ベン・シラの智慧(教会書)

第1章

1:1[0]序言
律法と預言者、及び之に從ひたる人々によりて、多くの大なることども傳へられたり。此等のことの故に、その教訓と智慧とにつきて、イスラエルは崇めらるべきなり。且これらのことは、讀むもの自らこれによりて教へらるべきものなるのみならず、篤學なる人々はこれを語り、これを記して他人を益すべきものなれば、我が祖父イエス多年律法と預言者及び父祖たちの他の諸書を讀み、能くこれに精通して、自らも亦教訓と智慧とに關る事を記し、篤學なる人々及び此等のことにたづさはる人々をして、律法による生活にますます進ましめんとせり。されば乞ふ、心を傾けてこれを熟讀し、我等の解釋せんと努めし所に、若し語句の缺けたるあらば之を許せ。そはヘブル語にて語られしものを他國語に飜譯する時その力同じからず、又唯此等のみならず、律法そのものも預言も、其の他の諸書も、原語にて語らるる時は、その相違少なからざるなり。ユエルゲスス王の三十八年に、われエジプトに來りて、暫くここに留り居る間、此の書より屡多くの教訓を見出しぬ。さればわれ自ら熱心と勞力を愛する心とをもて此の書を飜譯する必要を感じ、眞に不眠の注意と技巧とを傾けて、豫期の時日の内にその飜譯を終り、異境にありて、學にいそしみ、身を修め、律法に從ひて生きんと欲する者のために、これを公刊することとせり。
[1:1]凡ての智慧は主より來り、永遠に主と偕に在り。 1:2海の眞砂と雨の雫、また永遠の日數、誰か之を數ふるを得ん。 1:3天の高さ、地の廣さと深さ、(また智慧)誰か之を測るを得ん。 1:4智慧はすべて此等のものの前に創造られ、知識の悟は永遠の昔よりあり。 1:5(なし) 1:6智慧の根は誰に啓示せられしや。誰かその思慮を辨へ得しや。 1:7(なし) 1:8唯一の、賢くしていと畏るべき主、その御坐に坐し給ふ。 1:9主自ら智慧を創造り、これを見、これを數へ、これをそのすべての御業の上に注ぎ給へり。 1:10すべての肉には、量に從ひて、また彼を愛する者には、惜なく之を與へ給へり。 1:11主を畏るるは光榮、名譽、悦樂、また歡喜の冠なり。 1:12主に對する畏は心を慰め、悦樂と欣喜、又高き齡を與ふ。 1:13主を畏るる者は終を完うし、その死ぬる時、恩惠を受けん。 1:14智慧の始は神を畏るることなり。智慧は信仰篤き者と共に胎内につくられぬ。 1:15智慧はその永遠の基を人々の前に建て、彼等の裔と共に住まん。 1:16主を畏るるは智慧の成就なり。智慧はその果をもて人々を飽しむべし。 1:17智慧はすべての望しきものをもてその家を滿し、その産出物をもて倉を滿さん。 1:18智慧の冠は主を畏るることなり。智慧は平和を來らしめ、完き健康を與ふ。 1:19智慧は知識と理解とを降し、確くこれを握る者の光榮を高む。 1:20智慧の根は主を畏るることなり、その枝は高き齡なり。 1:21(なし)
1:22不義の怒に辯明の道なし、その怒の力は滅亡を招くべし。 1:23忍耐強き人は時の到るまで、堪へ忍ばん。かくて歡喜、彼に來るべし。 1:24彼は時の到るまでその語を隱し、多くの人の口その悟を明かにせん。 1:25智慧の庫には知識の喩言あり。されど敬神は罪人にとりて憎むべきことなり。 1:26智慧を得んと欲せば、誡を守れ。さらば主惜なくこれを汝に與へ給はん。 1:27主を畏るることは智慧の教訓にして、信仰と柔和とは、主の喜び給ふ所なり。 1:28主に對する畏に背くな、二心をもてこれに近づくな。 1:29人の前に僞善者となるな。汝の唇に心せよ。 1:30己を高しとすな、倒れて自ら恥を受けざらんためなり。主汝の隱れたる思想を明にし、汝を集會の中央に倒し給はん。そは汝主を畏れず、汝の心虚僞にて充ちたればなり。

第2章

2:1わが子よ、汝主なる神に仕へんとて來る時、汝の魂を嘗試に備へよ。 2:2汝の心を直くして、常に耐へ、苦の時に急ぐな。 2:3主に縋りて離るな。それ汝の終の榮えんためなり。 2:4何にても汝に來るものを受け、汝の身分の低くせらるる時にても忍べ。 2:5金は火にて試みられ、嘉せらるべき人は苦難の爐にて試みらる。 2:6主に頼れ、さらば主汝を助け給はん。汝の道を直くして主を仰げ。
2:7主を畏るる人々よ、主の慈悲を待ち望め。仆れざるやう脇見すな。 2:8主を畏るる人々よ、主に頼れ。汝らの報絶えざるべし。 2:9主を畏るる人々よ、善きものを望み、永遠の歡喜と慈悲とを望め。 2:10古の代を顧みよ、誰か主に頼りて辱められしや、誰か主を畏れて見棄てられしや、誰か主を呼びて看過しにせられしや。 2:11主は憐憫深く、慈悲あり、罪を赦し、患難の時に救ひ給ふ。
2:12禍害なるかな、怕恐るる心、弱りたる手、又二途を行く罪人。 2:13禍害なるかな、弱りたる心、信ぜざる故に隱家なかるべし。 2:14禍害なるかな、忍耐を失ひたる汝ら。主汝らを訪れ給ふ時、何をなさんとするか。 2:15主を畏るる者はその御言に背かず、主を愛する者はその道を守るべし。 2:16主を畏るる者はその喜を求め、主を愛する者は律法をもて滿さるべし。 2:17主を畏るる者は己が心を備へ、主の御前に己を低くすべし。 2:18いざ我ら人の手にあらで、主の御手に陷らん。主は稜威のみならず慈悲をももち給へばなり。

第3章

3:1わが子らよ、汝らの父なる我に聽き、救はれんために之を行へ。 3:2主幼兒らのために父に光榮を與へ、子らのために母の判斷を堅め給へり。 3:3父を敬ふ者は罪の贖をなし、 3:4母を崇むる者は寶を積むなり。 3:5父を敬ふ者は、その子らの喜を受けん。又その祈の日に聽かるべし。 3:6父を崇むる者は長き壽を保たん。主に從ふ者は、その母に休息を與ふべし。 3:7主を畏るる者はその父を敬ひ、主に仕ふる如くその兩親に仕ふべし。 3:8言と行とをもて汝の父を敬へ。祝福汝に來らんためなり。 3:9父の祝福は子の家を堅むれども、母の呪咀はその基を覆へす。
3:10汝の父の不名譽を高むな、これ汝の光榮にあらず。 3:11人の光榮は父の光榮より來る、不名譽の母は子の恥辱なり。 3:12わが子よ、老いたる汝の父を助け、その生の限りこれを憂へしむな。 3:13その理解衰ふともこれを忍び、己が力強くとも彼を輕んずな。 3:14父への慰藉を忘るな、罪の代にこれをもて自らを建てよ。 3:15これ汝、その苦難の日に憶えられ、汝の罪は暑さに溶くる氷の如く消え去らんがためなり。 3:16その父を棄つる者は神を瀆すに等し、その母を怒らしむる者は主によりて呪はれん。
3:17我が子よ、柔和をもて汝の努を行へ。さらば汝、嘉せらるべき人に愛せられん。 3:18大なる者となる時、却つて己を卑うせよ。さらば主の御前に恩惠を得ん。 3:19(なし) 3:20主の力は大にして、卑しき者に崇めらる。 3:21己にとりて難きに過ぐるものを求むな、又己が力及ばざるものを探るな。 3:22汝の命ぜられしことを熟考せよ、隱されたるものは汝に用なければなり。 3:23汝に過ぎたる働のために勞すな、そは人の悟り得るよりも多くのもの汝に示されたればなり。 3:24多くの人々、彼等の僞によりて惑はされぬ。又惡しき疑彼等の判斷を覆したり。 3:25(なし)
3:26危險を愛する者は、危險のために滅びん。頑なる心は終に災を受けん。 3:27頑なる心は惱を負ひ、罪人は罪に罪を重ねん。 3:28高ぶる者の應報はこれを醫す道なし。惡の樹彼の中に根を張ればなり。 3:29慧き人の心は喩言を悟るべし。聽く耳は智者の求むる所なり。 3:30水は燃ゆる火を消し、施濟は罪の贖をなさん。 3:31好意に報ゆる者は、後の事に心を用ひ、己が倒るる時に支柱を見出さん。

第4章

4:1わが子よ、貧しき者より生計を奪ふな。乏しき者の眼を永く待たしむな。 4:2飢うる魂を悲しますな、又苦難の中に在る者を惱ますな。 4:3怒る心にまた惱を加ふな、乏しき者に與ふるにためらうな。 4:4苦む者の願を拒むな、貧しき人より汝の顏を背くな。 4:5汝の眼を乏しき者より背けず、彼に汝を呪ふ機を與ふな。 4:6彼もし己が魂の苦きをもて汝を呪はば、彼を造り給ひし者その乞ひを聽き給はん。
4:7汝自ら會衆の愛を得よ、又汝の頭を力ある人の前に下げよ。 4:8貧しき者に汝の耳を傾け、平和なる言をもて柔和に答へよ。 4:9不義なる者の手より不義を受くる者を解き放せ、汝審判を行ふ時心を弱くすな。 4:10父なきものの父となり、その母に對して夫の代となれ。さらば汝は至高者の子となり、主は汝の母に勝りて汝を愛し給はん。
4:11智慧はその子等を高め、己を求むる者を捉ふ。 4:12智慧を愛する者は生命を愛し、夙に起きてこれを求むる人々は喜に滿たさるべし。 4:13智慧を握る者は光榮を嗣がん。その入る處にて主之を祝し給ふべし。 4:14智慧に仕ふる人々は聖者に仕ふべし。智慧を愛する人々を主愛し給ふ。 4:15智慧に耳を傾くる者は、國々を審き、智慧に仕ふる者は安らかに住まん。 4:16人もし己を智慧に委ねば、智慧を嗣がん。且その子孫もこれを保つべし。 4:17智慧は初に、彼とともに曲がれる道に歩み、驚きと怖とを彼に臨ましめ、その魂を信じ得るまで、訓誡をもて鍛へ、審判によりて試みん。 4:18やがて智慧は、直なる道によりて彼に歸り、彼を慰め、その祕密をこれに示さん。 4:19されどもし迷ひ出でなば智慧は彼を見棄て、滅亡の手にこれを委ねん。
4:20機を窺ひ、惡を警め、汝の魂を恥ぢしむな。 4:21そは罪を招く恥もあり、又光榮と恩惠とを招く恥もあればなり。 4:22汝の魂に逆ふ人を受くな。また人を敬ひて己を倒れしむな。 4:23善をなす機あらば言を妨げず、智慧の美しさを隱すな。 4:24智慧は言によりて知られ、教訓は口の表現に由りて知られん。 4:25眞理に逆ひて語らず、無恥の誤を却くべし。 4:26罪の告白を恥づな、河の流を堰き止むな。 4:27愚かなる人の踏臺となるな、強き人の外の貌をとるな。 4:28死に至るまで眞理のために爭へ。さらば主なる神汝のために戰ひ給はん。
4:29舌にて急ぐな、行を遲くすな、また怠るな。 4:30家に在りて獅子の如くすな、僕等の間に荒び狂ふな。 4:31取らんがために手を擴ぐな、返す時閉づな。

第5章

5:1汝の財産に頼り、『一生を過ごす程持てり』といふな。 5:2心の慾に歩まんために、己が魂と力とに從ふな。 5:3また『誰か我を支配せん』といふな、主は必ず汝に報い給はん。
5:4『我罪を犯したれども何事か我に起らん』といふな、主は永く忍び給ふなり。 5:5贖に頼りて、罪に罪を加ふることを恐れよ。 5:6『その慈悲大なれば、主はわが罪の多きを許し給はん』といふな、慈悲と怒とは主より來り、その憤罪人の上に止まらん。 5:7主に歸ることを躊躇ひ、一日又一日と延すな、主の御怒思はざるに來り、汝は罰を受けて滅びん。
5:8正しからざる財産に頼るな、刑罰の日に何の益もなからん。 5:9風毎に簸き分くな、道毎に歩むな、兩舌の罪人はかくするなり。 5:10汝の理解に堅く立ち、汝の言を一つとなせ。
5:11聞くに速に、答ふるに遲くせよ。 5:12もし理解を持たば隣人に答へよ、持たずば手を汝の口に置け。 5:13名譽も不名譽も言にあり、人の舌はその滅なり。 5:14私語者と呼ばるな。舌をもて待伏すな、盜人に恥來り、兩舌の者に惡しき罰來らん。 5:15大事にも小事にも無恥となるな。

第6章

6:1友となるべきに敵となるな、惡しき名は恥と誹とを嗣がん。兩舌の罪人も亦かくあるべし。
6:2汝の魂の計畫をもて己を高しとすな、汝のたましひ牡牛の如く引き裂かれざらんがためなり。 6:3汝は、なんぢの葉を食ひ盡し、己を枯木として殘さん。 6:4惡しき魂はこれを待つものを滅し、彼をその敵の笑草となすべし。
6:5甘き言はその衣を増し、巧なる舌は交際を廣めん。 6:6多くの人と和げ、されど汝の助言者は千人の中の一人なるべし。 6:7友を得んと思はば、試驗をもてこれを得よ。急ぎてこれを信ずな。 6:8己が利益のために友となる者は、汝の患難の日に續かざるべし。 6:9友にして敵となる者は、爭を見出して汝を誹らん。 6:10又食卓にて伴侶となれる友も、汝の患難の日に續かざるべし。 6:11汝の榮え居る間は、汝の身の如くなりて、僕らを使役せん。 6:12されど汝もし低くせられなば汝に逆ひ、己を汝の顏より隱すべし。 6:13汝の敵より己が身を離せ。また汝の友に心せよ。
6:14誠心ある友は強き保護なり、これを見出しし者は寶を見出ししなり。 6:15誠心ある友に換へ得べきものなし、その價値量り知られず。 6:16誠心ある友は生命の藥なり。主を畏るる人々これを見出さん。 6:17主を畏るる者はその友情を正しくす。彼のなす如くその友もなすべければなり。
6:18我が子よ、汝の若き時よりの教訓を集めよ。さらば汝白髮になるまで智慧を見出さん。 6:19耕し又種播く者なる智慧に來り、その善き果を待ち望め。そはその耕作に汝の勞少くして、しかも汝は直にその果を食ふべければなり。 6:20智慧はいかに愚かなる者に嚴しきぞ。理解なき者はこれとともに在ること能はざるべし。 6:21智慧は試練の大なる石の如く、彼の上に來らん。彼は直ちにこれを投げ出すべし。 6:22智慧はその名の如く、自ら多くの人に現れざるなり。
6:23聽け、わが子よ、わが判斷を受けよ。又わが勸言を却くな。 6:24汝の足に智慧の足桎をかけ、汝の首にその鎖をかけよ。 6:25汝の肩を智慧の下に置きてこれを負ひ、その束縛のために智慧は汝に得らるべし。 6:26汝のたましひを傾けて智慧に來り、汝の力を盡してその道を守れ。 6:27尋ね求めよ、智慧は汝に得らるべし。これを捉へし時離すな。 6:28終に至りてその止まるを知り、これによりて汝は喜を得ん。 6:29かくてその桎は汝のために力の蔽となり、その鎖は光榮の衣たらん。 6:30その上に黄金の裝飾あり、又その帶は青絹なり。 6:31汝これを衣の如く着、これを喜の冠の如く戴け。
6:32我が子よ、汝もし欲しなば、教訓を受け、心を用ひなば愼を得ん。 6:33聽くことを好まば受くべく、耳を傾けなば慧くなるべし。 6:34長老たちの群の中に立ち、智者を見出さばこれに縋れ。 6:35心を傾けて敬虔なる教を聽き、賢き箴言を逃すな。 6:36悟れる人を見ば、速にその許に到り、汝の足にてその戸の敷居を摩り耗らすべし。 6:37主の詔に心をとめ、常にその誡を思ひ回らせ。主は汝の心を建て、汝の願に從ひて智慧を賦與へ給はん。

第7章

7:1惡をなすな、さらば惡は汝に追ひ付かざるべし。 7:2不義より遠かれ、さらば不義は汝を避くべし。 7:3我が子よ、不義の畦に種を播くな。それを七倍にして刈り取らざらんためなり。
7:4勝れたる地位を主に求め、名譽の坐を主に求むな。 7:5主の前に自らを義とすな。王の前に汝の智慧を示すな。 7:6審判者となるな。汝不義を取り去る能はず、權力ある人を恐れて、正しき道に躓を置かざらんがためなり。
7:7町の群衆に向ひて罪を犯すな。多くの人の前に己が身を投げ出すな。 7:8罪を二倍にすな。一つの罪にても罰を受けざることなからん。 7:9『主は我が供物の多きを見そなはし給はん、われ至高神に献ものをなす時、主これを受け給はん』といふな。 7:10汝の祈に倦み疲るな。施濟をゆるがせにすな。
7:11その魂苦きに在る時、その人を嘲り笑ふな。低くし又高くし給ふ者は唯一なり。 7:12汝の兄弟に向ひて僞をたくらむな、汝の友に向ひてもこれをなすな。 7:13如何なる僞にてもなすことを欲すな、その習慣善からざればなり。 7:14長老たちの群の中にて言ひ過ぐな。祈る時言を繰り返すな。
7:15難き勞働及び至高者の命じ給へる農業を厭ふな。 7:16己を罪人の群の中に數ふな、御怒の來ること遲らかざるを覺えよ。 7:17彼の魂をいたく低うせよ。そは敬虔ならぬ者の刑罰は、火責と蟲責となればなり。
7:18無益なるもののために友を換へ、オフルの黄金のために眞の兄弟を換ふな。 7:19賢き、良き妻を見棄つな、その美しさは黄金に勝る。 7:20一心に働く者、又汝のためにその生命を與ふる傭人を虐ぐな。 7:21心にて賢き僕を愛し、その自由を奪ふな。
7:22汝家畜を持つか、これを顧みよ。汝に利あらばこれを保つべし。 7:23汝息子を持つか、これを矯正し、若き時よりその首を低くせしめよ。 7:24汝娘を持つか、その身體に心を用ひ、これに笑顏を向くな。 7:25汝の娘を嫁がしめなば汝の心配去らん、これを慧き人に與へよ。
7:26汝の心に合ふ妻あるか、これを去るな。 7:27全心を盡して汝の父を崇めよ。汝の母の産の苦を忘るな。 7:28汝を産みし人々を憶えよ。汝のためになせし心盡は、何をもて報いんとするか。
7:29汝の魂を傾けて主を畏れ、またその祭司を敬へ。 7:30汝の力を盡して、汝を造り給へる者を愛し、その役者を忘るな。 7:31主を畏れ、その祭司を崇めよ。命ぜられし如くその分前を納めよ。即ち初穗、愆祭、腿の供物、潔めの犧牲、及び聖物の初穗なり。
7:32貧しき者に手を擴げよ、汝の祝福全うせられんがためなり。 7:33供物はすべて活ける人の前に喜ばる。されど死人のためにも好意を拒むな。 7:34泣く者を避くな、悲む者と共に悲め。 7:35病人を見舞ふに遲るな、汝はこれによりて愛を得べし。 7:36凡てのことに於て己が終を憶えよ。さらばいつまでも過なからん。

