エズラ第二書

第1章

1:1預言者エズラの第二の書。エズラはサライヤの子、サライヤはアザライヤの子、アザライヤはヘルキヤの子、ヘルキヤはサレマスの子、サレマスはサドクの子、サドクはアヒトブの子、 1:2アヒトブはアキアの子、アキアはピネハスの子ピネハスはヘリの子、ヘリはアマリヤの子アマリヤはアヂエイの子、アヂエイはマリモテの子マリモテはアルナの子、アルナはオヂアの子、オヂアはボリテの子、ボリテはアビセイの子、アビセイはピネハスの子、 1:3ピネハスはエリアザルの子、エリアザルはアロンの子、アロンはレビの族の人なり。エズラはペルシヤ王アルタシヤスタの治世にメデアの地に居りし俘虜なりき。 1:4さて主の御言、我に臨みていふ。往きてわが民に、彼らの惡しき業及びその子等の我に對して行ひし罪を告げよ。 1:5これ彼らこの事をその子らの子らに傳へんがためなり。 1:6そは先祖たちの罪彼らの中に積もりて、彼ら我を忘れ、異邦人の神々に犧牲を獻げたればなり。 1:7われ彼らをエジプトの地、卽ち奴隸たる家より救ひ出せしにあらずや、然るに彼ら我を怒らせ、わが計畫を蔑したり。 1:8汝髮の毛をふるひて彼らの上に、すべての惡を投げよ。そは、彼等はわが律法に從はず、背き悖れる民なればなり。 1:9かくも多くの恩惠を與へたる民を、われ何時まで忍ばんや。 1:10われ彼らのために多くの王たちを擊ち破りて、パロとその僕ら、及びそのすべての軍勢を滅したり。 1:11我彼らの前にすべての民を滅し、東に於て二つの地方、卽ちツロとシドンの民を散らして、そのすべての敵を殺したり。 1:12故に汝彼らに語りていへ。 1:13主かく言ひ給ふ。まことにわれ汝等をして海を通らしめ、又途無き處に汝らの爲に途を開き、汝等の爲に先達としてモーセを與へ、又祭司としてアロンを與へたり。 1:14われ汝らに火の柱に依りて光を發ち、又汝らの中に大なる奇蹟を行ひたり。然るに汝ら我を忘れたりと主言ひたまふ。 1:15全能の主かく言ひ給ふ。鶉汝らのために徴となれり。我汝等を護るために陣營を與へたり。 1:16されど汝ら彼處にて呟きたり。汝ら敵を滅さんがために、わが名を用ひて勝利を獲ず、今に至るまで呟くなり。 1:17わが汝らのために與へたる恩惠何處にありや。汝ら荒野に於て飢ゑ渴きし時、我を呼びて、 1:18『汝何ぞ我らを殺さんがために、この荒野に導きたるや。此の荒野に於て死ぬるよりもエジプトに於て奴隸となり居る方よかりしものを』といひしにあらずや。 1:19われ汝らの嘆を憐み、汝らに糧としてマナを與へたり。汝ら天の使たちの糧を食ひしなり。 1:20汝等渴きし時われ岩を擊ちて、足る程の水を流れ出でしめしにあらずや。又暑さのためにわれ汝等を樹蔭をもて掩ひたり。 1:21われ汝等に豐なる國々を頒ち與へ、汝らの前よりカナン人、ペリジ人、ペリシテ人を逐ひ出したり。われ汝等のため之に勝りて何をか行はんと主いひ給ふ。 1:22全能の主、斯くいひ給ふ。汝ら荒野に於て苦き河のために渇きてわが名を汚したる時、我汝等のわが名を汚したるために火を與へずして却て樹を與へ、 1:24ヤコブよ、われ汝に何をなさんや。ユダよ、汝われに聽く事を望まざるや。我わが身を他の民等にめぐらし、彼等にわが名を與へん。これ彼等わが誡命を守らんがためなり。 1:25汝等われを捨てたるが故に我も亦汝等を捨てん。汝ら我に憐憫を求むるとも我これを汝らに與へじ。 1:26汝ら我を呼ばんにわれ汝等に聽かじ。そは汝等血をもて汝らの手をけがし、又汝らの足は人を殺すに早ければなり。 1:27汝ら我を棄てたるにあらず、己を棄てたるなりと主いひ給ふ。 1:28全能の主かく言ひ給ふ。父のその息子等に、母のその娘等に、乳母のその幼兒等に乞ひ求むるが如く、われも汝等に 1:29汝等わが民となれ、さらばわれ汝らの神と成らん、汝等わが子となれ、さらばわれ汝等の父とならんと乞ひ求めしにあらずや。 1:30牝鷄の雛を翼の下に集むるが如く、われ汝等を集めたり。されど今われ汝等に何を爲さんや。 1:31汝らをわが前より棄てん。汝等、我に供物をささぐる時、我わが顏を汝らより反けん。そはわれ汝等の祝日と新月と肉の割禮とを認めざればなり。 1:32われ汝等に預言者たるわが使者たちを遣はしたるに、汝ら彼等を取りてこれを殺し、その死體を裂きたり、われ彼等の血を汝等より求めんと主いひ給ふ。 1:33全能の主かく言ひ給ふ。汝等の家は廢れて、われ風の藁を散すが如く汝らを抛棄てん。 1:34汝らの子は子を産まじ。そは、彼等わが汝等に與へし誡命を棄ててわが前に惡しき事を行ひだればなり。 1:35未だ聽かざるも我を信じて來らんとする民に、われ汝らの家を與へん。われ其民に徴を示したる事なけれど、彼等わが命じたる事を爲さん。 1:36彼らは預言者たちを見ざれども己等の古昔の狀態を憶えん。 1:37われ來らんとする民の恩惠を證す。彼等の子等は樂みて喜ばん。彼等肉眼をもて我を見ざれども靈をもてわが告げし事を信ぜん。 1:38父よ、榮光をもて、みそなはし、東より來らんとする民を顧みたまへ。 1:39我彼等に先達としてアブラハム、イサク、ヤコブ、ホセヤ、アモス、ミカ、ヨエル、オバデヤ、ヨナ、 1:40ナホム、ハバクク、ゼバニヤ、ハガイ、ゼカリヤ及び主の御使と呼ばるるマラキを與へん。

第2章

2:1主かくいひ給ふ。我この民を奴隸たる家より導き出し、預言者たるわが僕によりて彼等に誡命を與へたり。されど彼等聽くことを欲せずしてわが計畫を無視にせり。 2:2彼等を生みし母彼らにいふ。往け、わが子らよ、われは寡婦にして棄てられたり。 2:3われ喜びをもて汝らを導き、嘆と惱とをもて汝等を失へり。そは汝ら主なる神の御前に罪を犯し、わが前にも惡しき事を行ひたればなり。 2:4されど今われ汝等に何をなさんや。我は寡婦にして棄てられたり。子らよ、往きて主より憐憫を求めよ。 2:5父よ、我この子らの母によりて汝に證を立てん。そは彼らわが契約を守ることを欲せず。 2:6願くは彼らに混亂を起し、彼らの母を分捕物にして彼らに裔をなからしめ給はんことを。 2:7彼等わが契約を蔑したるによりて、異邦人の間に散らされ、彼らの名地の上より消し去られんことを。 2:8災害なるかな、アツスリヤよ。汝は惡しき者を汝の中に隱す。ああ惡しき民よ、わがソドムとゴモラとになせし事を憶えよ。 2:9彼等の地は樹脂の土塊と灰の堆積とをもて蔽はれたり。我に聽かざる者に我かくなさんと全能の主いひ給ふ。 2:10主、エズラにかくいひ給ふ。我イスラエルに與へんとせしエルサレムの國をわが民に與へんと彼らに告げよ。 2:11われ彼らの光榮をとりて、彼らのためにわが備へたる永遠の住處を與へん。 2:12生命の樹、彼等のためにかぐはしき香油とならん。彼等は勞せず又疲れざるべし。 2:13求めよ、さらば與へられん。汝らのために日數の縮められん事を祈れ。國、汝等のために既に備へられたり。眼を覺まし居れ。 2:14天と地とを呼びて證せしめよ。そはわれ惡を棄てて善を造る。我は活くるなりと主言ひ給ふ。 2:15母よ、汝の子らを抱け。われ彼等を鳩の如く喜びて導かん。彼等の足を強めよ。そは、我汝を選べりと主いひたまふ。 2:16われ死にし者をその處より甦へらせ、彼等を墓より導き出さん。そは、我彼らの中にわが名を認めたればなり。 2:17懼るな、子らの母よ、われ汝を選べりと主いひ給ふ。 2:18われ汝のために助としてわが僕イザヤとエレミヤとを遣はさん。われ彼等のすすめに依りて汝のために種々の實を有つ十二本の木を潔め備へたり。 2:19又我乳と蜜との流るる同じき數の泉、及び薔薇と百合との生ゆる七つの大なる山を潔め備へたり。これをもてわれ汝の子らに喜びを滿たさん、 2:20寡婦に義しきを行ひ、幼き者を審き、貧しき者に與へ、孤兒を護り、裸なる者に衣せよ。 2:21碎かれたる者と弱き者とを癒し、跛者を嘲笑ふな。不具者を護り、盲者をわが聖きを仰ぎ見る處に入らしめよ。 2:22老人と若者とを汝の石垣の中に守れ。 2:23死骸を見出す時記號を付けて之を墓に葬れ。さすれば我わが復活の時に汝らに上席を與へん。 2:24わが民よ、待て、安んぜよ、汝の休息來らん。 2:25良き乳母よ、汝の子らを養ひ、彼らの足を強めよ。 2:26わが汝に與へし僕等は一人だも滅亡に至らじ。我彼らを汝の數より求めん。 2:27心を煩はすな、悲嘆と災禍との日來たらん時、他のもの泣き悲むとも汝は樂しみて富裕にならん。 2:28異邦人汝を嫉むとも、汝に對して何事をもなし得じと主いひ給ふ。 2:29汝の子らゲヘナを見ぬやうにわが手汝を被はん。 2:30母よ、汝の子らと共に喜べ。われ汝を救はんと主いひたまふ。 2:31汝の眠れる子らを憶えよ。われ彼等を地の祕密なる處より導き出して、彼等に憐憫を施さん。そは我は憐憫深きものなればなりと全能の主いひ給ふ。 2:32わが來るまで汝の子らを抱き、彼等に憐憫を告げよ。わが泉は溢れ、わが恩惠は盡くることなからん。 2:33われエズラ、ホレブ山に於て、イスラエルに往けとの命を主より受けたり。われ彼等に往きたる時、彼ら我を受けずして主の誡命を棄てたり。 2:34されば聽きて悟るところの異邦人よ、われ汝らにいふ。汝らの牧者を待て。かれ汝等に永遠の平安を與へん。そは世の終末に來らんとする牧者近きに在すなり。 2:35國の報を受けんがために備をなせ。そは、永遠の光世々限りなく汝らを照すべければなり。 2:36この世の暗黑を遁れて、汝の光榮の喜びを受けよ。われ公にわが救主の證を呼び奉らん。 2:37主の與へ給ふものを受け、汝等を天の國に召し給ふものに、喜びて感謝をささげよ。 2:38起きよ、立ちて主の婚禮に印せらるる者の數を見よ。 2:39この世の暗黑より遁れたる者は主より輝く禮服を受けたり。 2:40シオンよ、汝の數を見よ。主の律法を完うせし、汝の白き衣を着たる者を數へ盡せ。 2:41汝の慕ひたる子らの數滿てり。主の最初より召したまひし汝らの民の潔められんがために、主の御力を祈り奉れ。 2:42我エズラ、シオンの山に於て、數へつくすこと能はざる大なる群衆を見たり。彼ら皆歌をもて主を讚めまつれり。 2:43彼等の中に、他のすべての者よりも身の丈高き若者ありて、この若者彼等各自の頭の上に冠をかけしに、いとど高められたり。我これを見ていたく驚きたり。 2:44其時、われ御使に問ひていふ『君よ、此等の者は誰なるぞや。』 2:45彼答へて我にいふ『此等の者は、死の衣を脱ぎ、不死の衣を着て、神の御名を認めたる者なり。今彼等冠を戴き棕櫚の葉を受く。』 2:46われ御使にいふ『彼等に冠をかけ、その手に棕櫚の葉を與ふるかの若者は誰ぞや。』 2:47答へて我にいふ『彼こそは神の子なれ。彼等この世に在りて彼を認めたり。』茲にわれ、主の御名のためにかく強く立ちたる彼等を崇め始めたり。 2:48その時御使、我にいふ『往きてわが民に汝の視し主なる神の諸の大なる奇蹟を告げよ。』

