トビト書

第1章

1:1ナフタリの族アシエルの裔ガバエルの子、アドエルの子、アナニエルの子、タビエルの子なるトビトの物語の書。 1:2このトビトは、アッスリアの王シャルマネセルの時、アセルの上なるガリラヤのガデシ・ナフタリの右に位するテスベより虜へ移されたるものなり。
1:3われトビト、わが一生の間、眞理と正義との道を歩み、我とともにアッスリヤの地ニネベに行きしわが兄弟たち、及びわが國人に衆くの施濟をなせり。 1:4われわが國、イスラエルの地にありて、年なほ若かりし時、わが父ナフタリの族は皆、犧牲をささげんがためにイスラエルのもろもろの族の中より選ばれたるエルサレムの家より、墮ちて去りゆけり。そのころエルサレムにはいと高き主の御住居なる宮潔められ、且萬代に亙りて建てられありき。 1:5共に去り行きしすべての族は、牝犢バアルに犧牲を獻げ、わが父ナフタリの家もしかなせり。 1:6されど我は永遠の誡律によりて、すべてのイスラエル人に命ぜられたる如く、初穗と收穫の十分の一と羊の初剪の毛とを携へて、祭の時、屡ひとりにてエルサレムに上り、これを祭壇に持ち行きて、アロンの子らなる祭司たちにささげたり。 1:7われその第一の十分の一をエルサレムにて役ふるレビの子等に頒ち、次に第二の十分の一を賣りて年毎にエルサレムに赴き、そこにてこれを費せり。 1:8又その第三の十分の一をばわが父の母デボラの命ぜし如く、定められたる人々に與へぬ。そは我、わが父に孤兒として遺されたればなり。 1:9われ人と成りてわが親族の裔よりアンナを娶りて妻とし、彼によりてトビアを産めり。 1:10我捕虜として、ニネベに運び去られし時、わが兄弟たち及びわが親戚の者どもは、異邦人のパンを食へり。 1:11されど我は之を食ふまじとわが身を抑へたり。 1:12こは我心を盡して神を憶えたるによる。 1:13至高者、シャルマネセルの前にて我に恩惠と寵愛とを與へ給ひければ、我遂に彼の厨人となれり。 1:14而して我メデアに赴き、ラゲスにて、ガブリアの兄弟ガブリエルの手に銀十タラントを預けたり。
1:15シャルマネセル死にし時、その子セナケリブ代りて王位に即きしが、此の時この國道騷しくなりて、われメデアに行くこと能はざりき。 1:16シャルマネセルの時に、我わが兄弟たちに多くの施濟をなして、飢ゑたる人々にパンを與へ、 1:17裸なる人々に衣服を着せ、又わが國人の死にてニネベの石垣の外に投げられたるを見てはこれを葬れり。 1:18又セナケリブ王ユダヤより逃げ來りし人を殺しし時も、我これを私に葬れり。そはかれ怒に任せて多くの人を殺したればなり。その屍體王によりて探ね求められしも、遂に見出されざりき。 1:19その時、ニネベ人の一人行きてわがことを王に告げ、いかにわが彼等を葬りて、私に身を隱せしかを語れり。而してわれ、死刑にせられんがために、探ね求めらるることを知りしかば、恐れて逃れたり。 1:20かくてわがすべての持物奪はれ、わが妻アンナとわが子トビアとの他は一つの物だに殘らざりき。 1:21その後五十日を經ずして、王の二人の息子王を殺してアララテの山に逃れたり。而してその子サケルドノス彼に代りて王位に即きぬ。サケルドノスはわが兄弟アキエルの子アキアカロスを用ひてその國の會計及び他のすべての事務を司らしめたり。 1:22かくてアキアカロスわがために執成したれば、我ニネベに往きぬ。アキアカロスは王の酒人、王の印璽を持つ者、王の家宰、又會計を司る者なりき。サケルドノス彼を、己が次の位に任じたり。而してアキアカロスはわが兄弟の子なり。