第8章

8:1力ある人と爭ふな、汝その手に陷らざらんがためなり。 8:2富める人と競ふな、彼汝を抑へん。そは黄金は多くの人を滅し、王たちの心をすら惑はしぬ。 8:3口の人と爭ひ、その火に薪を積むな。
8:4粗暴なる人と戲るな、これ汝の先祖らの辱しめられざらんためなり。 8:5罪より離るる人を誹るな。我らは皆刑罰を受くべき者なり。 8:6人の老いたる時、これを辱しむな。我らの中にも亦老ゆる人あればなり。 8:7人の死ぬる時喜ぶな、我ら皆死ぬべきを憶えよ。
8:8智者の言をゆるがせにせず、その箴言と親め。汝彼等より教訓を得、いかに大なる人々に仕ふべきかを學ばん。 8:9老いたる人の教訓をなほざりにすな、彼等もまたその父たちより、學びたるなり。汝は彼等より悟を學び、必要の時にのみ答をなすべし。
8:10罪人の炭火を燃えしむな、その火の焰にて燒かれざらんためなり。 8:11高ぶる人の前より怒りて起つな、彼は汝の口にわなをかけんと待ち構ふるなり。 8:12汝よりも大なる人に借すな、借さば損失とならん。 8:13汝の力に過ぎて保證人となるな、保證人とならば支拂人となれりと思へ。
8:14審判者と共に法廷に行くな、彼等はその名譽に從ひて審くなり。 8:15無法なる人と共に途を歩むな、彼汝を惱まさん。そは彼己が心のままに事をなし、汝はその愚によりて滅ぶるに至らん。 8:16怒り易き人と爭ふな、又彼と共に荒野を行くな、血は彼の眼には何ものにもあらず、助けなき時彼は汝を倒さん。 8:17愚なる者と事を議るな、祕密を保つこと能はざればなり。 8:18見知らぬ人の前に祕密を行ふな、これによりて何事をなすやも計られざればなり。 8:19凡ての人に汝の心を開くな、何人にも汝に好意を返へさしむな。

第9章

9:1汝の懷の妻を嫉むな、汝に逆ひて惡しき教訓を學ばざらんためなり。 9:2汝の魂を女に與ふな、彼は汝の力を踏みにじらん。 9:3淫を賣る女に會ふな、汝そのわなに陷らん。 9:4歌うたう女の伴侶となるな、汝その計略に捕へられん。 9:5少女を視つむな、その貴きものによりて躓かざらんためなり。 9:6汝の魂を遊女に與ふな、汝の所有を失はざらんためなり。 9:7町の街衢にて汝の周圍を見廻はすな、その淋しき處にさ迷ふな。 9:8汝の眼を美しきによりて愛慾の火燃されぬ。 9:9夫ある女と共に坐すな、これと共に酒を飮みて樂むな。汝の心彼に傾き、情慾汝を滅さん。
9:10舊き友を見棄つな、新しきはこれに比ぶべくもあらず、新しき友は新しき葡萄酒の如し。舊くならば汝喜びてこれを飮まん。
9:11罪人の光榮を嫉むな、汝いかに彼の倒るるかを知らざればなり。 9:12敬虔ならぬ者の喜をもて喜ぶな、彼等が罰せられずしては墓に下ることなきを憶えよ。 9:13殺す權ある人より遠かれ、さらば汝死の恐怖を疑はざるべし。彼の許に來りなば、過をなすな、彼或は汝の生命を斷たん。汝は穽の中央を行き、町の石垣の上に歩むと知れ。
9:14汝の力に從ひて汝の隣人を探り、智者と共に謀れ。 9:15理解ある人と共に語り、汝の語る所をすべて至高者の律法に合はしむべし。 9:16義しき人を汝の食卓に就かしめ、主に對する畏を汝の誹とせよ。
9:17技工は工師に相應しきが如く、民を治むる者は、その言智かるべし。 9:18町にて恐しきは惡しき舌の人なり、言速なる人は嫌はるべし。

第10章

10:1智き審判者は、その民を教へ、理解ある人の政治には秩序あるべし。 10:2その役者らは民の審判者の如く、町に住む民はその有司らの如し 10:3無學なる王はその民を滅さん。町は力ある人の理解によりて建てらるべし。 10:4主の御手の中に地上の權威あり。時來らば主相應しき人をその上に起たしめ給はん。 10:5主の御手の中に人の繁榮あり。主は學者の前にその光榮を置き給はん。
10:6その犯せる惡のために隣人を憎み、暴力をもて事をなすな。 10:7高慢は主と人との前に憎むべきものなり。此の二つに向ひて惡を行へばなり。 10:8不法と暴行と金錢の貪とのために、主權は、國より國に移さる。 10:9如何なれば土と塵は誇るや。その生き居る間にすら膓を投げ出すにあらずや。 10:10醫者は永き病をあざ笑ふ。今日の王も明日は死なん。 10:11そは人死ぬる時は、匍ふものと獸と蟲とを嗣がん。 10:12人の主より離るるは高慢の初にして、その心は彼を造り給ひし者を去るなり。 10:13高慢の初は罪なり。これを保つ者は忌むべきものを注ぎ出さん。此の故に主は奇しき禍を降し、彼等を全く滅し給ひぬ。 10:14主は政權を執る者の位を覆し、柔和なる者をその後に置き給ひぬ。 10:15主は國々の根を拔き取り、その後に卑しき者を植ゑ給ひぬ。 10:16主は國々の土地を覆し、地の基に至るまでこれを滅し給ひぬ。 10:17主は或る人々を取り出して滅し、地よりその記念を斷ち給へり。 10:18高慢は人のために造られず、怒は女の裔のために造られざるなり。
10:19貴きはいかなる種族なるか、人の種族なり。貴きはいかなる種族なるか、主を畏るる者なり。貴からざるはいかなる種族なるか、誡を犯す者なり。 10:20兄弟たちの中に在りて彼等を治むる者は貴ばる。主を畏るる者は、主の前に貴ばる。 10:21(なし) 10:22富める人も、貴き人も、貧しき人も、その光榮は皆主を畏るるにあり。 10:23悟りある貧しき人を卑むるは正しからず。罪人を崇むるは相應しからず。 10:24大なる人、審判者、力ある人は崇められん。されど彼等の何人も主を畏るる者より大ならず。 10:25自主は慧き僕に役へん。知識ある人は呟かざるべし。
10:26汝の業をなす時賢きに過ぐな。汝の失意の時に、己を崇むな。 10:27働きて、すべてのものを豐に持つ者は、己を崇めて糧を缺く者に勝れり。 10:28わが子よ、柔和をもて汝の魂を崇め、その價値に從ひて、これを貴べ。 10:29誰か己がたましひに逆ひて罪を犯す者を正しとせんや。誰か己が生命を辱しむる者を崇めんや。
10:30貧しき人もその知識のために崇めらる。富める人はその富のために崇められん。 10:31されど貧しくして崇めらるる人富まば、その崇めらるることいかばかりぞや。又富みて賤めらるる人貧しくならば、その賤めらるることいかばかりぞや。

第11章

11:1卑しき人の智慧はその頭を高め、彼を大なる人々の中に坐せしめん。
11:2その美しさによりて人を讚むな。その外貌によりて人を嫌ふな。 11:3蜂は飛ぶものの中にて小さけれど、その生産物は甘き食物の長なり。 11:4着る衣の故に誇るな、名譽の日に己を高しとすな、主の御業は驚くべく、その御働きは人々の間に隱さる。 11:5多くの王たち地の上に坐し、思ひもうけぬ人冠をいただかん。 11:6多くの力ある人々いたく辱しめられ、名ある人々他人の手に渡されぬ。
11:7檢ぶる前に却くな、先づ知りて後に責めよ。 11:8聽く前に答ふな、話の間に妨ぐな。 11:9汝に關係なきことのために爭ふな、罪人らの審判に共に坐すな。
11:10わが子よ、多くの事のために勞すな。關係多くならば罰せられではあらざるべし。追ひ行くとも追ひ付き得ず、躍び走るとも逃るるを得じ。 11:11働き、勞し、急ぎて、反つて多く遲るるものあり。 11:12遲れ勝にて助を要し、才能なくして益々貧しくなるものあり。されど主の眼彼の上にありて恩惠を施し、彼をその卑き身分より引き舉げ、 11:13その頭を高くし給ひぬ。かくて多くのもの彼を見て驚けり。
11:14善と惡、生と死、貧と富、皆主より來る。 11:15(なし) 11:16(なし) 11:17主の賜物は敬虔なる人の許にあり、主の恩惠は永遠に加へられん。 11:18用心と辛苦とによりて富を増すものあり。これはその報の分なり。 11:19その人『我は安心を得たれば、いざわが財産にて食せん』といふとも、何時これを他人に遺して死ぬるかを知らざるなり。 11:20汝の契約に確に立ちて常にこれを保ち、汝の業に熟達せよ。
11:21罪人の業に驚かず、主に信頼して、汝の勞働に止まれ。主の御前にては、貧しき人を俄に富ましむるも易き事なり。 11:22主の祝福は敬虔なる人の報の中にあり。時やがて來り、主その祝福を豐にし給はん。 11:23『我には何の用あらんや、今よりわが善きものは何にかならん』といふな。 11:24『われ滿ち足れり。今より何の害か我に起らん』といふな。 11:25人は善きことの日に惡しきことを忘れ、惡しきことの日に、善きことを思ひ出でざるべし。 11:26主の御前には、死の日にその行爲に從ひて報ゆるは易きことなり。 11:27一時の苦難は喜を忘れしむ。人の臨終にはその諸の行爲現はされん。 11:28その死の前に何人をも幸福といふな、人はその子らに因りて知らるべし。
11:29すべての人を汝の家に招くな、僞人のたくらみ多ければなり。 11:30高ぶる人の心は籠の中なる囮の鷓鴣の如し。彼は間者の如く人の倒るるを窺ふ。 11:31彼は善きものを惡に變へんと待ち構ふ。又彼は讚むべきものを反つて非難せん。 11:32火花より多くの積まれたる炭燃えつく。罪人は血を流さんとて待ち構ふ。 11:33惡を行ふ者は心せよ、彼惡事をたくらむ。恐くは彼いつまでも汝を責めん。 11:34見知らぬ人を汝の家に受けなば、騷をもて汝を惱まし、汝のものより汝を遠ざけん。

第12章

12:1善をなさば、誰にこれをなすかを知れ。さらば汝の善行感謝を受けん。 12:2敬虔なる人に善をなせ。さらば汝報を得ん。もし彼より受けずば、至高者より受けん。 12:3惡を行ひ續くるもの、また施濟をなさざるものには善來らじ。 12:4敬虔なる人に與へ、罪人を助くな。 12:5卑き者に善をなし、敬虔ならぬ者に與ふな、その糧を抑へて彼に與ふな、彼はそれをもて汝に打ち勝たん。汝は彼のためになすすべての善に對して反つて二倍の惡を受けん。 12:6そは至高者も亦罪人を憎み、敬虔ならぬ者に仇を返へし給はん。 12:7善人に與へ、罪人を助くな。
12:8友は幸福の時に試みられず、敵は不幸の時に隱されざるべし。 12:9人の幸福の時に敵は悲み、不幸の時には、友もこれを離れん。 12:10決して汝の敵に頼るな。眞鍮の錆出づる如く、彼の惡も出でん。 12:11彼己を低くして屈み行くとも、怠らず心せよ。さらば汝彼に對して鏡を拭ひし如くなり、彼の全くは錆び了せざるを知るべし。 12:12彼を汝の側に居らしむな、恐くは彼汝を覆へして、汝の所に立たん。彼を汝の右に坐せしむな、恐くは彼汝の席を求めん。かくて汝は終に我が言ひしことを認め、わが言によりて刺されん。 12:13誰か蛇に咬まれたる魔術師、若しくは野獸に近づきし人を憐まん。 12:14此の如く誰か、罪人の許に行きこれとその罪を共にする者を憐まんや。 12:15暫が程はかれ汝と共に居らんも、汝倒れなば決してこれを支へざるべし。 12:16敵はその口をもて美しく語り、その心にては如何にして汝を穴に陷らしめんかを謀らん。敵はまたその眼をもて泣かん。されどもし機を得なば血をもて猶飽き足らざるべし。 12:17不幸に逢ふ時、汝は其處に、汝の前に彼を見出さん。彼は汝を助くる如き樣にて汝の踵を踏まん。 12:18彼は頭を振り、手を拍ち、多く囁き、且その顏を變へん。

第13章

13:1瀝青に觸るる者は汚されん。高ぶる人と交る者はこれに等し。 13:2汝の力に過ぎて重荷を負ふな、己よりも力強く且富める者と交はるな、土の器は釜と何の交をか持たん、彼と此と打ち合はば碎かるべし。 13:3富める者は惡を行ひ、また人を脅す。貧しき者は虐げられて憐憫を求む。 13:4汝に利あれば、彼は汝を商品とし、乏しくならば、汝を捨てん。 13:5汝財産あらば彼は汝と偕に住み、汝を裸にして悔いざるべし。 13:6汝を要する時、彼は汝を欺かん。汝に微笑みて希望を與へ、巧に汝に語り、『汝何を要するや』といはん。 13:7また彼はその食事をもて汝を辱め、二度又三度汝を裸にし、終に汝を嘲り笑はん。かくて後は、汝を見て汝を棄て、汝に向ひてその頭を振らん。 13:8汝心して欺かれざるやうにし、又汝の樂をもて卑くせられざるやうにせよ。 13:9力ある人汝を招かば控えよ、さらば彼益々汝を招かん。 13:10彼に迫るな、恐くは彼汝を衝き返さん。されど遠く離れて立つな、恐くは汝忘れられん。 13:11對等に彼と語らんと願ふな、又その多くの言を信ずな、彼はその多くの言をもて汝を試み、微笑をもて汝を探らん。 13:12その語りたる言を自ら守らざる者は無慈悲なり。かかる人は憚らず人を害ひ、また縛らん。 13:13自らこれを守り、勵みて心せよ。そは汝沒落の危險に歩むべければなり。 13:14(なし)
13:15すべての生物はその同族を愛し、すべての人はその隣人を愛す。 13:16すべての肉はその類に從ひて交り、すべての人はその好む者に縋る。 13:17狼は小羊と何の交をか持たん。罪人と敬虔なる人との間もこれに等しかるべし。 13:18山狗と犬との間に何の平和かある、富める人と貧しき人との間に何の平和かある。 13:19野驢馬は荒野にて獅子の餌食となる如く、貧しき人は富める人の牧草とならん。 13:20謙遜は高ぶる人に忌まるる如く、貧しき人は富める人に忌まる。
13:21富める人倒れ始むる時、その友によりて支へらる。されど卑しき人倒るる時は、その友に見捨てらる。 13:22富める人倒るる時、助手許多あり。彼いふべからざることをいふとも人これを正しとす。卑き人倒れなば人々反つて彼を責めん。彼智慧を語るとも、何の位をも與へられず。 13:23富める人語ればすべての人默す。そのいふ所を人々雲にまで讚め舉ぐ、貧しき人語れば、人々『これは誰ぞ』といふ。もし躓かば人々手をかしてこれを倒さん。
13:24富は罪なき人には善きものなり。貧は敬虔ならぬ人の口には惡しきものなり。 13:25人の心は、善にもあれ惡にもあれ、その顏色を變ふ。 13:26快き顏色は幸福なる人の心の印なり。喩言を見出すは難き心勞なり。

第14章

14:1幸福なるかな、口を滑らさず、罪の悲をもて刺し透されざれる人。 14:2幸福るかな、その魂責められず、己が希望より落されざる人。
14:3富は吝嗇なる人に相應しからず。猜む人は金錢をもて何をなさんとするや。 14:4己が魂を離れて集むる人は他人のためにこれを集む。他人は彼の所有物をもて奢り樂まん。 14:5己に向ひて惡なる人は罪に向ひて善とならんや。彼は決してその財産によりて喜を得ざるべし。 14:6己を疑ふ者に勝りて惡しき人あらんや。此は彼の惡の報なり。 14:7彼善をなすとも、欲せずしてなすなり。終に至らば己が惡を現さん。 14:8顏を背け、人の魂を侮りつつ己が眼をもて嫉み視る人は惡なり。 14:9貪る人の眼は己が分をもて足れりとせず、悖徳の不正はその魂を涸らす。 14:10惡しき眼は糧を貪る。彼は食卓にて吝嗇なり。
14:11わが子よ、汝の才能に從ひて己に善をなし、價値ある供物を主の許に持ち來れ。 14:12記憶せよ、死はためらはざるを。墓の契約は汝に示されざるなり。 14:13汝の死ぬる前に汝の友に善をなせ。汝の力に從ひ、手を擴げて彼に與へよ。 14:14善き日のために己を欺くな、善き願の分を汝より去らしむな。 14:15汝の勞働を他人に遺さざるや、汝の勞力を籤にて分たざるや。 14:16與へよ、受けよ、汝の魂を樂ましめよ。墓にては奢侈を求むる者なければなり。 14:17すべての肉は衣の如く舊ぶ。『汝は必ず死ぬべし』とは初めよりの約束なり。 14:18茂れる樹に榮ゆる葉の如く、或ものは落ち、或ものは伸ぶ。肉と血の人の世もかくの如く、一人去りて又一人生る。 14:19いかなる業も朽ちて落つ。働き人はこれと共に去るべし。
14:20幸福なるかな、智慧を求め、その理解をもてこれを究むる人。 14:21その心に智慧の道を思ふ人は、智慧の祕密につきて知識を得べし。 14:22跡を追ふ人の如く智慧の跡を追ひ、その道にて待伏せよ。 14:23智慧の窓を窺ふ人は、その戸にて耳を傾くべし。 14:24智慧の家に近く宿る人はその壁に栓を付くべし。 14:25彼は己が天幕を智慧の許に張り、善きものの宿場に宿らん。 14:26彼はその子らを智慧の隱家の中に置き、己はその枝の下に止まらん。 14:27智慧によりて彼は暑さを避け、且その榮光の中に宿らん

