ユデト書

第1章

1:1大なる都ニネベにありて、アツスリヤ人を治めしネブカデネザル治世の第十二年、エクバタナにありてメデアを治めしアルパクサドは、 1:2エクバタナとその周圍に、幅三キユビト長さ六キユビトの切石を用ひて石垣を築き、その高さを七十キユビト厚さを五十キユビトとなせり。 1:3城の門に樓を据ゑしが、その樓の高さは百キユビト、その土臺の廣さは六十キユビトなりき。 1:4門の高さは七十キユビト、幅四十キユビトにして、王の大軍はこの門より出陣し、歩兵はこの門を守りたり。 1:5其頃ネブカデネザル王は、ラガウの境なる大平野に於て、アルパクサド王と戰ひしが、 1:6山地に住むすべての民、ユフラテ河、テグリス河、フダスペス河沿岸のすべての民、エリミア人の王アリオクの領する平野の民等彼を迎へ、ケロドの子らの多くの民等、戰のために集り來れり。 1:7ここに於てアツスリアの王、ネブカデネザルは使を遣して、全ペルシヤの民、西方の民、キリキア、ダマスコ、レバノン、レバノンの彼方の地、海に沿へる地のすべての民、 1:8カルメル、ギレアデ、上ガリラヤ、エスドレロンの大平野、 1:9サマリアと其町々、ヨルダン河よりエルサレムに至る地方、ベタネ、ケロス、カデシ、エジプトの大河、タバネス、ラメセス、ゴセンの全地、 1:10タニス、メンピス、エテオピアの境に至るまでのエジプトのすべての民を召集せり。 1:11然るにすべての民はアツスリアの王ネブカデネザルの命を輕んじて、戰に參加せざりき。彼等は王を恐れず、王を侮り、使者を辱めて、彼等の許より空しく歸らしめたり。 1:12是に於てネブカデネザル王甚しく諸國民を怒り、その王位と王國とによりて誓ひ、キリキア、ダマスコ、シリアのすべての境の民を罰し、劍をもてモアブのすべての民アムモンの子ら、ユダヤ、エジプトを始め、二つの海の境の内なる民を鏖にすべしと定めたり。 1:13王はその治世の第十七年に、アルパクサド王に對して軍を進め、これを打ち破り、アルパクサドの軍隊、騎兵及び戰車を粉碎し、 1:14その町々を占領し、エクバタナに進入して、城樓を奪ひ、民家を掠奪し、繁華なる都を蹂躪り、 1:15アルパクサドをラガウの山中にて捕へ、投鎗をもて刺し貫き、全くこれを滅して今日に至れり。 1:16かくて王及び之に從ふ諸國の軍隊はニネベに凱旋し、百二十日の間休養し、且祝宴を催したり。

第2章

2:1第十八年五月二十二日に、アツスリアの王ネブカデネザルはその誓に從ひ、すべての地を罰すべしと宣言し、 2:2すべての臣下、すべての高官を呼び集めて、祕密の計畫を示し、その名指したるすべての地を罰すべしと命じたり。 2:3而して彼等、王の命に從はざりしすべての者を滅すべしとの敕令を發しぬ。 2:4會議終りし時、アツスリア王ネブカデネザルは、その軍隊の總司令官にして王に次ぐ位に在るオロペルネスを召し、命じていへり 2:5『全地の主なる大王かく宣ふ。視よ、汝わが前より出で立ち、力に自信ある者、歩兵十二萬人、騎兵一萬二千人を率ゐ、 2:6王の命に服從せざりし西方の國を討て。 2:7なんぢ彼らに命じて地と水とを獻ぜしめよ。我はわが怒を彼らに漏し、わが軍をして全地を蹂躪らしめ、これを分捕物として兵士に與へん。 2:8かくてその屍は谷々河々に滿ち、大河は屍のために溢るるに至らん。 2:9又彼らを虜として地の極にまで移さん。 2:10されば汝、先づ行きてわがためにそのすべての沿岸を征服せよ。彼ら汝に降らば、わがために、處刑の日までこれを守れ。 2:11若し敵對ふものあらば憐むことなく、之を屠り、到る處に之を掠奪すべし。 2:12我はわが生命にかけて又わが王國の力に由りて、必ず我言を果さん。 2:13故に汝愼みて、汝の主の命に違ふことなく、わが汝に命ぜし如くこれを成し遂ぐべし。汝決してこれに背くべからず。』 2:14ここにオロペルネスその主の前より出で行きて、アツスリア軍のすべての長官、隊長、將校を集む。 2:15その主の命に從ひて、戰のために選びし兵は十二萬人及び騎馬の弓兵一萬二千人と數へられたり。 2:16彼これを戰時編制となし、 2:17駱駝と騾馬をもて多くの行李を運び、又糧食として無數の羊、牛、山羊を備へ、 2:18王の庫より多くの糧食と金とを携へたり。 2:19かくて彼とその全軍、ネブカデネザル王の先驅となり、その戰車、騎兵、選び出したる歩兵をもて、西方の地の面を蔽ひ盡さんとて出で行けり。 2:20かくて彼と共に行きし諸國の民は蝗の如く、地の砂の如く、その數多きによりて數へ盡すこと能はざりき。 2:21彼らはニネベを出で、三日路してベクテレテの平野に到り、上キリキアの左手の山に近く陣營を張れり。 2:22かくて彼すべての軍、歩兵、騎兵、戰車を率ゐて、そこより山地に進み、 2:23プド及びルドを亡し、ラシスのすべての幼兒、及びケリア人の地の南の荒野に在りしイシマエル人の子らを虜にせり。 2:24彼又ユフラテ河を渉りてメソポタミアに入り、アアボナイ河に沿へるすべての町々を亡して海にまで到れり。 2:25而して彼キリキアの境を取りて、敵對ふものを殺し、アラビアの南に向へるヤペテの境にまで到れり。 2:26又彼ミデアンの子らを圍みて、その天幕を燒き、羊の欄を掠めたり。 2:27かくて彼麥刈の時に、ダマスコの平野に下りて、すべての畑を燒き、その牛羊の群を亡し、町々を掠奪し、その平野を荒し、そのすべての若者らを劍の刄にかけて殺せり。 2:28されば彼に對する恐怖と戰慄、海邊に住むすべての人々に、シドンとツロの人々に、スルとオキナに住む人々に、又エムナアンに住むすべての人々に臨めり。又アゾトとアシケロンに住むすべての人々もいたく彼を恐れたり。

第3章

3:1彼ら使者を遣し、和を講じていひけるは 3:2『視よ、大王ネブカデネザルの僕なる我ら、御前に平伏す。願くは汝の目に善しと見ゆるままになし給へ。 3:3視よ、すべての家屋、すべての土地、すべての麥畑、すべての羊、すべての牛、すべての羊の欄、御前にあれば、御意のままに用ひ給へ。 3:4視よ、我らの町々とその住民は汝の僕なれば御意のままに爲し給へ』と。 3:5使者らオロペルネスの許に來りて、かく宣べたり。 3:6其時、彼とその軍隊は海岸に下り、大なる町々に哨兵を置き、條約のために彼等の中より人々を選びたり。 3:7その周圍にあるすべての國民は、花環と舞踏と鼓とをもて彼等を迎へたり。 3:8然るに彼は、彼らの國境を毀ち、森を切り倒したり。こは諸國の神々を亡し、諸國民をして、唯ネブカデネザル王のみを拜せしめ、すべての舌、すべての族をして彼のみを神と呼ばしめよとの命ありしに由るなり。 3:9彼はユダヤの大山脈に對するドテアに近きエスドレロンに下り、 3:10ゲバとスクトポリスとの間に陣し、一箇月の間滯在して軍隊の行李を集めたり。