第2章

2:1我わが家に歸り、わが妻アンナとわが子トビア再びわが許に來りし時、ペンテコステ即ち七週の聖祭の日に、わがために祝宴設けられたれば、われ食せんために席に就けり。 2:2われ多くの肉を見たれば、わが子トビアにいひぬ『主を憶ゆる兄弟のうちの貧しき人を誰にても探ね出して此處に伴ひ來れ。視よ、我汝のために待つ』と。 2:3彼歸りて云ふ『父よ、わが國人の一人締め殺されて、市場に投げ棄てらる』と。 2:4われ何物をも食せず、直に起ちて、日の入る時までその死骸を奧の室に運び入れ、 2:5而してわれ歸りて身を潔め、悲哀の中にわがパンを食せり。 2:6われアモスの預言を思ひ出せり。曰く『汝等の節筵を悲傷に變らせ、汝らの歌を悉く哀哭に變らしめん』
2:7その時我泣きぬ。日暮れしかば我出でて墓を堀り、その死骸を葬れり。 2:8隣の人々嘲りて言ふ『此人、この事柄に由りて死刑にせらるるを未だ恐れず。彼そのために逃れたるに、視よ、彼再び死人を葬りたり』と。 2:9われ彼を葬りて歸りしその夜、わが身穢れたれば、顏に帕を掛けず、庭の壁ぎわに寢ねたり。 2:10われその壁の上に雀居りしを知らず、目をあけ居る時、雀わが目に温き糞を落し、わが目に白き膜生じたり。われ醫者に行きしも彼等われを助け得ざりしが、アキアカロス我を養ひて、わがエリマイスに行く時までに及べり。
2:11その頃わが妻アンナ婦室にて紡績をなし、作りしものをその持主に屆けしに、 2:12彼等その賃銀を拂ひ、猶そのほかに仔山羊をも與へたり。 2:13仔山羊わが家に來りし時鳴き始めたれば、我わが妻に云ふ『この仔山羊何處より來りしか、盜みたるにはあらざるか、持主に返せ、盜みたるものを食するは不法なり。』 2:14妻答へて言ふ『それは、わが賃銀の外に、贈物として我に與へられしなり』と。されどわれ彼を信ぜざりしかば、これをその持主に返せといひて、彼を辱めたり。然るに妻答へて我に言ふ『汝の施濟と汝の義しき業とは何處にあるか。視よ、汝のすべてのわざは明なり。』

第3章

3:1われ嘆き悲み、泣きつつ祈りて言ふ 3:2『主よ、汝は義しくして、汝のすべての御業、すべての道は憐憫なり、眞理なり。汝は永遠に眞にして義しき審判をもて審き給ふ。 3:3願はくは我を憶え、我をみそなはし給へ。わが罪とわが無知、又わが先祖たちが主の御前に犯せし罪の故に我を罰し給ふ勿れ。 3:4彼等汝の誡命に背きたれば、汝我らを略奪に遭はしめ、俘囚と死とにわたし、又我らの散らされ居る國々に於て、我等を恥辱の諺となし給へり。 3:5今、わが罪及びわが先祖たちの罪に從ひて我に行ひ給ふ御審判は多樣にして眞なり。 3:6これ我ら汝の誡命を行はず、汝の御前に眞理をもて歩まざりしが故なり。主よ、今、汝の眼によしと見給ふところに從ひて我をあしらひ給へ。生くるよりも死ぬる方むしろわれに益なり。われ僞の非難を聞きていたく悲む。今われをわが苦惱より救ひ、永遠の場所に入れと命じ給へ。願はくは御顏をわれより背け給ふ勿れ。』
3:7その同じ日にメデヤのエクバタナに於て、ラグエルの娘サラその父の婢たちより辱められたり。 3:8そはかの女七人の男に嫁ぎたれど、その夫等彼と寢る前に惡靈アスモデオス彼等を殺したればなり。その婢等かれに言ふ『汝、夫たちを締め殺したるを知らざるか。汝既に七人の夫を持ちたるも、その一人の名をだに用ひしことなし。 3:9何故我等を鞭打つか。彼等死にたれば、汝も彼等と共に往け。願はくは、我ら、汝の息子をも娘をも永遠に見ざらんことを。』
3:10サラ此等の事を聞きて、甚しく嘆き悲み、自ら縊れんと思へり。されどかれ言ひぬ『我はわが父の一人娘なれば、もし我これをなさば、父の恥となり、彼の老年を、悲みの中に、墓に下らしめん』と。 3:11而して彼窓際にて神に向ひ、祈りて言ふ『讚むべきかな主よ、わが神よ、主の聖にして貴き御名は永遠に讚むべきかな。汝のすべての御業は、とこしへに汝を稱へん。 3:12主よ、今われわが眼を汝に注ぎ、わが顏を汝に向け奉る。 3:13願はくはわれ地より解き放たれて、もはやこの嘲罵を聞かざらんことを。 3:14主よ、汝知り給ふ。われは人に對して罪を犯せしことなし。 3:15またわれわが俘囚の地に於てわが名とわが父の名とを穢せしこと絶えてなし。我はわが父の一人娘にして、父には他に後を嗣ぐべき子も、近き兄弟もなく、又われを妻として偕に居るべき養子もなし。わが七人の夫は既に死ねり。われいかで生くるを得ん。我を殺すこと御心ならずば、願はくは我を顧み、われを憐み、今より後悔辱をきくことなからしめ給へ。』
3:16aさて、二人の祈、大なる神の榮光の前に聽かれ、 3:16bラファエル彼等を癒さんがために遣はされたり。即ちトビトの目より白き膜を取り除き、ラグエルの娘サラをトビトの息子トビアに妻配はせ、且かの惡鬼アスモデオスを縛らんがためなり。そはサラはトビアのものと定められたればなり。その同じ時、トビト歸りて己が家に入り、ラグエルの娘サラは己が二階座敷より下り來れり。

