文語訳(大正改訳)新約聖書 日本聖書協会 [#改ページ] マタイ傳福音書[#「マタイ傳福音書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]アブラハムの|子《こ》、ダビデの|子《こ》、イエス・キリストの|系圖《けいづ》。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]アブラハム、イサクを|生《う》み、イサク、ヤコブを|生《う》み、ヤコブ、ユダとその|兄弟《きゃうだい》らとを|生《う》み、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ユダ、タマルによりてパレスとザラとを|生《う》み、パレス、エスロンを|生《う》み、エスロン、アラムを|生《う》み、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]アラム、アミナダブを|生《う》み、アミナダブ、ナアソンを|生《う》み、ナアソン、サルモンを|生《う》み、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]サルモン、ラハブによりてボアズを|生《う》み、ボアズ、ルツによりてオベデを|生《う》み、オベデ、エツサイを|生《う》み、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]エツサイ、ダビデ|王《わう》を|生《う》めり。ダビデ、ウリヤの|妻《つま》たりし|女《をんな》によりてソロモンを|生《う》み、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ソロモン、レハベアムを|生《う》み、レハベアム、アビヤを|生《う》み、アビヤ、アサを|生《う》み、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]アサ、ヨサパテを|生《う》み、ヨサパテ、ヨラムを|生《う》み、ヨラム、ウジヤを|生《う》み、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ウジヤ、ヨタムを|生《う》み、ヨタム、アハズを|生《う》み、アハズ、ヒゼキヤを|生《う》み、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]ヒゼキヤ、マナセを|生《う》み、マナセ、アモンを|生《う》み、アモン、ヨシヤを|生《う》み、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]バビロンに|移《うつ》さるる|頃《ころ》、ヨシヤ、エコニヤとその|兄弟《きゃうだい》らとを|生《う》めり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]バビロンに|移《うつ》されて|後《のち》、エコニヤ、サラテルを|生《う》み、サラテル、ゾロバベルを|生《う》み、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ゾロバベル、アビウデを|生《う》み、アビウデ、エリヤキムを|生《う》み、エリヤキム、アゾルを|生《う》み、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]アゾル、サドクを|生《う》み、サドク、アキムを|生《う》み、アキム、エリウデを|生《う》み、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]エリウデ、エレアザルを|生《う》み、エレアザル、マタンを|生《う》み、マタン、ヤコブを|生《う》み、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ヤコブ、マリヤの|夫《をっと》ヨセフを|生《う》めり。|此《こ》のマリヤよりキリストと|稱《とな》ふるイエス|生《うま》れ|給《たま》へり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されば|總《すべ》て|世《よ》をふる|事《こと》、アブラハムよりダビデまで|十四代《じふよだい》、ダビデよりバビロンに|移《うつ》さるるまで|十四代《じふよだい》、バビロンに|移《うつ》されてよりキリストまで|十四代《じふよだい》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエス・キリストの|誕生《たんじゃう》は|左《さ》のごとし。その|母《はは》マリヤ、ヨセフと|許嫁《いひなづけ》したるのみにて、|未《いま》だ|偕《とも》にならざりしに、|聖《せい》|靈《れい》によりて|孕《みごも》り、その|孕《みごも》りたること|顯《あらは》れたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|夫《をっと》ヨセフは|正《ただ》しき|人《ひと》にして、|之《これ》を|公然《おほやけ》にするを|好《この》まず、|私《ひそか》に|離縁《りえん》せんと|思《おも》ふ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて、これらの|事《こと》を|思《おも》ひ|囘《めぐ》らしをるとき、|視《み》よ、|主《しゅ》の|使《つかひ》、|夢《ゆめ》に|現《あらは》れて|言《い》ふ『ダビデの|子《こ》ヨセフよ、|妻《つま》マリヤを|納《い》るる|事《こと》を|恐《おそ》るな。その|胎《たい》に|宿《やど》る|者《もの》は|聖《せい》|靈《れい》によるなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]かれ|子《こ》を|生《う》まん、|汝《なんぢ》その|名《な》をイエスと|名《な》づくべし。|己《おの》が|民《たみ》をその|罪《つみ》より|救《すく》ひ|給《たま》ふ|故《ゆゑ》なり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]すべて|此《こ》の|事《こと》の|起《おこ》りしは、|預言者《よげんしゃ》によりて|主《しゅ》の|云《い》ひ|給《たま》ひし|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。|曰《いは》く、 [#ここから2字下げ] [#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]『|視《み》よ、|處女《をとめ》みごもりて|子《こ》を|生《う》まん。 その|名《な》はインマヌエルと|稱《とな》へられん』 [#ここで字下げ終わり] |之《これ》を|釋《と》けば、|神《かみ》われらと|偕《とも》に|在《いま》すといふ|意《こころ》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ヨセフ|寐《ねむり》より|起《お》き、|主《しゅ》の|使《つかひ》の|命《めい》ぜし|如《ごと》くして|妻《つま》を|納《い》れたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]されど|子《こ》の|生《うま》るるまでは、|相《あひ》|知《し》る|事《こと》なかりき。かくてその|子《こ》をイエスと|名《な》づけたり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエスはヘロデ|王《わう》の|時《とき》、ユダヤのベツレヘムに|生《うま》れ|給《たま》ひしが、|視《み》よ、|東《ひがし》の|博士《はかせ》たちエルサレムに|來《きた》りて|言《い》ふ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『ユダヤ|人《びと》の|王《わう》とて|生《うま》れ|給《たま》へる|者《もの》は、|何處《いづこ》に|在《いま》すか。|我《われ》ら|東《ひがし》にてその|星《ほし》を|見《み》たれば、|拜《はい》せんために|來《きた》れり』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|王《わう》これを|聞《き》きて|惱《なや》みまどふ、エルサレムも|皆《みな》|然《しか》り。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》、|民《たみ》の|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》らを|皆《みな》あつめて、キリストの|何處《いづこ》に|生《うま》るべきを|問《と》ひ|質《ただ》す。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]かれら|言《い》ふ『ユダヤのベツレヘムなり。それは|預言者《よげんしゃ》によりて、 [#ここから2字下げ] [#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]「ユダの|地《ち》ベツレヘムよ、|汝《なんぢ》は ユダの|長《をさ》たちの|中《うち》にて|最《いと》|小《ちひさ》き|者《もの》にあらず、 |汝《なんぢ》の|中《うち》より|一人《ひとり》の|君《きみ》いでて、 わが|民《たみ》イスラエルを|牧《ぼく》せん」 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》されたるなり』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ここにヘロデ|密《ひそか》に|博士《はかせ》たちを|招《まね》きて、|星《ほし》の|現《あらは》れし|時《とき》を|詳細《つまびらか》にし、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らをベツレヘムに|遣《つかは》さんとして|言《い》ふ『|往《ゆ》きて|幼兒《をさなご》のことを|細《こまか》にたづね、|之《これ》にあはば|我《われ》に|告《つ》げよ。|我《われ》も|往《ゆ》きて|拜《はい》せん』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|王《わう》の|言《ことば》をききて|往《ゆ》きしに、|視《み》よ、|前《さき》に|東《ひがし》にて|見《み》し|星《ほし》、|先《さき》だちゆきて、|幼兒《をさなご》の|在《いま》すところの|上《うへ》に|止《とどま》る。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かれら|星《ほし》を|見《み》て、|歡喜《よろこび》に|溢《あふ》れつつ、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|家《いへ》に|入《い》りて、|幼兒《をさなご》のその|母《はは》マリヤと|偕《とも》に|在《いま》すを|見《み》、|平伏《ひれふ》して|拜《はい》し、かつ|寶《たから》の|匣《はこ》をあけて、|黄金《わうごん》・|乳香《にうかう》・|沒藥《もつやく》など|禮物《れいもつ》を|献《ささ》げたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|夢《ゆめ》にてヘロデの|許《もと》に|返《かへ》るなとの|御告《みつげ》を|蒙《かうむ》り、ほかの|路《みち》より|己《おの》が|國《くに》に|去《さ》りゆきぬ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]その|去《さ》り|往《ゆ》きしのち、|視《み》よ、|主《しゅ》の|使《つかひ》、|夢《ゆめ》にてヨセフに|現《あらは》れていふ『|起《お》きて、|幼兒《をさなご》とその|母《はは》とを|携《たづさ》へ、エジプトに|逃《のが》れ、わが|告《つ》ぐるまで|彼處《かしこ》に|留《とどま》れ。ヘロデ|幼兒《をさなご》を|索《もと》めて|亡《ほろぼ》さんとするなり』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ヨセフ|起《お》きて、|夜《よ》の|間《ま》に|幼兒《をさなご》とその|母《はは》とを|携《たづさ》へて、エジプトに|去《さ》りゆき、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデの|死《し》ぬるまで|彼處《かしこ》に|留《とどま》りぬ。これ|主《しゅ》が|預言者《よげんしゃ》によりて『|我《われ》エジプトより|我《わ》が|子《こ》を|呼《よ》び|出《いだ》せり』と|云《い》ひ|給《たま》ひし|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ここにヘロデ、|博士《はかせ》たちに|賺《すか》されたりと|悟《さと》りて、|甚《はなは》だしく|憤《いきど》ほり、|人《ひと》を|遣《つかは》し、|博士《はかせ》たちに|由《よ》りて|詳細《つまびらか》にせし|時《とき》を|計《はか》り、ベツレヘム|及《およ》び|凡《すべ》てその|邊《ほとり》の|地方《ちはう》なる、|二《に》|歳《さい》|以下《いか》の|男《をとこ》の|兒《こ》をことごとく|殺《ころ》せり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|預言者《よげんしゃ》エレミヤによりて|云《い》はれたる|言《ことば》は|成就《じゃうじゅ》したり。|曰《いは》く、 [#ここから2字下げ] [#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]『|聲《こゑ》ラマにありて|聞《きこ》ゆ、 |慟哭《なげき》なり、いとどしき|悲哀《かなしみ》なり。 ラケル|己《おの》が|子《こ》らを|歎《なげ》き、 |子《こ》|等《ら》のなき|故《ゆゑ》に|慰《なぐさ》めらるるを|厭《いと》ふ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|死《し》にてのち、|視《み》よ、|主《しゅ》の|使《つかひ》、|夢《ゆめ》にてエジプトなるヨセフに|現《あらは》れて|言《い》ふ、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]『|起《お》きて、|幼兒《をさなご》とその|母《はは》とを|携《たづさ》へ、イスラエルの|地《ち》にゆけ。|幼兒《をさなご》の|生命《いのち》を|索《もと》めし|者《もの》どもは|死《し》にたり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ヨセフ|起《お》きて、|幼兒《をさなご》とその|母《はは》とを|携《たづさ》へ、イスラエルの|地《ち》に|到《いた》りしに、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]アケラオその|父《ちち》ヘロデに|代《かわ》りてユダヤを|治《をさ》むと|聞《き》き、|彼處《かしこ》に|往《ゆ》くことを|恐《おそ》る。また|夢《ゆめ》にて|御告《みつげ》を|蒙《かうむ》り、ガリラヤの|地方《ちはう》に|退《しりぞ》き、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ナザレといふ|町《まち》に|到《いた》りて|住《す》みたり。これは|預言者《よげんしゃ》たちに|由《よ》りて、『|彼《かれ》はナザレ|人《びと》と|呼《よ》ばれん』と|云《い》はれたる|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》バプテスマのヨハネ|來《きた》り、ユダヤの|荒野《あらの》にて|教《をしへ》を|宣《の》べて|言《い》ふ[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢら|悔改《くいあらた》めよ、|天國《てんこく》は|近《ちか》づきたり』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]これ|預言者《よげんしゃ》イザヤによりて、|斯《か》く|云《い》はれし|人《ひと》なり、|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 『|荒野《あらの》に|呼《よば》はる|者《もの》の|聲《こゑ》す 「|主《しゅ》の|道《みち》を|備《そな》へ、 その|路《みち》すぢを|直《なほ》くせよ」』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]このヨハネは|駱駝《らくだ》の|毛織衣《けおりごろも》をまとひ、|腰《こし》に|皮《かは》の|帶《おび》をしめ、|蝗《いなご》と|野蜜《のみつ》とを|食《しょく》とせり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ここにエルサレム|及《およ》びユダヤ|全國《ぜんこく》、またヨルダンの|邊《ほとり》なる|全地方《ぜんちはう》の|人々《ひとびと》、ヨハネの|許《もと》に|出《い》できたり、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|罪《つみ》を|言《い》ひ|表《あらは》し、ヨルダン|川《がは》にてバプテスマを|受《う》けたり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ、パリサイ|人《びと》およびサドカイ|人《びと》のバプテスマを|受《う》けんとて、|多《おほ》く|來《きた》るを|見《み》て、|彼《かれ》らに|言《い》ふ『|蝮《まむし》の|裔《すゑ》よ、|誰《たれ》が|汝《なんぢ》らに、|來《きた》らんとする|御怒《みいかり》を|避《さ》くべき|事《こと》を|示《しめ》したるぞ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]さらば|悔改《くいあらため》に|相應《ふさは》しき|果《み》を|結《むす》べ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら「われらの|父《ちち》にアブラハムあり」と|心《こころ》のうちに|言《い》はんと|思《おも》ふな。|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|神《かみ》は|此《これ》らの|石《いし》よりアブラハムの|子《こ》らを|起《おこ》し|得給《えたま》ふなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|斧《をの》ははや|樹《き》の|根《ね》に|置《お》かる。されば|凡《すべ》て|善《よ》き|果《み》を|結《むす》ばぬ|樹《き》は、|伐《き》られて|火《ひ》に|投《な》げ|入《い》れらるべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|汝《なんぢ》らの|悔改《くいあらため》のために、|水《みづ》にてバプテスマを|施《ほどこ》す。されど|我《われ》より|後《のち》にきたる|者《もの》は、|我《われ》よりも|能力《ちから》あり、|我《われ》はその|鞋《くつ》をとるにも|足《た》らず、|彼《かれ》は|聖《せい》|靈《れい》と|火《ひ》とにて|汝《なんぢ》らにバプテスマを|施《ほどこ》さん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|手《て》には|箕《み》を|持《も》ちて|禾場《うちば》をきよめ、その|麥《むぎ》は|倉《くら》に|納《をさ》め、|殼《から》は|消《き》えぬ|火《ひ》にて|燒《や》きつくさん』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス、ヨハネにバプテスマを|受《う》けんとて、ガリラヤよりヨルダンに|來《きた》り|給《たま》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|之《これ》を|止《とど》めんとして|言《い》ふ『われは|汝《なんぢ》にバプテスマを|受《う》くべき|者《もの》なるに、|反《かへ》つて|我《われ》に|來《きた》り|給《たま》ふか』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|今《いま》は|許《ゆる》せ、われら|斯《か》く|正《ただ》しき|事《こと》をことごとく|爲遂《しと》ぐるは、|當然《たうぜん》なり』ヨハネ|乃《すなは》ち|許《ゆる》せり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス、バプテスマを|受《う》けて|直《ただ》ちに|水《みづ》より|上《あが》り|給《たま》ひしとき、|視《み》よ、|天《てん》ひらけ、|神《かみ》の|御靈《みたま》の、|鴿《はと》のごとく|降《くだ》りて|己《おの》が|上《うへ》にきたるを|見《み》|給《たま》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]また|天《てん》より|聲《こゑ》あり、|曰《いは》く『これは|我《わ》が|愛《いつく》しむ|子《こ》、わが|悦《よろこ》ぶ|者《もの》なり』 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|御靈《みたま》によりて|荒野《あらの》に|導《みちび》かれ|給《たま》ふ、|惡魔《あくま》に|試《こころ》みられんとするなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|四十《しじふ》|日《にち》|四十《しじふ》|夜《や》|斷食《だんじき》して、|後《のち》に|飢《う》ゑたまふ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|試《こころ》むる|者《もの》きたりて|言《い》ふ『|汝《なんぢ》もし|神《かみ》の|子《こ》ならば、|命《めい》じて|此《これ》|等《ら》の|石《いし》をパンと|爲《な》らしめよ』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『「|人《ひと》の|生《い》くるはパンのみに|由《よ》るにあらず、|神《かみ》の|口《くち》より|出《い》づる|凡《すべ》ての|言《ことば》に|由《よ》る」と|録《しる》されたり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ここに|惡魔《あくま》イエスを|聖《せい》なる|都《みやこ》につれゆき、|宮《みや》の|頂上《いただき》に|立《た》たせて|言《い》ふ、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]『|汝《なんぢ》もし|神《かみ》の|子《こ》ならば|己《おの》が|身《み》を|下《した》に|投《な》げよ。それは [#ここから2字下げ] 「なんぢの|爲《ため》に|御使《みつかひ》たちに|命《めい》じ|給《たま》はん。 |彼《かれ》ら|手《て》にて|汝《なんぢ》を|支《ささ》へ、その|足《あし》を |石《いし》にうち|當《あ》つること|無《な》からしめん」 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》されたるなり』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『「|主《しゅ》なる|汝《なんぢ》の|神《かみ》を|試《こころ》むべからず」と、また|録《しる》されたり』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|惡魔《あくま》またイエスを|最《いと》|高《たか》き|山《やま》につれゆき、|世《よ》のもろもろの|國《くに》と、その|榮華《えいぐわ》とを|示《しめ》して|言《い》ふ、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]『|汝《なんぢ》もし|平伏《ひれふ》して|我《われ》を|拜《はい》せば、|此《これ》|等《ら》を|皆《みな》なんぢに|與《あた》へん』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『サタンよ、|退《しりぞ》け「|主《しゅ》なる|汝《なんぢ》の|神《かみ》を|拜《はい》し、ただ|之《これ》にのみ|事《つか》へ|奉《まつ》るべし」と|録《しる》されたるなり』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]ここに|惡魔《あくま》は|離《はな》れ|去《さ》り、|視《み》よ、|御使《みつかひ》たち|來《きた》り|事《つか》へぬ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]イエス、ヨハネの|囚《とら》はれし|事《こと》をききて、ガリラヤに|退《しりぞ》き、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|後《のち》ナザレを|去《さ》りて、ゼブルンとナフタリとの|境《さかひ》なる、|海邊《うみべ》のカペナウムに|到《いた》りて|住《す》み|給《たま》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]これは|預言者《よげんしゃ》イザヤによりて|云《い》はれたる|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] [#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]『ゼブルンの|地《ち》、ナフタリの|地《ち》、 |海《うみ》の|邊《ほとり》、ヨルダンの|彼方《かなた》、 |異邦人《いはうじん》のガリラヤ、 [#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|暗《くら》きに|坐《ざ》する|民《たみ》は、|大《おほい》なる|光《ひかり》を|見《み》、 |死《し》の|地《ち》と|死《し》の|蔭《かげ》とに|坐《ざ》する|者《もの》に、|光《ひかり》のぼれり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]この|時《とき》よりイエス|教《をしへ》を|宣《の》べはじめて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|悔改《くいあらた》めよ、|天國《てんこく》は|近《ちか》づきたり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かくて、ガリラヤの|海邊《うみべ》をあゆみて、|二人《ふたり》の|兄弟《きゃうだい》ペテロといふシモンとその|兄弟《きゃうだい》アンデレとが、|海《うみ》に|網《あみ》うちをるを|見《み》|給《たま》ふ、かれらは|漁人《すなどりびと》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]これに|言《い》ひたまふ『|我《われ》に|從《したが》ひきたれ、さらば|汝《なんぢ》らを|人《ひと》を|漁《すなど》る|者《もの》となさん』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]かれら|直《ただ》ちに|網《あみ》をすてて|從《したが》ふ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|更《さら》に|進《すす》みゆきて、また|二人《ふたり》の|兄弟《きゃうだい》、ゼベダイの|子《こ》ヤコブとその|兄弟《きゃうだい》ヨハネとが、|父《ちち》ゼベダイとともに|舟《ふね》にありて|網《あみ》を|繕《つくろ》ひをるを|見《み》て|呼《よ》び|給《たま》へば、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちに|舟《ふね》と|父《ちち》とを|置《お》きて|從《したが》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエスあまねくガリラヤを|巡《めぐ》り、|會堂《くわいだう》にて|教《をしへ》をなし、|御國《みくに》の|福音《ふくいん》を|宣《の》べつたへ、|民《たみ》の|中《うち》のもろもろの|病《やまひ》、もろもろの|疾患《わずらひ》をいやし|給《たま》ふ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]その|噂《うはさ》あまねくシリヤに|弘《ひろま》り、|人々《ひとびと》すべての|惱《なや》めるもの、|即《すなは》ちさまざまの|病《やまひ》と|苦痛《くるしみ》とに|罹《かか》れるもの、|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたるもの、|癲癇《てんかん》および|中風《ちゅうぶ》の|者《もの》などを|連《つ》れ|來《きた》りたれば、イエス|之《これ》を|醫《いや》したまふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤ|及《およ》びヨルダンの|彼方《かなた》より、|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》きたり|從《したが》へり。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|群衆《ぐんじゅう》を|見《み》て、|山《やま》にのぼり、|座《ざ》し|給《たま》へば、|弟子《でし》たち|御許《みもと》にきたる。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|口《くち》をひらき、|教《をし》へて|言《い》ひたまふ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]『|幸福《さいはひ》なるかな、|心《こころ》の|貧《まづ》しき|者《もの》。|天國《てんこく》はその|人《ひと》のものなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なるかな、|悲《かな》しむ|者《もの》。その|人《ひと》は|慰《なぐさ》められん。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なるかな、|柔和《にうわ》なる|者《もの》。その|人《ひと》は|地《ち》を|嗣《つ》がん。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なるかな、|義《ぎ》に|飢《う》ゑ|渇《かわ》く|者《もの》。その|人《ひと》は|飽《あ》くことを|得《え》ん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なるかな、|憐憫《あはれみ》ある|者《もの》。その|人《ひと》は|憐憫《あはれみ》を|得《え》ん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なるかな、|心《こころ》の|清《きよ》き|者《もの》。その|人《ひと》は|神《かみ》を|見《み》ん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なるかな、|平和《へいわ》ならしむる|者《もの》。その|人《ひと》は|神《かみ》の|子《こ》と|稱《とな》へられん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なるかな、|義《ぎ》のために|責《せ》められたる|者《もの》。|天國《てんこく》はその|人《ひと》のものなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》がために、|人《ひと》なんぢらを|罵《ののし》り、また|責《せ》め、|詐《いつは》りて|各樣《さまざま》の|惡《あ》しきことを|言《い》ふときは、|汝《なんぢ》ら|幸福《さいはひ》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|喜《よろこ》びよろこべ、|天《てん》にて|汝《なんぢ》らの|報《むくい》は|大《おほい》なり。|汝《なんぢ》|等《ら》より|前《さき》にありし|預言者《よげんしゃ》たちをも、|斯《か》く|責《せ》めたりき。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|地《ち》の|鹽《しほ》なり、|鹽《しほ》もし|效力《かうりょく》を|失《うしな》はば、|何《なに》をもてか|之《これ》に|鹽《しほ》すべき。|後《のち》は|用《よう》なし、|外《そと》にすてられて|人《ひと》に|蹈《ふ》まるるのみ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|世《よ》の|光《ひかり》なり。|山《やま》の|上《うへ》にある|町《まち》は|隱《かく》るることなし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]また|人《ひと》は|燈火《ともしび》をともして|升《ます》の|下《した》におかず、|燈臺《とうだい》の|上《うへ》におく。かくて|燈火《ともしび》は|家《いへ》にある|凡《すべ》ての|物《もの》を|照《てら》すなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくのごとく|汝《なんぢ》らの|光《ひかり》を|人《ひと》の|前《まへ》にかがやかせ。これ|人《ひと》の|汝《なんぢ》らが|善《よ》き|行爲《おこなひ》を|見《み》て、|天《てん》にいます|汝《なんぢ》らの|父《ちち》を|崇《あが》めん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]われ|律法《おきて》また|預言者《よげんしゃ》を|毀《こぼ》つために|來《きた》れりと|思《おも》ふな。|毀《こぼ》たんとて|來《きた》らず、|反《かへ》つて|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|天《てん》|地《ち》の|過《す》ぎ|往《ゆ》かぬうちに、|律法《おきて》の|一點《いってん》、|一畫《いっかく》も|廢《すた》ることなく、ことごとく|全《まった》うせらるべし。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》にもし|此《これ》|等《ら》のいと|小《ちひさ》き|誡命《いましめ》の|一《ひと》つをやぶり、|且《かつ》その|如《ごと》く|人《ひと》に|教《をし》ふる|者《もの》は、|天國《てんこく》にて|最《いと》|小《ちひさ》き|者《もの》と|稱《とな》へられ、|之《これ》を|行《おこな》ひ、かつ|人《ひと》に|教《をし》ふる|者《もの》は、|天國《てんこく》にて|大《おほい》なる|者《もの》と|稱《とな》へられん。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|汝《なんぢ》らの|義《ぎ》、|學者《がくしゃ》・パリサイ|人《びと》に|勝《まさ》らずば、|天國《てんこく》に|入《い》ること|能《あた》はず。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|古《いにし》への|人《ひと》に「|殺《ころ》すなかれ、|殺《ころ》す|者《もの》は|審判《さばき》にあふべし」と|云《い》へることあるを|汝《なんぢ》|等《ら》きけり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》は|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、すべて|兄弟《きゃうだい》を|怒《いか》る|者《もの》は、|審判《さばき》にあふべし。また|兄弟《きゃうだい》に|對《むか》ひて、|愚《おろか》|者《もの》よといふ|者《もの》は、|衆議《しゅうぎ》にあふべし。また|痴者《しれもの》よといふ|者《もの》は、ゲヘナの|火《ひ》にあふべし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》もし|供物《そなへもの》を|祭壇《さいだん》にささぐる|時《とき》、そこにて|兄弟《きゃうだい》に|怨《うら》まるる|事《こと》あるを|思《おも》ひ|出《いだ》さば、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|供物《そなへもの》を|祭壇《さいだん》のまへに|遺《のこ》しおき、|先《ま》づ|往《ゆ》きて、その|兄弟《きゃうだい》と|和睦《わぼく》し、|然《しか》るのち|來《きた》りて、|供物《そなへもの》をささげよ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢを|訴《うった》ふる|者《もの》とともに|途《みち》に|在《あ》るうちに、|早《はや》く|和解《わかい》せよ。|恐《おそ》らくは、|訴《うった》ふる|者《もの》なんぢを|審判《さばき》|人《ひと》にわたし、|審判《さばき》|人《ひと》は|下役《したやく》にわたし、|遂《つひ》になんぢは|獄《ひとや》に|入《い》れられん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、|一《いち》|厘《りん》ものこりなく|償《つくの》はずば、|其處《そこ》をいづること|能《あた》はじ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]「|姦淫《かんいん》するなかれ」と|云《い》へることあるを|汝《なんぢ》|等《ら》きけり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》は|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、すべて|色情《しきじゃう》を|懷《いだ》きて|女《をんな》を|見《み》るものは、|既《すで》に|心《こころ》のうち|姦淫《かんいん》したるなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]もし|右《みぎ》の|目《め》なんぢを|躓《つまづ》かせば、|抉《くじ》り|出《いだ》して|棄《す》てよ、|五體《ごたい》の|一《ひと》つ|亡《ほろ》びて、|全身《ぜんしん》ゲヘナに|投《な》げ|入《い》れられぬは|益《えき》なり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]もし|右《みぎ》の|手《て》なんぢを|躓《つまづ》かせば、|切《き》りて|棄《す》てよ、|五體《ごたい》の|一《ひと》つ|亡《ほろ》びて、|全身《ぜんしん》ゲヘナに|往《ゆ》かぬは|益《えき》なり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]また「|妻《つま》をいだす|者《もの》は|離縁状《りえんじゃう》を|與《あた》ふべし」と|云《い》へることあり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》は|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|淫行《いんかう》の|故《ゆゑ》ならで|其《そ》の|妻《つま》をいだす|者《もの》は、これに|姦淫《かんいん》を|行《おこな》はしむるなり。また|出《いだ》されたる|女《をんな》を|娶《めと》るものは、|姦淫《かんいん》を|行《おこな》ふなり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]また|古《いにし》への|人《ひと》に「いつはり|誓《ちか》ふなかれ、なんぢの|誓《ちかひ》は|主《しゅ》に|果《はた》すべし」と|云《い》へる|事《こと》あるを|汝《なんぢ》ら|聞《き》けり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》は|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|一切《いっさい》ちかふな、|天《てん》を|指《さ》して|誓《ちか》ふな、|神《かみ》の|御座《みくら》なればなり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|地《ち》を|指《さ》して|誓《ちか》ふな、|神《かみ》の|足臺《あしだい》なればなり。エルサレムを|指《さ》して|誓《ちか》ふな、|大君《おほきみ》の|都《みやこ》なればなり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|己《おの》が|頭《かしら》を|指《さ》して|誓《ちか》ふな、なんぢ|頭髮《かみのけ》|一筋《ひとすじ》だに|白《しろ》くし、また|黒《くろ》くし|能《あた》はねばなり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ただ|然《しか》り|然《しか》り、|否《いな》|否《いな》といへ、|之《これ》に|過《す》ぐるは|惡《あく》より|出《い》づるなり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]「|目《め》には|目《め》を、|齒《は》には|齒《は》を」と|云《い》へることあるを|汝《なんぢ》ら|聞《き》けり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》は|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|惡《あ》しき|者《もの》に|抵抗《てむか》ふな。|人《ひと》もし|汝《なんぢ》の|右《みぎ》の|頬《ほほ》をうたば、|左《ひだり》をも|向《む》けよ。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢを|訟《うった》へて|下衣《したぎ》を|取《と》らんとする|者《もの》には、|上衣《うはぎ》をも|取《と》らせよ。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|汝《なんぢ》に|一里《いちり》ゆくことを|強《し》ひなば、|共《とも》に|二里《にり》ゆけ。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢに|請《こ》ふ|者《もの》にあたへ、|借《か》らんとする|者《もの》を|拒《こば》むな。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]「なんぢの|隣《となり》を|愛《あい》し、なんぢの|仇《あた》を|憎《にく》むべし」と|云《い》へることあるを|汝《なんぢ》|等《ら》きけり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》は|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|汝《なんぢ》らの|仇《あた》を|愛《あい》し、|汝《なんぢ》らを|責《せ》むる|者《もの》のために|祈《いの》れ。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]これ|天《てん》にいます|汝《なんぢ》らの|父《ちち》の|子《こ》とならん|爲《ため》なり。|天《てん》の|父《ちち》は、その|日《ひ》を|惡《あ》しき|者《もの》のうへにも|善《よ》き|者《もの》のうへにも|昇《のぼ》らせ、|雨《あめ》を|正《ただ》しき|者《もの》にも|正《ただ》しからぬ|者《もの》にも|降《ふ》らせ|給《たま》ふなり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|己《おのれ》を|愛《あい》する|者《もの》を|愛《あい》すとも|何《なに》の|報《むくい》をか|得《う》べき、|取税人《しゅぜいにん》も|然《しか》するにあらずや。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》にのみ|挨拶《あいさつ》すとも|何《なに》の|勝《まさ》ることかある、|異邦人《いはうじん》も|然《しか》するにあらずや。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]さらば|汝《なんぢ》らの|天《てん》の|父《ちち》の|全《まった》きが|如《ごと》く、|汝《なんぢ》らも|全《まった》かれ。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|見《み》られんために|己《おの》が|義《ぎ》を|人《ひと》の|前《まへ》にて|行《おこな》はぬやうに|心《こころ》せよ。|然《しか》らずば、|天《てん》にいます|汝《なんぢ》らの|父《ちち》より|報《むくい》を|得《え》じ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]さらば|施濟《ほどこし》をなすとき、|僞善者《ぎぜんしゃ》が|人《ひと》に|崇《あが》められんとて|會堂《くわいだう》や|街《ちまた》にて|爲《な》すごとく、|己《おの》が|前《まへ》にラッパを|鳴《なら》すな。|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|彼《かれ》らは|既《すで》にその|報《むくい》を|得《え》たり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》は|施濟《ほどこし》をなすとき、|右《みぎ》の|手《て》のなすことを|左《ひだり》の|手《て》に|知《し》らすな。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》はその|施濟《ほどこし》の|隱《かく》れん|爲《ため》なり。さらば|隱《かく》れたるに|見《み》たまふ|汝《なんぢ》の|父《ちち》は|報《むく》い|給《たま》はん。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|祈《いの》るとき、|僞善者《ぎぜんしゃ》の|如《ごと》くあらざれ。|彼《かれ》らは|人《ひと》に|顯《あらは》さんとて、|會堂《くわいだう》や|大路《おほじ》の|角《かど》に|立《た》ちて|祈《いの》ることを|好《この》む。|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、かれらは|既《すで》にその|報《むくい》を|得《え》たり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢは|祈《いの》るとき、|己《おの》が|部屋《へや》にいり、|戸《と》を|閉《と》ぢて|隱《かく》れたるに|在《いま》す|汝《なんぢ》の|父《ちち》に|祈《いの》れ。さらば|隱《かく》れたるに|見《み》|給《たま》ふなんぢの|父《ちち》は|報《むく》い|給《たま》はん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]また|祈《いの》るとき、|異邦人《いはうじん》の|如《ごと》くいたづらに|言《ことば》を|反復《くりかへ》すな。|彼《かれ》らは|言《ことば》|多《おほ》きによりて|聽《き》かれんと|思《おも》ふなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]さらば|彼《かれ》らに|效《なら》ふな、|汝《なんぢ》らの|父《ちち》は|求《もと》めぬ|前《さき》に、なんぢらの|必要《ひつえう》なる|物《もの》を|知《し》りたまふ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らは|斯《か》く|祈《いの》れ。「|天《てん》にいます|我《われ》らの|父《ちち》よ、|願《ねが》はくは|御名《みな》の|崇《あが》められん|事《こと》を。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|御國《みくに》の|來《きた》らんことを。|御意《みこころ》の|天《てん》のごとく|地《ち》にも|行《おこな》はれん|事《こと》を。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|日用《にちよう》の|糧《かて》を|今日《けふ》もあたへ|給《たま》へ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らに|負債《おひめ》ある|者《もの》を|我《われ》らの|免《ゆる》したる|如《ごと》く、|我《われ》らの|負債《おひめ》をも|免《ゆる》し|給《たま》へ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らを|嘗試《こころみ》に|遇《あ》はせず、|惡《あく》より|救《すく》ひ|出《いだ》したまへ」[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|人《ひと》の|過失《あやまち》を|免《ゆる》さば、|汝《なんぢ》らの|天《てん》の|父《ちち》も|汝《なんぢ》らを|免《ゆる》し|給《たま》はん。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]もし|人《ひと》を|免《ゆる》さずば、|汝《なんぢ》らの|父《ちち》も|汝《なんぢ》らの|過失《あやまち》を|免《ゆる》し|給《たま》はじ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|斷食《だんじき》するとき、|僞善者《ぎぜんしゃ》のごとく、|悲《かな》しき|面容《おももち》をすな。|彼《かれ》らは|斷食《だんじき》することを|人《ひと》に|顯《あらは》さんとて、その|顏《かほ》|色《いろ》を|害《そこな》ふなり。|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|彼《かれ》らは|既《すで》にその|報《むくい》を|得《え》たり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢは|斷食《だんじき》するとき、|頭《かしら》に|油《あぶら》をぬり、|顏《かほ》をあらへ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]これ|斷食《だんじき》することの|人《ひと》に|顯《あらは》れずして、|隱《かく》れたるに|在《いま》す|汝《なんぢ》の|父《ちち》にあらはれん|爲《ため》なり。さらば|隱《かく》れたるに|見《み》たまふ|汝《なんぢ》の|父《ちち》は|報《むく》い|給《たま》はん。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|己《おの》がために|財寶《たから》を|地《ち》に|積《つ》むな、ここは|蟲《むし》と|錆《さび》とが|損《そこな》ひ、|盜人《ぬすびと》うがちて|盜《ぬす》むなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|己《おの》がために|財寶《たから》を|天《てん》に|積《つ》め、かしこは|蟲《むし》と|錆《さび》とが|損《そこな》はず、|盜人《ぬすびと》うがちて|盜《ぬす》まぬなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|財寶《たから》のある|所《ところ》には、なんぢの|心《こころ》もあるべし。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|身《み》の|燈火《ともしび》は|目《め》なり。この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》の|目《め》ただしくば、|全身《ぜんしん》あかるからん。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》の|目《め》あしくば、|全身《ぜんしん》くらからん。もし|汝《なんぢ》の|内《うち》の|光《ひかり》、|闇《やみ》ならば、その|闇《やみ》いかばかりぞや。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》は|二人《ふたり》の|主《しゅ》に|兼《か》ね|事《つか》ふること|能《あた》はず、|或《あるひ》はこれを|憎《にく》み|彼《かれ》を|愛《あい》し、|或《あるひ》はこれに|親《した》しみ|彼《かれ》を|輕《かろ》しむべければなり。|汝《なんぢ》ら|神《かみ》と|富《とみ》とに|兼《か》ね|事《つか》ふること|能《あた》はず。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|何《なに》を|食《くら》ひ、|何《なに》を|飮《の》まんと|生命《いのち》のことを|思《おも》ひ|煩《わづら》ひ、|何《なに》を|著《き》んと|體《からだ》のことを|思《おも》ひ|煩《わづら》ふな。|生命《いのち》は|糧《かて》にまさり、|體《からだ》は|衣《ころも》に|勝《まさ》るならずや。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|空《そら》の|鳥《とり》を|見《み》よ、|播《ま》かず、|刈《か》らず、|倉《くら》に|收《をさ》めず、|然《しか》るに|汝《なんぢ》らの|天《てん》の|父《ちち》は、これを|養《やしな》ひたまふ。|汝《なんぢ》らは|之《これ》よりも|遙《はるか》に|優《すぐ》るる|者《もの》ならずや。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》たれか|思《おも》ひ|煩《わづら》ひて|身《み》の|長《たけ》|一尺《いっしゃく》を|加《くは》へ|得《え》んや。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》なにゆゑ|衣《ころも》のことを|思《おも》ひ|煩《わづら》ふや。|野《の》の|百合《ゆり》は|如何《いか》にして|育《そだ》つかを|思《おも》へ、|勞《らう》せず、|紡《つむ》がざるなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|榮華《えいぐわ》を|極《きは》めたるソロモンだに、その|服裝《よそほひ》この|花《はな》の|一《ひと》つにも|及《し》かざりき。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|今日《けふ》ありて|明日《あす》|爐《ろ》に|投《な》げ|入《い》れらるる|野《の》の|草《くさ》をも、|神《かみ》はかく|裝《よそほ》ひ|給《たま》へば、まして|汝《なんぢ》らをや、ああ|信仰《しんかう》うすき|者《もの》よ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]さらば|何《なに》を|食《くら》ひ、|何《なに》を|飮《の》み、|何《なに》を|著《き》んとて|思《おも》ひ|煩《わづら》ふな。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》みな|異邦人《いはうじん》の|切《せつ》に|求《もと》むる|所《ところ》なり。|汝《なんぢ》らの|天《てん》の|父《ちち》は、|凡《すべ》てこれらの|物《もの》の|汝《なんぢ》らに|必要《ひつえう》なるを|知《し》り|給《たま》ふなり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]まづ|神《かみ》の|國《くに》と|神《かみ》の|義《ぎ》とを|求《もと》めよ、さらば|凡《すべ》てこれらの|物《もの》は|汝《なんぢ》らに|加《くは》へらるべし。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|明日《あす》のことを|思《おも》ひ|煩《わづら》ふな、|明日《あす》は|明日《あす》みづから|思《おも》ひ|煩《わづら》はん。|一日《いちにち》の|苦勞《くらう》は|一日《いちにち》にて|足《た》れり。 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|人《ひと》を|審《さば》くな、|審《さば》かれざらん|爲《ため》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|己《おの》がさばく|審判《さばき》にて|己《おのれ》もさばかれ、|己《おの》がはかる|量《はかり》にて|己《おのれ》も|量《はか》らるべし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|何《なに》ゆゑ|兄弟《きゃうだい》の|目《め》にある|塵《ちり》を|見《み》て、おのが|目《め》にある|梁木《うつばり》を|認《みと》めぬか。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、おのが|目《め》に|梁木《うつばり》のあるに、いかで|兄弟《きゃうだい》にむかひて、|汝《なんぢ》の|目《め》より|塵《ちり》をとり|除《のぞ》かせよと|言《い》ひ|得《え》んや。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|僞善者《ぎぜんしゃ》よ、まづ|己《おの》が|目《め》より|梁木《うつばり》をとり|除《のぞ》け、さらば|明《あきら》かに|見《み》えて、|兄弟《きゃうだい》の|目《め》より|塵《ちり》を|取《と》りのぞき|得《え》ん。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|聖《せい》なる|物《もの》を|犬《いぬ》に|與《あた》ふな。また|眞珠《しんじゅ》を|豚《ぶた》の|前《まへ》に|投《な》ぐな。|恐《おそ》らくは|足《あし》にて|蹈《ふ》みつけ、|向《む》き|返《かへ》りて|汝《なんぢ》らを|噛《か》みやぶらん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|求《もと》めよ、さらば|與《あた》へられん。|尋《たづ》ねよ、さらば|見出《みいだ》さん。|門《もん》を|叩《たた》け、さらば|開《ひら》かれん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]すべて|求《もと》むる|者《もの》は|得《え》、たづぬる|者《もの》は|見《み》いだし、|門《もん》をたたく|者《もの》は|開《ひら》かるるなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち、|誰《たれ》かその|子《こ》パンを|求《もと》めんに|石《いし》を|與《あた》へ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|魚《うを》を|求《もと》めんに|蛇《へび》を|與《あた》へんや。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]さらば、|汝《なんぢ》ら|惡《あ》しき|者《もの》ながら、|善《よ》き|賜物《たまもの》をその|子《こ》らに|與《あた》ふるを|知《し》る。まして|天《てん》にいます|汝《なんぢ》らの|父《ちち》は、|求《もと》むる|者《もの》に|善《よ》き|物《もの》を|賜《たま》はざらんや。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]さらば|凡《すべ》て|人《ひと》に|爲《せ》られんと|思《おも》ふことは、|人《ひと》にも|亦《また》その|如《ごと》くせよ。これは|律法《おきて》なり、|預言者《よげんしゃ》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|狹《せま》き|門《もん》より|入《い》れ、|滅《ほろび》にいたる|門《もん》は|大《おほ》きく、その|路《みち》は|廣《ひろ》く、|之《これ》より|入《い》る|者《もの》おほし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|生命《いのち》にいたる|門《もん》は|狹《せま》く、その|路《みち》は|細《ほそ》く、|之《これ》を|見《み》|出《いだ》す|者《もの》すくなし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》に|心《こころ》せよ、|羊《ひつじ》の|扮裝《よそほひ》して|來《きた》れども、|内《うち》は|奪《うば》ひ|掠《かす》むる|豺狼《おほかみ》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]その|果《み》によりて|彼《かれ》らを|知《し》るべし。|茨《いばら》より|葡萄《ぶだう》を、|薊《あざみ》より|無花果《いちぢく》をとる|者《もの》あらんや。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く、すべて|善《よ》き|樹《き》は|善《よ》き|果《み》をむすび、|惡《あ》しき|樹《き》は|惡《あ》しき|果《み》をむすぶ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|善《よ》き|樹《き》は|惡《あ》しき|果《み》を|結《むす》ぶこと|能《あた》はず、|惡《あ》しき|樹《き》はよき|果《み》を|結《むす》ぶこと|能《あた》はず。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]すべて|善《よ》き|果《み》を|結《むす》ばぬ|樹《き》は、|伐《き》られて|火《ひ》に|投《な》げ|入《い》れらる。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]さらばその|果《み》によりて|彼《かれ》らを|知《し》るべし。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》に|對《むか》ひて|主《しゅ》よ|主《しゅ》よといふ|者《もの》、ことごとくは|天國《てんこく》に|入《い》らず、ただ|天《てん》にいます|我《わ》が|父《ちち》の|御意《みこころ》をおこなふ|者《もの》のみ、|之《これ》に|入《い》るべし。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》おほくの|者《もの》われに|對《むか》ひて「|主《しゅ》よ、|主《しゅ》よ、|我《われ》らは|汝《なんぢ》の|名《な》によりて|預言《よげん》し、|汝《なんぢ》の|名《な》によりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひいだし、|汝《なんぢ》の|名《な》によりて|多《おほ》くの|能力《ちから》ある|業《わざ》を|爲《な》ししにあらずや」と|言《い》はん。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》われ|明白《あらは》に|告《つ》げん「われ|斷《た》えて|汝《なんぢ》らを|知《し》らず、|不法《ふはふ》をなす|者《もの》よ、|我《われ》を|離《はな》れされ」と。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]さらば|凡《すべ》て|我《わ》がこれらの|言《ことば》をききて|行《おこな》ふ|者《もの》を、|磐《いは》の|上《うへ》に|家《いへ》をたてたる|慧《さと》き|人《ひと》に|擬《なずら》へん。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|雨《あめ》ふり|流《ながれ》みなぎり、|風《かぜ》ふきてその|家《いへ》をうてど|倒《たふ》れず、これ|磐《いは》の|上《うへ》に|建《た》てられたる|故《ゆゑ》なり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]すべて|我《わ》がこれらの|言《ことば》をききて|行《おこな》はぬ|者《もの》を、|沙《すな》の|上《うへ》に|家《いへ》を|建《た》てたる|愚《おろか》なる|人《ひと》に|擬《なずら》へん。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|雨《あめ》ふり|流《ながれ》みなぎり、|風《かぜ》ふきて|其《そ》の|家《いへ》をうてば、|倒《たふ》れてその|顛倒《たふれ》はなはだし』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエスこれらの|言《ことば》を|語《かた》りをへ|給《たま》へるとき、|群衆《ぐんじゅう》その|教《をしへ》に|驚《をどろ》きたり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]それは|學者《がくしゃ》らの|如《ごと》くならず、|權威《けんゐ》ある|者《もの》のごとく|教《をし》へ|給《たま》へる|故《ゆゑ》なり。 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|山《やま》を|下《くだ》り|給《たま》ひしとき、|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》これに|從《したが》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|一人《ひとり》の|癩病人《らいびゃうにん》みもとに|來《きた》り、|拜《はい》して|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|御意《みこころ》ならば、|我《われ》を|潔《きよ》くなし|給《たま》ふを|得《え》ん』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|手《て》をのべ、|彼《かれ》につけて『わが|意《こころ》なり、|潔《きよ》くなれ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|癩病《らいびゃう》ただちに|潔《きよま》れり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『つつしみて|誰《たれ》にも|語《かた》るな、ただ|往《ゆ》きて|己《おのれ》を|祭司《さいし》に|見《み》せ、モーセが|命《めい》じたる|供物《そなへもの》を|献《ささ》げて、|人々《ひとびと》に|證《あかし》せよ』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエス、カペナウムに|入《い》り|給《たま》ひしとき、|百卒長《ひゃくそつちゃう》きたり、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|請《こ》ひていふ『|主《しゅ》よ、わが|僕《しもべ》、|中風《ちゅうぶ》を|病《や》み、|家《いへ》に|臥《ふ》しゐて|甚《いた》く|苦《くる》しめり』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|往《ゆ》きて|醫《いや》さん』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|百卒長《ひゃくそつちゃう》こたへて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》は|汝《なんぢ》をわが|屋根《やね》の|下《した》に|入《い》れまつるに|足《た》らぬ|者《もの》なり。ただ|御言《みことば》のみを|賜《たま》へ、さらば|我《わ》が|僕《しもべ》はいえん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》みづから|權威《けんゐ》の|下《した》にある|者《もの》なるに、|我《わ》が|下《した》にまた|兵卒《へいそつ》ありて、|此《これ》に「ゆけ」と|言《い》へば|往《ゆ》き、|彼《かれ》に「きたれ」と|言《い》へば|來《きた》り、わが|僕《しもべ》に「これを|爲《な》せ」といへば|爲《な》すなり』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|聞《き》きて|怪《あや》しみ、|從《したが》へる|人々《ひとびと》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、かかる|篤《あつ》き|信仰《しんかう》はイスラエルの|中《うち》の|一人《ひとり》にだに|見《み》しことなし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》なんぢらに|告《つ》ぐ、|多《おほ》くの|人《ひと》、|東《ひがし》より|西《にし》より|來《きた》り、アブラハム、イサク、ヤコブとともに|天國《てんこく》の|宴《えん》につき、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|御國《みくに》の|子《こ》らは|外《そと》の|暗《くら》きに|逐《お》ひ|出《いだ》され、そこにて|哀哭《なげき》・|切齒《はがみ》することあらん』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|百卒長《ひゃくそつちゃう》に『ゆけ、|汝《なんぢ》の|信《しん》ずるごとく|汝《なんぢ》になれ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、このとき|僕《しもべ》いえたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエス、ペテロの|家《いへ》に|入《い》り、その|外姑《しうとめ》の|熱《ねつ》を|病《や》みて|臥《ふ》しをるを|見《み》、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]その|手《て》に|觸《さは》り|給《たま》へば、|熱《ねつ》|去《さ》り、|女《をんな》おきてイエスに|事《つか》ふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|夕《ゆふべ》になりて、|人々《ひとびと》、|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|者《もの》をおほく|御許《みもと》につれ|來《きた》りたれば、イエス|言《ことば》にて|靈《れい》を|逐《お》ひいだし、|病《や》める|者《もの》をことごとく|醫《いや》し|給《たま》へり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]これは|預言者《よげんしゃ》イザヤによりて『かれは|自《みづか》ら|我《われ》らの|疾患《わずらひ》をうけ、|我《われ》らの|病《やまひ》を|負《お》ふ』と|云《い》はれし|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]さてイエス|群衆《ぐんじゅう》の|己《おのれ》を|環《めぐ》れるを|見《み》て、ともに|彼方《かなた》の|岸《きし》に|往《ゆ》かんことを|弟子《でし》たちに|命《めい》じ|給《たま》ふ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|一人《ひとり》の|學者《がくしゃ》きたりて|言《い》ふ『|師《し》よ、|何處《いづこ》にゆき|給《たま》ふとも、|我《われ》は|從《したが》はん』。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|狐《きつね》は|穴《あな》あり、|空《そら》の|鳥《とり》は|塒《ねぐら》あり、されど|人《ひと》の|子《こ》は|枕《まくら》する|所《ところ》なし』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]また|弟子《でし》の|一人《ひとり》いふ『|主《しゅ》よ、|先《ま》づ、|往《ゆ》きて、|我《わ》が|父《ちち》を|葬《はうむ》ることを|許《ゆる》したまへ』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|我《われ》に|從《したが》へ、|死《し》にたる|者《もの》にその|死《し》にたる|者《もの》を|葬《はうむ》らせよ』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|舟《ふね》に|乘《の》り|給《たま》へば、|弟子《でし》たちも|從《したが》ふ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|海《うみ》に|大《おほい》なる|暴風《あらし》おこりて、|舟《ふね》|波《なみ》に|蔽《おほ》はるるばかりなるに、イエスは|眠《ねむ》りゐ|給《たま》ふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|御許《みもと》にゆき、|起《おこ》して|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|救《すく》ひたまへ、|我《われ》らは|亡《ほろ》ぶ』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なにゆゑ|臆《おく》するか、|信仰《しんかう》うすき|者《もの》よ』|乃《すなは》ち|起《お》きて、|風《かぜ》と|海《うみ》とを|禁《いまし》め|給《たま》へば、|大《おほい》なる|凪《なぎ》となりぬ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》あやしみて|言《い》ふ『こは|如何《いか》なる|人《ひと》ぞ、|風《かぜ》も|海《うみ》も|從《したが》ふとは』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼方《かなた》にわたり、ガダラ|人《ひと》の|地《ち》にゆき|給《たま》ひしとき、|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|二人《ふたり》のもの、|墓《はか》より|出《い》できたりて|之《これ》に|遇《あ》ふ。その|猛《たけ》きこと|甚《はなは》だしく、|其處《そこ》の|途《みち》を|人《ひと》の|過《す》ぎ|得《え》ぬほどなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、かれら|叫《さけ》びて|言《い》ふ『|神《かみ》の|子《こ》よ、われら|汝《なんぢ》と|何《なに》の|關係《かかはり》あらん、|未《いま》だ|時《とき》いたらぬに、|我《われ》らを|責《せ》めんとて|此處《ここ》にきたり|給《たま》ふか』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|遙《はるか》にへだたりて|多《おほ》くの|豚《ぶた》の|一《ひと》|群《むれ》、|食《しょく》しゐたりしが、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|惡鬼《あくき》ども|請《こ》ひて|言《い》ふ『もし|我《われ》らを|逐《お》ひ|出《いだ》さんとならば、|豚《ぶた》の|群《むれ》に|遣《つかは》したまへ』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『ゆけ』|惡鬼《あくき》いでて|豚《ぶた》に|入《い》りたれば、|視《み》よ、その|群《むれ》みな|崖《がけ》より|海《うみ》に|駈《か》け|下《くだ》りて、|水《みづ》に|死《し》にたり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|飼《か》ふ|者《もの》ども|逃《に》げて|町《まち》にゆき、すべての|事《こと》と|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたりし|者《もの》の|事《こと》とを|告《つ》げたれば、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|町《まち》|人《ひと》こぞりてイエスに|逢《あ》はんとて|出《い》できたり、|彼《かれ》を|見《み》て、この|地方《ちはう》より|去《さ》り|給《たま》はんことを|請《こ》へり。 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|舟《ふね》にのり、|渡《わた》りて|己《おの》が|町《まち》にきたり|給《たま》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|中風《ちゅうぶ》にて|床《とこ》に|臥《ふ》しをる|者《もの》を、|人々《ひとびと》みもとに|連《つ》れ|來《きた》れり。イエス|彼《かれ》らの|信仰《しんかう》を|見《み》て、|中風《ちゅうぶ》の|者《もの》に|言《い》ひたまふ『|子《こ》よ、|心《こころ》|安《やす》かれ、|汝《なんぢ》の|罪《つみ》ゆるされたり』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|或《ある》|學者《がくしゃ》ら|心《こころ》の|中《うち》にいふ『この|人《ひと》は|神《かみ》を|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]《けが》すなり』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|思《おもひ》を|知《し》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|何《なに》ゆゑ|心《こころ》に|惡《あ》しき|事《こと》をおもふか。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》の|罪《つみ》ゆるされたりと|言《い》ふと、|起《お》きて|歩《あゆ》めと|言《い》ふと、|孰《いづれ》か|易《やす》き。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》|地《ち》にて|罪《つみ》を|赦《ゆる》す|權威《けんゐ》あることを|汝《なんぢ》らに|知《し》らせん|爲《ため》に』――ここに|中風《ちゅうぶ》の|者《もの》に|言《い》ひ|給《たま》ふ――『|起《お》きよ、|床《とこ》をとりて|汝《なんぢ》の|家《いへ》にかへれ』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》おきてその|家《いへ》にかへる。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》これを|見《み》ておそれ、かかる|能力《ちから》を|人《ひと》にあたへ|給《たま》へる|神《かみ》を|崇《あが》めたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此處《ここ》より|進《すす》みて、マタイといふ|人《ひと》の|收税所《しうぜいしょ》に|坐《ざ》しをるを|見《み》て『|我《われ》に|從《したが》へ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|立《た》ちて|從《したが》へり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|家《いへ》にて|食事《しょくじ》の|席《せき》につき|居給《ゐたま》ふとき、|視《み》よ、|多《おほ》くの|取税人《しゅぜいにん》・|罪人《つみびと》ら|來《きた》りて、イエス|及《およ》び|弟子《でし》たちと|共《とも》に|列《つらな》る。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》これを|見《み》て|弟子《でし》たちに|言《い》ふ『なに|故《ゆゑ》なんぢらの|師《し》は、|取税人《しゅぜいにん》・|罪人《つみびと》らと|共《とも》に|食《しょく》するか』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|聞《き》きて、|言《い》ひたまふ『|健《すこや》かなる|者《もの》は|醫者《いしゃ》を|要《えう》せず、ただ、|病《や》める|者《もの》これを|要《えう》す。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|往《ゆ》きて|學《まな》べ「われ|憐憫《あはれみ》を|好《この》みて、|犧牲《いけにへ》を|好《この》まず」とは|如何《いか》なる|意《こころ》ぞ。|我《われ》は|正《ただ》しき|者《もの》を|招《まね》かんとにあらで、|罪人《つみびと》を|招《まね》かんとて|來《きた》れり』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ここにヨハネの|弟子《でし》たち|御許《みもと》にきたりて|言《い》ふ『われらとパリサイ|人《びと》は|斷食《だんじき》するに、|何《なに》|故《ゆゑ》なんぢの|弟子《でし》たちは|斷食《だんじき》せぬか』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|新郎《はなむこ》の|友《とも》だち、|新郎《はなむこ》と|偕《とも》にをる|間《あひだ》は、|悲《かな》しむことを|得《え》んや。されど|新郎《はなむこ》をとらるる|日《ひ》きたらん、その|時《とき》には|斷食《だんじき》せん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|新《あたら》しき|布《ぬの》の|裂《きれ》を|舊《ふる》き|衣《ころも》につぐことは|爲《せ》じ、|補《おぎな》ひたる|裂《きれ》は、その|衣《ころも》をやぶりて、|破綻《ほころび》さらに|甚《はなは》だしかるべし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]また|新《あたら》しき|葡萄酒《ぶだうしゅ》をふるき|革嚢《かはぶくろ》に|入《い》るることは|爲《せ》じ。もし|然《しか》せば、|嚢《ふくろ》はりさけ|酒《さけ》ほどばしり|出《い》でて、|嚢《ふくろ》もまた|廢《すた》らん。|新《あたら》しき|葡萄酒《ぶだうしゅ》は|新《あたら》しき|革嚢《かはぶくろ》にいれ、かくて|兩《ふたつ》ながら|保《たも》つなり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此《これ》|等《ら》のことを|語《かた》りゐ|給《たま》ふとき、|視《み》よ、|一人《ひとり》の|司《つかさ》きたり、|拜《はい》して|言《い》ふ『わが|娘《むすめ》いま|死《し》にたり。されど|來《きた》りて|御手《みて》を|之《これ》におき|給《たま》はば|活《い》きん』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|起《た》ちて|彼《かれ》に|伴《ともな》ひ|給《たま》ふに、|弟子《でし》たちも|從《したが》ふ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|十《じふ》|二年《にねん》|血漏《ちらう》を|患《わづら》ひゐたる|女《をんな》、イエスの|後《うしろ》にきたりて、|御衣《みころも》の|總《ふさ》にさはる。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]それは、|御衣《みころも》にだに|觸《さは》らば|救《すく》はれんと|心《こころ》の|中《うち》にいへるなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエスふりかへり、|女《をんな》を|見《み》て|言《い》ひたまふ『|娘《むすめ》よ、|心《こころ》|安《やす》かれ、|汝《なんぢ》の|信仰《しんかう》なんぢを|救《すく》へり』|女《をんな》この|時《とき》より|救《すく》はれたり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエス|司《つかさ》の|家《いへ》にいたり、|笛《ふえ》ふく|者《もの》と|騷《さわ》ぐ|群衆《ぐんじゅう》とを|見《み》て|言《い》ひたまふ、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]『|退《しりぞ》け、|少女《せうじょ》は|死《し》にたるにあらず、|寐《い》ねたるなり』|人々《ひとびと》イエスを|嘲笑《あざわら》ふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》の|出《いだ》されし|後《のち》、いりてその|手《て》をとり|給《たま》へば、|少女《せうじょ》おきたり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]この|聲聞《きこえ》あまねく|其《そ》の|地《ち》に|弘《ひろま》りぬ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此處《ここ》より|進《すす》みたまふ|時《とき》、ふたりの|盲人《めしひ》さけびて『ダビデの|子《こ》よ、|我《われ》らを|憫《あはれ》みたまへ』と|言《い》ひつつ|從《したが》ふ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|家《いへ》にいたり|給《たま》ひしに、|盲人《めしひ》ども|御許《みもと》に|來《きた》りたれば、|之《これ》に|言《い》ひたまふ『|我《われ》この|事《こと》をなし|得《う》と|信《しん》ずるか』|彼《かれ》|等《ら》いふ『|主《しゅ》よ、|然《しか》り』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|爰《ここ》にイエスかれらの|目《め》に|觸《さは》りて|言《い》ひたまふ『なんぢらの|信仰《しんかう》のごとく|汝《なんぢ》らに|成《な》れ』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|彼《かれ》らの|目《め》あきたり。イエス|嚴《きび》しく|戒《いまし》めて|言《い》ひたまふ『|愼《つつし》みて|誰《たれ》にも|知《し》らすな』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》ら|出《い》でて、あまねくその|地《ち》にイエスの|事《こと》をいひ|弘《ひろ》めたり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|盲人《めしひ》どもの|出《い》づるとき、|視《み》よ、|人々《ひとびと》、|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|唖者《おふし》を|御許《みもと》につれきたる。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|惡鬼《あくき》おひ|出《いだ》されて|唖者《おふし》ものいひたれば、|群衆《ぐんじゅう》あやしみて|言《い》ふ『かかる|事《こと》は|未《いま》だイスラエルの|中《うち》に|顯《あらは》れざりき』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにパリサイ|人《びと》いふ『かれは|惡鬼《あくき》の|首《かしら》によりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》すなり』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエスあまねく|町《まち》と|村《むら》とを|巡《めぐ》り、その|會堂《くわいだう》にて|教《をし》へ、|御國《みくに》の|福音《ふくいん》を|宣《の》べつたへ、もろもろの|病《やまひ》、もろもろの|疾患《わずらひ》をいやし|給《たま》ふ。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]また|群衆《ぐんじゅう》を|見《み》て、その|牧《か》ふ|者《もの》なき|羊《ひつじ》のごとく|惱《なや》み、|且《かつ》たふるるを|甚《いた》く|憫《あはれ》み、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|弟子《でし》たちに|言《い》ひたまふ『|收穫《かりいれ》はおほく|勞動人《はたらきびと》はすくなし。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|收穫《かりいれ》の|主《しゅ》に、|勞動人《はたらきびと》をその|收穫場《かりいれば》に|遣《つかは》し|給《たま》はんことを|求《もと》めよ』 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエスその|十二《じふに》|弟子《でし》を|召《め》し、|穢《けが》れし|靈《れい》を|制《せい》する|權威《けんゐ》をあたへて、|之《これ》を|逐《お》ひ|出《いだ》し、もろもろの|病《やまひ》、もろもろの|疾患《わずらひ》を|醫《いや》すことを|得《え》しめ|給《たま》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|十二《じふに》|使徒《しと》の|名《な》は|左《さ》のごとし。|先《ま》づペテロといふシモン|及《およ》びその|兄弟《きゃうだい》アンデレ、ゼベダイの|子《こ》ヤコブ|及《およ》びその|兄弟《きゃうだい》ヨハネ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ピリポ|及《およ》びバルトロマイ、トマス|及《およ》び|取税人《しゅぜいにん》マタイ、アルパヨの|子《こ》ヤコブ|及《およ》びタダイ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|熱心《ねっしん》|黨《たう》のシモン|及《およ》びイスカリオテのユダ、このユダはイエスを|賣《う》りし|者《もの》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエスこの|十二《じふに》|人《にん》を|遣《つかは》さんとて、|命《めい》じて|言《い》ひたまふ。『|異邦人《いはうじん》の|途《みち》にゆくな、|又《また》サマリヤ|人《ひと》の|町《まち》に|入《い》るな。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]むしろイスラエルの|家《いへ》の|失《う》せたる|羊《ひつじ》にゆけ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|往《ゆ》きて|宣《の》べつたへ「|天國《てんこく》は|近《ちか》づけり」と|言《い》へ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|病《や》める|者《もの》をいやし、|死《し》にたる|者《もの》を|甦《よみが》へらせ、|癩病人《らいびゃうにん》をきよめ、|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひいだせ。|價《あたひ》なしに|受《う》けたれば|價《あたひ》なしに|與《あた》へよ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|帶《おび》のなかに|金《きん》・|銀《ぎん》または|錢《ぜに》をもつな。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|旅《たび》の|嚢《ふくろ》も、|二《に》|枚《まい》の|下衣《したぎ》も、|鞋《くつ》も、|杖《つゑ》ももつな。|勞動人《はたらきびと》の、その|食物《しょくもつ》を|得《う》るは|相應《ふさは》しきなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]いづれの|町《まち》いづれの|村《むら》に|入《い》るとも、その|中《うち》にて|相應《ふさは》しき|者《もの》を|尋《たづ》ねいだして、|立《た》ち|去《さ》るまでは|其處《そこ》に|留《とどま》れ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|家《いへ》に|入《い》らば|平安《へいあん》を|祈《いの》れ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]その|家《いへ》もし|之《これ》に|相應《ふさは》しくば、|汝《なんぢ》らの|祈《いの》る|平安《へいあん》はその|上《うへ》に|臨《のぞ》まん。もし|相應《ふさは》しからずば、その|平安《へいあん》はなんぢらに|歸《かへ》らん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|汝《なんぢ》らを|受《う》けず、|汝《なんぢ》らの|言《ことば》を|聽《き》かずば、その|家《いへ》その|町《まち》を|立《た》ち|去《さ》るとき、|足《あし》の|塵《ちり》をはらへ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|審判《さばき》の|日《ひ》には、その|町《まち》よりもソドム、ゴモラの|地《ち》のかた|耐《た》へ|易《やす》からん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|我《われ》なんぢらを|遣《つかは》すは、|羊《ひつじ》を|豺狼《おほかみ》のなかに|入《い》るるが|如《ごと》し。この|故《ゆゑ》に|蛇《へび》のごとく|慧《さと》く、|鴿《はと》のごとく|素直《すなほ》なれ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》に|心《こころ》せよ、それは|汝《なんぢ》らを|衆議所《しゅうぎしょ》に|付《わた》し、|會堂《くわいだう》にて|鞭《むち》うたん。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]また|汝《なんぢ》|等《ら》わが|故《ゆゑ》によりて、|司《つかさ》たち|王《わう》たちの|前《まへ》に|曳《ひ》かれん。これは|彼《かれ》らと|異邦人《いはうじん》とに|證《あかし》をなさん|爲《ため》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かれら|汝《なんぢ》らを|付《わた》さば、|如何《いか》に|何《なに》を|言《い》はんと|思《おも》ひ|煩《わづら》ふな、|言《い》ふべき|事《こと》は、その|時《とき》さづけらるべし。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]これ|言《い》ふものは|汝《なんぢ》|等《ら》にあらず、|其《そ》の|中《うち》にありて|言《い》ひたまふ|汝《なんぢ》らの|父《ちち》の|靈《れい》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》は|兄弟《きゃうだい》を、|父《ちち》は|子《こ》を|死《し》に|付《わた》し、|子《こ》どもは|親《おや》に|逆《さから》ひて|之《これ》を|死《し》なしめん。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》なんぢら|我《わ》が|名《な》のために|凡《すべ》ての|人《ひと》に|憎《にく》まれん。されど|終《をはり》まで|耐《た》へ|忍《しの》ぶものは|救《すく》はるべし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]この|町《まち》にて|責《せ》めらるる|時《とき》は、かの|町《まち》に|逃《のが》れよ。|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、なんぢらイスラエルの|町々《まちまち》を|巡《めぐ》り|盡《つく》さぬうちに|人《ひと》の|子《こ》は|來《きた》るべし。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》はその|師《し》にまさらず、|僕《しもべ》はその|主《しゅ》にまさらず、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》はその|師《し》のごとく、|僕《しもべ》はその|主《しゅ》の|如《ごと》くならば|足《た》れり。もし|家主《いへあるじ》をベルゼブルと|呼《よ》びたらんには、ましてその|家《いへ》の|者《もの》をや。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、|彼《かれ》らを|懼《おそ》るな。|蔽《おほ》はれたるものに|露《あらは》れぬはなく、|隱《かく》れたるものに|知《し》られぬは|無《な》ければなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|暗黒《くらき》にて|我《わ》が|告《つ》ぐることを|光明《あかるき》にて|言《い》へ。|耳《みみ》をあてて|聽《き》くことを|屋《や》の|上《うへ》にて|宣《の》べよ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|身《み》を|殺《ころ》して|靈魂《たましひ》をころし|得《え》ぬ|者《もの》どもを|懼《おそ》るな、|身《み》と|靈魂《たましひ》とをゲヘナにて|滅《ほろぼ》し|得《う》る|者《もの》をおそれよ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|二《に》|羽《は》の|雀《すずめ》は|一錢《いっせん》にて|賣《う》るにあらずや、|然《しか》るに、|汝《なんぢ》らの|父《ちち》の|許《もと》なくば、その|一《いち》|羽《は》も|地《ち》に|落《お》つること|無《な》からん。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|頭《かしら》の|髮《け》までも|皆《みな》かぞへらる。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》におそるな、|汝《なんぢ》らは|多《おほ》くの|雀《すずめ》よりも|優《すぐ》るるなり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]されど|凡《おほよ》そ|人《ひと》の|前《まへ》にて|我《われ》を|言《い》ひあらはす|者《もの》を、|我《われ》もまた|天《てん》にいます|我《わ》が|父《ちち》の|前《まへ》にて|言《い》ひ|顯《あらは》さん。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]されど|人《ひと》の|前《まへ》にて|我《われ》を|否《いな》む|者《もの》を、|我《われ》もまた|天《てん》にいます|我《わ》が|父《ちち》の|前《まへ》にて|否《いな》まん。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]われ|地《ち》に|平和《へいわ》を|投《とう》ぜんために|來《きた》れりと|思《おも》ふな。|平和《へいわ》にあらず、|反《かへ》つて|劍《つるぎ》を|投《とう》ぜん|爲《ため》に|來《きた》れり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]それ|我《わ》が|來《きた》れるは、|人《ひと》をその|父《ちち》より、|娘《むすめ》をその|母《はは》より、|嫁《よめ》をその|姑※[#「女+章」、第4水準2-5-75]《しゅうとめ》より|分《わか》たん|爲《ため》なり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|仇《あた》はその|家《いへ》の|者《もの》なるべし。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》よりも|父《ちち》または|母《はは》を|愛《あい》する|者《もの》は、|我《われ》に|相應《ふさは》しからず。|我《われ》よりも|息子《むすこ》または|娘《むすめ》を|愛《あい》する|者《もの》は、|我《われ》に|相應《ふさは》しからず。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》おのが|十字架《じふじか》をとりて|我《われ》に|從《したが》はぬ|者《もの》は、|我《われ》に|相應《ふさは》しからず。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|生命《いのち》を|得《う》る|者《もの》はこれを|失《うしな》ひ、|我《わ》がために|生命《いのち》を|失《うしな》ふ|者《もの》はこれを|得《う》べし。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らを|受《う》くる|者《もの》は、|我《われ》を|受《う》くるなり。|我《われ》をうくる|者《もの》は、|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》を|受《う》くるなり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|預言者《よげんしゃ》たる|名《な》の|故《ゆゑ》に|預言者《よげんしゃ》をうくる|者《もの》は、|預言者《よげんしゃ》の|報《むくい》をうけ、|義人《ぎじん》たる|名《な》のゆゑに|義人《ぎじん》をうくる|者《もの》は、|義人《ぎじん》の|報《むくい》を|受《う》くべし。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そわが|弟子《でし》たる|名《な》の|故《ゆゑ》に、この|小《ちひさ》き|者《もの》の|一人《ひとり》に|冷《ひやや》かなる|水《みづ》|一杯《いっぱい》にても|與《あた》ふる|者《もの》は、まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|必《かなら》ずその|報《むくい》を|失《うしな》はざるべし』 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|十二《じふに》|弟子《でし》に|命《めい》じ|終《を》へてのち、|町々《まちまち》にて|教《をし》へ、かつ、|宣傳《のべつた》へんとて、|此處《ここ》を|去《さ》り|給《たま》へり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|牢舍《らうや》にてキリストの|御業《みわざ》をきき、|弟子《でし》たちを|遣《つかは》して、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエスに|言《い》はしむ『|來《きた》るべき|者《もの》は|汝《なんぢ》なるか、|或《あるひ》は、|他《ほか》に|待《ま》つべきか』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『ゆきて、|汝《なんぢ》らが|見《み》|聞《きき》する|所《ところ》をヨハネに|告《つ》げよ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|盲人《めしひ》は|見《み》、|跛者《あしなへ》はあゆみ、|癩病人《らいびゃうにん》は|潔《きよ》められ、|聾者《おふし》はきき、|死人《しにん》は|甦《よみが》へらせられ、|貧《まづ》しき|者《もの》は|福音《ふくいん》を|聞《き》かせらる。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|我《われ》に|躓《つまづ》かぬ|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|歸《かへ》りたるをり、ヨハネの|事《こと》を|群衆《ぐんじゅう》に|言《い》ひ|出《い》でたまふ『なんぢら|何《なに》を|眺《なが》めんとて|野《の》に|出《い》でし、|風《かぜ》にそよぐ|葦《あし》なるか。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]さらば|何《なに》を|見《み》んとて|出《い》でし、|柔《やはら》かき|衣《ころも》を|著《き》たる|人《ひと》なるか。|視《み》よ、やはらかき|衣《ころも》を|著《き》たる|者《もの》は、|王《わう》の|家《いへ》に|在《あ》り。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]さらば|何《なに》のために|出《い》でし、|預言者《よげんしゃ》を|見《み》んとてか。|然《しか》り、|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|預言者《よげんしゃ》よりも|勝《まさ》る|者《もの》なり。 [#ここから2字下げ] [#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]「|視《み》よ、わが|使《つかひ》をなんぢの|顏《かほ》の|前《まへ》につかはす。 |彼《かれ》はなんぢの|前《まへ》に、なんぢの|道《みち》をそなへん」 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》されたるは|此《こ》の|人《ひと》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|女《をんな》の|産《う》みたる|者《もの》のうち、バプテスマのヨハネより|大《おほい》なる|者《もの》は|起《おこ》らざりき。されど|天國《てんこく》にて|小《ちひさ》き|者《もの》も、|彼《かれ》よりは|大《おほい》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]バプテスマのヨハネの|時《とき》より|今《いま》に|至《いた》るまで、|天國《てんこく》は|烈《はげ》しく|攻《せ》めらる、|烈《はげ》しく|攻《せ》むる|者《もの》はこれを|奪《うば》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|預言者《よげんしゃ》と|律法《おきて》との|預言《よげん》したるは、ヨハネの|時《とき》までなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》|等《ら》わが|言《ことば》をうけんことを|願《ねが》はば、|來《きた》るべきエリヤは|此《こ》の|人《ひと》なり、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》ある|者《もの》は|聽《き》くべし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われ|今《いま》の|代《よ》を|何《なに》に|比《なずら》へん、|童子《わらべ》、|市場《いちば》に|坐《ざ》し、|友《とも》を|呼《よ》びて、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]「われら|汝《なんぢ》|等《ら》のために|笛《ふえ》|吹《ふ》きたれど、|汝《なんぢ》ら|踊《をど》らず、|歎《なげ》きたれど、|汝《なんぢ》ら|胸《むね》うたざりき」と|言《い》ふに|似《に》たり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]それは、ヨハネ|來《きた》りて|飮食《のみくひ》せざれば「|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|者《もの》なり」といひ、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》|來《きた》りて|飮食《のみくひ》すれば、「|視《み》よ、|食《しょく》を|貪《むさぼ》り|酒《さけ》を|好《この》む|人《ひと》、また|取税人《しゅぜいにん》・|罪人《つみびと》の|友《とも》なり」と|言《い》ふなり。されど|智慧《ちゑ》は|己《おの》が|業《わざ》によりて|正《ただ》しとせらる』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|爰《ここ》にイエス|多《おほ》くの|能力《ちから》ある|業《わざ》を|行《おこな》ひ|給《たま》へる|町々《まちまち》の|悔改《くいあらた》めぬによりて、|之《これ》を|責《せ》めはじめ|給《たま》ふ、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]『|禍害《わざはひ》なる|哉《かな》コラジンよ、|禍害《わざはひ》なる|哉《かな》ベツサイダよ、|汝《なんぢ》らの|中《うち》にて|行《おこな》ひたる|能力《ちから》ある|業《わざ》を、ツロとシドンとにて|行《おこな》ひしならば、|彼《かれ》らは|早《はや》く|荒布《あらぬの》を|著《き》、|灰《はひ》の|中《なか》にて|悔改《くいあらた》めしならん。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|審判《さばき》の|日《ひ》にはツロとシドンとのかた|汝《なんぢ》|等《ら》よりも|耐《た》へ|易《やす》からん。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]カペナウムよ、なんぢは|天《てん》にまで|擧《あ》げらるべきか、|黄泉《よみ》にまで|下《くだ》らん。|汝《なんぢ》のうちにて|行《おこな》ひたる|能力《ちから》ある|業《わざ》を、ソドムにて|行《おこな》ひしならば、|今日《けふ》までもかの|町《まち》は|遺《のこ》りしならん。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|審判《さばき》の|日《ひ》にはソドムの|地《ち》のかた|汝《なんぢ》よりも|耐《た》へ|易《やす》からん』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|天《てん》|地《ち》の|主《しゅ》なる|父《ちち》よ、われ|感謝《かんしゃ》す、|此《これ》|等《ら》のことを|智《かしこ》き|者《もの》|慧《さと》き|者《もの》にかくして、|嬰兒《みどりご》に|顯《あらは》し|給《たま》へり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》よ、|然《しか》り、かくの|如《ごと》きは|御意《みこころ》に|適《かな》へるなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]すべての|物《もの》は|我《われ》わが|父《ちち》より|委《ゆだ》ねられたり。|子《こ》を|知《し》る|者《もの》は|父《ちち》の|外《ほか》になく、|父《ちち》をしる|者《もの》は|子《こ》または|子《こ》の|欲《ほっ》するままに|顯《あらは》すところの|者《もの》の|外《ほか》になし。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|勞《らう》する|者《もの》・|重荷《おもに》を|負《お》ふ|者《もの》、われに|來《きた》れ、われ|汝《なんぢ》らを|休《やす》ません。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|柔和《にうわ》にして|心《こころ》|卑《ひく》ければ、|我《わ》が|軛《くびき》を|負《お》ひて|我《われ》に|學《まな》べ、さらば|靈魂《たましひ》に|休息《やすみ》を|得《え》ん。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]わが|軛《くびき》は|易《やす》く、わが|荷《に》は|輕《かろ》ければなり』 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》イエス|安息《あんそく》|日《にち》に|麥《むぎ》|畠《はたけ》をとほり|給《たま》ひしに、|弟子《でし》たち|飢《う》ゑて|穗《ほ》を|摘《つ》み、|食《く》ひ|始《はじ》めたるを、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》|見《み》てイエスに|言《い》ふ『|視《み》よ、なんぢの|弟子《でし》は|安息《あんそく》|日《にち》に|爲《す》まじき|事《こと》をなす』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『ダビデがその|伴《ともな》へる|人々《ひとびと》とともに|飢《う》ゑしとき、|爲《な》しし|事《こと》を|讀《よ》まぬか。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|神《かみ》の|家《いへ》に|入《い》りて、|祭司《さいし》のほかは、|己《おのれ》もその|伴《ともな》へる|人々《ひとびと》も|食《くら》ふまじき|供《そなへ》のパンを|食《くら》へり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|安息《あんそく》|日《にち》に|祭司《さいし》らは|宮《みや》の|内《うち》にて|安息《あんそく》|日《にち》を|犯《をか》せども、|罪《つみ》なきことを|律法《おきて》にて|讀《よ》まぬか。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|宮《みや》より|大《おほい》なる|者《もの》ここに|在《あ》り。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]「われ|憐憫《あはれみ》を|好《この》みて|犧牲《いけにへ》を|好《この》まず」とは、|如何《いか》なる|意《こころ》かを|汝《なんぢ》ら|知《し》りたらんには、|罪《つみ》なき|者《もの》を|罪《つみ》せざりしならん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]それ|人《ひと》の|子《こ》は|安息《あんそく》|日《にち》の|主《しゅ》たるなり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此處《ここ》を|去《さ》りて、|彼《かれ》らの|會堂《くわいだう》に|入《い》り|給《たま》ひしに、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|片手《かたて》なえたる|人《ひと》あり。|人々《ひとびと》イエスを|訴《うった》へんと|思《おも》ひ、|問《と》ひていふ『|安息《あんそく》|日《にち》に|人《ひと》を|醫《いや》すことは|善《よ》きか』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らに、|言《い》ひたまふ『|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|一匹《いっぴき》の|羊《ひつじ》をもてる|者《もの》あらんに、もし|安息《あんそく》|日《にち》に|穴《あな》に|陷《おちい》らば、|之《これ》を|取《と》りあげぬか。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》は|羊《ひつじ》より|優《すぐ》るること|如何《いか》ばかりぞ。さらば|安息《あんそく》|日《にち》に|善《ぜん》をなすは|可《よ》し』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ここにかの|人《ひと》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|手《て》を|伸《の》べよ』かれ|伸《の》べたれば、|他《ほか》の|手《て》のごとく|癒《い》ゆ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》いでていかにしてかイエスを|亡《ほろぼ》さんと|議《はか》る。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|知《し》りて|此處《ここ》を|去《さ》りたまふ。|多《おほ》くの|人《ひと》したがひ|來《きた》りたれば、ことごとく|之《これ》を|醫《いや》し、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かつ|我《われ》を|人《ひと》に|知《し》らすなと|戒《いまし》め|給《たま》へり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]これ|預言者《よげんしゃ》イザヤによりて|云《い》はれたる|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せんためなり。|曰《いは》く、 [#ここから2字下げ] [#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]『|視《み》よ、わが|選《えら》びたる|我《わ》が|僕《しもべ》、 わが|心《こころ》の|悦《よろこ》ぶ|我《わ》が|愛《いつく》しむ|者《もの》、 |我《われ》わが|靈《れい》を|彼《かれ》に|與《あた》へん、 |彼《かれ》は|異邦人《いはうじん》に|正義《ただしき》を|告《つ》げ|示《しめ》さん。 [#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|爭《あらそ》はず、|叫《さけ》ばず、 その|聲《こゑ》を|大路《おほじ》にて|聞《き》く|者《もの》なからん。 [#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|正義《ただしき》をして|勝《か》ち|遂《と》げしむるまでは、 |傷《そこな》へる|葦《あし》を|折《を》ることなく、 |煙《けぶ》れる|亞麻《あま》を|消《け》すことなからん。 [#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|異邦人《いはうじん》も|彼《かれ》の|名《な》に|望《のぞみ》をおかん』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|盲目《めしひ》の|唖者《おふし》を|御許《みもと》に|連《つ》れ|來《きた》りたれば、|之《これ》を|醫《いや》して、|唖者《おふし》の|物《もの》|言《い》ひ|見《み》ゆるやうに|爲《な》し|給《たま》ひぬ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》みな|驚《をどろ》きて|言《い》ふ『これはダビデの|子《こ》にあらぬか』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにパリサイ|人《びと》ききて|言《い》ふ『この|人《ひと》、|惡鬼《あくき》の|首《かしら》ベルゼブルによらでは、|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》すことなし』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らの|思《おもひ》を|知《し》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『すべて|分《わか》れ|爭《あらそ》ふ|國《くに》はほろび、|分《わか》れ|爭《あらそ》ふ|町《まち》また|家《いへ》はたたず。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]サタンもしサタンを|逐《お》ひ|出《いだ》さば、|自《みづか》ら|分《わか》れ|爭《あらそ》ふなり。さらばその|國《くに》いかで|立《た》つべき。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もしベルゼブルによりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》さば、|汝《なんぢ》らの|子《こ》は|誰《たれ》によりて|之《これ》を|逐《お》ひ|出《いだ》すか。この|故《ゆゑ》に|彼《かれ》らは|汝《なんぢ》らの|審判《さばき》|人《ひと》となるべし。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》もし|神《かみ》の|靈《れい》によりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》さば、|神《かみ》の|國《くに》は|既《すで》に|汝《なんぢ》らに|到《いた》れるなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》まづ|強《つよ》き|者《もの》を|縛《しば》らずば、いかで|強《つよ》き|者《もの》の|家《いへ》に|入《い》りて、その|家財《かざい》を|奪《うば》ふことを|得《え》ん、|縛《しば》りて|後《のち》その|家《いへ》を|奪《うば》ふべし。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》と|偕《とも》ならぬ|者《もの》は|我《われ》にそむき、|我《われ》とともに|集《あつ》めぬ|者《もの》は|散《ちら》すなり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|人《ひと》の|凡《すべ》ての|罪《つみ》と|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]《けがし》とは|赦《ゆる》されん、されど|御靈《みたま》を|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]《けが》すことは|赦《ゆる》されじ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》にても|言《ことば》をもて|人《ひと》の|子《こ》に|逆《さから》ふ|者《もの》は|赦《ゆる》されん、されど|言《ことば》をもて|聖《せい》|靈《れい》に|逆《さから》ふ|者《もの》は、この|世《よ》にても|後《のち》の|世《よ》にても|赦《ゆる》されじ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|或《あるひ》は|樹《き》をも|善《よ》しとし、|果《み》をも|善《よ》しとせよ。|或《あるひ》は|樹《き》をも|惡《あ》しとし、|果《み》をも|惡《あ》しとせよ。|樹《き》は|果《み》によりて|知《し》らるるなり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|蝮《まむし》の|裔《すゑ》よ、なんぢら|惡《あ》しき|者《もの》なるに、|爭《いか》で|善《よ》きことを|言《い》ひ|得《え》んや。それ|心《こころ》に|滿《み》つるより|口《くち》に|言《い》はるるなり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|善《よ》き|人《ひと》は|善《よ》き|倉《くら》より|善《よ》き|物《もの》をいだし、|惡《あ》しき|人《ひと》は|惡《あ》しき|倉《くら》より|惡《あ》しき|物《もの》をいだす。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|人《ひと》の|語《かた》る|凡《すべ》ての|虚《むな》しき|言《ことば》は、|審判《さばき》の|日《ひ》に|糺《ただ》さるべし。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]それは|汝《なんぢ》の|言《ことば》によりて|義《ぎ》とせられ、|汝《なんぢ》の|言《ことば》によりて|罪《つみ》せらるるなり』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]ここに|或《ある》|學者《がくしゃ》・パリサイ|人《びと》ら|答《こた》へて|言《い》ふ『|師《し》よ、われら|汝《なんぢ》の|徴《しるし》を|見《み》んことを|願《ねが》ふ』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|邪曲《よこしま》にして|不義《ふぎ》なる|代《よ》は|徴《しるし》を|求《もと》む、されど|預言者《よげんしゃ》ヨナの|徴《しるし》のほかに|徴《しるし》は|與《あた》へられじ。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち「ヨナが|三日《みっか》|三夜《みよ》、|大魚《おほうを》の|腹《はら》の|中《なか》に|在《あ》りし」ごとく、|人《ひと》の|子《こ》も|三日《みっか》|三夜《みよ》、|地《ち》の|中《なか》に|在《あ》るべきなり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]ニネベの|人《ひと》、|審判《さばき》のとき|今《いま》の|代《よ》の|人《ひと》とともに|立《た》ちて|之《これ》が|罪《つみ》を|定《さだ》めん、|彼《かれ》らはヨナの|宣《の》ぶる|言《ことば》によりて|悔改《くいあらた》めたり。|視《み》よ、ヨナよりも|勝《まさ》るもの|此處《ここ》に|在《あ》り。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|南《みなみ》の|女王《にょわう》、|審判《さばき》のとき|今《いま》の|代《よ》の|人《ひと》とともに|起《お》きて|之《これ》が|罪《つみ》を|定《さだ》めん、|彼《かれ》はソロモンの|智慧《ちゑ》を|聽《き》かんとて|地《ち》の|極《はて》より|來《きた》れり。|視《み》よ、ソロモンよりも|勝《まさ》る|者《もの》ここに|在《あ》り。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|穢《けが》れし|靈《れい》、|人《ひと》を|出《い》づるときは、|水《みづ》なき|處《ところ》を|巡《めぐ》りて|休《やすみ》を|求《もと》む、|而《しか》して|得《え》ず。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち「わが|出《い》でし|家《いへ》に|歸《かへ》らん」といひ、|歸《かへ》りて、その|家《いへ》の|空《あ》きて|掃《は》き|淨《きよ》められ、|飾《かざ》られたるを|見《み》、[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|往《ゆ》きて|己《おのれ》より|惡《あ》しき|他《ほか》の|七《なな》つの|靈《れい》を|連《つ》れきたり、|共《とも》に|入《い》りて|此處《ここ》に|住《す》む。されば|其《そ》の|人《ひと》の|後《のち》の|状《さま》は|前《まへ》よりも|惡《あ》しくなるなり。|邪曲《よこしま》なる|此《こ》の|代《よ》もまた|斯《か》くの|如《ごと》くならん』[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]イエスなほ|群衆《ぐんじゅう》にかたり|居給《ゐたま》ふとき、|視《み》よ、その|母《はは》と|兄弟《きゃうだい》たちと、|彼《かれ》に|物《もの》|言《い》はんとて|外《そと》に|立《た》つ。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》イエスに|言《い》ふ『|視《み》よ、なんぢの|母《はは》と|兄弟《きゃうだい》たちと、|汝《なんぢ》に|物《もの》|言《い》はんとて|外《そと》に|立《た》てり』[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|告《つ》げし|者《もの》に|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『わが|母《はは》とは|誰《たれ》ぞ、わが|兄弟《きゃうだい》とは|誰《たれ》ぞ』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|手《て》をのべ、|弟子《でし》たちを|指《さ》して|言《い》ひたまふ『|視《み》よ、これは|我《わ》が|母《はは》、わが|兄弟《きゃうだい》なり。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》にても|天《てん》にいます|我《わ》が|父《ちち》の|御意《みこころ》をおこなふ|者《もの》は、|即《すなは》ち|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》、わが|姉妹《しまい》、わが|母《はは》なり』 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》イエスは|家《いへ》を|出《い》でて、|海邊《うみべ》に|坐《ざ》したまふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》みもとに|集《あつま》りたれば、イエスは|舟《ふね》に|乘《の》りて|坐《ざ》したまひ、|群衆《ぐんじゅう》はみな|岸《きし》に|立《た》てり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|譬《たとへ》にて|數多《あまた》のことを|語《かた》りて|言《い》ひたまふ、『|視《み》よ、|種《たね》|播《ま》く|者《もの》まかんとて|出《い》づ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|播《ま》くとき|路《みち》の|傍《かたは》らに|落《お》ちし|種《たね》あり、|鳥《とり》きたりて|啄《ついば》む。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|土《つち》うすき|磽地《いしぢ》に|落《お》ちし|種《たね》あり、|土《つち》|深《ふか》からぬによりて|速《すみや》かに|萠《も》え|出《い》でたれど、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》の|昇《のぼ》りし|時《とき》やけて|根《ね》なき|故《ゆゑ》に|枯《か》る。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|茨《いばら》の|地《ち》に|落《お》ちし|種《たね》あり、|茨《いばら》そだちて|之《これ》を|塞《ふさ》ぐ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|良《よ》き|地《ち》に|落《お》ちし|種《たね》あり、あるひは|百《ひゃく》|倍《ばい》、あるひは|六十《ろくじふ》|倍《ばい》、あるひは|三十《さんじふ》|倍《ばい》の|實《み》を|結《むす》べり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》ある|者《もの》は|聽《き》くべし』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|御許《みもと》に|來《きた》りて|言《い》ふ『なにゆゑ|譬《たとへ》にて|彼《かれ》らに|語《かた》り|給《たま》ふか』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらは|天國《てんこく》の|奧義《おくぎ》を|知《し》ることを|許《ゆる》されたれど、|彼《かれ》らは|許《ゆる》されず。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]それ|誰《たれ》にても、|有《も》てる|人《ひと》は|與《あた》へられて|愈々《いよいよ》|豐《ゆたか》ならん。されど|有《も》たぬ|人《ひと》は、その|有《も》てる|物《もの》をも|取《と》らるべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|彼《かれ》らには|譬《たとへ》にて|語《かた》る、これ|彼《かれ》らは|見《み》ゆれども|見《み》ず、|聞《きこ》ゆれども|聽《き》かず、また|悟《さと》らぬ|故《ゆゑ》なり、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かくてイザヤの|預言《よげん》は、|彼《かれ》らの|上《うへ》に|成就《じゃうじゅ》す。|曰《いは》く、 [#ここから2字下げ] 「なんぢら|聞《き》きて|聞《き》けども|悟《さと》らず、 |見《み》て|見《み》れども|認《みと》めず。 [#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]この|民《たみ》の|心《こころ》は|鈍《にぶ》く、 |耳《みみ》は|聞《き》くに|懶《ものう》く、 |目《め》は|閉《と》ぢたればなり。 これ|目《め》にて|見《み》、|耳《みみ》にて|聽《き》き、 |心《こころ》にて|悟《さと》り、|飜《ひるが》へりて、 |我《われ》に|醫《いや》さるる|事《こと》なからん|爲《ため》なり」 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らの|目《め》なんぢらの|耳《みみ》は、|見《み》るゆゑに|聞《き》くゆゑに、|幸福《さいはひ》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|多《おほ》くの|預言者《よげんしゃ》・|義人《ぎじん》は、|汝《なんぢ》らが|見《み》る|所《ところ》を|見《み》んとせしが|見《み》ず、なんぢらが|聞《き》く|所《ところ》を|聞《き》かんとせしが|聞《き》かざりしなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》ら|種《たね》|播《ま》く|者《もの》の|譬《たとへ》を|聽《き》け。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》にても|天國《てんこく》の|言《ことば》をききて|悟《さと》らぬときは、|惡《あ》しき|者《もの》きたりて、|其《そ》の|心《こころ》に|播《ま》かれたるものを|奪《うば》ふ。|路《みち》の|傍《かたは》らに|播《ま》かれしとは|斯《か》かる|人《ひと》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|磽地《いしぢ》に|播《ま》かれしとは、|御言《みことば》をききて、|直《ただ》ちに|喜《よろこ》び|受《う》くれども、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|己《おのれ》に|根《ね》なければ|暫《しば》し|耐《た》ふるのみにて、|御言《みことば》のために|艱難《なやみ》あるひは|迫害《はくがい》の|起《おこ》るときは、|直《ただ》ちに|躓《つまづ》くものなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|茨《いばら》の|中《なか》に|播《ま》かれしとは、|御言《みことば》をきけども、|世《よ》の|心勞《こころづかひ》と|財貨《たから》の|惑《まどひ》とに、|御言《みことば》を|塞《ふさ》がれて|實《みの》らぬものなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|良《よ》き|地《ち》に|播《ま》かれしとは、|御言《みことば》をききて|悟《さと》り、|實《み》を|結《むす》びて、あるひは|百《ひゃく》|倍《ばい》、あるひは|六十《ろくじふ》|倍《ばい》、あるひは|三十《さんじふ》|倍《ばい》に|至《いた》るものなり』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》の|譬《たとへ》を|示《しめ》して|言《い》ひたまふ『|天國《てんこく》は|良《よ》き|種《たね》を|畑《はた》にまく|人《ひと》のごとし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》の|眠《ねむ》れる|間《ま》に、|仇《あた》きたりて|麥《むぎ》のなかに|毒《どく》|麥《むぎ》を|播《ま》きて|去《さ》りぬ。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|苗《なへ》はえ|出《い》でて|實《みの》りたるとき、|毒《どく》|麥《むぎ》もあらはる。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》ども|來《きた》りて|家主《いへあるじ》にいふ「|主《しゅ》よ、|畑《はた》に|播《ま》きしは|良《よ》き|種《たね》ならずや、|然《しか》るに|如何《いか》にして|毒《どく》|麥《むぎ》あるか」[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》いふ「|仇《あた》のなしたるなり」|僕《しもべ》ども|言《い》ふ「さらば|我《われ》らが|往《ゆ》きて|之《これ》を|拔《ぬ》き|集《あつ》むるを|欲《ほっ》するか」[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》いふ「いな、|恐《おそ》らくは|毒《どく》|麥《むぎ》を|拔《ぬ》き|集《あつ》めんとて、|麥《むぎ》をも|共《とも》に|拔《ぬ》かん。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|兩《ふたつ》ながら|收穫《かりいれ》まで|育《そだ》つに|任《まか》せよ。|收穫《かりいれ》のとき|我《われ》かる|者《もの》に「まづ|毒《どく》|麥《むぎ》を|拔《ぬ》きあつめて、|焚《や》くために|之《これ》を|束《つか》ね、|麥《むぎ》はあつめて|我《わ》が|倉《くら》に|納《い》れよ」と|言《い》はん」』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》の|譬《たとへ》を|示《しめ》して|言《い》ひたまふ『|天國《てんこく》は|一粒《ひとつぶ》の|芥種《からしだね》のごとし、|人《ひと》これを|取《と》りてその|畑《はた》に|播《ま》くときは、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|萬《よろづ》の|種《たね》よりも|小《ちひさ》けれど、|育《そだ》ちては|他《ほか》の|野菜《やさい》よりも|大《おほき》く、|樹《き》となりて、|空《そら》の|鳥《とり》きたり|其《そ》の|枝《えだ》に|宿《やど》るほどなり』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》の|譬《たとへ》を|語《かた》りたまふ『|天國《てんこく》はパンだねのごとし、|女《をんな》これを|取《と》りて、|三《さん》|斗《と》の|粉《こな》の|中《なか》に|入《い》るれば、ことごとく|脹《ふく》れいだすなり』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエスすべて|此《これ》|等《ら》のことを、|譬《たとへ》にて|群衆《ぐんじゅう》に|語《かた》りたまふ、|譬《たとへ》ならでは|何事《なにごと》も|語《かた》り|給《たま》はず。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]これ|預言者《よげんしゃ》によりて|云《い》はれたる|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。|曰《いは》く、 [#ここから2字下げ] 『われ|譬《たとへ》を|設《まう》けて|口《くち》を|開《ひら》き、 |世《よ》の|創《はじめ》より|隱《かく》れたる|事《こと》を|言《い》ひ|出《いだ》さん』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]ここに|群衆《ぐんじゅう》を|去《さ》らしめて、|家《いへ》に|入《い》りたまふ。|弟子《でし》たち|御許《みもと》に|來《きた》りて|言《い》ふ『|畑《はた》の|毒《どく》|麥《むぎ》の|譬《たとへ》を|我《われ》らに|解《と》きたまへ』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|良《よ》き|種《たね》を|播《ま》く|者《もの》は|人《ひと》の|子《こ》なり、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|畑《はた》は|世界《せかい》なり、|良《よ》き|種《たね》は|天國《てんこく》の|子《こ》どもなり、|毒《どく》|麥《むぎ》は|惡《あ》しき|者《もの》の|子《こ》どもなり、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|播《ま》きし|仇《あた》は|惡魔《あくま》なり、|收穫《かりいれ》は|世《よ》の|終《をはり》なり、|刈《か》る|者《もの》は|御使《みつかひ》たちなり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]されば|毒《どく》|麥《むぎ》の|集《あつ》められて|火《ひ》に|焚《や》かるる|如《ごと》く、|世《よ》の|終《をはり》にも|斯《か》くあるべし。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》その|使《つかひ》たちを|遣《つかは》さん。|彼《かれ》ら|御國《みくに》の|中《うち》より|凡《すべ》ての|顛躓《つまづき》となる|物《もの》と|不法《ふはふ》をなす|者《もの》とを|集《あつ》めて、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|火《ひ》の|爐《ろ》に|投《な》げ|入《い》るべし、|其處《そこ》にて|哀哭《なげき》・|切齒《はがみ》することあらん。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》のとき|義人《ぎじん》は|父《ちち》の|御國《みくに》にて|日《ひ》のごとく|輝《かがや》かん。|耳《みみ》ある|者《もの》は|聽《き》くべし。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|天國《てんこく》は|畑《はた》に|隱《かく》れたる|寶《たから》のごとし。|人《ひと》|見出《みいだ》さば、|之《これ》を|隱《かく》しおきて、|喜《よろこ》びゆき、|有《も》てる|物《もの》をことごとく|賣《う》りて|其《そ》の|畑《はた》を|買《か》ふなり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]また|天國《てんこく》は|良《よ》き|眞珠《しんじゅ》を|求《もと》むる|商人《あきうど》のごとし。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|價《あたひ》たかき|眞珠《しんじゅ》|一《ひと》つを|見出《みいだ》さば、|往《ゆ》きて|有《も》てる|物《もの》をことごとく|賣《う》りて、|之《これ》を|買《か》ふなり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]また|天國《てんこく》は、|海《うみ》におろして|各樣《さまざま》のものを|集《あつ》むる|網《あみ》のごとし。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|充《み》つれば|岸《きし》にひきあげ、|坐《ざ》して|良《よ》きものを|器《うつは》に|入《い》れ、|惡《あ》しきものを|棄《す》つるなり。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》の|終《をはり》にも|斯《か》くあるべし。|御使《みつかひ》たち|出《い》でて、|義人《ぎじん》の|中《なか》より|惡人《あくにん》を|分《わか》ちて、[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|火《ひ》の|爐《ろ》に|投《な》げ|入《い》るべし。|其處《そこ》にて|哀哭《なげき》・|切齒《はがみ》することあらん。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》これらの|事《こと》をみな|悟《さと》りしか』|彼《かれ》|等《ら》いふ『|然《しか》り』[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『この|故《ゆゑ》に、|天國《てんこく》のことを|教《をし》へられたる|凡《すべ》ての|學者《がくしゃ》は、|新《あたら》しき|物《もの》と|舊《ふる》き|物《もの》とをその|倉《くら》より|出《いだ》す|家主《いへあるじ》のごとし』[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]イエスこれらの|譬《たとへ》を|終《を》へて|此處《ここ》を|去《さ》りたまふ。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]|己《おの》が|郷《さと》にいたり、|會堂《くわいだう》にて|教《をし》へ|給《たま》へば、|人々《ひとびと》おどろきて|言《い》ふ『この|人《ひと》はこの|智慧《ちゑ》と|此《これ》|等《ら》の|能力《ちから》とを|何處《いづこ》より|得《え》しぞ。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]これ|木匠《たくみ》の|子《こ》にあらずや、|其《そ》の|母《はは》はマリヤ、|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》はヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダにあらずや。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》その|姉妹《しまい》も|皆《みな》われらと|共《とも》にをるに|非《あら》ずや。|然《しか》るに|此《これ》|等《ら》のすべての|事《こと》は|何處《いづこ》より|得《え》しぞ』[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|人々《ひとびと》かれに|躓《つまづ》けり。イエス|彼《かれ》らに|言《い》ひたまふ『|預言者《よげんしゃ》は、おのが|郷《さと》おのが|家《いへ》の|外《ほか》にて|尊《たふと》ばれざる|事《こと》なし』[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|不《ふ》|信仰《しんかう》によりて|其處《そこ》にては|多《おほ》くの|能力《ちから》ある|業《わざ》を|爲《な》し|給《たま》はざりき。 第一四章[#「第一四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]そのころ、|國守《こくしゅ》ヘロデ、イエスの|噂《うはさ》をききて、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|侍臣《じしん》どもに|言《い》ふ『これバプテスマのヨハネなり。かれ|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へりたり、さればこそ|此《これ》|等《ら》の|能力《ちから》その|内《うち》に|働《はたら》くなれ』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|先《さき》に、|己《おの》が|兄弟《きゃうだい》ピリポの|妻《つま》ヘロデヤの|爲《ため》にヨハネを|捕《とら》へ、|縛《しば》りて|獄《ひとや》に|入《い》れたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ、ヘロデに『かの|女《をんな》を|納《い》るるは|宜《よろ》しからず』と|言《い》ひしに|因《よ》る。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]かくてヘロデ、ヨハネを|殺《ころ》さんと|思《おも》へど、|群衆《ぐんじゅう》を|懼《おそ》れたり。|群衆《ぐんじゅう》ヨハネを|預言者《よげんしゃ》とすればなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにヘロデの|誕生日《たんじゃうび》に|當《あた》り、ヘロデヤの|娘《むすめ》その|席上《せきじゃう》に|舞《まひ》をまひてヘロデを|喜《よろこ》ばせたれば、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|之《これ》に|何《なに》にても|求《もと》むるままに|與《あた》へんと|誓《ちか》へり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|娘《むすめ》その|母《はは》に|唆《そその》かされて|言《い》ふ『バプテスマのヨハネの|首《くび》を|盆《ぼん》に|載《の》せてここに|賜《たま》はれ』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》|憂《うれ》ひたれど、その|誓《ちかひ》と|席《せき》に|在《あ》る|者《もの》とに|對《たい》して、|之《これ》を|與《あた》ふることを|命《めい》じ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》を|遣《つかは》し|獄《ひとや》にてヨハネの|首《くび》を|斬《き》り、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|首《かしら》を|盆《ぼん》にのせて|持《も》ち|來《きた》らしめ、|之《これ》を|少女《せうじょ》に|與《あた》ふ。|少女《せうじょ》はこれを|母《はは》に|捧《ささ》ぐ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネの|弟子《でし》たち|來《きた》り、|屍體《しかばね》を|取《と》りて|葬《はうむ》り、|往《ゆ》きて、イエスに|告《つ》ぐ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|聞《き》きて|人《ひと》を|避《さ》け、|其處《そこ》より|舟《ふね》にのりて|寂《さび》しき|處《ところ》に|往《ゆ》き|給《たま》ひしを|群衆《ぐんじゅう》ききて|町々《まちまち》より|徒歩《かち》にて|從《したが》ひゆく。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|出《い》でて|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》を|見《み》、これを|憫《あはれ》みて、その|病《や》める|者《もの》を|醫《いや》し|給《たま》へり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|夕《ゆふべ》になりたれば、|弟子《でし》たち|御許《みもと》に|來《きた》りて|言《い》ふ『ここは|寂《さび》しき|處《ところ》、はや|時《とき》も|晩《おそ》し、|群衆《ぐんじゅう》を|去《さ》らしめ、|村々《むらむら》に|往《ゆ》きて、|己《おの》が|爲《ため》に|食物《しょくもつ》を|買《か》はせ|給《たま》へ』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『かれら|往《ゆ》くに|及《およ》ばず、|汝《なんぢ》ら|之《これ》に|食物《しょくもつ》を|與《あた》へよ』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|言《い》ふ『われらが|此處《ここ》にもてるは、|唯《ただ》|五《いつ》つのパンと|二《ふた》つの|魚《うを》とのみ』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『それを|我《われ》に|持《も》ちきたれ』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|群衆《ぐんじゅう》に|命《めい》じて|草《くさ》の|上《うへ》に|坐《ざ》せしめ、|五《いつ》つのパンと|二《ふた》つの|魚《うを》とを|取《と》り、|天《てん》を|仰《あふ》ぎて|祝《しく》し、パンを|裂《さ》きて、|弟子《でし》たちに|與《あた》へ|給《たま》へば、|弟子《でし》たち|之《これ》を|群衆《ぐんじゅう》に|與《あた》ふ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》|食《くら》ひて|飽《あ》く、|裂《さ》きたる|餘《あまり》を|集《あつ》めしに|十二《じふに》の|筐《かご》に|滿《み》ちたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|食《くら》ひし|者《もの》は、|女《をんな》と|子供《こども》とを|除《のぞ》きて|凡《おほよ》そ|五《ご》|千《せん》|人《にん》なりき。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|直《ただ》ちに|弟子《でし》たちを|強《し》ひて|舟《ふね》に|乘《の》らせ、|自《みづか》ら|群衆《ぐんじゅう》をかへす|間《ま》に、|彼方《かなた》の|岸《きし》に|先《さき》に|往《ゆ》かしむ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|群衆《ぐんじゅう》を|去《さ》らしめてのち、|祈《いの》らんとて|竊《ひそか》に|山《やま》に|登《のぼ》り、|夕《ゆふべ》になりて|獨《ひとり》そこにゐ|給《たま》ふ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|舟《ふね》ははや|陸《をか》より|數丁《すうちゃう》はなれ、|風《かぜ》|逆《さから》ふによりて|波《なみ》に|難《なやま》されゐたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあけ》の|四時《よじ》ごろ、イエス|海《うみ》の|上《うへ》を|歩《あゆ》みて、|彼《かれ》らに|到《いた》り|給《たま》ひしに、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|其《そ》の|海《うみ》の|上《うへ》を|歩《あゆ》み|給《たま》ふを|見《み》て|心《こころ》|騷《さわ》ぎ、|變化《へんげ》の|者《もの》なりと|言《い》ひて|懼《おそ》れ|叫《さけ》ぶ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|直《ただ》ちに|彼《かれ》らに|語《かた》りて|言《い》ひたまふ『|心《こころ》|安《やす》かれ、|我《われ》なり、|懼《おそ》るな』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|答《こた》へて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、もし|汝《なんぢ》ならば|我《われ》に|命《めい》じ、|水《みづ》を|蹈《ふ》みて|御許《みもと》に|到《いた》らしめ|給《たま》へ』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]『|來《きた》れ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、ペテロ|舟《ふね》より|下《お》り、|水《みづ》の|上《うへ》を|歩《あゆ》みてイエスの|許《もと》に|往《ゆ》く。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|風《かぜ》を|見《み》て|懼《おそ》れ、|沈《しづ》みかかりければ、|叫《さけ》びて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》を|救《すく》ひたまへ』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|直《ただ》ちに|御手《みて》を|伸《の》べ、これを|捉《とら》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『ああ|信仰《しんかう》うすき|者《もの》よ、|何《なに》ぞ|疑《うたが》ふか』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|相《あひ》|共《とも》に|舟《ふね》に|乘《の》りしとき、|風《かぜ》やみたり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|舟《ふね》に|居《を》る|者《もの》どもイエスを|拜《はい》して|言《い》ふ『まことに|汝《なんぢ》は|神《かみ》の|子《こ》なり』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|渡《わた》りてゲネサレの|地《ち》に|著《つ》きしに、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]その|處《ところ》の|人々《ひとびと》イエスを|認《みと》めて、あまねく|四方《しはう》に|人《ひと》をつかはし、|又《また》すべての|病《や》める|者《もの》を|連《つ》れきたり、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]ただ|御衣《みころも》の|總《ふさ》にだに|觸《さは》らしめ|給《たま》はんことを|願《ねが》ふ、|觸《さは》りし|者《もの》はみな|醫《いや》されたり。 第一五章[#「第一五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]ここにパリサイ|人《びと》・|學者《がくしゃ》ら、エルサレムより|來《きた》りてイエスに|言《い》ふ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『なにゆゑ|汝《なんぢ》の|弟子《でし》は、|古《いにし》への|人《ひと》の|言傳《いひつたへ》を|犯《をか》すか、|食事《しょくじ》のときに|手《て》を|洗《あら》はぬなり』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なにゆゑ|汝《なんぢ》らは、また|汝《なんぢ》らの|言傳《いひつたへ》によりて|神《かみ》の|誡命《いましめ》を|犯《をか》すか。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|神《かみ》は「|父《ちち》|母《はは》を|敬《うやま》へ」と|言《い》ひ「|父《ちち》または|母《はは》を|罵《ののし》る|者《もの》は|必《かなら》ず|殺《ころ》さるべし」と|言《い》ひたまへり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|汝《なんぢ》らは「|誰《たれ》にても|父《ちち》または|母《はは》に|對《むか》ひて、|我《わ》が|負《お》ふ|所《ところ》のものは|供物《そなへもの》となりたりと|言《い》はば、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》または|母《はは》を|敬《うやま》ふに|及《およ》ばず」と|言《い》ふ。|斯《か》くその|言傳《いひつたへ》によりて|神《かみ》の|言《ことば》を|空《むな》しうす。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|僞善者《ぎぜんしゃ》よ、|宜《うべ》なる|哉《かな》、イザヤは|汝《なんぢ》らに|就《つ》きて|能《よ》く|預言《よげん》せり。|曰《いは》く、 [#ここから2字下げ] [#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]「この|民《たみ》は|口唇《くちびる》にて|我《われ》を|敬《うやま》ふ、 されど|其《そ》の|心《こころ》は|我《われ》に|遠《とほ》ざかる。 [#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ただ|徒《いたづ》らに|我《われ》を|拜《をが》む。 |人《ひと》の|訓誡《いましめ》を|教《をしへ》とし|教《をし》へて」』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|群衆《ぐんじゅう》を|呼《よ》び|寄《よ》せて|言《い》ひたまふ『|聽《き》きて|悟《さと》れ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|口《くち》に|入《い》るものは|人《ひと》を|汚《けが》さず、されど|口《くち》より|出《い》づるものは、これ|人《ひと》を|汚《けが》すなり』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|弟子《でし》たち|御許《みもと》に|來《きた》りていふ『|御言《みことば》をききてパリサイ|人《びと》の|躓《つまづ》きたるを|知《し》り|給《たま》ふか』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|天《てん》の|父《ちち》の|植《う》ゑ|給《たま》はぬものは、みな|拔《ぬ》かれん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らを|捨《す》ておけ、|盲人《めしひ》を|手引《てびき》する|盲人《めしひ》なり、|盲人《めしひ》もし|盲人《めしひ》を|手引《てびき》せば、|二人《ふたり》とも|穴《あな》に|落《お》ちん』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|答《こた》へて|言《い》ふ『その|譬《たとへ》を|我《われ》らに|解《と》き|給《たま》へ』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらも|今《いま》なほ|悟《さと》りなきか。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|口《くち》に|入《い》るものは|腹《はら》にゆき、|遂《つひ》に|厠《かはや》に|棄《す》てらるる|事《こと》を|悟《さと》らぬか。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]されど|口《くち》より|出《い》づるものは|心《こころ》より|出《い》づ、これ|人《ひと》を|汚《けが》すものなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]それ|心《こころ》より|惡《あ》しき|念《おもひ》いづ、すなはち|殺人《ひとごろし》・|姦淫《かんいん》・|淫行《いんかう》・|竊盜《ぬすみ》・|僞證《ぎしょう》・|誹謗《そしり》、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]これらは|人《ひと》を|汚《けが》すものなり、されど|洗《あら》はぬ|手《て》にて|食《しょく》する|事《こと》は|人《ひと》を|汚《けが》さず』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエスここを|去《さ》りてツロとシドンとの|地方《ちはう》に|往《ゆ》き|給《たま》ふ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、カナンの|女《をんな》その|邊《ほとり》より|出《い》できたり、|叫《さけ》びて『|主《しゅ》よ、ダビデの|子《こ》よ、|我《われ》を|憫《あはれ》み|給《たま》へ、わが|娘《むすめ》、|惡鬼《あくき》につかれて|甚《いた》く|苦《くる》しむ』と|言《い》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]されどイエス|一言《ひとこと》も|答《こた》へ|給《たま》はず。|弟子《でし》たち|來《きた》り|請《こ》ひて|言《い》ふ『|女《をんな》を|歸《かへ》したまへ、|我《われ》らの|後《あと》より|叫《さけ》ぶなり』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|我《われ》はイスラエルの|家《いへ》の|失《う》せたる|羊《ひつじ》のほかに|遣《つかは》されず』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》きたり|拜《はい》して|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》を|助《たす》けたまへ』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|子供《こども》のパンをとりて|小狗《こいぬ》に|投《な》げ|與《あた》ふるは|善《よ》からず』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》いふ『|然《しか》り、|主《しゅ》よ、|小狗《こいぬ》も|主人《しゅじん》の|食卓《しょくたく》よりおつる|食屑《たべくず》を|食《くら》ふなり』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『をんなよ、|汝《なんぢ》の|信仰《しんかう》は|大《おほい》なるかな、|願《ねがひ》のごとく|汝《なんぢ》になれ』|娘《むすめ》この|時《とき》より|癒《い》えたり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此處《ここ》を|去《さ》り、ガリラヤの|海邊《うみべ》にいたり、|而《しか》して|山《やま》に|登《のぼ》り、そこに|坐《ざ》し|給《たま》ふ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》、|跛者《あしなへ》・|不具《かたは》・|盲人《めしひ》・|唖者《おふし》および|他《ほか》の|多《おほ》くの|者《もの》を|連《つ》れ|來《きた》りて、イエスの|足下《あしもと》に|置《お》きたれば、|醫《いや》し|給《たま》へり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》は、|唖者《おふし》の|物《もの》いひ、|不具《かたは》の|癒《い》え、|跛者《あしなへ》の|歩《あゆ》み、|盲人《めしひ》の|見《み》えたるを|見《み》て|之《これ》を|怪《あや》しみ、イスラエルの|神《かみ》を|崇《あが》めたり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|弟子《でし》たちを|召《め》して|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|此《こ》の|群衆《ぐんじゅう》をあはれむ、|既《すで》に|三日《みっか》われと|偕《とも》にをりて|食《くら》ふべき|物《もの》なし。|飢《う》ゑたるままにて|歸《かへ》らしむるを|好《この》まず、|恐《おそ》らくは|途《みち》にて|疲《つか》れ|果《は》てん』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|言《い》ふ『この|寂《さび》しき|地《ち》にて、|斯《か》く|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》を|飽《あ》かしむべき|多《おほ》くのパンを、|何處《いづこ》より|得《う》べき』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『パン|幾《いく》つあるか』|彼《かれ》らいふ『|七《なな》つ、また|小《ちひさ》き|魚《うを》すこしあり』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|群衆《ぐんじゅう》に|命《めい》じて|地《ち》に|坐《ざ》せしめ、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|七《なな》つのパンと|魚《うを》とを|取《と》り、|謝《しゃ》して|之《これ》をさき|弟子《でし》たちに|與《あた》へ|給《たま》へば、|弟子《でし》たちこれを|群衆《ぐんじゅう》に|與《あた》ふ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》くらひて|飽《あ》き、|裂《さ》きたる|餘《あまり》を|拾《ひろ》ひしに、|七《なな》つの|籃《かご》に|滿《み》ちたり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|食《くら》ひし|者《もの》は、|女《をんな》と|子供《こども》とを|除《のぞ》きて|四千《しせん》|人《にん》なりき。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|群衆《ぐんじゅう》をかへし、|舟《ふね》に|乘《の》りてマガダンの|地方《ちはう》に|往《ゆ》き|給《たま》へり。 第一六章[#「第一六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》とサドカイ|人《びと》と|來《きた》りてイエスを|試《こころ》み、|天《てん》よりの|徴《しるし》を|示《しめ》さんことを|請《こ》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|夕《ゆふべ》には|汝《なんぢ》ら「|空《そら》あかき|故《ゆゑ》に|晴《はれ》ならん」と|言《い》ひ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|朝《あした》には「そら|赤《あか》くして|曇《くも》る|故《ゆゑ》に、|今日《けふ》は|風雨《あれ》ならん」と|言《い》ふ。なんぢら|空《そら》の|氣色《けしき》を|見分《みわ》くることを|知《し》りて、|時《とき》の|徴《しるし》を|見分《みわ》くること|能《あた》はぬか。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|邪曲《よこしま》にして|不義《ふぎ》なる|代《よ》は|徴《しるし》を|求《もと》む、されどヨナの|徴《しるし》の|外《ほか》に|徴《しるし》は|與《あた》へられじ』かくて|彼《かれ》らを|離《はな》れて|去《さ》り|給《たま》ひぬ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|彼方《かなた》の|岸《きし》に|到《いた》りしに、パンを|携《たづさ》ふることを|忘《わす》れたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|愼《つつし》みてパリサイ|人《びと》とサドカイ|人《びと》とのパン|種《だね》に|心《こころ》せよ』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|互《たがひ》に『|我《われ》らはパンを|携《たづさ》へざりき』と|語《かた》り|合《あ》ふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|知《し》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『ああ|信仰《しんかう》うすき|者《もの》よ、|何《なに》ぞパン|無《な》きことを|語《かた》り|合《あ》ふか。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|未《いま》だ|悟《さと》らぬか、|五《いつ》つのパンを|五《ご》|千《せん》|人《にん》に|分《わか》ちて、その|餘《あまり》を|幾籃《いくかご》ひろひ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|七《なな》つのパンを|四千《しせん》|人《にん》に|分《わか》ちて、その|餘《あまり》を|幾籃《いくかご》ひろひしかを|覺《おぼ》えぬか。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》が|言《い》ひしはパンの|事《こと》にあらぬを|何《なに》ぞ|悟《さと》らざる。|唯《ただ》パリサイ|人《びと》とサドカイ|人《びと》とのパンだねに|心《こころ》せよ』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|弟子《でし》たちイエスの|心《こころ》せよと|言《い》ひ|給《たま》ひしは、パンの|種《たね》にはあらで、パリサイ|人《びと》とサドカイ|人《びと》との|教《をしへ》なることを|悟《さと》れり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス、ピリポ・カイザリヤの|地方《ちはう》にいたり、|弟子《でし》たちに|問《と》ひて|言《い》ひたまふ『|人々《ひとびと》は|人《ひと》の|子《こ》を|誰《たれ》と|言《い》ふか』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》いふ『|或《ある》|人《ひと》はバプテスマのヨハネ、|或《ある》|人《ひと》はエリヤ、|或《ある》|人《ひと》はエレミヤ、また|預言者《よげんしゃ》の|一人《ひとり》』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らに|言《い》ひたまふ『なんぢらは|我《われ》を|誰《たれ》と|言《い》ふか』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|答《こた》へて|言《い》ふ『なんぢはキリスト、|活《い》ける|神《かみ》の|子《こ》なり』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『バルヨナ・シモン、|汝《なんぢ》は|幸福《さいはひ》なり、|汝《なんぢ》に|之《これ》を|示《しめ》したるは|血肉《けつにく》にあらず、|天《てん》にいます|我《わ》が|父《ちち》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はまた|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、|汝《なんぢ》はペテロなり、|我《われ》この|磐《いは》の|上《うへ》に|我《わ》が|教會《けうくわい》を|建《た》てん、|黄泉《よみ》の|門《もん》はこれに|勝《か》たざるべし。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]われ|天國《てんこく》の|鍵《かぎ》を|汝《なんぢ》に|與《あた》へん、|凡《おほよ》そ|汝《なんぢ》が|地《ち》にて|縛《つな》ぐ|所《ところ》は|天《てん》にても|縛《つな》ぎ、|地《ち》にて|解《と》く|所《ところ》は|天《てん》にても|解《と》くなり』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス、|己《おの》がキリストなる|事《こと》を|誰《たれ》にも|告《つ》ぐなと、|弟子《でし》たちを|戒《いまし》め|給《たま》へり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]この|時《とき》よりイエス・キリスト、|弟子《でし》たちに、|己《おのれ》のエルサレムに|往《ゆ》きて、|長老《ちゃうらう》・|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》らより|多《おほ》くの|苦難《くるしみ》を|受《う》け、かつ|殺《ころ》され、|三日《みっか》めに|甦《よみが》へるべき|事《こと》を|示《しめ》し|始《はじ》めたまふ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ、イエスを|傍《かたへ》にひき|戒《いまし》め|出《い》でて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|然《しか》あらざれ、|此《こ》の|事《こと》なんぢに|起《おこ》らざるべし』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|振反《ふりかへ》りてペテロに|言《い》ひ|給《たま》ふ『サタンよ、|我《わ》が|後《うしろ》に|退《しりぞ》け、|汝《なんぢ》はわが|躓物《つまづき》なり、|汝《なんぢ》は|神《かみ》のことを|思《おも》はず、|反《かへ》つて|人《ひと》のことを|思《おも》ふ』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|弟子《でし》たちに|言《い》ひたまふ『|人《ひと》もし|我《われ》に|從《したが》ひ|來《きた》らんと|思《おも》はば、|己《おのれ》をすて、|己《おの》が|十字架《じふじか》を|負《お》ひて、|我《われ》に|從《したが》へ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|己《おの》が|生命《いのち》を|救《すく》はんと|思《おも》ふ|者《もの》は、これを|失《うしな》ひ、|我《わ》がために|己《おの》が|生命《いのち》をうしなふ|者《もの》は、|之《これ》を|得《う》べし。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》、|全世界《ぜんせかい》を|贏《まう》くとも、|己《おの》が|生命《いのち》を|損《そん》せば、|何《なに》の|益《えき》あらん、|又《また》その|生命《いのち》の|代《かわり》に|何《なに》を|與《あた》へんや。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》は|父《ちち》の|榮光《えいくわう》をもて、|御使《みつかひ》たちと|共《とも》に|來《きた》らん。その|時《とき》おのおのの|行爲《おこなひ》に|隨《したが》ひて|報《むく》ゆべし。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、ここに|立《た》つ|者《もの》のうちに、|人《ひと》の|子《こ》のその|國《くに》をもて|來《きた》るを|見《み》るまでは、|死《し》を|味《あぢ》はぬ|者《もの》どもあり』 第一七章[#「第一七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|六日《むゆか》の|後《のち》、イエス、ペテロ、ヤコブ|及《およ》びヤコブの|兄弟《きゃうだい》ヨハネを|率《ひ》きつれ、|人《ひと》を|避《さ》けて|高《たか》き|山《やま》に|登《のぼ》りたまふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》らの|前《まへ》にてその|状《さま》かはり、|其《そ》の|顏《かほ》は|日《ひ》のごとく|輝《かがや》き、その|衣《ころも》は|光《ひかり》のごとく|白《しろ》くなりぬ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、モーセとエリヤとイエスに|語《かた》りつつ|彼《かれ》らに|現《あらは》る。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|差出《さしい》でてイエスに|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》らの|此處《ここ》に|居《を》るは|善《よ》し。|御意《みこころ》ならば|我《われ》ここに|三《み》つの|廬《いほり》を|造《つく》り、|一《ひと》つを|汝《なんぢ》のため、|一《ひと》つをモーセのため、|一《ひと》つをエリヤの|爲《ため》にせん』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》なほ|語《かた》りをるとき、|視《み》よ、|光《ひかり》れる|雲《くも》かれらを|覆《おほ》ふ。また|雲《くも》より|聲《こゑ》あり、|曰《いは》く『これは|我《わ》が|愛《いつく》しむ|子《こ》、わが|悦《よろこ》ぶ|者《もの》なり、|汝《なんぢ》ら|之《これ》に|聽《き》け』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|之《これ》を|聞《き》きて|倒《たふ》れ|伏《ふ》し、|懼《おそ》るること|甚《はなは》だし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|許《もと》にきたり|之《これ》に|觸《さは》りて『|起《お》きよ、|懼《おそ》るな』と|言《い》ひ|給《たま》へば、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|目《め》を|擧《あ》げしに、イエス|一人《ひとり》の|他《ほか》は|誰《たれ》も|見《み》えざりき。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|山《やま》を|下《くだ》るとき、イエス|彼《かれ》らに|命《めい》じて|言《い》ひたまふ『|人《ひと》の|子《こ》の|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へるまでは、|見《み》たることを|誰《たれ》にも|語《かた》るな』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|問《と》ひて|言《い》ふ『さらばエリヤ|先《ま》づ|來《きた》るべしと|學者《がくしゃ》らの|言《い》ふは|何《なん》ぞ』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|實《げ》にエリヤ|來《きた》りて|萬《よろづ》の|事《こと》をあらためん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、エリヤは|既《すで》に|來《きた》れり。されど|人々《ひとびと》これを|知《し》らず、|反《かへ》つて|心《こころ》のままに|待《あしら》へり。かくのごとく|人《ひと》の|子《こ》もまた|人々《ひとびと》より|苦《くる》しめらるべし』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|弟子《でし》たちバプテスマのヨハネを|指《さ》して|言《い》ひ|給《たま》ひしなるを|悟《さと》れり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かれら|群衆《ぐんじゅう》の|許《もと》に|到《いた》りしとき、|或《ある》|人《ひと》|御許《みもと》にきたり|跪《ひざま》づきて|言《い》ふ、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]『|主《しゅ》よ、わが|子《こ》を|憫《あはれ》みたまへ。|癲癇《てんかん》にて|難《なや》み、しばしば|火《ひ》の|中《なか》に、しばしば|水《みづ》の|中《なか》に|倒《たふ》るるなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|御弟子《みでし》たちに|連《つ》れ|來《きた》りしに、|醫《いや》すこと|能《あた》はざりき』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『ああ|信《しん》なき|曲《まが》れる|代《よ》なるかな、|我《われ》いつまで|汝《なんぢ》らと|偕《とも》にをらん、|何時《いつ》まで|汝《なんぢ》らを|忍《しの》ばん。その|子《こ》を|我《われ》に|連《つ》れきたれ』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にイエスこれを|禁《いまし》め|給《たま》へば、|惡鬼《あくき》いでてその|子《こ》この|時《とき》より|癒《い》えたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|弟子《でし》たち|竊《ひそか》にイエスに|來《きた》りて|言《い》ふ『われらは|何《なに》|故《ゆゑ》に|逐《お》ひ|出《いだ》し|得《え》ざりしか』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|信仰《しんかう》うすき|故《ゆゑ》なり。まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、もし|芥種《からしだね》|一粒《ひとつぶ》ほどの|信仰《しんかう》あらば、この|山《やま》に「|此處《ここ》より|彼處《かしこ》に|移《うつ》れ」と|言《い》ふとも|移《うつ》らん、かくて|汝《なんぢ》ら|能《あた》はぬこと|無《な》かるべし』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らガリラヤに|集《つど》ひをる|時《とき》、イエス|言《い》ひたまふ『|人《ひと》の|子《こ》は|人《ひと》の|手《て》に|付《わた》され、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》は|之《これ》を|殺《ころ》さん、かくて|三日《みっか》めに|甦《よみが》へるべし』|弟子《でし》たち|甚《いた》く|悲《かな》しめり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らカペナウムに|到《いた》りしとき、|納金《をさめきん》を|集《あつ》むる|者《もの》どもペテロに|來《きた》りて|言《い》ふ『なんぢらの|師《し》は|納金《をさめきん》を|納《をさ》めぬか』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ『|納《をさ》む』と|言《い》ひ、やがて|家《いへ》に|入《い》りしに、|逸速《いちはや》くイエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『シモンいかに|思《おも》ふか、|世《よ》の|王《わう》たちは|税《ぜい》または|貢《みつぎ》を|誰《たれ》より|取《と》るか、|己《おの》が|子《こ》よりか、|他《ほか》の|者《もの》よりか』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『ほかの|者《もの》より』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『されば|子《こ》は|自由《じいう》なり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》らを|躓《つまづ》かせぬ|爲《ため》に、|海《うみ》に|往《ゆ》きて|釣《つり》をたれ、|初《はじめ》に|上《あが》る|魚《うを》をとれ、|其《そ》の|口《くち》をひらかば|銀貨《ぎんくわ》|一《ひと》つを|得《え》ん、それを|取《と》りて|我《われ》と|汝《なんぢ》との|爲《ため》に|納《をさ》めよ』 第一八章[#「第一八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]そのとき|弟子《でし》たちイエスに|來《きた》りて|言《い》ふ『しからば|天國《てんこく》にて|大《おほい》なるは|誰《たれ》か』[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|幼兒《をさなご》を|呼《よ》び、|彼《かれ》らの|中《なか》に|置《お》きて|言《い》ひ|給《たま》ふ[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、もし|汝《なんぢ》ら|飜《ひるが》へりて|幼兒《をさなご》の|如《ごと》くならずば、|天國《てんこく》に|入《い》るを|得《え》じ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されば|誰《たれ》にても|此《こ》の|幼兒《をさなご》のごとく|己《おのれ》を|卑《ひく》うする|者《もの》は、これ|天國《てんこく》にて|大《おほい》なる|者《もの》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|我《わ》が|名《な》のために、かくのごとき|一人《ひとり》の|幼兒《をさなご》を|受《う》くる|者《もの》は、|我《われ》を|受《う》くるなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》を|信《しん》ずる|此《こ》の|小《ちひさ》き|者《もの》の|一人《ひとり》を|躓《つまづ》かする|者《もの》は、|寧《むし》ろ|大《おほい》なる|碾臼《ひきうす》を|頸《くび》に|懸《か》けられ、|海《うみ》の|深處《ふかみ》に|沈《しづ》められんかた|益《えき》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]この|世《よ》は|躓物《つまづき》あるによりて|禍害《わざはひ》なるかな。|躓物《つまづき》は|必《かなら》ず|來《きた》らん、されど|躓物《つまづき》を|來《きた》らする|人《ひと》は|禍害《わざはひ》なるかな。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》の|手《て》または|足《あし》なんぢを|躓《つまづ》かせば、|切《き》りて|棄《す》てよ。|不具《かたは》または|蹇跛《あしなへ》にて|生命《いのち》に|入《い》るは、|兩手《りゃうて》|兩足《りゃうあし》ありて|永遠《とこしへ》の|火《ひ》に|投《な》げ|入《い》れらるるよりも|勝《まさ》るなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》の|眼《め》なんぢを|躓《つまづ》かせば、|拔《ぬ》きて|棄《す》てよ。|片眼《かため》にて|生命《いのち》に|入《い》るは、|兩眼《りゃうめ》ありて|火《ひ》のゲヘナに|投《な》げ|入《い》れらるるよりも|勝《まさ》るなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|愼《つつし》みて|此《こ》の|小《ちひさ》き|者《もの》の|一人《ひとり》をも|侮《あなど》るな。|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|彼《かれ》らの|御使《みつかひ》たちは|天《てん》にありて、|天《てん》にいます|我《わ》が|父《ちち》の|御顏《みかほ》を|常《つね》に|見《み》るなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》いかに|思《おも》ふか、|百匹《ひゃくひき》の|羊《ひつじ》を|有《も》てる|人《ひと》あらんに、|若《も》しその|一匹《いっぴき》まよはば、|九《く》|十《じふ》|九《く》|匹《ひき》を|山《やま》に|遺《のこ》しおき、|往《ゆ》きて|迷《まよ》へるものを|尋《たづ》ねぬか。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]もし|之《これ》を|見出《みいだ》さば、まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|迷《まよ》はぬ|九《く》|十《じふ》|九《く》|匹《ひき》に|勝《まさ》りて|此《こ》の|一匹《いっぴき》を|喜《よろこ》ばん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かくのごとく|此《こ》の|小《ちひさ》き|者《もの》の|一人《ひとり》の|亡《ほろ》ぶるは、|天《てん》にいます|汝《なんぢ》らの|父《ちち》の|御意《みこころ》にあらず。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》の|兄弟《きゃうだい》|罪《つみ》を|犯《をか》さば、|往《ゆ》きてただ|彼《かれ》とのみ|相《あひ》|對《たい》して|諫《いさ》めよ。もし|聽《き》かば|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》を|得《え》たるなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]もし|聽《き》かずば、|一人《ひとり》・|二人《ふたり》を|伴《ともな》ひ|往《ゆ》け、これ|二《に》|三《さん》の|證人《しょうにん》の|口《くち》に|由《よ》りて、|凡《すべ》ての|事《こと》の|慥《たしか》められん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]もし|彼《かれ》|等《ら》にも|聽《き》かずば、|教會《けうくわい》に|告《つ》げよ。もし|教會《けうくわい》にも|聽《き》かずば、|之《これ》を|異邦人《いはうじん》または|取税人《しゅぜいにん》のごとき|者《もの》とすべし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、すべて|汝《なんぢ》らが|地《ち》にて|縛《つな》ぐ|所《ところ》は|天《てん》にても|縛《つな》ぎ、|地《ち》にて|解《と》く|所《ところ》は|天《てん》にても|解《と》くなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]また|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、もし|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|二人《ふたり》、|何《なに》にても|求《もと》むる|事《こと》につき|地《ち》にて|心《こころ》を|一《ひと》つにせば、|天《てん》にいます|我《わ》が|父《ちち》は|之《これ》を|成《な》し|給《たま》ふべし。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|二三人《にさんにん》わが|名《な》によりて|集《あつま》る|所《ところ》には、|我《われ》もその|中《うち》に|在《あ》るなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ここにペテロ|御許《みもと》に|來《きた》りて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、わが|兄弟《きゃうだい》われに|對《たい》して|罪《つみ》を|犯《をか》さば|幾《いく》たび|赦《ゆる》すべきか、|七度《ななたび》までか』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|否《いな》、われ「|七度《ななたび》まで」とは|言《い》はず「|七度《ななたび》を|七《しち》|十《じふ》|倍《ばい》するまで」と|言《い》ふなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、|天國《てんこく》はその|家來《けらい》どもと|計算《けいさん》をなさんとする|王《わう》のごとし。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|計算《けいさん》を|始《はじ》めしとき、|一萬《いちまん》タラントの|負債《おひめ》ある|家來《けらい》つれ|來《きた》られしが、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|償《つくの》ひ|方《かた》なかりしかば、|其《そ》の|主人《しゅじん》、この|者《もの》とその|妻《つま》|子《こ》と|凡《すべ》ての|所有《もちもの》とを|賣《う》りて|償《つくの》ふことを|命《めい》じたるに、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]その|家來《けらい》ひれ|伏《ふ》し|拜《はい》して|言《い》ふ「|寛《ゆる》くし|給《たま》へ、さらば|悉《ことご》とく|償《つくの》はん」[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]その|家來《けらい》の|主人《しゅじん》あはれみて|之《これ》を|解《と》き、その|負債《おひめ》を|免《ゆる》したり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|其《そ》の|家來《けらい》いでて、|己《おのれ》より|百《ひゃく》デナリを|負《お》ひたる|一人《ひとり》の|同僚《どうれう》にあひ、|之《これ》をとらへ、|喉《のど》を|締《し》めて|言《い》ふ「|負債《おひめ》を|償《つくの》へ」[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]その|同僚《どうれう》ひれ|伏《ふ》し、|願《ねが》ひて「|寛《ゆる》くし|給《たま》へ、さらば|償《つくの》はん」と|言《い》へど、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|肯《うけが》はずして|往《ゆ》き、その|負債《おひめ》を|償《つくの》ふまで|之《これ》を|獄《ひとや》に|入《い》れたり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|同僚《どうれう》ども|有《あ》りし|事《こと》を|見《み》て|甚《いた》く|悲《かな》しみ、|往《ゆ》きて|有《あ》りし|凡《すべ》ての|事《こと》をその|主人《しゅじん》に|告《つ》ぐ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|主人《しゅじん》かれを|呼《よ》び|出《いだ》して|言《い》ふ「|惡《あ》しき|家來《けらい》よ、なんぢ|願《ねが》ひしによりて、かの|負債《おひめ》をことごとく|免《ゆる》せり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]わが|汝《なんぢ》を|憫《あはれ》みしごとく、|汝《なんぢ》もまた|同僚《どうれう》を|憫《あはれ》むべきにあらずや」[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くその|主人《しゅじん》、|怒《いか》りて、|負債《おひめ》をことごとく|償《つくの》ふまで|彼《かれ》を|獄卒《ごくそつ》に|付《わた》せり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》|等《ら》おのおの|心《こころ》より|兄弟《きゃうだい》を|赦《ゆる》さずば、|我《わ》が|天《てん》の|父《ちち》も|亦《また》なんぢらに|斯《か》のごとく|爲《な》し|給《たま》ふべし』 第一九章[#「第一九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエスこれらの|言《ことば》を|語《かた》り|終《を》へて、ガリラヤを|去《さ》り、ヨルダンの|彼方《かなた》なるユダヤの|地方《ちはう》に|來《きた》り|給《たま》ひしに、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》したがひたれば、|此處《ここ》にて|彼《かれ》らを|醫《いや》し|給《たま》へり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》ら|來《きた》り、イエスを|試《こころ》みて|言《い》ふ『|何《なに》の|故《ゆゑ》にかかはらず、|人《ひと》その|妻《つま》を|出《いだ》すは|可《よ》きか』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|人《ひと》を|造《つく》り|給《たま》ひしもの、|元始《はじめ》より|之《これ》を|男《をとこ》と|女《をんな》とに|造《つく》り、|而《しか》して、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]「かかる|故《ゆゑ》に|人《ひと》は|父《ちち》|母《はは》を|離《はな》れ、その|妻《つま》に|合《あ》ひて、|二人《ふたり》のもの|一體《いったい》となるべし」と|言《い》ひ|給《たま》ひしを|未《いま》だ|讀《よ》まぬか。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されば、はや|二人《ふたり》にはあらず、|一體《いったい》なり。この|故《ゆゑ》に|神《かみ》の|合《あは》せ|給《たま》ひし|者《もの》は、|人《ひと》これを|離《はな》すべからず』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らイエスに|言《い》ふ『さらば|何《なに》|故《ゆゑ》モーセは|離縁状《りえんじゃう》を|與《あた》へて|出《いだ》すことを|命《めい》じたるか』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『モーセは|汝《なんぢ》の|心《こころ》つれなきによりて|妻《つま》を|出《いだ》すことを|許《ゆる》したり。されど|元始《はじめ》より|然《さ》にはあらぬなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、おほよそ|淫行《いんかう》の|故《ゆゑ》ならで|其《そ》の|妻《つま》をいだし|他《ほか》に|娶《めと》る|者《もの》は、|姦淫《かんいん》を|行《おこな》ふなり』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちイエスに|言《い》ふ『|人《ひと》もし|妻《つま》のことに|於《おい》てかくのごとくば、|娶《めと》らざるに|如《し》かず』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らに|言《い》ひたまふ『|凡《すべ》ての|人《ひと》この|言《ことば》を|受《う》け|容《い》るるにはあらず、ただ|授《さづ》けられたる|者《もの》のみなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]それ|生《うま》れながらの|閹人《えんじん》あり、|人《ひと》に|爲《せ》られたる|閹人《えんじん》あり、また|天國《てんこく》のために|自《みづか》らなりたる|閹人《えんじん》あり、|之《これ》を|受《う》け|容《い》れうる|者《もの》は|受《う》け|容《い》るべし』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|人々《ひとびと》イエスの|手《て》をおきて|祈《いの》り|給《たま》はんことを|望《のぞ》みて、|幼兒《をさなご》らを|連《つ》れ|來《きた》りしに、|弟子《でし》たち|禁《いまし》めたれば、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|幼兒《をさなご》らを|許《ゆる》せ、|我《われ》に|來《きた》るを|止《とど》むな、|天國《てんこく》はかくのごとき|者《もの》の|國《くに》なり』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|手《て》を|彼《かれ》らの|上《うへ》におきて|此處《ここ》を|去《さ》り|給《たま》へり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|或《ある》|人《ひと》みもとに|來《きた》りて|言《い》ふ『|師《し》よ、われ|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》をうる|爲《ため》には、|如何《いか》なる|善《よ》き|事《こと》を|爲《な》すべきか』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|善《よ》き|事《こと》につきて|何《なに》ぞ|我《われ》に|問《と》ふか、|善《よ》き|者《もの》は|唯《ただ》ひとりのみ。|汝《なんぢ》もし|生命《いのち》に|入《い》らんと|思《おも》はば|誡命《いましめ》を|守《まも》れ』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》いふ『|孰《いづれ》を』イエス|言《い》ひたまふ『「|殺《ころ》すなかれ」「|姦淫《かんいん》するなかれ」「|盜《ぬす》むなかれ」「|僞證《ぎしょう》を|立《た》つる|勿《なか》れ」[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]「|父《ちち》と|母《はは》とを|敬《うやま》へ」また「|己《おのれ》のごとく|汝《なんぢ》の|隣《となり》を|愛《あい》すべし」』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]その|若者《わかもの》いふ『|我《われ》みな|之《これ》を|守《まも》れり、なほ|何《なに》を|缺《か》くか』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『なんぢ|若《も》し|全《まった》からんと|思《おも》はば、|往《ゆ》きて|汝《なんぢ》の|所有《もちもの》を|賣《う》りて|貧《まづ》しき|者《もの》に|施《ほどこ》せ、さらば|財寶《たから》を|天《てん》に|得《え》ん。かつ|來《きた》りて|我《われ》に|從《したが》へ』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]この|言《ことば》をききて、|若者《わかもの》|悲《かな》しみつつ|去《さ》りぬ。|大《おほい》なる|資産《しさん》を|有《も》てる|故《ゆゑ》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|富《と》める|者《もの》の|天國《てんこく》に|入《い》るは|難《かた》し。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|復《また》なんぢらに|告《つ》ぐ、|富《と》める|者《もの》の|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》るよりは、|駱駝《らくだ》の|針《はり》の|孔《あな》を|通《とほ》るかた|反《かへ》つて|易《やす》し』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|之《これ》をきき、|甚《はなは》だしく|驚《をどろ》きて|言《い》ふ『さらば|誰《たれ》か|救《すく》はるることを|得《え》ん』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|目《め》を|注《と》めて|言《い》ひ|給《たま》ふ『これは|人《ひと》に|能《あた》はねど、|神《かみ》は|凡《すべ》ての|事《こと》をなし|得《う》るなり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]ここにペテロ|答《こた》へて|言《い》ふ『|視《み》よ、われら|一切《いっさい》をすてて|汝《なんぢ》に|從《したが》へり、されば|何《なに》を|得《う》べきか』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|世《よ》あらたまりて|人《ひと》の|子《こ》その|榮光《えいくわう》の|座位《くらゐ》に|坐《ざ》するとき、|我《われ》に|從《したが》へる|汝《なんぢ》|等《ら》もまた|十二《じふに》の|座位《くらゐ》に|坐《ざ》して、イスラエルの|十二《じふに》の|族《やから》を|審《さば》かん。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]また|凡《おほよ》そ|我《わ》が|名《な》のために、|或《あるひ》は|家《いへ》、あるひは|兄弟《きゃうだい》、あるひは|姉妹《しまい》、あるひは|父《ちち》、あるひは|母《はは》、あるひは|子《こ》、あるひは|田畑《たはた》を|棄《す》つる|者《もの》は、|數倍《すうばい》を|受《う》け、また|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|嗣《つ》がん。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|多《おほ》くの|先《さき》なる|者《もの》|後《あと》に、|後《あと》なる|者《もの》|先《さき》になるべし。 第二〇章[#「第二〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|天國《てんこく》は|勞動人《はたらきびと》を|葡萄園《ぶだうぞの》に|雇《やと》ふために、|朝《あさ》|早《はや》く|出《い》でたる|主人《あるじ》のごとし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|一日《いちにち》|一《いち》デナリの|約束《やくそく》をなして、|勞動人《はたらきびと》どもを|葡萄園《ぶだうぞの》に|遣《つかは》す。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|九時《くじ》ごろ|出《い》でて|市場《いちば》に|空《むな》しく|立《た》つ|者《もの》どもを|見《み》て、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]「なんぢらも|葡萄園《ぶだうぞの》に|往《ゆ》け、|相當《さうたう》のものを|與《あた》へん」といへば、|彼《かれ》らも|往《ゆ》く。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|十二《じふに》|時《じ》|頃《ころ》と|三時《さんじ》|頃《ころ》とに|復《また》いでて|前《まへ》のごとくす。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|五《ご》|時《じ》|頃《ころ》また|出《い》でしに、なほ|立《た》つ|者《もの》どものあるを|見《み》ていふ「|何《なに》ゆゑ|終日《ひねもす》ここに|空《むな》しく|立《た》つか」[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かれら|言《い》ふ「たれも|我《われ》らを|雇《やと》はぬ|故《ゆゑ》なり」|主人《あるじ》いふ「なんぢらも|葡萄園《ぶだうぞの》に|往《ゆ》け」[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|夕《ゆふべ》になりて|葡萄園《ぶだうぞの》の|主人《あるじ》その|家《いへ》|司《つかさ》に|言《い》ふ「|勞動人《はたらきびと》を|呼《よ》びて、|後《あと》の|者《もの》より|始《はじ》め、|先《さき》の|者《もの》にまで|賃銀《ちんぎん》をはらへ」[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|五《ご》|時《じ》ごろに|雇《やと》はれしもの|來《きた》りて、おのおの|一《いち》デナリを|受《う》く。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|先《さき》の|者《もの》きたりて、|多《おほ》く|受《う》くるならんと|思《おも》ひしに、|之《これ》も|亦《また》おのおの|一《いち》デナリを|受《う》く。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|受《う》けしとき、|家主《いへあるじ》にむかひ|呟《つぶや》きて|言《い》ふ、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]「この|後《あと》の|者《もの》どもは|僅《わづか》に|一《いち》|時間《じかん》はたらきたるに、|汝《なんぢ》は|一日《いちにち》の|勞《らう》と|暑《あつ》さとを|忍《しの》びたる|我《われ》らと|均《ひと》しく|之《これ》を|遇《あ》へり」[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|主人《あるじ》こたへて|其《そ》の|一人《ひとり》に|言《い》ふ「|友《とも》よ、|我《われ》なんぢに|不正《ふせい》をなさず、|汝《なんぢ》は|我《われ》と|一《いち》デナリの|約束《やくそく》をせしにあらずや。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|己《おの》が|物《もの》を|取《と》りて|往《ゆ》け、この|後《あと》の|者《もの》に|汝《なんぢ》とひとしく|與《あた》ふるは、|我《わ》が|意《こころ》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]わが|物《もの》を|我《わ》が|意《こころ》のままにするは|可《よ》からずや、|我《われ》よきが|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》の|目《め》あしきか」[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくのごとく|後《あと》なる|者《もの》は|先《さき》に、|先《さき》なる|者《もの》は|後《あと》になるべし』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス、エルサレムに|上《のぼ》らんとし|給《たま》ふとき、|竊《ひそか》に|十二《じふに》|弟子《でし》を|近《ちか》づけて、|途《みち》すがら|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]『|視《み》よ、|我《われ》らエルサレムに|上《のぼ》る、|人《ひと》の|子《こ》は|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》らに|付《わた》されん。|彼《かれ》ら|之《これ》を|死《し》に|定《さだ》め、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]また|嘲弄《てうろう》し、|鞭《むち》うち、|十字架《じふじか》につけん|爲《ため》に|異邦人《いはうじん》に|付《わた》さん、かくて|彼《かれ》は|三日《みっか》めに|甦《よみが》へるべし』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ここにゼベダイの|子《こ》らの|母《はは》、その|子《こ》らと|共《とも》に|御許《みもと》にきたり、|拜《はい》して|何事《なにごと》か|求《もと》めんとしたるに、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》に|言《い》ひたまふ『|何《なに》を|望《のぞ》むか』かれ|言《い》ふ『この|我《わ》が|二人《ふたり》の|子《こ》が|汝《なんぢ》の|御國《みくに》にて、|一人《ひとり》は|汝《なんぢ》の|右《みぎ》に、|一人《ひとり》は|左《ひだり》に|坐《ざ》せんことを|命《めい》じ|給《たま》へ』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらは|求《もと》むる|所《ところ》を|知《し》らず、|我《わ》が|飮《の》まんとする|酒杯《さかづき》を|飮《の》み|得《う》るか』かれら|言《い》ふ『|得《う》るなり』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|實《げ》に|汝《なんぢ》らは|我《わ》が|酒杯《さかづき》を|飮《の》むべし、されど|我《わ》が|右《みぎ》|左《ひだり》に|坐《ざ》することは、これ|我《われ》の|與《あた》ふべきものならず、|我《わ》が|父《ちち》より|備《そな》へられたる|人《ひと》こそ|與《あた》へらるるなれ』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|十《じふ》|人《にん》の|弟子《でし》これを|聞《き》き、|二人《ふたり》の|兄弟《きゃうだい》の|事《こと》によりて|憤《いきど》ほる。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らを|呼《よ》びて|言《い》ひたまふ『|異邦人《いはうじん》の|君《きみ》のその|民《たみ》を|宰《つかさ》どり、|大《おほい》なる|者《もの》の|民《たみ》の|上《うへ》に|權《けん》を|執《と》ることは、|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》にては|然《しか》らず、|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|大《おほい》ならんと|思《おも》ふ|者《もの》は、|汝《なんぢ》らの|役者《えきしゃ》となり、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|首《かしら》たらんと|思《おも》ふ|者《もの》は|汝《なんぢ》らの|僕《しもべ》となるべし。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]かくのごとく、|人《ひと》の|子《こ》の|來《きた》れるも|事《つか》へらるる|爲《ため》にあらず、|反《かへ》つて|事《つか》ふることをなし、|又《また》おほくの|人《ひと》の|贖償《あがなひ》として|己《おの》が|生命《いのち》を|與《あた》へん|爲《ため》なり』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らエリコを|出《い》づるとき、|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》イエスに|從《したが》へり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|二人《ふたり》の|盲人《めしひ》、|路《みち》の|傍《かたは》らに|坐《ざ》しをりしが、イエスの|過《す》ぎ|給《たま》ふことを|聞《き》き、|叫《さけ》びて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、ダビデの|子《こ》よ、|我《われ》らを|憫《あはれ》みたまへ』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》かれらを|禁《いまし》めて|默《もだ》さしめんとしたれど、|愈々《いよいよ》|叫《さけ》びて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、ダビデの|子《こ》よ、|我《われ》らを|憫《あはれ》み|給《たま》へ』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|立《た》ちどまり、|彼《かれ》らを|呼《よ》びて|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|汝《なんぢ》らに|何《なに》を|爲《な》さんことを|望《のぞ》むか』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|目《め》の|開《ひら》かれんことなり』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエスいたく|憫《あはれ》みて|彼《かれ》らの|目《め》に|觸《さは》り|給《たま》へば、|直《ただ》ちに|物《もの》|見《み》ることを|得《え》て、イエスに|從《したが》へり。 第二一章[#「第二一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らエルサレムに|近《ちか》づき、オリブ|山《やま》の|邊《ほとり》なるベテパゲに|到《いた》りし|時《とき》、イエス|二人《ふたり》の|弟子《でし》を|遣《つかは》さんとして|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『|向《むかひ》の|村《むら》にゆけ、やがて|繋《つな》ぎたる|驢馬《ろば》のその|子《こ》とともに|在《あ》るを|見《み》ん、|解《と》きて|我《われ》に|牽《ひ》ききたれ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》かもし|汝《なんぢ》らに|何《なに》とか|言《い》はば「|主《しゅ》の|用《よう》なり」と|言《い》へ、さらば|直《ただ》ちに|之《これ》を|遣《つかは》さん』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|事《こと》の|起《おこ》りしは、|預言者《よげんしゃ》によりて|云《い》はれたる|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。|曰《いは》く、 [#ここから2字下げ] [#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]『シオンの|娘《むすめ》に|告《つ》げよ、 「|視《み》よ、|汝《なんぢ》の|王《わう》、なんぢに|來《きた》り|給《たま》ふ。 |柔和《にうわ》にして|驢馬《ろば》に|乘《の》り、 |軛《くびき》を|負《お》ふ|驢馬《ろば》の|子《こ》に|乘《の》りて」』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|往《ゆ》きて、イエスの|命《めい》じ|給《たま》へる|如《ごと》くして、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|驢馬《ろば》とその|子《こ》とを|牽《ひ》ききたり、|己《おの》が|衣《ころも》をその|上《うへ》におきたれば、イエス|之《これ》に|乘《の》りたまふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》の|多《おほ》くはその|衣《ころも》を|途《みち》にしき、|或《ある》|者《もの》は|樹《き》の|枝《えだ》を|伐《き》りて|途《みち》に|敷《し》く。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かつ|前《まへ》にゆき|後《あと》にしたがふ|群衆《ぐんじゅう》よばはりて|言《い》ふ『ダビデの|子《こ》にホサナ、|讃《ほ》むべきかな、|主《しゅ》の|御名《みな》によりて|來《きた》る|者《もの》。いと|高《たか》き|處《ところ》にてホサナ』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にエルサレムに|入《い》り|給《たま》へば、|都《みやこ》|擧《こぞ》りて|騷《さわぎ》|立《た》ちて|言《い》ふ『これは|誰《たれ》なるぞ』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》いふ『これガリラヤのナザレより|出《い》でたる|預言者《よげんしゃ》イエスなり』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|宮《みや》に|入《い》り、その|内《うち》なる|凡《すべ》ての|賣買《うりかひ》する|者《もの》を|逐《お》ひいだし、|兩替《りゃうがへ》する|者《もの》の|臺《だい》、|鴿《はと》を|賣《う》る|者《もの》の|腰掛《こしかけ》を|倒《たふ》して|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]『「わが|家《いへ》は|祈《いのり》の|家《いへ》と|稱《とな》へらるべし」と|録《しる》されたるに、|汝《なんぢ》らは|之《これ》を|強盜《がうたう》の|巣《す》となす』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|宮《みや》にて|盲人《めしひ》・|跛者《あしなへ》ども|御許《みもと》に|來《きた》りたれば、|之《これ》を|醫《いや》したまへり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》らイエスの|爲《な》し|給《たま》へる|不思議《ふしぎ》なる|業《わざ》と、|宮《みや》にて|呼《よば》はり『ダビデの|子《こ》にホサナ』と|言《い》ひをる|子《こ》|等《ども》とを|見《み》、|憤《いきど》ほりて、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエスに|言《い》ふ『なんぢ|彼《かれ》らの|言《い》ふところを|聞《き》くか』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|然《しか》り「|嬰兒《みどりご》|乳兒《ちのみご》の|口《くち》に|讃美《さんび》を|備《そな》へ|給《たま》へり」とあるを|未《いま》だ|讀《よ》まぬか』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|彼《かれ》らを|離《はな》れ、|都《みやこ》を|出《い》でてベタニヤにゆき、そこに|宿《やど》り|給《たま》ふ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|朝《あさ》|早《はや》く|都《みやこ》にかへる|時《とき》、イエス|飢《う》ゑたまふ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|路《みち》の|傍《かたへ》なる|一《ひと》もとの|無花果《いちぢく》の|樹《き》を|見《み》て、その|下《した》に|到《いた》り|給《たま》ひしに、|葉《は》のほかに|何《なに》をも|見出《みいだ》さず、|之《これ》に|對《むか》ひて『|今《いま》より|後《のち》いつまでも|果《み》を|結《むす》ばざれ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|無花果《いちぢく》の|樹《き》たちどころに|枯《か》れたり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|之《これ》を|見《み》、|怪《あや》しみて|言《い》ふ『|無花果《いちぢく》の|樹《き》の|斯《か》く|立刻《たちどころ》に|枯《か》れたるは|何《なに》ぞや』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、もし|汝《なんぢ》ら|信仰《しんかう》ありて|疑《うたが》はずば、|啻《ただ》に|此《こ》の|無花果《いちぢく》の|樹《き》にありし|如《ごと》きことを|爲《な》し|得《う》るのみならず、|此《こ》の|山《やま》に「|移《うつ》りて|海《うみ》に|入《い》れ」と|言《い》ふとも|亦《また》|成《な》るべし。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]かつ|祈《いのり》のとき|何《なに》にても|信《しん》じて|求《もと》めば、ことごとく|得《う》べし』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|宮《みや》に|到《いた》りて|教《をし》へ|給《たま》ふとき、|祭司長《さいしちゃう》・|民《たみ》の|長老《ちゃうらう》ら|御許《みもと》に|來《きた》りて|言《い》ふ『|何《なに》の|權威《けんゐ》をもて|此《これ》|等《ら》の|事《こと》をなすか、|誰《たれ》がこの|權威《けんゐ》を|授《さづ》けしか』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|我《われ》も|一言《ひとこと》なんぢらに|問《と》はん、もし|夫《それ》を|告《つ》げなば、|我《われ》もまた|何《なに》の|權威《けんゐ》をもて|此《これ》|等《ら》のことを|爲《な》すかを|告《つ》げん。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネのバプテスマは|何處《いづこ》よりぞ、|天《てん》よりか、|人《ひと》よりか』かれら|互《たがひ》に|論《ろん》じて|言《い》ふ『もし|天《てん》よりと|言《い》はば「|何《なに》|故《ゆゑ》かれを|信《しん》ぜざりし」と|言《い》はん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]もし|人《ひと》よりと|言《い》はんか、|人《ひと》みなヨハネを|預言者《よげんしゃ》と|認《みと》むれば、|我《われ》らは|群衆《ぐんじゅう》を|恐《おそ》る』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|答《こた》へて『|知《し》らず』と|言《い》へり。イエスもまた|言《い》ひたまふ『|我《われ》も|何《なに》の|權威《けんゐ》をもて|此《これ》|等《ら》のことを|爲《な》すか|汝《なんぢ》らに|告《つ》げじ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|如何《いか》に|思《おも》ふか、|或《ある》|人《ひと》ふたりの|子《こ》ありしが、その|兄《あに》にゆきて|言《い》ふ「|子《こ》よ、|今日《けふ》、|葡萄園《ぶだうぞの》に|往《ゆ》きて|働《はたら》け」[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて「|主《しゅ》よ、|我《われ》ゆかん」と|言《い》ひて|終《つひ》に|往《ゆ》かず。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]また|弟《おとうと》にゆきて|同《おな》じやうに|言《い》ひしに、|答《こた》へて「|往《ゆ》かじ」と|言《い》ひたれど、|後《のち》くいて|往《ゆ》きたり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]この|二人《ふたり》のうち|孰《いづれ》か|父《ちち》の|意《こころ》を|爲《な》しし』|彼《かれ》らいふ『|後《のち》の|者《もの》なり』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|取税人《しゅぜいにん》と|遊女《あそびめ》とは|汝《なんぢ》らに|先《さき》だちて|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》るなり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]それヨハネ|義《ぎ》の|道《みち》をもて|來《きた》りしに、|汝《なんぢ》らは|彼《かれ》を|信《しん》ぜず、|取税人《しゅぜいにん》と|遊女《あそびめ》とは|信《しん》じたり。|然《しか》るに|汝《なんぢ》らは|之《これ》を|見《み》し|後《のち》も、なほ|悔改《くいあらた》めずして|信《しん》ぜざりき。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]また|一《ひと》つの|譬《たとへ》を|聽《き》け、ある|家主《いへあるじ》、|葡萄園《ぶだうぞの》をつくりて|籬《まがき》をめぐらし、|中《なか》に|酒槽《さかぶね》を|掘《ほ》り、|櫓《やぐら》を|建《た》て、|農夫《のうふ》どもに|貸《か》して|遠《とほ》く|旅立《たびだち》せり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|果期《みのりどき》ちかづきたれば、その|果《み》を|受取《うけと》らんとて|僕《しもべ》らを|農夫《のうふ》どもの|許《もと》に|遣《つかは》ししに、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|農夫《のうふ》どもその|僕《しもべ》らを|執《とら》へて、|一人《ひとり》を|打《う》ちたたき、|一人《ひとり》をころし、|一人《ひとり》を|石《いし》にて|撃《う》てり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|復《また》ほかの|僕《しもべ》らを|前《まへ》よりも|多《おほ》く|遣《つかは》ししに、|之《これ》をも|同《おな》じやうに|遇《あ》へり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]「わが|子《こ》は|敬《うやま》ふならん」と|言《い》ひて、|遂《つひ》にその|子《こ》を|遣《つかは》ししに、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|農夫《のうふ》ども|此《こ》の|子《こ》を|見《み》て|互《たがひ》に|言《い》ふ「これは|世嗣《よつぎ》なり、いざ|殺《ころ》して、その|嗣業《しげふ》を|取《と》らん」[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|之《これ》をとらへ、|葡萄園《ぶだうぞの》の|外《そと》に|逐《お》ひ|出《いだ》して|殺《ころ》せり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]さらば|葡萄園《ぶだうぞの》の|主人《あるじ》きたる|時《とき》、この|農夫《のうふ》どもに|何《なに》を|爲《な》さんか』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]かれら|言《い》ふ『その|惡人《あくにん》どもを|飽《あ》くまで|滅《ほろぼ》し、|果期《みのりどき》におよびて|果《み》を|納《をさ》むる|他《ほか》の|農夫《のうふ》どもに|葡萄園《ぶだうぞの》を|貸《か》し|與《あた》ふべし』[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|聖書《せいしょ》に、 [#ここから2字下げ] 「|造家者《いへつくり》らの|棄《す》てたる|石《いし》は、 これぞ|隅《すみ》の|首石《おやいし》となれる、 これ|主《しゅ》によりて|成《な》れるにて、 |我《われ》らの|目《め》には|奇《くす》しきなり」 [#ここで字下げ終わり] とあるを|汝《なんぢ》ら|未《いま》だ|讀《よ》まぬか。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|汝《なんぢ》らは|神《かみ》の|國《くに》をとられ、|其《そ》の|果《み》を|結《むす》ぶ|國人《くにびと》は、|之《これ》を|與《あた》へらるべし。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]この|石《いし》の|上《うへ》に|倒《たふ》るる|者《もの》はくだけ、|又《また》この|石《いし》、|人《ひと》のうへに|倒《たふ》るれば、|其《そ》の|人《ひと》を|微塵《みじん》とせん』[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》・パリサイ|人《びと》ら、イエスの|譬《たとへ》をきき、|己《おのれ》らを|指《さ》して|語《かた》り|給《たま》へるを|悟《さと》り、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]イエスを|執《とら》へんと|思《おも》へど|群衆《ぐんじゅう》を|恐《おそ》れたり、|群衆《ぐんじゅう》かれを|預言者《よげんしゃ》とするに|因《よ》る。 第二二章[#「第二二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエスまた|譬《たとへ》をもて|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『|天國《てんこく》は|己《おの》が|子《こ》のために|婚筵《こんえん》を|設《まう》くる|王《わう》のごとし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|婚筵《こんえん》に|招《まね》きおきたる|人々《ひとびと》を|迎《むか》へんとて|僕《しもべ》どもを|遺《のこ》ししに、|來《きた》るを|肯《うけが》はず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|復《また》ほかの|僕《しもべ》どもを|遣《つかは》すとて|言《い》ふ「|招《まね》きたる|人々《ひとびと》に|告《つ》げよ、|視《み》よ、|晝餐《ひるげ》は|既《すで》に|備《そなは》りたり。|我《わ》が|牛《うし》も|肥《こ》えたる|畜《けもの》も|屠《ほふ》られて、|凡《すべ》ての|物《もの》|備《そなは》りたれば、|婚筵《こんえん》に|來《きた》れと」[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|人々《ひとびと》|顧《かへり》みずして、|或《ある》|者《もの》は|己《おの》が|畑《はた》に、|或《ある》|者《もの》は|己《おの》が|商賣《あきなひ》に|往《ゆ》けり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》の|者《もの》は|僕《しもべ》を|執《とら》へて、|辱《はづか》しめかつ|殺《ころ》したれば、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》|怒《いか》りて|軍勢《ぐんぜい》を|遣《つかは》し、かの|兇行者《きゃうかうしゃ》を|滅《ほろぼ》して|其《そ》の|町《まち》を|燒《や》きたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かくて|僕《しもべ》どもに|言《い》ふ「|婚筵《こんえん》は|既《すで》に|備《そなは》りたれど、|招《まね》きたる|者《もの》どもは|相應《ふさは》しからず。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》ら|街《ちまた》に|往《ゆ》きて、|遇《あ》ふほどの|者《もの》を|婚筵《こんえん》に|招《まね》け」[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》ども|途《みち》に|出《い》でて、|善《よ》きも|惡《あ》しきも|遇《あ》ふほどの|者《もの》をみな|集《あつ》めたれば、|婚禮《こんれい》の|席《せき》は|客《きゃく》にて|滿《み》てり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》、|客《きゃく》を|見《み》んとて|入《い》り|來《きた》り、|一人《ひとり》の|禮服《れいふく》を|著《つ》けぬ|者《もの》あるを|見《み》て、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|言《い》ふ「|友《とも》よ、|如何《いか》なれば|禮服《れいふく》を|著《つ》けずして|此處《ここ》に|入《い》りたるか」かれ|默《もく》しゐたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|王《わう》、|侍者《じしゃ》らに|言《い》ふ「その|手《て》|足《あし》を|縛《しば》りて|外《そと》の|暗黒《くらき》に|投《な》げいだせ、|其處《そこ》にて|哀哭《なげき》・|切齒《はがみ》することあらん」[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]それ|招《まね》かるる|者《もの》は|多《おほ》かれど、|選《えら》ばるる|者《もの》は|少《すくな》し』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ここにパリサイ|人《びと》ら|出《い》でて、|如何《いか》にしてかイエスを|言《ことば》の|羂《わな》に|係《か》けんと|相《あひ》|議《はか》り、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]その|弟子《でし》らをヘロデ|黨《たう》の|者《もの》どもと|共《とも》に|遺《のこ》して|言《い》はしむ『|師《し》よ、|我《われ》らは|知《し》る、なんじは|眞《まこと》にして、|眞《まこと》をもて|神《かみ》の|道《みち》を|教《をし》へ、かつ|誰《たれ》をも|憚《はばか》りたまふ|事《こと》なし、|人《ひと》の|外貌《うはべ》を|見《み》|給《たま》はぬ|故《ゆゑ》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》らに|告《つ》げたまへ、|貢《みつぎ》をカイザルに|納《をさ》むるは|可《よ》きか、|惡《あ》しきか、|如何《いか》に|思《おも》ひたまふ』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|邪曲《よこしま》なるを|知《し》りて|言《い》ひたまふ『|僞善者《ぎぜんしゃ》よ、なんぞ|我《われ》を|試《こころ》むるか。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|貢《みつぎ》の|金《かね》を|我《われ》に|見《み》せよ』|彼《かれ》らデナリ|一《ひと》つを|持《も》ち|來《きた》る。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『これは|誰《たれ》の|像《かたち》、たれの|號《しるし》なるか』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|言《い》ふ『カイザルのなり』ここに|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『さらばカイザルの|物《もの》はカイザルに、|神《かみ》の|物《もの》は|神《かみ》に|納《をさ》めよ』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|之《これ》を|聞《き》きて|怪《あや》しみ、イエスを|離《はな》れて|去《さ》り|往《ゆ》けり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|復活《よみがへり》なしといふサドカイ|人《びと》ら、その|日《ひ》みもとに|來《きた》り|問《と》ひて|言《い》ふ[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]『|師《し》よ、モーセは「|人《ひと》もし|子《こ》なくして|死《し》なば、|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》かれの|妻《つま》を|娶《めと》りて、|兄弟《きゃうだい》のために|世嗣《よつぎ》を|擧《あ》ぐべし」と|云《い》へり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|中《うち》に|七人《しちにん》の|兄弟《きゃうだい》ありしが、|兄《あに》めとりて|死《し》に、|世嗣《よつぎ》なくして|其《そ》の|妻《つま》を|弟《おとうと》に|遺《のこ》したり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]その|二《に》その|三《さん》より、その|七《しち》まで|皆《みな》かくの|如《ごと》く|爲《な》し、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|最後《いやはて》にその|女《をんな》も|死《し》にたり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]されば|復活《よみがへり》の|時《とき》、その|女《をんな》は|七人《しちにん》のうち|誰《たれ》の|妻《つま》たるべきか、|彼《かれ》ら|皆《みな》これを|妻《つま》としたればなり』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|聖書《せいしょ》をも|神《かみ》の|能力《ちから》をも|知《し》らぬ|故《ゆゑ》に|誤《あやま》れり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]それ|人《ひと》よみがへりの|時《とき》は、|娶《めと》らず|嫁《とつ》がず、|天《てん》に|在《あ》る|御使《みつかひ》たちの|如《ごと》し。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|死人《しにん》の|復活《よみがへり》に|就《つ》きては、|神《かみ》なんぢらに|告《つ》げて、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]「|我《われ》はアブラハムの|神《かみ》、イサクの|神《かみ》、ヤコブの|神《かみ》なり」と|言《い》ひ|給《たま》へることを|未《いま》だ|讀《よ》まぬか。|神《かみ》は|死《し》にたる|者《もの》の|神《かみ》にあらず、|生《い》ける|者《もの》の|神《かみ》なり』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》これを|聞《き》きて|其《そ》の|教《をしへ》に|驚《をどろ》けり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》ら、イエスのサドカイ|人《びと》らを|默《もだ》さしめ|給《たま》ひしことを|聞《き》きて|相《あひ》|集《あつま》り、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》なる|一人《ひとり》の|教法師《けうはふし》、イエスを|試《こころ》むる|爲《ため》に|問《と》ふ[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]『|師《し》よ、|律法《おきて》のうち|孰《いづれ》の|誡命《いましめ》が|大《おほい》なる』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『「なんぢ|心《こころ》を|盡《つく》し、|精神《せいしん》を|盡《つく》し、|思《おもひ》を|盡《つく》して|主《しゅ》なる|汝《なんぢ》の|神《かみ》を|愛《あい》すべし」[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]これは|大《おほい》にして|第一《だいいち》の|誡命《いましめ》なり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|第二《だいに》もまた|之《これ》にひとし「おのれの|如《ごと》くなんぢの|隣《となり》を|愛《あい》すべし」[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》|全體《ぜんたい》と|預言者《よげんしゃ》とは|此《こ》の|二《ふた》つの|誡命《いましめ》に|據《よ》るなり』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》らの|集《あつま》りたる|時《とき》、イエス|彼《かれ》らに|問《と》ひて|言《い》ひ|給《たま》ふ[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢらはキリストに|就《つ》きて|如何《いか》に|思《おも》ふか、|誰《たれ》の|子《こ》なるか』かれら|言《い》ふ『ダビデの|子《こ》なり』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『さらばダビデ|御靈《みたま》に|感《かん》じて|何《なに》|故《ゆゑ》かれを|主《しゅ》と|稱《とな》ふるか。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] [#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]「|主《しゅ》わが|主《しゅ》に|言《い》ひ|給《たま》ふ、 われ|汝《なんぢ》の|敵《てき》を|汝《なんぢ》の|足《あし》の|下《した》に|置《お》くまでは、 |我《わ》が|右《みぎ》に|坐《ざ》せよ」 [#ここで字下げ終わり] [#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くダビデ|彼《かれ》を|主《しゅ》と|稱《とな》ふれば、|爭《いか》でその|子《こ》ならんや』[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|一言《ひとこと》だに|答《こた》ふること|能《あた》はず、その|日《ひ》より|敢《あ》へて|復《また》イエスに|問《と》ふ|者《もの》なかりき。 第二三章[#「第二三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|群衆《ぐんじゅう》と|弟子《でし》たちとに|語《かた》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『|學者《がくしゃ》とパリサイ|人《びと》とはモーセの|座《ざ》を|占《し》む。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されば|凡《すべ》てその|言《い》ふ|所《ところ》は|守《まも》りて|行《おこな》へ、されどその|所作《しわざ》には|效《なら》ふな、|彼《かれ》らは|言《い》ふのみにて|行《おこな》はぬなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|重《おも》き|荷《に》を|括《くく》りて|人《ひと》の|肩《かた》にのせ、|己《おのれ》は|指《ゆび》にて|之《これ》を|動《うご》かさんともせず。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》てその|所作《しわざ》は|人《ひと》に|見《み》られん|爲《ため》にするなり。|即《すなは》ちその|經札《きゃうふだ》を|幅《はば》ひろくし、|衣《ころも》の|總《ふさ》を|大《おほき》くし、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|饗宴《ふるまひ》の|上席《じゃうせき》、|會堂《くわいだう》の|上座《じゃうざ》、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|市場《いちば》にての|敬禮《けいれい》、また|人《ひと》にラビと|呼《よ》ばるることを|好《この》む。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らはラビの|稱《となへ》を|受《う》くな、|汝《なんぢ》らの|師《し》は|一人《ひとり》にして、|汝《なんぢ》|等《ら》はみな|兄弟《きゃうだい》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|地《ち》にある|者《もの》を|父《ちち》と|呼《よ》ぶな、|汝《なんぢ》らの|父《ちち》は|一人《ひとり》、すなはち|天《てん》に|在《いま》す|者《もの》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|導師《だうし》の|稱《となへ》を|受《う》くな、|汝《なんぢ》らの|導師《だうし》はひとり、|即《すなは》ちキリストなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|大《おほい》なる|者《もの》は、|汝《なんぢ》らの|役者《えきしゃ》とならん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そおのれを|高《たか》うする|者《もの》は|卑《ひく》うせられ、|己《おのれ》を|卑《ひく》うする|者《もの》は|高《たか》うせらるるなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|僞善《ぎぜん》なる|學者《がくしゃ》、パリサイ|人《びと》よ、なんぢらは|人《ひと》の|前《まへ》に|天國《てんこく》を|閉《とざ》して|自《みづか》ら|入《い》らず、|入《い》らんとする|人《ひと》の|入《い》るをも|許《ゆる》さぬなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|僞善《ぎぜん》なる|學者《がくしゃ》、パリサイ|人《びと》よ、|汝《なんぢ》らは|一人《ひとり》の|改宗者《かいしゅうしゃ》を|得《え》んために|海《うみ》|陸《をか》を|經《へ》めぐり、|既《すで》に|得《う》れば、|之《これ》を|己《おのれ》に|倍《ばい》したるゲヘナの|子《こ》となすなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|盲目《めしひ》なる|手引《てびき》よ、なんぢらは|言《い》ふ「|人《ひと》もし|宮《みや》を|指《さ》して|誓《ちか》はば|事《こと》なし、|宮《みや》の|黄金《こがね》を|指《さ》して|誓《ちか》はば|果《はた》さざるべからず」と。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|愚《おろか》にして|盲目《めしひ》なる|者《もの》よ、|黄金《こがね》と|黄金《こがね》を|聖《せい》ならしむる|宮《みや》とは|孰《いづれ》か|貴《たふと》き。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|又《また》いふ「|人《ひと》もし|祭壇《さいだん》を|指《さ》して|誓《ちか》はば|事《こと》なし、|其《そ》の|上《うへ》の|供物《そなへもの》を|指《さ》して|誓《ちか》はば|果《はた》さざるべからず」と。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|盲目《めしひ》なる|者《もの》よ、|供物《そなへもの》と|供物《そなへもの》を|聖《せい》ならしむる|祭壇《さいだん》とは|孰《いづれ》か|貴《たふと》き。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]されば|祭壇《さいだん》を|指《さ》して|誓《ちか》ふ|者《もの》は、|祭壇《さいだん》とその|上《うへ》の|凡《すべ》ての|物《もの》とを|指《さ》して|誓《ちか》ふなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|宮《みや》を|指《さ》して|誓《ちか》ふ|者《もの》は、|宮《みや》とその|内《うち》に|住《す》みたまふ|者《もの》とを|指《さ》して|誓《ちか》ふなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]また|天《てん》を|指《さ》して|誓《ちか》ふ|者《もの》は、|神《かみ》の|御座《みくら》とその|上《うへ》に|坐《ざ》したまふ|者《もの》とを|指《さ》して|誓《ちか》ふなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|僞善《ぎぜん》なる|學者《がくしゃ》、パリサイ|人《びと》よ、|汝《なんぢ》らは|薄荷《はくか》・|蒔蘿《いのんど》・クミンの|十分《じふぶん》の|一《いち》を|納《をさ》めて、|律法《おきて》の|中《うち》にて|尤《もっと》も|重《おも》き|公平《こうへい》と|憐憫《あはれみ》と|忠信《ちうしん》とを|等閑《なほざり》にす。されど|之《これ》は|行《おこな》ふべきものなり、|而《しか》して、|彼《かれ》もまた|等閑《なほざり》にすべきものならず。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|盲目《めしひ》なる|手引《てびき》よ、|汝《なんぢ》らは|蚋《ぶよ》を|漉《こ》し|出《いだ》して|駱駝《らくだ》を|呑《の》むなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|僞善《ぎぜん》なる|學者《がくしゃ》、パリサイ|人《びと》よ、|汝《なんぢ》らは|酒杯《さかづき》と|皿《さら》との|外《そと》を|潔《きよ》くす、されど|内《うち》は|貪慾《どんよく》と|放縱《はうじゅう》とにて|滿《み》つるなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|盲目《めしひ》なるパリサイ|人《びと》よ、|汝《なんぢ》まづ|酒杯《さかづき》の|内《うち》を|潔《きよ》めよ、さらば|外《そと》も|潔《きよ》くなるべし。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|僞善《ぎぜん》なる|學者《がくしゃ》、パリサイ|人《びと》よ、|汝《なんぢ》らは|白《しろ》く|塗《ぬ》りたる|墓《はか》に|似《に》たり、|外《そと》は|美《うるわ》しく|見《み》ゆれども、|内《うち》は|死人《しにん》の|骨《ほね》とさまざまの|穢《けがれ》とにて|滿《み》つ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]かくのごとく|汝《なんぢ》らも|外《そと》は|人《ひと》に|正《ただ》しく|見《み》ゆれども、|内《うち》は|僞善《ぎぜん》と|不法《ふはふ》とにて|滿《み》つるなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|僞善《ぎぜん》なる|學者《がくしゃ》、パリサイ|人《びと》よ、|汝《なんぢ》らは|預言者《よげんしゃ》の|墓《はか》をたて、|義人《ぎじん》の|碑《ひ》を|飾《かざ》りて|言《い》ふ、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]「|我《われ》らもし|先祖《せんぞ》の|時《とき》にありしならば、|預言者《よげんしゃ》の|血《ち》を|流《なが》すことに|與《くみ》せざりしものを」と。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]かく|汝《なんぢ》らは|預言者《よげんしゃ》を|殺《ころ》しし|者《もの》の|子《こ》たるを|自《みづか》ら|證《あかし》す。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|己《おの》が|先祖《せんぞ》の|桝目《ますめ》を|充《みた》せ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|蛇《へび》よ、|蝮《まむし》の|裔《すゑ》よ、なんぢら|爭《いか》でゲヘナの|刑罰《けいばつ》を|避《さ》け|得《え》んや。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|視《み》よ、|我《われ》なんぢらに|預言者《よげんしゃ》・|智者《ちしゃ》・|學者《がくしゃ》らを|遣《つかは》さんに、|其《そ》の|中《うち》の|或《ある》|者《もの》を|殺《ころ》し、|十字架《じふじか》につけ、|或《ある》|者《もの》を|汝《なんぢ》らの|會堂《くわいだう》にて|鞭《むち》うち、|町《まち》より|町《まち》に|逐《お》ひ|苦《くる》しめん。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|義人《ぎじん》アベルの|血《ち》より、|聖所《せいじょ》と|祭壇《さいだん》との|間《あひだ》にて|汝《なんぢ》らが|殺《ころ》ししバラキヤの|子《こ》ザカリヤの|血《ち》に|至《いた》るまで、|地上《ちじゃう》にて|流《なが》したる|正《ただ》しき|血《ち》は、|皆《みな》なんぢらに|報《むく》い|來《きた》らん。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、これらの|事《こと》はみな|今《いま》の|代《よ》に|報《むく》い|來《きた》るべし。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ああエルサレム、エルサレム、|預言者《よげんしゃ》たちを|殺《ころ》し、|遣《つかは》されたる|人々《ひとびと》を|石《いし》にて|撃《う》つ|者《もの》よ、|牝鷄《めんどり》のその|雛《ひな》を|翼《つばさ》の|下《した》に|集《あつ》むるごとく、|我《われ》なんぢの|子《こ》どもを|集《あつ》めんとせしこと|幾度《いくたび》ぞや、されど|汝《なんぢ》らは|好《この》まざりき。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|汝《なんぢ》らの|家《いへ》は|廢《す》てられて|汝《なんぢ》らに|遺《のこ》らん。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ「|讃《ほ》むべきかな、|主《しゅ》の|名《な》によりて|來《きた》る|者《もの》」と、|汝《なんぢ》|等《ら》のいふ|時《とき》の|至《いた》るまでは、|今《いま》より|我《われ》を|見《み》ざるべし』 第二四章[#「第二四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|宮《みや》を|出《い》でてゆき|給《たま》ふとき、|弟子《でし》たち|宮《みや》の|建造物《たてもの》を|示《しめ》さんとて|御許《みもと》に|來《きた》りしに、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|此《こ》の|一切《すべて》の|物《もの》を|見《み》ぬか。|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|此處《ここ》に|一《ひと》つの|石《いし》も|崩《くづ》されずしては|石《いし》の|上《うへ》に|遺《のこ》らじ』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]オリブ|山《やま》に|坐《ざ》し|給《たま》ひしとき、|弟子《でし》たち|竊《ひそか》に|御許《みもと》に|來《きた》りて|言《い》ふ『われらに|告《つ》げ|給《たま》へ、これらの|事《こと》は|何時《いつ》あるか、|又《また》なんぢの|來《きた》り|給《たま》ふと|世《よ》の|終《をはり》とには、|何《なに》の|兆《しるし》あるか』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|人《ひと》に|惑《まどは》されぬやうに|心《こころ》せよ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|者《もの》わが|名《な》を|冒《をか》し|來《きた》り「|我《われ》はキリストなり」と|言《い》ひて|多《おほ》くの|人《ひと》を|惑《まどは》さん。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》なんぢら|戰爭《いくさ》と|戰爭《いくさ》の|噂《うはさ》とを|聞《き》かん、|愼《つつし》みて|懼《おそ》るな。かかる|事《こと》はあるべきなり、されど|未《いま》だ|終《をはり》にはあらず。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち「|民《たみ》は|民《たみ》に、|國《くに》は|國《くに》に|逆《さから》ひて|起《た》たん」また|處々《ところどころ》に|饑饉《ききん》と|地震《ぢしん》とあらん、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》はみな|産《うみ》の|苦難《くるしみ》の|始《はじめ》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]そのとき|人々《ひとびと》なんぢらを|患難《なやみ》に|付《わた》し、また|殺《ころ》さん、|汝《なんぢ》|等《ら》わが|名《な》の|爲《ため》に、もろもろの|國人《くにびと》に|憎《にく》まれん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》おほくの|人《ひと》つまづき、|且《かつ》たがひに|付《わた》し、|互《たがひ》に|憎《にく》まん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》おこりて、|多《おほ》くの|人《ひと》を|惑《まどは》さん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]また|不法《ふはふ》の|増《ま》すによりて、|多《おほ》くの|人《ひと》の|愛《あい》ひややかにならん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されど|終《をはり》まで|耐《た》へしのぶ|者《もの》は|救《すく》はるべし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|御國《みくに》のこの|福音《ふくいん》は、もろもろの|國人《くにびと》に|證《あかし》をなさんため|全世界《ぜんせかい》に|宣傅《のべつた》へられん、|而《しか》してのち|終《をはり》は|至《いた》るべし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|預言者《よげんしゃ》ダニエルによりて|言《い》はれたる「|荒《あら》す|惡《にく》むべき|者《もの》」の|聖《せい》なる|處《ところ》に|立《た》つを|見《み》ば(|讀《よ》む|者《もの》さとれ)[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》ユダヤに|居《を》る|者《もの》どもは|山《やま》に|遁《のが》れよ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|屋《や》の|上《うへ》に|居《を》る|者《もの》はその|家《いへ》の|物《もの》を|取《と》り|出《いだ》さんとして|下《くだ》るな。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|畑《はた》にをる|者《もの》は|上衣《うはぎ》を|取《と》らんとて|歸《かへ》るな。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》には|孕《みごも》りたる|者《もの》と|乳《ちち》を|哺《の》まする|者《もの》とは|禍害《わざはひ》なるかな。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|遁《に》ぐることの|冬《ふゆ》または|安息《あんそく》|日《にち》に|起《おこ》らぬように|祈《いの》れ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]そのとき|大《おほい》なる|患難《なやみ》あらん、|世《よ》の|創《はじめ》より|今《いま》に|至《いた》るまでかかる|患難《なやみ》はなく、また|後《のち》にも|無《な》からん。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》もし|少《すくな》くせられずば、|一人《ひとり》だに|救《すく》はるる|者《もの》なからん、されど|選民《せんみん》の|爲《ため》にその|日《ひ》|少《すくな》くせらるべし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》あるひは「|視《み》よ、キリスト|此處《ここ》にあり」|或《あるひ》は「|此處《ここ》にあり」と|言《い》ふ|者《もの》ありとも|信《しん》ずな。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|僞《にせ》キリスト・|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》おこりて、|大《おほい》なる|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》とを|現《あらは》し、|爲《な》し|得《う》べくば|選民《せんみん》をも|惑《まどは》さんとするなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、あらかじめ|之《これ》を|汝《なんぢ》らに|告《つ》げおくなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]されば|人《ひと》もし|汝《なんぢ》らに「|視《み》よ、|彼《かれ》は|荒野《あらの》にあり」といふとも|出《い》で|往《ゆ》くな「|視《み》よ、|彼《かれ》は|部屋《へや》にあり」と|言《い》ふとも|信《しん》ずな。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|電光《いなづま》の|東《ひがし》より|出《い》でて|西《にし》にまで|閃《ひらめ》きわたる|如《ごと》く、|人《ひと》の|子《こ》の|來《きた》るも|亦《また》|然《しか》らん。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]それ|死骸《しがい》のある|處《ところ》には|鷲《わし》あつまらん。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]これらの|日《ひ》の|患難《なやみ》ののち|直《ただ》ちに|日《ひ》は|暗《くら》く、|月《つき》は|光《ひかり》を|發《はな》たず、|星《ほし》は|空《そら》より|隕《お》ち、|天《てん》の|萬象《ばんしゃう》ふるひ|動《うご》かん。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]そのとき|人《ひと》の|子《こ》の|兆《しるし》、|天《てん》に|現《あらは》れん。そのとき|地上《ちじゃう》の|諸族《しょぞく》みな|嘆《なげ》き、かつ|人《ひと》の|子《こ》の|能力《ちから》と|大《おほい》なる|榮光《えいくわう》とをもて、|天《てん》の|雲《くも》に|乘《の》り|來《きた》るを|見《み》ん。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》は|使《つかひ》たちを|大《おほい》なるラッパの|聲《こゑ》とともに|遣《つかは》さん。|使《つかひ》たちは|天《てん》の|此《こ》の|極《はて》より|彼《か》の|極《はて》まで、|四方《しはう》より|選民《せんみん》を|集《あつ》めん。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|無花果《いちぢく》の|樹《き》よりの|譬《たとへ》をまなべ、その|枝《えだ》すでに|柔《やはら》かくなりて|葉《は》|芽《め》ぐめば、|夏《なつ》の|近《ちか》きを|知《し》る。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かくのごとく|汝《なんぢ》らも|此《これ》|等《ら》のすべての|事《こと》を|見《み》ば、|人《ひと》の|子《こ》すでに|近《ちか》づきて|門邊《かどべ》に|到《いた》るを|知《し》れ。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、これらの|事《こと》ことごとく|成《な》るまで、|今《いま》の|代《よ》は|過《す》ぎ|往《ゆ》くまじ。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》|地《ち》は|過《す》ぎゆかん、されど|我《わ》が|言《ことば》は|過《す》ぎ|往《ゆ》くことなし。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》その|時《とき》を|知《し》る|者《もの》なし、|天《てん》の|使《つかひ》たちも|知《し》らず、|子《こ》も|知《し》らず、ただ|父《ちち》のみ|知《し》り|給《たま》ふ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ノアの|時《とき》のごとく|人《ひと》の|子《こ》の|來《きた》るも|然《しか》あるべし。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|曾《かつ》て|洪水《こうずゐ》の|前《まへ》ノア|方舟《はこぶね》に|入《い》る|日《ひ》までは、|人々《ひとびと》|飮《の》み|食《く》ひ、|娶《めと》り|嫁《とつ》がせなどし、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|洪水《こうずゐ》の|來《きた》りて|悉《ことご》とく|滅《ほろび》すまでは|知《し》らざりき、|人《ひと》の|子《こ》の|來《きた》るも|然《しか》あるべし。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]そのとき|二人《ふたり》の|男《をとこ》|畑《はた》にをらんに、|一人《ひとり》は|取《と》られ|一人《ひとり》は|遺《のこ》されん。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》の|女《をんな》|磨《うす》ひき|居《を》らんに、|一人《ひとり》は|取《と》られ|一人《ひとり》は|遺《のこ》されん。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]されば|目《め》を|覺《さま》しをれ、|汝《なんぢ》らの|主《しゅ》のきたるは、|何《いづ》れの|日《ひ》なるかを|知《し》らざればなり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》これを|知《し》れ、|家主《いへあるじ》もし|盜人《ぬすびと》いづれの|時《とき》きたるかを|知《し》らば、|目《め》をさまし|居《ゐ》て、その|家《いへ》を|穿《うが》たすまじ。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らも|備《そな》へをれ、|人《ひと》の|子《こ》は|思《おも》はぬ|時《とき》に|來《きた》ればなり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》が|時《とき》に|及《およ》びて|食物《しょくもつ》を|與《あた》へさする|爲《ため》に、|家《いへ》の|者《もの》のうへに|立《た》てたる|忠實《まめやか》にして|慧《さと》き|僕《しもべ》は|誰《たれ》なるか。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》のきたる|時《とき》、かく|爲《な》し|居《を》るを|見《み》らるる|僕《しもべ》は|幸福《さいはひ》なり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|主人《しゅじん》すべての|所有《もちもの》を|彼《かれ》に|掌《つかさ》どらすべし。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]もしその|僕《しもべ》|惡《あ》しくして、|心《こころ》のうちに|主人《しゅじん》は|遲《おそ》しと|思《おも》ひて、[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]その|同輩《どうはい》を|※[#「てへん+卜」、第4水準2-12-88]《たた》きはじめ、|酒徒《さけのみ》らと|飮食《のみくひ》を|共《とも》にせば、[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]その|僕《しもべ》の|主人《しゅじん》おもはぬ|日《ひ》しらぬ|時《とき》に|來《きた》りて、[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|烈《はげ》しく|笞《しもと》うち、その|報《むくい》を|僞善者《ぎぜんしゃ》と|同《おな》じうせん。|其處《そこ》にて|哀哭《なげき》・|切齒《はがみ》することあらん。 第二五章[#「第二五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]このとき|天國《てんこく》は、|燈火《ともしび》を|執《と》りて|新郎《はなむこ》を|迎《むか》へに|出《い》づる、|十《じふ》|人《にん》の|處女《をとめ》に|比《なずら》ふべし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》の|五《ご》|人《にん》は|愚《おろか》にして|五《ご》|人《にん》は|慧《さと》し。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|愚《おろか》なる|者《もの》は|燈火《ともしび》をとりて|油《あぶら》を|携《たづさ》へず、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|慧《さと》きものは|油《あぶら》を|器《うつは》に|入《い》れて|燈火《ともしび》とともに|携《たづさ》へたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|新郎《はなむこ》|遲《おそ》かりしかば、|皆《みな》まどろみて|寢《い》ぬ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|夜半《よなか》に「やよ、|新郎《はなむこ》なるぞ、|出《い》で|迎《むか》へよ」と|呼《よば》はる|聲《こゑ》す。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|處女《をとめ》みな|起《お》きてその|燈火《ともしび》を|整《ととの》へたるに、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|愚《おろか》なる|者《もの》は|慧《さと》きものに|言《い》ふ「なんぢらの|油《あぶら》を|分《わ》けあたへよ、|我《われ》らの|燈火《ともしび》きゆるなり」[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|慧《さと》きもの|答《こた》へて|言《い》ふ「|恐《おそ》らくは|我《われ》らと|汝《なんぢ》らとに|足《た》るまじ、|寧《むし》ろ|賣《う》るものに|往《ゆ》きて|己《おの》がために|買《か》へ」[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|買《か》はんとて|往《ゆ》きたる|間《ま》に|新郎《はなむこ》きたりたれば、|備《そな》へをりし|者《もの》どもは|彼《かれ》とともに|婚筵《こんえん》にいり、|而《しか》して|門《もん》は|閉《とざ》されたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|後《のち》かの|他《ほか》の|處女《をとめ》ども|來《きた》りて「|主《しゅ》よ、|主《しゅ》よ、われらの|爲《ため》にひらき|給《たま》へ」と|言《い》ひしに、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて「まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|我《われ》は|汝《なんぢ》らを|知《し》らず」と|言《い》へり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されば|目《め》を|覺《さま》しをれ、|汝《なんぢ》らは|其《そ》の|日《ひ》その|時《とき》を|知《し》らざるなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]また|或《ある》|人《ひと》とほく|旅立《たびだち》せんとして、|其《そ》の|僕《しもべ》どもを|呼《よ》び、|之《これ》に|己《おの》が|所有《もちもの》を|預《あづ》くるが|如《ごと》し。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|各人《おのおの》の|能力《ちから》に|應《おう》じて、|或《ある》|者《もの》には|五《ご》タラント、|或《ある》|者《もの》には|二《に》タラント、|或《ある》|者《もの》には|一《いち》タラントを|與《あた》へ|置《お》きて|旅立《たびだち》せり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|五《ご》タラントを|受《う》けし|者《もの》は、|直《ただ》ちに|往《ゆ》き、|之《これ》をはたらかせて|他《ほか》に|五《ご》タラントを|贏《まう》け、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|二《に》タラントを|受《う》けし|者《もの》も|同《おな》じく|他《ほか》に|二《に》タラントを|贏《まう》く。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|一《いち》タラントを|受《う》けし|者《もの》は、|往《ゆ》きて|地《ち》を|掘《ほ》り、その|主人《しゅじん》の|銀《かね》をかくし|置《お》けり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|久《ひさ》しうして|後《のち》この|僕《しもべ》どもの|主人《しゅじん》きたりて|彼《かれ》らと|計算《けいさん》したるに、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|五《ご》タラントを|受《う》けし|者《もの》は|他《ほか》に|五《ご》タラントを|持《も》ちきたりて|言《い》ふ「|主《しゅ》よ、なんぢ|我《われ》に|五《ご》タラントを|預《あづ》けたりしが、|視《み》よ、|他《ほか》に|五《ご》タラントを|贏《まう》けたり」[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》いふ「|宜《よ》いかな、|善《ぜん》かつ|忠《ちゅう》なる|僕《しもべ》、なんぢは|僅《わづか》なる|物《もの》に|忠《ちゅう》なりき。|我《われ》なんぢに|多《おほ》くの|物《もの》を|掌《つかさ》どらせん、|汝《なんぢ》の|主人《しゅじん》の|勸喜《よろこび》に|入《い》れ」[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|二《に》タラントを|受《う》けし|者《もの》も|來《きた》りて|言《い》ふ「|主《しゅ》よ、なんぢ|我《われ》に|二《に》タラントを|預《あづ》けたりしが、|視《み》よ、|他《ほか》に|二《に》タラントを|贏《まう》けたり」[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》いふ「|宜《よ》いかな、|善《ぜん》かつ|忠《ちゅう》なる|僕《しもべ》、なんぢは|僅《わづか》なる|物《もの》に|忠《ちゅう》なりき。|我《われ》なんぢに|多《おほ》くの|物《もの》を|掌《つかさ》どらせん、|汝《なんぢ》の|主人《しゅじん》の|勸喜《よろこび》にいれ」[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]また|一《いち》タラントを|受《う》けし|者《もの》もきたりて|言《い》ふ「|主《しゅ》よ、|我《われ》はなんぢの|嚴《きび》しき|人《ひと》にて、|播《ま》かぬ|處《ところ》より|刈《か》り、|散《ち》らさぬ|處《ところ》より|斂《あつ》むることを|知《し》るゆゑに、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|懼《おそ》れてゆき、|汝《なんぢ》のタラントを|地《ち》に|藏《かく》しおけり。|視《み》よ、|汝《なんぢ》はなんぢの|物《もの》を|得《え》たり」[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》こたへて|言《い》ふ「|惡《あ》しくかつ|惰《おこた》れる|僕《しもべ》、わが|播《ま》かぬ|處《ところ》より|刈《か》り、|散《ちら》さぬ|處《ところ》より|斂《あつ》むることを|知《し》るか。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]さらば|我《わ》が|銀《かね》を|銀行《ぎんかう》にあづけ|置《お》くべかりしなり、|我《われ》きたりて|利子《りし》とともに|我《わ》が|物《もの》をうけ|取《と》りしものを。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]されば|彼《かれ》のタラントを|取《と》りて|十《じふ》タラントを|有《も》てる|人《ひと》に|與《あた》へよ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]すべて|有《も》てる|人《ひと》は、|與《あた》へられて|愈々《いよいよ》|豐《ゆたか》ならん。されど|有《も》たぬ|者《もの》は、その|有《も》てる|物《もの》をも|取《と》らるべし。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|此《こ》の|無《む》|益《えき》なる|僕《しもべ》を|外《そと》の|暗黒《くらき》に|逐《お》ひいだせ、|其處《そこ》にて|哀哭《なげき》・|切齒《はがみ》することあらん」[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》その|榮光《えいくわう》をもて、もろもろの|御使《みつかひ》を|率《ひき》ゐきたる|時《とき》、その|榮光《えいくわう》の|座位《くらゐ》に|坐《ざ》せん。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]かくてその|前《まへ》にもろもろの|國人《くにびと》あつめられん、|之《これ》を|別《わか》つこと|牧羊者《ひつじかい》が|羊《ひつじ》と|山羊《やぎ》とを|別《わか》つ|如《ごと》くして、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|羊《ひつじ》をその|右《みぎ》に、|山羊《やぎ》をその|左《ひだり》におかん。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|王《わう》その|右《みぎ》にをる|者《もの》どもに|言《い》はん「わが|父《ちち》に|祝《しく》せられたる|者《もの》よ、|來《きた》りて|世《よ》の|創《はじめ》より|汝《なんぢ》|等《ら》のために|備《そな》へられたる|國《くに》を|嗣《つ》げ。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|我《わ》が|飢《う》ゑしときに|食《くら》はせ、|渇《かわ》きしときに|飮《の》ませ、|旅人《たびびと》なりし|時《とき》に|宿《やど》らせ、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|裸《はだか》なりしときに|衣《き》せ、|病《や》みしときに|訪《とぶら》ひ、|獄《ひとや》に|在《あ》りしときに|來《きた》りたればなり」[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ここに、|正《ただ》しき|者《もの》ら|答《こた》へて|言《い》はん「|主《しゅ》よ、|何時《いつ》なんぢの|飢《う》ゑしを|見《み》て|食《くら》はせ、|渇《かわ》きしを|見《み》て|飮《の》ませし。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|何時《いつ》なんぢの|旅人《たびびと》なりしを|見《み》て|宿《やど》らせ、|裸《はだか》なりしを|見《み》て|衣《ころも》せし。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|何時《いつ》なんぢの|病《や》みまた|獄《ひとや》に|在《あ》りしを|見《み》て、|汝《なんぢ》にいたりし」[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》こたへて|言《い》はん「まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、わが|兄弟《きゃうだい》なる|此《これ》|等《ら》のいと|小《ちひさ》き|者《もの》の|一人《ひとり》になしたるは、|即《すなは》ち|我《われ》に|爲《な》したるなり」[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]かくてまた|左《ひだり》にをる|者《もの》どもに|言《い》はん「|詛《のろ》はれたる|者《もの》よ、|我《われ》を|離《はな》れて|惡魔《あくま》とその|使《つかひ》らとのために|備《そな》へられたる|永遠《とこしへ》の|火《ひ》に|入《い》れ。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|我《わ》が|飢《う》ゑしときに|食《くら》はせず、|渇《かわ》きしときに|飮《の》ませず、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|旅人《たびびと》なりしときに|宿《やど》らせず、|裸《はだか》なりしときに|衣《き》せず、|病《や》みまた|獄《ひとや》にありしときに|訪《とぶら》はざればなり」[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》らも|答《こた》へて|言《い》はん「|主《しゅ》よ、いつ|汝《なんぢ》の|飢《う》ゑ、|或《あるひ》は|渇《かわ》き、|或《あるひ》は|旅人《たびびと》、あるひは|裸《はだか》、あるひは|病《や》み、|或《あるひ》は|獄《ひとや》に|在《あ》りしを|見《み》て|事《つか》へざりし」[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]ここに|王《わう》こたへて|言《い》はん「|誠《まこと》になんぢらに|告《つ》ぐ、|此《これ》|等《ら》のいと|小《ちひさ》きものの|一人《ひとり》に|爲《な》さざりしは、|即《すなは》ち|我《われ》になさざりしなり」と。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]かくて、これらの|者《もの》は|去《さ》りて|永遠《とこしへ》の|刑罰《けいばつ》にいり、|正《ただ》しき|者《もの》は|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》に|入《い》らん』 第二六章[#「第二六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエスこれらの|言《ことば》をみな|語《かた》りをへて、|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢらの|知《し》るごとく、|二日《ふつか》の|後《のち》は|過越《すぎこし》の|祭《まつり》なり、|人《ひと》の|子《こ》は|十字架《じふじか》につけられん|爲《ため》に|賣《う》らるべし』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]そのとき|祭司長《さいしちゃう》・|民《たみ》の|長老《ちゃうらう》ら、カヤパといふ|大《だい》|祭司《さいし》の|中庭《なかには》に|集《あつま》り、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|詭計《たばかり》をもてイエスを|捕《とら》へ、かつ|殺《ころ》さんと|相《あひ》|議《はか》りたれど、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》いふ『まつりの|間《あひだ》は|爲《な》すべからず、|恐《おそ》らくは|民《たみ》の|中《うち》に|亂《らん》|起《おこ》らん』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエス、ベタニヤにて|癩病人《らいびゃうにん》シモンの|家《いへ》に|居給《ゐたま》ふ|時《とき》、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ある|女《をんな》、|石膏《せきかう》の|壺《つぼ》に|入《い》りたる|貴《たふと》き|香《にほひ》|油《あぶら》を|持《も》ちて、|近《ちか》づき|來《きた》り、|食事《しょくじ》の|席《せき》に|就《つ》き|居給《ゐたま》ふイエスの|首《かうべ》に|注《そそ》げり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|之《これ》を|見《み》て|憤《いきど》ほり|言《い》ふ『|何《なに》|故《ゆゑ》かく|濫《みだり》なる|費《つひえ》をなすか。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|多《おほ》くの|金《かね》に|賣《う》りて、|貧《まづ》しき|者《もの》に|施《ほどこ》すことを|得《え》たりしものを』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|知《し》りて|言《い》ひたまふ『|何《なに》ぞこの|女《をんな》を|惱《なやま》すか、|我《われ》に|善《よ》き|事《こと》をなせるなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|貧《まづ》しき|者《もの》は|常《つね》に|汝《なんぢ》らと|偕《とも》にをれど、|我《われ》は|常《つね》に|偕《とも》に|居《を》らず。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]この|女《をんな》の|我《わ》が|體《からだ》に|香《にほひ》|油《あぶら》を|注《そそ》ぎしは、わが|葬《はうむ》りの|備《そなへ》をなせるなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|全世界《ぜんせかい》いずこにても、この|福音《ふくいん》の|宣傅《のべつた》へらるる|處《ところ》には、この|女《をんな》のなしし|事《こと》も|記念《きねん》として|語《かた》らるべし』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|十二《じふに》|弟子《でし》の|一人《ひとり》イスカリオテのユダといふ|者《もの》、|祭司長《さいしちゃう》らの|許《もと》にゆきて|言《い》ふ[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢらに|彼《かれ》を|付《わた》さば、|何《なに》ほど|我《われ》に|與《あた》へんとするか』|彼《かれ》ら|銀《ぎん》|三十《さんじふ》を|量《はか》り|出《いだ》せり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ユダこの|時《とき》よりイエスを|付《わた》さんと|好《よ》き|機《をり》を|窺《うかが》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|除酵祭《じょかうさい》の|初《はじめ》の|日《ひ》、|弟子《でし》たちイエスに|來《きた》りて|言《い》ふ『|過越《すぎこし》の|食《しょく》をなし|給《たま》ふために、|何處《いづこ》に|我《われ》らが|備《そな》ふる|事《こと》を|望《のぞ》み|給《たま》ふか』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|都《みやこ》にゆき、|某《それがし》のもとに|到《いた》りて「|師《し》いふ、わが|時《とき》|近《ちか》づけり。われ|弟子《でし》たちと|共《とも》に|過越《すぎこし》を|汝《なんぢ》の|家《いへ》にて|守《まも》らん」と|言《い》へ』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちイエスの|命《めい》じ|給《たま》ひし|如《ごと》くして、|過越《すぎこし》の|備《そなへ》をなせり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》|暮《く》れて|十二《じふに》|弟子《でし》とともに|席《せき》に|就《つ》きて、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|食《しょく》するとき|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|汝《なんぢ》らの|中《うち》の|一人《ひとり》われを|賣《う》らん』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|甚《いた》く|憂《うれ》ひて、おのおの『|主《しゅ》よ、|我《われ》なるか』と|言《い》ひいでしに、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|我《われ》とともに|手《て》を|鉢《はち》に|入《い》るる|者《もの》われを|賣《う》らん。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》は|己《おのれ》に|就《つ》きて|録《しる》されたる|如《ごと》く|逝《ゆ》くなり。されど|人《ひと》の|子《こ》を|賣《う》る|者《もの》は|禍害《わざはひ》なるかな、その|人《ひと》は|生《うま》れざりし|方《かた》よかりしものを』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエスを|賣《う》るユダ|答《こた》へて|言《い》ふ『ラビ、|我《われ》なるか』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|言《い》へる|如《ごと》し』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|食《しょく》しをる|時《とき》、イエス、パンをとり、|祝《しく》してさき、|弟子《でし》たちに|與《あた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|取《と》りて|食《くら》へ、これは|我《わ》が|體《からだ》なり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]また|酒杯《さかづき》をとりて|謝《しゃ》し、|彼《かれ》らに|與《あた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|皆《みな》この|酒杯《さかづき》より|飮《の》め。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]これは|契約《けいやく》のわが|血《ち》なり、|多《おほ》くの|人《ひと》のために、|罪《つみ》の|赦《ゆるし》を|得《え》させんとて|流《なが》す|所《ところ》のものなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、わが|父《ちち》の|國《くに》にて|新《あたら》しきものを|汝《なんぢ》らと|共《とも》に|飮《の》む|日《ひ》までは、われ|今《いま》より|後《のち》この|葡萄《ぶだう》の|果《み》より|成《な》るものを|飮《の》まじ』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|讃美《さんび》を|歌《うた》ひて|後《のち》オリブ|山《やま》に|出《い》でゆく。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『|今宵《こよひ》なんぢら|皆《みな》われに|就《つ》きて|躓《つまづ》かん「われ|牧羊者《ひつじかい》を|打《う》たん、さらば|群《むれ》の|羊《ひつじ》|散《ち》るべし」と|録《しる》されたるなり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》よみがへりて|後《のち》、なんぢらに|先《さき》だちてガリラヤに|往《ゆ》かん』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|答《こた》へて|言《い》ふ『|假令《たとひ》みな|汝《なんぢ》に|就《つ》きて|躓《つまづ》くとも|我《われ》はいつまでも|躓《つまづ》かじ』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、こよひ|鷄《にはとり》|鳴《な》く|前《まへ》に、なんぢ|三《み》たび|我《われ》を|否《いな》むべし』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『|我《われ》なんぢと|共《とも》に|死《し》ぬべき|事《こと》ありとも|汝《なんぢ》を|否《いな》まず』|弟子《でし》たち|皆《みな》かく|言《い》へり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|彼《かれ》らと|共《とも》にゲツセマネといふ|處《ところ》にいたりて、|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|彼處《かしこ》にゆきて|祈《いの》る|間《あひだ》、なんぢら|此處《ここ》に|坐《ざ》せよ』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]かくてペテロとゼベダイの|子《こ》|二人《ふたり》とを|伴《ともな》ひゆき、|憂《うれ》ひ|悲《かな》しみ|出《い》でて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]『わが|心《こころ》いたく|憂《うれ》ひて|死《し》ぬばかりなり。|汝《なんぢ》ら|此處《ここ》に|止《とどま》りて|我《われ》と|共《とも》に|目《め》を|覺《さま》しをれ』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|少《すこ》し|進《すす》みゆきて、|平伏《ひれふ》し|祈《いの》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|父《ちち》よ、もし|得《う》べくば|此《こ》の|酒杯《さかづき》を|我《われ》より|過《す》ぎ|去《さ》らせ|給《たま》へ。されど|我《わ》が|意《こころ》の|儘《まま》にとにはあらず、|御意《みこころ》のままに|爲《な》し|給《たま》へ』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちの|許《もと》にきたり、その|眠《ねむ》れるを|見《み》てペテロに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|斯《か》く|一《ひと》|時《とき》も|我《われ》と|共《とも》に|目《め》を|覺《さま》し|居《を》ること|能《あた》はぬか。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|誘惑《まどはし》に|陷《おちい》らぬやう、|目《め》を|覺《さま》しかつ|祈《いの》れ。|實《げ》に|心《こころ》は|熱《ねつ》すれども|肉體《にくたい》よわきなり』[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]また|二度《ふたたび》ゆき|祈《いの》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|父《ちち》よ、この|酒杯《さかづき》もし|我《われ》|飮《の》までは|過《す》ぎ|去《さ》りがたくば、|御意《みこころ》のままに|成《な》し|給《たま》へ』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|復《また》きたりて|彼《かれ》らの|眠《ねむ》れるを|見《み》たまふ、|是《これ》その|目《め》|疲《つか》れたるなり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]また|離《はな》れゆきて、|三《み》たび|同《おな》じ|言《ことば》にて|祈《いの》り|給《たま》ふ。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|弟子《でし》たちの|許《もと》に|來《きた》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|今《いま》は|眠《ねむ》りて|休《やす》め。|視《み》よ、|時《とき》|近《ちか》づけり、|人《ひと》の|子《こ》は|罪人《つみびと》らの|手《て》に|付《わた》さるるなり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|起《お》きよ、|我《われ》ら|往《ゆ》くべし。|視《み》よ、|我《われ》を|賣《う》るもの|近《ちか》づけり』[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]なほ|語《かた》り|給《たま》ふほどに、|視《み》よ、|十二《じふに》|弟子《でし》の|一人《ひとり》なるユダ|來《きた》る、|祭司長《さいしちゃう》・|民《たみ》の|長老《ちゃうらう》らより|遣《つかは》されたる|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》、|劍《つるぎ》と|棒《ぼう》とをもちて|之《これ》に|伴《ともな》ふ。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]イエスを|賣《う》る|者《もの》あらかじめ|合圖《あひづ》を|示《しめ》して|言《い》ふ『わが|接吻《くちつけ》する|者《もの》はそれなり、|之《これ》を|捕《とら》へよ』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|直《ただ》ちにイエスに|近《ちか》づき『ラビ、|安《やす》かれ』といひて|接吻《くちつけ》したれば、[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|友《とも》よ、|何《なに》とて|來《きた》る』このとき|人々《ひとびと》すすみてイエスに|手《て》をかけて|捕《とら》ふ。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、イエスと|偕《とも》にありし|者《もの》のひとり、|手《て》をのべ|劍《つるぎ》を|拔《ぬ》きて、|大《だい》|祭司《さいし》の|僕《しもべ》をうちて、その|耳《みみ》を|切《き》り|落《おと》せり。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|彼《かれ》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|劍《つるぎ》をもとに|收《をさ》めよ、すべて|劍《つるぎ》をとる|者《もの》は|劍《つるぎ》にて|亡《ほろ》ぶるなり。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》わが|父《ちち》に|請《こ》ひて、|十二《じふに》|軍《ぐん》に|餘《あま》る|御使《みつかひ》を|今《いま》あたへらるること|能《あた》はずと|思《おも》ふか。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]もし|然《しか》せば、|斯《か》くあるべく|録《しる》したる|聖書《せいしょ》はいかで|成就《じゃうじゅ》すべき』[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]この|時《とき》イエス|群衆《ぐんじゅう》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|強盜《がうたう》に|向《むか》ふごとく|劍《つるぎ》と|棒《ぼう》とをもち、|我《われ》を|捕《とら》へんとて|出《い》で|來《きた》るか。|我《われ》は|日々《ひび》|宮《みや》に|坐《ざ》して|教《をし》へたりしに、|汝《なんぢ》ら|我《われ》を|捕《とら》へざりき。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]されどかくの|如《ごと》くなるは、みな|預言者《よげんしゃ》たちの|書《ふみ》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり』ここに|弟子《でし》たち|皆《みな》イエスを|棄《す》てて|逃《に》げさりぬ。[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]イエスを|捕《とら》へたる|者《もの》ども、|學者《がくしゃ》・|長老《ちゃうらう》らの|集《あつま》り|居《を》る|大《だい》|祭司《さいし》カヤパの|許《もと》に|曳《ひ》きゆく。[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|遠《とほ》く|離《はな》れ、イエスに|從《したが》ひて|大《だい》|祭司《さいし》の|中庭《なかには》まで|到《いた》り、その|成行《なりゆき》を|見《み》んとて、そこに|入《い》り|下役《したやく》どもと|共《とも》に|坐《ざ》せり。[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》らと|全《ぜん》|議會《ぎくわい》と、イエスを|死《し》に|定《さだ》めんとて、いつはりの|證據《しょうこ》を|求《もと》めたるに、[#太字]六〇[#「六〇」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|僞證者《ぎしょうしゃ》いでたれども|得《え》ず。|後《のち》に|二人《ふたり》の|者《もの》いでて|言《い》ふ[#太字]六一[#「六一」は行右小書き][#太字終わり]『この|人《ひと》は「われ|神《かみ》の|宮《みや》を|毀《こぼ》ち|三日《みっか》にて|建《た》て|得《う》べし」と|云《い》へり』[#太字]六二[#「六二」は行右小書き][#太字終わり]|大《だい》|祭司《さいし》たちてイエスに|言《い》ふ『この|人々《ひとびと》が|汝《なんぢ》に|對《たい》して|立《た》つる|證據《しょうこ》に|何《なに》をも|答《こた》へぬか』[#太字]六三[#「六三」は行右小書き][#太字終わり]されどイエス|默《もだ》し|居給《ゐたま》ひたれば、|大《だい》|祭司《さいし》いふ『われ|汝《なんぢ》に|命《めい》ず、|活《い》ける|神《かみ》に|誓《ちか》ひて|我《われ》らに|告《つ》げよ、|汝《なんぢ》はキリスト、|神《かみ》の|子《こ》なるか』[#太字]六四[#「六四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|言《い》へる|如《ごと》し。かつ|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|今《いま》より|後《のち》、なんぢら|人《ひと》の|子《こ》の|全能者《ぜんのうしゃ》の|右《みぎ》に|坐《ざ》し、|天《てん》の|雲《くも》に|乘《の》りて|來《きた》るを|見《み》ん』[#太字]六五[#「六五」は行右小書き][#太字終わり]ここに|大《だい》|祭司《さいし》おのが|衣《ころも》を|裂《さ》きて|言《い》ふ『かれ|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]言《けがしごと》をいへり、|何《なに》ぞ|他《ほか》に|證人《しょうにん》を|求《もと》めん。|視《み》よ、なんぢら|今《いま》この|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]言《けがしごと》をきけり。[#太字]六六[#「六六」は行右小書き][#太字終わり]いかに|思《おも》ふか』|答《こた》へて|言《い》ふ『かれは|死《し》に|當《あた》れり』[#太字]六七[#「六七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》|等《ら》その|御顏《みかほ》に|唾《つばき》し、|拳《こぶし》にて|搏《う》ち、|或《ある》|者《もの》どもは|手掌《てのひら》にて|批《たた》きて|言《い》ふ[#太字]六八[#「六八」は行右小書き][#太字終わり]『キリストよ、|我《われ》らに|預言《よげん》せよ、|汝《なんぢ》をうちし|者《もの》は|誰《たれ》なるか』[#太字]六九[#「六九」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|外《そと》にて|中庭《なかには》に|坐《ざ》しゐたるに、|一人《ひとり》の|婢女《はしため》きたりて|言《い》ふ『なんぢもガリラヤ|人《ひと》イエスと|偕《とも》にゐたり』[#太字]七〇[#「七〇」は行右小書き][#太字終わり]かれ|凡《すべ》ての|人《ひと》の|前《まへ》に|肯《うけが》はずして|言《い》ふ『われは|汝《なんぢ》の|言《い》ふことを|知《し》らず』[#太字]七一[#「七一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|門《もん》まで|出《い》で|往《ゆ》きたるとき、|他《ほか》の|婢女《はしため》かれを|見《み》て、|其處《そこ》にをる|者《もの》どもに|向《むか》ひて『この|人《ひと》はナザレ|人《びと》イエスと|偕《とも》にゐたり』と|言《い》へるに、[#太字]七二[#「七二」は行右小書き][#太字終わり]|重《かさ》ねて|肯《うけが》はず、|契《ちか》ひて『|我《われ》はその|人《ひと》を|知《し》らず』といふ。[#太字]七三[#「七三」は行右小書き][#太字終わり]|暫《しばら》くして|其處《そこ》に|立《た》つ|者《もの》ども|近《ちか》づきてペテロに|言《い》ふ『なんぢも|慥《たしか》にかの|黨與《ともがら》なり、|汝《なんぢ》の|國訛《くになまり》なんぢを|表《あらは》せり』[#太字]七四[#「七四」は行右小書き][#太字終わり]ここにペテロ|盟《うけ》ひかつ|契《ちか》ひて『|我《われ》その|人《ひと》を|知《し》らず』と|言《い》ひ|出《い》づるをりしも、|鷄《にはとり》|鳴《な》きぬ。[#太字]七五[#「七五」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ『にはとり|鳴《な》く|前《まへ》に、なんぢ|三度《みたび》われを|否《いな》まん』と、イエスの|言《い》ひ|給《たま》ひし|御言《みことば》を|思《おも》ひだし、|外《そと》に|出《い》でて|甚《いた》く|泣《な》けり。 第二七章[#「第二七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあ》けになりて、|凡《すべ》ての|祭司長《さいしちゃう》・|民《たみ》の|長老《ちゃうらう》ら、イエスを|殺《ころ》さんと|相《あひ》|議《はか》り、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|之《これ》を|縛《しば》り、|曳《ひ》きゆきて|總督《そうとく》ピラトに|付《わた》せり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエスを|賣《う》りしユダ、その|死《し》に|定《さだ》められ|給《たま》ひしを|見《み》て|悔《く》い、|祭司長《さいしちゃう》・|長老《ちゃうらう》らに、かの|三十《さんじふ》の|銀《ぎん》をかへして|言《い》ふ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]『われ|罪《つみ》なきの|血《ち》を|賣《う》りて|罪《つみ》を|犯《をか》したり』|彼《かれ》らいふ『われら|何《なに》ぞ|干《あづか》らん、|汝《なんぢ》みづから|當《あた》るべし』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》その|銀《ぎん》を|聖所《せいじょ》に|投《な》げすてて|去《さ》り、ゆきて|自《みづか》ら|縊《くび》れたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》らその|銀《ぎん》をとりて|言《い》ふ『これは|血《ち》の|價《あたひ》なれば、|宮《みや》の|庫《くら》に|納《をさ》むるは|可《よ》からず』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|相《あひ》|議《はか》り、その|銀《ぎん》をもて|陶工《すゑつくり》の|畑《はた》を|買《か》ひ、|旅人《たびびと》らの|墓地《ぼち》とせり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|其《そ》の|畑《はた》は、|今《いま》に|至《いた》るまで|血《ち》の|畑《はた》と|稱《とな》へらる。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|預言者《よげんしゃ》エレミヤによりて|云《い》はれたる|言《ことば》は|成就《じゃうじゅ》したり。|曰《いは》く『かくて|彼《かれ》ら|値積《ねづも》られしもの、|即《すなは》ちイスラエルの|子《こ》らが|値積《ねづも》りし|者《もの》の|價《あたひ》の|銀《ぎん》|三十《さんじふ》をとりて、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|陶工《すゑつくり》の|畑《はた》の|代《かわり》に|之《これ》を|與《あた》へたり。|主《しゅ》の|我《われ》に|命《めい》じ|給《たま》ひし|如《ごと》し』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]さてイエス、|總督《そうとく》の|前《まへ》に|立《た》ち|給《たま》ひしに、|總督《そうとく》|問《と》ひて|言《い》ふ『なんぢはユダヤ|人《びと》の|王《わう》なるか』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|言《い》ふが|如《ごと》し』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》・|長老《ちゃうらう》ら|訴《うった》ふれども、|何《なに》をも|答《こた》へ|給《たま》はず。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ここにピラト|彼《かれ》に|言《い》ふ『|聞《き》かぬか、|彼《かれ》らが|汝《なんぢ》に|對《たい》して|如何《いか》におほくの|證據《しょうこ》を|立《た》つるを』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されど|總督《そうとく》の|甚《いた》く|怪《あや》しむまで、|一言《ひとこと》をも|答《こた》へ|給《たま》はず。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|祭《まつり》の|時《とき》には、|總督《そうとく》|群衆《ぐんじゅう》の|望《のぞみ》にまかせて、|囚人《めしうど》|一人《ひとり》を|之《これ》に|赦《ゆる》す|例《れい》あり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ここにバラバといふ|隱《かく》れなき|囚人《めしうど》あり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されば|人々《ひとびと》の|集《あつま》れる|時《とき》、ピラト|言《い》ふ『なんぢら|我《わ》が|誰《たれ》を|赦《ゆる》さんことを|願《ねが》ふか。バラバなるか、キリストと|稱《とな》ふるイエスなるか』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]これピラト|彼《かれ》らのイエスを|付《わた》ししは|嫉《ねたみ》に|因《よ》ると|知《し》る|故《ゆゑ》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》なほ|審判《さばき》の|座《ざ》にをる|時《とき》、その|妻《つま》、|人《ひと》を|遣《つかは》して|言《い》はしむ『かの|義人《ぎじん》に|係《かかは》ることを|爲《す》な、|我《われ》けふ|夢《ゆめ》の|中《なか》にて|彼《かれ》の|故《ゆゑ》にさまざま|苦《くる》しめり』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》・|長老《ちゃうらう》ら、|群衆《ぐんじゅう》にバラバの|赦《ゆる》されん|事《こと》を|請《こ》はしめ、イエスを|亡《ほろぼ》さんことを|勸《すす》む。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|總督《そうとく》こたへて|彼《かれ》らに|言《い》ふ『|二人《ふたり》の|中《うち》いづれを|我《わ》が|赦《ゆる》さん|事《こと》を|願《ねが》ふか』|彼《かれ》らいふ『バラバなり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|言《い》ふ『さらばキリストと|稱《とな》ふるイエスを|我《われ》いかにすべきか』|皆《みな》いふ『|十字架《じふじか》につくべし』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|言《い》ふ『かれ|何《なに》の|惡事《あくじ》をなしたるか』|彼《かれ》ら|烈《はげ》しく|叫《さけ》びていふ『|十字架《じふじか》につくべし』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ピラトは|何《なに》の|效《かひ》なく|反《かへ》つて|亂《らん》にならんとするを|見《み》て、|水《みづ》をとり|群衆《ぐんじゅう》のまへに|手《て》を|洗《あら》ひて|言《い》ふ『この|人《ひと》の|血《ち》につきて|我《われ》は|罪《つみ》なし、|汝《なんぢ》|等《ら》みづから|當《あた》れ』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》みな|答《こた》へて|言《い》ふ『|其《そ》の|血《ち》は、|我《われ》らと|我《われ》らの|子孫《しそん》とに|歸《き》すべし』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]ここにピラト、バラバを|彼《かれ》らに|赦《ゆる》し、イエスを|鞭《むち》うちて、|十字架《じふじか》につくる|爲《ため》に|付《わた》せり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|總督《そうとく》の|兵卒《へいそつ》ども、イエスを|官邸《くわんてい》につれゆき、|全《ぜん》|隊《たい》を|御許《みもと》に|集《あつ》め、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]その|衣《ころも》をはぎて、|緋色《ひいろ》の|上衣《うはぎ》をきせ、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|茨《いばら》の|冠冕《かんむり》を|編《あ》みて、その|首《かうべ》に|冠《かむ》らせ、|葦《あし》を|右《みぎ》の|手《て》にもたせ、|且《かつ》その|前《まへ》に|跪《ひざま》づき、|嘲弄《てうろう》して|言《い》ふ『ユダヤ|人《びと》の|王《わう》、|安《やす》かれ』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]また|之《これ》に|唾《つばき》し、かの|葦《あし》をとりて|其《そ》の|首《かうべ》を|叩《たた》く。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]かく|嘲弄《てうろう》してのち、|上衣《うはぎ》を|剥《は》ぎて、|故《もと》の|衣《ころも》をきせ、|十字架《じふじか》につけんとて|曳《ひ》きゆく。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]その|出《い》づる|時《とき》、シモンといふクレネ|人《びと》にあひしかば、|強《し》ひて|之《これ》にイエスの|十字架《じふじか》をおはしむ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かくてゴルゴタといふ|處《ところ》、|即《すなは》ち|髑髏《されかうべ》の|地《ち》にいたり、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|苦味《にがみ》を|混《ま》ぜたる|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|飮《の》ませんとしたるに、|嘗《な》めて、|飮《の》まんとし|給《たま》はず。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らイエスを|十字架《じふじか》につけてのち、|籤《くじ》をひきて|其《そ》の|衣《ころも》をわかち、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》そこに|坐《ざ》して、イエスを|守《まも》る。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]その|首《かうべ》の|上《うへ》に『これはユダヤ|人《びと》の|王《わう》イエスなり』と|記《しる》したる|罪標《すてふだ》を|置《お》きたり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエスとともに|二人《ふたり》の|強盜《がうたう》、|十字架《じふじか》につけられ、|一人《ひとり》はその|右《みぎ》に、|一人《ひとり》はその|左《ひだり》におかる。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|往來《ゆきき》の|者《もの》どもイエスを|譏《そし》り、|首《かうべ》を|振《ふ》りていふ、[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]『|宮《みや》を|毀《こぼ》ちて|三日《みっか》のうちに|建《た》つる|者《もの》よ、もし|神《かみ》の|子《こ》ならば|己《おのれ》を|救《すく》へ、|十字架《じふじか》より|下《お》りよ』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》らもまた|同《おな》じく、|學者《がくしゃ》・|長老《ちゃうらう》らとともに|嘲弄《てうろう》して|言《い》ふ、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]『|人《ひと》を|救《すく》ひて|己《おのれ》を|救《すく》ふこと|能《あた》はず。|彼《かれ》はイスラエルの|王《わう》なり、いま|十字架《じふじか》より|下《お》りよかし、さらば|我《われ》ら|彼《かれ》を|信《しん》ぜん。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|神《かみ》に|依《よ》り|頼《たの》めり、|神《かみ》かれを|愛《いつく》しまば|今《いま》すくひ|給《たま》ふべし「|我《われ》は|神《かみ》の|子《こ》なり」と|云《い》へり』[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]ともに|十字架《じふじか》につけられたる|強盜《がうたう》どもも、|同《おな》じ|事《こと》をもてイエスを|罵《ののし》れり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|晝《ひる》の|十二《じふに》|時《じ》より|地《ち》の|上《うへ》あまねく|暗《くら》くなりて、|三時《さんじ》に|及《およ》ぶ。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|三時《さんじ》ごろイエス|大聲《おほごゑ》に|叫《さけ》びて『エリ、エリ、レマ、サバクタニ』と|言《い》ひ|給《たま》ふ。わが|神《かみ》、わが|神《かみ》、なんぞ|我《われ》を|見《み》|棄《す》て|給《たま》ひしとの|意《こころ》なり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]そこに|立《た》つ|者《もの》のうち|或《ある》|人々《ひとびと》これを|聞《き》きて『|彼《かれ》はエリヤを|呼《よ》ぶなり』と|言《い》ふ。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちにその|中《うち》の|一人《ひとり》はしりゆきて|海綿《うみわた》をとり、|酸《す》き|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|含《ふく》ませ、|葦《あし》につけてイエスに|飮《の》ましむ。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]その|他《ほか》の|者《もの》ども|言《い》ふ『まて、エリヤ|來《きた》りて|彼《かれ》を|救《すく》ふや|否《いな》や、|我《われ》ら|之《これ》を|見《み》ん』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|再《ふたた》び|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はりて|息《いき》|絶《た》えたまふ。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|聖所《せいじょ》の|幕《まく》、|上《うへ》より|下《した》まで|裂《さ》けて|二《ふた》つとなり、また|地震《ちふる》ひ、|磐《いは》さけ、[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|墓《はか》ひらけて、|眠《ねむ》りたる|聖徒《せいと》の|屍體《しかばね》おほく|活《い》きかへり、[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|復活《よみがへり》ののち|墓《はか》をいで、|聖《せい》なる|都《みやこ》に|入《い》りて、|多《おほ》くの|人《ひと》に|現《あらは》れたり。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]|百卒長《ひゃくそつちゃう》および|之《これ》と|共《とも》にイエスを|守《まも》りゐたる|者《もの》ども、|地震《ぢしん》とその|有《あ》りし|事《こと》とを|見《み》て|甚《いた》く|懼《おそ》れ『|實《げ》に|彼《かれ》は|神《かみ》の|子《こ》なりき』と|言《い》へり。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]その|處《ところ》にて|遙《はるか》に|望《のぞ》みゐたる|多《おほ》くの|女《をんな》あり、イエスに|事《つか》へてガリラヤより|從《したが》ひ|來《きた》りし|者《もの》どもなり。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]その|中《なか》には、マグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフとの|母《はは》マリヤ、|及《およ》びゼベダイの|子《こ》らの|母《はは》などもゐたり。[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》|暮《く》れて、ヨセフと|云《い》ふアリマタヤの|富《と》める|人《ひと》きたる。|彼《かれ》もイエスの|弟子《でし》なるが、[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]ピラトに|往《ゆ》きてイエスの|屍體《しかばね》を|請《こ》ふ。ここにピラト|之《これ》を|付《わた》すことを|命《めい》ず。[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]ヨセフ|屍體《しかばね》をとりて|淨《きよ》き|亞麻《あま》|布《ぬの》につつみ、[#太字]六〇[#「六〇」は行右小書き][#太字終わり]|岩《いは》にほりたる|己《おの》が|新《あたら》しき|墓《はか》に|納《をさ》め、|墓《はか》の|入口《いりくち》に|大《おほい》なる|石《いし》を|轉《まろば》しおきて|去《さ》りぬ。[#太字]六一[#「六一」は行右小書き][#太字終わり]|其處《そこ》にはマグダラのマリヤと|他《ほか》のマリヤと|墓《はか》に|向《むか》ひて|坐《ざ》しゐたり。[#太字]六二[#「六二」は行右小書き][#太字終わり]あくる|日《ひ》、|即《すなは》ち|準備《そなへ》|日《び》の|翌日《よくじつ》、|祭司長《さいしちゃう》らとパリサイ|人《びと》らとピラトの|許《もと》に|集《あつま》りて|言《い》ふ、[#太字]六三[#「六三」は行右小書き][#太字終わり]『|主《しゅ》よ、かの|惑《まどは》すもの|生《い》き|居《を》りし|時《とき》「われ|三日《みっか》の|後《のち》に|甦《よみが》へらん」と|言《い》ひしを、|我《われ》ら|思《おも》ひいだせり。[#太字]六四[#「六四」は行右小書き][#太字終わり]されば|命《めい》じて|三日《みっか》に|至《いた》るまで|墓《はか》を|固《かた》めしめ|給《たま》へ、|恐《おそ》らくはその|弟子《でし》ら|來《きた》りて|之《これ》を|盜《ぬす》み、「|彼《かれ》は|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へれり」と|民《たみ》に|言《い》はん。|然《しか》らば|後《のち》の|惑《まどひ》は|前《まへ》のよりも|甚《はなは》だしからん』[#太字]六五[#「六五」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|言《い》ふ『なんぢらに|番兵《ばんぺい》あり、|往《ゆ》きて|力《ちから》|限《かぎ》り|固《かた》めよ』[#太字]六六[#「六六」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|彼《かれ》らゆきて|石《いし》に|封印《ふういん》し、|番兵《ばんぺい》を|置《お》きて|墓《はか》を|固《かた》めたり。 第二八章[#「第二八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]さて|安息《あんそく》|日《にち》をはりて、|一週《ひとまはり》の|初《はじめ》の|日《ひ》のほの|明《あか》き|頃《ころ》、マグダラのマリヤと|他《ほか》のマリヤと|墓《はか》を|見《み》んとて|來《きた》りしに、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|大《おほい》なる|地震《ぢしん》あり、これ|主《しゅ》の|使《つかひ》、|天《てん》より|降《くだ》り|來《きた》りて、かの|石《いし》を|轉《まろば》し|退《しりぞ》け、その|上《うへ》に|坐《ざ》したるなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]その|状《さま》は|電光《いなづま》のごとく|輝《かがや》き、その|衣《ころも》は|雪《ゆき》のごとく|白《しろ》し。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|守《まもり》の|者《もの》ども|彼《かれ》を|懼《おそ》れたれば、|戰《おのの》きて|死人《しにん》の|如《ごと》くなりぬ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》こたへて|女《をんな》たちに|言《い》ふ『なんぢら|懼《おそ》るな、|我《われ》なんぢらが|十字架《じふじか》につけられ|給《たま》ひしイエスを|尋《たづ》ぬるを|知《し》る。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》には|在《いま》さず、その|言《い》へる|如《ごと》く|甦《よみが》へり|給《たま》へり。|來《きた》りてその|置《お》かれ|給《たま》ひし|處《ところ》を|見《み》よ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かつ|速《すみや》かに|往《ゆ》きて、その|弟子《でし》たちに「|彼《かれ》は|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へり|給《たま》へり。|視《み》よ、|汝《なんぢ》らに|先《さき》だちてガリラヤに|往《ゆ》き|給《たま》ふ、|彼處《かしこ》にて|謁《まみ》ゆるを|得《え》ん」と|告《つ》げよ。|視《み》よ、|汝《なんぢ》らに|之《これ》を|告《つ》げたり』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》たち|懼《おそれ》と|大《おほい》なる|歡喜《よろこび》とをもて、|速《すみや》かに|墓《はか》を|去《さ》り、|弟子《でし》たちに|知《し》らせんとて|走《はし》りゆく。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、イエス|彼《かれ》らに|遇《あ》ひて『|安《やす》かれ』と|言《い》ひ|給《たま》ひたれば、|進《すす》みゆき、|御足《みあし》を|抱《いだ》きて|拜《はい》す。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|言《い》ひたまふ『|懼《おそ》るな、|往《ゆ》きて|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》たちに、ガリラヤにゆき、|彼處《かしこ》にて|我《われ》を|見《み》るべきことを|知《し》らせよ』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》たちの|往《ゆ》きたるとき、|視《み》よ、|番兵《ばんぺい》のうちの|數人《すにん》、|都《みやこ》にいたり、|凡《すべ》て|有《あ》りし|事《こと》どもを|祭司長《さいしちゃう》らに|告《つ》ぐ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》ら、|長老《ちゃうらう》らと|共《とも》に|集《あつま》りて|相《あひ》|議《はか》り、|兵卒《へいそつ》どもに|多《おほ》くの|銀《かね》を|與《あた》へて|言《い》ふ、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢら|言《い》へ「その|弟子《でし》ら|夜《よる》きたりて、|我《われ》らの|眠《ねむ》れる|間《ま》に|彼《かれ》を|盜《ぬす》めり」と。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》もし|總督《そうとく》に|聞《きこ》えなば、|我《われ》ら|彼《かれ》を|宥《なだ》めて|汝《なんぢ》らに|憂《うれひ》なからしめん』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|銀《かね》をとりて|言《い》ひ|含《ふく》められたる|如《ごと》くしたれば、|此《こ》の|話《はなし》ユダヤ|人《びと》の|中《うち》にひろまりて、|今日《けふ》に|至《いた》れり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|十《じふ》|一《いち》|弟子《でし》たちガリラヤに|往《ゆ》きて、イエスの|命《めい》じ|給《たま》ひし|山《やま》にのぼり、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|謁《まみ》えて|拜《はい》せり。されど|疑《うたが》ふ|者《もの》もありき。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|進《すす》みきたり、|彼《かれ》らに|語《かた》りて|言《い》ひたまふ『|我《われ》は|天《てん》にても|地《ち》にても|一切《すべて》の|權《けん》を|與《あた》へられたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》ら|往《ゆ》きて、もろもろの|國人《くにびと》を|弟子《でし》となし、|父《ちち》と|子《こ》と|聖《せい》|靈《れい》との|名《な》によりてバプテスマを|施《ほどこ》し、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]わが|汝《なんぢ》らに|命《めい》ぜし|凡《すべ》ての|事《こと》を|守《まも》るべきを|教《をし》へよ。|視《み》よ、|我《われ》は|世《よ》の|終《をはり》まで|常《つね》に|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|在《あ》るなり』 [#改ページ] マルコ傳福音書[#「マルコ傳福音書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|子《こ》イエス、キリストの|福音《ふくいん》の|始《はじめ》。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|預言者《よげんしゃ》イザヤの|書《ふみ》に、 [#ここから2字下げ] 『|視《み》よ、|我《われ》なんぢの|顏《かほ》の|前《まへ》に、わが|使《つかひ》を|遣《つかは》す、 |彼《かれ》なんぢの|道《みち》を|設《まう》くべし。 [#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|荒野《あらの》に|呼《よば》はる|者《もの》の|聲《こゑ》す、 「|主《しゅ》の|道《みち》を|備《そな》へ、その|路《みち》すぢを|直《なほ》くせよ」』 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》されたる|如《ごと》く、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]バプテスマのヨハネ|出《い》で、|荒野《あらの》にて|罪《つみ》の|赦《ゆるし》を|得《え》さする|悔改《くいあらため》のバプテスマを|宣傳《のべつた》ふ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|全國《ぜんこく》またエルサレムの|人々《ひとびと》、みな|其《そ》の|許《もと》に|出《い》で|來《きた》りて|罪《つみ》を|言《い》ひあらはし、ヨルダン|川《がは》にてバプテスマを|受《う》けたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネは|駱駝《らくだ》の|毛織《けおり》を|著《き》、|腰《こし》に|皮《かは》の|帶《おび》して、|蝗《いなご》と|野蜜《のみつ》とを|食《くら》へり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かれ|宣傳《のべつた》へて|言《い》ふ『|我《われ》よりも|力《ちから》ある|者《もの》、わが|後《のち》に|來《きた》る。|我《われ》は|屈《かが》みてその|鞋《くつ》の|紐《ひも》をとくにも|足《た》らず、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|水《みづ》にて|汝《なんぢ》らにバプテスマを|施《ほどこ》せり。されど|彼《かれ》は|聖《せい》|靈《れい》にてバプテスマを|施《ほどこ》さん』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》イエス、ガリラヤのナザレより|來《きた》り、ヨルダンにてヨハネよりバプテスマを|受《う》け|給《たま》ふ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|水《みづ》より|上《あが》るをりしも、|天《てん》さけゆき、|御靈《みたま》、|鴿《はと》のごとく|己《おのれ》に|降《くだ》るを|見《み》|給《たま》ふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かつ|天《てん》より|聲《こゑ》|出《い》づ『なんぢは|我《わ》が|愛《いつく》しむ|子《こ》なり、|我《われ》なんぢを|悦《よろこ》ぶ』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|御靈《みたま》ただちにイエスを|荒野《あらの》に|逐《お》ひやる。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|荒野《あらの》にて|四十《しじふ》|日《にち》の|間《あひだ》サタンに|試《こころ》みられ、|獸《けもの》とともに|居給《ゐたま》ふ、|御使《みつかひ》たち|之《これ》に|事《つか》へぬ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネの|囚《とら》はれし|後《のち》、イエス、ガリラヤに|到《いた》り、|神《かみ》の|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]『|時《とき》は|滿《み》てり、|神《かみ》の|國《くに》は|近《ちか》づけり、|汝《なんぢ》ら|悔改《くいあらた》めて|福音《ふくいん》を|信《しん》ぜよ』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス、ガリラヤの|海《うみ》にそひて|歩《あゆ》みゆき、シモンと|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》アンデレとが、|海《うみ》に|網《あみ》うちをるを|見《み》|給《たま》ふ。かれらは|漁人《すなどりびと》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われに|從《したが》ひきたれ、|汝《なんぢ》|等《ら》をして|人《ひと》を|漁《すなど》る|者《もの》とならしめん』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|直《ただ》ちに|網《あみ》をすてて|從《したが》へり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|少《すこ》し|進《すす》みゆきて、ゼベダイの|子《こ》ヤコブとその|兄弟《きゃうだい》ヨハネとを|見《み》|給《たま》ふ、|彼《かれ》らも|舟《ふね》にありて|網《あみ》を|繕《つくろ》ひゐたり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちに|呼《よ》び|給《たま》へば、|父《ちち》ゼベダイを|雇人《やとひびと》とともに|舟《ふね》に|遺《のこ》して|從《したが》ひゆけり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》らカペナウムに|到《いた》る、イエス|直《ただ》ちに|安息《あんそく》|日《にち》に|會堂《くわいだう》にいりて|教《をし》へ|給《たま》ふ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》その|教《をしへ》に|驚《をどろ》きあへり。それは|學者《がくしゃ》の|如《ごと》くならず、|權威《けんゐ》ある|者《もの》のごとく|教《をし》へ|給《たま》ふゆゑなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》にその|會堂《くわいだう》に、|穢《けが》れし|靈《れい》に|憑《つ》かれたる|人《ひと》あり、|叫《さけ》びて|言《い》ふ[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]『ナザレのイエスよ、|我《われ》らは|汝《なんぢ》と|何《なに》の|關係《かかはり》あらんや、|汝《なんぢ》は|我《われ》らを|亡《ほろぼ》さんとて|來給《きたま》ふ。われは|汝《なんぢ》の|誰《たれ》なるを|知《し》る、|神《かみ》の|聖者《しゃうじゃ》なり』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|禁《いまし》めて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|默《もだ》せ、その|人《ひと》を|出《い》でよ』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|穢《けが》れし|靈《れい》その|人《ひと》を|痙攣《ひきつ》けさせ、|大聲《おほごゑ》をあげて|出《い》づ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》みな|驚《をどろ》き|相《あひ》|問《と》ひて|言《い》ふ『これ|何事《なにごと》ぞ、|權威《けんゐ》ある|新《あたら》しき|教《をしへ》なるかな、|穢《けが》れし|靈《れい》すら|命《めい》ずれば|從《したが》ふ』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエスの|噂《うはさ》あまねくガリラヤの|四方《しはう》に|弘《ひろま》りたり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|會堂《くわいだう》をいで、|直《ただ》ちにヤコブとヨハネとを|伴《ともな》ひて、シモン|及《およ》びアンデレの|家《いへ》に|入《い》り|給《たま》ふ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]シモンの|外姑《しうとめ》、|熱《ねつ》をやみて|臥《ふ》しゐたれば、|人々《ひとびと》ただちに|之《これ》をイエスに|告《つ》ぐ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|往《ゆ》きて、その|手《て》をとり、|起《おこ》し|給《たま》へば、|熱《ねつ》さりて|女《をんな》かれらに|事《つか》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|夕《ゆふべ》となり、|日《ひ》いりてのち、|人々《ひとびと》すべての|病《やまひ》ある|者《もの》・|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|者《もの》をイエスに|連《つ》れ|來《きた》り、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|全町《ひとまち》こぞりて|門《もん》に|集《あつま》る。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエスさまざまの|病《やまひ》を|患《わづら》ふ|多《おほ》くの|人《ひと》をいやし、|多《おほ》くの|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひいだし、|之《これ》に|物《もの》|言《い》ふことを|免《ゆる》し|給《たま》はず、|惡鬼《あくき》イエスを|知《し》るに|因《よ》りてなり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|朝《あさ》まだき|暗《くら》き|程《ほど》に、イエス|起《お》き|出《い》でて、|寂《さび》しき|處《ところ》にゆき、|其處《そこ》にて|祈《いの》りゐたまふ。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]シモン|及《およ》び|之《これ》と|偕《とも》にをる|者《もの》ども、その|跡《あと》を|慕《した》ひゆき、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]イエスに|遇《あ》ひて|言《い》ふ『|人《ひと》みな|汝《なんぢ》を|尋《たづ》ぬ』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『いざ|最寄《もより》の|村々《むらむら》に|往《ゆ》かん、われ|彼處《かしこ》にも|教《をしへ》を|宣《の》ぶべし、|我《われ》はこの|爲《ため》に|出《い》で|來《きた》りしなり』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にゆきて、|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》くガリラヤの|會堂《くわいだう》にて|教《をしへ》を|宣《の》べ、かつ|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》し|給《たま》へり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|一人《ひとり》の|癩病人《らいびゃうにん》みもとに|來《きた》り、|跪《ひざま》づき|請《こ》ひて|言《い》ふ『|御意《みこころ》ならば、|我《われ》を|潔《きよ》くなし|給《たま》ふを|得《え》ん』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|憫《あはれ》みて、|手《て》をのべ|彼《かれ》につけて『わが|意《こころ》なり、|潔《きよ》くなれ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちに|癩病《らいびゃう》さりて、その|人《ひと》きよまれり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]やがて|彼《かれ》を|去《さ》らしめんとて、|嚴《きび》しく|戒《いまし》めて|言《い》ひ|給《たま》ふ[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]『つつしみて|誰《たれ》にも|語《かた》るな、|唯《ただ》ゆきて|己《おのれ》を|祭司《さいし》に|見《み》せ、モーセが|命《めい》じたる|物《もの》を|汝《なんぢ》の|潔《きよめ》のために|献《ささ》げて、|人々《ひとびと》に|證《あかし》せよ』[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》いでて|此《こ》の|事《こと》を|大《おほい》に|述《の》べつたへ、|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》く|弘《ひろ》め|始《はじ》めたれば、この|後《のち》イエスあらはに|町《まち》に|入《い》りがたく、|外《そと》の|寂《さび》しき|處《ところ》に|留《とどま》りたまふ。|人々《ひとびと》|四方《しはう》より|御許《みもと》に|來《きた》れり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|數日《すにち》の|後《のち》、またカペナウムに|入《い》り|給《たま》ひしに、その|家《いへ》に|在《いま》することを|聞《き》きて、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|人《ひと》あつまり|來《きた》り、|門口《かどぐち》すら|隙間《すきま》なき|程《ほど》なり。イエス|彼《かれ》らに|御言《みことば》を|語《かた》り|給《たま》ふ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|四人《よにん》に|擔《にな》はれたる|中風《ちゅうぶ》の|者《もの》を|人々《ひとびと》つれ|來《きた》る。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》によりて|御許《みもと》にゆくこと|能《あた》はざれば、|在《いま》す|所《ところ》の|屋根《やね》を|穿《うが》ちあけて、|中風《ちゅうぶ》の|者《もの》を|床《とこ》のまま|縋《つ》り|下《おろ》せり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らの|信仰《しんかう》を|見《み》て、|中風《ちゅうぶ》の|者《もの》に|言《い》ひたまふ『|子《こ》よ、|汝《なんぢ》の|罪《つみ》ゆるされたり』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ある|學者《がくしゃ》たち|其處《そこ》に|坐《ざ》しゐたるが、|心《こころ》の|中《うち》に、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]『この|人《ひと》なんぞ|斯《か》く|言《い》ふか、これは|神《かみ》を|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]《けが》すなり、|神《かみ》ひとりの|外《ほか》は|誰《たれ》か|罪《つみ》を|赦《ゆる》すことを|得《う》べき』と|論《ろん》ぜしかば、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|直《ただ》ちに|彼《かれ》|等《ら》がかく|論《ろん》ずるを|心《こころ》に|悟《さと》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なにゆゑ|斯《か》かることを|心《こころ》に|論《ろん》ずるか、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|中風《ちゅうぶ》の|者《もの》に「なんぢの|罪《つみ》ゆるされたり」と|言《い》ふと「|起《お》きよ、|床《とこ》をとりて|歩《あゆ》め」と|言《い》ふと、|孰《いづれ》か|易《やす》き。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》の|地《ち》にて|罪《つみ》を|赦《ゆる》す|權威《けんゐ》ある|事《こと》を、|汝《なんぢ》らに|知《し》らせん|爲《ため》に』――|中風《ちゅうぶ》の|者《もの》に|言《い》ひ|給《たま》ふ――[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢに|告《つ》ぐ、|起《お》きよ、|床《とこ》をとりて|家《いへ》に|歸《かへ》れ』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》おきて|直《ただ》ちに|床《とこ》をとりあげ、|人々《ひとびと》の|眼前《まのあたり》いで|往《ゆ》けば、|皆《みな》おどろき、かつ|神《かみ》を|崇《あが》めて|言《い》ふ『われら|斯《か》くの|如《ごと》きことは|斷《た》えて|見《み》ざりき』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエスまた|海邊《うみべ》に|出《い》でゆき|給《たま》ひしに、|群衆《ぐんじゅう》みもとに|集《つど》ひ|來《きた》りたれば、|之《これ》を|教《をし》へ|給《たま》へり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|過《す》ぎ|往《ゆ》くとき、アルパヨの|子《こ》レビの|收税所《しうぜいしょ》に|坐《ざ》しをるを|見《み》て『われに|從《したが》へ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|立《た》ちて|從《したが》へり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|其《そ》の|家《いへ》にて|食事《しょくじ》の|席《せき》につき|居給《ゐたま》ふとき、|多《おほ》くの|取税人《しゅぜいにん》・|罪人《つみびと》ら、イエス|及《およ》び|弟子《でし》たちと|共《とも》に|席《せき》に|列《つらな》る、これらの|者《もの》おほく|居《ゐ》て、イエスに|從《したが》へるなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》の|學者《がくしゃ》ら、イエスの|罪人《つみびと》・|取税人《しゅぜいにん》とともに|食《しょく》し|給《たま》ふを|見《み》て、その|弟子《でし》たちに|言《い》ふ『なにゆゑ|取税人《しゅぜいにん》・|罪人《つみびと》とともに|食《しょく》するか』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|聞《き》きて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|健《すこや》かなる|者《もの》は|醫者《いしゃ》を|要《えう》せず、ただ|病《やまひ》ある|者《もの》これを|要《えう》す。|我《われ》は|正《ただ》しき|者《もの》を|招《まね》かんとにあらで、|罪人《つみびと》を|招《まね》かんとて|來《きた》れり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネの|弟子《でし》とパリサイ|人《びと》とは、|斷食《だんじき》しゐたり。|人々《ひとびと》イエスに|來《きた》りて|言《い》ふ『なにゆゑヨハネの|弟子《でし》とパリサイ|人《びと》の|弟子《でし》とは|斷食《だんじき》して、|汝《なんぢ》の|弟子《でし》は|斷食《だんじき》せぬか』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|新郎《はなむこ》の|友《とも》だち、|新郎《はなむこ》と|偕《とも》にをるうちは|斷食《だんじき》し|得《う》べきか、|新郎《はなむこ》と|偕《とも》にをる|間《あひだ》は、|斷食《だんじき》するを|得《え》ず。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|新郎《はなむこ》をとらるる|日《ひ》きたらん、その|日《ひ》には|斷食《だんじき》せん。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|新《あたら》しき|布《ぬの》の|裂《きれ》を|舊《ふる》き|衣《ころも》に|縫《ぬ》ひつくることは|爲《せ》じ。もし|然《しか》せば、その|補《おぎな》ひたる|新《あたら》しきものは、|舊《ふる》き|物《もの》をやぶり、|破綻《ほころび》さらに|甚《はなは》だしからん。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|新《あたら》しき|葡萄酒《ぶだうしゅ》を、ふるき|革嚢《かはぶくろ》に|入《い》るることは|爲《せ》じ。もし|然《しか》せば、|葡萄酒《ぶだうしゅ》は|嚢《ふくろ》をはりさきて、|葡萄酒《ぶだうしゅ》も|嚢《ふくろ》も|廢《すた》らん。|新《あたら》しき|葡萄酒《ぶだうしゅ》は、|新《あたら》しき|革嚢《かはぶくろ》に|入《い》るるなり』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|安息《あんそく》|日《にち》に|麥《むぎ》|畠《はたけ》をとほり|給《たま》ひしに、|弟子《でし》たち|歩《あゆ》みつつ|穗《ほ》を|摘《つ》み|始《はじ》めたれば、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》、イエスに|言《い》ふ『|視《み》よ、|彼《かれ》らは|何《なに》ゆゑ|安息《あんそく》|日《にち》に|爲《す》まじき|事《こと》をするか』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へ|給《たま》ふ『ダビデその|伴《ともな》へる|人々《ひとびと》と|共《とも》に|乏《とも》しくして|飢《う》ゑしとき|爲《な》しし|事《こと》を|未《いま》だ|讀《よ》まぬか。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|大《だい》|祭司《さいし》アビアタルの|時《とき》、ダビデ|神《かみ》の|家《いへ》に|入《い》りて、|祭司《さいし》のほかは|食《くら》ふまじき|供《そなへ》のパンを|取《と》りて|食《くら》ひ、おのれと|偕《とも》なる|者《もの》にも|與《あた》へたり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひたまふ『|安息《あんそく》|日《にち》は|人《ひと》のために|設《まう》けられて、|人《ひと》は|安息《あんそく》|日《にち》のために|設《まう》けられず。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]されば|人《ひと》の|子《こ》は|安息《あんそく》|日《にち》にも|主《しゅ》たるなり』 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]また|會堂《くわいだう》に|入《い》り|給《たま》ひしに、|片手《かたて》なえたる|人《ひと》あり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》イエスを|訴《うった》へんと|思《おも》ひて、|安息《あんそく》|日《にち》にかの|人《ひと》を|醫《いや》すや|否《いな》やと|窺《うかが》ふ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|手《て》なえたる|人《ひと》に『|中《なか》に|立《た》て』といひ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|人々《ひとびと》に|言《い》ひたまふ『|安息《あんそく》|日《にち》に|善《ぜん》をなすと|惡《あく》をなすと、|生命《いのち》を|救《すく》ふと|殺《ころ》すと、|孰《いづれ》かよき』|彼《かれ》ら|默然《もくねん》たり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|心《こころ》の|頑固《かたくな》なるを|憂《うれ》ひて、|怒《いか》り|見囘《みまは》して、|手《て》なえたる|人《ひと》に『|手《て》を|伸《の》べよ』と|言《い》ひ|給《たま》ふ。かれ|手《て》を|伸《の》べたれば|癒《い》ゆ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》いでて、|直《ただ》ちにヘロデ|黨《たう》の|人《ひと》とともに、|如何《いか》にしてイエスを|亡《ほろぼ》さんと|議《はか》る。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|弟子《でし》とともに|海邊《うみべ》に|退《しりぞ》き|給《たま》ひしに、ガリラヤより|來《きた》れる|夥多《おびただ》しき|民衆《みんしゅう》も|從《したが》ふ。|又《また》ユダヤ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]エルサレム、イドマヤ、ヨルダンの|向《むかひ》の|地《ち》、およびツロ、シドンの|邊《ほとり》より|夥多《おびただ》しき|民衆《みんしゅう》その|爲《な》し|給《たま》へる|事《こと》を|聞《き》きて、|御許《みもと》に|來《きた》る。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|群衆《ぐんじゅう》のおしなやますを|逃《のが》れんとて、|小舟《こぶね》を|備《そな》へ|置《お》くことを|弟子《でし》に|命《めい》じ|給《たま》ふ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]これ|多《おほ》くの|人《ひと》を|醫《いや》し|給《たま》ひたれば、|凡《すべ》て|病《やまひ》に|苦《くる》しむもの、|御體《みからだ》に|觸《さは》らんとて|押迫《おしせま》る|故《ゆゑ》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]また|穢《けが》れし|靈《れい》イエスを|見《み》る|毎《ごと》に、|御前《みまへ》に|平伏《ひれふ》し、|叫《さけ》びて『なんぢは|神《かみ》の|子《こ》なり』と|言《い》ひたれば、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|顯《あらは》すなとて、|嚴《きび》しく|戒《いまし》め|給《たま》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|山《やま》に|登《のぼ》り、|御意《みこころ》に|適《かな》ふ|者《もの》を|召《め》し|給《たま》ひしに、|彼《かれ》ら|御許《みもと》に|來《きた》る。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|十二《じふに》|人《にん》を|擧《あ》げたまふ。|是《これ》かれらを|御側《みそば》におき、また|教《をしへ》を|宣《の》べさせ、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》す|權威《けんゐ》を|用《もち》ひさする|爲《ため》に、|遣《つかは》さんとてなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|十二《じふに》|人《にん》を|擧《あ》げて、シモンにペテロといふ|名《な》をつけ、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ゼベダイの|子《こ》ヤコブ、その|兄弟《きゃうだい》ヨハネ、|此《こ》の|二人《ふたり》にボアネルゲ、|即《すなは》ち|雷霆《いかづち》の|子《こ》といふ|名《な》をつけ|給《たま》ふ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》アンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの|子《こ》ヤコブ、タダイ、|熱心《ねっしん》|黨《たう》のシモン、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|及《およ》びイスカリオテのユダ、このユダはイエスを|賣《う》りしなり。かくてイエス|家《いへ》に|入《い》り|給《たま》ひしに、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》また|集《あつま》り|來《きた》りたれば、|食事《しょくじ》する|暇《ひま》もなかりき。