第4章

4:1さてユダヤに住みしイスラエルの子らは、アツスリア王ネブカデネザルの總司令官オロペルネスの諸國民になせしこと、そのすべての神殿を掠奪して、全く荒れ廢れしめしことを聞けり。 4:2されば彼ら大に恐れ、エルサレムなる神の宮につきて憂へたり。 4:3これ彼らは、新に俘囚より歸り、ユダヤの民は近頃漸く集り、聖器と聖壇と聖堂とは、褻瀆より潔められたればなり。 4:4故に彼らはサマリアのすべての海岸、コネ、ベテホロン、ベルマイム、エリコ、コバ、エソラ、及びサレムの谷に使を送り、 4:5先づすべての山々の頂上を占領し、壘をその村々に築き、戰のために糧食を貯へたり。此は彼等の畑刈られて間もなければなり。 4:6又その頃エルサレムにありし大祭司ヨアキムは、ドタイムに近き平地のエスドレロンに對するベツリア及びベトメスタイムの人々に書を送り、 4:7彼等に山地の通路を守ることを命じたり。そは此等の通路はユダヤに入る途に當り、その途は狹く、多くとも二人竝び歩むこと能はざる程なれば、敵の近づくを容易に止め得ればなり。 4:8イスラエルの子らは、エルサレムに住む民の長老らと共に、大祭司ヨアキムの命に從ひたり。 4:9時にイスラエルのすべての民大なる熱心をもて神に祈り、又大なる熱心をもてその心を謙くせり。 4:10彼等も、その妻も、その子らも、その家畜も、すべての寄寓者も、傭人も、金をもて買はれし僕婢も皆その腰に麻布を纒ひぬ。 4:11すべての男、女、幼き者に至るまでエルサレムの住民は皆、宮の前に跪伏し、頭に灰を蒙り、主の御前に麻布を擴げ、祭壇の周圍に麻布を置き、 4:12聲を含せて熱心にイスラエルの神に呼はり、彼等の妻子を捕虜に、彼らの財産を滅亡に、聖所を褻瀆と嘲笑とに委せて、諸國民の喜とならしめ給ふ勿れと願へり。 4:13神は彼らの祈を聞き、彼らの惱を見そなはし給へり。そはユダヤ全國、及びエルサレムのすべての民は全能の主の御前に、多くの日の間斷食したればなり。 4:14大祭司ヨアキムと主の御前に立つすべての祭司、又主に事ふるすべての人々は、麻布を腰に纒ひて、日々の燔祭を獻げ、又民の誓願と任意の供物を獻げたり。 4:15而して彼その冠に灰を蒙り、力の限り主に呼はりて、主いつまでもイスラエルの全家を顧み給はんことを願へり。

第5章

5:1イスラエルの子ら戰爭の準備をなし、山地の通路を塞ぎ、山々の頂を固め、平野に防備を施せしこと、アツスリア軍の總司令官オロペルネスに知られたれば、 5:2彼大に之を怒り、モアブのすべての侯伯、アンモンのすべての大將、海岸のすべての總督を召し集めて、 5:3彼等にいふ『カナンの子らよ、山地に住む此民は何ものぞ。その住む町々の狀とその軍隊の數、その兵士の長所、その民に君臨する王とその軍隊の大將につきて我に語れ。 5:4又西方の民に優りて出で降らざる理由を我に告げよ』と。 5:5アンモンの子らの長アキオルこれに答へていふ
『我主よ、願くは汝の僕の口より出づる一言を聞き給へ。我は汝に近く山地に住む此民の實情を奏聞せん。願くは僞なき僕の言を聞き給へ。 5:6この民はカルデア人より出で、 5:7メソポタミアに寓れり。そは彼等はカルデアの地に在りし彼らの先祖たちの神々に從ふことを好まざりし故なり。 5:8彼等はその先祖たちの道を棄てて、天の神、卽ち彼らの知りし神を拜せしをもて、神々の目の前より逐ひ出されたれば、メソポタミアに逃れ、多くの日の間彼處に留りたり。 5:9時に彼らの神、彼らに、その寓りし所を離れて、カナンの地に行くことを命じたれば、彼らはその地に住み、金銀家畜に富みたり。 5:10然るに饑饉カナンの地に廣まりたれば、彼らエジプトに下り、其處に寓り、殖え增して大なる群衆となり、數へ盡すこと能はざる程となれり。 5:11是に於てエジプト王、彼らに逆ひて起ち、巧に彼らを治め、煉瓦を造る卑しきものとなし、奴隸となしたり。 5:12彼らその神に呼はりければ、神は不治の疫病をもてエジプトの全地を擊ち、エジプト人は遂に彼等を逐ひ出せり。 5:13かくて神は彼等の前に紅海を涸らし、 5:14彼らをシナイ山とカデシ・バルネアに導き、荒野のすべての民を逐ひ出せり。 5:15かく彼等はアモリ人の地に住み、ヘシボンを攻め亡し、ヨルダンを渉りて、すべての山地を占領したり。 5:16彼らはカナン人、ペリジ人、エブス人、シケム人、ギルガシ人らを亡して、多年その地に住めり。 5:17而して彼ら、その神の御前に罪を犯さざりし間は榮えたり。そは罪を憎み給ふ神、彼らと偕にありたればなり。 5:18然るに彼ら、神の示し給へる道を離れしかば、數多の烈しき戰によりて亡され、捕虜として他國に牽き行かれ、神の宮は地に引き倒され、その町々は敵に奪はれたり。 5:19されど彼らは今、その神に立ち歸り、その散らされたる地より歸り來り、聖所のあるエルサレムを占領せしが、その處は荒れ廢れたれば、山地に住めり。 5:20故に我主なる總督閣下よ、若し此民にして過誤をなし、その神に對して罪を犯さば、われら彼等の躓の原因を考へ上り行きて之に打ち勝たん。 5:21されどもし之に反し、この民に罪なくば、我主よ、願くは過ぎ行き給へ。恐らくは彼らの主なる神彼らを護り、彼らに味方し、我らは全地の前に耻をさらさん。』 5:22アキオル此らの事を言ひ終りし時、天幕の周圍に立ちしすべての民の間に眩き起り、オロペルネスの隊長らと海岸の民、及びモアブの民等彼を殺すべしと言へり。 5:23彼らいふ『我らはイスラエルの子らの顏を恐れず。見よ、此民は烈しき戰をなす力なし。 5:24さればオロペルネス閣下よ。我ら今上り行かん。彼らは汝の全軍のために飮まるベき餌食なり。』