第3章

3:1都の滅びたる三十年目に、我サラテエル、(卽ちエズラ)バビロンに居れり。われ床の上に寢ねたりし時、心煩ひて樣々の念胸先に昇り來れり。 3:2そは我シオンの滅亡とバビロンに住み居る人々の富とを見たればなり。 3:3わが靈いたく動き、我いと高き者に恐怖の言を語り始めていふ 3:4『萬物を統治めたまふ主よ、汝單獨にて地を造り給ひし世の創に、御言を發し給ひしにあらずや。 3:5又汝塵に命じ給ひたれば、塵汝に生命なき體卽ちアダムを供へたるにあらずや。されどアダムは汝の御手の業なりき。なんぢ彼に生命の靈を吹き入れ、かれ汝の御前に活ける者となれり。 3:6汝地の現れぬ前に汝の右の手の植ゑしパラダイスにアダムを導き給へり。 3:7汝アダムに、汝の唯一の誡命を與へ給へり。然るに彼その誡命を犯したれば、汝直ちに彼のため及び彼の子孫のために死を備へたまへり。彼より、數へ盡すこと能はぬ程の諸民、諸族生れたるなり。 3:8すべての民皆己が意の儘に歩み、汝の御前に義しからぬ行爲をなして汝を蔑したれど、汝彼等を禁じ給はざりき。 3:9されど時來るに及びて、主は世に住める者の上に大水を導き到らせ、彼等を滅し給へり。 3:10卽ち彼等も同じ運命に與れるなり。アダムに死の來れる如く彼等の上には大水來れり。 3:11されど汝彼等の中に一人の人を殘し給へり。卽ちノア及びその家族、卽ち彼より生れたるすべての義しき者これなり。 3:12さて地上に住むもの殖え始め、子等と民と多くの種族增し加はりたる時、彼らその先祖たちよりも更に甚しき不義を行へり。 3:13彼ら汝の御前に罪を犯したる時、なんぢ彼等の中より、一人の人を選びたまへり。彼の名をアブラハムといふ。 3:14汝彼を愛し、夜密に彼にのみ時の終末を示し給へり。 3:15なんぢ彼と永遠の契約を結び、かれの子孫を永遠に棄てじと宣ひて、彼にイサクを與へ、イサクにヤコブとエサウとを與へ給へり。 3:16[16-17]汝ヤコブを汝のために選びてこれを大なる群となし、彼の裔をエジプトより導き出しし時、彼等をシナイ山に導き給へり。 3:17*[16-17]汝ヤコブを汝のために選びてこれを大なる群となし、彼の裔をエジプトより導き出しし時、彼等をシナイ山に導き給へり。 3:18汝天を傾け、地を振ひ、世界を搖り動かし、淵を震はせて世を混亂し給へり。 3:19汝の榮光は、四つの門を通り行けり。卽ち火と地震と風と寒氣との門なり。そは汝ヤコブの裔に律法を與へ、イスラエルの子孫に誡命を與へんとし給へばなり。 3:20されど汝猶彼等より惡しき心を除きたまはず。これ汝の律法をして彼等の中に實を結ばしめんがためなり。 3:21始祖アダム惡しき心を保ち、法を犯して敗れたり。彼より生れたる者みな然り。 3:22これによりて人の弱點、いつまでも殘り、民の心の中に律法と共に惡しき根殘れり。かくて善きものは去り、惡きもの來れり。 3:23又時過ぎ、年終りて後、なんぢ己のために一人の僕を起し給へり。彼の名はダビデなり。 3:24なん彼に、御名のために都を建て、その中にて汝のために供物を獻げん事を命じたまへり。 3:25この事成りてより多くの年過ぎたれば、その都に住む者罪を犯し、 3:26アダム及びその子孫のなしし如くすべてのことを行へり。そな彼らにも惡しき心遺り居たればなり。 3:27かくて汝、その都をその敵の手に渡し給へり。 3:28その時我わが心にいふ。バビロンに住む者、シオンよりも勝りて善き事をなししために、バビロン、シオンを治むるに至りしならんか。 3:29我ここに至りて數へ盡すこと能はぬ程の惡しき事を見、わが魂この三十年目にも、多くの人の罪を犯すを見たれば、我が心弱りたり。 3:30そはわれ汝が如何にして.罪を犯す者を容れ、惡を行ふ者を赦し、又汝の民を滅し、汝の敵を守り、 3:31又汝が誰にも、此等の事を悟る道を教へ給はぬ事を見たればなり。バビロンの行爲はシオンの行爲よりも善きか。 3:32或は他の民はイスラエルよりも汝を善く知りたるか。又此等のヤコブの族に比べて汝の契約を信ぜし族何處にありや。 3:33彼らの報酬あらはれず、彼らの勞働實を結ばず。われ異邦人の中を廻りて、彼らの富を見たり。彼等は汝の誡命を記憶せず。 3:34故に今我らの罪と世に住む者の罪とを秤をもてはかり、秤いづれの方に下るかを顯したまへ。 3:35地に住む者汝の御前に罪を犯さざりし時ありしや。 3:36汝は汝の誡命を守りたる人を見出して、その名を擧ぐるを得ん。されど汝の誡命を守りたる民を見出すこと能はざるべし。』

第4章

4:1我に遣はされたる御使(その名はウリエル)我に答へていふ 4:2『汝の心この世の事にいたく煩はさるるに、汝いかでいと高き者の道を悟り得んや。』 4:3我いふ『わが主よ、然り。』 4:4もし、汝、この三つのうちの一つを我に告ぐる事を得ば、我も亦汝に汝の見んとする道を教へん。又人の心は何故に惡しきかをも教へん。』 4:5我いへり『語りたまへ、わが主よ。』 4:6我答へていふ『此等のことをなし得るもの一人もなきに、何故我にこれを尋ね給ふか。』 4:7かれ我にいふ『もし我汝に『海の深處に住居幾つありや、又淵の源に泉幾つありや、空の上に道幾つありや、陰府の出口何處虜にありや、又パラダイスに到る道何處にありや』と問はば、 4:8恐らくは汝われに『われ淵に降りしこともなく、陰府に到りしこともなく、又天に昇りしことも無ければ』と答ふるならん。 4:9されどわれ汝に火と風と日の事のみを尋ねたり。汝此等のものの中を輕來れり。此等のもの無くば、汝は在るを得じ、されど汝これ等につきてすらも答へ得ざりき。』 4:10彼又われにいふ『汝若き時より、汝と共に在りしものを知ることすら能はざるに、 4:11汝の器、いかでいと高き者の道を悟るを得んや。又朽ちはてし世にありて朽ちはてしもの、いかで朽ちはてぬものを悟るを得んや。』 4:12我これらの事を聞きたればひれふして、彼にいふ『我らここに來り、不義の中に生き、且苦しみて、その何故なるを悟らざるよりは、むしろ來らざりし方宜かりしならん。』 4:13彼われに答へていふ『嘗て野の林の樹出でて互に語り合ひぬ 4:14『我ら出で往きて、海我らの前より退き、われらなほ多くの林をつくり得んがため、海に向ひて戰をいどまん。』 4:15海の波も同じく共に議りて云ふ『いざ昇りて我等のために新しき地を造らんがため、野の林に向ひて戰をいどまん。』 4:16されど林の思ふところ空しくなれり。そは、火來りて、その林を燒き盡したればなり。 4:17海の波の思も亦同じく空しくなれり。そは、砂立ちて彼等を止めたればなり。 4:18もし汝これらのものの間に審判者なりしとせば、いづれを義とし、いづれを罪ありとせしぞ。』 4:19我答へていふ『彼ら互に空しきことを考へぬ。そは陸は林に與へられ、又海の面はその波を持つなり。』 4:20かれ我に答へていふ『汝義しく審きたり。何ぞ己のことにつきて同じ審判をなさざるか。 4:21陸を林に、海をその波に與へられたるが如く、地の上に住む者は地の上のことのみを悟り、天の上に住む者は天の高き事を悟らん。』 4:22その時我答へていひぬ『主よ、いかなれば我ものを辨ふる能力を與へられしぞ。 4:23われ上に在る道を尋ぬるを欲せず。唯日々我らの前に過ぎゆくことを尋ぬ。そはイスラエル異邦人の中に罵られ、汝の愛せし民、神を知らぬ人々に渡され、我等の先祖たちの律法空しくなりて、錄されたる契約も守られざればなり。 4:24我らは蝗の如く此世を過ぎ往く。我等の生命は呼吸の如く、我等は恩惠を得るに足らざるなり。 4:25されど彼、われらの呼びまつる御名につきて何をなし給ふや。われ此等のことにつきて尋ねたるなり。』 4:26かれ我に答へていふ『汝かの時生き居らば見ることあらん。又汝生存へなばあやしと思ふことあらん。世はとく過ぎ逝けばなり。 4:27この世は義しき者に約されたるものを保つこと能はず。そはこの世は苦惱と弱とにて充つればなり。 4:28汝我に問ひたる惡しきこと既に蒔かれたり。されどそれを苅り取る時機未だ來らず。 4:29若し蒔かれたるもの苅り取られず、又惡しきものの蒔かれたる處失はれずば善き者の蒔かるる畑來らず。 4:30元始よりアダムの心に一粒の惡しき種、蒔かれたれば、今に至るまで如何に多く不義の實を結び、又收穫の來らん時まで如何に多くこれを結ぶべきぞ。 4:31惡しき種の一粒より不義の實如何に多く結ばれしや。汝自らこれを思ひめぐらすべし。 4:32數へ盡すこと能はぬ穗、蒔かれなば、大なる禾場をも充たさん。』 4:33われ答へていふ『如何なる時までにか、又如何なる時にか、これらのことども起るべき。何ぞ我等の歳かく少くして惡しきや。』 4:34彼我に答へていふ『汝はいと高き者に勝りて急ぐ能はじ。そは汝は己のために急げど、上に在す者は多くの人の爲に急ぎ給へばなり。 4:35義しき人の魂、その安息所に於て此等のことにつきて尋ねたるにあらずや。卽ちわれ如何なる時までかくの如く希望を有つべき。又我らの禾場の報の實はいかなる時に來らんとするや。』 4:36御使の長エレミエル彼等に答へていふ『汝に似たる者の數滿つる時なり。そは、かれ秤をもて世を量るべければなり。 4:37かれ時を量れり。數によりて季節を量り、これを數へたり。定められたる秤の滿つる時まで彼これらのものを搖り動し給はじ。』 4:38我答へていふ『主よ、わが主よ、我等皆不義に滿たされぬ。 4:39義しき人の禾場の止めらるるは、我らのため、又地に住む者の罪のためにあらずや。』 4:40彼我に答へていふ『往きて孕みたる者に尋ねよ『彼九月滿つればその胎自然に子を生むことを得るや』と。』 4:41我いふ『否、主よ、そは能はぬことなり。』 4:42産まんとする者その産の苦痛を遁れんと急ぐが如く、此等の處も初めより預けられたるものを返へさんと急ぐなり。 4:43その時汝の見んと望むもの汝に顯されん。』 4:44我答へていふ『若し我汝の御前に恩惠を得なば、又もしこはあり得べき事にして、我之に相應しくば、 4:45願くは我にこの事をも示したまへ。卽ち過ぎたる事よりも來らんとする事多きか、或は我等の上を過ぎ逝きし事却つて多かりしか。 4:46我は過ぎし事を知れども來らんとする事を知らず。』 4:47彼われにいふ『右の方に立て。我この比喩の説明を示さん。』 4:48われ立ちて、見しに、視よ、燃ゆる爐わが前を通りて、その火熖すぎゆきたれば、われ見しに、視よ、煙のみ殘れり、 4:49その後、雨の滿ちたる雲、わが前を過ぎ、激しき勢をもて雨を降らせたり。その雨の勢すぎし時、雫のみ殘れり。 4:50彼われにいふ『汝自ら心の中に辨へよ。雨、その滴よりも大なるが如く、又火その煙よりも大なるが如く、過ぎゆきしものの量多し。しかも雨の滴と煙猶殘れり。』 4:51我祈りていふ『我その時まで生くべしと汝思ひたまふか。誰かその時まで殘らんや。』 4:52かれ我に答へていふ『汝の我に尋ねたるかの徴につきて、我その一部を語り得るなり。されど汝の生命につきては、我これを汝に語らんがために遣されしにあらず。我これを知らざるなり。