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|親族《しんぞく》の|者《もの》これを|聞《き》き、イエスを|取押《とりおさ》へんとて|出《い》で|來《きた》る、イエスを|狂《くる》へりと|謂《い》ひてなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》エルサレムより|下《くだ》れる|學者《がくしゃ》たちも『|彼《かれ》はベルゼブルに|憑《つ》かれたり』と|言《い》ひ、かつ『|惡鬼《あくき》の|首《かしら》によりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》すなり』と|言《い》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らを|呼《よ》びよせ、|譬《たとへ》にて|言《い》ひ|給《たま》ふ『サタンはいかでサタンを|逐《お》ひ|出《いだ》し|得《え》んや。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]もし|國《くに》|分《わか》れ|爭《あらそ》はば、|其《そ》の|國《くに》|立《た》つこと|能《あた》はず。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]もし|家《いへ》|分《わか》れ|爭《あらそ》はば、|其《そ》の|家《いへ》|立《た》つこと|能《あた》はざるべし。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]もしサタン|己《おのれ》に|逆《さから》ひて|分《わか》れ|爭《あらそ》はば、|立《た》つこと|能《あた》はず、|反《かへ》つて|亡《ほろ》び|果《は》てん。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》にても|先《ま》づ|強《つよ》き|者《もの》を|縛《しば》らずば、|強《つよ》き|者《もの》の|家《いへ》に|入《い》りて|其《そ》の|家財《かざい》を|奪《うば》ふこと|能《あた》はじ、|縛《しば》りて|後《のち》その|家《いへ》を|奪《うば》ふべし。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|人《ひと》の|子《こ》らの|凡《すべ》ての|罪《つみ》と、けがす|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]《けがし》とは|赦《ゆる》されん。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]されど|聖《せい》|靈《れい》をけがす|者《もの》は、|永遠《とこしへ》に|赦《ゆる》されず、|永遠《とこしへ》の|罪《つみ》に|定《さだ》めらるべし』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]これは|彼《かれ》らイエスを『|穢《けが》れし|靈《れい》に|憑《つ》かれたり』と|云《い》へるが|故《ゆゑ》なり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエスの|母《はは》と|兄弟《きゃうだい》と|來《きた》りて|外《そと》に|立《た》ち、|人《ひと》を|遣《つかは》してイエスを|呼《よ》ばしむ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》イエスを|環《めぐ》りて|坐《ざ》したりしが、|或《ある》|者《もの》いふ『|視《み》よ、なんぢの|母《はは》と|兄弟《きゃうだい》|姉妹《しまい》と|外《そと》にありて|汝《なんぢ》を|尋《たづ》ぬ』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|母《はは》、わが|兄弟《きゃうだい》とは|誰《たれ》ぞ』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|周圍《まはり》に|坐《ざ》する|人々《ひとびと》を|見囘《みまは》して|言《い》ひたまふ『|視《み》よ、これは|我《わ》が|母《はは》、わが|兄弟《きゃうだい》なり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》にても|神《かみ》の|御意《みこころ》を|行《おこな》ふものは、|是《これ》わが|兄弟《きゃうだい》、わが|姉妹《しまい》、わが|母《はは》なり』 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエスまた|海邊《うみべ》にて|教《をし》へ|始《はじ》めたまふ。|夥多《おびただ》しき|群衆《ぐんじゅう》、みもとに|集《あつま》りたれば、|舟《ふね》に|乘《の》り|海《うみ》に|泛《うか》びて|坐《ざ》したまひ、|群衆《ぐんじゅう》はみな|海《うみ》に|沿《そ》ひて|陸《をか》にあり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|譬《たとへ》にて|數多《あまた》の|事《こと》ををしへ、|教《をしへ》の|中《うち》に|言《い》ひたまふ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]『|聽《き》け、|種《たね》|播《ま》くもの、|播《ま》かんとて|出《い》づ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|播《ま》くとき、|路《みち》の|傍《かたは》らに|落《お》ちし|種《たね》あり、|鳥《とり》きたりて|啄《ついば》む。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|土《つち》うすき|磽地《いしぢ》に|落《お》ちし|種《たね》あり、|土《つち》|深《ふか》からぬによりて、|速《すみや》かに|萠《も》え|出《い》でたれど、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》|出《い》でてやけ、|根《ね》なき|故《ゆゑ》に|枯《か》る。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|茨《いばら》の|中《なか》に|落《お》ちし|種《たね》あり、|茨《いばら》そだち|塞《ふさ》ぎたれば、|實《み》を|結《むす》ばず。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|良《よ》き|地《ち》に|落《お》ちし|種《たね》あり、|生《は》え|出《い》でて|茂《しげ》り、|實《み》を|結《むす》ぶこと、|三十《さんじふ》|倍《ばい》、|六十《ろくじふ》|倍《ばい》、|百《ひゃく》|倍《ばい》せり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『きく|耳《みみ》ある|者《もの》は|聽《き》くべし』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|人々《ひとびと》を|離《はな》れ|居給《ゐたま》ふとき、|御許《みもと》にをる|者《もの》ども、|十二《じふに》|弟子《でし》とともに、|此《これ》|等《ら》の|譬《たとへ》を|問《と》ふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらには|神《かみ》の|國《くに》の|奧義《おくぎ》を|與《あた》ふれど、|外《そと》の|者《もの》には、|凡《すべ》て|譬《たとへ》にて|教《をし》ふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]これ「|見《み》るとき|見《み》ゆとも|認《みと》めず、|聽《き》くとき|聞《きこ》ゆとも|悟《さと》らず、|飜《ひるが》へりて|赦《ゆる》さるる|事《こと》なからん」|爲《ため》なり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|此《こ》の|譬《たとへ》を|知《し》らぬか、さらば|爭《いか》でもろもろの|譬《たとへ》を|知《し》り|得《え》んや。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|播《ま》く|者《もの》は|御言《みことば》を|播《ま》くなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|御言《みことば》の|播《ま》かれて|路《みち》の|傍《かたは》らにありとは、かかる|人《ひと》をいふ、|即《すなは》ち|聞《き》くとき、|直《ただ》ちにサタン|來《きた》りて、その|播《ま》かれたる|御言《みことば》を|奪《うば》ふなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|同《おな》じく|播《ま》かれて|磽地《いしぢ》にありとは、かかる|人《ひと》をいふ、|即《すなは》ち|御言《みことば》をききて、|直《ただ》ちに|喜《よろこ》び|受《う》くれども、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》に|根《ね》なければ、ただ|暫《しば》し|保《たも》つのみ、|御言《みことば》のために|患難《なやみ》また|迫害《はくがい》にあふ|時《とき》は、|直《ただ》ちに|躓《つまづ》くなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]また|播《ま》かれて|茨《いばら》の|中《なか》にありとは、かかる|人《ひと》をいふ、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]すなはち|御言《みことば》をきけど、|世《よ》の|心勞《こころづかひ》、|財貨《たから》の|惑《まどひ》、さまざまの|慾《よく》いりきたり、|御言《みことば》を|塞《ふさ》ぐによりて、|遂《つひ》に|實《みの》らざるなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|播《ま》かれて|良《よ》き|地《ち》にありとは、かかる|人《ひと》をいふ、|即《すなは》ち|御言《みことば》を|聽《き》きて|受《う》け、|三十《さんじふ》|倍《ばい》、|六十《ろくじふ》|倍《ばい》、|百《ひゃく》|倍《ばい》の|實《み》を|結《むす》ぶなり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひたまふ『|升《ます》のした、|寢臺《ねだい》の|下《した》におかんとて、|燈火《ともしび》をもち|來《きた》るか、|燈臺《とうだい》の|上《うへ》におく|爲《ため》ならずや。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]それ|顯《あらは》るる|爲《ため》ならで|隱《かく》るるものなく、|明《あきら》かにせらるる|爲《ため》ならで|秘《ひ》めらるるものなし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|聽《き》く|耳《みみ》ある|者《もの》は|聽《き》くべし』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|聽《き》くことに|心《こころ》せよ、|汝《なんぢ》らが|量《はか》る|量《はかり》にて|量《はか》られ、|更《さら》に|増《ま》し|加《くは》へらるべし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]それ|有《も》てる|人《ひと》は、なほ|與《あた》へられ、|有《も》たぬ|人《ひと》は、|有《も》てる|物《もの》をも|取《と》らるべし』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひたまふ『|神《かみ》の|國《くに》は、|或《ある》|人《ひと》たねを|地《ち》に|播《ま》くが|如《ごと》し、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|日夜《にちや》|起臥《おきふし》するほどに、|種《たね》はえ|出《い》でて|育《そだ》てども、その|故《ゆゑ》を|知《し》らず。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|地《ち》はおのづから|實《み》を|結《むす》ぶものにして、|初《はじめ》には|苗《なへ》、つぎに|穗《ほ》、つひに|穗《ほ》の|中《なか》に|充《み》ち|足《た》れる|穀《こく》なる。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|實《み》みのれば|直《ただ》ちに|鎌《かま》を|入《い》る、|收穫時《かりいれどき》の|到《いた》れるなり』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『われら|神《かみ》の|國《くに》を|何《なに》になずらへ、|如何《いか》なる|譬《たとへ》をもて|示《しめ》さん。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|一粒《ひとつぶ》の|芥種《からしだね》のごとし、|地《ち》に|播《ま》く|時《とき》は、|世《よ》にある|萬《よろづ》の|種《たね》よりも|小《ちひさ》けれど、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|播《ま》きて|生《は》え|出《い》づれば、|萬《よろづ》の|野菜《やさい》よりは|大《おほき》く、かつ|大《おほい》なる|枝《えだ》を|出《いだ》して、|空《そら》の|鳥《とり》その|蔭《かげ》に|棲《す》み|得《う》るほどになるなり』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かくのごとき|數多《あまた》の|譬《たとへ》をもて、|人々《ひとびと》の|聽《き》きうる|力《ちから》に|隨《したが》ひて、|御言《みことば》を|語《かた》り、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|譬《たとへ》ならでは|語《かた》り|給《たま》はず、|弟子《でし》たちには、|人《ひと》なき|時《とき》に|凡《すべ》ての|事《こと》を|釋《と》き|給《たま》へり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》、|夕《ゆふべ》になりて|言《い》ひ|給《たま》ふ『いざ|彼方《かなた》に|往《ゆ》かん』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|群衆《ぐんじゅう》を|離《はな》れ、イエスの|舟《ふね》にゐ|給《たま》ふまま|共《とも》に|乘《の》り|出《い》づ、|他《ほか》の|舟《ふね》も|從《したが》ひゆく。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》に|烈《はげ》しき|颶風《はやて》おこり、|浪《なみ》うち|込《こ》みて、|舟《ふね》に|滿《み》つるばかりなり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエスは|艫《とも》の|方《かた》に|茵《しとね》を|枕《まくら》として|寢《い》ねたまふ。|弟子《でし》たち|呼《よ》び|起《おこ》して|言《い》ふ『|師《し》よ、|我《われ》らの|亡《ほろ》ぶるを|顧《かへり》み|給《たま》はぬか』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|起《お》きて|風《かぜ》をいましめ、|海《うみ》に|言《い》ひたまふ『|默《もだ》せ、|鎭《しづま》れ』|乃《すなは》ち|風《かぜ》やみて、|大《おほい》なる|凪《なぎ》となりぬ。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なに|故《ゆゑ》かく|臆《おく》するか、|信仰《しんかう》なきは|何《なに》ぞ』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]かれら|甚《いた》く|懼《おそ》れて|互《たがひ》に|言《い》ふ『こは|誰《たれ》ぞ、|風《かぜ》も|海《うみ》も|順《したが》ふとは』 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|海《うみ》の|彼方《かなた》なるゲラセネ|人《ひと》の|地《ち》に|到《いた》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|舟《ふね》より|上《あが》り|給《たま》ふとき、|穢《けが》れし|靈《れい》に|憑《つ》かれたる|人《ひと》、|墓《はか》より|出《い》でて|直《ただ》ちに|遇《あ》ふ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》、|墓《はか》を|住處《すみか》とす、|鏈《くさり》にてすら|今《いま》は|誰《たれ》も|繋《つな》ぎ|得《え》ず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はしばしば|足械《あしかせ》と|鏈《くさり》とにて|繋《つな》がれたれど、|鏈《くさり》をちぎり、|足械《あしかせ》をくだきたり、|誰《たれ》も|之《これ》を|制《せい》する|力《ちから》なかりしなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|夜《よる》も|晝《ひる》も、|絶《た》えず|墓《はか》あるひは|山《やま》にて|叫《さけ》び、|己《おの》が|身《み》を|石《いし》にて|傷《きず》つけゐたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かれ|遙《はるか》にイエスを|見《み》て、|走《はし》りきたり、|御前《みまへ》に|平伏《ひれふ》し、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|大聲《おほごゑ》に|叫《さけ》びて|言《い》ふ『いと|高《たか》き|神《かみ》の|子《こ》イエスよ、|我《われ》は|汝《なんぢ》と|何《なに》の|關係《かかはり》あらん、|神《かみ》によりて|願《ねが》ふ、|我《われ》を|苦《くる》しめ|給《たま》ふな』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]これはイエス『|穢《けが》れし|靈《れい》よ、この|人《ひと》より|出《い》で|往《ゆ》け』と|言《い》ひ|給《たま》ひしに|因《よ》るなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]イエスまた『なんぢの|名《な》は|何《なに》か』と|問《と》ひ|給《たま》へば『わが|名《な》はレギオン、|我《われ》ら|多《おほ》きが|故《ゆゑ》なり』と|答《こた》へ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|己《おのれ》らを|此《こ》の|地《ち》の|外《そと》に|逐《お》ひやり|給《たま》はざらんことを|切《せつ》に|求《もと》む。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》の|山邊《やまべ》に|豚《ぶた》の|大《おほい》なる|群《むれ》、|食《しょく》しゐたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|惡鬼《あくき》どもイエスに|求《もと》めて|言《い》ふ『われらを|遣《つかは》して|豚《ぶた》に|入《い》らしめ|給《たま》へ』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|許《ゆる》したまふ。|穢《けが》れし|靈《れい》いでて、|豚《ぶた》に|入《い》りたれば、|二千《にせん》|匹《びき》ばかりの|群《むれ》、|海《うみ》に|向《むか》ひて|崖《がけ》を|駈《か》けくだり、|海《うみ》に|溺《おぼ》れたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|飼《か》ふ|者《もの》ども|逃《に》げ|往《ゆ》きて、|町《まち》にも|里《さと》にも|告《つ》げたれば、|人々《ひとびと》|何事《なにごと》の|起《おこ》りしかを|見《み》んとて|出《い》づ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエスに|來《きた》り、|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたりし|者《もの》、|即《すなは》ちレギオンをもちたりし|者《もの》の、|衣服《ころも》をつけ、|慥《たしか》なる|心《こころ》にて|坐《ざ》しをるを|見《み》て、|懼《おそ》れあへり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かの|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|者《もの》の|上《うへ》にありし|事《こと》と、|豚《ぶた》の|事《こと》とを|見《み》し|者《もの》ども、|之《これ》を|具《つぶさ》に|告《つ》げたれば、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》イエスにその|境《さかひ》を|去《さ》り|給《たま》はん|事《こと》を|求《もと》む。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|舟《ふね》に|乘《の》らんとし|給《たま》ふとき、|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたりしもの|偕《とも》に|在《あ》らん|事《こと》を|願《ねが》ひたれど、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|許《ゆる》さずして|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|家《いへ》に、|親《した》しき|者《もの》に|歸《かへ》りて、|主《しゅ》がいかに|大《おほい》なる|事《こと》を|汝《なんぢ》に|爲《な》し、いかに|汝《なんぢ》を|憫《あはれ》み|給《たま》ひしかを|告《つ》げよ』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ゆきて、イエスの|如何《いか》に|大《おほい》なる|事《こと》を|己《おのれ》になし|給《たま》ひしかを、デカポリスに|言《い》ひ|弘《ひろ》めたれば、|人々《ひとびと》みな|怪《あや》しめり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|舟《ふね》にて|復《また》かなたに|渡《わた》り|給《たま》ひしに、|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》みもとに|集《あつま》る、イエス|海邊《うみべ》に|在《いま》せり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|會堂《くわいだう》|司《つかさ》の|一人《ひとり》、ヤイロという|者《もの》きたり、イエスを|見《み》て、その|足下《あしもと》に|伏《ふ》し、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|切《せつ》に|願《ねが》ひて|言《い》ふ『わが|稚《いとけ》なき|娘《むすめ》、いまはの|際《きは》なり、|來《きた》りて|手《て》をおき|給《たま》へ、さらば|救《すく》はれて|活《い》くべし』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》と|共《とも》にゆき|給《たま》へば、|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》したがひつつ|御許《みもと》に|押迫《おしせま》る。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ここに|十《じふ》|二年《にねん》|血漏《ちらう》を|患《わづら》ひたる|女《をんな》あり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|醫者《いしゃ》に|多《おほ》く|苦《くる》しめられ、|有《も》てる|物《もの》をことごとく|費《つひや》したれど、|何《なに》の|效《かひ》なく、|反《かへ》つて|増々《ますます》|惡《あ》しくなりたり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|事《こと》をききて、|群衆《ぐんじゅう》にまじり、|後《うしろ》に|來《きた》りて、|御衣《みころも》にさはる、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]『その|衣《ころも》にだに|觸《さは》らば|救《すく》はれん』と|自《みづか》ら|謂《い》へり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|血《ち》の|泉《いづみ》ただちに|乾《かわ》き、|病《やまひ》のいえたるを|身《み》に|覺《おぼ》えたり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|直《ただ》ちに|能力《ちから》の|己《おのれ》より|出《い》でたるを|自《みづか》ら|知《し》り、|群衆《ぐんじゅう》の|中《なか》にて、|振反《ふりかへ》り|言《い》ひたまふ『|誰《たれ》が|我《われ》の|衣《ころも》に|觸《さは》りしぞ』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|言《い》ふ『|群衆《ぐんじゅう》の|押迫《おしせま》るを|見《み》て、|誰《たれ》が|我《われ》に|觸《さは》りしぞと|言《い》ひ|給《たま》ふか』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]イエスこの|事《こと》を|爲《な》しし|者《もの》を|見《み》んとて|見囘《みまは》し|給《たま》ふ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》おそれ|戰《おのの》き、|己《おの》が|身《み》になりし|事《こと》を|知《し》り、|來《きた》りて|御前《みまへ》に|平伏《ひれふ》し、ありしままを|告《つ》ぐ。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|娘《むすめ》よ、なんぢの|信仰《しんかう》なんぢを|救《すく》へり、|安《やす》らかに|往《ゆ》け、|病《やまひ》いえて|健《すこや》かになれ』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]かく|語《かた》り|給《たま》ふほどに、|會堂《くわいだう》|司《つかさ》の|家《いへ》より|人々《ひとびと》きたりて|言《い》ふ『なんぢの|娘《むすめ》は|早《は》や|死《し》にたり、|爭《いか》でなほ|師《し》を|煩《わづら》はすべき』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|其《そ》の|告《つ》ぐる|言《ことば》を|傍《かたへ》より|聞《き》きて、|會堂《くわいだう》|司《つかさ》に|言《い》ひたまふ『|懼《おそ》るな、ただ|信《しん》ぜよ』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]かくてペテロ、ヤコブその|兄弟《きゃうだい》ヨハネの|他《ほか》は、ともに|往《ゆ》く|事《こと》を|誰《たれ》にも|許《ゆる》し|給《たま》はず。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|會堂《くわいだう》|司《つかさ》の|家《いへ》に|來《きた》る。イエス|多《おほ》くの|人《ひと》の、|甚《いた》く|泣《な》きつ|叫《さけ》びつする|騷《さわぎ》を|見《み》、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|入《い》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぞ|騷《さわ》ぎかつ|泣《な》くか、|幼兒《をさなご》は|死《し》にたるにあらず、|寐《い》ねたるなり』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》イエスを|嘲笑《あざわら》ふ。イエス|彼《かれ》|等《ら》をみな|外《そと》に|出《いだ》し、|幼兒《をさなご》の|父《ちち》と|母《はは》と|己《おのれ》に|伴《ともな》へる|者《もの》とを|率《ひ》きつれて、|幼兒《をさなご》のをる|處《ところ》に|入《い》り、[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|幼兒《をさなご》の|手《て》を|執《と》りて『タリタ、クミ』と|言《い》ひたまふ。|少女《せうじょ》よ、|我《われ》なんぢに|言《い》ふ、|起《お》きよ、との|意《こころ》なり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちに|少女《せうじょ》たちて|歩《あゆ》む、その|歳《とし》|十二《じふに》なりければなり。|彼《かれ》ら|直《ただ》ちに|甚《いた》く|驚《をどろ》きおどろけり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此《こ》の|事《こと》を|誰《たれ》にも|知《し》れぬやうにせよと、|堅《かた》く|彼《かれ》らを|戒《いまし》め、また|食物《しょくもつ》を|娘《むすめ》に|與《あた》ふることを|命《めい》じ|給《たま》ふ。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|其處《そこ》をいで、|己《おの》が|郷《さと》に|到《いた》り|給《たま》ひしに、|弟子《でし》たちも|從《したが》へり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|安息《あんそく》|日《にち》になりて、|會堂《くわいだう》にて|教《をし》へ|始《はじ》め|給《たま》ひしに、|聞《き》きたる|多《おほ》くのもの|驚《をどろ》きて|言《い》ふ『この|人《ひと》は|此《これ》|等《ら》のことを|何處《いづこ》より|得《え》しぞ、|此《こ》の|人《ひと》の|授《さづ》けられたる|智慧《ちゑ》は|何《なに》ぞ、その|手《て》にて|爲《な》すかくのごとき|能力《ちから》あるわざは|何《なに》ぞ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|人《ひと》は|木匠《たくみ》にして、マリヤの|子《こ》、またヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの|兄弟《きゃうだい》ならずや、|其《そ》の|姉妹《しまい》も|此處《ここ》に|我《われ》らと|共《とも》にをるに|非《あら》ずや』|遂《つひ》に|彼《かれ》に|躓《つまづ》けり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|言《い》ひたまふ『|預言者《よげんしゃ》は、おのが|郷《さと》、おのが|親族《しんぞく》、おのが|家《いへ》の|外《ほか》にて|尊《たふと》ばれざる|事《こと》なし』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》にては、|何《なに》の|能力《ちから》ある|業《わざ》をも|行《おこな》ひ|給《たま》ふこと|能《あた》はず、ただ|少數《せうすう》の|病《や》める|者《もの》に、|手《て》をおきて|醫《いや》し|給《たま》ひしのみ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|信仰《しんかう》なきを|怪《あや》しみ|給《たま》へり。かくて|村々《むらむら》を|歴《へ》|巡《めぐ》りて|教《をし》へ|給《たま》ふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]また|十二《じふに》|弟子《でし》を|召《め》し、|二人《ふたり》づつ|遣《つかは》しはじめ、|穢《けが》れし|靈《れい》を|制《せい》する|權威《けんゐ》を|與《あた》へ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かつ|旅《たび》のために、|杖《つゑ》|一《ひと》つの|他《ほか》は、|何《なに》をも|持《も》たず、|糧《かて》も|嚢《ふくろ》も|帶《おび》の|中《なか》に|錢《ぜに》をも|持《も》たず、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ただ|草鞋《わらぢ》ばかりをはきて、|二《ふた》つの|下衣《したぎ》をも|著《き》ざることを|命《めい》じ|給《たま》へり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|言《い》ひたまふ『|何處《いづこ》にても|人《ひと》の|家《いへ》に|入《い》らば、その|地《ち》を|去《さ》るまで|其處《そこ》に|留《とどま》れ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|何地《いづち》にても|汝《なんぢ》らを|受《う》けず、|汝《なんぢ》らに|聽《き》かずば、|其處《そこ》を|出《い》づるとき、|證《あかし》のために|足《あし》の|裏《うら》の|塵《ちり》を|拂《はら》へ』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|弟子《でし》たち|出《い》で|往《ゆ》きて、|悔改《くいあらた》むべきことを|宣傅《のべつた》へ、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひいだし、|多《おほ》くの|病《や》める|者《もの》に|油《あぶら》をぬりて|醫《いや》せり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエスの|名《な》|顯《あらは》れたれば、ヘロデ|王《わう》ききて|言《い》ふ『バプテスマのヨハネ|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へりたり。この|故《ゆゑ》に|此《これ》|等《ら》の|能力《ちから》その|中《うち》に|働《はたら》くなり』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》は『エリヤなり』といひ、|或《ある》|人《ひと》は『|預言者《よげんしゃ》、いにしへの|預言者《よげんしゃ》のごとき|者《もの》なり』といふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|聞《き》きて|言《い》ふ『わが|首斬《くびき》りしヨハネ、かれ|甦《よみが》へりたるなり』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|先《さき》にその|娶《めと》りたる|己《おの》が|兄弟《きゃうだい》ピリポの|妻《つま》ヘロデヤの|爲《ため》に、みづから|人《ひと》を|遣《つかは》し、ヨハネを|捕《とら》へて|獄《ひとや》に|繋《つな》げり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ、ヘロデに『その|兄弟《きゃうだい》の|妻《つま》を|納《い》るるは|宣《よろ》しからず』と|言《い》へるに|因《よ》る。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデヤ、ヨハネを|怨《うら》みて|殺《ころ》さんと|思《おも》へど|能《あた》はず。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]それはヘロデ、ヨハネの|義《ぎ》にして|聖《せい》なる|人《ひと》たるを|知《し》りて、|之《これ》を|畏《おそ》れ、|之《これ》を|護《まも》り、|且《かつ》つその|教《をしへ》をききて、|大《おほい》に|惱《なや》みつつも、なほ|喜《よろこ》びて|聽《き》きたる|故《ゆゑ》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|機《をり》よき|日《ひ》|來《きた》れり。ヘロデ|己《おの》が|誕生日《たんじゃうび》に、|大臣《だいじん》・|將校《しゃうこう》・ガリラヤの|貴人《きにん》たちを|招《まね》きて|饗宴《ふるまひ》せしに、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]かのヘロデヤの|娘《むすめ》いり|來《きた》りて、|舞《まひ》をまひ、ヘロデと|其《そ》の|席《せき》に|列《つらな》れる|者《もの》とを|喜《よろこ》ばしむ。|王《わう》、|少女《せうじょ》に|言《い》ふ『|何《なに》にても|欲《ほ》しく|思《おも》ふものを|求《もと》めよ、|我《われ》あたへん』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]また|誓《ちか》ひて|言《い》ふ『なんぢ|求《もと》めば、|我《わ》が|國《くに》の|半《なかば》までも|與《あた》へん』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|娘《むすめ》いでて|母《はは》にいふ『|何《なに》を|求《もと》むべきか』|母《はは》いふ『バプテスマのヨハネの|首《くび》を』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|娘《むすめ》ただちに|急《いそ》ぎて|王《わう》の|許《もと》に|入《い》りきたり、|求《もと》めて|言《い》ふ『ねがはくは、バプテスマのヨハネの|首《くび》を|盆《ぼん》に|載《の》せて|速《すみや》かに|賜《たま》はれ』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》いたく|憂《うれ》ひたれど、その|誓《ちかひ》と|席《せき》に|在《あ》る|者《もの》とに|對《たい》して|拒《こば》むことを|好《この》まず、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちに|衞兵《ゑいへい》を|遣《つかは》し、|之《これ》にヨハネの|首《くび》を|持《も》ち|來《きた》ることを|命《めい》ず、|衞兵《ゑいへい》ゆきて、|獄《ひとや》にてヨハネを|首斬《くびき》り、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]その|首《くび》を|盆《ぼん》にのせ、|持《も》ち|來《きた》りて|少女《せうじょ》に|與《あた》ふ、|少女《せうじょ》これを|母《はは》に|與《あた》ふ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネの|弟子《でし》たち|聞《き》きて|來《きた》り、その|屍體《しかばね》を|取《と》りて|墓《はか》に|納《をさ》めたり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たちイエスの|許《もと》に|集《あつま》りて、その|爲《な》ししこと、|教《をし》へし|事《こと》をことごとく|告《つ》ぐ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|人《ひと》を|避《さ》け、|寂《さび》しき|處《ところ》に、いざ|來《きた》りて|暫《しば》し|息《いこ》へ』これは|往來《ゆきき》の|人《ひと》おほくして、|食《しょく》する|暇《ひま》だになかりし|故《ゆゑ》なり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|人《ひと》を|避《さ》け、|舟《ふね》にて|寂《さび》しき|處《ところ》にゆく。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》の|往《ゆ》くを|見《み》て、|多《おほ》くの|人《ひと》それと|知《し》り、その|處《ところ》を|指《さ》して、|町々《まちまち》より|徒歩《かち》にてともに|走《はし》り、|彼《かれ》|等《ら》よりも|先《さき》に|往《ゆ》けり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|出《い》でて|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》を|見《み》、その|牧《か》ふ|者《もの》なき|羊《ひつじ》の|如《ごと》くなるを|甚《いた》く|憫《あはれ》みて、|多《おほ》くの|事《こと》を|教《をし》へはじめ|給《たま》ふ。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》すでに|晩《おそ》くなりたれば、|弟子《でし》たち|御許《みもと》に|來《きた》りていふ『ここは|寂《さび》しき|處《ところ》、はや|時《とき》も|晩《おそ》し。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》を|去《さ》らしめ、|周圍《まはり》の|里《さと》また|村《むら》に|往《ゆ》きて、|己《おの》がために|食物《しょくもつ》を|買《か》はせ|給《たま》へ』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|食物《しょくもつ》を|與《あた》へよ』|弟子《でし》たち|言《い》ふ『われら|往《ゆ》きて|二《に》|百《ひゃく》デナリのパンを|買《か》ひ、これに|與《あた》へて|食《くら》はすべきか』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『パン|幾《いく》つあるか、|往《ゆ》きて|見《み》よ』|彼《かれ》ら|見《み》ていふ『|五《いつ》つ、また|魚《うを》|二《ふた》つあり』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|凡《すべ》ての|人《ひと》の|組々《くみぐみ》となりて、|青《あを》|草《くさ》の|上《うへ》に|坐《ざ》することを|命《めい》じ|給《たま》へば、[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|或《あるひ》は|百《ひゃく》|人《にん》、あるひは|五《ご》|十《じふ》|人《にん》、|畝《うね》のごとく|列《なら》びて|坐《ざ》す。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエス|五《いつ》つのパンと|二《ふた》つの|魚《うを》とを|取《と》り、|天《てん》を|仰《あふ》ぎて|祝《しく》し、パンをさき、|弟子《でし》たちに|付《わた》して|人々《ひとびと》の|前《まへ》に|置《お》かしめ、|二《ふた》つの|魚《うを》をも|人《ひと》|毎《ごと》に|分《わ》け|給《たま》ふ。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》|食《くら》ひて|飽《あ》きたれば、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]パンの|餘《あまり》、|魚《うを》の|殘《のこり》を|集《あつ》めしに、|十二《じふに》の|筐《かご》に|滿《み》ちたり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]パンを|食《くら》ひたる|男《をとこ》は|五《ご》|千《せん》|人《にん》なりき。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|直《ただ》ちに、|弟子《でし》たちを|強《し》ひて|舟《ふね》に|乘《の》らせ、|自《みづか》ら|群衆《ぐんじゅう》を|返《かへ》す|間《ま》に、|彼方《かなた》なるベツサイダに|先《さき》に|往《ゆ》かしむ。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》に|別《わか》れてのち、|祈《いの》らんとて|山《やま》にゆき|給《たま》ふ。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|夕《ゆふべ》になりて、|舟《ふね》は|海《うみ》の|眞中《まなか》にあり、イエスはひとり|陸《をか》に|在《いま》す。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|風《かぜ》|逆《さから》ふに|因《よ》りて、|弟子《でし》たちの|漕《こ》ぎ|煩《わづら》ふを|見《み》て、|夜明《よあけ》の|四時《よじ》ごろ、|海《うみ》の|上《うへ》を|歩《あゆ》み、その|許《もと》に|到《いた》りて、|往《ゆ》き|過《す》ぎんとし|給《たま》ふ。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|其《そ》の|海《うみ》の|上《うへ》を|歩《あゆ》み|給《たま》ふを|見《み》、|變化《へんげ》の|者《もの》ならんと|思《おも》ひて|叫《さけ》ぶ。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|皆《みな》これを|見《み》て|心《こころ》|騷《さわ》ぎたるに|因《よ》る。イエス|直《ただ》ちに|彼《かれ》らに|語《かた》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|心《こころ》|安《やす》かれ、|我《われ》なり、|懼《おそ》るな』[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|弟子《でし》たちの|許《もと》にゆき、|舟《ふね》に|登《のぼ》り|給《たま》へば、|風《かぜ》やみたり。|弟子《でし》たち|心《こころ》の|中《うち》にて|甚《いた》く|驚《をどろ》く、[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|先《さき》のパンの|事《こと》をさとらず、|反《かへ》つて|其《そ》の|心《こころ》|鈍《にぶ》くなりしなり。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|渡《わた》りてゲネサレの|地《ち》に|著《つ》き、|舟《ふね》がかりす。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]|舟《ふね》より|上《あが》りしに、|人々《ひとびと》ただちにイエスを|認《みと》めて、[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》くあたりを|馳《は》せまはり、その|在《いま》すと|聞《き》く|處々《ところどころ》に、|患《わづら》ふ|者《もの》を|床《とこ》のままつれ|來《きた》る。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]その|到《いた》りたまふ|處《ところ》には、|村《むら》にても、|町《まち》にても、|里《さと》にても、|病《や》める|者《もの》を|市場《いちば》におきて、|御衣《みころも》の|總《ふさ》にだに|觸《さは》らしめ|給《たま》はんことを|願《ねが》ふ。|觸《さは》りし|者《もの》は、みな|醫《いや》されたり。 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》と|或《ある》|學者《がくしゃ》らと、エルサレムより|來《きた》りてイエスの|許《もと》に|集《あつま》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して、その|弟子《でし》たちの|中《うち》に、|潔《きよ》からぬ|手《て》、|即《すなは》ち|洗《あら》はぬ|手《て》にて|食事《しょくじ》する|者《もの》のあるを|見《み》たり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》および|凡《すべ》てのユダヤ|人《びと》は、|古《いにし》への|人《ひと》の|言傳《いひつたへ》を|固《かた》く|執《と》りて、|懇《ねんご》ろに|手《て》を|洗《あら》はねば|食《くら》はず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|市場《いちば》より|歸《かへ》りては、まず|禊《みそ》がざれば|食《くら》はず。このほか|酒杯《さかづき》・|鉢《はち》・|銅《あかがね》の|器《うつは》を|濯《すす》ぐなど、|多《おほ》くの|傳《つたへ》を|承《う》けて|固《かた》く|執《と》りたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》および|學者《がくしゃ》らイエスに|問《と》ふ『なにゆゑ|汝《なんぢ》の|弟子《でし》たちは、|古《いにし》への|人《ひと》の|言傳《いひつたへ》に|遵《したが》ひて|歩《あゆ》まず、|潔《きよ》からぬ|手《て》にて|食事《しょくじ》するか』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『イザヤは|汝《なんぢ》ら|僞善者《ぎぜんしゃ》につきて|能《よ》く|預言《よげん》せり。 [#ここから2字下げ] 「この|民《たみ》は|口唇《くちびる》にて|我《われ》を|敬《うやま》ふ、 されどその|心《こころ》は|我《われ》に|遠《とほ》ざかる。 [#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ただ|徒《いたづ》らに|我《われ》を|拜《をが》む、 |人《ひと》の|訓誡《いましめ》を|教《をしへ》とし|教《をし》へて」 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》したり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢらは|神《かみ》の|誡命《いましめ》を|離《はな》れて、|人《ひと》の|言傳《いひつたへ》を|固《かた》く|執《と》る』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひたまふ『|汝《なんぢ》|等《ら》はおのれの|言傳《いひつたへ》を|守《まも》らんとて、|能《よ》くも|神《かみ》の|誡命《いましめ》を|棄《す》つ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ちモーセは「なんぢの|父《ちち》、なんぢの|母《はは》を|敬《うやま》へ」といひ「|父《ちち》また|母《はは》を|詈《ののし》る|者《もの》は、|必《かなら》ず|殺《ころ》さるべし」といへり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|汝《なんぢ》らは「|人《ひと》もし|父《ちち》また|母《はは》にむかひ、|我《わ》が|汝《なんぢ》に|對《たい》して|負《お》ふ|所《ところ》のものは、コルバン|即《すなは》ち|供物《そなへもの》なりと|言《い》はば|可《よ》し」と|言《い》ひて、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]そののち|人《ひと》をして、|父《ちち》また|母《はは》に|事《つか》ふること|無《な》からしむ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かく|汝《なんぢ》らの|傳《つた》へたる|言傳《いひつたへ》によりて、|神《かみ》の|言《ことば》を|空《むな》しうし、|又《また》おほく|此《こ》の|類《たぐひ》の|事《こと》をなしをるなり』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|更《さら》に|群衆《ぐんじゅう》を|呼《よ》び|寄《よ》せて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|皆《みな》われに|聽《き》きて|悟《さと》れ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|外《そと》より|人《ひと》に|入《い》りて、|人《ひと》を|汚《けが》し|得《う》るものなし、されど|人《ひと》より|出《い》づるものは、これ|人《ひと》を|汚《けが》すなり』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|群衆《ぐんじゅう》を|離《はな》れて|家《いへ》に|入《い》り|給《たま》ひしに、|弟子《でし》たち|其《そ》の|譬《たとへ》を|問《と》ふ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらも|然《し》か|悟《さとり》なきか、|外《そと》より|人《ひと》に|入《い》る|物《もの》の、|人《ひと》を|汚《けが》しえぬを|悟《さと》らぬか、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]これ|心《こころ》には|入《い》らず、|腹《はら》に|入《い》りて|厠《かはや》におつるなり』かく|凡《すべ》ての|食物《しょくもつ》を|潔《きよ》しとし|給《たま》へり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひたまふ『|人《ひと》より|出《い》づるものは、これ|人《ひと》を|汚《けが》すなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]それ|内《うち》より、|人《ひと》の|心《こころ》より、|惡《あ》しき|念《おもひ》いづ、|即《すなは》ち|淫行《いんかう》・|竊盜《ぬすみ》・|殺人《ひとごろし》、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|姦淫《かんいん》・|慳貪《むさぼり》・|邪曲《よこしま》・|詭計《たばかり》・|好色《かうしょく》・|嫉妬《ねたみ》・|誹謗《そしり》・|傲慢《がうまん》・|愚痴《ぐち》。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]すべて|此《これ》|等《ら》の|惡《あ》しき|事《こと》は、|内《うち》より|出《い》でて|人《ひと》を|汚《けが》すなり』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|起《た》ちて|此處《ここ》を|去《さ》り、ツロの|地方《ちはう》に|往《ゆ》き、|家《いへ》に|入《い》りて|人《ひと》に|知《し》られじとし|給《たま》ひたれど、|隱《かく》るること|能《あた》はざりき。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ここに|穢《けが》れし|靈《れい》に|憑《つ》かれたる|稚《いとけ》なき|娘《むすめ》をもてる|女《をんな》、ただちにイエスの|事《こと》をきき、|來《きた》りて|御足《みあし》の|許《もと》に|平伏《ひれふ》す。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]この|女《をんな》はギリシヤ|人《びと》にて、スロ・フェニキヤの|生《うまれ》なり。その|娘《むすめ》より|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》し|給《たま》はんことを|請《こ》ふ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『まづ|子供《こども》に|飽《あ》かしむべし、|子供《こども》のパンをとりて|小狗《こいぬ》に|投《な》げ|與《あた》ふるは|善《よ》からず』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》こたへて|言《い》ふ『|然《しか》り、|主《しゅ》よ、|食卓《しょくたく》の|下《した》の|小狗《こいぬ》も|子供《こども》の|食屑《たべくず》を|食《くら》ふなり』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢ|此《こ》の|言《ことば》によりて[|安《やす》んじ]|往《ゆ》け、|惡鬼《あくき》は|既《すで》に|娘《むすめ》より|出《い》でたり』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]をんな|家《いへ》に|歸《かへ》りて|見《み》るに、|子《こ》は|寢臺《ねだい》の|上《うへ》に|臥《ふ》し、|惡鬼《あくき》は|既《すで》に|出《い》でたり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]イエスまたツロの|地方《ちはう》を|去《さ》りて、シドンを|過《す》ぎ、デカポリスの|地方《ちはう》を|經《へ》て、ガリラヤの|海《うみ》に|來《きた》り|給《たま》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》、|耳聾《みみしひ》にして|物《もの》|言《い》ふこと|難《かた》き|者《もの》を|連《つ》れ|來《きた》りて、|之《これ》に|手《て》をおき|給《たま》はんことを|願《ねが》ふ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|群衆《ぐんじゅう》の|中《なか》より、|彼《かれ》をひとり|連《つ》れ|出《いだ》し、その|兩耳《りゃうみみ》に|指《ゆび》をさし|入《い》れ、また|唾《つばき》して|其《そ》の|舌《した》に|觸《さは》り、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》を|仰《あふ》ぎて|嘆《たん》じ、その|人《ひと》に|對《むか》ひて『エパタ』と|言《い》ひ|給《たま》ふ、ひらけよとの|意《こころ》なり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]かくてその|耳《みみ》ひらけ、|舌《した》の|縺《もつれ》ただちに|解《と》け、|正《ただ》しく|物《もの》いへり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|誰《たれ》にも|告《つ》ぐなと|人々《ひとびと》を|戒《いまし》めたまふ。されど|戒《いまし》むるほど|反《かへ》つて|愈々《いよいよ》|言《い》ひ|弘《ひろ》めたり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]また|甚《はなは》だしく|打驚《うちをどろ》きて|言《い》ふ『かれの|爲《な》しし|事《こと》は|皆《みな》よし、|聾者《みみしひ》をも|聞《きこ》えしめ、|唖者《おふし》をも|物《もの》いはしむ』 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》また|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》にて|食《くら》ふべき|物《もの》なかりしかば、イエス|弟子《でし》たちを|召《め》して|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『われ|此《こ》の|群衆《ぐんじゅう》を|憫《あはれ》む、|既《すで》に|三日《みっか》われと|偕《とも》にをりて、|食《くら》ふべき|物《もの》なし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|飢《う》ゑしままにて|其《そ》の|家《いへ》に|歸《かへ》らしめば、|途《みち》にて|疲《つか》れ|果《は》てん。|其《そ》の|中《なか》には|遠《とほ》くより|來《きた》れる|者《もの》あり』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|答《こた》へて|言《い》ふ『この|寂《さび》しき|地《ち》にては、|何處《いづこ》よりパンを|得《え》て、この|人々《ひとびと》を|飽《あ》かしむべき』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|問《と》ひ|給《たま》ふ『パン|幾《いく》つあるか』|答《こた》へて『|七《なな》つ』といふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|群衆《ぐんじゅう》に|命《めい》じて|地《ち》に|坐《ざ》せしめ、|七《なな》つのパンを|取《と》り、|謝《しゃ》して|之《これ》を|裂《さ》き、|弟子《でし》たちに|與《あた》へて|群衆《ぐんじゅう》の|前《まへ》におかしむ。|弟子《でし》たち|乃《すなは》ちその|前《まへ》におく。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]また|小《ちひさ》き|魚《うを》すこしばかりあり、|祝《しく》して、|之《これ》をもその|前《まへ》におけと|言《い》ひ|給《たま》ふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》|食《くら》ひて|飽《あ》き、|裂《さ》きたる|餘《あまり》を|拾《ひろ》ひしに、|七《なな》つの|籃《かご》に|滿《み》ちたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]その|人《ひと》おほよそ|四千《しせん》|人《にん》なりき。イエス|彼《かれ》らを|歸《かへ》し、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちに|弟子《でし》たちと|共《とも》に|舟《ふね》に|乘《の》りて、ダルマヌタの|地方《ちはう》に|往《ゆ》き|給《たま》へり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》いで|來《きた》りて、イエスと|論《ろん》じはじめ、|之《これ》を|試《こころ》みて|天《てん》よりの|徴《しるし》をもとむ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|心《こころ》に|深《ふか》く|歎《たん》じて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なにゆゑ|今《いま》の|代《よ》は|徴《しるし》を|求《もと》むるか、まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|徴《しるし》は|今《いま》の|代《よ》に|斷《た》えて|與《あた》へられじ』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》らを|離《はな》れ、また|舟《ふね》に|乘《の》りて|彼方《かなた》に|往《ゆ》き|給《たま》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちパンを|携《たづさ》ふることを|忘《わす》れ、|舟《ふね》には|唯一《ただひと》つの|他《ほか》パンなかりき。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らを|戒《いまし》めて|言《い》ひたまふ『|愼《つつし》みて、パリサイ|人《びと》のパンだねと、ヘロデのパンだねとに|心《こころ》せよ』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|互《たがひ》に、これはパン|無《な》き|故《ゆゑ》ならんと|語《かた》り|合《あ》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|知《し》りて|言《い》ひたまふ『|何《なに》ぞパン|無《な》き|故《ゆゑ》ならんと|語《かた》り|合《あ》ふか、|未《いま》だ|知《し》らぬか、|悟《さと》らぬか、|汝《なんぢ》らの|心《こころ》なほ|鈍《にぶ》きか。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|目《め》ありて|見《み》ぬか、|耳《みみ》ありて|聽《き》かぬか。|又《また》なんぢら|思《おも》ひ|出《い》でぬか、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|五《いつ》つのパンを|裂《さ》きて、|五《ご》|千《せん》|人《にん》に|與《あた》へし|時《とき》、その|餘《あまり》を|幾筐《いくかご》ひろひしか』|弟子《でし》たち|言《い》ふ『|十二《じふに》』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]『|七《なな》つのパンを|裂《さ》きて|四千《しせん》|人《にん》に|與《あた》へし|時《とき》、その|餘《あまり》を|幾籃《いくかご》ひろひしか』|弟子《でし》たち|言《い》ふ『|七《なな》つ』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|未《いま》だ|悟《さと》らぬか』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|遂《つひ》にベツサイダに|到《いた》る。|人々《ひとびと》、|盲人《めしひ》をイエスに|連《つ》れ|來《きた》りて、|觸《さは》り|給《たま》はんことを|願《ねが》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|盲人《めしひ》の|手《て》をとりて、|村《むら》の|外《そと》に|連《つ》れ|往《ゆ》き、その|目《め》に|唾《つばき》し、|御手《みて》をあてて『なにか|見《み》ゆるか』と|問《と》ひ|給《たま》へば、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|見《み》|上《あ》げて|言《い》ふ『|人《ひと》を|見《み》る、それは|樹《き》の|如《ごと》き|物《もの》の|歩《ある》くが|見《み》ゆ』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]また|御手《みて》をその|目《め》にあて|給《たま》へば、|視凝《みつ》めたるに、|癒《い》えて|凡《すべ》てのもの|明《あきら》かに|見《み》えたり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]かくて『|村《むら》にも|入《い》るな』と|言《い》ひて、その|家《いへ》に|歸《かへ》し|給《たま》へり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|其《そ》の|弟子《でし》たちとピリポ・カイザリヤの|村々《むらむら》に|出《い》でゆき、|途《みち》にて|弟子《でし》たちに|問《と》ひて|言《い》ひたまふ『|人々《ひとびと》は|我《われ》を|誰《たれ》と|言《い》ふか』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『バプテスマのヨハネ、|或《ある》|人《ひと》はエリヤ、|或《ある》|人《ひと》は|預言者《よげんしゃ》の|一人《ひとり》』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]また|問《と》ひ|給《たま》ふ『なんぢらは|我《われ》を|誰《たれ》と|言《い》ふか』ペテロ|答《こた》へて|言《い》ふ『なんぢはキリストなり』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|己《おの》がことを|誰《たれ》にも|告《つ》ぐなと、|彼《かれ》らを|戒《いまし》め|給《たま》ふ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|人《ひと》の|子《こ》の|必《かなら》ず|多《おほ》くの|苦難《くるしみ》をうけ、|長老《ちゃうらう》・|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》らに|棄《す》てられ、かつ|殺《ころ》され、|三日《みっか》の|後《のち》に|甦《よみが》へるべき|事《こと》を|教《をし》へはじめ、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|事《こと》をあらはに|語《かた》り|給《たま》ふ。ここにペテロ、イエスを|傍《かたへ》にひきて|戒《いまし》め|出《い》でたれば、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|振反《ふりかへ》りて|弟子《でし》たちを|見《み》、ペテロを|戒《いまし》めて|言《い》ひ|給《たま》ふ『サタンよ、わが|後《うしろ》に|退《しりぞ》け、|汝《なんぢ》は|神《かみ》のことを|思《おも》はず、|反《かへ》つて|人《ひと》のことを|思《おも》ふ』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|群衆《ぐんじゅう》を|弟子《でし》たちと|共《とも》に|呼《よ》び|寄《よ》せて|言《い》ひたまふ『|人《ひと》もし|我《われ》に|從《したが》ひ|來《きた》らんと|思《おも》はば、|己《おのれ》をすて、|己《おの》が|十字架《じふじか》を|負《お》ひて|我《われ》に|從《したが》へ。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|己《おの》が|生命《いのち》を|救《すく》はんと|思《おも》ふ|者《もの》は、これを|失《うしな》ひ、|我《わ》が|爲《ため》また|福音《ふくいん》の|爲《ため》に|己《おの》が|生命《いのち》をうしなふ|者《もの》は、|之《これ》を|救《すく》はん。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》、|全世界《ぜんせかい》を|贏《まう》くとも、|己《おの》が|生命《いのち》を|損《そん》せば、|何《なに》の|益《えき》あらん、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》その|生命《いのち》の|代《しろ》に|何《なに》を|與《あた》へんや。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|不義《ふぎ》なる|罪《つみ》|深《ふか》き|今《いま》の|代《よ》にて、|我《われ》または|我《わ》が|言《ことば》を|恥《は》づる|者《もの》をば、|人《ひと》の|子《こ》もまた、|父《ちち》の|榮光《えいくわう》をもて、|聖《せい》なる|御使《みつかひ》たちと|共《とも》に|來《きた》らん|時《とき》に|恥《は》づべし』 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|此處《ここ》に|立《た》つ|者《もの》のうちに、|神《かみ》の|國《くに》の、|權能《ちから》をもて|來《きた》るを|見《み》るまでは、|死《し》を|味《あぢ》はぬ|者《もの》どもあり』[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|六日《むゆか》の|後《のち》、イエスただペテロ、ヤコブ、ヨハネのみを|率《ひ》きつれ、|人《ひと》を|避《さ》けて|高《たか》き|山《やま》に|登《のぼ》りたまふ。かくて|彼《かれ》らの|前《まへ》にて|其《そ》の|状《さま》かはり、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》の|衣《ころも》かがやきて|甚《はなは》だ|白《しろ》くなりぬ、|世《よ》の|晒布者《ぬのさらし》を|爲《な》し|得《え》ぬほど|白《しろ》し。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]エリヤ、モーセともに|彼《かれ》らに|現《あらは》れて、イエスと|語《かた》りゐたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|差出《さしい》でてイエスに|言《い》ふ『ラビ、|我《われ》らの|此處《ここ》に|居《を》るは|善《よ》し。われら|三《み》つの|廬《いほり》を|造《つく》り、|一《ひと》つを|汝《なんぢ》のため、|一《ひと》つをモーセのため、|一《ひと》つをエリヤのためにせん』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》いたく|懼《おそ》れたれば、ペテロ|何《なに》と|言《い》ふべきかを|知《し》らざりしなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|雲《くも》おこり、|彼《かれ》らを|覆《おほ》ふ。|雲《くも》より|聲《こゑ》|出《い》づ『これは|我《わ》が|愛《いつく》しむ|子《こ》なり、|汝《なんぢ》ら|之《これ》に|聽《き》け』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|急《いそ》ぎ|見囘《みまは》すに、イエスと|己《おのれ》らとの|他《ほか》には、はや|誰《たれ》も|見《み》えざりき。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|山《やま》をくだる|時《とき》、イエス|彼《かれ》らに、|人《ひと》の|子《こ》の、|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へるまでは、|見《み》しことを|誰《たれ》にも|語《かた》るなと|戒《いまし》め|給《たま》ふ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|此《こ》の|言《ことば》を|心《こころ》にとめ『|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へる』とは、|如何《いか》なる|事《こと》ぞと|互《たがひ》に|論《ろん》じ|合《あ》ふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエスに|問《と》ひて|言《い》ふ『|學者《がくしゃ》たちは、|何《なに》|故《ゆゑ》エリヤまづ|來《きた》るべしと|言《い》ふか』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|實《げ》にエリヤ|先《ま》づ|來《きた》りて、|萬《よろづ》の|事《こと》をあらたむ。さらば|人《ひと》の|子《こ》につき、|多《おほ》くの|苦難《くるしみ》を|受《う》け、かつ|蔑《なみ》せらるる|事《こと》の|録《しる》されたるは|何《なに》ぞや。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、エリヤは|既《すで》に|來《きた》れり。|然《しか》るに|彼《かれ》に|就《つ》きて|録《しる》されたる|如《ごと》く、|人々《ひとびと》|心《こころ》のままに|之《これ》を|待《あしら》へり』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|相《あひ》|共《とも》に|弟子《でし》たちの|許《もと》に|來《きた》りて、|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》の|之《これ》を|環《めぐ》り、|學者《がくしゃ》たちの|之《これ》と|論《ろん》じゐたるを|見《み》|給《たま》ふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》みなイエスを|見《み》るや|否《いな》や、いたく|驚《をどろ》き、|御許《みもと》に|走《はし》り|往《ゆ》きて|禮《れい》をなせり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|問《と》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|何《なに》を|彼《かれ》らと|論《ろん》ずるか』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》のうちの|一人《ひとり》こたふ『|師《し》よ、|唖《おふし》の|靈《れい》に|憑《つ》かれたる|我《わ》が|子《こ》を|御許《みもと》に|連《つ》れ|來《きた》れり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|靈《れい》いづこにても|彼《かれ》に|憑《つ》けば、|痙攣《ひきつ》け|泡《あわ》をふき、|齒《は》をくひしばり、|而《しか》して|痩《や》せ|衰《おとろ》ふ。|御弟子《みでし》たちに|之《これ》を|逐《お》ひ|出《いだ》すことを|請《こ》ひたれど|能《あた》はざりき』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『ああ|信《しん》なき|代《よ》なるかな、|我《われ》いつまで|汝《なんぢ》らと|偕《とも》にをらん、|何時《いつ》まで|汝《なんぢ》らを|忍《しの》ばん。その|子《こ》を|我《わ》が|許《もと》に|連《つ》れきたれ』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|連《つ》れきたる。|彼《かれ》イエスを|見《み》しとき、|靈《れい》ただちに|之《これ》を|痙攣《ひきつ》けたれば、|地《ち》に|倒《たふ》れ、|泡《あわ》をふきて|轉《ころ》び|廻《まは》る。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|父《ちち》に|問《と》ひ|給《たま》ふ『いつの|頃《ころ》より|斯《か》くなりしか』|父《ちち》いふ『をさなき|時《とき》よりなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|靈《れい》しばしば|彼《かれ》を|火《ひ》のなか|水《みづ》の|中《なか》に|投《な》げ|入《い》れて|亡《ほろぼ》さんとせり。されど|汝《なんぢ》なにか|爲《な》し|得《え》ば、|我《われ》らを|憫《あはれ》みて|助《たす》け|給《たま》へ』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|爲《な》し|得《え》ばと|言《い》ふか、|信《しん》ずる|者《もの》には、|凡《すべ》ての|事《こと》なし|得《え》らるるなり』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]その|子《こ》の|父《ちち》ただちに|叫《さけ》びて|言《い》ふ『われ|信《しん》ず、|信仰《しんかう》なき|我《われ》を|助《たす》け|給《たま》へ』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|群衆《ぐんじゅう》の|走《はし》り|集《あつま》るを|見《み》て、|穢《けが》れし|靈《れい》を|禁《いまし》めて|言《い》ひたまふ『|唖《おふし》にて|耳聾《みみしひ》なる|靈《れい》よ、|我《われ》なんぢに|命《めい》ず、この|子《こ》より|出《い》でよ、|重《かさ》ねて|入《い》るな』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|靈《れい》さけびて|甚《はなは》だしく|痙攣《ひきつ》けさせて|出《い》でしに、その|子《こ》、|死人《しにん》の|如《ごと》くなりたれば、|多《おほ》くの|者《もの》これを|死《し》にたりと|言《い》ふ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|手《て》を|執《と》りて|起《おこ》し|給《たま》へば|立《た》てり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|家《いへ》に|入《い》り|給《たま》ひしとき、|弟子《でし》たち|竊《ひそか》に|問《と》ふ『|我等《われら》いかなれば|逐《お》ひ|出《いだ》し|得《え》ざりしか』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へ|給《たま》ふ『この|類《たぐひ》は|祈《いのり》に|由《よ》らざれば、|如何《いか》にすとも|出《い》でざるなり』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》を|去《さ》りてガリラヤを|過《す》ぐ。イエス|人《ひと》の|此《こ》の|事《こと》を|知《し》るを|欲《ほっ》し|給《たま》はず。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]これは|弟子《でし》たちに|教《をしへ》をなし、かつ『|人《ひと》の|子《こ》は|人々《ひとびと》の|手《て》にわたされ、|人々《ひとびと》これを|殺《ころ》し、|殺《ころ》されて|三日《みっか》ののち|甦《よみが》へるべし』と|言《い》ひ|給《たま》ふが|故《ゆゑ》なり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちはその|言《ことば》を|悟《さと》らず、また|問《と》ふ|事《こと》を|恐《おそ》れたり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かくてカペナウムに|到《いた》る。イエス|家《いへ》に|入《い》りて|弟子《でし》たちに|問《と》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|途《みち》すがら|何《なに》を|論《ろん》ぜしか』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|默然《もくねん》たり、これは|途《みち》すがら、|誰《たれ》か|大《おほい》ならんと、|互《たがひ》に|爭《あらそ》ひたるに|因《よ》る。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|坐《ざ》して|十二《じふに》|弟子《でし》を|呼《よ》び、|之《これ》に|言《い》ひたまふ『|人《ひと》もし|頭《かしら》たらんと|思《おも》はば、|凡《すべ》ての|人《ひと》の|後《しりへ》となり、|凡《すべ》ての|人《ひと》の|役者《えきしゃ》となるべし』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエス|幼兒《をさなご》をとりて|彼《かれ》らの|中《なか》におき、|之《これ》を|抱《いだ》きて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]『おほよそ|我《わ》が|名《な》のために|斯《か》かる|幼兒《をさなご》の|一人《ひとり》を|受《う》くる|者《もの》は、|我《われ》を|受《う》くるなり。|我《われ》を|受《う》くる|者《もの》は、|我《われ》を|受《う》くるにあらず、|我《われ》を|遣《つかは》しし|者《もの》を|受《う》くるなり』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|言《い》ふ『|師《し》よ、|我《われ》らに|從《したが》はぬ|者《もの》の、|御名《みな》によりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》すを|見《み》しが、|我《われ》らに|從《したが》はぬ|故《ゆゑ》に、|之《これ》を|止《とど》めたり』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|止《とど》むな、|我《わ》が|名《な》のために|能力《ちから》ある|業《わざ》をおこなひ、|俄《にはか》に|我《われ》を|譏《そし》り|得《う》る|者《もの》なし。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らに|逆《さから》はぬ|者《もの》は、|我《われ》らに|附《つ》く|者《もの》なり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]キリストの|者《もの》たるによりて、|汝《なんぢ》らに|一杯《いっぱい》の|水《みづ》を|飮《の》まする|者《もの》は、|我《われ》まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|必《かなら》ずその|報《むくい》を|失《うしな》はざるべし。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》を|信《しん》ずる|此《こ》の|小《ちひさ》き|者《もの》の|一人《ひとり》を|躓《つまづ》かする|者《もの》は、|寧《むし》ろ|大《おほい》なる|碾臼《ひきうす》を|頸《くび》に|懸《か》けられて、|海《うみ》に|投《な》げ|入《い》れられんかた|勝《まさ》れり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》の|手《て》なんぢを|躓《つまづ》かせば、|之《これ》を|切《き》り|去《さ》れ、|不具《かたは》にて|生命《いのち》に|入《い》るは、|兩手《りゃうて》ありてゲヘナの|消《き》えぬ|火《ひ》に|往《ゆ》くよりも|勝《まさ》るなり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》の|足《あし》なんぢを|躓《つまづ》かせば、|之《これ》を|切《き》り|去《さ》れ、|蹇跛《あしなへ》にて|生命《いのち》に|入《い》るは、|兩足《りゃうあし》ありてゲヘナに|投《な》げ|入《い》れらるるよりも|勝《まさ》るなり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》の|眼《め》なんぢを|躓《つまづ》かせば、|之《これ》を|拔《ぬ》き|出《いだ》せ、|片眼《かため》にて|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》るは、|兩眼《りゃうめ》ありてゲヘナに|投《な》げ|入《い》れらるるよりも|勝《まさ》るなり。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]「|彼處《かしこ》にては、その|蛆《うじ》つきず、|火《ひ》も|消《き》えぬなり」[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]それ|人《ひと》はみな|火《ひ》をもて|鹽《しほ》つけらるべし。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|鹽《しほ》は|善《よ》きものなり、されど|鹽《しほ》もし|其《そ》の|鹽《しほ》|氣《け》を|失《うしな》はば、|何《なに》をもて|之《これ》に|味《あぢ》つけん。|汝《なんぢ》ら|心《こころ》の|中《うち》に|鹽《しほ》を|保《たも》ち、かつ|互《たがひ》に|和《やはら》ぐべし』 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此處《ここ》をたちて、ユダヤの|地方《ちはう》およびヨルダンの|彼方《かなた》に|來《きた》り|給《たま》ひしに、|群衆《ぐんじゅう》またも|御許《みもと》に|集《つど》ひたれば、|常《つね》のごとく|教《をし》へ|給《たま》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》にパリサイ|人《びと》ら|來《きた》り|試《こころ》みて|問《と》ふ『|人《ひと》その|妻《つま》を|出《いだ》すはよきか』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『モーセは|汝《なんぢ》らに|何《なに》と|命《めい》ぜしか』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|言《い》ふ『モーセは|離縁状《りえんじゃう》を|書《か》きて|出《いだ》すことを|許《ゆる》せり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|汝《なんぢ》らの|心《こころ》つれなきによりて、|此《こ》の|誡命《いましめ》を|録《しる》ししなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|開闢《かいびゃく》の|初《はじめ》より「|人《ひと》を|男《をとこ》と|女《をんな》とに|造《つく》り|給《たま》へり」[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]「かかる|故《ゆゑ》に|人《ひと》はその|父《ちち》|母《はは》を|離《はな》れて、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》のもの|一體《いったい》となるべし」さればはや|二人《ふたり》にはあらず、|一體《いったい》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》の|合《あは》せ|給《たま》ふものは、|人《ひと》これを|離《はな》すべからず』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|家《いへ》に|入《い》りて|弟子《でし》たち|復《また》この|事《こと》を|問《と》ふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『おほよそ|其《そ》の|妻《つま》を|出《いだ》して|他《ほか》に|娶《めと》る|者《もの》は、その|妻《つま》に|對《たい》して|姦淫《かんいん》を|行《おこな》ふなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]また|妻《つま》もし|其《そ》の|夫《をっと》を|棄《す》てて|他《ほか》に|嫁《とつ》がば、|姦淫《かんいん》を|行《おこな》ふなり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|觸《さは》り|給《たま》はんことを|望《のぞ》みて、|人々《ひとびと》|幼兒《をさなご》らを|連《つ》れ|來《きた》りしに、|弟子《でし》たち|禁《いまし》めたれば、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|見《み》、いきどほりて|言《い》ひたまふ『|幼兒《をさなご》らの|我《われ》に|來《きた》るを|許《ゆる》せ、|止《とど》むな、|神《かみ》の|國《くに》は|斯《か》くのごとき|者《もの》の|國《くに》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|凡《おほよ》そ|幼兒《をさなご》の|如《ごと》くに|神《かみ》の|國《くに》をうくる|者《もの》ならずば、|之《これ》に|入《い》ること|能《あた》はず』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|幼兒《をさなご》を|抱《いだ》き、|手《て》をその|上《うへ》におきて|祝《しく》し|給《たま》へり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|途《みち》に|出《い》で|給《たま》ひしに、|一人《ひとり》はしり|來《きた》り、|跪《ひざま》づきて|問《と》ふ『|善《よ》き|師《し》よ、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|嗣《つ》ぐためには、|我《われ》なにを|爲《な》すべきか』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なにゆゑ|我《われ》を|善《よ》しと|言《い》ふか、|神《かみ》ひとりの|他《ほか》に|善《よ》き|者《もの》なし。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|誡命《いましめ》は|汝《なんぢ》が|知《し》るところなり「|殺《ころ》すなかれ」「|姦淫《かんいん》するなかれ」「|盜《ぬす》むなかれ」「|僞證《ぎしょう》を|立《た》つるなかれ」「|欺《あざむ》き|取《と》るなかれ」「|汝《なんぢ》の|父《ちち》と|母《はは》とを|敬《うやま》へ」』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》いふ『|師《し》よ、われ|幼《おさな》き|時《とき》より|皆《みな》これを|守《まも》れり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》に|目《め》をとめ、|愛《いつく》しみて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢ|尚《な》ほ|一《ひと》つを|缺《か》く、|往《ゆ》きて|汝《なんぢ》の|有《も》てる|物《もの》をことごとく|賣《う》りて、|貧《まづ》しき|者《もの》に|施《ほどこ》せ、さらば|財寶《たから》を|天《てん》に|得《え》ん。|且《かつ》きたりて|我《われ》に|從《したが》へ』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]この|言《ことば》によりて、|彼《かれ》は|憂《うれひ》を|催《もよほ》し、|悲《かな》しみつつ|去《さ》りぬ、|大《おほい》なる|資産《しさん》をもてる|故《ゆゑ》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|見囘《みまは》して|弟子《でし》たちに|言《い》ひたまふ『|富《とみ》ある|者《もの》の|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》るは|如何《いか》に|難《かた》いかな』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|此《こ》の|御言《みことば》に|驚《をどろ》く。イエスまた|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|子《こ》たちよ、|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》るは|如何《いか》に|難《かた》いかな、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|富《と》める|者《もの》の|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》るよりは、|駱駝《らくだ》の|針《はり》の|孔《あな》を|通《とほ》るかた|反《かへ》つて|易《やす》し』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|甚《いた》く|驚《をどろ》きて|互《たがひ》に|言《い》ふ『さらば|誰《たれ》か|救《すく》はるる|事《こと》を|得《え》ん』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|目《め》を|注《と》めて|言《い》ひたまふ『|人《ひと》には|能《あた》はねど、|神《かみ》には|然《しか》らず、|夫《そ》れ|神《かみ》は|凡《すべ》ての|事《こと》をなし|得《う》るなり』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ、イエスに|對《むか》ひて『|我《われ》らは|一切《いっさい》をすてて|汝《なんぢ》に|從《したが》ひたり』と|言《い》ひ|出《い》でたれば、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|我《わ》がため、|福音《ふくいん》のために、|或《あるひ》は|兄弟《きゃうだい》、あるひは|姉妹《しまい》、|或《あるひ》は|父《ちち》、|或《あるひ》は|母《はは》、|或《あるひ》は|子《こ》、|或《あるひ》は|田畑《たはた》をすつる|者《もの》は、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》にても|今《いま》、|今《いま》の|時《とき》に|百《ひゃく》|倍《ばい》を|受《う》けぬはなし。|即《すなは》ち|家《いへ》・|兄弟《きゃうだい》・|姉妹《しまい》・|母《はは》・|子《こ》・|田畑《たはた》を|迫害《はくがい》と|共《とも》に|受《う》け、また|後《のち》の|世《よ》にては、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|受《う》けぬはなし。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]されど|多《おほ》くの|先《さき》なる|者《もの》は|後《あと》に、|後《あと》なる|者《もの》は|先《さき》になるべし』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]エルサレムに|上《のぼ》る|途《みち》にて、イエス|先《さき》だち|往《ゆ》き|給《たま》ひしかば、|弟子《でし》たち|驚《をどろ》き、|隨《したが》ひ|往《ゆ》く|者《もの》ども|懼《おそ》れたり。イエス|再《ふたた》び|十二《じふに》|弟子《でし》を|近《ちか》づけて、|己《おの》が|身《み》に|起《おこ》らんとする|事《こと》どもを|語《かた》り|出《い》で|給《たま》ふ[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]『|視《み》よ、|我《われ》らエルサレムに|上《あが》る。|人《ひと》の|子《こ》は|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》らに|付《わた》されん。|彼《かれ》ら|死《し》に|定《さだ》めて、|異邦人《いはうじん》に|付《わた》さん。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|異邦人《いはうじん》は|嘲弄《てうろう》し、|唾《つばき》し、|鞭《むち》うち、|遂《つひ》に|殺《ころ》さん、かくて|彼《かれ》は|三日《みっか》の|後《のち》に|甦《よみが》へるべし』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]ここにゼベダイの|子《こ》ヤコブ、ヨハネ|御許《みもと》に|來《きた》りて|言《い》ふ『|師《し》よ、|願《ねが》はくは|我《われ》らが|何《なに》にても|求《もと》むる|所《ところ》を|爲《な》したまへ』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|汝《なんぢ》らに|何《なに》を|爲《な》さんことを|望《のぞ》むか』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|言《い》ふ『なんぢの|榮光《えいくわう》の|中《うち》にて、|一人《ひとり》をその|右《みぎ》に、|一人《ひとり》をその|左《ひだり》に|坐《ざ》せしめ|給《たま》へ』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらは|求《もと》むる|所《ところ》を|知《し》らず、|汝《なんぢ》|等《ら》わが|飮《の》む|酒杯《さかづき》を|飮《の》み、|我《わ》が|受《う》くるバプテスマを|受《う》け|得《う》るか』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》いふ『|得《う》るなり』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|我《わ》が|飮《の》む|酒杯《さかづき》を|飮《の》み、また|我《わ》が|受《う》くるバプテスマを|受《う》くべし。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《わ》が|右《みぎ》|左《ひだり》に|坐《ざ》することは、|我《われ》の|與《あた》ふべきものならず、ただ|備《そな》へられたる|人《ひと》こそ|與《あた》へらるるなれ』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|十《じふ》|人《にん》の|弟子《でし》これを|聞《き》き、ヤコブとヨハネとの|事《こと》により|憤《いきど》ほり|出《い》でたれば、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らを|呼《よ》びて|言《い》ひたまふ『|異邦人《いはうじん》の|君《きみ》と|認《みと》めらるる|者《もの》の、その|民《たみ》を|宰《つかさ》どり、|大《おほい》なる|者《もの》の、|民《たみ》の|上《うへ》に|權《けん》を|執《と》ることは、|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らの|中《うち》にては|然《しか》らず、|反《かへ》つて|大《おほい》ならんと|思《おも》ふ|者《もの》は、|汝《なんぢ》らの|役者《えきしゃ》となり、[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|頭《かしら》たらんと|思《おも》ふ|者《もの》は、|凡《すべ》ての|者《もの》の|僕《しもべ》となるべし。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》の|來《きた》れるも、|事《つか》へらるる|爲《ため》にあらず、|反《かへ》つて|事《つか》ふることをなし、|又《また》おほくの|人《ひと》の|贖償《あがなひ》として|己《おの》が|生命《いのち》を|與《あた》へん|爲《ため》なり』[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》らエリコに|到《いた》る。イエスその|弟子《でし》たち|及《およ》び|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》と|共《とも》に、エリコを|出《い》でたまふ|時《とき》、テマイの|子《こ》バルテマイといふ|盲目《めしひ》の|乞食《こつじき》、|路《みち》の|傍《かたへ》に|坐《ざ》しをりしが、[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]ナザレのイエスなりと|聞《き》き、|叫《さけ》び|出《いだ》して|言《い》ふ『ダビデの|子《こ》イエスよ、|我《われ》を|憫《あはれ》みたまへ』[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|人《ひと》かれを|禁《いまし》めて|默《もだ》さしめんとしたれど、ますます|叫《さけ》びて『ダビデの|子《こ》よ、|我《われ》を|憫《あはれ》みたまへ』と|言《い》ふ。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|立《た》ち|止《とどま》りて『かれを|呼《よ》べ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|人々《ひとびと》|盲人《めしひ》を|呼《よ》びて|言《い》ふ『|心《こころ》|安《やす》かれ、|起《た》て、なんぢを|呼《よ》びたまふ』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|盲人《めしひ》うはぎを|脱《ぬ》ぎ|捨《す》て、|躍《をど》り|上《あが》りて、イエスの|許《もと》に|來《きた》りしに、[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|汝《なんぢ》に|何《なに》を|爲《な》さんことを|望《のぞ》むか』|盲人《めしひ》いふ『わが|師《し》よ、|見《み》えんことなり』[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》に『ゆけ、|汝《なんぢ》の|信仰《しんかう》なんぢを|救《すく》へり』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|直《ただ》ちに|見《み》ることを|得《え》、イエスに|從《したが》ひて|途《みち》を|往《ゆ》けり。 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らエルサレムに|近《ちか》づき、オリブ|山《やま》の|麓《ふもと》なるベテパゲ|及《およ》びベタニヤに|到《いた》りし|時《とき》、イエス|二人《ふたり》の|弟子《でし》を|遣《つかは》さんとして|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『むかひの|村《むら》にゆけ、|其處《そこ》に|入《い》らば、やがて|人《ひと》の|未《いま》だ|乘《の》りたることなき|驢馬《ろば》の|子《こ》の|繋《つな》ぎあるを|見《み》ん、それを|解《と》きて|牽《ひ》き|來《きた》れ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》かもし|汝《なんぢ》らに「なにゆゑ|然《しか》するか」と|言《い》はば「|主《しゅ》の|用《よう》なり、|彼《かれ》ただちに|返《かへ》さん」といへ』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|往《ゆ》きて、|門《もん》の|外《そと》の|路《みち》に|驢馬《ろば》の|子《こ》の|繋《つな》ぎあるを|見《み》て|解《と》きたれば、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|其處《そこ》に|立《た》つ|人々《ひとびと》のうちの|或《ある》|者《もの》『なんぢら|驢馬《ろば》の|子《こ》を|解《と》きて|何《なに》とするか』と|言《い》ふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちイエスの|告《つ》げ|給《たま》ひし|如《ごと》く|言《い》ひしに、|彼《かれ》ら|許《ゆる》せり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|弟子《でし》たち|驢馬《ろば》の|子《こ》をイエスの|許《もと》に|牽《ひ》ききたり、|己《おの》が|衣《ころも》をその|上《うへ》に|置《お》きたれば、イエス|之《これ》に|乘《の》り|給《たま》ふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|人《ひと》は|己《おの》が|衣《ころも》を、|或《ある》|人《ひと》は|野《の》より|伐《き》り|取《と》りたる|樹《き》の|枝《えだ》を|途《みち》に|敷《し》く。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かつ|前《まへ》に|往《ゆ》き|後《あと》に|從《したが》ふ|者《もの》ども|呼《よば》はりて|言《い》ふ『「ホサナ、|讃《ほ》むべきかな、|主《しゅ》の|御名《みな》によりて|來《きた》る|者《もの》」[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|讃《ほ》むべきかな、|今《いま》し|來《きた》る|我《われ》らの|父《ちち》ダビデの|國《くに》。「いと|高《たか》き|處《ところ》にてホサナ」』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にエルサレムに|到《いた》りて|宮《みや》に|入《い》り、|凡《すべ》ての|物《もの》を|見囘《みまは》し、|時《とき》はや|暮《くれ》に|及《およ》びたれば、|十二《じふに》|弟子《でし》と|共《とも》にベタニヤに|出《い》で|往《ゆ》きたまふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]あくる|日《ひ》かれらベタニヤより|出《い》で|來《きた》りし|時《とき》、イエス|飢《う》ゑ|給《たま》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|遙《はるか》に|葉《は》ある|無花果《いちぢく》の|樹《き》を|見《み》て、|果《み》をや|得《え》んと|其《そ》のもとに|到《いた》り|給《たま》ひしに、|葉《は》のほかに|何《なに》をも|見出《みいだ》し|給《たま》はず、|是《これ》は|無花果《いちぢく》の|時《とき》ならぬに|因《よ》る。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|樹《き》に|對《むか》ひて|言《い》ひたまふ『|今《いま》より|後《のち》いつまでも、|人《ひと》なんぢの|果《み》を|食《くら》はざれ』|弟子《でし》たち|之《これ》を|聞《き》けり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らエルサレムに|到《いた》る。イエス|宮《みや》に|入《い》り、その|内《うち》にて|賣買《うりかひ》する|者《もの》どもを|逐《お》ひ|出《いだ》し、|兩替《りゃうがへ》する|者《もの》の|臺《だい》、|鴿《はと》を|賣《う》るものの|腰掛《こしかけ》を|倒《たふ》し、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]また|器物《うつは》を|持《も》ちて|宮《みや》の|内《うち》を|過《す》ぐることを|免《ゆる》し|給《たま》はず。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かつ|教《をし》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『「わが|家《いへ》は、もろもろの|國人《くにびと》の|祈《いのり》の|家《いへ》と|稱《とな》へらるべし」と|録《しる》されたるにあらずや、|然《しか》るに|汝《なんぢ》らは|之《これ》を「|強盜《がうたう》の|巣《す》」となせり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》ら|之《これ》を|聞《き》き、|如何《いか》にしてかイエスを|亡《ほろぼ》さんと|謀《はか》る、それは|群衆《ぐんじゅう》みな|其《そ》の|教《をしへ》に|驚《をどろ》きたれば、|彼《かれ》を|懼《おそ》れしなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|夕《ゆふべ》になる|毎《ごと》に、イエス|弟子《でし》たちと|共《とも》に|都《みやこ》を|出《い》でゆき|給《たま》ふ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|朝《あさ》|早《はや》く|路《みち》をすぎしに、|無花果《いちぢく》の|樹《き》の|根《ね》より|枯《か》れたるを|見《み》る。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|思《おも》ひ|出《いだ》してイエスに|言《い》ふ『ラビ、|見《み》|給《たま》へ、|詛《のろひ》ひ|給《たま》ひし|無花果《いちぢく》の|樹《き》は|枯《か》れたり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|神《かみ》を|信《しん》ぜよ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|人《ひと》もし|此《こ》の|山《やま》に「|移《うつ》りて|海《うみ》に|入《い》れ」と|言《い》ふとも、|其《そ》の|言《い》ふところ|必《かなら》ず|成《な》るべしと|信《しん》じて、|心《こころ》に|疑《うたが》はずば、その|如《ごと》く|成《な》るべし。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|凡《すべ》て|祈《いの》りて|願《ねが》ふ|事《こと》は、すでに|得《え》たりと|信《しん》ぜよ、さらば|得《う》べし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]また|立《た》ちて|祈《いの》るとき、|人《ひと》を|怨《うら》む|事《こと》あらば|免《ゆる》せ、これは|天《てん》に|在《いま》す|汝《なんぢ》らの|父《ちち》の、|汝《なんぢ》らの|過失《あやまち》を|免《ゆる》し|給《たま》はん|爲《ため》なり』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]かれら|又《また》エルサレムに|到《いた》る。イエス|宮《みや》の|内《うち》を|歩《あゆ》み|給《たま》ふとき、|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》・|長老《ちゃうらう》たち|御許《みもと》に|來《きた》りて、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]『|何《なに》の|權威《けんゐ》をもて|此《これ》|等《ら》の|事《こと》をなすか、|誰《たれ》が|此《これ》|等《ら》の|事《こと》を|爲《な》すべき|權威《けんゐ》を|授《さづ》けしか』と|言《い》ふ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|一言《ひとこと》なんぢらに|問《と》はん、|答《こた》へよ、さらば|我《われ》も|何《なに》の|權威《けんゐ》をもて、|此《これ》|等《ら》の|事《こと》を|爲《な》すかを|告《つ》げん。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネのバプテスマは、|天《てん》よりか、|人《ひと》よりか、|我《われ》に|答《こた》へよ』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|互《たがひ》に|論《ろん》じて|言《い》ふ『もし|天《てん》よりと|言《い》はば「|何《なに》|故《ゆゑ》かれを|信《しん》ぜざりし」と|言《い》はん。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]されど|人《ひと》よりと|言《い》はんか……』|彼《かれ》ら|群衆《ぐんじゅう》を|恐《おそ》れたり、|人《ひと》みなヨハネを|實《じつ》に|預言者《よげんしゃ》と|認《みと》めたればなり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にイエスに|答《こた》へて『|知《し》らず』と|言《い》ふ。イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われも|何《なに》の|權威《けんゐ》をもて|此《これ》|等《ら》の|事《こと》を|爲《な》すか、|汝《なんぢ》らに|告《つ》げじ』 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|譬《たとへ》をもて|彼《かれ》らに|語《かた》り|出《い》で|給《たま》ふ『ある|人《ひと》、|葡萄園《ぶだうぞの》を|造《つく》り、|籬《まがき》を|環《めぐ》らし、|酒槽《さかぶね》の|穴《あな》を|掘《ほ》り、|櫓《やぐら》をたて、|農夫《のうふ》どもに|貸《か》して、|遠《とほ》く|旅立《たびだち》せり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》いたりて|農夫《のうふ》より|葡萄園《ぶだうぞの》の|所得《しょとく》を|受取《うけと》らんとて、|僕《しもべ》をその|許《もと》に|遣《つかは》ししに、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|之《これ》を|執《とら》へて|打《う》ちたたき、|空手《むなで》にて|歸《かへ》らしめたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》ほかの|僕《しもべ》を|遣《つかは》ししに、その|首《かうべ》に|傷《きず》つけ、かつ|辱《はづか》しめたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》の|者《もの》を|遣《つかは》ししに、|之《これ》を|殺《ころ》したり。|又《また》ほかの|多《おほ》くの|僕《しもべ》をも、|或《あるひ》は|打《う》ち|或《あるひ》は|殺《ころ》したり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]なほ|一人《ひとり》あり、|即《すなは》ち|其《そ》の|愛《いつく》しむ|子《こ》なり「わが|子《こ》は|敬《うやま》ふならん」と|言《い》ひて、|最後《いやはて》に|之《これ》を|遣《つかは》ししに、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かの|農夫《のうふ》ども|互《たがひ》に|言《い》ふ「これは|世嗣《よつぎ》なり、いざ|之《これ》を|殺《ころ》さん、さらばその|嗣業《しげふ》は、|我《われ》らのものとなるべし」[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|執《とら》へて|之《これ》を|殺《ころ》し、|葡萄園《ぶだうぞの》の|外《そと》に|投《な》げ|棄《す》てたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]さらば|葡萄園《ぶだうぞの》の|主《ぬし》、なにを|爲《な》さんか、|來《きた》りて|農夫《のうふ》どもを|亡《ほろぼ》し、|葡萄園《ぶだうぞの》を|他《ほか》の|者《もの》どもに|與《あた》ふべし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|聖書《せいしょ》に [#ここから2字下げ] 「|造家者《いへつくり》らの|棄《す》てたる|石《いし》は、 これぞ|隅《すみ》の|首石《おやいし》となれる。 [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]これ|主《しゅ》によりて|成《な》れるにて、 |我《われ》らの|目《め》には|奇《くす》しきなり」 [#ここで字下げ終わり] とある|句《く》をすら|讀《よ》まぬか』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》|等《ら》イエスを|執《とら》へんと|思《おも》ひたれど、|群衆《ぐんじゅう》を|恐《おそ》れたり、この|譬《たとへ》の|己《おのれ》らを|指《さ》して|言《い》ひ|給《たま》へるを|悟《さと》りしに|因《よ》る。|遂《つひ》にイエスを|離《はな》れて|去《さ》り|往《ゆ》けり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》らイエスの|言尾《ことばじり》をとらへて|陷入《おとしい》れん|爲《ため》に、パリサイ|人《びと》とヘロデ|黨《たう》との|中《うち》より、|數人《すにん》を|御許《みもと》に|遣《つかは》す。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]その|者《もの》ども|來《きた》りて|言《い》ふ『|師《し》よ、|我《われ》らは|知《し》る、|汝《なんぢ》は|眞《まこと》にして、|誰《たれ》をも|憚《はばか》りたまふ|事《こと》なし、|人《ひと》の|外貌《うはべ》を|見《み》ず、|眞《まこと》をもて|神《かみ》の|道《みち》を|教《をし》へ|給《たま》へばなり。|我《われ》ら|貢《みつぎ》をカイザルに|納《をさ》むるは、|宜《よ》きか、|惡《あ》しきか、|納《をさ》めんか、|納《をさ》めざらんか』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|其《そ》の|詐僞《いつはり》なるを|知《し》りて『なんぞ|我《われ》を|試《こころ》むるか、デナリを|持《も》ち|來《きた》りて|我《われ》に|見《み》せよ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|持《も》ち|來《きた》る。イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『これは|誰《たれ》の|像《かたち》、たれの|號《しるし》なるか』『カイザルのなり』と|答《こた》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『カイザルの|物《もの》はカイザルに、|神《かみ》の|物《もの》は|神《かみ》に|納《をさ》めよ』|彼《かれ》らイエスに|就《つ》きて|甚《はなは》だ|怪《あや》しめり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]また|復活《よみがへり》なしと|云《い》ふサドカイ|人《びと》ら、イエスに|來《きた》り|問《と》ひて|言《い》ふ[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]『|師《し》よ、モーセは、|人《ひと》の|兄弟《きゃうだい》もし|子《こ》なく|妻《つま》を|遺《のこ》して|死《し》なば、その|兄弟《きゃうだい》かれの|妻《つま》を|娶《めと》りて、|兄弟《きゃうだい》のため|嗣子《よつぎ》を|擧《あ》ぐべしと、|我《われ》らに|書《か》き|遺《のこ》したり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ここに|七人《しちにん》の|兄弟《きゃうだい》ありて、|兄《あに》|妻《つま》を|娶《めと》り、|嗣子《よつぎ》なくして|死《し》に、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|第二《だいに》の|者《もの》その|女《をんな》を|娶《めと》り、また|嗣子《よつぎ》なくして|死《し》に、|第三《だいさん》の|者《もの》もまた|然《しか》なし、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|七人《しちにん》とも|嗣子《よつぎ》なくして|死《し》に、|終《つひ》には|其《そ》の|女《をんな》も|死《し》にたり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|復活《よみがへり》のとき|彼《かれ》らみな|甦《よみが》へらんに、この|女《をんな》は|誰《たれ》の|妻《つま》たるべきか、|七人《しちにん》これを|妻《つま》としたればなり』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらの|誤《あやま》れるは、|聖書《せいしょ》をも|神《かみ》の|能力《ちから》をも|知《し》らぬ|故《ゆゑ》ならずや。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》、|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へる|時《とき》は、|娶《めと》らず、|嫁《とつ》がず、|天《てん》に|在《あ》る|御使《みつかひ》たちの|如《ごと》くなるなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|死《し》にたる|者《もの》の|甦《よみが》へる|事《こと》に|就《つ》きては、モーセの|書《ふみ》の|中《なか》なる|柴《しば》の|條《くだり》に、|神《かみ》モーセに「われはアブラハムの|神《かみ》、イサクの|神《かみ》、ヤコブの|神《かみ》なり」と|告《つ》げ|給《たま》ひし|事《こと》あるを、|未《いま》だ|讀《よ》まぬか。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|死《し》にたる|者《もの》の|神《かみ》にあらず、|生《い》ける|者《もの》の|神《かみ》なり。なんぢら|大《おほい》に|誤《あやま》れり』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|學者《がくしゃ》の|一人《ひとり》、かれらの|論《ろん》じをるを|聞《き》き、イエスの|善《よ》く|答《こた》へ|給《たま》へるを|知《し》り、|進《すす》み|出《い》でて|問《と》ふ『すべての|誡命《いましめ》のうち、|何《なに》か|第一《だいいち》なる』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へたまふ『|第一《だいいち》は|是《これ》なり「イスラエルよ|聽《き》け、|主《しゅ》なる|我《われ》らの|神《かみ》は|唯一《ゆゐいつ》の|主《しゅ》なり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|心《こころ》を|盡《つく》し、|精神《せいしん》を|盡《つく》し、|思《おもひ》を|盡《つく》し、|力《ちから》を|盡《つく》して、|主《しゅ》なる|汝《なんぢ》の|神《かみ》を|愛《あい》すべし」[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|第二《だいに》は|是《これ》なり「おのれの|如《ごと》く|汝《なんぢ》の|隣《となり》を|愛《あい》すべし」|此《こ》の|二《ふた》つより|大《おほい》なる|誡命《いましめ》はなし』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|學者《がくしゃ》いふ『|善《よ》きかな|師《し》よ「|神《かみ》は|唯一《ゆゐいつ》にして|他《ほか》に|神《かみ》なし」と|言《い》ひ|給《たま》へるは|眞《まこと》なり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]「こころを|盡《つく》し、|知慧《ちゑ》を|盡《つく》し、|力《ちから》を|盡《つく》して|神《かみ》を|愛《あい》し、また|己《おのれ》のごとく|隣《となり》を|愛《あい》する」は、もろもろの|燔祭《はんさい》および|犧牲《いけにへ》に|勝《まさ》るなり』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|聰《さと》く|答《こた》へしを|見《み》て|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢ|神《かみ》の|國《くに》に|遠《とほ》からず』|此《こ》の|後《のち》たれも|敢《あ》へてイエスに|問《と》ふ|者《もの》なかりき。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|宮《みや》にて|教《をし》ふるとき、|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なにゆゑ|學者《がくしゃ》らはキリストをダビデの|子《こ》と|言《い》ふか。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]ダビデ|聖《せい》|靈《れい》に|感《かん》じて|自《みづか》らいへり [#ここから2字下げ] 「|主《しゅ》わが|主《しゅ》に|言《い》ひ|給《たま》ふ、 |我《われ》なんぢの|敵《てき》を|汝《なんぢ》の|足《あし》の|下《した》に|置《お》くまでは、 |我《わ》が|右《みぎ》に|坐《ざ》せよ」 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ダビデ|自《みづか》ら|彼《かれ》を|主《しゅ》と|言《い》ふ、されば|爭《いか》でその|子《こ》ならんや』|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》は|喜《よろこ》びてイエスに|聽《き》きたり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|教《をしへ》のうちに|言《い》ひたまふ『|學者《がくしゃ》らに|心《こころ》せよ、|彼《かれ》らは|長《なが》き|衣《ころも》を|著《き》て|歩《あゆ》むこと、|市場《いちば》にての|敬禮《けいれい》、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|會堂《くわいだう》の|上座《じゃうざ》、|饗宴《ふるまひ》の|上席《じゃうせき》を|好《この》み、[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]また|寡婦《やもめ》らの|家《いへ》を|呑《の》み、|外見《みえ》をつくりて|長《なが》き|祈《いのり》をなす。その|受《う》くる|審判《さばき》は|更《さら》に|嚴《きび》しからん』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|賽錢函《さいせんばこ》に|對《むか》ひて|坐《ざ》し、|群衆《ぐんじゅう》の|錢《ぜに》を|賽錢函《さいせんばこ》に|投《な》げ|入《い》るるを|見《み》|給《たま》ふ。|富《と》める|多《おほ》くの|者《もの》は、|多《おほ》く|投《な》げ|入《い》れしが、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|一人《ひとり》の|貧《まづ》しき|寡婦《やもめ》きたりて、レプタ|二《ふた》つを|投《な》げ|入《い》れたり、|即《すなは》ち|五《ご》|厘《りん》ほどなり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|弟子《でし》たちを|呼《よ》び|寄《よ》せて|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、この|貧《まづ》しき|寡婦《やもめ》は、|賽錢函《さいせんばこ》に|投《な》げ|入《い》るる|凡《すべ》ての|人《ひと》よりも|多《おほ》く|投《な》げ|入《い》れたり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|者《もの》は、その|豐《ゆたか》なる|内《うち》よりなげ|入《い》れ、この|寡婦《やもめ》は|其《そ》の|乏《とも》しき|中《なか》より、|凡《すべ》ての|所有《もちもの》、|即《すなは》ち|己《おの》が|生命《いのち》の|料《しろ》をことごとく|投《な》げ|入《い》れたればなり』 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|宮《みや》を|出《い》で|給《たま》ふとき、|弟子《でし》の|一人《ひとり》いふ『|師《し》よ、|見《み》|給《たま》へ、これらの|石《いし》、これらの|建造物《たてもの》、いかに|盛《さかん》ならずや』[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢ|此《これ》|等《ら》の|大《おほい》なる|建造物《たてもの》を|見《み》るか、|一《ひと》つの|石《いし》も|崩《くづ》されずしては|石《いし》の|上《うへ》に|殘《のこ》らじ』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]オリブ|山《やま》にて|宮《みや》の|方《かた》に|對《むか》ひて|坐《ざ》し|給《たま》へるに、ペテロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレ|竊《ひそか》に|問《と》ふ[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]『われらに|告《つ》げ|給《たま》へ、これらの|事《こと》は|何時《いつ》あるか、|又《また》すべて|此《これ》|等《ら》の|事《こと》の|成《な》し|遂《と》げられんとする|時《とき》は、|如何《いか》なる|兆《しるし》あるか』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|語《かた》り|出《い》で|給《たま》ふ『なんぢら|人《ひと》に|惑《まどは》されぬやうに|心《こころ》せよ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|者《もの》わが|名《な》を|冒《をか》し|來《きた》り「われは|夫《それ》なり」と|言《い》ひて|多《おほ》くの|人《ひと》を|惑《まどは》さん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|戰爭《いくさ》と|戰爭《いくさ》の|噂《うはさ》とを|聞《き》くとき|懼《おそ》るな、かかる|事《こと》はあるべきなり、されど|未《いま》だ|終《つひ》にはあらず。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち「|民《たみ》は|民《たみ》に、|國《くに》は|國《くに》に|逆《さから》ひて|起《た》たん」また|處々《ところどころ》に|地震《ぢしん》あり、|饑饉《ききん》あらん、これらは|産《うみ》の|苦難《くるしみ》の|始《はじめ》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》みづから|心《こころ》せよ、|人々《ひとびと》なんぢらを|衆議所《しゅうぎしょ》に|付《わた》さん。なんぢら|會堂《くわいだう》に|曳《ひ》かれて|打《う》たれ、|且《かつ》わが|故《ゆゑ》によりて、|司《つかさ》たち|及《およ》び|王《わう》たちの|前《まへ》に|立《た》てられん、これは|證《あかし》をなさん|爲《ため》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|福音《ふくいん》は|先《ま》づもろもろの|國人《くにびと》に|宣傳《のべつた》へらるべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》なんぢらを|曳《ひ》きて|付《わた》さんとき、|何《なに》を|言《い》はんと|預《あらか》じめ|思《おも》ひ|煩《わづら》ふな、|唯《ただ》そのとき|授《さづ》けらるることを|言《い》へ、これ|言《い》ふ|者《もの》は|汝《なんぢ》|等《ら》にあらず、|聖《せい》|靈《れい》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》は|兄弟《きゃうだい》を、|父《ちち》は|子《こ》を|死《し》にわたし、|子《こ》らは|親《おや》たちに|逆《さから》ひ|立《た》ちて|死《し》なしめん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》なんぢら|我《わ》が|名《な》の|故《ゆゑ》に|凡《すべ》ての|人《ひと》に|憎《にく》まれん、されど|終《をはり》まで|耐《た》へ|忍《しの》ぶ|者《もの》は|救《すく》はるべし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]「|荒《あら》す|惡《にく》むべき|者《もの》」の|立《た》つべからざる|所《ところ》に|立《た》つを|見《み》ば(|讀《よ》むもの|悟《さと》れ)その|時《とき》ユダヤにをる|者《もの》どもは、|山《やま》に|遁《のが》れよ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|屋《や》の|上《うへ》にをる|者《もの》は、|内《うち》に|下《くだ》るな。また|家《いへ》の|物《もの》を|取《と》り|出《いだ》さんとて|内《うち》に|入《い》るな。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|畑《はた》にをる|者《もの》は|上衣《うはぎ》を|取《と》らんとて|歸《かへ》るな。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》の|日《ひ》には|孕《みごも》りたる|女《をんな》と、|乳《ちち》を|哺《の》まする|女《をんな》とは|禍害《わざはひ》なるかな。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》の|冬《ふゆ》おこらぬやうに|祈《いの》れ、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》は|患難《なやみ》の|日《ひ》なればなり。|神《かみ》の|萬物《ばんぶつ》を|造《つく》り|給《たま》ひし|開闢《かいびゃく》より|今《いま》に|至《いた》るまで、かかる|患難《なやみ》はなく、また|後《のち》にもなからん。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》その|日《ひ》を|少《すくな》くし|給《たま》はずば、|救《すく》はるる|者《もの》|一人《ひとり》だになからん。されど|其《そ》の|選《えら》び|給《たま》ひし|選民《せんみん》の|爲《ため》に、その|日《ひ》を|少《すくな》くし|給《たま》へり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》の|時《とき》なんぢらに「|視《み》よ、キリスト|此處《ここ》にあり」「|視《み》よ、|彼處《かしこ》にあり」と|言《い》ふ|者《もの》ありとも|信《しん》ずな。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|僞《にせ》キリスト・|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》ら|起《おこ》りて、|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》とを|行《おこな》ひ、|爲《な》し|得《う》べくは、|選民《せんみん》をも|惑《まどは》さんとするなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|心《こころ》せよ、あらかじめ|之《これ》を|皆《みな》なんぢらに|告《つ》げおくなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》の|時《とき》、その|患難《なやみ》ののち、|日《ひ》は|暗《くら》く、|月《つき》は|光《ひかり》を|發《はな》たず。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|星《ほし》は|空《そら》より|隕《お》ち、|天《てん》にある|萬象《ばんしゃう》ふるひ|動《うご》かん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》のとき|人々《ひとびと》、|人《ひと》の|子《こ》の|大《おほい》なる|能力《ちから》と|榮光《えいくわう》とをもて、|雲《くも》に|乘《の》り|來《きた》るを|見《み》ん。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》かれは|使者《つかひ》たちを|遣《つかは》して、|地《ち》の|極《はて》より|天《てん》の|極《はて》まで、|四方《しはう》より|其《そ》の|選民《せんみん》をあつめん。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|無花果《いちぢく》の|樹《き》よりの|譬《たとへ》を|學《まな》べ、その|枝《えだ》すでに|柔《やはら》かくなりて|葉《は》|芽《め》ぐめば、|夏《なつ》の|近《ちか》きを|知《し》る。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]かくの|如《ごと》く|此《これ》|等《ら》のことの|起《おこ》るを|見《み》ば、|人《ひと》の|子《こ》すでに|近《ちか》づきて|門邊《かどべ》にいたるを|知《し》れ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、これらの|事《こと》ことごとく|成《な》るまで、|今《いま》の|代《よ》は|過《す》ぎ|逝《ゆ》くことなし。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》|地《ち》は|過《す》ぎゆかん、されど|我《わ》が|言《ことば》は|過《す》ぎ|逝《ゆ》くことなし。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》その|時《とき》を|知《し》る|者《もの》なし。|天《てん》にある|使者《つかひ》たちも|知《し》らず、|子《こ》も|知《し》らず、ただ|父《ちち》のみ|知《し》り|給《たま》ふ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|心《こころ》して|目《め》を|覺《さま》しをれ、|汝《なんぢ》|等《ら》その|時《とき》の|何時《いつ》なるかを|知《し》らぬ|故《ゆゑ》なり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|例《れい》へば|家《いへ》を|出《い》づる|時《とき》、その|僕《しもべ》どもに|權《けん》を|委《ゆだ》ねて、|各自《おのおの》の|務《つとめ》を|定《さだ》め、|更《さら》に|門守《かどもり》に、|目《め》を|覺《さま》しをれと|命《めい》じ|置《お》きて、|遠《とほ》く|旅立《たびだち》したる|人《ひと》のごとし。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|目《め》を|覺《さま》しをれ、|家《いへ》の|主人《あるじ》の|歸《かへ》るは、|夕《ゆふべ》か、|夜半《よなか》か、|鷄《にはとり》|鳴《な》くころか、|夜明《よあけ》か、いづれの|時《とき》なるかを|知《し》らねばなり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|恐《おそ》らくは|俄《にはか》に|歸《かへ》りて、|汝《なんぢ》らの|眠《ねむ》れるを|見《み》ん。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]わが|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐるは、|凡《すべ》ての|人《ひと》に|告《つ》ぐるなり。|目《め》を|覺《さま》しをれ』 第一四章[#「第一四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]さて|過越《すぎこし》と|除酵《じょかう》との|祭《まつり》の|二日《ふつか》|前《まへ》となりぬ。|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》ら|詭計《たばかり》をもてイエスを|捕《とら》へ、かつ|殺《ころ》さんと|企《くはだ》てて|言《い》ふ[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『|祭《まつり》の|間《あひだ》は|爲《な》すべからず、|恐《おそ》らくは|民《たみ》の|亂《らん》あるべし』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス、ベタニヤに|在《いま》して、|癩病人《らいびゃうにん》シモンの|家《いへ》にて|食事《しょくじ》の|席《せき》につき|居給《ゐたま》ふとき、|或《ある》|女《をんな》、|價《あたひ》|高《たか》き|混《まじり》なきナルドの|香《にほひ》|油《あぶら》の|入《い》りたる|石膏《せきかう》の|壺《つぼ》を|持《も》ち|來《きた》り、その|壺《つぼ》を|毀《こぼ》ちてイエスの|首《かうべ》に|注《そそ》ぎたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ある|人々《ひとびと》、|憤《いきど》ほりて|互《たがひ》に|言《い》ふ『なに|故《ゆゑ》かく|濫《みだり》に|油《あぶら》を|費《つひや》すか、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]この|油《あぶら》を|三《さん》|百《ひゃく》デナリ|餘《あまり》に|賣《う》りて、|貧《まづ》しき|者《もの》に|施《ほどこ》すことを|得《え》たりしものを』|而《しか》して|甚《いた》く|女《をんな》を|咎《とが》む。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『その|爲《な》すに|任《まか》せよ、|何《なに》ぞこの|女《をんな》を|惱《なやま》すか、|我《われ》に|善《よ》き|事《こと》をなせり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|貧《まづ》しき|者《もの》は|常《つね》に|汝《なんぢ》らと|偕《とも》にをれば、|何時《いつ》にても|心《こころ》のままに|助《たす》け|得《う》べし、されど|我《われ》は|常《つね》に|汝《なんぢ》らと|偕《とも》にをらず。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|女《をんな》は、なし|得《う》る|限《かぎり》をなして、|我《わ》が|體《からだ》に|香《にほひ》|油《あぶら》をそそぎ、あらかじめ|葬《はうむ》りの|備《そなへ》をなせり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|全世界《ぜんせかい》いづこにても、|福音《ふくいん》の|宣傅《のべつた》へらるる|處《ところ》には、この|女《をんな》の|爲《な》しし|事《こと》も|記念《きねん》として|語《かた》らるべし』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]ここに|十二《じふに》|弟子《でし》の|一人《ひとり》なるイスカリオテのユダ、イエスを|賣《う》らんとて|祭司長《さいしちゃう》の|許《もと》にゆく。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》これを|聞《き》きて|喜《よろこ》び、|銀《ぎん》を|與《あた》へんと|約《やく》したれば、ユダ|如何《いか》にしてか|機《をり》|好《よ》くイエスを|付《わた》さんと|謀《はか》る。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|除酵祭《じょかうさい》の|初《はじめ》の|日《ひ》、|即《すなは》ち|過越《すぎこし》の|羔羊《こひつじ》を|屠《ほふ》るべき|日《ひ》、|弟子《でし》たちイエスに|言《い》ふ『|過越《すぎこし》の|食《しょく》をなし|給《たま》ふために、|我《われ》らが|何處《いづこ》に|往《ゆ》きて|備《そな》ふることを|望《のぞ》み|給《たま》ふか』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|二人《ふたり》の|弟子《でし》を|遣《つかは》さんとして|言《い》ひたまふ『|都《みやこ》に|往《ゆ》け、|然《さ》らば|水《みづ》をいれたる|瓶《かめ》を|持《も》つ|人《ひと》、なんぢらに|遇《あ》ふべし。|之《これ》に|從《したが》ひ|往《ゆ》き、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]その|入《い》る|所《ところ》の|家主《いへあるじ》に「|師《し》いふ、われ|弟子《でし》らと|共《とも》に|過越《すぎこし》の|食《しょく》をなすべき|座敷《ざしき》は|何處《いづこ》なるか」と|言《い》へ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]さらば|調《ととの》へ|備《そな》へたる|大《おほい》なる|二階《にかい》|座敷《ざしき》を|見《み》すべし。|其處《そこ》に|我《われ》らのために|備《そな》へよ』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|出《い》で|往《ゆ》きて|都《みやこ》に|入《い》り、イエスの|言《い》ひ|給《たま》ひし|如《ごと》くなるを|見《み》て、|過越《すぎこし》の|設備《そなへ》をなせり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》|暮《く》れてイエス|十二《じふに》|弟子《でし》とともに|往《ゆ》き、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]みな|席《せき》に|就《つ》きて|食《しょく》するとき|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|我《われ》と|共《とも》に|食《しょく》する|汝《なんぢ》らの|中《うち》の|一人《ひとり》、われを|賣《う》らん』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|憂《うれ》ひて|一人《ひとり》|一人《ひとり》『われなるか』と|言《い》ひ|出《い》でしに、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|十二《じふに》のうちの|一人《ひとり》にて、|我《われ》と|共《とも》にパンを|鉢《はち》に|浸《ひた》す|者《もの》は|夫《それ》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|實《げ》に|人《ひと》の|子《こ》は|己《おのれ》に|就《つ》きて|録《しる》されたる|如《ごと》く|逝《ゆ》くなり。されど|人《ひと》の|子《こ》を|賣《う》る|者《もの》は|禍害《わざはひ》なるかな、その|人《ひと》は|生《うま》れざりし|方《かた》よかりしものを』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|食《しょく》しをる|時《とき》、イエス、パンを|取《と》り、|祝《しく》してさき、|弟子《でし》たちに|與《あた》へて|言《い》ひたまふ『|取《と》れ、これは|我《わ》が|體《からだ》なり』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]また|酒杯《さかづき》を|取《と》り、|謝《しゃ》して|彼《かれ》らに|與《あた》へ|給《たま》へば、|皆《みな》この|酒杯《さかづき》より|飮《の》めり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『これは|契約《けいやく》の|我《わ》が|血《ち》、おほくの|人《ひと》の|爲《ため》に|流《なが》す|所《ところ》のものなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]まことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|神《かみ》の|國《くに》にて|新《あたら》しきものを|飮《の》む|日《ひ》までは、われ|葡萄《ぶだう》の|果《み》より|成《な》るものを|飮《の》まじ』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]かれら|讃美《さんび》をうたひて|後《のち》、オリブ|山《やま》に|出《い》でゆく。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|皆《みな》|躓《つまづ》かん、それは「われ|牧羊者《ひつじかい》を|打《う》たん、さらば|羊《ひつじ》|散《ち》るべし」と|録《しる》されたるなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》よみがへりて|後《のち》、なんぢらに|先《さき》だちてガリラヤに|往《ゆ》かん』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》にペテロ、イエスに|言《い》ふ『|假令《たとひ》みな|躓《つまづ》くとも、|我《われ》は|然《しか》らじ』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、|今日《けふ》この|夜《よ》、|鷄《にはとり》ふたたび|鳴《な》く|前《まへ》に、なんぢ|三《み》たび|我《われ》を|否《いな》むべし』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|力《ちから》をこめて|言《い》ふ『われ|汝《なんぢ》とともに|死《し》ぬべき|事《こと》ありとも、|汝《なんぢ》を|否《いな》まず』|弟子《でし》たち|皆《みな》かく|言《い》へり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らゲツセマネと|名《な》づくる|處《ところ》に|到《いた》りし|時《とき》、イエス|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|祈《いの》る|間《あひだ》、ここに|座《ざ》せよ』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かくてペテロ、ヤコブ、ヨハネを|伴《ともな》ひゆき、|甚《いた》く|驚《をどろ》き、かつ|悲《かな》しみ|出《い》でて|言《い》ひ|給《たま》ふ[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]『わが|心《こころ》いたく|憂《うれ》ひて|死《し》ぬばかりなり、|汝《なんぢ》ら|此處《ここ》に|留《とどま》りて|目《め》を|覺《さま》しをれ』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|少《すこ》し|進《すす》みゆきて、|地《ち》に|平伏《ひれふ》し、|若《も》しも|得《う》べくば|此《こ》の|時《とき》の|己《おのれ》より|過《す》ぎ|往《ゆ》かんことを|祈《いの》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]『アバ|父《ちち》よ、|父《ちち》には|能《あた》はぬ|事《こと》なし、|此《こ》の|酒杯《さかづき》を|我《われ》より|取《と》り|去《さ》り|給《たま》へ。されど|我《わ》が|意《こころ》のままを|成《な》さんとにあらず、|御意《みこころ》のままを|成《な》し|給《たま》へ』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|來《きた》りて、その|眠《ねむ》れるを|見《み》、ペテロに|言《い》ひ|給《たま》ふ『シモンよ、なんぢ|眠《ねむ》るか、|一《いち》|時《とき》も|目《め》を|覺《さま》しをること|能《あた》はぬか。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|誘惑《まどはし》に|陷《おちい》らぬやう、|目《め》を|覺《さま》しかつ|祈《いの》れ。|實《げ》に|心《こころ》は|熱《ねつ》すれども|肉體《にくたい》よわきなり』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|再《ふたた》びゆき、|同《おな》じ|言《ことば》にて|祈《いの》り|給《たま》ふ。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]また|來《きた》りて|彼《かれ》らの|眠《ねむ》れるを|見《み》たまふ、|是《これ》その|目《め》いたく|疲《つか》れたるなり、|彼《かれ》ら|何《なに》と|答《こた》ふべきかを|知《し》らざりき。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|三度《みたび》|來《きた》りて|言《い》ひたまふ『|今《いま》は|眠《ねむ》りて|休《やす》め、|足《た》れり、|時《とき》きたれり、|視《み》よ、|人《ひと》の|子《こ》は|罪人《つみびと》らの|手《て》に|付《わた》さるるなり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|起《た》て、われらは|往《ゆ》くべし。|視《み》よ、|我《われ》を|賣《う》る|者《もの》ちかづけり』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]なほ|語《かた》りゐ|給《たま》ふほどに、|十二《じふに》|弟子《でし》の|一人《ひとり》なるユダ、やがて|近《ちか》づき|來《きた》る、|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》・|長老《ちゃうらう》らより|遣《つかは》されたる|群衆《ぐんじゅう》、|劍《つるぎ》と|棒《ぼう》とを|持《も》ちて|之《これ》に|伴《ともな》ふ。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]イエスを|賣《う》るもの、あらかじめ|合圖《あひづ》を|示《しめ》して|言《い》ふ『わが|接吻《くちつけ》する|者《もの》はそれなり、|之《これ》を|捕《とら》へて|確《しか》と|引《ひ》きゆけ』[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|來《きた》りて|直《ただ》ちに|御許《みもと》に|往《ゆ》き『ラビ』と|言《い》ひて|接吻《くちつけ》したれば、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》イエスに|手《て》をかけて|捕《とら》ふ。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|傍《かたは》らに|立《た》つ|者《もの》のひとり、|劍《つるぎ》を|拔《ぬ》き、|大《だい》|祭司《さいし》の|僕《しもべ》を|撃《う》ちて、|耳《みみ》を|切《き》り|落《おと》せり。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|人々《ひとびと》に|對《むか》ひて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|強盜《がうたう》にむかふ|如《ごと》く、|劍《つるぎ》と|棒《ぼう》とを|持《も》ち、|我《われ》を|捕《とら》へんとて|出《い》で|來《きた》るか。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|日々《ひび》なんぢらと|偕《とも》に|宮《みや》にありて|教《をし》へたりしに、|我《われ》を|執《とら》へざりき、されど|是《これ》は|聖書《せいしょ》の|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》のとき|弟子《でし》みなイエスを|棄《す》てて|逃《に》げ|去《さ》る。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]ある|若者《わかもの》、|素肌《すはだ》に|亞麻《あま》|布《ぬの》を|纏《まと》ひて、イエスに|從《したが》ひたりしに、|人々《ひとびと》これを|捕《とら》へければ、[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|亞麻《あま》|布《ぬの》を|棄《す》て|裸《はだか》にて|逃《に》げ|去《さ》れり。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》イエスを|大《だい》|祭司《さいし》の|許《もと》に|曳《ひ》き|往《ゆ》きたれば、|祭司長《さいしちゃう》・|長老《ちゃうらう》・|學者《がくしゃ》ら|皆《みな》あつまる。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|遠《とほ》く|離《はな》れてイエスに|從《したが》ひ、|大《だい》|祭司《さいし》の|中庭《なかには》まで|入《い》り、|下役《したやく》どもと|共《とも》に|坐《ざ》して|火《ひ》に|煖《あたた》まりゐたり。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]さて|祭司長《さいしちゃう》ら|及《およ》び|全《ぜん》|議會《ぎくわい》、イエスを|死《し》に|定《さだ》めんとて、|證據《しょうこ》を|求《もと》むれども|得《え》ず。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]それはイエスに|對《たい》して|僞證《ぎしょう》する|者《もの》|多《おほ》くあれども、|其《そ》の|證據《しょうこ》あはざりしなり。[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|或《ある》|者《もの》ども|起《た》ちて|僞證《ぎしょう》して|言《い》ふ[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]『われら|此《こ》の|人《ひと》の「われは|手《て》にて|造《つく》りたる|此《こ》の|宮《みや》を|毀《こぼ》ち、|手《て》にて|造《つく》らぬ|他《ほか》の|宮《みや》を|三日《みっか》にて|建《た》つべし」と|云《い》へるを|聞《き》けり』[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|尚《なほ》この|證據《しょうこ》もあはざりき。[#太字]六〇[#「六〇」は行右小書き][#太字終わり]ここに|大《だい》|祭司《さいし》、|中《なか》に|立《た》ちイエスに|問《と》ひて|言《い》ふ『なんぢ|何《なに》をも|答《こた》へぬか、|此《こ》の|人々《ひとびと》の|立《た》つる|證據《しょうこ》は|如何《いか》に』[#太字]六一[#「六一」は行右小書き][#太字終わり]されどイエス|默《もく》して|何《なに》をも|答《こた》へ|給《たま》はず。|大《だい》|祭司《さいし》ふたたび|問《と》ひて|言《い》ふ『なんぢは|頌《ほ》むべきものの|子《こ》キリストなるか』[#太字]六二[#「六二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われは|夫《それ》なり、|汝《なんぢ》ら、|人《ひと》の|子《こ》の|全能者《ぜんのうしゃ》の|右《みぎ》に|坐《ざ》し、|天《てん》の|雲《くも》の|中《うち》にありて|來《きた》るを|見《み》ん』[#太字]六三[#「六三」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》のとき|大《だい》|祭司《さいし》おのが|衣《ころも》を|裂《さ》きて|言《い》ふ『なんぞ|他《ほか》に|證人《しょうにん》を|求《もと》めん。[#太字]六四[#「六四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|此《こ》の|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]言《けがしごと》を|聞《き》けり、|如何《いか》に|思《おも》ふか』かれら|擧《こぞ》りてイエスを|死《し》に|當《あた》るべきものと|定《さだ》む。[#太字]六五[#「六五」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|或《ある》|者《もの》どもはイエスに|唾《つばき》し、|又《また》その|顏《かほ》を|蔽《おほ》ひ、|拳《こぶし》にて|搏《う》ちなど|爲始《しはじ》めて|言《い》ふ『|預言《よげん》せよ』|下役《したやく》どもイエスを|受《う》け、|手掌《てのひら》にてうてり。[#太字]六六[#「六六」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|下《した》にて|中庭《なかには》にをりしに、|大《だい》|祭司《さいし》の|婢女《はしため》の|一人《ひとり》きたりて、[#太字]六七[#「六七」は行右小書き][#太字終わり]ペテロの|火《ひ》に|煖《あたた》まりをるを|見《み》、これに|目《め》を|注《と》めて『|汝《なんぢ》もかのナザレ|人《びと》イエスと|偕《とも》に|居《ゐ》たり』と|言《い》ふ。[#太字]六八[#「六八」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|肯《うけが》はずして『われは|汝《なんぢ》の|言《い》ふことを|知《し》らず、|又《また》その|意《こころ》をも|悟《さと》らず』と|言《い》ひて|庭《には》|口《ぐち》に|出《い》でたり。[#太字]六九[#「六九」は行右小書き][#太字終わり]|婢女《はしため》かれを|見《み》て、また|傍《かたは》らに|立《た》つ|者《もの》どもに『この|人《ひと》はかの|黨與《ともがら》なり』と|言《い》ひ|出《い》でしに、[#太字]七〇[#「七〇」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|重《かさ》ねて|肯《うけが》はず、|暫《しばら》くしてまた|傍《かたは》らに|立《た》つ|者《もの》どもペテロに|言《い》ふ『なんぢは|慥《たしか》にかの|黨與《ともがら》なり、|汝《なんぢ》もガリラヤ|人《ひと》なり』[#太字]七一[#「七一」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|時《とき》ペテロ|盟《うけ》ひかつ|誓《ちか》ひて『われは|汝《なんぢ》らの|言《い》ふ|其《そ》の|人《ひと》を|知《し》らず』と|言《い》ひ|出《い》づ。[#太字]七二[#「七二」は行右小書き][#太字終わり]その|折《をり》しも、また|鷄《にはとり》なきぬ。ペテロ『にはとり|二度《ふたたび》なく|前《まへ》に、なんぢ|三度《みたび》われを|否《いな》まん』とイエスの|言《い》ひ|給《たま》ひし|御言《みことば》を|思《おも》ひいだし、|思《おも》ひ|反《かへ》して|泣《な》きたり。 第一五章[#「第一五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|夜《よ》|明《あく》るや|直《ただ》ちに、|祭司長《さいしちゃう》・|長老《ちゃうらう》・|學者《がくしゃ》ら、|即《すなは》ち|全《ぜん》|議會《ぎくわい》ともに|相《あひ》|議《はか》りて、イエスを|縛《しば》り、|曳《ひ》きゆきてピラトに|付《わた》す。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ピラト、イエスに|問《と》ひて|言《い》ふ『なんぢはユダヤ|人《びと》の|王《わう》なるか』|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|言《い》ふが|如《ごと》し』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》らさまざまに|訴《うった》ふれば、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ピラトまた|問《と》ひて|言《い》ふ『なにも|答《こた》へぬか、|視《み》よ、|如何《いか》に|多《おほ》くの|事《こと》をもて|訴《うった》ふるか』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]されどピラトの|怪《あや》しむばかり、イエス|更《さら》に|何《なに》をも|答《こた》へ|給《たま》はず。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]さて|祭《まつり》の|時《とき》には、ピラト|民《たみ》の|願《ねがひ》に|任《まか》せて、|囚人《めしうど》ひとりを|赦《ゆる》す|例《れい》なるが、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|一揆《いっき》を|起《おこ》し、|人《ひと》を|殺《ころ》して|繋《つな》がれをる|者《もの》の|中《うち》に、バラバといふ|者《もの》あり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》すすみ|來《きた》りて、|例《れい》の|如《ごと》くせんことを|願《ねが》ひ|出《い》でたれば、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|答《こた》へて|言《い》ふ『ユダヤ|人《びと》の|王《わう》を|赦《ゆる》さんことを|願《ねが》ふか』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]これピラト、|祭司長《さいしちゃう》らのイエスを|付《わた》ししは、|嫉《ねたみ》に|因《よ》ると|知《し》る|故《ゆゑ》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されど|祭司長《さいしちゃう》ら|群衆《ぐんじゅう》を|唆《そその》かし、|反《かへ》つてバラバを|赦《ゆる》さんことを|願《ねが》はしむ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ピラトまた|答《こた》へて|言《い》ふ『さらば|汝《なんぢ》らがユダヤ|人《びと》の|王《わう》と|稱《とな》ふる|者《もの》をわれ|如何《いか》にすべきか』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》また|叫《さけ》びて|言《い》ふ『|十字架《じふじか》につけよ』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|言《い》ふ『そも|彼《かれ》は|何《なに》の|惡事《あくじ》を|爲《な》したるか』かれら|烈《はげ》しく|叫《さけ》びて『|十字架《じふじか》につけよ』と|言《い》ふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|群衆《ぐんじゅう》の|望《のぞみ》を|滿《みた》さんとて、バラバを|釋《ゆる》し、イエスを|鞭《むち》うちたるのち、|十字架《じふじか》につくる|爲《ため》にわたせり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|兵卒《へいそつ》どもイエスを|官邸《くわんてい》の|中庭《なかには》に|連《つ》れゆき、|全《ぜん》|隊《たい》を|呼《よ》び|集《あつ》めて、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》に|紫色《むらさき》の|衣《ころも》を|著《き》せ、|茨《いばら》の|冠冕《かんむり》を|編《あ》みて|冠《かむ》らせ、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]『ユダヤ|人《びと》の|王《わう》、|安《やす》かれ』と|禮《れい》をなし|始《はじ》め、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]また|葦《あし》にて|其《そ》の|首《かうべ》をたたき、|唾《つばき》し、|跪《ひざま》づきて|拜《はい》せり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]かく|嘲弄《てうろう》してのち、|紫色《むらさき》の|衣《ころも》を|剥《は》ぎ、|故《もと》の|衣《ころも》を|著《き》せ、|十字架《じふじか》につけんとて|曳《ひ》き|出《いだ》せり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》にアレキサンデルとルポスとの|父《ちち》シモンといふクレネ|人《びと》、|田舍《ゐなか》より|來《きた》りて|通《とほ》りかかりしに、|強《し》ひてイエスの|十字架《じふじか》を|負《お》はせ、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエスをゴルゴダ、|釋《と》けば|髑髏《されかうべ》といふ|處《ところ》に|連《つ》れ|往《ゆ》けり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|沒藥《もつやく》を|混《ま》ぜたる|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|與《あた》へたれど、|受《う》け|給《たま》はず。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らイエスを|十字架《じふじか》につけ、|而《しか》して|誰《たれ》が|何《なに》を|取《と》るべきと、|鬮《くじ》を|引《ひ》きて|其《そ》の|衣《ころも》を|分《わか》つ、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエスを|十字架《じふじか》につけしは、|朝《あさ》の|九時《くじ》|頃《ころ》なりき。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]その|罪標《すてふだ》には『ユダヤ|人《びと》の|王《わう》』と|書《ふみ》せり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエスと|共《とも》に、|二人《ふたり》の|強盜《がうたう》を|十字架《じふじか》につけ、|一人《ひとり》をその|右《みぎ》に、|一人《ひとり》をその|左《ひだり》に|置《お》く。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|往來《ゆきき》の|者《もの》どもイエスを|譏《そし》り、|首《かうべ》を|振《ふ》りて|言《い》ふ『ああ、|宮《みや》を|毀《こぼ》ちて|三日《みっか》のうちに|建《た》つる|者《もの》よ、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|十字架《じふじか》より|下《お》りて|己《おのれ》を|救《すく》へ』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》らも|亦《また》|同《おな》じく、|學者《がくしゃ》らと|共《とも》に|嘲弄《てうろう》して|互《たがひ》に|言《い》ふ『|人《ひと》を|救《すく》ひて、|己《おのれ》を|救《すく》ふこと|能《あた》はず、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]イスラエルの|王《わう》キリスト、いま|十字架《じふじか》より|下《お》りよかし、さらば|我《われ》ら|見《み》て|信《しん》ぜん』|共《とも》に|十字架《じふじか》につけられたる|者《もの》どもも、イエスを|罵《ののし》りたり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|晝《ひる》の|十二《じふに》|時《じ》に、|地《ち》のうへ|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》く|暗《くら》くなりて、|三時《さんじ》に|及《およ》ぶ。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|三時《さんじ》にイエス|大聲《おほごゑ》に『エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ』と|呼《よば》はり|給《たま》ふ。|之《これ》を|釋《と》けば、わが|神《かみ》、わが|神《かみ》、なんぞ|我《われ》を|見《み》|棄《す》て|給《たま》ひし、との|意《こころ》なり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|傍《かたは》らに|立《た》つ|者《もの》のうち|或《ある》|人々《ひとびと》これを|聞《き》きて|言《い》ふ『|視《み》よ、エリヤを|呼《よ》ぶなり』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|一人《ひとり》はしり|往《ゆ》きて、|海綿《うみわた》に|酸《す》き|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|含《ふく》ませて|葦《あし》につけ、イエスに|飮《の》ましめて|言《い》ふ『|待《ま》て、エリヤ|來《きた》りて、|彼《かれ》を|下《おろ》すや|否《いな》や、|我《われ》ら|之《これ》を|見《み》ん』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|大聲《おほごゑ》を|出《いだ》して|息《いき》|絶《た》え|給《たま》ふ。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|聖所《せいじょ》の|幕《まく》、|上《うへ》より|下《した》まで|裂《さ》けて|二《ふた》つとなりたり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]イエスに|向《むか》ひて|立《た》てる|百卒長《ひゃくそつちゃう》、かかる|樣《さま》にて|息《いき》|絶《た》え|給《たま》ひしを|見《み》て|言《い》ふ『|實《げ》にこの|人《ひと》は|神《かみ》の|子《こ》なりき』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]また|遙《はるか》に|望《のぞ》み|居《ゐ》たる|女《をんな》たちあり、その|中《なか》にはマグダラのマリヤ、|小《せう》ヤコブとヨセとの|母《はは》マリヤ、|及《およ》びサロメなども|居《ゐ》たり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らはイエスのガリラヤに|居給《ゐたま》ひしとき、|從《したが》ひ|事《つか》へし|者《もの》どもなり。|此《こ》の|他《ほか》イエスと|共《とも》にエルサレムに|上《のぼ》りし|多《おほ》くの|女《をんな》もありき。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》|既《すで》に|暮《く》れて、|準備《そなへ》|日《び》すなはち|安息《あんそく》|日《にち》の|前《まへ》の|日《ひ》となりたれば、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|貴《たふと》き|議員《ぎゐん》にして、|神《かみ》の|國《くに》を|待《ま》ち|望《のぞ》める、アリマタヤのヨセフ|來《きた》りて、|憚《はばか》らずピラトの|許《もと》に|往《ゆ》き、イエスの|屍體《しかばね》を|乞《こ》ふ。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]ピラト、イエスは|早《は》や|死《し》にしかと|訝《いぶか》り、|百卒長《ひゃくそつちゃう》を|呼《よ》びて、その|死《し》にしより|時《とき》|經《へ》しや|否《いな》やを|問《と》ひ、[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|死《し》にたる|事《こと》を|百卒長《ひゃくそつちゃう》より|聞《き》き|知《し》りて、|屍體《しかばね》をヨセフに|與《あた》ふ。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]ヨセフ|亞麻《あま》|布《ぬの》を|買《か》ひ、イエスを|取下《とりおろ》して|之《これ》に|包《つつ》み、|岩《いは》に|鑿《ほ》りたる|墓《はか》に|納《をさ》め、|墓《はか》の|入口《いりくち》に|石《いし》を|轉《まろば》し|置《お》く。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]マグダラのマリヤとヨセの|母《はは》マリヤと、イエスを|納《をさ》めし|處《ところ》を|見《み》ゐたり。 第一六章[#「第一六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|安息《あんそく》|日《にち》|終《をは》りし|時《とき》、マグダラのマリヤ、ヤコブの|母《はは》マリヤ|及《およ》びサロメ、|往《ゆ》きてイエスに|抹《ぬ》らんとて|香料《かうれう》を|買《か》ひ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|一週《ひとまはり》の|首《はじめ》の|日《ひ》、|日《ひ》の|出《い》でたる|頃《ころ》いと|早《はや》く|墓《はか》にゆく。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》か|我《われ》らの|爲《ため》に|墓《はか》の|入口《いりくち》より|石《いし》を|轉《まろば》すべきと|語《かた》り|合《あ》ひしに、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|目《め》を|擧《あ》ぐれば、|石《いし》の|既《すで》に|轉《まろば》しあるを|見《み》る。この|石《いし》は|甚《はなは》だ|大《おほい》なりき。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|墓《はか》に|入《い》り、|右《みぎ》の|方《かた》に|白《しろ》き|衣《ころも》を|著《き》たる|若者《わかもの》の|坐《ざ》するを|見《み》て|甚《いた》く|驚《をどろ》く。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|若者《わかもの》いふ『おどろくな、|汝《なんぢ》らは|十字架《じふじか》につけられ|給《たま》ひしナザレのイエスを|尋《たづ》ぬれど、|既《すで》に|甦《よみが》へりて、|此處《ここ》に|在《いま》さず。|視《み》よ、|納《をさ》めし|處《ところ》は|此處《ここ》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されど|往《ゆ》きて|弟子《でし》たちとペテロとに|告《つ》げよ「|汝《なんぢ》らに|先《さき》だちてガリラヤに|往《ゆ》き|給《たま》ふ、|彼處《かしこ》にて|謁《まみ》ゆるを|得《え》ん、|曾《かつ》て|汝《なんぢ》らに|言《い》ひ|給《たま》ひしが|如《ごと》し」』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》たち|甚《いた》く|驚《をどろ》きをののき、|墓《はか》より|逃《に》げ|出《い》でしが、|懼《おそ》れたれば|一言《ひとこと》をも|人《ひと》に|語《かた》らざりき。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり][|一週《ひとまはり》の|首《はじめ》の|日《ひ》の|拂曉《あかつき》、イエス|甦《よみが》へりて|先《ま》づマグダラのマリヤに|現《あらは》れたまふ、|前《さき》にイエスが|七《なな》つの|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひいだし|給《たま》ひし|女《をんな》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]マリヤ|往《ゆ》きて、イエスと|偕《とも》にありし|人々《ひとびと》の、|泣《な》き|悲《かな》しみ|居《を》るときに|之《これ》を|告《つ》ぐ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らイエスの|活《い》き|給《たま》へる|事《こと》と、マリヤに|見《み》え|給《たま》ひし|事《こと》とを|聞《き》けども|信《しん》ぜざりき。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|後《のち》その|中《うち》の|二人《ふたり》、|田舍《ゐなか》に|往《ゆ》く|途《みち》を|歩《あゆ》むほどに、イエス|異《こと》なりたる|姿《すがた》にて|現《あらは》れ|給《たま》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|二人《ふたり》ゆきて、|他《ほか》の|弟子《でし》たちに|之《これ》を|告《つ》げたれど、なほ|信《しん》ぜざりき。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》ののち|十《じふ》|一《いち》|弟子《でし》の|食《しょく》しをる|時《とき》に、イエス|現《あらは》れて、|己《おの》が|甦《よみが》へりたるを|見《み》し|者《もの》どもの|言《ことば》を|信《しん》ぜざりしにより、|其《そ》の|信仰《しんかう》なきと、|其《そ》の|心《こころ》の|頑固《かたくな》なるとを|責《せ》め|給《たま》ふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》らに|言《い》ひたまふ『|全世界《ぜんせかい》を|巡《めぐ》りて|凡《すべ》ての|造《つく》られしものに|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へよ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|信《しん》じてバプテスマを|受《う》くる|者《もの》は|救《すく》はるべし、|然《さ》れど|信《しん》ぜぬ|者《もの》は|罪《つみ》に|定《さだ》めらるべし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|信《しん》ずる|者《もの》には|此《これ》|等《ら》の|徴《しるし》ともなはん。