第6章

6:1會議に列せる人々の騷ぎ止みし時、アツスリア軍の總司令官オロペルネス、もろもろの他國民の前にて、アキオルとモアブ人とに言ひぬ。 6:2『アキオル及びエフライムの傭人らよ、汝誰なれば今日我らの間に預言して、彼らの神彼らを護れば我等イスラエル人の民と戰ふべからずといふや。抑もネブカデネザルの外に神とは誰ぞや。 6:3王はその軍隊を送りて、地の面より彼らを亡さん。彼らの神は彼らを救はじ。我ら、王の僕は、一人の如くに彼らを亡さん。彼らは我らの馬の力を支へ得ざるべし。 6:4我ら彼らを燒き拂はん。山々は彼らの血に醉ひ、田畑は屍骸にて滿ち、彼らの歩は我らの前に立たず、全く亡さるべしと、全地の主なるネブカデネザル王いひ給ふ。げに彼いひ給ふ『わが言は空しくならざるべし』と。 6:5汝の罪の日に、此らの言を語りたるアンモンの傭人なる汝アキオルよ、エジプトより出で來りし此民にわが仇を報ゆるまでは、汝此後再びわが顏を見ざるべし。 6:6その時、わが軍隊の劍と、我に仕ふる者の群汝の側を過ぎ、わが歸らん時、汝は殺されし者どもの間に倒れ居らん。 6:7今わが僕汝を山地に引き歸り、坂の上の町々の一つに汝を置かん。 6:8汝は、彼らと共に亡さるるまでは死なざるべし。 6:9汝は汝の心の中に、彼らの捕はれざらんことを望むとも、汝の顏を伏すな。我既にこれをいへり。わが言は一つだに地に落ちざるべし。』 6:10ここにオロペルネス、彼の天幕に仕ふる僕らに命じてアキオルを捕へしめ、ベツリアに引き到りて、イスラエルの子らに渡さしむ。 6:11僕らは彼を引きて陣營より平野に伴ひ出し、平野の國の中より山地の國に移し、ベツリアの下なる泉に來れり。 6:12町の人々丘の上に彼等を見たる時、武器をとりて町を出で、彼等に向はんとて丘の頂に登り、石投を用ひ得る人々は、皆彼らの登るを防ぎ、彼等に向ひて石を投げたり。 6:13されど彼らは、ひそかに山の麓に忍び寄り、アキオルを縛りて投げ出し、丘の麓に置きてその主の許に歸り行けり。 6:14イスラエル人はその町より下りて、彼の許に來り、その縛を解きてベツリアに伴れ來り、町の有司たちに彼を渡せり。 6:15その頃の有司たちはシメオンの族、ミカの子オジア、ゴトニエルの子カブリ、メルキエルの子カルミなりき。 6:16彼等、町のすべての長老等を召び集めたるに、すべての青年たちも、婦たちも共にその會議に列し、人々の中にアキオルを立たしめ、オジアはその起りし事を尋ねしかば、 6:17彼答へて、オロペルネスの會議の決議と彼がアツスリアの君侯たちの中にて語りし言『及びオロペルネスがイスラエルの家に對して語りし大言を告げたり。 6:18是に於て、人々は平伏して神を拜し、神に呼はりて言ひぬ 6:19『ああ天の主なる神よ、願はくは彼らの高慢を見そなはし給へ。わが民の卑しきを憐み給へ。此の日汝に聖め別たるるものを顧み給へ。』 6:20かくて彼らはアキオルを慰め、大に彼を讚め、 6:21オジアは之を彼の家に招待し、長老らのために饗筵を催し、終夜イスラエルの神に助を祈れり。

第7章

7:1翌くる日オロペルネス、その全軍と、彼の聯盟に加はりしすべての民を指揮し、ベツリアに向ひて陣營を進め、先づ山地の高き所を占領して、イスラエルの子らに戰を挑むことを命じたり。 7:2その勇士ら其日の中に其陣營を移したりしが、その兵士の數は、歩兵十七萬人、騎兵一萬二千人、その外に軍需品と、徒歩のものの數甚だ夥しかりき。 7:3彼らはベツリアに近き谷の泉の傍に營を張りしが、ドタイムよりベルマイムの間に廣がり、ベツリアよりエスドレロンに對するキアモンまで連りたり。 7:4さてイスラエルの子ら、彼らの群を見し時、いたく憂へて、自各その隣人に言ひけるは、『此らの人々、地の面をなめ盡さば、高き山も谷も岡も彼らの重さに耐えざるべし』と。 7:5斯くて各自武器を執り、篝火を樓の上に焚きて、終夜之を守りたり。 7:6されど二日目に、オロペルネスは、そのすべての騎兵をベツリアにあるイスラエルの子らの前に列べ、 7:7町への登路を偵察し、泉の源に來りて之を奪ひ、番兵を置き、己も亦人々と共に進みたり。 7:8時にエサウの子らのすべての長等、モアブの民のすべての有司等、及び海に沿へる地の隊長ら來りて言へり 7:9『願くは我らの主聽き給はんことを。汝の軍隊に一人の損害もなかるべし。 7:10このイスラエルの子らは、その鎗に依り頼まずして、その住む山の高きに頼れり。この山の頂に登るは容易からざればなり。 7:11さればわが主よ、陣を布きて彼等と戰ひ給ふな。さすれば汝の民の一人も亡びざるべし。 7:12その陣に留り、汝の軍隊のすべての人を止め、唯汝の僕らをして山の麓より湧き出づる泉を、その手に收めて守らしめ給へ。 7:13ベツリアのすべての住民は、この泉より彼らの水を得れば、やがて渴きは彼らを殺し、彼らはその町を棄てん。我らと我らの民らは近き山の頂に登り、その上に陣を張りて之を見守り、一人も町より出づるものなからしめん。 7:14さらば彼ら及び彼らの妻子は、飢餓のために亡び、劍彼等に臨む前に、彼等はその住む市街の中に仆れ臥さん。 7:15かくて汝は、彼らの叛きて穩に汝を迎へざりし罪に惡をもて報ゆることを得ん。』 7:16此らの言オロペルネスの眼とそのすべての僕らの眼によしと見えければ、かれ彼等の言の如くなすべきことを命じたり。 7:17さればアンモンの子らの軍勢、五千のアツスリアの子らと共に、去りて谷間に陣を張り、イスラエルの子らの水とその源なる泉とを占領せり。 7:18次いでエサウの子らはアンモンの子らと共にドタイムに對する山地に陣を張り、兵を分ちて南と東とに人を送り、モクムルの溪流に沿ひたるクシに近きエクレベルの彼方に到らしめ、その他のアツスリア軍は平地に營を列ねて全地の面を蔽ひ、その天幕と行李とは寄り集りて大なる群をなし、甚しく夥しき數となれり。 7:19此處にイスラエルの子ら主なる彼らの神に呼はれり。こはすべての敵彼らを圍み、逃るべき道の無きを見て彼らの心臆したればなり。 7:20かくてアツスリアの全軍、その歩兵、戰車、及び騎兵、三十四日の間彼らを圍みたれば、ベツリアの民のすべての水瓶乏しくなれり。 7:21その水漕空しくなりて、彼らは一日分の水だに持たざりければ、分量を定めてこれを飮ましめたり。 7:22ここをもて幼き者は喪心し、婦と若者たちは渴のために喘ぎて、町の衢や門の通路に倒れ、彼らの中には最早何の力もあらざりき。 7:23その時すべての民オジアと町の長との所に來り集り、若者も婦も子供も、大聲もて叫び、すべての長老らに言ひぬ。 7:24『願くは神、我らと汝らとの間を審き給はんことを。そは汝らはアツスリアの子らと平和の言を交さざりければ、大なる災害われらに來れり。 7:25今われらには何らの助なし。神は彼らの手に我らを賣り、渴と滅亡とをもて、彼らの前に我らを抛ち給へり。 7:26されば今、彼らを呼びて、全市を、戰利品としてオロペルネスの民とその全軍とに渡せ。 7:27捕虜となさるる方却つて我らに益なり。われらは彼らの僕婢となりて、己が生命を存へしめん。かくて我ら、我らの嬰兒の死ぬるをまのあたりに見ず、われらの妻と子らの弱りつつ死ぬるを見ざるべし。 7:28我ら、汝らに向ひて、天と地と我らの先祖の主なる神とを證とせん。彼は我らの罪と我らの先祖たちの罪に從ひて、我らを罰し給へど、今日我らの言ひしが如くには爲し給はざるべし。』 7:29かくて集れるもの、一つとなりて泣き悲み、大聲に主なる神に呼ばはれり。 7:30時にオジア彼らに告げて曰く『兄弟たちよ、勇め、我ら猶五日の間耐え忍ばん。其間に主なる我らの神は、我らに憐を垂れ給はん。彼は全く我らを棄て給はざるべし。 7:31若し此らの日過ぎて、なほ御助我らに來らずば、我は汝らの言に從ふべし。』 7:32かくて彼は人々を散らし、各自己が天幕に歸らしめぬ。彼等は己が町の石垣若くは戌樓に赴けり。又婦等と子供らを家に歸したり。かくて彼ら町の中にありて、心甚しく沈みたり。