第5章

5:1されどかの徴につきて、視よ、地に住む者の驚き合ふ日來らん。その時眞の道は隱され、地は信仰につきて荒地の如くにならん。 5:2汝の今見るところ、又嘗て聞きしところに勝りてその不義は增し加はらん。 5:3汝の今見る豐なる地は荒れ廢れて人跡絶え、再び沙漠の地とならん。 5:4もしいと高き者汝に生くることを許し給はば、なんぢ亂れたる第三の國の、後の狀態を見ることを得ん。その時、日俄かに眞夜半に輝き、月眞晝に現はれ、 5:5木より血滴り、石その聲を出し、民等は騷ぎてその歩む樣を變へん。 5:6又地に住む者の欲せざる人地を治め、空の鳥共に飛び去らん。 5:7ソドムの海、魚を抛げ出して、夜の間に、多くの人の知らざる聲その海より響き、 5:8多くの處に混亂起り、火屢出でて、獸その住處を變へ、女不思議なるものを産まん。 5:9甘き水の中に鹽辛き水混ぜられ、友その友と鬪はん。その時、智慧隱されて、知識、その住處に退かん。 5:10その時、智慧多くの人に探ねらるれど、見出されざるべし。又不義と不節制、地の上に增さん。 5:11その時、一つの國その隣國に問ひていはん 5:12その時人々望めどもその望むもの與へられじ。人々働けどもその道榮えじ。 5:13われ此等の徴を、汝に示すことを命ぜられたり。もし汝再び祈りて、今の如く涙を流し、七日の間斷食せば、なんぢ此等のことよりも更に大なることを聞かん。』 5:14われ目醒めし時、わが身いたく震ひ、わが魂疲れはてて、氣を失へり。 5:15されば我と語りし御使我を支へ、我を慰め、我をわが足にて起たせたり。 5:16而して第二日の夜、民の長なるパルテエル、われに來りていふ『汝何處に居りしか。汝の顏何ぞかく悲しげなる。 5:17イスラエルはその俘囚の地に於て汝に託せられたるを汝知らぬか。 5:18起ちて糧を食へ。牧者その群を惡しき狼の手に棄つる如く、我らを棄つな。』 5:19われ彼にいふ『我を去れ、七日の間、我に近づくな。後、我に來れ。』かれわが言を聞きて我を去れり。 5:20御使ウリエルの命ぜし如く、我七日の間、斷食して泣き悲めり。 5:21七日の後、わが心の思ひ再び甚しく重くなれり。 5:22わが魂、再び知識の靈に充たされ、いと高き者の御前に此等の言を語り始めたり。 5:23『主よ、わが主よ、地のすべての林とすべての樹の中より汝一つの葡萄の樹を、選び給へり。 5:24又全地の中より汝一つの國を選び給へり。又地のすべての花の中より汝一つの百合を選び給へり。 5:25汝海のすべての深處より一つの河を溢れ出でしめ、又すべての建てられたる都の中より、汝シオンを汝のために聖別し給へり。 5:26汝すべての造られたる空の鳥の中より汝のために一羽の鳩に名を付け、又すべての造られたる獸の中より汝のために一匹の羊を選び給へり。 5:27汝すべての民の群の中より一つの民を汝に近づけ給へり。而してなんぢこの汝の愛む民に、すべての人に善しとせらるる律法を與へたまへり。 5:28されば主よ、いかなればこの一つの民を多くの民に與へ、一つの根を多くのものに勝りて辱め、唯一の汝のものを多くのものの中に散らし給ひしや。 5:29汝の誠命を拒みし者、汝の契約を信じたる者を踏みにじれり。 5:30もし汝、なんぢの民をいたく憎み給はば、彼らは汝自らの御手によりて罰せらるべきなり。』 5:31われ此等のことを語りたる後、前の夜、我に來りし御使わが許に遣はされたり。 5:32かれ我にいふ『我に聽け、われ汝を教へん、心を傾けよ、われ更に汝を教へん。』 5:33我いふ『わが主よ、語り給へ。』かれ我にいふ『汝イスラエルのためにいたく心を惱ましたり、汝かの民を造り給ひし者よりもかの民を愛するか。』 5:34我いふ『主よ、然らず、我悲哀の中にありて、語れるなり。そは、わが心常にいと高き者の道を悟り、その御審判の幾許かを究めんとして惱むなり。』 5:35かれ我にいふ『此は能はぬことなり。』我いふ『わが主よ、何故なるか。我何とて生れたるか。我をしてヤコブの苦難とイスラエルの裔の疲勞とを見ざらしめんがために何ぞわが母の胎、わがために墓とならざりしや。』 5:36彼われにいふ『未だ來らぬ者をわがために教へ、散りたる雨の滴をわがために集めよ、 5:37枯れたる草をわがために再び茂らせ、鎖されたる室をわがために開き、その中に閉ぢ込められたる風をわがために出せ。又我に聲の形を示せ。さすれば我汝に汝の見んと願ふ苦惱を示さん。』 5:38我いふ『主よ、わが主よ、人の中に住居を持たぬ者の外に此等のことを知るは誰ぞ。 5:39我は智慧なき者なれば、汝の我に賜ひし此等の事に就きていかで語り得んや。』 5:40かれ我にいふ『汝今わがいひし此等の事の一つすらなし得ざるが如く、わが審判をも又わが民に約されたる愛の終をも見出すこと能はざるべし。』 5:41我いふ『主よ、見たまへ。汝末の時に來るものに此等の事を約し給ひたれど、我らの前に在りし者、又我らと我らのために來らんとする者には如何にぞや。』 5:42かれ我にいふ、わが審判を環になぞらへん、後の者に遲きことなきが如く、前の者に早きこともなし。』 5:43我答へていふ『汝の審判を早めんがために、汝過ぎし者と、今在る者と、來らんとする者とを皆一時に造り能はざるか。』 5:44彼われに答へていふ『造られたる者はその造主に勝りて急ぐこと能はず、地も亦その中に造られんとする者を悉く同じ時に保つこと能はず。』 5:45我いふ『汝如何なれば僕に、汝の造り給ひしものを、皆同じ時に必ず活かさんといひたまひしや。もし彼等同じ時に生き、地、彼等を保ち得ば、今にても地彼らを保ちて、同じ時に出でしむるを得べし。』 5:46彼われにいふ『女の胎に問ひて、これに言へ『汝十人の子を産むに、何故時を異にしてこれを産むか』と。女に十人の子を一時に産むことを乞ひ求めよ。』 5:47我いふ『此は能はぬことなり。時を異にせざるを得ず。』 5:48かれ我にいふ『我も地を、時を異にして孕まるる人々のために胎となせり。 5:49子供は子を産むこと能はず。年老いたる人もまた然り。我かくの如くわが造りたる地を整へたるなり。』 5:50我彼に問ひていふ『汝我に道を示し給ひたれば、われ汝の前に語らん。汝我に語りし我等の母は尚若きか。或は年老いたるか。』 5:51彼われに答へていふ『子を産まんとする女に聞かば、彼汝に答へん。 5:52彼に云へ、『いかなれば汝の今産みし者、汝の前に産みたる者と異りて身の丈低きぞ』と。 5:53彼汝に答へん『精力ある若き時に生れしものは、年老いて胎弱りたる時に生るる者と異なり』と。 5:54汝も亦考へよ、汝らは汝らの前にありし者よりも身の丈低し。 5:55又汝等の後に來る者もかくの如くなるべし。これ彼等は若き時の精力の失せたる老人より生れたる者なればなり。』 5:56我いふ『主よ、もし我なんぢの目の前に恩惠を得なば、願はくは、誰を用ひて汝は、汝の造り給ひしものを顧み給ふかを僕に示したまへ。』

第6章

6:1かれ我にいふ『地の創造せられし始、世の出立未だ定まらざりし時、風未だ集り吹かざりし時、 6:2雷の聲未だ鳴り轟かざりし時、電光の閃光未だ輝き渡らざりし時、パラダイスの基底未だ固まらざりし時、 6:3美しき花未だ開かざりし時、地震の勢威未だ確ならざりし時、數へ盡せぬ天使の軍勢未だ集まらざりし時、 6:4空氣の高層未だ高く達せざりし時、穹蒼の極未だ名づけられざりし時、シオンの足臺、未だ据ゑられざりし時、 6:5今の年未だ現れざりし時、今罪を犯す者どもの企圖未だ遠けられざりし時、己がために信仰の寳を蒐むる人々未だ印せられざりし時、 6:6その時すでにわれ此等のことをわが心の衷にて深く想廻らせり。此等のものは他の者によらず我のみに由りて造られし如く、その終も他の者によらず、ただ我のみによりて定められん。』 6:7我答へていふ『時の區分は如何、初の代の終、又それに續く次の代の始は何時ぞ。』 6:8かれ我にいふ『アブラハムよりアブラハムまでなり。アブラハムよリヤコブとエサウ生れ出づ。ヤコブの手はじめよりエサウの踵を握り居れり。 6:9エサウはこの世の終にして、ヤコブは次の世の始なり。 6:10人の始はその手なり。人の終はその腫なり。エズラよ、踵と手との間に、もはや何をも求むな。』 6:11われ答へていふ『主よ、もしわれ汝の目の前に恩惠を得なば、 6:12願くは、僕に前の夜少しく示し給ひし汝の徴の終をも示し給へ。』 6:13彼われに答へていふ『汝足にて立て。さらば汝大なる聲を聞くべし。 6:14汝の立ち居る處甚しく動きて、その聲の響聞ゆとも懼るな。 6:15その言は終末に關ることにして、地の基もこれを悟らん。 6:16その言は地の基に關ることなれば、地の基、震ひ動き、變り行く終末の樣を知らん。』 6:17我これを聞きて起ち上り、尚耳を傾くる程に、視よ、語る聲ありて、その聲の音は大水の音の如し。 6:18その聲いふ『視よ、地に住む者を顧みんがため、わが近づかんとする日來らん。 6:19我不義の業をなせし人々の不義を調べ始むる時、又シオンの苦難の充つる時、 6:20又過ぎゆく世の極印を捺さるる時、われ此等の徴を示さん。穹蒼の前に卷物開かれ、すべての人共にこれを見ん。 6:21當歳の幼兒らその聲を以て語らん。孕みたる女、三、四箇月にして月足らぬ子を産まんに、その子等生きて躍らん。 6:22種の蒔かれたる處忽ちにして荒地と化せん。滿ちたる庫忽ちにして虚くならん。 6:23ラツパその聲を出さば、これを聞くすべての人々俄かに懼れおののかん。 6:24その時、敵のその敵と戰ふが如く、友その友と鬪ひ、地とその上に住むもの懼れおののかん。又泉の源止まりて三時の間流れざるべし。 6:25わが汝にいひしこのすべての事の成就せらるるまで殘れる人々は救はれ、わが救とわが世の終とを見ん。 6:26その時、彼等は、生れしより後死を味ひし事なく天に受けられたる人々を視ん。地に住む人の心變りて、異りたるものとならん。 6:27惡は取り除かれ、僞は消え失すべし。 6:28かくて信仰は榮え、汚穢は敗れて、久しき間實を結ばざりし眞理明かに示されん。』 6:29彼われとものいひ居りし時、視よ、わが立ち居たる處、少しく動き始めたり。 6:30彼われにいふ『われ此等のことを夜中に汝に示さんがために來れり。 6:31もし汝再び祈り、七日の間、再び斷食せば、われ再び晝の間、此等のことよりも大なることを汝に告げん。 6:32汝の聲いと高き者に聽かれたり。強き者汝の義をみそなはし又、若き時より汝の保ち來りし操を顧みたまへり。 6:33而して此等のすべての事を汝に示し、且告げんがために、かれ我を遣はしたまへり。汝心を安んぜよ、懼るな。 6:34終の時の審問を恐れて、慌しく前の日の惡を思ひ煩ふな。』 6:35此等のことの後、我再び泣き、前の如く七日の間、斷食して、命ぜられたる三週を過さんとせり。 6:36八日目の夜、わが心再びわが衷に煩ひていと高き者の前にて語り始めたり。 6:37わが魂大に燃えて、わが心惱みたればなり。 6:38我いへり『主よ、汝開闢の始、第一日に御言を出して『天と地と造られよ』といひ給ひたれば、汝の御言その業を全うしたまへり。 6:39而して汝の靈地の上を掩ひたれば、暗黑と沈默地を占め、人の聲未だ御前に聞こえざりき。 6:40その時、汝の御業の顯はれんがため、命じて寳庫の中より光を輝き出でしめたまへり。 6:41第二日に汝穹蒼の靈を造り、これに命じて水と水とを分たしめ、一部を上に昇らしめ、其他を下に殘らしめ給へり。 6:42第三日に、汝水に命じて、これを地上の七分の一に集め、七分の六を乾かし、之を守り、そのうちの一部を耕やし、且種蒔くに相應はしからしめ給へり。 6:43汝の御言出でたれば、御業忽ち成れり。 6:44直ちに樹の實さわに實り、その味美はしく、その類多かりき。又たぐひなき色といとかぐはしき香の花咲き出でたり。此等は第三日に成れり。 6:45第四日に、汝命じて、日を輝き出でしめ、月に光を放たしめ、星の順序をととのへ給へり。 6:46而して汝、後に造くられんとする人に仕ふべきことを彼等に命じ給へり。 6:47第五日に、汝水の集まり居れる、地の第七部に生物と鳥と魚とを出さん事を命じ給ひければ、彼ら出で來れり。 6:48聲もなく、生命もなき水、汝の命に從ひて生物を造り、これによりて、地上の民等汝の不思議なる業を讚むるに至れり、 6:49その時、汝二つの活物を護り、その一つにベヒモテ、他のものにレビアタンの名を與へ、 6:50この二つのものの間に區別を作りたまへり。 6:51汝ベヒモテに第三日に乾きたる地の一部を與へたれば、彼その處に住めり。その處に、一千の山あり。 6:52されど汝濕ひ居る地の第七部をレビアタンに輿へたまへり。汝は、汝の欲し給ふ時、汝の欲し給ふ人にこの二つのものの食せられんがためにこれを護り給へるなり。 6:53第六日に、汝地に命じて汝の御前に家畜と獸と爬ふものとを造り給へり。 6:54この上に汝の造り給ひしすべてのものの主長たるアダムを造りたまへり。汝の選民たる我等は彼より出でたる者なり。 6:55主よ、我これ等のすべてのことを汝の御前に語りたるは、汝この創の世を我らのために造れりと宣ひしが故なり。 6:56アダムより生れたる他の民等に就きて、彼等は、何者にもあらず、唾液の如き者なりと汝宣へり。汝、彼等の富を器より落つる水の一滴になぞらへ給へり。 6:57主よ、見給へ。今この無きが如き民、我等を抑へ、我等を喰はんとす。 6:58主よ、我等は、汝の民、汝の初生兒、汝の獨子、汝の最も愛する者と呼ばる。然るに我等は、彼等の手に渡されぬ。 6:59もし地我等のために造られしならば、いかにして我らこの世を嗣ぐものとはならざる。ああ此等のこと、何時までかくあるべきか。』