第4章

4:1その日トビト、メデアのラゲスなるガバエルに預けたる金子のことを思ひ出し、 4:2心の中にいひけるは『我は死を求めたれば、死ぬる前に、わが子トビアを呼びて、彼にこのことを示さざるべけんや』と。 4:3かくて彼を呼びて言ふ
『子よ、我死なば我を葬れ。又汝の母を輕んずな。汝の一生の間彼を尊びて、その心に適ふことをなせ。彼を惱ますな。 4:4子よ、汝なほ胎内にありし時、かれ汝のために多くの危難に遭ひしことを憶えよ。彼死なば、わが側に、一つ墓に葬れ。 4:5子よ、汝の一生の間汝の主なる神を憶え、罪に心を向けず、主の誡命を犯さず、一生の間義を行ひ、不義の道を歩むな。 4:6そは汝もし眞理を行はば、汝のなすわざ榮えん。すべて義を行ふ人々にしかあらん。 4:7汝の持物より施濟をなせ。又施濟をなす時汝の眼を貪らしむな。汝の顏を貧しき人より背けずば、神の御顏汝より背けられざるべし。 4:8汝の持物の量に從ひて施濟をなせ。汝の持物少くとも、その少きによりて施濟をなすことを懼るな。 4:9かくして汝、必要の日のために自ら善き寶を貯ふるなり。 4:10そは施濟は、人を死より救ひ、暗黒に陷らしむることなければなり。 4:11施濟はすべてこれをなす者にとりて、いと高きものの御前に善き賜物となるなり。 4:12子よ、すべての淫行を愼しめ。先づ汝の先祖たちの裔より妻を娶れ。汝の父の族にあらざる異邦り女を娶るな。そは我等は預言者たちの子なればなり。子よ、ノア、アブラハム、イサク、ヤコブを憶えよ。古の我らの先祖たちは皆その兄弟たちより妻を娶り、その子らによりて祝福を得たり。彼等の裔は地を嗣がん。 4:13子よ、汝の兄弟を愛せよ。心の中に汝の兄弟たちの中より、汝の國人の息子、娘たちの中より妻を娶ることを輕しむな。輕蔑の中に滅亡と多くの患難あり。又浪費の中に、衰微と大なる窮乏あり。そは浪費は飢饉の母なればなり。 4:14汝のために働くものの賃銀を滯らしむな。手づからこれを渡すべし。汝神に仕へなば、報償汝に來らん。子よ、汝のすべてのわざを愼み、汝の行状に心せよ。 4:15汝の自ら憎むことを誰にもなすな。醉ふ程の酒を飮むな。醉ひたるまま道を行くな。 4:16汝の糧を飢ゑたる者に與へ、汝の衣服を裸なる者に與へよ。すべて汝の豐なるものをもて施濟をなせ。又施濟をなす時、汝の目惜み見ざるやうにせよ。 4:17義人の葬の時に汝の糧を注ぎ出せ。されど罪人には與ふな。 4:18すべての聰き人より勸告を求め、いかなる勸告にても益なるものは輕んずな。 4:19又常に主なる神を祝し、汝の道の直くせられんことと、汝の歩及び汝の計量の榮えんこととを祈れ。いかなる民も皆計畫をもたず。されど主は自らすべての善きものを與へ、又御意のままに、おのが欲する者を卑くし給ふ。子よ、わが誡命を憶え、これを汝の心より消すな。 4:20われ今、メデアのラゲスなるガブリヤの子ガバエルに預けし銀十タラントを汝に示す。 4:21子よ、我ら貧しくとも懼るな。汝もし神を懼れて、凡ての惡より離れ、彼の御前に御心にかなふことをなさば、多くのものを持たん。』

第5章

5:1その時トビア答へて曰ふ『父よ、汝の命ぜしことは、何にてもすべてこれを行はん。 5:2されど我この人を知らざるに、如何にしてその金子を受け取り得んや。』 5:3トビト彼に證書を與へて曰ふ『誰か汝と共に行くべき人を探せ。我生くる間は彼に報酬を與へん。されば行きてその金子を受け取るべし。』 5:4彼出でゆきて人を探したるに、御使ラファエルを見出せり。 5:5されどトビアこれを知らずして彼にいふ『われ汝と共にメデアのラゲスまで行くを得べきか、汝その所をよく知るか。』 5:6御使彼にいふ『われ汝と共に往かん、われよくその道を知る。われ我等の兄弟ガバエルと共に宿したることもあり。』 5:7トビア彼にいふ『我を待て、我わが父にこの事を告げん。』 5:8ラファエル彼にいふ『往け、遲るな。』彼入りて父にいふ『視よ、われ、我と共に行く人を見出せり。』父いふ『彼をわが許に呼び來れ、われ彼の何族の者なるか、又彼は汝と共に行くに足る信ずべき人なるかを見ん。』
5:9トビア彼を呼べば、彼入りて互に挨拶す。 5:10トビト彼にいふ『兄弟よ、汝は何族、何家の人なるか、我に告げよ。』 5:11かれトビトにいふ『汝の求むるは、族なるか、家系なるか。若くは汝の子と共に往くべき雇人なるか。』トビト彼にいふ『兄弟よ、われ汝の生と汝の名とを知りたし。』 5:12彼いふ『我は、なんぢの兄弟たちのうちなる大アナニヤの子、アザリヤなり。』 5:13トビト彼にいふ『よくこそ來つれ、兄弟よ。われ汝の族と汝の家系とを尋ねたればとて怒るな。汝は優れたる善き家系より出でたる兄弟なり。われは大セメヤの子アナニヤとヨナタンとを知る。我ら共に禮拜のためにエルサレムに往きて、初子、及びわれらの收穫の十分の一を供へたることあり。彼等は我らの兄弟たちの過誤に迷ひ行かざりき。兄弟よ、汝は善き家柄より出でたり。 5:14されどわれ汝に幾許の賃銀を與ふべきか、我に告げよ。一日に一ドラクマ及びわが子と同じく日用のものを與へんか。 5:15汝もし健全にて歸らば汝の賃銀に幾ばくかの割増を加へん。』 5:16かくて彼ら同意せり。その時トビト、トビアにいひぬ『旅の準備をせよ。往きて恙なく歸り來れ』と。その子旅に必要なるものを備へし時、父彼にいひけるは『この人と共に往け、願くは、天に在す神、汝らの旅路を祝し、主の御使汝等に伴はんことを』と。ここに於て彼ら二人旅立ち、若ものの犬も彼らと共に往けり。
5:17然るにその母アンナ泣きてトビトにいふ『いかなれば汝我等の子を送り出せしか。彼は我等の前に、入るにも出づるにも、我らの手の杖ならずや。 5:18銀を銀に加へんとて貪るな。我等の子のために安全を期すべきなり。 5:19主より我等の生活の爲に與へられたるもの、我等のために允ち足れり。』 5:20トビト彼にいふ『姉妹よ、心を惑はすな。かれ健全にて歸らん。汝の目再び彼を見るべし。 5:21善き御使彼とともに往き、彼の旅路祝せらるべければ、彼健全にて再び歸らん。』 5:22かくてアンナ泣くことを止めたり。