第15章

15:1主を畏るるものはこれをなさん。律法を持つものは智慧を得べし。 15:2母のごとく智慧は彼を迎へ、處女なりしとき嫁ぎし妻の如く彼を受けん。 15:3悟りの糧をもて智慧はこれを養ひ、飮むべき智慧の水をこれに與へん。 15:4かれは智慧の上にとどまりて動かず、これに依り頼みて亂されざるべし。 15:5智慧は彼をその隣人の上に高め、會衆の中央にて、彼の口を開かん。 15:6かれは悦樂と歡喜の冠、および永遠の名を嗣がん。 15:7愚なる人は智慧を得ず、罪人はこれを見ざるべし。 15:8智慧は誇より遠く離る。僞者は、これを憶えざるべし。 15:9讚美は罪人の口にふさはしからず、これは主より彼に遣はされれしにあらず。 15:10讚美は智慧の口にてあらはさる。主、これを榮えしめたまわん。
15:11『わが倒れたるは主に因る』といふな、汝は主の憎み給ふ事をなすを得じ。 15:12『我を誤らしめしは主なり』といふな、主は罪人を要し給はざるなり。 15:13主はあらゆる惡を憎み給ふ。主を畏るる人々はこれを愛せざるなり。 15:14主は元始に自ら人を造り、これを助くる者の手に委ね給へり。 15:15汝もし欲せば誡を守り得べし。事に忠なるは喜ばしきことなり。 15:16主は火と水とを汝の前に置き給へり。いづれにても好むものに汝の手を延ぶべし。 15:17人の前に生と死とあり、いづれにてもその好むもの彼に與へらるべし。 15:18主の智慧は大なり。主はその力強く、すべてのものを見そなはし給ふ。 15:19その眼は主を畏るる人々の上にあり、主は人のあらゆる業を知り給はん。 15:20主は何人にも神を敬ふなと命じ給はず、又何人にも罪を犯す許可を與へ給はざりき。

第16章

16:1益なき子らの多さを望むな、又敬虔ならぬ息子らを喜ぶな。 16:2彼等増すとも、主に對する畏共にあらずば、これを喜ぶな。 16:3彼等の生活に依り頼むな、又その地位に心を傾くな、一人は千人よりも勝ることなり。子なくして死ぬるは敬虔ならぬ子らを持つに勝るなり。 16:4理解を持つ一人によりて町の人口増さん。されど不法なる人々の族は衰ふべし。 16:5かかることどもを、われ多くわが眼をもて見たり。又わが耳此よりも大なる事を聽けり。
16:6罪人らの集會の中に火燃やさるべし、從はぬ國人らの間に御怒燃えあがれり。 16:7己が力をもて背きし昔の巨人と、主は和ぎ給はざりき。 16:8主はロトのさすらいし地を赦し給はざりき。人々の誇を憎み給へるなり。 16:9主は滅亡の民を憐み給はざりき。彼等はその罪の中に携へ去られぬ。 16:10頑なる心をもて共に集れる六十萬人の歩兵をもしかなし給へり。 16:11唯一人の頸の強き者にても罰を受けてあらば、これ驚くべきことなり。そは慈悲と怒とは主と共にあり、主は力ありて赦を與へ、又その御怒を注ぎ給ふ。 16:12その慈悲の大なる如く、その懲罰も亦大なり。主はその業に從ひて人を審き給ふ。 16:13罪人は掠め奪ひて逃るるを得じ。敬虔なる人の忍耐は挫かれざるべし。 16:14主はあらゆる慈悲の業のために道を開き給はん。すべての人その業に從ひてこれを見出すべし。 16:15(なし) 16:16(なし)
16:17『我は主に隱さるべし、誰か高き處より我を憶えん、われはかかる多くの人々の間に知られざるべし、數知られぬ造られたるものの中にてわが魂は何なるぞ』といふな。 16:18視よ、天と諸天の天、深き淵と地とは、主の訪れ給ふ時搖り動かん。 16:19山も、地の基も、主の見給ふ時、共に震ひ戰くべし。 16:20此等の事を正しく思ひ得る人はなし、誰かその道を考へ得んや。 16:21迅風起らんに誰もこれを見ざるべし。實に主の御業の多くは隱さる。 16:22誰か義の業を宣べんや、誰かこれに耐へんや、その契約は遠く離る。 16:23心無き者はこれを考へ、無智にして誤られたる人は愚なることを思ふ。

16:24わが子よ、我に聽け、又知識を學べ、汝の心をわが言に傾けよ。 16:25われ秤量をもて教訓を示し、正確なる知識を告げん。 16:26主の審判によりてその業初より成る。これを造り給へる時より、主その諸の部分を整へ給へり。 16:27主はその御業に秩序を立て、權威あるものを代々に傳へ給へり。彼等は飢ゑず、疲れず、又その業を止むることなし。 16:28誰もその隣人を惱まさず、彼等は決してその御言に背くことなし。 16:29此等のことの後、主は地上を見そなはし、諸の善きものをもてこれを滿たし給ひぬ。 16:30主は地の面を、あらゆる生けるものをもて蔽ひ給へり。されば彼等は皆地に還るなり。

第17章

17:1主は土より人を創造り給ひ、再びこれを土に還し給ふ。 17:2日數と定りたる時とをこれに與へ、また地の上のすべてのものを治むる權を與へ給へり。 17:3主は己に等しき力をこれに着せ、己が像に似せてこれをつくり給へり。 17:4又主はすべての肉をしてこれを恐れしめ、獸と鳥とを治むる力をこれに與へ給へり。 17:5(なし) 17:6勸言と舌、眼と耳、また悟る心を與へ給へり。 17:7主は悟の熟練を彼等に滿たし、善と惡とをこれに示し給へり。 17:8その御業の稜威を示さんために、主はその眼を彼等の心の上に置き給へり。 17:9(なし) 17:10彼等は主の聖なる御名を讚めん、これ彼等主の御業の稜威を宣べんためなり。 17:11主は彼等に知識を加へ、生命の律法を嗣業としてこれに與へ給へり。 17:12主は彼等と永遠の契約をなし、その審判をこれに示し給ひぬ。 17:13彼等の眼はその榮光の稜威を見、その耳はその榮光ある御聲を聽けり。 17:14又これに言ひ給ひけるは、『すべての不義に心せよ』と。主は彼等に、各自その隣人につきてなすべき誡を與へ給へり。
17:15彼等の道は常に主の御前にありて、その眼より隱されざるべし。 17:16(なし) 17:17主はすべての國人に君主を立て給へり。されどイスラエルは主の分なり。 17:18(なし) 17:19そのすべて業は主の御前に日輪の如し。主の眼は絶えず彼等の上にあり。 17:20その不法は主に隱るることなし、その罪は皆主の御前にあり。 17:21(なし) 17:22人の施濟は主にとりて一つの印なり。主は人の好意を瞳の如く保ち給はん。 17:23後に主起ちて彼等に報い、彼等の報を彼等の頭に返し給はん。 17:24されど悔改むる者に答を與へ、忍耐を失はんとする者に慰藉を與へ給ふ。
17:25主に立返りて、罪を棄てよ。御顏の前に汝の祈をささげ、過を少くせよ。 17:26至高者に來りて、不法より遠かり、憎むべきものをいたく憎め。 17:27陰府に在りては誰か生ける人々に代りて、至高者を讚美し、且これに感謝せん。 17:28在らざる者なれば死人には感謝なし。生きて確かなるものは主を讚美せん。 17:29主の御慈悲と、主に歸る人々への御教は如何に大なるかな。 17:30すべてのものは人々の中に在り得ず、そは人の子は死なぬものにあらざればなり。 17:31何ものか日よりも明るき、しかもこれ猶滅びん、況して肉と血との傾向ある人をや。 17:32主は天の高き處にある萬軍と、土と塵なるすべての人とを見そなはし給ふなり。

第18章

18:1永遠に生き給ふ者はすべてのものを均しく造り給へり。 18:2唯主のみ義とせられ給ふ。 18:3(なし) 18:4主は誰にもその御業を宣ぶる力を與へ給はず、誰かその力ある御働を探り得ん。 18:5誰か主の稜威の力を宣べ得ん、誰かその諸の慈悲を數へ得ん。 18:6誰も取り、また加ふる能はず、誰も主の驚くべき御業を探る能はず。 18:7人終りたる時は始めたるに過ぎず。その止むる時は困惑の中にあり。 18:8人は何なるか、何の用か彼にある、その善は何なるか、又その惡は何なるか。 18:9人の齡は多くとも百歳なり。 18:10海の水の一滴の如く、濱の眞砂の一粒の如く、永遠の日にありては人生の數年は無きに均し。 18:11されば主は人のために永く忍び、その慈悲をこれに注ぎ給へり。 18:12主は彼等の終を見、その惡なるを知り給ふ。されば主はその御赦を増し給ふ。 18:13人の慈悲はその隣人の上にあり。されど主の慈悲はすべての肉の上にあり。主はこれを戒め、懲し、また教へ、牧者の如くその群を伴ひ歸り給ふ。 18:14その懲戒を受け、勵みてその審判を求むる者に、主は慈悲を垂れ給ふ。
18:15わが子よ、善き行爲を汚すな。供物をなす時、快からぬ言を用ふな。 18:16露は燒くる熱を消すにあらずや、かくの如く一つの言は供物よりもよし。 18:17見よ、言は善き供物に勝るにあらずや。されど憐ある人は二つを持つ。 18:18愚なる者は憐なく人を責め、嫉む人の供物は眼を衰へしむ。
18:19語る前に學べ、病む前に醫せ。 18:20審判の前に己を省みよ、さらば眷顧の時に赦免を蒙るべし。 18:21病にかかる前に自ら謙れ、罪を犯す時悔改を示せ。 18:22時に臨みて誓約を果たすを何者にも妨げしむな。義とせらるるを死に至るまで待つな。 18:23誓ふ前に汝の誓約を備へよ、主を試むる者の如くすな。 18:24終の日の御怒を思へ、また御顏を背け給ふ復讐の時を思へ。 18:25滿ち足れる日に飢饉の時を、富める日に貧しきと乏しきとを思へ。 18:26朝より夕に至るまで時は移り、すべてのものは主の御前に走る。 18:27智者はすべてのことに恐れ、罪を犯さんとする時、これを犯さざるやう心す。 18:28理解ある人はすべて智慧を知り、これを見出すものに感謝せん。 18:29言に慧き者は自ら智くなりて、よき箴言を注ぎ出す。
18:30汝の情慾を追ふな、食慾より己を遠けよ。 18:31慾望の滿足を汝の魂に許さば、敵の前に笑草とせられん。 18:32多く奢り樂むな、又その費用に縛らるな。 18:33汝の財布に一錢もなき時、借りし金もて酒宴を開きて、乞食となるな。

第19章

19:1酒に醉ふ勞働人は富むことなからん。小事を輕んずる者は少しづつ倒れ行くべし。 19:2酒と女は悟ある人をも墮落せしめん。遊女に溺るる者は無恥に過ぐ。 19:3蠧と蟲かれを喰ひ、その無恥なる魂滅されん。
19:4急ぎて人を信頼するものは輕率なり。罪を犯す者は己が魂に向ひて犯すなり。 19:5心にて樂む者は責めらるべし。 19:6語ることを嫌ふ者は過少し。 19:7汝に語らるることを繰り返へすな、さらば不利益を來たすことなからん。 19:8友にも敵にもこれを語るな、又汝にとりて罪とならずばそれを表はすな。 19:9そは彼は汝に聽き、汝を見、時至らば汝を憎まん。 19:10汝何事をか聽きし、それを葬れ、心を強くせよ、それは汝を引き裂かざるべし。 19:11愚なる者は言の故に惱む。女の、その子のために産の苦をなすが如し。 19:12矢の、肥りたる腿を刺す如く、言は愚なる者の腹を刺す。
19:13友を戒めよ、かれ或はそれをなせしにあらざらん。もし何事かをなせしならば、再びこれをなさざるべし。 19:14友を戒めよ、かれ或はそれを言ひしにあらざらん。もし言ひしならば、再びいはざるべし。 19:15友を戒めよ、讒言しばしば起らん。されどすべての言を信ずな。 19:16心よりにあらで口滑る人あり。その舌をもて罪を犯さざるは誰ぞ。 19:17汝の隣人を嚇す前に、まづ戒めよ。いと高き者の律法に所を得さすべし。 19:18(なし) 19:19(なし)
19:20すべての智慧は主を畏るることなり。すべての智慧に律法の成就あり。 19:21(なし) 19:22されど惡の知識は智慧にあらず。罪人の勸言は悟にあらず。 19:23惡あり、こは憎むべきものなり。又智慧を缺く愚人あり。 19:24少しの悟ありて恐るる人は、多くの思慮ありて律法を犯す人に勝る。 19:25巧なれども正しからざる技巧あり。審判を得んために好意を曲ぐる者もあり。 19:26惡をなし、悲みて首を垂るるも、心には僞の滿つる者あり。 19:27その顏を伏せ、片耳の聾者の如くすとも、知られざる處にては、汝を利用すべし。 19:28力足らざるため、罪を犯すを妨げらるとも、機を得ば惡をなす者あり。 19:29人はその外見によりて知らる。汝見る時、智者はその顏によりて知られん。 19:30人の服裝、齒の笑、又歩方は、そのいかなる人なるかを示す。

第20章

20:1過ぎたる戒あり、沈默を守るはむしろ智し。 20:2怒るよりは戒むる方いかにもよきかな。されど告白をなす者を辱しむな。 20:3(なし) 20:4暴力をもて審判を行ふ者は、情慾をもて處女を汚す閹人の如し。 20:5沈默を守りて慧しと見らるる者あり。又その言葉多きために憎まるる者もあり。 20:6答をなすに及ばざれば沈默を守るものあり。その時を知る故に沈默を守る者もあり。 20:7智者は時の來るまで沈默を守るべし、されど呟く者および愚かなる者はその時を見過さん。 20:8言多き者は嫌はるべし、己に權威を取る者は憎まれん。
20:9不幸の中に居る人に幸福の來ることもあり、利益の、損失に變ることもあり。 20:10汝を益せざる贈物もあり、その返禮二倍となる贈物もあり。 20:11名譽に因りて來る恥辱もあり、低き身分よりその頭を高めらるる人もあり。 20:12僅少のものをもて多くのものを買ひ、それを七倍にして返す者もあり。 20:13言に慧き者は愛せらるべし、されど愚人の戲言は流されん。 20:14愚人の贈物は汝を益せざるべし。彼の眼は一つにあらず、多ければなり。 20:15彼は全く與へて多く責む。口を開けば廣告人の如し、今日貸して明日徴らん。かかる人は憎むべき者なり。 20:16愚なる者はいはん『我は友をもたず、我にはわが善行を謝するものなし、わが糧を食ふ者は惡しき舌をもつ』と。 20:17いかに屡、又いかに多くの人、かく言ひて、人に嘲られしぞ。
20:18舖石に滑るは舌の滑に勝る。かくの如く惡人の沒落速に來らん。 20:19粗野なる人は時を辨へぬ談話の如し、それは絶えず無知なる人の口にあらん。 20:20愚人の口より出づる喩言は却けらるべし、時を外れていへばなり。
20:21或人は機を失ひて罪を妨げらる、その休む時何の煩悶もなし。 20:22或人は恥辱の故にその生命を滅し、又その愚なる顏によりてこれを滅さん。 20:23或人はまた、恥辱のために友と約束し、理由なくして彼を敵となす。
20:24僞は人の中の醜き汚點なり。それは絶えず無知なる人の口にあらん。 20:25盜人は絶えず僞る人に勝る。されど彼等はいづれも滅を嗣がん。 20:26僞人の性質は恥づべきものなり。その恥辱は常に彼とともにあり。
20:27智者は言をもて己を進め、賢き人は大なる人々を喜ばすべし。 20:28己が土地を耕す者は、その收穫物を高く積みあげ、大なる人々を喜す者はその不法につきて赦を得ん。 20:29供物と贈物とは智者の眼を眩し、口の謎の如く戒を退く。 20:30隱れたる智慧も、眼に見えざる寶も、これに何の益かあらん。 20:31その愚を隱す人はその智慧を隱す人に勝る。

第21章

21:1わが子よ、汝は罪を犯したるか、猶これに加ふな、又汝の以前の罪のために赦を求めよ。 21:2蛇の顏より逃るる如く、罪より逃れよ、これに近かば噛まれん、その齒は獅子の齒にして人のたましひを殺すなり。 21:3すべての不法は兩刄の劍の如く、その傷には醫の道なし。
21:4虐と烈しき力とは富を荒すべし、かくて高ぶる人の家は荒れ廢れん。 21:5貧しき人の口より出づる歎願は神の耳に入り、その審判速に到る。 21:6戒を憎む者は罪人の路にあり。主を畏るる者は心より立ち歸るべし。 21:7舌に強き者は遠くより知らるれど、悟ある人はその滑る時にこれを知る。
21:8他人の金錢にて家を建つる人は、己の墓のために石を集むる人の如し。 21:9惡人の集會は包まれたる麻屑の如し、その終は火なり。 21:10罪人の道は石をもて滑にせられ、その終は陰府の穴なり。
21:11律法を守る者は、その趣旨もて治むる者となる。主に對する畏の成就は智慧なり。 21:12賢からざる者は教へられじ、されど苦きを増す賢さもあり。 21:13智者の知識は洪水の如く溢れ、その助言は火の泉の如くなるべし。 21:14愚人の心の中は破れたる器の如く、何の知識をも保たざるべし。
21:15知識ある人もし智き言を聽かば、これを人に薦め、又これに加ふべし。されど放蕩なる人これを聽かば快からず思ひ、これをその後に捨つべし。 21:16愚なる人の談話は道行く時の重荷の如し。されど智者の唇には喜見出さるべし、 21:17思慮深き人の口は集會の中にて求めらるべし、人々は彼の言をその心のに思ひ囘らさん。
21:18智慧は愚なる者にとりては破られたる家の如し。智からざる人の知識は、意味なき話の如し。 21:19教訓は悟なき人にとりては足桎の如く、右の手の手桎の如し。 21:20愚なる者は笑をもてその聲を舉ぐ、されど慧き人は靜なる微笑だもせざるべし。 21:21教訓は悟ある人には黄金の裝飾の如く、右の手の腕輪の如し。
21:22愚なる者の足は速に他人の家に入る、されど經驗ある人は入ることを恥づべし。 21:23愚なる者は他人の家の戸より内を窺ふ、されど教を受けし人は外に立たん。 21:24戸にて聽くはその人の教の缺けたるに因る。されど悟ある人は恥辱のために悲むべし。 21:25見知らぬ人の唇は此等の事によりて悲まん。されど悟ある人の言は重くして量を超ゆ。
21:26愚人の心はその口にあり。されど智者の口はその心にあり。 21:27敬虔ならぬ人のサタンを呪ふは、己が魂を呪ふなり。 21:28私語は己が魂を汚し、その到る處にて憎まるべし。