第7章

7:1我これらの言をいひ終りたれば、初の夜、我に遣されたる御使また我に遣されたり。 7:2彼われにいふ『エズラよ、起きてわが汝に云はんがために遣されたる言を聞け。』 7:3我いふ『わが主よ、語り給へ。』彼われにいふ『濶くかつ大ならんがために廣き場所に海置かれたり。 7:4その海の入口は、河の如くならんがために狹き揚所につくられたり。 7:5その海を見、又これを治めんがためにその海に入らんとする者は、その狹き處を通らずしていかでその濶き處に到り得んや。 7:6又すべての善きものに充ちたるある都坦かなる場所に建て置かれたり。 7:7その入口は右の方に火、左の方に深き水ありて、下るに危く且狹き處にあり。 7:8その火と水との間に途一筋のみありて、その途は一人にて歩まずば過ぐること能はず。 7:9その都、或人に嗣業として與へられんに、その嗣業を繼ぐもの、その危險を冐して入らずば、いかでそれを繼ぐを得んや。』 7:10我いふ『主よ、然り。』彼われにいふ『イスラエルの嗣業も亦然り。 7:11彼等のためにわれ世を造りたり。而してアダムわが誡命を犯したる時、造られたるもの罪に定められたり。 7:12その時よりこの世の入口、狹く、悲しく、且苦しくせられぬ。その入口は惡しくして、多くの危難と勞苦とにて滿てり。 7:13更に勝れる世の入口は濶く且安全にして永遠の生命の實を結ぶ。 7:14されば活ける者、此等の狹く空しき處を經ずば、彼等のために貯へられたるものを受くること能はじ。 7:15汝は朽ちはつべき人なるに、何ぞ徒らに心を煩はすや。汝は死ぬべき者なるに何ぞ蠢くや。 7:16汝何ぞ、現世の事のみを心に思ひて、來らんとする事を思はざるや。』 7:17我答へていふ『主よ、わが主よ、視よ、汝御律法に、義しき人々此等のものを嗣ぎ、義しからざる人々の亡ぶる事を定め給へり。 7:18故に義しき者は狹き事に耐へて廣き事を望む。不正を行ふ者は狹き事に惱みて廣き事を見ぬなり。 7:19かれ我にいふ『汝は神の上に立つ審判者にあらず。又いと高き者に勝りて悟ある者にもあらず。』 7:20されば人々の前に置かれたる神の律法の蔑せらるるよりも、むしろ今活くる多く者の亡びん事を。 7:21神、生れ來りし者の來る毎に、彼等の活きんがためになすべき事と、彼等の罰を逃れんがために、守るべき事とを嚴に命じたまへり。 7:22然るに、彼ら神に從はず、神に逆ひて、己等のために空しき事を圖りたり。 7:23彼ら不義の計畫を己等のために考へ、いと高き者につきて、彼いまさずと云ひ、彼の道を認めざりき。 7:24彼ら神の律法を棄て、その契約を拒み、その誡命を信ぜず、その御業を行はざりき。 7:25故にエズラよ、虚しき人には虚しきもの、滿ちたる人には滿ちたるもの備へらる。 7:26視よ、わが汝に預言せし徴の成就げらるる時來らん。その時、花嫁現れん、卽ち今地より隱れ居る都現はれて、人に示されん。 7:27その時、預言せられたる惡より救はれしすべての人々、わが驚くべきわざを見ん。 7:28その時、わが子イエス、彼と共に居る者どもとともに現れ、殘れる民を四百年の間喜ばせん。 7:29その後、わが子キリストと息あるすべての人々とは死なん。 7:30世は創始の時の如く、七日の間太古の沈默に歸りて、一人の人も殘らざるに至らん。 7:31その七日の後、未だ眼醒め居らぬ世は眼醒めて、朽つる者は死なん。 7:32その時、地はその中に眠る者を、塵はその中に默し住む者を還し、又陰府その委ねられたる魂を解き放たん。 7:33その時いと高き者、審判の御座に、現れ、憐憫は過ぎ去り、忍耐は取り去られん。 7:34かくて審判のみ殘り、眞理は立ちて、信仰は強くせられん。 7:35又行爲は現れ、應報は示され、義きわざ目醒めて、惡しきわざ寢ねざるべし。』 7:36我答へていふ『さらば我等如何にして、昔アブラハムがツドム人のために祈り、モーセが沙漠に於て罪を犯せし先祖たちのために祈りたるを見出すか。 7:37モーセの後ヨシユアはアカンの時にイスラエルのために祈り、 7:38サムエルはサウルの時に、ダビデは疫病のために、ソロモンは、聖所に於ける人々のために、 7:39エリヤは雨をうけし人々のために、又死にし人の生きんがために祈り、 7:40ヒゼキヤはセナケリブの時に民のために、又多くの人は多くの人のために祈れり。 7:41故にもし朽つる者の榮えし時、又不義の增したる時、義しき人、義しからぬ人のために祈りしことありとせば、いかで彼の時にも然からずとせんや。』 7:42彼われに答へていふ『今の世は、終末にあらず、この世には完き榮光宿らず。故にこの世に於て力ありし者は弱き者のために祈れり。 7:43されど審判の日は、この世の終末にして、限なき來世の始なれば、その時、朽つる者は去り、 7:44不節制は消え失せ、不信仰は斷たれ、正義は增し加はり、眞理は起きあがるなり。 7:45その時、誰にても審判に落されし者を憐むこと能はず、又勝ちし者を抑へつくること能はじ。』 7:46我答へていふ『これはわが初の言にして又わが終の言なり。地アダムを出さざりし方よかりしならん。されど地、彼を出したれば、彼を抑へて、 7:47罪を犯さざらしめばよかりしなり。この世に於て悲哀のうちに生き、死にて後、罰を待つすべての人は、何の益をかもたん。 7:48ああアダムよ、汝何をなせしか。汝罪を犯したれど、汝のみ墮ちしにあらず。汝より出でし我らも墮ちたるなり。 7:49我らは、死の業を行ひたれば、限りなき世に約束せられたりとて何の益かあらん。 7:50我らはいとも惡しき者にして、虚しくなりたれば、永遠の希望預言せられたりとて何の益かあらん。 7:51我等の生活いと惡しければ、健康と安全との住居備へられたりとて何の益かあらん。 7:52我らいとも惡しき途を歩みたれば、いと高き者の榮光、潔き生活をなせし者を護りたればとて、何の益かあらん。 7:53永遠に朽ちざる富と醫癒とに充ちたるパラダイス、示されたれど、我らこれに入るを得じ。 7:54そは我等喜悦なき處に歩み居たればなり。 7:55行狀を愼める者の顏は星よりも輝やかん。されど我等の顏は暗闇よりも暗からん。 7:56そは我ら生ける間、惡しき事を行ひたればなり。彼の時には、我等、死にし後に如何なる苦惱を受くべきかを考へざりき。』 7:57彼答へていふ『世に生まるる人の鬪ふべき戰鬪の條件はこれなり。 7:58もし彼その戰鬪に敗れなば、汝のいひし惱を受けん。もしその戰鬪に勝たば、彼はわがいひし報酬を受けん。 7:59これこそはモーセがその生ける時に民に語りし言なれ『生きんがために生命を選べ。』 7:60されど彼等はモーセをも、その後の預言者をも、又わが言をも信ぜざりき。 7:61されば信ぜし人々の救のために喜椀あるに似ず、彼等の滅亡を悲む者なかるべし。』 7:62我答へていふ『主よ我知る。いと高き者は未だ世に來らぬ者を憐み給ふが故に憐深きものと呼ばれ、 7:63その律法に心を向くる者に慈悲を示すが故に慈悲深き者と呼ばれ、 7:64その造り給へる者罪を犯すともこれを忍び給へば、忍耐強きものと呼ばれ、 7:65奪ふよりも與ふる者なれば、與ふる者と呼ばれ、 7:66又今在る者、過ぎ去れる者、及び來らんとする者に憐憫を增し加へ給へば、憐憫大なる者と呼ばれ給ふ。 7:67(そは彼、その恩惠を增し加へ給はざりしならば、此の世も、この世に住む者も、生命を保つ事能はざりしならん。) 7:68又彼は赦す者と呼ばれ給ふ。そは彼、罪を犯すもののその罪を離れんがために、その慈悲をもて彼等を赦し給はざりしならば、世の人の千分の一も、生き殘ること能はざりしならん。 7:69又彼は審判主と呼ばれ給ふ。彼その御言によりて造られし者を赦し、彼等の罪を取り消し給はざりしならば、 7:70恐らくは、大なる群の中より甚しく少き數殘るに過ぎざりしならん。』

第8章

8:1彼われに答へていふ『至高者は、この世をば多くの人のために、來らんとする世をば少數の人のために造り給ひたり。 8:2エズラよ、われ汝の前に比喩を語らん。もし地に問はば、地汝に、土の器を作る土は多く出づれども、金を出す砂は少しといはん。この世のわざもこれに同じ。 8:3多くの人々造られたれど、救はるる者は少し。』 8:4我答へていふ『わが魂よ、知識を飮み、智慧を喰へ。 8:5なんぢ暫時の間のみここに活くるを許されたれば、喜ばずしてここに來り、又望まずしてここを去るなり。 8:7主は唯一なり。我らは汝のいひし如く御手の一つの業なり。 8:8主は胎の中に造れる身體に生命を與へ、又肢體を與へ給ふ。汝の造り給ひしものは、火と水との中に護られ、又その生れんとする者を、九ヶ月の間、胎内に保つなり。 8:9護る者も護らるる者も、等しく汝の御守護のうちに護られん。後に、胎、その内に造られし者を出す時、 8:10汝その母の身體の肢體なる乳房をして乳を出さしめ、 8:11これによりて暫時の間、その中に造られし者は養はれ、その後汝、憐憫によりてこれを守りたまはん。 8:12汝正義をもてこれを養ひ、律法をもてこれを育て、御意をもてこれを誡めたまふ。 8:13汝造りしものとしてこれを死なしめ、又御業としてこれを活かし給ふ。 8:14かくの如き大なる勞苦をもて造られしものを、御言をもてかくも容易く亡ぼし給ふとせば、何とて之を造り給ひしぞ。 8:15我いはん、凡べての人に就きて汝知り給ふ。されど我、わが心の痛む汝の民につきて、 8:16わが悲む汝の産業につきて、わが嘆くイスラエルに就きて、わが苦しむヤコブの裔につきて、我いはん。 8:17地に住む我等の墮落は明らかなれば、われ汝の前に己のため又彼等のために祈らん。 8:18來らんとする審判の速やかなることを我聞けり。 8:19願くは、わが聲を聽き、わが言を聰りたまへ、われ汝の前に語らん。』 8:20『主よ、主は永遠に在す。主の眼は高く擧げられ、主の御住居は空に在り。 8:21主の御座は測り難く、主の御榮光はさとり難し。主の御前に天の萬軍は戰きて立ち、 8:22主の命によりて彼等は風と火との貌に變へらる。主の御言は眞實にして、主のいひ給ふ所は動かず。主の敕令は確く、主の誡命は畏し。 8:23主の御顏は淵を乾かし、主の御怒は山を熔かし、主の眞理は證をなす。 8:24主よ、僕の祈を聽きたまへ。主の造り給ひし者の願に耳を傾けたまへ。 8:25わが言をみそなはしたまへ。われ生くる間は語り、悟ある限は答へ奉らん。 8:26ああ御民の罪を念ひ給ふ勿れ。誠實を以て汝に仕へ奉る者を憶え給へ。 8:27惡しき事をなすものの業を顧みずして、苦難の中にも汝の誠命を守りたる者を顧みたまへ、 8:28汝の前に僞りて歩みし者を念はず、喜びて汝の畏きを知りし者を憶え給へ。 8:29家畜の如くふるまひし者を亡ぼすことを喜び給はず、御律法を明らかに教へし者をみそなはし給へ。 8:30獸よりも惡しく思はるる者を怒りたまはずして、常に主の榮光に賴りし者を愛したまへ。 8:31我等とわれらの先祖たちは死に到る道を歩みたれど、主は我等罪人の故に、憐憫深き者と稱へられ給ふ。 8:32我等には義しき業なけれど、主もし我等に憐憫を施す御心あらば、主は憐憫深き者と、稱へられ給はん。 8:33汝の御許に多くの業を貯はへたる義しき者は各自の業によりて報をうけん。 8:34人は如何なる者なれば之を憤り給ふや。朽ちはつべき世の人は如何なる者なれば、苦きをもてこれを遇ひ給ふや。 8:35實に生れし者の中に一人だに惡しきを行はざりし者なし。又汝の選びし者の中に罪を犯さざりし者なし。 8:36主よ、善き行爲の富をもたぬ者に對して、憐憫を施し給はば、之によりて汝の正義と恩惠とは宣べ傳へられん。』 8:37彼われに答へていふ『汝のいひし言の中、或ものは良ければ、その如くにならん。 8:38我罪を犯せし者の貌と、死と、審判と、その滅亡とを思はずして、 8:39義しき者の貌とその巡禮と、その救と、その受くべき應報とを喜ばん。 8:40故にわがいひし如くに成らん。 8:41農夫地の上に多くの種を蒔き、多くの苗を植ゑたれど、時到りて、猶その種とその苗とは救はれず、又すべての植ゑしものも根付かざるが如く、この世に蒔かれし人々も悉くは救はれじ。』 8:42我答へていふ『もし我御前に恩惠を得なば、我いはん。 8:43農夫の種、時到りて雨を受けず、或は雨の多きが故に、その葉伸びずして、その種朽ち果つる事あらん。 8:44かくの如く人は御手の業にして、汝に肖たる者、汝の像と稱へられ、すべての物かれのために造られたれど、汝は彼を農夫の種に擬へ給へり。 8:45主よ、汝は汝の造り給ひしものを憐み給へば、我らを怒り給ふ勿れ。御民を赦し、汝の嗣業を憐み給へ。汝は自ら造り給ひしすべてのものを憐み給ふ。』 8:46彼われに答へていふ『今の世のものは今の世の人のため、後の世のものは後の世の人のためなり。 8:47我よりもわが造りしものを愛するは、汝に猶足らぬ處あればなり。汝は屢不義に近づけり。此はかくあるべきにあらず。 8:48されど汝はこれによりて、至高者の御前に譽を得ん。 8:49汝は大なる光榮を得んがために己を義しき人々の中に數へず、却て汝にふさはしく自らを卑くしたればなり。 8:50世に住む人々、大なる高慢の中に歩みたれば、終末の時に、彼等の上に多くの悲むべき苦惱來らん。 8:51汝己のために自ら悟りて汝に似たる者より榮光を求めよ。 8:52汝らのためにパラダイスは開かれ、生命の樹は植ゑられ、來世は備へられ、喜悦は滿たされ、都は建てられ、平安は定められ、恩惠は完うせられ、智慧も既に成就せられたり。 8:53汝等より惡の根は封印せられ、虚弱は消され、死は絶たれ、陰府は逃れ、腐敗は忘られたり。 8:54悲哀過ぎ去りて、永遠の生命の寳終に顯はれん。 8:55されば亡ぶる者の數につきて問ふな。 8:56彼ら自由を享けて後、いと高き者を棄て、その律法を罵り、その途を離れたり。 8:57しかのみならず、彼らは主の聖徒を蹂躪れり。 8:58彼等は自ら死ぬべき者なりと知りつつ、その心の中に神無しといへり。 8:59此等のこと汝等を待ち受くるが如く、渴と苦痛とは彼らのために定められたり。いと高き者は、人の亡ぶるを欲し給はざれど、 8:60造られたる者は、造主の御名を汚し、彼等のために生命を備へ給ひし者に恩を報いず。 8:61さればわが審判既に近づきぬ。 8:62我この審判を多くの者に示さず、ただ汝と汝に似たる少數の人々とに示せり。』 8:63我答へていふ『主よ、主は、終の日に自らなさんとする多くの徴を我に示したれど、その何時なるかを示し給はざりき。』