第8章

8:1其時イスラエルの子、サラサダイの子、サラミエルの子、ナタナエルの子、エリアブの子、エリフの子、アヒトブの子、ラパイムの子、ギデオンの子、アナニアの子、エルキアの子、オジエルの子、ヨセフの子、オクスの子、メラリの娘なるユデトこれを聞けり。 8:2その夫マナセは、同族のものにて、且血緣なりしが、大麥の刈穫の時に死たり。 8:3彼は畑に立ちて麥束を束ぬるものを監督し居りしが、暑熱のため頭を冐されて床に就き、ベツリアの町にて死にたりしかば、これをドタイムとバラモンとの間なる野に、その先祖たちと偕に葬れり。 8:4ユデトは寡婦にて、三年四ケ月家に在りしが、 8:5その家の屋根の上に天幕を張り、腰に麻布を纒ひ、寡婦の衣を着けたり。 8:6かれ寡婦となりてより、安息日の前日、安息日、新月祭の前日、新月祭、及びイスラエルの家の祭日と祝日の外は、日々斷食をなしたり。 8:7しかも彼はその容貌美はしく、見るに心地よかりき。夫マナセ金銀、僕婢、家畜、及び土地を彼に遺したれば、彼、それらのものをもて暮しぬ。 8:8彼甚しく神を畏れたれば、彼を譏るもの一人もなかりき。 8:9彼、人々の水に乏しきに落膽して、有司に向ひ、呟きし言を聞けり。ユデトは又オジアが人々に語りしすべての言、彼らに誓ひて、五日の後アツスリア人に町を渡さんといひし言を聞けり。 8:10ここに於て彼は、そのすべての財産を管理する侍女を遣はして、オジアと町の長老カブリとカルミを招けり。 8:11彼ら彼の許に來りければ、彼らに語りて言ひぬ
『ああ汝らベツリアの民の有司たちよ、願くは我に聽け。そはなんぢらの此日民らに語りし言は正しからず。汝らは神と汝らとの間に誓を立て、此らの日の中に主汝らを助け給はずば、この町を我らの敵に渡さんと約せり。 8:12汝ら誰なれば、この日神を試み、神を差置きて、人の子の間に立たんとするや。 8:13もし全能の主を試みなば、汝ら決して何事をも知る能はざるべし。 8:14汝らは人の心の深さを知る能はず、又人の思ふ事をすら知る能はざるに、いかですべての物を造り給ひし神を搜り、その御心を知り、御思を悟るを得ん。否わが兄弟たちよ、主なる我らの神を怒らしむな。 8:15かれ五日の内に我らを助くるを欲し給はずとも、その御心のままに日毎に我らを護り、若くは我らの敵の前にて我らを亡ぼす力を持ち給ふ。 8:16汝ら主なる我らの神の計畫を審くな。神は人にあらねば嚇かされ給はず、又人の子にあらねば躊ひ給ふことなし。 8:17されば我ら神よりの御救を待ち望み、我らを助け給はんがため主に呼はるべし。御心に適はば主我らの聲を聞き給はん。 8:18そはこの我らの代に於て、今日我らの族、家、民、及び町の中に、誰も昔の如く、手にて造れる神々を拜むものなし。 8:19我らの先祖たちは、このために、劍にわたされ、掠められ、我らの敵の前に甚しく敗れたりしなり。 8:20されど我らは彼の外に他の神を知らざれば、我らは、かれの我らをも、われらの族の何人をも輕しめ給はざらんことを望む。 8:21そはもし、神我らを輕しめ給はば、ユダヤ全國は荒れ廢れ、我らの聖所は掠められ、かれ我らの口より冐瀆を求め給はん。 8:22我ら奴隸となり居る處にて、異邦人の間に、かれ、我らの兄弟たちの殺戮と、地の俘囚と、われらの嗣業の荒廢とを我らの上に臨ましめん。かくて我らは、我らを捕虜とせる者どもの前に、躓となり、嘲笑とならん。 8:23我らの服役は恩惠を來さず、我らの主なる神は却つて之を屈辱に變へ給はん。 8:24されば兄弟たちよ、我ら模範を我らの兄弟たちに示さん。そは彼らの魂我らにかかり、聖所も、家も、祭壇も我らの上に置かれたればなり。 8:25我ら今、われらの先祖たちに爲し給ひし如く、我らを試み給ふ主なる我らの神に感謝せん。 8:26神のアブラハムに爲し給ひしこと、イサクを試み給ひしこと、スリアのメソポタミアにて母の兄弟ラバンの羊を飼ひ居りし時、ヤコブに起りしすべてのことを想ひ起すべし。 8:27神は彼らの心を試むるために、彼等になせし如く、火をもて我らを試み給はず、又我らに怨を復し給はざりき。されど唯、彼に近づくものを鞭ちて彼らを誡め給ふなり。』 8:28其時オジア答ていふ『汝の言ふ所のすべての事は善き心をもて言はるれば、汝の言に逆ひ得るものなし。 8:29これ汝の智慧の示されたる初の日にあらず、汝の生涯の初より、人は汝の智慧を知れり。これ汝の心根の善きに由りてなり。 8:30されど人々はいたく渇き、我らを強ひてかく語らしめ、我らを誓はしめたれば、我らはその誓を破ること能はず。 8:31されば今、我らのために祈れ。汝は敬虔なる婦なれば、主は我らに雨を送りて我らの水瓶を滿たし、我らは再び落膽せざるに至らん。』 8:32その時ユデトいひけるは『願くは我に聽け。我は我民の子らが、後の世まで傳ふべき一の事を爲さん。 8:33汝ら今宵、門に立て。我わが侍女と偕に出で行かん。汝らがこの町を敵の手にわたすべしと約せし日限の中に、主は我手によりてイスラエルを顧み給はん。 8:34されどわがなす業を問ふな。これを爲し遂ぐるまではわれこれを告げじ。』 8:35其時オジアと長たち、彼にいへり『願くは安らかに行け。主なる神汝に先ち行きて、我らの敵に怨を復ひ給はん。』 8:36かくて彼ら天幕より歸り、各自己が所に行けり。