第22章

22:1怠る人は汚れたる石に似たり。人は皆これを咎め、また辱しむべし。 22:2怠る人は糞堆の汚穢の如く、これに觸るる人は皆その手を振らん。
22:3教養なき子を持つ父に恥辱あり。愚なる娘はその損失なり。 22:4聰き娘は己が夫を得べし。されど恥を來らしむる娘はこれを産みし者の憂なり。 22:5不敵なる娘は父と夫とに恥を蒙らしめ、その雙方より輕しめらるべし。 22:6時節外れし話は喪の音樂の如し、されど鞭と矯正とはいかなる時にても智慧なり。
22:7愚なる者を教ふる人は、土器の破片を糊附にするが如く、又眠れる者をその熟睡より覺すが如し。 22:8愚なる者に語るは眠れる者に語るが如く、終に彼は『そは何なるか』といはん。 22:9(なし) 22:10(なし) 22:11死者のために泣け、そは光彼を離れたればなり。愚なる者のために泣け、そは悟彼を離れたればなり。死者のために靜に泣け、そは彼安息を得たればなり。されど愚なる者の生命は死にも劣る。 22:12死者のための喪は七日なれど、愚なる者と敬虔ならぬ者とのためには一生涯喪なり。
22:13愚なる者と多く語るな、悟なき人に行くな、これに心せよ、恐くは汝苦められん。汝はその攻撃にて汚さるべきにあらず。彼より離れよ、さらば汝休を得、その狂氣のために惱まさるることなかるべし。 22:14鉛より重きものは何ぞ、その名は『愚人』にあらずして何ぞ。 22:15砂も鹽も、また鐵の塊も、悟なき人よりも、負ふに易し。
22:16建物を廻らし、これに結び付けたる木材の、地震によりて緩められぬ如く、よき助言によりて建てられたる心は危き時にも恐れざるべし。 22:17思慮深き理解の上に据ゑられたる心は、研かれたる壁の上の彫刻の飾の如し。 22:18高き處にある柵は風に逆ひて立つこと能はざる如く、愚なる者の想像にて恐るる心は、如何なる恐に對ひても立つこと能はざるべし。
22:19眼の傷は涙を流れしめ、心の傷は友情を斷つ。 22:20小鳥に石を投ぐる者はこれを驚かし、友を謗る者は友情を消す。 22:21友に逆ひて劍を拔くとも失望すな、其處を出づる道あればなり。 22:22友に逆ひて口を開くとも恐るな、和睦の道あればなり。されど誹謗、尊大、密事の暴露、また騙討、此等のものの前にはいかなる友も去らん。
22:23貧に居る汝の友を信ぜよ、その榮ゆる時喜ばんためなり。その苦難の時には確くこれに縋れ、ともにその嗣業を嗣ぐを得べし。 22:24火の前に爐の蒸氣と烟とあり。此の如く血を流す前に罵詈あらん。 22:25我は友をかばうを恥ぢず、又己をその顏より隱さざるべし。 22:26汝のために彼に禍起らば、誰にてもこれを聽くもの汝に告げん。
22:27これによりてわが落つることなく、又わが舌我を滅さざらんがために、何人か我が口に門守を、我が唇に堅き封印を置かんことを。

第23章

23:1ああ主よ、わが父、わが生命の師よ、我を彼等の謀に委ね給ふ勿れ。彼等によりてわが倒るるを許し給ふ勿れ。 23:2我が思想に鞭をあて、わが心に智慧の懲戒を加ふるは誰ぞ。彼等はわが無知のために我を赦さず、又我が罪を看過さず。 23:3これわが無知増し、わが罪加はらざらんためなり。恐くはわれ、わが仇の前に倒れ、わが敵わがために喜ばん。 23:4ああ主よ、わが父、わが生命の神よ、われに高ぶれる眼を與へ給ふ勿れ。 23:5情慾をわれより取り去り給へ。 23:6貪婪と淫行とに我を捕へしめず、恥知らぬ心を我に與へ給ふ勿れ。
23:7わが子らよ、口の懲戒を聽け、これを保つものは罠に陷らざるべし。 23:8罪人はその唇によりて捕へられ、罵る者、又高ぶる者はこれによりて躓くべし。 23:9汝の口を誓約に慣すな。聖者の御名を呼ぶ習慣を作るな。 23:10絶えず鞭打たるる僕は打たれし傷を缺く時なきが如く、絶えず誓ひ、聖者の御名を呼ぶ者は罪より潔めらるることなかるべし。 23:11誓約多き人は不法にて滿ち、鞭その家を離れざるべし。彼犯さば罪彼の上にあり、彼これを看過さば罪二重となる。要なきに誓はば正しとせられず、その家災禍をもて滿されん。 23:12死に比ぶべき言のいひ方あり、ヤコブの嗣業の中にこれを見出さしむな。敬虔なる人よりすべて此等のものは取り去られ、彼等は罪の中に悶えざるべし。 23:13汝の口を醜き言に慣すな。その中に罪あればなり。 23:14大なる人々の中に坐する時、汝の父と母とを憶えよ。恐くは汝彼等の間に躓き、その言をもて己の愚を示し、生れざりしことを願ひて、己が誕生の日を呪ふに至らん。 23:15恥づべき言に慣れし人は生命終るまで智慧を學ばざるべし。
23:16二種の人、罪を増し加へ、第三の人は怒を來らす。情慾の心は火の如く燃え、燃え盡さずば消えず。肉體の淫を行ふ者は、火を燃し終らずば決して止めざるべし。 23:17淫を行ふ者にとりてすべての糧甘し、死ぬるまで彼はこれを止めざるべし。 23:18己が床を迷ひ出づる人は心にいふ『誰か我を見ん、暗闇我が周圍にあり、壁我を隱し、我を見る人なし、我誰をか恐れんや、至高者も我が罪を憶えざるべし』と。 23:19人々の眼は彼の恐なり。而して彼は、主の眼は日よりも一萬倍明く、人々のすべての道を見、隱れたる所をも見ることを知らず。 23:20萬の物はその造らるる前に主に知られたり、その全うせられたる後にも主これを見給ふ。 23:21かかる人は町の街衢にて罰せられ、その思はざりし處に取り去られん。 23:22その夫を去り、他人によりて嗣子を舉ぐる妻も亦同じ。 23:23第一には彼は至高者の律法に從はず、第二に己が夫に向ひて罪を犯し、第三に私通をもて姦淫を行ひ、他人によりて子を産めり。 23:24彼は會衆の前に伴れ來られ、其の子等も檢視を受けん。 23:25その子らは根を張るべからず、その枝も果を結ばざるべし。 23:26その呪は記憶に殘り、その責は消えざるべし。 23:27かくて後に遺されたる人々は、主に對する畏より善きはなく、主の誡に心を用ふるより美しきはなきを知らん。 23:28(なし)

第24章

24:1智慧は己が魂を讚めたたへん。その民の中にて自らを崇めん。 24:2至高者の集會の中にて智慧はその口を開き、主の萬軍の前にて自らを崇めん。 24:3我は至高者の口より出で來り、霧の如く知を蔽へり。 24:4高き所にわれわが住處を定めぬ。わが地は雲の柱の中にありき。 24:5獨われのみ天の周圍を巡り、淵の深き處を歩めり。 24:6海の浪も、地上の萬物も、あらゆる民も國も、皆我が所有なり。 24:7すべて此等のものをもてわれ休を求めぬ。誰が嗣業の中にわれ宿らん。 24:8その時萬物の創造主われに誡を與へ、われを造り給へるもの、わが休むべき幕屋を造りて、言ひ給へり『汝の幕屋はヤコブの中に、汝の嗣業はイスラエルの中にあるべし』と。 24:9主は創世の前に我を造り給へり、終に至るまでわれ滅びざるべし。 24:10聖なる幕屋にてわれ主の御前に仕へぬ。かくてわれシオンに建てられたり。 24:11主は又此の愛する町にて我に休を與へ給へり。エルサレムにわが權ありき。 24:12光榮ある民の中に、即ち主の嗣業の分の中に、われわが基を据ゑたり。 24:13我はレバノンの香柏の如く、ヘルモンの杉の如く高められぬ。 24:14われは海邊の棕櫚の如く、エリコの薔薇の如く、野の美しきオリブの如く高められたり。 24:15肉桂とアスパラトの如く、オニクスの如く、スタクテの如く、又幕屋の中なる烟る乳香の如くなりき。 24:16テレビントの如くわれ我が枝を張りぬ。わが枝は榮光と恩惠の枝なり。 24:17葡萄の、喜を與ふる如く、わが花は光榮と富との果なり。 24:18(なし) 24:19我に來れ、汝らわれを求むる者よ。わが生産にて滿たされよ。 24:20わが記念は蜜よりも、わが嗣業は蜜蜂の巣よりも甘し。 24:21われを食ふ人々は猶我に向ひて飢ゑ、我を飮む人々は猶我に向ひて渇かん。 24:22我に從ふ者は辱められず、我にありて業をなす者は過たざるべし。
24:23此等はすべて至高き神の契約の書、即ちモーセがヤコブの集會への嗣業として我らに命ぜし律法なり。 24:24(なし) 24:25主は智慧をピソンの如く豐にし給ふ。又これを新しき果實期のチグリスの如くし、 24:26ユフラテの如く悟に滿たしめ、また收穫期のヨルダンの如くし、 24:27葡萄期のギホンと等しく、教訓を光の如く輝き出でしめ給ふ。 24:28始の人は少しも智慧を知らざりし如く、終の人も亦これを見出す能はざるべし。 24:29そは智慧の悟は海よりも滿ち足り、智慧の謀は淵よりも深ければなり。
24:30我は河よりの流の如く、園への渠の如く來りぬ。 24:31我いへり『我はわが園に水灌ぎ、わが庭牀に豐に水灌がん』。見よ、わが流は河となり、わが河は海となりぬ。 24:32我は教訓を朝の如く照出でしめ、これを遠くまで輝き渡らしめん。 24:33我は猶、教訓を預言の如く注ぎ出し、これを代々とこしへに遣さん。 24:34見よ、われは己のためにあらず、勵みて智慧を求むるすべての人々のために勞せり。

第25章

25:1われ三つのものによりて美しくせられ、主と人々との前に美しく立ちぬ。それは兄弟の一致と隣人の友情、及び夫婦相和して共に歩むことなり。 25:2されどわが魂は三種の人を忌み、彼等の生くるによりていたく害はれぬ。即ち誇り高ぶれる貧しき人、僞者なる富める人、及び悟なき多淫なる老人これなり。
25:3若き日に汝は集めざりき。いかで老いたる時にこれを得んや。 25:4審判は白髮にとりて、計畫を知るは長老にとりて、いかに美しきかな。 25:5老いたる人の智慧と、崇めらるる人の思想と計畫とはいかに美しきかな。 25:6深き經驗は老いたる人の冠なり。彼等の光榮は主を畏るることなり。
25:7わが思ひめぐらしし九つの事ありて、わが心幸福なり。第十はわれわが舌をもてこれを言はん。己が子らの喜をもつ人。生きてその敵の沒落を見る人。 25:8幸福なるかな、悟ある妻と偕に住む人。その舌を滑らさざりし人。己に相應しからざる人に仕へざりし人。 25:9幸福なるかな、悟を得し人。聽く人の耳に教訓を語る人。 25:10いかに大なるかな、智慧を得し人。されど何人も主を畏るる人の上には出でじ。 25:11主に對する畏は萬物の上にあり、これを保つ人を誰に教ふべき。 25:12(なし)
25:13心の病にあらずば、いかなる病にてもよし。女の惡にあらずば、いかなる惡にてもよし。 25:14我を憎む者よりの禍にあらずば、いかなる禍にてもよし。敵の復讐にあらずば、いかなる復讐にてもよし。 25:15蛇の頭に勝る頭はなく、敵の怒に勝る怒はなし。
25:16獅子及び龍とともに住むは、惡しき女とともに家を保つよりも善し。 25:17女の惡はその外見を變へ、熊の如くその顏を暗くす。 25:18その夫は隣人と食卓に坐せんに、これを聽かばいたく歎くべし。 25:19すべての惡意は女の惡意に比ぶれば小し、罪人の分前彼の上に落つべし。 25:20靜なる人の言多き女に向ふは、老いたる人の砂道を登り行くが如し。 25:21女の美しさに己が身を投げかくな、その美貌をもて女を求むな。 25:22女その夫を支へなば、怒と無恥と、大なる非難あるべし。 25:23惡しき女は心の恥、顏の悲、また傷けられし心なり。その夫を幸福ならしめぬ女は垂れ下りたる手、麻痺せる膝なり。 25:24罪の初は女にありき。彼のために我等は皆死ぬるなり。 25:25水に出口を與ふな、惡しき女に言の自由を與ふな。 25:26去らしめんとする時、もし聽かずば、これを汝の肉より斷て。

第26章

26:1良き妻の夫は幸福なり。その齡は二倍とならん。 26:2賢き女はその夫を喜ばしむ、彼はその生涯を平和をもて滿さん。 26:3良き妻は良き分前なり、即ち主を畏るる人々への分前として與へられん。 26:4富めるにもせよ貧しきにもせよ、人善き心を持たば、その顏は常に喜に溢れん。
26:5三つのことをわが心は語る。第四のことにつきて、われ祈願をなせり。町の謗、群衆の集、また僞の告發、これ等はすべて死よりも恐し。 26:6他の女を嫉む妻と、すべての人に惡を傳ふるその舌の鞭は心の憂、また悲なり。 26:7惡しき女は其處此處と搖り動く牡牛の軛の如く、これを捉ふる者は蠍を握るがごとし。 26:8酒に醉ふ女は大なる怒を起し、己が恥をも蔽はざるべし。 26:9女の淫行はその眼を揚ぐる時にあり、それはその瞼によりて知らるべし。 26:10頸の強き娘をば嚴しく見張りせよ、恐くは彼己が自由を見出してこれを用ひん。 26:11愼なき眼に心せよ、汝にむかいて罪を犯すとも驚くな。 26:12渇きたる旅人のその口を開き、傍にある水を飮み盡すが如く、かかる女はあらゆる處に坐し、箙を開きていかなる矢をも取らん。
26:13妻の美徳はその夫を喜ばせ、その知識は彼の骨を太くすべし。 26:14靜なる女は主の賜物なり、よく教へられし魂の如く貴きはなし。 26:15恥を知る女は淑にも淑なり。自ら抑ふる魂の價値は限りなし。 26:16主の至高所に昇る朝日の如く、家を整ふる良き妻は美はし。 26:17聖なる燈明臺に輝く燈の如く、よく育ちたる女の顏は美はし。 26:18銀の臺に据ゑられし金の柱の如く、健なる踵の上の足は美はし。 26:19(なし) 26:20(なし) 26:21(なし) 26:22(なし) 26:23(なし) 26:24(なし) 26:25(なし) 26:26(なし) 26:27(なし)
26:28二つのもののために我が心は憂ふ、第三のもののためには怒わが上に來る。貧しきために苦む軍人、廢人と見做さるる聰き人、義より罪に歸り行く人、主は彼のために劍を備へ給はん。
26:29商人は惡しき行爲より己を守ること難く、小賣人も罪を免さるることなからん。

第27章

27:1多くの人は利のために罪を犯したり。利を増さんことを求むる人はその眼を背く。 27:2石と石との繼目には確く刺さるる釘の如く、罪は買方と賣方との間に刺し入る。 27:3若し人勵みて主に對する畏を捉へずば、その家はすみやかに覆されん。
27:4篩にふるわるる時、ものの滓殘る如く、思想を練る時、人の汚物殘らん。 27:5爐は陶器師の作る器を試む、人の試はその思想にあり。 27:6樹の果はその栽培を語る如く、人の言はその心の思想を語る。 27:7その思想を聽く前に人を讚むな、これは人の試なればなり。
27:8もし義を求めなば汝これを得て、光榮ある長き衣の如く着るべし。 27:9小鳥はその類に從ひて共に棲む。眞理はこれを行ふ人に歸らん。 27:10獅子のその餌食を待ち望む如く、罪は不法を行ふ人々を求む。
27:11敬虔なる人の談話には常に智慧あれども、愚なる人は月の如く變る。 27:12愚なる者の中にあらば心を用ひて時を窺へ、されど思慮ある人と共にあらばいつまでも留るべし。 27:13愚なる者の談話は煩はしく、その笑は罪深き放蕩なり。 27:14多く誓ふ人の言は頭髮を逆立たしめ、その爭は人の耳を掩はしむ。 27:15誇る者の爭は血を流すにいたり、その罵は聽くものを憂へしむ。
27:16祕密を發く者は信用を失ひ、その心に友を得ざるべし。 27:17友を愛し、これを信ぜよ。されど若し汝その祕密を發かば彼を追ふな。 27:18そは敵を滅せる人の如く、汝隣人の友情を害ひたればなり。 27:19手より放ちし小鳥の如く、汝はその隣人を去らしめ、再びこれを捕ふな。 27:20これを追ふな、彼は遠く去り、罠を免れたる鹿の如く逃る。 27:21傷の包まるる如く、讒謗は和げらるべし。されど祕密を發くものには望なし。
27:22眼をしばたたくものは惡事をたくらみ、誰も彼もこれより遠ざくることなからん。 27:23汝の眼の前にはその口美はしく語り、汝の言に驚くとも、やがてその口を變へ、汝の言をもて反つて躓となさん。 27:24わが憎む多くのものの中に彼の如きはなし、主もまた彼を憎み給はん。
27:25天に向ひて石を投ぐる者は己が頭の上にこれを投ぐるなり。僞の打撃は傷を負はしむべし。 27:26穴を掘るものは自らこれに陷らん、罠を据うるものは自らこれにかからん。 27:27惡事を行ふ者には、その惡事己が上に轉り來らん、彼はその何處より來れるやを知らざるべし。 27:28嘲と罵とは高ぶるものより來り、復讐は獅子の如くこれを待伏す。 27:29敬虔なる人々の倒るるを喜ぶものどもは罠にかけられ、その死の前に苦惱これを喰ひ盡さん。
27:30怒と憤、これも亦憎むべきものにて、罪人の所有なり。

