは急ぎなんぢが言しごとくその衣服と馬とを取り王の門に坐するユダヤ人モルデカイに斯なせよなんぢが言しところを一も缺こと無らしめよ 10:11[est:6:11]ここにおいてハマン衣服と馬とを取りモルデカイにその衣服を着せ彼をして邑の街衢を乘とほらしめその前に呼はりて云ふ王の尊ばんと欲する人には是のごとくなすべしと 10:12[est:6:12]かくてモルデカイは王の門にかへりたりしがハマンは愁へなやみ首をおほふておのれの家にはしりゆき 10:13[est:6:13]しかしてハマンおのが遇る事をことごとくその妻ゼレシとその朋友等に告げるにその智者等およびその妻ゼレシかれに言けるは彼のモルデカイすなはちなんぢがその前に敗れはじめたる者もしユダヤ人ならば汝これに勝ことを得じ必らずその前にやぶれんと 10:14[est:6:14]かれら尚ハマンとものいひをる間に王の侍從きたりてハマンをうながしエステルが設けたる酒宴にのぞましむ

第11章

11:1[est:7:1]王またハマンとともに后エステルと酒宴せんとて來れり 11:2[est:7:2]この第二の酒宴の日に王またエステルに言けるは后エステルよなんぢのもとめは何なるやかならず許さるべし汝のねがひは何なるや國の半分にいたるとも成就らるべし 11:3[est:7:3]后エステルこたへて言けるは王よ我もし王の御目の前に恩を得王もし善と見たまはばわがもとめにしたがりこわが生命をわれに賜へまたわが願にしたがひてわが民を我に賜へ 11:4[est:7:4]我とわが民は賣れて滅ぼされ殺され絶されんとす我らもし奴婢に賣れたるならんには我默してはべらん敵人は王の損害を償なふ事能はざるなり 11:5[est:7:5]アハシユエロス王后エステルにこたへて言けるは之をなさんと心にたくめる者は誰また何處にをるや 11:6[est:7:6]エステルいひけるはその敵その仇人は即ちこの惡きハマンなりと是によりてハマンは王と后の前にありて懼れたり 11:7[est:7:7]王怒り酒宴の席をたちて宮殿の園に往きければハマンたちあがりて后エステルに生命を乞り其はかれ王のおのれに禍災をなさんと決めしを見たればなり 11:8[est:7:8]王宮殿の園より歸りて酒宴の場にいたりしにエステルのをる牀榻の上にハマン俯伏ゐたれば王いひけるは彼はまた家の内にてわが前に后を辱しめんとするかと此ことば王の口より出るや人々ハマンの面をおほへり 11:9[est:7:9]時に王の前にある一人の侍從ハルボナいひけるは王の爲に善き事を言たりしかのモルデカイを懸んとてハマンが作りたる五十キユビトの木ハマンの家に立をるなりと王いひけるは彼をその上に懸よ 11:10[est:7:10]人々ハマンを其モルデカイをかけんとて設けし木の上に懸たり王の震怒つひに解く

第12章

12:1[est:8:1]その日アハシユエロス王ユダヤ人の敵ハマンの家を后エステルに賜ふモダカイもまた王の前に來れり是はエステル彼が己と何なる係りなるかを告たればなり 12:2[est:8:2]王ハマンより取かへせし己の指環をはづしてモルデカイに與ふ而してエステル、モルデカイをしてハマンの家をつかさどらしむ 12:3[est:8:3]エステルふたたび王の前に奏してその足下にひれふしアガグ人ハマンがユダヤ人を害せんと謀りしその謀計を除かんことを涙ながらに乞求めたり 12:4[est:8:4]王エステルにむかひて金圭を伸ければエステル起て王の前に立ち 12:5[est:8:5]言けるは王もし之を善としたまひ我もし王の前に恩を得この事もし王に正と見え我もし御目にかなひたらばアガグ人ハンメダタの子ハマンが王の諸州にあるユダヤ人をほろぼさんと謀りて書おくりたる書をとりけすべき旨を書くだしたまへ 12:6[est:8:6]われ豈わが民に臨まんとする禍害を見るに忍びんや豈わが宗族のほろぶるを見るにしのびんや 12:7[est:8:7]アハシユエロス王后エステルとユダヤ人モルデカイにいひけるはハマン、ユダヤ人を殺さんとしたれば我すでにハマンの家をエステルに與へまたハマンを木にかけたり 12:8[est:8:8]なんぢらも亦おのれの好むごとく王の名をもて書をつくり王の指環をもてこれに印してユダヤ人につたへよ王の名をもて書き王の指環をもて印したる書は誰もとりけすこと能はざればなり 12:9[est:8:9]ここをもてその時また王の書記官を召あつむ是三月すなはちシワンの月の二十三日なりきしかして印度よりエテオピアまでの百二十七州のユダヤ人州牧諸州の方伯牧伯等にモルデカイが命ぜんとするところを盡く書しるさしむ即ちもろもろの州におくるものはその文字をもちひ諸の民におくるものはその言語をもちひひ書おくりユダヤ人におくるものはその文字と言語をもちふ 12:10[est:8:10]かれアハシユエロス王の名をもてこれをかき王の指環をもてこれに印し驛卒をして御厩にてそだてたる逸足の御用馬にのりてその書をおくりつたへしむ 12:11[est:8:11]その中に云ふ王すべての邑にあるユダヤ人に許す彼らあひ集まり立ておのれの生命を保護しおのれを襲ふ諸國諸州の一切の兵民をその妻子もろともにほろぼし殺し絶し且その所有物を奪ふべし 12:12[est:8:12]アハシユエロス王の諸州におて十二月すなはちアダルの月の十三日一日の内かくのごとくするを許さる