第6章

6:1さて彼等その旅路に出で立ちけるが、夕に及びてテグリス河のほとりに達し、其處に宿れり。 6:2若者身體を洗はんとて下りしに、河の中より魚跳び出でて、若者を飮まんとせり。 6:3御使彼に『魚を捕へよ』といひければ、若者その魚を捕へて、地に引き揚げたり。 6:4御使彼にいふ『魚をさきて、その心臟と肝臟と膽嚢とを取り、これを安全に貯へ置け。』 6:5若者御使の命ぜし如くなせり。されど彼等その魚を燒きて之を食せり。かくて二人の者その途に進み、エクバタナに近づけり。 6:6若者御使に問ひけるは『兄弟アザリヤよ、かの魚の心臟と肝臟と膽嚢とは何の用をなすか』と。 6:7彼いふ『心臟と肝臟とは、もし惡鬼又は惡靈何人かを苦めなば、我らこれを、その男又は女の前に燻して煙をたて、これによりてその人の惱まされぬやうにするためなり。 6:8されど膽嚢は、眼に白き膜をもつ人に塗れば、その人癒されん。』
6:9彼等ラゲスに近づきたるとき御使若者に言ひぬ 6:10『兄弟よ、我ら今日ラグエルの許に宿らん。彼は汝の親戚にて、サラと云ふ一人娘あり。この娘、妻として汝に與へられんがため、我これをいひ出でん。 6:11その財産は汝の嗣ぐべきものなり。汝は彼の唯一の親戚なればなり。 6:12この少女は美しくして聰き者なり。されば我に聽け。われ、彼の父に告げん。我等ラゲスより歸りて後、婚姻の禮を行はん。われ知る。ラグエルは、モーセの律法に從ひて、その娘をば決して他の人に與へざるを。然らずば彼死に當るべき者とならん。そは、他の何人に歸するよりも、その財産は汝に歸すべきものなればなり。』 6:13その時、若者御使に言ひぬ『兄弟アザリヤよ、われ、この娘七人の男に嫁ぎしことと、其等の人々皆婚禮の室にて死にたることとを聞けり。 6:14我はわが父の一人子なれば、入りて前の人々と同じく死なんことを恐る。その女に來る人々の外は誰をも害はぬ惡鬼、この娘を愛し居るなり。されば我死にて、わが父と母との生命を、わがために悲みて墓に下らしめんことを懼る。彼等には、己等を葬るべき他の子なし。』 6:15御使彼にいふ『汝親戚の家より妻を娶るべしと汝の父の命ぜし言を憶えぬか。われに聽け、兄弟よ、この女必ず汝の妻となり、惡鬼とは何の關係なきに至らん。そはかれ今宵汝の妻となるべければなり。 6:16汝婚禮の室に入らば、炭火をとりて、その上に魚の心臟と肝臟とを燻して煙を立つべし。 6:17さらば惡鬼その臭を嗅ぎて外に逃れ、いつまでも歸り來ることなからん。汝かの女に近づく時、二人共に起ちて、慈悲の神を呼び奉れ。かれ汝等を救ひ、汝等に慈悲を垂れ給はん。懼るな、かの女は、夙くより、汝のために備へられ居たる者なり。汝は彼を救ひ、彼は汝と共に往かん。われ想ふに汝は必ず彼によりて子を生まん。』トビア此等のことを聞きて、かの娘を愛し、その魂ひたすらかれを慕へり。

