創世記
元始に神天地を創造たまへり
地は定形なく曠空くして黑暗淵の面にあり神の靈水の面を覆たりき
神光あれと言たまひければ光ありき
神光を善と觀たまへり神光と暗を分ちたまへり
神光を晝と名け暗を夜と名けたまへり夕あり朝ありき是首の日なり
神言たまひけるは水の中に穹蒼ありて水と水とを分つべし
神穹蒼を作りて穹蒼の下の水と穹蒼の上の水とを判ちたまへり即ち斯なりぬ
神穹蒼を天と名けたまへり夕あり朝ありき是二日なり
神言たまひけるは天の下の水は一處に集りて乾ける土顯べしと即ち斯なりぬ
神乾ける土を地と名け水の集合るを海と名けたまへり神之を善と觀たまへり
神言たまひけるは地は靑草と實蓏を生ずる草蔬と其類に從ひ果を結びみづから核をもつ所の果を結ぶ樹を地に發出すべしと即ち斯なりぬ
地靑草と其類に從ひ實蓏を生ずる草蔬と其類に從ひ果を結てみづから核をもつ所の樹を發出せり神これを善と觀たまへり
夕あり朝ありき是三日なり
神言たまひけるは天の穹蒼に光明ありて晝と夜とを分ち又天象のため時節のため日のため年のために成べし
又天の穹蒼にありて地を照す光となるべしと即ち斯なりぬ
神二の巨なる光を造り大なる光に晝を司どらしめ小き光に夜を司どらしめたまふまた星を造りたまへり
神これを天の穹蒼に置て地を照さしめ
晝と夜を司どらしめ光と暗を分たしめたまふ神これを善と觀たまへり
夕あり朝ありき是四日なり
神云たまひけるは水には生物饒に生じ鳥は天の穹蒼の面に地の上に飛べしと
神巨なる魚と水に饒に生じて動く諸の生物を其類に從ひて創造り又羽翼ある諸の鳥を其類に從ひて創造りたまへり神之を善と觀たまへり
神之を祝して曰く生よ繁息よ海の水に充牣よ又禽鳥は地に蕃息よと
夕あり朝ありき是五日なり
神言給ひけるは地は生物を其類に從て出し家畜と昆蟲と地の獸を其類に從て出すべしと即ち斯なりぬ
神地の獸を其類に從て造り家畜を其類に從て造り地の諸の昆蟲を其類に從て造り給へり神之を善と觀給へり
神言給けるは我儕に象りて我儕の像の如くに我儕人を造り之に海の魚と天空の鳥と家畜と全地と地に匍ふ所の諸の昆蟲を治めんと
神其像の如くに人を創造たまへり即ち神の像の如くに之を創造之を男と女に創造たまへり
神彼等を祝し神彼等に言たまひけるは生よ繁殖よ地に滿盈よ之を服從せよ又海の魚と天空の鳥と地に動く所の諸の生物を治めよ
神言たまひけるは視よ我全地の面にある實蓏のなる諸の草蔬と核ある木果の結る諸の樹とを汝等に與ふこれは汝らの糧となるべし
又地の諸の獸と天空の諸の鳥および地に匍ふ諸の物等凡そ生命ある者には我食物として諸の靑き草を與ふと即ち斯なりぬ
神其造りたる諸の物を視たまひけるに甚だ善りき夕あり朝ありき是六日なり
斯天地および其衆群悉く成ぬ
第七日に神其造りたる工を竣たまへり即ち其造りたる工を竣て七日に安息たまへり
神七日を祝して之を神聖めたまへり其は神其創造爲たまへる工を盡く竣て是日に安息みたまひたればなり
ヱホバ神地と天を造りたまへる日に天地の創造られたる其由來は是なり
野の諸の灌木は未だ地にあらず野の諸の草蔬は未生ぜざりき其はヱホバ神雨を地に降せたまはず亦土地を耕す人なかりければなり
霧地より上りて土地の面を遍く潤したり
ヱホバ神土の塵を以て人を造り生氣を其鼻に嘘入たまへり人即ち生靈となりぬ
ヱホバ神エデンの東の方に園を設て其造りし人を其處に置たまへり
ヱホバ神觀に美麗く食ふに善き各種の樹を土地より生ぜしめ又園の中に生命の樹および善惡を知の樹を生ぜしめ給へり
河エデンより出て園を潤し彼處より分れて四の源となれり
其第一の名はピソンといふ是は金あるハビラの全地を繞る者なり
其地の金は善し又ブドラクと碧玉彼處にあり
第二の河の名はギホンといふ是はクシの全地を繞る者なり
第三の河の名はヒデケルといふ是はアッスリヤの東に流るるものなり第四の河はユフラテなり
ヱホバ神其人を挈て彼をエデンの園に置き之を理め之を守らしめ給へり
ヱホバ神其人に命じて言たまひけるは園の各種の樹の果は汝意のままに食ふことを得
然ど善惡を知の樹は汝その果を食ふべからず汝之を食ふ日には必ず死べければなり
ヱホバ神言たまひけるは人獨なるは善らず我彼に適ふ助者を彼のために造らんと
ヱホバ神土を以て野の諸の獸と天空の諸の鳥を造りたまひてアダムの之を何と名るかを見んとて之を彼の所に率ゐいたりたまへりアダムが生物に名けたる所は皆其名となりぬ
アダム諸の家畜と天空の鳥と野の諸の獸に名を與へたり然どアダムには之に適ふ助者みえざりき
是に於てヱホバ神アダムを熟く睡らしめ睡りし時其肋骨の一を取り肉をもて其處を填塞たまへり
ヱホバ神アダムより取たる肋骨を以て女を成り之をアダムの所に携きたりたまへり
アダム言けるは此こそわが骨の骨わが肉の肉なれ此は男より取たる者なれば之を女と名くべしと
是故に人は其父母を離れて其妻に好合ひ二人一體となるべし
アダムと其妻は二人倶に裸體にして愧ざりき
ヱホバ神の造りたまひし野の生物の中に蛇最も狡猾し蛇婦に言ひけるは神眞に汝等園の諸の樹の果は食ふべからずと言たまひしや
婦蛇に言けるは我等園の樹の果を食ふことを得
然ど園の中央に在樹の果實をば神汝等之を食ふべからず又之に捫るべからず恐は汝等死んと言給へり
蛇婦に言けるは汝等必らず死る事あらじ
神汝等が之を食ふ日には汝等の目開け汝等神の如くなりて善惡を知に至るを知りたまふなりと
婦樹を見ば食に善く目に美麗しく且智慧からんが爲に慕はしき樹なるによりて遂に其果實を取て食ひ亦之を己と偕なる夫に與へければ彼食へり
是において彼等の目倶に開て彼等其裸體なるを知り乃ち無花果樹の葉を綴て裳を作れり
彼等園の中に日の清涼き時分歩みたまふヱホバ神の聲を聞しかばアダムと其妻即ちヱホバ神の面を避て園の樹の間に身を匿せり
ヱホバ神アダムを召て之に言たまひけるは汝は何處にをるや
彼いひけるは我園の中に汝の聲を聞き裸體なるにより懼れて身を匿せりと
ヱホバ言たまひけるは誰が汝の裸なるを汝に告しや汝は我が汝に食ふなかれと命じたる樹の果を食ひたりしや
アダム言けるは汝が與て我と偕ならしめたまひし婦彼其樹の果實を我にあたへたれば我食へりと
ヱホバ神婦に言たまひけるは汝がなしたる此事は何ぞや婦言けるは蛇我を誘惑して我食へりと
ヱホバ神蛇に言たまひけるは汝是を爲たるに因て汝は諸の家畜と野の諸の獸よりも勝りて詛はる汝は腹行て一生の間塵を食ふべし
又我汝と婦の間および汝の苗裔と婦の苗裔の間に怨恨を置ん彼は汝の頭を碎き汝は彼の踵を碎かん
又婦に言たまひけるは我大に汝の懷姙の劬勞を増すべし汝は苦みて子を產ん又汝は夫をしたひ彼は汝を治めん
又アダムに言たまひけるは汝その妻の言を聽て我が汝に命じて食ふべからずと言たる樹の果を食ひしに縁て土は汝のために詛はる汝は一生のあひだ勞苦て其より食を得ん
土は荊棘と薊とを汝のために生ずべしまた汝は野の草蔬を食ふべし
汝は面に汗して食物を食ひ終に土に歸らん其は其中より汝は取れたればなり汝は塵なれば塵に皈るべきなりと
アダム其妻の名をヱバと名けたり其は彼は群の生物の母なればなり
ヱホバ神アダムと其妻のために皮衣を作りて彼等に衣せたまへり
ヱホバ神曰たまひけるは視よ夫人我等の一の如くなりて善惡を知る然ば恐くは彼其手を舒べ生命の樹の果實をも取りて食ひ限無生んと
ヱホバ神彼をエデンの園よりいだし其取て造られたるところの土を耕さしめたまへり
斯神其人を逐出しエデンの園の東にケルビムと自から旋轉る焔の劍を置て生命の樹の途を保守りたまふ
アダム其妻エバを知る彼孕みてカインを生みて言けるは我ヱホバによりて一個の人を得たりと
彼また其弟アベルを生りアベルは羊を牧ふ者カインは土を耕す者なりき
日を經て後カイン土より出る果を携來りてヱホバに供物となせり
アベルもまた其羊の初生と其肥たる者を携來れりヱホバ、アベルと其供物を眷顧みたまひしかども
カインと其供物をば眷み給はざりしかばカイン甚だ怒り且其面をふせたり
ヱホバ、カインに言たまひけるは汝何ぞ怒るや何ぞ面をふするや
汝若善を行はば擧ることをえざらんや若善を行はずば罪門戸に伏す彼は汝を慕ひ汝は彼を治めん
カイン其弟アベルに語りぬ彼等野にをりける時カイン其弟アベルに起かかりて之を殺せり