第13章

13:1[16:1]『大王アルタシヤスタ印度よりエテオピアに至る百二十七州の方伯、總督、及びすべてわが忠實なる臣民の平安を問ふ。 13:2[16:2]多くの者、その恩人より大なる恩惠を受くるに從ひて、益高慢に流れ、 13:3[16:3]啻に我らの臣民を害はんと謀るのみならず、その寵遇に心滿ち、氣驕りて、彼等に善をなす人々をすら害はんとす。 13:4[16:4]且彼らは人々の感謝の念を奪ふのみならず、却つて善からぬ人々の高ぶれる言をもて自らを高くし、常に萬事を見給ふ神の、惡を憎む公義より脱れ得べしと思へり。 13:5[16:5]その友の公務を委ねられたる者の好辭は、屢、權威ある多くの人々を罪なき者の血に與らしめ、囘復し得ざる災禍を蒙らしむるに至る。 13:6[16:6]彼等は又、詐僞と欺瞞とにて歪められたる心をもて、侯伯たちの罪なき好意を惑はす。 13:7[16:7]わが汝らに宣ぶる事は、古史を繙くを待たず、最近起りし、不當なる權力を與へられしものどもの惡行を探らば、自ら明にならん。 13:8[16:8]されば我、嚴に將來を戒め、すべての人のために王國の安穩と平和とのために計らざるべからず。 13:9[16:9]我らは、我らの意圖を改め、我等の眼の前に起る事件を、常に公平をもて審くべきなり。 13:10[16:10]そはマケドニァ人にしてハンメダタの子なるハマンは、ペルシヤ人の血を引かざる眞の他國人にして、我等の善きものより遠く離れたる者なりしが、客として我等に受けられ、 13:11[16:11]我等が諸國民に示せる好意に與り、我らの父と呼ばれ、王に次ぐものとして、常にすべての人に崇められたり。 13:12[16:12]然るに彼は、その大なる威嚴を汚して、我等の國と我等の生命とを奪はんと企てたり。 13:13[16:13]彼は、さきに我等の生命を救ひ、常に我等の好意を受けしモルデカイのみならず、共に我等の國の政治に與りし、罪なきエステル、及びその民を、多くの巧なる欺瞞をもて滅さんとせり。 13:14[16:14]彼は、此等の手段によりて我等を孤立せしめ、この國をペルシヤ人よりマゲドニァ人に移し得べしと思へり。 13:15[16:15]然るに我らは、この最も憎むべき惡人の滅し盡さんとしたるユダヤ人は、何らの惡を爲さず、反つて最も正しき律法に由りて生くること、 13:16[16:16]及び我らと我らの先祖とのために、最も優れたる方法をもて國を治め給ひし、いと高くいと強き活ける神の子らなることを見出したり。 13:17[16:17]されば汝ら愼みて、ハンメダタの子ハマンの汝らに書き送りたる事項を行ふべからず。 13:18[16:18]そは此らの事を企てしものは、すべてその家族と共にスサの門に曝されたればなり。すべてのものを治め給ふ神は、速かにその行に從ひて彼に報い給ひしなり。 13:19[16:19]されば汝ら、此詔敕の寫をすべての所に掲示し、ユダヤ人をして、彼等の律法に從ひて、生くることを得しめよ。 13:20[16:20]汝ら彼らを助けて、その日、卽ち十二月、アダルの月の十三日に、彼らを惱さんとするものらに讐ゆることを得しむべし。 13:21[16:21]そは全能の神、選ばれたる民の滅亡に代へて、此の日を彼らの歡喜とならしめ給ひたればなり。 13:22[16:22]されば汝らの記念すべきもろもろの祝日の中に、この日を加へ、饗筵をもてこれを守るべし。 13:23[16:23]今も、今より後も、この日は、我らと我らに好意をもつペルシヤ人とには平安の日、我らに逆ひて徒黨を結ぶものどもには滅亡の日となるべし。 13:24[16:24]さればすべて、此等のことを守らざる町又は州は、憐をも受けず、悉く火と劍とをもて滅され、ただ人の通らざる所となるのみならず、野の獸と鳥にも永久に忌み嫌はるるに至らん。』 13:25[est:8:13]この詔旨を諸州につたへんがためまたユダヤ人をしてかの日のために準備してその敵に仇をかへさしめんがためにその書る物の寫本を一切の民に開きて示せり 13:26[est:8:14]驛卒逸足の御用馬にのり王の命によりて急がせられせきたてられて出ゆけりこの詔書はシユシヤンの城において出されたり 13:27[est:8:15]かくてモルデカイは藍と白の朝服を着大なる金の冠を戴き紫色の細布の外衣をまとひて王の前よりいできたれりシユシヤンの邑中聲をあげて喜びぬ 13:28[est:8:16]ユダヤ人には光輝あり喜悦あり快樂あり尊榮ありき 13:29[est:8:17]いづれの州にても何の邑にても凡て王の命令と詔書のいたるところにてはユダヤ人よろこび樂しみ酒宴をひらきて此日を吉日となせりしかして國の民おほくユダヤ人となれり是はユダヤ人を畏るる心おこりたればなり