第9章

9:1かれ我に答へていふ『つとめて汝の心の中を量れ。前にいひしある徴の或もの過ぎたるを見ば 9:2その時、いと高き者、その造り給ひし世を顧み給ふ時來れりと悟るべし。 9:3世に地震、騷擾、民の異圖、牧伯等の動搖、君侯たちの不安の顯れん時、 9:4此等こそいと高き者の夙に云ひ給ひしことなれと悟るべし。 9:5此の世に於ける造られたるものは、その始明にして、その終も亦明なるが如く、 9:6いと高き者の時も然り。卽ちその始は異なるわざと能力とに顯れ、その終は報と徴とに顯はれん。 9:7救はれたるすべてのもの、又己の業、或はその信ずる信仰によりて逃るることを得たるものは、 9:8前にいひし危險より護られ、この世に於て、又わが潔めたる國に於てわが救を見ん。 9:9その時、今わが道を汚し居る者は驚き、又わが道を罵り棄てし者は苦難のうちに留まらん。 9:10わが恩惠を受けつつも、その生ける間に我を認めず、 9:11自由を保ち居るもわが律法を罵り、 9:12又悔改めの機會開かれあるも、これを悟らずして、罵りたる者は、死にて後苦難のうちに此等の事を想ひ知るべきなり。 9:13されば今より後、如何なれば義しからざる者、苦しめられざるやと問ふな。むしろ義しき人の如何にして救はるるかを尋ねよ。世は彼等のものにして、彼等のために造られたればなり。』 9:14我答へていふ 9:15『われ前にこれをいへり。今も亦いはん。亡ぶる者は救はるる者より多し。 9:16これ水の一滴より波の大なるが如し。』 9:17かれ我に答へていふ『畑あれば種あり、花あれば色あり、わざあれば造られしものあり、農夫あれば禾場あり。 9:18人の住むべき世の未だ造られざりし前、われ今の代の人のために備へつつありしとき、我に逆ひてものいひし者なかりき。人一人だにあらざりし故なり。 9:19されど今、永遠に盡くることなき宴設けられ、又測るべからざる律法備へられたるこの世に造られし人々その行狀を汚したり。 9:20我わが世を見しに、視よ、それは滅びたり。我わが地を見しに、視よ、其内に起りし異圖のためにそれは危殆に陷れり。 9:21われ彼等を見て、その一部を赦し、その房の内より一粒の葡萄を救ひ、又その大なる林の中より一本の樹を救へり。 9:22徒らに生れし群衆は亡ぶべき者なれども、わが大なる勞苦をもて全うせしわが葡萄とわが樹とは救はるべき者なり。 9:23ともあれ汝尚七日を待て。 9:24(此の七日の間、汝斷食せずして、家の建てられざる花園を歩き、園の花のみを喰へ、肉を喰はず葡萄酒を飮まず、ただ花のみを喰ひて花園を歩むべし。) 9:25絶間なく、いと高き者に祈れ、さらば我來りて汝と共に語らん。』 9:26我その命ぜられし如くアルダテと呼ばるる庭に往きて其花の中に坐り、その畑の草を喰ひて腹を滿たしぬ。 9:27七日の後、われ草の上に臥して前の如くわが心を惱ましたり。 9:28我口を開きて至高者の御前にものいひ始む。 9:29『主よ、主は我らの先祖たちのエジプトより沙漠に出で來たりし時、又彼等の未だ人の歩みしことなき、荒れはてたる沙漠を歩みたりし時、彼等に顯れ、 9:30かついひたまへり『イスラエルよ、我に聽け、ヤコブの裔よ、わが言に耳を傾けよ。 9:31視よ、われ汝らの中にわが律法を蒔く、その律法は汝等のうちに實を結ばん、それに依りて汝ら世々榮光を受けん』と。 9:32我等の先祖たちは御律法を受けたれども之を守らず、又彼らは御誡命を守りたることなし。されど律法の實は亡びし事なかりき。是その律法は主の律法にして、亡ぶべきものにあらざればなり。 9:33律法を受けし者はそのうちに蒔かれたるものを守らざりしが故に、減亡びたるなり。 9:34地は種を受け、海は船を戴せ、器は食物又は飮物を容る。されど、その蒔かれたるもの、その戴せられたるもの、またその容れられたるもの亡ぶるとき、 9:35たとひ此等のものは亡ぶとも器は殘らん。されど我等にとりては然らざるなり。 9:36律法を受けし我らはこれをうけし我らの心と共に罪によりて亡びん。 9:37されど御律法は亡びずして榮光の中に殘らん。』 9:38此等のことを心の中にいひし時、われ眼を擧げしに、右の方に一人の女を見たり。視よ、此女は聲を擧げて嘆き悲み、その魂いたく惱み居たり。その衣は破れ、その頭の上には灰まき散らされたり。 9:39我わが思想を更へ、彼女に向ひていふ 9:40『何ぞ泣くや、何ぞ汝の心惱むや。』 9:41彼女われにいふ『わが主よ、わが心嘆きて、 9:42われ彼女にいふ『汝の悲哀は何なるか、我に語れ。』 9:43かの女我にいふ『婢は三十年の間、夫と共に居りしも子を産みたることなし。 9:44その三十年の間、われ晝も夜も、時に時を、日に日を重ねて、至高者に祈をささげたり。 9:45三十年の後、神、婢の祈を聽き給ひてわが賤しきをみそなはし、わが惱を顧みて、我に男の子を與へたまへり。その子のために、我も夫も隣人も皆喜びて神に榮光を歸し奉れり。 9:46我わが子を大なる勞苦を以て養へり。 9:47時到りて我わが子のために妻を娶り、婚宴を設けたり。

第10章

10:1然るに、わが子婚禮の室に入りし時、忽ち倒れて死ねり。 10:2その時我等燈火を倒したり。わが隣人立ちて我を慰めぬ。かくてわれ翌日の夜に至るまで休めり。 10:3我を安らかにせんとて我を慰さめゐたりしもの皆鎭まりたれば、我その夜汝の見る如くこの野に逃れ來れり。 10:4我死ぬる時まで、絶間なく嘆き、斷食し、何をも喰はず、何をも飮まず、都にも歸らずして、此處に留らんと思ひ定めたり。』 10:5その時、われ思ひめぐらし居りしことを止め、怒をもてかの女に答ふ 10:6『女の中の最も愚なる者よ、我らに起りたる我等の惱を視ずや。 10:7卽ち我等の母シオン大なる惱の中に惱みて卑くせられたり。 10:8汝はただ一人の息子のために嘆く。我等は皆悲哀の中に居れば共に嘆くは當然なり。 10:9地に問へ。地その上に成長せる多くのもののために嘆くは宜なりと答へん、 10:10地よりすべての者出でたり。又他のものも來らん、されど視よ、彼等は殆ど皆滅亡に向ひて歩み、その數盡きんとす。 10:11地と汝といづれか大に嘆くべき、地は大なる群衆を失ひしにあらずや。 10:12もしなんぢ『我と地との情態は異なり。そは我大なる苦と惱とを以て産みしわが胎の實を失ひしなれど、 10:13地は地の風習に從ふ。その上に來れる群衆はその來りしが如く過ぎ往けるなり』といはば、我は汝に答へん。 10:14汝惱を以て子を産みしが如く、地も亦初よりその實、卽ち人を、造主のためにささげたり。 10:15故に己が嘆を己の心のうちに保て。汝に起りし苦難を勇ましく忍べ。 10:16もし汝神の誡命を正しとせば、時に依りてはまた子を授けられ、女の中に譽を得ん。 10:17されば汝町にゆき、汝の夫に、歸へるべし。』 10:18彼女われに答へていふ『然すまじ、町にも入るまじ、我は此處にて死なん。』 10:19我更に言を重ねて、彼女にいふ。 10:20『女よ、汝の心のままにすな。シオンの苦難のためにわがいふことを聞き、エルサレムの悲嘆のために慰を受けよ。 10:21汝見る如く我等の聖所は荒れ果て、我等の聖壇は毀たれ、 10:22我等の宮は滅び、我等の讚美の聲は低くなり、我等の歌は默し、我等の喜悦は盡き、我等の燈火は消え、我等の契約の櫃は破られ、我等の聖き物は瀆され、我等の呼ばるる名は罵られ、我等の自主なる男は蔑され、我等の祭司たちは燒かれ、我等のレビ人は俘虜にせられ、我等の處女たちは汚され、我等の妻たちは犯され、我等の義しき人々は携へ去られ、我等の子等は裏切られ、我等の若者らは奴隸とせられ、我等の強き者は弱くなれり。 10:23しかのみならずシオンの紋章はその榮光を失ひ、我らを憎む者の手に渡されたり。 10:24されば汝の大なる悲痛を振ひすて、多くの嘆を汝より打ち捨てよ。さすれば、至強者再び汝を憐み、至高者、汝の勞苦に代へて休息と平安とを與へ給はん。』 10:25われ猶この女と語り居る程に、視よ、其顏忽ち輝やき、その姿稻妻の如く光りたれば、我いたくかれを懼れ、こは何事ぞと想ひ廻はせり。 10:26視よ、かの女忽ち、恐しき大なる聲を發し、地そのために震へり。 10:27我見しに、視よ、その女の姿もはや見えず、代りにそこに都建てられ、大なる墓の如き場所顯れたれば、我懼れて聲を擧げ、而していへり 10:28『初に我に來たりし御使ウリエルは何處に居るや。彼われをこの大なる幻象に陷らしめぬ。わが終は空に歸し、わが祈は拒まれたり。』 10:29われ此等の事を語り居る間に、視よ、初に來りし御使我に來りて我を見たり。 10:30視よ、われ死にし者の如く伏して氣を失ひ、わが悟亂れたり。御使わが右の手を執りて我を強め、我をわが足にて起たせ、而して我にいふ 10:31『汝何ぞ頂垂るるや、何ぞ思ひ惑ふや。何ぞ汝の悟、汝の心の思亂るるや。』 10:32我いふ『なんぢ我を棄てたるが故なり。われ汝の言の如く野に往きしに、言ひ得ざる事を視たり。我今猶これを見る。』 10:33彼われにいふ『雄々しく立て。我汝に示さん。』 10:34我いふ『わが主よ、我徒らに死なざるやう我を去り給ふな。我に語り給へ。 10:35我悟らざる事を見、又知らざる事を聞きたればなり。 10:36或はわが心誤り、或はわが魂夢み居るならんか。 10:37願くは彼の幻象を僕に示し給へ。』 10:38彼われに答へていふ『我に聽け、いと高き者汝に多くの奧義を示したれば、われ汝に汝の懼るる事を示し且語らん。 10:39彼なんぢの道の正しきを見たまへり。そは汝常に汝の民のために嘆き、シオンのために大なる哀悼をなせばなり。 10:40これは幻象の意味なり。 10:41暫時前に汝に現れて悲み居りし、汝の慰めんとしたる女は、 10:42今汝の見る如く、女の姿にあらで、建てられつつある都として顯れぬ。 10:43汝にその子の變事を語りしかの女につきての説明は左の如し。 10:44汝の見しかの女は汝の見るところの建てらるる都シオンなり。 10:45かれ汝に、三十年子を産まざりしといひしは、これシオンに於て三千年の間犧牲獻げられざりしことをいふ。 10:46その三千年の後に、ソロモンかの都を建て、犧牲にささげたり。これかの石女の子を産みしことなり。 10:47かれ苦み勞してその子を養へりといひしは、エルサレムに民の住みしことを云ふ。 10:48又かのをんな、その子婚禮の室に入りて死に、大なる苦惱起りたりといひしは、エルサレムの滅びたることを云ふなり。 10:49視よ、汝かの女の、子のために嘆く樣を見て、これを慰め始めたるとき、その眞の姿示されしなり。 10:50今いと高き者、汝が心より悲み、かの女のために心を盡して苦みたりし事をみそなはし、その榮光の輝とその優しき美しさとを汝に示したまへり。 10:51この故に、われ汝に、家の建てられしことなき野に宿るべきことを命ぜしなり。 10:52これいと高き者、汝に此等のことを示し給ふべきことを我知りたればなり。 10:53さればわれ汝に、建物の基もなき野に往くことを命じたり。 10:54いと高き者の都の顯るるところに、人の手の業立つこと能はず。 10:55故に懼るな、汝の心を騷がすな。汝の眼の見得る限り。建物の榮光と偉大とを見よ。 10:56後汝は、汝の耳の聞き得る限を聞かん。 10:57汝は多くの人に勝りて祝福せらる。少數の者と共にいと高き者の御前に名をもて呼ばれん。 10:58明日の夜、汝は此處に留まるべし。 10:59いと高き者、夜の幻象の中に、終末の日に、地に住む者になさんとすることを示したまはん。』我その夜も、またその次の夜も御使の命ぜし如く、其處に寢ねたり。