ヱホバ、カインに言たまひけるは汝の弟アベルは何處にをるや彼言ふ我しらず我あに我弟の守者ならんやと
ヱホバ言たまひけるは汝何をなしたるや汝の弟の血の聲地より我に叫べり
されば汝は詛れて此地を離るべし此地其口を啓きて汝の弟の血を汝の手より受たればなり
汝地を耕すとも地は再其力を汝に效さじ汝は地に吟行ふ流離子となるべしと
カイン、ヱホバに言けるは我が罪は大にして負ふこと能はず
視よ汝今日斯地の面より我を逐出したまふ我汝の面を觀ることなきにいたらん我地に吟行ふ流離子とならん凡そ我に遇ふ者我を殺さん
ヱホバ彼に言たまひけるは然らず凡そカインを殺す者は七倍の罰を受んとヱホバ、カインに遇ふ者の彼を撃ざるため印誌を彼に與へたまへり
カイン、ヱホバの前を離て出でエデンの東なるノドの地に住り
カイン其妻を知る彼孕みエノクを生りカイン邑を建て其邑の名を其子の名に循ひてエノクと名けたり
エノクにイラデ生れたりイラデ、メホヤエルを生みメホヤエル、メトサエルを生みメトサエル、レメクを生り
レメク二人の妻を娶れり一の名はアダと曰ひ一の名はチラと曰り
アダ、ヤバルを生めり彼は天幕に住て家畜を牧ふ所の者の先祖なり
其弟の名はユバルと云ふ彼は琴と笛とをとる凡ての者の先祖なり
又チラ、トバルカインを生り彼は銅と鐡の諸の刃物を鍛ふ者なりトバルカインの妹をナアマといふ
レメク其妻等に言けるはアダとチラよ我聲を聽けレメクの妻等よわが言を容よ我わが創傷のために人を殺すわが痍のために少年を殺す
カインのために七倍の罰あればレメクのためには七十七倍の罰あらん
アダム復其妻を知て彼男子を生み其名をセツと名けたり其は彼神我にカインの殺したるアベルのかはりに他の子を與へたまへりといひたればなり
セツにもまた男子生れたりかれ其名をエノスと名けたり此時人々ヱホバの名を呼ことをはじめたり
アダムの傳の書は是なり神人を創造りたまひし日に神に象りて之を造りたまひ
彼等を男女に造りたまへり彼等の創造られし日に神彼等を祝してかれらの名をアダムと名けたまへり
アダム百三十歳に及びて其像に循ひ己に象りて子を生み其名をセツと名けたり
アダムのセツを生し後の齡は八百歳にして男子女子を生り
アダムの生存へたる齡は都合九百三十歳なりき而して死り
セツ百五歳に及びてエノスを生り
セツ、エノスを生し後八百七年生存へて男子女子を生り
セツの齡は都合九百十二歳なりき而して死り
エノス九十歳におよびてカイナンを生り
エノス、カイナンを生し後八百十五年生存へて男子女子を生り
エノスの齡は都合九百五歳なりき而して死り
カイナン七十歳におよびてマハラレルを生り
カイナン、マハラレルを生し後八百四十年生存へて男子女子を生り
カイナンの齡は都合九百十歳なりきしかして死り
マハラレル六十五歳に及びてヤレドを生り
マハラレル、ヤレドを生し後八百三十年生存へて男子女子を生り
マハラレルの齡は都合八百九十五歳なりき而して死り
ヤレド百六十二歳に及びてエノクを生り
ヤレド、エノクを生し後八百年生存へて男子女子を生り
ヤレドの齡は都合九百六十二歳なりき而して死り
エノク六十五歳に及びてメトセラを生り
エノク、メトセラを生し後三百年神とともに歩み男子女子を生り
エノクの齡は都合三百六十五歳なりき
エノク神と偕に歩みしが神かれを取りたまひければをらずなりき
メトセラ百八十七歳に及びてレメクを生り
メトセラ、レメクを生しのち七百八十二年生存へて男子女子を生り
メトセラの齡は都合九百六十九歳なりき而して死り
レメク百八十二歳に及びて男子を生み
其名をノアと名けて言けるは此子はヱホバの詛ひたまひし地に由れる我操作と我勞苦とに就て我らを慰めん
レメク、ノアを生し後五百九十五年生存へて男子女子を生り
レメクの齡は都合七百七十七歳なりき而して死り
ノア五百歳なりきノア、セム、ハム、ヤペテを生り
人地の面に繁衍はじまりて女子之に生るるに及べる時
神の子等人の女子の美しきを見て其好む所の者を取て妻となせり
ヱホバいひたまひけるは我靈永く人と爭はじ其は彼も肉なればなり然ど彼の日は百二十年なるべし
當時地にネピリムありき亦其後神の子輩人の女の所に入りて子女を生しめたりしが其等も勇士にして古昔の名聲ある人なりき
ヱホバ人の惡の地に大なると其心の思念の都て圖維る所の恒に惟惡きのみなるを見たまへり
是に於てヱホバ地の上に人を造りしことを悔いて心に憂へたまへり
ヱホバ言たまひけるは我が創造りし人を我地の面より拭去ん人より獸昆蟲天空の鳥にいたるまでほろぼさん其は我之を造りしことを悔ればなりと
されどノアはヱホバの目のまへに恩を得たり
ノアの傳は是なりノアは義人にして其世の完全き者なりきノア神と偕に歩めり
ノアはセム、ハム、ヤペテの三人の子を生り
時に世神のまへに亂れて暴虐世に滿盈ちたりき
神世を視たまひけるに視よ亂れたり其は世の人皆其道をみだしたればなり
神ノアに言たまひけるは諸の人の末期わが前に近づけり其は彼等のために暴虐世にみつればなり視よ我彼等を世とともに剪滅さん
汝松木をもて汝のために方舟を造り方舟の中に房を作り瀝靑をもて其内外を塗るべし
汝かく之を作るべし即ち其方舟の長は三百キユビト其濶は五十キユビト其高は三十キユビト
又方舟に導光牖を作り上一キユビトに之を作り終べし又方舟の戸は其傍に設くべし下牀と二階と三階とに之を作るべし
視よ我洪水を地に起して凡て生命の氣息ある肉なる者を天下より剪滅し絶ん地にをる者は皆死ぬべし
然ど汝とは我わが契約をたてん汝は汝の子等と汝の妻および汝の子等の妻とともに其方舟に入るべし
又諸の生物總て肉なる者をば汝各其二を方舟に挈へいりて汝とともに其生命を保たしむべし其等は牝牡なるべし
鳥其類に從ひ獸其類に從ひ地の諸の昆蟲其類に從ひて各二汝の所に至りて其生命を保つべし
汝食はるる諸の食品を汝の許に取て之を汝の所に集むべし是即ち汝と是等の物の食品となるべし
ノア是爲し都て神の己に命じたまひしごとく然爲せり
ヱホバ、ノアに言たまひけるは汝と汝の家皆方舟に入べし我汝がこの世の人の中にてわが前に義を視たればなり
諸の潔き獸を牝牡七宛汝の許に取り潔らぬ獸を牝牡二
亦天空の鳥を雌雄七宛取て種を全地の面に生のこらしむべし
今七日ありて我四十日四十夜地に雨ふらしめ我造りたる萬有を地の面より拭去ん
ノア、ヱホバの凡て己に命じたまひし如くなせり
地に洪水ありける時にノア六百歳なりき
ノア其子等と其妻および其子等の妻と倶に洪水を避て方舟にいりぬ
潔き獸と潔らざる獸と鳥および地に匍ふ諸の物
牝牡二宛ノアに來りて方舟にいりぬ神のノアに命じたまへるが如し
かくて七日の後洪水地に臨めり
ノアの齡の六百歳の二月即ち其月の十七日に當り此日に大淵の源皆潰れ天の戸開けて
雨四十日四十夜地に注げり
此日にノアとノアの子セム、ハム、ヤペテおよびノアの妻と其子等の三人の妻諸倶に方舟にいりぬ
彼等および諸の獸其類に從ひ諸の家畜其類に從ひ都て地に匍ふ昆蟲其類に從ひ諸の禽即ち各樣の類の鳥皆其類に從ひて入りぬ
即ち生命の氣息ある諸の肉なる者二宛ノアに來りて方舟にいりぬ
入たる者は諸の肉なる者の牝牡にして皆いりぬ神の彼に命じたまへるが如しヱホバ乃ち彼を閉置たまへり
洪水四十日地にありき是において水増し方舟を浮めて方舟地の上に高くあがれり
而して水瀰漫りて大に地に増しぬ方舟は水の面に漂へり
水甚大に地に瀰漫りければ天下の高山皆おほはれたり
水はびこりて十五キユビトに上りければ山々おほはれたり
凡そ地に動く肉なる者鳥家畜獸地に匍ふ諸の昆蟲および人皆死り
即ち凡そ其鼻に生命の氣息のかよふ者都て乾土にある者は死り
斯地の表面にある萬有を人より家畜昆蟲天空の鳥にいたるまで盡く拭去たまへり是等は地より拭去れたり唯ノアおよび彼とともに方舟にありし者のみ存れり
水百五十日のあひだ地にはびこりぬ
神ノアおよび彼とともに方舟にある諸の生物と諸の家畜を眷念ひたまひて神乃ち風を地の上に吹しめたまひければ水減りたり
亦淵の源と天の戸閉塞りて天よりの雨止ぬ
是に於て水次第に地より退き百五十日を經てのち水減り
方舟は七月に至り其月の十七日にアララテの山に止りぬ
水次第に減て十月に至りしが十月の月朔に山々の嶺現れたり
四十日を經てのちノア其方舟に作りし窓を啓て