第28章

28:1復讐する者は主によりて復讐せらるべし。主はその罪を憶え給はん。 28:2隣人より受けし損害を赦さば祈る時汝の罪赦さるべし。 28:3他人に向ひては怒りつつ、主より醫を求め得るか。 28:4己に等しき人を憐まずば、いかで己が罪のために祈り得べき。 28:5自ら肉にして猶怒を起さば、誰かその罪のために贖をなさん。 28:6汝の臨終を思ひて敵意を捨てよ。死と腐敗とを思ひて誡に居れ。 28:7誡を憶えて隣人を怒るな、至高者の契約を憶えて無知を看過せ。
28:8爭より遠ざかれ、さらば汝の罪を少くするを得ん。怒り易き人は爭を起す。 28:9罪深き人は友を惱まし、平和なる人々の中に讒謗を投ぐ。 28:10薪の火に從ひて燃ゆる如く、爭も激しさに從ひて増さん。人は力に從ひて、怒を起す如く、富に從ひてまた怒を増さん。 28:11急ぎて初められし爭は火を燃やし、忙しき鬪は血を流すに至らん。 28:12火花を吹かば燃えあがり、これに唾せば消えん。二つとも汝の口より出づ。
28:13私語者と兩舌の者とを呪へ、彼等は多くの平和なる人々を滅せり。 28:14第三のものの舌は多くの人を震ひ動かし、彼等を國より國へ散らしめぬ。強き町もこれによりて滅され、大なる人の家もこれによりて覆へされたり。 28:15第三のものの舌は勇氣ある女を投げ出し、彼等よりその働を奪ひぬ。 28:16これに心を用ふるものは休を得ず、又靜なる處に住むを得ざらん。 28:17鞭にて打たば痕を作らん、舌にて打たば骨をも碎かん。 28:18劍の刄によりて、多くの人仆れたり。されど舌によりて仆れたる人の如く多からず。 28:19幸福なるかな、舌より掩ひ護られ、その怒の中を過ぎず、その軛を引かず、その綱をもて縛られざる人。 28:20その軛は鐵の軛にして、その綱は銅の綱なり。 28:21その死は惡しき死にして、陰府反つて、これに勝れり。 28:22されどもそれは敬虔なる人にとりては何の力もなし、彼等はその焰によりて燒かれざるべし。 28:23主を棄つる者はその中に陷らん。焰彼等の中に燃えあがりて消されざるべし、それは獅子の如く彼等に遣され、豹の如くこれを滅さん。 28:24荊棘をもて汝の所有物に籬を施し、汝の銀と金とを縛れ。 28:25汝の言の重さを量り、汝の口に戸と閂とを造れ。 28:26これによりて滑らぬやう心せよ、恐くはなんぢ、罠をかくる者の前に仆れん。

第29章

29:1隣人に貸すものは親切を示し、その手をもて彼を強めし者は誡を守る。 29:2必要の時に隣人に貸し、定められたる時に隣人に返せ。 29:3汝の言を確くし、人との信用を保て。さらば汝は常に己が求むるものを得べし。 29:4多くの人借りしものを風に吹き落されし果實の如く思ひ、己等を助けし人々を惱ますなり。 29:5これを受くるまでは汝の手に接吻し、己が隣人の金錢につき謙りて語る。されど支拂の時來れば期限を延し、重き言を用ひ、時の短きをかこつ。 29:6貸主勝つ時にても辛うじて半を受け、これを拾ひものの如く思はん。然らざる時はその金を奪はれしにて、理由なく互に敵となる。その人呪と罵とを彼に返し、名譽に代へて恥辱を返さん。 29:7多くの人かかる惡のために貸すことを避け、徒らに欺かれんことを恐る。 29:8されど卑き人に向ひては忍耐し、これに施濟を待たしむな。 29:9誡のために貧しき人を助け、その必要に從ひて、これを空しく去らしむな。 29:10兄弟又は友のために金錢を失へ、石の下にこれを置き、錆びしめて失ふな。 29:11至高者の誡に從ひて汝の寶を積め、さらばそれは黄金にも増して汝を益せん。 29:12汝の岸に施物を貯へよ、これは汝をすべての惱より救はん。 29:13強き楯、重き鎗にも勝りてこれは汝を敵に勝しめん。
29:14善人はその隣人に向ひて保證人となる、されど恥辱の心を失ひたる者はこれを避く。 29:15保證人の親切を忘るな、彼はその生命を汝に與へたるなり。 29:16罪人は保證人の財産を滅す。 29:17恩を忘れし者は己を助けたる人を無視にす。 29:18保證は多くの豐なる人々を落魄れしめ、海の浪の如くこれを搖り動かし、富める人々をその家より追ひ出して異國に流離はしめたり。 29:19保證にて失敗し、事業にて利を得んとする罪人は訴へらるべし。 29:20己が力に從ひて汝の隣人を助け、自ら倒れざるやうに心せよ。
29:21生くるに無くてならぬは、水とパン、又裸體を蔽ふ衣と家となり。 29:22丸木小屋に住む貧しき人の生活は他人の家の奢りたる饗應に勝る。 29:23小なるにも大なるにも滿足せよ。 29:24家より家に移り行く生活は慘し、旅人として居る處にては、汝は己が口をも開かざるべし。 29:25ねぎらい、又酒を飮ましめて、しかも汝は感謝を受けず。 29:26『ここに來れ、旅人よ、食卓を備へよ、汝の手に何ものか持たばそれをもて我を養へ。』 29:27『旅人よ、名譽の坐より出で行け。我が兄弟わが客として來る。われはわが家を要す。』 29:28室借の難題と金貸の誹謗。これは思慮ある人には厭はしきことなり。

第30章

30:1子を愛する者は絶えずこれを鞭打たん。終にその喜を得んためなり。 30:2その子を懲しむる者はこれを益し、その知人の間に彼につきて誇らん。 30:3その子を教ふる者は敵に嫉を起さしめ、友の前に彼のために喜ばん。 30:4その父は死ぬとも、死なぬが如し。その後に己の如き人、一人を遺せばなり。 30:5その生ける間これを見て喜び、死ぬる時にも悲まず。 30:6彼はその敵に仇を報ゆる者、その友に恩を返す者を、己が後に遺す。 30:7その子を甘えさす者は己が傷をつつみ、子の叫ぶ毎にその心を煩はさん。 30:8馴らさぬ馬は強情となり、我が儘なる子は頑固となる。 30:9子を甘えしめば、かれ汝を恐れしめ、共に遊ばば汝を憂へしめん。 30:10彼と共に笑ふな。恐くは汝かれと共に悲み、終には切齒するに至らん。 30:11その若き時これに自由を與ふな、又その愚を見逃すな。 30:12若き時その首を壓へ、幼き時その脇を打て、恐くは彼頑固になりて汝に從はず、汝の魂を惱ましめん。 30:13汝の子を懲し、彼のために苦心せよ、その恥知らぬ行爲汝を怒らしめざらんためなり。
30:14その體格強く、健なる貧しき人は、その身體弱き富める人に勝る。 30:15健康と善き體格とはすべての黄金に勝り、強き身體は限りなき富に勝る。 30:16身體の健さに勝る富はなく、心の喜に勝る歡はなし。 30:17死は苦き生命に勝り、永遠の安息は絶えざる疾病に勝る。 30:18塞がれし口の上に注がれたる善きものは墓の上に置かれし食物の如し。 30:19供物は偶像に何の益あらんや。食ふことも嗅ぐことも能はず。主によりて苦めらるる者も此の如し。 30:20處女を抱きて呻く閹人の如く、眼に見て呻くなり。
30:21汝の魂を悲哀に付すな。汝の計畫をもて己が身を惱すな。 30:22人の生命は心の喜なり、高き齡は人の歡なり。 30:23汝の魂を愛し、汝の心を慰め、また悲哀を汝より遠けよ。悲哀は多くの人を滅し、その中に何の益なし。 30:24嫉と怒とは人の齡を短くし、煩悶は時來る前に人を老いしむ。 30:25快活なる善き心は飮食に意を用ふべし。

第31章

31:1富のための警戒は肉體を衰へしめ、その思煩は睡眠を奪ふ。 31:2眠らざる思煩は睡眠を求めしめ、重き病は不眠に陷らしむ。
31:3富める人は財を集めんとて勞し、その休む時善きものをもて滿さる。 31:4貧しき人はその乏しき財をもて勞し、その休む時猶乏し。 31:5黄金を愛する者は正しとせられず、滅を追ふものは自ら滿されん。 31:6多くの人は黄金のために滅に渡され、その終彼等に迫る。 31:7それは之に犧牲を獻ぐる人々にとりて躓となり、すべての愚人はこれに捕へらるべし。 31:8幸福なるかな、缺けたる所なく、又黄金を追ひ求めざる富める人。 31:9それは誰ぞ、我らこれを幸福と呼ばん。彼はその民の間に驚くべきことをなせり。 31:10試みられて完しと見られしは誰ぞ、これを崇めよ。罪を犯す力ありて犯さざりしは誰ぞ、惡をなす力ありてなさざりしは誰ぞ。 31:11その財産は確とせられ會衆はその施濟を告げん。 31:12汝は大なる食卓に就くか、貪るな、又『その上に多くのものあり』といふな。 31:13記憶せよ、嫉む眼は惡しき眼なり。眼に勝りて惡なるの曾て造られしや、それはすべての顏に涙を流さしむ。 31:14その眺むる處には何處にも汝の手を延ばすな、又汝の手を皿に突き出すな。 31:15己のことによりて隣人のことを思ひ、すべてのことにこれを辨へよ。 31:16汝の前に置かれたるものを相應しき人の如く食へ、されどこれを食ひて貪るな、恐らくは汝人に嫌はれん。 31:17先づ自制のために卓を離れ、飽き足らぬ如くすな、禮を缺かざらんためなり。 31:18多くの人と共に坐するとき、手を彼等の前に延ばすな。
31:19自制ある人は少許にて滿足し、その床の上にて息苦しくなることなし。 31:20健なる睡眠は適宜の食事より來る、夙に起きて心すがすがし、睡眠足らぬ苦しさと胃腸の痛みは飽くことを知らぬ人にあり。 31:21強ひて食をすすめられなば中途にて起て、さらば休を得ん。 31:22我に聽け、わが子よ、我を輕んずな、終には汝わが言の眞なるを知らん。汝のすべての業に速なれ。さらば何の病も汝に來らじ。
31:23食ふことに寛大なる人をば人々祝福し、その優れたる證信ぜられん。 31:24食ふことに吝嗇なる人をば、町舉りてささやき、その吝嗇の證確とならん。
31:25自ら酒に強きを示すな、酒は多くの人々を滅しぬ。 31:26坩堝の、鐵を浸してその質を試むる如く、酒は高ぶる人の爭によりてその心を試む。 31:27酒は適宜にこれを飮まば、人にとりて生命の如く善きものなり。酒なき人に何の生命かある、酒は人を喜ばしむるために造られしものなり。 31:28時に從ひて適宜に飮まれし酒は心の喜、また魂の悦なり。 31:29度を過して飮まれし酒は魂の苦きにて、怒と爭とを伴ふ。 31:30醉酒は愚なる者の怒を増して己を害はしめ、その力を弱め、また傷を加ふ。
31:31酒宴の席にて隣人を責むな。又その樂の時これを侮るな。非難の言を口にすな。また負債の返濟を迫るな。

第32章

32:1汝饗宴長に舉げらるるとも、自らを高しとすな。同席の人々の一人の如くなり、彼等のためを計りて後に坐せよ。 32:2汝の務を悉く果したる時、席に着け。これ汝彼等のために喜ばれ、汝のよき整理の故に冠を受けんためなり。
32:3長老たる者よ。汝に相應しく、正しき悟をもて語り、音樂を妨ぐな。 32:4樂の奏でらるる時に語り出すな、時に外れて汝の智慧を表すな。 32:5酒宴の樂の合奏は、金に嵌めたる紅玉の印の如し。 32:6たのしき酒に伴ふ樂の音は、金細工の中の緑玉の如し。
32:7若き人よ。必要あらば語れ、されど二度乞はるるにあらずば語るな。 32:8汝の話を縮め、多くのことを少しの言にて語り、知りてその舌を制ふる者の如くせよ。 32:9大なる人々とともにあらば己を彼等と等しくすな、他の人語る時喧しくすな。 32:10雷鳴の前に電光のある如く、恥を知る人の前には好意あり。 32:11よき時に起ちあがりて最後となるな。たゆたふことなく速に家に歸れ。 32:12そこにて汝の娯樂をとり、心にあることをなせ。高ぶりの言をもて罪を犯すな。 32:13此等のことのために、汝を造りて善きものを飮ませ給ふ主を祝せよ。
32:14主を畏るる者はその懲戒を受くべし。夙に主を求むる人々は恩惠を得ん。 32:15律法を求むる者は、律法をもて滿されん。されど僞善者はこれに躓かん。 32:16主を畏るる人々は審判を見出し、義の行爲を光の如く輝かすべし。 32:17罪深き人は非難を避け、己が意のままに審判を受けん。
32:18思慮ある人はその目的を等閑にせざるべし。怪しげなる、高ぶる人は、思慮なく行ひたる後にても、恐をもて怯むことなからん。 32:19思慮なく何事をもなすな、一度なすともこれを繰り返すな。 32:20爭の道に行くな、石ある處に躓くな。 32:21滑なる道にも注意せよ。 32:22己が子らに心せよ。 32:23いかなる道にも己が魂を信ぜよ、これは誡を守る道なればなり。
32:24律法を信ずるものは誡にこころを用ひ、主に依りたのむものは損を受けざるべし。

第33章

33:1主を畏るる者には何の惡も起らざるべし、されど時に臨みて主これを試に逢はせ給はん。 33:2智者は律法を忌まざるべし、されど僞善なる人は嵐の中の船の如し。 33:3悟ある人は律法を信ずべし、律法はその人にとりて託宣の如く眞實なり。
33:4言に備せば、人に聽かるべし。教訓を綴りて汝の答をなせ。 33:5愚人の心は車の輪の如く、その思は廻る軸木の如し。 33:6種馬は嘲る友のごとく、如何なる人これに乘るとも嘶くなり。
33:7年の如何なる日の光も皆太陽より來るに、いかなれば或る日は他の日に勝るか。 33:8これは主の知識によりて分たる。主は期節と祭とを定め給へり。 33:9その或ものをば高め、また潔め、或ものをば常の日となし給へり。 33:10すべての人は地より出で、アダムは土をもて造られたり。 33:11その豐なる知識をもて主これを分ち、諸の道を造り給へり。 33:12或ものをば祝し高め、或ものをば聖として己に近づかしめ、或ものをば呪ひて低くし、これをその所より覆し給へり。 33:13陶器師の手にある粘土の如く、主のすべての道はその聖旨に從ひて造られたり。かく人は皆これを造り給へる主の御手の中にありて、その御審のままにせらるるなり。 33:14惡に對する善、死に對する生の如く、敬虔なる人に對する罪人あり。 33:15かくの如く至高者の御業はすべて、一つのものは他のものに對し、二つづつ存するなり。
33:16我はすべてのものの終に眼を醒し、葡萄摘の後を拾ひ集むる者の如くせり。主の惠によりて進み、葡萄摘の如くわが酒槽を充したり。 33:17われはわがためのみならず、すべて教訓を求むる人々のために勞せしを思へ。 33:18民の大なる人々よ、われに聽け。會衆の有司たちよ、われに耳を傾けよ。

33:19子と妻に、兄弟と友に、汝の生ける間に、汝の上に立つ權を與ふな。又汝の所有物を他人に與ふな。恐くはなんぢ悔いて再びこれを求むるに至らん。 33:20生きて息ある間に己を誰にも與ふな。 33:21汝の子ら汝に求むるは、汝が子らの手より求むるに勝れり。 33:22すべて汝の業をもて人に先だち、汝の名譽を汚すな。 33:23汝の生命の終る日に、死の日に、汝の嗣業を分け與へよ。
33:24秣と鞭と荷物とを驢馬に、パンと懲戒と働とを僕に。 33:25僕を働に就かしめて汝は休むべし、その手をゆるめなば自由を求めん。 33:26軛と革紐とは首を馴らす。惡しき僕のためには拷問と苛責とあり。 33:27怠らぬやうこれを働かせよ、怠慢は多くの惡しきことを教ふ。 33:28彼に相應しき働を與へよ、若し從はずばその桎を重くせよ。 33:29何人にも度を過ぎて事をなすな。又判斷なく何事をもなすな。 33:30僕あらばこれを己の如くせよ、汝血をもてこれを買ひしなり。 33:31僕あらばこれを己の如くに取り扱へ、そは己が魂の如く汝これを要せん、もしこれを虐げなば彼去りて逃れ行かん、汝いづれの道に彼を搜し出さんとするか。