第7章

7:1彼等エクバタナに來りて、ラグエルの家に赴きぬ。サラ彼等を迎へて挨拶し、彼等もまた彼に挨拶せり。かくてサラ彼等を家の中に伴ひ入れたり。 7:2ラグエルその妻エデナにいひけるは『この若者、いかにわが從兄弟トビトに似たる』と。 7:3ラグエル彼等に『兄弟たちよ、汝等何處より來るか』と問ひければ、彼等答へて云ふ『我等はニネベに俘虜となり居るナフタリの子らなり』 7:4彼いふ『我等の兄弟トビトを知るか。』彼等答ふ『われ彼を知る』と。彼更に問ひていふ『彼は健全なりや。』 7:5彼等いふ『彼猶生きて健全なり。』その時、トビアいひぬ『彼はわが父なり。』 7:6ラグエル躍りあがりて彼に接吻して泣きぬ。 7:7而して彼トビアを祝していへり『汝は優れたる善き人の子なり』と。ラグエルは、トビトの目盲ひたるを聞きし時、悲みて泣きぬ。 7:8彼の妻エデナも、娘サラも泣きぬ。彼等喜びてその人々を欵待し、群の牡羊を屠りて、彼等の前に多くの肉を備へたり。
トビア、ラファエルに言ふ『兄弟アザリヤよ、途にて汝が語りしことを言ひて、それに結末をつけよ。』 7:9ラファエルこれをラグエルに傳へたれば、ラグエル、トビアにいひぬ『食へ、飮め、樂め。 7:10汝わが子を娶るべければなり。されどわれ汝に眞實を語らん。 7:11我わが子を七人の男に嫁がしめしに、彼等これに近づきたるその夜の中に皆死ねり。されど今は樂しめ。』トビア彼にいふ『汝等契約をなし、われと契約を結ぶまでは、我等何をも食ふまじ。』 7:12ラグエルいふ『慣習に從ひて、汝今よりかの女を娶れ。そは汝はかれの兄弟にして、かれは汝の有なればなり。憐憫の神、汝らに最も善きものを、そなへ給はん。』 7:13さて彼その娘サラを呼び、その手を取りて、彼をトビアに、妻として與へ、且いふ『今モーセの律法に從ひ、この女を娶りて、汝の父のもとに伴ひ往け。』ラグエル彼等を祝しぬ。 7:14かれ又その妻エデナを呼び、帳簿を取りて契約書を書き、これに捺印したり。 7:15かくて彼等食ひ初む。 7:16ラグエルその妻エデナを呼びていふ『姉妹よ、他の室を備へて娘を其處に伴ひ往け。』 7:17エデナ彼のいひし如くなし、娘を其處に伴ひ入りて、泣けり。娘も涙にくれければ、かれ言ひぬ。 7:18『子よ、心安かれ。天地の主、この汝の悲哀に對して、汝に喜悦を與へ給はん。心安かれ、娘よ。』

第8章

8:1晩餐終りて彼等トビアをその娘の許に伴ひ往けり。 8:2かれ往きし時、ラフアエルの言を思ひ出し、炭火を焚きて、その上に魚の心臟と肝臟とを載せ、燻して煙を立てたり。 8:3惡鬼その臭氣を嗅ぎて、エジプトのはてまで逃げゆきしが、御使かれを縛れり。 8:4この二人共に室内に閉ぢ籠りたる時、トビア床よりたち上りていひぬ『姉妹よ、起きよ。主我等を憐み給はんがため、我等祈らん。』 8:5而してトビア斯くいひ出づ『讚むべきかな、我等の先祖たちの神、願はくは汝の榮ある聖き御名の永遠に崇められんことを。願はくは天と汝の造りたまひしすべてのもの、汝を讚めたたへんことを。 8:6汝アダムを造りて、その妻エバを助手とし支持者として彼に與へ給へり。彼等より人の裔生れたり。汝言ひ給へり『人獨り居るは宜しからず、我等人のために彼に似たる助手を造らん』と。 8:7主よ、我今この姉妹を情欲のために娶らず、眞理に由りて娶るなり。願はくは我に御恩惠を降し、年老ゆるまで、彼と共に住ましめたまへ。』 8:8サラ彼と借に『アァメン』といふ。 8:9かくて二人其夜共に眠りぬ。
ラグエル往きて墓を堀り、 8:10かつ言ふ『恐らくはこの人も死ぬるならん』と。 8:11而して後ラグエル己が家に歸りて、 8:12その妻エデナに言ふ『婢どもの中より一人を遣はして、彼の生き居るや否やを尋ねしめよ。もし生き居らずば、彼を葬りて、誰にもこれを知らしむな。 8:13婢戸を開きて室に入り、二人の眠り居るを見しかば、 8:14出でて『彼生き居る』と、彼等に告げたり。 8:15その時ラグエル神を讚めたたへていへり
『讚むべきかな、神よ。汝はすべての潔く聖なる祝福をもて崇められ給はん。汝の聖徒とすべての造られたるものは汝を崇め、すべての御使と汝の選び給ひしものはとこしへに汝を崇め奉るべし。 8:16汝は讚むべきかな。汝は我を喜ばしめ、わが恐れ居りしことを起らしめず、却つて、大なる憐憫をもて我等をあしらひ給へり。 8:17汝は讚むべきかな。汝はその親たちの獨子なる二人のものに憐みを垂れ給へり。主よ、彼等を憐み給へ。喜悦と憐憫とをもて彼等の生命を健全に保ち給へ。』 8:18ラグエルその僕等に命じて、墓を埋めしむ。 8:19而してかれ、彼等のために、十四日の間婚筵を續けたり。 8:20婚筵終る前にラグエル、トビアに婚筵の十四日滿つるまでは決してそこを去るべからざることと、 8:21終りて後に、その財産の半をとりて、安らかに父の許に歸るべきことを告げ、かつ『その殘餘をば、われとわが妻の死せん時に』といひぬ。