鴉を放出ちけるが水の地に涸るまで往來しをれり
彼地の面より水の減少しかを見んとて亦鴿を放出いだしけるが
鴿其足の跖を止べき處を得ずして彼に還りて方舟に至れり其は水全地の面にありたればなり彼乃ち其手を舒て之を執へ方舟の中におのれの所に接入たり
尚又七日待て再び鴿を方舟より放出ちけるが
鴿暮におよびて彼に還れり視よ其口に橄欖の新葉ありき是に於てノア地より水の減少しをしれり
尚又七日まちて鴿を放出ちけるが再び彼の所に歸らざりき
六百一年の一月の月朔に水地に涸たりノア乃ち方舟の蓋を撤きて視しに視よ土の面は燥てありぬ
二月の二十七日に至りて地乾きたり
爰に神ノアに語りて言給はく
汝および汝の妻と汝の子等と汝の子等の妻ともに方舟を出べし
汝とともにある諸の肉なる諸の生物諸の肉なる者即ち鳥家畜および地に匍ふ諸の昆蟲を率いでよ此等は地に饒く生育地の上に生且殖増すべし
ノアと其子等と其妻および其子等の妻ともに出たり
諸の獸諸の昆蟲および諸の鳥等凡そ地に動く者種類に從ひて方舟より出たり
ノア、ヱホバのために壇を築き諸の潔き獸と諸の潔き鳥を取て燔祭を壇の上に献げたり
ヱホバ其馨き香を聞ぎたまひてヱホバ其意に謂たまひけるは我再び人の故に因て地を詛ふことをせじ其は人の心の圖維るところ其幼少時よりして惡かればなり又我曾て爲たる如く再び諸の生る物を撃ち滅さじ
地のあらん限りは播種時、收穫時、寒熱夏冬および日と夜息ことあらじ
神ノアと其子等を祝して之に曰たまひけるは生よ増殖よ地に滿よ
地の諸の獸畜天空の諸の鳥地に匍ふ諸の物海の諸の魚汝等を畏れ汝等に懾かん是等は汝等の手に與へらる
凡そ生る動物は汝等の食となるべし菜蔬のごとく我之を皆汝等に與ふ
然ど肉を其生命なる其血のままに食ふべからず
汝等の生命の血を流すをば我必ず討さん獸之をなすも人をこれを爲すも我討さん凡そ人の兄弟人の生命を取ば我討すべし
凡そ人の血を流す者は人其血を流さん其は神の像のごとくに人を造りたまひたればなり
汝等生よ増殖よ地に饒くなりて其中に増殖よ
神ノアおよび彼と偕にある其子等に告て言たまひけるは
見よ我汝等と汝等の後の子孫
および汝等と偕なる諸の生物即ち汝等とともなる鳥家畜および地の諸の獸と契約を立ん都て方舟より出たる者より地の諸の獸にまで至らん
我汝等と契約を立ん總て肉なる者は再び洪水に絶るる事あらじ又地を滅す洪水再びあらざるべし
神言たまひけるは我が我と汝等および汝等と偕なる諸の生物の間に世々限りなく爲す所の契約の徴は是なり
我わが虹を雲の中に起さん是我と世との間の契約の徴なるべし
即ち我雲を地の上に起す時虹雲の中に現るべし
我乃ち我と汝等および總て肉なる諸の生物の間のわが契約を記念はん水再び諸の肉なる者を滅す洪水とならじ
虹雲の中にあらん我之を觀て神と地にある都て肉なる諸の生物との間なる永遠の契約を記念えん
神ノアに言たまひけるは是は我が我と地にある諸の肉なる者との間に立たる契約の徴なり
ノアの子等の方舟より出たる者はセム、ハム、ヤペテなりきハムはカナンの父なり
是等はノアの三人の子なり全地の民は是等より出て蔓延れり
爰にノアの農夫となりて葡萄園を植ることを始しが
葡萄酒を飮て醉天幕の中にありて裸になれり
カナンの父ハム其父のかくし所を見て外にありし二人の兄弟に告たり
セムとヤペテ乃ち衣を取て倶に其肩に負け後向に歩みゆきて其父の裸體を覆へり彼等面を背にして其父の裸體を見ざりき
ノア酒さめて其若き子の己に爲たる事を知れり
是に於て彼言けるはカナン詛はれよ彼は僕輩の僕となりて其兄弟に事へん
又いひけるはセムの神ヱホバは讚べきかなカナン彼の僕となるべし
神ヤペテを大ならしめたまはん彼はセムの天幕に居住はんカナン其僕となるべし
ノア洪水の後三百五十年生存へたり
ノアの齡は都て九百五十年なりき而して死り
ノアの子セム、ハム、ヤペテの傳は是なり洪水の後彼等に子等生れたり
ヤペテの子はゴメル、マゴグ、マデア、ヤワン、トバル、メセク、テラスなり
ゴメルの子はアシケナズ、リパテ、トガルマなり
ヤワンの子はエリシヤ、タルシシ、キツテムおよびドダニムなり
是等より諸國の洲島の民は派分れ出て各其方言と其宗族と其邦國とに循ひて其地に住り
ハムの子はクシ、ミツライム、フテおよびカナンなり
クシの子はセバ、ハビラ、サブタ、ラアマ、サブテカなりラアマの子はシバおよびデダンなり
クシ、ニムロデを生り彼始めて世の權力ある者となれり
彼はヱホバの前にありて權力ある獵夫なりき是故にヱホバの前にある夫權力ある獵夫ニムロデの如しといふ諺あり
彼の國の起初はシナルの地のバベル、エレク、アツカデ、及びカルネなりき
其地より彼アッスリヤに出でニネベ、レホポテイリ、カラ
およびニネベとカラの間なるレセンを建たり是は大なる城邑なり
ミツライム、ルデ族アナミ族レハビ族ナフト族
バテロス族カスル族およびカフトリ族を生りカスル族よりペリシテ族出たり
カナン其冢子シドンおよびヘテ
エブス族アモリ族ギルガシ族
ヒビ族アルキ族セニ族
アルワデ族ゼマリ族ハマテ族を生り後に至りてカナン人の宗族蔓延りぬ
カナン人の境はシドンよりゲラルを經てガザに至りソドム、ゴモラ、アデマ、ゼボイムに沿てレシヤにまで及べり
是等はハムの子孫にして其宗族と其方言と其土地と其邦國に隨ひて居りぬ
セムはヱベルの全の子孫の先祖にしてヤペテの兄なり彼にも子女生れたり
セムの子はエラム、アシユル、アルパクサデルデ、アラムなり
アラムの子はウヅ、ホル、ゲテル、マシなり
アルパクサデ、シラを生みシラ、エベルを生り
エベルに二人の子生れたり一人の名をペレグ(分れ)といふ其は彼の代に邦國分れたればなり其弟の名をヨクタンと曰ふ
ヨクタン、アルモダデ、シヤレフ、ハザルマウテ、ヱラ
ハドラム、ウザル、デクラ
オバル、アビマエル、シバ
オフル、ハビラおよびヨバブを生り是等は皆ヨクタンの子なり
彼等の居住所はメシヤよりして東方の山セバルにまで至れり
是等はセムの子孫にして其宗族と其方言と其土地と其邦國とに隨ひて居りぬ
是等はノアの子の宗族にして其血統と其邦國に隨ひて居りぬ洪水の後是等より地の邦國の民は派分れ出たり
全地は一の言語一の音のみなりき
茲に人衆東に移りてシナルの地に平野を得て其處に居住り
彼等互に言けるは去來甎石を作り之を善く爇んと遂に石の代に甎石を獲灰沙の代に石漆を獲たり
又曰けるは去來邑と塔とを建て其塔の頂を天にいたらしめん斯して我等名を揚て全地の表面に散ることを免れんと
ヱホバ降臨りて彼人衆の建る邑と塔とを觀たまへり
ヱホバ言たまひけるは視よ民は一にして皆一の言語を用ふ今旣に此を爲し始めたり然ば凡て其爲んと圖維る事は禁止め得られざるべし
去來我等降り彼處にて彼等の言語を淆し互に言語を通ずることを得ざらしめんと
ヱホバ遂に彼等を彼處より全地の表面に散したまひければ彼等邑を建ることを罷たり
是故に其名はバベル(淆亂)と呼ばる是はヱホバ彼處に全地の言語を淆したまひしに由てなり彼處よりヱホバ彼等を全地の表に散したまへり
セムの傳は是なりセム百歳にして洪水の後の二年にアルパクサデを生り
セム、アルパクサデを生し後五百年生存へて男子女子を生り
アルパクサデ三十五歳に及びてシラを生り
アルパクサデ、シラを生し後四百三年生存へて男子女子を生り
シラ三十歳におよびてエベルを生り
シラ、エベルを生し後四百三年生存へて男子女子を生り
エベル三十四歳におよびてペレグを生り
エベル、ペレグを生し後四百三十年生存へて男子女子を生り
ペレグ三十歳におよびてリウを生り
ペレグ、リウを生し後二百九年生存へて男子女子を生り
リウ三十二歳におよびてセルグを生り
リウ、セルグを生し後二百七年生存へて男子女子を生り
セルグ三十年におよびてナホルを生り
セルグ、ナホルを生しのち二百年生存へて男子女子を生り
ナホル二十九歳に及びてテラを生り
ナホル、テラを生し後百十九年生存へて男子女子を生り
テラ七十歳に及びてアブラム、ナホルおよびハランを生り
テラの傳は是なりテラ、アブラム、ナホルおよびハランを生ハラン、ロトを生り
ハランは其父テラに先ちて其生處なるカルデアのウルにて死たり