|即《すなは》ち|我《わ》が|名《な》によりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひいだし、|新《あたら》しき|言《ことば》をかたり、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|蛇《へび》を|握《にぎ》るとも、|毒《どく》を|飮《の》むとも、|害《がい》を|受《う》けず、|病《や》める|者《もの》に|手《て》をつけなば|癒《い》えん』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|語《かた》り|終《を》へてのち、|主《しゅ》イエスは|天《てん》に|擧《あ》げられ、|神《かみ》の|右《みぎ》に|坐《ざ》し|給《たま》ふ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|出《い》でて、あまねく|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へ、|主《しゅ》も|亦《また》ともに|働《はたら》き、|伴《ともな》ふところの|徴《しるし》をもて、|御言《みことば》を|確《かた》うし|給《たま》へり〕 [#改ページ] ルカ傳福音書[#「ルカ傳福音書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|中《うち》に|成《な》りし|事《こと》の|物語《ものがたり》につき、|始《はじめ》よりの|目撃者《もくげきしゃ》にして、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|御言《みことば》の|役者《えきしゃ》となりたる|人々《ひとびと》の、|我《われ》らに|傳《つた》へし|其《そ》のままを|書《か》き|列《つら》ねんと、|手《て》を|著《つ》けし|者《もの》あまたある|故《ゆゑ》に、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》も|凡《すべ》ての|事《こと》を|最初《さいしょ》より|詳細《つまびらか》に|推《お》し|尋《たづ》ねたれば、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]テオピロ|閣下《かくか》よ、|汝《なんぢ》の|教《をし》へられたる|事《こと》の|慥《たしか》なるを|悟《さと》らせん|爲《ため》に、これが|序《ついで》を|正《ただ》して|書《か》き|贈《おく》るは|善《よ》き|事《こと》と|思《おも》はるるなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤの|王《わう》ヘロデの|時《とき》、アビヤの|組《くみ》の|祭司《さいし》に、ザカリヤという|人《ひと》あり。その|妻《つま》はアロンの|裔《すゑ》にて、|名《な》をエリサベツといふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》ながら|神《かみ》の|前《まへ》に|正《ただ》しくして、|主《しゅ》の|誡命《いましめ》と|定規《さだめ》とを、みな|缺《かけ》なく|行《おこな》へり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]エリサベツ|石女《うまずめ》なれば、|彼《かれ》らに|子《こ》なし、また|二人《ふたり》とも|年《とし》|邁《すす》みぬ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]さてザカリヤその|組《くみ》の|順番《まはり》に|當《あた》りて、|神《かみ》の|前《まへ》に|祭司《さいし》の|務《つとめ》を|行《おこな》ふとき、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|祭司《さいし》の|慣例《ならはし》にしたがひて、|籤《くじ》をひき|主《しゅ》の|聖所《せいじょ》に|入《い》りて、|香《かう》を|燒《や》くこととなりぬ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|香《かう》を|燒《や》くとき、|民《たみ》の|群《むれ》みな|外《そと》にありて|祈《いの》りゐたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》に|主《しゅ》の|使《つかひ》あらはれて、|香壇《かうだん》の|右《みぎ》に|立《た》ちたれば、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ザカリヤ|之《これ》を|見《み》て、|心《こころ》さわぎ|懼《おそれ》を|生《しゃう》ず。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》いふ『ザカリヤよ、|懼《おそ》るな、|汝《なんぢ》の|願《ねがひ》は|聽《き》かれたり。|汝《なんぢ》の|妻《つま》エリサベツ|男子《なんし》を|生《う》まん、|汝《なんぢ》その|名《な》をヨハネと|名《な》づくべし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢに|喜悦《よろこび》と|歡樂《たのしみ》とあらん、|又《また》おほくの|人《ひと》もその|生《うま》るるを|喜《よろこ》ぶべし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]この|子《こ》、|主《しゅ》の|前《まへ》に|大《おほい》ならん、また|葡萄酒《ぶだうしゅ》と|濃《こ》き|酒《さけ》とを|飮《の》まず、|母《はは》の|胎《たい》を|出《い》づるや|聖《せい》|靈《れい》にて|滿《みた》されん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]また|多《おほ》くのイスラエルの|子《こ》らを、|主《しゅ》なる|彼《かれ》らの|神《かみ》に|歸《かへ》らしめ、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》エリヤの|靈《れい》と|能力《ちから》とをもて、|主《しゅ》の|前《まへ》に|往《ゆ》かん。これ|父《ちち》の|心《こころ》を|子《こ》に、|戻《もど》れる|者《もの》を|義人《ぎじん》の|聰明《さとき》に|歸《かへ》らせて、|整《ととの》へたる|民《たみ》を|主《しゅ》のために|備《そな》へんとてなり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]ザカリヤ|御使《みつかひ》にいふ『|何《なに》に|據《よ》りてか|此《こ》の|事《こと》あるを|知《し》らん。|我《われ》は|老人《としより》にて、|妻《つま》もまた|年《とし》|邁《すす》みたり』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》こたへて|言《い》ふ『われは|神《かみ》の|御前《みまへ》に|立《た》つガブリエルなり、|汝《なんぢ》に|語《かた》りてこの|嘉《よ》き|音信《おとづれ》を|告《つ》げん|爲《ため》に|遣《つかは》さる。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|時《とき》いたらば|必《かなら》ず|成就《じゃうじゅ》すべき|我《わ》が|言《ことば》を|信《しん》ぜぬに|因《よ》り、なんぢ|物《もの》|言《い》へずなりて、|此《これ》らの|事《こと》の|成《な》る|日《ひ》までは|語《かた》ること|能《あた》はじ』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》はザカリヤを|俟《ま》ちゐて、|其《そ》の|聖所《せいじょ》の|内《うち》に|久《ひさ》しく|留《とどま》るを|怪《あや》しむ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|出《い》で|來《きた》りたれど|語《かた》ること|能《あた》はねば、|彼《かれ》らその|聖所《せいじょ》の|内《うち》にて|異象《いしやう》を|見《み》たることを|悟《さと》る。ザカリヤは、ただ|首《くび》にて|示《しめ》すのみ、なほ|唖《おふし》なりき。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|務《つとめ》の|日《ひ》|滿《み》ちたれば、|家《いへ》に|歸《かへ》りぬ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|後《のち》その|妻《つま》エリサベツ|孕《みごも》りて、|五月《いつつき》ほど|隱《かく》れをりて|言《い》ふ、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]『|主《しゅ》わが|恥《はぢ》を|人《ひと》の|中《なか》に|雪《すす》がせんとて、|我《われ》を|顧《かへり》み|給《たま》ふときは、|斯《か》く|爲《な》し|給《たま》ふなり』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]その|六月《むつき》めに、|御使《みつかひ》ガブリエル、ナザレといふガリラヤの|町《まち》にをる|處女《をとめ》のもとに、|神《かみ》より|遣《つかは》さる。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]この|處女《をとめ》はダビデの|家《いへ》のヨセフといふ|人《ひと》と|許嫁《いひなづけ》せし|者《もの》にて、|其《そ》の|名《な》をマリヤと|云《い》ふ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》、|處女《をとめ》の|許《もと》にきたりて|言《い》ふ『めでたし、|惠《めぐ》まるる|者《もの》よ、|主《しゅ》なんぢと|偕《とも》に|在《いま》せり』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]マリヤこの|言《ことば》によりて|心《こころ》いたく|騷《さわ》ぎ、|斯《か》かる|挨拶《あいさつ》は|如何《いか》なる|事《こと》ぞと|思《おも》ひ|廻《めぐ》らしたるに、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》いふ『マリヤよ、|懼《おそ》るな、|汝《なんぢ》は|神《かみ》の|御前《みまへ》に|惠《めぐみ》を|得《え》たり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、なんぢ|孕《みごも》りて|男子《なんし》を|生《う》まん、|其《そ》の|名《な》をイエスと|名《な》づくべし。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|大《おほい》ならん、|至高者《いとたかきもの》の|子《こ》と|稱《とな》へられん。また|主《しゅ》たる|神《かみ》、これに|其《そ》の|父《ちち》ダビデの|座位《くらゐ》をあたへ|給《たま》へば、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]ヤコブの|家《いへ》を|永遠《とこしへ》に|治《をさ》めん。その|國《くに》は|終《をは》ることなかるべし』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]マリヤ|御使《みつかひ》に|言《い》ふ『われ|未《いま》だ|人《ひと》を|知《し》らぬに、|如何《いか》にして|此《こ》の|事《こと》のあるべき』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》こたへて|言《い》ふ『|聖《せい》|靈《れい》なんぢに|臨《のぞ》み、|至高者《いとたかきもの》の|能力《ちから》なんぢを|被《おほ》はん。|此《こ》の|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》が|生《う》むところの|聖《せい》なる|者《もの》は、|神《かみ》の|子《こ》と|稱《とな》へらるべし。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、なんぢの|親族《しんぞく》エリサベツも、|年《とし》|老《お》いたれど、|男子《なんし》を|孕《はら》めり。|石女《うまずめ》といはれたる|者《もの》なるに、|今《いま》は|孕《みごも》りてはや|六月《むつき》になりぬ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》の|言《ことば》には|能《あた》はぬ|所《ところ》なし』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]マリヤ|言《い》ふ『|視《み》よ、われは|主《しゅ》の|婢女《はしため》なり。|汝《なんぢ》の|言《ことば》のごとく、|我《われ》に|成《な》れかし』つひに|御使《みつかひ》はなれ|去《さ》りぬ。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》マリヤ|立《た》ちて|山里《やまざと》に|急《いそ》ぎ|往《ゆ》き、ユダの|町《まち》にいたり、[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]ザカリヤの|家《いへ》に|入《い》りてエリサベツに|挨拶《あいさつ》せしに、[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]エリサベツその|挨拶《あいさつ》を|聞《き》くや、|兒《こ》は|胎内《たいない》にて|躍《をど》れり。エリサベツ|聖《せい》|靈《れい》にて|滿《みた》され、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|聲《こゑ》|高《たか》らかに|呼《よば》はりて|言《い》ふ『をんなの|中《うち》にて|汝《なんぢ》は|祝福《しくふく》せられ、その|胎《たい》の|實《み》もまた|祝福《しくふく》せられたり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]わが|主《しゅ》の|母《はは》われに|來《きた》る、われ|何《なに》によりてか|之《これ》を|得《え》し。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、なんぢの|挨拶《あいさつ》の|聲《こゑ》、わが|耳《みみ》に|入《い》るや、|我《わ》が|兒《こ》、|胎内《たいない》にて|喜《よろこ》びをどれり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|信《しん》ぜし|者《もの》は|幸福《さいはひ》なるかな、|主《しゅ》の|語《かた》り|給《たま》ふことは|必《かなら》ず|成就《じゃうじゅ》すべければなり』[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]マリヤ|言《い》ふ、 [#ここから2字下げ] 『わがこころ|主《しゅ》をあがめ、 [#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]わが|靈《れい》はわが|救主《すくひぬし》なる|神《かみ》を|喜《よろこ》びまつる。 [#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]その|婢女《はしため》の|卑《いや》しきをも|顧《かへり》み|給《たま》へばなり。 |視《み》よ、|今《いま》よりのち|萬《よろづ》|世《よ》の|人《ひと》われを|幸福《さいはひ》とせん。 [#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|全能者《ぜんのうしゃ》われに|大《おほい》なる|事《こと》を|爲《な》したまへばなり。 その|御名《みな》は|聖《せい》なり、 [#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]そのあはれみは|代々《よよ》 かしこみ|恐《おそ》るる|者《もの》に|臨《のぞ》むなり。 [#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|御腕《みうで》にて|權力《ちから》をあらはし、 |心《こころ》の|念《おもひ》に|高《たか》ぶる|者《もの》を|散《ちら》し、 [#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|權勢《いきほひ》ある|者《もの》を|座位《くらゐ》より|下《おろ》し、 いやしき|者《もの》を|高《たか》うし、 [#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|飢《う》ゑたる|者《もの》を|善《よ》き|物《もの》に|飽《あ》かせ、 |富《と》める|者《もの》を|空《むな》しく|去《さ》らせ|給《たま》ふ。 [#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》らの|先祖《せんぞ》に|告《つ》げ|給《たま》ひし|如《ごと》く、 [#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]アブラハムとその|裔《すゑ》とに|對《たい》する あはれみを|永遠《とこしへ》に|忘《わす》れじとて、 |僕《しもべ》イスラエルを|助《たす》けたまへり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]かくてマリヤは、|三月《みつき》ばかりエルザベツと|偕《とも》に|居《を》りて、|己《おの》が|家《いへ》に|歸《かへ》れり。[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]さてエリサベツ|産《う》む|期《とき》みちて|男子《なんし》を|生《う》みたれば、[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]その|最寄《もより》のもの|親族《しんぞく》の|者《もの》ども、|主《しゅ》の|大《おほい》なる|憐憫《あはれみ》をエリサベツに|垂《た》れ|給《たま》ひしことを|聞《き》きて、|彼《かれ》とともに|喜《よろこ》ぶ。[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]|八日《やうか》めになりて、|其《そ》の|子《こ》に|割禮《かつれい》を|行《おこな》はんとて|人々《ひとびと》きたり、|父《ちち》の|名《な》に|因《ちな》みてザカリヤと|名《な》づけんとせしに、[#太字]六〇[#「六〇」は行右小書き][#太字終わり]|母《はは》こたへて|言《い》ふ『|否《いな》、ヨハネと|名《な》づくべし』[#太字]六一[#「六一」は行右小書き][#太字終わり]かれら|言《い》ふ『なんぢの|親族《しんぞく》の|中《うち》には|此《こ》の|名《な》をつけたる|者《もの》なし』[#太字]六二[#「六二」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|父《ちち》に|首《かうべ》にて|示《しめ》し、いかに|名《な》づけんと|思《おも》ふか、|問《と》ひたるに、[#太字]六三[#「六三」は行右小書き][#太字終わり]ザカリヤ|書板《かきいた》を|求《もと》めて『その|名《な》はヨハネなり』と|書《か》きしかば、みな|怪《あや》しむ。[#太字]六四[#「六四」は行右小書き][#太字終わり]ザカリヤの|口《くち》たちどころに|開《ひら》け、|舌《した》ゆるみ、|物《もの》いひて|神《かみ》を|讃《ほ》めたり。[#太字]六五[#「六五」は行右小書き][#太字終わり]|最寄《もより》に|住《す》む|者《もの》みな|懼《おそれ》をいだき、|又《また》すべて|此《これ》|等《ら》のこと|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》くユダヤの|山里《やまざと》に|言《い》ひ|囃《はや》されたれば、[#太字]六六[#「六六」は行右小書き][#太字終わり]|聞《き》く|者《もの》みな|之《これ》を|心《こころ》にとめて|言《い》ふ『この|子《こ》は|如何《いか》なる|者《もの》にか|成《な》らん』|主《しゅ》の|手《て》かれと|偕《とも》に|在《あ》りしなり。[#太字]六七[#「六七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|父《ちち》ザカリヤ|聖《せい》|靈《れい》にて|滿《みた》され|預言《よげん》して|言《い》ふ、 [#ここから2字下げ] [#太字]六八[#「六八」は行右小書き][#太字終わり]『|讃《ほ》むべきかな、|主《しゅ》イスラエルの|神《かみ》、 その|民《たみ》をかへりみて|贖罪《あがなひ》をなし、 [#太字]六九[#「六九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らのために|救《すくひ》の|角《つの》を、 その|僕《しもべ》ダビデの|家《いへ》に|立《た》て|給《たま》へり。 [#太字]七〇[#「七〇」は行右小書き][#太字終わり]これぞ|古《いにし》へより|聖《せい》|預言者《よげんしゃ》の|口《くち》をもて|言《い》ひ|給《たま》ひし|如《ごと》く、 [#太字]七一[#「七一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らを|仇《あた》より、|凡《すべ》て|我《われ》らを|憎《にく》む|者《もの》の|手《て》より、|取《と》り|出《いだ》したまふ|救《すくひ》なる。 [#太字]七二[#「七二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|先祖《せんぞ》に|憐憫《あはれみ》を|垂《た》れ、その|聖《せい》なる|契約《けいやく》を|思《おぼ》し、 [#太字]七三[#「七三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|先祖《せんぞ》アブラハムに|立《た》て|給《たま》ひし|御誓《みちかひ》を|忘《わす》れずして、 [#太字]七四[#「七四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らを|仇《あた》の|手《て》より|救《すく》ひ、 |生涯《しゃうがい》、|主《しゅ》の|御前《みまへ》に、 [#太字]七五[#「七五」は行右小書き][#太字終わり]|聖《せい》と|義《ぎ》とをもて|懼《おそれ》なく|事《つか》へしめたまふなり。 [#太字]七六[#「七六」は行右小書き][#太字終わり]|幼兒《をさなご》よ、なんぢは|至高者《いとたかきもの》の|預言者《よげんしゃ》と|稱《とな》へられん。 これ|主《しゅ》の|御前《みまへ》に|先《さき》だちゆきて、|其《そ》の|道《みち》を|備《そな》へ、 [#太字]七七[#「七七」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|民《たみ》に|罪《つみ》の|赦《ゆるし》による |救《すくひ》を|知《し》らしむればなり。 [#太字]七八[#「七八」は行右小書き][#太字終わり]これ|我《われ》らの|神《かみ》の|深《ふか》き|憐憫《あはれみ》によるなり。 この|憐憫《あはれみ》によりて|朝《あさ》のひかり、|上《うへ》より|臨《のぞ》み、 [#太字]七九[#「七九」は行右小書き][#太字終わり]|暗黒《くらき》と|死《し》の|蔭《かげ》とに|坐《ざ》する|者《もの》をてらし、 |我《われ》らの|足《あし》を|平和《へいわ》の|路《みち》にみちびかん』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]八〇[#「八〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|幼兒《をさなご》は|漸《やや》に|成長《せいちゃう》し、その|靈《れい》|強《つよ》くなり、イスラエルに|現《あらは》るる|日《ひ》まで|荒野《あらの》にゐたり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》、|天下《てんか》の|人《ひと》を|戸籍《こせき》に|著《つ》かすべき|詔令《みことのり》、カイザル・アウグストより|出《い》づ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]この|戸籍《こせき》|登録《とうろく》は、クレニオ、シリヤの|總督《そうとく》たりし|時《とき》に|行《おこな》はれし|初《はじめ》のものなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]さて|人《ひと》みな|戸籍《こせき》に|著《つ》かんとて、|各自《おのおの》その|故郷《ふるさと》に|歸《かへ》る。[#太字]四 五[#「四 五」は行右小書き][#太字終わり]ヨセフもダビデの|家系《いへすぢ》また|血統《ちすぢ》なれば、|既《すで》に|孕《はら》める|許嫁《いひなづけ》の|妻《つま》マリヤとともに、|戸籍《こせき》に|著《つ》かんとて、ガリラヤの|町《まち》ナザレを|出《い》でてユダヤに|上《のぼ》り、ダビデの|町《まち》ベツレヘムといふ|處《ところ》に|到《いた》りぬ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》に|居《を》るほどに、マリヤ|月《つき》|滿《み》ちて、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|初子《うひご》をうみ、|之《これ》を|布《ぬの》に|包《つつ》みて|馬槽《うまぶね》に|臥《ふ》させたり。|旅舍《はたごや》にをる|處《ところ》なかりし|故《ゆゑ》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|地《ち》に|野宿《のじゅく》して、|夜《よる》|群《むれ》を|守《まも》りをる|牧者《ひつじかい》ありしが、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|使《つかひ》その|傍《かたは》らに|立《た》ち、|主《しゅ》の|榮光《えいくわう》その|周圍《まはり》を|照《てら》したれば、|甚《いた》く|懼《おそ》る。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》かれらに|言《い》ふ『|懼《おそ》るな、|視《み》よ、この|民《たみ》|一般《いっぱん》に|及《およ》ぶべき、|大《おほい》なる|歡喜《よろこび》の|音信《おとづれ》を|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|今日《けふ》ダビデの|町《まち》にて|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|救主《すくひぬし》うまれ|給《たま》へり、これ|主《しゅ》キリストなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|布《ぬの》にて|包《つつ》まれ、|馬槽《うまぶね》に|臥《ふ》しをる|嬰兒《みどりご》を|見《み》ん、|是《これ》その|徴《しるし》なり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|忽《たちま》ちあまたの|天《てん》の|軍勢《ぐんぜい》、|御使《みつかひ》に|加《くは》はり、|神《かみ》を|讃美《さんび》して|言《い》ふ、 [#ここから2字下げ] [#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]『いと|高《たか》き|處《ところ》には|榮光《えいくわう》、|神《かみ》にあれ。 |地《ち》には|平和《へいわ》、|主《しゅ》の|悦《よろこ》び|給《たま》ふ|人《ひと》にあれ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》|等《たち》さりて|天《てん》に|往《ゆ》きしとき、|牧者《ひつじかい》たがひに|語《かた》る『いざ、ベツレヘムにいたり、|主《しゅ》の|示《しめ》し|給《たま》ひし|起《おこ》れる|事《こと》を|見《み》ん』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|急《いそ》ぎ|往《ゆ》きて、マリヤとヨセフと、|馬槽《うまぶね》に|臥《ふ》したる|嬰兒《みどりご》とに|尋《たづ》ねあふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|見《み》て、この|子《こ》につき|御使《みつかひ》の|語《かた》りしことを|告《つ》げたれば、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|聞《き》く|者《もの》はみな|牧者《ひつじかい》の|語《かた》りしことを|怪《あや》しみたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》してマリヤは|凡《すべ》て|此《これ》|等《ら》のことを|心《こころ》に|留《とど》めて|思《おも》ひ|囘《まは》せり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|牧者《ひつじかい》は|御使《みつかひ》の|語《かた》りしごとく|凡《すべ》ての|事《こと》を|見《み》|聞《きき》せしによりて、|神《かみ》を|崇《あが》めかつ|讃美《さんび》しつつ|歸《かへ》れり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|八日《やうか》みちて|幼兒《をさなご》に|割禮《かつれい》を|施《ほどこ》すべき|日《ひ》となりたれば、|未《いま》だ|胎内《たいない》に|宿《やど》らぬ|先《さき》に|御使《みつかひ》の|名《な》づけし|如《ごと》く、その|名《な》をイエスと|名《な》づけたり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]モーセの|律法《おきて》に|定《さだ》めたる|潔《きよめ》の|日《ひ》|滿《み》ちたれば、|彼《かれ》ら|幼兒《をさなご》を|携《たづさ》へてエルサレムに|上《のぼ》る。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]これは|主《しゅ》の|律法《おきて》に『すべて|初子《うひご》に|生《うま》るる|男子《なんし》は、|主《しゅ》につける|聖《せい》なる|者《もの》と|稱《とな》へらるべし』と|録《しる》されたる|如《ごと》く、|幼兒《をさなご》を|主《しゅ》に|献《ささ》げ、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]また|主《しゅ》の|律法《おきて》に『|山鳩《やまばと》|一《ひと》つがひ|或《あるひ》は|家《いへ》|鴿《ばと》の|雛《ひな》|二《に》|羽《は》』と|云《い》ひたるに|遵《したが》ひて、|犧牲《いけにへ》を|供《そな》へん|爲《ため》なり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、エルサレムにシメオンといふ|人《ひと》あり。この|人《ひと》は|義《ぎ》かつ|敬虔《けいけん》にして、イスラエルの|慰《なぐさ》められんことを|待《ま》ち|望《のぞ》む。|聖《せい》|靈《れい》その|上《うへ》に|在《いま》す。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]また|聖《せい》|靈《れい》に、|主《しゅ》のキリストを|見《み》ぬうちは|死《し》を|見《み》ずと|示《しめ》されたれしが、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|此《この》とき|御靈《みたま》に|感《かん》じて|宮《みや》に|入《い》る。|兩親《ふたおや》その|子《こ》イエスを|携《たづさ》へ、この|子《こ》のために|律法《おきて》の|慣例《ならはし》に|遵《したが》ひて|行《おこな》はんとて|來《きた》りたれば、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]シメオン、イエスを|取《と》りいだき、|神《かみ》を|讃《ほ》めて|言《い》ふ、 [#ここから2字下げ] [#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]『|主《しゅ》よ、|今《いま》こそ|御言《みことば》に|循《したが》ひて、 |僕《しもべ》を|安《やす》らかに|逝《ゆ》かしめ|給《たま》ふなれ。 [#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]わが|目《め》は、はや|主《しゅ》の|救《すくひ》を|見《み》たり。 [#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》もろもろの|民《たみ》の|前《まへ》に|備《そな》へ|給《たま》ひし|者《もの》、 [#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|異邦人《いはうじん》をてらす|光《ひかり》、 |御民《みたみ》イスラエルの|榮光《えいくわう》なり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かく|幼兒《をさなご》に|就《つ》きて|語《かた》ることを、|其《そ》の|父《ちち》|母《はは》あやしみ|居《ゐ》たれば、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]シメオン|彼《かれ》らを|祝《しく》して|母《はは》マリヤに|言《い》ふ『|視《み》よ、この|幼兒《をさなご》は、イスラエルの|多《おほ》くの|人《ひと》の|或《あるひ》は|倒《たふ》れ、|或《あるひ》は|起《た》たん|爲《ため》に、また|言《い》ひ|逆《さから》ひを|受《う》くる|徴《しるし》のために|置《お》かる。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]――|劍《つるぎ》なんぢの|心《こころ》をも|刺《さ》し|貫《つらぬ》くべし――これは|多《おほ》くの|人《ひと》の|心《こころ》の|念《おもひ》の|顯《あらは》れん|爲《ため》なり』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]ここにアセルの|族《やから》パヌエルの|娘《むすめ》に、アンナといふ|預言者《よげんしゃ》あり、|年《とし》いたく|老《お》ゆ。|處女《をとめ》のとき、|夫《をっと》に|適《ゆ》きて|七《しち》|年《ねん》ともに|居《を》り、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|八《はち》|十四年《じふよねん》|寡婦《やもめ》たり。|宮《みや》を|離《はな》れず、|夜《よる》も|晝《ひる》も|斷食《だんじき》と|祈祷《きたう》とを|爲《な》して|神《かみ》に|事《つか》ふ。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]この|時《とき》すすみ|寄《よ》りて|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》し、また|凡《すべ》てエルサレムの|拯贖《あがなひ》を|待《ま》ちのぞむ|人《ひと》に、|幼兒《をさなご》のことを|語《かた》れり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]さて|主《しゅ》の|律法《おきて》に|遵《したが》ひて、|凡《すべ》ての|事《こと》を|果《はた》したれば、ガリラヤに|歸《かへ》り、|己《おの》が|町《まち》ナザレに|到《いた》れり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|幼兒《をさなご》は|漸《やや》に|成長《せいちゃう》して|健《すこや》かになり、|智慧《ちゑ》みち、かつ|神《かみ》の|惠《めぐみ》その|上《うへ》にありき。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]かくてその|兩親《ふたおや》、|過越《すぎこし》の|祭《まつり》には|年毎《としごと》にエルサレムに|往《ゆ》きぬ。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|十二《じふに》|歳《さい》のとき、|祭《まつり》の|慣例《ならはし》に|遵《したが》ひて|上《のぼ》りゆき、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|祭《まつり》の|日《ひ》|終《をは》りて|歸《かへ》る|時《とき》、その|子《こ》イエスはエルサレムに|止《とどま》りたまふ。|兩親《ふたおや》は|之《これ》を|知《し》らずして、[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|道伴《みちづれ》のうちに|居《を》るならんと|思《おも》ひ、|一日《いちにち》|路《ぢ》ゆきて、|親族《しんぞく》・|知邊《しるべ》のうちを|尋《たづ》ぬれど、[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|遇《あ》はぬに|因《よ》りて|復《また》たづねつつエルサレムに|歸《かへ》り、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|三日《みっか》ののち、|宮《みや》にて|教師《けうし》のなかに|坐《ざ》し、かつ|聽《き》き、かつ|問《と》ひゐ|給《たま》ふに|遇《あ》ふ。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|聞《き》く|者《もの》は|皆《みな》その|聰《さとき》と|答《こたへ》とを|怪《あや》しむ。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|兩親《ふたおや》イエスを|見《み》て、いたく|驚《をどろ》き、|母《はは》は|言《い》ふ『|兒《こ》よ、|何《なに》|故《ゆゑ》かかる|事《こと》を|我《われ》らに|爲《な》しぞ、|視《み》よ、|汝《なんぢ》の|父《ちち》と|我《われ》と|憂《うれ》ひて|尋《たづ》ねたり』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|何《なに》|故《ゆゑ》われを|尋《たづ》ねたるか、|我《われ》はわが|父《ちち》の|家《いへ》に|居《を》るべきを|知《し》らぬか』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|兩親《ふたおや》はその|語《かた》りたまふ|事《こと》を|悟《さと》らず。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエス|彼《かれ》|等《ら》とともに|下《くだ》り、ナザレに|往《ゆ》きて|順《したが》ひ|事《つか》へたまふ。|其《そ》の|母《はは》これらの|事《こと》をことごとく|心《こころ》に|藏《をさ》む。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|智慧《ちゑ》も|身《み》のたけも|彌《いや》まさり、|神《かみ》と|人《ひと》とにますます|愛《あい》せられ|給《たま》ふ。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]テベリオ・カイザル|在位《ざいゐ》の|十《じふ》|五《ご》|年《ねん》、ポンテオ・ピラトはユダヤの|總督《そうとく》、ヘロデはガリラヤ|分封《ぶんばう》の|國守《こくしゅ》、その|兄弟《きゃうだい》ピリポはイツリヤ|及《およ》びテラコニテの|地《ち》の|分封《ぶんばう》の|國守《こくしゅ》、ルサニヤはアビレネ|分封《ぶんばう》の|國守《こくしゅ》たり、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]アンナスとカヤパとは|大《だい》|祭司《さいし》たりしとき、|神《かみ》の|言《ことば》、|荒野《あらの》にてザカリヤの|子《こ》ヨハネに|臨《のぞ》む。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]かくてヨルダン|河《がは》の|邊《ほとり》なる|四方《しはう》の|地《ち》にゆき、|罪《つみ》の|赦《ゆるし》を|得《え》さする|悔改《くいあらため》のバプテスマを|宣傳《のべつた》ふ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|預言者《よげんしゃ》イザヤの|言《ことば》の|書《ふみ》に [#ここから2字下げ] 『|荒野《あらの》に|呼《よば》はる|者《もの》の|聲《こゑ》す。 「|主《しゅ》の|道《みち》を|備《そな》へ、その|路《みち》すじを|直《なほ》くせよ。 [#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|諸《もろもろ》の|谷《たに》は|埋《うづ》められ、|諸《もろもろ》の|山《やま》と|岡《をか》とは|平《たひら》げられ、 |曲《まが》りたるは|直《なほ》く、|嶮《けは》しきは|坦《たひら》かなる|路《みち》となり、 [#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》みな|神《かみ》の|救《すくひ》を|見《み》ん」』 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》されたるが|如《ごと》し。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]さてヨハネ、バプテスマを|受《う》けんとて|出《い》できたる|群衆《ぐんじゅう》にいふ『|蝮《まむし》の|裔《すゑ》よ、|誰《た》が|汝《なんぢ》らに、|來《きた》らんとする|御怒《みいかり》を|避《さ》くべき|事《こと》を|示《しめ》したるぞ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]さらば|悔改《くいあらため》に|相應《ふさは》しき|果《み》を|結《むす》べ。なんぢら「|我《われ》らの|父《ちち》にアブラハムあり」と|心《こころ》のうちに|言《い》ひ|始《はじ》むな。|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|神《かみ》はよく|此《これ》らの|石《いし》よりアブラハムの|子《こ》|等《ら》を|起《おこ》し|得給《えたま》ふなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|斧《をの》ははや|樹《き》の|根《ね》に|置《お》かる。されば|凡《すべ》て|善《よ》き|果《み》を|結《むす》ばぬ|樹《き》は、|伐《き》られて|火《ひ》に|投《な》げ|入《い》れらるべし』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》ヨハネに|問《と》ひて|言《い》ふ『さらば|我《われ》ら|何《なに》を|爲《な》すべきか』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『|二《ふた》つの|下衣《したぎ》をもつ|者《もの》は、|有《も》たぬ|者《もの》に|分《わ》け|與《あた》へよ。|食物《しょくもつ》を|有《も》つ|者《もの》もまた|然《しか》せよ』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|取税人《しゅぜいにん》もバプテスマを|受《う》けんとて|來《きた》りて|言《い》ふ『|師《し》よ、|我《われ》ら|何《なに》を|爲《な》すべきか』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『|定《さだま》りたるものの|外《ほか》、なにをも|促《はた》るな』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|兵卒《へいそつ》もまた|問《と》ひて|言《い》ふ『|我《われ》らは|何《なに》を|爲《な》すべきか』|答《こた》へて|言《い》ふ『|人《ひと》を|劫《おびや》かし、また|誣《し》ひ|訴《うった》ふな、|己《おの》が|給料《きふれう》をもて|足《た》れりとせよ』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》、|待《ま》ち|望《のぞ》みゐたれば、みな|心《こころ》の|中《うち》にヨハネをキリストならんかと|論《ろん》ぜしに、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|凡《すべ》ての|人《ひと》に|答《こた》へて|言《い》ふ『|我《われ》は|水《みづ》にて|汝《なんぢ》らにバプテスマを|施《ほどこ》す、されど|我《われ》よりも|能力《ちから》ある|者《もの》きたらん、|我《われ》はその|鞋《くつ》の|紐《ひも》を|解《と》くにも|足《た》らず。|彼《かれ》は|聖《せい》|靈《れい》と|火《ひ》とにて|汝《なんぢ》らにバプテスマを|施《ほどこ》さん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|手《て》には|箕《み》を|持《も》ちたまふ。|禾場《うちば》をきよめ、|麥《むぎ》を|倉《くら》に|納《をさ》めんとてなり。|而《しか》して|殼《から》は|消《き》えぬ|火《ひ》にて|焚《や》きつくさん』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネこの|他《ほか》なほ、さまざまの|勸《すすめ》をなして、|民《たみ》に|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》ふ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|國守《こくしゅ》ヘロデ、その|兄弟《きゃうだい》の|妻《つま》ヘロデヤの|事《こと》につき、|又《また》その|行《おこな》ひたる|凡《すべ》ての|惡《あ》しき|事《こと》につきて、ヨハネに|責《せ》められたれば、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|更《さら》に|復《また》|一《ひと》つの|惡《あ》しき|事《こと》を|加《くは》へて、ヨハネを|獄《ひとや》に|閉《と》ぢこめたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》みなバプテスマを|受《う》けし|時《とき》、イエスもバプテスマを|受《う》けて|祈《いの》りゐ|給《たま》へば、|天《てん》ひらけ、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|聖《せい》|靈《れい》、|形《かたち》をなして|鴿《はと》のごとく|其《そ》の|上《うへ》に|降《くだ》り、かつ|天《てん》より|聲《こゑ》あり、|曰《いは》く『なんぢは|我《わ》が|愛《いつく》しむ|子《こ》なり、|我《われ》なんぢを|悦《よろこ》ぶ』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエスの、|教《をしへ》を|宣《の》べ|始《はじ》め|給《たま》ひしは、|年《とし》おほよそ|三十《さんじふ》の|時《とき》なりき。|人《ひと》にはヨセフの|子《こ》と|思《おも》はれ|給《たま》へり。ヨセフの|父《ちち》はヘリ、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]その|先《さき》はマタテ、レビ、メルキ、ヤンナイ、ヨセフ、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]マタテヤ、アモス、ナホム、エスリ、ナンガイ、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]マハテ、マタテヤ、シメイ、ヨセク、ヨダ、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]ヨハナン、レサ、ゾロバベル、サラテル、ネリ、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]メルキ、アデイ、コサム、エルマダム、エル、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]ヨセ、エリエゼル、ヨリム、マタテ、レビ、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリヤキム、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]メレヤ、メナ、マタタ、ナタン、ダビデ、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]エツサイ、オベデ、ボアズ、サラ、ナアソン、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]アミナダブ、アデミン、アルニ、エスロン、パレス、ユダ、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ、ナホル、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]セルグ、レウ、ペレグ、エベル、サラ、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]カイナン、アルパクサデ、セム、ノア、ラメク、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]メトセラ、エノク、ヤレデ、マハラレル、カイナン、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]エノス、セツ、アダムに|至《いた》る。アダムは|神《かみ》の|子《こ》なり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]さてイエス|聖《せい》|靈《れい》にて|滿《み》ち、ヨルダン|河《がは》より|歸《かへ》り、|荒野《あらの》にて|四十《しじふ》|日《にち》のあひだ|御靈《みたま》に|導《みちび》かれ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|惡魔《あくま》に|試《こころ》みられ|給《たま》ふ。この|間《あひだ》なにをも|食《くら》はず、|日《ひ》|數《かず》|滿《み》ちてのち|餓《う》ゑ|給《たま》ひたれば、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|惡魔《あくま》いふ『なんぢ|若《も》し|神《かみ》の|子《こ》ならば、|此《こ》の|石《いし》に|命《めい》じてパンと|爲《な》らしめよ』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へたまふ『「|人《ひと》の|生《い》くるはパンのみに|由《よ》るにあらず」と|録《しる》されたり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|惡魔《あくま》またイエスを|携《たづさ》へのぼりて、|瞬間《またたくま》に|天下《てんか》のもろもろの|國《くに》を|示《しめ》して|言《い》ふ、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]『この|凡《すべ》ての|權威《けんゐ》と|國々《くにぐに》の|榮華《えいぐわ》とを|汝《なんぢ》に|與《あた》へん。|我《われ》これを|委《ゆだ》ねられたれば、|我《わ》が|欲《ほっ》する|者《もの》に|與《あた》ふるなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》にもし|我《わ》が|前《まへ》に|拜《はい》せば、ことごとく|汝《なんぢ》の|有《もの》となるべし』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『「|主《しゅ》なる|汝《なんぢ》の|神《かみ》を|拜《はい》し、ただ|之《これ》にのみ|事《つか》ふべし」と|録《しる》されたり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|惡魔《あくま》またイエスをエルサレムに|連《つ》れゆき、|宮《みや》の|頂上《いただき》に|立《た》たせて|言《い》ふ『なんぢ|若《も》し|神《かみ》の|子《こ》ならば、|此處《ここ》より|己《おの》が|身《み》を|下《した》に|投《な》げよ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]それは [#ここから2字下げ] 「なんぢの|爲《ため》に|御使《みつかひ》たちに|命《めい》じて|守《まも》らしめ|給《たま》はん」 [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]「かれら|手《て》にて|汝《なんぢ》をささへ、 その|足《あし》を|石《いし》に|打當《うちあ》つる|事《こと》なからしめん」 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》されたるなり』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『「|主《しゅ》なる|汝《なんぢ》の|神《かみ》を|試《こころ》むべからず」と|云《い》ひてあり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|惡魔《あくま》あらゆる|嘗試《こころみ》を|盡《つく》してのち、|暫《しばら》くイエスを|離《はな》れたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|御靈《みたま》の|能力《ちから》をもてガリラヤに|歸《かへ》り|給《たま》へば、その|聲聞《きこえ》あまねく|四方《しはう》の|地《ち》に|弘《ひろま》る。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|諸《しょ》|會堂《くわいだう》にて|教《をしへ》をなし、|凡《すべ》ての|人《ひと》に|崇《あが》められ|給《たま》ふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|偖《さて》その|育《そだ》てられ|給《たま》ひし|處《ところ》のナザレに|到《いた》り、|例《れい》のごとく|安息《あんそく》|日《にち》に|會堂《くわいだう》に|入《い》りて、|聖書《せいしょ》を|讀《よ》まんとて|立《た》ち|給《たま》ひしに、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|預言者《よげんしゃ》イザヤの|書《ふみ》を|與《あた》へたれば、|其《そ》の|書《ふみ》を|繙《ひもと》きて、かく|録《しる》されたる|所《ところ》を|見出《みいだ》し|給《たま》ふ。 [#ここから2字下げ] [#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]『|主《しゅ》の|御靈《みたま》われに|在《いま》す。 これ|我《われ》に|油《あぶら》を|注《そそ》ぎて|貧《まづ》しき|者《もの》に|福音《ふくいん》を|宣《の》べしめ、 |我《われ》をつかはして|囚人《めしうど》に|赦《ゆるし》を|得《う》ることと、 |盲人《めしひ》に|見《み》ゆることとを|告《つ》げしめ、 |壓《おさ》へらるる|者《もの》を|放《はな》ちて|自由《じいう》を|與《あた》へしめ、 [#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|喜《よろこ》ばしき|年《とし》を|宣傳《のべつた》へしめ|給《たま》ふなり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|書《ふみ》を|卷《ま》き、|係《かかり》の|者《もの》に|返《かへ》して|坐《ざ》し|給《たま》へば、|會堂《くわいだう》に|居《を》る|者《もの》みな|之《これ》に|目《め》を|注《そそ》ぐ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|出《い》でたまふ『この|聖書《せいしょ》は|今日《けふ》なんぢらの|耳《みみ》に|成就《じゃうじゅ》したり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》みなイエスを|譽《ほ》め、|又《また》その|口《くち》より|出《い》づる|惠《めぐみ》の|言《ことば》を|怪《あや》しみて|言《い》ふ『これヨセフの|子《こ》ならずや』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|必《かなら》ず|我《われ》に|俚諺《ことわざ》を|引《ひ》きて「|醫者《いしゃ》よ、みづから|己《おのれ》を|醫《いや》せ、カペナウムにて|有《あ》りしといふ|我《われ》らが|聞《き》ける|事《こと》どもを、|己《おの》が|郷《さと》なる|此《こ》の|地《ち》にても|爲《な》せ」と|言《い》はん』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|預言者《よげんしゃ》は|己《おの》が|郷《さと》にて|喜《よろこ》ばるることなし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]われ|實《まこと》をもて|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、エリヤのとき|三年《さんねん》|六个月《ろくかげつ》、|天《てん》とぢて、|全地《ぜんち》|大《おほい》なる|饑饉《ききん》なりしが、イスラエルの|中《うち》に|多《おほ》くの|寡婦《やもめ》ありたれど、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]エリヤは|其《そ》の|一人《ひとり》にすら|遣《つかは》されず、|唯《ただ》シドンなるサレプタの|一人《ひとり》の|寡婦《やもめ》にのみ|遣《つかは》されたり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]また|預言者《よげんしゃ》エリシヤの|時《とき》、イスラエルの|中《うち》に|多《おほ》くの|癩病人《らいびゃうにん》ありしが、|其《そ》の|一人《ひとり》だに|潔《きよ》められず、|唯《ただ》シリヤのナアマンのみ|潔《きよ》められたり』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|會堂《くわいだう》にをる|者《もの》みな|之《これ》を|聞《き》きて|憤恚《いきどほり》に|滿《み》ち、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|起《た》ちてイエスを|町《まち》より|逐《お》ひ|出《いだ》し、その|町《まち》の|建《た》ちたる|山《やま》の|崖《がけ》に|引《ひ》き|往《ゆ》きて、|投《な》げ|落《おと》さんとせしに、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|中《なか》を|通《とほ》りて|去《さ》り|給《たま》ふ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]かくてガリラヤの|町《まち》カペナウムに|下《くだ》りて、|安息《あんそく》|日《にち》ごとに|人《ひと》を|教《をし》へ|給《たま》へば、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》その|教《をしへ》に|驚《をどろ》きあへり。その|言《ことば》、|權威《けんゐ》ありたるに|因《よ》る。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|會堂《くわいだう》に|穢《けが》れし|惡鬼《あくき》の|靈《れい》に|憑《つ》かれたる|人《ひと》あり、|大聲《おほごゑ》に|叫《さけ》びて|言《い》ふ、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]『ああ、ナザレのイエスよ、|我《われ》らは|汝《なんぢ》となにの|關係《かかはり》あらんや。|我《われ》らを|亡《ほろぼ》さんとて|來給《きたま》ふか。|我《われ》はなんぢの|誰《たれ》なるを|知《し》る、|神《かみ》の|聖者《しゃうじゃ》なり』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|禁《いまし》めて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|默《もだ》せ、その|人《ひと》より|出《い》でよ』|惡鬼《あくき》その|人《ひと》を|人々《ひとびと》の|中《なか》に|倒《たふ》し、|傷《きず》つけずして|出《い》づ。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]みな|驚《をどろ》き|語《かた》り|合《あ》ひて|言《い》ふ『これ|如何《いか》なる|言《ことば》ぞ、|權威《けんゐ》と|能力《ちから》とをもて|命《めい》ずれば、|穢《けが》れし|惡鬼《あくき》すら|出《い》で|去《さ》る』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエスの|噂《うはさ》あまねく|四方《しはう》の|地《ち》に|弘《ひろま》りたり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|會堂《くわいだう》を|立《た》ち|出《い》でて、シモンの|家《いへ》に|入《い》り|給《たま》ふ。シモンの|外姑《しうとめ》おもき|熱《ねつ》を|患《わづら》ひ|居《ゐ》たれば、|人々《ひとびと》これが|爲《ため》にイエスに|願《ねが》ふ。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]その|傍《かたは》らに|立《た》ちて|熱《ねつ》を|責《せ》めたまへば、|熱《ねつ》|去《さ》りて|女《をんな》たちどころに|起《お》きて|彼《かれ》らに|事《つか》ふ。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》のいる|時《とき》、さまざまの|病《やまひ》を|患《わづら》ふ|者《もの》をもつ|人《ひと》、みな|之《これ》をイエスに|連《つ》れ|來《きた》れば、|一々《いちいち》その|上《うへ》に|手《て》を|置《お》きて|醫《いや》し|給《たま》ふ。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|惡鬼《あくき》もまた|多《おほ》くの|人《ひと》より|出《い》でて|叫《さけ》びつつ|言《い》ふ『なんぢは|神《かみ》の|子《こ》なり』|之《これ》を|責《せ》めて|物《もの》|言《い》ふことを|免《ゆる》し|給《たま》はず、|惡鬼《あくき》そのキリストなるを|知《し》るに|因《よ》りてなり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|朝《あさ》イエス|出《い》でて|寂《さび》しき|處《ところ》にゆき|給《たま》ひしが、|群衆《ぐんじゅう》たづねて|御許《みもと》に|到《いた》り、その|去《さ》り|往《ゆ》くことを|止《と》めんとせしに、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|又《また》ほかの|町々《まちまち》にも|神《かみ》の|國《くに》の|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へざるを|得《え》ず、わが|遣《つかは》されしは|之《これ》が|爲《ため》なり』[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]かくてユダヤの|諸《しょ》|會堂《くわいだう》にて|教《をしへ》を|宣《の》べたまふ。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》おし|迫《せま》りて|神《かみ》の|言《ことば》を|聽《き》きをる|時《とき》、イエス、ゲネサレの|湖《みづうみ》のほとりに|立《た》ちて、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|渚《なぎさ》に|二《に》|艘《さう》の|舟《ふね》の|寄《よ》せあるを|見《み》たまふ、|漁人《すなどりびと》は|舟《ふね》をいでて|網《あみ》を|洗《あら》ひ|居《ゐ》たり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|一艘《いっさう》なるシモンの|舟《ふね》に|乘《の》り、|彼《かれ》に|請《こ》ひて|陸《をか》より|少《こ》しく|押《お》し|出《いだ》さしめ、|坐《ざ》して|舟《ふね》の|中《うち》より|群衆《ぐんじゅう》を|教《をし》へたまふ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|語《かた》り|終《を》へてシモンに|言《い》ひたまふ『|深處《ふかみ》に|乘《の》りいだし、|網《あみ》を|下《おろ》して|漁《すなど》れ』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]シモン|答《こた》へて|言《い》ふ『|君《きみ》よ、われら|終夜《よもすがら》|勞《らう》したるに、|何《なに》をも|得《え》ざりき、されど|御言《みことば》に|隨《したが》ひて|網《あみ》を|下《おろ》さん』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|然《しか》せしに、|魚《うを》の|夥多《おびただ》しき|群《むれ》を|圍《かこ》みて、|網《あみ》|裂《さ》けかかりたれば、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|一艘《いっさう》の|舟《ふね》にをる|組《くみ》の|者《もの》を|差招《さしまね》きて|來《きた》り|助《たす》けしむ。|來《きた》りて|魚《うを》を|二《に》|艘《さう》の|舟《ふね》に|滿《みた》したれば、|舟《ふね》|沈《しづ》まんばかりになりぬ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|之《これ》を|見《み》て、イエスの|膝《ひざ》|下《した》に|平伏《ひれふ》して|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》を|去《さ》りたまへ。|我《われ》は|罪《つみ》ある|者《もの》なり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]これはシモンも|偕《とも》に|居《を》る|者《もの》もみな、|漁《すなど》りし|魚《うを》の|夥多《おびただ》しきに|驚《をどろ》きたるなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]ゼベダイの|子《こ》にしてシモンの|侶《とも》なるヤコブもヨハネも|同《おな》じく|驚《をどろ》けり。イエス、シモンに|言《い》ひたまふ『|懼《おそ》るな、なんぢ|今《いま》よりのち|人《ひと》を|漁《すなど》らん』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かれら|舟《ふね》を|陸《をか》につけ、|一切《いっさい》を|棄《す》ててイエスに|從《したが》へり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|或《ある》|町《まち》に|居給《ゐたま》ふとき、|視《み》よ、|全身《ぜんしん》|癩病《らいびゃう》をわづらふ|者《もの》あり。イエスを|見《み》て|平伏《ひれふ》し、|願《ねが》ひて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|御意《みこころ》ならば、|我《われ》を|潔《きよ》くなし|給《たま》ふを|得《え》ん』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|手《て》をのべ|彼《かれ》につけて『わが|意《こころ》なり、|潔《きよ》くなれ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|直《ただ》ちに|癩病《らいびゃう》されり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|誰《たれ》にも|語《かた》らぬやうに|命《めい》じ、かつ|言《い》ひ|給《たま》ふ『ただ|往《ゆ》きて|己《おのれ》を|祭司《さいし》に|見《み》せ、モーセが|命《めい》じたるごとく|汝《なんぢ》の|潔《きよめ》のために|献物《ささげもの》して、|人々《ひとびと》に|證《あかし》せよ』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されど|彌《いや》|増々《ますます》イエスの|事《こと》ひろまりて、|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》、あるひは|教《をしへ》を|聽《き》かんとし、|或《あるひ》は|病《やまひ》を|醫《いや》されんとして|集《あつま》り|來《きた》りしが、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|寂《さび》しき|處《ところ》に|退《しりぞ》きて|祈《いの》り|給《たま》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|日《ひ》イエス|教《をしへ》をなし|給《たま》ふとき、ガリラヤの|村々《むらむら》、ユダヤ|及《およ》びエルサレムより|來《きた》りしパリサイ|人《びと》、|教法《けうほふ》|學者《がくしゃ》ら、そこに|坐《ざ》しゐたり。|病《やまひ》を|醫《いや》すべき|主《しゅ》の|能力《ちから》イエスと|偕《とも》にありき。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|人々《ひとびと》、|中風《ちゅうぶ》を|病《や》める|者《もの》を、|床《とこ》にのせて|擔《にな》ひきたり、|之《これ》を|家《いへ》に|入《い》れて、イエスの|前《まへ》に|置《お》かんとすれど、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》によりて|擔《にな》ひ|入《い》るべき|道《みち》を|得《え》ざれば、|屋根《やね》にのぼり、|瓦《かはら》を|取《と》り|除《の》けて、|床《とこ》のまま|人々《ひとびと》の|中《なか》に、イエスの|前《まへ》につり|縋《つ》り|下《おろ》せり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らの|信仰《しんかう》を|見《み》て|言《い》ひたまふ『|人《ひと》よ、|汝《なんぢ》の|罪《つみ》ゆるされたり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ここに|學者《がくしゃ》・パリサイ|人《びと》ら|論《ろん》じ|出《い》でて|言《い》ふ『|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]言《けがしごと》をいふ|此《こ》の|人《ひと》は|誰《たれ》ぞ、|神《かみ》より|他《ほか》に|誰《たれ》か|罪《つみ》を|赦《ゆる》すことを|得《う》べき』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らの|論《ろん》ずる|事《こと》をさとり、|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なにを|心《こころ》のうちに|論《ろん》ずるか。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]「なんぢの|罪《つみ》ゆるされたり」と|言《い》ふと「|起《お》きて|歩《あゆ》め」と|言《い》ふと|孰《いづれ》か|易《やす》き、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》の|地《ち》にて|罪《つみ》をゆるす|權威《けんゐ》あることを|汝《なんぢ》らに|知《し》らせん|爲《ため》に』――|中風《ちゅうぶ》を|病《や》める|者《もの》に|言《い》ひ|給《たま》ふ――『なんぢに|告《つ》ぐ、|起《お》きよ、|床《とこ》をとりて|家《いへ》に|往《ゆ》け』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]かれ|立刻《たちどころ》に|人々《ひとびと》の|前《まへ》にて|起《お》きあがり、|臥《ふ》しゐたる|床《とこ》をとりあげ、|神《かみ》を|崇《あが》めつつ|己《おの》が|家《いへ》に|歸《かへ》りたり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》みな|甚《いた》く|驚《をどろ》きて|神《かみ》をあがめ|懼《おそれ》に|滿《み》ちて|言《い》ふ『|今日《けふ》われら|珍《めづら》しき|事《こと》を|見《み》たり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》の|後《のち》イエス|出《い》でて、レビといふ|取税人《しゅぜいにん》の|收税所《しうぜいしょ》に|坐《ざ》しをるを|見《み》て『われに|從《したが》へ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|一切《いっさい》を|棄《す》ておき、|起《た》ちて|從《したが》へり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]レビ|己《おの》が|家《いへ》にて、イエスの|爲《ため》に|大《おほい》なる|饗宴《ふるまひ》を|設《まう》けしに、|取税人《しゅぜいにん》および|他《ほか》の|人々《ひとびと》も|多《おほ》く|食事《しょくじ》の|席《せき》に|列《つらな》りゐたれば、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》および|其《そ》の|曹輩《ともがら》の|學者《がくしゃ》ら、イエスの|弟子《でし》たちに|向《むか》ひ、|呟《つぶや》きて|言《い》ふ『なにゆゑ|汝《なんぢ》らは|取税人《しゅぜいにん》・|罪人《つみびと》らと|共《とも》に|飮食《のみくひ》するか』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|健康《けんかう》なる|者《もの》は|醫者《いしゃ》を|要《えう》せず、ただ|病《やまひ》ある|者《もの》これを|要《えう》す。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|正《ただ》しき|者《もの》を|招《まね》かんとにあらで、|罪人《つみびと》を|招《まね》きて|悔改《くいあらた》めさせんとて|來《きた》れり』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らイエスに|言《い》ふ『ヨハネの|弟子《でし》たちは、しばしば|斷食《だんじき》し|祈祷《きたう》し、パリサイ|人《びと》の|弟子《でし》たちも|亦《また》|然《しか》するに、|汝《なんぢ》の|弟子《でし》たちは|飮食《のみくひ》するなり』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|新郎《はなむこ》の|友《とも》だち|新郎《はなむこ》と|偕《とも》にをるうちは、|彼《かれ》らに|斷食《だんじき》せしめ|得《え》んや。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]されど|日《ひ》|來《きた》りて|新郎《はなむこ》をとられん、その|日《ひ》には|斷食《だんじき》せん』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]イエスまた|譬《たとへ》を|言《い》ひ|給《たま》ふ『たれも|新《あたら》しき|衣《ころも》を|切《き》り|取《と》りて、|舊《ふる》き|衣《ころも》を|繕《つくろ》ふ|者《もの》はあらじ。もし|然《しか》せば、|新《あたら》しきものも|破《やぶ》れ、かつ|新《あたら》しきものより|取《と》りたる|裂《きれ》も|舊《ふる》きものに|合《あ》はじ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|新《あたら》しき|葡萄酒《ぶだうしゅ》を、ふるき|革嚢《かはぶくろ》に|入《い》るることは|爲《せ》じ。もし|然《しか》せば、|葡萄酒《ぶだうしゅ》は|嚢《ふくろ》をはりさき|漏《も》れ|出《い》でて、|嚢《ふくろ》も|廢《すた》らん。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|新《あたら》しき|葡萄酒《ぶだうしゅ》は、|新《あたら》しき|革嚢《かはぶくろ》に|入《い》るべきなり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|舊《ふる》き|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|飮《の》みてのち、|新《あたら》しき|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|望《のぞ》む|者《もの》はあらじ。「|舊《ふる》きは|善《よ》し」と|云《い》へばなり』 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|安息《あんそく》|日《にち》に|麥《むぎ》|畠《はたけ》を|過《す》ぎ|給《たま》ふとき、|弟子《でし》たち|穗《ほ》を|摘《つ》み、|手《て》にて|揉《も》みつつ|食《くら》ひたれば、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》のうち|或《ある》|者《もの》ども|言《い》ふ『なんぢらは|何《なに》ゆゑ|安息《あんそく》|日《にち》に|爲《す》まじき|事《こと》をするか』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『ダビデその|伴《ともな》へる|人々《ひとびと》とともに|飢《う》ゑしとき、|爲《な》しし|事《こと》をすら|讀《よ》まぬか。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|神《かみ》の|家《いへ》に|入《い》りて、|祭司《さいし》の|他《ほか》は|食《くら》ふまじき|供《そなへ》のパンを|取《と》りて|食《くら》ひ、|己《おのれ》と|偕《とも》なる|者《もの》にも|與《あた》へたり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひたまふ『|人《ひと》の|子《こ》は|安息《あんそく》|日《にち》の|主《しゅ》たるなり』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》ほかの|安息《あんそく》|日《にち》に、イエス|會堂《くわいだう》に|入《い》りて|教《をしへ》をなし|給《たま》ひしに、|此處《ここ》に|人《ひと》あり、|其《そ》の|右《みぎ》の|手《て》なえたり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|學者《がくしゃ》・パリサイ|人《びと》ら、イエスを|訴《うった》ふる|廉《かど》を|見出《みいだ》さんと|思《おも》ひて、|安息《あんそく》|日《にち》に|人《ひと》を|醫《いや》すや|否《いな》やを|窺《うかが》ふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らの|念《おもひ》を|知《し》りて、|手《て》なえたる|人《ひと》に『|起《お》きて|中《なか》に|立《た》て』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|起《お》きて|立《た》てり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|汝《なんぢ》らに|問《と》はん、|安息《あんそく》|日《にち》に|善《ぜん》をなすと|惡《あく》をなすと、|生命《いのち》を|救《すく》ふと|亡《ほろび》すと、|孰《いづれ》かよき』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|一同《いちどう》を|見《み》まはして、|手《て》なえたる|人《ひと》に『なんぢの|手《て》を|伸《の》べよ』と|言《い》ひ|給《たま》ふ。かれ|然《しか》なしたれば、その|手《て》|癒《い》ゆ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|彼《かれ》ら|狂氣《きゃうき》の|如《ごと》くなりて、イエスに|何《なに》をなさんと|語《かた》り|合《あ》へり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》イエス|祈《いの》らんとて|山《やま》にゆき、|神《かみ》に|祈《いの》りつつ|夜《よ》を|明《あか》したまふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあけ》になりて|弟子《でし》たちを|呼《よ》び|寄《よ》せ、その|中《うち》より|十二《じふに》|人《にん》を|選《えら》びて、|之《これ》を|使徒《しと》と|名《な》づけたまふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ちペテロと|名《な》づけ|給《たま》ひしシモンと|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》アンデレと、ヤコブとヨハネと、ピリポとバルトロマイと、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]マタイとトマスと、アルパヨの|子《こ》ヤコブと|熱心《ねっしん》|黨《たう》と|呼《よ》ばるるシモンと、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ヤコブの|子《こ》ユダとイスカリオテのユダとなり。このユダはイエスを|賣《う》る|者《もの》となりたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此《これ》|等《ら》とともに|下《くだ》りて、|平《たひら》かなる|處《ところ》に|立《た》ち|給《たま》ひしに、|弟子《でし》の|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》、およびユダヤ|全國《ぜんこく》、エルサレム|又《また》ツロ、シドンの|海邊《うみべ》より|來《きた》りて、|或《あるひ》は|教《をしへ》を|聽《き》かんとし、|或《あるひ》は|病《やまひ》を|醫《いや》されんとする|民《たみ》の|大《おほい》なる|群《むれ》も、そこにあり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|穢《けが》れし|靈《れい》に|惱《なやま》されたる|者《もの》も|醫《いや》される。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|能力《ちから》イエスより|出《い》でて、|凡《すべ》ての|人《ひと》を|醫《いや》せば、|群衆《ぐんじゅう》みなイエスに|觸《さは》らん|事《こと》を|求《もと》む。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|目《め》をあげ|弟子《でし》たちを|見《み》て|言《い》ひたまふ『|幸福《さいはひ》なるかな、|貧《まづ》しき|者《もの》よ、|神《かみ》の|國《くに》は|汝《なんぢ》らの|有《もの》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なる|哉《かな》、いま|飢《う》うる|者《もの》よ、|汝《なんぢ》ら|飽《あ》くことを|得《え》ん。|幸福《さいはひ》なる|哉《かな》、いま|泣《な》く|者《もの》よ、|汝《なんぢ》ら|笑《わら》ふことを|得《え》ん。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》なんぢらを|憎《にく》み、|人《ひと》の|子《こ》のために|遠《とほ》ざけ、|謗《そし》り、|汝《なんぢ》らの|名《な》を|惡《あ》しとして|棄《す》てなば、|汝《なんぢ》ら|幸福《さいはひ》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》には|喜《よろこ》び|躍《をど》れ。|視《み》よ、|天《てん》にて|汝《なんぢ》らの|報《むくい》は|大《おほい》なり、|彼《かれ》らの|先祖《せんぞ》が|預言者《よげんしゃ》たちに|爲《な》ししも|斯《か》くありき。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]されど|禍害《わざはひ》なるかな、|富《と》む|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らは|既《すで》にその|慰安《なぐさめ》を|受《う》けたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なる|哉《かな》、いま|飽《あ》く|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らは|飢《う》ゑん。|禍害《わざはひ》なる|哉《かな》、いま|笑《わら》ふ|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らは、|悲《かな》しみ|泣《な》かん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》、なんぢらを|譽《ほ》めなば、|汝《なんぢ》ら|禍害《わざはひ》なり。|彼《かれ》らの|先祖《せんぞ》が|虚僞《いつはり》の|預言者《よげんしゃ》たちに|爲《な》ししも|斯《か》くありき。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]われ|更《さら》に|汝《なんぢ》ら|聽《き》くものに|告《つ》ぐ、なんじらの|仇《あた》を|愛《あい》し、|汝《なんぢ》らを|憎《にく》む|者《もの》を|善《よ》くし、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らを|詛《のろ》ふ|者《もの》を|祝《しく》し、|汝《なんぢ》らを|辱《はづか》しむる|者《もの》のために|祈《いの》れ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|頬《ほほ》を|打《う》つ|者《もの》には、|他《ほか》の|頬《ほほ》をも|向《む》けよ。なんぢの|上衣《うはぎ》を|取《と》る|者《もの》には|下衣《したぎ》をも|拒《こば》むな。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]すべて|求《もと》むる|者《もの》に|與《あた》へ、なんぢの|物《もの》を|奪《うば》ふ|者《もの》に|復《また》|索《もと》むな。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|人《ひと》に|爲《せ》られんと|思《おも》ふごとく、|人《ひと》にも|然《しか》せよ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|己《おのれ》を|愛《あい》する|者《もの》を|愛《あい》せばとて、|何《なに》の|嘉《よみ》すべき|事《こと》あらん、|罪人《つみびと》にても|己《おのれ》を|愛《あい》する|者《もの》を|愛《あい》するなり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》おのれに|善《ぜん》をなす|者《もの》に|善《ぜん》を|爲《な》すとも、|何《なに》の|嘉《よみ》すべき|事《こと》あらん、|罪人《つみびと》にても|然《しか》するなり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|得《う》る|事《こと》あらんと|思《おも》ひて|人《ひと》に|貸《か》すとも、|何《なに》の|嘉《よみ》すべき|事《こと》あらん、|罪人《つみびと》にても|均《ひと》しきものを|受《う》けんとて|罪人《つみびと》に|貸《か》すなり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|仇《あた》を|愛《あい》し、|善《ぜん》をなし、|何《なに》をも|求《もと》めずして|貸《か》せ、さらば、その|報《むくい》は|大《おほい》ならん。かつ|至高者《いとたかきもの》の|子《こ》たるべし。|至高者《いとたかきもの》は、|恩《おん》を|知《し》らぬもの|惡《あ》しき|者《もの》にも、|仁慈《なさけ》あるなり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|父《ちち》の|慈悲《じひ》なるごとく、|汝《なんぢ》らも|慈悲《じひ》なれ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》を|審《さば》くな、さらば|汝《なんぢ》らも|審《さば》かるる|事《こと》あらじ。|人《ひと》を|罪《つみ》に|定《さだ》むな、さらば、|汝《なんぢ》らも|罪《つみ》に|定《さだ》めらるる|事《こと》あらじ。|人《ひと》を|赦《ゆる》せ、さらば|汝《なんぢ》らも|赦《ゆる》されん。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》に|與《あた》へよ、さらば|汝《なんぢ》らも|與《あた》へられん。|人《ひと》は|量《はかり》をよくし、|押《お》し|入《い》れ、|搖《ゆす》り|入《い》れ、|溢《あふ》るるまでにして、|汝《なんぢ》らの|懷中《ふところ》に|入《い》れん。|汝《なんぢ》|等《ら》おのが|量《はか》る|量《はかり》にて|量《はか》らるべし』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]また|譬《たとへ》にて|言《い》ひたまふ『|盲人《めしひ》は|盲人《めしひ》を|手引《てびき》するを|得《え》んや。|二人《ふたり》とも|穴《あな》に|落《お》ちざらんや。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》はその|師《し》に|勝《まさ》らず、|凡《おほよ》そ|全《まった》うせられたる|者《もの》は、その|師《し》の|如《ごと》くならん。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|何《なに》ゆゑ|兄弟《きゃうだい》の|目《め》にある|塵《ちり》を|見《み》て、|己《おの》が|目《め》にある|梁木《うつばり》を|認《みと》めぬか。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]おのが|目《め》にある|梁木《うつばり》を|見《み》ずして、|爭《いか》で|兄弟《きゃうだい》に|向《むか》ひて「|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》の|目《め》にある|塵《ちり》を|取《と》り|除《のぞ》かせよ」といふを|得《え》んや。|僞善者《ぎぜんしゃ》よ、|先《ま》づ|己《おの》が|目《め》より|梁木《うつばり》を|取《と》り|除《のぞ》け。さらば|明《あきら》かに|見《み》えて、|兄弟《きゃうだい》の|目《め》にある|塵《ちり》を|取《と》りのぞき|得《え》ん。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|惡《あ》しき|果《み》を|結《むす》ぶ|善《よ》き|樹《き》はなく、また|善《よ》き|果《み》を|結《むす》ぶ|惡《あ》しき|樹《き》はなし。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|樹《き》はおのおの|其《そ》の|果《み》によりて|知《し》らる。|茨《いばら》より|無花果《いちぢく》を|取《と》らず、|野荊《のばら》より|葡萄《ぶだう》を|收《をさ》めざるなり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|善《よ》き|人《ひと》は|心《こころ》の|善《よ》き|倉《くら》より|善《よ》きものを|出《いだ》し、|惡《あ》しき|人《ひと》は|惡《あ》しき|倉《くら》より|惡《あ》しき|物《もの》を|出《いだ》す。それ|心《こころ》に|滿《み》つるより、|口《くち》は|物《もの》|言《い》ふなり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|我《われ》を「|主《しゅ》よ|主《しゅ》よ」と|呼《よ》びつつ、|何《なに》ぞ|我《わ》が|言《い》ふことを|行《おこな》はぬか。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|我《われ》にきたり|我《わ》が|言《ことば》を|聽《き》きて|行《おこな》ふ|者《もの》は、|如何《いか》なる|人《ひと》に|似《に》たるかを|示《しめ》さん。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|家《いへ》を|建《た》つるに、|地《ち》を|深《ふか》く|掘《ほ》り|岩《いは》の|上《うへ》に|基《もとゐ》を|据《す》ゑたる|人《ひと》のごとし。|洪水《おほみづ》いでて|流《ながれ》その|家《いへ》を|衝《つ》けども|動《うご》かすこと|能《あた》はず、これ|固《かた》く|建《た》てられたる|故《ゆゑ》なり。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]されど|聽《き》きて|行《おこな》はぬ|者《もの》は、|基《もとゐ》なくして|家《いへ》を|土《つち》の|上《うへ》に|建《た》てたる|人《ひと》のごとし。|流《ながれ》その|家《いへ》を|衝《つ》けば、|直《ただ》ちに|崩《くづ》れて、その|破壞《やぶれ》はなはだし』 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|凡《すべ》て|此《これ》らの|言《ことば》を|民《たみ》に|聞《き》かせ|終《を》へて|後《のち》、カペナウムに|入《い》り|給《たま》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》に|或《ある》|百卒長《ひゃくそつちゃう》、その|重《おも》んずる|僕《しもべ》やみて|死《し》ぬばかりなりしかば、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|事《こと》を|聽《き》きて、ユダヤ|人《びと》の|長老《ちゃうらう》たちを|遣《つかは》し、|來《きた》りて|僕《しもべ》を|救《すく》ひ|給《たま》はんことを|願《ねが》ふ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らイエスの|許《もと》にいたり、|切《せつ》に|請《こ》ひて|言《い》ふ『かの|人《ひと》は|此《こ》の|事《こと》を|爲《せ》らるるに|相應《ふさは》し。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]わが|國人《くにびと》を|愛《あい》し、|我《われ》らのために|會堂《くわいだう》を|建《た》てたり』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|共《とも》に|往《ゆ》き|給《たま》ひて、その|家《いへ》はや|程《ほど》|近《ちか》くなりしとき、|百卒長《ひゃくそつちゃう》、|數人《すにん》の|友《とも》を|遣《つかは》して|言《い》はしむ『|主《しゅ》よ、|自《みづか》らを|煩《わづら》はし|給《たま》ふな。|我《われ》は|汝《なんぢ》をわが|屋根《やね》の|下《した》に|入《い》れまつるに|足《た》らぬ|者《もの》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されば|御前《みまへ》に|出《い》づるにも|相應《ふさは》しからずと|思《おも》へり、ただ|御言《みことば》を|賜《たま》ひて|我《わ》が|僕《しもべ》をいやし|給《たま》へ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》みづから|權威《けんゐ》の|下《した》に|置《お》かるる|者《もの》なるに、|我《わ》が|下《した》にまた|兵卒《へいそつ》ありて、|此《これ》に「|往《ゆ》け」と|言《い》へば|往《ゆ》き、|彼《かれ》に「|來《きた》れ」と|言《い》へば|來《きた》り、わが|僕《しもべ》に「これを|爲《な》せ」と|言《い》へば|爲《な》すなり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|聞《き》きて|彼《かれ》を|怪《あや》しみ、|振反《ふりかへ》りて|從《したが》ふ|群衆《ぐんじゅう》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、イスラエルの|中《うち》にだに|斯《か》かるあつき|信仰《しんかう》は|見《み》しことなし』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|遣《つかは》されたる|者《もの》ども|家《いへ》に|歸《かへ》りて|僕《しもべ》を|見《み》れば、|既《すで》に|健康《けんかう》となれり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|後《のち》イエス、ナインといふ|町《まち》にゆき|給《たま》ひしに、|弟子《でし》たち|及《およ》び|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》も|共《とも》に|往《ゆ》く。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|町《まち》の|門《もん》に|近《ちか》づき|給《たま》ふとき、|視《み》よ、|舁《か》き|出《いだ》さるる|死人《しにん》あり。これは|獨《ひとり》|息子《むすこ》にて|母《はは》は|寡婦《やもめ》なり、|町《まち》の|多《おほ》くの|人々《ひとびと》これに|伴《ともな》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》、|寡婦《やもめ》を|見《み》て|憫《あはれ》み『|泣《な》くな』と|言《い》ひて、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|近《ちか》より、|柩《ひつぎ》に|手《て》をつけ|給《たま》へば、|舁《か》くもの|立《た》ち|止《とどま》る。イエス|言《い》ひたまふ『|若者《わかもの》よ、|我《われ》なんぢに|言《い》ふ、|起《お》きよ』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|死人《しにん》、|起《お》きかへりて|物《もの》|言《い》ひ|始《はじ》む。イエス|之《これ》を|母《はは》に|付《わた》したまふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》みな|懼《おそれ》をいだき、|神《かみ》を|崇《あが》めて|言《い》ふ『|大《おほい》なる|預言者《よげんしゃ》われらの|中《うち》に|興《おこ》れり』また|言《い》ふ『|神《かみ》その|民《たみ》を|顧《かへり》み|給《たま》へり』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》ユダヤ|全國《ぜんこく》および|最寄《もより》の|地《ち》に|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》くひろまりぬ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|偖《さて》ヨハネの|弟子《でし》たち、|凡《すべ》て|此《これ》|等《ら》のことを|告《つ》げたれば、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|兩《りゃう》|三人《さんにん》の|弟子《でし》を|呼《よ》び、|主《しゅ》に|遣《つかは》して|言《い》はしむ『|來《きた》るべき|者《もの》は|汝《なんぢ》なるか、|或《あるひ》は|他《ほか》に|待《ま》つべきか』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|御許《みもと》に|到《いた》りて|言《い》ふ『バプテスマのヨハネ、|我《われ》らを|遣《つかは》して|言《い》はしむ「|來《きた》るべき|者《もの》は|汝《なんぢ》なるか、|或《あるひ》は|他《ほか》に|待《ま》つべきか」』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]この|時《とき》イエス|多《おほ》くの|者《もの》の|病《やまひ》・|疾患《わずらひ》を|醫《いや》し、|惡《あ》しき|靈《れい》を|逐《お》ひいだし、|又《また》おほくの|盲人《めしひ》に|見《み》ることを|得《え》しめ|給《たま》ひしが、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|往《ゆ》きて|汝《なんぢ》らが|見《み》|聞《きき》せし|所《ところ》をヨハネに|告《つ》げよ。|盲人《めしひ》は|見《み》、|跛者《あしなへ》はあゆみ、|癩病人《らいびゃうにん》は|潔《きよ》められ、|聾者《みみしひ》はきき、|死人《しにん》は|甦《よみが》へらせられ、|貧《まづ》しき|者《もの》は|福音《ふくいん》を|聞《き》かせらる。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|我《われ》に|躓《つまづ》かぬ|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネの|使《つかひ》の|去《さ》りたる|後《のち》、ヨハネの|事《こと》を|群衆《ぐんじゅう》に|言《い》ひいで|給《たま》ふ『なんぢら|何《なに》を|眺《なが》めんとて|野《の》に|出《い》でし、|風《かぜ》にそよぐ|葦《あし》なるか。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]さらば|何《なに》を|見《み》んとて|出《い》でし、|柔《やはら》かき|衣《ころも》を|著《き》たる|人《ひと》なるか。|視《み》よ、|華美《はなやか》なる|衣《ころも》をきて|奢《おご》り|暮《くれ》す|者《もの》は|王宮《わうきう》に|在《あ》り。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]さらば|何《なに》を|見《み》んとて|出《い》でし、|預言者《よげんしゃ》なるか。|然《しか》り、|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|預言者《よげんしゃ》よりも|勝《まさ》る|者《もの》なり。 [#ここから2字下げ] [#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]「|視《み》よ、わが|使《つかひ》を|汝《なんぢ》の|顏《かほ》の|前《まへ》につかはす。 かれは|汝《なんぢ》の|前《まへ》になんじの|道《みち》をそなへん」 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》されたるは|此《こ》の|人《ひと》なり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|女《をんな》の|産《う》みたる|者《もの》の|中《うち》、ヨハネより|大《おほい》なる|者《もの》はなし。されど|神《かみ》の|國《くに》にて|小《ちひさ》き|者《もの》も、|彼《かれ》よりは|大《おほい》なり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり](|凡《すべ》ての|民《たみ》これを|聞《き》きて、|取税人《しゅぜいにん》までも|神《かみ》を|正《ただ》しとせり。ヨハネのバプテスマを|受《う》けたるによる。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]されどパリサイ|人《びと》・|教法師《けうほふし》らは、|其《そ》のバプテスマを|受《う》けざりしにより、|各自《おのおの》にかかはる|神《かみ》の|御旨《みむね》をこばみたり)[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]さればわれ|今《いま》の|代《よ》の|人《ひと》を|何《なに》に|比《なずら》へん。|彼《かれ》らは|何《なに》に|似《に》たるか。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは、|童《わらべ》|市場《いちば》に|坐《ざ》し、たがひに|呼《よ》びて「われら|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|笛《ふえ》|吹《ふ》きたれど、|汝《なんぢ》ら|躍《をど》らず。|歎《なげ》きたれど、|汝《なんぢ》ら|泣《な》かざりき」と|云《い》ふに|似《に》たり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]それはバプテスマのヨハネ|來《きた》りて、パンをも|食《くら》はず|葡萄酒《ぶだうしゅ》をも|飮《の》まねば、「|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|者《もの》なり」と|汝《なんぢ》ら|言《い》ひ、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》きたりて|飮食《のみくひ》すれば「|視《み》よ、|食《しょく》を|貪《むさぼ》り、|酒《さけ》を|好《この》む|人《ひと》、また|取税人《しゅぜいにん》・|罪人《つみびと》の|友《とも》なり」と|汝《なんぢ》ら|言《い》ふなり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]されど|智慧《ちゑ》は|己《おの》が|凡《すべ》ての|子《こ》によりて|正《ただ》しとせらる』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]ここに|或《ある》パリサイ|人《びと》ともに|食《しょく》せん|事《こと》をイエスに|請《こ》ひたれば、パリサイ|人《びと》の|家《いへ》に|入《い》りて、|席《せき》につき|給《たま》ふ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、この|町《まち》に|罪《つみ》ある|一人《ひとり》の|女《をんな》あり。イエスのパリサイ|人《びと》の|家《いへ》にて|食事《しょくじ》の|席《せき》にゐ|給《たま》ふを|知《し》り、|香《にほひ》|油《あぶら》の|入《い》りたる|石膏《せきかう》の|壺《つぼ》を|持《も》ちきたり、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|泣《な》きつつ|御足《みあし》|近《ちか》く|後《うしろ》にたち、|涙《なみだ》にて|御足《みあし》をうるほし、|頭《かしら》の|髮《け》にて|之《これ》を|拭《ぬぐ》ひ、また|御足《みあし》に|接吻《くちつけ》して|香《にほひ》|油《あぶら》を|抹《ぬ》れり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]イエスを|招《まね》きたるパリサイ|人《びと》これを|見《み》て、|心《こころ》のうちに|言《い》ふ『この|人《ひと》もし|預言者《よげんしゃ》ならば、|觸《ふ》る|者《もの》の|誰《たれ》、|如何《いか》なる|女《をんな》なるかを|知《し》らん、|彼《かれ》は|罪人《つみびと》なるに』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『シモン、|我《われ》なんぢに|言《い》ふことあり』シモンいふ『|師《し》よ、|言《い》ひたまへ』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]『|或《ある》|債主《かしぬし》に|二人《ふたり》の|負債者《ふさいしゃ》ありて、|一人《ひとり》はデナリ|五《ご》|百《ひゃく》、|一人《ひとり》は|五《ご》|十《じふ》の|負債《おひめ》せしに、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|償《つくの》ひかたなければ、|債主《かしぬし》この|二人《ふたり》を|共《とも》に|免《ゆる》せり。されば|二人《ふたり》のうち|債主《かしぬし》を|愛《あい》すること|孰《いづれ》か|多《おほ》き』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]シモン|答《こた》へて|言《い》ふ『われ|思《おも》ふに、|多《おほ》く|免《ゆる》されたる|者《もの》ならん』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|判斷《はんだん》は|當《あた》れり』[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|女《をんな》の|方《かた》に|振向《ふりむ》きてシモンに|言《い》ひ|給《たま》ふ『この|女《をんな》を|見《み》るか。|我《われ》なんぢの|家《いへ》に|入《い》りしに、なんぢは|我《われ》に|足《あし》の|水《みづ》を|與《あた》へず、|此《こ》の|女《をんな》は|涙《なみだ》にて|我《われ》|足《あし》を|濡《ぬら》し、|頭髮《かみのけ》にて|拭《ぬぐ》へり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢは|我《われ》に|接吻《くちつけ》せず、|此《こ》の|女《をんな》は|我《わ》が|入《い》りし|時《とき》より、|我《わ》が|足《あし》に|接吻《くちつけ》して|止《や》まず。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢは|我《わ》が|頭《かしら》に|油《あぶら》を|抹《ぬ》らず、|此《こ》の|女《をんな》は|我《わ》が|足《あし》に|香《にほひ》|油《あぶら》を|抹《ぬ》れり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》なんぢに|告《つ》ぐ、この|女《をんな》の|多《おほ》くの|罪《つみ》は|赦《ゆる》されたり。その|愛《あい》すること|大《おほい》なればなり。|赦《ゆる》さるる|事《こと》の|少《すくな》き|者《もの》は、その|愛《あい》する|事《こと》もまた|少《すくな》し』[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|女《をんな》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|罪《つみ》は|赦《ゆる》されたり』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|同席《どうせき》の|者《もの》ども|心《こころ》の|内《うち》に『|罪《つみ》をも|赦《ゆる》す|此《こ》の|人《ひと》は|誰《たれ》なるか』と|言《い》ひ|出《い》づ。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|女《をんな》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|信仰《しんかう》なんぢを|救《すく》へり、|安《やす》らかに|往《ゆ》け』 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》イエス|教《をしへ》を|宣《の》べ、|神《かみ》の|國《くに》の|福音《ふくいん》を|傳《つた》へつつ、|町々《まちまち》|村々《むらむら》を|廻《まは》り|給《たま》ひしに、|十二《じふに》|弟子《でし》も|伴《ともな》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]また|前《さき》に|惡《あ》しき|靈《れい》を|逐《お》ひ|出《いだ》され、|病《やまひ》を|醫《いや》されなどせし|女《をんな》たち、|即《すなは》ち|七《なな》つの|惡鬼《あくき》のいでしマグラダと|呼《よ》ばるるマリヤ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデの|家《いへ》|司《つかさ》クーザの|妻《つま》ヨハンナ|及《およ》びスザンナ、|此《こ》の|他《ほか》にも|多《おほ》くの|女《をんな》ともなひゐて、|其《そ》の|財産《ざいさん》をもて|彼《かれ》らに|事《つか》へたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》むらがり、|町々《まちまち》の|人《ひと》みもとに|寄《よ》り|集《つど》ひたれば、|譬《たとへ》をもて|言《い》ひたまふ、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]『|種《たね》|播《ま》く|者《もの》その|種《たね》を|播《ま》かんとて|出《い》づ。|播《ま》くとき|路《みち》の|傍《かたは》らに|落《お》ちし|種《たね》あり、|踏《ふ》みつけられ、また|空《そら》の|鳥《とり》これを|啄《ついば》む。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|岩《いは》の|上《うへ》に|落《お》ちし|種《たね》あり、|生《は》え|出《い》でたれど|潤澤《うるほひ》なきによりて|枯《か》る。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|茨《いばら》の|中《うち》に|落《お》ちし|種《たね》あり、|茨《いばら》も|共《とも》に|生《は》え|出《い》でて|之《これ》を|塞《ふさ》ぐ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|良《よ》き|地《ち》に|落《お》ちし|種《たね》あり、|生《は》え|出《い》でて|百《ひゃく》|倍《ばい》の|實《み》を|結《むす》べり』これらの|事《こと》を|言《い》ひて|呼《よば》はり|給《たま》ふ『きく|耳《みみ》ある|者《もの》は|聽《き》くべし』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|此《こ》の|譬《たとへ》の|如何《いか》なる|意《こころ》なるかを|問《と》ひたるに、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらは|神《かみ》の|國《くに》の|奧義《おくぎ》を|知《し》ることを|許《ゆる》されたれど、|他《ほか》の|者《もの》は|譬《たとへ》にてせらる。|彼《かれ》らの|見《み》て|見《み》ず、|聞《き》きて|悟《さと》らぬ|爲《ため》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|譬《たとへ》の|意《こころ》は|是《これ》なり。|種《たね》は|神《かみ》の|言《ことば》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|路《みち》の|傍《かたは》らなるは、|聽《き》きたるのち、|惡魔《あくま》きたり、|信《しん》じて|救《すく》はるる|事《こと》のなからんために、|御言《みことば》をその|心《こころ》より|奪《うば》ふ|所《ところ》の|人《ひと》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|岩《いは》の|上《うへ》なるは、|聽《き》きて|御言《みことば》を|喜《よろこ》び|受《う》くれども、|根《ね》なければ、|暫《しばら》く|信《しん》じて|嘗試《こころみ》のときに|退《しりぞ》く|所《ところ》の|人《ひと》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|茨《いばら》の|中《うち》に|落《お》ちしは、|聽《き》きてのち|過《す》ぐるほどに、|世《よ》の|心勞《こころづかひ》と|財貨《たから》と|快樂《けらく》とに|塞《ふさ》がれて|實《みの》らぬ|所《ところ》の|人《ひと》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|良《よ》き|地《ち》なるは、|御言《みことば》を|聽《き》き、|正《ただ》しく|善《よ》き|心《こころ》にて|之《これ》を|守《まも》り、|忍《しの》びて|實《み》を|結《むす》ぶ|所《ところ》の|人《ひと》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|燈火《ともしび》をともし|器《うつは》にて|覆《おほ》ひ、または|寢臺《ねだい》の|下《した》におく|者《もの》なし、|入《い》り|來《きた》る|者《もの》のその|光《ひかり》を|見《み》んために、|之《これ》を|燈臺《とうだい》の|上《うへ》に|置《お》くなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]それ|隱《かく》れたるものの|顯《あらは》れぬはなく、|秘《ひ》めたるものの|知《し》られぬはなく、|明《あきら》かにならぬはなし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》ら|聽《き》くこと|如何《いか》にと|心《こころ》せよ、|誰《たれ》にても|有《も》てる|人《ひと》はなほ|與《あた》へられ、|有《も》たぬ|人《ひと》はその|有《も》てりと|思《おも》ふ|物《もの》をも|取《と》らるべし』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]さてイエスの|母《はは》と|兄弟《きゃうだい》と|來《きた》りたれど、|群衆《ぐんじゅう》によりて|近《ちか》づくこと|能《あた》はず。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》イエスに『なんぢの|母《はは》と|兄弟《きゃうだい》と、|汝《なんぢ》に|逢《あ》はんとて|外《そと》に|立《た》つ』と|告《つ》げたれば、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『わが|母《はは》わが|兄弟《きゃうだい》は、|神《かみ》の|言《ことば》を|聽《き》き、かつ|行《おこな》ふ|此《これ》らの|者《もの》なり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|日《ひ》イエス|弟子《でし》たちと|共《とも》に|舟《ふね》に|乘《の》りて『みづうみの|彼方《かなた》にゆかん』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|乃《すなは》ち|船出《ふなで》す。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|渡《わた》るほどにイエス|眠《ねむ》りたまふ。|颶風《はやて》みづうみに|吹《ふ》き|下《おろ》し、|舟《ふね》に|水《みづ》|滿《み》ちんとして|危《あやふ》かりしかば、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|御側《みそば》により、|呼《よ》び|起《おこ》して|言《い》ふ『|君《きみ》よ、|君《きみ》よ、|我《われ》らは|亡《ほろ》ぶ』イエス|起《お》きて|風《かぜ》と|浪《なみ》とを|禁《いまし》め|給《たま》へば、ともに|鎭《しづま》りて|凪《なぎ》となりぬ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらの|信仰《しんかう》いづこに|在《あ》るか』かれら|懼《おそ》れ|怪《あや》しみて|互《たがひ》に|言《い》ふ『こは|誰《たれ》ぞ、|風《かぜ》と|水《みづ》とに|命《めい》じ|給《たま》へば|順《したが》ふとは』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にガリラヤに|對《むか》へるゲラセネ|人《ひと》の|地《ち》に|著《つ》く。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|陸《をか》に|上《のぼ》りたまふ|時《とき》、その|町《まち》の|人《ひと》にて|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|者《もの》きたり|遇《あ》ふ。この|人《ひと》は|久《ひさ》しきあひだ|衣《ころも》を|著《き》ず、また|家《いへ》に|住《す》まずして|墓《はか》の|中《うち》にゐたり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエスを|見《み》てさけび、|御前《みまへ》に|平伏《ひれふ》して|大聲《おほごゑ》にいふ『|至高《いとたか》き|神《かみ》の|子《こ》イエスよ、|我《われ》は|汝《なんぢ》と|何《なに》の|關係《かかはり》あらん、|願《ねが》はくは|我《われ》を|苦《くる》しめ|給《たま》ふな』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]これはイエス|穢《けが》れし|靈《れい》に、この|人《ひと》より|出《い》で|往《ゆ》かんことを|命《めい》じ|給《たま》ひしに|因《よ》る。この|人《ひと》けがれし|靈《れい》にしばしば|拘《とら》へられ、|鏈《くさり》と|足械《あしかせ》とにて|繋《つな》ぎ|守《まも》られたれど、その|繋《つなぎ》をやぶり、|惡鬼《あくき》に|逐《お》はれて|荒野《あらの》に|往《ゆ》けり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》に『なんぢの|名《な》は|何《なに》か』と|問《と》ひ|給《たま》へば『レギオン』と|答《こた》ふ、|多《おほ》くの|惡鬼《あくき》その|中《うち》に|入《い》りたる|故《ゆゑ》なり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らイエスに、|底《そこ》なき|所《ところ》に|往《ゆ》くを|命《めい》じ|給《たま》はざらんことを|請《こ》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》の|山《やま》に、|多《おほ》くの|豚《ぶた》の|一《ひと》|群《むれ》、|食《しょく》し|居《ゐ》たりしが、|惡鬼《あくき》ども|其《そ》の|豚《ぶた》に|入《い》るを|許《ゆる》し|給《たま》はんことを|請《こ》ひたれば、イエス|許《ゆる》し|給《たま》ふ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|惡鬼《あくき》、|人《ひと》を|出《い》でて|豚《ぶた》に|入《い》りたれば、その|群《むれ》、|崖《がけ》より|湖水《みづうみ》に|駈《か》け|下《くだ》りて|溺《おぼ》れたり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|飼《か》ふ|者《もの》ども|此《こ》の|起《おこ》りし|事《こと》を|見《み》て、|逃《に》げ|往《ゆ》きて、|町《まち》にも|里《さと》にも|告《つ》げたれば、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》ありし|事《こと》を|見《み》んとて|出《い》で、イエスに|來《きた》りて、|惡鬼《あくき》の|出《い》でたる|人《ひと》の、|衣服《ころも》をつけ|慥《たしか》なる|心《こころ》にて、イエスの|足下《あしもと》に|坐《ざ》しをるを|見《み》て|懼《おそ》れあへり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]かの|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|人《ひと》の|救《すく》はれし|事柄《ことがら》を|見《み》し|者《もの》ども、|之《これ》を|彼《かれ》らに|告《つ》げたれば、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ゲラセネ|地方《ちはう》の|民衆《みんしゅう》、みなイエスに|出《い》で|去《さ》り|給《たま》はんことを|請《こ》ふ。これ|大《おほい》に|懼《おそ》れたるなり。ここにイエス|舟《ふね》に|乘《の》りて|歸《かへ》り|給《たま》ふ。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》に|惡鬼《あくき》の|出《い》でたる|人《ひと》、ともに|在《あ》らんことを|願《ねが》ひたれど、|之《これ》を|去《さ》らしめんとて、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|家《いへ》に|歸《かへ》りて、|神《かみ》が|如何《いか》に|大《おほい》なる|事《こと》を|汝《なんぢ》になし|給《たま》ひしかを|具《つぶさ》に|告《つ》げよ』|彼《かれ》ゆきて、イエスの|如何《いか》に|大《おほい》なる|事《こと》を|己《おのれ》になし|給《たま》ひしかを、|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》くその|町《まち》に|言《い》ひ|弘《ひろ》めたり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエスの|歸《かへ》り|給《たま》ひしとき、|群衆《ぐんじゅう》これを|迎《むか》ふ、みな|待《ま》ちゐたるなり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|會堂《くわいだう》|司《つかさ》にてヤイロといふ|者《もの》あり、|來《きた》りてイエスの|足下《あしもと》に|伏《ふ》し、その|家《いへ》にきたり|給《たま》はんことを|願《ねが》ふ。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|十二《じふに》|歳《さい》ほどの|一人《ひとり》|娘《むすめ》ありて、|死《し》ぬばかりなる|故《ゆゑ》なり。イエスの|往《ゆ》き|給《たま》ふとき、|群衆《ぐんじゅう》かこみ|塞《ふさ》がる。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|十《じふ》|二年《にねん》このかた|血漏《ちらう》を|患《わづら》ひて、|醫者《いしゃ》の|爲《ため》に|己《おの》が|身代《しんだい》をことごとく|費《つひや》したれども、|誰《たれ》にも|癒《いや》され|得《え》ざりし|女《をんな》あり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|後《うしろ》に|來《きた》りて、|御衣《みころも》の|總《ふさ》にさはりたれば、|血《ち》の|出《い》づること|立刻《たちどころ》に|止《や》みたり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|我《われ》に|觸《さは》りしは|誰《たれ》ぞ』|人《ひと》みな|否《いな》みたれば、ペテロ|及《およ》び|共《とも》にをる|者《もの》ども|言《い》ふ『|君《きみ》よ、|群衆《ぐんじゅう》なんぢを|圍《かこ》みて|押迫《おしせま》るなり』[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われに|觸《さは》りし|者《もの》あり、|能力《ちから》の|我《われ》より|出《い》でたるを|知《し》る』[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》おのれが|隱《かく》れ|得《え》ぬことを|知《し》り、|戰《おのの》き|來《きた》りて|御前《みまへ》に|平伏《ひれふ》し、|觸《さは》りし|故《ゆゑ》と|立刻《たちどころ》に|癒《い》えたる|事《こと》を、|人々《ひとびと》の|前《まへ》にて|告《つ》ぐ。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『むすめよ、|汝《なんぢ》の|信仰《しんかう》なんぢを|救《すく》へり、|安《やす》らかに|往《ゆ》け』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]かく|語《かた》り|給《たま》ふほどに、|會堂《くわいだう》|司《つかさ》の|家《いへ》より|人《ひと》きたりて|言《い》ふ『なんぢの|娘《むすめ》は|早《は》や|死《し》にたり、|師《し》を|煩《わづら》はすな』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|聞《き》きて|會堂《くわいだう》|司《つかさ》に|答《こた》へたまふ『|懼《おそ》るな、ただ|信《しん》ぜよ。さらば|娘《むすめ》は|救《すく》はれん』[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|家《いへ》に|到《いた》りて、ペテロ、ヨハネ、ヤコブ|及《およ》び|子《こ》の|父《ちち》|母《はは》の|他《ほか》は、ともに|入《い》ることを|誰《たれ》にも|許《ゆる》し|給《たま》はず。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》みな|泣《な》き、かつ|子《こ》のために|歎《なげ》き|居《ゐ》たりしが、イエス|言《い》ひたまふ『|泣《な》くな、|死《し》にたるにあらず、|寢《い》ねたるなり』[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》その|死《し》にたるを|知《し》れば、イエスを|嘲笑《あざわら》ふ。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにイエス|子《こ》の|手《て》をとり、|呼《よ》びて『|子《こ》よ、|起《お》きよ』と|言《い》ひ|給《たま》へば、[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]その|靈《れい》かへりて|立刻《たちどころ》に|起《お》く。イエス|食物《しょくもつ》を|之《これ》に|與《あた》ふることを|命《めい》じ|給《たま》ふ。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]その|兩親《ふたおや》おどろきたり。イエス|此《こ》の|有《あ》りし|事《こと》を|誰《たれ》にも|語《かた》らぬやうに|命《めい》じ|給《たま》ふ。 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|十二《じふに》|弟子《でし》を|召《め》し|寄《よ》せて、もろもろの|惡鬼《あくき》を|制《せい》し、|病《やまひ》をいやす|能力《ちから》と|權威《けんゐ》とを|與《あた》へ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]また|神《かみ》の|國《くに》を|宣傳《のべつた》へしめ、|人《ひと》を|醫《いや》さしむる|爲《ため》に、|之《これ》を|遣《つかは》さんとして|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]『|旅《たび》のために|何《なに》をも|持《も》つな、|杖《つゑ》も|袋《ふくろ》も|糧《かて》も|銀《かね》も、また|二《ふた》つの|下衣《したぎ》をも|持《も》つな。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]いづれの|家《いへ》に|入《い》るとも、|其處《そこ》に|留《とどま》れ、|而《しか》して|其處《そこ》より|立《た》ち|去《さ》れ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|汝《なんぢ》らを|受《う》けずば、その|町《まち》を|立《た》ち|去《さ》るとき、|證《あかし》のために|足《あし》の|塵《ちり》を|拂《はら》へ』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ここに|弟子《でし》たち|出《い》でて|村々《むらむら》を|歴《へ》|巡《めぐ》り、あまねく|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へ、|醫《いや》すことを|爲《な》せり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]さて|國守《こくしゅ》ヘロデ、ありし|凡《すべ》ての|事《こと》をききて|周章《あわ》てまどふ。|或《ある》|人《ひと》はヨハネ|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へりたりといひ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》はエリヤ|現《あらは》れたりといひ、また|或《ある》|人《ひと》は、|古《いにし》への|預言者《よげんしゃ》の|一人《ひとり》よみがへりたりと|言《い》へばなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|言《い》ふ『ヨハネは|我《われ》すでに|首斬《くびき》りたり、|然《しか》るに|斯《か》かる|事《こと》のきこゆる|此《こ》の|人《ひと》は|誰《たれ》なるか』かくてイエスを|見《み》んことを|求《もと》めゐたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たち|歸《かへ》りきて、|其《そ》の|爲《な》しし|事《こと》を|具《つぶさ》にイエスに|告《つ》ぐ。イエス|彼《かれ》らを|携《たづさ》へて|竊《ひそか》にベツサイダといふ|町《まち》に|退《しりぞ》きたまふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されど|群衆《ぐんじゅう》これを|知《し》りて|從《したが》ひ|來《きた》りたれば、|彼《かれ》らを|接《う》けて、|神《かみ》の|國《くに》の|事《こと》を|語《かた》り、かつ|治療《ちれう》を|要《えう》する|人々《ひとびと》を|醫《いや》したまふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》|傾《かたぶ》きたれば、|十二《じふに》|弟子《でし》きたりて|言《い》ふ『|群衆《ぐんじゅう》を|去《さ》らしめ、|周圍《まはり》の|村《むら》また|里《さと》にゆき、|宿《やど》をとりて|食物《しょくもつ》を|求《もと》めさせ|給《たま》へ。|我《われ》らは|斯《か》かる|寂《さび》しき|所《ところ》に|居《を》るなり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|食物《しょくもつ》を|與《あた》へよ』|弟子《でし》たち|言《い》ふ『|我《われ》らただ|五《いつ》つのパンと|二《ふた》つの|魚《うを》とあるのみ、|此《こ》の|多《おほ》くの|人《ひと》のために、|往《ゆ》きて|買《か》はねば|他《ほか》に|食物《しょくもつ》なし』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|男《をとこ》おほよそ|五《ご》|千《せん》|人《にん》ゐたればなり。イエス|弟子《でし》たちに|言《い》ひたまふ『|人々《ひとびと》を|組《くみ》にして|五《ご》|十《じふ》|人《にん》づつ|坐《ざ》せしめよ』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》その|如《ごと》くなして、|人々《ひとびと》をみな|坐《ざ》せしむ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエス|五《いつ》つのパンと|二《ふた》つの|魚《うを》とを|取《と》り、|天《てん》を|仰《あふ》ぎて|祝《しく》し、|擘《さ》きて|弟子《でし》たちに|付《わた》し、|群衆《ぐんじゅう》のまへに|置《お》かしめ|給《たま》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|食《くら》ひて|皆《みな》|飽《あ》く。|擘《さ》きたる|餘《あまり》を|集《あつ》めしに|十二《じふに》|筐《かご》ほどありき。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|人々《ひとびと》を|離《はな》れて|祈《いの》り|居給《ゐたま》ふとき、|弟子《でし》たち|偕《とも》にをりしに、|問《と》ひて|言《い》ひたまふ『|群衆《ぐんじゅう》は|我《われ》を|誰《たれ》といふか』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『バプテスマのヨハネ、|或《ある》|人《ひと》はエリヤ、|或《ある》|人《ひと》は|古《いにし》への|預言者《よげんしゃ》の|一人《ひとり》よみがへりたりと|言《い》ふ』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらは|我《われ》を|誰《たれ》と|言《い》ふか』ペテロ|答《こた》へて|言《い》ふ『|神《かみ》のキリストなり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らを|戒《いまし》めて、|之《これ》を|誰《たれ》にも|告《つ》げぬやうに|命《めい》じ、かつ|言《い》ひ|給《たま》ふ[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]『|人《ひと》の|子《こ》は|必《かなら》ず|多《おほ》くの|苦難《くるしみ》をうけ、|長老《ちゃうらう》・|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》らに|棄《す》てられ、かつ|殺《ころ》され、|三日《みっか》めに|甦《よみが》へるべし』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]また|一同《いちどう》の|者《もの》に|言《い》ひたまふ『|人《ひと》もし|我《われ》に|從《したが》ひ|來《きた》らんと|思《おも》はば、|己《おのれ》をすて、|日々《ひび》おのが|十字架《じふじか》を|負《お》ひて|我《われ》に|從《したが》へ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|己《おの》が|生命《いのち》を|救《すく》はんと|思《おも》ふ|者《もの》は|之《これ》を|失《うしな》ひ、|我《わ》がために|己《おの》が|生命《いのち》を|失《うしな》ふその|人《ひと》は|之《これ》を|救《すく》はん。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》、|全世界《ぜんせかい》を|贏《まう》くとも、|己《おのれ》をうしなひ|己《おのれ》を|損《そん》せば、|何《なに》の|益《えき》あらんや。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》と|我《わ》が|言《ことば》とを|恥《は》づる|者《もの》をば、|人《ひと》の|子《こ》もまた、|己《おのれ》と|父《ちち》と|聖《せい》なる|御使《みつかひ》たちとの|榮光《えいくわう》をもて|來《きた》らん|時《とき》に|恥《は》づべし。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]われ|實《まこと》をもて|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|此處《ここ》に|立《た》つ|者《もの》のうちに、|神《かみ》の|國《くに》を|見《み》るまでは|死《し》を|味《あぢ》はぬ|者《もの》どもあり』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]これらの|言《ことば》をいひ|給《たま》ひしのち|八日《やうか》ばかり|過《す》ぎて、ペテロ、ヨハネ、ヤコブを|率《ひ》きつれ、|祈《いの》らんとて|山《やま》に|登《のぼ》り|給《たま》ふ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|祈《いの》り|給《たま》ふほどに、|御顏《みかほ》の|状《さま》かはり、|其《そ》の|衣《ころも》|白《しろ》くなりて|輝《かがや》けり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|二人《ふたり》の|人《ひと》ありてイエスと|共《とも》に|語《かた》る。これはモーセとエリヤとにて、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|榮光《えいくわう》のうちに|現《あらは》れ、イエスのエルサレムにて|遂《と》げんとする|逝去《せいきょ》のことを|言《い》ひゐたるなり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|及《およ》び|共《とも》にをる|者《もの》いたく|睡氣《ねむけ》ざしたれど、|目《め》を|覺《さま》してイエスの|榮光《えいくわう》および|偕《とも》に|立《た》つ|二人《ふたり》を|見《み》たり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》の|者《もの》イエスと|別《わか》れんとする|時《とき》、ペテロ、イエスに|言《い》ふ『|君《きみ》よ、|我《われ》らの|此處《ここ》に|居《を》るは|善《よ》し、|我《われ》ら|三《み》つの|廬《いほり》を|造《つく》り、|一《ひと》つを|汝《なんぢ》のため、|一《ひと》つをモーセのため、|一《ひと》つをエリヤの|爲《ため》にせん』|彼《かれ》は|言《い》ふ|所《ところ》を|知《し》らざりき。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》を|言《い》ひ|居《を》るほどに、|雲《くも》おこりて|彼《かれ》らを|覆《おほ》ふ。|雲《くも》の|中《うち》に|入《い》りしとき、|弟子《でし》たち|懼《おそ》れたり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|雲《くも》より|聲《こゑ》|出《い》でて|言《い》ふ『これは|我《わ》が|選《えら》びたる|子《こ》なり、|汝《なんぢ》ら|之《これ》に|聽《き》け』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|聲《こゑ》|出《い》でしとき、|唯《ただ》イエスひとり|見《み》え|給《たま》ふ。|弟子《でし》たち|默《もく》して、|見《み》し|事《こと》を|何《なに》|一《ひと》つ|其《そ》の|頃《ころ》たれにも|告《つ》げざりき。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|次《つぎ》の|日《ひ》、|山《やま》より|下《くだ》りたるに、|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》イエスを|迎《むか》ふ。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|群衆《ぐんじゅう》のうちの|或《ある》|人《ひと》さけびて|言《い》ふ『|師《し》よ、|願《ねが》はくは|我《わ》が|子《こ》を|顧《かへり》みたまへ、|之《これ》は|我《わ》が|獨子《ひとりご》なり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|靈《れい》の|憑《つ》くときは|俄《にはか》に|叫《さけ》ぶ、|痙攣《ひきつ》けて|沫《あわ》をふかせ、|甚《いた》く|害《そこな》ひ、|漸《やうや》くにして|離《はな》るるなり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|御弟子《みでし》たちに|之《これ》を|逐《お》ひ|出《いだ》すことを|請《こ》ひたれど、|能《あた》はざりき』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『ああ|信《しん》なき|曲《まが》れる|代《よ》なる|哉《かな》、われ|何時《いつ》まで|汝《なんぢ》らと|偕《とも》にをりて、|汝《なんぢ》らを|忍《しの》ばん。|汝《なんぢ》の|子《こ》をここに|連《つ》れ|來《きた》れ』[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|來《きた》るとき、|惡鬼《あくき》これを|打《う》ち|倒《たふ》し、|甚《いた》く|痙攣《ひきつ》けさせたり。イエス|穢《けが》れし|靈《れい》を|禁《いまし》め、|子《こ》を|醫《いや》して、その|父《ちち》に|付《わた》したまふ。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》みな|神《かみ》の|稜威《みいつ》に|驚《をどろ》きあへり。|人々《ひとびと》みなイエスの|爲《な》し|給《たま》ひし|凡《すべ》ての|事《こと》を|怪《あや》しめる|時《とき》、イエス|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]『これらの|言《ことば》を|汝《なんぢ》らの|耳《みみ》にをさめよ。|人《ひと》の|子《こ》は|人々《ひとびと》の|手《て》に|付《わた》さるべし』[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]かれら|此《こ》の|言《ことば》を|悟《さと》らず、|辨《わきま》へぬやうに|隱《かく》されたるなり。また|此《こ》の|言《ことば》につきて|問《と》ふことを|懼《おそ》れたり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]ここに|弟子《でし》たちの|中《うち》に、|誰《たれ》か|大《おほい》ならんとの|爭論《さうろん》おこりたれば、[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|心《こころ》の|爭論《さうろん》を|知《し》りて、|幼兒《をさなご》をとり|御側《みそば》に|置《お》きて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]『おほよそ|我《わ》が|名《な》のために|此《こ》の|幼兒《をさなご》を|受《う》くる|者《もの》は、|我《われ》を|受《う》くるなり。|我《われ》を|受《う》くる|者《もの》は、|我《われ》を|遣《つかは》しし|者《もの》を|受《う》くるなり。|汝《なんぢ》らの|中《うち》にて|最《もっと》も|小《ちひさ》き|者《もの》は、これ|大《おほい》なるなり』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|答《こた》へて|言《い》ふ『|君《きみ》よ、|御名《みな》によりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひいだす|者《もの》を|見《み》しが、|我等《われら》とともに|從《したが》はぬ|故《ゆゑ》に、|之《これ》を|止《とど》めたり』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|止《とど》むな。|汝《なんぢ》らに|逆《さから》はぬ|者《もの》は、|汝《なんぢ》らに|附《つ》く|者《もの》なり』[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|天《てん》に|擧《あ》げらるる|時《とき》|滿《み》ちんとしたれば、|御顏《みかほ》を|堅《かた》くエルサレムに|向《む》けて|進《すす》まんとし、[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|己《おのれ》に|先《さき》だちて|使《つかひ》を|遣《つかは》したまふ。|彼《かれ》ら|往《ゆ》きてイエスの|爲《ため》に|備《そなへ》をなさんとて、サマリヤ|人《ひと》の|或《ある》|村《むら》に|入《い》りしに、[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|村《むら》|人《ひと》そのエルサレムに|向《むか》ひて|往《ゆ》き|給《たま》ふさまなるが|故《ゆゑ》に、イエスを|受《う》けず、[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》のヤコブ、ヨハネ、これを|見《み》て|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》らが|天《てん》より|火《ひ》を|呼《よ》び|下《くだ》して|彼《かれ》らを|滅《ほろび》すことを|欲《ほっ》し|給《たま》ふか』[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|顧《かへり》みて|彼《かれ》らを|戒《いまし》め、[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|相《あひ》|共《とも》に|他《ほか》の|村《むら》に|往《ゆ》きたまふ。[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]|途《みち》を|往《ゆ》くとき、|或《ある》|人《ひと》イエスに|言《い》ふ『|何處《いづこ》に|往《ゆ》き|給《たま》ふとも|我《われ》は|從《したが》はん』[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|狐《きつね》は|穴《あな》あり、|空《そら》の|鳥《とり》は|塒《ねぐら》あり、されど|人《ひと》の|子《こ》は|枕《まくら》する|所《ところ》なし』[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]また|或《ある》|人《ひと》に|言《い》ひたまふ『|我《われ》に|從《したが》へ』かれ|言《い》ふ『まづ|往《ゆ》きて|我《わ》が|父《ちち》を|葬《はうむ》ることを|許《ゆる》し|給《たま》へ』[#太字]六〇[#「六〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|死《し》にたる|者《もの》に、その|死《し》にたる|者《もの》を|葬《はうむ》らせ、|汝《なんぢ》は|往《ゆ》きて|神《かみ》の|國《くに》を|言《い》ひ|弘《ひろ》めよ』[#太字]六一[#「六一」は行右小書き][#太字終わり]また|或《ある》|人《ひと》いふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》なんぢに|從《したが》はん、されど|先《ま》づ|家《いへ》の|者《もの》に|別《わかれ》を|告《つ》ぐることを|許《ゆる》し|給《たま》へ』[#太字]六二[#「六二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|手《て》を|鋤《すき》につけてのち|後《うしろ》を|顧《かへり》みる|者《もの》は、|神《かみ》の|國《くに》に|適《かな》ふ|者《もの》にあらず』 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》ののち、|主《しゅ》、ほかに|七《しち》|十《じふ》|人《にん》をあげて、|自《みづか》ら|往《ゆ》かんとする|町々《まちまち》|處々《ところどころ》へ、おのれに|先《さき》だち|二人《ふたり》づつを|遣《つかは》さんとして|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『|收穫《かりいれ》はおほく、|勞働人《はたらきびと》は|少《すくな》し。この|故《ゆゑ》に|收穫《かりいれ》の|主《しゅ》に、|勞働人《はたらきびと》をその|收穫場《かりいれば》に|遣《つかは》し|給《たま》はんことを|求《もと》めよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|往《ゆ》け、|視《み》よ、|我《われ》なんぢらを|遣《つかは》すは、|羔羊《こひつじ》を|豺狼《おほかみ》のなかに|入《い》るるが|如《ごと》し。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|財布《さいふ》も|袋《ふくろ》も|鞋《くつ》も|携《たづさ》ふな。また|途《みち》にて|誰《たれ》にも|挨拶《あいさつ》すな。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|孰《いづれ》の|家《いへ》に|入《い》るとも、|先《ま》づ|平安《へいあん》この|家《いへ》にあれと|言《い》へ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]もし|平安《へいあん》の|子《こ》そこに|居《を》らば、|汝《なんぢ》らの|祝《しく》する|平安《へいあん》はその|上《うへ》に|留《とどま》らん。もし|然《しか》らずば、|其《そ》の|平安《へいあん》は|汝《なんぢ》らに|歸《かへ》らん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]その|家《いへ》にとどまりて、|與《あた》ふる|物《もの》を|食《く》ひ|飮《の》みせよ。|勞働人《はたらきびと》のその|値《あたひ》を|得《う》るは|相應《ふさは》しきなり。|家《いへ》より|家《いへ》に|移《うつ》るな。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|孰《いづれ》の|町《まち》に|入《い》るとも、|人々《ひとびと》なんぢらを|受《う》けなば、|汝《なんぢ》らの|前《まへ》に|供《そな》ふる|物《もの》を|食《しょく》し、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|其處《そこ》にをる|病《やまひ》のものを|醫《いや》し、また「|神《かみ》の|國《くに》は|汝《なんぢ》らに|近《ちか》づけり」と|言《い》へ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|孰《いづれ》の|町《まち》に|入《い》るとも、|人々《ひとびと》なんじらを|受《う》けずば、|大路《おほじ》に|出《い》でて、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]「|我《われ》らの|足《あし》につきたる|汝《なんぢ》らの|町《まち》の|塵《ちり》をも、|汝《なんぢ》らに|對《たい》して|拂《はら》ひ|棄《す》つ、されど|神《かみ》の|國《くに》の|近《ちか》づけるを|知《し》れ」と|言《い》へ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、かの|日《ひ》にはソドムの|方《かた》その|町《まち》よりも|耐《た》へ|易《やす》からん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なる|哉《かな》、コラジンよ、|禍害《わざはひ》なる|哉《かな》、ベツサイダよ、|汝《なんぢ》らの|中《うち》にて|行《おこな》ひたる|能力《ちから》ある|業《わざ》を、ツロとシドンとにて|行《おこな》ひしならば、|彼《かれ》らは|早《はや》く|荒布《あらぬの》をき、|灰《はひ》のなかに|坐《ざ》して、|悔改《くいあらた》めしならん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されば|審判《さばき》には、ツロとシドンとのかた|汝《なんぢ》|等《ら》よりも|耐《た》へ|易《やす》からん。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]カペナウムよ、|汝《なんぢ》は|天《てん》にまで|擧《あ》げらるべきか、|黄泉《よみ》にまで|下《くだ》らん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》に|聽《き》く|者《もの》は|我《われ》に|聽《き》くなり、|汝《なんぢ》らを|棄《す》つる|者《もの》は|我《われ》を|棄《す》つるなり。|我《われ》を|棄《す》つる|者《もの》は|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》を|棄《す》つるなり』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|七《しち》|十《じふ》|人《にん》よろこび|歸《かへ》りて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|汝《なんぢ》の|名《な》によりて|惡鬼《あくき》すら|我《われ》らに|服《ふく》す』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|天《てん》より|閃《ひらめ》く|電光《いなづま》のごとくサタンの|落《お》ちしを|見《み》たり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、われ|汝《なんぢ》らに|蛇《へび》・|蠍《さそり》を|踏《ふ》み、|仇《あた》の|凡《すべ》ての|力《ちから》を|抑《おさ》ふる|權威《けんゐ》を|授《さづ》けたれば、|汝《なんぢ》らを|害《そこな》ふもの|斷《た》えてなからん。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|靈《れい》の|汝《なんぢ》らに|服《ふく》するを|喜《よろこ》ぶな、|汝《なんぢ》らの|名《な》の|天《てん》に|録《しる》されたるを|喜《よろこ》べ』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》イエス|聖《せい》|靈《れい》により|喜《よろこ》びて|言《い》ひたまふ『|天《てん》|地《ち》の|主《しゅ》なる|父《ちち》よ、われ|感謝《かんしゃ》す、|此《これ》|等《ら》のことを|智《かしこ》きもの|慧《さと》き|者《もの》に|隱《かく》して、|嬰兒《みどりご》に|顯《あらは》したまへり。|父《ちち》よ、|然《しか》り、|此《こ》のごときは|御意《みこころ》に|適《かな》へるなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|物《もの》は|我《われ》わが|父《ちち》より|委《ゆだ》ねられたり。|子《こ》の|誰《たれ》なるを|知《し》る|者《もの》は、|父《ちち》の|外《ほか》になく、|父《ちち》の|誰《たれ》なるを|知《し》る|者《もの》は、|子《こ》また|子《こ》の|欲《ほっ》するままに|顯《あらは》すところの|者《もの》の|外《ほか》になし』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|弟子《でし》たちを|顧《かへり》み|竊《ひそか》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらの|見《み》る|所《ところ》を|見《み》る|眼《め》は|幸福《さいはひ》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|多《おほ》くの|預言者《よげんしゃ》も、|王《わう》も、|汝《なんぢ》らの|見《み》るところを|見《み》んと|欲《ほっ》したれど|見《み》ず、|汝《なんぢ》らの|聞《き》く|所《ところ》を|聞《き》かんと|欲《ほっ》したれど|聞《き》かざりき』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|或《ある》|教法師《けうほふし》、|立《た》ちてイエスを|試《こころ》みて|言《い》ふ『|師《し》よ、われ|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|嗣《つ》ぐためには|何《なに》をなすべきか』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|律法《おきて》に|何《なに》と|録《しる》したるか、|汝《なんぢ》いかに|讀《よ》むか』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『なんぢ|心《こころ》を|盡《つく》し|精神《せいしん》を|盡《つく》し、|力《ちから》を|盡《つく》し、|思《おもひ》を|盡《つく》して、|主《しゅ》たる|汝《なんぢ》の|神《かみ》を|愛《あい》すべし。また|己《おのれ》のごとく|汝《なんぢ》の|隣《となり》を|愛《あい》すべし』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|答《こたへ》は|正《ただ》し。|之《これ》を|行《おこな》へ、さらば|生《い》くべし』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》おのれを|義《ぎ》とせんとしてイエスに|言《い》ふ『わが|隣《となり》とは|誰《たれ》なるか』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|或《ある》|人《ひと》エルサレムよりエリコに|下《くだ》るとき|強盜《がうたう》にあひしが、|強盜《がうたう》どもその|衣《ころも》を|剥《は》ぎ、|傷《きず》を|負《お》はせ、|半死半生《はんしはんしゃう》にして|棄《す》て|去《さ》りぬ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|祭司《さいし》たまたま|此《こ》の|途《みち》より|下《くだ》り、|之《これ》を|見《み》てかなたを|過《す》ぎ|往《ゆ》けり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》レビ|人《ひと》も|此處《ここ》にきたり、|之《これ》を|見《み》て|同《おな》じく|彼方《かなた》を|過《す》ぎ|往《ゆ》けり[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|或《ある》るサマリヤ|人《ひと》、|旅《たび》して|其《そ》の|許《もと》にきたり、|之《これ》を|見《み》て|憫《あはれ》み、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|近寄《ちかよ》りて|油《あぶら》と|葡萄酒《ぶだうしゅ》とを|注《そそ》ぎ、|傷《きず》を|包《つつ》みて|己《おの》が|畜《けもの》にのせ、|旅舍《はたごや》に|連《つ》れゆきて|介抱《かいはう》し、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]あくる|日《ひ》デナリ|二《ふた》つを|出《いだ》し、|主人《あるじ》に|與《あた》へて「この|人《ひと》を|介抱《かいはう》せよ。|費《つひえ》もし|増《ま》さば、|我《わ》が|歸《かへ》りくる|時《とき》に|償《つくの》はん」と|言《い》へり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》いかに|思《おも》ふか、|此《こ》の|三人《さんにん》のうち、|孰《いづれ》か|強盜《がうたう》にあひし|者《もの》の|隣《となり》となりしぞ』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]かれ|言《い》ふ『その|人《ひと》に|憐憫《あはれみ》を|施《ほどこ》したる|者《もの》なり』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢも|往《ゆ》きて|其《そ》の|如《ごと》くせよ』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》ら|進《すす》みゆく|間《うち》に、イエス|或《ある》|村《むら》に|入《い》り|給《たま》へば、マルタと|名《な》づくる|女《をんな》おのが|家《いへ》に|迎《むか》へ|入《い》る。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]その|姉妹《しまい》にマリヤといふ|者《もの》ありて、イエスの|足下《あしもと》に|坐《ざ》し、|御言《みことば》を|聽《き》きをりしが、[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]マルタ|饗應《もてなし》のこと|多《おほ》くして|心《こころ》いりみだれ、|御許《みもと》に|進《すす》みよりて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、わが|姉妹《しまい》われを|一人《ひとり》のこして|働《はたら》かするを、|何《なに》とも|思《おも》ひ|給《たま》はぬか、|彼《かれ》に|命《めい》じて|我《われ》を|助《たす》けしめ|給《たま》へ』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》、|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『マルタよ、マルタよ、|汝《なんぢ》さまざまの|事《こと》により、|思《おも》ひ|煩《わづら》ひて|心勞《こころづかひ》す。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]されど|無《な》くてならぬものは|多《おほ》からず、|唯一《ただひと》つのみ、マリヤは|善《よ》きかたを|選《えら》びたり。|此《これ》は|彼《かれ》より|奪《うば》ふべからざるものなり』 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|或《ある》|處《ところ》にて|祈《いの》り|居給《ゐたま》ひしが、その|終《をは》りしとき、|弟子《でし》の|一人《ひとり》いふ『|主《しゅ》よ、ヨハネの|其《そ》の|弟子《でし》に|教《をし》へし|如《ごと》く、|祈《いの》ることを|我《われ》らに|教《をし》へ|給《たま》へ』[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|祈《いの》るときに|斯《か》く|言《い》へ「|父《ちち》よ、|願《ねが》はくは|御名《みな》の|崇《あが》められん|事《こと》を。|御國《みくに》の|來《きた》らん|事《こと》を。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|日用《にちよう》の|糧《かて》を|日毎《ひごと》に|與《あた》へ|給《たま》へ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らに|負債《おひめ》ある|凡《すべ》ての|者《もの》を|我《われ》ら|免《ゆる》せば、|我《われ》らの|罪《つみ》をも|免《ゆる》し|給《たま》へ。|我《われ》らを|嘗試《こころみ》にあはせ|給《たま》ふな」』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらの|中《うち》たれか|友《とも》あらんに、|夜半《よなか》にその|許《もと》に|往《ゆ》きて「|友《とも》よ、|我《われ》に|三《み》つのパンを|貸《か》せ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]わが|友《とも》、|旅《たび》より|來《きた》りしに、|之《これ》に|供《そな》ふべき|物《もの》なし」と|言《い》ふ|時《とき》、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かれ|内《うち》より|答《こた》へて「われを|煩《わづら》はすな、|戸《と》ははや|閉《と》ぢ、|子《こ》らは|我《われ》と|共《とも》に|臥所《ふしど》にあり、|起《た》ちて|與《あた》へ|難《かた》し」といふ|事《こと》ありとも、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|友《とも》なるによりては|起《た》ちて|與《あた》へねど、|求《もとめ》の|切《せつ》なるにより、|起《お》きて|其《そ》の|要《えう》する|程《ほど》のものを|與《あた》へん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|求《もと》めよ、さらば|與《あた》へられん。|尋《たづ》ねよ、さらば|見出《みいだ》さん。|門《もん》を|叩《たた》け、さらば|開《ひら》かれん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]すべて|求《もと》むる|者《もの》は|得《え》、|尋《たづ》ぬる|者《もの》は|見出《みいだ》し、|門《もん》を|叩《たた》く|者《もの》は|開《ひら》かるるなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|父《ちち》たる|者《もの》、たれか|其《そ》の|子《こ》|魚《うを》を|求《もと》めんに、|魚《うを》の|代《かわり》に|蛇《へび》を|與《あた》へ、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|卵《たまご》を|求《もと》めんに|蠍《さそり》を|與《あた》へんや。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]さらば|汝《なんぢ》ら|惡《あ》しき|者《もの》ながら、|善《よ》き|賜物《たまもの》をその|子《こ》らに|與《あた》ふるを|知《し》る。まして|天《てん》の|父《ちち》は、|求《もと》むる|者《もの》に|聖《せい》|靈《れい》を|賜《たま》はざらんや』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]さてイエス|唖《おふし》の|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひいだし|給《たま》へば、|惡鬼《あくき》いでて|唖《おふし》もの|言《い》ひしにより、|群衆《ぐんじゅう》あやしめり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》の|中《うち》の|或《ある》|者《もの》ども|言《い》ふ『かれは|惡鬼《あくき》の|首《かしら》ベルゼブルによりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》すなり』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]また|或《ある》|者《もの》どもは、イエスを|試《こころ》みんとて|天《てん》よりの|徴《しるし》を|求《もと》む。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|思《おもひ》を|知《し》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『すべて|分《わか》れ|爭《あらそ》ふ|國《くに》は|亡《ほろ》び、|分《わか》れ|爭《あらそ》ふ|家《いへ》は|倒《たふ》る。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]サタンもし|分《わか》れ|爭《あらそ》はば、その|國《くに》いかで|立《た》つべき。|汝《なんぢ》|等《ら》わが|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》すを、ベルゼブルに|由《よ》ると|言《い》へばなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もしベルゼブルによりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》さば、|汝《なんぢ》らの|子《こ》は|誰《たれ》によりて|之《これ》を|逐《お》ひ|出《いだ》すか。この|故《ゆゑ》に|彼《かれ》らは|汝《なんぢ》らの|審判《さばき》|人《ひと》となるべし。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》もし|神《かみ》の|指《ゆび》によりて|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》さば、|神《かみ》の|國《くに》は|既《すで》に|汝《なんぢ》らに|到《いた》れるなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|強《つよ》きもの|武具《ぶぐ》をよろひて|己《おの》が|屋敷《やしき》を|守《まも》るときは、|其《そ》の|所有《もちもの》|安全《あんぜん》なり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されど|更《さら》に|強《つよ》きもの|來《きた》りて|之《これ》に|勝《か》つときは、|恃《たのみ》とする|武具《ぶぐ》をことごとく|奪《うば》ひて、|分捕物《ぶんどりもの》を|分《わか》たん。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》と|偕《とも》ならぬ|者《もの》は|我《われ》にそむき、|我《われ》と|共《とも》に|集《あつ》めぬ|者《もの》は|散《ちら》すなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|穢《けが》れし|靈《れい》、|人《ひと》を|出《い》づる|時《とき》は、|水《みづ》なき|處《ところ》を|巡《めぐ》りて|休《やすみ》を|求《もと》む。されど|得《え》ずして|言《い》ふ「わが|出《い》でし|家《いへ》に|歸《かへ》らん」[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|歸《かへ》りて|其《そ》の|家《いへ》の|掃《は》き|淨《きよ》められ、|飾《かざ》られたるを|見《み》、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|往《ゆ》きて|己《おのれ》よりも|惡《あ》しき|他《ほか》の|七《なな》つの|靈《れい》を|連《つ》れきたり、|共《とも》に|入《い》りて|此處《ここ》に|住《す》む。さればその|人《ひと》の|後《のち》の|状《さま》は、|前《まへ》よりも|惡《あ》しくなるなり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことを|言《い》ひ|給《たま》ふとき、|群衆《ぐんじゅう》の|中《うち》より|或《ある》|女《をんな》、|聲《こゑ》をあげて|言《い》ふ『|幸福《さいはひ》なるかな、|汝《なんぢ》を|宿《やど》しし|胎《たい》、なんぢの|哺《す》ひし|乳房《ちぶさ》は』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|更《さら》に|幸福《さいはひ》なるかな、|神《かみ》の|言《ことば》を|聽《き》きて|之《これ》を|守《まも》る|人《ひと》は』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》おし|集《あつま》れる|時《とき》、イエス|言《い》ひ|出《い》でたまふ『|今《いま》の|世《よ》は|邪曲《よこしま》なる|代《よ》にして|徴《しるし》を|求《もと》む。されどヨナの|徴《しるし》のほかに|徴《しるし》は|與《あた》へられじ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]ヨナがニネベの|人《ひと》に|徴《しるし》となりし|如《ごと》く、|人《ひと》の|子《こ》もまた|今《いま》の|代《よ》に|然《しか》らん。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|南《みなみ》の|女王《にょわう》、|審判《さばき》のとき、|今《いま》の|代《よ》の|人《ひと》と|共《とも》に|起《お》きて|之《これ》が|罪《つみ》を|定《さだ》めん。|彼《かれ》はソロモンの|智慧《ちゑ》を|聽《き》かんとて|地《ち》の|極《はて》より|來《きた》れり。|視《み》よ、ソロモンよりも|勝《まさ》るもの|此處《ここ》にあり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ニネベの|人《ひと》、|審判《さばき》のとき、|今《いま》の|代《よ》の|人《ひと》と|共《とも》に|立《た》ちて|之《これ》が|罪《つみ》を|定《さだ》めん。|彼《かれ》らはヨナの|宣《の》ぶる|言《ことば》によりて|悔改《くいあらた》めたり。|視《み》よ、ヨナよりも|勝《まさ》るもの|此處《ここ》に|在《あ》り。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|燈火《ともしび》をともして、|穴藏《あなぐら》の|中《うち》または|升《ます》の|下《した》におく|者《もの》なし。|入《い》り|來《きた》る|者《もの》の|光《ひかり》を|見《み》んために、|燈臺《とうだい》の|上《うへ》に|置《お》くなり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》の|身《み》の|燈火《ともしび》は|目《め》なり、|汝《なんぢ》の|目《め》|正《ただ》しき|時《とき》は、|全身《ぜんしん》|明《あか》るからん。されど|惡《あ》しき|時《とき》は、|身《み》もまた|暗《くら》からん。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》の|内《うち》の|光《ひかり》、|闇《やみ》にはあらぬか、|省《かへり》みよ。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》の|全身《ぜんしん》|明《あか》るくして|暗《くら》き|所《ところ》なくば、|輝《かがや》ける|燈火《ともしび》に|照《てら》さるる|如《ごと》く、その|身《み》|全《まった》く|明《あか》るからん』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|語《かた》り|給《たま》へるとき、|或《ある》パリサイ|人《びと》その|家《いへ》にて|食事《しょくじ》し|給《たま》はん|事《こと》を|請《こ》ひたれば、|入《い》りて|席《せき》に|著《つ》きたまふ。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|食事《しょくじ》|前《まへ》に|手《て》を|洗《あら》ひ|給《たま》はぬを、|此《こ》のパリサイ|人《びと》|見《み》て|怪《あや》しみたれば、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》これに|言《い》ひたまふ『|今《いま》や|汝《なんぢ》らパリサイ|人《びと》は、|酒杯《さかづき》と|盆《ぼん》との|外《そと》を|潔《きよ》くす、されど|汝《なんぢ》らの|内《うち》は|貪慾《どんよく》と|惡《あく》とにて|滿《み》つるなり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|愚《おろか》なる|者《もの》よ、|外《そと》を|造《つく》りし|者《もの》は、|内《うち》をも|造《つく》りしならずや。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|唯《ただ》その|内《うち》にある|物《もの》を|施《ほどこ》せ。さらば|一切《すべて》の|物《もの》なんぢらの|爲《ため》に|潔《きよ》くなるなり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、パリサイ|人《びと》よ、|汝《なんぢ》らは|薄荷《はくか》・|芸香《うんかう》その|他《ほか》あらゆる|野菜《やさい》の|十分《じふぶん》の|一《いち》を|納《をさ》めて、|公平《こうへい》と|神《かみ》に|對《たい》する|愛《あい》とを|等閑《なほざり》にす、されど|之《これ》は|行《おこな》ふべきものなり。|而《しか》して|彼《かれ》もまた|等閑《なほざり》にすべきものならず。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、パリサイ|人《びと》よ、|汝《なんぢ》らは|會堂《くわいだう》の|上座《じゃうざ》、|市場《いちば》にての|敬禮《けいれい》を|喜《よろこ》ぶ。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|汝《なんぢ》らは|露《あらは》れぬ|墓《はか》のごとし。|其《そ》の|上《うへ》を|歩《あゆ》む|人《ひと》これを|知《し》らぬなり』[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|教法師《けうほふし》の|一人《ひとり》、|答《こた》へて|言《い》ふ『|師《し》よ、|斯《か》かることを|言《い》ふは、|我《われ》らをも|辱《はづか》しむるなり』[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|教法師《けうほふし》も|禍害《わざはひ》なる|哉《かな》。なんぢら|擔《にな》ひ|難《かた》き|荷《に》を|人《ひと》に|負《おは》せて、|自《みづか》ら|指《ゆび》|一《ひと》つだに|其《そ》の|荷《に》につけぬなり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|汝《なんぢ》らは|預言者《よげんしゃ》たちの|墓《はか》を|建《た》つ、|之《これ》を|殺《ころ》しし|者《もの》は|汝《なんぢ》らの|先祖《せんぞ》なり。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]げに|汝《なんぢ》らは|先祖《せんぞ》の|所作《しわざ》を|可《よ》しとする|證人《あかしびと》ぞ。それは|彼《かれ》らは|之《これ》を|殺《ころ》し、|汝《なんぢ》らは|其《そ》の|墓《はか》を|建《た》つればなり。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》の|智慧《ちゑ》いへる|言《ことば》あり、われ|預言者《よげんしゃ》と|使徒《しと》とを|彼《かれ》らに|遣《つかは》さんに、その|中《うち》の|或《ある》|者《もの》を|殺《ころ》し、また|逐《お》ひ|苦《くる》しめん。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》の|創《はじめ》より|流《なが》されたる|凡《すべ》ての|預言者《よげんしゃ》の|血《ち》、[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ちアベルの|血《ち》より、|祭壇《さいだん》と|聖所《せいじょ》との|間《あひだ》にて|殺《ころ》されたるザカリヤの|血《ち》に|至《いた》るまでを、|今《いま》の|代《よ》に|糺《ただ》すべきなり。|然《しか》り、われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|今《いま》の|代《よ》は|糺《ただ》さるべし。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな|教法師《けうほふし》よ、なんぢらは|知識《ちしき》の|鍵《かぎ》を|取《と》り|去《さ》りて|自《みづか》ら|入《い》らず、|入《い》らんとする|人《ひと》をも|止《と》めしなり』[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》より|出《い》で|給《たま》へば、|學者《がくしゃ》・パリサイ|人《びと》ら|烈《はげ》しく|詰《つ》め|寄《よ》せて、|樣々《さまざま》のことを|詰《なじ》りはじめ、[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]その|口《くち》より|何事《なにごと》をか|捉《とら》へんと|待構《まちかま》へたり。 