第14章

14:1[est:9:1]十二月すなはちアダルの月の十三日王の命令と詔書のおこなはるべき時いよいよ近づける時すなはちユダヤ人の敵ユダヤ人を打伏んとまちかまへたりしに却てユダヤ人おのれを惡む者を打ふする事となりける其日に 14:2[est:9:2]ユダヤ人アハシユエロス王の各州にある己の邑々に相あつまりおのれを害せんとする者どもを殺さんとせり誰も彼らに敵ることを得る者なかりき其は一切の民ユダヤ人を畏れたればなり 14:3[est:9:3]諸州の牧伯州牧方伯など凡て王の事を辨理ふ者は皆ユダヤ人をたすけたり是モルデカイを畏るるによりてたり 14:4[est:9:4]モルデカイは王の家にて大なる者となりその名各州にきこえわたれり斯その人モルデカイはますます大になりゆきぬ 14:5[est:9:5]ユダヤ人すなはち刀刃をもてその一切の敵を撃て殺し滅ぼしおのれを惡む者を意のままに爲したり 14:6[est:9:6]ユダヤ人またシユシヤンの城においても五百人を殺しほろぼせり 14:7[est:9:7]パルシヤンダタ、ダルポン、アスパタ 14:8[est:9:8]ポラタ、アダリヤ、アリダタ 14:9[est:9:9]パルマシタ、アリサイ、アリダイ、ワエザタ 14:10[est:9:10]これらの者すなはちハンメダタの子ユダヤ人の敵たるハマンの十人の子をも彼ら殺せりされどその所有物には手をかけざりき 14:11[est:9:11]シユシヤンの城の内にて殺されし者の數をその日王にまうしあげければ 14:12[est:9:12]王きさきエステルにいひけるはユダヤ人シユシヤンの城の内にて五百人を殺しまたハマンの十人の子をころせり王のその餘の諸州においては幾何なりしぞや汝また何か求むるところあるやかならず許さるべし尚何かねがふところあるや必らず成就らるべし 14:13[est:9:13]エステルいひけるは王もし之を善としたまはば願くはシユシヤンにあるユダヤ人に允して明日も今日の詔旨のごとくなさしめ且ハマンの十人の子を木に懸しめたまへ 14:14[est:9:14]王かく爲せと命じシユシヤンにおいて詔旨を出せりマンの十人の子は木に懸らる 14:15[est:9:15]アダルの月の十四日にシユシヤンのユダヤ人また集まりシユシヤンの内にて三百人をころせり然れどもその所有物には手をかけざりき 14:16[est:9:16]王の諸州にあるその餘のユダヤ人もまた相あつまり立ておのれの生命を保護しその敵に勝て安んじおのれを惡む者七萬五千人をころせり然れどもその所有には手をかけざりき 14:17[est:9:17]アダルの月の十三日にこの事をおこなひ十四日にやすみてその日に酒宴をなして喜こべり 14:18[est:9:18]されどシユシヤンにをるユダヤ人はその十三日と十四日とにあひ集まり十五日にやすみてその日に酒宴をなして喜こべり 14:19[est:9:19]これによりて村々のユダヤ人すなはち石垣なき邑々にすめる者はアダルの月の十四日をもて喜樂の日酒宴の日吉日となして互に物をやりとりす 14:20[est:9:20]モルデカイこれらの事を書しるしてアハシユエロス王の諸州にをるユダヤ人に遠きにも近きにも書をおくり 14:21[est:9:21]アダルの月の十四日と十五日を年々にいはふことを命じ 14:22[est:9:22]この兩の日にユダヤ人その敵に勝て休みこの月は彼のために憂愁より喜樂にかはり悲哀より吉日にかはりたれば是らの日に酒宴をなして喜びたがひに物をやりとりし貧しき者に施與をなすべしと諭しぬ 14:23[est:9:23]ここをもてユダヤ人はその已にはじめたるごとくモルデカイがかれらに書おくりしごとく行なひつづけたり 14:24[est:9:24]アガグ人ハンメダタの子ハマンすなはちすべてのユダヤ人の敵たる者ユダヤ人を滅ぼさんと謀りプルすなはち籤を投てこれを滅ぼし絶さんとしたりしが 14:25[est:9:25]その事王の前に明かになりし時王書をおくりて命じハマンがユダヤ人を害せんとはかりしその惡き謀計をしてハマンのかうべに歸らしめ彼とその子等を木に懸しめたり 14:26[est:9:26]このゆゑに此兩の日をそのプルの名にしたがひてプリムとなづけたり斯りしかばこの書のすべての詞によりこの事につきて見たるところ己の遇たるところに依て 14:27[est:9:27]ユダヤ人あひ定め年々その書るところにしたがひその定めたる時にしたがひてこの兩の日をまもり己とおのれの子孫および凡て已につらなる者これを行ひつづけて廢すること無く 14:28[est:9:28]この兩の日をもて代々家々州々邑々において必ず記念てまもるべき者となしこれらのプリムの日をしてユダヤ人の中に廢せらるること無らしめまたこの記念をしてその子孫の中に絶ること無らしむ 14:29[est:9:29]かくてアビハイルの女なる后エステルとユダヤ人モルデカイおほいなる力をもて此プリムの第二の書を書おくりてこれを堅うす 14:30[est:9:30]すなはちモルデカイ、アハシユエロスの國の百二十七州にある一切のユダヤ人に平和と眞實の言語をもて書をおくり 14:31[est:9:31]斷食と悲哀のことにつきてプリムのこれらの日を堅うしてその定めたる時を守らしむすなはちユダヤ人モルデカイと后エステルが曾てかれらに命じたるごとくまたユダヤ人等が曾てみづから己のためおよびおのれの子孫のために定めたるがごとし 14:32[est:9:32]エステルの語プリムにかかはる是等の事をかたうせり是は書にしるされたり