第9章

9:1ユデト卽ち跪伏し、頭に灰を蒙り、着たる麻布を脱ぎぬ。それは夕の香を、エルサレムなる主の家に獻げ居る時なりければ、大聲に呼はりて言へり 9:2『ああ我父シメオンの主なる神よ、處女を汚さんとてその帶を解き、腿を露はして辱しめ、胎を汚して耻を與へし異國人に主は怨を報い給へり。そは然すべからずと汝の告げ給ひしことを彼ら犯したればなり。 9:3されば汝、その有司たちを死にわたし、その欺によりて汚せし床を血に染め、その君侯たちを僕らと共に擊ち、その君侯たちを座の上に殺し給へり。 9:4又その妻らを掠められしめ、その娘らを虜となし、そのすべての分捕物を汝の愛し給ふ子らに頒ち給へり。彼等は汝の熱心をもて動かされ、彼らの血の汚を憎み、汝に呼はりて御助を乞へり。ああ神よ、我神よ、願くは、寡婦なるわが願をも聽き給へ。 9:5汝は唯此等の事を爲し給ひしのみならず、前にありしことと、それに續きて起りし事とを爲し給へり。又汝は今あるものと後あらんものとを企て給ふに、汝の企て給ふものは皆出で來るなり。 9:6然り、汝の定め給ひし事どもは御前に立ちていふ『視よ、われ此處に在り』と。そは汝のすベての道は備へられ、汝の裁斷は豫め知らるればなり。 9:7視よ、アツスリア人はその力を增し、その馬と騎兵との故に心傲り、その歩兵の力を誇り、楯、鎗、弓、石投に依り頼む。彼等は、汝は戰を破り給ふ主にて在すことを知らざるなり。『主』は汝の御名なり。 9:8汝の御力にて彼らの力を打ち碎き、汝の御怒をもて彼らの兵力を弱め給へ、そは彼らは主の聖所を瀆し、主の榮光の御名を置き給ふ幕屋を犯し、劍をもて主の祭壇の角を斬り倒さんとすればなり。 9:9彼等の傲慢を見そなはし、汝の御怒を彼等の上に遣り給へ。寡婦なるわが手に、わが思ふ力を與へ給へ。 9:10わが唇の巧によりてその僕をばその君と共に、その君をば僕と共に擊ち給へ。婦の手もて彼らの威嚴を碎き給へ。 9:11そは汝の御力は多人數の中になく、又強き人の中になし。汝は惱む者の神、虐げらるる者の助主、弱きものの支主、漂泊人の護主、望なき者の救主にて在し給ふ。 9:12さなり、さなり、ああわが父の神、イスラエルの嗣業の神、天地の主、すべての水の創造主、あらゆる造られしものの王よ。わが祈を聽き給へ。 9:13願くはわが言と欺とを、彼らの傷となし、穽となし給へ。彼らは汝の契約、汝の聖め給ひし家、シオンの頂、汝の子らのものなる家に逆ひて殘虐を企つるなり。 9:14願くは、すべての國民と汝の族をして、汝の神に在すこと、卽ち全能の神に在して、汝の外にイスラエルの民を護り給ふものなきことを知らしめ給へ。』

第10章

10:1さて彼はイスラエルの神に呼はることを止め、此らの言を終りし時、 10:2そのひれ伏したる所に起ち上り、
その婢を呼びて、安息日及び祭日を過せる家に歸り、 10:3その纒ひたりし麻布を解き、寡婦服を脱ぎ、水をもてその身を洗ひ、いと貴き香油を塗り、髮を編み、髮飾を着け、夫マナセの生き居りし時纒ひし喜びの衣を着けたり。 10:4かつその足に靴をはき、腕輪、鎖、指環、耳輪なぞ、あらゆる飾を身につけ、彼を見るすべての人々の目を惑はさんと、思ふままに化粧せり。 10:5而してその婢に葡萄酒の革壼と油の瓶を與へ、炒麥と無花果の塊、いと良きパンをもて囊を滿し、そのすべての容器を共に包みて、彼に負はせたり。 10:6かくて彼等ベツリアの町の門に至りしに、オジアと町の長老なるカブリとカルミそこに立てるを見出せり。 10:7然るに彼ら、彼の容貌變り、衣服更りて、その甚だ美しきを見て、驚き言ひぬ 10:8『我らの先祖たちの神、願くは汝に恩惠を垂れ給はんことを。願くは汝の企圖を成し遂げしめ給ひて、イスラエルの子らの榮となし、エルサレムの譽と爲し給はんことを』と。かくて彼ら神を拜せり。 10:9かれ彼らにいひけるは『願くは町の門をわがために開きて、出で行かしめ、汝の我に告げし事を成し遂げしめよ』と。かくて彼ら若者に、かの女の言ひし如く門を開けと命じければ、 10:10彼らこれを開きたり。
ユデトはその婢と共に出で行きしが、町の人々は彼を見送り、その山を降り、谷を過ぎて姿の見えずなるまでに至れり。 10:11彼ら眞直に谷を越えて進みしかば、アツスリア人の哨兵彼に會へり。 10:12彼ら彼を捕へて、『何の民ぞ、何處より來りしぞ、何處へ行くぞ』と問ひしかば、彼答へて、『我はヘブルの婦女にて、彼らより逃れたり。そは彼らは汝らに與へられて亡ぼさるべければなり。 10:13我は汝の軍の總司令官オロペルネスの前に眞の事を告げ、彼の進みて一人の兵をも害ふことなく、すべての山地を平ぐべき道を彼に示さんとて來れり。』 10:14人々彼の言を聞き、又容貌を見て、その美さに驚き、之にいへり 10:15『汝は、我らの主の御前に急ぎ來りて汝の生命を救へり。今彼の天幕に來れ。我ら汝を導きて、汝を彼の手にわたさん。 10:16汝彼の前に立つ時、汝の心に恐るることなく、憚らず汝の言を述べよ。さらばかれ、汝を正しくあしらふべし。』 10:17彼ら百人の兵を選びて、彼とその婢とを守り、オロペルネスの天幕に送れり。 10:18その時、人々全陣營より集り來れり。彼の來りしこと營の中に聞えたればなり。彼らオロペルネスに己のことを告ぐるまで、彼はその天幕の外に立ち居りしに、人々出で來りて、彼の周圍に集れり。 10:19彼ら皆その美さに驚き、彼の故にイスラエルの子らに驚き、各自その隣に語りていふ『誰か、かかる婦を持てるこの民を侮るを得ん。彼らの一人だも殘すべからず。恐らくは全地を欺かん。』 10:20オロペルネスの近臣とそのすべての僕ら出で行きて、彼を天幕に伴ひ入れたり。 10:21その時オロペルネスは天葢にて蔽はれたる
彼の床にありしが其床は紫と金と碧玉と貴き寶石とにて造られたり。 10:22彼ら彼の女の事を彼に告げたれば、かれ銀の燭臺を先き立てて天幕の前の空地に出で來れり。 10:23ユデト、彼とその僕らの前に來りし時、彼等皆その容貌の美きに驚けり。ユデト跪伏して彼を拜せしが、彼の僕らはこれを起たしめたり。