アブラムとナホルと妻を娶れりアブラムの妻の名をサライと云ナホルの妻の名をミルカと云てハランの女なりハランはミルカの父にして亦イスカの父なりき
サライは石女にして子なかりき
テラ、カナンの地に往とて其子アブラムとハランの子なる其孫ロト及其子アブラムの妻なる其媳サライをひき挈て倶にカルデアのウルを出たりしがハランに至て其處に住り
テラの齡は二百五歳なりきテラはハランにて死り
爰にヱホバ、アブラムに言たまひけるは汝の國を出で汝の親族に別れ汝の父の家を離れて我が汝に示さん其地に至れ
我汝を大なる國民と成し汝を祝み汝の名を大ならしめん汝は祉福の基となるべし
我は汝を祝する者を祝し汝を詛ふ者を詛はん天下の諸の宗族汝によりて福禔を獲と
アブラム乃ちヱホバの自己に言たまひし言に從て出たりロト彼と共に行りアブラムはハランを出たる時七十五歳なりき
アブラム其妻サライと其弟の子ロトおよび其集めたる總の所有とハランにて獲たる人衆を携へてカナンの地に往んとて出で遂にカナンの地に至れり
アブラム其地を經過てシケムの處に及びモレの橡樹に至れり其時にカナン人其地に住り
茲にヱホバ、アブラムに顯現れて我汝の苗裔に此地に與へんといひたまへり彼處にて彼己に顯現れたまひしヱホバに壇を築けり
彼其處よりベテルの東の山に移りて其天幕を張り西にベテル東にアイありき彼處にて彼ヱホバに壇を築きヱホバの名を龥り
アブラム尚進て南に遷れり
茲に饑饉其地にありければアブラム、エジプトに寄寓らんとて彼處に下れり其は饑饉其地に甚しかりければなり
彼近く來りてエジプトに入んとする時其妻サライに言けるは視よ我汝を觀て美麗き婦人なるを知る
是故にエジプト人汝を見る時是は彼の妻なりと言て我を殺さん然ど汝をば生存かん
請ふ汝わが妹なりと言へ然ば我汝の故によりて安にしてわが命汝のために生存ん
アブラム、エジプトに至りし時エジプト人此婦を見て甚だ美麗となせり
またパロの大臣等彼を視て彼をパロの前に譽めければ婦遂にパロの家に召入れられたり
是に於てパロ彼のために厚くアブラムを待ひてアブラム遂に羊牛僕婢牝牡の驢馬および駱駝を多く獲るに至れり
時にヱホバ、アブラムの妻サライの故によりて大なる災を以てパロと其家を惱したまへり
パロ、アブラムを召て言けるは汝が我になしたる此事は何ぞや汝何故に彼が汝の妻なるを我に告ざりしや
汝何故に彼はわが妹なりといひしや我幾彼をわが妻にめとらんとせり然ば汝の妻は此にあり挈去るべしと
パロ即ち彼の事を人々に命じければ彼と其妻および其有る諸の物を送りさらしめたり
アブラム其妻および其有る諸の物と偕にエジプトを出て南の地に上れりロト彼と共にありき
アブラム甚家畜と金銀に富り
彼南の地より其旅路に進てベテルに至りベテルとアイの間なる其以前に天幕を張たる處に至れり
即ち彼が初に其處に築きたる壇のある處なり彼處にアブラム、ヱホバの名を龥り
アブラムと偕に行しロトも羊牛および天幕を有り
其地は彼等を載て倶に居しむること能はざりき彼等は其所有多かりしに縁て倶に居ることを得ざりしなり
斯有かばアブラムの家畜の牧者とロトの家畜の牧者の間に競爭ありきカナン人とペリジ人此時其地に居住り
アブラム、ロトに言けるは我等は兄弟の人なれば請ふ我と汝の間およびわが牧者と汝の牧者の間に競爭あらしむる勿れ
地は皆爾の前にあるにあらずや請ふ我を離れよ爾若左にゆかば我右にゆかん又爾右にゆかば我左にゆかんと
是に於てロト目を擧てヨルダンの凡ての低地を瞻望みけるにヱホバ、ソドムとゴモラとを滅し給はざりし前なりければゾアルに至るまであまねく善く潤澤ひてヱホバの園の如くエジプトの地の如くなりき
ロト乃ちヨルダンの低地を盡く撰とりて東に徙れり斯彼等彼此に別たり
アブラムはカナンの地に住り又ロトは低地の諸邑に住み其天幕を遷してソドムに至れり
ソドムの人は惡くしてヱホバの前に大なる罪人なりき
ロトのアブラムに別れし後ヱホバ、アブラムに言たまひけるは爾の目を擧て爾の居る處より西東北南を瞻望め
凡そ汝が觀る所の地は我之を永く爾と爾の裔に與べし
我爾の後裔を地の塵沙の如くなさん若人地の塵沙を數ふることを得ば爾の後裔も數へらるべし
爾起て縱横に其地を行き巡るべし我之を爾に與へんと
アブラム遂に天幕を遷して來りヘブロンのマムレの橡林に住み彼處にてヱホバに壇を築けり
當時シナルの王アムラペル、エラサルの王アリオク、エラムの王ケダラオメルおよびゴイムの王テダル等
ソドムの王ベラ、ゴモルの王ビルシア、アデマの王シナブ、ゼボイムの王セメベルおよびベラ(即ち今のゾアル)の王と戰ひをなせり
是等の五人の王皆結合てシデムの谷に至れり其處は今の鹽海なり
彼等は十二年ケダラオメルに事へ第十三年に叛けり
第十四年にケダラオメルおよび彼と偕なる王等來りてアシタロテカルナイムのレパイム人、ハムのズジ人、シヤベキリアタイムのエミ人
およびセイル山のホリ人を撃て曠野の傍なるエルパランに至り
彼等歸りてエンミシパテ(即ち今のカデシ)に至りアマレク人の國を盡く撃又ハザゾンタマルに住るアモリ人を撃り
爰にソドムの王ゴモラの王アデマの王ゼボイムの王およびベラ(即ち今のゾアル)の王出てシデムの谷にて彼等と戰ひを接たり
即ち彼五人の王等エラムの王ケダラオメル、ゴイムの王テダル、シナルの王アムラペル、エラサルの王アリオクの四人と戰へり
シデムの谷には地瀝靑の坑多かりしがソドムとゴモラの王等遁て其處に陷りぬ其餘の者は山に遁逃たり
是に於て彼等ソドムとゴモラの諸の物と其諸の食料を取て去れり
彼等アブラムの姪ロトと其物を取て去り其は彼ソドムに住たればなり
茲に遁逃者來りてヘブル人アブラムに之を告たり時にアブラムはアモリ人マムレの橡林に住りマムレはエシコルの兄弟又アネルの兄弟なり是等はアブラムと契約を結べる者なりき
アブラム其兄弟の擄にせられしを聞しかば其熟練したる家の子三百十八人を率ゐてダンまで追いたり
其家臣を分ちて夜に乗じて彼等を攻め彼等を撃破りてダマスコの左なるホバまで彼等を追ゆけり
アブラム斯諸の物を奪回し亦其兄弟ロトと其物および婦人と人民を取回せり
アブラム、ケダラオメルおよび彼と偕なる王等を撃破りて歸れる時ソドムの王シヤベの谷(即ち今の王の谷)にて彼を迎へたり
時にサレムの王メルキゼデク、パンと酒を携出せり彼は至高き神の祭司なりき
彼アブラムを祝して言けるは願くは天地の主なる至高神アブラムを祝福みたまへ
願くは汝の敵を汝の手に付したまひし至高神に稱譽あれとアブラム乃ち彼に其諸の物の什分の一を饋れり
茲にソドムの王アブラムに言けるは人を我に與へ物を汝に取れと
アブラム、ソドムの王に言けるは我天地の主なる至高き神ヱホバを指て言ふ
一本の絲にても鞋帶にても凡て汝の所屬は我取ざるべし恐くは汝我アブラムを富しめたりと言ん
但少者の旣に食ひたる物および我と偕に行し人アネル、エシコルおよびマムレの分を除くべし彼等には彼等の分を取しめよ
是等の事の後ヱホバの言異象の中にアブラムに臨て曰くアブラムよ懼るなかれ我は汝の干櫓なり汝の賚は甚大なるべし
アブラム言けるは主ヱホバよ何を我に與んとしたまふや我は子なくして居り此ダマスコのエリエゼル我が家の相續人なり
アブラム又言けるは視よ爾子を我にたまはず我の家の子わが嗣子とならんとすと
ヱホバの言彼にのぞみて曰く此者は爾の嗣子となるべからず汝の身より出る者爾の嗣子となるべしと
斯てヱホバ彼を外に携へ出して言たまひけるは天を望みて星を數へ得るかを見よと又彼に言たまひけるは汝の子孫は是のごとくなるべしと
アブラム、ヱホバを信ずヱホバこれを彼の義となしたまへり
又彼に言たまひけるは我は此地を汝に與へて之を有たしめんとて汝をカルデアのウルより導き出せるヱホバなり
彼言けるは主ヱホバよ我いかにして我之を有つことを知るべきや
ヱホバ彼に言たまひけるは三歳の牝牛と三歳の牝山羊と三歳の牡羊と山鳩および雛き鴿を我ために取れと
彼乃ち是等を皆取て之を中より剖き其剖たる者を各相對はしめて置り但鳥は剖ざりき
鷙鳥其死體の上に下る時はアブラム之を驅はらへり
斯て日の沒る頃アブラム酣く睡りしが其大に暗きを覺えて懼れたり
時にヱホバ、アブラムに言たまひけるは爾確に知るべし爾の子孫他人の國に旅人となりて其人々に服事へん彼等四百年のあひだ之を惱さん