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》、|無數《むすう》の|人《ひと》あつまりて、|群衆《ぐんじゅう》ふみ|合《あ》ふばかりなり。イエスまづ|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|出《い》で|給《たま》ふ『なんぢら、パリサイ|人《びと》のパンだねに|心《こころ》せよ、これ|僞善《ぎぜん》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|蔽《おほ》はれたるものに|露《あらは》れぬはなく、|隱《かく》れたるものに|知《し》られぬはなし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らが|暗《くら》きにて|言《い》ふことは、|明《あか》るきにて|聞《きこ》え、|部屋《へや》の|内《うち》にて|耳《みみ》によりて|語《かた》りしことは、|屋《や》の|上《うへ》にて|宣《の》べらるべし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》が|友《とも》たる|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ。|身《み》を|殺《ころ》して|後《のち》に|何《なに》をも|爲《な》し|得《え》ぬ|者《もの》どもを|懼《おそ》るな。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|懼《おそ》るべきものを|汝《なんぢ》らに|示《しめ》さん。|殺《ころ》したる|後《のち》ゲヘナに|投《な》げ|入《い》るる|權威《けんゐ》ある|者《もの》を|懼《おそ》れよ。われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、げに|之《これ》を|懼《おそ》れよ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|五《ご》|羽《は》の|雀《すずめ》は|二錢《にせん》にて|賣《う》るにあらずや、|然《しか》るに|其《そ》の|一《いち》|羽《は》だに|神《かみ》の|前《まへ》に|忘《わす》れらるる|事《こと》なし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|頭《かしら》の|髮《け》までもみな|數《かぞ》へらる。|懼《おそ》るな、|汝《なんぢ》らは|多《おほ》くの|雀《すずめ》よりも|優《すぐ》るるなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|凡《おほよ》そ|人《ひと》の|前《まへ》に|我《われ》を|言《い》ひあらはす|者《もの》を、|人《ひと》の|子《こ》もまた|神《かみ》の|使《つかひ》たちの|前《まへ》にて|言《い》ひあらはさん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]されど|人《ひと》の|前《まへ》にて|我《われ》を|否《いな》む|者《もの》は、|神《かみ》の|使《つかひ》たちの|前《まへ》にて|否《いな》まれん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|言《ことば》をもて|人《ひと》の|子《こ》に|逆《さから》ふ|者《もの》は|赦《ゆる》されん。されど|聖《せい》|靈《れい》を|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]《けが》すものは|赦《ゆる》されじ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》なんぢらを|會堂《くわいだう》、|或《あるひ》は|司《つかさ》、あるひは|權威《けんゐ》ある|者《もの》の|前《まへ》に|引《ひ》きゆかん|時《とき》、いかに|何《なに》を|答《こた》へ、または|何《なに》を|言《い》はんと|思《おも》ひ|煩《わづら》ふな。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|聖《せい》|靈《れい》そのとき|言《い》ふべきことを|教《をし》へ|給《たま》はん』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》のうちの|或《ある》|人《ひと》いふ『|師《し》よ、わが|兄弟《きゃうだい》に|命《めい》じて、|嗣業《しげふ》を|我《われ》に|分《わか》たしめ|給《たま》へ』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|言《い》ひたまふ『|人《ひと》よ、|誰《たれ》が|我《われ》を|立《た》てて|汝《なんぢ》らの|裁判人《さいばんにん》また|分配《ぶんぱい》|者《もの》とせしぞ』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|人々《ひとびと》に|言《い》ひたまふ『|愼《つつし》みて|凡《すべ》ての|慳貪《むさぼり》をふせげ、|人《ひと》の|生命《いのち》は|所有《もちもの》の|豐《ゆたか》なるには|因《よ》らぬなり』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]また|譬《たとへ》を|語《かた》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『ある|富《と》める|人《ひと》、その|畑《はた》|豐《ゆたか》に|實《みの》りたれば、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|心《こころ》の|中《うち》に|議《はか》りて|言《い》ふ「われ|如何《いか》にせん、|我《わ》が|作物《さくもつ》を|藏《をさ》めおく|處《ところ》なし」[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|言《い》ふ「われ|斯《か》く|爲《な》さん、わが|倉《くら》を|毀《こぼ》ち、|更《さら》に|大《おほい》なるものを|建《た》てて、|其處《そこ》にわが|穀物《こくもつ》および|善《よ》き|物《もの》をことごとく|藏《をさ》めん。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくてわが|靈魂《たましひ》に|言《い》はん、|靈魂《たましひ》よ、|多年《たねん》を|過《すご》すに|足《た》る|多《おほ》くの|善《よ》き|物《もの》を|貯《たくは》へたれば、|安《やす》んぜよ、|飮食《のみくひ》せよ、|樂《たの》しめよ」[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|神《かみ》かれに「|愚《おろか》なる|者《もの》よ、|今宵《こよひ》なんぢの|靈魂《たましひ》とらるべし、さらば|汝《なんぢ》の|備《そな》へたる|物《もの》は、|誰《たれ》がものとなるべきぞ」と|言《い》ひ|給《たま》へり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|己《おのれ》のために|財《たから》を|貯《たくは》へ、|神《かみ》に|對《たい》して|富《と》まぬ|者《もの》は|斯《か》くのごとし』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]また|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『この|故《ゆゑ》にわれ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|何《なに》を|食《くら》はんと|生命《いのち》のことを|思《おも》ひ|煩《わづら》ひ、|何《なに》を|著《き》んと|體《からだ》のことを|思《おも》ひ|煩《わづら》ふな。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|生命《いのち》は|糧《かて》にまさり、|體《からだ》は|衣《ころも》に|勝《まさ》るなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|鴉《からす》を|思《おも》ひ|見《み》よ、|播《ま》かず、|刈《か》らず、|納屋《なや》も|倉《くら》もなし。|然《しか》るに|神《かみ》は|之《これ》を|養《やしな》ひたまふ、|汝《なんぢ》ら|鳥《とり》に|優《すぐ》るること|幾許《いくばく》ぞや。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》たれか|思《おも》ひ|煩《わづら》ひて、|身《み》の|長《たけ》|一尺《いっしゃく》を|加《くは》へ|得《え》んや。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]されば|最《いと》|小《ちひさ》き|事《こと》すら|能《あた》はぬに、|何《なに》ぞ|他《ほか》のことを|思《おも》ひ|煩《わづら》ふか。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|百合《ゆり》を|思《おも》ひ|見《み》よ、|紡《つむ》がず、|織《お》らざるなり。されど|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|榮華《えいぐわ》を|極《きは》めたるソロモンだに、|其《そ》の|服裝《よそほひ》この|花《はな》の|一《ひと》つにも|及《し》かざりき。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|今日《けふ》ありて、|明日《あす》|爐《ろ》に|投《な》げ|入《い》れらるる|野《の》の|草《くさ》をも、|神《かみ》は|斯《か》く|裝《よそほ》ひ|給《たま》へば、|況《まし》て|汝《なんぢ》らをや、ああ|信仰《しんかう》うすき|者《もの》よ、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|何《なに》を|食《く》ひ|何《なに》を|飮《の》まんと|求《もと》むな、また|心《こころ》を|動《うご》かすな。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》みな|世《よ》の|異邦人《いはうじん》の|切《せつ》に|求《もと》むる|所《ところ》なれど、|汝《なんぢ》らの|父《ちち》は、|此《これ》|等《ら》の|物《もの》のなんぢらに|必要《ひつえう》なるを|知《し》り|給《たま》へばなり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]ただ|父《ちち》の|御國《みくに》を|求《もと》めよ。さらば|此《これ》|等《ら》の|物《もの》は、なんぢらに|加《くは》へらるべし。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|懼《おそ》るな、|小《ちひさ》き|群《むれ》よ、なんぢらに|御國《みくに》を|賜《たま》ふことは、|汝《なんぢ》らの|父《ちち》の|御意《みこころ》なり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|所有《もちもの》を|賣《う》りて|施濟《ほどこし》をなせ。|己《おの》がために|舊《ふる》びぬ|財布《さいふ》をつくり、|盡《つ》きぬ|財寶《たから》を|天《てん》に|貯《たくは》へよ。かしこは|盜人《ぬすびと》も|近《ちか》づかず、|蟲《むし》も|壞《やぶ》らぬなり、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|財寶《たから》のある|所《ところ》には、|汝《なんぢ》らの|心《こころ》もあるべし。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|腰《こし》に|帶《おび》し、|燈火《ともしび》をともして|居《を》れ。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》、|婚筵《こんえん》より|歸《かへ》り|來《きた》りて|戸《と》を|叩《たた》かば、|直《ただ》ちに|開《ひら》くために|待《ま》つ|人《ひと》のごとくなれ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》の|來《きた》るとき、|目《め》を|覺《さま》しをるを|見《み》らるる|僕《しもべ》どもは|幸福《さいはひ》なるかな。われ|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|主人《しゅじん》|帶《おび》して|其《そ》の|僕《しもべ》どもを|食事《しょくじ》の|席《せき》に|就《つ》かせ、|進《すす》みて|給仕《きふじ》すべし。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》、|夜《よ》の|半《なかば》ごろ|若《もし》くは|夜《よ》の|明《あ》くる|頃《ころ》に|來《きた》るとも、かくの|如《ごと》くなるを|見《み》らるる|僕《しもべ》どもは|幸福《さいはひ》なり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|之《これ》を|知《し》れ、|家主《いへあるじ》もし|盜人《ぬすびと》いづれの|時《とき》|來《きた》るかを|知《し》らば、その|家《いへ》を|穿《うが》たすまじ。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らも|備《そな》へをれ。|人《ひと》の|子《こ》は|思《おも》はぬ|時《とき》に|來《きた》ればなり』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、この|譬《たとへ》を|言《い》ひ|給《たま》ふは|我《われ》らにか、また|凡《すべ》ての|人《ひと》にか』[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ『|主人《しゅじん》が|時《とき》に|及《およ》びて|僕《しもべ》どもに|定《さだめ》の|糧《かて》を|與《あた》へさする|爲《ため》に、その|僕《しもべ》どもの|上《うへ》に|立《た》つる|忠實《まめやか》にして|慧《さと》き|支配人《しはいにん》は|誰《たれ》なるか、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》のきたる|時《とき》、かく|爲《な》し|居《を》るを|見《み》らるる|僕《しもべ》は|幸福《さいはひ》なるかな。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]われ|實《まこと》をもて|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|主人《しゅじん》すべての|所有《もちもの》を|彼《かれ》に|掌《つかさ》どらすべし。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しその|僕《しもべ》、|心《こころ》のうちに、|主人《しゅじん》の|來《きた》るは|遲《おそ》しと|思《おも》ひ、|僕《しもべ》・|婢女《はしため》をたたき、|飮食《のみくひ》して|醉《ゑ》ひ|始《はじ》めなば、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]その|僕《しもべ》の|主人《しゅじん》、おもはぬ|日《ひ》|知《し》らぬ|時《とき》に|來《きた》りて、|之《これ》を|烈《はげ》しく|笞《しもと》うち、その|報《むくい》を|不《ふ》|忠《ちゅう》|者《もの》と|同《おな》じうせん。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》の|意《こころ》を|知《し》りながら|用意《ようい》せず、|又《また》その|意《こころ》に|從《したが》はぬ|僕《しもべ》は、|笞《しもと》うたるること|多《おほ》からん。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]されど|知《し》らずして|打《う》たるべき|事《こと》をなす|者《もの》は、|笞《しもと》うたるること|少《すくな》からん。|多《おほ》く|與《あた》へらるる|者《もの》は、|多《おほ》く|求《もと》められん。|多《おほ》く|人《ひと》に|托《あづ》くれば、|更《さら》に|多《おほ》くその|人《ひと》より|請《こ》ひ|求《もと》むべし。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|火《ひ》を|地《ち》に|投《とう》ぜんとて|來《きた》れり。|此《こ》の|火《ひ》すでに|燃《も》えたらんには、|我《われ》また|何《なに》をか|望《のぞ》まん。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》には|受《う》くべきバプテスマあり。その|成《な》し|遂《と》げらるるまでは、|思《おも》ひ|逼《せま》ること|如何《いか》ばかりぞや。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]われ|地《ち》に|平和《へいわ》を|與《あた》へんために|來《きた》ると|思《おも》ふか。われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|然《しか》らず、|反《かへ》つて|分爭《ぶんさう》なり。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》よりのち|一家《いっか》に|五《ご》|人《にん》あらば、|三人《さんにん》は|二人《ふたり》に、|二人《ふたり》は|三人《さんにん》に|分《わか》れ|爭《あらそ》はん。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》は|子《こ》に、|子《こ》は|父《ちち》に、|母《はは》は|娘《むすめ》に、|娘《むすめ》は|母《はは》に、|姑姆《しうとめ》は|嫁《よめ》に、|嫁《よめ》は|姑姆《しうとめ》に|分《わか》れ|爭《あらそ》はん』[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]イエスまた|群衆《ぐんじゅう》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|雲《くも》の|西《にし》より|起《おこ》るを|見《み》れば、|直《ただ》ちに|言《い》ふ「|急雨《はやさめ》きたらん」と、|果《はた》して|然《しか》り。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]また|南《みなみ》|風《かぜ》ふけば、|汝《なんぢ》|等《ら》いふ「|強《つよ》き|暑《あつさ》あらん」と、|果《はた》して|然《しか》り。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]|僞善者《ぎぜんしゃ》よ、|汝《なんぢ》ら|天《てん》|地《ち》の|氣色《けはひ》を|辨《わきま》ふることを|知《し》りて、|今《いま》の|時《とき》を|辨《わきま》ふること|能《あた》はぬは|何《なに》ぞや。[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]また|何《なに》|故《ゆゑ》みづから|正《ただ》しき|事《こと》を|定《さだ》めぬか。[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|訴《うった》ふる|者《もの》とともに|司《つかさ》に|往《ゆ》くとき、|途《みち》にて|和解《わかい》せんことを|力《つと》めよ。|恐《おそ》らくは|訴《うった》ふる|者《もの》なんぢを|審判《さばき》|人《ひと》に|引《ひ》きゆき、|審判《さばき》|人《ひと》なんぢを|下役《したやく》にわたし、|下役《したやく》なんぢを|獄《ひとや》に|投《な》げ|入《い》れん。[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、|一《いち》レプタも|殘《のこ》りなく|償《つくの》はずば、|其處《そこ》に|出《い》づること|能《あた》はじ』 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]その|折《をり》しも|或《ある》|人々《ひとびと》きたりて、ピラトがガリラヤ|人《ひと》らの|血《ち》を|彼《かれ》らの|犧牲《いけにへ》にまじへたりし|事《こと》をイエスに|告《つ》げたれば、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『かのガリラヤ|人《ひと》は|斯《か》かることに|遭《あ》ひたる|故《ゆゑ》に、|凡《すべ》てのガリラヤ|人《ひと》に|勝《まさ》れる|罪人《つみびと》なりしと|思《おも》ふか。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|然《しか》らず、|汝《なんぢ》らも|悔改《くいあらた》めずば|皆《みな》おなじく|亡《ほろ》ぶべし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》シロアムの|櫓《やぐら》たふれて、|壓《お》し|殺《ころ》されし|十《じふ》|八人《はちにん》は、エルサレムに|住《す》める|凡《すべ》ての|人《ひと》に|勝《まさ》りて、|罪《つみ》の|負債《おひめ》ある|者《もの》なりしと|思《おも》ふか。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|然《しか》らず、|汝《なんぢ》らも|悔改《くいあらた》めずば、みな|斯《か》くのごとく|亡《ほろ》ぶべし』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》この|譬《たとへ》を|語《かた》りたまふ『|或《ある》|人《ひと》おのが|葡萄園《ぶだうぞの》に|植《う》ゑありし|無花果《いちぢく》の|樹《き》に|來《きた》りて、|果《み》を|求《もと》むれども|得《え》ずして、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|園丁《そのつくり》に|言《い》ふ「|視《み》よ、われ|三年《さんねん》きたりて|此《こ》の|無花果《いちぢく》の|樹《き》に|果《み》を|求《もと》むれども|得《え》ず。これを|伐《き》り|倒《たふ》せ、|何《なに》ぞ|徒《いたづ》らに|地《ち》を|塞《ふさ》ぐか」[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ「|主《しゅ》よ、|今年《ことし》も|容《ゆる》したまへ、|我《われ》その|周圍《まはり》を|掘《ほ》りて|肥料《こやし》せん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]そののち|果《み》を|結《むす》ばば|善《よ》し、もし|結《むす》ばずば|伐《き》り|倒《たふ》したまへ」』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|安息《あんそく》|日《にち》に|或《ある》|會堂《くわいだう》にて|教《をしへ》えたまふ|時《とき》、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|十《じふ》|八《はち》|年《ねん》のあひだ|病《やまひ》の|靈《れい》に|憑《つ》かれたる|女《をんな》あり、|屈《かが》まりて|少《すこ》しも|伸《の》ぶること|能《あた》はず。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]イエスこの|女《をんな》を|見《み》、|呼《よ》び|寄《よ》せて『|女《をんな》よ、なんぢは|病《やまひ》より|解《と》かれたり』と|言《い》ひ、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|手《て》を|按《お》きたまへば、|立刻《たちどころ》に|身《み》を|直《すぐ》にして|神《かみ》を|崇《あが》めたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|會堂《くわいだう》|司《つかさ》イエスの|安息《あんそく》|日《にち》に|病《やまひ》を|醫《いや》し|給《たま》ひしことを|憤《いきど》ほり、|答《こた》へて|群衆《ぐんじゅう》に|言《い》ふ『|働《はたら》くべき|日《ひ》は|六日《むゆか》あり、その|間《あひだ》に|來《きた》りて|醫《いや》されよ。|安息《あんそく》|日《にち》には|爲《せ》ざれ』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》こたへて|言《い》ひたまふ『|僞善者《ぎぜんしゃ》らよ、|汝《なんぢ》|等《ら》おのおの|安息《あんそく》|日《にち》には、|己《おの》が|牛《うし》または|驢馬《ろば》を|小屋《こや》より|解《と》きいだし、|水《みづ》|飼《か》はんとて|牽《ひ》き|往《ゆ》かぬか。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]さらば|長《なが》き|十《じふ》|八《はち》|年《ねん》の|間《あひだ》サタンに|縛《しば》られたるアブラハムの|娘《むすめ》なる|此《こ》の|女《をんな》は、|安息《あんそく》|日《にち》にその|繋《つなぎ》より|解《と》かるべきならずや』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此《これ》|等《ら》のことを|言《い》ひ|給《たま》へば、|逆《さから》ふ|者《もの》はみな|恥《は》ぢ、|群衆《ぐんじゅう》は|擧《こぞ》りてその|爲《な》し|給《たま》へる|榮光《えいくわう》ある|凡《すべ》ての|業《わざ》を|喜《よろこ》べり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエス|言《い》ひたまふ『|神《かみ》の|國《くに》は|何《なに》に|似《に》たるか、|我《われ》これを|何《なに》に|擬《なずら》へん、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|一粒《ひとつぶ》の|芥種《からしだね》のごとし。|人《ひと》これを|取《と》りて|己《おのれ》の|園《その》に|播《ま》きたれば、|育《そだ》ちて|樹《き》となり、|空《そら》の|鳥《とり》その|枝《えだ》に|宿《やど》れり』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひたまふ『|神《かみ》の|國《くに》を|何《なに》に|擬《なずら》へんか、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]パン|種《だね》のごとし。|女《をんな》これを|取《と》りて、|三《さん》|斗《と》の|粉《こな》の|中《なか》に|入《い》るれば、ことごとく|脹《ふく》れいだすなり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|教《をし》へつつ|町々《まちまち》|村々《むらむら》を|過《す》ぎて、エルサレムに|旅《たび》し|給《たま》ふとき、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》いふ『|主《しゅ》よ、|救《すく》はるる|者《もの》は|少《すくな》きか』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|人々《ひとびと》に|言《い》ひたまふ『|力《ちから》を|盡《つく》して|狭《せま》き|門《もん》より|入《い》れ。|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|入《い》らん|事《こと》を|求《もと》めて|入《い》り|能《あた》はぬ|者《もの》おほからん。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|家主《いへあるじ》おきて|門《もん》を|閉《と》ぢたる|後《のち》、なんぢら|外《そと》に|立《た》ちて「|主《しゅ》よ、|我《われ》らに|開《ひら》き|給《たま》へ」と|言《い》ひつつ|門《もん》を|叩《たた》き|始《はじ》めんに、|主人《あるじ》こたへて「われ|汝《なんぢ》らが|何處《いづこ》の|者《もの》なるかを|知《し》らず」と|言《い》はん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》「われらは|御前《みまへ》にて|飮食《のみくひ》し、なんぢは、|我《われ》らの|町《まち》の|大路《おほじ》にて|教《をし》へ|給《たま》へり」と|言《い》ひ|出《い》でんに、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|主人《あるじ》こたへて「われ|汝《なんぢ》らが|何處《いづこ》の|者《もの》なるかを|知《し》らず、|惡《あく》をなす|者《もの》どもよ、|皆《みな》われを|離《はな》れ|去《さ》れ」と|言《い》はん。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らアブラハム、イサク、ヤコブ|及《およ》び|凡《すべ》ての|預言者《よげんしゃ》の、|神《かみ》の|國《くに》に|居《を》り、|己《おのれ》らの|逐《お》ひ|出《いだ》さるるを|見《み》ば、|其處《そこ》にて|哀哭《なげき》・|切齒《はがみ》する|事《こと》あらん。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]また|人々《ひとびと》、|東《ひがし》より|西《にし》より|南《みなみ》より|北《きた》より|來《きた》りて、|神《かみ》の|國《くに》の|宴《えん》に|就《つ》くべし。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|後《あと》なる|者《もの》の|先《さき》になり、|先《さき》なる|者《もの》の|後《あと》になる|事《こと》あらん』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]そのとき|或《ある》パリサイ|人《びと》らイエスに|來《きた》りて|言《い》ふ『いでて|此處《ここ》を|去《さ》り|給《たま》へ、ヘロデ|汝《なんぢ》を|殺《ころ》さんとす』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|往《ゆ》きてかの|狐《きつね》に|言《い》へ。|視《み》よ、われ|今日《けふ》|明日《あす》、|惡鬼《あくき》を|逐《お》ひ|出《いだ》し、|病《やまひ》を|醫《いや》し、|而《しか》して|三日《みっか》めに|全《まった》うせられん。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]されど|今日《けふ》も|明日《あす》も|次《つぎ》の|日《ひ》も|我《われ》は|進《すす》み|往《ゆ》くべし。それ|預言者《よげんしゃ》のエルサレムの|外《ほか》にて|死《し》ぬることは|有《あ》るまじきなり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|噫《ああ》エルサレム、エルサレム、|預言者《よげんしゃ》たちを|殺《ころ》し、|遣《つかは》されたる|人々《ひとびと》を|石《いし》にて|撃《う》つ|者《もの》よ、|牝鷄《めんどり》の|己《おの》が|雛《ひな》を|翼《つばさ》のうちに|集《あつ》むるごとく、|我《われ》なんぢの|子《こ》どもを|集《あつ》めんとせしこと|幾度《いくたび》ぞや。されど|汝《なんぢ》らは|好《この》まざりき。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|汝《なんぢ》らの|家《いへ》は|棄《す》てられて|汝《なんぢ》らに|遺《のこ》らん。|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、「|讃《ほ》むべきかな、|主《しゅ》の|名《な》によりて|來《きた》る|者《もの》」と、|汝《なんぢ》らの|言《い》ふ|時《とき》の|至《いた》るまでは、|我《われ》を|見《み》ざるべし』 第一四章[#「第一四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|安息《あんそく》|日《にち》に|食事《しょくじ》せんとて、|或《ある》パリサイ|人《びと》の|頭《かしら》の|家《いへ》に|入《い》り|給《たま》へば、|人々《ひとびと》これを|窺《うかが》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|御前《みまへ》に|水腫《すゐき》をわづらふ|人《ひと》ゐたれば、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|教法師《けうほふし》とパリサイ|人《びと》とに|言《い》ひたまふ『|安息《あんそく》|日《にち》に|人《ひと》を|醫《いや》すことは|善《よ》しや、|否《いな》や』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かれら|默然《もくねん》たり。イエスその|人《ひと》を|執《と》り、|醫《いや》して|去《さ》らしめ、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》かれらに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらの|中《うち》その|子《こ》あるひは|其《そ》の|牛《うし》、|井《ゐ》に|陷《おちい》らんに、|安息《あんそく》|日《にち》には|直《ただ》ちに|之《これ》を|引揚《ひきあ》げぬ|者《もの》あるか』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》これに|對《たい》して|物《もの》|言《い》ふこと|能《あた》はず。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|招《まね》かれたる|者《もの》の|上席《じゃうせき》をえらぶを|見《み》、|譬《たとへ》をかたりて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢ|婚筵《こんえん》に|招《まね》かるるとき、|上席《じゃうせき》に|著《つ》くな。|恐《おそ》らくは|汝《なんぢ》よりも|貴《たふと》き|人《ひと》の|招《まね》かれんに、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》と|彼《かれ》とを|招《まね》きたる|者《もの》きたりて「この|人《ひと》に|席《せき》を|讓《ゆづ》れ」と|言《い》はん。さらば|其《そ》の|時《とき》なんぢ|恥《は》ぢて|末席《ばっせき》に|往《ゆ》きはじめん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|招《まね》かるるとき、|寧《むし》ろ|往《ゆ》きて|末席《ばっせき》に|著《つ》け、さらば|招《まね》きたる|者《もの》きたりて「|友《とも》よ、|上《かみ》に|進《すす》め」と|言《い》はん。その|時《とき》なんぢ|同席《どうせき》の|者《もの》の|前《まへ》に|譽《ほまれ》あるべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そおのれを|高《たか》うする|者《もの》は|卑《ひく》うせられ、|己《おのれ》を|卑《ひく》うする|者《もの》は|高《たか》うせらるるなり』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]また|己《おのれ》を|招《まね》きたる|者《もの》にも|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢ|晝餐《ひるげ》または|夕餐《ゆふげ》を|設《まう》くるとき、|朋友《ほういう》・|兄弟《きゃうだい》・|親族《しんぞく》・|富《と》める|隣《となり》|人《ひと》などをよぶな。|恐《おそ》らくは|彼《かれ》らも|亦《また》なんぢを|招《まね》きて|報《むくい》をなさん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|饗宴《ふるまひ》を|設《まう》くる|時《とき》は、|寧《むし》ろ|貧《まづ》しき|者《もの》・|不具《かたは》・|跛者《あしなへ》・|盲人《めしひ》などを|招《まね》け。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|報《むく》ゆること|能《あた》はぬ|故《ゆゑ》に、なんぢ|幸福《さいはひ》なるべし。|正《ただ》しき|者《もの》の|復活《よみがへり》の|時《とき》に|報《むく》いらるるなり』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|同席《どうせき》の|者《もの》の|一人《ひとり》これらの|事《こと》を|聞《き》きてイエスに|言《い》ふ『おほよそ|神《かみ》の|國《くに》にて|食事《しょくじ》する|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|言《い》ひたまふ『|或《ある》|人《ひと》、|盛《さかん》なる|夕餐《ゆふげ》を|設《まう》けて、|多《おほ》くの|人《ひと》を|招《まね》く。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|夕餐《ゆふげ》の|時《とき》いたりて、|招《まね》きおきたる|者《もの》の|許《もと》に|僕《しもべ》を|遣《つかは》して「|來《きた》れ、|既《すで》に|備《そなは》りたり」と|言《い》はしめたるに、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|皆《みな》ひとしく|辭《ことわ》りはじむ。|初《はじめ》の|者《もの》いふ「われ|田地《でんち》を|買《か》へり。|往《ゆ》きて|見《み》ざるを|得《え》ず。|請《こ》ふ、|許《ゆる》されんことを」[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|者《もの》いふ「われ|五《いつ》|耜《くびき》の|牛《うし》を|買《か》へり、|之《これ》を|驗《ため》すために|往《ゆ》くなり。|請《こ》ふ、|許《ゆる》されんことを」[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》も|者《もの》いふ「われ|妻《つま》を|娶《めと》れり、|此《こ》の|故《ゆゑ》に|往《ゆ》くこと|能《あた》はず」[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》かへりて|此《これ》|等《ら》の|事《こと》をその|主人《しゅじん》に|告《つ》ぐ、|家主《いへあるじ》いかりて|僕《しもべ》に|言《い》ふ「とく|町《まち》の|大路《おほじ》と|小路《こうぢ》とに|往《ゆ》きて、|貧《まづ》しき|者《もの》・|不具《かたは》|者《もの》・|盲人《めしひ》・|跛者《あしなへ》などを|此處《ここ》に|連《つ》れきたれ」[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》いふ「|主《しゅ》よ、|仰《おほせ》のごとく|爲《な》したれど、|尚《な》ほ|餘《あまり》の|席《せき》あり」[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》、|僕《しもべ》に|言《い》ふ「|道《みち》や|籬《まがき》の|邊《ほとり》にゆき、|人々《ひとびと》を|強《し》ひて|連《つ》れきたり、|我《わ》が|家《いへ》に|充《み》たしめよ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、かの|招《まね》きおきたる|者《もの》のうち、|一人《ひとり》だに|我《わ》が|夕餐《ゆふげ》を|味《あぢは》ひ|得《う》る|者《もの》なし」』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]さて|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》イエスに|伴《ともな》ひゆきたれば、|顧《かへり》みて|之《これ》に|言《い》ひたまふ、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]『|人《ひと》もし|我《われ》に|來《きた》りて、その|父《ちち》|母《はは》・|妻《つま》|子《こ》・|兄弟《きゃうだい》・|姉妹《しまい》・|己《おの》が|生命《いのち》までも|憎《にく》まずば、|我《わ》が|弟子《でし》となるを|得《え》ず。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]また|己《おの》が|十字架《じふじか》を|負《お》ひて|我《われ》に|從《したが》ふ|者《もの》ならでは、|我《わ》が|弟子《でし》となるを|得《え》ず。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》たれか|櫓《やぐら》を|築《きづ》かんと|思《おも》はば、|先《ま》づ|坐《ざ》して|其《そ》の|費《つひえ》をかぞへ、|己《おの》が|所有《もちもの》、|竣工《しゅんこう》までに|足《た》るか|否《いな》かを|計《はか》らざらんや。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》らずして|基《もとゐ》を|据《す》ゑ、もし|成就《じゃうじゅ》すること|能《あた》はずば、|見《み》る|者《もの》みな|嘲笑《あざけり》ひて、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]「この|人《ひと》は|築《きづ》きかけて|成就《じゃうじゅ》すること|能《あた》はざりき」と|言《い》はん。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》いづれの|王《わう》か|出《い》でて|他《ほか》の|王《わう》と|戰爭《たたかひ》をせんに、|先《ま》づ|坐《ざ》して、|此《こ》の|一萬《いちまん》|人《にん》をもて、かの|二萬《にまん》|人《にん》を|率《ひき》ゐきたる|者《もの》に|對《むか》ひ|得《う》るか|否《いな》か|籌《はか》らざらんや。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]もし|及《し》かずば、|敵《てき》なほ|遠《とほ》く|隔《へだて》るうちに、|使《つかひ》を|遣《つかは》して|和睦《わぼく》を|請《こ》ふべし。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かくのごとく、|汝《なんぢ》らの|中《うち》その|一切《すべて》の|所有《もちもの》を|退《しりぞ》くる|者《もの》ならでは、|我《わ》が|弟子《でし》となるを|得《え》ず。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|鹽《しほ》は|善《よ》きものなり、|然《さ》れど|鹽《しほ》もし|效力《かうりょく》を|失《うしな》はば、|何《なに》によりてか|味《あぢ》つけられん。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|土《つち》にも|肥料《こやし》にも|適《てき》せず、|外《そと》に|棄《す》てらるるなり。|聽《き》く|耳《みみ》ある|者《もの》は|聽《き》くべし』 第一五章[#「第一五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|取税人《しゅぜいにん》、|罪人《つみびと》ども、みな|御言《みことば》を|聽《き》かんとて|近寄《ちかよ》りたれば、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》・|學者《がくしゃ》ら|呟《つぶや》きて|言《い》ふ、『この|人《ひと》は|罪人《つみびと》を|迎《むか》へて|食《しょく》を|共《とも》にす』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》に|譬《たとへ》を|語《かた》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢらの|中《うち》たれか|百匹《ひゃくひき》の|羊《ひつじ》を|有《も》たんに、|若《もし》その|一匹《いっぴき》を|失《うしな》はば、|九《く》|十《じふ》|九《く》|匹《ひき》を|野《の》におき、|往《ゆ》きて|失《う》せたる|者《もの》を|見《み》|出《いだ》すまでは|尋《たづ》ねざらんや。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|見出《みいだ》さば、|喜《よろこ》びて|之《これ》を|己《おの》が|肩《かた》にかけ、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|家《いへ》に|歸《かへ》りて|其《そ》の|友《とも》と|隣《となり》|人《ひと》とを|呼《よ》び|集《あつ》めて|言《い》はん「|我《われ》とともに|喜《よろこ》べ、|失《う》せたる|我《わ》が|羊《ひつじ》を|見出《みいだ》せり」[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、かくのごとく|悔改《くいあらた》むる|一人《ひとり》の|罪人《つみびと》のためには、|悔改《くいあらため》の|必要《ひつえう》なき|九《く》|十《じふ》|九《く》|人《にん》の|正《ただ》しき|者《もの》にも|勝《まさ》りて、|天《てん》に|歡喜《よろこび》あるべし。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》いづれの|女《をんな》か|銀貨《ぎんくわ》|十《じふ》|枚《まい》を|有《も》たんに、|若《も》しその|一《いち》|枚《まい》を|失《うしな》はば、|燈火《ともしび》をともし、|家《いへ》を|掃《は》きて|見《み》|出《いだ》すまでは|懇《ねんご》ろに|尋《たづ》ねざらんや。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|見出《みいだ》さば、|其《そ》の|友《とも》と|隣《となり》|人《ひと》とを|呼《よ》び|集《あつ》めて|言《い》はん、「|我《われ》とともに|喜《よろこ》べ、わが|失《うしな》ひたる|銀貨《ぎんくわ》を|見出《みいだ》せり」[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、かくのごとく|悔改《くいあらた》むる|一人《ひとり》の|罪人《つみびと》のために、|神《かみ》の|使《つかひ》たちの|前《まへ》に|歡喜《よろこび》あるべし』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひたまふ『|或《ある》|人《ひと》に|二人《ふたり》の|息子《むすこ》あり、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|弟《おとうと》、|父《ちち》に|言《い》ふ「|父《ちち》よ、|財産《ざいさん》のうち|我《わ》が|受《う》くべき|分《ぶん》を|我《われ》にあたへよ」|父《ちち》その|身代《しんだい》を|二人《ふたり》に|分《わ》けあたふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|幾日《いくひ》も|經《へ》ぬに、|弟《おとうと》おのが|物《もの》をことごとく|集《あつ》めて、|遠國《ゑんごく》にゆき、|其處《そこ》にて|放蕩《はうたう》にその|財産《ざいさん》を|散《ちら》せり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ことごとく|費《つひや》したる|後《のち》、その|國《くに》に|大《おほい》なる|饑饉《ききん》おこり、|自《みづか》ら|乏《とぼ》しくなり|始《はじ》めたれば、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|往《ゆ》きて|其《そ》の|地《ち》の|或《ある》|人《ひと》に|依附《よりすが》りしに、|其《そ》の|人《ひと》かれを|畑《はた》に|遣《つかは》して|豚《ぶた》を|飼《か》はしむ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かれ|豚《ぶた》の|食《くら》ふ|蝗《いなご》|豆《まめ》にて、|己《おの》が|腹《はら》を|充《みた》さんと|思《おも》ふ|程《ほど》なれど、|何《なに》をも|與《あた》ふる|人《ひと》なかりき。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》のとき|我《われ》に|反《かへ》りて|言《い》ふ『わが|父《ちち》の|許《もと》には|食物《しょくもつ》あまれる|雇人《やとひびと》いくばくぞや、|然《しか》るに|我《われ》は|飢《う》ゑてこの|處《ところ》に|死《し》なんとす。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|起《た》ちて|我《わ》が|父《ちち》にゆき「|父《ちち》よ、われは|天《てん》に|對《たい》し、また|汝《なんぢ》の|前《まへ》に|罪《つみ》を|犯《をか》したり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》より|汝《なんぢ》の|子《こ》と|稱《とな》へらるるに|相應《ふさは》しからず、|雇人《やとひびと》の|一人《ひとり》のごとく|爲《な》し|給《たま》へ』と|言《い》はん」[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|起《た》ちて|其《そ》の|父《ちち》のもとに|往《ゆ》く。なほ|遠《とほ》く|隔《へだて》りたるに、|父《ちち》これを|見《み》て|憫《あはれ》み、|走《はし》りゆき、|其《そ》の|頸《くび》を|抱《いだ》きて|接吻《くちつけ》せり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|子《こ》、|父《ちち》にいふ「|父《ちち》よ、|我《われ》は|天《てん》に|對《たい》し|又《また》なんぢの|前《まへ》に|罪《つみ》を|犯《をか》したり。|今《いま》より|汝《なんぢ》の|子《こ》と|稱《とな》へらるるに|相應《ふさは》しからず」[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されど|父《ちち》、|僕《しもべ》どもに|言《い》ふ「とくとく|最上《さいじゃう》の|衣《ころも》を|持《も》ち|來《きた》りて|之《これ》に|著《き》せ、その|手《て》に|指輪《ゆびわ》をはめ、|其《そ》の|足《あし》に|鞋《くつ》をはかせよ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]また|肥《こ》えたる|犢《こうし》を|牽《ひ》ききたりて|屠《ほふ》れ、|我《われ》ら|食《しょく》して|樂《たの》しまん。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]この|我《わ》が|子《こ》、|死《し》にて|復《また》|生《い》き、|失《う》せて|復《また》|得《え》られたり」かくて|彼《かれ》ら|樂《たの》しみ|始《はじ》む。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|其《そ》の|兄《あに》、|畑《はた》にありしが、|歸《かへ》りて|家《いへ》に|近《ちか》づきたるとき、|音樂《なりもの》と|舞踏《をどり》との|音《おと》を|聞《き》き、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》の|一人《ひとり》を|呼《よ》びてその|何事《なにごと》なるかを|問《と》ふ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ「なんぢの|兄弟《きゃうだい》|歸《かへ》りたり、その|恙《つつが》なきを|迎《むか》へたれば、|汝《なんぢ》の|父《ちち》|肥《こ》えたる|犢《こうし》を|屠《ほふ》れるなり」[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|兄《あに》|怒《いか》りて|内《うち》に|入《い》ることを|好《この》まざりしかば、|父《ちち》いでて|勸《すす》めしに、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|父《ちち》に|言《い》ふ「|視《み》よ、|我《われ》は|幾歳《いくとせ》もなんぢに|仕《つか》へて、|未《いま》だ|汝《なんぢ》の|命令《めいれい》に|背《そむ》きし|事《こと》なきに、|我《われ》には|小《こ》|山羊《やぎ》|一匹《いっぴき》だに|與《あた》へて|友《とも》と|樂《たの》しましめし|事《こと》なし。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|遊女《あそびめ》らと|共《とも》に、|汝《なんぢ》の|身代《しんだい》を|食《くら》ひ|盡《つく》したる|此《こ》の|汝《なんぢ》の|子《こ》|歸《かへ》り|來《きた》れば、|之《これ》がために|肥《こ》えたる|犢《こうし》を|屠《ほふ》れり」[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》いふ「|子《こ》よ、なんぢは|常《つね》に|我《われ》とともに|在《あ》り、わが|物《もの》は|皆《みな》なんぢの|物《もの》なり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]されど|此《こ》の|汝《なんぢ》の|兄弟《きゃうだい》は|死《し》にて|復《また》|生《い》き、|失《う》せて|復《また》|得《え》られたれば、|我《われ》らの|樂《たの》しみ|喜《よろこ》ぶは|當然《たうぜん》なり」』 第一六章[#「第一六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエスまた|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『|或《ある》|富《と》める|人《ひと》に|一人《ひとり》の|支配人《しはいにん》あり、|主人《しゅじん》の|所有《もちもの》を|費《つひや》しをりと|訴《うった》へられたれば、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》かれを|呼《よ》びて|言《い》ふ「わが|汝《なんぢ》につきて|聞《き》く|所《ところ》は、これ|何事《なにごと》ぞ、|務《つとめ》の|報告《はうこく》をいだせ、|汝《なんぢ》こののち|支配人《しはいにん》たるを|得《え》じ」[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|支配人《しはいにん》|心《こころ》のうちに|言《い》ふ「|如何《いか》にせん、|主人《しゅじん》わが|職《つとめ》を|奪《うば》ふ。われ|土《つち》|掘《ほ》るには|力《ちから》なく、|物《もの》|乞《こ》ふは|恥《はづ》かし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なすべき|事《こと》こそ|知《し》りたれ、|斯《か》く|爲《ため》ば|職《つとめ》を|罷《や》めらるるとき、|人々《ひとびと》その|家《いへ》に|我《われ》を|迎《むか》ふるならん」とて、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》の|負債者《ふさいしゃ》を|一人《ひとり》|一人《ひとり》|呼《よ》びよせて、|初《はじめ》の|者《もの》に|言《い》ふ「なんぢ|我《わ》が|主人《しゅじん》より|負《お》ふところ|何《なに》|程《ほど》あるか」[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ「|油《あぶら》、|百《ひゃく》|樽《たる》」|支配人《しはいにん》いふ「なんぢの|證書《しょうしょ》をとり、|早《はや》く|坐《ざ》して|五《ご》|十《じふ》と|書《か》け」[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》ほかの|者《もの》に|言《い》ふ「|負《お》ふところ|何《なに》|程《ほど》あるか」|答《こた》へて|言《い》ふ「|麥《むぎ》、|百《ひゃく》|石《こく》」|支配人《しはいにん》いふ「なんぢの|證書《しょうしょ》をとりて|八《はち》|十《じふ》と|書《か》け」[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ここに|主人《しゅじん》、|不義《ふぎ》なる|支配人《しはいにん》の|爲《な》しし|事《こと》の|巧《たくみ》なるによりて、|彼《かれ》を|譽《ほ》めたり。この|世《よ》の|子《こ》らは、|己《おの》が|時代《じだい》の|事《こと》には|光《ひかり》の|子《こ》らよりも|巧《たくみ》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|不義《ふぎ》の|富《とみ》をもて、|己《おの》がために|友《とも》をつくれ。さらば|富《とみ》の|失《う》する|時《とき》、その|友《とも》なんぢらを|永遠《とこしへ》の|住居《すまひ》に|迎《むか》へん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|小事《せうじ》に|忠《ちゅう》なる|者《もの》は|大事《だいじ》にも|忠《ちゅう》なり。|小事《せうじ》に|不《ふ》|忠《ちゅう》なる|者《もの》は|大事《だいじ》にも|不《ふ》|忠《ちゅう》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]さらば|汝《なんぢ》|等《ら》もし|不義《ふぎ》の|富《とみ》に|忠《ちゅう》ならずば、|誰《たれ》か|眞《まこと》の|富《とみ》を|汝《なんぢ》らに|任《まか》すべき。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]また|汝《なんぢ》|等《ら》もし|人《ひと》のものに|忠《ちゅう》ならずば、|誰《たれ》か|汝《なんぢ》|等《ら》のものを|汝《なんぢ》らに|與《あた》ふべき。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》は|二人《ふたり》の|主《しゅ》に|兼《か》ね|事《つか》ふること|能《あた》はず、|或《あるひ》は|之《これ》を|憎《にく》み|彼《かれ》を|愛《あい》し、|或《あるひ》は|之《これ》に|親《した》しみ|彼《かれ》を|輕《かろ》しむべければなり。|汝《なんぢ》ら|神《かみ》と|富《とみ》とに|兼《か》ね|事《つか》ふること|能《あた》はず』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|慾《よく》|深《ふか》きパリサイ|人《びと》ら、この|凡《すべ》ての|事《こと》を|聞《き》きてイエスを|嘲笑《あざわら》ふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらは|人《ひと》のまへに|己《おのれ》を|義《ぎ》とする|者《もの》なり。されど|神《かみ》は|汝《なんぢ》らの|心《こころ》を|知《し》りたまふ。|人《ひと》のなかに|尊《たふと》ばるる|者《もの》は、|神《かみ》のまへに|憎《にく》まるる|者《もの》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》と|預言者《よげんしゃ》とはヨハネまでなり、その|時《とき》より|神《かみ》の|國《くに》は|宣傳《のべつた》へられ、|人《ひと》みな|烈《はげ》しく|攻《せ》めて|之《これ》に|入《い》る。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されど|律法《おきて》の|一畫《いっかく》の|落《お》つるよりも、|天《てん》|地《ち》の|過《す》ぎ|往《ゆ》くは|易《やす》し。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》てその|妻《つま》を|出《いだ》して、|他《ほか》に|娶《めと》る|者《もの》は、|姦淫《かんいん》を|行《おこな》ふなり。また|夫《をっと》より|出《いだ》されたる|女《をんな》を|娶《めと》る|者《もの》も、|姦淫《かんいん》を|行《おこな》ふなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|富《と》める|人《ひと》あり、|紫色《むらさき》の|衣《ころも》と|細布《ほそぬの》とを|著《き》て、|日々《ひび》|奢《おご》り|樂《たの》しめり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》ラザロといふ|貧《まづ》しき|者《もの》あり、|腫物《しゅもつ》にて|腫《は》れただれ、|富《と》める|人《ひと》の|門《もん》に|置《お》かれ、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|食卓《しょくたく》より|落《お》つる|物《もの》にて|飽《あ》かんと|思《おも》ふ。|而《しか》して|犬《いぬ》ども|來《きた》りて|其《そ》の|腫物《しゅもつ》を|舐《ねぶ》れり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にこの|貧《まづ》しきもの|死《し》に、|御使《みつかひ》たちに|携《たづさ》へられてアブラハムの|懷裏《ふところ》に|入《い》れり。|富《と》める|人《ひと》もまた|死《し》にて|葬《はうむ》られしが、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|黄泉《よみ》にて|苦惱《くるしみ》の|中《うち》より|目《め》を|擧《あ》げて、|遙《はるか》にアブラハムと|其《そ》の|懷裏《ふところ》にをるラザロとを|見《み》る。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|呼《よ》びて|言《い》ふ「|父《ちち》アブラハムよ、|我《われ》を|憐《あはれ》みて、ラザロを|遣《つかは》し、その|指《ゆび》の|先《さき》を|水《みづ》に|浸《ひた》して|我《わ》が|舌《した》を|冷《ひや》させ|給《たま》へ、|我《われ》はこの|焔《ほのほ》のなかに|悶《もだ》ゆるなり」[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]アブラハム|言《い》ふ「|子《こ》よ、|憶《おも》へ、なんぢは|生《い》ける|間《あひだ》なんぢの|善《よ》き|物《もの》を|受《う》け、ラザロは|惡《あ》しき|物《もの》を|受《う》けたり。|今《いま》ここにて|彼《かれ》は|慰《なぐさ》められ、|汝《なんぢ》は|悶《もだ》ゆるなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》のみならず、|此處《ここ》より|汝《なんぢ》らに|渡《わた》り|往《ゆ》かんとすとも|得《え》ず、|其處《そこ》より|我《われ》らに|來《きた》り|得《え》ぬために、|我《われ》らと|汝《なんぢ》らとの|間《あひだ》に|大《おほい》なる|淵《ふち》|定《さだ》めおかれたり」[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|富《と》める|人《ひと》また|言《い》ふ「さらば|父《ちち》よ、|願《ねが》はくは|我《わ》が|父《ちち》の|家《いへ》にラザロを|遣《つかは》したまへ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》に|五《ご》|人《にん》の|兄弟《きゃうだい》あり、この|苦痛《くるしみ》のところに|來《きた》らぬよう、|彼《かれ》らに|證《あかし》せしめ|給《たま》へ」[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]アブラハム|言《い》ふ「|彼《かれ》らにはモーセと|預言者《よげんしゃ》とあり、|之《これ》に|聽《き》くべし」[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|富《と》める|人《ひと》いふ「いな、|父《ちち》アブラハムよ、もし|死人《しにん》の|中《うち》より|彼《かれ》らに|往《ゆ》く|者《もの》あらば、|悔改《くいあらた》めん」[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]アブラハム|言《い》ふ「もしモーセと|預言者《よげんしゃ》とに|聽《き》かずば、たとひ|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へる|者《もの》ありとも、|其《そ》の|勸《すすめ》を|納《い》れざるべし」』 第一七章[#「第一七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『|躓物《つまづき》は|必《かなら》ず|來《きた》らざるを|得《え》ず、されど|之《これ》を|來《きた》らす|者《もの》は|禍害《わざはひ》なるかな。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]この|小《ちひさ》き|者《もの》の|一人《ひとり》を|躓《つまづ》かするよりは、|寧《むし》ろ|碾臼《ひきうす》の|石《いし》を|頸《くび》に|懸《か》けられて、|海《うみ》に|投《な》げ|入《い》れられんかた|善《よ》きなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》みづから|心《こころ》せよ。もし|汝《なんぢ》の|兄弟《きゃうだい》|罪《つみ》を|犯《をか》さば、これを|戒《いまし》めよ。もし|悔改《くいあらた》めなば|之《これ》をゆるせ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]もし|一日《いちにち》に|七度《ななたび》なんぢに|罪《つみ》を|犯《をか》し、|七《しち》たび「|悔改《くいあらた》む」と|言《い》ひて、|汝《なんぢ》に|歸《かへ》らば|之《これ》をゆるせ』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たち|主《しゅ》に|言《い》ふ『われらの|信仰《しんかう》を|増《ま》したまへ』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ『もし|芥種《からしだね》|一粒《ひとつぶ》ほどの|信仰《しんかう》あらば、|此《こ》の|桑《くは》の|樹《き》に「|拔《ぬ》けて|海《うみ》に|植《うわ》れ」と|言《い》ふとも|汝《なんぢ》らに|從《したが》ふべし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|誰《たれ》か|或《あるひ》は|耕《たがや》し、|或《あるひ》は|牧《ぼく》する|僕《しもべ》を|有《も》たんに、その|僕《しもべ》|畑《はた》より|歸《かへ》りたる|時《とき》、これに|對《むか》ひて「|直《ただ》ちに|來《きた》り|食《しょく》に|就《つ》け」と|言《い》ふ|者《もの》あらんや。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|反《かへ》つて「わが|夕餐《ゆふげ》の|備《そなへ》をなし、|我《わ》が|飮食《のみくひ》するあひだ、|帶《おび》して|給仕《きふじ》せよ、|然《しか》る|後《のち》に、なんぢ|飮食《のみくひ》すべし」と|言《い》ふにあらずや。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》、|命《めい》ぜられし|事《こと》を|爲《な》したればとて、|主人《しゅじん》これに|謝《しゃ》すべきか。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かくのごとく|汝《なんぢ》らも|命《めい》ぜられし|事《こと》をことごとく|爲《な》したる|時《とき》「われらは|無《む》|益《えき》なる|僕《しもべ》なり、|爲《な》すべき|事《こと》を|爲《な》したるのみ」と|言《い》へ』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]イエス、エルサレムに|往《ゆ》かんとて、サマリヤとガリラヤとの|間《あひだ》をとほり、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|村《むら》に|入《い》り|給《たま》ふとき、|十《じふ》|人《にん》の|癩病人《らいびゃうにん》これに|遇《あ》ひて、|遙《はるか》に|立《た》ち|止《とどま》り、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|聲《こゑ》を|揚《あ》げて|言《い》ふ『|君《きみ》イエスよ、|我《われ》らを|憫《あはれ》みたまへ』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|見《み》て|言《い》ひたまふ『なんぢら|往《ゆ》きて|身《み》を|祭司《さいし》らに|見《み》せよ』|彼《かれ》ら|往《ゆ》く|間《あひだ》に|潔《きよ》められたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》の|一人《ひとり》、おのが|醫《いや》されたるを|見《み》て、|大聲《おほごゑ》に|神《かみ》を|崇《あが》めつつ|歸《かへ》りきたり、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|足下《あしもと》に|平伏《ひれふ》して|謝《しゃ》す。これはサマリヤ|人《ひと》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|十《じふ》|人《にん》みな|潔《きよ》められしならずや、|九《く》|人《にん》は|何處《いづこ》に|在《あ》るか。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]この|他國人《たこくじん》のほかは、|神《かみ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》せんとて|歸《かへ》りきたる|者《もの》なきか』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|之《これ》に|言《い》ひたまふ『|起《た》ちて|往《ゆ》け、なんぢの|信仰《しんかう》なんぢを|救《すく》へり』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|國《くに》の|何時《いつ》きたるべきかをパリサイ|人《びと》に|問《と》はれし|時《とき》、イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|神《かみ》の|國《くに》は|見《み》ゆべき|状《さま》にて|來《きた》らず。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]また「|視《み》よ、|此處《ここ》に|在《あ》り」「|彼處《かしこ》に|在《あ》り」と|人々《ひとびと》|言《い》はざるべし。|視《み》よ、|神《かみ》の|國《くに》は|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|在《あ》るなり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|人《ひと》の|子《こ》の|日《ひ》の|一日《ひとひ》を|見《み》んと|思《おも》ふ|日《ひ》きたらん、されど|見《み》ることを|得《え》じ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]そのとき|人々《ひとびと》なんぢらに「|見《み》よ|彼處《かしこ》に、|見《み》よ|此處《ここ》に」と|言《い》はん、されど|往《ゆ》くな、|從《したが》ふな。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]それ|電光《いなづま》の|天《てん》の|彼方《かなた》より|閃《ひらめ》きて、|天《てん》の|此方《こなた》に|輝《かがや》くごとく、|人《ひと》の|子《こ》もその|日《ひ》には|然《しか》あるべし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]されど|人《ひと》の|子《こ》は|先《ま》づ|多《おほ》くの|苦難《くるしみ》を|受《う》け、かつ|今《いま》の|代《よ》に|棄《す》てらるべきなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]ノアの|日《ひ》にありし|如《ごと》く、|人《ひと》の|子《こ》の|日《ひ》にも|然《しか》あるべし。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]ノア|方舟《はこぶね》に|入《い》る|日《ひ》までは、|人々《ひとびと》|飮《の》み|食《くら》ひ|娶《めと》り|嫁《とつ》ぎなど|爲《し》たりしが、|洪水《こうずゐ》きたりて|彼《かれ》|等《ら》をことごとく|滅《ほろび》せり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ロトの|日《ひ》にも|斯《か》くのごとく、|人々《ひとびと》|飮《の》み|食《くら》ひ、|賣《う》り|買《か》ひ、|植《う》ゑつけ、|家《いへ》|造《つく》りなど|爲《し》たりしが、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]ロトのソドムを|出《い》でし|日《ひ》に、|天《てん》より|火《ひ》と|硫黄《いわう》と|降《ふ》りて、|彼《かれ》|等《ら》をことごとく|滅《ほろび》せり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》の|顯《あらは》るる|日《ひ》にも、その|如《ごと》くなるべし。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》には、|人《ひと》もし|屋《や》の|上《うへ》にをりて、|器《うつは》|物《もの》|家《いへ》の|内《うち》にあらば、|之《これ》を|取《と》らんとて|下《くだ》るな。|畑《はた》にをる|者《もの》も|同《おな》じく|歸《かへ》るな。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ロトの|妻《つま》を|憶《おも》へ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|己《おの》が|生命《いのち》を|全《まった》うせんとする|者《もの》はこれを|失《うしな》ひ、|失《うしな》ふ|者《もの》はこれを|保《たも》つべし。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、その|夜《よ》ふたりの|男《をとこ》、|一《ひと》つ|寢臺《ねだい》に|居《を》らんに、|一人《ひとり》は|取《と》られ|一人《ひとり》は|遣《つかは》されん。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》の|女《をんな》ともに|臼《うす》ひき|居《を》らんに、|一人《ひとり》は|取《と》られ|一人《ひとり》は|遣《つかは》されん』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|答《こた》へて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、それは|何處《いづこ》ぞ』イエス|言《い》ひたまふ『|屍體《しかばね》のある|處《ところ》には|鷲《わし》も|亦《また》あつまらん』 第一八章[#「第一八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》らに、|落膽《きおち》せずして|常《つね》に|祈《いの》るべきことを、|譬《たとへ》にて|語《かた》り|言《い》ひ|給《たま》ふ[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『|或《ある》|町《まち》に、|神《かみ》を|畏《おそ》れず|人《ひと》を|顧《かへり》みぬ|裁判人《さいばんにん》あり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]その|町《まち》に|寡婦《やもめ》ありて、|屡次《しばしば》その|許《もと》にゆき「|我《わ》がために|仇《あた》を|審《さば》きたまへ」と|言《い》ふ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かれ|久《ひさ》しく|聽《き》き|入《い》れざりしが、|其《そ》ののち|心《こころ》の|中《うち》に|言《い》ふ「われ|神《かみ》を|畏《おそ》れず、|人《ひと》を|顧《かへり》みねど、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|寡婦《やもめ》われを|煩《わづら》はせば、|我《われ》かれが|爲《ため》に|審《さば》かん、|然《しか》らずば|絶《た》えず|來《きた》りて|我《われ》を|惱《なやま》さん」と』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ『|不義《ふぎ》なる|裁判人《さいばんにん》の|言《い》ふことを|聽《き》け、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]まして|神《かみ》は|夜晝《よるひる》よばはる|選民《せんみん》のために、たとひ|遲《おそ》くとも|遂《つひ》に|審《さば》き|給《たま》はざらんや。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|速《すみや》かに|審《さば》き|給《たま》はん。されど|人《ひと》の|子《こ》の|來《きた》るとき|地上《ちじゃう》に|信仰《しんかう》を|見《み》んや』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|己《おのれ》を|義《ぎ》と|信《しん》じ、|他人《たにん》を|輕《かろ》しむる|者《もの》どもに、|此《こ》の|譬《たとへ》を|言《い》ひたまふ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]『|二人《ふたり》のもの|祈《いの》らんとて|宮《みや》にのぼる、|一人《ひとり》はパリサイ|人《びと》、|一人《ひとり》は|取税人《しゅぜいにん》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》たちて|心《こころ》の|中《うち》に|斯《か》く|祈《いの》る「|神《かみ》よ、|我《われ》はほかの|人《ひと》の、|強奪《うばひ》・|不義《ふぎ》・|姦淫《かんいん》するが|如《ごと》き|者《もの》ならず、|又《また》この|取税人《しゅぜいにん》の|如《ごと》くならぬを|感謝《かんしゃ》す。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|一週《ひとまはり》のうちに|二度《ふたたび》|斷食《だんじき》し、|凡《すべ》て|得《う》るものの|十分《じふぶん》の|一《いち》を|献《ささ》ぐ」[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|取税人《しゅぜいにん》は|遙《はるか》に|立《た》ちて、|目《め》を|天《てん》に|向《む》くる|事《こと》だにせず、|胸《むね》を|打《う》ちて|言《い》ふ「|神《かみ》よ、|罪人《つみびと》なる|我《われ》を|憫《あはれ》みたまへ」[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、この|人《ひと》は、かの|人《ひと》よりも|義《ぎ》とせられて、|己《おの》が|家《いへ》に|下《くだ》り|往《ゆ》けり。おほよそ|己《おのれ》を|高《たか》うする|者《もの》は|卑《ひく》うせられ、|己《おのれ》を|卑《ひく》うする|者《もの》は|高《たか》うせらるるなり』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|觸《さは》り|給《たま》はんことを|望《のぞ》みて、|人々《ひとびと》|嬰兒《みどりご》らを|連《つ》れ|來《きた》りしに、|弟子《でし》たち|之《これ》を|見《み》て|禁《いまし》めたれば、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|幼兒《をさなご》らを|呼《よ》びよせて|言《い》ひたまふ『|幼兒《をさなご》らの|我《われ》に|來《きた》るを|許《ゆる》して|止《とど》むな、|神《かみ》の|國《くに》はかくのごとき|者《もの》の|國《くに》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]われ|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、おほよそ|幼兒《をさなご》のごとくに|神《かみ》の|國《くに》をうくる|者《もの》ならずば、|之《これ》に|入《い》ることは|能《あた》はず』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|司《つかさ》|問《と》ひて|言《い》ふ『|善《よ》き|師《し》よ、われ|何《なに》をなして|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|嗣《つ》ぐべきか』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なにゆゑ|我《われ》を|善《よ》しと|言《い》ふか、|神《かみ》ひとりの|他《ほか》に|善《よ》き|者《もの》なし。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|誡命《いましめ》はなんぢが|知《し》る|所《ところ》なり「|姦淫《かんいん》するなかれ」「|殺《ころ》すなかれ」「|盜《ぬす》むなかれ」「|僞證《ぎしょう》を|立《た》つる|勿《なか》れ」「なんぢの|父《ちち》と|母《はは》とを|敬《うやま》へ」』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》いふ『われ|幼《おさな》き|時《とき》より|皆《みな》これを|守《まも》れり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》をききて|言《い》ひたまふ『なんぢなほ|足《た》らぬこと|一《ひと》つあり、|汝《なんぢ》の|有《も》てる|物《もの》をことごとく|賣《う》りて、|貧《まづ》しき|者《もの》に|分《わか》ち|與《あた》へよ、|然《さ》らば|財寶《たから》を|天《てん》に|得《え》ん。かつ|來《きた》りて|我《われ》に|從《したが》へ』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|之《これ》をききて|甚《いた》く|悲《かな》しめり、|大《おほい》に|富《と》める|者《もの》なればなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|之《これ》を|見《み》て|言《い》ひたまふ『|富《と》める|者《もの》の|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》るは|如何《いか》に|難《かた》いかな。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|富《と》める|者《もの》の|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》るよりは、|駱駝《らくだ》の|針《はり》の|穴《あな》をとほるは|反《かへ》つて|易《やす》し』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》をきく|人々《ひとびと》いふ『さらば|誰《たれ》か|救《すく》はるる|事《こと》を|得《え》ん』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|人《ひと》のなし|得《え》ぬところは、|神《かみ》のなし|得《う》る|所《ところ》なり』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『|視《み》よ、|我等《われら》わが|物《もの》をすてて|汝《なんぢ》に|從《したが》へり』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|神《かみ》の|國《くに》のために、|或《あるひ》は|家《いへ》、|或《あるひ》は|妻《つま》、|或《あるひ》は|兄弟《きゃうだい》、あるひは|兩親《ふたおや》、あるひは|子《こ》を|棄《す》つる|者《もの》は、|誰《たれ》にても、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》の|時《とき》に|數倍《すうばい》を|受《う》け、また|後《のち》の|世《よ》にて|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|受《う》けぬはなし』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|十二《じふに》|弟子《でし》を|近《ちか》づけて|言《い》ひたまふ『|視《み》よ、|我《われ》らエルサレムに|上《のぼ》る。|人《ひと》の|子《こ》につき|預言者《よげんしゃ》たちによりて|録《しる》されたる|凡《すべ》ての|事《こと》は、|成《な》し|遂《と》げらるべし。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|子《こ》は|異邦人《いはうじん》に|付《わた》され、|嘲弄《てうろう》せられ、|辱《はづか》しめられ、|唾《つばき》せられん。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》これを|鞭《むち》うち、かつ|殺《ころ》さん。かくて|彼《かれ》は|三日《みっか》めに|甦《よみが》へるべし』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|此《これ》|等《ら》のことを|一《ひと》つだに|悟《さと》らず、|此《こ》の|言《ことば》かれらに|隱《かく》れたれば、その|言《い》ひ|給《たま》ひしことを|知《し》らざりき。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエス、エリコに|近《ちか》づき|給《たま》ふとき、|一人《ひとり》の|盲人《めしひ》、|路《みち》の|傍《かたは》らに|坐《ざ》して、|物《もの》|乞《こ》ひ|居《ゐ》たりしが、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》の|過《す》ぐるを|聞《き》きて、その|何事《なにごと》なるかを|問《と》ふ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》ナザレのイエスの|過《す》ぎたまふ|由《よし》を|告《つ》げたれば、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|盲人《めしひ》よばはりて|言《い》ふ『ダビデの|子《こ》イエスよ、|我《われ》を|憫《あはれ》みたまへ』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|先《さき》だち|往《ゆ》く|者《もの》ども、|彼《かれ》を|禁《いまし》めて|默《もだ》さしめんと|爲《し》たれど、|増々《ますます》さけびて|言《い》ふ『ダビデの|子《こ》よ、|我《われ》を|憫《あはれ》みたまへ』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|立《た》ち|止《とどま》り、|盲人《めしひ》を|連《つ》れ|來《きた》るべきことを|命《めい》じ|給《たま》ふ。かれ|近《ちか》づきたれば、[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|問《と》ひ|給《たま》ふ『わが|汝《なんぢ》に|何《なに》を|爲《な》さんことを|望《のぞ》むか』|彼《かれ》いふ『|主《しゅ》よ、|見《み》えんことなり』[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》に『|見《み》ることを|得《え》よ、なんぢの|信仰《しんかう》なんぢを|救《すく》へり』と|言《い》ひ|給《たま》へば、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|立刻《たちどころ》に|見《み》ることを|得《え》、|神《かみ》を|崇《あが》めてイエスに|從《したが》ふ。|民《たみ》みな|之《これ》を|見《み》て|神《かみ》を|讃美《さんび》せり。 第一九章[#「第一九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]エリコに|入《い》りて|過《す》ぎゆき|給《たま》ふとき、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|名《な》をザアカイといふ|人《ひと》あり、|取税人《しゅぜいにん》の|長《かしら》にて|富《と》める|者《もの》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|如何《いか》なる|人《ひと》なるかを|見《み》んと|思《おも》へど、|丈《たけ》|矮《ひく》うして|群衆《ぐんじゅう》のために|見《み》ること|能《あた》はず、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|前《まへ》に|走《はし》りゆき、|桑《くは》の|樹《き》にのぼる。イエスその|路《みち》を|過《す》ぎんとし|給《たま》ふ|故《ゆゑ》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此處《ここ》に|至《いた》りしとき、|仰《あふ》ぎ|見《み》て|言《い》ひたまふ『ザアカイ、|急《いそ》ぎおりよ、|今日《けふ》われ|汝《なんぢ》の|家《いへ》に|宿《やど》るべし』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ザアカイ|急《いそ》ぎおり、|喜《よろこ》びてイエスを|迎《むか》ふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》みな|之《これ》を|見《み》て|呟《つぶや》きて|言《い》ふ『かれは|罪人《つみびと》の|家《いへ》に|入《い》りて|客《きゃく》となれり』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ザアカイ|立《た》ちて|主《しゅ》に|言《い》ふ『|主《しゅ》、|視《み》よ、わが|所有《もちもの》の|半《なかば》を|貧《まづ》しき|者《もの》に|施《ほどこ》さん、|若《も》しわれ|誣《し》ひ|訴《うった》へて|人《ひと》より|取《と》りたる|所《ところ》あらば、|四《し》|倍《ばい》にして|償《つくの》はん』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『けふ|救《すく》はこの|家《いへ》に|來《きた》れり、|此《こ》の|人《ひと》もアブラハムの|子《こ》なればなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]それ|人《ひと》の|子《こ》の|來《きた》れるは、|失《う》せたる|者《もの》を|尋《たづ》ねて|救《すく》はん|爲《ため》なり』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》これらの|事《こと》を|聽《き》きゐたるとき、|譬《たとへ》を|加《くは》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ。これはイエス、エルサレムに|近《ちか》づき|給《たま》ひ、|神《かみ》の|國《くに》たちどころに|現《あらは》るべしと|彼《かれ》らが|思《おも》ふ|故《ゆゑ》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|言《い》ひたまふ『|或《ある》|貴人《きにん》、|王《わう》の|權《けん》を|受《う》けて|歸《かへ》らんとて|遠《とほ》き|國《くに》へ|往《ゆ》くとき、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|十《じふ》|人《にん》の|僕《しもべ》をよび、|之《これ》に|金《きん》|十《じふ》ミナを|付《わた》して|言《い》ふ「わが|歸《かへ》るまで|商賣《しゃうばい》せよ」[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|其《そ》の|地《ち》の|民《たみ》かれを|憎《にく》み、|後《あと》より|使《つかひ》を|遣《つかは》して「|我《われ》らは|此《こ》の|人《ひと》の|我《われ》らの|王《わう》となることを|欲《ほっ》せず」と|言《い》はしむ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|貴人《きにん》、|王《わう》の|權《けん》をうけて|歸《かへ》り|來《きた》りしとき、|銀《ぎん》を|付《わた》し|置《お》きたる|僕《しもべ》どもの、|如何《いか》に|商賣《しゃうばい》せしかを|知《し》らんとて|彼《かれ》らを|呼《よ》ばしむ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|初《はじめ》のもの|進《すす》み|出《い》でて|言《い》ふ「|主《しゅ》よ、なんぢの|一《いち》ミナは|十《じふ》ミナを|贏《まう》けたり」[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》いふ「|善《よ》いかな、|良《よ》き|僕《しもべ》、なんぢは|小事《せうじ》に|忠《ちゅう》なりしゆゑ、|十《とを》の|町《まち》を|司《つかさ》どるべし」[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|次《つぎ》の|者《もの》きたりて|言《い》ふ「|主《しゅ》よ、なんぢの|一《いち》ミナは|五《ご》ミナを|贏《まう》けたり」[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》また|言《い》ふ「なんぢも|五《いつ》つの|町《まち》を|司《つかさ》どるべし」[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]また|一人《ひとり》きたりて|言《い》ふ「|主《しゅ》、|視《み》よ、なんぢの|一《いち》ミナは|此處《ここ》に|在《あ》り。|我《われ》これを|袱紗《ふくさ》に|包《つつ》みて|藏《をさ》め|置《お》きたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]これ|汝《なんぢ》の|嚴《きび》しき|人《ひと》なるを|懼《おそ》れたるに|因《よ》る。なんぢは|置《お》かぬものを|取《と》り、|播《ま》かぬものを|刈《か》るなり」[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》いふ「|惡《あ》しき|僕《しもべ》、われ|汝《なんぢ》の|口《くち》によりて|汝《なんぢ》を|審《さば》かん。|我《われ》の|嚴《きび》しき|人《ひと》にて、|置《お》かぬものを|取《と》り、|播《ま》かぬものを|刈《か》るを|知《し》るか。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|何《なに》ぞわが|金《かね》を|銀行《ぎんかう》に|預《あづ》けざりし、さらば|我《われ》きたりて|元金《もときん》と|利子《りし》とを|請求《せいきう》せしものを」[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|傍《かたは》らに|立《た》つ|者《もの》どもに|言《い》ふ「かれの|一《いち》ミナを|取《と》りて|十《じふ》ミナを|有《も》てる|人《ひと》に|付《わた》せ」[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》いふ「|主《しゅ》よ、かれは|既《すで》に|十《じふ》ミナを|有《も》てり」[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]「われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|凡《すべ》て|有《も》てる|人《ひと》はなほ|與《あた》へられ、|有《も》たぬ|人《ひと》は|有《も》てるものをも|取《と》らるべし。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|我《わ》が|王《わう》たる|事《こと》を|欲《ほっ》せぬ、かの|仇《あた》どもを|此處《ここ》に|連《つ》れきたり、|我《わ》が|前《まへ》にて|殺《ころ》せ」』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此《これ》|等《ら》のことを|言《い》ひてのち、|先《さき》だち|進《すす》みてエルサレムに|上《のぼ》り|給《たま》ふ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]オリブといふ|山《やま》の|麓《ふもと》なるベテパゲ|及《およ》びベタニヤに|近《ちか》づきし|時《とき》、イエス|二人《ふたり》の|弟子《でし》を|遣《つかは》さんとして|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]『|向《むかひ》の|山《やま》にゆけ、|其處《そこ》に|入《い》らば、|一度《ひとたび》も|人《ひと》の|乘《の》りたる|事《こと》なき|驢馬《ろば》の|子《こ》の|繋《つな》ぎあるを|見《み》ん、それを|解《と》きて|牽《ひ》ききたれ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》かもし|汝《なんぢ》らに「なにゆゑ|解《と》くか」と|問《と》はば、|斯《か》く|言《い》ふべし「|主《しゅ》の|用《よう》なり」と』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|遣《つかは》されたる|者《もの》ゆきたれば、|果《はた》して|言《い》ひ|給《たま》ひし|如《ごと》くなるを|見《み》る。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かれら|驢馬《ろば》の|子《こ》をとく|時《とき》、その|持主《もちぬし》ども|言《い》ふ『なにゆゑ|驢馬《ろば》の|子《こ》を|解《と》くか』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『|主《しゅ》の|用《よう》なり』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|驢馬《ろば》の|子《こ》をイエスの|許《もと》に|牽《ひ》ききたり、|己《おの》が|衣《ころも》をその|上《うへ》にかけて、イエスを|乘《の》せたり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]その|往《ゆ》き|給《たま》ふとき、|人々《ひとびと》おのが|衣《ころも》を|途《みち》に|敷《し》く。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]オリブ|山《やま》の|下《くだ》りあたりまで|近《ちか》づき|來《きた》り|給《たま》へば、|群《む》れゐる|弟子《でし》たち|皆《みな》|喜《よろこ》びて、その|見《み》しところの|能力《ちから》ある|御業《みわざ》につき、|聲《こゑ》|高《たか》らかに|神《かみ》を|讃美《さんび》して|言《い》ひ|始《はじ》む、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]『|讃《ほ》むべきかな、|主《しゅ》の|名《な》によりて|來《きた》る|王《わう》。|天《てん》には|平和《へいわ》、|至高《いとたか》き|處《ところ》には|榮光《えいくわう》あれ』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》のうちの|或《ある》パリサイ|人《びと》ら、イエスに|言《い》ふ『|師《し》よ、なんぢの|弟子《でし》たちを|禁《いまし》めよ』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|此《こ》のともがら|默《もだ》さば、|石《いし》|叫《さけ》ぶべし』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|近《ちか》づきたるとき、|都《みやこ》を|見《み》やり、|之《これ》がために|泣《な》きて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]『ああ|汝《なんぢ》、なんぢも|若《も》しこの|日《ひ》の|間《うち》に、|平和《へいわ》にかかはる|事《こと》を|知《し》りたらんには――されど|今《いま》なんぢの|目《め》に|隱《かく》れたり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》きたりて|敵《てき》なんぢの|周圍《まはり》に|壘《るゐ》をきづき、|汝《なんぢ》を|取圍《とりかこ》みて|四方《しはう》より|攻《せ》め、[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》とその|内《うち》にある|子《こ》らとを|地《ち》に|打倒《うちたふ》し、|一《ひと》つの|石《いし》をも|石《いし》の|上《うへ》に|遺《のこ》さざるべし。なんぢ|眷顧《かへりみ》の|時《とき》を|知《し》らざりしに|因《よ》る』[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|宮《みや》に|入《い》り、|商《あきな》ひする|者《もの》どもを|逐《お》ひ|出《いだ》しはじめ、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|言《い》ひたまふ『「わが|家《いへ》は|祈《いのり》の|家《いへ》たるべし」と|録《しる》されたるに、|汝《なんぢ》らは|之《これ》を|強盜《がうたう》の|巣《す》となせり』[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|日々《ひび》|宮《みや》にて|教《をし》へたまふ。|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》ら|及《およ》び|民《たみ》の|重立《おもだ》ちたる|者《もの》ども、|之《これ》を|殺《ころ》さんと|思《おも》ひたれど、[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》みな|耳《みみ》を|傾《かたむ》けてイエスに|聽《き》きたれば、|爲《な》すべき|方《かた》を|知《し》らざりき。 第二〇章[#「第二〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|日《ひ》イエス|宮《みや》にて|民《たみ》を|教《をし》へ、|福音《ふくいん》を|宣《の》べゐ|給《たま》ふとき、|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》らは、|長老《ちゃうらう》どもと|共《とも》に|近《ちか》づき|來《きた》り、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]イエスに|語《かた》りて|言《い》ふ『なにの|權威《けんゐ》をもて|此《これ》|等《ら》の|事《こと》をなすか、|此《こ》の|權威《けんゐ》を|授《さづ》けし|者《もの》は|誰《たれ》か、|我《われ》らに|告《つ》げよ』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『われも|一言《ひとこと》なんぢらに|問《と》はん、|答《こた》へよ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネのバプテスマは|天《てん》よりか、|人《ひと》よりか』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|互《たがひ》に|論《ろん》じて|言《い》ふ『もし「|天《てん》より」と|言《い》はば「なに|故《ゆゑ》かれを|信《しん》ぜざりし」と|言《い》はん。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]もし「|人《ひと》より」と|言《い》はんか、|民《たみ》みなヨハネを|預言者《よげんしゃ》と|信《しん》ずるによりて、|我《われ》らを|石《いし》にて|撃《う》たん』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|何處《いづこ》よりか|知《し》らぬ|由《よし》を|答《こた》ふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『われも|何《なに》の|權威《けんゐ》をもて|此《これ》|等《ら》の|事《こと》をなすか、|汝《なんぢ》らに|告《つ》げじ』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|次《つぎ》の|譬《たとへ》を|民《たみ》に|語《かた》りいで|給《たま》ふ『ある|人《ひと》、|葡萄園《ぶだうぞの》を|造《つく》りて|農夫《のうふ》どもに|貸《か》し、|遠《とほ》く|旅立《たびだち》して|久《ひさ》しくなりぬ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》|至《いた》りて、|葡萄園《ぶだうぞの》の|所得《しょとく》を|納《をさ》めしめんとて、|一人《ひとり》の|僕《しもべ》を|農夫《のうふ》の|許《もと》に|遣《つかは》ししに、|農夫《のうふ》ども|之《これ》を|打《う》ちたたき、|空手《むなで》にて|歸《かへ》らしめたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》ほかの|僕《しもべ》を|遣《つかは》ししに、|之《これ》をも|打《う》ちたたき、|辱《はづか》しめ、|空手《むなで》にて|歸《かへ》らしめたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]なほ|三度《みたび》めの|者《もの》を|遣《つかは》ししに、|之《これ》をも|傷《きず》つけて|逐《お》ひ|出《いだ》したり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|葡萄園《ぶだうぞの》の|主《ぬし》いふ「われ|何《なに》を|爲《な》さんか。|我《わ》が|愛《いつく》しむ|子《こ》を|遣《つかは》さん、|或《あるひ》は|之《これ》を|敬《うやま》ふなるべし」[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|農夫《のうふ》ども|之《これ》を|見《み》て|互《たがひ》に|論《ろん》じて|言《い》ふ「これは|世嗣《よつぎ》なり。いざ|殺《ころ》して|其《そ》の|嗣業《しげふ》を|我《われ》らの|物《もの》とせん」[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かくてこれを|葡萄園《ぶだうぞの》の|外《そと》に|逐《お》ひ|出《いだ》して|殺《ころ》せり。さらば|葡萄園《ぶだうぞの》の|主《ぬし》かれらに|何《なに》を|爲《な》さんか、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|來《きた》りてかの|農夫《のうふ》どもを|亡《ほろぼ》し、|葡萄園《ぶだうぞの》を|他《ほか》の|者《もの》どもに|與《あた》ふべし』|人々《ひとびと》これを|聽《き》きて|言《い》ふ『|然《しか》はあらざれ』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|目《め》を|注《と》めて|言《い》ひ|給《たま》ふ『されば [#ここから2字下げ] 「|造家者《いへつくり》らの|棄《す》てる|石《いし》は、 これぞ|隅《すみ》の|首石《おやいし》となれる」 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》されたるは|何《なに》ぞや。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そその|石《いし》の|上《うへ》に|倒《たふ》るる|者《もの》は|碎《くだ》け、|又《また》その|石《いし》、|人《ひと》の|上《うへ》に|倒《たふ》るれば、その|人《ひと》を|微塵《みじん》にせん』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》のとき|學者《がくしゃ》・|祭司長《さいしちゃう》ら、イエスに|手《て》をかけんと|思《おも》ひたれど、|民《たみ》を|恐《おそ》れたり。この|譬《たとへ》の|己《おのれ》どもを|指《さ》して|言《い》ひ|給《たま》へるを|悟《さと》りしに|因《よ》る。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》ら|機《をり》を|窺《うかが》ひ、イエスを|司《つかさ》の|支配《しはい》と|權威《けんゐ》との|下《した》に|付《わた》さんとて、その|言《ことば》を|捉《とら》ふるために、|義人《ぎじん》の|樣《さま》したる|間諜《まはしもの》どもを|遣《つかは》したれば、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》の|者《もの》どもイエスに|問《と》ひて|言《い》ふ『|師《し》よ、|我《われ》らは|汝《なんぢ》の|正《ただ》しく|語《かた》り、かつ|教《をし》へ、|外貌《うはべ》を|取《と》らず、|眞《まこと》をもて|神《かみ》の|道《みち》を|教《をし》へ|給《たま》ふを|知《し》る。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]われら|貢《みつぎ》をカイザルに|納《をさ》むるは、|善《よ》きか、|惡《あ》しきか』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|惡巧《わるだくみ》を|知《し》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]『デナリを|我《われ》に|見《み》せよ。これは|誰《たれ》の|像《かたち》、たれの|號《しるし》なるか』『カイザルのなり』と|答《こた》ふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『さらばカイザルの|物《もの》はカイザルに、|神《かみ》の|物《もの》は|神《かみ》に|納《をさ》めよ』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]かれら|民《たみ》の|前《まへ》にて|其《そ》の|言《ことば》をとらへ|得《え》ず、|且《かつ》その|答《こたへ》を|怪《あや》しみて|默《もだ》したり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]また|復活《よみがへり》なしと|言張《いいは》るサドカイ|人《びと》の|或《ある》|者《もの》ども、イエスに|來《きた》り|問《と》ひて|言《い》ふ、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]『|師《し》よ、モーセは、|人《ひと》の|兄弟《きゃうだい》もし|妻《つま》あり|子《こ》なくして|死《し》なば、|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》かれの|妻《つま》を|娶《めと》りて、|兄弟《きゃうだい》のために|嗣子《よつぎ》を|擧《あ》ぐべしと、|我《われ》らに|書《か》き|遣《つかは》したり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]さて|茲《ここ》に|七人《しちにん》の|兄弟《きゃうだい》ありて、|兄《あに》、|妻《つま》を|娶《めと》り、|子《こ》なくして|死《し》に、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|第二《だいに》、|第三《だいさん》の|者《もの》も|之《これ》を|娶《めと》り、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|七人《しちにん》みな|同《おな》じく|子《こ》を|殘《のこ》さずして|死《し》に、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|後《のち》には|其《そ》の|女《をんな》も|死《し》にたり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]されば|復活《よみがへり》の|時《とき》、この|女《をんな》は|誰《たれ》の|妻《つま》たるべきか、|七人《しちにん》これを|妻《つま》としたればなり』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『この|世《よ》の|子《こ》らは|娶《めと》り|嫁《とつ》ぎすれど、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]かの|世《よ》に|入《い》るに、|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へるに|相應《ふさは》しとせらるる|者《もの》は、|娶《めと》り|嫁《とつ》ぎすることなし。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》ははや|死《し》ぬること|能《あた》はざればなり。|御使《みつかひ》たちに|等《ひと》しく、また|復活《よみがへり》の|子《こ》どもにして、|神《かみ》の|子供《こども》たるなり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|死《し》にたる|者《もの》の|甦《よみが》へる|事《こと》は、モーセも|柴《しば》の|條《くだり》に、|主《しゅ》を「アブラハムの|神《かみ》、イサクの|神《かみ》、ヤコブの|神《かみ》」と|呼《よ》びて|之《これ》を|示《しめ》せり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|死《し》にたる|者《もの》の|神《かみ》にあらず、|生《い》ける|者《もの》の|神《かみ》なり。それ|神《かみ》の|前《まへ》には|皆《みな》|生《い》けるなり』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|學者《がくしゃ》のうちの|或《ある》|者《もの》ども|答《こた》へて『|師《し》よ、|善《よ》く|言《い》ひ|給《たま》へり』と|言《い》ふ。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》ははや|何事《なにごと》をも|問《と》ひ|得《え》ざりし|故《ゆゑ》なり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|言《い》ひたまふ『|如何《いか》なれば|人々《ひとびと》、キリストをダビデの|子《こ》と|言《い》ふか。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]ダビデ|自《みづか》ら|詩《し》|篇《へん》に|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 「|主《しゅ》わが|主《しゅ》に|言《い》ひたまふ、 [#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》の|敵《てき》を|汝《なんぢ》の|足臺《あしだい》となすまでは、 わが|右《みぎ》に|坐《ざ》せよ」 [#ここで字下げ終わり] [#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]ダビデ|斯《か》く|彼《かれ》を|主《しゅ》と|稱《とな》ふれば、|爭《いか》でその|子《こ》ならんや』[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》の|皆《みな》ききをる|中《うち》にて、イエス|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]『|學者《がくしゃ》らに|心《こころ》せよ。|彼《かれ》らは|長《なが》き|衣《ころも》を|著《き》て|歩《あゆ》むことを|好《この》み、|市場《いちば》にての|敬禮《けいれい》、|會堂《くわいだう》の|上座《じゃうざ》、|饗宴《ふるまひ》の|上席《じゃうせき》を|喜《よろこ》び、[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]また|寡婦《やもめ》らの|家《いへ》を|呑《の》み、|外見《みえ》をつくりて|長《なが》き|祈《いのり》をなす。|其《そ》の|受《う》くる|審判《さばき》は|更《さら》に|嚴《きび》しからん』 第二一章[#「第二一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|目《め》を|擧《あ》げて、|富《と》める|人々《ひとびと》の|納物《をさめもの》を|賽錢函《さいせんばこ》に|投《な》げ|入《い》るるを|見《み》、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]また|或《ある》|貧《まづ》しき|寡婦《やもめ》のレプタ|二《ふた》つを|投《な》げ|入《い》るるを|見《み》て|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]『われ|實《まこと》をもて|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、この|貧《まづ》しき|寡婦《やもめ》は、|凡《すべ》ての|人《ひと》よりも|多《おほ》く|投《な》げ|入《い》れたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|皆《みな》その|豐《ゆたか》なる|内《うち》より|納物《をさめもの》の|中《なか》に|投《な》げ|入《い》れ、この|寡婦《やもめ》はその|乏《とぼ》しき|中《なか》より、|己《おの》が|有《も》てる|生命《いのち》の|料《しろ》をことごとく|投《な》げ|入《い》れたればなり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人々《ひとびと》、|美麗《みごと》なる|石《いし》と|献物《ささげもの》とにて|宮《みや》の|飾《かざ》られたる|事《こと》を|語《かた》りしに、イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢらが|見《み》る|此《これ》|等《ら》の|物《もの》は、|一《ひと》つの|石《いし》も|崩《くづ》されずして|石《いし》の|上《うへ》に|殘《のこ》らぬ|日《ひ》きたらん』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|問《と》ひて|言《い》ふ『|師《し》よ、さらば|此《これ》|等《ら》のことは|何時《いつ》あるか、|又《また》これらの|事《こと》の|成《な》らんとする|時《とき》は|如何《いか》なる|兆《しるし》あるか』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|惑《まどは》されぬように|心《こころ》せよ、|多《おほ》くの|者《もの》わが|名《な》を|冒《をか》し|來《きた》り「われは|夫《それ》なり」と|言《い》ひ「|時《とき》は|近《ちか》づけり」と|言《い》はん、|彼《かれ》らに|從《したが》ふな。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|戰爭《いくさ》と|騷亂《さわぎ》との|事《こと》を|聞《き》くとき、|怖《お》づな。|斯《か》かることは|先《ま》づあるべきなり。|然《さ》れど|終《をはり》は|直《ただ》ちに|來《きた》らず』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひたまふ『「|民《たみ》は|民《たみ》に、|國《くに》は|國《くに》に|逆《さから》ひて|起《た》たん」[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かつ|大《おほい》なる|地震《ぢしん》あり、|處々《ところどころ》に|疫病《えきびゃう》・|饑饉《ききん》あらん。|懼《おそ》るべき|事《こと》と|天《てん》よりの|大《おほい》なる|兆《しるし》とあらん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]すべて|此《これ》|等《ら》のことに|先《さき》だちて、|人々《ひとびと》なんぢらに|手《て》をくだし、|汝《なんぢ》らを|責《せ》めん、|即《すなは》ち|汝《なんぢ》らを|會堂《くわいだう》および|獄《ひとや》に|付《わた》し、わが|名《な》のために|王《わう》たち|司《つかさ》たちの|前《まへ》に|曳《ひ》きゆかん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]これは|汝《なんぢ》らに|證《あかし》の|機《をり》とならん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》ら|如何《いか》に|答《こた》へんと|預《あらか》じめ|思慮《おもんぱか》るまじき|事《こと》を|心《こころ》に|定《さだ》めよ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに、|凡《すべ》て|逆《さから》ふ|者《もの》の|言《い》ひ|逆《さから》ひ|言《い》ひ|消《け》すことをなし|得《え》ざる、|口《くち》と|智慧《ちゑ》とを|與《あた》ふべければなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|兩親《ふたおや》・|兄弟《きゃうだい》・|親族《しんぞく》・|朋友《ほういう》にさへ|付《わた》されん。|又《また》かれらは|汝《なんぢ》らの|中《うち》の|或《ある》|者《もの》を|殺《ころ》さん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》わが|名《な》の|故《ゆゑ》に|凡《すべ》ての|人《ひと》に|憎《にく》まるべし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|汝《なんぢ》らの|頭《かしら》の|髮《け》|一《ひと》すぢだに|失《う》せじ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|忍耐《にんたい》によりて|其《そ》の|靈魂《たましひ》を|得《う》べし。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らエルサレムが|軍勢《ぐんぜい》に|圍《かこ》まるるを|見《み》ば、|其《そ》の|亡《ほろび》|近《ちか》づけりと|知《し》れ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》ユダヤに|居《を》る|者《もの》どもは|山《やま》に|遁《のが》れよ、|都《みやこ》の|中《うち》にをる|者《もの》どもは|出《い》でよ、|田舍《ゐなか》にをる|者《もの》どもは|都《みやこ》に|入《い》るな、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]これ|録《しる》されたる|凡《すべ》ての|事《こと》の|遂《と》げらるべき|刑罰《けいばつ》の|日《ひ》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》には|孕《みごも》りたる|者《もの》と、|乳《ちち》を|哺《の》まする|者《もの》とは|禍害《わざはひ》なるかな。|地《ち》に|大《おほい》なる|艱難《なやみ》ありて、|御怒《みいかり》この|民《たみ》に|臨《のぞ》み、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|劍《つるぎ》の|刃《は》に|斃《たふ》れ、|又《また》は|捕《とら》はれて|諸國《しょこく》に|曳《ひ》かれん。|而《しか》してエルサレムは|異邦人《いはうじん》の|時《とき》|滿《み》つるまで、|異邦人《いはうじん》に|蹂躙《ふみにじ》らるべし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]また|日《ひ》・|月《つき》・|星《ほし》に|兆《しるし》あらん。|地《ち》にては|國々《くにぐに》の|民《たみ》なやみ、|海《うみ》と|濤《なみ》との|鳴《な》り|轟《とどろ》くによりて|狼狽《うろた》へ、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》おそれ、かつ|世界《せかい》に|來《きた》らんとする|事《こと》を|思《おも》ひて|膽《きも》を|失《うしな》はん。これ|天《てん》の|萬象《ばんしゃう》ふるひ|動《うご》けばなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》のとき|人々《ひとびと》、|人《ひと》の|子《こ》の|能力《ちから》と|大《おほい》なる|榮光《えいくわう》とをもて、|雲《くも》に|乘《の》りきたるを|見《み》ん。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]これらの|事《こと》|起《おこ》り|始《はじ》めなば、|仰《あふ》ぎて|首《かうべ》を|擧《あ》げよ。|汝《なんぢ》らの|贖罪《あがなひ》|近《ちか》づけるなり』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]また|譬《たとへ》を|言《い》ひたまふ『|無花果《いちぢく》の|樹《き》また|凡《すべ》ての|樹《き》を|見《み》よ、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|芽《め》ざせば、|汝《なんぢ》|等《ら》これを|見《み》てみづから|夏《なつ》の|近《ちか》きを|知《し》る。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|此《これ》|等《ら》のことの|起《おこ》るを|見《み》ば、|神《かみ》の|國《くに》の|近《ちか》きを|知《し》れ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]われ|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、これらの|事《こと》ことごとく|成《な》るまで、|今《いま》の|代《よ》は|過《す》ぎゆくことなし。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》|地《ち》は|過《す》ぎゆかん、されど|我《わ》が|言《ことば》は|過《す》ぎゆくことなし。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》みづから|心《こころ》せよ、|恐《おそ》らくは|飮食《いんしょく》にふけり、|世《よ》の|煩勞《わずらひ》にまとはれて|心《こころ》|鈍《にぶ》り、|思《おも》ひがけぬ|時《とき》、かの|日《ひ》|羂《わな》のごとく|來《きた》らん。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]これは|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》く|地《ち》の|面《おもて》に|住《す》める|凡《すべ》ての|人《ひと》に|臨《のぞ》むべきなり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]この|起《おこ》るべき|凡《すべ》ての|事《こと》をのがれ、|人《ひと》の|子《こ》のまへに|立《た》ち|得《う》るやう、|常《つね》に|祈《いの》りつつ|目《め》を|覺《さま》しをれ』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|晝《ひる》は|宮《みや》にて|教《をし》へ、|夜《よる》は|出《い》でてオリブといふ|山《やま》に|宿《やど》りたまふ。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》はみな|御教《みをしへ》を|聽《き》かんとて、|朝《あさ》とく|宮《みや》にゆき、|御許《みもと》に|集《あつま》れり。 第二二章[#「第二二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]さて|過越《すぎこし》といふ|除酵祭《じょかうさい》|近《ちか》づけり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》らイエスを|殺《ころ》さんとし、その|手段《てだて》いかにと|求《もと》む、|民《たみ》を|懼《おそ》れたればなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》にサタン、|十二《じふに》の|一人《ひとり》なるイスカリオテと|稱《とな》ふるユダに|入《い》る。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ユダ|乃《すなは》ち|祭司長《さいしちゃう》・|宮守頭《みやもりがしら》どもに|往《ゆ》きて、イエスを|如何《いか》にして|付《わた》さんと|議《はか》りたれば、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|喜《よろこ》びて|銀《かね》を|與《あた》へんと|約《やく》す。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ユダ|諾《うべな》ひて、|群衆《ぐんじゅう》の|居《を》らぬ|時《とき》にイエスを|付《わた》さんと|好《よ》き|機《をり》をうかがふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|過越《すぎこし》の|羔羊《こひつじ》を|屠《ほふ》るべき|除酵祭《じょかうさい》の|日《ひ》|來《きた》りたれば、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス、ペテロとヨハネとを|遣《つかは》さんとして|言《い》ひたまふ『|往《ゆ》きて|我《われ》らの|食《しょく》せん|爲《ため》に|過越《すぎこし》の|備《そなへ》をなせ』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|言《い》ふ『|何處《いづこ》に|備《そな》ふることを|望《のぞ》み|給《たま》ふか』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|視《み》よ、|都《みやこ》に|入《い》らば、|水《みづ》をいれたる|瓶《かめ》を|持《も》つ|人《ひと》なんぢらに|遇《あ》ふべし、|之《これ》に|從《したが》ひゆき、その|入《い》る|所《ところ》の|家《いへ》にいりて、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|家《いへ》の|主人《あるじ》に「|師《し》なんぢに|言《い》ふ、われ|弟子《でし》らと|共《とも》に|過越《すぎこし》の|食《しょく》をなすべき|座敷《ざしき》は|何處《いづこ》なるか」と|言《い》へ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]さらば|調《ととの》へたる|大《おほい》なる|二階《にかい》|座敷《ざしき》を|見《み》すべし。|其處《そこ》に|備《そな》へよ』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かれら|出《い》で|往《ゆ》きて、イエスの|言《い》ひ|給《たま》ひし|如《ごと》くなるを|見《み》て、|過越《すぎこし》の|設備《そなへ》をなせり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》いたりてイエス|席《せき》に|著《つ》きたまひ、|使徒《しと》たちも|共《とも》に|著《つ》く。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|苦難《くるしみ》の|前《まへ》に、なんぢらと|共《とも》にこの|過越《すぎこし》の|食《しょく》をなすことを|望《のぞ》みに|望《のぞ》みたり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|神《かみ》の|國《くに》にて|過越《すぎこし》の|成就《じゃうじゅ》するまでは、|我《われ》|復《また》これを|食《しょく》せざるべし』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|酒杯《さかづき》を|受《う》け、かつ|謝《しゃ》して|言《い》ひ|給《たま》ふ『これを|取《と》りて|互《たがひ》に|分《わか》ち|飮《の》め。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|神《かみ》の|國《くに》の|來《きた》るまでは、われ|今《いま》よりのち|葡萄《ぶだう》の|果《み》より|成《な》るものを|飮《の》まじ』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]またパンを|取《と》り|謝《しゃ》してさき、|弟子《でし》たちに|與《あた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『これは|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|與《あた》ふる|我《わ》が|體《からだ》なり。|我《わ》が|記念《きねん》として|之《これ》を|行《おこな》へ』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|夕餐《ゆふげ》ののち|酒杯《さかづき》をも|然《しか》して|言《い》ひ|給《たま》ふ『この|酒杯《さかづき》は、|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|流《なが》す|我《わ》が|血《ち》によりて|立《た》つる|新《あたら》しき|契約《けいやく》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]されど|視《み》よ、|我《われ》を|賣《う》る|者《もの》の|手《て》、われと|共《とも》に|食卓《しょくたく》の|上《うへ》にあり、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|實《げ》に|人《ひと》の|子《こ》は|定《さだ》められたる|如《ごと》く|逝《ゆ》くなり。されど|之《これ》を|賣《う》る|者《もの》は|禍害《わざはひ》なるかな』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|己《おのれ》らの|中《うち》にて|此《こ》の|事《こと》をなす|者《もの》は、|誰《たれ》ならんと|互《たがひ》に|問《と》ひ|始《はじ》む。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》らの|間《あひだ》に、|己《おのれ》らの|中《うち》たれか|大《おほい》ならんとの|爭論《あらそひ》おこりたれば、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|異邦人《いはうじん》の|王《わう》はその|民《たみ》を|宰《つかさ》どり、また|民《たみ》を|支配《しはい》する|者《もの》は|恩人《おんじん》と|稱《とな》へらる。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らは|然《しか》あらざれ、|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|大《おほい》なる|者《もの》は|若《わか》き|者《もの》のごとく、|頭《かしら》たる|者《もの》は|事《つか》ふる|者《もの》の|如《ごと》くなれ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|食事《しょくじ》の|席《せき》に|著《つ》く|者《もの》と|事《つか》ふる|者《もの》とは、|何《いづ》れか|大《おほい》なる。|食事《しょくじ》の|席《せき》に|著《つ》く|者《もの》ならずや、されど|我《われ》は|汝《なんぢ》らの|中《うち》にて|事《つか》ふる|者《もの》のごとし。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|我《わ》が|嘗試《こころみ》のうちに|絶《た》えず|我《われ》とともに|居《を》りし|者《もの》なれば、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]わが|父《ちち》の|我《われ》に|任《にん》じ|給《たま》へるごとく、|我《われ》も|亦《また》なんぢらに|國《くに》を|任《にん》ず。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]これ|汝《なんぢ》らの|我《わ》が|國《くに》にて|我《わ》が|食卓《しょくたく》に|飮食《のみくひ》し、かつ|座位《くらゐ》に|坐《ざ》してイスラエルの|十二《じふに》の|族《やから》を|審《さば》かん|爲《ため》なり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]シモン、シモン、|視《み》よ、サタン|汝《なんぢ》らを|麥《むぎ》のごとく|篩《ふる》はんとて|請《こ》ひ|得《え》たり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》なんぢの|爲《ため》に、その|信仰《しんかう》の|失《う》せぬやうに|祈《いの》りたり、なんぢ|立《た》ち|歸《かへ》りてのち|兄弟《きゃうだい》たちを|堅《かた》うせよ』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]シモン|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》は|汝《なんぢ》とともに|獄《ひとや》にまでも、|死《し》にまでも|往《ゆ》かんと|覺悟《かくご》せり』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『ペテロよ、|我《われ》なんぢに|告《つ》ぐ、|今日《けふ》なんぢ|三度《みたび》われを|知《し》らずと|否《いな》むまでは、|鷄《にはとり》|鳴《な》かざるべし』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『|財布《さいふ》・|嚢《ふくろ》・|鞋《くつ》をも|持《も》たせずして|汝《なんぢ》らを|遣《つかは》ししとき、|缺《か》けたる|所《ところ》ありしや』|彼《かれ》ら|言《い》ふ『|無《な》かりき』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『されど|今《いま》は|財布《さいふ》ある|者《もの》は|之《これ》を|取《と》れ、|嚢《ふくろ》ある|者《もの》も|然《しか》すべし。また|劍《つるぎ》なき|者《もの》は|衣《ころも》を|賣《う》りて|劍《つるぎ》を|買《か》へ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ「かれは|愆人《とがにん》と|共《とも》に|數《かぞ》へられたり」と|録《しる》されたるは、|我《わ》が|身《み》に|成《な》し|遂《と》げらるべし。|凡《おほよ》そ|我《われ》に|係《かかは》る|事《こと》は|成《な》し|遂《と》げらるればなり』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|言《い》ふ『|主《しゅ》、|見《み》たまへ、|茲《ここ》に|劍《つるぎ》|二振《ふたふり》あり』イエス|言《い》ひたまふ『|足《た》れり』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|出《い》でて、|常《つね》のごとくオリブ|山《やま》に|往《ゆ》き|給《たま》へば、|弟子《でし》たちも|從《したが》ふ。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|其處《そこ》に|至《いた》りて|彼《かれ》らに|言《い》ひたまふ『|誘惑《まどはし》に|入《い》らぬやうに|祈《いの》れ』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|自《みづか》らは|石《いし》の|投《な》げらるる|程《ほど》かれらより|隔《へだて》り、|跪《ひざま》づきて|祈《いの》り|言《い》ひたまふ、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]『|父《ちち》よ、|御旨《みむね》ならば、|此《こ》の|酒杯《さかづき》を|我《われ》より|取《と》り|去《さ》りたまへ、されど|我《わ》が|意《こころ》にあらずして|御意《みこころ》の|成《な》らんことを|願《ねが》ふ』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》に|天《てん》より|御使《みつかひ》あらはれて、イエスに|力《ちから》を|添《そ》ふ。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|悲《かな》しみ|迫《せま》り、いよいよ|切《せつ》に|祈《いの》り|給《たま》へば、|汗《あせ》は|地上《ちじゃう》に|落《お》つる|血《ち》の|雫《しづく》の|如《ごと》し。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|祈《いのり》を|了《を》へ、|起《た》ちて|弟子《でし》たちの|許《もと》にきたり、その|憂《うれひ》によりて|眠《ねむ》れるを|見《み》て|言《い》ひたまふ、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]『なんぞ|眠《ねむ》るか、|起《た》て、|誘惑《まどはし》に|入《い》らぬやうに|祈《いの》れ』[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]なほ|語《かた》りゐ|給《たま》ふとき、|視《み》よ、|群衆《ぐんじゅう》あらはれ、|十二《じふに》の|一人《ひとり》なるユダ|先《さき》だち|來《きた》り、イエスに|接吻《くちつけ》せんとて|近寄《ちかよ》りたれば、[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『ユダ、なんぢは|接吻《くちつけ》をもて|人《ひと》の|子《こ》を|賣《う》るか』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|御側《みそば》に|居《を》る|者《もの》ども|事《こと》の|及《およ》ばんとするを|見《み》て|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、われら|劍《つるぎ》をもて|撃《う》つべきか』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》の|一人《ひとり》、|大《だい》|祭司《さいし》の|僕《しもべ》を|撃《う》ちて、|右《みぎ》の|耳《みみ》を|切《き》り|落《おと》せり。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|之《これ》にてゆるせ』|而《しか》して|僕《しもべ》の|耳《みみ》に|手《て》をつけて|醫《いや》し|給《たま》ふ。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|己《おのれ》に|向《むか》ひて|來《きた》れる|祭司長《さいしちゃう》・|宮守頭《みやもりがしら》・|長老《ちゃうらう》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|強盜《がうたう》に|向《むか》ふごとく、|劍《つるぎ》と|棒《ぼう》とを|持《も》ちて|出《い》できたるか。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|日々《ひび》なんぢらと|共《とも》に|宮《みや》に|居《を》りしに、|我《わ》が|上《うへ》に|手《て》を|伸《の》べざりき。されど|今《いま》は|汝《なんぢ》らの|時《とき》、また|暗黒《くらき》の|權威《けんゐ》なり』[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|人々《ひとびと》イエスを|捕《とら》へて、|大《だい》|祭司《さいし》の|家《いへ》に|曳《ひ》きゆく。ペテロ|遠《とほ》く|離《はな》れて|從《したが》ふ。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》、|中庭《なかには》のうちに|火《ひ》を|焚《た》きて、|諸共《もろとも》に|坐《ざ》したれば、ペテロもその|中《なか》に|坐《ざ》す。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|婢女《はしため》ペテロの|火《ひ》の|光《ひかり》を|受《う》けて|坐《ざ》し|居《を》るを|見《み》、これに|目《め》を|注《そそ》ぎて|言《い》ふ『この|人《ひと》も|彼《かれ》と|偕《とも》にゐたり』[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|肯《うけが》はずして|言《い》ふ『をんなよ、|我《われ》は|彼《かれ》を|知《し》らず』[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]|暫《しばら》くして|他《ほか》の|者《もの》ペテロを|見《み》て|言《い》ふ『なんぢも|彼《かれ》の|黨與《ともがら》なり』ペテロ|言《い》ふ『|人《ひと》よ、|然《しか》らず』[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]|一《ひと》|時《とき》ばかりして|又《また》ほかの|男《をとこ》、|言張《いひは》りて|言《い》ふ『まさしく|此《こ》の|人《ひと》も|彼《かれ》とともに|在《あ》りき、|是《これ》ガリラヤ|人《ひと》なり』[#太字]六〇[#「六〇」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『|人《ひと》よ、|我《われ》なんぢの|言《い》ふことを|知《し》らず』なほ|言《い》ひ|終《を》へぬに、やがて|鷄《にはとり》|鳴《な》きぬ。[#太字]六一[#「六一」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》、|振反《ふりかへ》りてペテロに|目《め》をとめ|給《たま》ふ。ここにペテロ、|主《しゅ》の『|今日《けふ》にはとり|鳴《な》く|前《まへ》に、なんぢ|三度《みたび》われを|否《いな》まん』と|言《い》ひ|給《たま》ひし|御言《みことば》を|憶《おも》ひいだし、[#太字]六二[#「六二」は行右小書き][#太字終わり]|外《そと》に|出《い》でて|甚《いた》く|泣《な》けり。[#太字]六三[#「六三」は行右小書き][#太字終わり]|守《まも》る|者《もの》どもイエスを|嘲弄《てうろう》し、|之《これ》を|打《う》ち、[#太字]六四[#「六四」は行右小書き][#太字終わり]その|目《め》を|蔽《おほ》ひ|問《と》ひて|言《い》ふ『|預言《よげん》せよ、|汝《なんぢ》を|撃《う》ちし|者《もの》は|誰《たれ》なるか』[#太字]六五[#「六五」は行右小書き][#太字終わり]この|他《ほか》なほ|多《おほ》くのことを|言《い》ひて|譏《そし》れり。[#太字]六六[#「六六」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあけ》になりて、|民《たみ》の|長老《ちゃうらう》・|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》ら|相《あひ》|集《あつま》り、イエスをその|議會《ぎくわい》に|曳《ひ》き|出《いだ》して|言《い》ふ、[#太字]六七[#「六七」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢ|若《も》しキリストならば、|我《われ》らに|言《い》へ』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|言《い》ふとも|汝《なんぢ》ら|信《しん》ぜじ、[#太字]六八[#「六八」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》われ|問《と》ふとも|汝《なんぢ》ら|答《こた》へじ。[#太字]六九[#「六九」は行右小書き][#太字終わり]されど|人《ひと》の|子《こ》は|今《いま》よりのち|神《かみ》の|能力《ちから》の|右《みぎ》に|坐《ざ》せん』[#太字]七〇[#「七〇」は行右小書き][#太字終わり]|皆《みな》いふ『されば|汝《なんぢ》は|神《かみ》の|子《こ》なるか』|答《こた》へ|給《たま》ふ『なんぢらの|言《い》ふごとく|我《われ》はそれなり』[#太字]七一[#「七一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|言《い》ふ『|何《なに》ぞなほ|他《ほか》に|證據《しょうこ》を|求《もと》めんや。|我《われ》ら|自《みづか》らその|口《くち》より|聞《き》けり』 第二三章[#「第二三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|民衆《みんしゅう》みな|起《た》ちて、イエスをピラトの|前《まへ》に|曳《ひ》きゆき、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|訴《うった》へ|出《い》でて|言《い》ふ『われら|此《こ》の|人《ひと》が、わが|國《くに》の|民《たみ》を|惑《まどは》し、|貢《みつぎ》をカイザルに|納《をさ》むるを|禁《きん》じ、かつ|自《みづか》ら|王《わう》なるキリストと|稱《とな》ふるを|認《みと》めたり』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ピラト、イエスに|問《と》ひて|言《い》ふ『なんぢはユダヤ|人《びと》の|王《わう》なるか』|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|言《い》ふが|如《ごと》し』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|祭司長《さいしちゃう》らと|群衆《ぐんじゅう》とに|言《い》ふ『われ|此《こ》の|人《ひと》に|愆《とが》あるを|見《み》ず』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》ますます|言《い》ひ|募《つの》り『かれはユダヤ|全國《ぜんこく》に|教《をしへ》をなして|民《たみ》を|騷《さわ》がし、ガリラヤより|始《はじ》めて、|此處《ここ》に|至《いた》る』と|言《い》ふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|之《これ》を|聞《き》き、そのガリラヤ|人《ひと》なるかを|問《と》ひて、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデの|權下《けんか》の|者《もの》なるを|知《し》り、ヘロデ|此《こ》の|頃《ころ》エルサレムに|居《ゐ》たれば、イエスをその|許《もと》に|送《おく》れり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ、イエスを|見《み》て|甚《いた》く|喜《よろこ》ぶ。これは|彼《かれ》に|就《つ》きて|聞《き》く|所《ところ》ありたれば、|久《ひさ》しく|逢《あ》はんことを|欲《ほっ》し、|何《なに》をか|徴《しるし》を|行《おこな》ふを|見《み》んと|望《のぞ》み|居《ゐ》たる|故《ゆゑ》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|多《おほ》くの|言《ことば》をもて|問《と》ひたれど、イエス|何《なに》をも|答《こた》へ|給《たま》はず。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》・|學者《がくしゃ》ら|起《た》ちて|激甚《ていた》くイエスを|訴《うった》ふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデその|兵卒《へいそつ》と|共《とも》にイエスを|侮《あなど》り、かつ|嘲弄《てうろう》し、|華美《はなやか》なる|衣《ころも》を|著《き》せて、ピラトに|返《かへ》す。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデとピラトと|前《さき》には|仇《あた》たりしが、|此《こ》の|日《ひ》たがひに|親《した》しくなれり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ピラト、|祭司長《さいしちゃう》らと|司《つかさ》らと|民《たみ》とを|呼《よ》び|集《あつ》めて|言《い》ふ、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]『|汝《なんぢ》らこの|人《ひと》を|民《たみ》を|惑《まどは》す|者《もの》として|曳《ひ》き|來《きた》れり。|視《み》よ、われ|汝《なんぢ》らの|前《まへ》にて|訊《ただ》したれど、|其《そ》の|訴《うった》ふる|所《ところ》に|就《つ》きて、この|人《ひと》に|愆《とが》あるを|見《み》ず。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデも|亦《また》|然《しか》り、|彼《かれ》を|我《われ》らに|返《かへ》したり。|視《み》よ、|彼《かれ》は|死《し》に|當《あた》るべき|業《わざ》を|爲《な》さざりき。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されば|懲《こら》しめて|之《これ》を|赦《ゆる》さん』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|民衆《みんしゅう》ともに|叫《さけ》びて|言《い》ふ『この|人《ひと》を|除《のぞ》け、|我《われ》らにバラバを|赦《ゆる》せ』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》のバラバは、|都《みやこ》に|起《おこ》りし|一揆《いっき》と|殺人《ひとごろし》との|故《ゆゑ》によりて、|獄《ひとや》に|入《い》れられたる|者《もの》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ピラトはイエスを|赦《ゆる》さんと|欲《ほっ》して、|再《ふたた》び|彼《かれ》らに|告《つ》げたれど、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|叫《さけ》びて『|十字架《じふじか》につけよ、|十字架《じふじか》につけよ』と|言《い》ふ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|三度《みたび》まで『|彼《かれ》は|何《なに》の|惡事《あくじ》を|爲《な》ししか、|我《われ》その|死《し》に|當《あた》るべき|業《わざ》を|見《み》ず、|故《ゆゑ》に|懲《こら》しめて|赦《ゆる》さん』と|言《い》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]されど|人々《ひとびと》、|大聲《おほごゑ》をあげ|迫《せま》りて、|十字架《じふじか》につけんことを|求《もと》めたれば、|遂《つひ》にその|聲《こゑ》|勝《か》てり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ここにピラトその|求《もとめ》の|如《ごと》くすべしと|言渡《いひわた》し、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]その|求《もと》むるままに、かの|一揆《いっき》と|殺人《ひとごろし》との|故《ゆゑ》によりて|獄《ひとや》に|入《い》れられたる|者《もの》を|赦《ゆる》し、イエスを|付《わた》して|彼《かれ》らの|心《こころ》の|隨《まま》ならしめたり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》イエスを|曳《ひ》きゆく|時《とき》、シモンといふクレネ|人《びと》の|田舍《ゐなか》より|來《きた》るを|執《とら》へ、|十字架《じふじか》を|負《お》はせてイエスの|後《うしろ》に|從《したが》はしむ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》の|大《おほい》なる|群《むれ》と、|歎《なげ》き|悲《かな》しめる|女《をんな》たちの|群《むれ》と|之《これ》に|從《したが》ふ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|振反《ふりかへ》りて|女《をんな》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『エルサレムの|娘《むすめ》よ、わが|爲《ため》に|泣《な》くな、ただ|己《おの》がため、|己《おの》が|子《こ》のために|泣《な》け。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ「|石婦《うまずめ》、|兒《こ》|産《う》まぬ|腹《はら》、|哺《の》ませぬ|乳《ちち》は|幸福《さいはひ》なり」と|言《い》ふ|日《ひ》きたらん。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》ひとびと「|山《やま》に|向《むか》ひて|我《われ》らの|上《うへ》に|倒《たふ》れよ、|岡《をか》に|向《むか》ひて|我《われ》らを|掩《おほ》へ」と|言《い》ひ|出《い》でん。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]もし|青《あを》|樹《き》に|斯《か》く|爲《な》さば、|枯樹《かれき》は|如何《いか》にせられん』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》に|二人《ふたり》の|惡人《あくにん》をも、|死罪《しざい》に|行《おこな》はんとてイエスと|共《とも》に|曳《ひ》きゆく。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|髑髏《されかうべ》といふ|處《ところ》に|到《いた》りて、イエスを|十字架《じふじか》につけ、また|惡人《あくにん》の|一人《ひとり》をその|右《みぎ》、|一人《ひとり》をその|左《ひだり》に|十字架《じふじか》につく。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエス|言《い》ひたまふ『|父《ちち》よ、|彼《かれ》らを|赦《ゆる》し|給《たま》へ、その|爲《な》す|所《ところ》を|知《し》らざればなり』|彼《かれ》らイエスの|衣《ころも》を|分《わか》ちて|鬮取《くじとり》にせり、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》は|立《た》ちて|見《み》ゐたり。|司《つかさ》たちも|嘲《あざけ》りて|言《い》ふ『かれは|他人《たにん》を|救《すく》へり、もし|神《かみ》の|選《えら》び|給《たま》ひしキリストならば、|己《おのれ》をも|救《すく》へかし』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|兵卒《へいそつ》どもも|嘲弄《てうろう》しつつ、|近《ちか》よりて|酸《す》き|葡萄酒《ぶだうしゅ》をさし|出《いだ》して|言《い》ふ、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢ|若《も》しユダヤ|人《びと》の|王《わう》ならば、|己《おのれ》を|救《すく》へ』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》イエスの|上《うへ》には『これはユダヤ|人《びと》の|王《わう》なり』との|罪標《すてふだ》あり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|十字架《じふじか》に|懸《か》けられたる|惡人《あくにん》の|一人《ひとり》、イエスを|譏《そし》りて|言《い》ふ『なんぢはキリストならずや、|己《おのれ》と|我《われ》らとを|救《すく》へ』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|者《もの》これに|答《こた》へ|禁《いまし》めて|言《い》ふ『なんぢ|同《おな》じく|罪《つみ》に|定《さだ》められながら、|神《かみ》を|畏《おそ》れぬか。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|爲《な》しし|事《こと》の|報《むくい》を|受《う》くるなれば|當然《たうぜん》なり。されど|此《こ》の|人《ひと》は|何《なに》の|不《ふ》|善《ぜん》をも|爲《な》さざりき』[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ふ『イエスよ、|御國《みくに》に|入《い》り|給《たま》ふとき、|我《われ》を|憶《おぼ》えたまえ』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|誠《まこと》に|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、|今日《けふ》なんぢは|我《われ》と|偕《とも》にパラダイスに|在《あ》るべし』[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|晝《ひる》の|十二《じふに》|時《じ》ごろ、|日《ひ》、|光《ひかり》をうしなひ、|地《ち》のうへ|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》く|暗《くら》くなりて、|三時《さんじ》に|及《およ》び、[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|聖所《せいじょ》の|幕《まく》、|眞中《まなか》より|裂《さ》けたり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はりて|言《い》ひたまふ『|父《ちち》よ、わが|靈《れい》を|御手《みて》にゆだぬ』|斯《か》く|言《い》ひて|息《いき》|絶《た》えたまふ。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|百卒長《ひゃくそつちゃう》この|有《あ》りし|事《こと》を|見《み》て、|神《かみ》を|崇《あが》めて|言《い》ふ『|實《じつ》にこの|人《ひと》は|義人《ぎじん》なりき』[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]これを|見《み》んとて|集《あつま》りたる|群衆《ぐんじゅう》も、ありし|事《こと》どもを|見《み》て、みな|胸《むね》を|打《う》ちつつ|歸《かへ》れり。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》てイエスの|相識《しるべ》の|者《もの》およびガリラヤより|從《したが》ひ|來《きた》れる|女《をんな》たちも、|遙《はるか》に|立《た》ちて|此《これ》|等《ら》のことを|見《み》たり。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|議員《ぎゐん》にして|善《ぜん》かつ|義《ぎ》なるヨセフといふ|人《ひと》あり。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]――この|人《ひと》はかの|評議《ひゃうぎ》と|仕業《しわざ》とに|與《くみ》せざりき――ユダヤの|町《まち》なるアリマタヤの|者《もの》にて、|神《かみ》の|國《くに》を|待《ま》ちのぞめり。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|人《ひと》ピラトの|許《もと》にゆき、イエスの|屍體《しかばね》を|乞《こ》ひ、[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]これを|取《と》りおろし、|亞麻《あま》|布《ぬの》にて|包《つつ》み、|巖《いは》に|鑿《ほ》りたる|未《いま》だ|人《ひと》を|葬《はうむ》りし|事《こと》なき|墓《はか》に|納《をさ》めたり。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]この|日《ひ》は|準備《そなへ》|日《び》なり、かつ|安息《あんそく》|日《にち》|近《ちか》づきぬ。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]ガリラヤよりイエスと|共《とも》に|來《きた》りし|女《をんな》たち|後《あと》に|從《したが》ひ、その|墓《はか》と|屍體《しかばね》の|納《をさ》められたる|樣《さま》とを|見《み》、[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]|歸《かへ》りて|香料《かうれう》と|香《にほひ》|油《あぶら》とを|備《そな》ふ。かくて|誡命《いましめ》に|遵《したが》ひて、|安息《あんそく》|日《にち》を|休《やす》みたり。 第二四章[#「第二四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|一週《ひとまはり》の|初《はじめ》の|日《ひ》、|朝《あさ》まだき、|女《をんな》たち|備《そな》へたる|香料《かうれう》を|携《たづさ》へて|墓《はか》にゆく。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|石《いし》の|既《すで》に|墓《はか》より|轉《まろば》し|除《の》けあるを|見《み》、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|内《うち》に|入《い》りたるに、|主《しゅ》イエスの|屍體《しかばね》を|見《み》ず、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]これが|爲《ため》に|狼狽《うろた》へをりしに、|視《み》よ、|輝《かがや》ける|衣《ころも》を|著《き》たる|二人《ふたり》の|人《ひと》その|傍《かたは》らに|立《た》てり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》たち|懼《おそ》れて|面《おもて》を|地《ち》に|伏《ふ》せたれば、その|二人《ふたり》の|者《もの》いふ『なんぞ|死《し》にし|者《もの》どもの|中《うち》に|生《い》ける|者《もの》を|尋《たづ》ぬるか。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|此處《ここ》に|在《いま》さず、|甦《よみが》へり|給《たま》へり。|尚《なほ》ガリラヤに|居給《ゐたま》へるとき、|如何《いか》に|語《かた》り|給《たま》ひしかを|憶《おも》ひ|出《い》でよ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち「|人《ひと》の|子《こ》は|必《かなら》ず|罪《つみ》ある|人《ひと》の|手《て》に|付《わた》され、|十字架《じふじか》につけられ、かつ|三日《みっか》めに|甦《よみが》へるべし」と|言《い》ひ|給《たま》へり』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》らその|御言《みことば》を|憶《おも》ひ|出《い》で、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|墓《はか》より|歸《かへ》りて、|凡《すべ》て|此《これ》|等《ら》のことを|十《じふ》|一《いち》|弟子《でし》および|凡《すべ》て|他《ほか》の|弟子《でし》たちに|告《つ》ぐ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|女《をんな》たちはマグダラのマリヤ、ヨハンナ|及《およ》びヤコブの|母《はは》マリヤなり、|而《しか》して|彼《かれ》らと|共《とも》に|在《あ》りし|他《ほか》の|女《をんな》たちも、|之《これ》を|使徒《しと》たちに|告《つ》げたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たちは|其《そ》の|言《ことば》を|妄語《たはごと》と|思《おも》ひて|信《しん》ぜず。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり][ペテロは|起《た》ちて|墓《はか》に|走《はし》りゆき、|屈《かが》みて|布《ぬの》のみあるを|見《み》、ありし|事《こと》を|怪《あや》しみつつ|歸《かへ》れり][#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、この|日《ひ》|二人《ふたり》の|弟子《でし》、エルサレムより|三里《さんり》ばかり|隔《へだて》りたるエマオといふ|村《むら》に|往《ゆ》きつつ、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|有《あ》りし|事《こと》どもを|互《たがひ》に|語《かた》りあふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|語《かた》りかつ|論《ろん》じあふ|程《ほど》に、イエス|自《みづか》ら|近《ちか》づきて|共《とも》に|往《ゆ》き|給《たま》ふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》らの|目《め》|遮《さ》へられて、イエスたるを|認《みと》むること|能《あた》はず。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|歩《あゆ》みつつ|互《たがひ》に|語《かた》りあふ|言《こと》は|何《なん》ぞや』かれら|悲《かな》しげなる|状《さま》にて|立《た》ち|止《とどま》り、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]その|一人《ひとり》なるクレオパと|名《な》づくるもの|答《こた》へて|言《い》ふ『なんぢエルサレムに|寓《やど》り|居《ゐ》て、|獨《ひとり》り|此《こ》の|頃《ころ》かしこに|起《おこ》りし|事《こと》どもを|知《し》らぬか』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|如何《いか》なる|事《こと》ぞ』|答《こた》へて|言《い》ふ『ナザレのイエスの|事《こと》なり、|彼《かれ》は|神《かみ》と|凡《すべ》ての|民《たみ》との|前《まへ》にて、|業《わざ》にも|言《ことば》にも|能力《ちから》ある|預言者《よげんしゃ》なりしに、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》ら|及《およ》び|我《わ》が|司《つかさ》らは、|死罪《しざい》に|定《さだ》めんとて|之《これ》を|付《わた》し|遂《つひ》に|十字架《じふじか》につけたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らはイスラエルを|贖《あがな》ふべき|者《もの》は、この|人《ひと》なりと|望《のぞ》みゐたり、|然《しか》のみならず、|此《こ》の|事《こと》の|有《あ》りしより|今日《けふ》ははや|三日《みっか》めなるが、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]なほ|我等《われら》のうちの|或《ある》|女《をんな》たち、|我《われ》らを|驚《をどろ》かせり、|即《すなは》ち|彼《かれ》ら|朝《あさ》|夙《はや》く|墓《はか》に|往《ゆ》きたるに、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|屍體《しかばね》を|見《み》ずして|歸《かへ》り、かつ|御使《みつかひ》たち|現《あらは》れて、イエスは|活《い》き|給《たま》ふと|告《つ》げたりと|言《い》ふ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|朋輩《ともがら》の|數人《すにん》もまた|墓《はか》に|往《ゆ》きて|見《み》れば、|正《ただ》しく|女《をんな》たちの|言《い》ひし|如《ごと》くにしてイエスを|見《み》ざりき』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『ああ|愚《おろか》にして|預言者《よげんしゃ》たちの|語《かた》りたる|凡《すべ》てのことを|信《しん》ずるに|心《こころ》|鈍《にぶ》き|者《もの》よ。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|必《かなら》ず|此《これ》らの|苦難《くるしみ》を|受《う》けて、|其《そ》の|榮光《えいくわう》に|入《い》るべきならずや』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]かくてモーセ|及《およ》び|凡《すべ》ての|預言者《よげんしゃ》をはじめ、|己《おのれ》に|就《つ》きて|凡《すべ》ての|聖書《せいしょ》に|録《しる》したる|所《ところ》を|説《と》き|示《しめ》したまふ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|往《ゆ》く|所《ところ》の|村《むら》に|近《ちか》づきしに、イエスなほ|進《すす》みゆく|樣《さま》なれば、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|強《し》ひて|止《と》めて|言《い》ふ『|我《われ》らと|共《とも》に|留《とどま》れ、|時《とき》|夕《ゆふべ》に|及《およ》びて、|日《ひ》も|早《は》や|暮《く》れんとす』|乃《すなは》ち|留《とどま》らんとて|入《い》りたまふ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|共《とも》に|食事《しょくじ》の|席《せき》に|著《つ》きたまふ|時《とき》、パンを|取《と》りて|祝《しく》し、|擘《さ》きて|與《あた》へ|給《たま》へば、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|目《め》|開《ひら》けてイエスなるを|認《みと》む、|而《しか》してイエス|見《み》えずなり|給《たま》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]かれら|互《たがひ》に|言《い》ふ『|途《みち》にて|我《われ》らと|語《かた》り、|我《われ》らに|聖書《せいしょ》を|説明《ときあか》し|給《たま》へるとき、|我《われ》らの|心《こころ》、|内《うち》に|燃《も》えしならずや』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|直《ただ》ちに|立《た》ちエルサレムに|歸《かへ》りて|見《み》れば、|十《じふ》|一《いち》|弟子《でし》および|之《これ》と|偕《とも》なる|者《もの》あつまり|居《ゐ》て|言《い》ふ、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]『|主《しゅ》は|實《じつ》に|甦《よみが》へりて、シモンに|現《あらは》れ|給《たま》へり』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》の|者《もの》もまた|途《みち》にて|有《あ》りし|事《こと》と、パンを|擘《さ》き|給《たま》ふによりてイエスを|認《みと》めし|事《こと》とを|述《の》ぶ。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことを|語《かた》る|程《ほど》に、イエスその|中《なか》に|立《た》ち[『|平安《へいあん》なんぢらに|在《あ》れ』と|言《い》ひ]|給《たま》ふ。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]かれら|怖《お》ぢ|懼《おそ》れて、|見《み》る|所《ところ》のものを|靈《れい》ならんと|思《おも》ひしに、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|何《なに》ぞ|心《こころ》|騷《さわ》ぐか、|何《なに》ゆゑ|心《こころ》に|疑惑《うたがひ》おこるか、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》が|手《て》わが|足《あし》を|見《み》よ、これ|我《われ》なり。|我《われ》を|撫《な》でて|見《み》よ、|靈《れい》には|肉《にく》と|骨《ほね》となし、|我《われ》にはあり、|汝《なんぢ》らの|見《み》るごとし』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり][|斯《か》く|言《い》ひて|手《て》と|足《あし》とを|示《しめ》し|給《たま》ふ][#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]かれら|歡喜《よろこび》の|餘《あまり》に|信《しん》ぜずして|怪《あや》しめる|時《とき》、イエス|言《い》ひたまふ『|此處《ここ》に|何《なに》か|食物《しょくもつ》あるか』[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]かれら|炙《あぶ》りたる|魚《うを》|一片《ひときれ》を|捧《ささ》げたれば、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|取《と》り、その|前《まへ》にて|食《しょく》し|給《たま》へり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『これらの|事《こと》は、|我《わ》がなほ|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|在《あ》りし|時《とき》に|語《かた》りて、|我《われ》に|就《つ》きモーセの|律法《おきて》・|預言者《よげんしゃ》および|詩《し》|篇《へん》に|録《しる》されたる|凡《すべ》ての|事《こと》は、|必《かなら》ず|遂《と》げらるべしと|言《い》ひし|所《ところ》なり』[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]ここに|聖書《せいしょ》を|悟《さと》らしめんとて、|彼《かれ》らの|心《こころ》を|開《ひら》きて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]『かく|録《しる》されたり、キリストは|苦難《くるしみ》を|受《う》けて、|三日《みっか》めに|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へり、[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》その|名《な》によりて|罪《つみ》の|赦《ゆるし》を|得《え》さする|悔改《くいあらため》は、エルサレムより|始《はじま》りて、もろもろの|國人《くにびと》に|宣傳《のべつた》へらるべしと。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|此《これ》|等《ら》のことの|證人《しょうにん》なり。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|我《われ》は|父《ちち》の|約《やく》し|給《たま》へるものを|汝《なんぢ》らに|贈《おく》る。|汝《なんぢ》ら|上《うへ》より|能力《ちから》を|著《き》せらるるまでは|都《みやこ》に|留《とどま》れ』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にイエス|彼《かれ》らをベタニヤに|連《つ》れゆき、|手《て》を|擧《あ》げて|之《これ》を|祝《しく》したまふ。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|祝《しく》する|間《うち》に、|彼《かれ》らを|離《はな》れ[|天《てん》に|擧《あ》げられ]|給《たま》ふ。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら[|之《これ》を|拜《はい》し]|大《おほい》なる|歡喜《よろこび》をもてエルサレムに|歸《かへ》り、[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|常《つね》に|宮《みや》に|在《あ》りて、|神《かみ》を|讃《ほ》めゐたり。 [#改ページ] ヨハネ傳福音書[#「ヨハネ傳福音書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|太初《はじめ》に|言《ことば》あり、|言《ことば》は|神《かみ》と|偕《とも》にあり、|言《ことば》は|神《かみ》なりき。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]この|言《ことば》は|太初《はじめ》に|神《かみ》とともに|在《あ》り、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|萬《よろづ》の|物《もの》これに|由《よ》りて|成《な》り、|成《な》りたる|物《もの》に|一《ひと》つとして|之《これ》によらで|成《な》りたるはなし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|生命《いのち》あり、この|生命《いのち》は|人《ひと》の|光《ひかり》なりき。