第11章

11:1その後二日目の夜、われ夢を見しに、視よ、海より十二の翼と三つの頭を有てる鷲上り來れり。 11:2我見しに、視よ、その鷲翼を地の上に擴げたるに、空の風と雲悉く彼に向ひて吹き寄せられたり。 11:3我視しに、その翼より他の翼出でて、細く小き翼となれり。 11:4その鷲の頭は動かず、眞中の頭は他の頭より大なるも、同じく動かざりき。 11:5我見しに、視よ、その鷲地及び地に住む者の上に王たらんがために、その翼をもて飛び廻れり。 11:6我見しに、天の下のすべてのものその鷲に從へり。地にあるすべてのものの中に、この鷲に逆ふもの絶えてなかりき。 11:7我見しに、視よ、その鷲、足の爪にて起ち、翼に向ひ聲を出していふ 11:8『行きて全地を治めよ。されど今は休め。すべてのもの同時に眼醒め居るな。各自己が處に眠り、時に從ひて眼を醒ますべし。 11:9されど頭は終まで保たるべし。』 11:10われ見しに、視よ、その聲頭より出でず、その體の眞中より出でたり。 11:11我その小き翼を數へしに、その數は八つなりき。 11:12我見しに、視よ、右の方より一つの翼起りて全地の上に王となれり。 11:13その翼、王となれる後、終末來りてその翼もその所在も見えずなりぬ。この翼に續きて他の翼起り、永き時の間』全地に王となれり。 11:14此の翼も王と成りて後、前の翼と同じく、見えずなりて、又その終末來れり。 11:15視よ、聲出でて彼にいふ 11:16『汝永く地を保ちし者よ、汝滅ぼさるる前に我これを汝に傳へん。 11:17汝の後に來るものは、誰も汝の時に達するもの、又は汝の時の半にも達する者なからん。 11:18その時第三の翼起りて前の翼と同じく王位を取りしが、これも消え失せたり。 11:19他の翼も各々前の翼と同じく王の位を得しも、再び現れ出づることなかりき。 11:20我見しに、視よ、やがて小き翼、右の方にも起りて、地を治めたり。その中の或者は暫く王となりしも、忽ち消え失せたり。 11:21彼らのうち或もの位に卽きしも、治めざりき。 11:22その後我見しに、視よ、その十二の翼消え失せ、又二つの小さき翼も消え失せたり。 11:23その時、鷲の體には動かざる三つの頭と六つの小さき翼の外に、何も殘らざりき。 11:24我見しに、視よ、その六つの小き翼の中より二つは別れて右の頭の下に殘り、四つは元の處に止まれり。 11:25我見しに、視よ、これ等の下なる翼たちて王と成る野心を起せり。 11:26我見しに、視よ、一つの翼起りて忽ち消え失せたり。 11:27第二の翼もたちしが、これ第一の翼よりも早く、直ちに消え失せたり。 11:28我見しに、視よ、殘りたる二つの翼も王たらんとの野心を起せり。 11:29彼等この野心を起せし時、視よ、眞中にありし動かざる頭の一つ眼醒めたり。これは二つの頭よりも大なりき。 11:30我この頭が他の二つの頭を己に併せたるを視たり。 11:31視よ、その頭、共にありし頭とともに向き返りて、王とならんとせし二つの下なる翼を喰ひ盡せり。 11:32此の頭は全地を占め、大なる虐待をもて地に住む者を壓へ、その前に在りしすべての翼に勝りて大なる能力を有てり。 11:33此の後我見しに、視よ、眞中に在りし頭、翼と同じく、俄に消え失せたり、 11:34されど二つの頭殘りて地及び地に住む者の上に王となれり。 11:35我見しに、視よ、右の方に在りし頭、左の方に在りし頭を喰ひ盡せり。 11:36その時我ものいふ聲を聽けり。その聲いふ『汝の周圍を見廻し、その見るところのことを辨へよ。』 11:37我見しに、視よ、林の中より獅子の如きもの起き出でて吼ゆ。かれ鷲に向ひ、人の聲を出してものいふを我聽けり。 11:38『聽け、われ.汝にいはん。いと高き者汝に語り給はん。 11:39汝は、わが世を治めんがため、又わが時の終末を來らしめんがため、わが造りし四つの活物の中より殘されし活物にあらずや。 11:40第四の活物なる汝來りて過ぎ去りし他のものに勝ち、大なる恐怖を與へて世を治め、又大なる虐待をもて地を治め、虚僞りをもて永く地の上に住めり。 11:41汝眞理によらずして地を審けり。 11:42汝柔和なる者を苦しめ、平和なる者を痛め、眞理をいふ者を憎み、虚僞をいふ者を愛し、實を結ぶ者の住居を毀ち、汝を害はざる者の石垣を倒せり。 11:43故に汝の高慢ば至高者の御前に上り、汝の誇は至強者の御前に上れり。 11:44いと高き者己が時を見給ひしに、視よ、その時は終り、その世は完うせられたり。 11:45されば汝は全く滅ぼさるべし。鷲よ、汝のいと高き翼も、小く惡しき翼も、酷き頭も、惡しき爪も、憎むべき全身も悉く滅ぼさるべし。 11:46これすべての地暴虐より逃れて平安を得、造主の審判と慈悲とを得んがためなり。』

第12章

12:1獅子此等の言を鷲に語り居りし間、 12:2我見つつありしに、視よ、殘りし頭消え失せて、その頭に近づきし二つの翼王とならんとて起ちあがれり。その國は小さく、騷亂にて滿てり。 12:3我見しに、視よ、此等のものも消え失せ、鷲の全身燒かれたれば、地いたく驚けり。われ心の大なる戰慄と大なる恐怖とのために眼醒めてわが靈に云へり 12:4『視よ、汝、至高者の道を尋ぬればこそ此等のことを我になせしなれ。 12:5視よ、わが心疲れ、わが靈いたく弱り、今宵わが感ぜし大なる恐怖のために我に少しの氣力も殘り居らず。 12:6されば我今、われを終まで強め給はんことを至高者に祈らん。』 12:7我いふ『主よ、わが主よ、われ汝の御前に恩惠を得、多くの人に勝りて汝と共に義とせられ、又わが祈誠に御顏の前に昇るを得ば、 12:8願くは我を強めたまへ。わが魂を全く慰めんがために、この懼るべき幻象の意を説き明したまへ。 12:9主は我を、時の最後と期の終末とを示さるるに相應しきものと認め給ひしにあらずや。』 12:10彼われにいふ『汝の見し幻象の説明はこれなり。 12:11汝の見し海より昇りし鷲は、汝の兄弟ダニエルの見たる幻象の裡に顯れたる第四の國なり。 12:12されど今、此の幻象を汝に説き明すが如くには、彼にはその説明與へられざりき。 12:13視よ、日來らん、その時、地の上に、或る國起りて、今迄在りしすべての國よりも怖るべき國とならん。 12:14其國の中に相次いで十二の王たち起らん。 12:15その第二の王は十二のいづれにも勝りて、永く王たるべし。 12:16汝の見し十二の翼の説明は次の如し。 12:17汝その頭よりにあらでその體の眞中より出でし聲を聞きたる故はこれなり。 12:18その國の定まりたる時の半に於て、多くの分裂起り、その國倒れんとする程に傾かん。されどそれは猶倒れずして再び元のさまに歸らん。 12:19汝鷲の翼に着きたる八つの翼を見たる意はこれなり。 12:20その國の中に、時短く、治世長からざる八人の王起らん。 12:21時の半に及びて、その國のうちの二つの國は亡び、四つの國はその終末近づかんとする時まで保たれん。他の二つの國は終まで保たるべし。 12:22汝の見し動かざる三つの頭の説明は左の如し。 12:23終末の日に、至高者は三人の王を起して、その國の中の多くのものを新にし、地を治めしめん。 12:25彼等はその不義を新にし、その終を完うすべし。 12:26汝その中の大なる頭の消え失せたるを見しは、その中の一人は大に苦しめられてその寢床の上に死なんとの意なり。 12:27殘されたる二人をば劍呑み盡さん。 12:28一人のものの劍その伴侶を倒し、終には他の一人のもの倒されん。 12:29汝右の方にありし頭の上に二つの翼昇りゆくを見たる意はこれなり。 12:30此等のものは、至高者の終まで守りたまふ者なり。これは汝の見し騷亂に滿てる小き國なり。 12:31汝は又、林より起り、吼え哮りて鷲にものいひ、汝の聞きし如く、その不義とそのすべての言との故に、その鷲を誡めし獅子を見たり。 12:32これはメシヤ(膏注がれたる者)なり。至高者、彼を終まで保ち給はん。彼はダビデの裔より起り、來りて彼らにものいひ、彼らをその不義とその不正との故に誡め、彼らの前にその耻づべき行爲を山の如くに積み重ねん。 12:33かれ初は彼等を生けるままその審判に臨ませ、これを責めて後、彼等を滅ぼさん。 12:34彼はわが民の殘れるもの、卽ちわが國の境の内なる亡ぼされざりし者を憐みて救はん。又彼は、終末の時、卽ちわが前に汝に語りし審判の日來るまで彼等を喜ばしめん。 12:35これは汝の見し夢とその説明なり。 12:36汝のみ至高者の祕密を知るに相應し。 12:37されば汝の見し此等のすべての事を書に認めてその書をひそかなる處に匿せ。 12:38而して汝民の内の聰き者、卽ち之等の祕密を心の中に藏めて守り得る人々に之を教へよ。 12:39汝猶至高者の示し給はんとする他の事の示されんが爲に、此處に七日の間留まれ。』かれ我を離れたり。 12:40その時、すべての民、七日過ぎたるに、我未だ都に歸らずと聞き、小より大に至るまで集りて我が許に來り、且いふ 12:41『汝我らを棄てて此處に坐するは、我ら汝に逆ひていかなる罪を犯せしによるか。汝に對して我等は何の不義を行ひしや。 12:42すべての豫言者の中、汝のみ結實期の葡萄の房の如く、闇の中に輝く光の如く、嵐に耐へし船への生命の港の如く、我等のために遺されたり。 12:43我等に起りし惡しき事は、我等のためにもはや足れるにあらずや。 12:44汝もし我等を棄つるならば、シオンの燒かれし時、我等も燒かれし方良かりしものを。 12:45我らは、そこにて死にし人々よりも善きものにはあらず。』彼等聲を揚げて泣けり。 12:46我答へて彼らにいふ『イスラエルよ、心安かれ。ヤコブの家よ、嘆くな。 12:47汝らは至高者の御前に憶えられ。至強者、汝らを永遠に忘れ給ひしにあらず。 12:48われ汝等を棄てたるにあらず。又汝等より遠ざかれるにあらず。シオンの荒廢のために祈り、又卑くせられたる汝らの聖所の上に慈悲を埀れ給はんことを祈らんがために、われ此處に來れるなり。 12:49されば汝等各自その家に歸るべし。われ此等の日の後汝等に往かん。』 12:50民わがいひし如く都に往けり。 12:51われ御使の命ぜし如く、七日の間野に住みて野の花のみを喰ひ、其等の日の間靑草わが糧となれり。