又其服事たる國民は我之を鞫かん其後彼等は大なる財貨を携へて出ん
爾は安然に爾の父祖の所にゆかん爾は遐齡に逹りて葬らるべし
四代に及びて彼等此に返りきたらん其はアモリ人の惡未だ貫盈ざれば也と
斯て日の沒て黑暗となりし時烟と火焔の出る爐其切剖たる物の中を通過り
是日にヱホバ、アブラムと契約をなして言たまひけるは我此地をエジプトの河より彼大河即ちユフラテ河まで爾の子孫に與ふ
即ちケニ人ケナズ人カデモニ人
ヘテ人ペリジ人レパイム人
アモリ人カナン人ギルガシ人ヱブス人の地是なり
アブラムの妻サライ子女を生ざりき彼に一人の侍女ありしがエジプト人にして其名をハガルと曰り
サライ、アブラムに言けるは視よヱホバわが子を生むことを禁めたまひければ請ふ我が侍女の所に入れ我彼よりして子女を得ることあらんとアブラム、サライの言を聽いれたり
アブラムの妻サライ其侍女なるエジプト人ハガルを取て之を其夫アブラムに與へて妻となさしめたり是はアブラムがカナンの地に十年住みたる後なりき
是においてアブラム、ハガルの所に入るハガル遂に孕みければ己の孕めるを見て其女主を藐視たり
サライ、アブラムに言けるはわが蒙れる害は汝に歸すべし我わが侍女を汝の懷に與へたるに彼己の孕るを見て我を藐視ぐ願はヱホバ我と汝の間の事を鞫きたまへ
アブラム、サライに言けるは視よ汝の侍女は汝の手の中にあり汝の目に善と見ゆる所を彼に爲すべしサライ乃ち彼を苦めければ彼サライの面を避て逃たり
ヱホバの使者曠野の泉の旁即ちシユルの路にある泉の旁にて彼に遭ひて
言けるはサライの侍女ハガルよ汝何處より來れるや又何處に往や彼言けるは我は女主サライの面をさけて逃るなり
ヱホバの使者彼に言けるは汝の女主の許に返り身を其手に任すべし
ヱホバの使者又彼に言ひけるは我大に汝の子孫を増し其數を衆多して數ふることあたはざらしめん
ヱホバの使者又彼に言けるは汝孕めり男子を生まん其名をイシマエル(神聽知)と名くべしヱホバ汝の艱難を聽知したまへばなり
彼は野驢馬の如き人とならん其手は諸の人に敵し諸の人の手はこれに敵すべし彼は其諸の兄弟の東に住んと
ハガル己に諭したまへるヱホバの名をアタエルロイ(汝は見たまふ神なり)とよべり彼いふ我視たる後尚生るやと
是をもて其井はベエルラハイロイ(我を見る活る者の井)と呼ばる是はカデシとベレデの間にあり
ハガル、アブラムの男子を生めりアブラム、ハガルの生める其子の名をイシマエルと名づけたり
ハガル、イシマエルをアブラムに生める時アブラムは八十六歳なりき
アブラム九十九歳の時ヱホバ、アブラムに顯れて之に言たまひけるは我は全能の神なり汝我前に行みて完全かれよ
我わが契約を我と汝の間に立て大に汝の子孫を増ん
アブラム乃ち俯伏たり神又彼に告て言たまひけるは
我汝とわが契約を立つ汝は衆多の國民の父となるべし
汝の名を此後アブラムと呼ぶべからず汝の名をアブラハム(衆多の人の父)とよぶべし其は我汝を衆多の國民の父と爲ばなり
我汝をして衆多の子孫を得せしめ國々の民を汝より起さん王等汝より出べし
我わが契約を我と汝および汝の後の世々の子孫との間に立て永久の契約となし汝および汝の後の子孫の神となるべし
我汝と汝の後の子孫に此汝が寄寓る地即ちカナンの全地を與へて永久の產業となさん而して我彼等の神となるべし
神またアブラハムに言たまひけるは然ば汝と汝の後の世々の子孫わが契約を守るべし
汝等の中の男子は咸割禮を受べし是は我と汝等および汝の後の子孫の間の我が契約にして汝等の守るべき者なり
汝等其陽の皮を割べし是我と汝等の間の契約の徴なり
汝等の代々の男子は家に生れたる者も異邦人より金にて買たる汝の子孫ならざる者も皆生れて八日に至らば割禮を受べし
汝の家に生れたる者も汝の金にて買たる者も割禮を受ざるべからず斯我契約汝等の身にありて永久の契約となるべし
割禮を受ざる男兒即ち其陽の皮を割ざる者は我契約を破るによりて其人其民の中より絶るべし
神又アブラハムの言たまひけるは汝の妻サライは其名をサライと稱ぶべからず其名をサラと爲べし
我彼を祝み彼よりして亦汝に一人の男子を授けん我彼を祝み彼をして諸邦の民の母とならしむべし諸の民の王等彼より出べし
アブラハム俯伏て哂ひ其心に謂けるは百歳の人に豈で子の生るることあらんや又サラは九十歳なれば豈で產ことをなさんやと
アブラハム遂に神にむかひて願くはイシマエルの汝のまへに生存へんことをと曰ふ
神言たまひけるは汝の妻サラ必ず子を生ん汝其名をイサクと名くべし我彼および其後の子孫と契約を立て永久の契約となさん
又イシマエルの事に關ては我汝の願を聽たり視よ我彼を祝みて多衆の子孫を得さしめ大に彼の子孫を増すべし彼十二の君王を生ん我彼を大なる國民となすべし
然どわが契約は我翌年の今頃サラが汝に生ん所のイサクと之を立べし
神アブラハムと言ことを竟へ彼を離れて昇り給へり
是に於てアブラハム神の己に言たまへる如く此日其子イシマエルと凡て其家に生れたる者および凡て其金にて買たる者即ちアブラハムの家の人の中なる諸の男を將きたりて其陽の皮を割たり
アブラハムは其陽の皮を割れたる時九十九歳
其子イシマエルは其陽の皮を割れたる時十三歳なりき
是日アブラハムと其子イシマエル割禮を受たり
又其家の人家に生れたる者も金にて異邦人より買たる者も皆彼とともに割禮を受たり
ヱホバ、マムレの橡林にてアブラハムに顯現たまへり彼は日の熱き時刻天幕の入口に坐しゐたりしが
目を擧て見たるに視よ三人の人其前に立り彼見て天幕の入口より趨り行て之を迎へ
身を地に鞠めて言けるは我が主よ我若汝の目のまへに恩を得たるならば請ふ僕を通り過すなかれ
請ふ少許の水を取きたらしめ汝等の足を濯ひて樹の下に休憇たまへ
我一口のパンを取來らん汝等心を慰めて然る後過ゆくべし汝等僕の所に來ればなり彼等言ふ汝が言るごとく爲せ
是においてアブラハム天幕に急ぎいりてサラの許に至りて言けるは速に細麺三セヤを取り捏てパンを作るべしと
而してアブラハム牛の群に趨ゆき犢の柔にして善き者を取りきたりて少者に付しければ急ぎて之を調理ふ
かくてアブラハム牛酪と牛乳および其調理へたる犢を取て彼等のまへに供へ樹の下にて其側に立り彼等乃ち食へり
彼等アブラハムに言けるは爾の妻サラは何處にあるや彼言ふ天幕にあり
其一人言ふ明年の今頃我必ず爾に返るべし爾の妻サラに男子あらんサラ其後なる天幕の入口にありて聞ゐたり
抑アブラハムとサラは年邁み老いたる者にしてサラには婦人の常の經已に息たり
是故にサラ心に哂ひて言けるは我は老衰へ吾が主も亦老たる後なれば我に樂あるべけんや
ヱホバ、アブラハムに言たまひけるは何故にサラは哂ひて我老たれば果して子を生ことあらんと言ふや
ヱホバに豈爲し難き事あらんや時至らば我定めたる期に爾に歸るべしサラに男子あらんと
サラ懼れたれば承ずして我哂はずと言へりヱホバ言たまひけるは否汝哂へるなり
斯て其人々彼處より起てソドムの方を望みければアブラハム彼等を送らんとて倶に行り
ヱホバ言ひ給けるは我爲んとする事をアブラハムに隱すべけんや
アブラハムは必ず大なる強き國民となりて天下の民皆彼に由て福を獲に至るべきに在ずや
其は我彼をして其後の兒孫と家族とに命じヱホバの道を守りて公儀と公道を行しめん爲に彼をしれり是ヱホバ、アブラハムに其曾て彼に就て言し事を行はん爲なり
ヱホバ又言給ふソドムとゴモラの號呼大なるに因り又其罪甚だ重に因て
我今下りて其號呼の我に逹れる如くかれら全く行ひたりしやを見んとす若しからずば我知るに至らんと
其人々其處より身を旋してソドムに赴むけりアブラハムは尚ほヱホバのまへに立り
アブラハム近よりて言けるは爾は義者をも惡者と倶に滅ぼしたまふや
若邑の中に五十人の義者あるも汝尚ほ其處を滅ぼし其中の五十人の義者のためにこれを恕したまはざるや
なんぢ斯の如く爲て義者と惡者と倶に殺すが如きは是あるまじき事なり又義者と惡者を均等するが如きもあるまじき事なり天下を鞫く者は公儀を行ふ可にあらずや
ヱホバ言たまひけるは我若ソドムに於て邑の中に五十人の義者を看ば其人々のために其處を盡く恕さん
アブラハム應へていひけるは我は塵と灰なれども敢て我主に言上す