第11章

11:1その時オロペルネス、ユデトに言ひけるは『婦よ、心安かれ、恐るな。我は全地の王なるネブカデネザルに仕へんと欲せる者を害せず。 11:2もし、山地に住む汝の民我を侮らざりしならば、われ彼らに對して鋒を擧げざりしならん。されど彼らは自ら此らの事をなせり。 11:3されば今、何故汝は彼らより逃れて我らに來りしかを語れ。汝は己を救はんがため來れり。安んぜよ、汝は今宵よりいつまでも生くるを得ん、 11:4誰も汝を害はじ。わが主ネブカデネザル王の僕らに爲す如く、われ汝に良きもてなしをなさん。』 11:5その時ユデト彼に答へていふ
『請ふ汝の僕の言を受け、汝の婢に御前にて語らしめ給へ。我は此夜わが主に虛僞を語らじ。 11:6汝若し汝の婢の言に從ひ給はば、神は汝の企て給ふ事を成し遂げしめ給はん。かくてわが主決してその企を仕損じ給ふまじ。 11:7全地の王ネブカデネザルの活き給ふ如く、またその力の活くる如く、彼はすべての活けるものを支へんために汝を遣はし給ひたれば、啻に汝によりて彼に仕ふる人々のみならず、野の獸、家畜、空の鳥も亦ネブカデネザルとその全家の力によりて生きん。 11:8そは我ら、汝の智慧と汝の魂の賢き謀略とを聞けり。全王國中にて汝のみ勇氣あり、知識に秀で、又戰の業に優れたること全地に言ひ傳へらる。 11:9さてアキオルの汝の會議に於て述べしことにつきて、我らその言を聞けり。そはベツリアの人彼を救ひ、彼はその汝に語りしすべてのことを彼らに告げたればなり。 11:10されば主よ、能はざる所なき主よ、彼の言をなほざりにせず、これを汝の心に保ち給へ。その言は眞なり。そはわが民は神に對して罪を犯すにあらずば罰せらるることなく、又劍彼らを仆すことなし。 11:11されど今、わが主敗れ給ふことなく、又その企圖空うせらるることなくして、死彼らの上に降らんがため、彼らの罪は彼らに打ち勝ちぬ。彼らこれによりて惡を行ふ時は、いつにても神の御怒を招くべし。 11:12彼等の食糧は盡き、その水乏しくなりたれば、彼ら議りて家畜を殺さんとし、神その律法をもて食ふべからずと禁じ給ひしすべてのものを食はんとせり、 11:13又エルサレムにて神の御前に仕ふる祭司たちのために聖め別ちて貯へ置ける糓物の初穗、葡萄酒と油の十分の一を食せんと決心したり。これらのものは、民らの手を觸るべからざるものなりしなり。 11:14彼ら使をエルサレムに遣はして、議會より許可を受けしめんとせり。そは彼處に住む人々もかくなしたればなり。 11:15されば誰か彼らに返言を傳へなば、彼ら之を行ひ、その日の中に汝にわたされて滅び失すべし。 11:16汝の婢はすべて此等の事を知れば、彼らの前より逃れ來れり。而して神、汝と共に事を爲さしめんがために我を遣はし給へり。全地は驚き、之を聞くもの皆驚かん。 11:17汝の僕は信心深く、日夜天の神に仕ふ。されば我主よ、われ汝と共に居り、夜は谷に出行きて神に祈らん。さらばかれ彼らの罪を犯せし時を我に示し給はん。 11:18我は歸りて之を汝に告げ、汝すべての軍勢を繰り出し給はば、彼らの中誰も汝を防ぐものなからん。 11:19われ汝を導きてユダヤの中を通り、エルサレムに到り、汝の位を其中に立てん。而して汝は彼らを牧ふものなき羊の如く追ひ出さん。一匹の犬も汝に向ひて口を開かざるべし。此らのことはわが先見によりてわれに示され、われは之を汝に語らんがために遣されたり。』 11:20その時、この言オロペルネスとその僕らを喜ばしめ、かれらその智慧に驚きて言へり 11:21『地のこの極より彼の極に到るも、かかる容貌美しく、その言智慧に滿てる婦はあらじ。』 11:22オロペルネスも亦彼の女に言ひぬ『神よく、我が手に入るべき民、わが主を輕しむる彼らの上に滅亡來らぬ前に、汝を我に遣し給へり。 11:23汝は容貌美しく、言に智慧あり。汝眞にその言の如くに爲さば、汝の神はわが神たるべく、汝はネブカデネザル王の家に住み、その譽は全地に廣まらん。』

第12章

12:1其時彼、命じてかの女を、銀の器の置かるる室に伴れ來らしめ、僕らに、かれの爲めに食物を備へ、葡萄酒を與ふることを命じたり。 12:2ユデトいひけるは『我は其を食はじ。恐くは躓を來らさん。われはわが携ふるものをもて我がために食物を作るべし』と。 12:3オロペルネス彼にいふ『若し汝の食物盡きなば、我ら如何にして同じものを汝に與ふべきか、此處には汝の民一人もあらぬなり。』 12:4ユデト彼にいふ『我主よ、汝の魂は活く。汝の婢は其らのものを費し盡さざる前に、主は我手によりてその定めたることを爲し給はん。』 12:5其時オロペルネスの僕ら彼を天幕に伴れ來れり。かれ夜半まで眠り、曉の鐘の前に起き出でて、 12:6オロペルネスに使を遣はし『わが主よ、人々に命じて、汝の婢を祈のために出で行かしめ給へ』といひぬ。 12:7さればオロペルネスその衞兵に、彼を止むなと命じたり。かくてユデトは三日の間陣營に宿り、夜毎にベツリアの谷に出で行き、陣營の傍なる泉に身を洗ひ、 12:8主なるイスラエルの神に、その民の子らを高めんがために道を示し給はんことを求めたり。 12:9かれ身を潔めて天幕に歸り、夕食終るまで留まれり。 12:10第四日に及びて、オロペルネスその近臣のために祝宴を催せしが、將校らをばこれに招かざりき。 12:11其時彼その家司なる宦官バゴアスに曰けるは『行きて汝と共に在るヘブルの婦を説き勸め、來りて我らと共に飮食せしめよ。 12:12視よ、若し我らかかる婦人をして我らに侍ることなく去らしめば、我らの耻とならん。もし我ら彼の女を招かずば、却つてかれに罵り笑はれん』と。 12:13此處にバゴアス、オロペルネスの前より出で行きて、かの女に來り曰けるは『この美しき乙女よ、恐るな。わが主の許に來り、その御前に崇められ、葡萄酒を飮みて我らと共に樂み、この日ネブカデネザル王に仕ふるアツスリアの娘らの一人の如くなれ』 12:14ユデト彼に曰ふ『われ誰なればとてわが主に逆はん。彼のよしと見給ふことは、速かにこれを爲さん。これわが一生の喜とならん。』 12:15かくてかれ起ちて、その晴衣と婦の飾を悉く身に纒へり。その婢行きて、オロペルネスの前に彼の女の座を設け、羊の毛皮をそこに敷きたり。この毛皮は、彼が敷きて坐し、且食するための、日毎の用にとて、バゴアスより受けしものなり。 12:16さてユデト入りて坐せしに、オロペルネスの心蕩け、その魂動かされて、かれの偕に居ることを甚しく願へり。彼は初めてかの女を見し日より、機あらば之を誘はんと待ち構へ居たりしなり。 12:17オロペルネス彼にいふ『飮みて我らと共に樂め』と。 12:18ユデト答ふ『わが主よ、われ今飮まん。そはわが生命、この日、わが生れしより以來の、全ての日に優りて、わが中に崇めらるればなり。』 12:19かくて彼はその婢の作りしものを取りて食ひ且飮めり。 12:20オロペルネス彼によりていたく喜び、生れしより以來、何の日に飮みしよりも多くの酒を飮みたり。』