第34章

34:1虚しき僞の希望は悟なき人のものなり。夢は愚なる人に翼を與ふ。 34:2その心を夢に置く人は、影を捉へ、風を追ふ者の如し。 34:3夢の幻は彼に對する此の如く、顏と顏との似たるに等し。 34:4汚れたるものをもて何ものを潔め得んや。眞なるものはいかで僞より來らんや。 34:5先見と卜占と夢は虚しきものなり、産の苦をなす女の如く、その心空想に驅らる。 34:6此等のもの、もし至高者にありて眷顧の時に遣されしにあらずば、これに汝の心を與ふな。 34:7夢は多くの人を惑はしぬ。彼等はこれに依り頼みて倒れたり。 34:8僞なく律法は成就せらるべし。眞實なる人の口にある智慧は全し。
34:9よく教へられし人は多くの事を知り、多くの經驗ある人は知識を説く。 34:10經驗なき人は僅のことを知れど、さすらい歩きし者は事に熟練す。 34:11われさすらい歩きて、多くの事を見たり。わが悟はわが言に勝る。 34:12われ屡危險に遭ひて死なんとせしが、此等のことによりて救はれたり。 34:13主を畏るる人々の靈は生くべし。その希望は己等を救ひ給ひし者の上にあり。 34:14主を畏るる者は驚かず、又怖ぢざるべし。主はその希望なればなり。 34:15幸福なるかな。主を畏るる人の魂。その依り頼む者は誰ぞ。その支柱は誰ぞ。 34:16主の眼は主を愛する人々の上にあり。力ある護り、強き支柱、熱き風よりの隱家、眞晝の日を避くる蔭、躓の防禦、倒れたる時の救ひ。 34:17主は魂を起たしめ、眼を明にし、醫と生命と祝福とを與へ給ふ。
34:18不正なるものを犧牲とする人は、その供物嘲らる。不法なる人の嘲は嘉せらるることなし。 34:19至高者は敬虔ならぬ人の供物を喜び給はず、又犧牲の多きによりて罪を赦し給はず。 34:20貧しき者の所有物より犧牲を携へ來るものは、父の眼の前にてその子を殺す者に等し。 34:21ささやかなパンは貧しき者の生命なり。これを彼より奪ふ者は血を好む者なり。 34:22その活計を奪ふ者は隣人を殺す者に等し。傭人よりその賃金を奪ふ者は血を流す者に等し。 34:23一人は家を建て、一人はこれを毀つ。勞苦の外に彼等は何の益をか得し。 34:24一人は祈り、一人は呪ふ。いづれの聲を主は聽き給ふや。 34:25屍體に觸れたる後身を洗ひて、再びこれに觸れなば、その洗ふことに何の益あらんや。 34:26その罪のために斷食する人、出でて再び罪を犯さば、誰かその祈を聽かん。又己を辱めて何の益をか得し。

第35章

35:1律法を守るものは供物を多くし、誡に心を用ふる者は酬恩祭の犧牲を献ぐ。 35:2恩に報ゆる者は麥粉を供へ、施濟をなす者は感謝祭の犧牲を献ぐ。 35:3惡より離るるは主の喜び給ふ所なり。不義を去るは宥の供物なり。 35:4主の御前に空しき手にて出づな。 35:5これはすべて誡のために行ふべきものなり。 35:6義人の供物は祭壇を豐にし、その美はしき薫は至高者の御前にあり。 35:7義人の犧牲は承けられ、その記憶は忘られざるべし。 35:8善き眼をもて主を崇め、汝の手の初穗を惜まで出せ。 35:9いかなる供物にても快き顏もてなし、喜をもて汝の十一税を納めよ。 35:10その與へ給へる所に從ひて至高者に献げ、汝の手にて得たるものを善き眼をもて献げよ。 35:11報い給ふ主は、七倍をもて汝に報い給はん。
35:12供物をもて賄賂とすな、主はこれを受け給はざるべし。汝の心を不正の犧牲に向くな。主は審主にして、人を偏り見給はざるなり。 35:13主は貧しき人に逆ふ者を受け給はず、虐げらるる者の祈を聽き給ふべし。 35:14主は孤兒の顏と寡婦の呟とを輕しめ給はざるべし。 35:15寡婦の涙はその頬に流れ下るにあらずや、その時はこれを倒さんとする者に向ひて揚がるにあらずや。 35:16御心に從ひて神に仕ふる者は受けられ、その願は雲にまで達すべし。 35:17卑き者の祈は雲を貫きて神に到るまで止まらず、至高者の顧み給ふまで離れざるべし。主は義しき審判をもて審判を行ひ給はん。 35:18主は躊躇ひ給はず、憐憫なきものの腰を碎き給ふまで、永く忍び給はざるべし。主は異邦人に仇を報い、高ぶる者の群を散らし、不義なる者の笏を毀ち給はん。 35:19主はあらゆる人に、その行爲に從ひて、又彼等の業に、その思慮に從ひて報い、その民を審き給はん。かくて主はその慈悲をもて彼等を喜せ給ふべし。 35:20旱魃の時に雨雲の起る如く、主の慈悲は特に從ひて苦む者に來るなり。

第36章

36:1我らを憐み給へ、すべてのものの主なる神よ、我らを顧み給へ、 36:2主をおそるる民をすべての國々に投げかけ給へ。 36:3主の御手を異邦の上に舉げ、これに主の御力を見させ給へ。 36:4彼等の前に我らによりて自ら聖とせられ給ひし如く、我らの前に彼等によりて大なるものとせられ給へ。 36:5ああ神よ、我らの汝を知りし如く、彼らに汝を知らしめ、汝唯一の外に神なきを知らしめ給へ。 36:6新しき徴を示し、もろもろの奇しき業を行ひ、汝の御手と右の御腕とを崇めさせ給へ。 36:7御憤を起し、御怒を注ぎ、仇を去り、敵を滅し給へ。 36:8時を速にし、御誓を憶え、彼等に汝の力ある業を宣べしめ給へ。 36:9逃れたる者を御怒の火をもて燒き盡し、御民を虐ぐる人々を滅に陷らしめ給へ。 36:10『我らの外に何者もなし』といふ敵の有司たちの頭を碎き給へ。 36:11ヤコブのすべての支族を集め、初よりありし如く、彼等を汝の嗣業となさしめ給へ。 36:12主よ、御名によりて呼ばるる民を憐み、初子と等しくなし給ひしイスラエルを憐み給へ。 36:13汝の聖所の町、汝の安息の地、エルサレムに慈悲を垂れ給へ。 36:14シオンを滿し、汝の詔を高め、汝の民に榮光を滿し給へ。 36:15始に汝の造り給ひしものに御證を與へ、御名の中にありし預言を起し給へ。 36:16汝を待ち望む者に報い給へ。さらば人々汝の預言者を信ぜん。 36:17主よ、御民に關るアロンの祝福に從ひて、歎き求むる者の祈を聽き給へ。さらば地上の人々、汝の永遠の神なる主に在すことを知らん。

36:18腹はいかなる糧にても食せん。されど一つの糧は他の糧に勝る。 36:19咽喉は狩にて捕へし食物を味ふ如く、理解ある心は僞の言をも味ふ。 36:20頑なる心は憂を起さん。されど經驗ある人はこれに報ゆべし。 36:21女はいかなる男をも受けん。されど或娘は他の娘に勝る。 36:22女の美しさは顏を樂ましむ。されば人は何ものにも勝りてこれを愛す。 36:23もしその女の舌に慈悲と柔和とあらば、その夫は人の子等の中にある心地せじ。 36:24妻を得る者は、己が助手、又支柱をもつなり。 36:25籬なくば所有物荒れ廢れん。妻をもたぬ人は、此處彼處とさすらひて悲まん。 36:26誰か町より町へ跳び行く、身をよろへる盜人を信ぜん。かくの如く誰か、家なくして夜その到る處に宿る人を信ぜん。

第37章

37:1友は皆いはん、『我も彼の友なり』と。されど唯名のみの友あり。 37:2伴侶又は友の敵と變る時、死に到る程なる悲なきや。 37:3惡しき想像よ、汝は何處より轉り來り、その欺瞞をて乾ける地を蔽はんとするか。 37:4友の喜をもて喜ぶ伴侶あれど、患難の時には彼に背かん。 37:5腹のためにその友を助くる伴侶は、戰に臨みて楯をとるべし。 37:6汝の魂の友を忘るな、汝の富の増し加はる時これを棄つな。
37:7議士は皆その議る事を襃む。されど己が利益のためにこれを議る者もあり。 37:8汝のたましひ議士に心すべし。汝はその關心の何なるかを豫め知れ。(彼は己のために事を議らん。)恐くは彼汝のに上に籤を投げて、 37:9汝にいはん、『汝の道はよし』と。而して彼汝に向ひて立ち、汝の上に何の起るかを見ん。 37:10流目にて汝を見る者と共に事を議るな、汝を猜むものに汝の計畫を隱せ。 37:11女とはその競ひ爭ふ者につきて、臆する者とは戰につきて、商人とは貿易につきて、怠慢者とはあらゆる種類の働につきて、汝の家の傭人とはそのなし遂ぐるわざにつきて、怠る僕とは多くの務につきて事を議るな。いかなる計畫につきても此等の人々に意を留むな。 37:12汝はむしろ敬虔なる人と偕に居れ、汝は其の人を、誡を守る人と知るべし。彼の魂は汝の魂の如く、汝もし失敗たば汝とともに悲まん。 37:13汝の心の計畫を、確く立てよ、汝にとりてこれに勝りて信ずべきものはあらじ。 37:14人の魂は、時に臨みて、望樓に高く坐する七人の衞士に勝り、多くのことを告げんとす。 37:15されど此等のことに勝りて至高者に、汝の道を眞理に導き給はんことを願へ。
37:16理性をすべての働の始となせ。思慮をすべての行爲の前に置け。 37:17心の變り行く徴として、 37:18四つのこと起る。善と惡、生と死、此等を常に治むる者は舌なり。 37:19怜くして多くの人の教師となるも、己が魂を益すること能はぬ者もあり。 37:20言巧にして反つて人に憎まるる者もあり。その人はすべての食物を缺くべし。 37:21恩惠は主より彼に來らざりき、彼はすべての智慧を奪はれたるなり。 37:22己が魂に對して賢き者あり、その悟の果は口にとりては信ずべきなり。 37:23智者は己が民を教へん、その悟の實は信ずべきものなり。 37:24智者は祝福をもて滿され、これを見る人々はすべて彼を幸福と呼ばん。 37:25人の生命は日によりて數へらる、イスラエルの諸の日はこれを數ふること能はず。 37:26智者はその民の間に信頼を受け、その名は永遠に生きん。
37:27わが子よ、汝の生活をもて汝の魂を試み、その害となるは何なるかを見て、これに與るな。 37:28すべてのものはすべての人に益あるにあらず、又すべての魂はすべてのものを樂むにあらざるなり。 37:29奢侈に飽くな、汝の食ふものを貪るな。 37:30食物の多き處に病あり、食は過ぎなば腹痛を起さん。 37:31食ひ過ぎて多くの人滅びたり。されど常に意を用ふる者はその生命を永くせん。

第38章

38:1汝の必要に從ひ、禮を盡して醫者を敬へ。そは主これを造り給ひたればなり。 38:2醫者は至高者より醫の力を受け、王より禮物を受けん。 38:3醫者の熟練はその頭を高からしめ、貴き人々の前に讚を得しむ。 38:4主は土より藥を造り給へり。聰き人はこれを忌まじ。 38:5水嘗て木をもて甘くせられしは、その木の力の知られんためにあらざりしや。 38:6その驚くべき御業によりて崇められんために、主は人に熟練を與へ給へり。 38:7主の御業によりて醫者は人の苦痛を除く。 38:8藥劑師はこれによりて煉藥を製らん。かくて主の御業止むことなく、健康は主より地上に來るなり。
38:9わが子よ、汝の病める時忽にすな。むしろ主に祈れ。主は汝を醫し給はん。 38:10惡しき行爲を去り、汝の手を直くせよ。又汝の心をすべての罪より潔めよ。 38:11かぐわしき香と麥粉とを記念の分として供へ、曾てなかりし如き肥えたる犧牲を献げよ。 38:12醫者に處を得させよ。そは誠に主彼を造り給ひたればなり。彼を汝より去らしむな。汝彼を要すべし。 38:13その手に成功ある時あり。 38:14彼等も亦主に、彼等を祝して人の生命を永くせんがため救と醫とを與へしめ給はんことを祈るなり。 38:15その創造主に逆ひて罪を犯す者を、醫者の手に陷らしめよ。
38:16わが子よ、死者のために泣け。大なる苦惱を受くる者の如く、悲み叫べ。又その屍體をふさわしく包み、その葬を等閑にすな。 38:17一日又二日いたく泣き、大なる嘆をなし、汝の喪を死者にふさわしきものとせよ。然らざれば汝人に惡しざまに言はれん。かくして汝の悲哀のために慰藉を受けよ。 38:18悲哀より死來る、心の悲哀は力を衰へしむ。 38:19禍の中に悲哀も亦殘る。貧しき人の生活はその心を害ふ。 38:20汝の心を悲哀に向けず、その終を思ひてこれを去れ。 38:21彼を忘るな、再び歸ることなし。汝は彼を益せず、反つて己を害はん。 38:22彼に臨む宣告を憶えよ。汝も亦これを受けん。昨日は我に、今日は汝に。 38:23死者の安息と共に、その記憶をも休ませ、その靈彼を去る時、彼のために慰藉を受けよ。
38:24學者の智慧は閑暇ある機に來り、業務少き人は智くならん。 38:25鋤を取る人、針ある鞭の柄を誇る者、牡牛を驅り、その勞働に忙しき者、亦牡牛の頭數につきて語る者は、いかで智慧を得べき。 38:26彼はその心を畦作に向け、その眼醒むるは牝牛の子に草を與へんためなり。 38:27工匠また工匠長の晝夜休なきも亦此の如し、又印の彫刻をなす者はその勉勵によりて諸の種類を造るを得べし。彼はその似顏を作らんと心を定め、その業を終ふるまで醒め居るべし。 38:28鐵砧の側に坐して粗鐵をあしらう鍛冶も亦かくの如し。火の蒸氣はその肉體を疲らせ、爐の熱氣の中に、彼はその業にいそしむ。槌の音は常にその耳にあり、その眼は器の型に注がれ、その心は業の成るを待ち、全くこれをなしとぐるまで醒め居るなり。 38:29その勞作場に坐し、足をもて輪を廻す陶器師も亦これに等し。彼は常に心を勞して業をなし、その作りしものの數甚だ多し、 38:30腕をもて粘土より形を作り、足をもてこれを整へ、念入に釉藥を施し、又勵みてその爐を潔む。
38:31此等はすべてその手に信頼し、いづれも皆己が手の業に巧なり。 38:32此等の人々なくば町には住む人なく、留るものも、往來するものもなかるべし。 38:33彼等は民の會議の中に求められず、又集會の中にも高められざるべし。彼等は審判の契約を悟る能はず、審判の座にも坐せず、義と審判とを説かず、又喩言の語らるる處にも見出されざるべし。 38:34されど彼等は世の構造を支へん。その手の業に彼等の祈あり。

第39章

39:1されどその魂を注ぎて至高者の律法を思ひめぐらす者は、古の凡ての人の智慧を探り、また預言を究むべし。 39:2彼は名ある人の教訓を守り、巧なる喩言の心に入るべし。 39:3箴言の隱れたる意味を探り、幽玄なる喩言をもて語るべし。 39:4彼は大なる人々の間に仕へ、彼を治むる者の前に現れ、異邦の地に旅すべし。彼は人々の間に善と惡とを試みしなり。 39:5彼は夙にその心をもて、己を造り給へる主に頼り、至高者の前にその嘆願をなし、口を開きて祈をささげ、その罪の赦を乞ひ求めん。
39:6大なる主欲しなば、彼は悟の靈をもて滿され、智慧の言を注ぎ出し、祈をもて主に感謝を献ぐべし。 39:7彼はその計畫と知識とを指し示し、祕にこれを思ひめぐらさん。 39:8彼はその教へられたる教訓を告げ、主の契約の律法を崇むべし。 39:9多くの人々その悟を讚めん。それは世の續く限り消え失せず、その記念は殘り、その名は代々に生きん。 39:10國々はその智慧を宣べ、會衆はその譽を語らん。 39:11かれ生き存へなば千人に勝りて大なる名を殘し、死なば更にこれに加へん。

39:12われ猶わが思ひ囘らししことを語らん。われは滿月の如く滿ちて圓なり。 39:13我に聽け、聖き子らよ、小川のほとりに生ゆる薔薇の如く芽ばえよ。 39:14乳香の如きかぐわしき馨を放ち、百合の如き花をつけ、美しき香を廣く放つべし。汝ら讚美の歌をうたい、そのすべての御業のために主を祝せよ。 39:15その御名を崇め、汝の唇の歌と琴とをもて、主を讚めよ。汝に主を讚むる時かくいふべし。
39:16主のすべての御業はいと善く、その命じ給ふことは時に臨みて成し遂げらるべし。 39:17誰も『此は何ぞや、それは何のためぞ』といふを得じ。それ等は皆その相應しき時に求めらるべし。主の御言に從ひ、水は立ちて堆くなり、その口の御言によりて容器に納めらる。 39:18その命によりて聖旨は悉く成り、その救を妨ぐるものなし。 39:19すべての肉の業は主の御前にありて、主の眼に隱さるることなし。 39:20主は永遠より永遠まで見給ふに、主の御前には驚くべきもの何もなし。 39:21誰も『これは何ぞや、それは何のためぞ』といふを得じ。そは萬物は我等の用のため造られたればなり。
39:22主の祝福は乾ける地を河の如くに蔽ひ、洪水の如くにこれを潤しぬ。 39:23主水を鹽に變らせ給へる如く、異邦人はその御怒を嗣ぐべし。 39:24主の道は聖き民には明なれど、惡しき者には躓とならん。 39:25善きものは始めより善き人のために造られたる如く、惡しきものは罪人のために造られたり。 39:26人の生命になくてならぬすべてのものの中にて、主なるは水と火と鐵と鹽、小麥粉と蜜と乳、葡萄の血と油と衣などなり。 39:27すべて此等のものは敬虔なる人々にとりては善なれども、罪人にとりては惡に變らん。
39:28復讐のために造られたる風あり、その怒の中に重き鞭あり。終の時、その力を注ぎ出し、これを造り給へる者の御怒を鎭む。 39:29火と霰と飢饉と死、此等はすべて復讐のために造らる。 39:30野獸の齒と蠍と毒蛇、又敬虔ならぬ者を罰して滅に至らしむる劍。 39:31此等は主の命を喜び、必要の時、地上に現はるる備成り、己が時に主の御言を過たざるべし。
39:32さればわれ、始より心定まり、これを思ひ囘して筆をとれるなり。 39:33主のすべての御業は善し、主は時に及びてすべての必要を滿し給ふべし。 39:34誰も『此は彼よりも惡し』といふを得じ。これ等は皆己が時に正しく試みらるるなり。 39:35されば今、汝の心と口とをもて讚美を歌ひ、主の御名を祝せよ。