第9章

9:1トビア、ラフアエルを呼びて言ふ 9:2『兄弟アザリヤよ、願はくは一人の僕と二匹の駱駝とを携へて、メデアのラゲスなるガバエルの許に往き、わがためにかの金子を受け取り、且かれを婚筵に伴ひ來れ。 9:3そはラグエルわれを去らしめじと誓ひたればなり。 9:4されどわが父日を數ふ。もしわれ遲れなば、彼いたく嘆かん。』 9:5ラフアエル往きて、ガバエルの許に宿り、彼にその證書を渡せしかば、ガバエル封印せられたる袋を持ち來りて之を彼に渡しぬ、 9:6彼等朝早く旅立ちてその婚筵に來れり。かくてトビアその妻を祝したり。

第10章

10:1さてその父トビト日ごとに、指折り數へ居たりしが、旅の日數盡きたるに彼等猶歸らざりしかば、 10:2トビト曰ひぬ『恐らくは彼等引き留られ居るならん。然らずばガバエル死にて、トビアに金子を與ふる者居らずなりしならん』と。 10:3彼いたく嘆けり。 10:4然るにその妻彼に言ふ『かく遲るるを見れば、わが子は死にたるなり。』而して彼その子のために泣きていひぬ 10:5『子よ、わが目の光なる汝に先だたれて、われ何を欲せんや。』 10:6その時トビト彼にいふ『默せ、心を煩はすな、彼は健全なり。』 10:7その妻彼に『默せ、我を欺くな、わが子は死ねるなり』と答ふ。而して彼日毎に、彼等の行きし途に行きて、晝は糧を食はず、夜はその子トビアのために泣くことを止めず、ラグエルがトビヤを引き止めて、其處にて過せといひし婚筵の十四日盡くるまでに及びぬ。 10:8その舅彼にいふ『我と共に留まれ。われ汝の父に使を遣して、汝のいかに暮し居るかを知らしめん』 10:9トビヤいふ『否、我をわが父の許に去らしめよ。』 10:10ラグエル起ちて彼に、その妻サラとその財産の半、僕婢、家畜、及び金銀を頒ち與へ、 10:11彼等を祝していひぬ『わが子らよ。天の神、わが死ぬる前に、汝等を榮えしめ給はん』と。 10:12而してその娘に向ひ『汝の舅と姑とを敬へ、彼等は既に汝の親となれり。我に汝の令聞を聞かしめよ』と言ひて、これに接吻せり。而してエデナ、トビアにいふ『愛する兄弟よ、願はくは天の主汝を強め、われ主の御前に喜悦を得んがために、我にわが娘サラによりて汝の子らを見ることを得しめ給はんことを。視よ、われわが娘を特に汝に委ぬ。なんぢこれを惱ますな。』

第11章

11:1これらのことの後、トビア、神その旅路を守り給ひしが故に神を崇めつつ進み行きぬ。彼又ラグエルとその妻エデナとを祝せり。 11:2彼等旅立ちてニネベに近づきし頃、ラフアエル、トビアにいふ『兄弟よ、汝いかなる狀にて父と別れしかを憶えぬか。 11:3我等汝の妻に先立ち行きて家を備へん。 11:4されど汝の手にかの魚の膽嚢を携へよ。』彼等その道に往き、犬彼等の後に從ひぬ。 11:5さてアンナその子の往きし道を眺めて坐し居たり。 11:6而してその子の來るを見出したれば、彼トビアの父に云ふ『視よ、わが子と、彼と共に往きし人と歸り來れり。』 11:7ラフアエル云ふ『われ知る、トビヤよ、汝の父、目を開かん。されば汝、その目に魚の膽汁を塗れ。 11:8彼その刺戟にて、必ず之をこすらん。さすれば白き膜落ちて彼汝を見得るに至らん。』 11:9アンナ走り寄りてその子の首を抱き、『子よ、我汝を再び見たれば、いつにても死なん』といひて、二人偕に泣きぬ。 11:10トビト、戸の所に出でゆきて門の所に於てつまづきしが、その子、彼のもとに走りゆきて父を抱き、 11:11魚の膽嚢をその目に當てて『心安かれ、父よ』といふ。 11:12その目疼き出したれば、トビトこれを、こすりしに、白き膜目の緣よりむけ落ちて、 11:13かれその子を見るを得、その首を抱きたり。 11:14彼泣きて云ふ『讚むべきかな、神よ。汝の御名は永遠に讚むべきかな。汝のすべての聖なる御使は讚むべきかな。汝は我を鞭打ち、又我を憐み給へり。 11:15視よ我、わが子トビアを見る事を得たり。』その子も喜び、入りてメデアに於て遭ひたる大なる事を父に告げたり。 11:16トビト出でて、ニネベの門に赴き、神を崇め且喜びて、その嫁を迎へたり。トビトの歩むを見たる人々、彼が見る事を得たるによりて驚き合へり。 11:17神彼に憐憫を垂れ給ひたればトビト彼等の前にて感謝せり。トビトその嫁サラに近づきてこれを祝し、『よくこそ來つれ、娘よ。汝を我等に導き給ひし神は讚むべきかな、汝の父も汝の母も幸福なれ』といふ。 11:18かくてニネベに於ける彼のすべての兄弟たちのうちに喜悦ありき。アキアカロス及びその甥ナスバスも來りて、 11:19トビアの婚禮七日の間、大なる歡喜をもて續けられたり。