第13章

13:1夕になりたれば、僕らは急ぎ退き、バゴアスは天幕の戸を閉ぢて侍者らをその主の前より退けぬ。彼等皆行きてその床に入れり。そは饗宴長びきて、彼ら皆疲れたればなり。 13:2ユデト獨り天幕に殘り、オロペルネスはその床に醉ひ伏したり。 13:3ユデトはその婢に、その寢室の外に立ちて、彼の常の如く出で來るを待つべしと命じたり。そはかれ祈禱のため出で行くべしといひ、且之をバゴアスにも告げたればなり。 13:4さればすべてのもの出で行き、小なるも大なるも、一人として寢室に留まるものなかりき。その時ユデト床の傍に立ちて、心の中に祈り言ひけるは、『ああ全能の主なる神よ、願くは今、此時、エルサレムの譽のために、我手の業を見そなはし給へ。 13:5今こそ汝の嗣業を助くべき時、我らに逆ひて起つ敵を滅さんがため、わが企圖を果すべき時なれ』と。 13:6かくて彼は、オロペルネスの頭の方なる寢臺の柱に來りて彼の劍を取り、 13:7寢臺に近づき、その頭髮を捕へて言ひぬ、『ああイスラエルの神よ、今、この時、我を強め給へ』と。 13:8而してかれ、力の限り彼の頸を、二度擊ちたれば、その頭彼より離れ、 13:9その身體寢臺の下に轉び倒れて、天葢を柱より引き落したり。やがて彼出でて、オロペルネスの首を婢にわたしぬ。 13:10婢は之をその食物の囊に入れ、二人は常の如く祈禱のために出で行きぬ。かくて彼等陣營を過ぎ、谷を廻り、ベツリアの山を登りて、町の門に來れり。 13:11ユデトは遠くより、門の番兵どもにいひぬ『開け、門を開け、神、我らの神は、我らと偕に在し、この日なし給ひしことによりて、その御力をイスラエルの中に、又その強さを敵に向ひて彰はし給へり。』 13:12町の人々彼の聲を聞き、急ぎ門に下り來りて、町の長老たちを呼び集めたり。 13:13彼ら、小なるも大なるも、共に走り出でぬ。そは彼らユデトの歸り來りしを訝りたればなり。彼ら門を開きて、彼らを迎へ、光のために火を焚きてその周圍を取りかこみぬ。 13:14その時かれ聲を張りあげて彼らにいひぬ『讚めまつれ、神を讚めまつれ、イスラエルの家よりその憐憫を取り去らず、此夜わが手によりて、我らの敵を滅し給へる神を讚めまつれ。』 13:15かれ囊より首を取り出し、彼らに示していひけるは『看よ、アツスリアの軍の總司令官なるオロペルネスの首を。看よ、彼が醉ひ臥したる天葢を。主は婦女の手によりて彼を擊ち給へり。 13:16主活き給へば、わが行く道にて我を守り給へり。わが容貌彼を欺き、彼を滅ぼしたれど、彼は我を汚し、我を辱めて罪を犯すこと能はざりき。』 13:17其時すべての民いたく驚き、跪伏して神を拜し、一つとなりていへり『讚むべきかな、我等の神、汝は此の日、汝の民の敵を空しくし給へり。』 13:18オジア彼にいひけるは『讚むべきかな、娘よ、汝は至高神の御前にて、地のすべての婦女たちの上にあり。讚むべきかな、汝を導きて我らの敵の長の頭を擊たしめ給へる天地の造主、われらの主なる神。 13:19そは、なんぢの希望は、永遠に神の御力を憶ゆる人々の心より失せ去るまじ。 13:20かくて神此らのことを汝の永遠の讚となし、善き事をもて汝に報い給はん。そは汝、わが民の患難のために、その生命をも惜まず、我らの神の御前に眞直なる道を歩みて、我らの敗に仇を返したればなり。』すべての民ら『實に然り、實に然り』といへり。

第14章

14:1其時ユデト彼らに言ひけるは『我兄弟よ、今我に聽き、この首をとり、石垣の櫓にかけよ。 14:2又朝となりて、日の地上にあらはるるや否や、汝ら悉くその武器をとり、すべての勇士は町を出で、大將を立て、アツスリアの子らの哨兵を襲はんがため、野に降り行くばかりになし、しかも降り行かずに居れ。 14:3アツスリア人らは、その甲冑を着けて陣營に行き、その隊長らを起し、オロペルネスの天幕に走り行き、その居らぬを見ば、恐怖彼らを襲ひ、彼ら、汝らの前より遁げ去らん。 14:4その時、汝らとイスラエルのすべての境に住むものとは彼らを追ひ、彼らを倒すべし。 14:5されど汝ら此等の事を爲す前に、まづアンモン人アキオルをわが許に呼び寄せよ。これは彼、イスラエルの家を侮りしもの、又殺さん許りとなして彼を我らに送りし者を、見且知らんがためなり。』 14:6此處に彼等オジアの家よりアキオルを呼び出しけるに、彼來りてオロペルネスの首の、集れる人々の中の一人の手にあるを見て、その面を伏せ、倒れて氣を喪へり。 14:7彼ら、かれを蘇生らしめし時、彼はユデトの足下にひれ伏し、之を崇めていひぬ『汝はユダのすべての天幕の中に、又もろもろの國人の中に祝せられん。汝の名を聞くものは皆驚くべし。 14:8されば汝が此らの日に爲せしことを我に語れ』と。その時ユデト民の中にて、己がなせしすべての事を彼に告げ、その出で行きし日より彼らに語りし時までの事を示せり。 14:9彼の語り終へし時、民ら大聲に叫び、全市は喜びの聲を擧げたり。 14:10アキオルはイスラエルの神が爲し給ひしすべての事を見て、深く神を信じ、その陽の皮に割禮を施し、イスラエルの家に結び付きたり。 14:11朝の來るや否や、石垣の上にオロペルネスの首をかけ、すべての人武器を執り、隊を組みて、山の登路に出で行けり。 14:12アツスリアの子等之を見し時、その班長等に使者を送れり。而して班長等はその隊長等及び千卒長等の許に、またすべての指揮官等の許に來れり。 14:13かくて彼らオロペルネスの天幕に到り、その執事に語りて言ふ『我等の主を醒ませ。奴隸ども全滅せられんとて、大膽にも下り來りて、我らに戰を挑むなり。』 14:14バゴアス入りて天幕の戸を叩けり。そは彼、オロペルネスはユデトとともに睡れりと思ひたればなり。 14:15答あらざれば、彼戸を開きて寢室に入りしに、オロペルネスは死にて床に投げ出され、その頭は取り去られありき。 14:16彼大聲に泣き叫び、呻き悲みてその衣をさき、 14:17ユデトの宿りし天幕に入りしに、彼女を見ざりしかば、走り出でて人々を呼び、叫びていひぬ 14:18『此らの奴隸どもたばかりを爲し、ヘブルの婦女恥をネブカデネザル王の家に與へたり。そは視よ、オロペルネスは首を失ひて地に横はり居る』と。 14:19アツスリア人の隊長ら此らの言を聞きし時、その上衣を裂き、彼らの心大に怕惑ひ、陣營悉く泣き悲みて大なる響をなせり。