若五十人の義者の中五人缺たらんに爾五人の缺たるために邑を盡く滅ぼしたまふやヱホバ言たまひけるは我若彼處に四十五人を看ば滅さざるべし
アブラハム又重ねてヱホバに言上して曰けるは若彼處に四十人看えなば如何ヱホバ言たまふ我四十人のために之をなさじ
アブラハム曰ひけるは請ふわが主よ怒らずして言しめたまへ若彼處に三十人看えなば如何ヱホバいひたまふ我三十人を彼處に看ば之を爲じ
アブラハム言ふ我あへてわが主に言上す若彼處に二十人看えなば如何ヱホバ言たまふ我二十人のためにほろぼさじ
アブラハム言ふ請ふわが主怒らずして今一度言しめたまへ若かしこに十人看えなば如何ヱホバ言たまふ我十人のためにほろぼさじ
ヱホバ、アブラハムと言ふことを終てゆきたまへりアブラハムおのれの所にかへりぬ
其二個の天使黄昏にソドムに至るロト時にソドムの門に坐し居たりしがこれを視起て迎へ首を地にさげて
言けるは我主よ請ふ僕の家に臨み足を濯ひて宿りつとに起て途に遄征たまへ彼等言ふ否我等は街衢に宿らんと
然ど固く強ければ遂に彼の所に臨みて其家に入るロト乃ち彼等のために筵を設け酵いれぬパンを炊て食はしめたり
斯て未だ寢ざる前に邑の人々即ちソドムの人老たるも若きも諸共に四方八方より來たれる民皆其家を環み
ロトを呼て之に言けるは今夕爾に就たる人は何處にをるや彼等を我等の所に携へ出せ我等之を知らん
ロト入口に出て其後の戸を閉ぢ彼等の所に至りて
言けるは請ふ兄弟よ惡き事を爲すなかれ
我に未だ男知ぬ二人の女あり請ふ我之を携へ出ん爾等の目に善と見ゆる如く之になせよ唯此人等は旣に我家の蔭に入たれば何をも之になすなかれ
彼等曰ふ爾退け又言けるは此人は來り寓れる身なるに恒に士師とならんとす然ば我等彼等に加ふるよりも多くの害を爾に加へんと遂に彼等酷しく其人ロトに逼り前よりて其戸を破んとせしに
彼二人其手を舒しロトを家の内に援いれて其戸を閉ぢ
家の入口にをる人衆をして大なるも小も倶に目を眩しめければ彼等遂に入口を索ぬるに困憊たり
斯て二人ロトに言けるは外に爾に屬する者ありや汝の婿子女および凡て邑にをりて爾に屬する者を此所より携へ出べし
此處の號呼ヱホバの前に大になりたるに因て我等之を滅さんとすヱホバ我等を遣はして之を滅さしめたまふ
ロト出て其女を娶る婿等に告て言けるはヱホバが邑を滅したまふべければ爾等起て此處を出よと然ど婿等は之を戲言と視爲り
曉に及て天使ロトを促して言けるは起て此なる爾の妻と二人の女を携へよ恐くは爾邑の惡とともに滅されん
然るに彼遲延ひしかば二人其手と其妻の手と其二人の女の手を執て之を導き出し邑の外に置りヱホバ斯彼に仁慈を加へたまふ
旣に之を導き出して其一人曰けるは逃遁て汝の生命を救へ後を回顧るなかれ低地の中に止るなかれ山に遁れよ否ずば爾滅されん
ロト彼等に言けるはわが主よ請ふ斯したまふなかれ
視よ僕爾の目のまへに恩を得たり爾大なる仁慈を吾に施してわが生命を救たまふ吾山に遁る能はず恐くは災害身に及びて死るにいたらん
視よ此邑は遁ゆくに近くして且小し我をして彼處に遁れしめよしからば吾生命全からん是は小き邑なるにあらずや
天使之にいひけるは視よ我此事に關ても亦爾の願を容たれば爾が言ふところの邑を滅さじ
急ぎて彼處に遁れよ爾が彼處に至るまでは我何事をも爲を得ずと是に因て其邑の名はゾアル(小し)と稱る
ロト、ゾアルに至れる時日地の上に昇れり
ヱホバ硫黄と火をヱホバの所より即ち天よりソドムとゴモラに雨しめ
其邑と低地と其邑の居民および地に生るところの物を盡く滅したまへり
ロトの妻は後を回顧たれば鹽の柱となりぬ
アブラハム其朝夙に起て其嘗てヱホバの前に立たる處に至り
ソドム、ゴモラおよび低地の全面を望み見るに其地の烟燄窰の烟のごとくに騰上れり
神低地の邑を滅したまふ時即ちロトの住る邑を滅したまふ時に當り神アブラハムを眷念て斯其滅亡の中よりロトを出したまへり
斯てロト、ゾアルに居ることを懼れたれば其二人の女と偕にゾアルを出て上りて山に居り其二人の女子とともに巖穴に住り
茲に長女季女にいひけるは我等の父は老いたり又此地には我等に偶て世の道を成す人あらず
然ば我等父に酒を飮せて與に寢ね父に由て子を得んと
遂に其夜父に酒を飮せ長女入て其父と與に寢たり然るにロトは女の起臥を知ざりき
翌日長女季女に言けるは我昨夜わが父と寢たり我等此夜又父に酒をのません爾入て與に寢よわれらの父に由て子を得ることをえんと
乃ち其夜も亦父に酒をのませ季女起て父と與に寢たりロトまた女の起臥を知ざりき
斯ロトの二人の女其父によりて孕みたり
長女子を生み其名をモアブと名く即ち今のモアブ人の先祖なり
季女も亦子を生み其名をベニアンミと名く即ち今のアンモニ人の先祖なり
アブラハム彼處より徒りて南の地に至りカデシとシユルの間に居りゲラルに寄留り
アブラハム其妻サラを我妹なりと言しかばゲラルの王アビメレク人を遣してサラを召入たり
然るに神夜の夢にアビメレクに臨みて之に言たまひけるは汝は其召入たる婦人のために死るなるべし彼は夫ある者なればなり
アビメレク未だ彼に近づかざりしかば言ふ主よ汝は義き民をも殺したまふや
彼は我に是はわが妹なりと言しにあらずや又婦も自彼はわが兄なりと言たり我全き心と潔き手をもて此をなせり
神又夢に之に言たまひけるは然り我汝が全き心をもて之をなせるを知りたれば我も汝を阻めて罪を我に犯さしめざりき彼に觸るを容ざりしは是がためなり
然ば彼の妻を歸せ彼は預言者なれば汝のために祈り汝をして生命を保しめん汝若歸ずば汝と汝に屬する者皆必死るべきを知るべし
是に於てアビメレク其朝夙に起て臣僕を悉く召し此事を皆語り聞せければ人々甚く懼れたり
斯てアビメレク、アブラハムを召て之に言けるは爾我等に何を爲すや我何の惡き事を爾になしたれば爾大なる罪を我とわが國に蒙らしめんとせしか爾爲べからざる所爲を我に爲したり
アビメレク又アブラハムに言けるは爾何を見て此事を爲たるや
アブラハム言けるは我此處はかならず神を畏れざるべければ吾妻のために人我を殺さんと思ひたるなり
又我は誠にわが妹なり彼はわが父の子にしてわが母の子にあらざるが遂に我妻となりたるなり
神我をして吾父の家を離れて周遊しめたまへる時に當りて我彼に爾我等が至る處にて我を爾の兄なりと言へ是は爾が我に施す恩なりと言たり
アビメレク乃ち羊牛僕婢を將てアブラハムに與へ其妻サラ之に歸せり
而してアビメレク言けるは視よ我地は爾のまへにあり爾の好むところに住め
又サラに言けるは視よ我爾の兄に銀千枚を與へたり是は爾および諸の人にありし事等につきて爾の目を蔽ふ者なり斯爾償贖を得たり
是に於てアブラハム神に祈りければ神アビメレクと其妻および婢を醫したまひて彼等子を產むにいたる
ヱホバさきにはアブラハムの妻サラの故をもてアビメレクの家の者の胎をことごとく閉たまへり
ヱホバ其言し如くサラを眷顧みたまふ即ちヱホバ其語しごとくサラに行ひたまひしかば
サラ遂に孕み神のアブラハムに語たまひし期日に及びて年老たるアブラハムに男子を生り
アブラハム其生れたる子即ちサラが己に生る子の名をイサクと名けたり
アブラハム神の命じたまひし如く八日に其子イサクに割禮を行へり
アブラハムは其子イサクの生れたる時百歳なりき
サラ言けるは神我を笑はしめたまふ聞く者皆我とともに笑はん
又曰けるは誰かアブラハムにサラ子女に乳を飮しむるにいたらんと言しものあらん然に彼が年老るに及びて男子を生たりと
偖其子長育ちて遂に乳を離るイサクの乳を離るる日にアブラハム大なる饗宴を設けたり
時にサラ、エジプト人ハガルがアブラハムに生たる子の笑ふを見て
アブラハムに言けるは此婢と其子を遂出せ此婢の子は吾子イサクと共に嗣子となるべからざるなりと
アブラハム其子のために甚く此事を憂たり
神アブラハムに言たまひけるは童兒のため又汝の婢のために之を憂るなかれサラが汝に言ところの言は悉く之を聽け其はイサクより出る者汝の裔と稱らるべければなり
又婢の子も汝の胤なれば我之を一の國となさん
アブラハム朝夙に起てパンと水の革嚢とを取りハガルに與へて之を其肩に負せ其子を携へて去しめければ彼往てベエルシバの曠野に躑躅しが
革嚢の水遂に罄たれば子を灌木の下に置き
我子の死るを見るに忍ずといひて遙かに行き箭逹を隔てて之に對ひ坐しぬ斯相嚮ひて坐し聲をあげて泣く