第12章

12:1さてトビト、その子トビアを呼びてこれに云ふ『子よ、視よ、これは汝と偕に往きしかの人への報酬なり。汝は彼に猶多く與ふべきなり。』 12:2彼云ふ『父よ、彼にわが所有の半を與ふるも我に不足なし。 12:3そは彼われを恙なく汝の許に伴れ歸り、又わが妻をも癒し、わがためにわが金子を携へ歸り、且汝をも癒したればなり。』 12:4老人彼に云ふ『かくなすは當然なり。』 12:5かくて天の使を呼びて彼に云ふ『汝の持ち來りしすべての物の半を取れ。』 12:6その時かれ密かに二人を呼びていひぬ 12:7王の密事をかばふは良きことなれど、神の御業は榮光をもてこれを現はすべし。善をなせ、然らば惡汝を見出すことなからん。 12:8斷食と施濟と正義との伴ふ祈は良し。少しの義は多くの不義に勝る。銀を貯ふるよりも施濟をなすは良し。 12:9そは施濟は人を死より救ひ、すべての罪より潔むればなり。施濟及び正義を行ふものは生命に充たされん。 12:10されど罪を行ふものは己が生命の敵なり。 12:11我汝等に何をも隱さじ、『王の密事をかばふはよきことなれど、神の御業は榮光をもてこれを現はすべし』と我いへり。 12:12汝と汝の嫁サラ祈りし時、われ汝等の祈の聲を聖者の御前に携へ上れり。汝死にし者を葬れる時、我また汝と共に居りたり。 12:13又汝食事を止め、急ぎ起ちあがりて死骸を掩ひし時、汝の善行我に隱れざりき。われ汝と共に在りたればなり。 12:14神汝及び汝の嫁サラを癒さんとて我を遣したまへり。 12:15我は聖徒の祈を備へ、かつ聖者の榮光の御前に往來する七人の聖なる天使の一人なるラフアエルなり。』 12:16二人共に心騷ぎて地に平伏したり。そは彼等懼れたればなり。 12:17御使彼等に云ふ『懼るな。平安汝等にあらん。 12:18永遠に神を讚めまつれ、そは我が來りしは己が意に由らず、神の、御意によればなり。されば汝ら永へに神を崇めまつれ。 12:19今日に至るまで我汝等に顯れたれど、何をも飮み又食ひしことなかりき。汝等は幻を見たるなり。 12:20されば今神に感謝せよ。そは我を遣はし給ひしものに、我歸るべければなり。故にすべて此等の起りし事を書物に書き記せ。』 12:21彼等起ち上れる時、もはや彼を見ざりき。 12:22かくて彼等は、神の大にして不思議なる御業と、主の御使の彼等に顯れし事を言ひあらはせり。