第16章

16:1[est:10:1]アハシユエロス王國土および海の島々に貢をたてまつらしむ 16:2[est:10:2]アハシユエロス王が權勢と能力をもて爲たる一切の事業および彼がモルデカイを高くして大いなる者とならしめたる事の委き話はメデアとペルシヤの列王の日誌の書に記さるるにあらずや 16:3[est:10:3]ユダヤ人モルデカイはアハシユエロス王に次ぐ者となりユダヤ人の中にありて大なる者にしてその衆多の兄弟によろこばれたり彼はその民の福祉をもとめその一切の宗族に平和の言をのべたりき 16:4[10:4]その時モルデカイいひぬ『神此等の事を爲し給へり。 16:5[10:5]我は此等の事に、關る夢を憶ゆ。その一つだに空しくなれるものなし。 16:6[10:6]河となれる小き泉ありて、そこに光あり、日あり、又多くの水ありき。この河は、王の娶りて后となせしエステルなり。 16:7[10:7]二つの龍は我とハマンなり。 16:8[10:8]諸國民は、ユダヤ人の名を滅ぼさんとて集りしものどもなり。 16:9[10:9]我國民は、神に呼はりて救はれし、このイスラエルなり。主はその民を救ひ、我らをすべての害より救ひ出し給へり。神は諸國民の間に爲し給はざりし兆と、大なる不思議を行ひ給へり。 16:10[10:10]故に彼は二つの籤を作り、一つは神の民のため、一つは諸國民のためとなせり。 16:11[10:11]此らの二つの籤は、審判の時、期、又日に、すべての國民のために神の前に出で來れり。 16:12[10:12]神はその民を顧み、その嗣業を義しとし給へり。 16:13[10:13]而して此らの日はアダルの月に彼等に臨まん。卽ちその月の十四日と十五日とに、神の御前にて、集會と歡喜と悦樂とをもて臨み、代々限りなくその民イスラエルのうちにあらん。 16:14[11:1]プトレミオとクレオパトラの治世の第四年、祭司にしてレビ人なりと自稱せるドシテオとその子プトレミオ、眞のものなりと稱するプリムの書を持ち來りプトレミオの子ルシマコス、エルサレムにありて之を譯したり。