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|光《ひかり》は|暗黒《くらき》に|照《て》る、|而《しか》して|暗黒《くらき》は|之《これ》を|悟《さと》らざりき。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》より|遣《つかは》されたる|人《ひと》いでたり、その|名《な》をヨハネといふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》は|證《あかし》のために|來《きた》れり、|光《ひかり》に|就《つ》きて|證《あかし》をなし、また|凡《すべ》ての|人《ひと》の|彼《かれ》によりて|信《しん》ぜん|爲《ため》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|光《ひかり》にあらず、|光《ひかり》に|就《つ》きて|證《あかし》せん|爲《ため》に|來《きた》れるなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]もろもろの|人《ひと》をてらす|眞《まこと》の|光《ひかり》ありて、|世《よ》にきたれり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|世《よ》にあり、|世《よ》は|彼《かれ》に|由《よ》りて|成《な》りたるに、|世《よ》は|彼《かれ》を|知《し》らざりき。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かれは|己《おのれ》の|國《くに》にきたりしに、|己《おのれ》の|民《たみ》は|之《これ》を|受《う》けざりき。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]されど|之《これ》を|受《う》けし|者《もの》、|即《すなは》ちその|名《な》を|信《しん》ぜし|者《もの》には、|神《かみ》の|子《こ》となる|權《けん》をあたへ|給《たま》へり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かかる|人《ひと》は|血脈《ちすぢ》によらず、|肉《にく》の|欲《ねがひ》によらず、|人《ひと》の|欲《ねがひ》によらず、ただ、|神《かみ》によりて|生《うま》れしなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|言《ことば》は|肉體《にくたい》となりて|我《われ》らの|中《うち》に|宿《やど》りたまへり、|我《われ》らその|榮光《えいくわう》を|見《み》たり、|實《げ》に|父《ちち》の|獨子《ひとりご》の|榮光《えいくわう》にして、|恩惠《めぐみ》と|眞理《まこと》とにて|滿《み》てり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|彼《かれ》につきて|證《あかし》をなし、|呼《よば》はりて|言《い》ふ『「わが|後《のち》にきたる|者《もの》は|我《われ》に|勝《まさ》れり、|我《われ》より|前《さき》にありし|故《ゆゑ》なり」と、|我《わ》が|曾《かつ》ていへるは|此《こ》の|人《ひと》なり』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|皆《みな》その|充《み》ち|滿《み》ちたる|中《うち》より|受《う》けて、|恩惠《めぐみ》に|恩惠《めぐみ》を|加《くは》へらる。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》はモーセによりて|與《あた》へられ、|恩惠《めぐみ》と|眞理《まこと》とはイエス・キリストによりて|來《きた》れるなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|未《いま》だ|神《かみ》を|見《み》し|者《もの》なし、ただ|父《ちち》の|懷裡《ふところ》にいます|獨子《ひとりご》の|神《かみ》のみ|之《これ》を|顯《あらは》し|給《たま》へり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]さてユダヤ|人《びと》、エルサレムより|祭司《さいし》とレビ|人《ひと》とをヨハネの|許《もと》に|遣《つかは》して『なんぢは|誰《たれ》なるか』と|問《と》はせし|時《とき》、ヨハネの|證《あかし》はかくのごとし。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|言《い》ひあらはして|諱《い》まず『|我《われ》はキリストにあらず』と|言《い》ひあらはせり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]また|問《と》ふ『さらば|何《なに》、エリヤなるか』|答《こた》ふ『|然《しか》らず』|問《と》ふ『かの|預言者《よげんしゃ》なるか』|答《こた》ふ『いな』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》ら|言《い》ふ『なんぢは|誰《たれ》なるか、|我《われ》らを|遣《つかは》しし|人々《ひとびと》に|答《こた》へ|得《う》るやうにせよ、なんぢ|己《おのれ》につきて|何《なに》と|言《い》ふか』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『|我《われ》は|預言者《よげんしゃ》イザヤの|云《い》へるが|如《ごと》く「|主《しゅ》の|道《みち》を|直《なほ》くせよと、|荒野《あらの》に|呼《よば》はる|者《もの》の|聲《こゑ》」なり』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]かの|遣《つかは》されたる|者《もの》はパリサイ|人《びと》なりき。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]また|問《と》ひて|言《い》ふ『なんぢ|若《も》しキリストに|非《あら》ず、またエリヤにも、かの|預言者《よげんしゃ》にも|非《あら》ずば、|何《なに》|故《ゆゑ》バプテスマを|施《ほどこ》すか』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|答《こた》へて|言《い》ふ『|我《われ》は|水《みづ》にてバプテスマを|施《ほどこ》す。なんじらの|中《うち》に|汝《なんぢ》らの|知《し》らぬもの|一人《ひとり》たてり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|我《わ》が|後《のち》にきたる|者《もの》なり、|我《われ》はその|鞋《くつ》の|紐《ひも》を|解《と》くにも|足《た》らず』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]これらの|事《こと》は、ヨハネのバプテスマを|施《ほどこ》しゐたりしヨルダンの|向《むかひ》なるベタニヤにてありしなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》ヨハネ、イエスの|己《おの》が|許《もと》にきたり|給《たま》ふを|見《み》ていふ『|視《み》よ、これぞ|世《よ》の|罪《つみ》を|除《のぞ》く|神《かみ》の|羔羊《こひつじ》。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]われ|曾《かつ》て「わが|後《のち》に|來《きた》る|人《ひと》あり、|我《われ》にまされり、|我《われ》より|前《さき》にありし|故《ゆゑ》なり」と|云《い》ひしは|此《こ》の|人《ひと》なり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もと|彼《かれ》を|知《し》らざりき。|然《さ》れど|彼《かれ》のイスラエルに|顯《あらは》れんために、|我《われ》きたりて|水《みづ》にてバプテスマを|施《ほどこ》すなり』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネまた|證《あかし》をなして|言《い》ふ『われ|見《み》しに、|御靈《みたま》|鴿《はと》のごとく|天《てん》より|降《くだ》りて、その|上《うへ》に|止《とどま》れり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もと|彼《かれ》を|知《し》らざりき。されど|我《われ》を|遣《つかは》し|水《みづ》にてバプテスマを|施《ほどこ》させ|給《たま》ふもの、|我《われ》に|告《つ》げて「なんぢ|御靈《みたま》くだりて|或《ある》|人《ひと》の|上《うへ》に|止《とどま》るを|見《み》ん、これぞ|聖《せい》|靈《れい》にてバプテスマを|施《ほどこ》す|者《もの》なる」といひ|給《たま》へり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]われ|之《これ》を|見《み》て、その|神《かみ》の|子《こ》たるを|證《あかし》せしなり』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》ヨハネまた|二人《ふたり》の|弟子《でし》とともに|立《た》ちて、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|歩《あゆ》み|給《たま》ふを|見《み》ていふ『|視《み》よ、これぞ|神《かみ》の|羔羊《こひつじ》』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]かく|語《かた》るをききて、|二人《ふたり》の|弟子《でし》イエスに|從《したが》ひゆきたれば、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|振反《ふりかへ》りて、その|從《したが》ひきたるを|見《み》て|言《い》ひたまふ『|何《なに》を|求《もと》むるか』|彼《かれ》|等《ら》いふ『ラビ(|釋《と》きていへば|師《し》)いづこに|留《とどま》り|給《たま》ふか』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『きたれ、さらば|見《み》ん』|彼《かれ》ら|往《ゆ》きてその|留《とどま》りたまふ|所《ところ》を|見《み》、この|日《ひ》ともに|留《とどま》れり、|時《とき》は|第十時《だいじふじ》ごろなりき。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネより|聞《き》きてイエスに|從《したが》ひし|二人《ふたり》のうち|一人《ひとり》は、シモン・ペテロの|兄弟《きゃうだい》アンデレなり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》まづ|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》シモンに|遇《あ》ひ『われらメシヤ(|釋《と》けばキリスト)に|遇《あ》へり』と|言《い》ひて、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》をイエスの|許《もと》に|連《つ》れきたれり。イエス|之《これ》に|目《め》を|注《と》めて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢはヨハネの|子《こ》シモンなり、|汝《なんぢ》ケパ(|釋《と》けばペテロ)と|稱《とな》へらるべし』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》イエス、ガリラヤに|往《ゆ》かんとし、ピリポにあひて|言《い》ひ|給《たま》ふ『われに|從《したが》へ』[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]ピリポはアンデレとペテロとの|町《まち》なるベツサイダの|人《ひと》なり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]ピリポ、ナタナエルに|遇《あ》ひて|言《い》ふ『|我《われ》らはモーセが|律法《おきて》に|録《しる》ししところ、|預言者《よげんしゃ》たちが|録《しる》しし|所《ところ》の|者《もの》に|遇《あ》へり、ヨセフの|子《こ》ナザレのイエスなり』[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]ナタナエル|言《い》ふ『ナザレより|何《なに》の|善《よ》き|者《もの》か|出《い》づべき』ピリポいふ『|來《きた》りて|見《み》よ』[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]イエス、ナタナエルの|己《おの》が|許《もと》にきたるを|見《み》、これを|指《さ》して|言《い》ひたまふ『|視《み》よ、これ|眞《まこと》にイスラエル|人《ひと》なり、その|衷《うち》に|虚僞《いつはり》なし』[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]ナタナエル|言《い》ふ『|如何《いか》にして|我《われ》を|知《し》り|給《たま》ふか』イエス|答《こたへ》えて|言《い》ひたまふ『ピリポの|汝《なんぢ》を|呼《よ》ぶまへに、|我《われ》なんぢが|無花果《いちぢく》の|樹《き》の|下《した》に|居《を》るを|見《み》たり』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]ナタナエル|答《こた》ふ『ラビ、なんぢは|神《かみ》の|子《こ》なり、|汝《なんぢ》はイスラエルの|王《わう》なり』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|汝《なんぢ》が|無花果《いちぢく》の|樹《き》の|下《した》にをるを|見《み》たりと|言《い》ひしに|因《よ》りて|信《しん》ずるか、|汝《なんぢ》これよりも|更《さら》に|大《おほい》なる|事《こと》を|見《み》ん』[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|天《てん》ひらけて、|人《ひと》の|子《こ》のうへに|神《かみ》の|使《つかひ》たちの|昇《のぼ》り|降《くだ》りするを|汝《なんぢ》ら|見《み》るべし』 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|三日《みっか》めにガリラヤのカナに|婚禮《こんれい》ありて、イエスの|母《はは》そこに|居《を》り、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]イエスも|弟子《でし》たちと|共《とも》に|婚禮《こんれい》に|招《まね》かれ|給《たま》ふ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|葡萄酒《ぶだうしゅ》つきたれば、|母《はは》イエスに|言《い》ふ『かれらに|葡萄酒《ぶだうしゅ》なし』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『をんなよ、|我《われ》と|汝《なんぢ》となにの|關係《かかはり》あらんや、|我《わ》が|時《とき》は|未《いま》だ|來《きた》らず』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|母《はは》|僕《しもべ》どもに『|何《なに》にても|其《そ》の|命《めい》ずる|如《ごと》くせよ』と|言《い》ひおく。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》にユダヤ|人《びと》の|潔《きよめ》の|例《れい》にしたがひて、|四《し》|五《ご》|斗《と》|入《い》りの|石甕《いしがめ》|六個《むつ》ならべあり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|僕《しもべ》に『|水《みづ》を|甕《かめ》に|滿《みた》せ』といひ|給《たま》へば、|口《くち》まで|滿《みた》す。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]また|言《い》ひ|給《たま》ふ『いま|汲《く》み|取《と》りて|饗宴《ふるまひ》|長《がしら》に|持《も》ちゆけ』|乃《すなは》ち|持《も》ちゆけり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|饗宴《ふるまひ》|長《がしら》、|葡萄酒《ぶだうしゅ》になりたる|水《みづ》を|嘗《な》めて、その|何處《いづこ》より|來《きた》りしかを|知《し》らざれば(|水《みづ》を|汲《く》みし|僕《しもべ》どもは|知《し》れり)|新郎《はなむこ》を|呼《よ》びて|言《い》ふ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]『おほよそ|人《ひと》は|先《まず》よき|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|出《いだ》し、|醉《ゑひ》のまはる|頃《ころ》ほひ|劣《おと》れるものを|出《いだ》すに、|汝《なんぢ》はよき|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|今《いま》まで|留《とど》め|置《お》きたり』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此《こ》の|第一《だいいち》の|徴《しるし》をガリラヤのカナにて|行《おこな》ひ、その|榮光《えいくわう》を|顯《あらは》し|給《たま》ひたれば、|弟子《でし》たち|彼《かれ》を|信《しん》じたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》イエス|及《およ》びその|母《はは》・|兄弟《きゃうだい》・|弟子《でし》たちカペナウムに|下《くだ》りて、そこに|數日《すにち》|留《とどま》りたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かくてユダヤ|人《びと》の|過越《すぎこし》の|祭《まつり》ちかづきたれば、イエス、エルサレムに|上《のぼ》り|給《たま》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|宮《みや》の|内《うち》に|牛《うし》・|羊《ひつじ》・|鴿《はと》を|賣《う》るもの、|兩替《りゃうがへ》する|者《もの》の|坐《ざ》するを|見《み》て、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|繩《なは》を|鞭《むち》につくり、|羊《ひつじ》をも|牛《うし》をもみな|宮《みや》より|逐《お》ひ|出《いだ》し、|兩替《りゃうがへ》する|者《もの》の|金《かね》を|散《ちら》し、その|臺《だい》を|倒《たふ》し、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|鴿《はと》をうる|者《もの》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『これらの|物《もの》を|此處《ここ》より|取《と》り|去《さ》れ、わが|父《ちち》の|家《いへ》を|商賣《あきなひ》の|家《いへ》とすな』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち『なんじの|家《いへ》をおもふ|熱心《ねっしん》われを|食《くら》はん』と|録《しる》されたるを|憶《おも》ひ|出《いだ》せり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]ここにユダヤ|人《びと》こたへてイエスに|言《い》ふ『なんぢ|此《これ》|等《ら》の|事《こと》をなすからには、|我《われ》らに|何《なに》の|徴《しるし》を示すか』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|此《こ》の|宮《みや》をこぼて、われ|三日《みっか》の|間《あひだ》に|之《これ》を|起《おこ》さん』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》いふ『この|宮《みや》を|建《た》つるには|四十《しじふ》|六《ろく》|年《ねん》を|經《へ》たり、なんぢは|三日《みっか》のうちに|之《これ》を|起《おこ》すか』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]これはイエス|己《おの》が|體《からだ》の|宮《みや》をさして|言《い》ひ|給《たま》へるなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へり|給《たま》ひしのち、|弟子《でし》たち|斯《か》く|言《い》ひ|給《たま》ひしことを|憶《おも》ひ|出《いだ》して、|聖書《せいしょ》とイエスの|言《い》ひ|給《たま》ひし|言《ことば》とを|信《しん》じたり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|過越《すぎこし》のまつりの|間《あひだ》、イエス、エルサレムに|在《いま》すほどに、|多《おほ》くの|人々《ひとびと》その|爲《な》し|給《たま》へる|徴《しるし》を|見《み》て|御名《みな》を|信《しん》じたり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]されどイエス|己《おのれ》を|彼《かれ》らに|任《まか》せ|給《たま》はざりき。それは|凡《すべ》ての|人《ひと》を|知《し》り、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]また|人《ひと》の|衷《うち》にある|事《こと》を|知《し》りたまへば、|人《ひと》に|就《つ》きて|證《あかし》する|者《もの》を|要《えう》せざる|故《ゆゑ》なり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]ここにパリサイ|人《びと》にて|名《な》をニコデモといふ|人《ひと》あり、ユダヤ|人《びと》の|宰《つかさ》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|夜《よる》イエスの|許《もと》に|來《きた》りて|言《い》ふ『ラビ、|我《われ》らは|汝《なんぢ》の|神《かみ》より|來《きた》る|師《し》なるを|知《し》る。|神《かみ》もし|偕《とも》に|在《いま》さずば、|汝《なんぢ》が|行《おこな》ふこれらの|徴《しるし》は|誰《たれ》もなし|能《あた》はぬなり』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、|人《ひと》あらたに|生《うま》れずば、|神《かみ》の|國《くに》を|見《み》ること|能《あた》はず』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ニコデモ|言《い》ふ『|人《ひと》はや|老《お》いぬれば、|爭《いか》で|生《うま》るる|事《こと》を|得《え》んや、|再《ふたた》び|母《はは》の|胎《たい》に|入《い》りて|生《うま》るることを|得《え》んや』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、|人《ひと》は|水《みづ》と|靈《れい》とによりて|生《うま》れずば、|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》ること|能《あた》はず、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|肉《にく》によりて|生《うま》るる|者《もの》は|肉《にく》なり、|靈《れい》によりて|生《うま》るる|者《もの》は|靈《れい》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|新《あらた》に|生《うま》るべしと|我《わ》が|汝《なんぢ》に|言《い》ひしを|怪《あや》しむな。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|風《かぜ》は|己《おの》が|好《この》むところに|吹《ふ》く、|汝《なんぢ》その|聲《こゑ》を|聞《き》けども、|何處《いづこ》より|來《きた》り|何處《いづこ》へ|往《ゆ》くを|知《し》らず。すべて|靈《れい》によりて|生《うま》るる|者《もの》も|斯《か》くのごとし』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ニコデモ|答《こた》へて|言《い》ふ『いかで|斯《か》かる|事《こと》どものあり|得《う》べき』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢはイスラエルの|師《し》にして、|猶《なほ》かかる|事《こと》どもを|知《し》らぬか。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、|我《われ》ら|知《し》ることを|語《かた》り、また|見《み》しことを|證《あかし》す、|然《しか》るに|汝《なんぢ》らその|證《あかし》を|受《う》けず。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]われ|地《ち》のことを|言《い》ふに|汝《なんぢ》ら|信《しん》ぜずば、|天《てん》のことを|言《い》はんには|爭《いか》で|信《しん》ぜんや。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》より|降《くだ》りし|者《もの》、|即《すなは》ち|人《ひと》の|子《こ》の|他《ほか》には、|天《てん》に|昇《のぼ》りしものなし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]モーセ|荒野《あらの》にて|蛇《へび》を|擧《あ》げしごとく、|人《ひと》の|子《こ》もまた|必《かなら》ず|擧《あ》げらるべし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]すべて|信《しん》ずる|者《もの》の|彼《かれ》によりて|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|得《え》ん|爲《ため》なり』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》はその|獨子《ひとりご》を|賜《たま》ふほどに|世《よ》を|愛《あい》し|給《たま》へり、すべて|彼《かれ》を|信《しん》ずる|者《もの》の|亡《ほろ》びずして、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|得《え》んためなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》その|子《こ》を|世《よ》に|遣《つかは》したまへるは、|世《よ》を|審《さば》かん|爲《ため》にあらず、|彼《かれ》によりて|世《よ》の|救《すく》はれん|爲《ため》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》を|信《しん》ずる|者《もの》は|審《さば》かれず、|信《しん》ぜぬ|者《もの》は|既《すで》に|審《さば》かれたり。|神《かみ》の|獨子《ひとりご》の|名《な》を|信《しん》ぜざりしが|故《ゆゑ》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]その|審判《さばき》は|是《これ》なり。|光《ひかり》、|世《よ》にきたりしに、|人《ひと》その|行爲《おこなひ》の|惡《あ》しきによりて、|光《ひかり》よりも|暗黒《くらき》を|愛《あい》したり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]すべて|惡《あく》を|行《おこな》ふ|者《もの》は|光《ひかり》をにくみて|光《ひかり》に|來《きた》らず、その|行爲《おこなひ》の|責《せ》められざらん|爲《ため》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|眞《まこと》をおこなふ|者《もの》は|光《ひかり》にきたる、その|行爲《おこなひ》の|神《かみ》によりて|行《おこな》ひたることの|顯《あらは》れん|爲《ため》なり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》イエス、|弟子《でし》たちとユダヤの|地《ち》にゆき、|其處《そこ》にともに|留《とどま》りてバプテスマを|施《ほどこ》し|給《たま》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネもサリムに|近《ちか》きアイノンにてバプテスマを|施《ほどこ》しゐたり、|其處《そこ》に|水《みづ》おほくある|故《ゆゑ》なり。|人々《ひとびと》つどひ|來《きた》りてバプテスマを|受《う》く。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネは|未《いま》だ|獄《ひとや》に|入《い》れられざりしなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ここにヨハネの|弟子《でし》たちと|一人《ひとり》のユダヤ|人《びと》との|間《あひだ》に、|潔《きよめ》につきて|論《ろん》|起《おこ》りたれば、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らヨハネの|許《もと》に|來《きた》りて|言《い》ふ『ラビ、|視《み》よ、|汝《なんぢ》とともにヨルダンの|彼方《かなた》にありし|者《もの》、なんぢが|證《あかし》せし|者《もの》、バプテスマを|施《ほどこ》し、|人《ひと》みなその|許《もと》に|往《ゆ》くなり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|答《こた》へて|言《い》ふ『|人《ひと》は|天《てん》より|與《あた》へられずば、|何《なに》をも|受《う》くること|能《あた》はず。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]「|我《われ》はキリストにあらず」|唯《ただ》「その|前《まへ》に|遣《つかは》されたる|者《もの》なり」と|我《わ》が|言《い》ひしことに|就《つ》きて|證《あかし》する|者《もの》は|汝《なんぢ》らなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|新婦《はなよめ》をもつ|者《もの》は|新郎《はなむこ》なり、|新郎《はなむこ》の|友《とも》は、|立《た》ちて|新郎《はなむこ》の|聲《こゑ》をきくとき|大《おほい》に|喜《よろこ》ぶ、この|我《わ》が|勸喜《よろこび》いま|滿《み》ちたり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|必《かなら》ず|盛《さかん》になり、|我《われ》は|衰《おとろ》ふべし』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|上《うへ》より|來《きた》るものは|凡《すべ》ての|物《もの》の|上《うへ》にあり、|地《ち》より|出《い》づるものは|地《ち》の|者《もの》にして、その|語《かた》ることも|地《ち》の|事《こと》なり。|天《てん》より|來《きた》るものは|凡《すべ》ての|物《もの》の|上《うへ》にあり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》その|見《み》しところ|聞《き》きしところを|證《あかし》したまふに、|誰《たれ》もその|證《あかし》を|受《う》けず。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]その|證《あかし》を|受《う》くる|者《もの》は、|印《いん》して|神《かみ》を|眞《まこと》なりとす。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》は|神《かみ》の|言《ことば》をかたる、|神《かみ》、|御靈《みたま》を|賜《たま》ひて|量《はか》りなければなり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》は|御子《みこ》を|愛《あい》し、|萬物《ばんもつ》をその|手《て》に|委《ゆだ》ね|給《たま》へり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|御子《みこ》を|信《しん》ずる|者《もの》は|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》をもち、|御子《みこ》に|從《したが》はぬ|者《もの》は|生命《いのち》を|見《み》ず、|反《かへ》つて|神《かみ》の|怒《いかり》その|上《うへ》に|止《とどま》るなり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》、おのれの|弟子《でし》を|造《つく》り、|之《これ》にバプテスマを|施《ほどこ》すこと、ヨハネよりも|多《おほ》しと、パリサイ|人《びと》に|聞《きこ》えたるを|知《し》り|給《たま》ひし|時《とき》、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり](その|實《じつ》イエス|自《みづか》らバプテスマを|施《ほどこ》ししにあらず、その|弟子《でし》たちなり)[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤを|去《さ》りて|復《また》ガリラヤに|往《ゆ》き|給《たま》ふ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]サマリヤを|經《へ》ざるを|得《え》ず。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]サマリヤのスカルといふ|町《まち》にいたり|給《たま》へるが、この|町《まち》はヤコブその|子《こ》ヨセフに|與《あた》へし|土地《とち》に|近《ちか》くして、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》にヤコブの|泉《いづみ》あり。イエス|旅路《たびぢ》に|疲《つか》れて|泉《いづみ》の|傍《かたは》らに|坐《ざ》し|給《たま》ふ、|時《とき》は|第六《だいろく》|時《じ》|頃《ごろ》なりき。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]サマリヤの|或《ある》|女《をんな》、|水《みづ》を|汲《く》まんとて|來《きた》りたれば、イエス|之《これ》に『われに|飮《の》ませよ』と|言《い》ひたまふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちは|食物《しょくもつ》を|買《か》はんとて|町《まち》にゆきしなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]サマリヤの|女《をんな》いふ『なんぢはユダヤ|人《びと》なるに、|如何《いか》なればサマリヤの|女《をんな》なる|我《われ》に、|飮《の》むことを|求《もと》むるか』これはユダヤ|人《びと》とサマリヤ|人《ひと》とは|交《まじは》りせぬ|故《ゆゑ》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢ|若《も》し|神《かみ》の|賜物《たまもの》を|知《し》り、また「|我《われ》に|飮《の》ませよ」といふ|者《もの》の|誰《たれ》なるを|知《し》りたらんには、|之《これ》に|求《もと》めしならん、さらば|汝《なんぢ》に|活《い》ける|水《みづ》を|與《あた》へしものを』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》いふ『|主《しゅ》よ、なんぢは|汲《く》む|物《もの》を|持《も》たず、|井《ゐ》は|深《ふか》し、その|活《い》ける|水《みづ》は|何處《いづこ》より|得《え》しぞ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》はこの|井《ゐ》を|我《われ》らに|與《あた》へし|我《われ》らの|父《ちち》ヤコブよりも|大《おほい》なるか、|彼《かれ》も、その|子《こ》らも、その|家畜《かちく》も、これより|飮《の》みたり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『すべて|此《こ》の|水《みづ》をのむ|者《もの》は、また|渇《かわ》かん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《わ》があたふる|水《みづ》を|飮《の》む|者《もの》は、|永遠《とこしへ》に|渇《かわ》くことなし。わが|與《あた》ふる|水《みづ》は|彼《かれ》の|中《うち》にて|泉《いづみ》となり、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》の|水《みづ》|湧《わ》きいづべし』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》いふ『|主《しゅ》よ、わが|渇《かわ》くことなく、|又《また》ここに|汲《く》みに|來《こ》ぬために、その|水《みづ》を|我《われ》にあたへよ』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『ゆきて|夫《をっと》をここに|呼《よ》びきたれ』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》こたへて|言《い》ふ『われに|夫《をっと》なし』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|夫《をっと》なしといふは|宜《うべ》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|夫《をっと》は|五《ご》|人《にん》までありしが、|今《いま》ある|者《もの》はなんぢの|夫《をっと》にあらず。|無《な》しと|云《い》へるは|眞《まこと》なり』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》いふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》なんぢを|預言者《よげんしゃ》とみとむ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たちは|此《こ》の|山《やま》にて|拜《はい》したるに、|汝《なんぢ》らは|拜《はい》すべき|處《ところ》をエルサレムなりと|言《い》ふ』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『をんなよ、|我《わ》が|言《い》ふことを|信《しん》ぜよ、|此《こ》の|山《やま》にもエルサレムにもあらで、|汝《なんぢ》ら|父《ちち》を|拜《はい》する|時《とき》きたるなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|知《し》らぬ|者《もの》を|拜《はい》し、|我《われ》らは|知《し》る|者《もの》を|拜《はい》す、|救《すくひ》はユダヤ|人《びと》より|出《い》づればなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]されど|眞《まこと》の|禮拜者《れいはいしゃ》の、|靈《れい》と|眞《まこと》とをもて|父《ちち》を|拜《はい》する|時《とき》きたらん、|今《いま》すでに|來《きた》れり。|父《ちち》はかくのごとく|拜《はい》する|者《もの》を|求《もと》めたまふ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|靈《れい》なれば、|拜《はい》する|者《もの》も|靈《れい》と|眞《まこと》とをもて|拜《はい》すべきなり』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》いふ『|我《われ》はキリストと|稱《とな》ふるメシヤの|來《きた》ることを|知《し》る、|彼《かれ》きたらば|諸般《もろもろ》のことを|我《われ》らに|告《つ》げん』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢと|語《かた》る|我《われ》はそれなり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》に|弟子《でし》たち|歸《かへ》りきたりて、|女《をんな》と|語《かた》り|給《たま》ふを|怪《あや》しみたれど、|何《なに》を|求《もと》め|給《たま》ふか、|何《なに》|故《ゆゑ》かれと|語《かた》り|給《たま》ふかと|問《と》ふもの|誰《たれ》もなし。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ここに|女《をんな》その|水瓶《みづがめ》を|遺《のこ》しおき、|町《まち》にゆきて|人々《ひとびと》にいふ、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]『|來《きた》りて|見《み》よ、わが|爲《な》しし|事《こと》をことごとく|我《われ》に|告《つ》げし|人《ひと》を。この|人《ひと》あるいはキリストならんか』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》|町《まち》を|出《い》でてイエスの|許《もと》にゆく。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]この|間《うち》に|弟子《でし》たち|請《こ》ひて|言《い》ふ『ラビ、|食《しょく》し|給《たま》へ』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|我《われ》には|汝《なんぢ》らの|知《し》らぬ|我《わ》が|食《しょく》する|食物《しょくもつ》あり』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|互《たがひ》にいふ『たれか|食《しょく》する|物《もの》を|持《も》ち|來《きた》りしか』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われを|遣《つかは》し|給《たま》へる|物《もの》の|御意《みこころ》を|行《おこな》ひ、その|御業《みわざ》をなし|遂《と》ぐるは、|是《これ》わが|食物《しょくもつ》なり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|收穫時《かりいれどき》の|來《きた》るには、なほ|四月《よつき》ありと|言《い》はずや。|我《われ》なんぢらに|告《つ》ぐ、|目《め》をあげて|畑《はた》を|見《み》よ、はや|黄《き》ばみて|收穫時《かりいれどき》になれり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|刈《か》る|者《もの》は|價《あたひ》を|受《う》けて|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》の|實《み》を|集《あつ》む。|播《ま》く|者《もの》と|刈《か》る|者《もの》とともに|喜《よろこ》ばん|爲《ため》なり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|俚諺《ことわざ》に、|彼《かれ》は|播《ま》き|此《これ》は|刈《か》るといへるは、|斯《ここ》において|眞《まこと》なり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢらを|遣《つかは》して、|勞《らう》せざりしものを|刈《か》らしむ。|他《ほか》の|人々《ひとびと》さきに|勞《らう》し、|汝《なんぢ》らはその|勞《らう》を|收《をさ》むるなり』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|町《まち》の|多《おほ》くのサマリヤ|人《ひと》、|女《をんな》の『わが|爲《な》しし|事《こと》をことごとく|告《つ》げし』と|證《あかし》したる|言《ことば》によりてイエスを|信《しん》じたり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]かくてサマリヤ|人《ひと》|御許《みもと》にきたりて、|此《こ》の|町《まち》に|留《とどま》らんことを|請《こ》ひたれば、|此處《ここ》に|二日《ふつか》とどまり|給《たま》ふ。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|御言《みことば》によりて|猶《なほ》もおほくの|人《ひと》|信《しん》じたり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|女《をんな》に|言《い》ふ『|今《いま》われらの|信《しん》ずるは、|汝《なんぢ》のかたる|言《ことば》によるにあらず、|親《した》しく|聽《き》きて、これは|眞《まこと》に|世《よ》の|救主《すくひぬし》なりと|知《し》りたる|故《ゆゑ》なり』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|二日《ふつか》の|後《のち》、イエスここを|去《さ》りてガリラヤに|往《ゆ》き|給《たま》ふ。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|自《みづか》ら|證《あかし》して、|預言者《よげんしゃ》は|己《おの》が|郷《さと》にて|尊《たふと》ばるる|事《こと》なしと|言《い》ひ|給《たま》へり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]かくてガリラヤに|往《ゆ》き|給《たま》へば、ガリラヤ|人《ひと》これを|迎《むか》へたり。|前《さき》に|彼《かれ》らも|祭《まつり》に|上《のぼ》り、その|祭《まつり》の|時《とき》にエルサレムにて|行《おこな》ひ|給《たま》ひし|事《こと》を|見《み》たる|故《ゆゑ》なり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|復《また》ガリラヤのカナに|往《ゆ》き|給《たま》ふ、ここは|前《さき》に|水《みづ》を|葡萄酒《ぶだうしゅ》になし|給《たま》ひし|處《ところ》なり。|時《とき》に|王《わう》の|近臣《きんしん》あり、その|子《こ》カペナウムにて|病《や》みゐたれば、[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]イエスのユダヤよりガリラヤに|來《きた》り|給《たま》へるを|聞《き》き、|御許《みもと》にゆきて、カペナウムに|下《くだ》りその|子《こ》を|醫《いや》し|給《たま》はんことを|請《こ》ふ、|子《こ》は|死《し》ぬばかりなりしなり。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》とを|見《み》ずば、|信《しん》ぜじ』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|近臣《きんしん》いふ『|主《しゅ》よ、わが|子《こ》の|死《し》なぬ|間《うち》に|下《くだ》り|給《たま》へ』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『かへれ、|汝《なんぢ》の|子《こ》は|生《い》くるなり』|彼《かれ》はイエスの|言《い》ひ|給《たま》ひしことを|信《しん》じて|歸《かへ》りしが、[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|下《くだ》る|途中《とちゅう》、|僕《しもべ》ども|往《ゆ》き|遇《あ》ひて、その|子《こ》の|生《い》きたることを|告《つ》ぐ。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]その|癒《い》えはじめし|時《とき》を|問《と》ひしに『|昨日《きのふ》の|第七《だいしち》|時《じ》に|熱《ねつ》|去《さ》れり』といふ。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》その|時《とき》の、イエスが『なんぢの|子《こ》は|生《い》くるなり』と|言《い》ひ|給《たま》ひし|時《とき》と|同《おな》じきを|知《し》り、|而《しか》して|己《おのれ》も|家《いへ》の|者《もの》もみな|信《しん》じたり。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》はイエス、ユダヤよりガリラヤに|往《ゆ》きて|爲《な》し|給《たま》へる|第二《だいに》の|徴《しるし》なり。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》ユダヤ|人《びと》の|祭《まつり》ありて、イエス、エルサレムに|上《のぼ》り|給《たま》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]エルサレムにある|羊《ひつじ》|門《もん》のほとりに、ヘブル|語《ご》にてベテスダといふ|池《いけ》あり、|之《これ》にそひて|五《いつ》つの|廊《らう》あり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]その|内《うち》に|病《や》める|者《もの》、|盲人《めしひ》、|跛者《あしなへ》、|痩《や》せ|衰《おとろ》へたる|者《もの》ども|夥多《おびただ》しく|臥《ふ》しゐたり。(|水《みづ》の|動《うご》くを|待《ま》てるなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]それは|御使《みつかひ》のをりをり|降《くだ》りて|水《みづ》を|動《うご》かすことあれば、その|動《うご》きたるのち|最先《いやさき》に|池《いけ》にいる|者《もの》は、|如何《いか》なる|病《やまひ》にても|癒《い》ゆる|故《ゆゑ》なり)[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|爰《ここ》に|三十《さんじふ》|八《はち》|年《ねん》|病《やまひ》になやむ|人《ひと》ありしが、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|臥《ふ》し|居《を》るを|見《み》、かつその|病《やまひ》の|久《ひさ》しきを|知《し》り、|之《これ》に『なんぢ|癒《い》えんことを|願《ねが》ふか』と|言《い》ひ|給《たま》へば、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|病《や》める|者《もの》こたふ『|主《しゅ》よ、|水《みづ》の|動《うご》くとき、|我《われ》を|池《いけ》に|入《い》るる|者《もの》なし、|我《わ》が|往《ゆ》くほどに、|他《ほか》の|人《ひと》さきだち|下《くだ》るなり』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|起《お》きよ、|床《とこ》を|取《と》りあげて|歩《あゆ》め』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》ただちに|癒《い》え、|床《とこ》を|取《と》りあげて|歩《あゆ》めり。その|日《ひ》は|安息《あんそく》|日《にち》に|當《あた》りたれば、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》|醫《いや》されたる|人《ひと》にいふ『|安息《あんそく》|日《にち》なり、|床《とこ》を|取《と》りあぐるは|宜《よろ》しからず』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》ふ『われを|醫《いや》ししその|人《ひと》「|床《とこ》を|取《と》りあげて|歩《あゆ》め」と|云《い》へり』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]かれら|問《と》ふ『「|取《と》りあげて|歩《あゆ》め」と|言《い》ひし|人《ひと》は|誰《たれ》なるか』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されど|醫《いや》されし|者《もの》は、その|誰《たれ》なるを|知《し》らざりき、そこに|群衆《ぐんじゅう》ゐたればイエス|退《しりぞ》き|給《たま》ひしに|因《よ》る。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》イエス|宮《みや》にて|彼《かれ》に|遇《あ》ひて|言《い》ひたまふ『|視《み》よ、なんぢ|癒《い》えたり。|再《ふたた》び|罪《つみ》を|犯《をか》すな、|恐《おそ》らくは|更《さら》に|大《おほい》なる|惡《あ》しきこと|汝《なんぢ》に|起《おこ》らん』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》ゆきてユダヤ|人《びと》に、おのれを|醫《いや》したる|者《もの》のイエスなるを|告《つ》ぐ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ここにユダヤ|人《びと》、かかる|事《こと》を|安息《あんそく》|日《にち》になすとて、イエスを|責《せ》めたれば、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『わが|父《ちち》は|今《いま》にいたるまで|働《はたら》き|給《たま》ふ、|我《われ》もまた|働《はたら》くなり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》に|由《よ》りてユダヤ|人《びと》いよいよイエスを|殺《ころ》さんと|思《おも》ふ。それは|安息《あんそく》|日《にち》を|破《やぶ》るのみならず、|神《かみ》を|我《わ》が|父《ちち》といひて、|己《おのれ》を|神《かみ》と|等《ひと》しき|者《もの》になし|給《たま》ひし|故《ゆゑ》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|子《こ》は|父《ちち》のなし|給《たま》ふことを|見《み》て|行《おこな》ふほかは、|自《みづか》ら|何事《なにごと》をも|爲《な》し|得《え》ず、|父《ちち》のなし|給《たま》ふことは|子《こ》もまた|同《おな》じく|爲《な》すなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》は|子《こ》を|愛《あい》して、その|爲《な》す|所《ところ》をことごとく|子《こ》に|示《しめ》したまふ。また|更《さら》に|大《おほい》なる|業《わざ》を|示《しめ》し|給《たま》はん、|汝《なんぢ》|等《ら》をして|怪《あや》しましめん|爲《ため》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》の|死《し》にし|者《もの》を|起《おこ》して|活《いか》し|給《たま》ふごとく、|子《こ》もまた|己《おの》が|欲《ほっ》する|者《もの》を|活《いか》すなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》は|誰《たれ》をも|審《さば》き|給《たま》はず、|審判《さばき》をさへみな|子《こ》に|委《ゆだ》ね|給《たま》へり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]これ|凡《すべ》ての|人《ひと》の|父《ちち》を|敬《うやま》ふごとくに|子《こ》を|敬《うやま》はん|爲《ため》なり。|子《こ》を|敬《うやま》はぬ|者《もの》は、|之《これ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|父《ちち》をも|敬《うやま》はぬなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、わが|言《ことば》をききて|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》を|信《しん》ずる|人《ひと》は、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》をもち、かつ|審判《さばき》に|至《いた》らず、|死《し》より|生命《いのち》に|移《うつ》れるなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|死《し》にし|人《ひと》、|神《かみ》の|子《こ》の|聲《こゑ》をきく|時《とき》きたらん、|今《いま》すでに|來《きた》れり、|而《しか》して|聞《き》く|人《ひと》は|活《い》くべし。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]これ|父《ちち》みづから|生命《いのち》を|有《も》ち|給《たま》ふごとく、|子《こ》にも|自《みづか》ら|生命《いのち》を|有《も》つことを|得《え》させ、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]また|人《ひと》の|子《こ》たるに|因《よ》りて、|審判《さばき》する|權《けん》を|與《あた》へ|給《たま》ひしなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|之《これ》を|怪《あや》しむな、|墓《はか》にある|者《もの》みな|神《かみ》の|子《こ》の|聲《こゑ》をききて|出《い》づる|時《とき》きたらん。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|善《ぜん》をなしし|者《もの》は|生命《いのち》に|甦《よみが》へり、|惡《あく》を|行《おこな》ひし|者《もの》は|審判《さばき》に|甦《よみが》へるべし。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》みづから|何事《なにごと》もなし|能《あた》はず、ただ|聞《き》くままに|審《さば》くなり。わが|審判《さばき》は|正《ただ》し、それは|我《わ》が|意《こころ》を|求《もと》めずして、|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》の|御意《みこころ》を|求《もと》むるに|因《よ》る。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もし|己《おのれ》につきて|證《あかし》せば、|我《わ》が|證《あかし》は|眞《まこと》ならず。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》につきて|證《あかし》する|者《もの》は|他《ほか》にあり、その|我《われ》につきて|證《あかし》する|證《あかし》の|眞《まこと》なるを|我《われ》は|知《し》る。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|前《さき》に|人《ひと》をヨハネに|遣《つかは》ししに、|彼《かれ》は|眞《まこと》につきて|證《あかし》せり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|人《ひと》よりの|證《あかし》を|受《う》くる|事《こと》をせねど、|唯《ただ》なんぢらの|救《すく》はれん|爲《ため》に|之《これ》を|言《い》ふ。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]かれは|燃《も》えて|輝《かがや》く|燈火《ともしび》なりしが、|汝《なんぢ》|等《ら》その|光《ひかり》にありて|暫時《しばし》よろこぶ|事《こと》をせり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》にはヨハネの|證《あかし》よりも|大《おほい》なる|證《あかし》あり。|父《ちち》の|我《われ》にあたへて|成《な》し|遂《と》げしめ|給《たま》ふわざ、|即《すなは》ち|我《わ》がおこなふ|業《わざ》は、|我《われ》につきて|父《ちち》の|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひたるを|證《あかし》し、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》をおくり|給《たま》ひし|父《ちち》も、|我《われ》につきて|證《あかし》し|給《たま》へり。|汝《なんぢ》らは|未《いま》だその|御聲《みこゑ》を|聞《き》きし|事《こと》なく、その|御形《みかたち》を|見《み》し|事《こと》なし。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]その|御言《みことば》は|汝《なんぢ》らの|衷《うち》にとどまらず、その|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》を|信《しん》ぜぬに|因《よ》りて|知《し》らるるなり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|聖書《せいしょ》に|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》ありと|思《おも》ひて|之《これ》を|査《しら》ぶ、されどこの|聖書《せいしょ》は|我《われ》につきて|證《あかし》するものなり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|汝《なんぢ》ら|生命《いのち》を|得《え》んために|我《われ》に|來《きた》るを|欲《ほっ》せず。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|人《ひと》よりの|譽《ほまれ》をうくる|事《こと》をせず、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]ただ|汝《なんぢ》らの|衷《うち》に|神《かみ》を|愛《あい》する|事《こと》なきを|知《し》る。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はわが|父《ちち》の|名《な》によりて|來《きた》りしに、|汝《なんぢ》|等《ら》われを|受《う》けず、もし|他《ほか》の|人《ひと》おのれの|名《な》によりて|來《きた》らば|之《これ》を|受《う》けん。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|互《たがひ》に|譽《ほまれ》をうけて、|唯一《ゆゐいつ》の|神《かみ》よりの|譽《ほまれ》を|求《もと》めぬ|汝《なんぢ》らは、|爭《いか》で|信《しん》ずることを|得《え》んや。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]われ|父《ちち》に|汝《なんぢ》らを|訴《うった》へんとすと|思《おも》ふな、|訴《うった》ふるもの|一人《ひとり》あり、|汝《なんぢ》らが|頼《たのみ》とするモーセなり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しモーセを|信《しん》ぜしならば、|我《われ》を|信《しん》ぜしならん、|彼《かれ》は|我《われ》につきて|録《しる》したればなり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》の|書《ふみ》を|信《しん》ぜずば、|爭《いか》で|我《わ》が|言《ことば》を|信《しん》ぜんや』 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》イエス、ガリラヤの|海《うみ》、|即《すなは》ちテベリヤの|海《うみ》の|彼方《かなた》にゆき|給《たま》へば、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》これに|從《したが》ふ、これは|病《や》みたる|者《もの》に|行《おこな》ひたまへる|徴《しるし》を|見《み》し|故《ゆゑ》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|山《やま》に|登《のぼ》りて、|弟子《でし》たちと|共《とも》にそこに|坐《ざ》し|給《たま》ふ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》はユダヤ|人《びと》の|祭《まつり》なる|過越《すぎこし》に|近《ちか》し。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|眼《め》をあげて|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》のきたるを|見《み》て、ピリポに|言《い》ひ|給《たま》ふ『われら|何處《いづこ》よりパンを|買《か》ひて、|此《こ》の|人々《ひとびと》に|食《くら》はすべきか』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かく|言《い》ひ|給《たま》ふはピリポを|試《こころ》むるためにて、|自《みづか》ら|爲《な》さんとする|事《こと》を|知《し》り|給《たま》ふなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ピリポ|答《こた》へて|言《い》ふ『|二《に》|百《ひゃく》デナリのパンありとも、|人々《ひとびと》すこしづつ|受《う》くるになほ|足《た》らじ』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》の|一人《ひとり》にてシモン・ペテロの|兄弟《きゃうだい》なるアンデレ|言《い》ふ[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]『ここに|一人《ひとり》の|童子《わらべ》あり、|大麥《おほむぎ》のパン|五《いつ》つと|小《ちひさ》き|肴《さかな》|二《ふた》つとをもてり、されど|此《こ》の|多《おほ》くの|人《ひと》には|何《なに》にかならん』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|人々《ひとびと》を|坐《ざ》せしめよ』その|處《ところ》に|多《おほ》くの|草《くさ》ありて|人々《ひとびと》|坐《ざ》せしが、その|數《かず》おほよそ|五《ご》|千《せん》|人《にん》なりき。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス、パンを|取《と》りて|謝《しゃ》し、|坐《ざ》したる|人々《ひとびと》に|分《わか》ちあたへ、また|肴《さかな》をも|然《しか》なして、その|欲《ほっ》するほど|與《あた》へ|給《たま》ふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》の|飽《あ》きたるのち|弟子《でし》たちに|言《い》ひたまふ『|廢《すた》るもののなきように|擘《さ》きたる|餘《あまり》をあつめよ』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|集《あつ》めたるに、|五《いつ》つの|大麥《おほむぎ》のパンの|擘《さ》きたるを|食《くら》ひしものの|餘《あまり》、|十二《じふに》の|筐《かご》に|滿《み》ちたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》その|爲《な》し|給《たま》ひし|徴《しるし》を|見《み》ていふ『|實《げ》にこれは|世《よ》に|來《きた》るべき|預言者《よげんしゃ》なり』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》らが|來《きた》りて|己《おのれ》をとらへ、|王《わう》となさんとするを|知《し》り、|復《また》ひとりにて|山《やま》に|遁《のが》れたまふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|夕《ゆふべ》になりて|弟子《でし》たち|海《うみ》にくだり、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|船《ふね》にのり|海《うみ》を|渡《わた》りて、カペナウムに|往《ゆ》かんとす。|既《すで》に|暗《くら》くなりたるに、イエス|未《いま》だ|來《きた》りたまはず。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|大風《おほかぜ》ふきて|海《うみ》ややに|荒出《あれい》づ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|四《し》|五《ご》|十《じふ》|丁《ちゃう》こぎ|出《い》でしに、イエスの|海《うみ》の|上《うへ》をあゆみ、|船《ふね》に|近《ちか》づき|給《たま》ふを|見《み》て|懼《おそ》れたれば、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|我《われ》なり、|懼《おそ》るな』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ちイエスを|船《ふね》に|歓《よろこ》び|迎《むか》へしに、|船《ふね》は|直《ただ》ちに|往《ゆ》かんとする|地《ち》に|著《つ》けり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》、|海《うみ》のかなたに|立《た》てる|群衆《ぐんじゅう》は、|一艘《いっさう》のほかに|船《ふね》なく、|又《また》イエスは|弟子《でし》たちと|共《とも》に|乘《の》りたまはず、|弟子《でし》たちのみ|出《い》でゆきしを|見《み》たり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり](|時《とき》にテベリヤより|數艘《すうさう》の|船《ふね》、|主《しゅ》の|謝《しゃ》して|人々《ひとびと》にパンを|食《くら》はせ|給《たま》ひし|處《ところ》の|近《ちか》くに|來《きた》る)[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|群衆《ぐんじゅう》はイエスも|居給《ゐたま》はず、|弟子《でし》たちも|居《を》らぬを|見《み》て、その|船《ふね》に|乘《の》り、イエスを|尋《たづ》ねてカペナウムに|往《ゆ》けり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|海《うみ》の|彼方《かなた》にてイエスに|遇《あ》ひて|言《い》ふ『ラビ、|何時《いつ》ここに|來《きた》り|給《たま》ひしか』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|汝《なんぢ》らが|我《われ》を|尋《たづ》ぬるは、|徴《しるし》を|見《み》し|故《ゆゑ》ならで、パンを|食《くら》ひて|飽《あ》きたる|故《ゆゑ》なり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|朽《く》ちる|糧《かて》のためならで、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》にまで|至《いた》る|糧《かて》のために|働《はたら》け。これは|人《ひと》の|子《こ》の|汝《なんぢ》らに|與《あた》へんとするものなり、|父《ちち》なる|神《かみ》は|印《いん》して|彼《かれ》を|證《あかし》し|給《たま》ひたるに|因《よ》る』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》ら|言《い》ふ『われら|神《かみ》の|業《わざ》を|行《おこな》はんには|何《なに》をなすべきか』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひたまふ『|神《かみ》の|業《わざ》はその|遣《つかは》し|給《たま》へる|者《もの》を|信《しん》ずる|是《これ》なり』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|言《い》ふ『さらば|我《われ》らが|見《み》て|汝《なんぢ》を|信《しん》ぜしために、|何《なに》の|徴《しるし》をなすか、|何《なに》を|行《おこな》ふか。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|先祖《せんぞ》は|荒野《あらの》にてマナを|食《くら》へり、|録《しる》して「|天《てん》よりパンを|彼《かれ》らに|與《あた》へて|食《くら》はしめたり」と|云《い》へるが|如《ごと》し』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、モーセは|天《てん》よりのパンを|汝《なんぢ》らに|與《あた》へしにあらず、されど|我《わ》が|父《ちち》は|天《てん》よりの|眞《まこと》のパンを|與《あた》へたまふ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》のパンは|天《てん》より|降《くだ》りて|生命《いのち》を|世《よ》に|與《あた》ふるものなり』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》いふ『|主《しゅ》よ、そのパンを|常《つね》に|與《あた》へよ』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われは|生命《いのち》のパンなり、|我《われ》にきたる|者《もの》は|飢《う》ゑず、|我《われ》を|信《しん》ずる|者《もの》はいつまでも|渇《かわ》くことなからん。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らは|我《われ》を|見《み》てなほ|信《しん》ぜず、|我《われ》さきに|之《これ》を|告《つ》げたり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》の|我《われ》に|賜《たま》ふものは|皆《みな》われに|來《きた》らん、|我《われ》にきたる|者《もの》は|我《われ》これを|退《しりぞ》けず。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|夫《それ》わが|天《てん》より|降《くだ》りしは、|我《わ》が|意《こころ》をなさん|爲《ため》にあらず、|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》の|御意《みこころ》をなさん|爲《ため》なり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》の|御意《みこころ》は、すべて|我《われ》に|賜《たま》ひし|者《もの》を、|我《われ》その|一《ひと》つをも|失《うしな》はずして、|終《をはり》の|日《ひ》に|甦《よみが》へらする|是《これ》なり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]わが|父《ちち》の|御意《みこころ》は、すべて|子《こ》を|見《み》て|信《しん》ずる|者《もの》の|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|得《う》る|是《これ》なり。われ|終《をはり》の|日《ひ》にこれを|甦《よみが》へらすべし』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]ここにユダヤ|人《びと》ら、イエスの『われは|天《てん》より|降《くだ》りしパンなり』と|言《い》ひ|給《たま》ひしにより、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|呟《つぶや》きて|言《い》ふ『これはヨセフの|子《こ》イエスならずや、|我等《われら》はその|父《ちち》|母《はは》を|知《し》る、|何《なに》ぞ|今《いま》「われは|天《てん》より|降《くだ》れり」と|言《い》ふか』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|呟《つぶや》き|合《あ》ふな、[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|遣《つかは》しし|父《ちち》ひき|給《たま》はずば、|誰《たれ》も|我《われ》に|來《きた》ること|能《あた》はず、|我《われ》これを|終《をはり》の|日《ひ》に|甦《よみが》へらすべし。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|預言者《よげんしゃ》たちの|書《ふみ》に「|彼《かれ》らみな|神《かみ》に|教《をし》へられん」と|録《しる》されたり。すべて|父《ちち》より|聽《き》きて|學《まな》びし|者《もの》は|我《われ》にきたる。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]これは|父《ちち》を|見《み》し|者《もの》ありとにあらず、ただ|神《かみ》よりの|者《もの》のみ|父《ちち》を|見《み》たり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]まことに|誠《まこと》になんぢらに|告《つ》ぐ、|信《しん》ずる|者《もの》は|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》をもつ。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|生命《いのち》のパンなり。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|先祖《せんぞ》は、|荒野《あらの》にてマナを|食《くら》ひしが|死《し》にたり。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》より|降《くだ》るパンは、|食《くら》ふ|者《もの》をして|死《し》ぬる|事《こと》なからしむるなり。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|天《てん》より|降《くだ》りし|活《い》けるパンなり、|人《ひと》このパンを|食《くら》はば|永遠《とこしへ》に|活《い》くべし。|我《わ》が|與《あた》ふるパンは|我《わ》が|肉《にく》なり、|世《よ》の|生命《いのち》のために|之《これ》を|與《あた》へん』[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]ここにユダヤ|人《びと》たがひに|爭《あらそ》ひて|言《い》ふ『この|人《ひと》はいかで|己《おの》が|肉《にく》を|我《われ》らに|與《あた》へて|食《くら》はしむることを|得《え》ん』[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》になんぢらに|告《つ》ぐ、|人《ひと》の|子《こ》の|肉《にく》を|食《くら》はず、その|血《ち》を|飮《の》まずば、|汝《なんぢ》らに|生命《いのち》なし。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]わが|肉《にく》をくらひ、|我《わ》が|血《ち》をのむ|者《もの》は、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》をもつ、われ|終《をはり》の|日《ひ》にこれを|甦《よみが》へらすべし。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]|夫《それ》わが|肉《にく》は|眞《まこと》の|食物《くひもの》、わが|血《ち》は|眞《まこと》の|飮物《のみもの》なり。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]わが|肉《にく》をくらひ|我《わ》が|血《ち》をのむ|者《もの》は、|我《われ》に|居《を》り、|我《われ》もまた|彼《かれ》に|居《を》る。[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]|活《い》ける|父《ちち》の|我《われ》をつかはし、|我《われ》の|父《ちち》によりて|活《い》くるごとく、|我《われ》をくらふ|者《もの》も|我《われ》によりて|活《い》くべし。[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》より|降《くだ》りしパンは、|先祖《せんぞ》たちが|食《くら》ひてなほ|死《し》にし|如《ごと》きものにあらず、|此《こ》のパンを|食《くら》ふものは|永遠《とこしへ》に|活《い》きん』[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことはイエス、カペナウムにて|教《をし》ふるとき、|會堂《くわいだう》にて|言《い》ひ|給《たま》ひしなり。[#太字]六〇[#「六〇」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちの|中《うち》おほくの|者《もの》これを|聞《き》きて|言《い》ふ『こは|甚《はなは》だしき|言《ことば》なるかな、|誰《たれ》か|能《よ》く|聽《き》き|得《う》べき』[#太字]六一[#「六一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|弟子《でし》たちの|之《これ》に|就《つ》きて|呟《つぶや》くを|自《みづか》ら|知《し》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『このことは|汝《なんぢ》らを|躓《つまづ》かするか。[#太字]六二[#「六二」は行右小書き][#太字終わり]さらば|人《ひと》の|子《こ》のもと|居《を》りし|處《ところ》に|昇《のぼ》るを|見《み》ば|如何《いか》に。[#太字]六三[#「六三」は行右小書き][#太字終わり]|活《いか》すものは|靈《れい》なり、|肉《にく》は|益《えき》する|所《ところ》なし、わが|汝《なんぢ》らに|語《かた》りし|言《ことば》は、|靈《れい》なり、|生命《いのち》なり。[#太字]六四[#「六四」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|信《しん》ぜぬ|者《もの》どもあり』イエス|初《はじめ》より、|信《しん》ぜぬ|者《もの》どもは|誰《たれ》、おのれを|賣《う》る|者《もの》は|誰《たれ》なるかを|知《し》り|給《たま》へるなり。[#太字]六五[#「六五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|言《い》ひたまふ『この|故《ゆゑ》に|我《われ》さきに|汝《なんぢ》らに|告《つ》げて、|父《ちち》より|賜《たま》はりたる|者《もの》ならずば|我《われ》に|來《きた》るを|得《え》ずと|言《い》ひしなり』[#太字]六六[#「六六」は行右小書き][#太字終わり]ここにおいて、|弟子《でし》たちのうち|多《おほ》くの|者《もの》かへり|去《さ》りて、|復《また》イエスと|共《とも》に|歩《あゆ》まざりき。[#太字]六七[#「六七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|十二《じふに》|弟子《でし》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんじらも|去《さ》らんとするか』[#太字]六八[#「六八」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|答《こた》ふ『|主《しゅ》よ、われら|誰《たれ》にゆかん、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》の|言《ことば》は|汝《なんぢ》にあり。[#太字]六九[#「六九」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》われらは|信《しん》じかつ|知《し》る、なんぢは|神《かみ》の|聖者《しゃうじゃ》なり』[#太字]七〇[#「七〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『われ|汝《なんぢ》ら|十二《じふに》|人《にん》を|選《えら》びしにあらずや、|然《しか》るに|汝《なんぢ》らの|中《うち》の|一人《ひとり》は|惡魔《あくま》なり』[#太字]七一[#「七一」は行右小書き][#太字終わり]イスカリオテのシモンの|子《こ》ユダを|指《さ》して|言《い》ひ|給《たま》へるなり、|彼《かれ》は|十二《じふに》|弟子《でし》の|一人《ひとり》なれど、イエスを|賣《う》らんとする|者《もの》なり。 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》イエス、ガリラヤのうちを|巡《めぐ》りゐ|給《たま》ふ、ユダヤ|人《びと》の|殺《ころ》さんとするに|因《よ》りて、ユダヤのうちを|巡《めぐ》ることを|欲《ほっ》し|給《たま》はぬなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》の|假廬《かりいほ》の|祭《まつり》ちかづきたれば、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》たちイエスに|言《い》ふ『なんぢの|行《おこな》ふ|業《わざ》を|弟子《でし》たちにも|見《み》せんために、|此處《ここ》を|去《さ》りてユダヤに|往《ゆ》け。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》にても|自《みづか》ら|顯《あらは》れんことを|求《もと》めて、|隱《ひそか》に|業《わざ》をなす|者《もの》なし。|汝《なんぢ》これらの|事《こと》を|爲《な》すからには、|己《おのれ》を|世《よ》にあらはせ』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》その|兄弟《きゃうだい》たちもイエスを|信《しん》ぜぬ|故《ゆゑ》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|時《とき》はいまだ|到《いた》らず、|汝《なんぢ》らの|時《とき》は|常《つね》に|備《そなは》れり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》は|汝《なんぢ》らを|憎《にく》むこと|能《あた》はねど|我《われ》を|憎《にく》む、|我《われ》は|世《よ》の|所作《しわざ》の|惡《あ》しきを|證《あかし》すればなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|祭《まつり》に|上《のぼ》れ、わが|時《とき》いまだ|滿《み》たねば、|我《われ》は|今《いま》この|祭《まつり》にのぼらず』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かく|言《い》ひて|尚《なほ》ガリラヤに|留《とどま》り|給《たま》ふ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|兄弟《きゃうだい》たちの|祭《まつり》にのぼりたる|後《のち》、あらはならで|潜《しの》びやかに|上《のぼ》り|給《たま》ふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|祭《まつり》にあたりユダヤ|人《びと》らイエスを|尋《たづ》ねて『かれは|何處《いづこ》に|居《を》るか』と|言《い》ふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]また|群衆《ぐんじゅう》のうちに|囁《ささや》く|者《もの》おほくありて、|或《あるひ》は『イエスは|善《よ》き|人《ひと》なり』といひ、|或《あるひ》は『いな、|群衆《ぐんじゅう》を|惑《まどは》すなり』と|言《い》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されどユダヤ|人《びと》を|懼《おそ》るるに|因《よ》りて、|誰《たれ》もイエスのことを|公然《おほやけ》に|言《い》はず。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|祭《まつり》も、はや|半《なかば》となりし|頃《ころ》、イエス|宮《みや》にのぼりて|教《をし》へ|給《たま》へば、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》あやしみて|言《い》ふ『この|人《ひと》は|學《まな》びし|事《こと》なきに、|如何《いか》にして|書《ふみ》を|知《し》るか』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|教《をしへ》はわが|教《をしへ》にあらず、|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》の|教《をしへ》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|御意《みこころ》を|行《おこな》はんと|欲《ほっ》せば、|此《こ》の|教《をしへ》の|神《かみ》よりか、|我《わ》が|己《おのれ》より|語《かた》るかを|知《し》らん。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|己《おのれ》より|語《かた》るものは|己《おのれ》の|榮光《えいくわう》をもとむ、|己《おのれ》を|遣《つかは》しし|者《もの》の|榮光《えいくわう》を|求《もと》むる|者《もの》は|眞《まこと》なり、その|中《うち》に|不義《ふぎ》なし。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]モーセは|汝《なんぢ》らに|律法《おきて》を|與《あた》へしにあらずや、されど|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|律法《おきて》を|守《まも》る|者《もの》なし。|汝《なんぢ》ら|何《なに》ゆゑ|我《われ》を|殺《ころ》さんとするか』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》こたふ『なんぢは|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたり、|誰《たれ》が|汝《なんぢ》を|殺《ころ》さんとするぞ』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|一《ひと》つの|業《わざ》をなしたれば、|汝《なんぢ》|等《ら》みな|怪《あや》しめり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]モーセは|汝《なんぢ》らに|割禮《かつれい》を|命《めい》じたり(これはモーセより|起《おこ》りしとにあらず、|先祖《せんぞ》より|起《おこ》りしなり)この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》ら|安息《あんそく》|日《にち》にも|人《ひと》に|割禮《かつれい》を|施《ほどこ》す。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]モーセの|律法《おきて》の|廢《すた》らぬために、|安息《あんそく》|日《にち》に|人《ひと》の|割禮《かつれい》を|受《う》くる|事《こと》あらば、|何《なに》ぞ|安息《あんそく》|日《にち》に|人《ひと》の|全身《ぜんしん》を|健《すこや》かにせしとて|我《われ》を|怒《いか》るか。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|外貌《うはべ》によりて|裁《さば》くな、|正《ただ》しき|審判《さばき》にて|審《さば》け』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ここにエルサレムの|或《ある》|人々《ひとびと》いふ『これは|人々《ひとびと》の|殺《ころ》さんとする|者《もの》ならずや。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|公然《おほやけ》に|語《かた》るに、|之《これ》に|對《たい》して|何《なに》をも|言《い》ふ|者《もの》なし、|司《つかさ》たちは|此《こ》の|人《ひと》のキリストたるを|眞《まこと》に|認《みと》めしならんか。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》らは|此《こ》の|人《ひと》の|何處《いづこ》よりかを|知《し》る、キリストの|來《きた》る|時《とき》には、その|何處《いづこ》よりかを|知《し》る|者《もの》なし』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|宮《みや》にて|教《をし》へつつ|呼《よば》はりて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|我《われ》を|知《し》り、|亦《また》わが|何處《いづこ》よりかを|知《し》る。されど|我《われ》は|己《おのれ》より|來《きた》るにあらず、|眞《まこと》の|者《もの》ありて|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》へり。|汝《なんぢ》らは|彼《かれ》を|知《し》らず、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|彼《かれ》を|知《し》る。|我《われ》は|彼《かれ》より|出《い》で、|彼《かれ》は|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひしに|因《よ》りてなり』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]ここに|人々《ひとびと》イエスを|捕《とら》へんと|謀《はか》りたれど、|彼《かれ》の|時《とき》いまだ|到《いた》らぬ|故《ゆゑ》に|手出《てだし》する|者《もの》なかりき。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|群衆《ぐんじゅう》のうち|多《おほ》くの|人々《ひとびと》イエスを|信《しん》じて『キリスト|來《きた》るとも、|此《こ》の|人《ひと》の|行《おこな》ひしより|多《おほ》く|徴《しるし》を|行《おこな》はんや』と|言《い》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]イエスにつきて|群衆《ぐんじゅう》のかく|囁《ささや》くことパリサイ|人《びと》の|耳《みみ》に|入《い》りたれば、|祭司長《さいしちゃう》・パリサイ|人《びと》ら|彼《かれ》を|捕《とら》へんとて|下役《したやく》どもを|遣《つかは》ししに、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|我《われ》なほ|暫《しばら》く|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|居《を》り、|而《しか》してのち|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》の|御許《みもと》に|往《ゆ》く。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|我《われ》を|尋《たづ》ねん、されど|逢《あ》はざるべし、|汝《なんぢ》|等《ら》わが|居《を》る|處《ところ》に|往《ゆ》くこと|能《あた》はず』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]ここにユダヤ|人《びと》ら|互《たがひ》に|云《い》ふ『この|人《ひと》われらの|逢《あ》ひ|得《え》ぬいづこに|往《ゆ》かんとするか、ギリシヤ|人《びと》のうちに|散《ち》りをる|者《もの》に|往《ゆ》きて、ギリシヤ|人《びと》を|教《をし》へんとするか。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]その|言《ことば》に「なんぢら|我《われ》を|尋《たづ》ねん、|然《さ》れど|逢《あ》はざるべし、|汝《なんぢ》ら|我《わ》がをる|處《ところ》に|往《ゆ》くこと|能《あた》はず」と|云《い》へるは|何《なに》ぞや』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|祭《まつり》の|終《をはり》の|大《おほい》なる|日《ひ》に、イエス|立《た》ちて|呼《よば》はりて|言《い》ひたまふ『|人《ひと》もし|渇《かわ》かば|我《われ》に|來《きた》りて|飮《の》め。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|信《しん》ずる|者《もの》は、|聖書《せいしょ》に|云《い》へるごとく、その|腹《はら》より|活《い》ける|水《みづ》、|川《かは》となりて|流《なが》れ|出《い》づべし』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]これは|彼《かれ》を|信《しん》ずる|者《もの》の|受《う》けんとする|御靈《みたま》を|指《さ》して|言《い》ひ|給《たま》ひしなり。イエス|未《いま》だ|榮光《えいくわう》を|受《う》け|給《たま》はざれば、|御靈《みたま》いまだ|降《くだ》らざりしなり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》の|言《ことば》をききて|群衆《ぐんじゅう》のうちの|或《ある》|人《ひと》は『これ|眞《まこと》にかの|預言者《よげんしゃ》なり』といひ、[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》は『これキリストなり』と|言《い》ひ、|又《また》ある|人《ひと》は『キリストいかでガリラヤより|出《い》でんや、[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|聖書《せいしょ》に、キリストはダビデの|裔《すゑ》またダビデの|居《を》りし|村《むら》ベツレヘムより|出《い》づと|云《い》へるならずや』と|言《い》ふ。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くイエスの|事《こと》によりて、|群衆《ぐんじゅう》のうちに|紛爭《あらそひ》おこりたり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]その|中《なか》には、イエスを|捕《とら》へんと|欲《ほっ》する|者《もの》もありしが、|手出《てだし》する|者《もの》なかりき。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|下役《したやく》ども、|祭司長《さいしちゃう》・パリサイ|人《びと》らの|許《もと》に|歸《かへ》りたれば、|彼《かれ》ら|問《と》ふ『なに|故《ゆゑ》かれを|曳《ひ》き|來《きた》らぬか』[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|下役《したやく》ども|答《こた》ふ『この|人《ひと》の|語《かた》るごとく|語《かた》りし|人《ひと》は|未《いま》だなし』[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》|等《ら》これに|答《こた》ふ『なんぢらも|惑《まどは》されしか、[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|司《つかさ》たち|又《また》はパリサイ|人《びと》のうちに、|一人《ひとり》だに|彼《かれ》を|信《しん》ぜし|者《もの》ありや、[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》を|知《し》らぬこの|群衆《ぐんじゅう》は|詛《のろ》はれたる|者《もの》なり』[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》のうちの|一人《ひとり》にてさきにイエスの|許《もと》に|來《きた》りしニコデモ|言《い》ふ、[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]『われらの|律法《おきて》は、|先《まづ》その|人《ひと》に|聽《き》き、その|爲《な》すところを|知《し》るにあらずば、|審《さば》く|事《こと》をせんや』[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]かれら|答《こた》へて|言《い》ふ『なんぢもガリラヤより|出《い》でしか、|査《しら》べ|見《み》よ、|預言者《よげんしゃ》はガリラヤより|起《おこ》る|事《こと》なし』[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり][|斯《か》くておのおの|己《おの》が|家《いへ》に|歸《かへ》れり。 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス、オリブ|山《やま》にゆき|給《たま》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあけ》ごろ、また|宮《みや》に|入《い》りしに、|民《たみ》みな|御許《みもと》に|來《きた》りたれば、|坐《ざ》して|教《をし》へ|給《たま》ふ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|學者《がくしゃ》・パリサイ|人《びと》ら、|姦淫《かんいん》のとき|捕《とら》へられたる|女《をんな》を|連《つ》れきたり、|眞中《まなか》に|立《た》ててイエスに|言《い》ふ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]『|師《し》よ、この|女《をんな》は|姦淫《かんいん》のをり、そのまま|捕《とら》へられたるなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]モーセは|律法《おきて》に、|斯《か》かる|者《もの》を|石《いし》にて|撃《う》つべき|事《こと》を|我《われ》らに|命《めい》じたるが、|汝《なんぢ》は|如何《いか》に|言《い》ふか』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かく|云《い》へるは、イエスを|試《こころ》みて、|訴《うった》ふる|種《たね》を|得《え》んとてなり。イエス|身《み》を|屈《かが》め、|指《ゆび》にて|地《ち》に|物《もの》|書《か》き|給《たま》ふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かれら|問《と》ひて|止《や》まざれば、イエス|身《み》を|起《おこ》して『なんぢらの|中《うち》、|罪《つみ》なき|者《もの》まづ|石《いし》を|擲《なげう》て』と|言《い》ひ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]また|身《み》を|屈《かが》めて|地《ち》に|物《もの》|書《か》きたまふ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》これを|聞《き》きて|良心《りゃうしん》に|責《せ》められ、|老人《らうじん》をはじめ|若《わか》き|者《もの》まで|一人《ひとり》|一人《ひとり》いでゆき、|唯《ただ》イエスと|中《なか》に|立《た》てる|女《をんな》とのみ|遺《のこ》れり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|身《み》を|起《おこ》して、|女《をんな》のほかに|誰《たれ》も|居《を》らぬを|見《み》て|言《い》ひ|給《たま》ふ『をんなよ、|汝《なんぢ》を|訴《うった》へたる|者《もの》どもは|何處《いづこ》にをるぞ、|汝《なんぢ》を|罪《つみ》する|者《もの》なきか』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》いふ『|主《しゅ》よ、|誰《たれ》もなし』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われも|汝《なんぢ》を|罪《つみ》せじ、|往《ゆ》け、この|後《のち》ふたたび|罪《つみ》を|犯《をか》すな』][#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエスまた|人々《ひとびと》に|語《かた》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『われは|世《よ》の|光《ひかり》なり、|我《われ》に|從《したが》ふ|者《もの》は|暗《くら》き|中《うち》を|歩《あゆ》まず、|生命《いのち》の|光《ひかり》を|得《う》べし』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》ら|言《い》ふ『なんぢは|己《おのれ》につきて|證《あかし》す、なんぢの|證《あかし》は|眞《まこと》ならず』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|自《みづか》ら|己《おのれ》につきて|證《あかし》すとも、|我《わ》が|證《あかし》は|眞《まこと》なり、|我《われ》は|何處《いづこ》より|來《きた》り|何處《いづこ》に|往《ゆ》くを|知《し》る|故《ゆゑ》なり。|汝《なんぢ》らは|我《わ》が|何處《いづこ》より|來《きた》り、|何處《いづこ》に|往《ゆ》くを|知《し》らず、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢらは|肉《にく》によりて|審《さば》く、|我《われ》は|誰《たれ》をも|審《さば》かず。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》もし|審《さば》かば、|我《わ》が|審判《さばき》は|眞《まこと》なり、|我《われ》は|一人《ひとり》ならず、|我《われ》と|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》と|偕《とも》なるに|因《よ》る。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]また|汝《なんぢ》らの|律法《おきて》に、|二人《ふたり》の|證《あかし》は|眞《まこと》なりと|録《しる》されたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》みづから|己《おのれ》につきて|證《あかし》をなし、|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|父《ちち》も|我《われ》につきて|證《あかし》をなし|給《たま》ふ』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》ら|言《い》ふ『なんぢの|父《ちち》は|何處《いづこ》にあるか』イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『なんぢらは|我《われ》をも|我《わ》が|父《ちち》をも|知《し》らず、|我《われ》を|知《し》りしならば、|我《わ》が|父《ちち》をも|知《し》りしならん』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|宮《みや》の|内《うち》にて|教《をし》へし|時《とき》、これらの|事《こと》を|賽錢函《さいせんばこ》の|傍《かたは》らにて|語《かた》り|給《たま》ひしが、|彼《かれ》の|時《とき》いまだ|到《いた》らぬ|故《ゆゑ》に、|誰《たれ》も|捕《とら》ふる|者《もの》なかりき。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]かくてまた|人々《ひとびと》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|往《ゆ》く、なんぢら|我《われ》を|尋《たづ》ねん。されど|己《おの》が|罪《つみ》のうちに|死《し》なん、わが|往《ゆ》くところに|汝《なんぢ》ら|來《きた》ること|能《あた》はず』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》ら|言《い》ふ『「わが|往《ゆ》く|處《ところ》に|汝《なんぢ》ら|來《きた》ること|能《あた》はず」と|云《い》へるは、|自殺《じさつ》せんとてか』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらは|下《した》より|出《い》で、|我《われ》は|上《うへ》より|出《い》づ、|汝《なんぢ》らは|此《こ》の|世《よ》より|出《い》で、|我《われ》は|此《こ》の|世《よ》より|出《い》でず。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|我《われ》なんぢらは|己《おの》が|罪《つみ》のうちに|死《し》なんと|云《い》へるなり。|汝《なんぢ》|等《ら》もし|我《われ》の|夫《それ》なるを|信《しん》ぜずば、|罪《つみ》のうちに|死《し》ぬべし』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|言《い》ふ『なんぢは|誰《たれ》なるか』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われは|正《ただ》しく|汝《なんぢ》らに|告《つ》げ|來《きた》りし|所《ところ》の|者《もの》なり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|就《つ》きて|語《かた》るべきこと|審《さば》くべきこと|多《おほ》し、|而《しか》して|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》は|眞《まこと》なり、|我《われ》は|彼《かれ》に|聽《き》きしその|事《こと》を|世《よ》に|告《つ》ぐるなり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]これは|父《ちち》をさして|言《い》ひ|給《たま》へるを、|彼《かれ》らは|悟《さと》らざりき。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら|人《ひと》の|子《こ》を|擧《あ》げしのち、|我《われ》の|夫《それ》なるを|知《し》り、|又《また》わが|己《おのれ》によりて|何事《なにごと》をも|爲《な》さず、ただ|父《ちち》の|我《われ》に|教《をし》へ|給《たま》ひしごとく、|此《これ》|等《ら》のことを|語《かた》りたるを|知《し》らん。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》は、|我《われ》とともに|在《いま》す。|我《われ》つねに|御意《みこころ》に|適《かな》ふことを|行《おこな》ふによりて、|我《われ》を|獨《ひとり》おき|給《たま》はず』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことを|語《かた》り|給《たま》へるとき、|多《おほ》くの|人々《ひとびと》イエスを|信《しん》じたり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|己《おのれ》を|信《しん》じたるユダヤ|人《びと》に|言《い》ひたまふ『|汝《なんぢ》|等《ら》もし|常《つね》に|我《わ》が|言《ことば》に|居《を》らば、|眞《まこと》にわが|弟子《でし》なり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]また|眞理《しんり》を|知《し》らん、|而《しか》して|眞理《しんり》は|汝《なんぢ》らに|自由《じいう》を|得《え》さすべし』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かれら|答《こた》ふ『われはアブラハムの|裔《すゑ》にして、|未《いま》だ|人《ひと》の|奴隷《どれい》となりし|事《こと》なし。|如何《いか》なれば「なんぢら|自由《じいう》を|得《う》べし」と|言《い》ふか』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、すべて|罪《つみ》を|犯《をか》す|者《もの》は|罪《つみ》の|奴隷《どれい》なり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|奴隷《どれい》はとこしへに|家《いへ》に|居《を》らず、|子《こ》は|永遠《とこしへ》に|居《を》るなり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|子《こ》もし|汝《なんぢ》らに|自由《じいう》を|得《え》させば、|汝《なんぢ》ら|實《じつ》に|自由《じいう》とならん。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|汝《なんぢ》らがアブラハムの|裔《すゑ》なるを|知《し》る、されど|我《わ》が|言《ことば》なんぢらの|衷《うち》に|留《とどま》らぬ|故《ゆゑ》に、|我《われ》を|殺《ころ》さんと|謀《はか》る。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はわが|父《ちち》の|許《もと》にて|見《み》しことを|語《かた》り、|汝《なんぢ》らは|又《また》なんぢらの|父《ちち》より|聞《き》きしことを|行《おこな》ふ』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]かれら|答《こた》へて|言《い》ふ『われらの|父《ちち》はアブラハムなり』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『もしアブラハムの|子《こ》ならば、アブラハムの|業《わざ》をなさん。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|汝《なんぢ》らは|今《いま》、|神《かみ》より|聽《き》きたる|眞理《しんり》を|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐる|者《もの》なる|我《われ》を|殺《ころ》さんと|謀《はか》る。アブラハムは|斯《か》かることを|爲《な》さざりき。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|汝《なんぢ》らの|父《ちち》の|業《わざ》を|爲《な》すなり』かれら|言《い》ふ『われら|淫行《いんかう》によりて|生《うま》れず、|我《われ》らの|父《ちち》はただ|一人《ひとり》、|即《すなは》ち|神《かみ》なり』[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|神《かみ》もし|汝《なんぢ》らの|父《ちち》ならば、|汝《なんぢ》ら|我《われ》を|愛《あい》せん、われ|神《かみ》より|出《い》でて|來《きた》ればなり。|我《われ》は|己《おのれ》より|來《きた》るにあらず、|神《かみ》われを|遣《つかは》し|給《たま》へり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|何《なに》|故《ゆゑ》わが|語《かた》ることを|悟《さと》らぬか、|是《これ》わが|言《ことば》をきくこと|能《あた》はぬに|因《よ》る。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|己《おの》が|父《ちち》|惡魔《あくま》より|出《い》でて、|己《おの》が|父《ちち》の|慾《よく》を|行《おこな》はんことを|望《のぞ》む。|彼《かれ》は|最初《はじめ》より|人殺《ひとごろし》なり、また|眞《まこと》その|中《なか》になき|故《ゆゑ》に|眞《まこと》に|立《た》たず、|彼《かれ》は|虚僞《いつはり》をかたる|毎《ごと》に|己《おのれ》より|語《かた》る、それは|虚僞《いつはり》|者《もの》にして|虚僞《いつはり》の|父《ちち》なればなり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|我《われ》は|眞《まこと》を|告《つ》ぐるによりて、|汝《なんぢ》ら|我《われ》を|信《しん》ぜず、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|誰《たれ》か|我《われ》を|罪《つみ》ありとして|責《せ》め|得《う》る。われ|眞《まこと》を|告《つ》ぐるに、|我《われ》を|信《しん》ぜぬは|何《なに》|故《ゆゑ》ぞ。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》より|出《い》づる|者《もの》は|神《かみ》の|言《ことば》をきく、|汝《なんぢ》らの|聽《き》かぬは|神《かみ》より|出《い》でぬに|因《よ》る』[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》こたへて|言《い》ふ『なんぢはサマリヤ|人《ひと》にて|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|者《もの》なりと、|我《われ》らが|云《い》へるは|宜《うべ》ならずや』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『われは|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれず、|反《かへ》つて|我《わ》が|父《ちち》を|敬《うやま》ふ、なんぢらは|我《われ》を|輕《かろ》んず。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はおのれの|榮光《えいくわう》を|求《もと》めず、|之《これ》を|求《もと》めかつ|審判《さばき》し|給《たま》ふ|者《もの》あり。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|人《ひと》もし|我《わ》が|言《ことば》を|守《まも》らば、|永遠《とこしへ》に|死《し》を|見《み》ざるべし』[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》いふ『|今《いま》ぞなんぢが|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたるを|知《し》る。アブラハムも|預言者《よげんしゃ》たちも|死《し》にたり、|然《しか》るに|汝《なんぢ》は「|人《ひと》もし|我《わ》が|言《ことば》を|守《まも》らば、|永遠《とこしへ》に|死《し》を|味《あぢ》はざるべし」と|云《い》ふ。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》われらの|父《ちち》アブラハムよりも|大《おほい》なるか、|彼《かれ》は|死《し》に、|預言者《よげんしゃ》たちも|死《し》にたり、|汝《なんぢ》はおのれを|誰《たれ》とするか』[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へたまふ『|我《われ》もし|己《おのれ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》せば、|我《わ》が|榮光《えいくわう》は|空《むな》し。|我《われ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》する|者《もの》は|我《わ》が|父《ちち》なり、|即《すなは》ち|汝《なんぢ》らが|己《おのれ》の|神《かみ》と|稱《とな》ふる|者《もの》なり。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|汝《なんぢ》らは|彼《かれ》を|知《し》らず、|我《われ》は|彼《かれ》を|知《し》る。もし|彼《かれ》を|知《し》らずと|言《い》はば、|汝《なんぢ》らの|如《ごと》く|僞《いつはり》|者《もの》たるべし。されど|我《われ》は|彼《かれ》を|知《し》り、|且《かつ》その|御言《みことば》を|守《まも》る。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|父《ちち》アブラハムは、|我《わ》が|日《ひ》を|見《み》んとて|樂《たの》しみ|且《かつ》これを|見《み》て|喜《よろこ》べり』[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》いふ『なんぢ|未《いま》だ|五十歳《ごじっさい》にもならぬにアブラハムを|見《み》しか』[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、アブラハムの|生《うま》れいでぬ|前《さき》より|我《われ》は|在《あ》るなり』[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》ら|石《いし》をとりてイエスに|擲《なげう》たんとしたるに、イエス|隱《かく》れて|宮《みや》を|出《い》で|給《たま》へり。 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|途《みち》|往《ゆ》くとき、|生《うま》れながらの|盲人《めしひ》を|見《み》|給《たま》ひたれば、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|問《と》ひて|言《い》ふ『ラビ、この|人《ひと》の|盲目《めしひ》にて|生《うま》れしは、|誰《たれ》の|罪《つみ》によるぞ、|己《おのれ》のか、|親《おや》のか』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『この|人《ひと》の|罪《つみ》にも|親《おや》の|罪《つみ》にもあらず、ただ|彼《かれ》の|上《うへ》に|神《かみ》の|業《わざ》の|顯《あらは》れん|爲《ため》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》の|業《わざ》を|我《われ》ら|晝《ひる》の|間《うち》になさざる|可《べ》からず。|夜《よ》きたらん、その|時《とき》は|誰《たれ》も|働《はたら》くこと|能《あた》はず。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]われ|世《よ》にをる|間《あひだ》は|世《よ》の|光《ひかり》なり』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かく|言《い》ひて|地《ち》に|唾《つばき》し、|唾《つばき》にて|泥《どろ》をつくり、|之《これ》を|盲人《めしひ》の|目《め》にぬりて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]『ゆきてシロアム(|釋《と》けば|遣《つかは》されたる|者《もの》)の|池《いけ》にて|洗《あら》へ』|乃《すなは》ちゆきて|洗《あら》ひたれば、|見《み》ゆることを|得《え》て|歸《かへ》れり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ここに|隣《となり》|人《ひと》および|前《さき》に|彼《かれ》の|乞食《こつじき》なるを|見《み》し|者《もの》ども|言《い》ふ『この|人《ひと》は|坐《ざ》して|物《もの》|乞《こ》ひゐたるにあらずや』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》は『|夫《それ》なり』といひ、|或《ある》|人《ひと》は『|否《いな》、ただ|似《に》たるなり』といふ。かの|者《もの》『われは|夫《それ》なり』と|言《い》ひたれば、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》いふ『さらば|汝《なんぢ》の|目《め》は|如何《いか》にして|開《ひら》きたるか』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》ふ『イエスといふ|人《ひと》、|泥《どろ》をつくり|我《わ》が|目《め》に|塗《ぬ》りて|言《い》ふ「シロアムに|往《ゆ》きて|洗《あら》へ」と、|乃《すなは》ち|往《ゆ》きて|洗《あら》ひたれば、|物《もの》|見《み》ることを|得《え》たり』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら『その|人《ひと》は|何處《いづこ》に|居《を》るか』と|言《い》へば『|知《し》らず』と|答《こた》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》さきに|盲目《めしひ》なりし|者《もの》をパリサイ|人《びと》らの|許《もと》に|連《つ》れきたる。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|泥《どろ》をつくりて|其《そ》の|人《ひと》の|目《め》をあけし|日《ひ》は|安息《あんそく》|日《にち》なりき。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》らも|亦《また》いかにして|物《もの》|見《み》ることを|得《え》しかと|問《と》ひたれば、|彼《かれ》いふ『かの|人《ひと》わが|目《め》に|泥《どろ》をぬり、|我《われ》これを|洗《あら》ひて|見《み》ゆることを|得《え》たり』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》の|中《うち》なる|或《ある》|人《ひと》は『かの|人《ひと》、|安息《あんそく》|日《にち》を|守《まも》らぬ|故《ゆゑ》に、|神《かみ》より|出《い》でし|者《もの》にあらず』と|言《い》ひ、|或《ある》|人《ひと》は『|罪《つみ》ある|人《ひと》いかで|斯《か》かる|徴《しるし》をなし|得《え》んや』と|言《い》ひて|互《たがひ》に|相《あひ》|爭《あらそ》ひたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ここにまた|盲目《めしひ》なりし|人《ひと》に|言《い》ふ『なんぢの|目《め》をあけしに|因《よ》り、|汝《なんぢ》は|彼《かれ》に|就《つ》きて|如何《いか》にいふか』|彼《かれ》いふ『|預言者《よげんしゃ》なり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》ら、|彼《かれ》が|盲目《めしひ》なりしに|見《み》ゆるやうになりしことを、|未《いま》だ|信《しん》ぜずして、|目《め》の|開《ひら》きたる|人《ひと》の|兩親《ふたおや》を|呼《よ》び、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|問《と》ひて|言《い》ふ『これは|盲目《めしひ》にて|生《うま》れしと|言《い》ふ|汝《なんぢ》らの|子《こ》なりや、さらば|今《いま》いかにして|見《み》ゆるか』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|兩親《ふたおや》こたへて|言《い》ふ『かれの|我《わ》が|子《こ》なることと、|盲目《めしひ》にて|生《うま》れたる|事《こと》とを|知《し》る。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]されど|今《いま》いかにして|見《み》ゆるかを|知《し》らず、|又《また》その|目《め》をあけしは|誰《たれ》なるか、|我《われ》らは|知《し》らず、|彼《かれ》に|問《と》へ、|年《とし》|長《た》けたれば|自《みづか》ら|己《おの》がことを|語《かた》らん』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|兩親《ふたおや》のかく|言《い》ひしはユダヤ|人《びと》を|懼《おそ》れたるなり。ユダヤ|人《びと》ら|相《あひ》|議《はか》りて『|若《も》しイエスをキリストと|言《い》ひ|顯《あらは》す|者《もの》あらば、|除名《ぢょめい》すべし』と|定《さだ》めたるに|因《よ》る。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|兩親《ふたおや》の『かれ|年《とし》|長《た》けたれば|彼《かれ》に|問《と》へ』と|云《い》へるは|此《こ》の|故《ゆゑ》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]かれら|盲目《めしひ》なりし|人《ひと》を|再《ふたた》び|呼《よ》びて|言《い》ふ『|神《かみ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》せよ、|我等《われら》はかの|人《ひと》の|罪人《つみびと》たるを|知《し》る』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》ふ『かれ|罪人《つみびと》なるか、|我《われ》は|知《し》らず、ただ|一《ひと》つの|事《こと》をしる、|即《すなは》ち|我《われ》さきに|盲目《めしひ》たりしが、|今《いま》|見《み》ゆることを|得《え》たる|是《これ》なり』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|言《い》ふ『かれは|汝《なんぢ》に|何《なに》をなししか、|如何《いか》にして|目《め》をあけしか』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》ふ『われ|既《すで》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》げたれど|聽《き》かざりき。|何《なに》ぞまた|聽《き》かんとするか、|汝《なんぢ》らもその|弟子《でし》とならんことを|望《のぞ》むか』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]かれら|罵《ののし》りて|言《い》ふ『なんぢは|其《そ》の|弟子《でし》なり、|我等《われら》モーセの|弟子《でし》なり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]モーセに|神《かみ》の|語《かた》り|給《たま》ひしことを|知《し》れど、|此《こ》の|人《ひと》の|何處《いづこ》よりかを|知《し》らず』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『その|何處《いづこ》よりかを|知《し》らずとは|怪《あや》しき|事《こと》なり、|彼《かれ》わが|目《め》をあけしに。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|罪人《つみびと》に|聽《き》き|給《たま》はねど、|敬虔《けいけん》にして|御意《みこころ》をおこなふ|人《ひと》に|聽《き》き|給《たま》ふことを|我《われ》らは|知《し》る。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》の|太初《はじめ》より、|盲目《めしひ》にて|生《うま》れし|者《もの》の|目《め》をあけし|人《ひと》あるを|聞《き》きし|事《こと》なし。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かの|人《ひと》もし|神《かみ》より|出《い》でずば、|何事《なにごと》をも|爲《な》し|得《え》ざらん』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]かれら|答《こた》へて『なんぢ|全《まった》く|罪《つみ》のうちに|生《うま》れながら、|我《われ》らを|教《をし》ふるか』と|言《い》ひて、|遂《つひ》に|彼《かれ》を|追《お》ひ|出《いだ》せり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|追《お》ひ|出《いだ》されしことを|聞《き》き、|彼《かれ》に|逢《あ》ひて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢ|人《ひと》の|子《こ》を|信《しん》ずるか』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、それは|誰《たれ》なる|乎《か》、われ|信《しん》ぜまほし』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢ|彼《かれ》を|見《み》たり、|汝《なんぢ》と|語《かた》る|者《もの》は|夫《それ》なり』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》『|主《しゅ》よ、|我《われ》は|信《しん》ず』といひて|拜《はい》せり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|審判《さばき》の|爲《ため》にこの|世《よ》に|來《きた》れり。|見《み》えぬ|人《ひと》は|見《み》え、|見《み》ゆる|人《ひと》は|盲目《めしひ》とならん|爲《ため》なり』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》の|中《うち》イエスと|共《とも》に|居《を》りし|者《もの》、これを|聞《き》きて|言《い》ふ『|我《われ》らも|盲目《めしひ》なるか』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『もし|盲目《めしひ》なりしならば、|罪《つみ》なかりしならん、されど|見《み》ゆと|言《い》ふ|汝《なんぢ》らの|罪《つみ》は|遺《のこ》れり』 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|羊《ひつじ》の|檻《をり》に|門《もん》より|入《い》らずして、|他《ほか》より|越《こ》ゆる|者《もの》は、|盜人《ぬすびと》なり、|強盜《がうたう》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|門《もん》より|入《い》る|者《もの》は、|羊《ひつじ》の|牧者《ひつじかひ》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|門守《かどもり》は|彼《かれ》のために|開《ひら》き、|羊《ひつじ》はその|聲《こゑ》をきき、|彼《かれ》は|己《おのれ》の|羊《ひつじ》の|名《な》を|呼《よ》びて|牽《ひ》きいだす。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|悉《ことご》とく|其《そ》の|羊《ひつじ》をいだしし|時《とき》、これに|先《さき》だちゆく、|羊《ひつじ》その|聲《こゑ》を|知《し》るによりて|從《したが》ふなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|者《もの》には|從《したが》はず、|反《かへ》つて|逃《に》ぐ、|他《ほか》の|者《もの》どもの|聲《こゑ》を|知《し》らぬ|故《ゆゑ》なり』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエスこの|譬《たとへ》を|言《い》ひ|給《たま》へど、|彼《かれ》らその|何事《なにごと》をかたり|給《たま》ふかを|知《し》らざりき。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》にイエス|復《また》いひ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|我《われ》は|羊《ひつじ》の|門《もん》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]すべて|我《われ》より|前《さき》に|來《きた》りし|者《もの》は、|盜人《ぬすびと》なり、|強盜《がうたう》なり、|羊《ひつじ》は|之《これ》に|聽《き》かざりき。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|門《もん》なり、おほよそ|我《われ》によりて|入《い》る|者《もの》は|救《すく》はれ、かつ|出入《でいり》をなし、|草《くさ》を|得《う》べし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|盜人《ぬすびと》のきたるは|盜《ぬす》み、|殺《ころ》し、|亡《ほろぼ》さんとするの|他《ほか》なし。わが|來《きた》るは|羊《ひつじ》に|生命《いのち》を|得《え》しめ、かつ|豐《ゆたか》に|得《え》しめん|爲《ため》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|善《よ》き|牧者《ひつじかひ》なり、|善《よ》き|牧者《ひちじかひ》は|羊《ひつじ》のために|生命《いのち》を|捨《す》つ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|牧者《ひつじかひ》ならず、|羊《ひつじ》も|己《おの》がものならぬ|雇人《やとひびと》は、|豺狼《おほかみ》のきたるを|見《み》れば|羊《ひつじ》を|棄《す》てて|逃《に》ぐ、――|豺狼《おほかみ》は|羊《ひつじ》をうばひ|且《かつ》ちらす――[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|雇人《やとひびと》にて、その|羊《ひつじ》を|顧《かへり》みぬ|故《ゆゑ》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|善《よ》き|牧者《ひちじかひ》にして、|我《わ》がものを|知《し》り、|我《わ》がものは|我《われ》を|知《し》る、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》の|我《われ》を|知《し》り、|我《われ》の|父《ちち》を|知《し》るが|如《ごと》し、|我《われ》は|羊《ひつじ》のために|生命《いのち》を|捨《す》つ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》には|亦《また》この|檻《をり》のものならぬ|他《ほか》の|羊《ひつじ》あり、|之《これ》をも|導《みちび》かざるを|得《え》ず、|彼《かれ》らは|我《わ》が|聲《こゑ》をきかん、|遂《つひ》に|一《ひと》つの|群《むれ》ひとりの|牧者《ひちじかひ》となるべし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|父《ちち》は|我《われ》を|愛《あい》し|給《たま》ふ、それは|我《われ》ふたたび|生命《いのち》を|得《え》んために|生命《いのち》を|捨《す》つる|故《ゆゑ》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》これを|我《われ》より|取《と》るにあらず、|我《われ》みづから|捨《す》つるなり。|我《われ》は|之《これ》をすつる|權《けん》あり、|復《また》これを|得《う》る|權《けん》あり、|我《われ》この|命令《めいれい》をわが|父《ちち》より|受《う》けたり』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]これらの|言《ことば》によりて|復《また》ユダヤ|人《びと》のうちに|紛爭《あらそひ》おこり、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》なる|多《おほ》くの|者《もの》いふ『かれは|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれて|氣《き》|狂《くる》へり、|何《なに》ぞ|之《これ》にきくか』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|者《もの》ども|言《い》ふ『これは|惡鬼《あくき》に|憑《つ》かれたる|者《もの》の|言《ことば》にあらず、|惡鬼《あくき》は|盲人《めしひ》の|目《め》をあけ|得《え》んや』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》エルサレムに|宮《みや》|潔《きよめ》の|祭《まつり》あり、|時《とき》は|冬《ふゆ》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|宮《みや》の|内《うち》、ソロモンの|廊《らう》を|歩《あゆ》みたまふに、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》ら|之《これ》を|取圍《とりかこ》みて|言《い》ふ『|何時《いつ》まで|我《われ》らの|心《こころ》を|惑《まどは》しむるか、|汝《なんぢ》キリストならば|明白《あらは》に|告《つ》げよ』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『われ|既《すで》に|告《つ》げたれど|汝《なんぢ》ら|信《しん》ぜず、わが|父《ちち》の|名《な》によりて|行《おこな》ふわざは、|我《われ》に|就《つ》きて|證《あかし》す。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らは|信《しん》ぜず、|我《わ》が|羊《ひつじ》ならぬ|故《ゆゑ》なり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]わが|羊《ひつじ》はわが|聲《こゑ》をきき、|我《われ》は|彼《かれ》らを|知《し》り、|彼《かれ》らは|我《われ》に|從《したが》ふ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》かれらに|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|與《あた》ふれば、|彼《かれ》らは|永遠《とこしへ》に|亡《ほろ》ぶることなく、|又《また》かれらを|我《わ》が|手《て》より|奪《うば》ふ|者《もの》あらじ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らを|我《われ》にあたへ|給《たま》ひし|我《わ》が|父《ちち》は、|一切《すべて》のものよりも|大《おほい》なれば、|誰《たれ》にても|父《ちち》の|御手《みて》よりは|奪《うば》ふこと|能《あた》はず。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》と|父《ちち》とは|一《ひと》つなり』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》また|石《いし》を|取《と》りあげてイエスを|撃《う》たんとす。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『われは|父《ちち》によりて|多《おほ》くの|善《よ》き|業《わざ》を|汝《なんぢ》らに|示《しめ》したり、その|孰《いづれ》の|業《わざ》ゆゑに|我《われ》を|石《いし》にて|撃《う》たんとするか』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》こたふ『なんぢを|石《いし》にて|撃《う》つは|善《よ》きわざの|故《ゆゑ》ならず、|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]言《けがしごと》の|故《ゆゑ》にして、なんぢ|人《ひと》なるに、|己《おのれ》を|神《かみ》とする|故《ゆゑ》なり』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『なんぢらの|律法《おきて》に「われ|言《い》ふ、|汝《なんぢ》らは|神《かみ》なり」と|録《しる》されたるに|非《あら》ずや。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]かく|神《かみ》の|言《ことば》を|賜《たま》はりし|人々《ひとびと》を|神《かみ》と|云《い》へり。|聖書《せいしょ》は|廢《すた》るべきにあらず、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|父《ちち》の|潔《きよ》め|別《わか》ちて|世《よ》に|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》が「われは|神《かみ》の|子《こ》なり」と|言《い》へばとて、|何《なに》ぞ「|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]言《けがしごと》を|言《い》ふ」といふか。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もし|我《わ》が|父《ちち》のわざを|行《おこな》はずば、|我《われ》を|信《しん》ずな、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]もし|行《おこな》はば、|假令《たとひ》われを|信《しん》ぜずとも、その|業《わざ》を|信《しん》ぜよ。さらば|父《ちち》の|我《われ》にをり、|我《われ》の|父《ちち》に|居《を》ることを|知《し》りて|悟《さと》らん』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]かれら|復《また》イエスを|捕《とら》へんとせしが、その|手《て》より|脱《のが》れて|去《さ》り|給《たま》へり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエス|復《また》ヨルダンの|彼方《かなた》、ヨハネの|最初《はじめ》にバプテスマを|施《ほどこ》したる|處《ところ》にいたり、|其處《そこ》にとどまり|給《たま》ひしが、[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|人《ひと》みもとに|來《きた》りて『ヨハネは|何《なに》の|徴《しるし》をも|行《おこな》はざりしかど、この|人《ひと》に|就《つ》きてヨハネの|言《い》ひし|事《こと》は、ことごとく|眞《まこと》なりき』と|言《い》ふ。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|多《おほ》くの|人《ひと》かしこにてイエスを|信《しん》じたり。 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]ここに|病《や》める|者《もの》あり、ラザロと|云《い》ふ、マリヤとその|姉妹《しまい》マルタとの|村《むら》ベタニヤの|人《ひと》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》のマリヤは、|主《しゅ》に|香《にほひ》|油《あぶら》をぬり、|頭髮《かみのけ》にて|御足《みあし》を|拭《ぬぐ》ひし|者《もの》にして、|病《や》めるラザロはその|兄弟《きゃうだい》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|姉妹《しまい》ら|人《ひと》をイエスに|遣《つかは》して『|主《しゅ》、|視《み》よ、なんぢの|愛《あい》し|給《たま》ふもの|病《や》めり』と|言《い》はしむ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|聞《き》きてイエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『この|病《やまひ》は|死《し》に|至《いた》らず、|神《かみ》の|榮光《えいくわう》のため、|神《かみ》の|子《こ》のこれに|由《よ》りて|榮光《えいくわう》を|受《う》けんためなり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエスはマルタと、その|姉妹《しまい》と、ラザロとを|愛《あい》し|給《たま》へり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ラザロの|病《や》みたるを|聞《き》きて、その|居給《ゐたま》ひし|處《ところ》になほ|二日《ふつか》とどまり、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》してのち|弟子《でし》たちに|言《い》ひ|給《たま》ふ『われら|復《また》ユダヤに|往《ゆ》くべし』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|言《い》ふ『ラビ、この|程《ほど》もユダヤ|人《びと》、なんぢを|石《いし》にて|撃《う》たんとせしに、|復《また》かしこに|往《ゆ》き|給《たま》ふか』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へたまふ『|一日《いちにち》に|十二《じふに》|時《じ》あるならずや、|人《ひと》もし|晝《ひる》あるかば、|此《こ》の|世《よ》の|光《ひかり》を|見《み》るゆゑに|躓《つまづ》くことなし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|夜《よる》あるかば、|光《ひかり》その|人《ひと》になき|故《ゆゑ》に|躓《つまづ》くなり』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かく|言《い》ひて|復《また》その|後《のち》いひ|給《たま》ふ『われらの|友《とも》ラザロ|眠《ねむ》れり、されど|我《われ》よび|起《おこ》さん|爲《ため》に|往《ゆ》くなり』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|眠《ねむ》れるならば|癒《い》ゆべし』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエスは|彼《かれ》が|死《し》にたることを|言《い》ひ|給《たま》ひしなれど、|弟子《でし》たちは|寢《い》ねて|眠《ねむ》れるを|言《い》ひ|給《たま》ふと|思《おも》へるなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|明白《あらは》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『ラザロは|死《し》にたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》かしこに|居《を》らざりし|事《こと》を|汝《なんぢ》|等《ら》のために|喜《よろこ》ぶ、|汝《なんぢ》|等《ら》をして|信《しん》ぜしめんとてなり。されど|我《われ》ら|今《いま》その|許《もと》に|往《ゆ》くべし』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]デドモと|稱《とな》ふるトマス、|他《ほか》の|弟子《でし》たちに|言《い》ふ『われらも|往《ゆ》きて|彼《かれ》と|共《とも》に|死《し》ぬべし』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]さてイエス|來《きた》り|見《み》|給《たま》へば、ラザロの|墓《はか》にあること|既《すで》に|四日《よっか》なりき。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]ベタニヤはエルサレムに|近《ちか》くして、|二《に》|十《じふ》|五《ご》|丁《ちゃう》ばかりの|距離《へだたり》なるが、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|數多《あまた》のユダヤ|人《びと》、マルタとマリヤとをその|兄弟《きゃうだい》の|事《こと》につき|慰《なぐさ》めんとて|來《きた》れり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]マルタはイエス|來給《きたま》ふと|聞《き》きて|出《い》で|迎《むか》へたれど、マリヤはなほ|家《いへ》に|坐《ざ》し|居《ゐ》たり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]マルタ、イエスに|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、もし|此處《ここ》に|在《いま》ししならば、|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》は|死《し》なざりしものを。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されど|今《いま》にても|我《われ》は|知《し》る、|何事《なにごと》を|神《かみ》に|願《ねが》ひ|給《たま》ふとも、|神《かみ》は|與《あた》へ|給《たま》はん』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|兄弟《きゃうだい》は|甦《よみが》へるべし』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]マルタ|言《い》ふ『をはりの|日《ひ》、|復活《よみがへり》のときに|甦《よみが》へるべきを|知《し》る』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|我《われ》は|復活《よみがへり》なり、|生命《いのち》なり、|我《われ》を|信《しん》ずる|者《もの》は|死《し》ぬとも|生《い》きん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|生《い》きて|我《われ》を|信《しん》ずる|者《もの》は、|永遠《とこしへ》に|死《し》なざるべし。|汝《なんぢ》これを|信《しん》ずるか』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》いふ『|主《しゅ》よ|然《しか》り、|我《われ》なんぢは|世《よ》に|來《きた》るべきキリスト、|神《かみ》の|子《こ》なりと|信《しん》ず』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]かく|言《い》ひて|後《のち》、ゆきて|竊《ひそか》にその|姉妹《しまい》マリヤを|呼《よ》びて『|師《し》きたりて|汝《なんぢ》を|呼《よ》びたまふ』と|言《い》ふ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]マリヤ|之《これ》をきき、|急《いそ》ぎ|起《た》ちて|御許《みもと》に|往《ゆ》けり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]イエスは|未《いま》だ|村《むら》に|入《い》らず、|尚《なほ》マルタの|迎《むか》へし|處《ところ》に|居給《ゐたま》ふ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]マリヤと|共《とも》に|家《いへ》に|居《を》りて|慰《なぐさ》め|居《ゐ》たるユダヤ|人《びと》、その|急《いそ》ぎ|立《た》ちて|出《い》でゆくを|見《み》、かれは|歎《なげ》かんとて|墓《はか》に|往《ゆ》くと|思《おも》ひて|後《のち》に|隨《したが》へり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]かくてマリヤ、イエスの|居給《ゐたま》ふ|處《ところ》にいたり、|之《これ》を|見《み》てその|足下《あしもと》に|伏《ふ》し『|主《しゅ》よ、もし|此處《ここ》に|在《いま》ししならば、|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》は|死《し》なざりしものを』と|言《い》ふ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]イエスかれが|泣《な》き|居《を》り、|共《とも》に|來《きた》りしユダヤ|人《びと》も|泣《な》き|居《を》るを|見《み》て、|心《こころ》を|傷《いた》め|悲《かな》しみて|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]『かれを|何處《いづこ》に|置《お》きしか』|彼《かれ》ら|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|來《きた》りて|見《み》|給《たま》へ』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|涙《なみだ》をながし|給《たま》ふ。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]ここにユダヤ|人《びと》ら|言《い》ふ『|視《み》よ、いかばかり|彼《かれ》を|愛《あい》せしぞや』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》の|或《ある》|者《もの》ども|言《い》ふ『|盲人《めしひ》の|目《め》をあけし|此《こ》の|人《ひと》にして、|彼《かれ》を|死《し》なざらしむること|能《あた》はざりしか』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエスまた|心《こころ》を|傷《いた》めつつ|墓《はか》にいたり|給《たま》ふ。|墓《はか》は|洞《ほら》にして|石《いし》を|置《お》きて|塞《ふさ》げり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|石《いし》を|除《のぞ》けよ』|死《し》にし|人《ひと》の|姉妹《しまい》マルタ|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|彼《かれ》ははや|臭《くさ》し、|四日《よっか》を|經《へ》たればなり』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|汝《なんぢ》に、もし|信《しん》ぜば|神《かみ》の|榮光《えいくわう》を|見《み》んと|言《い》ひしにあらずや』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]ここに|人々《ひとびと》|石《いし》を|除《のぞ》けたり。イエス|目《め》を|擧《あ》げて|言《い》ひたまふ『|父《ちち》よ、|我《われ》にきき|給《たま》ひしを|謝《しゃ》す。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|常《つね》にきき|給《たま》ふを|我《われ》は|知《し》る。|然《しか》るに|斯《か》く|言《い》ふは、|傍《かたは》らに|立《た》つ|群衆《ぐんじゅう》の|爲《ため》にして、|汝《なんぢ》の|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひしことを|之《これ》に|信《しん》ぜしめんとてなり』[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|言《い》ひてのち、|聲《こゑ》|高《たか》く『ラザロよ、|出《い》で|來《きた》れ』と|呼《よば》はり|給《たま》へば、[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|死《し》にしもの|布《ぬの》にて|足《あし》と|手《て》とを|卷《ま》かれたるまま|出《い》で|來《きた》る、|顏《かほ》も|手拭《てぬぐひ》にて|包《つつ》まれたり。イエス『これを|解《と》きて|往《ゆ》かしめよ』と|言《い》ひ|給《たま》ふ。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]かくてマリヤの|許《もと》に|來《きた》りて、イエスの|爲《な》し|給《たま》ひし|事《こと》を|見《み》たる|多《おほ》くのユダヤ|人《びと》、かれを|信《しん》じたりしが、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|者《もの》はパリサイ|人《びと》に|往《ゆ》きて、イエスの|爲《な》し|給《たま》ひし|事《こと》を|告《つ》げたり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|祭司長《さいしちゃう》・パリサイ|人《びと》ら|議會《ぎくわい》を|開《ひら》きて|言《い》ふ『われら|如何《いか》に|爲《な》すべきか、|此《こ》の|人《ひと》おほくの|徴《しるし》を|行《おこな》ふなり。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]もし|彼《かれ》をこのまま|捨《す》ておかば、|人々《ひとびと》みな|彼《かれ》を|信《しん》ぜん、|而《しか》してロマ|人《びと》きたりて、|我《われ》らの|土地《とち》と|國人《くにびと》とを|奪《うば》はん』[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》の|一人《ひとり》にて|此《こ》の|年《とし》の|大《だい》|祭司《さいし》なるカヤパ|言《い》ふ『なんぢら|何《なに》をも|知《し》らず。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]ひとりの|人《ひと》、|民《たみ》のために|死《し》にて、|國人《くにびと》すべての|滅《ほろ》びぬは、|汝《なんぢ》らの|益《えき》なるを|思《おも》はぬなり』[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]これは|己《おのれ》より|云《い》へるに|非《あら》ず、この|年《とし》の|大《だい》|祭司《さいし》なれば、イエスの|國人《くにびと》のため、[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》ただに|國人《くにびと》の|爲《ため》のみならず、|散《ち》りたる|神《かみ》の|子《こ》らを|一《ひと》つに|集《あつ》めん|爲《ため》に|死《し》に|給《たま》ふことを|預言《よげん》したるなり。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》この|日《ひ》よりイエスを|殺《ころ》さんと|議《はか》れり。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]されば|此《こ》の|後《のち》イエス|顯《あらは》にユダヤ|人《びと》のなかを|歩《あゆ》み|給《たま》はず、|此處《ここ》を|去《さ》りて、|荒野《あらの》にちかき|處《ところ》なるエフライムといふ|町《まち》に|往《ゆ》き、|弟子《でし》たちと|偕《とも》に|其處《そこ》に|留《とどま》りたまふ。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》の|過越《すぎこし》の|祭《まつり》|近《ちか》づきたれば、|多《おほ》くの|人々《ひとびと》|身《み》を|潔《きよ》めんとて、|祭《まつり》のまへに|田舍《ゐなか》よりエルサレムに|上《のぼ》れり。[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らイエスをたづね、|宮《みや》に|立《た》ちて|互《たがひ》に|言《い》ふ『なんぢら|如何《いか》に|思《おも》ふか、|彼《かれ》は|祭《まつり》に|來《きた》らぬか』[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》・パリサイ|人《びと》らは、イエスを|捕《とら》へんとて、その|在處《ありか》を|知《し》る|者《もの》あらば、|告《つ》げ|出《い》づべく|預《かね》て|命令《めいれい》したりしなり。 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|過越《すぎこし》の|祭《まつり》の|六日《むゆか》|前《まへ》に、イエス、ベタニヤに|來《きた》り|給《たま》ふ、ここは|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひしラザロの|居《を》る|處《ところ》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》にてイエスのために|饗宴《ふるまひ》を|設《まう》け、マルタは|事《つか》へ、ラザロはイエスと|共《とも》に|席《せき》に|著《つ》ける|者《もの》の|中《うち》にあり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]マリヤは|價《あたひ》|高《たか》き|混《まじ》りなきナルドの|香《にほひ》|油《あぶら》|一斤《いっきん》を|持《も》ち|來《きた》りて、イエスの|御足《みあし》にぬり、|己《おの》が|頭髮《かみのけ》にて|御足《みあし》を|拭《ぬぐ》ひしに、|香《にほひ》|油《あぶら》のかをり|家《いへ》に|滿《み》ちたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|御弟子《みでし》の|一人《ひとり》にて、イエスを|賣《う》らんとするイスカリオテのユダ|言《い》ふ、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]『|何《なに》ぞこの|香《にほひ》|油《あぶら》を|三《さん》|百《ひゃく》デナリに|賣《う》りて、|貧《まづ》しき|者《もの》に|施《ほどこ》さざる』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かく|云《い》へるは|貧《まづ》しき|者《もの》を|思《おも》ふ|故《ゆゑ》にあらず、おのれ|盜人《ぬすびと》にして、|財嚢《かねいれ》を|預《あづか》り、その|中《なか》に|納《をさ》むる|物《もの》を|掠《かす》めゐたればなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『この|女《をんな》の|爲《な》すに|任《まか》せよ、|我《わ》が|葬《はうむ》りの|日《ひ》のために|之《これ》を|貯《たくは》へたるなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|貧《まづ》しき|者《もの》は|常《つね》に|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|居《を》れども、|我《われ》は|常《つね》に|居《を》らぬなり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤの|多《おほ》くの|民《たみ》ども、イエスの|此處《ここ》に|居給《ゐたま》ふことを|知《し》りて|來《きた》る、これはイエスの|爲《ため》のみにあらず、|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひしラザロを|見《み》んとてなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|祭司長《さいしちゃう》ら、ラザロをも|殺《ころ》さんと|議《はか》る。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》のために|多《おほ》くのユダヤ|人《びと》さり|往《ゆ》きてイエスを|信《しん》ぜし|故《ゆゑ》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》、|祭《まつり》に|來《きた》りし|多《おほ》くの|民《たみ》ども、イエスのエルサレムに|來《きた》り|給《たま》ふをきき、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|棕梠《しゅろ》の|枝《えだ》をとりて|出《い》で|迎《むか》へ、『「ホサナ、|讃《ほ》むべきかな、|主《しゅ》の|御名《みな》によりて|來《きた》る|者《もの》」イスラエルの|王《わう》』と|呼《よば》はる。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエスは|小驢馬《ころば》を|得《え》て|之《これ》に|乘《の》り|給《たま》ふ。これは|録《しる》して、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]『シオンの|娘《むすめ》よ、|懼《おそ》るな。|視《み》よ、なんぢの|王《わう》は|驢馬《ろば》の|子《こ》に|乘《の》りて|來《きた》り|給《たま》ふ』と|有《あ》るが|如《ごと》し。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちは|最初《はじめ》これらの|事《こと》を|悟《さと》らざりしが、イエスの|榮光《えいくわう》を|受《う》け|給《たま》ひし|後《のち》に、これらの|事《こと》のイエスに|就《つ》きて|録《しる》されたると、|人々《ひとびと》が|斯《か》く|爲《な》ししとを|思《おも》ひ|出《いだ》せり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ラザロを|墓《はか》より|呼《よ》び|起《おこ》し、|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|時《とき》に、イエスと|偕《とも》に|居《を》りし|群衆《ぐんじゅう》、|證《あかし》をなせり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》のイエスを|迎《むか》へたるは、かかる|徴《しるし》を|行《おこな》ひ|給《たま》ひしことを|聞《き》きたるに|因《よ》りてなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]パリサイ|人《びと》ら|互《たがひ》に|言《い》ふ『|見《み》るべし、|汝《なんぢ》らの|謀《はか》ることの|益《えき》なきを。|視《み》よ、|世《よ》は|彼《かれ》に|從《したが》へり』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|禮拜《れいはい》せんとて|祭《まつり》に|上《のぼ》りたる|者《もの》の|中《うち》に、ギリシヤ|人《びと》|數人《すにん》ありしが、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ガリラヤなるベツサイダのピリポに|來《きた》り、|請《こ》ひて|言《い》ふ『|君《きみ》よ、われらイエスに|謁《まみ》えんことを|願《ねが》ふ』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ピリポ|往《ゆ》きてアンデレに|告《つ》げ、アンデレとピリポと|共《とも》に|往《ゆ》きてイエスに|告《つ》ぐ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|人《ひと》の|子《こ》の|榮光《えいくわう》を|受《う》くべき|時《とき》きたれり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|一粒《ひとつぶ》の|麥《むぎ》、|地《ち》に|落《お》ちて|死《し》なずば、|唯一《ただひと》つにて|在《あ》らん、もし|死《し》なば、|多《おほ》くの|果《み》を|結《むす》ぶべし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|己《おの》が|生命《いのち》を|愛《あい》する|者《もの》は、これを|失《うしな》ひ、この|世《よ》にてその|生命《いのち》を|憎《にく》む|者《もの》は、|之《これ》を|保《たも》ちて|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》に|至《いた》るべし。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|我《われ》に|事《つか》へんとせば、|我《われ》に|從《したが》へ、わが|居《を》る|處《ところ》に|我《われ》に|事《つか》ふる|者《もの》もまた|居《を》るべし。|人《ひと》もし|我《われ》に|事《つか》ふることをせば、|我《わ》が|父《ちち》これを|貴《たふと》び|給《たま》はん。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》わが|心《こころ》さわぐ、われ|何《なに》を|言《い》ふべきか。|父《ちち》よ、この|時《とき》より|我《われ》を|救《すく》ひ|給《たま》へ、されど|我《われ》この|爲《ため》にこの|時《とき》に|到《いた》れり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》よ、|御名《みな》の|榮光《えいくわう》をあらはし|給《たま》へ』ここに|天《てん》より|聲《こゑ》いでて|言《い》ふ『われ|既《すで》に|榮光《えいくわう》をあらはしたり、|復《また》さらに|顯《あらは》さん』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|傍《かたは》らに|立《た》てる|群衆《ぐんじゅう》これを|聞《き》きて『|雷霆《いかづち》|鳴《な》れり』と|言《い》ひ、ある|人々《ひとびと》は『|御使《みつかひ》かれに|語《かた》れるなり』と|言《い》ふ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『この|聲《こゑ》の|來《きた》りしは、|我《わ》が|爲《ため》にあらず、|汝《なんぢ》らの|爲《ため》なり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》この|世《よ》の|審判《さばき》は|來《きた》れり、|今《いま》この|世《よ》の|君《きみ》は|逐《お》ひ|出《いだ》さるべし。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もし|地《ち》より|擧《あ》げられなば、|凡《すべ》ての|人《ひと》をわが|許《もと》に|引《ひ》きよせん』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かく|言《い》ひて、|己《おの》が|如何《いか》なる|死《し》にて|死《し》ぬるかを|示《しめ》し|給《たま》へり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》こたふ『われら|律法《おきて》によりて、キリストは|永遠《とこしへ》に|存《ながら》へ|給《たま》ふと|聞《き》きたるに、|汝《なんぢ》いかなれば|人《ひと》の|子《こ》は|擧《あ》げらるべしと|言《い》ふか、その|人《ひと》の|子《こ》とは|誰《たれ》なるか』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なほ|暫《しば》し|光《ひかり》は|汝《なんぢ》らの|中《うち》にあり、|光《ひかり》のある|間《ま》に|歩《あゆ》みて、|暗黒《くらき》に|追及《おひつ》かれぬやうにせよ、|暗《くら》き|中《うち》を|歩《あゆ》む|者《もの》は|往方《ゆくて》を|知《し》らず。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|光《ひかり》の|子《こ》とならんために、|光《ひかり》のある|間《ま》に|光《ひかり》を|信《しん》ぜよ』イエス|此《これ》|等《ら》のことを|語《かた》りてのち、|彼《かれ》らを|避《さ》けて|隱《かく》れ|給《たま》へり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]かく|多《おほ》くの|徴《しるし》を|人々《ひとびと》の|前《まへ》におこなひ|給《たま》ひたれど、なほ|彼《かれ》を|信《しん》ぜざりき。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]これ|預言者《よげんしゃ》イザヤの|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 『|主《しゅ》よ、|我《われ》らに|聞《き》きたる|言《ことば》を|誰《たれ》か|信《しん》ぜし。 |主《しゅ》の|御腕《みうで》は|誰《たれ》にあらはれし』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らが|信《しん》じ|得《え》ざりしは|此《こ》の|故《ゆゑ》なり。|即《すなは》ちイザヤまた|云《い》へらく、 [#ここから2字下げ] [#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]『|彼《かれ》らの|眼《め》を|暗《くら》くし、|心《こころ》を|頑固《かたくな》にし|給《たま》へり。 これ|目《め》にて|見《み》、|心《こころ》にて|悟《さと》り、 ひるがへりて、 |我《われ》に|醫《いや》さるる|事《こと》なからん|爲《ため》なり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]イザヤの|斯《か》く|云《い》へるは、その|榮光《えいくわう》を|見《み》し|故《ゆゑ》にて、イエスに|就《つ》きて|語《かた》りしなり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]されど|司《つかさ》たちの|中《うち》にもイエスを|信《しん》じたるもの|多《おほ》かりしが、パリサイ|人《びと》の|故《ゆゑ》によりて|言《い》ひ|顯《あらは》すことをせざりき、|除名《ぢょめい》せられん|事《こと》を|恐《おそ》れたるなり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|神《かみ》の|譽《ほまれ》よりも|人《ひと》の|譽《ほまれ》を|愛《め》でしなり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|呼《よば》はりて|言《い》ひ|給《たま》ふ『われを|信《しん》ずる|者《もの》は|我《われ》を|信《しん》ずるにあらず、|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》を|信《しん》じ、[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|見《み》る|者《もの》は|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》を|見《み》るなり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|光《ひかり》として|世《よ》に|來《きた》れり、すべて|我《われ》を|信《しん》ずる|者《もの》の|暗黒《くらき》に|居《を》らざらん|爲《ため》なり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》たとひ|我《わ》が|言《ことば》をききて|守《まも》らずとも、|我《われ》は|之《これ》を|審《さば》かず。|夫《それ》わが|來《きた》りしは|世《よ》を|審《さば》かん|爲《ため》にあらず、|世《よ》を|救《すく》はん|爲《ため》なり。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|棄《す》て|我《わ》が|言《ことば》を|受《う》けぬ|者《もの》を|審《さば》く|者《もの》あり、わが|語《かた》れる|言《ことば》こそ|終《をはり》の|日《ひ》に|之《これ》を|審《さば》くなれ。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はおのれに|由《よ》りて|語《かた》れるにあらず、|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|父《ちち》みづから、|我《わ》が|言《い》ふべきこと|語《かた》るべきことを|命《めい》じ|給《たま》ひし|故《ゆゑ》なり。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》その|命令《めいれい》の|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》たるを|知《し》る。されば|我《われ》は|語《かた》るに|我《わ》が|父《ちち》の|我《われ》に|言《い》ひ|給《たま》ふままを|語《かた》るなり』 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|過越《すぎこし》のまつりの|前《まへ》に、イエスこの|世《よ》を|去《さ》りて|父《ちち》に|往《ゆ》くべき|己《おの》が|時《とき》の|來《きた》れるを|知《し》り、|世《よ》に|在《あ》る|己《おのれ》の|者《もの》を|愛《あい》して、|極《きはみ》まで|之《これ》を|愛《あい》し|給《たま》へり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|夕餐《ゆふげ》のとき、|惡魔《あくま》|早《はや》くもシモンの|子《こ》イスカリオテのユダの|心《こころ》に、イエスを|賣《う》らんとする|思《おもひ》を|入《い》れたるが、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|父《ちち》が|萬物《ばんもつ》をおのが|手《て》にゆだね|給《たま》ひしことと、|己《おのれ》の|神《かみ》より|出《い》でて|神《かみ》に|到《いた》ることを|知《し》り、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|夕餐《ゆふげ》より|起《た》ちて|上衣《うはぎ》をぬぎ、|手巾《てぬぐひ》をとりて|腰《こし》にまとひ、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|尋《つい》で|盥《たらひ》に|水《みづ》をいれて、|弟子《でし》たちの|足《あし》をあらひ、|纏《まと》ひたる|手巾《てぬぐひ》にて|之《これ》を|拭《ぬぐ》ひはじめ|給《たま》ふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かくてシモン・ペテロに|至《いた》り|給《たま》へば、|彼《かれ》いふ『|主《しゅ》よ、|汝《なんぢ》わが|足《あし》を|洗《あら》ひ|給《たま》ふか』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|爲《な》すことを|汝《なんぢ》いまは|知《し》らず、|後《のち》に|悟《さと》るべし』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『|永遠《とこしへ》に|我《わ》が|足《あし》をあらひ|給《たま》はざれ』イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『|我《われ》もし|汝《なんぢ》を|洗《あら》はずば、|汝《なんぢ》われと|關係《かかはり》なし』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、わが|足《あし》のみならず、|手《て》をも|頭《かしら》をも』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『すでに|浴《よく》したる|者《もの》は|足《あし》のほか|洗《あら》ふを|要《えう》せず、|全身《ぜんしん》きよきなり。