第13章

13:1さてトビト喜悦に溢れ、祈を書き記していひぬ 13:2そは彼、人を鞭打ちて憐憫を示し給ふ。かれ人を陰府に導き下りて、再び携へ上り給ふ。その御手より逃れ得るものなし。 13:3異邦人の前にて彼に感謝せよ、汝らイスラエルの子等よ。そは彼、我等を彼等の間に散らし給ひたればなり。 13:4主の大なる事を示し、すべての生ける者の前にて彼を崇めよ。そは彼は我等の主にして、神は永遠に我等の父に在せばなり。 13:5彼は、我等の不義の故に我らを鞭打ち給へど、再び我等に憐憫を施し給ひ、我等を、汝らの散らされ居るすべての民の中より、集め給はん。 13:6若し汝等、汝らの全心、全靈をもて彼に向ひ、その御前に眞理を行はば、かれ御顏を汝等より隱し給はじ。されば汝等、かれ汝等のために何をなし給ふかを見、汝等の口を全く開きて、彼に感謝し、正義の主を祝し、永遠の王を崇めよ。我わが俘囚の地に於て彼に感謝し、且罪深き民等の中にてその御能力と稜威とを示す。歸れ、罪人らよ。主の御前に正義を行へ。彼汝等を受けて、汝等に憐憫を垂れ給ふとも、誰かよく之を知らんや。 13:7我わが神を崇め、わが魂は天の王をほめまつり、その偉大なることを喜ばん。 13:8願くは、すべての人に語らしめ、エルサレムにて彼に感謝を獻げしめよ。 13:9ああエルサレムよ、聖なる都よ。彼、汝の子等の行爲の故に、汝を鞭打ち給ふとも、義しき者の子等の上に、再び憐憫を垂れ給はん。 13:10善きものをもて主に感謝をささげ、永遠の王を讚めまつれ。これ、その幕屋、汝の中に、再び歡喜をもて建てられ、かれ、俘囚人たる者どもを汝の中にて喜ばしめ、不幸なる人々を、とこしへに汝の中にて、愛せんがためなり。 13:11多くの國民遠くより來りて、主なる神の御名に、その手にある供物、卽ち天の王への供物をささげん、萬代より萬代まで、人々汝をほめて、喜びの歌をうたはん。 13:12災害なるかな、汝を憎むすべての人々。されど幸福なるかな、永へに汝を愛するすべての人々。 13:13喜べ、いとどしく喜べ、義しき者の子等のために。そは彼等集ひ來りて義しき者の主を讚めたたふべければなり。 13:14ああ幸幅なるかな、汝を愛する人々。彼等は汝の平和の故に樂しまん。幸福なるかな、汝のすべての鞭撻のために悲しむ人々。汝のすべての光榮を見ん時、彼等汝のために喜び、永遠に樂まん。 13:15わが魂よ。大なる王なる神を讚めまつれ。 13:16そは、エルサレムは、青玉と綠玉、及び貴き寶石をもて築かれ、その石垣と櫓と塞とは純金をもて建てらるべし。 13:17エルサレムの巷は綠柱石と紅玉、及びオフルの寶石を舖きつめられん。 13:18而してそのすべての巷は、ハレルヤを唱へ、讚美をささげていはん『汝を永遠に高め給ひし神は讚めまつるべきかな。』

第14章

14:1かくてトビトその感謝を終へたり。彼その目盲しは五十八歳の時なりしが、八年の後再び見ることを得たるなり。 14:2彼施濟をなし、益主なる神を畏れて、彼に感謝をささげたり。 14:3さて彼、年いたく老いたれば、その子と、その子の六人の子等を呼びて、これにいひぬ『子よ、汝の子らを伴へ。視よ、我は年老いて、將にこの世を去らんとす。 14:4子よ、メデアに往け。そは、我、預言者ヨナのニネベに對して豫言せしことを信ず。ニネベはやがて亡さるべけれど、メデヤには猶、暫の間平和あらん。又我等の兄弟ら良き地より全地の上に散らされ、エルサレムは荒れはて、その中なる神の家も燒かれて、時至るまで荒れたるままにてあらん。 14:5されど神再び彼等を憐みて、その國に歸らしむべし。彼等そこに神の宮を建つべけれど、その世の時期滿つるまでは、その宮以前の宮の如くにはあらじ。その後彼等、俘囚より還り、光榮を以てエルサレムを建てん。又その中に在る神の宮も預言者たちのいへるが如く光榮を以て建てられん。 14:6而してすべての民等は立ち歸りて、眞に主なる神を畏れ、彼らの偶像を葬らん。 14:7かくてすべての國民主を祝し、主の民神を讚めまつり、主その民を高くし給はん。而して、眞理と正義とをもて主なる神を愛するすべての人々、我等の兄弟たちに憐憫を施しつつ喜ばん。 14:8子よ、今ニネベより出でよ。そは、預言者ヨナのいひし言必ず成るべければなり。 14:9汝律法と誡命とを守れ。又汝榮えんがために憐憫と正義とを表せ。 14:10汝禮を盡して我を葬れ。又汝の母と我とを偕に葬れ。もはやニネベには住むな、子よ、アマンが己を育てしアキアカロスに何をなせしか、いかに彼を光明より暗黑に伴ひ行きしか、又彼にいかなる事をなせしかを見よ。然るにアキアカロスは救はれたれど、アマンは己が應報を受けて暗黑の中に下り行きぬ。マナセは施濟をなして、彼のために備へられたる死の罠より救はれたれど、アマンはその罠に陷りて亡びたり。 14:11子らよ、施濟は何をなすか、又正義は如何に救ふかを想へ。』
此等の事を言ひつつ、彼その床にて魂を渡したり。トビトその時百五十八歳なりき。トビア彼を光榮をもて葬れり。 14:12アンナの死ねる時、彼をもトビトと偕に葬りたり。而してトビアその妻及びその子等と偕にエクバタナなる舅ラグエルの許に至れり。 14:13彼も老いて崇められ、その舅と姑とを光榮をもて葬り、彼等の遺産と、父トビトの遺産を嗣げり。 14:14彼は百二十七歳の時、メデアのエクバタナに於て死ねり。 14:15されど彼、その死に先立ちて、ネブカデネザル及びアメシユエロスの陷れしニネベの滅亡を聞き、死ぬる前にニネベの故に喜をなせり。