第40章

40:1大なる苦惱はすべての人のために造られたり。重き軛はアダムの子等の上にありて、その母の胎を出でし日より、萬物の母の中に葬らるる日に至るなり。 40:2來るべきことの期待と死の日とは彼等の思を惱し、心の恐を起さしむ。 40:3光榮の座に坐する者より土と塵とをもて卑くせられし者に至るまで、 40:4紫の衣と冠とを着くる者より大麻の粗服を纏ふ者に至るまで、 40:5みな怒と嫉と惱と不安、また死の恐と憤と爭とを持つ。その床につきて休む時、夜の眠はその知識を變ふ。 40:6彼には些少の休なく、見守の日の如くその眠の後に、又戰より逃れ來りし者の如く、その心の幻影をもて惱まさる。 40:7彼はその救の時に眼覺め、自ら何の恐なきを怪しむ。
40:8人より獸に至るまで、肉なるものは皆かくの如く、罪人はこれを七倍せり。 40:9死と血を流すことと爭と劍、禍と飢饉と患難と鞭。 40:10此等はすべて惡人のために造られ、又彼等の故に洪水來りぬ。 40:11土より出でたるすべてのものは土に還り、水より出でたるすべてのものは海に歸る。
40:12すべての賄賂と不正とは消え去り、善き信仰は永遠に立たん。 40:13正しからざる人の所有物は河の如く乾き、雨の中の大なる雷の如く鳴り轟きて去り行くべし。 40:14大水流れ出づる時、岩まろばさるる如く、それは俄に消え失すべし。 40:15敬虔ならぬ者の子らは多くの枝を出さず、岩の上の清からざる根の如し。 40:16水の中と川岸とに生ゆる者はすべての草の前に引き拔かるべし。 40:17恩惠は祝福に滿てる園の如く、憐恤は永遠に存らん。
40:18自ら立つものと、働くものとの生命は美し、されど財寶を見出す人は此の二つに勝る。 40:19子らと、町を建つることとは人の名を揚ぐ、されど缺點なき妻は此の二つに勝る。 40:20葡萄酒と音樂とは心を喜ばしむ。されど智慧を愛することは此の二つに勝る。 40:21笛と琴とは歌を美しくす。されど快き舌は此の二つに勝る。 40:22汝の眼は淑さと美しさとを欲せん。されど緑なる麥の穗はこれに勝る。 40:23友と伴侶は決して過たざるべし。されど夫と偕なる妻はこの二つに勝る。 40:24兄弟と助手とは惱の時のためにあり、されど施濟はこの二つに勝る救なり。 40:25金と銀とは足を確く立たしむ。されど思慮はこの二つに勝る。 40:26富と力とは心を高む。されど主に對する畏はこの二つに勝る。主に對する畏には何の缺けたるものなく、何の助を要するものなし。 40:27主に對する畏は惠の園の如く、あらゆる光榮をもて人を蔽ふ。
40:28わが子よ、乞食の生活に陷るな。もの乞ふよりは死ぬる方勝れり。 40:29他人の食卓を窺ひ見る者は、生くとも生くる價値なし。彼は他人の食物によりて己が魂を汚さん。されど賢く、よく教へられたる人はこれに氣附くべし。 40:30恥を知らぬ人の口には物乞は甘味ならんも、その腹には火燃ゆべし。

第41章

41:1見よ、汝の記憶はいかに苦きかな。所有物ありて平和なる人にとりて、又何の煩なく、すべてのことに榮え、且食物を受くる力ある人にとりて、 41:2見よ、汝の宣告は、乏しき人、力衰へたる人、いたく老い、すべての事につきて思ひ煩ひ、僻みて且忍耐なき人によりて容れられん。 41:3死の宣告を恐るな、汝の前に在りしものと汝の後に來る者とを憶えよ。此はすべての肉に對する主の宣告なり。 41:4至高者の御心による時、汝は何故これを拒むか。十年にもせよ、百年にもせよ、又千年にもせよ、陰府に入りては生命につきての問題なし。
41:5罪人の子らは忌むべき子らなり。彼等は敬虔ならぬ人々の住居に屡來る。 41:6罪人の子らの嗣業は滅び、その持物には絶えざる誹謗伴はん。 41:7子らは敬虔ならぬ父につきて呟かん。これ彼等が父のために誹らるる故なり。 41:8禍害なるかな、敬虔ならぬ人々、彼等は至高者の律法を捨てたり。 41:9汝生れしは呪のために生れしにて、汝死なば呪汝の分前とならん。 41:10土より出でたるすべてのものは又土に還る如く、敬虔ならぬ人呪咀より滅亡に至らん。 41:11人の喪はその身體につきてあり。されど罪人の名は永遠に消え失すべし。 41:12汝の名につきて考へよ、それは千箇の黄金の寶に勝りて永く汝と共に存ればなり。 41:13善き生命は日數限りあれど、善き名はとこしへに存らん。
41:14わが子よ、平和をもて教訓を守れ。されど隱れたる智慧と見えざる寶とに何の益かあらん。 41:15その智慧を隱す人に、その愚を隱す人勝る。 41:16さればわが言を敬へ。あらゆる恥を保つは善からず。すべてのものはすべての者によりて、信仰をもて良とせられざるなり。
41:17父母の前に淫行を、有司と力ある人々の前に虚僞を恥ぢよ。 41:18審判者と有司との前に己が犯しし罪を、會衆と民との前に不法を、伴侶と友との前に不正の取扱を恥ぢよ。 41:19汝のさすらいし地に對しては盜につきて、又神の眞理とその契約につきて、食卓に倚りかかることにつきて、貸借に關る惡口につきて、 41:20汝に挨拶する者の前にての沈默につきて、遊女なる女を眺むることにつきて、 41:21汝の顏を親戚に背くることにつきて、分前又は供物を取り去ることにつきて、夫ある女を視凝ることにつきて、 41:22若き婢を用ひ過ぐることにつきて、又その床を犯すことにつきて、非難の言を友に語ることにつきて、又與へたる後これを責むることにつきて、 41:23汝の聞きしことを繰返し又語ることにつきて、又祕密を發くことにつきて恥ぢよ。 41:24かくて汝は眞に恥を知り、すべての人の前に惠を得べし。

第42章

42:1此等のことにつきて恥づな、又これによりて人を罪に置くな。 42:2即ち至高者の律法とその契約とにつきて、敬虔ならぬ者に對する公平なる審判につきて、 42:3伴侶また旅人と共に計り算ふることにつきて、友の遺産よりの贈物につきて、 42:4秤と重さの正確につきて、量の多少につきて、 42:5商人の差別なき賣方につきて、子供を屡矯正することにつきて又惡しき僕の脇を打ちて流す血につきて耻づな。 42:6惡しき妻にとりて封印は善し。手多き處には汝の手を閉ぢよ。 42:7汝の渡すものは何にてもこれを數へ又量り、受渡にはすべて證書を用ひよ。 42:8無智なる人と愚なる人、若者と競ふ甚しく老いたる人を教ふるを恥づな。これ汝もよく教へられてすべての生ける人の前に認められんがためなり。
42:9娘は父にとりて人知れぬ心勞の種なり。その心勞は眠をすら奪ふ。若き時には、その齡の花散らんことを恐れ、嫁ぎては、憎まれんことを恐る。 42:10處女の時には、瀆されて子を持ち、父の家にあらんことを恐れ、夫を持つ時には過誤に陷らんことを、嫁ぎし時には石婦にならんことを恐る。 42:11頑なる娘のためには嚴しき見張をなせ、恐くは彼汝の敵の笑草となり、町のもの笑となり、人々の間に惡しき名を立てられ、群衆の前に汝を辱めん。
42:12いかなる人をも、その容貌美きがために見るな。又女たちの間に坐すな。 42:13衣より蠧出づる如く女より女の惡出でん。 42:14男の惡は、巧に人をあしらう女、又汝に恥づべき非難を來らしむる女に勝る。

42:15我今主の御業を告げ、我が見たる事を宣べん。主の御言にその御業あり。 42:16光を與ふる日は萬物に臨み、主の御業は榮光にて滿つ。 42:17主はその驚くべき御業を宣べんために聖徒たちに力を與へ給はざりき。その御業は力ある主の確く定め給へるものにして、如何なるものもその榮光の中に建てらるるなり。 42:18主は深き處を探り、又心を探り、その巧なる計畫を悟り給ふ。至高者はすべての知識を持ち、世の徴を見給ふ。 42:19主は過ぎたるものと來るべきものとを宣べ、隱れたるものの足跡を現し給はん。 42:20いかなる思も彼を逃れず、如何なる言も彼に隱れざるべし。 42:21永遠より永遠に在し給ふ主は、その智慧の力ある御業を整へ給へり。これに加ふる何ものもなく、これより削る何ものもなし。主は一人の議士をも用ひ給はざりしなり。 42:22主のすべての御業はいかに望ましきかな。それは火花の如く見らるべし。 42:23此等のものはすべて永遠に、生きて存り、そのあらゆる用のために、悉く從ふ。 42:24すべてのものはみな二重にて、一つのものは他のものに對す。主の造り給へるものに全からざるはなし。 42:25一つのものは他の善きものを建つ。主の榮光を見て滿さるる者は誰ぞ。

第43章

43:1高き處の誇はその潔き蒼空にあり、天の美しさはその榮光の輝にあり。 43:2日出づる時、その行く處に音づれを告ぐ。こは驚くべき器、至高者の御業なり。 43:3午に至ればそれは地上を燒く。誰かその燃ゆる熱氣に逆ひて立つを得ん。 43:4爐に火を吹く人は暑き業を攬る。されど日はこれに勝ること三倍なり。山を燒き、火の湯氣を吐き、輝く光を送りて人の眼を眩ます。 43:5大なるかな、これを造り給ひし主。主はその御言をもて御歩を進め給ふ。
43:6月も亦すべてのことをその期節に從ひてなし、時と世との徴を告ぐ。 43:7月より祭日の徴、即ち滿つる時に缺くる光來る。 43:8月々はその名によりて呼ばれ、その遷變は驚くばかりなり。高き處にては天の萬軍の器となりて、その蒼空に輝き出づ。 43:9天の美、星の光榮は、主の高き處に光を與ふる器なり。 43:10聖者の御言に從ひて、此等のものはそのふさわしき位置を守り、その見張を弱めざるなり。 43:11虹を見、これを造りてその輝をいとも美しくし給ひし主を讚めよ。 43:12それは榮光の輪をもて天の周圍を廻らす。至高者の手これを伸べ擴げ給へるなり。
43:13その命をもて主は雪を迅く降らせ、その審判の電光を速に送り給ふ。 43:14その御庫はこのために開かれ、雲は鳥の如く飛び出でぬ。 43:15その大なる御力をもて主は雲を聚め、これを碎きて霰となし給へり。 43:16主の顯れ給ふ時、山は震ひ、その御心に從ひて雨風吹き起らん。 43:17その雷の聲、また北風と旋風とは地を呻かしむ。鳥の飛び下る如く主は雪を播き散らし、蝗の飛ぶが如くにこれを降らせ給ふ。 43:18眼はその白き美しさに驚き、心はその降り來るに驚かん。 43:19主は又白き霜を鹽の如く地の上に注ぎ、これを固めて荊棘の刺の如くになし給ふ。
43:20寒き北風吹きて、水を凍らし、如何なる水溜にも及びて、水に胸當をつけしむ。 43:21それは山々を食ひ盡し、野を枯し火の如く青草を滅さん。 43:22疾く降る霧はすべてのものの醫なり。暑さの後の露は喜を與ふべし。 43:23その御心をもて主は淵を鎭め、島々に樹を植ゑ給へり。 43:24海を帆走る者はその危きを語る。己が身をもて我等これを聽き、且驚く。 43:25その中には驚くべき奇しき御業、生命ある諸のもの、海の怪の族もあり。 43:26主によりてその終遂げられ、その御言によりてすべてのもの成る。
43:27我らは多くのことを言へども、これをなす能はず、『主は一切なり』とは我らの言の總括なり。 43:28いかにして我らは主を崇むる力を持つか、主は大にしてその造り給ひし御業の上にあり。 43:29主は恐るべく、いと大にして、その御力は奇し。 43:30主を崇むる時、力を盡してこれを讚めよ、主は猶これに勝らん。 43:31主を讚むる時、汝の全力を新にして倦むな。汝は決してこれを遂ぐること能はざればなり。 43:32主を見てこれを宣ぶるものは誰ぞ、主に相應しくこれを崇むる者は誰ぞ。 43:33これよりも大なる多くの事は隱さる。我等は唯その御業の少許を見しに過ぎず。 43:34主は萬物を造り、敬虔なる人に智慧を與へ給へり。

第44章

44:1いざ我ら名ある人々と我らを産みし我等の先祖たちとを稱へん。 44:2主は彼等によりて大なる榮光を現はし、始めよりその大なる力を現はし給へり。 44:3その國に主たりし人々、その力のため名を揚げ、その悟をもて計畫をなし、預言をもて音づれを告げし人々。 44:4その計畫による民の指導者、その悟によりて民のために學者となり、その教訓の言の慧き人々。 44:5音樂の調を尋ね、歌を書しし人々。 44:6才能ありてその住居に平和に住みし人々。 44:7かかる人々は皆その代に尊ばれ、彼等の日の光榮なりき。 44:8彼等の中には人々その譽を現はさんがために名を後に殘ししものあり。 44:9或者は何の記念をも殘さず、世になかりし如くにして死に、生れざりし如く、又その子らをも殘さざる如くなりき。 44:10されど彼等は慈悲深き人々にして、その義しき行は忘れられざるなり。 44:11その種と共に善き嗣業は常に殘らん。その子らは契約の中にあり。 44:12彼等の種は確く、その子らは彼等のために立つ。 44:13その種は永遠に殘り、その光榮は消え失せざるべし。 44:14彼等の身體は平和に葬られ、その名は萬代に生きん。 44:15民はその智慧を宣べ、會衆はその譽を語らん。
44:16エノクは主の御心にかなひて移され、代々に悔改の模範となれり。 44:17ノアは全くして義と認められ、御怒の時に世のために身代となり、洪水來りし時、殘れる者となりぬ。 44:18永遠の契約は彼と共になされ、すべての肉は最早洪水のためには亡びざるに至れり。
44:19アブラハムは國々の群の大なる父となり、彼の如く光榮を持てる者は出でざりき。 44:20彼は至高者の律法を保ち、これと契約をなせり。その肉體にて彼は契約を建て、試みられし時その信仰を認められたり。
44:21されば主御誓をもて彼に臨み、國々はその裔によりて祝せられ、彼は地の砂の如く殖され、その裔は星の如く高められ、海より海に至るまで河より地の端に至るまで地を嗣ぐべきことを證し給へり。 44:22イサクに向ひて、その父アブラハムのために、同じくすべての人の祝福と契約とを建て給へり。 44:23又主はこれをヤコブの頭に止まらしめ、その祝福をもて彼を認め、その嗣業をこれに與へ、その分前を分ち、これを十二の族の間に分ち給ひぬ。

第45章

45:1主はことにすべての肉の眼に恩惠を得し、慈悲深き一人の人を起し給へり。それは、神と人とに愛せられし人、モーセにしてその記念は祝福にて滿つ。 45:2主は彼に聖徒の光榮の如き光榮を與へ、その敵の恐をもてこれを大にし給へり。 45:3その御言をもて主は奇しき業を止めしめ、王たちの前に彼を崇め、その民のために彼に誡を與へ、その榮光の幾分を彼に示し給へり。 45:4主はその誠實と柔和とのために彼を潔め、すべての肉の中より彼を選び給へり。 45:5主は彼にその御聲を聽かしめ、厚き暗闇の中に彼を伴ひ、親しく彼に近づきて誡を與へ給へり。即ちそれは生命と知識との律法にして、ヤコブに契約を與へ、イスラエルの審判を教へんがためなり。
45:6主は、彼の如き聖なる人、レビの族なる彼の兄弟アロンを高くし、 45:7これと永遠の契約を建て、民の祭司職をこれに與へ給へり。主は美しき裝飾をもて彼を祝し、榮光の衣を彼に纏はしめ給へり。 45:8主は彼に完き光榮を着せ、力の衣をもてこれを強め、麻の股引と長き衣、及びエボデをこれに着せ給へり。 45:9又主は金の石榴をもて裾を廻らし、その周圍に鈴をつけ、歩む時音を出さしめ、民の子らの記念のために、宮にてその音を聽かしめ給へり。 45:10黄金と青と紫とをもて刺繍を施しし聖き衣をもて、審判の胸當をもて、ウリムとトンミムとをもて、 45:11縫物師の手に成る撚絲の紅をもて、イスラエルの支族の名を彫りて記念としたる、珠玉師の作れる、金に嵌めたる印の如き寶玉をもて、 45:12その上に印の如くに『聖』と彫りたる、頭帽の上の金の冠をもて、名譽の裝飾、力の業、善美を盡したる眼の欲をもてこれを裝ひ給へり。 45:13彼の前にはかかるものなく、他人はこれを着ず、唯彼の子等とその裔のみ常にこれを着たり。 45:14その犧牲は日毎に二度、悉く燒き盡さるべし。 45:15モーセは彼を聖別し、聖き油をこれに注げり。これは彼とその裔のため、天のすべての日の間、主に仕へて祭司の務を果し、御名によりてその民を祝せんがための契約なりき。 45:16主はすべての生ける人の間より彼を選び、その民の贖をなさんため、記念として犧牲と香とかぐわしき馨とを主に献げしめ給へり。 45:17主はその誡の中に審判の契約の權を與へ、ヤコブに證言を教へ、その律法をもてイスラエルを照さしめ給へり。 45:18異族の者らは彼に逆ひて共に集ひ、荒野にて彼を嫉みぬ。即ちダタンとアビラムとその徒黨、及びコラの會衆にて、怒と憤とをもて彼に問へり。 45:19主これを見て心喜ばず、その御怒をもてこれを滅し給へり。彼等に奇しき力を現し、燃ゆる火をもて燒き盡し給へり。 45:20主はアロンに光榮を加へて嗣業を與へ、收穫の初穗を彼に分ち、その糧を豐に備へ給ひぬ。 45:21彼等は、主が彼とその子孫のために與へ給ひし主の犧牲を食すべし。 45:22されど民の地に於ては彼は何の嗣業もなく、民の間には何の分もなかるべし。そは主自ら汝の分前又嗣業なればなり。
45:23エレアザルの子ピネハスはその光榮第三位なり。そは彼主の畏に熱心にて、民の背ける時、魂の勇氣をもて確く立ち、イスラエルのために贖をなせり。 45:24されば平和の契約彼のために建てられ、彼は聖徒らとその民の指導者となり、彼とその裔とは祭司の位を永遠に保つに至れり。 45:25主は又ユダの族なるエサイの子ダビデと契約をなし、王の嗣業を彼のものとし、子より子に傳へしめ給へり。アロンの嗣業も亦その裔に及びぬ。 45:26神は汝らの心に智慧を與へて、義をもてその民を審かしめ給ふ。これ彼等の善きもの滅されず、その榮光代々に及ばんがためなり。