第13章

13:1七日の後、われ夜夢を見しに、 13:2視よ、海の波を荒らす風、海より起りたり。 13:3我見しに、視よ、この風人の貌に似たる者を海より伴ひ來れり。我視しに、視よ、その人天の雲に乘りて飛び來り、世の人を顧みんとてその顏を向けたるに、彼の下に見えたるすべてのもの慄けり。 13:4彼の聲出でし時、これを聞けるすべての者、蠟の火をうけし時に熔け失するが如くに熔け失せたり。 13:5この後我見しに、視よ、數へ盡すこと能はざる程の群衆、海より上れるその人と鬪はんがために天の四方の風より集り來れり。 13:6我見しに、視よ、その人自ら高き山を彫り刻みてその上に跳び上れり。 13:7我その山の刻み出されし揚所を見んとせしが、能はざりき。 13:8その後我見しに、視よ、彼と鬪はんとて集まれるすべてのものいたく懼れたり。 13:9視よ、彼はその押寄する群衆の勢を見しも、その手をも揚げず、その槍をも執らず。又何の武器をも用ひず、 13:10唯その口より火の洪水の如きものを出し、その唇より焰の風を吹き、その舌より嵐の火花を吐き出せり。 13:11火の洪水と火の風と烈しき嵐、此等のもの皆まじりて一つとなり、鬪の備へをなせる群衆の勢威の上に落ちかかりて彼等を悉く燒き盡せり。これがためにその大なる群衆滅びて灰と煙の臭との外何も遺らざりき。我これを見て驚けり。 13:12その後我、その人の山より下りて穩なる群衆を己のために呼び集むるを見たり。 13:13彼の許に大なる群衆上り來りしが、或者は喜び、或者は悲しみ、或者は縛がれ、或者は供へらるべき人々を伴ひ來れり。我大なる懼によりて眼を醒し、至高者に祈りていひぬ 13:14『汝始より僕に此等の驚くべきことを示し給ひ、又我を、わが祈を受けらるるに相應しき者と認めたまへり。 13:15今我に、この夢の説明を示し給へ。 13:16我想ふに、その時まで殘る者は禍害なるかな、又その時まで殘らざる者は更に禍害なるかな。 13:17其等の殘らざる者は悲むべし。 13:18彼等は終末の日に殘る人々のために貯へられたるものを知れども、己等はこれに達するを得ざるなり。 13:19されどその時まで殘れる者は禍害なるかな。そは彼等は此等の夢の示す如く大なる危險と多くの苦難とを見るべければなり。 13:20されど、終末の時に起らんとする事を視ず、雲の如く此の世より過ぎ行かんよりは、危險にかこまるるともそれに臨まん方寧宜しきなり。』 13:21『われ汝に幻象の説明を示し、汝の語られしことを汝に現さん。 13:22汝のいひし殘れる人々につきての説明はこれなり。 13:23その時危險に耐へし人は、全能者に對して善き業と信仰とをもて危險に陷りたる人々を護らん。 13:24故に汝知るべし。死にし人々よりも終末の時まで殘れる人々は幸福なり。 13:25これば幻象の説明なり。海の中より上り來れる汝の見しかの人は、 13:26これ至高者の久しき間守りし人なり。 13:27汝の見し如く、その人の口より風と火と嵐と出で、 13:28槍をも武器をも持たずして、彼は、己と鬪はんとて出で來れる大なる群衆を滅したり。この事の説明は次の如し。 13:29視よ、至高者、地に住む者を救ひ始むる日來たらん。 13:30大なる恐怖地に住む者の上に來らん。 13:31その時町と町、處と處、民と民、國と國、各自戰鬪の準備をなさん。 13:32此等の事の成らんとする時、又わが汝に示せし徴成就せんとする時、人の貌をもて上り來りし汝の見たるわが子顯されん。 13:33その時、すべての民その聲を聞かば、各自その國をも又その備へし戰をも棄てん。 13:34又汝の見し如く、彼に逆ひて鬪はんとする數へ盡すこと能はぬ程の大なる群衆集らん。 13:35かれシオンの山の頂上に立たん。 13:36汝の見し手によらで彫り出されたるかの山の如くに、そなへられ、また建てられたるシオン來りて、すべての人に示されん。 13:37わが子、不義をなさんために來れる民等を嵐の如きものをもて責めん。 13:38又彼等の惡しき思想と、彼等の受くべき熖の如き苦難とを彼等の前に置き、火になぞらへらるる律法をもて、勞することなく彼等を亡さん。 13:39彼穩なる群衆を集めしを汝見たり。 13:40これは、アツスリヤの王シヤルマネセルがホセアの時に捕虜としてイスラエルの國より出せし十の支族なり。シヤルマネセル彼らを河の彼方へ移し、彼らを他の國へ動かしたり。 13:41されど彼等己等のみにて互に計り、異邦人の群衆を棄て、未だ人の住まざる國へ往きてそこに住ひ、 13:42己等の國にて守られざりし律法を其處に到りて守らんとせり。 13:43彼等はユフラテ河の狹き通路によりてそこに入れり。 13:44その時、至高者、彼等のために異なる徴を行ひ、彼等の渡り終るまで河の水源を止めたり。 13:45その國に到るまで一年半の長き道程あり。その地は『アザレス』と呼ばる。 13:46彼等終末の時まで其處に住み、今再び還り始む。 13:47至高者、彼等の渡らんがために再び河の水源を止めたまふ。されば汝その群衆が穩に集まりたるを見たるなり。 13:48然るに、汝の民の殘さるる者はわが聖なる境の中に見出さるる者なり。 13:49されば彼、集まりたる民等の群衆を亡さんとする時、殘れる民を守り給はん。 13:50而して彼、その時、彼等に大なる徴を示し給はん。』 13:51我いふ『主よ、わが主よ、海の中より上り來し人をわが見しは何故ぞや、之を我に示し給へ。 13:52彼われに云ふ『人海の底にあるものを識ること能はざるが如く、地の上に住むものも、その日來らずば、わが子及びわが子と共に在る者を見ること能はず。 13:53これは汝の視し夢の説明にして、汝のみ之がために光明を得たり。 13:54汝己の道を棄てわが道とわが律法とを究めんと努めたり。 13:55汝は汝の生涯を智慧のうちに送り、又知識を汝の母と呼べり。 13:56此の故に我これを汝に示せり、そは至高者のもとに應報貯へあればなり。三日の後に、我なんぢに他の事を語り、力ある驚くべきことを示さん。』 13:57[57-58]その時、我時に從ひてなされたる驚くべき業の故に、又時を統べ、その時の中に起ることを治め給ふが故に、いと高き者に讚美と榮光とを歸して野に往けり。而して我其處に三日の間坐り居たり。 13:58*[57-58]その時、我時に從ひてなされたる驚くべき業の故に、又時を統べ、その時の中に起ることを治め給ふが故に、いと高き者に讚美と榮光とを歸して野に往けり。而して我其處に三日の間坐り居たり。

第14章

14:1三日目に我樫の樹の下に坐り居たるに、視よ、彼方の藪の中より聲出ていふ『エズラよ、エズラよ。』 14:2我いふ『主よ、我此處にあり。』我わが足にて起ちしに、 14:3かれ我に云ふ『わが民エジプトに於て奴隸たりし時、われ棘の中に顯れてモーセとものいひぬ。 14:4その時、我モーセを遣はしたれば、彼わが民をエジプトより導き出せり。而してわれ彼をシナイ山に伴ひ行き、其處にて多くの日の間彼をわが許に留め置けり。 14:5その時我多くの異なるわざにつきて語り、時の祕密と時の終末とを示し、彼に命じてかくいへり 14:6『汝此等の言につきて、或ものをば公然にし、或ものをば祕密にすべし』と。 14:7今我汝に云ふ。 14:8わが汝に示せし徴と、汝の見し夢と、汝の聞きし説明とを心に留め置くべし。 14:9この後汝、人々の内より擧げられて、わが子と共に、又汝と等しき人々と共に時の終末まで殘されん。 14:10世その若き情態を失ひ、時古くならん。 14:12而して今遺り居るは、第十部の半の後の二つの部なり。〕 14:13されば汝の家を整へよ。又わが民を誡めよ。彼等のうちの謙るものを慰めよ。〔賢き者を教へよ。〕今より後朽ちはつべき生命を棄てよ。 14:14死に至る思想を去り、人の重荷を投げ棄て、汝の弱き性質を脱げ。 14:15汝を苦むる此等の思想を去り、いそぎて此の時より遁れよ。 14:16汝の見し、今起りたる惡しきことよりも猶惡しきこと起らん。 14:17年古りて世衰へ來るにつれ、世に住む者の上に惡しきこと重り來らん。 14:18眞理は益々遠ざかりて虛僞近づかん。視よ、汝の幻象の中に見し 14:19我答へていふ『われ汝の御前に語らん、主よ。 14:20我往きて汝の命じ給ひし如く今の民を誠めん。されど來らんとする民を誠むる者は誰ぞ。世は暗闇に蔽はれて、その中に住む者に光なければなり。 14:21汝の律法燒かれたるが故に、汝のなし給ひし御業、汝のなさんとし給ふ御業を辨ふるものなし。 14:22もしわれ汝の御前に恩惠を得なば、聖靈を我に送り給へ。我元始より世に行はれたること、卽ち汝の律法に記されたることを記さん。これ人々汝の道を求めんがため、又終の時に生きんと欲する人々の生き得んがためなり。』 14:23彼われに答へていふ『往きて民を集め、彼等をして四十日の間汝を尋ねしむな。 14:24汝多くの書板を備へ、汝のために速に文字を記し得るサレア、ダブリヤ、セレミア、エタノス、及びアシエルの五人を伴ひて、 14:25此處に來れ。われ汝の記さんとすること終るまで、熄えざる理解の燈火をともさん。 14:26汝此等のことをなし終りなば、そのうちの或ものを公然にし、或ものを聰き人々のみに祕に教ふべし。汝明日の今頃より書き記し始めよ。』 14:27その時、われ命ぜられし如く、往きて凡ての民を集めて云ひぬ 14:28『イスラエルよ、此等の言を聽け。 14:29我等の先祖たちは、さきにエジプトに於て寄寓人となれり。彼等其處より遁れて、 14:30生命の律法を受けたれど、これを守らざりき。汝等も彼等に從ひて、これを犯せり。 14:31その時、一つの地、卽ちシオンの地、汝等の所有として與へられたり。汝等も、汝等の先祖たちも、不義を行ひて、至高者の汝等に命ぜし道を守らざりき。 14:32彼は義しき審判主なれば、暫が程、汝等より、汝らの與へたるものを取り除き給へり。 14:33今汝ら此處にあり。汝等の兄弟たちも亦汝等と共に此處にあり。 14:34さればもし汝等、己が悟性を統べ治め、己が心情を教へ導かば、汝等の生命保たれ、死て後にも憐憫を受けん。 14:35死て後我ら再び活ん時、審判來らん。その時、義しき者の名顯れ、敬虔ならぬ者どものわざ明かにせられん。 14:36されば今、誰にても、我に近寄るな。又四十日の間我を探ぬな。』 14:37その時、彼の命じ給ひし如く』我五人の人を伴ひて野に往き、其處に留まれり。 14:38視よ、翌日、聲われに呼はりていふ『エズラよ、口を開きてわが飮ませんとする物を飮め。』 14:39われ口を開きしに、視よ、滿ちたる酒杯我に與へられたり。その滿ちたるものは水の如かりしも、色は火の如かりき。 14:40我これを受けて飮みしに、飮みし時、わが心に理解起り、わが胸の中に智慧起れり。そはわが靈、記憶を保ちたればなり。 14:41わが口は開かれて、もはや閉ぢず。 14:42至高者その五人の人に智慧を與へたれば、彼等未だ知らざる文字をもて、その聞かされし言を順序によりて書き記し、四十日の間其處に坐れり。彼ら晝の間書き記し、夜に至りて糧を喰へり。 14:43我は晝の間語りて、夜も默さざりき。 14:44その四十日の間に九十四の書、書き記されたり。 14:45その四十日終りたれば、至高者我にいひ給ふ『初に書き記したるものを公にし、讀むにふさはしき者にも、ふさはしからざるものにも、これを讀ませよ。 14:46民のうちの聰き者のみに之を渡さんがために後の七十册を保つべし。 14:47そのうちに悟性の源、智慧の泉、知識の河有ればなり。』 14:48われかくなせり。