神其童兒の聲を聞たまふ神の使即ち天よりハガルを呼て之に言けるはハガルよ何事ぞや懼るるなかれ神彼處にをる童兒の聲を聞たまへり
起て童兒を起し之を汝の手に抱くべし我之を大なる國となさんと
神ハガルの目を開きたまひければ水の井あるを見ゆきて革嚢に水を充し童兒に飮しめたり
神童兒と偕に在す彼遂に成長り曠野に居りて射者となり
パランの曠野に住り其母彼のためにエジプトの國より妻を迎へたり
當時アビメレクと其軍勢の長ピコル、アブラハムに語て言けるは汝何事を爲にも神汝とともに在す
然ば汝が我とわが子とわが孫に僞をなさざらんことを今此に神をさして我に誓へ我が厚情をもて汝をあつかふごとく汝我と此汝が寄留る地とに爲べし
アブラハム言ふ我誓はん
アブラハム、アビメレクの臣僕等が水の井を奪ひたる事につきてアビメレクを責ければ
アビメレク言ふ我誰が此事を爲しを知ず汝我に告しこと无く又我今日まで聞しことなし
アブラハム乃ち羊と牛を取て之をアビメレクに與ふ斯て二人契約を結べり
アブラハム牝の羔七を分ち置ければ
アビメレク、アブラハムに言ふ汝此七の牝の羔を分ちおくは何のためなるや
アブラハム言けるは汝わが手より此七の牝の羔を取りて我が此井を掘たる證據とならしめよと彼等二人彼處に誓ひしによりて
其處をベエルシバ(盟約の井)と名けたり
斯彼等ベエルシバにて契約を結びアビメレクと其軍勢の長ピコルは起てペリシテ人の國に歸りぬ
アブラハム、ベエルシバに柳を植ゑ永遠に在す神ヱホバの名を彼處に龥り
斯してアブラハム久くペリシテ人の地に留寄りぬ
是等の事の後神アブラハムを試みんとて之をアブラハムよと呼たまふ彼言ふ我此にあり
ヱホバ言給ひけるは爾の子爾の愛する獨子即ちイサクを携てモリアの地に到りわが爾に示さんとする彼所の山に於て彼を燔祭として獻ぐべし
アブラハム朝夙に起て其驢馬に鞍おき二人の少者と其子イサクを携へ且燔祭の柴薪を劈りて起て神の己に示したまへる處におもむきけるが
三日におよびてアブラハム目を擧て遙に其處を見たり
是に於てアブラハム其少者に言けるは爾等は驢馬とともに此に止れ我と童子は彼處にゆきて崇拜を爲し復爾等に歸ん
アブラハム乃ち燔祭の柴薪を取て其子イサクに負せ手に火と刀を執て二人ともに往り
イサク父アブラハムに語て父よと曰ふ彼答て子よ我此にありといひければイサク即ち言ふ火と柴薪は有り然ど燔祭の羔は何處にあるや
アブラハム言けるは子よ神自ら燔祭の羔を備へたまはんと二人偕に進みゆきて
遂に神の彼に示したまへる處に到れり是においてアブラハム彼處に壇を築き柴薪を臚列べ其子イサクを縛りて之を壇の柴薪の上に置せたり
斯してアブラハム手を舒べ刀を執りて其子を宰んとす
時にヱホバの使者天より彼を呼てアブラハムよアブラハムよと言へり彼言ふ我此にあり
使者言けるは汝の手を童子に按るなかれ亦何をも彼に爲べからず汝の子即ち汝の獨子をも我ために惜まざれば我今汝が神を畏るを知ると
茲にアブラハム目を擧て視れば後に牡綿羊ありて其角林叢に繋りたりアブラハム即ち往て其牡綿羊を執へ之を其子の代に燔祭として獻げたり
アブラハム其處をヱホバエレ(ヱホバ預備たまはん)と名く是に縁て今日もなほ人々山にヱホバ預備たまはんといふ
ヱホバの使者再天よりアブラハムを呼て
言けるはヱホバ諭したまふ我己を指て誓ふ汝是事を爲し汝の子即ち汝の獨子を惜まざりしに因て
我大に汝を祝み又大に汝の子孫を増して天の星の如く濱の沙の如くならしむべし汝の子孫は其敵の門を獲ん
又汝の子孫によりて天下の民皆福祉を得べし汝わが言に遵ひたるによりてなりと
斯てアブラハム其少者の所に歸り皆たちて偕にベエルシバにいたれりアブラハムはベエルシバに住り
是等の事の後アブラハムに告る者ありて言ふミルカ亦汝の兄弟ナホルにしたがひて子を生り
長子はウヅ其弟はブヅ其次はケムエル是はアラムの父なり
其次はケセデ、ハゾ、ピルダシ、ヱデラフ、ベトエル
ベトエルはリベカを生り是八人はミルカがアブラハムの兄弟ナホルに生たる者なり
ナホルの妾名はルマといふ者も亦テバ、ガハム、タハシおよびマアカを生り
サラ百二十七歳なりき是即ちサラの齡の年なり
サラ、キリアテアルバにて死り是はカナンの地のヘブロンなりアブラハム至りてサラのために哀み且哭り
斯てアブラハム死人の前より起ち出てヘテの子孫に語りて言けるは
我は汝等の中の賓旅なり寄居者なり請ふ汝等の中にて我は墓地を與へて吾が所有となし我をして吾が死人を出し葬ることを得せしめよ
ヘテの子孫アブラハムに應て之に言ふ
我主よ我等に聽たまへ我等の中にありて汝は神の如き君なり我等の墓地の佳者を擇みて汝の死人を葬れ我等の中一人も其墓地を汝にをしみて汝をしてその死人を葬らしめざる者なかるべし
是に於てアブラハム起ち其地の民ヘテの子孫に對て躬を鞠む
而して彼等と語ひて言けるは若我をしてわが死人を出し葬るを得せしむる事汝等の意ならば請ふ我に聽て吾ためにゾハルの子エフロンに求め
彼をして其野の極端に有るマクペラの洞穴を我に與へしめよ彼其十分の値を取て之を我に與へ汝等の中にてわが所有なる墓地となさば善し
時にエフロン、ヘテの子孫の中に坐しゐたりヘテ人エフロン、ヘテの子孫即ち凡て其邑の門に入る者の聽る前にてアブラハムに應へて言けるは
吾主よ我に聽たまへ其野は我汝に與ふ又其中の洞穴も我之を汝に與ふ我吾民なる衆人の前にて之を汝にあたふ汝の死人を葬れ
是に於てアブラハム其地の民の前に躬を鞠たり
而して彼其地の民に聽る前にてエフロンに語りて言けるは汝若之を肯はば請ふ吾に聽け我其野の値を汝に償はん汝之を吾より取れ我わが死人を彼處に葬らん
エフロン、アブラハムに答て曰けるは
わが主よ我に聽たまへ彼地は銀四百シケルに當る是は我と汝の間に豈道に足んや然ば汝の死人を葬れ
アブラハム、エフロンの言に從ひエフロンがヘテの子孫の聽る前にて言たる所の銀を秤り商買の中の通用銀四百シケルを之に與へたり
マムレの前なるマクペラに在るエフロンの野は野も其中の洞穴も野の中と其四周の堺にある樹も皆
ヘテの子孫の前即ち凡て其邑に入る者の前にてアブラハムの所有と定りぬ
厥後アブラハム其妻サラをマムレの前なるマクペラの野の洞穴に葬れり是即ちカナンの地のヘブロンなり
斯く其野と其中の洞穴はヘテの子孫之をアブラハムの所有なる墓地と定めたり
アブラハム年邁て老たりヱホバ萬の事に於てアブラハムを祝みたまへり
茲にアブラハム其凡の所有を宰る其家の年邁なる僕に言けるは請ふ爾の手を吾髀の下に置よ
我爾をして天の神地の神ヱホバを指て誓はしめん即ち汝わが偕に居むカナン人の女の中より吾子に妻を娶るなかれ
汝わが故國に往き吾親族に到りて吾子イサクのために妻を娶れ
僕彼に言けるは倘女我に從ひて此地に來ることを好まざる事あらん時は我爾の子を彼汝が出來りし地に導き歸るべきか
アブラハム彼に曰けるは汝愼みて吾子を彼處に携かへるなかれ
天の神ヱホバ我を導きて吾父の家とわが親族の地を離れしめ我に語り我に誓ひて汝の子孫に此地を與へんと言たまひし者其使を遣して汝に先たしめたまはん汝彼處より我子に妻を娶るべし
若女汝に從ひ來る事を好ざる時は汝吾此誓を解るべし唯我子を彼處に携へかへるなかれ
是に於て僕手を其主人アブラハムの髀の下に置て此事について彼に誓へり
斯て僕其主人の駱駝の中より十頭の駱駝を取りて出たてり即ち其主人の諸の佳物を手にとりて起てメソポタミアに往きナホルの邑に至り
其駱駝を邑の外にて井の傍に跪伏しめたり其時は黄昏にて婦女等の水汲にいづる時なりき
斯して彼言けるは吾主人アブラハムの神ヱホバよ願くは今日我にその者を逢しめわが主人アブラハムに恩惠を施し給へ
我この水井の傍に立ち邑の人の女等水を汲に出づ
我童女に向ひて請ふ汝の瓶をかたむけて我に飮しめよと言んに彼答へて飮め我また汝の駱駝にも飮しめんと言ば彼は汝が僕イサクの爲に定め給ひし者なるべし然れば我汝の吾主人に恩惠を施し給ふを知らん
彼語ふことを終るまへに視よリベカ瓶を肩にのせて出きたる彼はアブラハムの兄弟ナホルの妻ミルカの子ベトエルに生れたる者なり
其童女は觀に甚だ美しく且處女にして未だ人に適しことあらず彼井に下り其瓶に水を盈て上りしかば
僕はせゆきて之にあひ請ふ我をして汝の瓶より少許の水を飮しめよといひけるに