第15章

15:1天幕に居りしものども此らの事を聞きし時、その出來事に驚けり。 15:2かくて恐怖と戰慄彼らに臨み、一人もその隣人の前に止り得るものなく、皆共に走り出でて、平地及び山地のあらゆる路に逃れたり。 15:3又ベツリアの周圍の山地に陣を布きしものらは、皆逃げ去れり。ここに於てイスラエルの子ら、彼らの中にて戰士たりしものは悉く、敵に向ひて走りかかれり。 15:4其時オジア使をベトマスタイム、ベバイ、コパイ、コラ、及びイスラエルのすべての境に遣して、その爲されし事を告げ、又敵を逐ひかけて亡ぼすべきことを傳へたり。 15:5イスラエルの子ら之を聞きて、一齊に敵に逐ひかかり、彼らを殺してコバイにまで到れり。エルサレムの人々及び山地の人々も同じく來れり。(人々彼らに敵の陣營に起りしことを語りたればなり。)又ギレアデ及ひ[び]ガリラヤの人々も敵の側面に迫りて、大に彼らを殺し、ダマスコを過ぎて其境にまで到れり。 15:6殘りてベツリアにありしものは、アツスリア人の陣營を襲ひ、之を掠奪して甚しく富みたり。 15:7殺戮を終へて歸りしイスラエルの子らは、殘りしものを得、山地及び平地の町々も得る所甚多かりき。 15:8其時大祭司ヨアキム及びエルサレムに住むイスラエルの子らの長老たち、神のイスラエルに彰はし給ひし恩惠を見んがため、又ユデトを見てこれに挨拶せんがために出で來れり。 15:9彼らユデトの許に來りし時、一つとなりて彼を祝し、且言ひぬ『汝はエルサレムの誇、イスラエルの大なる榮なり。げに汝こそわが國人の大なる喜びなれ。 15:10汝は汝の手によりで、すべて此らの事を爲し、イスラエルに善き事を爲せり。神は之を喜び給ふ。全能の主と共に、汝は永久に譽むべきかな』と。すべての民これに和して、『眞に然り』といへり。 15:11民ら三十日の間陣營を掠め、ユデトにオロペルネスの天幕、そのすべての金銀の器、寢臺、容器、すべての家財を與へしかば、彼は之を取りて、その騾馬に載せ、又その荷車を備へてこれに載せたり。 15:12その時イスラエルのすべての婦女たち彼を見んとて共に走り來り、彼を祝し、彼の爲に踊れり。ユデトは手に樹の枝をとり、彼と共に居りし婦たちに之を與へたり。 15:13彼も彼と共にありしものも、自らオリブの冠を作り、彼は先頭に立ちて踊りつつすべての婦たちを導き、イスラエルのすべての男たちは武具を着けしまま冠をいただき、口に歌を唱ひつつ從へり。

第16章

16:1其時ユデトこの感謝の歌を、全てのイスラエルの中に歌ひ、すべての民らは聲高らかにこの讚歌を歌へり。 16:2ユデト言ふ
『わが神に向ひ鼓をもて歌ひ始め、わが主に向ひ鐃鈸をもて歌へ。彼に向ひ詩と讚美との調をなせ。彼を崇め、その御名を呼びまつれ。 16:3主は戰を破り給ふ神なり。そはその軍の中にて、民らの眞中にて、われを逐ひ苦むるものの手より、我を助け出し給へり。 16:4アツスリアは北より、山を出でて來り、十萬の軍勢を率ひ、その群は急湍を堰き止め、その騎馬は丘を蔽へり。 16:5彼は、わが境を燒き盡し、わが若者を劍をもて殺し、乳呑兒を地に抛ち、幼きものを蹂躪り、わが處女らを分捕物とせんと言へり。 16:6されど全能の主は、一人の婦女の手によりて、彼らの望を奪ひ給へり。 16:7彼らの強き者、若者らの手によりて倒れしにもあらず。テイタンの子ら彼を擊ちしにもあらず。巨人等彼を壓へしにもあらず。メラリの娘なるユデト、その容貌の美しきをもて彼を弱めたるなり。 16:8彼はイスラエルの虐げらるるものを上げんために、寡婦の衣を脱ぎ、顏に香油を塗り、髮に飾をつけ、彼を欺かんとて、身に麻の薄衣を纒ひぬ。 16:9その靴は彼の目を迷はし、その美しさは彼の魂を虜にし、劍終に彼の首を刺し通したり。 16:10ペルシヤ人はその勇氣に慄ひ戰き、メデア人はその膽力に驚きぬ。 16:11その時、わが卑き者ども聲高く叫び、わが弱き者ども恐れて地に伏したり。彼らその聲を揚げて逃れ行けり。 16:12乙女の子ら彼らを刺し貫き、逃ぐる者の子らの如くに彼らを傷けぬ。彼らはわが主の戰によりて亡びたり。 16:13我はわが主に新しき歌を歌はん。ああ主よ、汝は大にして稜威あり、その御力に敵し得るものなし。 16:14願くは、すべての造られしものを汝に仕へしめ給へ。そは汝言ひ給へば、彼らは造られ、汝その靈を出し給へば、彼らは建てられたり。汝の御聲を拒むもの一人だになし。 16:15山々は水のために、その基より動き、岩も汝の御前には蠟の如くに熔けん。されど汝は、汝を懼るるものに憐憫を垂れ給ふ。 16:16すべての犧牲もかぐはしき香とはならず、すべての肥えたるものも汝の燔祭とするに足らず、唯主を恐るるもののみ永遠に大なり。 16:17災害なるかな、わが族に逆ひて起り立つ國民ら。全能の主は、審判の日に彼らに讐を返し、彼らの肉に火と蟲とを加へ給はん。彼らは永遠に苦み泣くべし。』 16:18さて彼らエルサレムに入りし時、神を拜せり。民らは、潔められし後、全き燔祭と任意の供物、及び禮物を獻げたり。 16:19ユデトも亦、民らの與へしオロペルネスの全ての家財を獻げ、彼がその寢臺より取りたる天蓋を、供物として主に獻げたり。 16:20民らエルサレムにて、聖所の前に、三月の間饗筵をつづけ、ユデトも彼らと共に留れり。 16:21その後人々その嗣業の地に歸り、ユデトはベツリアに赴きて、その所有物にて暮し、その時代に、全國に尊ばれたり。 16:22多くの人、彼を娶らんと欲せしも、その夫マナセの死にて、その民に加はりし後、かの女の一生の間、かれを知れる男誰もなかりき。 16:23彼は益人々に尊ばれ、その夫の家にて、年老い、百五歳となり、その婢に暇を與へぬ。かれベツリアにて死にしかば、人々彼をその夫マナセの墓に葬れり。 16:24イスラエルの家七日の間、彼のために喪に服したり。かれ死ぬる前に、その所有物を夫マナセの近親のものと、己が近親のものとに頒ちたり。 16:25かくてイスラエルの子らを恐れしめしもの、ユデトの日にも、その死後にも、永くあらざりき。