第15章

15:1主いひ給ふ。汝の口にわが入れんとする預言の言を、わが民の耳に聽かしめよ。 15:2此の言は眞實なれば、これを紙に認めよ。 15:3民等の汝に向ひて企つる詭計を懼るな。彼等の不信仰の故に心を煩はすな。 15:4すべて不信仰の者はその不信仰の中に死なん。 15:5主かくいひ給ふ。視よ、われ地上に惡き事、卽ち劍と飢饉と死と滅亡とを齎さん。 15:6そは不義は地上に增し加はり、彼らの害ふ業も地上に滿ち溢れたればなり。 15:7されば主かくいひ給ふ。 15:8今より後、不敬虔の故に彼らのなす惡しき業のために、我もはや默さじ。又彼らの不義に依りてなす惡しき業のために我もはや彼等を忍ばじ。視よ、罪なき血と義き血、我に呼ばはり、義き人の魂の聲常にわが許に上り來る。 15:9主かくいひ給ふ。われ誠に彼等を審きて罪なきの血を彼等の中より受けん。 15:10視よ、わが民、群の如く屠場に牽かれゆく。我今より後、これをエジプトの地に住ませじ。 15:11われ強き手と高き肱とをもて彼等を導き出さん。又われ初になせし如く、エジプトに罰を蒙らせ、そのすべての地を亡さん。 15:12願くはエジプトとその地の基、主の降さんとする懲戒と刑罰との故に嘆き悲まんことを。 15:13願くは彼等の種は盡き、彼等の樹は疾風と霰と懼るべき星とのために荒されて、地を耕す農夫ども嘆き悲まんことを。 15:14禍害なるかな、世とその中に住む者。 15:15劍と彼等の滅亡近づけり。民と民相鬪はんがため、手に劔を持ちて起たん。 15:16人々の間に動亂起るべし。又人々互に強くなり、その能力を恃みて、王たちをも大なる君侯たちをも無視にせん。 15:17人町に入らんとすとも入ること能はじ。 15:18高慢のために彼らの町は騷ぎ、その家は亡び、人々は懼れん。 15:19人その隣を憐まず、糧の缺乏と大なる苦惱とのために、劔をもてその隣の家を侵し、彼等の持物を奪はん。 15:20神いひ給ふ。視よ、我地のすべての王たちを呼び集め、日の出づる處と南と東とレバノンとに住む民等を起たしめ、彼等を互に反かしめ、そのなせし事に報復をなさしめん。 15:21彼等の今日に至るまでわが選民になせしが如く、われ彼等になして、これを彼等の懷に返さん。主なる神かくいひ給ふ。 15:22わが右の手罪を犯すものを赦さじ。地の上に罪なきものの血を流す人々の故にわが劔止むことあらじ。 15:23火かれの怒より出でて燃ゆる藁の如く、地の基と罪人らとを呑み盡さん。 15:24禍害なるかな、罪を犯し、わが誡命を守らざる者よと、神いひ給ふ。 15:25われ彼らを赦さじ。墮落せる子等よ、我を離れ去れ。わが聖所を瀆すな。 15:26主己を棄つる者を知り給ふが故に、彼等を死と屠殺とに渡し給ふ。 15:27惡しき事全地に臨みて、彼等の中に止まらん。神己に對ひて罪を犯せし汝等を救ひ給はじ。 15:28視よ、懼るべき幻象、日の出づる處より現はる。 15:29アラビヤの龍の民多くの戰車を以て出で來る。その出でたつ日より叱咤の聲地上に轟く。これを聞く人皆懼れ慄かん。 15:30怒を以て狂へるカルモニ人猪の如く出で、大なる能力をもて來る。彼等龍の民と戰ひ、その齒をもてアツスリヤの地の一部を荒さん。 15:31而して後、龍ども己が素姓を憶ひてその戰鬪に勝利を獲ん。もし彼等その大なる能力に賴りてカルモニ人を攻むる計畫を立てなば。 15:32カルモニ人惱みて彼等の勢威の故に默し、身を廻らして逃去らん。 15:33アツスリヤの國より隱に窺ふ者出でて彼等を圍み、その一人を倒さん、かくて彼等の軍勢の中に恐怖と戰慄起り、彼等の王たちに對して亂起らん。 15:34視よ、東より又北より南に至るまで、怒と嵐とにて滿てる、見るも恐ろしき雲出でたり。 15:35此等の雲互に衝突して、大なる星、卽ち己が星を地上に隕さん、その時、劍より血流れて馬の腹、 15:36又人の股と駱駝の脚に及ぶべし。 15:37地上には大なる懼れと慄起らん。その怒を見る人々、懼れ慄かん。 15:38その後南より、北より、又西の或方角より大なる嵐起らん。 15:39東よりの強き風は、東の國と御怒をもて起されし雲とを閉ぢ込めん。又東風をもて滅亡を來らせんとせし星、南と西の方に逐ひやられん。 15:40全地と、地に住む者とを亡さんがために、怒に滿ちたる強き大なる雲と星と擧げられん。彼等高く貴き者の上に、恐るべき星と、 15:41火と霰と飛ぶ劍と洪水とを溢れしめん。すべての平地とすべての河とは、その水のあふれによりて荒されん。 15:42彼等町と石垣と山と岡と林の樹と牧場の草と作物とを亡さん。 15:43彼等その手を弛めずバビロンにまで到りて遂にこれを亡さん。 15:44彼等バビロンに來り、その中を廻り、その上に星とすべての怒とを注ぎ出さん。その時埃と煙天にまで上り、すべての人その周圍に立ちて嘆かん。 15:45而してその中に殘れる人々、バビロンを恐れしめたる者に仕へん。 15:46アジヤよ、汝はバビロンの美麗とその榮光とを共に享けたり。 15:47禍害なるかな、憐むべき者よ。汝己をバビロンの如きものとなせり。なんぢは汝の娘たちを淫行をもて飾れり。彼らは汝を愛する者、卽ち汝が常に共に淫行を行はんことを欲するものどもを喜ばせ、これを光榮とせり。 15:48汝は憎むべき淫行を行ひし者の、すべての業とすべての異圖との跡を蹈めり。 15:49故に神かくいひ給ふ。我汝の上に惡しき事を送らん。卽ち寡婦生活、貧窮、飢饉、劍、疫病なり。此等のものによりて汝らの家は荒れ果て、死と滅亡とに至らん。 15:50汝に送らるる暑熱の昇り來らん時、汝の能力の光榮、花の如くに萎まん。 15:51汝は鞭をもて弱くせらるる賤しき女の如く、傷をもて懲しめらるる者の如くならん。されば汝、なんちの力あるものと汝を愛する者とを受くること能はじ。 15:52主かくいひ給ふ。われ豈嫉妬をもて、汝に向ひ行かんや。 15:53汝常にわが選民を殺し、汝の手の鞭を喜び、酒に醉ひたる時、死者に向ひて、 15:54『汝の顏の美しさを返せ』といはざりしや。 15:55娼婦の値なんぢの懷にあれば、汝その報を受けん。 15:56主いひ給ふ。汝わが選民になせし如く、神汝に報い、汝を惡しき業に渡さん、 15:57汝の子らは飢饉によりて亡び、汝は劍によりて倒れ、汝の町は毀たれ、汝のすべてのもの、野に於て劍のために倒れん。 15:58山に居る者も飢饉のために亡びん。彼らパンと水とのなきために、己等の肉を喰ひ、己等の血を飮まん。 15:59すべてのものに勝りて不幸なる汝は、來りて再び惡を受けん。 15:60彼等過ぎ往かんとする時に、怠れる町を侵し、汝の國の一部を亡し、汝の地の榮光ある所を亡して後、再亡されたるバビロンに還り來らん。 15:61なんぢ彼等の前に粃糠の如くなりて、彼ら汝の前に火の如くならん。 15:62彼ら汝の町を呑みつくし、汝の地と汝の山と汝の林と汝の實を結ぶ樹とを火を以て燒かん。 15:63彼ら汝の子らを俘虜にし、汝の富を分捕物にして、汝の顏の榮を亡さん。

第16章

16:1禍害なるかな、バビロン及びアジヤよ。禍害なるかな、エジプト及びスリヤよ。 16:2麻布と毛織物とを纒ひ、汝等の子供らのために嘆き、且悲め。汝等の滅亡近きたればなり。 16:3劍汝等に送られんに、これを防ぐ者は誰ぞ。 16:4火汝等に送られんに、これを熄すものは誰ぞ。 16:5災惡汝等に送られんに、これを防ぐ者は誰ぞ。 16:6飢ゑたる獅子を、林の中に追ひ入るることを得べしや。粃糠を燃し始めば誰か之を熄し得んや。 16:7弓を引く強き者の矢を、誰か返し得ん。 16:8主なる神災惡を送り給はば、誰かこれを防ぎ得べき。 16:9主の御怒によりて火出づ。誰かこれを熄し得んや。 16:10主電光を輝し給はんに誰か懼れざらんや。主雷鳴を轟かし給はば、誰か戰かざらんや。 16:11主、人を脅し給はば、誰か御顏の前に千々に碎かれざらんや。主の御顏と、その御力の榮光の前に、地とその基搖り動き、海、その深處より出づる波と共に 16:12たちあがりて、その浪騷ぎ、その中なる魚も亦騷がん。 16:13弓を引く主の右の御手は強く、その放つ矢は鋭し。主その矢を地の極まで放ち給はんに、その矢一つだに的を外るることなからん。 16:14視よ、災惡送り出さる。地の極に達するまでは還り來らじ。 16:15火燃えて地の基を燒き盡すまでは熄ゆることなからん。 16:16弓を引く強き人の放ちたる矢の返らぬ如く、地に投げ下されたる災惡も返り來らじ。 16:17ああ悲しきかな、悲しきかな、その日我を救はんものは誰ぞや。 16:18これぞ患難の始。大なる悲嘆起らん。これぞ飢饉の始。多くの人亡びん。これぞ戰爭の始。力ある者ども懼れん。これぞ災惡の始。すべての人戰かん。此等の災惡來らん時、彼ら何をなさんとするや。 16:19視よ、飢饉と疫病、患難と苦痛。此等のものは、人を悔改めさせんがため、罰として來るなり。 16:20此等のすべてのもののあるにも拘はらず彼等その罪を改めず、又その罰をも常に憶えざるなり。 16:21視よ、地上に食物增し加へられて、人々平穩なりと思ひ居る時、劍と飢饉と大なる混亂と諸の災惡地上に生ぜん。 16:22地に住む多くの人々は飢饉のために亡び、飢饉を遁るる者をば劍亡ぼさん。 16:23死人は塵芥の如く棄てられてこれを慰むるもの絶えてなからん。地は荒れ果ててその町々毀たるべければなり。 16:24地を耕して種を蒔く者一人も還らじ 16:25樹、實を結ぶとも誰かこれを集めん。 16:26葡萄熟すとも誰かこれを踐まん。すべての處に大なる荒地あるべし。 16:27その時、人、他人に逢はんと欲し、又他人の聲を聞かんと欲す。 16:28而して町の中に十人、野の中に二人殘されて、樹の繁みと岩の穴とに隱れん。 16:29オリブ園に於けるすべての樹に、三つ四つの實遺るが如く、 16:30又葡萄摘の時に、懇に果を求むる人々樹に葡萄の房を少しく遺すが如く、 16:31その日に劍をもて人々の家を探ね求むる人々、僅に三人又は四人を遺さん。 16:32地荒れ果てて、その畑荊棘に塞がれ、その道路とそのすべての小徑には茨生え、羊その中に歩まじ。 16:33乙女たちは新郎を得ずして嘆き、女たちは夫を持たずして嘆き、娘たちは助くるものを得ずして嘆かん。 16:34新郎たちは戰に倒れ、男たちは飢饉のために亡びん。 16:35主の僕らよ、此等のことを聞きて辨へよ。 16:36視よ、これ主の御言なり。汝らこれを受けよ、主のいひ給ふことを拒むな。 16:37視よ、災惡近づけり、遲るることなし。孕りて既に九ヶ月に及べる女、産む時近づかば、二時又は三時前より、大なる苦痛胎内に起り、子その胎内を出づる時は、一瞬の猶餘もなきが如く、 16:39災惡は待つ程もなく來り、世は嘆きて種々の苦惱に團まれん。 16:40わが民よ、わが言を聽き、戰のために備せよ、この惡しき世には寄寓人の如くに地に住むべし。 16:41賣る者は逃ぐる人の如く、買ふ者は失はんとする人の如く、 16:42商人は益を受けざる者の如く、家を建つる者はその家に住まはぬものの如く、 16:43種を蒔く者は刈り入れざる人の如く、葡萄の樹を刈り込む者はその實を摘まざる人の如く、 16:44結婚する者は子を得ざる人の如く、獨身の者は寡婦の如くになるべし。 16:45かくの如く、働く者の働は益なし。 16:46他國人彼らの實を取り入れ、彼らの財産を分捕物とし、彼等の家を潰し、彼らの子供らを俘虜にせん。かくて彼等俘囚と飢饉とのうちにてその子どもらを産まん。 16:47商人その商賣の利を得んがために働くとも、それは分捕物とならん。彼ら益その町と家と財産と己が身とを飾らんに、 16:48我は彼等をその罪の故に益憎まんと主いひ給ふ。 16:49眞實なる善き女の、娼婦を憎むが如く、 16:50義しき者は、不義その身を裝ふ時これを憎み、地上のあらゆる罪を探るものを守る者來らん時、彼の前に憚らずしてこれを責めん。 16:51されば汝、彼の如きものとなるな。又そのわざに倣ふな。 16:52やがて不義地より取り去られ、義我らの上に王とならん。 16:53罪人よ、我は罪を犯せしことなしといふな。神とその榮光の前に罪を犯せしことなしといふ人は、その頭の上に燃ゆる火を燃すなり。 16:54視よ、主は、人のすべての業とその思慮、その思想と心情とを知りたまふ。 16:55地造られよと主いひ給ひたれば、地造られ、天造られよと云ひ給ひたれば、天造られたり。 16:56その御言によりて星も造られたり。主は星の數を知り給ふ。 16:57主は淵とその寶とを探り、海とその中に在るものとを量り給ふ。 16:58主、水の中に海を閉ぢ込め、又その御言をもて地を水の上に浮かばせ給ふ。 16:59主は天を張りて穹蒼となし、これを水の上に据ゑ給ひぬ。 16:60主は砂漠の中に水の泉を造り、地に水灌がんがため高き山の頂に、河を流れ出でしむる湖を造り給へり。 16:61主、人を造り、その身體の中に心情を置き、これに呼吸と生命と知識とを與へ、 16:62又全能なる神の靈を與へ給へり。すべてのものを造り、隱れたる處にある隱れたるものを探り給ふものは、 16:63汝等の思慮と汝等の心にある思想とを知り給ふ。罪を犯してその罪を隱さんとするものは禍害なるかな。 16:64主は、誠に汝らのすべての業を探り、汝らを悉く辱しめ給はん。 16:65その時、汝らの罪人々の前に露はれて。汝等辱しめられん。又その日に汝らの罪、汝らを訴ふる者とならん。 16:66汝ら何を爲さんとするや、汝らいかで汝らの罪を神と御使たちとの前に隱すことを得んや。 16:67視よ、神は審判主なり。彼を懼れよ。汝らの罪を去り、汝等の不義を忘れ、これらのものに關はるな。さらば神なんぢらを導きてすべての患難より救ひ出し給はん。 16:68視よ、汝らの上に、大なる群衆の憤恚燃ゆ。彼等は汝らの中なる或者を伴ひ去り、又偶像に、ささげられしものをもて汝らを養はん。 16:69彼等に與する者は嘲と罵とを受け、彼等の足の下に踏みにじられん。 16:70諸の所に、又次より次の町々に、主を畏るる者に對する大なる迫害起らん。 16:71彼ら狂へる者の如くに、今猶主を畏るるものを侵し、これを亡してその一人をだに容さざるべし。 16:72彼ら主を畏るる者の財産を分捕物となし、彼等をその家より追出さん。 16:73その時、わが選びたる者は、金の火に試みらるるが如くに試みらるべし。 16:74主いひ給ふ。わが選民よ、聽け。視よ、患難の日近づけり、われ汝等を救はん。 16:75懼るな、躊躇ふな、神は汝らの導師なり。 16:76主なる神いひ給ふ。わが誡命とわが法令とを守る者よ、汝等罪の下敷となるな。汝等の不義に頭を擡げしむな。 16:77災害なるかな、確く罪に縛がれ、不義に蔽はれたるものども。彼等は藪をもて塞がれし野の如く、茨にて蔽れし道の如し。人これを過ぎ行くこと能はず。 16:78それは鎖されて、火に燒き盡さるるなり。