第46章

46:1ヌンの子ヨシュアは雄々しき軍人にて、預言に於てはモーセの後繼者なりき。彼はその名の如く主の選び給ひし民の救のために、大なる者となり、彼等に逆ひて起り立てる敵に讐いて、イスラエルにその嗣業を與へたり。 46:2その手を高く舉げ、その劍を町々に差し延べて、いかに彼は光榮を得しむ。 46:3民の前に誰かかくは確く立ちしぞ。主自らその敵を彼の許に携へ來り給へるなり。 46:4日は彼の手によりて歸り行かざりしや。一日は二日とならざりしや。 46:5その敵周圍に迫りし時、彼は、いと高く、いと強き主を呼びまつり、大なる主これに聽き給へり。 46:6大なる力の雹の中に彼は敵に向ひて激しく戰ひ、下り行きて防ぐ者どもを滅せり。これ國々の民彼の武器を知り、いかに主の御前に戰ひしかを知らんためなり。彼は至強者に從ひて戰ひしなり。 46:7彼は又モーセの時に慈悲の業をなせり。彼とエフンネの子カルブは仇に向ひて立ち、人々を罪より救ひ、惡しき者の私語を止めたり。 46:8かくて足にて立ちし六十萬の人々の中にて、彼等二人のみ保たれ、その嗣業の地、乳と蜜との流るる地に伴はれたり。 46:9主又カルブに力を與へて、年老ゆるまでこれを保たせ給へり。彼は遂にその地の高き處に入り、その裔は嗣業としてこれを得たり。 46:10これイスラエルのすべての子ら主に從ひて歩むことのいかに善きかを見んがためなり。
46:11又士師等につきては、すべてその心淫を行はず、主より離れざりしものは、おのおのその名によりて、彼等の記念の祝せられんことを。 46:12彼等の骨その處より再び榮え、崇められしその名、彼等の子らの上に再び新たにせられんことを。
46:13主の愛し給ひし主の預言者サムエルは王國を建てて、その民の上に立つ君たちに油注ぎぬ。 46:14主の律法によりて彼は會衆を審き、主はヤコブを顧み給へり。 46:15その信仰によりて彼は預言者と認められ、その言によりて幻に忠なる者と知られたり。 46:16又その敵彼の周圍に迫りし時、乳を離れぬ羔の供物をもていと強き主に呼はれり。 46:17主は雷を降し、大なる響をもて、その御聲を聽かしめ給へり。 46:18かくて主はツロの有司たちとペリシテの主君たちとを悉く滅しぬ。 46:19又その永き眠の前に主とその油注ぎし者との前にあげつらひていへり『我は人の所有物を、靴一つだに取らず』と。彼を責むる者一人もなかりき。 46:20彼眠に就きし時預言して、主にその終を示し、民の惡を消さんために、預言をもてその聲を地より舉げたり。

第47章

47:1彼の後にナタン起ちて、ダビデの日に預言せり。 47:2脂、宥の供物より別たれし時の如く、ダビデはイスラエルの子らより離されたり。 47:3彼は小山羊の如くに獅子を、群の小羊の如くに熊を弄びぬ。 47:4その若き時、彼は巨人を殺して民の恥辱を取り去り、石投をもて手を揚げし時、ゴリアテの誇を碎きしにあらずや。 47:5彼いと高き主に呼はり、主その右の手に力を與へて、強き軍人を殺さしめ、その民の角を高く舉げしめ給へり。 47:6されば彼等はその殺せし一萬人の故に彼を崇め、主の祝福のために彼を稱へぬ。 47:7彼は行く處にて敵を亡し、その仇なるペリシテ人を空くし、その角を碎きて今日に至れり。 47:8彼はそのあらゆる業を用ひ、榮光の言をもていと高き聖者に感謝せり。その心を盡して讚美を歌ひ、己を造り給ひし者を愛しぬ。 47:9又かれ祭壇の前に歌うたう者を置き、その音樂によりて美しき調を奏でしめぬ。 47:10彼は祭を美しくし、期節を整へてこれを完くせり。されば人々主の聖なる御名を讚め、その聲未明より聖所に響きぬ。 47:11主は彼の罪を取り去り、その角を永遠に揚げ、これに王の契約とイスラエルの榮光の御座とを與へ給へり。
47:12彼の後に、智慧あるその子起り、彼の故に安らかに住めり。 47:13ソロモンは平和の日に世を治め、神は彼に廣く安息を與へ給へり。これ彼主の御名のために家を建て、永遠に聖所を備へんがためなりき。 47:14汝は汝の若き日にいかに智くせられ、河の如く悟をもて滿されしぞ。 47:15汝の魂は地を蔽ひぬ。又汝は幽玄なる喩言をもてこれを滿しぬ。 47:16汝の名は遠く島々に達し、汝の平和のために汝は愛せられき。 47:17汝の歌と箴言と喩言とのために、又汝の解釋のために、國々は汝に驚きぬ。 47:18イスラエルの神と呼ばれ給へる主なる神の御名によりて、汝は錫の如くに金を集め、鉛の如くに銀を殖したり。 47:19然るに汝は汝の腰を女たちに屈め、その身體を彼等のなすがままに任せたり。 47:20汝は汝の名譽を辱しめ、汝の胤を瀆して子らの上に御怒を招けり。さればわれ汝の愚のために悲めり。 47:21かくて國は二つに分たれ、エフライムより出でしもの、從はぬ國を治めたり。 47:22されど主はその憐憫を捨て給はず、その業を一つだに亡し給はざるべし。又その選ばれし者の裔を消さず、彼を愛せし者の子孫を取り去り給はざるべし。主はヤコブに殘れる者を與へ、又ダビデに彼より出でたる根を與へ給へり。
47:23ソロモンはその先祖たちと共に眠り、その胤よりレハベアム殘れり。彼は甚しく愚にして、悟を缺き、その謀略をもて民を背かせたり。ネバテの子ヤラベアムも亦イスラエルに罪を犯さしめ、エフライムに罪の道を與へぬ。 47:24かくて彼等の罪はいとどしく増し加はり、彼等は遂にその地より移されたり。 47:25これ彼等あらゆる罪の道を求め、自ら審判を招くに至りし故なり。

第48章

48:1又預言者エリヤ火の如く現れ、その言炬火の如く燃えたり。 48:2彼は人々に飢饉を臨ましめ、その熱心をもて彼等の數を少くせり。 48:3主の御言によりて彼は天を鎖し、かくて三度火を呼び降しむ。 48:4エリヤよ、彼の驚くべき業をもて汝はいかに崇められしぞ。誰か汝の如き光榮を持たん。 48:5汝は至高者の御言によりて死人を死より、死人の處より蘇らせたり。 48:6彼は王たちを滅亡さしめ又貴き人々をその床より下せり。 48:7彼はシナイにて譴責を、ホレブにては復讐の審判を避けり。 48:8汝は應報のために王たちに、又己が後を繼がしむるために預言者たちに油を注ぎぬ。 48:9汝は火の迅風の中に、火の馬の戰車にて上に召されぬ。 48:10彼は時に至りて彼等のに臨む叱責のために、激しき憤の來らぬ前に怒を和げ、父の心を子に歸らせ、又ヤコブの諸の族を回さんとて立てられしなり。 48:11幸福なるかな、汝を見しもの、又愛をもて美しくせられしもの、そは我らは正しく生きて生くべきものなればなり。
48:12エリヤは疾風に卷き去られ、エリシャは彼の靈に滿されぬ。エリシャはその生ける間いかなる主君も恐れず、誰も彼も從はしむることを得ざりき。 48:13彼にとりては高きものはなく、その眠る時は彼の身體預言をなせり。 48:14その生ける間不思議を行ひしが、死ぬる時にもその業奇しかりき。 48:15されど人々悔改めず、その罪より離れざりき。彼等は遂に虜にせられて、その國より移され、悉く地の上に散らされぬ。殘されし民はその數少く、一人の主君ダビデの家に殘されぬ。 48:16或ものは主の御心にかなふことをなし、或ものは罪に罪を加へぬ。
48:17ヒゼキヤはその町を堅め、その中に水を引き入れぬ。彼は鐵をもて岩を掘り、水のために井戸を作れり。 48:18彼の代にセナケリブ來りて、ラブシャケを遣はしぬ。ラブシャケ向ひて手をあげ、高ぶりて大なる者を誇りぬ。 48:19その時人々の心と手震ひ、産の苦をなす女の如く苦みぬ。 48:20かくて彼等憐憫深き主に向ひて呼はり、その手を主に差し延べたり。聖者は天より速にこれを聽き、イザヤの手によりて彼等を救へり。 48:21主はアッスリヤ人の軍營を撃ち、主の使彼等を悉く滅しぬ。 48:22ヒゼキヤは主の御心にかなふことをなし、その父ダビデの道に強かりき。これ主の幻に忠信なりし大なる預言者イザヤの誡によりしなり。 48:23彼の時に、日は後に還り、王の生命加へられぬ。 48:24彼はその優れたる靈をもて、終末に起るべきことを見、シオンにて歎き悲む人々を慰めたり。 48:25彼は後起るべきこと、又隱れたることを、その起る前に示しぬ。

第49章

49:1ヨシアの記念は、和香師の手によりて調へられたる薫香の如し。それはすべての人の口に蜜の如く甘く、酒宴の席の音樂の如く美し。 49:2彼は民の囘心を正しくあしらい、不法の憎むべきものを取り去りぬ。 49:3彼はその心を直くして主を仰ぎ、不法の人々の代に敬神のわざをなしぬ。
49:4ダビデ、ヒゼキヤ、ヨシアの外は、すべて罪を犯しぬ。彼等は至高者の律法を棄てたり。ユダの王たちは皆敗れたるなり。 49:5彼等はその力を他人に與へ、その光榮を外國に與へたり。 49:6彼等は聖所の町を火にて燒き、その街衢を荒れ廢れしめぬ。エレミヤの手によりて記されし如し。 49:7彼等はエレミヤを苦めたれど、彼は母の胎にて聖別されし預言者にて、或は拔き、或は毀ち、或は滅し、或は建て、或は植ゑんために遣はされぬ。 49:8榮光の幻を見しはエゼキエルなり。主これをケルビムの車の上に現はし給へり。 49:9彼は雨の中なる敵につきて語り、直く歩む者を正しきに導きぬ。 49:10十二預言者につきては、その骨彼等の處にて榮えんことを。彼等はヤコブを慰め、希望に依りて彼等を救へり。
49:11我等いかにゼルバベルを崇めん。彼は右の手の印なりき。 49:12ヨセデクの子イエスもまた然り。彼はその代に家を建て、聖き宮を高く据ゑ、永遠の榮光のために備へぬ。 49:13ネヘミヤにつきてもその記念大なり。彼は我等のために倒れたる石垣を築き、門と閂を据ゑ、我等の家を再び建てたり。
49:14エノクの如き人は嘗て地の上に造られざりき。彼は地より取り舉げられたり。 49:15又ヨセフの如き人も生れざりき。げに彼は兄弟を治むる者、民の柱なりき。彼の骨は顧られしなり。 49:16セムとセツとは人々の間に崇められき。されど造られたるすべての生ける者の上に立つはアダムなり。

第50章

50:1オニヤの子シモンは大祭司にして、その生ける間に家を繕ひ、彼の代に宮を固うせり。 50:2彼によりて二重の壁の高き所、宮の周圍の高き石垣はその基より築かれぬ。 50:3彼の代に水槽は小くせられ、周圍の銅器は海の如くなりき。 50:4彼はその民のために計り、彼等の敗れざらんがために町を堅め、敵の襲に備へたり。 50:5人々彼の周圍に集ひし時、聖所より出で來りし彼は、いかに光榮に滿ちしぞ。 50:6雲の中の曉の明星の如く、滿ちて圓なる月の如く、 50:7至高者の宮の上に輝く太陽の如く、榮光の雲に光を與ふる虹の如く、 50:8初穗の日の薔薇の花の如く、泉の傍の百合の如く、夏の乳香の樹の若芽の如く、 50:9香爐の中の火と香との如く、あらゆる寶石を鏤めたる純金の伸板の器の如く、 50:10果を結ぶオリブの樹の如く、又雲間に高く聳ゆる杉の如かりき。 50:11榮光の衣を纏ひ、全き誇を着て、聖壇の階段に立ちし時、彼は聖所の境内に榮光を滿しぬ。 50:12祭司たちの手よりその分を受け、己も亦祭壇の爐の側に立ち、この兄弟たちに、冠の如く圍まれし時、彼はレバノンの若き香柏の如かりき。又彼等棕櫚の樹の幹の如く彼を周りたり。 50:13アロンの子等も皆その光榮を纏ひ、手に主の供物を持ちてイスラエルの全會衆の前に立ちぬ。 50:14祭壇の勤行を終り、全能なる至高者の供物を整へんため、 50:15手を酒杯に延べ、葡萄の血を注ぎ、祭壇のもとに注ぎて、萬民の王なる至高者にかぐわしき馨をささげぬ。 50:16その時アロンの子等は聲を舉げ、延金作のラツパを鳴らし、人々の聽き得る大なる響きを起して、至高者の前に記念となせり。 50:17すべての民はその時、皆直ちに平伏して、顏を地につけ、至高き神、全能なる彼等の主を拜み奉りぬ。 50:18罪人らも亦その聲を舉げて讚美し、家の中に美しき調滿ちたり。 50:19民は慈悲深き主の御前に祈り、いと高き主に呼はりて、主の禮拜終るまでに及び、かくて彼等はその奉仕を果しぬ。 50:20その時彼下り行きてイスラエルの子等の全會衆の上にその手を舉げ、その唇をもて主を祝し、その御名に榮光を歸したり。 50:21かくて彼、再び身を屈めて拜をなし、至高者よりの祝福を受けぬ。
50:22汝ら今萬物の神を祝せよ。主は到る處に大なる事をなし、胎内より我等の日を高め、その慈悲に從ひて我らをあしらひ給へり。 50:23願くは主心の歡喜を我らに與へ、我らの日に、イスラエルに平和を與へて永遠に至らしめ、 50:24我らに對するその慈悲を確くし、そのよしと見給ふ時我らを救ひ給はんことを。 50:25二つの民の故にわが心惱む。第三は民にあらず。 50:26即ちサマリヤの山に坐する人々とペリシテ人、又シケムに住む彼の愚なるものどもなり。
50:27われは此の書に悟と知識との教訓とを記したり。我はその心より智慧を注ぎ出しし、エルサレムのシラ・エレアザルの子イエスなり。 50:28幸福なるかな、此等のことを行ふ人。又これをその心に貯ふる者は智くならん。 50:29もしこれをなさば彼はすべてのことに強くなるべし。主の光彼の指導なればなり。

第51章

51:1シラの子イエスの祈。
主よ、王よ、われ汝に感謝せん。わが救主なる神よ、われ汝を讚めん。汝の御名に感謝をささげん。 51:2汝はわが保護者、わが助主にして、わが身を滅より、罵る舌の罠より、僞を作る唇より救ひ出し給へり。傍に立つ人々の前にて汝はわが助主なりき。 51:3その慈悲の豐かなるに從ひ、御名の大なるに從ひて、噛まんとする齒の切齒より、わが生命を求むる者の手より、わが持ちし多くの苦惱より、 51:4四方を取り捲きて息を止むる火より、わが燃えしめざりし火の眞中より、 51:5陰府の腹の深き處より、汚れたる舌より、又虚僞の言より、 51:6王への不義なる舌の罵より、我を救ひ出し給へり。わが魂は死に近づきぬ。 51:7彼等は四方より我を圍み、我を助くる者一人だになし。我は人の助を求めたれど得ざりき。 51:8主よ、われは汝の慈悲と永遠の昔よりありし汝の御業とを憶ゆ。汝は汝を待ち望む者を救ひ、敵の手より彼等を助け出し給へり。 51:9我は地よりわが願を舉げ、死より救ひ給はんことを祈れり。 51:10我はわが主の父なる主に呼はり、患難の日に、また高ぶる者はびこりて、助なき時に、われを見棄て給はざらんことを乞へり。 51:11我は汝の御名を絶えず讚め、感謝をもて讚美せん。わが願きかれたり。 51:12汝は我を滅びより救ひ、惡しき時より助け出し給へり。されば我感謝をささげて汝を讚め、主の御名を祝せん。
51:13我猶若くして、異國に出で行かざりし時、われ祈をもて智慧を求めたり。 51:14宮の前にて我これを求めたり、永遠に至るまでわれこれを求めん。 51:15熟せる葡萄の如く、その花によりてわが心智慧を喜ぬ。我が足は直く歩み、若き時よりこれを追ひ行けり。 51:16我少しく耳を傾けてこれを受け、わがために多くの教訓を得たり。 51:17われこれによりて益を得たり。われに智慧を與へ給へる者をわれ崇めん。 51:18我は智慧を行はんことを求め、善きものに熱心なりき。さればわれいつまでも恥を受けざるべし。 51:19わが魂は智慧と鬪ひ、わが行は正しかりき。われはわが手を上なる天に擴げ、智慧につきてのわが無知を歎きたり。 51:20我はわが魂を正しく智慧に向け、純潔をもてこれを見出しぬ。われは始より智慧と偕にありし心を得たり。さればわれは見棄てられざるべし。 51:21わが心は智慧を求めて惱みぬ。さればわれより所有物を得たり。 51:22主はわが報のため、われに舌を與へ給へり。さればわれこれをもて主を稱へん。
51:23無智なる者よ、われに近づき、わが學舍に宿れ。 51:24何故汝は此等のものを缺き、汝の魂いたく渇くか。 51:25われわが口を開きていひぬ、價なくして汝のために智慧を得よ、 51:26軛の下に汝の首を置き、汝の魂に教訓を受けしめよ、智慧は汝に近く見出されん。 51:27汝の眼をもて見よ、いかにわれ少く勞して、わがために多くの休を得しぞ。 51:28多くの銀をもて汝の教訓を受け、これによりて多くの金を得よ。 51:29願くは汝の魂主の憐憫を喜び、汝これを讚めて恥を受けざらんことを。 51:30時の來る前に汝の業をなせ。さらばそのよしと見給ふ時、主汝に報い給はん。