|斯《か》く|汝《なんぢ》らは|潔《きよ》し、されど|悉《ことご》とくは|然《しか》らず』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]これ|己《おのれ》を|賣《う》る|者《もの》の|誰《たれ》なるを|知《し》りたまふ|故《ゆゑ》に『ことごとくは|潔《きよ》からず』と|言《い》ひ|給《たま》ひしなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|足《あし》をあらひ、|己《おの》が|上衣《うはぎ》をとり、|再《ふたた》び|席《せき》につきて|後《のち》いひ|給《たま》ふ『わが|汝《なんぢ》らに|爲《な》したることを|知《し》るか。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|我《われ》を|師《し》また|主《しゅ》ととなふ、|然《し》か|言《い》ふは|宜《うべ》なり、|我《われ》は|是《これ》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|主《しゅ》また|師《し》なるに、|尚《なほ》なんぢらの|足《あし》を|洗《あら》ひたれば、|汝《なんぢ》らも|互《たがひ》に|足《あし》を|洗《あら》ふべきなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|模範《もはん》を|示《しめ》せり、わが|爲《な》ししごとく|汝《なんぢ》らも|爲《な》さんためなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|僕《しもべ》はその|主《しゅ》よりも|大《おほい》ならず。|遣《つかは》されたる|者《もの》は|之《これ》を|遣《つかは》す|者《もの》よりも|大《おほい》ならず。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》これらの|事《こと》を|知《し》りて|之《これ》を|行《おこな》はば|幸福《さいはひ》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]これ|汝《なんぢ》ら|凡《すべ》ての|者《もの》につきて|言《い》ふにあらず、|我《われ》はわが|選《えら》びたる|者《もの》どもを|知《し》る。されど|聖書《せいしょ》に「|我《われ》とともにパンを|食《くら》ふ|者《もの》、われに|向《むか》ひて|踵《きびす》を|擧《あ》げたり」と|云《い》へることは、|必《かなら》ず|成就《じゃうじゅ》すべきなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》その|事《こと》の|成《な》らぬ|前《まへ》に|之《これ》を|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|事《こと》の|成《な》らん|時《とき》、わが|夫《それ》なるを|汝《なんぢ》らの|信《しん》ぜんためなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、わが|遣《つかは》す|者《もの》を|受《う》くる|者《もの》は|我《われ》をうくるなり。|我《われ》を|受《う》くる|者《もの》は|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》を|受《う》くるなり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|此《これ》|等《ら》のことを|言《い》ひ|終《を》へて、|心《こころ》さわぎ|證《あかし》をなして|言《い》ひ|給《たま》ふ『まことに|誠《まこと》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|汝《なんぢ》らの|中《うち》の|一人《ひとり》われを|賣《う》らん』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|互《たがひ》に|顏《かほ》を|見《み》|合《あは》せ、|誰《たれ》につきて|言《い》ひ|給《たま》ふかを|訝《いぶか》る。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|愛《あい》したまふ|一人《ひとり》の|弟子《でし》、イエスの|御胸《みむね》によりそひ|居《ゐ》たれば、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|首《かうべ》にて|示《しめ》し『|誰《たれ》のことを|言《い》ひ|給《たま》ふか、|告《つ》げよ』といふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》そのまま|御胸《みむね》によりかかりて『|主《しゅ》よ、|誰《たれ》なるか』と|言《い》ひしに、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『わが|一撮《ひとつまみ》の|食物《くひもの》を|浸《ひた》して|與《あた》ふる|者《もの》は|夫《それ》なり』かくて|一撮《ひとつまみ》の|食物《くひもの》を|浸《ひた》して、シモンの|子《こ》イスカリオテのユダに|與《あた》へたまふ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]ユダ|一撮《ひとつまみ》の|食物《くひもの》を|受《う》くるや、|惡魔《あくま》かれに|入《い》りたり。イエス|彼《かれ》に|言《い》ひたまふ『なんぢが|爲《な》すことを|速《すみや》かに|爲《な》せ』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|席《せき》に|著《つ》きゐたる|者《もの》は|一人《ひとり》として、|何《なに》|故《ゆゑ》かく|言《い》ひ|給《たま》ふかを|知《し》らず。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]ある|人々《ひとびと》は、ユダが|財嚢《かねいれ》を|預《あづか》るによりて『|祭《まつり》のために|要《えう》する|物《もの》を|買《か》へ』とイエスの|言《い》ひ|給《たま》へるか、また|貧《まづ》しき|者《もの》に|何《なに》か|施《ほどこ》さしめ|給《たま》ふならんと|思《おも》へり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]ユダ|一撮《ひとつまみ》の|食物《くひもの》を|受《う》くるや、|直《ただ》ちに|出《い》づ、|時《とき》は|夜《よる》なりき。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]ユダの|出《い》でし|後《のち》、イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|今《いま》や|人《ひと》の|子《こ》、|榮光《えいくわう》をうく、|神《かみ》も|彼《かれ》によりて|榮光《えいくわう》をうけ|給《たま》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》かれに|由《よ》りて|榮光《えいくわう》をうけ|給《たま》はば、|神《かみ》も|己《おのれ》によりて|彼《かれ》に|榮光《えいくわう》を|與《あた》へ|給《たま》はん、|直《ただ》ちに|與《あた》へ|給《たま》ふべし。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|若子《わくご》よ、|我《われ》なほ|暫《しばら》く|汝《なんぢ》らと|偕《とも》にあり、|汝《なんぢ》らは|我《われ》を|尋《たづ》ねん、されど|曾《かつ》てユダヤ|人《びと》に「なんぢらは|我《わ》が|往《ゆ》く|處《ところ》に|來《きた》ること|能《あた》はず」と|言《い》ひし|如《ごと》く、|今《いま》|汝《なんぢ》らにも|然《し》か|言《い》ふなり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]われ|新《あたら》しき|誡命《いましめ》を|汝《なんぢ》らに|與《あた》ふ、なんぢら|相《あひ》|愛《あい》すべし。わが|汝《なんぢ》らを|愛《あい》せしごとく、|汝《なんぢ》らも|相《あひ》|愛《あい》すべし。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|互《たがひ》に|相《あひ》|愛《あい》する|事《こと》をせば、|之《これ》によりて|人《ひと》みな|汝《なんぢ》らの|我《わ》が|弟子《でし》たるを|知《し》らん』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|何處《いづこ》にゆき|給《たま》ふか』イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『わが|往《ゆ》く|處《ところ》に、なんぢ|今《いま》は|從《したが》ふこと|能《あた》はず。されど|後《のち》に|從《したが》はん』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、いま|從《したが》ふこと|能《あた》はぬは|何《なに》|故《ゆゑ》ぞ、|我《われ》は|汝《なんぢ》のために|生命《いのち》を|棄《す》てん』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『なんぢ|我《わ》がために|生命《いのち》を|棄《す》つるか、|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》に|告《つ》ぐ、なんぢ|三度《みたび》われを|否《いな》むまでは、|鷄《にはとり》|鳴《な》かざるべし』 第一四章[#「第一四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢら|心《こころ》を|騷《さわ》がすな、|神《かみ》を|信《しん》じ、また|我《われ》を|信《しん》ぜよ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]わが|父《ちち》の|家《いへ》には|住處《すみか》おほし、|然《しか》らずば|我《われ》かねて|汝《なんぢ》らに|告《つ》げしならん。われ|汝《なんぢ》|等《ら》のために|處《ところ》を|備《そな》へに|往《ゆ》く。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]もし|往《ゆ》きて|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|處《ところ》を|備《そな》へば、|復《また》きたりて|汝《なんぢ》らを|我《わ》がもとに|迎《むか》へん、わが|居《を》るところに|汝《なんぢ》らも|居《を》らん|爲《ため》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|我《わ》が|往《ゆ》くところに|至《いた》る|道《みち》を|知《し》る』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]トマス|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|何處《いづこ》にゆき|給《たま》ふかを|知《し》らず、いかでその|道《みち》を|知《し》らんや』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|彼《かれ》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『われは|道《みち》なり、|眞理《まこと》なり、|生命《いのち》なり、|我《われ》に|由《よ》らでは|誰《たれ》にても|父《ちち》の|御許《みもと》にいたる|者《もの》なし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|我《われ》を|知《し》りたらば、|我《わ》が|父《ちち》をも|知《し》りしならん。|今《いま》より|汝《なんぢ》ら|之《これ》を|知《し》る、|既《すで》に|之《これ》を|見《み》たり』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ピリポ|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|父《ちち》を|我《われ》らに|示《しめ》し|給《たま》へ、さらば|足《た》れり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『ピリポ、|我《われ》かく|久《ひさ》しく|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|居《を》りしに、|我《われ》を|知《し》らぬか。|我《われ》を|見《み》し|者《もの》は|父《ちち》を|見《み》しなり、|如何《いか》なれば「|我《われ》らに|父《ちち》を|示《しめ》せ」と|言《い》ふか。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》の|父《ちち》に|居《を》り、|父《ちち》の|我《われ》に|居給《ゐたま》ふことを|信《しん》ぜぬか。わが|汝《なんぢ》|等《ら》にいふ|言《ことば》は、|己《おのれ》によりて|語《かた》るにあらず、|父《ちち》われに|在《いま》して|御業《みわざ》をおこなひ|給《たま》ふなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]わが|言《い》ふことを|信《しん》ぜよ、|我《われ》は|父《ちち》にをり、|父《ちち》は|我《われ》に|居給《ゐたま》ふなり。もし|信《しん》ぜずば、|我《わ》が|業《わざ》によりて|信《しん》ぜよ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|我《われ》を|信《しん》ずる|者《もの》は|我《わ》がなす|業《わざ》をなさん、かつ|之《これ》よりも|大《おほい》なる|業《わざ》をなすべし、われ|父《ちち》に|往《ゆ》けばなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らが|我《わ》が|名《な》によりて|願《ねが》ふことは、|我《われ》みな|之《これ》を|爲《な》さん、|父《ちち》、|子《こ》によりて|榮光《えいくわう》を|受《う》け|給《たま》はんためなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|何事《なにごと》にても|我《わ》が|名《な》によりて|我《われ》に|願《ねが》はば、|我《われ》これを|成《な》すべし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|我《われ》を|愛《あい》せば、|我《わ》が|誡命《いましめ》を|守《まも》らん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われ|父《ちち》に|請《こ》はん、|父《ちち》は|他《ほか》に|助主《たすけぬし》をあたへて、|永遠《とこしへ》に|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|居《を》らしめ|給《たま》ふべし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]これは|眞理《しんり》の|御靈《みたま》なり、|世《よ》はこれを|受《う》くること|能《あた》はず、これを|見《み》ず、また|知《し》らぬに|因《よ》る。なんぢらは|之《これ》を|知《し》る、|彼《かれ》は|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|居《を》り、また|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|居給《ゐたま》ふべければなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢらを|遣《つかは》して|孤兒《みなしご》とはせず、|汝《なんぢ》らに|來《きた》るなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|暫《しばら》くせば|世《よ》は|復《また》われを|見《み》ず、されど|汝《なんぢ》らは|我《われ》を|見《み》る、われ|活《い》くれば|汝《なんぢ》らも|活《い》くべければなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》には、|我《われ》わが|父《ちち》に|居《を》り、なんぢら|我《われ》に|居《を》り、われ|汝《なんぢ》らに|居《を》ることを|汝《なんぢ》ら|知《し》らん。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]わが|誡命《いましめ》を|保《たも》ちて|之《これ》を|守《まも》るものは、|即《すなは》ち|我《われ》を|愛《あい》する|者《もの》なり。|我《われ》を|愛《あい》する|者《もの》は|我《わ》が|父《ちち》に|愛《あい》せられん、|我《われ》も|之《これ》を|愛《あい》し、|之《これ》に|己《おのれ》を|顯《あらは》すべし』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イスカリオテならぬユダ|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|何《なに》|故《ゆゑ》おのれを|我《われ》らに|顯《あらは》して、|世《よ》には|顯《あらは》し|給《たま》はぬか』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|人《ひと》もし|我《われ》を|愛《あい》せば、わが|言《ことば》を|守《まも》らん、わが|父《ちち》これを|愛《あい》し、かつ|我等《われら》その|許《もと》に|來《きた》りて|住處《すみか》を|之《これ》とともにせん。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|愛《あい》せぬ|者《もの》は、わが|言《ことば》を|守《まも》らず。|汝《なんぢ》らが|聞《き》くところの|言《ことば》は、わが|言《ことば》にあらず、|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|父《ちち》の|言《ことば》なり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことは|我《われ》なんぢらと|偕《とも》にありて|語《かた》りしが、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|助主《たすけぬし》すなはちわが|名《な》によりて|父《ちち》の|遣《つかは》したまふ|聖《せい》|靈《れい》は、|汝《なんぢ》らに|萬《よろづ》の|事《こと》ををしへ、|又《また》すべて|我《わ》が|汝《なんぢ》らに|言《い》ひしことを|思《おも》ひ|出《いだ》さしむべし。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]われ|平安《へいあん》を|汝《なんぢ》らに|遺《のこ》す、わが|平安《へいあん》を|汝《なんぢ》らに|與《あた》ふ。わが|與《あた》ふるは|世《よ》の|與《あた》ふる|如《ごと》くならず、なんぢら|心《こころ》を|騷《さわ》がすな、また|懼《おそ》るな。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]「われ|往《ゆ》きて|汝《なんぢ》らに|來《きた》るなり」と|云《い》ひしを|汝《なんぢ》ら|既《すで》に|聞《き》けり。もし|我《われ》を|愛《あい》せば、|父《ちち》にわが|往《ゆ》くを|喜《よろこ》ぶべきなり、|父《ちち》は|我《われ》よりも|大《おほい》なるに|因《よ》る。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》その|事《こと》の|成《な》らぬ|前《さき》に、これを|汝《なんぢ》らに|告《つ》げたり、|事《こと》の|成《な》らんとき|汝《なんぢ》らの|信《しん》ぜんためなり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》より|後《のち》われ|汝《なんぢ》らと|多《おほ》く|語《かた》らじ、この|世《よ》の|君《きみ》きたる|故《ゆゑ》なり。|彼《かれ》は|我《われ》に|對《たい》して|何《なに》の|權《けん》もなし、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]されど|斯《か》くなるは、|我《われ》の、|父《ちち》を|愛《あい》し、|父《ちち》の|命《めい》じ|給《たま》ふところに|遵《したが》ひて|行《おこな》ふことを、|世《よ》の|知《し》らん|爲《ため》なり。|起《お》きよ、いざ|此處《ここ》を|去《さ》るべし。 第一五章[#「第一五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|眞《まこと》の|葡萄《ぶだう》の|樹《き》、わが|父《ちち》は|農夫《のうふ》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|我《われ》にありて|果《み》を|結《むす》ばぬ|枝《えだ》は、|父《ちち》これを|除《のぞ》き、|果《み》を|結《むす》ぶものは、いよいよ|果《み》を|結《むす》ばせん|爲《ため》に|之《これ》を|潔《きよ》めたまふ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|既《すで》に|潔《きよ》し、わが|語《かた》りたる|言《ことば》に|因《よ》りてなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》に|居《を》れ、さらば|我《われ》なんぢらに|居《を》らん。|枝《えだ》もし|樹《き》に|居《を》らずば、|自《みづか》ら|果《み》を|結《むす》ぶこと|能《あた》はぬごとく、|汝《なんぢ》らも|我《われ》に|居《を》らずば|亦《また》|然《しか》り。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|葡萄《ぶだう》の|樹《き》、なんぢらは|枝《えだ》なり。|人《ひと》もし|我《われ》にをり、|我《われ》また|彼《かれ》にをらば、|多《おほ》くの|果《み》を|結《むす》ぶべし。|汝《なんぢ》ら|我《われ》を|離《はな》るれば、|何事《なにごと》をも|爲《な》し|能《あた》はず。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|我《われ》に|居《を》らずば、|枝《えだ》のごとく|外《そと》に|棄《す》てられて|枯《か》る、|人々《ひとびと》これを|集《あつ》め|火《ひ》に|投《な》げ|入《い》れて|燒《や》くなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|我《われ》に|居《を》り、わが|言《ことば》なんぢらに|居《を》らば、|何《なに》にても|望《のぞみ》に|隨《したが》ひて|求《もと》めよ、さらば|成《な》らん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|多《おほ》くの|果《み》を|結《むす》ばば、わが|父《ちち》は|榮光《えいくわう》を|受《う》け|給《たま》ふべし、|而《しか》して|汝《なんぢ》|等《ら》わが|弟子《でし》とならん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》の|我《われ》を|愛《あい》し|給《たま》ひしごとく、|我《われ》も|汝《なんぢ》らを|愛《あい》したり、わが|愛《あい》に|居《を》れ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|若《も》しわが|誡命《いましめ》をまもらば、|我《わ》が|愛《あい》にをらん、|我《われ》わが|父《ちち》の|誡命《いましめ》を|守《まも》りて、その|愛《あい》に|居《を》るがごとし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》これらの|事《こと》を|語《かた》りたるは、|我《わ》が|喜悦《よろこび》の|汝《なんぢ》らに|在《あ》り、かつ|汝《なんぢ》らの|喜悦《よろこび》の|滿《みた》されん|爲《ため》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]わが|誡命《いましめ》は|是《これ》なり、わが|汝《なんぢ》らを|愛《あい》せしごとく|互《たがひ》に|相《あひ》|愛《あい》せよ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》その|友《とも》のために|己《おのれ》の|生命《いのち》を|棄《す》つる、|之《これ》より|大《おほい》なる|愛《あい》はなし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|我《わ》が|命《めい》ずる|事《こと》をおこなはば、|我《わ》が|友《とも》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》よりのち|我《われ》なんぢらを|僕《しもべ》といはず、|僕《しもべ》は|主人《しゅじん》のなす|事《こと》を|知《し》らざるなり。|我《われ》なんぢらを|友《とも》と|呼《よ》べり、|我《わ》が|父《ちち》に|聽《き》きし|凡《すべ》てのことを|汝《なんぢ》らに|知《し》らせたればなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|我《われ》を|選《えら》びしにあらず、|我《われ》なんぢらを|選《えら》べり。|而《しか》して|汝《なんぢ》らの|往《ゆ》きて|果《み》を|結《むす》び、|且《かつ》その|果《み》の|殘《のこ》らんために、|又《また》おほよそ|我《わ》が|名《な》によりて|父《ちち》に|求《もと》むるものを、|父《ちち》の|賜《たま》はんために|汝《なんぢ》らを|立《た》てたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]これらの|事《こと》を|命《めい》ずるは、|汝《なんぢ》らの|互《たがひ》に|相《あひ》|愛《あい》せん|爲《ため》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》もし|汝《なんぢ》らを|憎《にく》まば、|汝《なんぢ》|等《ら》より|先《さき》に|我《われ》を|憎《にく》みたることを|知《し》れ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|世《よ》のものならば、|世《よ》は|己《おの》がものを|愛《あい》するならん。|汝《なんぢ》らは|世《よ》のものならず、|我《われ》なんぢらを|世《よ》より|選《えら》びたり。この|故《ゆゑ》に|世《よ》は|汝《なんぢ》らを|憎《にく》む。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]わが|汝《なんぢ》らに「|僕《しもべ》はその|主人《しゅじん》より|大《おほい》ならず」と|告《つ》げし|言《ことば》をおぼえよ。|人《ひと》もし|我《われ》を|責《せ》めしならば、|汝《なんぢ》|等《ら》をも|責《せ》め、わが|言《ことば》を|守《まも》りしならば、|汝《なんぢ》らの|言《ことば》をも|守《まも》らん。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]すべて|此《これ》|等《ら》のことを|我《わ》が|名《な》の|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らに|爲《な》さん、それは|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》を|知《し》らぬに|因《よ》る。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]われ|來《きた》りて|語《かた》らざりしならば、|彼《かれ》ら|罪《つみ》なかりしならん。されど|今《いま》はその|罪《つみ》いひのがるべき|樣《やう》なし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|憎《にく》むものは|我《わ》が|父《ちち》をも|憎《にく》むなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もし|誰《たれ》もいまだ|行《おこな》はぬ|事《こと》を|彼《かれ》らの|中《うち》に|行《おこな》はざりしならば、|彼《かれ》ら|罪《つみ》なかりしならん。されど|今《いま》ははや|我《われ》をも|我《わ》が|父《ちち》をも|見《み》たり、また|憎《にく》みたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]これは|彼《かれ》らの|律法《おきて》に「ひとびと|故《ゆゑ》なくして|我《われ》を|憎《にく》めり」と|録《しる》したる|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》の|許《もと》より|我《わ》が|遣《つかは》さんとする|助主《たすけぬし》、すなはち|父《ちち》より|出《い》づる|眞理《しんり》の|御靈《みたま》のきたらんとき、|我《われ》につきて|證《あかし》せん。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もまた|初《はじめ》より|我《われ》とともに|在《あ》りたれば|證《あかし》するなり。 第一六章[#「第一六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》これらの|事《こと》を|語《かた》りたるは、|汝《なんぢ》らの|躓《つまづ》かざらん|爲《ため》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》なんぢらを|除名《ぢょめい》すべし、|然《しか》のみならず、|汝《なんぢ》らを|殺《ころ》す|者《もの》みな|自《みづか》ら|神《かみ》に|事《つか》ふと|思《おも》ふとき|來《きた》らん。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]これらの|事《こと》をなすは、|父《ちち》と|我《われ》とを|知《し》らぬ|故《ゆゑ》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》これらの|事《こと》を|語《かた》りたるは、|時《とき》いたりて|我《わ》が|斯《か》く|言《い》ひしことを|汝《なんぢ》らの|思《おも》ひいでん|爲《ため》なり。|初《はじめ》より|此《これ》|等《ら》のことを|言《い》はざりしは、|我《われ》なんぢらと|偕《とも》に|在《あ》りし|故《ゆゑ》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》われを|遣《つかは》し|給《たま》ひし|者《もの》にゆく、|然《しか》るに|汝《なんぢ》らの|中《うち》、たれも|我《われ》に「|何處《いづこ》にゆく」と|問《と》ふ|者《もの》なし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|唯《ただ》これらの|事《こと》を|語《かた》りしによりて、|憂《うれひ》なんぢらの|心《こころ》にみてり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されど、われ|實《まこと》を|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、わが|去《さ》るは|汝《なんぢ》らの|益《えき》なり。|我《われ》さらずば|助主《たすけぬし》なんぢらに|來《きた》らじ、|我《われ》ゆかば|之《これ》を|汝《なんぢ》らに|遣《つかは》さん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かれ|來《きた》らんとき、|世《よ》をして|罪《つみ》につき、|義《ぎ》につき、|審判《さばき》につきて、|過《あやま》てるを|認《みと》めしめん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|罪《つみ》に|就《つ》きてとは、|彼《かれ》ら|我《われ》を|信《しん》ぜぬに|因《よ》りてなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|義《ぎ》に|就《つ》きてとは、われ|父《ちち》にゆき、|汝《なんぢ》ら|今《いま》より|我《われ》を|見《み》ぬに|因《よ》りてなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|審判《さばき》に|就《つ》きてとは、|此《こ》の|世《よ》の|君《きみ》さばかるるに|因《よ》りてなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なほ|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐべき|事《こと》あまたあれど、|今《いま》なんぢら|得《え》|耐《た》へず。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》すなはち|眞理《しんり》の|御靈《みたま》きたらん|時《とき》、なんぢらを|導《みちび》きて|眞理《しんり》をことごとく|悟《さと》らしめん。かれ|己《おのれ》より|語《かた》るにあらず、|凡《おほよ》そ|聞《き》くところの|事《こと》を|語《かた》り、かつ|來《きた》らんとする|事《こと》どもを|汝《なんぢ》らに|示《しめ》さん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はわが|榮光《えいくわう》を|顯《あらは》さん、それは|我《わ》がものを|受《う》けて|汝《なんぢ》らに示すべければなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]すべて|父《ちち》の|有《も》ち|給《たま》ふものは|我《わ》がものなり、|此《こ》の|故《ゆゑ》に|我《わ》がものを|受《う》けて|汝《なんぢ》らに|示《しめ》さんと|云《い》へるなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|暫《しばら》くせば|汝《なんぢ》ら|我《われ》を|見《み》ず、また|暫《しばら》くして|我《われ》を|見《み》るべし』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|弟子《でし》たちのうち|或《ある》|者《もの》たがひに|言《い》ふ『「|暫《しばら》くせば|我《われ》を|見《み》ず、また|暫《しばら》くして|我《われ》を|見《み》るべし」と|言《い》ひ、かつ「|父《ちち》に|往《ゆ》くによりて」と|言《い》ひ|給《たま》へるは、|如何《いか》なることぞ』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|復《また》いふ『この|暫《しばら》くとは|如何《いか》なることぞ、|我等《われら》その|言《い》ひ|給《たま》ふところを|知《し》らず』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|問《と》はんと|思《おも》へるを|知《し》りて|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢら「|暫《しばら》くせば|我《われ》を|見《み》ず、また|暫《しばら》くして|我《われ》を|見《み》るべし」と|我《わ》が|言《い》ひしを|尋《たづ》ねあふか。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、なんぢらは|泣《な》き|悲《かな》しみ、|世《よ》は|喜《よろこ》ばん。|汝《なんぢ》ら|憂《うれ》ふべし、|然《さ》れどその|憂《うれひ》は|喜悦《よろこび》とならん。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]をんな|産《う》まんとする|時《とき》は|憂《うれひ》あり、その|期《き》いたるに|因《よ》りてなり。|子《こ》を|産《う》みてのちは|苦痛《くるしみ》をおぼえず、|世《よ》に|人《ひと》の|生《うま》れたる|喜悦《よろこび》によりてなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|汝《なんぢ》らも|今《いま》は|憂《うれひ》あり、されど|我《われ》ふたたび|汝《なんぢ》らを|見《み》ん、その|時《とき》なんぢらの|心《こころ》よろこぶべし、その|喜悦《よろこび》を|奪《うば》ふ|者《もの》なし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かの|日《ひ》には|汝《なんぢ》ら|何事《なにごと》をも|我《われ》に|問《と》ふまじ。|誠《まこと》にまことに|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、|汝《なんぢ》|等《ら》のすべて|父《ちち》に|求《もと》むる|物《もの》をば、|我《わ》が|名《な》によりて|賜《たま》ふべし。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|今《いま》までは|何《なに》をも|我《わ》が|名《な》によりて|求《もと》めたることなし。|求《もと》めよ、|然《さ》らば|受《う》けん、|而《しか》して|汝《なんぢ》らの|喜悦《よろこび》みたさるべし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》これらの|事《こと》を|譬《たとへ》にて|語《かた》りたりしが、また|譬《たとへ》にて|語《かた》らず、|明白《あらは》に|父《ちち》のことを|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐるとき|來《きた》らん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]その|日《ひ》には|汝《なんぢ》|等《ら》わが|名《な》によりて|求《もと》めん。|我《われ》は|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|父《ちち》に|請《こ》ふと|言《い》はず、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》みづから|汝《なんぢ》らを|愛《あい》し|給《たま》へばなり。これ|汝《なんぢ》|等《ら》われを|愛《あい》し、また|我《われ》の|父《ちち》より|出《い》で|來《きた》りしことを|信《しん》じたるに|因《よ》る。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]われ|父《ちち》より|出《い》でて|世《よ》にきたれり、また|世《よ》を|離《はな》れて|父《ちち》に|往《ゆ》くなり』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|言《い》ふ『|視《み》よ、|今《いま》は|明白《あらは》に|語《かた》りて|聊《いささ》かも|譬《たとへ》をいひ|給《たま》はず。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ら|今《いま》なんぢの|知《し》り|給《たま》はぬ|所《ところ》なく、また|人《ひと》の|汝《なんぢ》に|問《と》ふを|待《ま》ち|給《たま》はぬことを|知《し》る。|之《これ》によりて|汝《なんぢ》の|神《かみ》より|出《い》できたり|給《たま》ひしことを|信《しん》ず』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『なんぢら|今《いま》、|信《しん》ずるか。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、なんぢら|散《ちら》されて|各自《おのおの》おのが|處《ところ》にゆき、|我《われ》をひとり|遺《のこ》すとき|到《いた》らん、|否《いな》すでに|到《いた》れり。|然《さ》れど|我《われ》ひとり|居《を》るにあらず、|父《ちち》われと|偕《とも》に|在《いま》すなり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことを|汝《なんぢ》らに|語《かた》りたるは、|汝《なんぢ》ら|我《われ》に|在《あ》りて|平安《へいあん》を|得《え》んが|爲《ため》なり。なんぢら|世《よ》にありては|患難《なやみ》あり、されど|雄々《をを》しかれ。|我《われ》すでに|世《よ》に|勝《か》てり』 第一七章[#「第一七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエスこれらの|事《こと》を|語《かた》りはて、|目《め》を|擧《あ》げ|天《てん》を|仰《あふ》ぎて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|父《ちち》よ、|時《とき》|來《きた》れり、|子《こ》が|汝《なんぢ》の|榮光《えいくわう》を|顯《あらは》さんために、|汝《なんぢ》の|子《こ》の|榮光《えいくわう》を|顯《あらは》したまへ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》より|賜《たま》はりし|凡《すべ》ての|者《もの》に、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|與《あた》へしめんとて、|萬民《ばんみん》を|治《をさ》むる|權威《けんゐ》を|子《こ》に|賜《たま》ひたればなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》は、|唯一《ゆゐいつ》の|眞《まこと》の|神《かみ》にいます|汝《なんぢ》と、なんぢの|遣《つかは》し|給《たま》ひしイエス・キリストとを|知《し》るにあり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》に|成《な》さしめんとて|汝《なんぢ》の|賜《たま》ひし|業《わざ》を|成《な》し|遂《と》げて、|我《われ》は|地上《ちじゃう》に|汝《なんぢ》の|榮光《えいくわう》をあらはせり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》よ、まだ|世《よ》のあらぬ|前《さき》に、わが|汝《なんぢ》と|偕《とも》にもちたりし|榮光《えいくわう》をもて、|今《いま》|御前《みまへ》にて|我《われ》に|榮光《えいくわう》あらしめ|給《たま》へ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》の|中《うち》より|我《われ》に|賜《たま》ひし|人々《ひとびと》に、われ|御名《みな》をあらはせり。|彼《かれ》らは|汝《なんぢ》の|有《もの》なるを|我《われ》に|賜《たま》へり、|而《しか》して|彼《かれ》らは|汝《なんぢ》の|言《ことば》を|守《まも》りたり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》かれらは、|凡《すべ》て|我《われ》に|賜《たま》ひしものの|汝《なんぢ》より|出《い》づるを|知《し》る。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|我《われ》に|賜《たま》ひし|言《ことば》を|彼《かれ》らに|與《あた》へ、|彼《かれ》らは|之《これ》を|受《う》け、わが|汝《なんぢ》より|出《い》でたるを|眞《まこと》に|知《し》り、なんぢの|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひしことを|信《しん》じたるなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》かれらの|爲《ため》に|願《ねが》ふ、わが|願《ねが》ふは|世《よ》のためにあらず、|汝《なんぢ》の|我《われ》に|賜《たま》ひたる|者《もの》のためなり、|彼《かれ》らは|即《すなは》ち|汝《なんぢ》のものなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》がものは|皆《みな》なんぢの|有《もの》、なんぢの|有《もの》は|我《わ》がものなり、|我《われ》かれらより|榮光《えいくわう》を|受《う》けたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》より|我《われ》は|世《よ》に|居《を》らず、|彼《かれ》らは|世《よ》に|居《を》り、|我《われ》は|汝《なんぢ》にゆく。|聖《せい》なる|父《ちち》よ、|我《われ》に|賜《たま》ひたる|汝《なんぢ》の|御名《みな》の|中《うち》に|彼《かれ》らを|守《まも》りたまへ。これ|我等《われら》のごとく、|彼《かれ》らの|一《ひと》つとならん|爲《ため》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》かれらと|偕《とも》にをる|間《あひだ》、われに|賜《たま》ひたる|汝《なんぢ》の|御名《みな》の|中《うち》に|彼《かれ》らを|守《まも》り、かつ|保護《ほご》したり。|其《そ》のうち|一人《ひとり》だに|亡《ほろ》びず、ただ|亡《ほろび》の|子《こ》のみ|亡《ほろ》びたり、|聖書《せいしょ》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》は|我《われ》なんぢに|往《ゆ》く、|而《しか》して|此《これ》|等《ら》のことを|世《よ》に|在《あ》りて|語《かた》るは、|我《わ》が|喜悦《よろこび》を|彼《かれ》らに|全《まった》からしめん|爲《ため》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|御言《みことば》を|彼《かれ》らに|與《あた》へたり、|而《しか》して|世《よ》は|彼《かれ》らを|憎《にく》めり、|我《われ》の|世《よ》のものならぬごとく、|彼《かれ》らも|世《よ》のものならぬに|因《よ》りてなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]わが|願《ねが》ふは、|彼《かれ》らを|世《よ》より|取《と》り|給《たま》はんことならず、|惡《あく》より|免《まぬか》れさらせ|給《たま》はんことなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》の|世《よ》のものならぬ|如《ごと》く、|彼《かれ》らも|世《よ》のものならず。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|眞理《まこと》にて|彼《かれ》らを|潔《きよ》め|別《わか》ちたまへ、|汝《なんぢ》の|御言《みことば》は|眞理《まこと》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》われを|世《よ》に|遣《つかは》し|給《たま》ひし|如《ごと》く、|我《われ》も|彼《かれ》らを|世《よ》に|遣《つかは》せり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》|等《ら》のために|我《われ》は|己《おのれ》を|潔《きよ》めわかつ、これ|眞理《まこと》にて|彼《かれ》らも|潔《きよ》め|別《わか》たれん|爲《ため》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》かれらの|爲《ため》のみならず、その|言《ことば》によりて|我《われ》を|信《しん》ずる|者《もの》のためにも|願《ねが》ふ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]これ|皆《みな》|一《ひと》つとならん|爲《ため》なり。|父《ちち》よ、なんぢ|我《われ》に|在《いま》し、|我《われ》なんぢに|居《を》るごとく、|彼《かれ》らも|我《われ》らに|居《を》らん|爲《ため》なり、|是《これ》なんぢの|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひしことを|世《よ》の|信《しん》ぜん|爲《ため》なり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|汝《なんぢ》の|我《われ》に|賜《たま》ひし|榮光《えいくわう》を|彼《かれ》らに|與《あた》へたり、|是《これ》われらの|一《ひと》つなる|如《ごと》く、|彼《かれ》らも|一《ひと》つとならん|爲《ため》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|我《われ》かれらに|居《を》り、|汝《なんぢ》われに|在《いま》し、|彼《かれ》ら|一《ひと》つとなりて|全《まった》くせられん|爲《ため》なり、|是《これ》なんぢの|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひしことと、|我《われ》を|愛《あい》し|給《たま》ふごとく|彼《かれ》らをも|愛《あい》し|給《たま》ふこととを、|世《よ》の|知《し》らん|爲《ため》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》よ、|望《のぞ》むらくは、|我《われ》に|賜《たま》ひたる|人々《ひとびと》の|我《わ》が|居《を》るところに|我《われ》と|偕《とも》にをり、|世《よ》の|創《はじめ》の|前《さき》より|我《われ》を|愛《あい》し|給《たま》ひしによりて、|汝《なんぢ》の|我《われ》に|賜《たま》ひたる|我《わ》が|榮光《えいくわう》を|見《み》んことを。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|正《ただ》しき|父《ちち》よ、げに|世《よ》は|汝《なんぢ》を|知《し》らず、されど|我《われ》は|汝《なんぢ》を|知《し》り、この|者《もの》どもも|汝《なんぢ》の|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》ひしことを|知《し》れり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]われ|御名《みな》を|彼《かれ》らに|知《し》らしめたり、|復《また》これを|知《し》らしめん。これ|我《われ》を|愛《あい》し|給《たま》ひたる|愛《あい》の、|彼《かれ》らに|在《あ》りて、|我《われ》も|彼《かれ》らに|居《を》らん|爲《ため》なり』 第一八章[#「第一八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことを|言《い》ひ|終《を》へて、イエス|弟子《でし》たちと|偕《とも》にケデロンの|小川《をがは》の|彼方《かなた》に|出《い》でたまふ。|彼処《かしこ》に|園《その》あり、イエス|弟子《でし》たちとともども|入《い》り|給《たま》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ここは|弟子《でし》たちと|屡々《しばしば》あつまり|給《たま》ふ|處《ところ》なれば、イエスを|賣《う》るユダもこの|處《ところ》を|知《し》れり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]かくてユダは|一組《ひとくみ》の|兵隊《へいたい》と|祭司長《さいしちゃう》・パリサイ|人《びと》|等《ら》よりの|下役《したやく》どもとを|受《う》けて、|炬火《たいまつ》・|燈火《ともしび》・|武器《ぶき》を|携《たづさ》へて|此處《ここ》にきたる。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|己《おのれ》に|臨《のぞ》まんとする|事《こと》をことごとく|知《し》り、|進《すす》みいでて|彼《かれ》らに|言《い》ひたまふ『|誰《たれ》を|尋《たづ》ぬるか』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》ふ『ナザレのイエスを』イエス|言《い》ひたまふ『|我《われ》はそれなり』イエスを|賣《う》るユダも|彼《かれ》らと|共《とも》に|立《た》てり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]『|我《われ》はそれなり』と|言《い》ひ|給《たま》ひし|時《とき》、かれら|後退《あとしざり》して|地《ち》に|倒《たふ》れたり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|再《ふたた》び『たれを|尋《たづ》ぬるか』と|問《と》ひ|給《たま》へば『ナザレのイエスを』と|言《い》ふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『われは|夫《それ》なりと|既《すで》に|告《つ》げたり、|我《われ》を|尋《たづ》ぬるならば|此《こ》の|人々《ひとびと》の|去《さ》るを|容《ゆる》せ』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]これさきに『なんぢの|我《われ》に|賜《たま》ひし|者《もの》の|中《うち》より、われ|一人《ひとり》をも|失《うしな》はず』と|言《い》ひ|給《たま》ひし|言《ことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|劍《つるぎ》をもちたるが、|之《これ》を|拔《ぬ》き|大《だい》|祭司《さいし》の|僕《しもべ》を|撃《う》ちて、その|右《みぎ》の|耳《みみ》を|斬《き》り|落《おと》す、|僕《しもべ》の|名《な》はマルコスと|云《い》ふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]イエス、ペテロに|言《い》ひたまふ『|劍《つるぎ》を|鞘《さや》に|收《をさ》めよ、|父《ちち》の|我《われ》に|賜《たま》ひたる|酒杯《さかづき》は、われ|飮《の》まざらんや』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここにかの|兵隊《へいたい》・|千卒長《せんそつちゃう》・ユダヤ|人《びと》の|下役《したやく》ども、イエスを|捕《とら》へて|縛《しば》り、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|先《ま》づアンナスの|許《もと》に|曳《ひ》き|往《ゆ》く、アンナスはその|年《とし》の|大《だい》|祭司《さいし》なるカヤパの|舅《しうと》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]カヤパはさきにユダヤ|人《びと》に、|一人《ひとり》、|民《たみ》のために|死《し》ぬるは|益《えき》なる|事《こと》を|勸《すす》めし|者《もの》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|及《およ》び|他《ほか》の|一人《ひとり》の|弟子《でし》、イエスに|從《したが》ふ。この|弟子《でし》は|大《だい》|祭司《さいし》に|知《し》られたる|者《もの》なれば、イエスと|共《とも》に|大《だい》|祭司《さいし》の|庭《には》に|入《い》りしが、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ペテロは|門《かど》の|外《そと》に|立《た》てり。ここに|大《だい》|祭司《さいし》に|知《し》られたる|彼《かれ》の|弟子《でし》いでて、|門《もん》を|守《まも》る|女《をんな》に|物《もの》|言《い》ひてペテロを|連《つ》れ|入《い》れしに、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|門《かど》を|守《まも》る|婢女《はしため》、ペテロに|言《い》ふ『なんぢも|彼《か》の|人《ひと》の|弟子《でし》の|一人《ひとり》なるか』かれ|言《い》ふ『|然《しか》らず』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》|寒《さむ》くして|僕《しもべ》・|下役《したやく》ども|炭火《すみび》を|熾《おこ》し、その|傍《かたは》らに|立《た》ちて|煖《あたた》まり|居《を》りしに、ペテロも|共《とも》に|立《た》ちて|煖《あたた》まりゐたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|大《だい》|祭司《さいし》、イエスにその|弟子《でし》とその|教《をしへ》とにつきて|問《と》ひたれば、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『われ|公然《おほやけ》に|世《よ》に|語《かた》れり、|凡《すべ》てのユダヤ|人《びと》の|相《あひ》|集《つど》ふ|會堂《くわいだう》と|宮《みや》とにて|常《つね》に|教《をし》へ、|密《ひそか》には|何《なに》をも|語《かた》りし|事《こと》なし。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|何《なに》ゆゑ|我《われ》に|問《と》ふか、|我《わ》が|語《かた》れることは|聽《き》きたる|人々《ひとびと》に|問《と》へ。|視《み》よ、|彼《かれ》らは|我《わ》が|言《い》ひしことを|知《し》るなり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]かく|言《い》ひ|給《たま》ふとき、|傍《かたは》らに|立《た》つ|下役《したやく》の|一人《ひとり》、|手掌《てのひら》にてイエスを|打《う》ちて|言《い》ふ『かくも|大《だい》|祭司《さいし》に|答《こた》ふるか』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『わが|語《かた》りし|言《ことば》もし|惡《あ》しくば、その|惡《あ》しき|故《ゆゑ》を|證《あかし》せよ。|善《よ》くば|何《なに》とて|打《う》つぞ』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ここにアンナス、イエスを|縛《しば》りたるままにて、|大《だい》|祭司《さいし》カヤパの|許《もと》に|送《おく》れり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|立《た》ちて|煖《あたた》まり|居《ゐ》たるに、|人々《ひとびと》いふ『なんぢも|彼《かれ》が|弟子《でし》の|一人《ひとり》なるか』|否《いな》みて|言《い》ふ『|然《しか》らず』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|大《だい》|祭司《さいし》の|僕《しもべ》の|一人《ひとり》にて、ペテロに|耳《みみ》を|斬《き》り|落《おと》されし|者《もの》の|親族《しんぞく》なるが|言《い》ふ『われ|汝《なんぢ》が|園《その》にて|彼《かれ》と|偕《とも》なるを|見《み》しならずや』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]ペテロまた|否《いな》む|折《をり》しも|鷄《にはとり》|鳴《な》きぬ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]かくて|人々《ひとびと》イエスをカヤパの|許《もと》より|官邸《くわんてい》にひきゆく、|時《とき》は|夜明《よあけ》なり。|彼《かれ》ら|過越《すぎこし》の|食《しょく》をなさんために、|汚穢《けがれ》を|受《う》けじとて|己《おのれ》らは|官邸《くわんてい》に|入《い》らず。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]ここにピラト|彼《かれ》らの|前《まへ》に|出《い》でゆきて|言《い》ふ『この|人《ひと》に|對《たい》して|如何《いか》なる|訴訟《うったへ》をなすか』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|答《こた》へて|言《い》ふ『もし|惡《あく》をなしたる|者《もの》ならずば|汝《なんぢ》に|付《わた》さじ』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|言《い》ふ『なんぢら|彼《かれ》を|引取《ひきと》り、おのが|律法《おきて》に|循《したが》ひて|審《さば》け』ユダヤ|人《びと》いふ『|我《われ》らに|人《ひと》を|殺《ころ》す|權威《けんゐ》なし』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]これイエス、|己《おの》が|如何《いか》なる|死《し》にて|死《し》ぬるかを|示《しめ》して、|言《い》ひ|給《たま》ひし|御言《みことば》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]ここにピラトまた|官邸《くわんてい》に|入《い》り、イエスを|呼《よ》び|出《いだ》して|言《い》ふ『なんぢはユダヤ|人《びと》の|王《わう》なるか』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『これは|汝《なんぢ》おのれより|言《い》ふか、|將《はた》わが|事《こと》を|人《ひと》の|汝《なんぢ》に|告《つ》げたるか』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|答《こた》ふ『|我《われ》はユダヤ|人《びと》ならんや、|汝《なんぢ》の|國人《くにびと》・|祭司長《さいしちゃう》ら|汝《なんぢ》を|我《われ》に|付《わた》したり、|汝《なんぢ》なにを|爲《な》ししぞ』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『わが|國《くに》はこの|世《よ》のものならず、|若《も》し|我《わ》が|國《くに》この|世《よ》のものならば、|我《わ》が|僕《しもべ》ら|我《われ》をユダヤ|人《びと》に|付《わた》さじと|戰《たたか》ひしならん。|然《さ》れど|我《わ》が|國《くに》は|此《こ》の|世《よ》よりのものならず』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ここにピラト|言《い》ふ『されば|汝《なんぢ》は|王《わう》なるか』イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『われの|王《わう》たることは|汝《なんぢ》の|言《い》へるごとし。|我《われ》は|之《これ》がために|生《うま》れ、|之《これ》がために|世《よ》に|來《きた》れり、|即《すなは》ち|眞理《しんり》につきて|證《あかし》せん|爲《ため》なり。|凡《すべ》て|眞理《しんり》に|屬《ぞく》する|者《もの》は|我《わ》が|聲《こゑ》をきく』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|言《い》ふ『|眞理《しんり》とは|何《なに》ぞ』かく|言《い》ひて|再《ふたた》びユダヤ|人《びと》の|前《まへ》に|出《い》でて|言《い》ふ『|我《われ》この|人《ひと》に|何《なに》の|罪《つみ》あるをも|見《み》ず。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|過越《すぎこし》のとき|我《われ》なんぢらに|一人《ひとり》の|囚人《めしうど》を|赦《ゆる》す|例《れい》あり、されば|汝《なんぢ》らユダヤ|人《びと》の|王《わう》をわが|赦《ゆる》さんことを|望《のぞ》むか』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らまた|叫《さけ》びて『この|人《ひと》ならず、バラバを』と|言《い》ふ、バラバは|強盜《がうたう》なり。 第一九章[#「第一九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]ここにピラト、イエスをとりて|鞭《むち》うつ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|兵卒《へいそつ》ども|茨《いばら》にて|冠冕《かんむり》をあみ、その|首《かうべ》にかむらせ、|紫色《むらさき》の|上衣《うはぎ》をきせ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|御許《みもと》に|進《すす》みて|言《い》ふ『ユダヤ|人《びと》の|王《わう》やすかれ』|而《しか》して|手掌《てのひら》にて|打《う》てり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|再《ふたた》び|出《い》でて|人々《ひとびと》にいふ『|視《み》よ、この|人《ひと》を|汝《なんぢ》らに|引《ひき》|出《いだ》す、これは|何《なに》の|罪《つみ》あるをも|我《わ》が|見《み》ぬことを|汝《なんぢ》らの|知《し》らん|爲《ため》なり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ここにイエス|茨《いばら》の|冠冕《かんむり》をかむり、|紫色《むらさき》の|上衣《うはぎ》をきて|出《い》で|給《たま》へば、ピラト|言《い》ふ『|視《み》よ、この|人《ひと》なり』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》・|下役《したやく》どもイエスを|見《み》て|叫《さけ》びいふ『|十字架《じふじか》につけよ、|十字架《じふじか》につけよ』ピラト|言《い》ふ『なんぢら|自《みづか》らとりて|十字架《じふじか》につけよ、|我《われ》は|彼《かれ》に|罪《つみ》あるを|見《み》ず』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》こたふ『|我《われ》らに|律法《おきて》あり、その|律法《おきて》によれば|死《し》に|當《あた》るべき|者《もの》なり、|彼《かれ》はおのれを|神《かみ》の|子《こ》となせり』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ピラトこの|言《ことば》をききて|増々《ますます》おそれ、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|再《ふたた》び|官邸《くわんてい》に|入《い》りてイエスに|言《い》ふ『なんぢは|何處《いづこ》よりぞ』イエス|答《こたへ》をなし|給《たま》はず。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|言《い》ふ『われに|語《かた》らぬか、|我《われ》になんぢを|赦《ゆる》す|權威《けんゐ》あり、また|十字架《じふじか》につくる|權威《けんゐ》あるを|知《し》らぬか』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]イエス|答《こた》へ|給《たま》ふ『なんぢ|上《うへ》より|賜《たま》はらずば、|我《われ》に|對《たい》して|何《なに》の|權威《けんゐ》もなし。この|故《ゆゑ》に|我《われ》をなんぢに|付《わた》しし|者《もの》の|罪《つみ》は|更《さら》に|大《おほい》なり』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここにおいてピラト、イエスを|赦《ゆる》さんことを|力《つと》む。されどユダヤ|人《びと》さけびて|言《い》ふ『なんぢ|若《も》しこの|人《ひと》を|赦《ゆる》さば、カイザルの|忠臣《ちゅうしん》にあらず、|凡《おほよ》そおのれを|王《わう》となす|者《もの》はカイザルに|叛《そむ》くなり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ピラトこれらの|言《ことば》をききて、イエスを|外《そと》にひきゆき、|敷石《しきいし》(ヘブル|語《ご》にてガバタ)といふ|處《ところ》にて|審判《さばき》の|座《ざ》につく。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]この|日《ひ》は|過越《すぎこし》の|準備《そなへ》|日《び》にて、|時《とき》は|第六時《だいろくじ》ごろなりき。ピラト、ユダヤ|人《びと》にいふ『|視《み》よ、なんぢらの|王《わう》なり』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かれら|叫《さけ》びていふ『|除《のぞ》け、|除《のぞ》け、|十字架《じふじか》につけよ』ピラト|言《い》ふ『われ|汝《なんぢ》らの|王《わう》を|十字架《じふじか》につくべけんや』|祭司長《さいしちゃう》ら|答《こた》ふ『カイザルの|他《ほか》われらに|王《わう》なし』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ここにピラト、イエスを|十字架《じふじか》に|釘《つ》くるために|彼《かれ》らに|付《わた》せり。|彼《かれ》らイエスを|受取《うけと》りたれば、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|己《おのれ》に|十字架《じふじか》を|負《お》ひて、|髑髏《されかうべ》(ヘブル|語《ご》にてゴルゴダ)といふ|處《ところ》に|出《い》でゆき|給《たま》ふ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|其處《そこ》にて|彼《かれ》らイエスを|十字架《じふじか》につく。|又《また》ほかに|二人《ふたり》の|者《もの》をともに|十字架《じふじか》につけ、|一人《ひとり》を|右《みぎ》に、|一人《ひとり》を|左《ひだり》に、イエスを|眞中《まなか》に|置《お》けり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|罪標《すてふだ》を|書《か》きて|十字架《じふじか》の|上《うへ》に|掲《かか》ぐ『ユダヤ|人《びと》の|王《わう》、ナザレのイエス』と|記《しる》したり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエスを|十字架《じふじか》につけし|處《ところ》は|都《みやこ》に|近《ちか》ければ、|多《おほ》くのユダヤ|人《びと》この|標《ふだ》を|讀《よ》む、|標《ふだ》はヘブル、ロマ、ギリシヤの|語《ことば》にて|記《しる》したり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ここにユダヤ|人《びと》の|祭司長《さいしちゃう》らピラトに|言《い》ふ『ユダヤ|人《びと》の|王《わう》と|記《しる》さず、|我《われ》はユダヤ|人《びと》の|王《わう》なりと|自稱《じしょう》せりと|記《しる》せ』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ピラト|答《こた》ふ『わが|記《しる》したることは|記《しる》したるままに』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|兵卒《へいそつ》どもイエスを|十字架《じふじか》につけし|後《のち》、その|衣《ころも》をとりて|四《よ》つに|分《わ》け、おのおの|其《そ》の|一《ひと》つを|得《え》たり。また|下衣《したぎ》を|取《と》りしが、|下衣《したぎ》は|縫目《ぬひめ》なく、|上《うへ》より|惣《すべ》て|織《お》りたる|物《もの》なれば、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|兵卒《へいそつ》ども|互《たがひ》にいふ『これを|裂《さ》くな、|誰《たれ》がうるか|鬮《くじ》にすべし』これは|聖書《せいしょ》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。|曰《いは》く『かれら|互《たがひ》にわが|衣《ころも》をわけ、わが|衣《ころも》を|鬮《くじ》にせり』|兵卒《へいそつ》ども|斯《か》くなしたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]さてイエスの|十字架《じふじか》の|傍《かたは》らには、その|母《はは》と|母《はは》の|姉妹《しまい》と、クロパの|妻《つま》マリヤとマグダラのマリヤと|立《た》てり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|母《はは》とその|愛《あい》する|弟子《でし》との|近《ちか》く|立《た》てるを|見《み》て、|母《はは》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『をんなよ、|視《み》よ、なんぢの|子《こ》なり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]また|弟子《でし》に|言《い》ひたまふ『|視《み》よ、なんぢの|母《はは》なり』この|時《とき》より、その|弟子《でし》かれを|己《おの》が|家《いへ》に|接《う》けたり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》イエス|萬《よろづ》の|事《こと》の|終《をは》りたるを|知《し》りて、――|聖書《せいしょ》の|全《まった》うせられん|爲《ため》に――『われ|渇《かわ》く』と|言《い》ひ|給《たま》ふ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|酸《す》き|葡萄酒《ぶだうしゅ》の|滿《み》ちたる|器《うつは》あり、その|葡萄酒《ぶだうしゅ》のふくみたる|海綿《うみわた》をヒソプに|著《つ》けてイエスの|口《くち》に|差附《さしつ》く。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]イエスその|葡萄酒《ぶだうしゅ》をうけて|後《のち》いひ|給《たま》ふ『|事《こと》|畢《をは》りぬ』|遂《つひ》に|首《かうべ》をたれて|靈《れい》をわたし|給《たま》ふ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]この|日《ひ》は|準備《そなへ》|日《び》なれば、ユダヤ|人《びと》、|安息《あんそく》|日《にち》に|屍體《しかばね》を|十字架《じふじか》のうへに|留《とど》めおかじとて(|殊《こと》にこの|度《たび》の|安息《あんそく》|日《にち》は|大《おほい》なる|日《ひ》なるにより)ピラトに、|彼《かれ》らの|脛《はぎ》ををりて|屍體《しかばね》を|取除《とりのぞ》かんことを|請《こ》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|兵卒《へいそつ》ども|來《きた》りて、イエスとともに|十字架《じふじか》に|釘《つ》けられたる|第一《だいいち》の|者《もの》と|他《ほか》のものとの|脛《はぎ》を|折《を》り、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》してイエスに|來《きた》りしに、はや|死《し》に|給《たま》ふを|見《み》て、その|脛《はぎ》を|折《を》らず。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|一人《ひとり》の|兵卒《へいそつ》、|鎗《やり》にてその|脅《わき》をつきたれば、|直《ただ》ちに|血《ち》と|水《みづ》と|流《なが》れいづ。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|見《み》しもの|證《あかし》をなす、|其《そ》の|證《あかし》は|眞《まこと》なり、|彼《かれ》はその|言《い》ふことの|眞《まこと》なるを|知《し》る、これ|汝《なんぢ》|等《ら》にも|信《しん》ぜしめん|爲《ため》なり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことの|成《な》りたるは『その|骨《ほね》くだかれず』とある|聖《せい》|句《く》の|成就《じゃうじゅ》せん|爲《ため》なり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》に『かれら|己《おの》が|刺《さ》したる|者《もの》を|見《み》るべし』と|云《い》へる|聖《せい》|句《く》あり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》、アリマタヤのヨセフとて、ユダヤ|人《びと》を|懼《おそ》れ|密《ひそか》にイエスの|弟子《でし》たりし|者《もの》、イエスの|屍體《しかばね》を|引《ひき》|取《と》らんことをピラトに|請《こ》ひたれば、ピラト|許《ゆる》せり、|乃《すなは》ち|往《ゆ》きてその|屍體《しかばね》を|引取《ひきと》る。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]また|曾《かつ》て|夜《よる》|御許《みもと》に|來《きた》りしニコデモも、|沒藥《もつやく》・|沈香《ちんかう》の|混和物《あはせもの》を|百《ひゃく》|斤《きん》ばかり|携《たづさ》へて|來《きた》る。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》らイエスの|屍體《しかばね》をとり、ユダヤ|人《びと》の|葬《はうむ》りの|習慣《ならはし》にしたがひて、|香料《かうれう》とともに|布《ぬの》にて|卷《ま》けり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|十字架《じふじか》につけられ|給《たま》ひし|處《ところ》に|園《その》あり、|園《その》の|中《うち》にいまだ|人《ひと》を|葬《はうむ》りしことなき|新《あたら》しき|墓《はか》あり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》の|準備《そなへ》|日《び》なれば、この|墓《はか》の|近《ちか》きままに|其處《そこ》にイエスを|納《をさ》めたり。 第二〇章[#「第二〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|一週《ひとまはり》のはじめの|日《ひ》、|朝《あさ》まだき|暗《くら》きうちに、マグダラのマリヤ|墓《はか》にきたりて、|墓《はか》より|石《いし》の|取除《とりのぞ》けあるを|見《み》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|走《はし》りゆき、シモン・ペテロとイエスの|愛《あい》し|給《たま》ひしかの|弟子《でし》との|許《もと》に|到《いた》りて|言《い》ふ『たれか|主《しゅ》を|墓《はか》より|取去《とりさ》れり、|何處《いづこ》に|置《お》きしか|我《われ》ら|知《し》らず』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ペテロと、かの|弟子《でし》といでて|墓《はか》にゆく。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》ともに|走《はし》りたれど、かの|弟子《でし》ペテロより|疾《と》く|走《はし》りて|先《さき》に|墓《はか》にいたり、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|屈《かが》みて|布《ぬの》の|置《お》きたるを|見《み》れど、|内《うち》には|入《い》らず。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|後《おく》れ|來《きた》り、|墓《はか》に|入《い》りて|布《ぬの》の|置《お》きたるを|視《み》、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]また|首《かうべ》を|包《つつ》みし|手拭《てぬぐひ》は|布《ぬの》とともに|在《あ》らず、|他《ほか》のところに|卷《ま》きてあるを|見《み》る。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|先《さき》に|墓《はか》にきたれる|彼《かれ》の|弟子《でし》もまた|入《い》り、|之《これ》を|見《み》て|信《しん》ず。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|聖書《せいしょ》に|録《しる》したる、|死人《しにん》の|中《うち》よりその|甦《よみが》へり|給《たま》ふべきことを|未《いま》だ|悟《さと》らざりしなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|二人《ふたり》の|弟子《でし》おのが|家《いへ》にかへれり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れどマリヤは|墓《はか》の|外《そと》に|立《た》ちて|泣《な》き|居《を》りしが、|泣《な》きつつ|屈《かが》みて|墓《はか》の|内《うち》を|見《み》るに、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|屍體《しかばね》の|置《お》かれし|處《ところ》に、|白《しろ》き|衣《ころも》をきたる|二人《ふたり》の|御使《みつかひ》、|首《かうべ》の|方《かた》にひとり|足《あし》の|方《かた》にひとり|坐《ざ》しゐたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》してマリヤに|言《い》ふ『をんなよ、|何《なに》ぞ|泣《な》くか』マリヤ|言《い》ふ『|誰《たれ》かわが|主《しゅ》を|取去《とりさ》れり、|何處《いづこ》に|置《お》きしか|我《われ》しらず』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かく|言《い》ひて|後《うしろ》に|振反《ふりかへ》れば、イエスの|立《た》ち|居給《ゐたま》ふを|見《み》る、されどイエスたるを|知《し》らず。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『をんなよ、|何《なに》ぞ|泣《な》く、|誰《たれ》を|尋《たづ》ぬるか』マリヤは|園守《そのもり》ならんと|思《おも》ひて|言《い》ふ『|君《きみ》よ、|汝《なんぢ》もし|彼《かれ》を|取去《とりさ》りしならば、|何處《いづこ》に|置《お》きしかを|告《つ》げよ、われ|引取《ひきと》るべし』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]イエス『マリヤよ』と|言《い》ひ|給《たま》ふ。マリヤ|振反《ふりかへ》りて『ラボニ』(|釋《と》けば|師《し》よ)と|言《い》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『われに|觸《ふ》るな、|我《われ》いまだ|父《ちち》の|許《もと》に|昇《のぼ》らぬ|故《ゆゑ》なり。|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》たちに|往《ゆ》きて「|我《われ》はわが|父《ちち》すなはち|汝《なんぢ》らの|父《ちち》、わが|神《かみ》すなはち|汝《なんぢ》らの|神《かみ》に|昇《のぼ》る」といへ』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]マグダラのマリヤ|往《ゆ》きて|弟子《でし》たちに『われは|主《しゅ》を|見《み》たり』と|告《つ》げ、また|云《い》々の|事《こと》を|言《い》ひ|給《たま》ひしと|告《つ》げたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]この|日《ひ》すなはち|一週《ひとまはり》のはじめの|日《ひ》の|夕《ゆふべ》、|弟子《でし》たちユダヤ|人《びと》を|懼《おそ》るるに|因《よ》りて、|居《を》るところの|戸《と》を|閉《と》ぢおきしに、イエスきたり|彼《かれ》らの|中《なか》に|立《た》ちて|言《い》ひたまふ『|平安《へいあん》なんぢらに|在《あ》れ』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|言《い》ひてその|手《て》と|脅《わき》とを|見《み》せたまふ、|弟子《でし》たち|主《しゅ》を|見《み》て|喜《よろこ》べり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]イエスまた|言《い》ひたまふ『|平安《へいあん》なんぢらに|在《あ》れ、|父《ちち》の|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》へるごとく、|我《われ》も|亦《また》なんぢらを|遣《つかは》す』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|言《い》ひて、|息《いき》を|吹《ふ》きかけ|言《い》ひたまふ『|聖《せい》|靈《れい》をうけよ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]なんじら|誰《たれ》の|罪《つみ》を|赦《ゆる》すとも|其《そ》の|罪《つみ》ゆるされ、|誰《たれ》の|罪《つみ》を|留《とど》むるとも|其《そ》の|罪《つみ》とどめらるべし』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|來《きた》り|給《たま》ひしとき、|十二《じふに》|弟子《でし》の|一人《ひとり》デドモと|稱《とな》ふるトマスともに|居《を》らざりしかば、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|弟子《でし》これに|言《い》ふ『われら|主《しゅ》を|見《み》たり』トマスいふ『|我《われ》はその|手《て》に|釘《くぎ》の|痕《あと》を|見《み》、わが|指《ゆび》を|釘《くぎ》の|痕《あと》にさし|入《い》れ、わが|手《て》をその|脅《わき》に|差入《さしい》るるにあらずば|信《しん》ぜじ』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|八日《やうか》ののち|弟子《でし》たちまた|家《いへ》にをり、トマスも|偕《とも》に|居《を》りて|戸《と》を|閉《と》ぢおきしに、イエス|來《きた》り、|彼《かれ》らの|中《なか》に|立《た》ちて|言《い》ひたまふ『|平安《へいあん》なんぢらに|在《あ》れ』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]またトマスに|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢの|指《ゆび》をここに|伸《の》べて、わが|手《て》を|見《み》よ、|汝《なんぢ》の|手《て》をのべて、|我《わ》が|脅《わき》にさしいれよ、|信《しん》ぜぬ|者《もの》とならで|信《しん》ずる|者《もの》となれ』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]トマス|答《こた》へて|言《い》ふ『わが|主《しゅ》よ、わが|神《かみ》よ』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢ|我《われ》を|見《み》しによりて|信《しん》じたり、|見《み》ずして|信《しん》ずる|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]この|書《ふみ》に|録《しる》さざる|外《ほか》の|多《おほ》くの|徴《しるし》を、イエス|弟子《でし》たちの|前《まへ》にて|行《おこな》ひ|給《たま》へり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]されど|此《これ》|等《ら》の|事《こと》を|録《しる》ししは、|汝《なんぢ》|等《ら》をしてイエスの|神《かみ》の|子《こ》キリストたることを|信《しん》ぜしめ、|信《しん》じて|御名《みな》により|生命《いのち》を|得《え》しめんが|爲《ため》なり。 第二一章[#「第二一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》、イエス|復《また》テベリヤの|海邊《うみべ》にて|己《おのれ》を|弟子《でし》たちに|現《あらは》し|給《たま》ふ、その|現《あらは》れ|給《たま》ひしこと|左《さ》のごとし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ、デドモと|稱《とな》ふるトマス、ガリラヤのカナのナタナエル、ゼベダイの|子《こ》ら|及《およ》びほかの|弟子《でし》|二人《ふたり》もともに|居《を》りしに、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ『われ|漁獵《すなどり》にゆく』と|言《い》へば、|彼《かれ》ら『われらも|共《とも》に|往《ゆ》かん』と|言《い》ひ、|皆《みな》いでて|舟《ふね》に|乘《の》りしが、その|夜《よ》は|何《なに》をも|得《え》ざりき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあけ》の|頃《ころ》イエス|岸《きし》に|立《た》ち|給《たま》ふに、|弟子《でし》たち|其《そ》のイエスなるを|知《し》らず。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『|子《こ》どもよ、|獲《え》|物《もの》ありしか』|彼《かれ》ら『なし』と|答《こた》ふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|舟《ふね》の|右《みぎ》のかたに|網《あみ》をおろせ、|然《さ》らば|獲《え》|物《もの》あらん』|乃《すなは》ち|網《あみ》を|下《おろ》したるに、|魚《うを》おびただしくして、|網《あみ》を|曳《ひ》き|上《あ》ぐること|能《あた》はざりしかば、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|愛《あい》し|給《たま》ひし|弟子《でし》、ペテロに|言《い》ふ『|主《しゅ》なり』シモン・ペテロ『|主《しゅ》なり』と|聞《き》きて、|裸《はだか》なりしを|上衣《うはぎ》をまとひて|海《うみ》に|飛《と》びいれり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|弟子《でし》たちは|陸《をか》を|離《はな》るること|遠《とほ》からず、|僅《わづか》に|五十間《ごじっけん》ばかりなりしかば、|魚《うを》の|入《い》りたる|網《あみ》を|小舟《こぶね》にて|曳《ひ》き|來《きた》り、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|陸《をか》に|上《のぼ》りて|見《み》れば、|炭火《すみび》ありてその|上《うへ》に|肴《さかな》あり、|又《また》パンあり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『なんぢらの|今《いま》とりたる|肴《さかな》を|少《すこ》し|持《も》ちきたれ』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]シモン・ペテロ|舟《ふね》に|往《ゆ》きて|網《あみ》を|陸《をか》に|曳《ひ》き|上《あ》げしに、|百《ひゃく》|五《ご》|十《じふ》|三《さん》|尾《び》の|大《おほい》なる|魚《うを》|滿《み》ちたり、|斯《か》く|多《おほ》かりしが|網《あみ》は|裂《さ》けざりき。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『きたりて|食《しょく》せよ』|弟子《でし》たちその|主《しゅ》なるを|知《し》れば『なんぢは|誰《たれ》ぞ』と|敢《あ》へて|問《と》ふ|者《もの》もなし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]イエス|進《すす》みてパンをとり|彼《かれ》らに|與《あた》へ、|肴《さかな》をも|然《しか》なし|給《たま》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]イエス|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へりてのち、|弟子《でし》たちに|現《あらは》れ|給《たま》ひし|事《こと》、これにて|三度《みたび》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|食《しょく》したる|後《のち》、イエス、シモン・ペテロに|言《い》ひ|給《たま》ふ『ヨハネの|子《こ》シモンよ、|汝《なんぢ》この|者《もの》どもに|勝《まさ》りて|我《われ》を|愛《あい》するか』ペテロいふ『|主《しゅ》よ、|然《しか》り、わが|汝《なんぢ》を|愛《あい》する|事《こと》は、なんぢ|知《し》り|給《たま》ふ』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|羔羊《こひつじ》を|養《やしな》へ』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]また|二度《ふたたび》いひ|給《たま》ふ『ヨハネの|子《こ》シモンよ、|我《われ》を|愛《あい》するか』ペテロ|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|然《しか》り、わが|汝《なんぢ》を|愛《あい》する|事《こと》は、なんぢ、|知《し》り|給《たま》ふ』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|羊《ひつじ》を|牧《か》へ』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|三度《みたび》いひ|給《たま》ふ『ヨハネの|子《こ》シモンよ、|我《われ》を|愛《あい》するか』ペテロ|三度《みたび》『われを|愛《あい》するか』と|言《い》ひ|給《たま》ふを|憂《うれ》ひて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|知《し》りたまはぬ|處《ところ》なし、わが|汝《なんぢ》を|愛《あい》する|事《こと》は、なんぢ|識《し》りたまふ』イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|羊《ひつじ》をやしなへ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]まことに|誠《まこと》になんぢに|告《つ》ぐ、なんぢ|若《わか》かりし|時《とき》は|自《みづか》ら|帶《おび》して|欲《ほっ》する|處《ところ》を|歩《あゆ》めり、されど|老《お》いては|手《て》を|伸《の》べて|他《ほか》の|人《ひと》に|帶《おび》せられ、|汝《なんぢ》の|欲《ほっ》せぬ|處《ところ》に|連《つ》れゆかれん』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]これペテロが|如何《いか》なる|死《し》にて|神《かみ》の|榮光《えいくわう》を|顯《あらは》すかを|示《しめ》して|言《い》ひ|給《たま》ひしなり。|斯《か》く|言《い》ひて|後《のち》かれに|言《い》ひ|給《たま》ふ『われに|從《したが》へ』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|振反《ふりかへ》りて、イエスの|愛《あい》したまひし|弟子《でし》の|從《したが》ふを|見《み》る。これはさきに|夕餐《ゆふげ》のとき|御胸《みむね》に|倚《よ》りかかりて『|主《しゅ》よ、|汝《なんぢ》を|賣《う》る|者《もの》は|誰《たれ》か』と|問《と》ひし|弟子《でし》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ペテロこの|人《ひと》を|見《み》てイエスに|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、この|人《ひと》は|如何《いか》に』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひ|給《たま》ふ『よしや|我《われ》、かれが|我《われ》の|來《きた》るまで|留《とどま》るを|欲《ほっ》すとも、|汝《なんぢ》になにの|關係《かかはり》あらんや、|汝《なんぢ》は|我《われ》に|從《したが》へ』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|兄弟《きゃうだい》たちの|中《うち》に、この|弟子《でし》|死《し》なずと|云《い》ふ|話《はなし》つたはりたり。されどイエスは|死《し》なずと|言《い》ひ|給《たま》ひしにあらず『よしや|我《われ》、かれが|我《われ》の|來《きた》るまで|留《とどま》るを|欲《ほっ》すとも、|汝《なんぢ》になにの|關係《かかはり》あらんや』と|言《い》ひ|給《たま》ひしなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]これらの|事《こと》につきて、|證《あかし》をなし、|又《また》これを|録《しる》しし|者《もの》は、この|弟子《でし》なり、|我等《われら》はその|證《あかし》の|眞《まこと》なるを|知《し》る。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]イエスの|行《おこな》ひ|給《たま》ひし|事《こと》は、この|外《ほか》なほ|多《おほ》し、もし|一《ひと》つ|一《ひと》つ|録《しる》さば、|我《われ》おもふに|世界《せかい》もその|録《しる》すところの|書《ふみ》を|載《の》するに|耐《た》へざらん。 [#改ページ] 使徒行傳[#「使徒行傳」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]テオピロよ、|我《われ》さきに|前《まへ》の|書《ふみ》をつくりて、|凡《おほよ》そイエスの|行《おこな》ひはじめ|教《をし》へはじめ|給《たま》ひしより、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]その|選《えら》び|給《たま》へる|使徒《しと》たちに、|聖《せい》|靈《れい》によりて|命《めい》じたるのち、|擧《あ》げられ|給《たま》ひし|日《ひ》に|至《いた》るまでの|事《こと》を|記《しる》せり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]イエスは|苦難《くるしみ》をうけしのち、|多《おほ》くの|慥《たしか》なる|證《あかし》をもて、|己《おのれ》の|活《い》きたることを|使徒《しと》たちに|示《しめ》し、|四十《しじふ》|日《にち》の|間《あひだ》、しばしば|彼《かれ》らに|現《あらは》れて、|神《かみ》の|國《くに》のことを|語《かた》り、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》|等《ら》とともに|集《あつま》りゐて|命《めい》じたまふ『エルサレムを|離《はな》れずして、|我《われ》より|聞《き》きし|父《ちち》の|約束《やくそく》を|待《ま》て。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネは|水《みづ》にてバプテスマを|施《ほどこ》ししが、|汝《なんぢ》らは|日《ひ》ならずして|聖《せい》|靈《れい》にてバプテスマを|施《ほどこ》されん』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|集《あつま》れるとき|問《と》ひて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、イスラエルの|國《くに》を|囘復《くわいふく》し|給《たま》ふは|此《こ》の|時《とき》なるか』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]イエス|言《い》ひたまふ『|時《とき》また|期《き》は|父《ちち》おのれの|權威《けんゐ》のうちに|置《お》き|給《たま》へば、|汝《なんぢ》らの|知《し》るべきにあらず。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|聖《せい》|靈《れい》なんぢらの|上《うへ》に|臨《のぞ》むとき、|汝《なんぢ》ら|能力《ちから》をうけん、|而《しか》してエルサレム、ユダヤ|全國《ぜんこく》、サマリヤ、|及《およ》び|地《ち》の|極《はて》にまで|我《わ》が|證人《しょうにん》とならん』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことを|言《い》ひ|終《をは》りて、|彼《かれ》らの|見《み》るがうちに|擧《あ》げられ|給《たま》ふ。|雲《くも》これを|受《う》けて|見《み》えざらしめたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]その|昇《のぼ》りゆき|給《たま》ふとき、|彼《かれ》ら|天《てん》に|目《め》を|注《そそ》ぎゐたりしに、|視《み》よ、|白《しろ》き|衣《ころも》を|著《き》たる|二人《ふたり》の|人《ひと》かたはらに|立《た》ちて|言《い》ふ、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]『ガリラヤの|人々《ひとびと》よ、|何《なに》ゆゑ|天《てん》を|仰《あふ》ぎて|立《た》つか、|汝《なんぢ》らを|離《はな》れて|天《てん》に|擧《あ》げられ|給《たま》ひし|此《こ》のイエスは、|汝《なんぢ》らが|天《てん》に|昇《のぼ》りゆくを|見《み》たるその|如《ごと》く|復《また》きたり|給《たま》はん』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》|等《ら》オリブといふ|山《やま》よりエルサレムに|歸《かへ》る。この|山《やま》はエルサレムに|近《ちか》く、|安息《あんそく》|日《にち》の|道程《みちのり》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|入《い》りてその|留《とどま》りをる|高樓《たかどの》に|登《のぼ》る。ペテロ、ヨハネ、ヤコブ|及《およ》びアンデレ、ピリポ|及《およ》びトマス、バルトロマイ|及《およ》びマタイ、アルパヨの|子《こ》ヤコブ、|熱心《ねっしん》|黨《たう》のシモン|及《およ》びヤコブの|子《こ》ユダなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]この|人々《ひとびと》はみな|女《をんな》たち|及《およ》びイエスの|母《はは》マリヤ、イエスの|兄弟《きゃうだい》たちと|共《とも》に、|心《こころ》を|一《ひと》つにして|只管《ひたすら》いのりを|務《つと》めゐたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》ペテロ、|百二十《ひゃくにじふ》|名《めい》ばかり|共《とも》に|集《あつま》りて|群《むれ》をなせる|兄弟《きゃうだい》たちの|中《なか》に|立《た》ちて|言《い》ふ、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]『|兄弟《きゃうだい》たちよ、イエスを|捕《とら》ふる|者《もの》どもの|手引《てびき》となりしユダにつきて、|聖《せい》|靈《れい》ダビデの|口《くち》によりて|預《あらか》じめ|言《い》ひ|給《たま》ひし|聖書《せいしょ》は、かならず|成就《じゃうじゅ》せざるを|得《え》ざりしなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|我《われ》らの|中《うち》に|數《かぞ》へられ、|此《こ》の|務《つとめ》に|與《あづか》りたればなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり](この|人《ひと》は、かの|不義《ふぎ》の|價《あたひ》をもて|地所《ぢしょ》を|得《え》、また|俯伏《うつぶし》に|墜《お》ちて|直中《ただなか》より|裂《さ》けて|臓腑《はらわた》みな|流《なが》れ|出《い》でたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》エルサレムに|住《す》む|凡《すべ》ての|人《ひと》に|知《し》られて、その|地所《ぢしょ》は|國語《くにことば》にてアケルダマと|稱《とな》へらる、|血《ち》の|地所《ぢしょ》との|義《ぎ》なり)[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]それは|詩《し》|篇《へん》に|録《しる》して [#ここから2字下げ] 「|彼《かれ》の|住處《すみか》は|荒《あ》れ|果《は》てよ、 |人《ひと》その|中《うち》に|住《すま》はざれ」 [#ここで字下げ終わり] と|云《い》ひ、 [#ここから2字下げ] |又《また》「その|職《つとめ》はほかの|人《ひと》に|得《え》させよ」 [#ここで字下げ終わり] と|云《い》ひたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|主《しゅ》イエス|我等《われら》のうちに|往來《ゆきき》し|給《たま》ひし|間《あひだ》、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ちヨハネのバプテスマより|始《はじま》り、|我《われ》らを|離《はな》れて|擧《あ》げられ|給《たま》ひし|日《ひ》に|至《いた》るまで、|常《つね》に|我《われ》らと|偕《とも》に|在《あ》りし|此《こ》の|人々《ひとびと》のうち|一人《ひとり》、われらと|共《とも》に|主《しゅ》の|復活《よみがへり》の|證人《しょうにん》となるべきなり』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ここにバルサバと|稱《とな》へられ、またの|名《な》をユストと|呼《よ》ばるるヨセフ|及《およ》びマツテヤの|二人《ふたり》をあげ、[#太字]二四 二五[#「二四 二五」は行右小書き][#太字終わり]|祈《いの》りて|言《い》ふ『|凡《すべ》ての|人《ひと》の|心《こころ》を|知《し》りたまふ|主《しゅ》よ、ユダ|己《おの》が|所《ところ》に|往《ゆ》かんとて|此《こ》の|務《つとめ》と|使徒《しと》の|職《つとめ》とより|墮《お》ちたれば、その|後《あと》を|繼《つ》がするに、|此《こ》の|二人《ふたり》のうち|孰《いづれ》を|選《えら》び|給《たま》ふか|示《しめ》したまへ』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|鬮《くじ》せしに、|鬮《くじ》はマツテヤに|當《あた》りたれば、|彼《かれ》は|十《じふ》|一《いち》の|使徒《しと》に|加《くは》へられたり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|五旬節《ごじゅんせつ》の|日《ひ》となり、|彼《かれ》らみな|一處《ひとところ》に|集《つど》ひ|居《を》りしに、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|烈《はげ》しき|風《かぜ》の|吹《ふ》ききたるごとき|響《ひびき》、にはかに|天《てん》より|起《おこ》りて、その|坐《ざ》する|所《ところ》の|家《いへ》に|滿《み》ち、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|火《ひ》の|如《ごと》きもの|舌《した》のやうに|現《あらは》れ、|分《わか》れて|各人《おのおの》の|上《うへ》にとどまる。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らみな|聖《せい》|靈《れい》にて|滿《みた》され、|御靈《みたま》の|宣《の》べしむるままに|異邦《ことくに》の|言《ことば》にて|語《かた》りはじむ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》に|敬虔《けいけん》なるユダヤ|人《びと》ら、|天下《てんか》の|國々《くにぐに》より|來《きた》りてエルサレムに|住《す》み|居《を》りしが、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]この|音《おと》おこりたれば|群衆《ぐんじゅう》あつまり|來《きた》り、おのおの|己《おの》が|國語《くにことば》にて|使徒《しと》たちの|語《かた》るを|聞《き》きて|騷《さわ》ぎ|合《あ》ひ、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かつ|驚《をどろ》き|怪《あや》しみて|言《い》ふ『|視《み》よ、この|語《かた》る|者《もの》は|皆《みな》ガリラヤ|人《ひと》ならずや、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|如何《いか》にして|我等《われら》おのおのの|生《うま》れし|國《くに》の|言《ことば》をきくか。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》はパルテヤ|人《ひと》、メヂヤ|人《ひと》、エラム|人《ひと》、またメソポタミヤ、ユダヤ、カパドキヤ、ポント、アジヤ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]フルギヤ、パンフリヤ、エジプト、リビヤのクレネに|近《ちか》き|地方《ちはう》などに|住《す》む|者《もの》、ロマよりの|旅人《たびびと》――ユダヤ|人《びと》および|改宗者《かいしゅうしゃ》――[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]クレテ|人《びと》およびアラビヤ|人《ひと》なるに、|我《わ》が|國語《くにことば》にて|彼《かれ》らが|神《かみ》の|大《おほい》なる|御業《みわざ》をかたるを|聞《き》かんとは』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]みな|驚《をどろ》き|惑《まど》ひて|互《たがひ》に|言《い》ふ『これ|何事《なにごと》ぞ』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|者《もの》どもは|嘲《あざけ》りて|言《い》ふ『かれらは|甘《あま》き|葡萄酒《ぶだうしゅ》にて|滿《みた》されたり』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ここにペテロ|十《じふ》|一《いち》の|使徒《しと》とともに|立《た》ち、|聲《こゑ》を|揚《あ》げ|宣《の》べて|言《い》ふ『ユダヤの|人々《ひとびと》および|凡《すべ》てエルサレムに|住《す》める|者《もの》よ、|汝《なんぢ》|等《ら》わが|言《ことば》に|耳《みみ》を|傾《かたむ》けて、この|事《こと》を|知《し》れ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》は|朝《あさ》の|九時《くじ》なれば、|汝《なんぢ》らの|思《おも》ふごとく|彼《かれ》らは|醉《ゑ》ひたるに|非《あら》ず、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]これは|預言者《よげんしゃ》ヨエルによりて|言《い》はれたる|所《ところ》なり。 [#ここから2字下げ] [#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]「|神《かみ》いひ|給《たま》はく、|末《すゑ》の|世《よ》に|至《いた》りて、 |我《わ》が|靈《れい》を|凡《すべ》ての|人《ひと》に|注《そそ》がん。 |汝《なんぢ》らの|子《むすこ》|女《むすめ》は|預言《よげん》し、 |汝《なんぢ》らの|若者《わかもの》は|幻影《まぼろし》を|見《み》、 なんぢらの|老人《としより》は|夢《ゆめ》を|見《み》るべし。 [#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]その|世《よ》に|至《いた》りて、わが|僕《しもべ》・|婢女《はしため》に わが|靈《れい》を|注《そそ》がん、|彼《かれ》らは|預言《よげん》すべし。 [#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]われ|上《うへ》は|天《てん》に|不思議《ふしぎ》を、 |下《した》は|地《ち》に|徴《しるし》をあらはさん、 |即《すなは》ち|血《ち》と|火《ひ》と|煙《けむり》の|氣《き》とあるべし。 [#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|大《おほい》なる|顯著《いちじる》しき|日《ひ》のきたる|前《まへ》に、 |日《ひ》は|闇《やみ》に|月《つき》は|血《ち》に|變《かは》らん。 [#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]すべて|主《しゅ》の|御名《みな》を|呼《よ》び|頼《たのみ》む|者《もの》は|救《すく》はれん」 [#ここで字下げ終わり] [#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イスラエルの|人々《ひとびと》よ、これらの|言《ことば》を|聽《き》け。ナザレのイエスは、|汝《なんぢ》らの|知《し》るごとく、|神《かみ》かれに|由《よ》りて|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|行《おこな》ひ|給《たま》ひし|能力《ちから》ある|業《わざ》と|不思議《ふしぎ》と|徴《しるし》とをもて、|汝《なんぢ》らに|證《あかし》し|給《たま》へる|人《ひと》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》は|神《かみ》の|定《さだ》め|給《たま》ひし|御旨《みむね》と、|預《あらか》じめ|知《し》り|給《たま》ふ|所《ところ》とによりて|付《わた》されしが、|汝《なんぢ》ら|不法《ふはふ》の|人《ひと》の|手《て》をもて|釘磔《はりつけ》にして|殺《ころ》せり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|神《かみ》は|死《し》の|苦難《くるしみ》を|解《と》きて|之《これ》を|甦《よみが》へらせ|給《たま》へり。|彼《かれ》は|死《し》に|繋《つな》がれをるべき|者《もの》ならざりしなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ダビデ|彼《かれ》につきて|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 「われ|常《つね》に|我《わ》が|前《まへ》に|主《しゅ》を|見《み》たり、 |我《わ》が|動《うご》かされぬ|爲《ため》に|我《わ》が|右《みぎ》に|在《いま》せばなり。 [#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《わ》が|心《こころ》は|樂《たの》しみ、|我《わ》が|舌《した》は|喜《よろこ》べり、 かつ|我《わ》が|肉體《にくたい》もまた|望《のぞみ》の|中《うち》に|宿《やど》らん。 [#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》わが|靈魂《たましひ》を|黄泉《よみ》に|棄《す》て|置《お》かず、 |汝《なんぢ》の|聖者《しゃうじゃ》の|朽果《くちは》つることを|許《ゆる》し|給《たま》はざればなり。 [#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》は|生命《いのち》の|道《みち》を|我《われ》に|示《しめ》し|給《たま》へり、 |御顏《みかほ》の|前《まへ》にて|我《われ》に|勸喜《よろこび》を|滿《みた》し|給《たま》はん」 [#ここで字下げ終わり] [#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》たちよ、|先祖《せんぞ》ダビデに|就《つ》きて、われ|憚《はばか》らず|汝《なんぢ》らに|言《い》ふを|得《う》べし、|彼《かれ》は|死《し》にて|葬《はうむ》られ、その|墓《はか》は|今日《けふ》に|至《いた》るまで|我《われ》らの|中《うち》にあり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|彼《かれ》は|預言者《よげんしゃ》にして、|己《おのれ》の|身《み》より|出《い》づる|者《もの》をおのれの|座位《くらゐ》に|坐《ざ》せしむることを、|誓《ちかひ》をもて|神《かみ》の|約《やく》し|給《たま》ひしを|知《し》り、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|先見《せんけん》して、キリストの|復活《よみがへり》に|就《つ》きて|語《かた》り、その|黄泉《よみ》に|棄《す》て|置《お》かれず、その|肉體《にくたい》の|朽果《くちは》てぬことを|言《い》へるなり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はこのイエスを|甦《よみが》へらせ|給《たま》へり、|我《われ》らは|皆《みな》その|證人《しょうにん》なり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]イエスは|神《かみ》の|右《みぎ》に|擧《あ》げられ、|約束《やくそく》の|聖《せい》|靈《れい》を|父《ちち》より|受《う》けて、|汝《なんぢ》らの|見《み》|聞《き》する|此《こ》のものを|注《そそ》ぎ|給《たま》ひしなり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]それダビデは|天《てん》に|昇《のぼ》りしことなし、|然《さ》れど|自《みづか》ら|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 「|主《しゅ》わが|主《しゅ》に|言《い》ひ|給《たま》ふ、 [#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢの|敵《てき》を|汝《なんぢ》の|足臺《あしだい》となすまでは、 わが|右《みぎ》に|坐《ざ》せよ」 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》ればイスラエルの|全家《ぜんか》は|確《しか》と|知《し》るべきなり。|汝《なんぢ》らが|十字架《じふじか》に|釘《つ》けし|此《こ》のイエスを、|神《かみ》は|立《た》てて|主《しゅ》となし、キリストとなし|給《たま》へり』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》これを|聞《き》きて|心《こころ》を|刺《さ》され、ペテロと|他《ほか》の|使徒《しと》たちとに|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》たちよ、|我《われ》ら|何《なに》をなすべきか』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|答《こた》ふ『なんぢら|悔改《くいあらた》めて、おのおの|罪《つみ》の|赦《ゆるし》を|得《え》んために、イエス・キリストの|名《な》によりてバプテスマを|受《う》けよ、|然《さ》らば|聖《せい》|靈《れい》の|賜物《たまもの》を|受《う》けん。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]この|約束《やくそく》は|汝《なんぢ》らと|汝《なんぢ》らの|子《こ》らと、|凡《すべ》ての|遠《とほ》き|者《もの》すなはち|主《しゅ》なる|我《われ》らの|神《かみ》の|召《め》し|給《たま》ふ|者《もの》とに|屬《つ》くなり』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]この|他《ほか》なほ|多《おほ》くの|言《ことば》をもて|證《あかし》し、かつ|勸《すす》めて『この|曲《まが》れる|代《よ》より|救《すく》ひ|出《いだ》されよ』と|言《い》へり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]かくてペテロの|言《ことば》を|聽納《ききい》れし|者《もの》はバプテスマを|受《う》く。この|日《ひ》、|弟子《でし》に|加《くは》はりたる|者《もの》、おほよそ|三《さん》|千《せん》|人《にん》なり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|使徒《しと》たちの|教《をしへ》を|受《う》け、|交際《まじはり》をなし、パンを|擘《さ》き、|祈祷《いのり》をなすことを|只管《ひたすら》つとむ。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|人《ひと》みな|敬畏《おそれ》を|生《しゃう》じ、|多《おほ》くの|不思議《ふしぎ》と|徴《しるし》とは|使徒《しと》たちに|由《よ》りて|行《おこな》はれたり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|信《しん》じたる|者《もの》はみな|偕《とも》に|居《を》りて|諸般《もろもろ》の|物《もの》を|共《とも》にし、[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|資産《しさん》と|所有《もちもの》とを|賣《う》り、|各人《おのおの》の|用《よう》に|從《したが》ひて|分《わ》け|與《あた》へ、[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|日々《ひび》、|心《こころ》を|一《ひと》つにして|弛《たゆ》みなく|宮《みや》に|居《を》り、|家《いへ》にてパンをさき、|勸喜《よろこび》と|眞心《まごころ》とをもて|食事《しょくじ》をなし、[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》を|讃美《さんび》して|一般《すべて》の|民《たみ》に|悦《よろこ》ばる。かくて|主《しゅ》は|救《すく》はるる|者《もの》を|日々《ひび》かれらの|中《うち》に|加《くは》へ|給《たま》へり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|晝《ひる》の|三時《さんじ》いのりの|時《とき》に、ペテロとヨハネと|宮《みや》に|上《のぼ》りしが、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|生《うま》れながらの|跛者《あしなへ》かかれて|來《きた》る。|宮《みや》に|入《い》る|人《ひと》より|施濟《ほどこし》を|乞《こ》ふために、|日々《ひび》|宮《みや》の|美麗《うつくし》といふ|門《もん》に|置《お》かるるなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ペテロとヨハネとの|宮《みや》に|入《い》らんとするを|見《み》て|施濟《ほどこし》を|乞《こ》ひたれば、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ、ヨハネと|共《とも》に|目《め》を|注《と》めて『|我《われ》らを|見《み》よ』と|言《い》ふ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]かれ|何《なに》をか|受《う》くるならんと、|彼《かれ》らを|見《み》つめたるに、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『|金《きん》|銀《ぎん》は|我《われ》になし、|然《さ》れど|我《われ》に|有《あ》るものを|汝《なんぢ》に|與《あた》ふ、ナザレのイエス・キリストの|名《な》によりて|歩《あゆ》め』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|右《みぎ》の|手《て》を|執《と》りて|起《おこ》ししに、|足《あし》の|甲《かふ》と|踝骨《くるぶし》とたちどころに|強《つよ》くなりて、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|躍《をど》り|立《た》ち|歩《あゆ》み|出《いだ》して、|且《かつ》あゆみ|且《かつ》をどり、|神《かみ》を|讃美《さんび》しつつ|彼《かれ》らと|共《とも》に|宮《みや》に|入《い》れり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》みな|其《そ》の|歩《あゆ》み、また|神《かみ》を|讃美《さんび》するを|見《み》て、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》が|前《さき》に|乞食《こつじき》にて|宮《みや》の|美麗《うつくし》|門《もん》に|坐《ざ》しゐたるを|知《し》れば、この|起《おこ》りし|事《こと》に|就《つ》きて|驚駭《おどろき》と|奇異《あやしみ》とに|充《み》ちたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》がペテロとヨハネとに|取《と》りすがり|居《を》るほどに、|民《たみ》みな|甚《はなは》だしく|驚《をどろ》きてソロモンの|廊《らう》と|稱《とな》ふる|廊《らう》に|馳《は》せつどふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ペテロこれを|見《み》て|民《たみ》に|答《こた》ふ『イスラエルの|人々《ひとびと》よ、|何《なに》ぞ|此《こ》の|事《こと》を|怪《あや》しむか、|何《なに》ぞ|我《われ》らが|己《おのれ》の|能力《ちから》と|敬虔《けいけん》とによりて|此《こ》の|人《ひと》を|歩《あゆ》ませしごとく、|我《われ》らを|見《み》つむるか。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]アブラハム、イサク、ヤコブの|神《かみ》、われらの|先祖《せんぞ》の|神《かみ》は、その|僕《しもべ》イエスに|榮光《えいくわう》あらしめ|給《たま》へり。|汝《なんぢ》|等《ら》このイエスを|付《わた》し、ピラトの|之《これ》を|釋《ゆる》さんと|定《さだ》めしを、|其《そ》の|前《まへ》にて|否《いな》みたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは、この|聖者《しゃうじゃ》・|義人《ぎじん》を|否《いな》みて、|殺人者《ひとごろし》を|釋《ゆる》さんことを|求《もと》め、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|生命《いのち》の|君《きみ》を|殺《ころ》したれど、|神《かみ》はこれを|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》へり、|我《われ》らは|其《そ》の|證人《しょうにん》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くてその|御名《みな》を|信《しん》ずるに|因《よ》りてその|御名《みな》は、|汝《なんぢ》らの|見《み》るところ|識《し》るところの|此《こ》の|人《ひと》を|健《つよ》くしたり。イエスによる|信仰《しんかう》は、|汝《なんぢ》|等《ら》もろもろの|前《まへ》にて|斯《か》かる|全癒《ぜんゆ》を|得《え》させたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|知《し》る、|汝《なんぢ》らが、かの|事《こと》を|爲《な》ししは|知《し》らぬに|因《よ》りてなり。|汝《なんぢ》らの|司《つかさ》たちも|亦《また》|然《しか》り。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|神《かみ》は|凡《すべ》ての|預言者《よげんしゃ》の|口《くち》をもて、キリストの|苦難《くるしみ》を|受《う》くべきことを|預《あらか》じめ|告《つ》げ|給《たま》ひしを、|斯《か》くは|成就《じゃうじゅ》し|給《たま》ひしなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|汝《なんぢ》ら|罪《つみ》を|消《け》されん|爲《ため》に、|悔改《くいあらた》めて|心《こころ》を|轉《てん》ぜよ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]これ|主《しゅ》の|御前《みまへ》より|慰安《なぐさめ》の|時《とき》きたり、|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|預《あらか》じめ|定《さだ》め|給《たま》へるキリスト・イエスを|遣《つかは》し|給《たま》はんとてなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|古《いにし》へより|神《かみ》が、その|聖《せい》なる|預言者《よげんしゃ》の|口《くち》によりて|語《かた》り|給《たま》ひし、|萬物《ばんもつ》の|革《あらた》まる|時《とき》まで、|天《てん》は|必《かなら》ずイエスを|受《う》けおくべし。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]モーセ|云《い》へらく「|主《しゅ》なる|神《かみ》は|汝《なんぢ》らの|兄弟《きゃうだい》の|中《うち》より|我《わ》がごとき|預言者《よげんしゃ》を|起《おこ》し|給《たま》はん。その|語《かた》る|所《ところ》のことは|汝《なんぢ》|等《ら》ことごとく|聽《き》くべし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》てこの|預言者《よげんしゃ》に|聽《き》かぬ|者《もの》は|民《たみ》の|中《うち》より|滅《ほろぼ》し|盡《つく》さるべし」[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》サムエル|以來《このかた》かたりし|預言者《よげんしゃ》も、|皆《みな》この|時《とき》につきて|宣傳《のべつた》へたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|預言者《よげんしゃ》たちの|子孫《しそん》なり、|又《また》なんぢらの|先祖《せんぞ》たちに|神《かみ》の|立《た》て|給《たま》ひし|契約《けいやく》の|子孫《しそん》なり、|即《すなは》ち|神《かみ》アブラハムに|告《つ》げ|給《たま》はく「なんぢの|裔《すゑ》によりて|地《ち》の|諸族《しょぞく》はみな|祝福《しくふく》せらるべし」[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はその|僕《しもべ》を|甦《よみが》へらせ、まづ|汝《なんぢ》らに|遣《つかは》し|給《たま》へり、これ|汝《なんぢ》ら|各人《おのおの》を、その|罪《つみ》より|呼《よ》びかへして|祝福《しくふく》せん|爲《ため》なり』 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]かれら|民《たみ》に|語《かた》り|居《を》るとき、|祭司《さいし》ら・|宮守頭《みやもりがしら》およびサドカイ|人《びと》ら|近《ちか》づき|來《きた》りて、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]その|民《たみ》を|教《をし》へ、|又《また》イエスの|事《こと》を|引《ひ》きて|死人《しにん》の|中《うち》よりの|復活《よみがへり》を|宣《の》ぶるを|憂《うれ》ひ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|手《て》をかけて|之《これ》を|捕《とら》へしに、はや|夕《ゆふべ》になりたれば、|明《あ》くる|日《ひ》まで|留置場《とめおきば》に|入《い》れたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど、その|言《ことば》を|聽《き》きたる|人々《ひとびと》の|中《うち》にも|信《しん》ぜし|者《もの》おほくありて、|男《をとこ》の|數《かず》おほよそ|五《ご》|千《せん》|人《にん》となりたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》、|司《つかさ》・|長老《ちゃうらう》・|學者《がくしゃ》らエルサレムに|會《くわい》し、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|大《だい》|祭司《さいし》アンナス、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデル|及《およ》び|大《だい》|祭司《さいし》の|一族《いちぞく》みな|集《つど》ひて、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]その|中《なか》にかの|二人《ふたり》を|立《た》てて|問《と》ふ『|如何《いか》なる|能力《ちから》いかなる|名《な》によりて|此《こ》の|事《こと》を|行《おこな》ひしぞ』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|時《とき》ペテロ|聖《せい》|靈《れい》にて|滿《みた》され、|彼《かれ》らに|言《い》ふ『|民《たみ》の|司《つかさ》たち|及《およ》び|長老《ちゃうらう》たちよ、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らが|病《や》める|者《もの》になしし|善《よ》き|業《わざ》に|就《つ》き、その|如何《いか》にして|救《すく》はれしかを|今日《けふ》もし|訊《ただ》さるるならば、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|一同《いちどう》およびイスラエルの|民《たみ》みな|知《し》れ、この|人《ひと》の|健《すこや》かになりて|汝《なんぢ》らの|前《まへ》に|立《た》つは、ナザレのイエス・キリスト、|即《すなは》ち|汝《なんぢ》らが|十字架《じふじか》に|釘《つ》け、|神《かみ》が|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|者《もの》の|名《な》に|頼《よ》ることを。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]このイエスは|汝《なんぢ》ら|造家者《いへつくり》に|輕《かろ》しめられし|石《いし》にして、|隅《すみ》の|首石《おやいし》となりたるなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|者《もの》によりては|救《すくひ》を|得《う》ることなし、|天《あめ》の|下《した》には|我《われ》らの|頼《よ》りて|救《すく》はるべき|他《ほか》の|名《な》を、|人《ひと》に|賜《たま》ひし|事《こと》なければなり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らはペテロとヨハネとの|臆《おく》することなきを|見《み》、その|無學《むがく》の|凡人《ただびと》なるを|知《し》りたれば、|之《これ》を|怪《あや》しみ、|且《かつ》そのイエスと|偕《とも》にありし|事《こと》を|認《みと》む。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]また|醫《いや》されたる|人《ひと》の|之《これ》とともに|立《た》つを|見《み》るによりて、|更《さら》に|言《い》ひ|消《け》す|辭《ことば》なし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ここに、|命《めい》じて|彼《かれ》らを|衆議所《しゅうぎしょ》より|退《しりぞ》け、|相《あひ》|共《とも》に|議《はか》りて|言《い》ふ、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]『この|人々《ひとびと》を|如何《いか》にすべきぞ。|彼《かれ》|等《ら》によりて|顯著《いちじる》しき|徴《しるし》の|行《おこな》はれし|事《こと》は、|凡《すべ》てエルサレムに|住《す》む|者《もの》に|知《し》られ、|我《われ》ら|之《これ》を|否《いな》むこと|能《あた》はねばなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|愈々《いよいよ》ひろく|民《たみ》の|中《うち》に|言《い》ひ|弘《ひろま》らぬやうに、|彼《かれ》らを|脅《おびや》かして、|今《いま》より|後《のち》かの|名《な》によりて|誰《たれ》にも|語《かた》る|事《こと》なからしめん』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|彼《かれ》らを|呼《よ》び、|一切《いっさい》イエスの|名《な》によりて|語《かた》り、また|教《をし》へざらんことを|命《めい》じたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ペテロとヨハネと|答《こた》へていふ『|神《かみ》に|聽《き》くよりも|汝《なんぢ》らに|聽《き》くは、|神《かみ》の|御前《みまへ》に|正《ただ》しきか、|汝《なんぢ》ら|之《これ》を|審《さば》け。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|見《み》しこと|聽《き》きしことを|語《かた》らざるを|得《え》ず』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》みな|此《こ》の|有《あ》りし|事《こと》に|就《つ》きて|神《かみ》を|崇《あが》めたれば、|彼《かれ》らを|罰《ばっ》するに|由《よし》なく、|更《さら》にまた|脅《おびや》かして|釋《ゆる》せり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]かの|徴《しるし》によりて|醫《いや》されし|人《ひと》は|四十歳《しじっさい》|餘《あまり》なりしなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|釋《ゆる》されて、その|友《とも》の|許《もと》にゆき、|祭司長《さいしちゃう》・|長老《ちゃうらう》らの|言《い》ひし|凡《すべ》てのことを|告《つ》げたれば、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|聞《き》きて|皆《みな》|心《こころ》を|一《ひと》つにし、|神《かみ》に|對《むか》ひ、|聲《こゑ》を|揚《あ》げて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|汝《なんぢ》は|天《てん》と|地《ち》と|海《うみ》と、|其《そ》の|中《なか》のあらゆる|物《もの》とを|造《つく》り|給《たま》へり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|曾《かつ》て|聖《せい》|靈《れい》によりて、|汝《なんぢ》の|僕《しもべ》われらの|先祖《せんぞ》ダビデでの|口《くち》をもて [#ここから2字下げ] 「|何《なに》ゆゑ|異邦人《いはうじん》は|騷《さわ》ぎ|立《た》ち、 |民《たみ》らは|空《むな》しき|事《こと》を|謀《はか》るぞ。 [#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》の|王《わう》たちは|共《とも》に|立《た》ち、 |司《つかさ》らは|一《ひと》つにあつまりて、 |主《しゅ》および|其《そ》のキリストに|逆《さから》ふ」 [#ここで字下げ終わり] と|宣給《のたま》へり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|果《はた》してヘロデとポンテオ・ピラトとは、|異邦人《いはうじん》およびイスラエルの|民《たみ》|等《ら》とともに、|汝《なんぢ》の|油《あぶら》そそぎ|給《たま》ひし|聖《せい》なる|僕《しもべ》イエスに|逆《さから》ひて、|此《こ》の|都《みやこ》にあつまり、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|御手《みて》と|御旨《みむね》とにて、|斯《か》く|成《な》るべしと|預《あらか》じめ|定《さだ》め|給《たま》ひし|事《こと》をなせり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》よ、|今《いま》かれらの|脅喝《おびやかし》を|御覽《みそなは》し、|僕《しもべ》らに|御言《みことば》を|聊《いささ》かも|臆《おく》することなく|語《かた》らせ、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|御手《みて》をのべて|醫《い》を|施《ほどこ》させ、|汝《なんぢ》の|聖《せい》なる|僕《しもべ》イエスの|名《な》によりて、|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》とを|行《おこな》はせ|給《たま》へ』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|祈《いの》り|終《を》へしとき、|其《そ》の|集《あつま》りをる|處《ところ》ふるひ|動《うご》き、みな|聖《せい》|靈《れい》にて|滿《みた》され、|臆《おく》することなく|神《かみ》の|御言《みことば》を|語《かた》れり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|信《しん》じたる|者《もの》の|群《むれ》は、おなじ|心《こころ》おなじ|思《おもひ》となり、|誰《たれ》|一人《ひとり》その|所有《もちもの》を|己《おの》が|者《もの》と|謂《い》はず、|凡《すべ》ての|物《もの》を|共《とも》にせり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|使徒《しと》たちは|大《おほい》なる|能力《ちから》をもて、|主《しゅ》イエスの|復活《よみがへり》の|證《あかし》をなし、みな|大《おほい》なる|恩惠《めぐみ》を|蒙《かうむ》りたり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|中《うち》には|一人《ひとり》の|乏《とぼ》しき|者《もの》もなかりき。これ|地所《ぢしょ》あるいは|家屋《いへ》を|有《も》てる|者《もの》、これを|賣《う》り、その|賣《う》りたる|物《もの》の|價《あたひ》を|持《も》ち|來《きた》りて、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たちの|足下《あしもと》に|置《お》きしを、|各人《おのおの》その|用《よう》に|隨《したが》ひて|分《わ》け|與《あた》へられたればなり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]ここにクプロに|生《うま》れたるレビ|人《ひと》にて、|使徒《しと》たちにバルナバ(|釋《と》けば|慰籍《なぐさめ》の|子《こ》)と|稱《とな》へらるるヨセフ、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|畑《はた》ありしを|賣《う》りて|其《そ》の|金《かね》を|持《も》ちきたり、|使徒《しと》たちの|足下《あしもと》に|置《お》けり。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにアナニヤと|云《い》ふ|人《ひと》、その|妻《つま》サツピラと|共《とも》に|資産《しさん》を|賣《う》り、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]その|價《あたひ》の|幾分《いくぶん》を|匿《かく》しおき、|殘《のこ》る|幾分《いくぶん》を|持《も》ちきたりて|使徒《しと》たちの|足下《あしもと》に|置《お》きしが、|妻《つま》も|之《これ》を|與《あづか》れり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ここにペテロ|言《い》ふ『アナニヤよ、|何《なに》|故《ゆゑ》なんぢの|心《こころ》サタンに|滿《み》ち、|聖《せい》|靈《れい》に|對《たい》し|詐《いつは》りて、|地所《ぢしょ》の|價《あたひ》の|幾分《いくぶん》を|匿《かく》したるぞ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|有《あ》りし|時《とき》は|汝《なんぢ》の|物《もの》なり、|賣《う》りて|後《のち》も|汝《なんぢ》の|權《けん》の|内《うち》にあるに|非《あら》ずや、|何《なに》とて|斯《かか》ることを|心《こころ》に|企《くはだ》てし。なんぢ|人《ひと》に|對《たい》してにあらず、|神《かみ》に|對《たい》して|詐《いつは》りしなり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]アナニヤこの|言《ことば》をきき、|倒《たふ》れて|息《いき》|絶《た》ゆ。これを|聞《き》く|者《もの》みな|大《おほい》なる|懼《おそれ》を|懷《いだ》く。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|若者《わかもの》ども|立《た》ちて|彼《かれ》を|包《つつ》み、|舁《か》き|出《いだ》して|葬《はうむ》れり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|三《さん》|時間《じかん》を|經《へ》て、その|妻《つま》この|有《あ》りし|事《こと》を|知《し》らずして|入《い》り|來《きた》りしに、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|之《これ》に|向《むか》ひて|言《い》ふ『なんぢら|此《これ》|程《ほど》の|價《あたひ》にてかの|地所《ぢしょ》を|賣《う》りしか、|我《われ》に|告《つ》げよ』|女《をんな》いふ『|然《しか》り、|此《これ》|程《ほど》なり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『なんぢら|何《なに》ぞ|心《こころ》を|合《あは》せて|主《しゅ》の|御靈《みたま》を|試《こころ》みんとせしか、|視《み》よ、なんぢの|夫《をっと》を|葬《はうむ》りし|者《もの》の|足《あし》は|門口《かどぐち》にあり、|汝《なんぢ》をもまた|舁《か》き|出《いだ》すべし』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]をんな|立刻《たちどころ》にペテロの|足下《あしもと》に|倒《たふ》れて|息《いき》|絶《た》ゆ。|若者《わかもの》ども|入《い》り|來《きた》りて、その|死《し》にたるを|見《み》、これを|舁《か》き|出《いだ》して|夫《をっと》の|傍《かたは》らに|葬《はうむ》れり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]ここに|全《ぜん》|教會《けうくわい》および|此《これ》|等《ら》のことを|聞《き》く|者《もの》みな|大《おほい》なる|懼《おそれ》を|懷《いだ》けり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たちの|手《て》によりて|多《おほ》くの|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》と|民《たみ》の|中《うち》に|行《おこな》はれたり。|彼《かれ》|等《ら》はみな|心《こころ》を|一《ひと》つにして、ソロモンの|廊《らう》にあり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|者《もの》どもは|敢《あ》へて|近《ちか》づかず、|民《たみ》は|彼《かれ》らを|崇《あが》めたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|信《しん》ずるもの|男女《なんにょ》とも|増々《ますます》おほく|主《しゅ》に|屬《つ》けり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|終《つひ》には|人々《ひとびと》、|病《や》める|者《もの》を|大路《おほじ》に|舁《か》ききたり、|寢臺《ねだい》または|床《とこ》の|上《うへ》におく。|此《これ》|等《ら》のうち|誰《たれ》にもせよ、ペテロの|過《す》ぎん|時《とき》、その|影《かげ》になりと|庇《おほ》はれんとてなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》エルサレムの|周圍《まはり》の|町々《まちまち》より|多《おほ》くの|人々《ひとびと》、|病《や》める|者《もの》・|穢《けが》れし|靈《れい》に|惱《なやま》されたる|者《もの》を|携《たづさ》へきたりて|集《つど》ひたりしが、みな|醫《いや》されたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|大《だい》|祭司《さいし》および|之《これ》と|偕《とも》なる|者《もの》、|即《すなは》ちサドカイ|派《は》の|人々《ひとびと》、みな|嫉《ねたみ》に|滿《みた》されて|立《た》ち、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たちに|手《て》をかけて|之《これ》を|留置場《とめおきば》に|入《い》る。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|主《しゅ》の|使《つかひ》、|夜《よる》、|獄《ひとや》の|戸《と》をひらき、|彼《かれ》らを|連《つ》れ|出《いだ》して|言《い》ふ、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]『|往《ゆ》きて|宮《みや》に|立《た》ち、この|生命《いのち》の|言《ことば》をことごとく|民《たみ》に|語《かた》れ』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]かれら|之《これ》を|聞《き》き、|夜明《よあけ》がた|宮《みや》に|入《い》りて|教《をし》ふ。|大《だい》|祭司《さいし》および|之《これ》と|偕《とも》なる|者《もの》ども|集《つど》ひきたりて、|議會《ぎくわい》とイスラエル|人《ひと》の|元老《げんらう》とを|呼《よ》びあつめ、|使徒《しと》たちを|曳《ひ》き|來《きた》らせんとて|人《ひと》を|牢舍《らうや》に|遣《つかは》したり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|下役《したやく》ども|往《ゆ》きしに、|獄《ひとや》のうちに|彼《かれ》らの|居《を》らぬを|見《み》て、|歸《かへ》りきたり|告《つ》げて|言《い》ふ、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]『われら|牢舍《らうや》の|堅《かた》く|閉《と》ぢられて、|戸《と》の|前《まへ》に|牢番《らうばん》の|立《た》ちたるを|見《み》しに、|開《ひら》きて|見《み》れば、|内《うち》には|誰《たれ》も|居《を》らざりき』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|宮守頭《みやもりがしら》および|祭司長《さいしちゃう》らこの|言《ことば》を|聞《き》きて、|如何《いか》になりゆくべきかと|惑《まど》ひいたるに、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》きたり|告《つ》げて|言《い》ふ『|視《み》よ、|汝《なんぢ》らの|獄《ひとや》に|入《い》れし|人《ひと》は、|宮《みや》に|立《た》ちて|民《たみ》を|教《をし》へ|居《を》るなり』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]ここに|宮守頭《みやもりがしら》、|下役《したやく》を|伴《ともな》ひて|出《い》でゆき、|彼《かれ》らを|曳《ひ》き|來《きた》る。されど|手暴《てあら》きことをせざりき、これ|民《たみ》より|石《いし》にて|打《う》たれんことを|恐《おそ》れたるなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らを|連《つ》れ|來《きた》りて|議會《ぎくわい》の|中《なか》に|立《た》てたれば、|大《だい》|祭司《さいし》|問《と》ひて|言《い》ふ、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]『|我等《われら》かの|名《な》によりて|教《をし》ふることを|堅《かた》く|禁《きん》ぜしに、|視《み》よ、|汝《なんぢ》らは|其《そ》の|教《をしへ》をエルサレムに|滿《みた》し、かの|人《ひと》の|血《ち》を|我《われ》らに|負《お》はせんとす』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|及《およ》び|他《ほか》の|使徒《しと》たち|答《こた》へて|言《い》ふ『|人《ひと》に|從《したが》はんよりは|神《かみ》に|從《したが》ふべきなり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|先祖《せんぞ》の|神《かみ》はイエスを|起《おこ》し|給《たま》ひしに、|汝《なんぢ》らは|之《これ》を|木《き》に|懸《か》けて|殺《ころ》したり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|彼《かれ》を|君《きみ》とし|救主《すくひぬし》として|己《おの》が|右《みぎ》にあげ、|悔改《くいあらため》と|罪《つみ》の|赦《ゆるし》とをイスラエルに|與《あた》へしめ|給《たま》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|此《こ》の|事《こと》の|證人《しょうにん》なり。|神《かみ》のおのれに|從《したが》ふ|者《もの》に|賜《たま》ふ|聖《せい》|靈《れい》もまた|然《しか》り』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]かれら|之《これ》をききて|怒《いかり》に|滿《み》ち、|使徒《しと》たちを|殺《ころ》さんと|思《おも》へり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにパリサイ|人《びと》にて|凡《すべ》ての|民《たみ》に|尊《たふと》ばるる|教法《けうはふ》|學者《がくしゃ》ガマリエルと|云《い》ふもの、|議會《ぎくわい》の|中《なか》に|立《た》ち、|命《めい》じて|使徒《しと》たちを|暫《しばら》く|外《そと》に|出《いだ》さしめ、|議員《ぎゐん》らに|向《むか》ひて|言《い》ふ、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]『イスラエルの|人《ひと》よ、|汝《なんぢ》らが|此《こ》の|人々《ひとびと》に|爲《な》さんとする|事《こと》につきて|心《こころ》せよ。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|前《さき》にチウダ|起《おこ》りて、|自《みづか》ら|大《おほい》なりと|稱《しょう》し、|之《これ》に|附《つき》|隨《したが》ふ|者《もの》の|數《かず》おほよそ|四《し》|百《ひゃく》|人《にん》なりしが、|彼《かれ》は|殺《ころ》され、|從《したが》へる|者《もの》はみな|散《ちら》されて|跡《あと》なきに|至《いた》れり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]そののち|戸籍《こせき》|登録《とうろく》のときガリラヤのユダ|起《おこ》りて、|多《おほ》くの|民《たみ》を|誘《さそ》ひおのれに|從《したが》はしめしが、|彼《かれ》も|亡《ほろ》び|從《したが》へる|者《もの》もことごとく|散《ちら》されたり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|今《いま》なんぢらに|言《い》ふ、この|人々《ひとびと》より|離《はな》れて、その|爲《な》すに|任《まか》せよ。|若《も》しその|企圖《くはだて》その|所作《しわざ》、|人《ひと》より|出《い》でたらんにはおのづから|壞《やぶ》れん。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]もし|神《かみ》より|出《い》でたらんには|彼《かれ》らを|壞《やぶ》ること|能《あた》はず、|恐《おそ》らくは|汝《なんぢ》ら|神《かみ》に|敵《てき》する|者《もの》とならん』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》その|勸告《すすめ》にしたがひ、|遂《つひ》に|使徒《しと》たちを|呼《よ》び|出《いだ》して|之《これ》を|鞭《むち》うち、イエスの|名《な》によりて|語《かた》ることを|堅《かた》く|禁《きん》じて|釋《ゆる》せり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たちは|御名《みな》のために|辱《はづか》しめらるるに|相應《ふさは》しき|者《もの》とせられたるを|喜《よろこ》びつつ、|議員《ぎゐん》らの|前《まへ》を|出《い》で|去《さ》れり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|日毎《ひごと》に|宮《みや》また|家《いへ》にて|教《をしへ》をなし、イエスのキリストなる|事《こと》を|宣傳《のべつた》へて|止《や》まざりき。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]そのころ|弟子《でし》のかず|増《まし》|加《くは》はり、ギリシヤ|語《ことば》のユダヤ|人《びと》、その|寡婦《やもめ》らが|日々《ひび》の|施濟《ほどこし》に|漏《もら》されたれば、ヘブル|語《ことば》のユダヤ|人《びと》に|對《たい》して|呟《つぶや》く|事《こと》あり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|十二《じふに》|使徒《しと》すべての|弟子《でし》を|呼《よ》び|集《あつ》めて|言《い》ふ『われら|神《かみ》の|言《ことば》を|差措《さしお》きて、|食卓《しょくたく》に|事《つか》ふるは|宣《よろ》しからず。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》らの|中《うち》より|御靈《みたま》と|智慧《ちゑ》とにて|滿《み》ちたる|令聞《よききこえ》ある|者《もの》|七人《しちにん》を|見出《みいだ》せ、それに|此《こ》の|事《こと》を|掌《つかさ》どらせん。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|專《もっぱ》ら|祈《いのり》をなすことと、|御言《みことば》に|事《つか》ふることとを|務《つと》めん』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|集《あつま》れる|凡《すべ》ての|者《もの》この|言《ことば》を|善《よ》しとし、|信仰《しんかう》と|聖《せい》|靈《れい》とにて|滿《み》ちたるステパノ|及《およ》びピリポ、プロコロ、ニカノル、テモン、パルメナ、またアンテオケの|改宗者《かいしゅうしゃ》ニコラオを|選《えら》びて、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たちの|前《まへ》に|立《た》てたれば、|使徒《しと》たち|祈《いの》りて|手《て》をその|上《うへ》に|按《お》けり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|神《かみ》の|言《ことば》ますます|弘《ひろま》り、|弟子《でし》の|數《かず》エルサレムにて|甚《はなは》だ|多《おほ》くなり、|祭司《さいし》の|中《うち》にも|信仰《しんかう》の|道《みち》に|從《したが》へるもの|多《おほ》かりき。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]さてステパノは|恩惠《めぐみ》と|能力《ちから》とにて|滿《み》ち、|民《たみ》の|中《うち》に|大《おほい》なる|不思議《ふしぎ》と|徴《しるし》とを|行《おこな》へり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|世《よ》に|稱《とな》ふるリベルテンの|會堂《くわいだう》およびクレネ|人《びと》、アレキサンデリヤ|人《びと》、またキリキヤとアジヤとの|人《ひと》の|諸《しょ》|會堂《くわいだう》より、|人々《ひとびと》|起《た》ちてステパノと|論《ろん》ぜしが、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]その|語《かた》るところの|智慧《ちゑ》と|御靈《みたま》とに|敵《てき》すること|能《あた》はず。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|或《ある》|者《もの》どもを|唆《そその》かして『|我《われ》らはステパノが、モーセと|神《かみ》とを|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]《けが》す|言《ことば》をいふを|聞《き》けり』と|言《い》はしめ、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|民《たみ》および|長老《ちゃうらう》・|學者《がくしゃ》らを|煽動《せんどう》し、|俄《にはか》に|來《きた》りてステパノを|捕《とら》へ、|議會《ぎくわい》に|曳《ひ》きゆき、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|僞證者《ぎしょうしゃ》を|立《た》てて|言《い》はしむ『この|人《ひと》はこの|聖《せい》なる|所《ところ》と|律法《おきて》とに|逆《さから》ふ|言《ことば》を|語《かた》りて|止《や》まず、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち、かのナザレのイエスは|此《こ》の|所《ところ》を|毀《こぼ》ち、かつモーセの|傳《つた》へし|例《れい》を|變《か》ふべしと、|彼《かれ》が|云《い》へるを|聞《き》けり』と。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ここに|議會《ぎくわい》に|坐《ざ》したる|者《もの》みな|目《め》を|注《そそ》ぎてステパノを|見《み》しに、その|顏《かほ》は|御使《みつかひ》の|顏《かほ》の|如《ごと》くなりき。 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|大《だい》|祭司《さいし》いふ『|此《これ》|等《ら》のこと|果《はた》してかくの|如《ごと》きか』[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ステパノ|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》たち|親《おや》たちよ、|聽《き》け、|我《われ》らの|先祖《せんぞ》アブラハム|未《いま》だカランに|住《す》まずして|尚《なほ》メソポタミヤに|居《を》りしとき、|榮光《えいくわう》の|神《かみ》あらはれて、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]「なんぢの|土地《とち》、なんぢの|親族《しんぞく》を|離《はな》れて、|我《わ》が|示《しめ》さんとする|地《ち》に|往《ゆ》け」と|言《い》ひ|給《たま》へり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ここにカルデヤの|地《ち》に|出《い》でてカランに|住《す》みたりしが、その|父《ちち》の|死《し》にしのち、|神《かみ》は|彼《かれ》を|彼處《かしこ》より|汝《なんぢ》らの|今《いま》|住《す》める|此《こ》の|地《ち》に|移《うつ》らしめ、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》にて|足《あし》、|蹈立《ふみた》つる|程《ほど》の|地《ち》をも|嗣業《しげふ》に|與《あた》へ|給《たま》はざりき。|然《しか》るに、その|地《ち》を|未《いま》だ|子《こ》なかりし|彼《かれ》と|彼《かれ》の|裔《すゑ》とに|所有《もちもの》として|與《あた》へんと|約《やく》し|給《たま》へり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》また|其《そ》の|裔《すゑ》は|他《ほか》の|國《くに》に|寄寓人《やどりびと》となり、その|國人《くにびと》は|之《これ》を|四百年《しひゃくねん》のあひだ|奴隷《どれい》となして|苦《くる》しめん|事《こと》を|告《つ》げ|給《たま》へり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》いひ|給《たま》ふ「われは|彼《かれ》らを|奴隷《どれい》とする|國人《くにびと》を|審《さば》かん、|然《しか》るのち|彼《かれ》|等《ら》その|國《くに》を|出《い》で、この|處《ところ》にて|我《われ》に|事《つか》へん」[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》また|割禮《かつれい》の|契約《けいやく》をアブラハムに|與《あた》へ|給《たま》ひたれば、イサクを|生《う》みて|八日《やうか》めに|之《これ》に|割禮《かつれい》を|行《おこな》へり。イサクはヤコブを、ヤコブは|十二《じふに》の|先祖《せんぞ》を|生《う》めり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|先祖《せんぞ》たちヨセフを|嫉《ねた》みてエジプトに|賣《う》りしに、|神《かみ》は|彼《かれ》と|偕《とも》に|在《いま》して、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|患難《なやみ》より|之《これ》を|救《すく》ひ|出《いだ》し、エジプトの|王《わう》パロの|前《まへ》にて|寵愛《ちょうあい》を|得《え》させ、また|智慧《ちゑ》を|與《あた》へ|給《たま》ひたれば、パロ|之《これ》を|立《た》ててエジプトと|己《おの》が|全家《ぜんか》との|宰《つかさ》となせり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》にエジプトとカナンの|全地《ぜんち》とに|飢饉《ききん》ありて|大《おほい》なる|患難《なやみ》おこり、|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たち|糧《かて》を|求《もと》め|得《え》ざりしが、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ヤコブ、エジプトに|穀物《こくもつ》あるを|聞《き》きて、|先《ま》づ|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たちを|遣《つかは》す。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|二度《ふたたび》めの|時《とき》ヨセフその|兄弟《きゃうだい》たちに|知《し》られ、ヨセフの|氏族《しぞく》パロに|明《あきら》かになれり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ヨセフ|言《い》ひ|遣《つかは》して|己《おの》が|父《ちち》ヤコブと|凡《すべ》ての|親族《しんぞく》と|七《しち》|十《じふ》|五《ご》|人《にん》を|招《まね》きたれば、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ヤコブ、エジプトに|下《くだ》り、|彼處《かしこ》にて|己《おのれ》も|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たちも|死《し》にたり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》シケムに|送《おく》られ、|曾《かつ》てアブラハムがシケムにてハモルの|子《こ》|等《ら》より|銀《かね》をもて|買《か》ひ|置《お》きし|墓《はか》に|葬《はうむ》られたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|神《かみ》のアブラハムに|語《かた》り|給《たま》ひし|約束《やくそく》の|時《とき》|近《ちか》づくに|隨《したが》ひて、|民《たみ》はエジプトに|蕃《ふ》えひろがり、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]ヨセフを|知《し》らぬ|他《ほか》の|王《わう》、エジプトに|起《おこ》るに|及《およ》べり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》は|惡計《わるだくみ》をもて|我《われ》らの|同族《やから》にあたり、|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たちを|苦《くる》しめて、|其《そ》の|嬰兒《みどりご》の|生存《いきながら》ふる|事《こと》なからんやう、|之《これ》を|棄《す》つるに|至《いた》らしめたり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》モーセ|生《うま》れて|甚《いと》うるはしくして|三月《みつき》のあいだ|父《ちち》の|家《いへ》に|育《そだ》てられ、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|棄《す》てられしを、パロの|娘《むすめ》ひき|上《あ》げて|己《おの》が|子《こ》として|育《そだ》てたり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]かくてモーセはエジプト|人《ひと》の|凡《すべ》ての|學術《がくじゅつ》を|教《をし》へられ、|言《ことば》と|業《わざ》とに|能力《ちから》あり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|年齡《よはひ》|四十《しじふ》になりたる|時《とき》、おのが|兄弟《きゃうだい》たるイスラエルの|子孫《しそん》を|顧《かへり》みる|心《こころ》おこり、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|一人《ひとり》の|害《そこな》はるるを|見《み》て|之《これ》を|護《まも》り、エジプト|人《ひと》を|撃《う》ちて、|虐《しへた》げらるる|者《もの》の|仇《あた》を|復《かへ》せり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|己《おのれ》の|手《て》によりて|神《かみ》が|救《すくひ》を|與《あた》へんとし|給《たま》ふことを、|兄弟《きゃうだい》たち|悟《さと》りしならんと|思《おも》ひたるに、|悟《さと》らざりき。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|翌日《よくじつ》かれらの|相《あひ》|爭《あらそ》ふところに|現《あらは》れて|和睦《わぼく》を|勸《すす》めて|言《い》ふ「|人々《ひとびと》よ、|汝《なんぢ》らは|兄弟《きゃうだい》なるに、|何《なに》ぞ|互《たがひ》に|害《そこな》ふか」[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|隣《となり》を|害《そこな》ふ|者《もの》モーセを|押退《おしの》けて|言《い》ふ「|誰《たれ》が|汝《なんぢ》を|立《た》てて|我《われ》らの|司《つかさ》また|審判《さばき》|人《ひと》とせしぞ、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|昨日《きのふ》エジプト|人《ひと》を|殺《ころ》したる|如《ごと》く、|我《われ》をも|殺《ころ》さんとするか」[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]この|言《ことば》により、モーセ|遁《のが》れてミデアンの|地《ち》の|寄寓人《やどりびと》となり、|彼處《かしこ》にて|二人《ふたり》の|子《こ》を|儲《まう》けたり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|四十《しじふ》|年《ねん》を|歴《へ》て|後《のち》シナイ|山《やま》の|荒野《あらの》にて、|御使《みつかひ》、|柴《しば》の|焔《ほのほ》のなかに|現《あらは》れたれば、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]モーセ|之《これ》を|見《み》て|視《み》るところを|怪《あや》しみ、|認《みと》めんとして|近《ちか》づきしとき、|主《しゅ》の|聲《こゑ》あり。|曰《いは》く、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]「|我《われ》は|汝《なんぢ》の|先祖《せんぞ》たちの|神《かみ》、|即《すなは》ちアブラハム、イサク、ヤコブの|神《かみ》なり」モーセ|戰慄《ふるひをのの》き|敢《あ》へて|認《みと》むることを|爲《せ》ず。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ「なんぢの|足《あし》の|鞋《くつ》を|脱《ぬ》げ、なんぢの|立《た》つところは|聖《せい》なる|地《ち》なり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》エジプトに|居《を》る|我《わ》が|民《たみ》の|苦難《くるしみ》を|見《み》、その|歎息《なげき》をききて|之《これ》を|救《すく》はん|爲《ため》に|降《くだ》れり。いで|我《われ》なんぢをエジプトに|遣《つかは》さん」[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|彼《かれ》らが「|誰《たれ》が|汝《なんぢ》を|立《た》てて|司《つかさ》また|審判《さばき》|人《ひと》とせしぞ」と|言《い》ひて|拒《こば》みし|此《こ》のモーセを、|神《かみ》は|柴《しば》のなかに|現《あらは》れたる|御使《みつかひ》の|手《て》により、|司《つかさ》また|救人《すくひて》として|遣《つかは》し|給《たま》へり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》かれらを|導《みちび》き|出《いだ》し、エジプトの|地《ち》にても、また|紅海《こうかい》および|四十《しじふ》|年《ねん》のあひだ|荒野《あらの》にても、|不思議《ふしぎ》と|徴《しるし》とを|行《おこな》ひたり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]イスラエルの|子《こ》らに「|神《かみ》は|汝《なんぢ》らの|兄弟《きゃうだい》の|中《うち》より、|我《わ》がごとき|預言者《よげんしゃ》を|起《おこ》し|給《たま》はん」と|云《い》ひしは|此《こ》のモーセなり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はシナイ|山《やま》にて|語《かた》りし|御使《みつかひ》および|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たちと|偕《とも》に|荒野《あらの》なる|集會《あつまり》に|在《あ》りて|汝《なんぢ》らに|與《あた》へん|爲《ため》に|生《い》ける|御言《みことば》を|授《さづか》りし|人《ひと》なり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たちは|此《こ》の|人《ひと》に|從《したが》ふことを|好《この》まず、|反《かへ》つて|之《これ》を|押退《おしの》け、その|心《こころ》エジプトに|還《かへ》りて、[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]アロンに|言《い》ふ「|我《われ》らに|先《さき》だち|往《ゆ》くべき|神々《かみがみ》を|造《つく》れ、|我《われ》らをエジプトの|地《ち》より|導《みちび》き|出《いだ》しし、かのモーセの|如何《いか》になりしかを|知《し》らざればなり」[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》かれら|犢《こうし》を|造《つく》り、その|偶像《ぐうざう》に|犧牲《いけにへ》をささげて|己《おの》が|手《て》の|所作《しわざ》を|喜《よろこ》べり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|爰《ここ》に|神《かみ》は|彼《かれ》らを|離《はな》れ、その|天《てん》の|軍勢《ぐんぜい》に|事《つか》ふるに|任《まか》せ|給《たま》へり。これは|預言者《よげんしゃ》たちの|書《ふみ》に [#ここから2字下げ] 「イスラエルの|家《いへ》よ、なんぢら |荒野《あらの》にて|四十《しじふ》|年《ねん》の|間《あひだ》、 |屠《ほふ》りし|畜《けもの》と|犧牲《いけにへ》とを|我《われ》に|献《ささ》げしや。 [#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|拜《はい》せんとして|造《つく》れる|像《ざう》、 すなはちモロクの|幕屋《まくや》と |神《かみ》ロンパの|星《ほし》とを|舁《か》きたり。 われ|汝《なんぢ》らをバビロンの|彼方《かなた》に|移《うつ》さん」 [#ここで字下げ終わり] と|録《しる》されたるが|如《ごと》し。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たちは|荒野《あらの》にて|證《あかし》の|幕屋《まくや》を|有《も》てり、モーセに|語《かた》り|給《たま》ひし|者《もの》の、|彼《かれ》が|見《み》し|式《かた》に|循《したが》ひて|造《つく》れと|命《めい》じ|給《たま》ひしままなり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たちは|之《これ》を|承《う》け|繼《つ》ぎ、|先祖《せんぞ》たちの|前《まへ》より|神《かみ》の|逐《お》ひいだし|給《たま》ひし|異邦人《いはうじん》の|領地《れうち》を|收《をさ》めし|時《とき》、ヨシユアとともに|携《たづさ》へ|來《きた》りてダビデの|日《ひ》に|及《およ》べり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]ダビデ|神《かみ》の|前《まへ》に|恩惠《めぐみ》を|得《え》て、ヤコブの|神《かみ》のために|住處《すみか》を|設《まう》けんと|求《もと》めたり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して、その|家《いへ》を|建《た》てたるはソロモンなりき。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]されど|至高者《いとたかきもの》は|手《て》にて|造《つく》れる|所《ところ》に|住《す》み|給《たま》はず、|即《すなは》ち|預言者《よげんしゃ》の [#ここから2字下げ] [#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]「|主《しゅ》のたまはく、|天《てん》は|我《わ》が|座位《くらゐ》、 |地《ち》は|我《わ》が|足臺《あしだい》なり。 |汝《なんぢ》|等《ら》わが|爲《ため》に|如何《いか》なる|家《いへ》をか|建《た》てん、 わが|休息《やすみ》のところは|何處《いづこ》なるぞ。 [#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]わが|手《て》は|凡《すべ》て|此《これ》|等《ら》の|物《もの》を|造《つく》りしにあらずや」 [#ここで字下げ終わり] と|云《い》へるが|如《ごと》し。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|項強《うなじこは》くして|心《こころ》と|耳《みみ》とに|割禮《かつれい》なき|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らは|常《つね》に|聖《せい》|靈《れい》に|逆《さから》ふ、その|先祖《せんぞ》たちの|如《ごと》く|汝《なんぢ》らも|然《しか》り。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|先祖《せんぞ》たちは|預言者《よげんしゃ》のうちの|誰《たれ》をか|迫害《はくがい》せざりし。|彼《かれ》らは|義人《ぎじん》の|來《きた》るを|預《あらか》じめ|告《つ》げし|者《もの》を|殺《ころ》し、|汝《なんぢ》らは|今《いま》この|義人《ぎじん》を|賣《う》り、かつ|殺《ころ》す|者《もの》となれり。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら、|御使《みつかひ》たちの|傳《つた》へし|律法《おきて》を|受《う》けて、|尚《なほ》これを|守《まも》らざりき』[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》これらの|言《ことば》を|聞《き》きて、|心《こころ》いかりに|滿《み》ち|切齒《はがみ》しつつステパノに|向《むか》ふ。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]ステパノは|聖《せい》|靈《れい》にて|滿《み》ち、|天《てん》に|目《め》を|注《そそ》ぎ、|神《かみ》の|榮光《えいくわう》およびイエスの|神《かみ》の|右《みぎ》に|立《た》ちたまふを|見《み》て|言《い》ふ、[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]『|視《み》よ、われ|天《てん》|開《ひら》けて|人《ひと》の|子《こ》の|神《かみ》の|右《みぎ》に|立《た》ち|給《たま》ふを|見《み》る』[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》ら|大聲《おほごゑ》に|叫《さけ》びつつ、|耳《みみ》を|掩《おほ》ひ|心《こころ》を|一《ひと》つにして|驅《か》け|寄《よ》り、[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]ステパノを|町《まち》より|逐《お》ひいだし、|石《いし》にて|撃《う》てり。|證人《しょうにん》らその|衣《ころも》をサウロといふ|若者《わかもの》の|足下《あしもと》に|置《お》けり。