彼主よ飮たまへといひて乃ち急ぎ其瓶を手におろして之にのましめたりしが
飮せをはりて言ふ汝の駱駝のためにも其飮をはるまで水を汲て飽しめん
急ぎて其瓶を水鉢にあけ又汲んとて井にはせゆき其諸の駱駝のために汲みたり
其人之を見つめヱホバが其途に幸福をくだしたまふや否やをしらんとして默し居たり
茲に駱駝飮をはりしかば其人重半シケルの金の鼻環一箇と重十シケルの金の手釧二箇をとりて
言けるは汝は誰の女なるや請ふ我に告よ汝の父の家に我等が宿る隙地ありや
女彼に曰けるは我はミルカがナホルに生みたる子ベトエルの女なり
又彼にいひけるは家には藁も飼草も多くあり且宿る隙地もあり
是に於て其人伏てヱホバを拜み
言けるは吾主人アブラハムの神ヱホバは讃美べきかなわが主人に慈惠と眞實とを缺きたまはず我途にありしにヱホバ我を吾主人の兄弟の家にみちびきたまへり
茲に童女走行て其母の家に此等の事を告たり
リベカに一人の兄あり其名をラバンといふラバンはせいで井にゆきて其人の許につく
すなはち彼鼻環および其妹の手の手釧を見又其妹リベカが其人斯我に語りといふを聞て其人の所に到り見るに井の側らにて駱駝の傍にたちゐたれば
之に言けるは汝ヱホバに祝るる者よ請ふ入れ奚ぞ外にたつや我家を備へ且駱駝のために所をそなへたり
是に於て其人家にいりぬラバン乃ち其駱駝の負を釋き藁と飼草を駱駝にあたへ又水をあたへて其人の足と其從者の足をあらはしめ
斯して彼の前に食をそなへたるに彼言ふ我はわが事をのぶるまでは食はじとラバン語れといひければ
彼言ふわれはアブラハムの僕なり
ヱホバ大にわが主人をめぐみたまひて大なる者とならしめ又羊牛金銀僕婢駱駝驢馬をこれにたまへり
わが主人の妻サラ年老てのちわが主人に男子をうみければ主人其所有を悉く之に與ふ
わが主人我を誓せて言ふ吾すめるカナンの地の人の女子の中よりわが子に妻を娶るなかれ
汝わが父の家にゆきわが親族にいたりわが子のために妻をめとれと
我わが主人にいひけるは倘女我にしたがひて來ずば如何
彼我にいひけるは吾事ふるところのヱホバ其使者を汝とともに遣はして汝の途に幸福を降したまはん爾わが親族わが父の家より吾子に妻をめとるべし
汝わが親族に至れる時はわが誓を解さるべし若彼等汝にあたへずば汝はわが誓をゆるさるべしと
我今日井に至りて謂けらくわが主人アブラハムの神ヱホバねがはくはわがゆく途に幸福を降したまへ
我はこの井水の傍に立つ水を汲にいづる處女あらん時我彼にむかひて請ふ汝の瓶より少許の水を我にのましめよと言んに
若我に答へて汝飮め我亦汝の駱駝のためにも汲んと言ば是ヱホバがわが主人の子のために定たまひし女なるべし
我心の中に語ふことを終るまへにリベカ其瓶を肩にのせて出來り井にくだりて水を汲みたるにより我彼に請ふ我にのましめよと言ければ
彼急ぎ其瓶を肩よりおろしていひけるは飮めまた汝の駱駝にものましめんと是に於て我飮しが彼また駱駝にものましめたり
我彼に問て汝は誰の女なるやといひければミルカがナホルに生たる子ベトエルの女なりといふ是に於て我其鼻に環をつけ其手に手釧をつけたり
而して我伏てヱホバを拜み吾主人アブラハムの神ヱホバを頌美たりヱホバ我を正き途に導きてわが主人の兄弟の女を其子のために娶しめんとしたまへばなり
されば汝等若わが主人にむかひて慈惠と眞誠をもて事をなさんと思はば我に告よ然ざるも亦我に告よ然ば我右か左におもむくをえん
ラバンとベトエル答て言けるは此事はヱホバより出づ我等汝に善惡を言ふあたはず
視よリベカ汝の前にをる携へてゆき彼をしてヱホバの言たまひし如く汝の主人の子の妻とならしめよ
アブラハムの僕彼等の言を聞て地に伏てヱホバを拜めり
是に於て僕銀の飾品金の飾品および衣服をとりいだしてリベカに與へ亦其兄と母に寶物をあたへたり
是に於て彼および其從者等食飮して宿りしが朝起たる時彼言我をして吾主人に還らしめよ
リベカの兄と母言けるは童女を數日の間少くも十日我等と偕にをらしめよしかるのち彼ゆくべし
彼人之に言ヱホバ吾途に福祉をくだしたまひたるなれば我を阻むるなかれ我を歸してわが主人に往しめよ
彼等いひけるは童女をよびて其言を問んと
即ちリベカを呼て之に言けるは汝此人と共に往や彼言ふ往ん
是に於て彼等妹リベカと其乳媼およびアブラハムの僕と其從者を遣り去しめたり
即ち彼等リベカを祝して之にいひけるはわれらの妹よ汝千萬の人の母となれ汝の子孫をして其仇の門を獲しめよ
是に於てリベカ起て其童女等とともに駱駝にのりて其人にしたがひ往く僕乃ちリベカを導きてさりぬ
茲にイサク、ラハイロイの井の路より來れり南の國に住居たればなり
しかしてイサク黄昏に野に出て默想をなしたりしが目を擧て見しに駱駝の來るあり
リベカ目をあげてイサクを見駱駝をおりて
僕にいひけるは野をあゆみて我等にむかひ來る者は何人なるぞ僕わが主人なりといひければリベカ覆衣をとりて身をおほへり
茲に僕其凡てなしたる事をイサクに告ぐ
イサク、リベカを其母サラの天幕に携至りリベカを娶りて其妻となしてこれを愛したりイサクは母にわかれて後茲に慰籍を得たり
アブラハム再妻を娶る其名をケトラといふ
彼ジムラン、ヨクシヤン、メダン、ミデアン、イシバク、シユワを生り
ヨクシヤン、シバとデダンを生むデダンの子はアッシユリ族レトシ族リウミ族なり
ミデアンの子はエパ、エペル、ヘノク、アビダ、エルダアなり是等は皆ケトラの子孫なり
アブラハム其所有を盡くイサクに與へたり
アブラハムの妾等の子にはアブラハム其生る間の物をあたへて之をして其子イサクを離れて東にさりて東の國に至らしむ
アブラハムの生存へたる齡の日は即ち百七十五年なりき
アブラハム遐齡に及び老人となり年滿て氣たえ死て其民に加る
其子イサクとイシマエル之をヘテ人ゾハルの子エフロンの野なるマクペラの洞穴に葬れり是はマムレの前にあり
即ちアブラハムがヘテの子孫より買たる野なり彼處にアブラハムと其妻サラ葬らる
アブラハムの死たる後神其子イサクを祝みたまふイサクはベエルラハイロイの邊に住り
サラの侍婢なるエジプト人ハガルがアブラハムに生たる子イシマエルの傳は左のごとし
イシマエルの子の名は其名氏と其世代に循ひて言ば是のごとしイシマエルの長子はネバヨテなり其次はケダル、アデビエル、ミブサム
ミシマ、ドマ、マツサ
ハダデ、テマ、ヱトル、ネフシ、ケデマ
是等はイシマエルの子なり是等は其郷黨を其營にしたがひて言る者にして其國に循ひていへば十二の牧伯なり
イシマエルの齡は百三十七歳なりき彼いきたえ死て其民にくははる
イシマエルの子等はハビラよりエジプトの前なるシユルまでの間に居住てアッスリヤまでにおよべりイシマエルは其すべての兄弟等のまへにすめり
アブラハムの子イサクの傳は左のごとしアブラハム、イサクを生り
イサク四十歳にしてリベカを妻に娶れりリベカはパダンアラムのスリア人ベトエルの女にしてスリア人ラバンの妹なり
イサク其妻の子なきに因て之がためにヱホバに祈願をたてければヱホバ其ねがひを聽たまへり遂に其妻リベカ孕みしが
其子胎の内に爭そひければ然らば我いかで斯てあるべきと言て往てヱホバに問に
ヱホバ彼に言たまひけるは二の國民汝の胎にあり二の民汝の腹より出て別れん一の民は一の民よりも強かるべし大は小に事へんと
かくて臨月みちて見しに胎には孿ありき
先に出たる者は赤くして躰中裘の如し其名をエサウと名けたり
其後に弟出たるが其手にエサウの踵を持り其名をヤコブとなづけたりリベカが彼等を生し時イサクは六十歳なりき
茲に童子人となりしがエサウは巧なる獵人にして野の人となりヤコブは質樸なる人にして天幕に居ものとなれり
イサクは麆を嗜によりてエサウを愛したりしがリベカはヤコブを愛したり
茲にヤコブ羹を煮たり時にエサウ野より來りて憊れ居り
エサウ、ヤコブにむかひ我憊れたれば請ふ其紅羹其處にある紅羹を我にのませよといふ是をもて彼の名はエドム(紅)と稱らる
ヤコブ言けるは今日汝の家督の權を我に鬻れ
エサウいふ我は死んとして居る此家督の權我に何の益をなさんや
ヤコブまた言けるは今日我に誓へと彼すなはち誓て其家督の權をヤコブに鬻ぬ
是に於てヤコブ、パンと扁豆の羹とをエサウに與へければ食且飮て起て去り斯エサウ家督の權を藐視じたり