[#太字]五九[#「五九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》|等《ら》がステパノを|石《いし》にて|撃《う》てるとき、ステパノ|呼《よ》びて|言《い》ふ『|主《しゅ》イエスよ、|我《わ》が|靈《れい》を|受《う》けたまへ』[#太字]六〇[#「六〇」は行右小書き][#太字終わり]また|跪《ひざま》づきて|大聲《おほごゑ》に『|主《しゅ》よ、この|罪《つみ》を|彼《かれ》らの|負《お》はせ|給《たま》ふな』と|呼《よば》はる。|斯《か》く|言《い》ひて|眠《ねむり》に|就《つ》けり。 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]サウロは|彼《かれ》の|殺《ころ》さるるを|可《よ》しとせり。その|日《ひ》エルサレムに|在《あ》る|教會《けうくわい》に|對《むか》ひて|大《おほい》なる|迫害《はくがい》おこり、|使徒《しと》たちの|他《ほか》は|皆《みな》ユダヤ|及《およ》びサマリヤの|地方《ちはう》に|散《ちら》さる。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|敬虔《けいけん》なる|人々《ひとびと》ステパノを|葬《はうむ》り、|彼《かれ》のために|大《おほい》に|胸《むね》|打《う》てり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]サウロは|教會《けうくわい》をあらし、|家々《いへいへ》に|入《い》り|男女《なんにょ》を|引出《ひきいだ》して|獄《ひとや》に|付《わた》せり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|散《ちら》されたる|者《もの》ども|歴《へ》|巡《めぐ》りて|御言《みことば》を|宣《の》べしが、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ピリポはサマリヤの|町《まち》に|下《くだ》りてキリストの|事《こと》を|傳《つた》ふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》ピリポの|行《おこな》ふ|徴《しるし》を|見《み》|聞《きき》して、|心《こころ》を|一《ひと》つにし、|謹《つつし》みて|其《そ》の|語《かた》る|事《こと》どもを|聽《き》けり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]これ|多《おほ》くの|人《ひと》より、|之《これ》に|憑《つ》きたる|穢《けが》れし|靈《れい》、|大聲《おほごゑ》に|叫《さけ》びて|出《い》で、また|中風《ちゅうぶ》の|者《もの》と|跛者《あしなへ》と|多《おほ》く|醫《いや》されたるに|因《よ》る。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》にその|町《まち》に|大《おほい》なる|勸喜《よろこび》おこれり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ここにシモンといふ|人《ひと》あり、|前《さき》にその|町《まち》にて|魔術《まじゅつ》を|行《おこな》ひ、サマリヤ|人《ひと》を|驚《をどろ》かして|自《みづか》ら|大《おほい》なる|者《もの》と|稱《とな》へたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|小《せう》より|大《だい》に|至《いた》る|凡《すべ》ての|人《ひと》つつしみて|之《これ》に|聽《き》き『この|人《ひと》は、いわゆる|神《かみ》の|大能《たいのう》なり』といふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かく|謹《つつし》みて|聽《き》けるは、|久《ひさ》しき|間《あひだ》その|魔術《まじゅつ》に|驚《をどろ》かされし|故《ゆゑ》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにピリポが、|神《かみ》の|國《くに》とイエス・キリストの|御名《みな》とに|就《つ》きて|宣傳《のべつた》ふるを|人々《ひとびと》|信《しん》じたれば、|男女《なんにょ》ともにバプテスマを|受《う》く。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]シモンも|亦《また》みづから|信《しん》じ、バプテスマを|受《う》けて、|常《つね》にピリポと|偕《とも》に|居《を》り、その|行《おこな》ふ|徴《しるし》と、|大《おほい》なる|能力《ちから》とを|見《み》て|驚《をどろ》けり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]エルサレムに|居《を》る|使徒《しと》たちは、サマリヤ|人《ひと》、|神《かみ》の|御言《みことば》を|受《う》けたりと|聞《き》きて、ペテロとヨハネとを|遣《つかは》したれば、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|下《くだ》りて|人々《ひとびと》の|聖《せい》|靈《れい》を|受《う》けんことを|祈《いの》れり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]これ|主《しゅ》イエスの|名《な》によりてバプテスマを|受《う》けしのみにて、|聖《せい》|靈《れい》いまだ|其《そ》の|一人《ひとり》にだに|降《くだ》らざりしなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|二人《ふたり》のもの|彼《かれ》らの|上《うへ》に|手《て》を|按《お》きたれば、みな|聖《せい》|靈《れい》を|受《う》けたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たちの|按手《あんしゅ》によりて|其《そ》の|御靈《みたま》を|與《あた》へられしを|見《み》て、シモン|金《かね》を|持《も》ち|來《きた》りて|言《い》ふ、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]『わが|手《て》を|按《お》くすべての|人《ひと》の|聖《せい》|靈《れい》を|受《う》くるやうに、|此《こ》の|權威《けんゐ》を|我《われ》にも|與《あた》へよ』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|彼《かれ》に|言《い》ふ『なんぢの|銀《ぎん》は|汝《なんぢ》とともに|亡《ほろ》ぶべし、なんぢ|金《かね》をもて|神《かみ》の|賜物《たまもの》を|得《え》んと|思《おも》へばなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢは|此《こ》の|事《こと》に|關係《かかはり》なく|干與《あづかり》なし、なんぢの|心《こころ》、|神《かみ》の|前《まへ》に|正《ただ》しからず。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》ればこの|惡《あく》を|悔改《くいあらた》めて|主《しゅ》に|祈《いの》れ、なんぢが|心《こころ》の|念《おもひ》あるひは|赦《ゆる》されん。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢが|苦《にが》き|膽汁《たんじふ》と|不義《ふぎ》の|繋《つなぎ》とに|居《を》るを|見《み》るなり』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]シモン|答《こた》へて|言《い》ふ『なんぢらの|言《い》ふ|所《ところ》のこと|一《ひと》つも|我《われ》に|來《きた》らぬやう、|汝《なんぢ》ら|我《わ》がために|主《しゅ》に|祈《いの》れ』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|使徒《しと》たちは|證《あかし》をなし、|主《しゅ》の|御言《みことば》を|語《かた》りて|後《のち》、サマリヤ|人《ひと》の|多《おほ》くの|村《むら》に|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へつつエルサレムに|歸《かへ》れり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|主《しゅ》の|使《つかひ》ピリポに|語《かた》りて|言《い》ふ『なんぢ|起《た》ちて|南《みなみ》に|向《むか》ひエルサレムよりガザに|下《くだ》る|道《みち》に|往《ゆ》け。そこは|荒野《あらの》なり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]ピリポ|起《た》ちて|往《ゆ》きたれば、|視《み》よ、エテオピヤの|女王《にょわう》カンダケの|權官《けんくわん》にして、|凡《すべ》ての|寳物《はうもつ》を|掌《つかさ》どる|閹人《えんじん》エテオピヤ|人《ひと》あり、|禮拜《れいはい》の|爲《ため》にエルサレムに|上《のぼ》りしが、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|歸《かへ》る|途《みち》すがら|馬車《ばしゃ》に|坐《ざ》して|預言者《よげんしゃ》イザヤの|書《ふみ》を|讀《よ》みゐたり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|御靈《みたま》ピリポに|言《い》ひ|給《たま》ふ『ゆきて|此《こ》の|馬車《ばしゃ》に|近寄《ちかよ》れ』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]ピリポ|走《はし》り|寄《よ》りて、その|預言者《よげんしゃ》イザヤの|書《ふみ》を|讀《よ》むを|聽《き》きて|言《い》ふ『なんぢ|其《そ》の|讀《よ》むところを|悟《さと》るか』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|閹人《えんじん》いふ『|導《みちび》く|者《もの》なくば、いかで|悟《さと》り|得《え》ん』|而《しか》してピリポに、|乘《の》りて|共《とも》に|坐《ざ》せんことを|請《こ》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]その|讀《よ》むところの|聖書《せいしょ》の|文《ぶん》は|是《これ》なり [#ここから2字下げ] 『|彼《かれ》は|羊《ひつじ》の|屠場《はふりば》に|就《つ》くが|如《ごと》く|曳《ひ》かれ、 |羔羊《こひつじ》のその|毛《け》を|剪《き》る|者《もの》のまへに|默《もだ》すがごとく |口《くち》を|開《ひら》かず。 [#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|卑《いや》しめられて|審判《さばき》を|奪《うば》はれたり、 |誰《たれ》かその|代《よ》の|状《さま》を|述《の》べ|得《え》んや。 その|生命《いのち》|地上《ちじゃう》より|取《と》られたればなり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|閹人《えんじん》こたへてピリポに|言《い》ふ『|預言者《よげんしゃ》は|誰《たれ》に|就《つ》きて|斯《か》く|云《い》へるぞ、|己《おのれ》に|就《つ》きてか、|人《ひと》に|就《つ》きてか、|請《こ》ふ|示《しめ》せ』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]ピリポ|口《くち》を|開《ひら》き、この|聖《せい》|句《く》を|始《はじめ》としてイエスの|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》ふ。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|途《みち》を|進《すす》むる|程《ほど》に|水《みづ》ある|所《ところ》に|來《きた》りたれば、|閹人《えんじん》いふ『|視《み》よ、|水《みづ》あり、|我《わ》がバプテスマを|受《う》くるに|何《なに》の|障《さは》りかある』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|命《めい》じて|馬車《ばしゃ》を|止《とど》め、ピリポと|閹人《えんじん》と|二人《ふたり》ともに|水《みづ》に|下《くだ》りて、ピリポ|閹人《えんじん》にバプテスマを|授《さづ》く。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|水《みづ》より|上《あが》りしとき、|主《しゅ》の|靈《れい》ピリポを|取去《とりさ》りたれば、|閹人《えんじん》ふたたび|彼《かれ》を|見《み》ざりしが、|喜《よろこ》びつつ|其《そ》の|途《みち》に|進《すす》み|往《ゆ》けり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]かくてピリポはアゾトに|現《あらは》れ、|町々《まちまち》を|經《へ》て|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へつつカイザリヤに|到《いた》れり。 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]サウロは|主《しゅ》の|弟子《でし》たちに|對《たい》して、なほ|恐喝《おびやかし》と|殺害《せつがい》との|氣《き》を|充《みた》し、|大《だい》|祭司《さいし》にいたりて、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ダマスコにある|諸《しょ》|教會《けうくわい》への|添書《そへぶみ》を|請《こ》ふ。この|道《みち》の|者《もの》を|見出《みいだ》さば、|男女《なんにょ》にかかはらず|縛《しば》りてエルサレムに|曳《ひ》かん|爲《ため》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|往《ゆ》きてダマスコに|近《ちか》づきたるとき、|忽《たちま》ち|天《てん》より|光《ひかり》いでて、|彼《かれ》を|環《めぐ》り|照《てら》したれば、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かれ|地《ち》に|倒《たふ》れて『サウロ、サウロ、|何《なに》ぞ|我《われ》を|迫害《はくがい》するか』といふ|聲《こゑ》をきく。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》いふ『|主《しゅ》よ、なんぢは|誰《たれ》ぞ』|答《こた》へたまふ『われは|汝《なんぢ》が|迫害《はくがい》するイエスなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|起《お》きて|町《まち》に|入《い》れ、さらば|汝《なんぢ》なすべき|事《こと》を|告《つ》げらるべし』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|同行《どうかう》の|人々《ひとびと》、|物《もの》|言《い》ふこと|能《あた》はずして|立《た》ちたりしが、|聲《こゑ》は|聞《き》けども|誰《たれ》をも|見《み》ざりき。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]サウロ|地《ち》より|起《お》きて|目《め》をあけたれど|何《なに》も|見《み》えざれば、|人《ひと》その|手《て》をひきてダマスコに|導《みちび》きゆきしに、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|三日《みっか》のあひだ|見《み》えず、また|飮食《のみくひ》せざりき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]さてダマスコにアナニヤといふ|一人《ひとり》の|弟子《でし》あり、|幻影《まぼろし》のうちに|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ『アナニヤよ』|答《こた》ふ『|主《しゅ》よ、|我《われ》ここに|在《あ》り』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ『|起《お》きて|直《すぐ》といふ|街《ちまた》にゆき、ユダの|家《いへ》にてサウロといふタルソ|人《ひと》を|尋《たづ》ねよ。|視《み》よ、|彼《かれ》は|祈《いの》りをるなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》アナニアといふ|人《ひと》の|入《い》り|來《きた》りて、|再《ふたた》び|見《み》ゆることを|得《え》しめんために、|手《て》を|己《おの》がうへに|按《お》くを|見《み》たり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]アナニヤ|答《こた》ふ『|主《しゅ》よ、われ|多《おほ》くの|人《ひと》より|此《こ》の|人《ひと》に|就《つ》きて|聞《き》きしに、|彼《かれ》がエルサレムにて|汝《なんぢ》の|聖徒《せいと》に|害《がい》を|加《くは》へしこと|如何《いか》ばかりぞや。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]また|此處《ここ》にても、|凡《すべ》て|汝《なんぢ》の|御名《みな》をよぶ|者《もの》を|縛《しば》る|權《けん》を|祭司長《さいしちゃう》らより|受《う》けをるなり』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ『|往《ゆ》け、この|人《ひと》は|異邦人《いはうじん》・|王《わう》たち・イスラエルの|子孫《しそん》のまへに、|我《わ》が|名《な》を|持《も》ちゆく|我《わ》が|選《えらび》の|器《うつは》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》かれに|我《わ》が|名《な》のために|如何《いか》に|多《おほ》くの|苦難《くるしみ》を|受《う》くるかを|示《しめ》さん』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ここにアナニヤ|往《ゆ》きて|其《そ》の|家《いへ》にいり、|彼《かれ》の|上《うへ》に|手《て》をおきて|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》サウロよ、|主《しゅ》すなはち|汝《なんぢ》が|來《きた》る|途《みち》にて|現《あらは》れ|給《たま》ひしイエス、われを|遣《つかは》し|給《たま》へり。なんぢが|再《ふたた》び|見《み》ることを|得《え》、かつ|聖《せい》|靈《れい》にて|滿《みた》されん|爲《ため》なり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちに|彼《かれ》の|目《め》より|鱗《うろこ》のごときもの|落《お》ちて|見《み》ることを|得《え》、すなはち|起《お》きてバプテスマを|受《う》け、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かつ|食事《しょくじ》して|力《ちから》づきたり。サウロは|數日《すにち》の|間《あひだ》ダマスコの|弟子《でし》たちと|偕《とも》にをり、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちに|諸《しょ》|會堂《くわいだう》にて、イエスの|神《かみ》の|子《こ》なることを|宣《の》べたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|聞《き》く|者《もの》みな|驚《をどろ》きて|言《い》ふ『こはエルサレムにて|此《こ》の|名《な》をよぶ|者《もの》を|害《そこな》ひし|人《ひと》ならずや、|又《また》ここに|來《きた》りしも、|之《これ》を|縛《しば》りて|祭司長《さいしちゃう》らの|許《もと》に|曳《ひ》きゆかんが|爲《ため》ならずや』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]サウロますます|能力《ちから》くははり、イエスのキリストなることを|論證《ろんしょう》して、ダマスコに|住《す》むユダヤ|人《びと》を|言《い》ひ|伏《ふ》せたり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》を|經《ふ》ること|久《ひさ》しくして|後《のち》、ユダヤ|人《びと》かれを|殺《ころ》さんと|相《あひ》|謀《はか》りたれど、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]その|計畧《はかりごと》サウロに|知《し》らる。かくて|彼《かれ》らはサウロを|殺《ころ》さんとて、|晝《ひる》も|夜《よる》も|町《まち》の|門《もん》を|守《まも》りしに、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]その|弟子《でし》ら|夜中《やちゅう》かれを|籃《かご》にて|石垣《いしがき》より|縋《つ》り|下《おろ》せり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]ここにサウロ、エルサレムに|到《いた》りて|弟子《でし》たちの|中《うち》に|列《つらな》らんとすれど、|皆《みな》かれが|弟子《でし》たるを|信《しん》ぜずして|懼《おそ》れたり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにバルナバ|彼《かれ》を|迎《むか》へて、|使徒《しと》たちの|許《もと》に|伴《ともな》ひゆき、その|途《みち》にて|主《しゅ》を|見《み》しこと、|主《しゅ》の|之《これ》に|物《もの》|言《い》ひ|給《たま》ひしこと、|又《また》ダマスコにてイエスの|名《な》のために|臆《おく》せず|語《かた》りし|事《こと》などを|具《つぶさ》に|告《つ》ぐ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ここにサウロはエルサレムにて|弟子《でし》たちと|共《とも》に|出入《いでいり》し、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|御名《みな》のために|臆《おく》せず|語《かた》り、|又《また》ギリシヤ|語《ことば》のユダヤ|人《びと》と、かつ|語《かた》りかつ|論《ろん》じたれば、|彼《かれ》|等《ら》これを|殺《ころ》さんと|謀《はか》りしに、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》たち|知《し》りて|彼《かれ》をカイザリヤに|伴《ともな》ひ|下《くだ》り、タルソに|往《ゆ》かしめたり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]かくてユダヤ、ガリラヤ|及《およ》びサマリヤを|通《つう》じて、|教會《けうくわい》は|平安《へいあん》を|得《え》、ややに|堅立《けんりつ》し、|主《しゅ》を|畏《おそ》れて|歩《あゆ》み、|聖《せい》|靈《れい》の|祐助《たすけ》によりて|人數《にんず》いや|増《ま》せり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ペテロは|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》く|四方《しはう》をめぐりてルダに|住《す》む|聖徒《せいと》の|許《もと》にいたり、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》にてアイネヤといふ|人《ひと》の|中風《ちゅうぶ》を|患《わづら》ひて|八《はち》|年《ねん》のあひだ|牀《とこ》に|臥《ふ》し|居《を》るに|遇《あ》ふ。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]かくてペテロ|之《これ》に『アイネヤよ、イエス・キリスト|汝《なんぢ》を|醫《いや》したまふ、|起《お》きて|牀《とこ》を|收《をさ》めよ』と|言《い》ひたれば、|直《ただ》ちに|起《お》きたり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]ここにルダ|及《およ》びサロンに|住《す》む|者《もの》みな|之《これ》を|見《み》て|主《しゅ》に|歸依《きえ》せり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]ヨツパにタビタと|云《い》ふ|女《をんな》の|弟子《でし》あり、その|名《な》を|譯《やく》すればドルカスなり。|此《こ》の|女《をんな》は、ひたすら|善《よ》き|業《わざ》と|施濟《ほどこし》とをなせり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》そのころ|病《や》みて|死《し》にたれば、|之《これ》を|洗《あら》ひて|高樓《たかどの》に|置《お》く。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]ルダはヨツパに|近《ちか》ければ、|弟子《でし》たちペテロの|彼處《かしこ》に|居《を》るを|聞《き》きて、|二人《ふたり》の|者《もの》を|遣《つかは》し『ためらはで|我《われ》らに|來《きた》れ』と|請《こ》はしむ。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|起《た》ちてともに|往《ゆ》き、|遂《つひ》に|到《いた》れば、|彼《かれ》を|高樓《たかどの》に|伴《つ》れてのぼりしに、|寡婦《やもめ》らみな|之《これ》をかこみて|泣《な》きつつ、ドルカスが|偕《とも》に|居《を》りしほどに|製《つく》りし|下衣《したぎ》・|上衣《うはぎ》を|見《み》せたり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|彼《かれ》|等《ら》をみな|外《そと》に|出《いだ》し、|跪《ひざま》づきて|祈《いの》りし|後《のち》、ふりかへり|屍體《しかばね》に|向《むか》ひて『タビタ、|起《お》きよ』と|言《い》ひたれば、かれ|目《め》を|開《ひら》き、ペテロを|見《み》て|起反《おきかへ》れり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|手《て》をあたへ、|起《おこ》して|聖徒《せいと》と|寡婦《やもめ》とを|呼《よ》び、タビタを|活《い》きたるままにて|見《み》す。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》ヨツパ|中《ぢゅう》に|知《し》られたれば、|多《おほ》くの|人《ひと》、|主《しゅ》を|信《しん》じたり。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|皮工《かはなめし》シモンの|家《いへ》にありて|日《ひ》|久《ひさ》しくヨツパに|留《とどま》れり。 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]ここにカイザリヤにコルネリオといふ|人《ひと》あり、イタリヤ|隊《たい》と|稱《とな》ふる|軍隊《ぐんたい》の|百卒長《ひゃくそつちゃう》なるが、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|敬虔《けいけん》にして|全家族《ぜんかぞく》とともに|神《かみ》を|畏《おそ》れ、かつ|民《たみ》に|多《おほ》くの|施濟《ほどこし》をなし、|常《つね》に|神《かみ》に|祈《いの》れり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|日《ひ》の|午後《ごご》|三時《さんじ》ごろ|幻影《まぼろし》のうちに|神《かみ》の|使《つかひ》きたりて『コルネリオよ』と|言《い》ふを|明《あきら》かに|見《み》たれば、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|目《め》をそそぎ|怖《おそ》れて|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|何事《なにごと》ぞ』|御使《みつかひ》いふ『なんぢの|祈《いのり》と|施濟《ほどこし》とは、|神《かみ》の|前《まへ》に|上《のぼ》りて|記念《きねん》とせらる。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》ヨツパに|人《ひと》を|遣《つかは》してペテロと|稱《とな》ふるシモンを|招《まね》け、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|皮工《かはなめし》シモンの|家《いへ》に|宿《やど》る。その|家《いへ》は|海邊《うみべ》にあり』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|語《かた》れる|御使《みつかひ》の|去《さ》りし|後《のち》、コルネリオ|己《おの》が|僕《しもべ》|二人《ふたり》と|從卒中《じゅうそつちゅう》の|敬虔《けいけん》なる|者《もの》|一人《ひとり》とを|呼《よ》び、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|事《こと》を|告《つ》げてヨツパに|遣《つかは》せり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》かれらなほ|途中《とちゅう》にあり、|既《すで》に|町《まち》に|近《ちか》づかんとする|頃《ころ》ほひ、ペテロ|祈《いの》らんとて|屋《や》の|上《うへ》に|登《のぼ》る、|時《とき》は|晝《ひる》の|十二《じふに》|時《じ》ごろなりき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|飢《う》ゑて|物欲《ものほ》しくなり、|人《ひと》の|食《しょく》を|調《ととの》ふるほどに|我《われ》を|忘《わす》れし|心地《ここち》して、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》|開《ひら》け、|器《うつは》のくだるを|見《み》る、|大《おほい》なる|布《ぬの》のごとき|物《もの》にして、|四隅《よすみ》もて|地《ち》に|縋《つ》り|下《おろ》されたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]その|中《なか》には|諸種《もろもろ》の|四《よつ》|足《あし》のもの、|地《ち》を|匐《は》ふもの、|空《そら》の|鳥《とり》あり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また|聲《こゑ》ありて|言《い》ふ『ペテロ、|立《た》て、|屠《ほふ》りて|食《しょく》せよ』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|言《い》ふ『|主《しゅ》よ、|可《よ》からじ、|我《われ》いまだ|潔《きよ》からぬもの|穢《けが》れたる|物《もの》を|食《しょく》せし|事《こと》なし』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|聲《こゑ》|再《ふたた》びありて|言《い》ふ『|神《かみ》の|潔《きよ》め|給《たま》ひし|物《もの》を、なんぢ|潔《きよ》からずとすな』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくの|如《ごと》きこと|三度《みたび》にして、|器《うつは》は|直《ただ》ちに|天《てん》に|上《あ》げられたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ペテロその|見《み》し|幻影《まぼろし》の|何《なに》の|意《い》なるか、|心《こころ》に|惑《まど》ふほどに、|視《み》よ、コルネリオより|遣《つかは》されたる|人《ひと》、シモンの|家《いへ》を|尋《たづ》ねて|門《もん》の|前《まへ》に|立《た》ち、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|訪《おとな》ひて、ペテロと|稱《とな》ふるシモンの|此處《ここ》に|宿《やど》るかを|問《と》ふ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ペテロなほ|幻影《まぼろし》に|就《つ》きて|打案《うちあん》じゐたるに、|御靈《みたま》いひ|給《たま》ふ『|視《み》よ、|三人《さんにん》なんぢを|尋《たづ》ぬ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|起《た》ちて|下《くだ》り|疑《うたが》はずして|共《とも》に|往《ゆ》け、|彼《かれ》らを|遣《つかは》したるは|我《われ》なり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|下《くだ》りて、かの|人《ひと》たちに|言《い》ふ『|視《み》よ、|我《われ》は|汝《なんぢ》らの|尋《たづ》ぬる|者《もの》なり、|何《なに》の|故《ゆゑ》ありて|來《きた》るか』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]かれら|言《い》ふ『|義人《ぎじん》にして|神《かみ》を|畏《おそ》れ、ユダヤの|國人《くにびと》の|中《うち》に|令聞《よききこえ》ある|百卒長《ひゃくそつちゃう》コルネリオ、|聖《せい》なる|御使《みつかひ》より、|汝《なんぢ》を|家《いへ》に|招《まね》きて、その|語《かた》ることを|聽《き》けとの|告《つげ》を|受《う》けたり』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ここにペテロ|彼《かれ》らを|迎《むか》へ|入《い》れて|宿《やど》らす。|明《あ》くる|日《ひ》たちて|彼《かれ》らと|共《とも》に|出《い》でゆきしが、ヨツパの|兄弟《きゃうだい》も|數人《すにん》ともに|往《ゆ》けり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》カイザリヤに|入《い》りし|時《とき》、コルネリオは|親族《しんぞく》および|親《した》しき|朋友《ほういう》を|呼《よ》び|集《あつ》めて|彼《かれ》らを|待《ま》ちゐたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|入《い》り|來《きた》れば、コルネリオ|之《これ》を|迎《むか》へ、その|足下《あしもと》に|伏《ふ》して|拜《はい》す。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|彼《かれ》を|起《おこ》して|言《い》ふ『|立《た》て、|我《われ》も|人《ひと》なり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|相《あひ》|語《かた》りつつ|内《うち》に|入《い》り、|多《おほ》くの|人《ひと》の|集《あつま》れるを|見《み》て、ペテロ|之《これ》に|言《い》ふ、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢらの|知《し》る|如《ごと》く、ユダヤ|人《びと》たる|者《もの》の|外《ほか》の|國人《くにびと》と|交《まじは》りまた|近《ちか》づくことは、|律法《おきて》に|適《かな》はぬ|所《ところ》なり、|然《さ》れど|神《かみ》は、|何《なに》|人《ひと》をも|穢《けが》れたるもの|潔《きよ》からぬ|者《もの》と|言《い》ふまじきことを|我《われ》に|示《しめ》したまへり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、われ|招《まね》かるるや|躊躇《ためら》はずして|來《きた》れり。|然《さ》れば|問《と》ふ、|汝《なんぢ》らは|何《なに》の|故《ゆゑ》に|我《われ》をまねきしか』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]コルネリオ|言《い》ふ『われ|四日《よっか》|前《まへ》に|我《わ》が|家《いへ》にて|午後《ごご》|三時《さんじ》の|祈《いのり》をなし、|此《こ》の|時刻《じこく》に|至《いた》りしに、|視《み》よ、|輝《かがや》く|衣《ころも》を|著《き》たる|人《ひと》、わが|前《まへ》に|立《た》ちて、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]「コルネリオよ、|汝《なんぢ》の|祈《いのり》は|聽《き》かれ、なんぢの|施濟《ほどこし》は|神《かみ》の|前《まへ》に|憶《おぼ》えられたり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》をヨツパに|送《おく》りてペテロと|稱《とな》ふるシモンを|招《まね》け、かれは|海邊《うみべ》なる|皮工《かはなめし》シモンの|家《いへ》に|宿《やど》るなり」と|云《い》へり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]われ|速《すみや》かに|人《ひと》を|汝《なんぢ》に|遣《つかは》したるに、|汝《なんぢ》の|來《きた》れるは|忝《かたじ》けなし。いま|我等《われら》はみな、|主《しゅ》の|汝《なんぢ》に|命《めい》じ|給《たま》ひし|凡《すべ》てのことを|聽《き》かんとて、|神《かみ》の|前《まへ》に|在《あ》り』[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|口《くち》を|開《ひら》きて|言《い》ふ、『われ|今《いま》まことに|知《し》る、|神《かみ》は|偏《かたよ》ることをせず、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|何《いづ》れの|國《くに》の|人《ひと》にても|神《かみ》を|敬《うやま》ひて|義《ぎ》をおこなふ|者《もの》を|容《い》れ|給《たま》ふことを。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はイエス・キリスト(これ|萬民《ばんみん》の|主《しゅ》)によりて|平和《へいわ》の|福音《ふくいん》をのべ、イスラエルの|子孫《しそん》に|言《ことば》をおくり|給《たま》へり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ちヨハネの|傳《つた》へしバプテスマの|後《のち》、ガリラヤより|始《はじま》り、ユダヤ|全國《ぜんこく》に|弘《ひろま》りし|言《ことば》なるは|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]これは|神《かみ》が|聖《せい》|靈《れい》と|能力《ちから》とを|注《そそ》ぎ|給《たま》ひしナザレのイエスの|事《こと》にして、|彼《かれ》は|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》くめぐりて|善《よ》き|事《こと》をおこなひ、|凡《すべ》て|惡魔《あくま》に|制《せい》せらるる|者《もの》を|醫《いや》せり、|神《かみ》これと|偕《とも》に|在《いま》したればなり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》はユダヤの|地《ち》およびエルサレムにて、イエスの|行《おこな》ひ|給《たま》ひし|諸般《もろもろ》のことの|證人《しょうにん》なり、|人々《ひとびと》は|彼《かれ》を|木《き》にかけて|殺《ころ》せり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|之《これ》を|三日《みっか》めに|甦《よみが》へらせ、かつ|明《あきら》かに|現《あらは》したまへり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|凡《すべ》ての|民《たみ》にはあらで、|神《かみ》の|預《あらか》じめ|選《えら》び|給《たま》へる|證人《しょうにん》、|即《すなは》ちイエスの|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へり|給《たま》ひし|後《のち》、これと|共《とも》に|飮食《のみくひ》せし|我《われ》らに|現《あらは》し|給《たま》ひしなり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]イエスは|己《おのれ》の|生《い》ける|者《もの》と|死《し》にたる|者《もの》との|審判《さばき》|主《ぬし》に、|神《かみ》より|定《さだ》められしを|證《あかし》することと、|民《たみ》どもに|宣傳《のべつた》ふる|事《こと》とを|我《われ》らに|命《めい》じ|給《たま》ふ。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》につきては|預言者《よげんしゃ》たちも|皆《みな》、おほよそ|彼《かれ》を|信《しん》ずる|者《もの》の、その|名《な》によりて|罪《つみ》の|赦《ゆるし》を|得《う》べきことを|證《あかし》す』[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|尚《なほ》これらの|言《ことば》を|語《かた》りをる|間《うち》に、|聖《せい》|靈《れい》、|御言《みことば》をきく|凡《すべ》ての|者《もの》に|降《くだ》りたまふ。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]ペテロと|共《とも》に|來《きた》りし|割禮《かつれい》ある|信者《しんじゃ》は、|異邦人《いはうじん》にも|聖《せい》|靈《れい》の|賜物《たまもの》のそそがれしに|驚《をどろ》けり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]そは|彼《かれ》らが|異言《いげん》をかたり、|神《かみ》を|崇《あが》むるを|聞《き》きたるに|因《よ》る。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]ここにペテロ|答《こた》へて|言《い》ふ『この|人々《ひとびと》われらの|如《ごと》く|聖《せい》|靈《れい》をうけたれば、|誰《たれ》か|水《みづ》を|禁《きん》じて|其《そ》のバプテスマを|受《う》くることを|拒《こば》み|得《え》んや』[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にイエス・キリストの|御名《みな》によりてバプテスマを|授《さづ》けられんことを|命《めい》じたり。ここに|彼《かれ》らペテロに|數日《すにち》とどまらんことを|請《こ》へり。 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たち|及《およ》びユダヤに|居《を》る|兄弟《きゃうだい》たちは、|異邦人《いはうじん》も|神《かみ》の|言《ことば》を|受《う》けたりと|聞《き》く。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]かくてペテロのエルサレムに|上《のぼ》りしとき、|割禮《かつれい》ある|者《もの》ども|彼《かれ》を|詰《なじ》りて|言《い》ふ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢ|割禮《かつれい》なき|者《もの》の|内《うち》に|入《い》りて|之《これ》と|共《とも》に|食《しょく》せり』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|有《あ》りし|事《こと》を|序《ついで》|正《ただ》しく|説《と》き|出《いだ》して|言《い》ふ、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]『われヨツパの|町《まち》にて|祈《いの》り|居《を》るとき、|我《われ》を|忘《わす》れし|心地《ここち》し、|幻影《まぼろし》にて|器《うつは》のくだるを|見《み》る、|大《おほい》なる|布《ぬの》のごとき|物《もの》にして、|四隅《よすみ》もて|天《てん》より|縋《つ》り|下《おろ》され|我《わ》が|許《もと》にきたる。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]われ|目《め》を|注《と》めて|之《これ》を|視《み》るに、|地《ち》の|四《よつ》|足《あし》のもの、|野《の》の|獸《けもの》、|匐《は》ふもの、|空《そら》の|鳥《とり》を|見《み》たり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]また「ペテロ、|立《た》て、|屠《ほふ》りて|食《しょく》せよ」といふ|聲《こゑ》を|聞《き》けり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》いふ「|主《しゅ》よ、|可《よ》からじ、|潔《きよ》からぬもの|穢《けが》れたる|物《もの》は、|曾《かつ》て|我《わ》が|口《くち》に|入《い》りしことなし」[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|再《ふたた》び|天《てん》より|聲《こゑ》ありて|答《こた》ふ「|神《かみ》の|潔《きよ》め|給《たま》ひし|物《もの》を、なんぢ|潔《きよ》からずと|爲《す》な」[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かくの|如《ごと》きこと|三度《みたび》にして、|終《つひ》にはみな|天《てん》に|引上《ひきあ》げられたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|三人《さんにん》の|者《もの》カイザリヤより|我《われ》に|遣《つかは》されて、はや|我《われ》らの|居《を》る|家《いへ》の|前《まへ》に|立《た》てり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|御靈《みたま》われに、|疑《うたが》はずして|彼《かれ》らと|共《とも》に|往《ゆ》くことを|告《つ》げ|給《たま》ひたれば、|此《こ》の|六《ろく》|人《にん》の|兄弟《きゃうだい》も|我《われ》とともに|往《ゆ》きて、かの|人《ひと》の|家《いへ》に|入《い》れり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はおのが|家《いへ》に|御使《みつかひ》の|立《た》ちて「|人《ひと》をヨツパに|遣《つかは》し、ペテロと|稱《とな》ふるシモンを|招《まね》け、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]その|人《ひと》、なんぢと|汝《なんぢ》の|全家族《ぜんかぞく》との|救《すく》はるべき|言《ことば》を|語《かた》らん」と|言《い》ふを、|見《み》しことを|我《われ》らに|告《つ》げたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ここに、われ|語《かた》り|出《い》づるや、|聖《せい》|靈《れい》かれらの|上《うへ》に|降《くだ》りたまふ、|初《はじ》め|我《われ》らの|上《うへ》に|降《くだ》りし|如《ごと》し。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われ|主《しゅ》の|曾《かつ》て「ヨハネは|水《みづ》にてバプテスマを|施《ほどこ》ししが、|汝《なんぢ》らは|聖《せい》|靈《れい》にてバプテスマを|施《ほどこ》されん」と|宣給《のたま》ひし|御言《みことば》を|思《おも》ひ|出《いだ》せり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》われらが|主《しゅ》イエス・キリストを|信《しん》ぜしときに|賜《たま》ひしと|同《おな》じ|賜物《たまもの》を|彼《かれ》らにも|賜《たま》ひたるに、われ|何《なに》|者《もの》なれば|神《かみ》を|阻《はば》み|得《え》ん』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》これを|聞《き》きて|默然《もくねん》たりしが、|頓《やが》て|神《かみ》を|崇《あが》めて|言《い》ふ『されば|神《かみ》は|異邦人《いはうじん》にも|生命《いのち》を|得《え》さする|悔改《くいあらため》を|與《あた》へ|給《たま》ひしなり』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくてステパノによりて|起《おこ》りし|迫害《はくがい》のために|散《ちら》されたる|者《もの》ども、ピニケ、クブロ、アンテオケまで|到《いた》り、ただユダヤ|人《びと》にのみ|御言《みことば》を|語《かた》りたるに、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》にクブロ|及《およ》びクレネの|人《ひと》、|數人《すにん》ありて、アンテオケに|來《きた》りし|時《とき》、ギリシヤ|人《びと》にも|語《かた》りて|主《しゅ》イエスの|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》ふ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|手《て》かれらと|偕《とも》にありたれば、|數多《あまた》の|人《ひと》、|信《しん》じて|主《しゅ》に|歸依《きえ》せり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》エルサレムに|在《あ》る|教會《けうくわい》に|聞《きこ》えたれば、バルナバをアンテオケに|遣《つかは》す。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かれ|來《きた》りて、|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》を|見《み》てよろこび、|彼《かれ》|等《ら》に、みな|心《こころ》を|堅《かた》くして|主《しゅ》にをらんことを|勸《すす》む。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|聖《せい》|靈《れい》と|信仰《しんかう》とにて|滿《み》ちたる|善《よ》き|人《ひと》なればなり。ここに|多《おほ》くの|人々《ひとびと》、|主《しゅ》に|加《くは》はりたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]かくてバルナバはサウロを|尋《たづ》ねんとてタルソに|往《ゆ》き、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》に|逢《あ》ひてアンテオケに|伴《ともな》ひきたり、|二人《ふたり》ともに|一年《いちねん》の|間《あひだ》かしこの|教會《けうくわい》の|集會《あつまり》に|出《い》でて|多《おほ》くの|人《ひと》を|教《をし》ふ。|弟子《でし》たちのキリステアンと|稱《とな》へらるる|事《こと》はアンテオケより|始《はじま》れり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》エルサレムより|預言者《よげんしゃ》たちアンテオケに|下《くだ》る。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》の|一人《ひとり》アガボと|云《い》ふもの|起《た》ちて、|大《おほい》なる|飢饉《ききん》の|全世界《ぜんせかい》にあるべきことを|御靈《みたま》によりて|示《しめ》せるが、|果《はた》してクラウデオの|時《とき》に|起《おこ》れり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|弟子《でし》たち|各々《おのおの》の|力《ちから》に|應《おう》じてユダヤに|住《す》む|兄弟《きゃうだい》たちに|扶助《たすけ》をおくらん|事《こと》をさだめ、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|之《これ》をおこなひ、バルナバ|及《およ》びサウロの|手《て》に|托《たく》して|長老《ちゃうらう》たちに|贈《おく》れり。 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》ヘロデ|王《わう》、|教會《けうくわい》のうちの|或《ある》|人《ひと》どもを|苦《くる》しめんとて|手《て》を|下《くだ》し、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|劍《つるぎ》をもてヨハネの|兄弟《きゃうだい》ヤコブを|殺《ころ》せり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》ユダヤ|人《びと》の|心《こころ》に|適《かな》ひたるを|見《み》て、またペテロをも|捕《とら》ふ、|頃《ころ》は|除酵祭《じょかうさい》の|時《とき》なりき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]すでに|執《と》りて|獄《ひとや》に|入《い》れ、|過越《すぎこし》の|後《のち》に|民《たみ》のまへに|曳《ひ》き|出《いだ》さんとの|心構《こころがまへ》にて、|四人《よにん》|一組《ひとくみ》なる|四組《よくみ》の|兵卒《へいそつ》に|付《わた》して|之《これ》を|守《まも》らせたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]かくてペテロは|獄《ひとや》のなかに|因《とら》はれ、|教會《けうくわい》は|熱心《ねっしん》に|彼《かれ》のために|神《かみ》に|祈《いのり》をなせり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデこれを|曳《ひ》き|出《いだ》さんとする|其《そ》の|前《まへ》の|夜《よ》、ペテロは|二《ふた》つの|鏈《くさり》にて|繋《つな》がれ、|二人《ふたり》の|兵卒《へいそつ》のあひだに|睡《ねむ》り、|番兵《ばんぺい》らは|門口《かどぐち》にゐて|獄《ひとや》を|守《まも》りたるに、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|主《しゅ》の|使《つかひ》ペテロの|傍《かたは》らに|立《た》ちて、|光明《ひかり》|室内《しつない》にかがやく。|御使《みつかひ》かれの|脇《わき》をたたき、|覺《さま》していふ『|疾《と》く|起《お》きよ』かくて|鏈《くさり》その|手《て》より|落《お》ちたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》いふ『|帶《おび》をしめ、|鞋《くつ》をはけ』|彼《かれ》その|如《ごと》く|爲《し》たれば、|又《また》いふ『|上衣《うはぎ》をまとひて|我《われ》に|從《したが》へ』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|出《い》でて|隨《したが》ひしが、|御使《みつかひ》のする|事《こと》の|眞《まこと》なるを|知《し》らず、|幻影《まぼろし》を|見《み》るならんと|思《おも》ふ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|第一《だいいち》・|第二《だいに》の|警固《かため》を|過《す》ぎて|町《まち》に|入《い》るところの|鐵《てつ》の|門《もん》に|到《いた》れば、|門《もん》おのづから|彼《かれ》|等《ら》のために|開《ひら》け、|相《あひ》|共《とも》にいでて|一《ひと》つの|街《ちまた》を|過《す》ぎしとき、|直《ただ》ちに|御使《みつかひ》はなれたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|我《われ》に|反《かへ》りて|言《い》ふ『われ|今《いま》まことに|知《し》る、|主《しゅ》その|使《つかひ》を|遣《つかは》して、ヘロデの|手《て》およびユダヤの|民《たみ》の|凡《すべ》て|思《おも》ひ|設《まう》けし|事《こと》より、|我《われ》を|救《すく》ひ|出《いだ》し|給《たま》ひしを』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|悟《さと》りてマルコと|稱《とな》ふるヨハネの|母《はは》マリヤの|家《いへ》に|往《ゆ》きしが、|其處《そこ》には|數多《あまた》のもの|集《あつま》りて|祈《いの》りゐたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ペテロ|門《もん》の|戸《と》を|叩《たた》きたれば、ロダといふ|婢女《はしため》ききに|出《い》できたり、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ペテロの|聲《こゑ》なるを|知《し》りて、|勸喜《よろこび》のあまりに|門《もん》を|開《あ》けずして|走《はし》り|入《い》り、ペテロの|門《もん》の|前《まへ》に|立《た》てることを|告《つ》げたれば、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら『なんぢは|氣《き》|狂《くる》へり』と|言《い》ふ。|然《さ》れどロダは|夫《それ》なりと|言張《いいは》る。かれら|言《い》ふ『それはペテロの|御使《みつかひ》ならん』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにペテロなほ|叩《たた》きて|止《や》まざれば、かれら|門《もん》をひらき|之《これ》を|見《み》て|驚《をどろ》けり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かれ|手《て》を|搖《うご》かして|人々《ひとびと》を|鎭《しづ》め、|主《しゅ》の|己《おのれ》を|獄《ひとや》より|導《みちび》きいだし|給《たま》ひしことを|具《つぶさ》に|語《かた》り『これをヤコブと|兄弟《きゃうだい》たちとに|告《つ》げよ』と|言《い》ひて|他《ほか》の|處《ところ》に|出《い》で|往《ゆ》けり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあけ》になりて、ペテロは|如何《いか》にせしとて|兵卒《へいそつ》の|中《うち》の|騷《さわぎ》|一方《ひとかた》ならず。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|之《これ》を|索《もと》むれど|見出《みいだ》さず、|遂《つひ》に|守卒《しゅそつ》を|訊《ただ》して|死罪《しざい》を|命《めい》じ、|而《しか》してユダヤよりカイザリヤに|下《くだ》りて|留《とどま》れり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|偖《さて》ヘロデ、ツロとシドンとの|人々《ひとびと》を|甚《いた》く|怒《いか》りたれば、|其《そ》の|民《たみ》ども|心《こころ》を|一《ひと》つにして|彼《かれ》の|許《もと》にいたり、|王《わう》の|内侍《ないじ》の|臣《しん》ブラストに|取《とり》|入《い》りて|和諧《やはらぎ》を|求《もと》む。かれらの|地方《ちはう》は|王《わう》の|國《くに》より|食品《しょくひん》を|得《う》るに|因《よ》りてなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|定《さだ》めたる|日《ひ》に|及《およ》びて|王《わう》の|服《ふく》を|著《つ》け|高座《かうざ》に|坐《ざ》して|言《こと》を|宣《の》べたれば、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|集民《しふみん》よばはりて『これ|神《かみ》の|聲《こゑ》なり、|人《ひと》の|聲《こゑ》にあらず』と|言《い》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ヘロデ|神《かみ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》せぬに|因《よ》りて、|主《しゅ》の|使《つかひ》たちどころに|彼《かれ》を|撃《う》ちたれば、|蟲《むし》に|噛《か》まれて|息《いき》|絶《た》えたり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|主《しゅ》の|御言《みことば》いよいよ|増々《ますます》ひろまる。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]バルナバ、サウロはその|職務《つとめ》を|果《はた》し、マルコと|稱《とな》ふるヨハネを|伴《ともな》ひてエルサレムより|歸《かへ》れり。 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]アンテオケの|教會《けうくわい》にバルナバ、ニゲルと|稱《とな》ふるシメオン、クレネ|人《びと》ルキオ、|國守《こくしゅ》ヘロデの|乳《ち》|兄弟《きゃうだい》マナエン|及《およ》びサウロなどいふ|預言者《よげんしゃ》と|教師《けうし》とあり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らが|主《しゅ》に|事《つか》へ|斷食《だんじき》したるとき、|聖《せい》|靈《れい》いひ|給《たま》ふ『わが|召《め》して|行《おこな》はせんとする|業《わざ》の|爲《ため》に、バルナバとサウロとを|選《えら》び、|別《わか》て』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》ら|斷食《だんじき》し、|祈《いの》りて|二人《ふたり》の|上《うへ》に|手《て》を|按《お》きて|往《ゆ》かしむ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]この|二人《ふたり》、|聖《せい》|靈《れい》に|遣《つかは》されてセルキヤに|下《くだ》り、|彼處《かしこ》より|船《ふね》にてクプロに|渡《わた》り、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]サラミスに|著《つ》きてユダヤ|人《びと》の|諸《しょ》|會堂《くわいだう》にて|神《かみ》の|言《ことば》を|宣傳《のべつた》へ、またヨハネを|助人《たすけて》として|伴《ともな》ふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》くこの|島《しま》を|經《へ》|行《ゆ》きてパポスに|到《いた》り、バルイエスといふユダヤ|人《びと》にて|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》たる|魔術《まじゅつ》|者《しゃ》に|遇《あ》ふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|地方《ちはう》|總督《そうとく》なる|慧《さと》き|人《ひと》セルギオ・パウロと|偕《とも》にありき。|總督《そうとく》はバルナバとサウロとを|招《まね》き|神《かみ》の|言《ことば》を|聽《き》かんとしたるに、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かの|魔術《まじゅつ》|者《しゃ》エルマ(この|名《な》を|釋《と》けば|魔術《まじゅつ》|者《しゃ》)|二人《ふたり》に|敵《てき》|對《たい》して|總督《そうとく》を|信仰《しんかう》の|道《みち》より|離《はな》れしめんとせり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]サウロ|又《また》の|名《な》はパウロ、|聖《せい》|靈《れい》に|滿《みた》され、|彼《かれ》に|目《め》を|注《と》めて|言《い》ふ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]『ああ|有《あ》らゆる|詭計《たばかり》と|奸惡《かんあく》とにて|滿《み》ちたる|者《もの》、|惡魔《あくま》の|子《こ》、すべての|義《ぎ》の|敵《てき》よ、なんぢ|主《しゅ》の|直《なほ》き|道《みち》を|曲《ま》げて|止《や》まぬか。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、いま|主《しゅ》の|御手《みて》なんぢの|上《うへ》にあり、なんぢ|盲目《めしひ》となりて|暫《しばら》く|日《ひ》を|見《み》ざるべし』かくて|立刻《たちどころ》に|朦《かすみ》と|闇《やみ》とその|目《め》を|掩《おほ》ひたれば、|探《さぐ》り|囘《まは》りて|導《みちび》きくるる|者《もの》を|求《もと》む。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|總督《そうとく》この|有《あ》りし|事《こと》を|見《み》て、|主《しゅ》の|教《をしへ》に|驚《をどろ》きて|信《しん》じたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]さてパウロ|及《およ》び|之《これ》に|伴《ともな》ふ|人々《ひとびと》、パポスより|船出《ふなで》してパンフリヤのペルガに|到《いた》り、ヨハネは|離《はな》れてエルサレムに|歸《かへ》れり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らはペルガより|進《すす》み|往《ゆ》きてピシデヤのアンテオケに|到《いた》り、|安息《あんそく》|日《にち》に|會堂《くわいだう》に|入《い》りて|坐《ざ》せり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》および|預言者《よげんしゃ》の|書《ふみ》の|朗讀《らうどく》ありしのち、|會堂《くわいだう》|司《つかさ》たち|人《ひと》を|彼《かれ》らに|遣《つかは》し『|兄弟《きゃうだい》たちよ、もし|民《たみ》に|勸《すすめ》の|言《ことば》あらば|言《い》へ』と|言《い》はしめたれば、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|起《た》ちて|手《て》を|搖《うご》かして|言《い》ふ、『イスラエルの|人々《ひとびと》および|神《かみ》を|畏《おそ》るる|者《もの》よ、|聽《き》け。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]このイスラエルの|民《たみ》の|神《かみ》は、|我《われ》らの|先祖《せんぞ》を|選《えら》び、そのエジプトの|地《ち》に|寄寓《やどり》せし|時《とき》、わが|民《たみ》をおこし、|強《つよ》き|御腕《みうで》にて|之《これ》を|導《みちび》きいだし、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|四十《しじふ》|年《ねん》のあひだ、|荒野《あらの》にて|彼《かれ》らの|所作《しわざ》を|忍《しの》び、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]カナンの|地《ち》にて|七《なな》つの|民族《みんぞく》をほろぼし、その|地《ち》を|彼《かれ》らに|嗣《つ》がしめて、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|四《し》|百《ひゃく》|五《ご》|十《じふ》|年《ねん》を|經《へ》たり。|此《こ》ののち|預言者《よげんしゃ》サムエルの|時代《じだい》まで|審判《さばき》|人《ひと》を|賜《たま》ひしを、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|後《のち》に|至《いた》りて|彼《かれ》ら|王《わう》を|求《もと》めたれば、|神《かみ》は|之《これ》にキスの|子《こ》サウロと|云《い》ふベニヤミンの|族《やから》の|人《ひと》を|四十《しじふ》|年《ねん》のあひだ|賜《たま》ひ、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|退《しりぞ》けて|後《のち》、ダビデを|擧《あ》げて|王《わう》となし、|且《かつ》これを|證《あかし》して「|我《われ》エッサイの|子《こ》ダビデといふ|我《わ》が|心《こころ》に|適《かな》ふ|者《もの》を|見出《みいだ》せり、|彼《かれ》わが|意《こころ》をことごとく|行《おこな》はん」と|宣給《のたま》へり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|約束《やくそく》に|隨《したが》ひて|此《こ》の|人《ひと》の|裔《すゑ》より、イスラエルの|爲《ため》に|救主《すくひぬし》イエスを|興《おこ》し|給《たま》ひしが、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]その|來《きた》る|前《まへ》にヨハネ|預《あらか》じめイスラエルの|凡《すべ》ての|民《たみ》に|悔改《くいあらため》のバプテスマを|宣傳《のべつた》へたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]かくてヨハネ|己《おの》が|走《はし》るべき|道程《みちのり》を|終《を》へんとする|時《とき》「なんぢら|我《われ》を|誰《たれ》と|思《おも》ふか、|我《われ》はかの|人《ひと》にあらず、|視《み》よ、|我《われ》に|後《おく》れて|來《きた》る|者《もの》あり、|我《われ》はその|鞋《くつ》の|紐《ひも》を|解《と》くにも|足《た》らず」と|云《い》へり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》たち、アブラハムの|血統《ちすぢ》の|子《こ》ら|及《およ》び|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|神《かみ》を|畏《おそ》るる|者《もの》よ、この|救《すくひ》の|言《ことば》は|我《われ》らに|贈《おく》られたり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]それエルサレムに|住《す》める|者《もの》および|其《そ》の|司《つかさ》らは、|彼《かれ》をも|安息《あんそく》|日《にち》ごとに|讀《よ》むところの|預言者《よげんしゃ》たちの|言《ことば》をも|知《し》らず、|彼《かれ》を|刑《つみな》ひて|預言《よげん》を|成就《じゃうじゅ》せしめたり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]その|死《し》に|當《あた》るべき|故《ゆゑ》を|得《え》ざりしかど、ピラトに|殺《ころ》さんことを|求《もと》め、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》につきて|記《しる》されたる|事《こと》をことごとく|成《な》しをへ、|彼《かれ》を|木《き》より|下《おろ》して|墓《はか》に|納《をさ》めたり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|神《かみ》は|彼《かれ》を|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》へり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]かくてイエスは|己《おのれ》と|偕《とも》にガリラヤよりエルサレムに|上《のぼ》りし|者《もの》に|多《おほ》くの|日《ひ》のあひだ|現《あらは》れ|給《たま》へり。その|人々《ひとびと》は|今《いま》、|民《たみ》の|前《まへ》にイエスの|證人《しょうにん》たるなり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らも|先祖《せんぞ》たちが|與《あた》へられし|約束《やくそく》につきて|喜《よろこ》ばしき|音信《おとづれ》を|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はイエスを|甦《よみが》へらせて、その|約束《やくそく》を|我《われ》らの|子孫《しそん》に|成就《じゃうじゅ》したまへり。|即《すなは》ち|詩《し》の|第二《だいに》|篇《へん》に「なんぢは|我《わ》が|子《こ》なり、われ|今日《けふ》なんぢを|生《う》めり」と|録《しる》されたるが|如《ごと》し。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]また|朽腐《くされ》に|歸《き》せざる|状《さま》に|彼《かれ》を|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|事《こと》に|就《つ》きては、|斯《か》く|宣給《のたま》へり。|曰《いは》く「われダビデに|約《やく》せし|確《かた》き|聖《せい》なる|恩惠《めぐみ》を|汝《なんぢ》らに|與《あた》へん」[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]そは|他《ほか》の|篇《へん》に「なんぢは|汝《なんぢ》の|聖者《しゃうじゃ》を|朽腐《くされ》に|歸《き》せざらしむべし」と|云《い》へり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]それダビデは、その|代《よ》にて|神《かみ》の|御旨《みむね》を|行《おこな》ひ、|終《つひ》に|眠《ねむ》りて|先祖《せんぞ》たちと|共《とも》に|置《お》かれ、かつ|朽腐《くされ》に|歸《き》したり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|神《かみ》の|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|者《もの》は|朽腐《くされ》に|歸《き》せざりき。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|兄弟《きゃうだい》たちよ、|汝《なんぢ》ら|知《し》れ。この|人《ひと》によりて|罪《つみ》の|赦《ゆるし》のなんぢらに|傳《つた》へらるることを。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らモーセの|律法《おきて》によりて|義《ぎ》とせられ|得《え》ざりし|凡《すべ》ての|事《こと》も、|信《しん》ずる|者《もの》は|皆《みな》この|人《ひと》によりて|義《ぎ》とせらるる|事《こと》を。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|汝《なんぢ》ら|心《こころ》せよ、|恐《おそ》らくは|預言者《よげんしゃ》たちの|書《ふみ》に|云《い》ひたること|來《きた》らん、[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 「あなどる|者《もの》よ、なんぢら|視《み》よ、 おどろけ、|亡《ほろ》びよ、 われ|汝《なんぢ》らの|日《ひ》に|一《ひと》つの|事《こと》を|行《おこな》はん。 これを|汝《なんぢ》らに|具《つぶさ》に|告《つ》ぐる|者《もの》ありとも |信《しん》ぜざる|程《ほど》の|事《こと》なり」』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らが|會堂《くわいだう》を|出《い》づるとき、|人々《ひとびと》これらの|言《ことば》を|次《つぎ》の|安息《あんそく》|日《にち》にも|語《かた》らんことを|請《こ》ふ。[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|集會《あつまり》の|散《さん》ぜし|後《のち》、ユダヤ|人《びと》および|敬虔《けいけん》なる|改宗者《かいしゅうしゃ》おほくパウロとバルナバとに|從《したが》ひ|往《ゆ》きたれば、|彼《かれ》らに|語《かた》りて|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》に|止《とどま》らんことを|勸《すす》めたり。[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|次《つぎ》の|安息《あんそく》|日《にち》には、|神《かみ》の|言《ことば》を|聽《き》かんとて|殆《ほとん》ど|町《まち》|擧《こぞ》りて|集《あつま》りたり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]されどユダヤ|人《びと》はその|群衆《ぐんじゅう》を|見《み》て|嫉《ねたみ》に|滿《みた》され、パウロの|語《かた》ることに|言《い》ひ|逆《さから》ひて|罵《ののし》れり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]パウロとバルナバとは|臆《おく》せずして|言《い》ふ『|神《かみ》の|言《ことば》を|先《ま》づ|汝《なんぢ》らに|語《かた》るべかりしを、|汝《なんぢ》|等《ら》これを|斥《しりぞ》けて|己《おのれ》を|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》に|相應《ふさは》しからぬ|者《もの》と|自《みづか》ら|定《さだ》むるによりて、|視《み》よ、|我《われ》ら|轉《てん》じて|異邦人《いはうじん》に|向《むか》はん。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]それ|主《しゅ》は|斯《か》く|我《われ》らに|命《めい》じ|給《たま》へり。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 「われ|汝《なんぢ》を|立《た》てて|異邦人《いはうじん》の|光《ひかり》とせり。 |地《ち》の|極《はて》にまで|救《すくひ》とならしめん|爲《ため》なり」』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]|異邦人《いはうじん》は|之《これ》を|聽《き》きて|喜《よろこ》び、|主《しゅ》の|言《ことば》をあがめ、|又《また》とこしへの|生命《いのち》に|定《さだ》められたる|者《もの》はみな|信《しん》じ、[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|言《ことば》この|地《ち》に|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》く|弘《ひろま》りたり。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにユダヤ|人《びと》ら、|敬虔《けいけん》なる|貴女《きぢょ》たち|及《およ》び|町《まち》の|重立《おもだ》ちたる|人々《ひとびと》を|唆《そその》かして、パウロとバルナバとに|迫害《はくがい》をくはへ、|遂《つひ》に|彼《かれ》らを|其《そ》の|境《さかひ》より|逐《お》ひ|出《いだ》せり。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》は|彼《かれ》らに|對《むか》ひて|足《あし》の|塵《ちり》をはらひ、イコニオムに|往《ゆ》く。[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちは|喜悦《よろこび》と|聖《せい》|靈《れい》とにて|滿《みた》され|居《ゐ》たり。 第一四章[#「第一四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》はイコニオムにて|相《あひ》|共《とも》にユダヤ|人《びと》の|會堂《くわいだう》に|入《い》りて|語《かた》りたれば、|之《これ》に|由《よ》りてユダヤ|人《びと》およびギリシヤ|人《びと》あまた|信《しん》じたり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|從《したが》はぬユダヤ|人《びと》ら|異邦人《いはうじん》を|唆《そその》かし、|兄弟《きゃうだい》たちに|對《たい》して|惡意《あくい》を|懷《いだ》かしむ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》は|久《ひさ》しく|留《とどま》り、|主《しゅ》によりて|臆《おく》せずして|語《かた》り、|主《しゅ》は|彼《かれ》らの|手《て》により、|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》とを|行《おこな》ひて|惠《めぐみ》の|御言《みことば》を|證《あかし》したまふ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|町《まち》の|人々《ひとびと》|相《あひ》|分《わか》れて、|或《ある》|者《もの》はユダヤ|人《びと》に|黨《くみ》し、|或《ある》|者《もの》は|使徒《しと》たちに|黨《くみ》せり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|異邦人《いはうじん》ユダヤ|人《びと》および|其《そ》の|司《つかさ》ら|相《あひ》|共《とも》に|使徒《しと》たちを|辱《はづか》しめ、|石《いし》にて|撃《う》たんと|企《くはだ》てしに、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|悟《さと》りてルカオニヤの|町《まち》なるルステラ、デルベ|及《およ》びその|邊《ほとり》の|地《ち》にのがれ、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》にて|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》ふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ルステラに|足《あし》|弱《よわ》き|人《ひと》ありて|坐《ざ》しゐたり、|生《うま》れながらの|跛者《あしなへ》にて|曾《かつ》て|歩《あゆ》みたる|事《こと》なし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》パウロの|語《かた》るを|聽《き》きゐたるが、パウロ|之《これ》に|目《め》をとめ、|救《すく》はるべき|信仰《しんかう》あるを|見《み》て、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|大聲《おほごゑ》に『なんぢの|足《あし》にて|眞直《ますぐ》に|起《た》て』と|言《い》ひたれば、かれ|躍《をど》り|上《あが》りて|歩《あゆ》めり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》、パウロの|爲《な》ししことを|見《み》て|聲《こゑ》を|揚《あ》げ、ルカオニヤの|國語《くにことば》にて『|神《かみ》たち|人《ひと》の|形《かたち》をかりて|我《われ》らに|降《くだ》り|給《たま》へり』と|言《い》ひ、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]バルナバをゼウスと|稱《とな》へ、パウロを|宗《むね》と|語《かた》る|人《ひと》なる|故《ゆゑ》にヘルメスと|稱《とな》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|町《まち》の|外《そと》なるゼウスの|宮《みや》の|祭司《さいし》、|數匹《すひき》の|牛《うし》と|花《はな》|飾《かざり》とを|門《もん》の|前《まへ》に|携《たづさ》へきたりて、|群衆《ぐんじゅう》とともに|犧牲《いけにへ》を|献《ささ》げんとせり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|使徒《しと》たち、|即《すなは》ちバルナバとパウロと|之《これ》を|聞《き》きて、|己《おの》が|衣《ころも》をさき|群衆《ぐんじゅう》のなかに|馳《は》せ|入《い》り、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|呼《よば》はりて|言《い》ふ『|人々《ひとびと》よ、なんぞ|斯《か》かる|事《こと》をなすか、|我《われ》らも|汝《なんぢ》らと|同《おな》じ|情《じゃう》を|有《も》てる|人《ひと》なり、|汝《なんぢ》らに|福音《ふくいん》を|宣《の》べて|斯《か》かる|虚《むな》しき|者《もの》より|離《はな》れ、|天《てん》と|地《ち》と|海《うみ》とその|中《なか》にある|有《あ》らゆる|物《もの》とを|造《つく》り|給《たま》ひし|活《い》ける|神《かみ》に|歸《かへ》らしめんとするなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|過《す》ぎし|時代《じだい》には|神《かみ》、すべての|國人《くにびと》の|己《おの》が|道々《みちみち》を|歩《あゆ》むに|任《まか》せ|給《たま》ひしかど、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]また|自己《みづから》を|證《あかし》し|給《たま》はざりし|事《こと》なし。|即《すなは》ち|善《よ》き|事《こと》をなし、|天《てん》より|雨《あめ》を|賜《たま》ひ、|豐穰《みのり》の|時《とき》をあたへ、|食物《しょくもつ》と|勸喜《よろこび》とをもて|汝《なんぢ》らの|心《こころ》を|滿《み》ち|足《た》らはせ|給《たま》ひしなり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|言《い》ひて|辛《から》うじて|群衆《ぐんじゅう》の|己《おのれ》らに|犧牲《いけにへ》を|献《ささ》げんとするを|止《とど》めたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|數人《すにん》のユダヤ|人《びと》、アンテオケ|及《およ》びイコニオムより|來《きた》り、|群衆《ぐんじゅう》を|勸《すす》め、|而《しか》してパウロを|石《いし》にて|撃《う》ち、|既《すで》に|死《し》にたりと|思《おも》ひて|町《まち》の|外《そと》に|曳《ひ》き|出《いだ》せり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たち|之《これ》を|立《たち》|圍《かこ》みゐたるに、パウロ|起《お》きて|町《まち》に|入《い》る。|明《あ》くる|日《ひ》バルナバと|共《とも》にデルベに|出《い》で|往《ゆ》き、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|町《まち》に|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へ、|多《おほ》くの|人《ひと》を|弟子《でし》として|後《のち》、ルステラ、イコニオム、アンテオケに|還《かへ》り、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|弟子《でし》たちの|心《こころ》を|堅《かた》うし|信仰《しんかう》に|止《とどま》らんことを|勸《すす》め、また|我《われ》らが|多《おほ》くの|艱難《なやみ》を|歴《へ》て|神《かみ》の|國《くに》に|入《い》るべきことを|教《をし》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]また|教會《けうくわい》|毎《ごと》に|長老《ちゃうらう》をえらび、|斷食《だんじき》して|祈《いの》り、|弟子《でし》たちを|其《そ》の|信《しん》ずる|所《ところ》の|主《しゅ》に|委《ゆだ》ぬ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]かくてピシデヤを|經《へ》てパンフリヤに|到《いた》り、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ペルガにて|御言《みことば》を|語《かた》りて|後《のち》アタリヤに|下《くだ》り、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》より|船出《ふなで》して、その|成《な》し|果《は》てたる|務《つとめ》のために|神《かみ》の|惠《めぐみ》みに|委《ゆだ》ねられし|處《ところ》なるアンテオケに|往《ゆ》けり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|到《いた》りて|教會《けうくわい》の|人々《ひとびと》を|集《あつ》めたれば、|神《かみ》が|己《おのれ》らと|偕《とも》に|在《いま》して|成《な》し|給《たま》ひし|凡《すべ》てのこと、|竝《ならび》に|信仰《しんかう》の|門《もん》を|異邦人《いはうじん》にひらき|給《たま》ひしことを|述《の》ぶ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]かくて|久《ひさ》しく|留《とどま》りて|弟子《でし》たちと|偕《とも》にゐたり。 第一五章[#「第一五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人々《ひとびと》ユダヤより|下《くだ》りて、|兄弟《きゃうだい》たちに『なんぢらモーセの|例《れい》に|遵《したが》ひて|割禮《かつれい》を|受《う》けずば|救《すく》はるるを|得《え》ず』と|教《をし》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|彼《かれ》らとパウロ|及《およ》びバルナバとの|間《あひだ》に、|大《おほい》なる|紛爭《あらそひ》と|議論《ぎろん》と|起《おこ》りたれば、|兄弟《きゃうだい》たちはパウロ、バルナバ|及《およ》びその|中《うち》の|數人《すにん》をエルサレムに|上《のぼ》らせ、|此《こ》の|問題《もんだい》につきて|使徒《しと》・|長老《ちゃうらう》たちに|問《と》はしめんと|定《さだ》む。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]かれら|教會《けうくわい》の|人々《ひとびと》に|見《み》|送《おく》られて、ピニケ|及《およ》びサマリヤを|經《へ》、|異邦人《いはうじん》の|改宗《かいしゅう》せしことを|具《つぶさ》に|告《つ》げて、|凡《すべ》ての|兄弟《きゃうだい》に|大《おほい》なる|喜悦《よろこび》を|得《え》させたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]エルサレムに|到《いた》り、|教會《けうくわい》と|使徒《しと》と|長老《ちゃうらう》とに|迎《むか》へられ、|神《かみ》が|己《おのれ》らと|偕《とも》に|在《いま》して|爲《な》し|給《たま》ひし|凡《すべ》ての|事《こと》を|述《の》べたるに、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|信者《しんじゃ》となりたるパリサイ|派《は》の|或《ある》|人々《ひとびと》|立《た》ちて『|異邦人《いはうじん》にも|割禮《かつれい》を|施《ほどこ》し、モーセの|律法《おきて》を|守《まも》ることを|命《めい》ぜざる|可《べ》からず』と|言《い》ふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ここに|使徒《しと》・|長老《ちゃうらう》たち|此《こ》の|事《こと》につきて|協議《けふぎ》せんとて|集《あつま》る。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|議論《ぎろん》ありし|後《のち》、ペテロ|起《た》ちて|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》たちよ、|汝《なんぢ》らの|知《し》るごとく、|久《ひさ》しき|前《まへ》に|神《かみ》は、なんぢらの|中《うち》より|我《われ》を|選《えら》び、わが|口《くち》より|異邦人《いはうじん》に|福音《ふくいん》の|言《ことば》を|聞《き》かせ、|之《これ》を|信《しん》ぜしめんとし|給《たま》へり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|心《こころ》を|知《し》りたまふ|神《かみ》は、|我《われ》らと|同《おな》じく、|彼《かれ》|等《ら》にも|聖《せい》|靈《れい》を|與《あた》へて|證《あかし》をなし、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かつ|信仰《しんかう》によりて|彼《かれ》らの|心《こころ》をきよめ、|我《われ》らと|彼《かれ》らとの|間《あひだ》に|隔《へだて》を|置《お》き|給《たま》はざりき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|何《なに》ぞ|神《かみ》を|試《こころ》みて、|弟子《でし》たちの|頸《くび》に|我《われ》らの|先祖《せんぞ》も|我《われ》らも|負《お》ひ|能《あた》はざりし|軛《くびき》をかけんとするか。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》らず、|我《われ》らの|救《すく》はるるも|彼《かれ》らと|均《ひと》しく|主《しゅ》イエスの|恩惠《めぐみ》に|由《よ》ることを|我《われ》らは|信《しん》ず』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|會衆《くわいしゅう》みな|默《もく》して、バルナバとパウロとの、|己《おのれ》|等《ら》によりて|神《かみ》が|異邦人《いはうじん》のうちに|爲《な》し|給《たま》ひし|多《おほ》くの|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》とを|述《の》ぶるを|聽《き》く。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|語《かた》り|終《を》へし|後《のち》、ヤコブ|答《こた》へて|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》たちよ、|我《われ》に|聽《き》け、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]シメオン|既《すで》に|神《かみ》の|初《はじ》めて|異邦人《いはうじん》を|顧《かへり》み、その|中《うち》より|御名《みな》を|負《お》ふべき|民《たみ》を|取《と》り|給《たま》ひしことを|述《の》べしが、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|預言者《よげんしゃ》たちの|言《ことば》もこれと|合《あ》へり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して [#ここから2字下げ] 「こののち|我《われ》かへりて、 |倒《たふ》れたるダビデの|幕屋《まくや》を|再《ふたた》び|造《つく》り、 その|頽《くづ》れし|所《ところ》をふたたび|造《つく》り、 |而《しか》して|之《これ》を|立《た》てん。 [#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]これ|殘餘《のこり》の|人々《ひとびと》、|主《しゅ》を|尋《たづ》ね|求《もと》め、 |凡《すべ》て|我《わ》が|名《な》をもて|稱《とな》へらるる|異邦人《いはうじん》も また|然《しか》せん|爲《ため》なり。 [#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|古《いにし》へより|此《これ》|等《ら》のことを|知《し》らしめ|給《たま》ふ|主《しゅ》、 これを|言《い》ひ|給《たま》ふ」 [#ここで字下げ終わり] とあるが|如《ごと》し。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|我《われ》は|判斷《はんだん》す、|異邦人《いはうじん》の|中《うち》より|神《かみ》に|歸依《きえ》する|人《ひと》を|煩《わづら》はすべきにあらず。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ただ|書《か》き|贈《おく》りて、|偶像《ぐうざう》に|穢《けが》されたる|物《もの》と、|淫行《いんかう》と、|絞殺《しめころ》したる|物《もの》と、|血《ち》とを|避《さ》けしむべし。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|昔《むかし》より、いづれの|町《まち》にもモーセを|宣《の》ぶる|者《もの》ありて、|安息《あんそく》|日《にち》|毎《ごと》に|諸《しょ》|會堂《くわいだう》にてその|書《ふみ》を|讀《よ》めばなり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|使徒《しと》・|長老《ちゃうらう》たち|及《およ》び|全《ぜん》|教會《けうくわい》は、その|中《うち》より|人《ひと》を|選《えら》びてパウロ、バルナバと|共《とも》にアンテオケに|送《おく》ることを|可《よ》しとせり。|選《えら》ばれたるは、バルサバと|稱《とな》ふるユダとシラスとにて、|兄弟《きゃうだい》たちの|中《うち》の|重立《おもだ》ちたる|者《もの》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|托《たく》したる|書《ふみ》にいふ『|使徒《しと》および|長老《ちゃうらう》たる|兄弟《きゃうだい》ら、アンテオケ、シリヤ、キリキヤに|在《あ》る|異邦人《いはうじん》の|兄弟《きゃうだい》たちの|平安《へいあん》を|祈《いの》る。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》のうちの|或《ある》|人々《ひとびと》われらが|命《めい》じもせぬに、|言《ことば》をもて|汝《なんぢ》らを|煩《わづら》はし、|汝《なんぢ》らの|心《こころ》を|亂《みだ》したりと|聞《き》きたれば、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ら|心《こころ》を|一《ひと》つにして|人《ひと》を|選《えら》びて、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|名《な》のために|生命《いのち》を|惜《をし》まざりし|者《もの》なる、|我《われ》らの|愛《あい》するバルナバ、パウロと|共《とも》に|汝《なんぢ》らに|遣《つかは》すことを|可《よ》しとせり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|我《われ》らユダとシラスとを|遣《つかは》す、かれらも|口《くち》づから|此《これ》|等《ら》のことを|述《の》べん。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|聖《せい》|靈《れい》と|我《われ》らとは|左《さ》の|肝要《かんえう》なるものの|他《ほか》に|何《なに》をも|汝《なんぢ》らに|負《お》はせぬを|可《よ》しとするなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|偶像《ぐうざう》に|献《ささ》げたる|物《もの》と、|血《ち》と、|絞殺《しめころ》したる|物《もの》と、|淫行《いんかう》とを|避《さ》くべき|事《こと》なり、|汝《なんぢ》|等《ら》これを|愼《つつし》まば|善《よ》し。なんぢら|健《すこや》かなれ』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]かれら|別《わかれ》を|告《つ》げてアンテオケに|下《くだ》り、|人々《ひとびと》を|集《あつ》めて|書《ふみ》を|付《わた》す。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》これを|讀《よ》み|慰安《なぐさめ》を|得《え》て|喜《よろこ》べり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ユダもシラスもまた|預言者《よげんしゃ》なれば、|多《おほ》くの|言《ことば》をもて|兄弟《きゃうだい》たちを|勸《すす》めて|彼《かれ》らを|堅《かた》うし、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|暫《しばら》く|留《とどま》りてのち、|兄弟《きゃうだい》たちに|平安《へいあん》を|祝《しく》せられ、|別《わかれ》を|告《つ》げて、|己《おのれ》らを|遣《つかは》しし|者《もの》に|歸《かへ》れり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《かく》てパウロとバルナバとは|尚《なほ》アンテオケに|留《とどま》りて|多《おほ》くの|人《ひと》とともに|主《しゅ》の|御言《みことば》を|教《をし》へ、かつ|宣傳《のべつた》へたり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|數日《すにち》の|後《のち》パウロはバルナバに|言《い》ふ『いざ、|我《われ》ら|曩《さき》に|主《しゅ》の|御言《みことば》を|傳《つた》へし|凡《すべ》ての|町《まち》にまた|往《ゆ》きて、|兄弟《きゃうだい》たちを|訪《と》ひ、その|安否《あんぴ》を|尋《たづ》ねん』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]バルナバはマルコと|稱《とな》ふるヨハネを|伴《ともな》はんと|望《のぞ》み、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]パウロは|彼《かれ》が|曾《かつ》てパンフリヤより|離《はな》れ|去《さ》りて、|勤勞《はたらき》のために|共《とも》に|往《ゆ》かざりしをもて、|伴《ともな》ふは|宣《よろ》しからずと|思《おも》ひ、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|激《はげ》しき|爭論《あらそひ》となりて|遂《つひ》に|二人《ふたり》|相《あひ》|別《わか》れ、バルナバはマルコを|伴《ともな》ひ、|舟《ふね》にてクプロに|渡《わた》り、[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]パウロはシラスを|選《えら》び、|兄弟《きゃうだい》たちより|主《しゅ》の|恩惠《めぐみ》に|委《ゆだ》ねられて|出《い》で|立《た》ち、[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]シリヤ、キリキヤを|經《へ》て|諸《しょ》|教會《けうくわい》を|堅《かた》うせり。 第一六章[#「第一六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]かくてパウロ、デルベとルステラとに|到《いた》りたるに、|視《み》よ、|彼處《かしこ》にテモテと|云《い》ふ|弟子《でし》あり、その|母《はは》は|信者《しんじゃ》なるユダヤ|人《びと》にて、|父《ちち》はギリシヤ|人《びと》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はルステラ、イコニオムの|兄弟《きゃうだい》たちの|中《うち》に|令聞《よききこえ》ある|者《もの》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]パウロかれの|共《とも》に|出《い》で|立《た》つことを|欲《ほっ》したれば、その|邊《あたり》に|居《を》るユダヤ|人《びと》のために|之《これ》に|割禮《かつれい》を|行《おこな》へり、その|父《ちち》のギリシヤ|人《びと》たるを|凡《すべ》ての|人《ひと》の|知《し》る|故《ゆゑ》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|町々《まちまち》を|經《へ》ゆきて、エルサレムに|居《を》る|使徒《しと》・|長老《ちゃうらう》たちの|定《さだ》めし|規《のり》を|守《まも》らせんとて、|之《これ》を|人々《ひとびと》に|授《さづ》けたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ここに|諸《しょ》|教會《けうくわい》はその|信仰《しんかう》を|堅《かた》うせられ、|人員《ひとかず》|日毎《ひごと》にいや|増《ま》せり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らアジヤにて|御言《みことば》を|語《かた》ることを|聖《せい》|靈《れい》に|禁《きん》ぜられたれば、フルギヤ|及《およ》びガラテヤの|地《ち》を|經《へ》ゆきて、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ムシヤに|近《ちか》づき、ビテニヤに|往《ゆ》かんと|試《こころ》みたれど、イエスの|御靈《みたま》ゆるし|給《たま》はず、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にムシヤを|過《す》ぎてトロアスに|下《くだ》れり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|夜《よる》、|幻影《まぼろし》を|見《み》たるに、|一人《ひとり》のマケドニヤ|人《びと》あり、|立《た》ちて|己《おのれ》を|招《まね》き『マケドニヤに|渡《わた》りて|我《われ》らを|助《たす》けよ』と|言《い》ふ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]パウロこの|幻影《まぼろし》を|見《み》たれば、|我《われ》らは|神《かみ》のマケドニヤ|人《びと》に|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へしむる|爲《ため》に、|我《われ》らを|召《め》し|給《たま》ふことと|思《おも》ひ|定《さだ》めて、|直《ただ》ちにマケドニヤに|赴《おもむ》かんとせり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]さてトロアスより|船出《ふなで》して、|眞直《ますぐ》にはせてサモトラケにいたり、|次《つぎ》の|日《ひ》ネアポリスにつき、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》よりピリピにゆく。ここはマケドニヤの|中《うち》にて、この|邊《あたり》の|第一《だいいち》の|町《まち》にして|殖民地《しょくみんち》なり、われら|數日《すにち》の|間《あひだ》この|町《まち》に|留《とどま》る。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|安息《あんそく》|日《にち》に|町《まち》の|門《もん》を|出《い》でて、|祈場《いのりば》あらんと|思《おも》はるる|河《かは》のほとりに|往《ゆ》き、|其處《そこ》に|坐《ざ》して、|集《あつま》れる|女《をんな》たちに|語《かた》りたれば、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]テアテラの|町《まち》の|紫《むらさき》|布《ぬの》の|商人《あきうど》にして、|神《かみ》を|敬《うやま》ふルデヤと|云《い》ふ|女《をんな》きき|居《を》りしが、|主《しゅ》その|心《こころ》をひらき、|謹《つつし》みてパウロの|語《かた》る|言《ことば》をきかしめ|給《たま》ふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|己《おのれ》も|家族《かぞく》もバプテスマを|受《う》けてのち、|我《われ》らに|勸《すす》めて|言《い》ふ『なんぢら|我《われ》を|主《しゅ》の|信者《しんじゃ》なりとせば、|我《わ》が|家《いへ》に|來《きた》りて|留《とどま》れ』|斯《か》く|強《し》ひて|我《われ》らを|留《とど》めたり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われら|祈場《いのりば》に|往《ゆ》く|途中《とちゅう》、|卜筮《うらなひ》の|靈《れい》に|憑《つか》れて|卜筮《うらなひ》をなし、|其《そ》の|主人《しゅじん》らに|多《おほ》くの|利《り》を|得《え》さする|婢女《はしため》、われらに|遇《あ》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はパウロ|及《およ》び|我《われ》らの|後《のち》に|從《したが》ひつつ|叫《さけ》びて|言《い》ふ『この|人《ひと》たちは|至高《いとたか》き|神《かみ》の|僕《しもべ》にて、|汝《なんぢ》らに|救《すくひ》の|道《みち》を|教《をし》ふる|者《もの》なり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|幾日《いくひ》も|斯《か》くするをパウロ|憂《うれ》ひて、|振反《ふりかへ》りその|靈《れい》に|言《い》ふ『イエス・キリストの|名《な》によりて、|汝《なんぢ》にこの|女《をんな》より|出《い》でん|事《こと》を|命《めい》ず』|靈《れい》ただちに|出《い》でたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにこの|女《をんな》の|主人《しゅじん》ら|利《り》を|得《う》る|望《のぞみ》のなくなりたるをみて、パウロとシラスとを|捕《とら》へ、|市場《いちば》に|曳《ひ》きて|司《つかさ》たちに|往《ゆ》き、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|上役《うはやく》らに|出《いだ》して|言《い》ふ『この|人々《ひとびと》はユダヤ|人《びと》にて、|我《われ》らの|町《まち》を|甚《いた》く|騷《さわ》がし、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らロマ|人《びと》たる|者《もの》の|受《う》くまじく|行《おこな》ふまじき|習慣《ならはし》を|傳《つた》ふるなり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》も|齊《ひと》しく|起《おこ》り|立《た》ちたれば、|上役《うはやく》ら|命《めい》じて|其《そ》の|衣《ころも》を|褫《は》ぎ、かつ|笞《しもと》にて|打《う》たしむ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》く|打《う》ちてのち|獄《ひとや》に|入《い》れ、|獄守《ひとやもり》に|固《かた》く|守《まも》るべきことを|命《めい》ず。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|獄守《ひとやもり》この|命令《めいれい》を|受《う》けて|二人《ふたり》を|奧《おく》の|獄《ひとや》に|入《い》れ、|桎《かせ》にてその|足《あし》を|締《し》め|置《お》きたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|夜半《よなか》ごろパウロとシラスと|祈《いの》りて|神《かみ》を|讃美《さんび》する|囚人《めしうど》ら|聞《き》きゐたるに、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|俄《にはか》に|大《おほい》なる|地震《ぢしん》おこりて|牢舍《らうや》の|基《もとゐ》ふるひ|動《うご》き、その|戸《と》たちどころに|皆《みな》ひらけ、|凡《すべ》ての|囚人《めしうど》の|縲絏《なはめ》とけたり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|獄守《ひとやもり》、|目《め》さめ|獄《ひとや》の|戸《と》の|開《ひら》けたるを|見《み》て、|囚人《めしうど》にげ|去《さ》れりと|思《おも》ひ、|刀《かたな》を|拔《ぬ》きて|自殺《じさつ》せんとしたるに、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はりて|言《い》ふ『みづから|害《そこな》ふな、|我《われ》ら|皆《みな》ここに|在《あ》り』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|獄守《ひとやもり》、|燈火《ともしび》を|求《もと》め、|駈《か》け|入《い》りて|戰《おのの》きつつパウロとシラスとの|前《まへ》に|平伏《ひれふ》し、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|連《つ》れ|出《いだ》して|言《い》ふ『|君《きみ》たちよ、われ|救《すく》はれん|爲《ため》に|何《なに》をなすべきか』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》は|言《い》ふ『|主《しゅ》イエスを|信《しん》ぜよ、|然《さ》らば|汝《なんぢ》も|汝《なんぢ》の|家族《かぞく》も|救《すく》はれん』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|神《かみ》の|言《ことば》を|獄守《ひとやもり》とその|家《いへ》に|居《を》る|凡《すべ》ての|人々《ひとびと》に|語《かた》れり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]この|夜《よ》、|即時《そくじ》に|獄守《ひとやもり》かれらを|引取《ひきと》りて、その|打傷《うちきず》を|洗《あら》ひ、|遂《つひ》に|己《おのれ》も|己《おのれ》に|屬《ぞく》する|者《もの》もみな|直《ただ》ちにバプテスマを|受《う》け、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]かつ|二人《ふたり》を|自宅《じたく》に|伴《ともな》ひて|食事《しょくじ》をそなへ、|全家《ぜんか》とともに|神《かみ》を|信《しん》じて|喜《よろこ》べり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあけ》になりて|上役《うはやく》らは|警吏《けいり》どもを|遣《つかは》して『かの|人々《ひとびと》を|釋《ゆる》せ』と|言《い》はせたれば、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|獄守《ひとやもり》これらの|言《ことば》をパウロに|告《つ》げて|言《い》ふ『|上役《うはやく》、|人《ひと》を|遣《つかは》して|汝《なんぢ》らを|釋《ゆる》さんとす。|然《さ》れば|今《いま》いでて|安《やす》らかに|往《ゆ》け』[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]ここにパウロ|警吏《けいり》に|言《い》ふ『|我《われ》らはロマ|人《びと》たるに|罪《つみ》を|定《さだ》めずして|公然《おほやけ》に|鞭《むち》うち、|獄《ひとや》に|投《な》げ|入《い》れたり。|然《しか》るに|今《いま》ひそかに|我《われ》らを|出《いだ》さんと|爲《す》るか。|然《しか》るべからず、|彼《かれ》|等《ら》みづから|來《きた》りて|我《われ》らを|連《つ》れ|出《いだ》すべし』[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|警吏《けいり》これらの|言《ことば》を|上役《うはやく》に|告《つ》げたれば、|其《そ》のロマ|人《びと》たるを|聞《き》きて|懼《おそ》れ、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|來《きた》り|宥《なだ》めて、|二人《ふたり》を|連《つ》れ|出《いだ》し、かつ|町《まち》を|去《さ》らんことを|請《こ》ふ。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|二人《ふたり》は|獄《ひとや》を|出《い》でてルデヤの|家《いへ》に|入《い》り、|兄弟《きゃうだい》たちに|逢《あ》ひ、|勸《すすめ》をなして|出《い》で|往《ゆ》けり。 第一七章[#「第一七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]かくてアムピポリス|及《およ》びアポロニヤを|經《へ》てテサロニケに|到《いた》る。|此處《ここ》にユダヤ|人《びと》の|會堂《くわいだう》ありたれば、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]パウロは|例《れい》のごとく|彼《かれ》らの|中《うち》に|入《い》り、|三《み》つの|安息《あんそく》|日《にち》にわたり、|聖書《せいしょ》に|基《もとづ》きて|論《ろん》じ、かつ|解《と》き|明《あか》して、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]キリストの|必《かなら》ず|苦難《くるしみ》をうけ、|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へるべきことを|述《の》べ『わが|汝《なんぢ》らに|傳《つた》ふる|此《こ》のイエスはキリストなり』と|證《あかし》せり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》のある|人々《ひとびと》および|敬虔《けいけん》なる|數多《あまた》のギリシヤ|人《びと》、また|多《おほ》くの|重立《おもだ》ちたる|女《をんな》も|信《しん》じてパウロとシラスとに|從《したが》へり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ここにユダヤ|人《びと》ら|嫉《ねたみ》を|起《おこ》して|市《し》の|無頼者《あぶれもの》をかたらひ、|群衆《ぐんじゅう》を|集《あつ》めて|町《まち》を|騷《さわ》がし、|又《また》ふたりを|集民《しふみん》の|前《まへ》に|曳《ひ》き|出《いだ》さんとしてヤソンの|家《いへ》を|圍《かこ》みしが、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|見出《みいだ》さざれば、ヤソンと|數人《すにん》の|兄弟《きゃうだい》とを|町《まち》|司《つかさ》たちの|前《まへ》に|曳《ひ》ききたり、|呼《よば》はりて|言《い》ふ『|天下《てんか》を|顛覆《くつがへ》したる|彼《か》の|者《もの》ども|此處《ここ》にまで|來《きた》れるを、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ヤソン|迎《むか》へ|入《い》れたり。この|曹輩《ともがら》は|皆《みな》カイザルの|詔勅《みことのり》にそむき、|他《ほか》にイエスと|云《い》ふ|王《わう》ありと|言《い》ふ』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》をききて|群衆《ぐんじゅう》と|町《まち》|司《つかさ》たちと|心《こころ》をさわがし、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|保證《ほしょう》を|取《と》りてヤソンと|他《ほか》の|人々《ひとびと》とを|釋《ゆる》せり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》たち|直《ただ》ちに|夜《よる》の|間《ま》にパウロとシラスとをベレヤに|送《おく》りいだす。|二人《ふたり》は|彼處《かしこ》につきてユダヤ|人《びと》の|會堂《くわいだう》にいたる。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》の|人々《ひとびと》はテサロニケに|居《を》る|人《ひと》よりも|善良《ぜんりゃう》にして、|心《こころ》より|御言《みことば》をうけ、この|事《こと》|正《ただ》しく|然《しか》るか|然《しか》らぬか、|日々《ひび》|聖書《せいしょ》をしらぶ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》にその|中《うち》の|多《おほ》くのもの|信《しん》じたり、|又《また》ギリシヤの|貴女《きぢょ》、|男子《だんし》にして|信《しん》じたる|者《もの》も|少《すくな》からざりき。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにテサロニケのユダヤ|人《びと》ら、パウロがベレヤにも|神《かみ》の|言《ことば》を|傳《つた》ふることを|聞《き》きたれば、|此處《ここ》にも|來《きた》りて|群衆《ぐんじゅう》を|動《うご》かし、かつ|騷《さわ》がしたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|兄弟《きゃうだい》たち|直《ただ》ちにパウロを|送《おく》り|出《いだ》して|海邊《うみべ》に|往《ゆ》かしめ、シラスとテモテとは|尚《なほ》ベレヤに|留《とどま》れり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]パウロを|導《みちび》ける|人々《ひとびと》はアテネまで|伴《ともな》ひ|往《ゆ》き、パウロよりシラスとテモテとに、|疾《と》く|我《われ》に|來《きた》れとの|命《めい》を|受《う》けて|立《た》ち|去《さ》れり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]パウロ、アテネにて|彼《かれ》らを|待《ま》ちをる|間《ほど》に、|町《まち》に|偶像《ぐうざう》の|滿《み》ちたるを|見《み》て、その|心《こころ》に|憤慨《いきどほり》を|懷《いだ》く。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されば|會堂《くわいだう》にてはユダヤ|人《びと》および|敬虔《けいけん》なる|人々《ひとびと》と|論《ろん》じ、|市場《いちば》にては|日々《ひび》|逢《あ》ふところの|者《もの》と|論《ろん》じたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|斯《かく》てエピクロス|派《は》ならびにストア|派《は》の|哲學者《てつがくしゃ》|數人《すにん》これと|論《ろん》じあひ、|或《ある》|者《もの》らは|言《い》ふ『この|囀《さえづ》る|者《もの》なにを|言《い》はんとするか』|或《ある》|者《もの》らは|言《い》ふ『かれは|異《こと》なる|神々《かみがみ》を|傳《つた》ふる|者《もの》の|如《ごと》し』|是《これ》はパウロがイエスと|復活《よみがへり》とを|宣《の》べたる|故《ゆゑ》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》にパウロをアレオパゴスに|連《つ》れ|往《ゆ》きて|言《い》ふ『なんぢが|語《かた》るこの|新《あたら》しき|教《をしへ》の|如何《いか》なるものなるを、|我《われ》ら|知《し》り|得《う》べきか。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|異《こと》なる|事《こと》を|我《われ》らの|耳《みみ》に|入《い》るるが|故《ゆゑ》に、|我《われ》らその|何事《なにごと》たるを|知《し》らんと|思《おも》ふなり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]アテネ|人《ひと》も、|彼處《かしこ》に|住《す》む|旅人《たびびと》も、|皆《みな》ただ|新《あたら》しき|事《こと》を|或《あるひ》は|語《かた》り、|或《あるひ》は|聞《き》きてのみ|日《ひ》を|送《おく》りゐたり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]パウロ、アレオパゴスの|中《なか》に|立《た》ちて|言《い》ふ『アテネ|人《ひと》よ、|我《われ》すべての|事《こと》に|就《つ》きて|汝《なんぢ》らが|神々《かみがみ》を|敬《うやま》ふ|心《こころ》の|篤《あつ》きを|見《み》る。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らが|拜《をが》むものを|見《み》つつ|道《みち》を|過《す》ぐるほどに「|知《し》らざる|神《かみ》に」と|記《しる》したる|一《ひと》つの|祭壇《さいだん》を|見出《みいだ》したり。|然《さ》れば|我《われ》なんぢらが|知《し》らずして|拜《をが》む|所《ところ》のものを|汝《なんぢ》らに|示《しめ》さん。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|世界《せかい》とその|中《なか》のあらゆる|物《もの》とを|造《つく》り|給《たま》ひし|神《かみ》は、|天《てん》|地《ち》の|主《しゅ》にましませば、|手《て》にて|造《つく》れる|宮《みや》に|住《す》み|給《たま》はず。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]みづから|凡《すべ》ての|人《ひと》に|生命《いのち》と|息《いき》と|萬《よろづ》の|物《もの》とを|與《あた》へ|給《たま》へば、|物《もの》に|乏《とぼ》しき|所《ところ》あるが|如《ごと》く、|人《ひと》の|手《て》にて|事《つか》ふることを|要《えう》し|給《たま》はず。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|一人《ひとり》よりして|諸種《もろもろ》の|國人《くにびと》を|造《つく》りいだし、|之《これ》を|地《ち》の|全面《ぜんめん》に|住《す》ましめ、|時期《とき》の|限《かぎり》と|住居《すまひ》の|界《さかひ》とを|定《さだ》め|給《たま》へり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]これ|人《ひと》をして|神《かみ》を|尋《たづ》ねしめ、|或《あるひ》は|探《さぐ》りて|見《み》|出《いだ》す|事《こと》あらしめん|爲《ため》なり。されど|神《かみ》は|我等《われら》おのおのを|離《はな》れ|給《たま》ふこと|遠《とほ》からず、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|神《かみ》の|中《うち》に|生《い》き、|動《うご》きまた|在《あ》るなり。|汝《なんぢ》らの|詩人《しじん》の|中《うち》の|或《ある》|者《もの》どもも「|我《われ》らは|又《また》その|裔《すゑ》なり」と|云《い》へる|如《ごと》し。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]かく|神《かみ》の|裔《すゑ》なれば、|神《かみ》を|金《きん》・|銀《ぎん》・|石《いし》など|人《ひと》の|工《わざ》と|思考《かんがへ》とにて|刻《きざ》める|物《もの》と|等《ひと》しく|思《おも》ふべきにあらず。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はかかる|無知《むち》の|時代《じだい》を|見《み》|過《すご》しにし|給《たま》ひしが、|今《いま》は|何處《いづこ》にても|凡《すべ》ての|人《ひと》に|悔改《くいあらた》むべきことを|告《つ》げたまふ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|曩《さき》に|立《た》て|給《たま》ひし|一人《ひとり》によりて、|義《ぎ》をもて|世界《せかい》を|審《さば》かんために|日《ひ》をさだめ、|彼《かれ》を|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせて|保證《ほしょう》を|萬人《ばんにん》に|與《あた》へ|給《たま》へり』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》、|死人《しにん》の|復活《よみがへり》をききて、|或《ある》|者《もの》は|嘲笑《あざわら》ひしが、|或《ある》|者《もの》は『われら|復《また》この|事《こと》を|汝《なんぢ》に|聞《き》かん』と|言《い》へり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]ここにパウロ|人々《ひとびと》のなかを|出《い》で|去《さ》る。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》に|附隨《つきしたが》ひて|信《しん》じたるもの|數人《すにん》あり。|其《そ》の|中《うち》にアレオパゴスの|裁判人《さいばんにん》デオヌシオ|及《およ》びダマリスと|名《な》づくる|女《をんな》あり、|尚《なほ》その|他《ほか》にもありき。 第一八章[#「第一八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》パウロ、アテネを|離《はな》れてコリントに|到《いた》り、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]アクラと|云《い》ふポントに|生《うま》れたるユダヤ|人《びと》に|遇《あ》ふ。クラウデオ、ユダヤ|人《びと》にことごとくロマを|退《しりぞ》くべき|命《めい》を|下《くだ》したるによりて、|近頃《ちかごろ》その|妻《つま》プリスキラと|共《とも》にイタリヤより|來《きた》りし|者《もの》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|其《そ》の|許《もと》に|到《いた》りしに、|同業《どうげふ》なりしかば|偕《とも》に|居《を》りて|工《わざ》をなせり。|彼《かれ》らの|業《わざ》は|幕屋《まくや》|製造《つくり》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|安息《あんそく》|日《にち》|毎《ごと》に|會堂《くわいだう》にて|論《ろん》じ、ユダヤ|人《びと》とギリシヤ|人《びと》とを|勸《すす》む。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]シラスとテモテとマケドニヤより|來《きた》りて|後《のち》は、パウロ|專《もっぱ》ら|御言《みことば》を|宣《の》ぶることに|力《つと》め、イエスのキリストたることをユダヤ|人《びと》に|證《あかし》せり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに、|彼《かれ》ら|之《これ》に|逆《さから》ひかつ|罵《ののし》りたれば、パウロ|衣《ころも》を|拂《はら》ひて|言《い》ふ『なんぢらの|血《ち》は|汝《なんぢ》らの|首《かうべ》に|歸《き》すべし、|我《われ》はいさぎよし、|今《いま》より|異邦人《いはうじん》に|往《ゆ》かん』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|此處《ここ》を|去《さ》りて、|神《かみ》を|敬《うやま》ふテテオ・ユストと|云《い》ふ|人《ひと》の|家《いへ》に|到《いた》る。この|家《いへ》は|會堂《くわいだう》に|隣《とな》れり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|會堂《くわいだう》|司《つかさ》クリスポその|家族《かぞく》|一同《いちどう》と|共《とも》に|主《しゅ》を|信《しん》じ、また|多《おほ》くのコリント|人《ひと》も|聽《き》きて|信《しん》じ、かつバプテスマを|受《う》けたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》は|夜《よる》まぼろしの|中《うち》にパウロに|言《い》ひ|給《たま》ふ『おそるな、|語《かた》れ、|默《もく》すな、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢと|偕《とも》にあり、|誰《たれ》も|汝《なんぢ》を|攻《せ》めて|害《そこな》ふ|者《もの》なからん。|此《こ》の|町《まち》には|多《おほ》くの|我《わ》が|民《たみ》あり』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かくてパウロ|一年《いちねん》|六个月《ろくかげつ》ここに|留《とどま》りて|神《かみ》の|言《ことば》を|教《をし》へたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ガリオ、アカヤの|總督《そうとく》たる|時《とき》、ユダヤ|人《びと》、|心《こころ》を|一《ひと》つにしてパウロを|攻《せ》め、|審判《さばき》の|座《ざ》に|曳《ひ》きゆき、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]『この|人《ひと》は|律法《おきて》にかなはぬ|仕方《しかた》にて|神《かみ》を|拜《をが》むことを|人《ひと》に|勸《すす》む』と|言《い》ひたれば、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|口《くち》を|開《ひら》かんとせしに、ガリオ、ユダヤ|人《びと》に|言《い》ふ『ユダヤ|人《びと》よ、|不正《ふせい》または|奸惡《かんあく》の|事《こと》ならば、|我《わ》が|汝《なんぢ》らに|聽《き》くは|道理《ことわり》なれど、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]もし|言《ことば》・|名《な》あるいは|汝《なんぢ》らの|律法《おきて》にかかはる|問題《もんだい》ならば、|汝《なんぢ》|等《ら》みづから|理《おさ》むべし。|我《われ》かかる|事《こと》の|審判《さばき》|人《ひと》となるを|好《この》まず』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》らを|審判《さばき》の|座《ざ》より|逐《お》ひいだす。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]ここに|人々《ひとびと》みな|會堂《くわいだう》|司《つかさ》ソステネを|執《とら》へ、|審判《さばき》の|座《ざ》の|前《まへ》にて|打《う》ち|抃《たた》きたり。ガリオは|凡《すべ》て|此《これ》らの|事《こと》を|意《い》とせざりき。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]パウロなほ|久《ひさ》しく|留《とどま》りてのち、|兄弟《きゃうだい》たちに|別《わかれ》を|告《つ》げ、プリスキラとアクラとを|伴《ともな》ひ、シリヤに|向《むか》ひて|船出《ふなで》す。|早《はや》くより|誓願《せいぐわん》ありたれば、ケンクレヤにて|髮《かみ》を|剃《そ》れり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくてエペソに|著《つ》き、|其處《そこ》にこの|二人《ふたり》を|留《とど》めおき、|自《みづか》らは|會堂《くわいだう》に|入《い》りてユダヤ|人《びと》と|論《ろん》ず。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》かれに|今《いま》しばらく|居《を》らんことを|請《こ》ひたれど、|肯《がへ》んぜずして、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|別《わかれ》を|告《つ》げ『|神《かみ》の|御意《みこころ》ならば|復《また》なんぢらに|返《かへ》らん』と|言《い》ひてエペソより|船出《ふなで》し、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]カイザリヤにつき、|而《しか》してエルサレムに|上《のぼ》り、|教會《けうくわい》の|安否《あんぴ》を|問《と》ひてアンテオケに|下《くだ》り、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》に|暫《しばら》く|留《とどま》りて|後《のち》、また|去《さ》りてガラテヤ、フルギヤの|地《ち》を|次々《つぎつぎ》に|經《へ》て|凡《すべ》ての|弟子《でし》を|堅《かた》うせり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》にアレキサンデリヤ|生《うま》れのユダヤ|人《びと》にて、|聖書《せいしょ》に|通達《つうたつ》したるアポロと|云《い》ふ|能辯《のうべん》なる|者《もの》エペソに|下《くだ》る。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》は|曩《さき》に|主《しゅ》の|道《みち》を|教《をし》へられ、ただヨハネのバプテスマを|知《し》るのみなれど、|熱心《ねっしん》にして|詳細《つまびらか》にイエスの|事《こと》を|語《かた》り、かつ|教《をし》へたり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]かれ|會堂《くわいだう》にて|臆《おく》せずして|語《かた》り|始《はじ》めしを、プリスキラとアクラと|聞《き》きゐて|之《これ》を|迎《むか》へ|入《い》れ、なほも|詳細《つまびらか》に|神《かみ》の|道《みち》を|解《と》き|明《あか》せり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]アポロ|遂《つひ》にアカヤに|渡《わた》らんとしたれば、|兄弟《きゃうだい》たち|之《これ》を|勵《はげ》まし、かつ|弟子《でし》たちに|彼《かれ》を|受《う》け|容《い》るるやうに|書《か》き|贈《おく》れり。|彼《かれ》かしこに|往《ゆ》き、|既《すで》に|恩惠《めぐみ》によりて|信《しん》じたる|者《もの》に|多《おほ》くの|益《えき》を|與《あた》ふ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|聖書《せいしょ》に|基《もとづ》き、イエスのキリストたる|事《こと》を|示《しめ》して、|激甚《ていた》くかつ|公然《おほやけ》にユダヤ|人《びと》を|言《い》ひ|伏《ふ》せたるなり。 第一九章[#「第一九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]かくてアポロ、コリントに|居《を》りし|時《とき》、パウロ|東《ひがし》の|地方《ちはう》を|經《へ》てエペソに|到《いた》り、|或《ある》|弟子《でし》たちに|逢《あ》ひて、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢら|信者《しんじゃ》となりしとき|聖《せい》|靈《れい》を|受《う》けしか』と|言《い》ひたれば、|彼《かれ》|等《ら》いふ『いな、|我《われ》らは|聖《せい》|靈《れい》の|有《あ》ることすら|聞《き》かず』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|言《い》ふ『されば|何《なに》によりてバプテスマを|受《う》けしか』|彼《かれ》|等《ら》いふ『ヨハネのバプテスマなり』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|言《い》ふ『ヨハネは|悔改《くいあらため》のバプテスマを|授《さづ》けて、|己《おのれ》に|後《のち》れて|來《きた》るもの(|即《すなは》ちイエス)を|信《しん》ずべきことを|民《たみ》に|云《い》へるなり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》これを|聞《き》きて|主《しゅ》イエスの|名《な》によりてバプテスマを|受《う》く。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|手《て》を|彼《かれ》らの|上《うへ》に|按《お》きしとき、|聖《せい》|靈《れい》その|上《うへ》に|望《のぞ》みたれば、|彼《かれ》ら|異言《いげん》を|語《かた》り、かつ|預言《よげん》せり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]この|人々《ひとびと》は|凡《すべ》て|十二《じふに》|人《にん》ほどなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ここにパウロ|會堂《くわいだう》に|入《い》りて、|三个月《さんかげつ》のあひだ|臆《おく》せずして|神《かみ》の|國《くに》に|就《つ》きて|論《ろん》じ、かつ|勸《すす》めたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|或《ある》|者《もの》ども|頑固《かたくな》になりて|從《したが》はず、|會衆《くわいしゅう》の|前《まへ》に|神《かみ》の|道《みち》を|譏《そし》りたれば、パウロ|彼《かれ》らを|離《はな》れ、|弟子《でし》たちをも|退《しりぞ》かしめ、|日毎《ひごと》にツラノの|會堂《くわいだう》にて|論《ろん》ず。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くすること|二年《にねん》の|間《あひだ》なりしかば、アジヤに|住《す》む|者《もの》は、ユダヤ|人《びと》もギリシヤ|人《びと》もみな|主《しゅ》の|言《ことば》を|聞《き》けり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|神《かみ》はパウロの|手《て》によりて|尋常《よのつね》ならぬ|能力《ちから》ある|業《わざ》を|行《おこな》ひたまふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|人々《ひとびと》かれの|身《み》より|或《あるひ》は|手拭《てぬぐひ》あるひは|前垂《まへだれ》をとりて|病《や》める|者《もの》に|著《つ》くれば、|病《やまひ》は|去《さ》り|惡《あく》|靈《れい》は|出《い》でたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|諸國《しょこく》|遍歴《へんれき》の|咒文《じゅもん》|師《し》なるユダヤ|人《びと》|數人《すにん》あり、|試《こころ》みに|惡《あく》|靈《れい》に|憑《つ》かれたる|者《もの》に|對《たい》して、|主《しゅ》イエスの|名《な》を|呼《よ》び『われパウロの|宣《の》ぶるイエスによりて、|汝《なんぢ》らに|命《めい》ず』と|言《い》へり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くなせる|者《もの》の|中《うち》に、ユダヤの|祭司長《さいしちゃう》スケワの|七人《しちにん》の|子《こ》もありき。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|惡《あく》|靈《れい》こたへて|言《い》ふ『われイエスを|知《し》り、|又《また》パウロを|知《し》る。|然《さ》れど|汝《なんぢ》らは|誰《たれ》ぞ』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|惡《あく》|靈《れい》の|入《い》りたる|人《ひと》、かれらに|跳《と》びかかりて|二人《ふたり》に|勝《か》ち、これを|打拉《うちひし》ぎたれば、|彼《かれ》ら|裸體《はだか》になり|傷《きず》を|受《う》けてその|家《いへ》を|逃《に》げ|出《い》でたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|事《こと》エペソに|住《す》む|凡《すべ》てのユダヤ|人《びと》とギリシヤ|人《びと》とに|知《し》れたれば、|懼《おそれ》かれら|一同《いちどう》のあひだに|生《しゃう》じ、|主《しゅ》イエスの|名《な》|崇《あが》めらる。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|信者《しんじゃ》となりし|者《もの》おほく|來《きた》り、|懴悔《ざんげ》して|自《みづか》らの|行爲《おこなひ》を|告《つ》ぐ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]また|魔術《まじゅつ》を|行《おこな》ひし|多《おほ》くの|者《もの》ども、その|書物《しょもつ》を|持《も》ちきたり、|衆人《しゅうじん》の|前《まへ》にて|焚《や》きたるが、|其《そ》の|價《あたひ》を|算《かぞ》ふれば|銀《ぎん》|五《ご》|萬《まん》ほどなりき。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|言《ことば》、|大《おほい》に|弘《ひろま》りて|權力《ちから》を|得《え》しこと|斯《か》くの|如《ごと》し。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》の|事《こと》のありし|後《のち》、パウロ、マケドニヤ、アカヤを|經《へ》てエルサレムに|往《ゆ》かんと|心《こころ》を|決《さだ》めて|言《い》ふ『われ|彼處《かしこ》に|到《いた》りてのち|必《かなら》ずロマをも|見《み》るべし』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|己《おのれ》に|事《つか》ふる|者《もの》の|中《うち》にてテモテとエラストとの|二人《ふたり》をマケドニヤに|遣《つかは》し、|自己《みづから》はアジヤに|暫《しばら》く|留《とどま》る。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]その|頃《ころ》この|道《みち》に|就《つ》きて|一方《ひとかた》ならぬ|騷擾《さわぎ》おこれり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]デメテリオと|云《い》ふ|銀《ぎん》|細工人《さいくにん》ありしが、アルテミスの|銀《ぎん》の|小宮《こみや》を|造《つく》りて|細工人《さいくにん》らに|多《おほ》くの|業《わざ》を|得《え》させたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]それらの|者《もの》および|同《おな》じ|類《たぐひ》の|職業《しょくげふ》|者《しゃ》を|集《あつ》めて|言《い》ふ『|人々《ひとびと》よ、われらが|此《こ》の|業《わざ》に|頼《よ》りて|利《り》|益《えき》を|得《う》ることは、|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに、かのパウロは|手《て》にて|造《つく》れる|物《もの》は|神《かみ》にあらずと|云《い》ひて、|唯《ただ》にエペソのみならず、|殆《ほとん》ど|全《ぜん》アジヤにわたり、|多《おほ》くの|人々《ひとびと》を|説《と》き|勸《すす》めて|惑《まどは》したり、これ|亦《また》なんぢらの|見《み》|聞《きき》する|所《ところ》なり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]かくては|啻《ただ》に|我《われ》らの|職業《しょくげふ》の|輕《かろ》しめらるる|恐《おそれ》あるのみならず、また|大女神《おほめがみ》アルテミスの|宮《みや》も|蔑《なみ》せられ、|全《ぜん》アジヤ|全世界《ぜんせかい》のをがむ|大女神《おほめがみ》の|稜威《みいつ》も|滅《ほろ》ぶるに|至《いた》らん』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》これを|聞《き》きて|憤恚《いきどほり》に|滿《みた》され、|叫《さけ》びて|言《い》ふ『|大《おほい》なる|哉《かな》、エペソ|人《ひと》のアルテミス』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|町《まち》|擧《こぞ》りて|騷《さわ》ぎ|立《た》ち、|人々《ひとびと》パウロの|同行《どうかう》|者《しゃ》なるマケドニヤ|人《びと》ガイオとアリスタルコとを|捕《とら》へ、|心《こころ》を|一《ひと》つにして|劇場《げきじゃう》に|押入《おしい》りたり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|集民《しふみん》のなかに|入《い》らんとしたれど、|弟子《でし》たち|許《ゆる》さず。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》アジヤの|祭《まつり》の|司《つかさ》のうちの|或《ある》|者《もの》どもも|彼《かれ》と|親《した》しかりしかば、|人《ひと》を|遣《つかは》して|劇場《げきじゃう》に|入《い》らぬやうにと|勸《すす》めたり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|會衆《くわいしゅう》おほいに|亂《みだ》れ、|大方《おほかた》はその|何《なに》のために|集《あつま》りたるかを|知《し》らずして、|或《ある》|者《もの》はこの|事《こと》を、|或《ある》|者《もの》はかの|事《こと》を|叫《さけ》びたり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|群衆《ぐんじゅう》の|或《ある》|者《もの》ども、ユダヤ|人《びと》の|推《お》し|出《いだ》したるアレキサンデルに|勸《すす》めたれば、かれ|手《て》を|搖《うご》かして|集民《しふみん》に|辯明《べんめい》をなさんとすれど、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|其《そ》のユダヤ|人《びと》たるを|知《し》り、みな|同音《どうおん》に『おほいなる|哉《かな》、エペソ|人《ひと》のアルテミス』と|呼《よば》はりて|二《に》|時間《じかん》ばかりに|及《およ》ぶ。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》に|書記役《しゅきやく》、|群衆《ぐんじゅう》を|鎭《しづ》めおきて|言《い》ふ『さてエペソ|人《ひと》よ、|誰《たれ》かエペソの|町《まち》が|大女神《おほめがみ》アルテミス|及《およ》び|天《てん》より|降《くだ》りし|像《ざう》の|宮守《みやもり》なることを|知《し》らざる|者《もの》あらんや。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]これは|言《い》ひ|消《け》し|難《かた》きことなれば、なんぢら|靜《しづか》なるべし、|妄《みだり》なる|事《こと》を|爲《な》すべからず。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]この|人々《ひとびと》は|宮《みや》の|物《もの》を|盜《ぬす》む|者《もの》にあらず、|我《われ》らの|女《をんな》|神《かみ》を|謗《そし》る|者《もの》にもあらず、|然《しか》るに|汝《なんぢ》ら|之《これ》を|曳《ひ》き|來《きた》れり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]もしデメテリオ|及《およ》び|偕《とも》にをる|細工人《さいくにん》ら、|人《ひと》に|就《つ》きて|訴《うった》ふべき|事《こと》あらば、|裁判《さいばん》の|日《ひ》あり、かつ|司《つかさ》あり、|彼《かれ》|等《ら》おのおの|訴《うった》ふべし。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]もし|又《また》ほかの|事《こと》につきて|議《ぎ》する|所《ところ》あらば、|正式《せいしき》の|議會《ぎくわい》にて|決《けっ》すべし。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ら|今日《けふ》の|騷擾《さわぎ》につきては、|何《なに》の|理由《りいう》もなきにより|咎《とが》を|受《う》くる|恐《おそれ》あり。この|會合《くあいがふ》につきて|言《い》ひひらくこと|能《あた》はねばなり』[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|言《い》ひて|集會《あつまり》を|散《さん》じたり。 第二〇章[#「第二〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|騷亂《さわぎ》のやみし|後《のち》、パウロ|弟子《でし》たちを|招《まね》きて|勸《すすめ》をなし、|之《これ》に|別《わかれ》を|告《つ》げ、マケドニヤに|往《ゆ》かんとて|出《い》で|立《た》つ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して、かの|地方《ちはう》を|巡《めぐ》り|多《おほ》くの|言《ことば》をもて|弟子《でし》たちを|勸《すす》めし|後《のち》、ギリシヤに|到《いた》る。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]そこに|留《とどま》ること|三个月《さんかげつ》にして、シリヤに|向《むか》ひて|船出《ふなで》せんとする|時《とき》、おのれを|害《そこな》はんとするユダヤ|人《びと》らの|計略《はかりごと》に|遭《あ》ひたれば、マケドニヤを|經《へ》て|歸《かへ》らんと|心《こころ》を|決《さだ》む。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|伴《ともな》へる|人々《ひとびと》はベレア|人《ひと》にしてプロの|子《こ》なるソパテロ、テサロニケ|人《ひと》アリスタルコ|及《およ》びセクンド、デルベ|人《ひと》ガイオ|及《およ》びテモテ、アジヤ|人《ひと》テキコ|及《およ》びトロピモなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|先《さき》だちゆき、トロアスにて|我《われ》らを|待《ま》てり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|除酵祭《じょかうさい》の|後《のち》ピリピより|船出《ふなで》し、|五日《いつか》にしてトロアスに|著《つ》き、|彼《かれ》らの|許《もと》に|到《いた》りて|七日《なぬか》のあひだ|留《とどま》れり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|一週《ひとまはり》の|首《はじめ》の|日《ひ》われらパンを|擘《さ》かんとて|集《あつま》りしが、パウロ|明日《あす》いで|立《た》たんとて|彼《かれ》|等《ら》とかたり、|夜半《よなか》まで|語《かた》り|續《つづ》けたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|集《あつま》りたる|高樓《たかどの》には|多《おほ》くの|燈火《ともしび》ありき。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ここにユテコといふ|若者《わかもの》|窓《まど》に|倚《よ》りて|坐《ざ》しゐたるが、|甚《いた》く|眠氣《ねむけ》ざすほどに、パウロの|語《かた》ること|愈々《いよいよ》|久《ひさ》しくなりたれば、|遂《つひ》に|熟睡《じゅくすゐ》して|三階《さんがい》より|落《お》つ。これを|扶《たす》け|起《おこ》したるに、はや|死《し》にたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|降《くだ》りて|其《そ》の|上《うへ》に|伏《ふ》し、かき|抱《いだ》きて|言《い》ふ『なんぢら|騷《さわ》ぐな、|生命《いのち》はなほ|内《うち》にあり』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|復《また》のぼりてパンを|擘《さ》き、|食《しょく》してのち|久《ひさ》しく|語《かた》りあひ、|夜明《よあけ》に|至《いた》り|遂《つひ》に|出《い》でたてり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》かの|若者《わかもの》の|活《い》きたるを|連《つ》れきたり、|甚《いた》く|慰藉《なぐさめ》を|得《え》たり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|我《われ》らは|先《さき》だちて|船《ふね》に|乘《の》り、アソスにてパウロを|載《の》せんとして|彼處《かしこ》に|船出《ふなで》せり。|彼《かれ》は|徒歩《かち》にて|往《ゆ》かんとて|斯《か》くは|定《さだ》めたるなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らアソスにてパウロを|待《ま》ち|迎《むか》へ、これを|載《の》せてミテレネに|渡《わた》り、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]また|彼處《かしこ》より|船出《ふなで》して|翌日《よくじつ》キヨスの|彼方《かなた》にいたり、|次《つぎ》の|日《ひ》サモスに|立《た》ち|寄《よ》り、その|次《つぎ》の|日《ひ》ミレトに|著《つ》く。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]パウロ、アジヤにて|時《とき》を|費《つひや》さぬ|爲《ため》に、エペソには|船《ふね》を|寄《よ》せずして|過《す》ぐることに|定《さだ》めしなり。これは|成《な》るべく|五旬節《ごじゅんせつ》の|日《ひ》エルサレムに|在《あ》ることを|得《え》んとて|急《いそ》ぎしに|因《よ》る。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》してパウロ、ミレトより|人《ひと》をエペソに|遣《つかは》し、|教會《けうくわい》の|長老《ちゃうらう》たちを|呼《よ》びて、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]その|來《きた》りし|時《とき》かれらに|言《い》ふ『わがアジヤに|來《きた》りし|初《はじめ》の|日《ひ》より、|如何《いか》なる|状《さま》にて|常《つね》に|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|居《を》りしかは、|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|謙遜《けんそん》の|限《かぎり》をつくし、|涙《なみだ》を|流《なが》し、ユダヤ|人《びと》の|計略《はかりごと》によりて|迫《せま》り|來《き》し|艱難《なやみ》に|耐《た》へて|主《しゅ》につかへ、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|益《えき》となる|事《こと》は|何《なに》くれとなく|憚《はばか》らずして|告《つ》げ、|公然《おほやけ》にても|家々《いへいへ》にても|汝《なんぢ》らを|教《をし》へ、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》にもギリシヤ|人《びと》にも、|神《かみ》に|對《たい》して|悔改《くいあらた》め、われらの|主《しゅ》イエスに|對《たい》して|信仰《しんかう》すべきことを|證《あかし》せり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|今《いま》われは|心《こころ》|搦《から》められてエルサレムに|往《ゆ》く。|彼處《かしこ》にて|如何《いか》なる|事《こと》の|我《われ》に|及《およ》ぶかを|知《し》らず。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ただ|聖《せい》|靈《れい》いづれの|町《まち》にても|我《われ》に|證《あかし》して、|縲絏《なはめ》と|患難《なやみ》と|我《われ》を|待《ま》てりと|告《つ》げたまふ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|我《われ》わが|走《はし》るべき|道程《みちのり》と、|主《しゅ》イエスより|承《う》けし|職《つとめ》、すなわち|神《かみ》の|惠《めぐみ》の|福音《ふくいん》を|證《あかし》する|事《こと》とを|果《はた》さん|爲《ため》には、|固《もと》より|生命《いのち》をも|重《おも》んぜざるなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|今《いま》われは|知《し》る、|前《さき》に|汝《なんぢ》らの|中《うち》を|歴《へ》|巡《めぐ》りて|御國《みくに》を|宣傳《のべつた》へし|我《わ》が|顏《かほ》を、|汝《なんぢ》ら|皆《みな》ふたたび|見《み》ざるべきを。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、われ|今日《けふ》なんぢらに|證《あかし》す、われは|凡《すべ》ての|人《ひと》の|血《ち》につきていさぎよし。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|憚《はばか》らずして|神《かみ》の|御旨《みむね》をことごとく|汝《なんぢ》らに|告《つ》げしなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》みづから|心《こころ》せよ、|又《また》すべての|群《むれ》に|心《こころ》せよ、|聖《せい》|靈《れい》は|汝《なんぢ》|等《ら》を|群《むれ》のなかに|立《た》てて|監督《かんとく》となし、|神《かみ》の|己《おのれ》の|血《ち》をもて|買《か》ひ|給《たま》ひし|教會《けうくわい》を|牧《ぼく》せしめ|給《たま》ふ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]われ|知《し》る、わが|出《い》で|去《さ》るのち、|暴《あら》き|豺狼《おほかみ》なんぢらの|中《うち》に|入《い》りきたりて、|群《むれ》を|惜《をし》まず、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》なんぢらの|中《うち》よりも、|弟子《でし》たちを|己《おの》が|方《かた》に|引《ひ》き|入《い》れんとて、|曲《まが》れることを|語《かた》るもの|起《おこ》らん。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》ら|目《め》を|覺《さま》しをれ。|三年《さんねん》の|間《あひだ》わが|夜《よる》も|晝《ひる》も|休《やす》まず、|涙《なみだ》をもて|汝《なんぢ》|等《ら》おのおのを|訓戒《くんかい》せしことを|憶《おぼ》えよ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]われ|今《いま》なんぢらを、|主《しゅ》および|其《そ》の|惠《めぐみ》の|御言《みことば》に|委《ゆだ》ぬ。|御言《みことば》は|汝《なんぢ》らの|徳《とく》を|建《た》て、すべての|潔《きよ》められたる|者《もの》とともに|嗣業《しげふ》を|受《う》けしめ|得《う》るなり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|人《ひと》の|金《きん》|銀《ぎん》・|衣服《ころも》を|貪《むさぼ》りし|事《こと》なし。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]この|手《て》は|我《わ》が|必要《ひつえう》に|供《そな》へ、また|我《われ》と|偕《とも》なる|者《もの》に|供《そな》へしことを|汝《なんぢ》|等《ら》みづから|知《し》る。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》すべての|事《こと》に|於《おい》て|例《れい》を|示《しめ》せり、|即《すなは》ち|汝《なんぢ》らも|斯《か》く|働《はたら》きて、|弱《よわ》き|者《もの》を|助《たす》け、また|主《しゅ》イエスの|自《みづか》ら|言《い》ひ|給《たま》ひし「|與《あた》ふるは|受《う》くるよりも|幸福《さいはひ》なり」との|御言《みことば》を|記憶《きおく》すべきなり』[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|言《い》ひて|後《のち》、パウロ|跪《ひざま》づきて|一同《いちどう》とともに|祈《いの》れり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]みな|大《おほい》に|歎《なげ》きパウロの|頸《くび》を|抱《いだ》きて|接吻《くちつけ》し、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]そのふたたび|我《わ》が|顏《かほ》を|見《み》ざるべしと|云《い》ひし|言《ことば》によりて|特《こと》に|憂《うれ》ひ、|遂《つひ》に|彼《かれ》を|船《ふね》まで|送《おく》りゆけり。 第二一章[#「第二一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]ここに|我《われ》ら|人々《ひとびと》と|別《わか》れて|船出《ふなで》をなし、|眞直《ますぐ》にはせてコスに|到《いた》り、|次《つぎ》の|日《ひ》ロドスにつき、|彼處《かしこ》よりパタラにわたる。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|處《ところ》にてピニケにゆく|船《ふね》に|遇《あ》ひ、これに|乘《の》りて|船出《ふなで》す。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]クプロを|望《のぞ》み、|之《これ》を|左《ひだり》にして|過《す》ぎ、シリヤに|向《むか》ひて|進《すす》み、ツロに|著《つ》きたり、|此處《ここ》にて|船《ふね》|荷《に》を|卸《おろ》さんとすればなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|弟子《でし》たちに|尋《たづ》ね|逢《あ》ひて|七日《なぬか》|留《とどま》れり。かれら|御靈《みたま》によりてパウロに、エルサレムに|上《のぼ》るまじき|事《こと》を|云《い》へり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|我《われ》ら|七日《なぬか》|終《をは》りて|後《のち》、いでて|旅立《たびだ》ちたれば、|彼《かれ》|等《ら》みな|妻《つま》|子《こ》とともに|町《まち》の|外《そと》まで|送《おく》りきたり、|諸共《もろとも》に|濱邊《はまべ》に|跪《ひざま》づきて|祈《いの》り、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|相《あひ》|互《たがひ》に|別《わかれ》を|告《つ》げて|我《われ》らは|船《ふね》に|乘《の》り、|彼《かれ》らは|家《いへ》に|歸《かへ》れり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ツロをいでトレマイに|到《いた》りて|船路《ふなぢ》つきたり。|此處《ここ》にて|兄弟《きゃうだい》たちの|安否《あんぴ》を|訪《おとな》ひ、かれらの|許《もと》に|一日《いちにち》|留《とどま》り、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》ここを|去《さ》りてカイザリヤにいたり、|傳道者《でんどうしゃ》ピリポの|家《いへ》に|入《い》りて|留《とどま》る、|彼《かれ》はかの|七人《しちにん》の|一人《ひとり》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》に|預言《よげん》する|四人《よにん》の|娘《むすめ》ありて、|處女《をとめ》なりき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ら|數日《すにち》|留《とどま》り|居《を》るうちに、アガボと|云《い》ふ|預言者《よげんしゃ》ユダヤより|下《くだ》り、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|許《もと》に|來《きた》りてパウロの|帶《おび》をとり、|己《おの》が|足《あし》と|手《て》とを|縛《しば》りて|言《い》ふ『|聖《せい》|靈《れい》かく|言《い》ひ|給《たま》ふ「エルサレムにて、ユダヤ|人《びと》この|帶《おび》の|主《しゅ》を|斯《か》くの|如《ごと》く|縛《しば》りて|異邦人《いはうじん》の|手《て》に|付《わた》さん」と』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]われら|之《これ》を|聞《き》きて|此《こ》の|地《ち》の|人々《ひとびと》とともにパウロに、エルサレムに|上《のぼ》らざらんことを|勸《すす》む。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》パウロ|答《こた》ふ『なんぢら|何《なに》ぞ|歎《なげ》きて|我《わ》が|心《こころ》を|挫《くじ》くか、|我《われ》エルサレムにて、|主《しゅ》イエスの|名《な》のために、|唯《ただ》に|縛《しば》らるるのみかは、|死《し》ぬることをも|覺悟《かくご》せり』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|我《われ》らの|勸告《すすめ》を|納《い》れるによりて『|主《しゅ》の|御意《みこころ》の|如《ごと》くなれかし』と|言《い》ひて|止《や》む。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》われら|行李《かうり》を|整《ととの》へてエルサレムに|上《のぼ》る。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]カイザリヤに|居《を》る|弟子《でし》も|數人《すにん》ともに|往《ゆ》き、|我《われ》らの|宿《やど》らんとするクプロ|人《ひと》マナソンといふ|舊《ふる》き|弟子《でし》のもとに|案内《あんない》したり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]エルサレムに|到《いた》りたれば、|兄弟《きゃうだい》たち|歡《よろこ》びて|我《われ》らを|迎《むか》へたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|翌日《よくじつ》パウロ|我《われ》らと|共《とも》にヤコブの|許《もと》に|往《ゆ》きしに、|長老《ちゃうらう》たちみなあつまり|居《ゐ》たり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]パウロその|安否《あんぴ》を|問《と》ひて|後《のち》、おのが|勤勞《はたらき》によりて|異邦人《いはうじん》のうちに|神《かみ》の|行《おこな》ひ|給《たま》ひしことを、|一々《いちいち》|告《つ》げたれば、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|聞《き》きて|神《かみ》を|崇《あが》め、またパウロに|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢの|見《み》るごとく、ユダヤ|人《びと》のうち、|信者《しんじゃ》となりたるもの|數萬人《すまんにん》あり、みな|律法《おきて》に|對《たい》して|熱心《ねっしん》なる|者《もの》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは、|汝《なんぢ》が|異邦人《いはうじん》のうちに|居《を》る|凡《すべ》てのユダヤ|人《びと》に|對《むか》ひて、その|兒《こ》らに|割禮《かつれい》を|施《ほどこ》すな、|習慣《ならはし》に|從《したが》ふなと|云《い》ひて、モーセに|遠《とほ》ざかることを|教《をし》ふと|聞《き》けり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|如何《いか》にすべきか、|彼《かれ》らは|必《かなら》ず|汝《なんぢ》の|來《きた》りたるを|聞《き》かん。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》われらの|言《い》ふ|如《ごと》くせよ、|我《われ》らの|中《うち》に|誓願《せいぐわん》あるもの|四人《よにん》あり、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》かれらと|組《く》みて|之《これ》とともに|潔《きよめ》をなし、|彼《かれ》|等《ら》のために|費《つひえ》を|出《いだ》して|髮《かみ》を|剃《そ》らしめよ。さらば|人々《ひとびと》みな|汝《なんぢ》につきて|聞《き》きたることの|虚僞《いつはり》にして、|汝《なんぢ》も|律法《おきて》を|守《まも》りて|正《ただ》しく|歩《あゆ》み|居《を》ることを|知《し》らん。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|異邦人《いはうじん》の|信者《しんじゃ》となりたる|者《もの》につきては、|我《われ》ら|既《すで》に|書《か》き|贈《おく》りて、|偶像《ぐうざう》に|献《ささ》げたる|物《もの》と、|血《ち》と、|絞殺《しめころ》したる|物《もの》と、|淫行《いんかう》とに|遠《とほ》ざかるべき|事《こと》を|定《さだ》めたり』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]ここにパウロその|人々《ひとびと》と|組《く》みて、|次《つぎ》の|日《ひ》ともどもに|潔《きよめ》をなして|宮《みや》に|入《い》り、|潔《きよめ》の|期《き》|滿《み》ちて|各人《おのおの》のために|献物《ささげもの》をささぐべき|日《ひ》を|告《つ》げたり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|七日《なぬか》の|終《をは》らんとする|時《とき》、アジヤより|來《きた》りしユダヤ|人《びと》ら、|宮《みや》の|内《うち》にパウロの|居《を》るを|見《み》て、|群衆《ぐんじゅう》を|騷《さわ》がし、かれに|手《て》をかけ|叫《さけ》びて|言《い》ふ、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]『イスラエルの|人々《ひとびと》|助《たす》けよ、この|人《ひと》はいたる|處《ところ》にて|民《たみ》と|律法《おきて》と|此《こ》の|所《ところ》とに|悖《もと》れることを|人々《ひとびと》に|教《をし》ふる|者《もの》なり、|然《しか》のみならず、ギリシヤ|人《びと》を|宮《みや》に|率《ひ》き|入《い》れて、|此《こ》の|聖《せい》なる|所《ところ》をも|汚《けが》したり』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]からら|曩《さき》にエペソ|人《ひと》トロピモがパウロとともに|市中《しちゅう》にゐたるを|見《み》て、パウロ|之《これ》を|宮《みや》に|率《ひ》き|入《い》れしと|思《おも》ひしなり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]ここに|市中《しちゅう》みな|騷《さわ》ぎたち、|民《たみ》ども|馳《は》せ|集《あつま》り、パウロを|捕《とら》へて|宮《みや》の|外《そと》に|曳《ひ》き|出《いだ》せり、かくて|門《もん》は|直《ただ》ちに|鎖《とざ》されたり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らパウロを|殺《ころ》さんとせしとき、|軍隊《ぐんたい》の|千卒長《せんそつちゃう》に、エルサレム|中《ぢゅう》さわぎ|立《た》てりとの|事《こと》きこえたれば、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]かれ|速《すみや》かに|兵卒《へいそつ》および|百卒長《ひゃくそつちゃう》らを|率《ひき》ゐて|馳《は》せ|下《くだ》る。かれら|千卒長《せんそつちゃう》と|兵卒《へいそつ》とを|見《み》て、パウロを|打《う》つことを|止《や》む。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|千卒長《せんそつちゃう》、|近《ちか》よりてパウロを|執《とら》へ、|命《めい》じて|二《ふた》つの|鏈《くさり》にて|繋《つな》がせ、その|何《なに》|人《ひと》なるか、|何事《なにごと》をなしたるかを|尋《たづ》ぬるに、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|群衆《ぐんじゅう》の|中《うち》にて|或《ある》|者《もの》はこの|事《こと》を、|或《ある》|者《もの》はかの|事《こと》を|呼《よば》はり、|騷亂《さわぎ》のために|確《たしか》なる|事《こと》を|知《し》るに|由《よし》なく、|命《めい》じて|陣營《ぢんえい》に|曳《ひ》き|來《きた》らしめたり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|階段《きざはし》に|至《いた》れるに、|群衆《ぐんじゅう》の|手暴《てあら》きによりて、|兵卒《へいそつ》パウロを|負《お》ひたり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]これ|群《む》れる|民《たみ》ども『|彼《かれ》を|除《のぞ》け』と|叫《さけ》びつつ|隨《したが》ひ|迫《せま》れる|故《ゆゑ》なり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|陣營《ぢんえい》に|曳《ひ》き|入《い》れられんとするとき、|千卒長《せんそつちゃう》に|言《い》ふ『われ|汝《なんぢ》に|語《かた》りて|可《よ》きか』かれ|言《い》ふ『なんぢギリシヤ|語《ことば》を|知《し》るか。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》はかのエジプト|人《ひと》にして、|曩《さき》に|亂《らん》を|起《おこ》して|四千《しせん》|人《にん》の|刺客《しかく》を|荒野《あらの》に|率《ひき》ゐ|出《い》でし|者《もの》ならずや』[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|言《い》ふ『|我《われ》はキリキヤなるタルソのユダヤ|人《びと》、|鄙《いや》しからぬ|市《し》の|市民《しみん》なり。|請《こ》ふ|民《たみ》に|語《かた》るを|許《ゆる》せ』[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|許《ゆる》したれば、パウロ|階段《きざはし》の|上《うへ》に|立《た》ち、|民《たみ》に|對《むか》ひて|手《て》を|搖《うご》かし、|大《おほい》に|靜《しづ》まれる|時《とき》、ヘブルの|語《ことば》にて|語《かた》りて|言《い》ふ、 第二二章[#「第二二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]『|兄弟《きゃうだい》たち|親《おや》たちよ、|今《いま》なんぢらに|對《たい》する|辯明《べんめい》を|聽《き》け』[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》そのヘブルの|語《ことば》を|語《かた》るを|聞《き》きてますます|靜《しづか》になりたれば、|又《また》いふ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]『|我《われ》はユダヤ|人《びと》にてキリキヤのタルソに|生《うま》れしが、|此《こ》の|都《みやこ》にて|育《そだ》てられ、ガマリエルの|足下《あしもと》にて|先祖《せんぞ》たちの|律法《おきて》の|嚴《きび》しき|方《かた》に|遵《したが》ひて|教《をし》へられ、|今日《けふ》の|汝《なんぢ》らのごとく|神《かみ》に|對《たい》して|熱心《ねっしん》なる|者《もの》なりき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》この|道《みち》を|迫害《はくがい》し、|男女《なんにょ》を|縛《しば》りて|獄《ひとや》に|入《い》れ、|死《し》にまで|至《いた》らしめしことは、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|大《だい》|祭司《さいし》も|凡《すべ》ての|長老《ちゃうらう》も|我《われ》に|就《つ》きて|證《あかし》するなり。|我《われ》は|彼《かれ》|等《ら》より|兄弟《きゃうだい》たちへの|書《ふみ》を|受《う》けて、ダマスコに|寓《やど》り|居《を》る|者《もの》どもを|縛《しば》り、エルサレムに|曳《ひ》き|來《きた》りて|罰《ばつ》を|受《う》けしめんとて|彼處《かしこ》にゆけり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|往《ゆ》きてダマスコに|近《ちか》づきたるに、|正午《まひる》ごろ|忽《たちま》ち|大《おほい》なる|光《ひかり》、|天《てん》より|出《い》でて|我《われ》を|環《めぐ》り|照《てら》せり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》われ|地《ち》に|倒《たふ》れ、かつ|我《われ》に|語《かた》りて「サウロ、サウロ、|何《なに》ぞ|我《われ》を|迫害《はくがい》するか」といふ|聲《こゑ》を|聞《き》き、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]「|主《しゅ》よ、なんぢは|誰《たれ》ぞ」と|答《こた》へしに「われは|汝《なんぢ》が|迫害《はくがい》するナザレのイエスなり」と|言《い》ひ|給《たま》へり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|偕《とも》に|居《を》る|者《もの》ども|光《ひかり》は|見《み》しが、|我《われ》に|語《かた》る|者《もの》の|聲《こゑ》は|聞《き》かざりき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]われ|復《また》いふ「|主《しゅ》よ、|我《われ》なにを|爲《な》すべきか」|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ「|起《た》ちてダマスコに|往《ゆ》け、なんぢの|爲《な》すべき|定《さだま》りたる|事《こと》は|彼處《かしこ》にて|悉《ことご》とく|告《つ》げらるべし」[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は、かの|光《ひかり》の|晃耀《かがやき》にて|目《め》|見《み》えずなりたれば、|偕《とも》にをる|者《もの》に|手《て》を|引《ひ》かれてダマスコに|入《い》りたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|律法《おきて》に|據《よ》れる|敬虔《けいけん》の|人《ひと》にして、|其《そ》の|町《まち》に|住《す》む|凡《すべ》てのユダヤ|人《びと》に|令聞《よききこえ》あるアナニヤという|者《もの》あり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》われに|來《きた》り|傍《かたは》らに|立《た》ちて「|兄弟《きゃうだい》サウロよ、|見《み》ることを|得《え》よ」と|言《い》ひたれば、その|時《とき》、|仰《あふ》ぎて|彼《かれ》を|見《み》たり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かれ|又《また》いふ「|我《われ》らの|先祖《せんぞ》の|神《かみ》は、なんぢを|選《えら》びて|御意《みこころ》を|知《し》らしめ、|又《また》かの|義人《ぎじん》を|見《み》、その|御口《みくち》の|聲《こゑ》を|聞《き》かしめんとし|給《たま》へり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]これは|汝《なんぢ》の|見《み》|聞《きき》したる|事《こと》につきて、|凡《すべ》ての|人《ひと》に|對《たい》し|彼《かれ》の|證人《しょうにん》とならん|爲《ため》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》なんぞ|躊躇《ためら》ふか、|起《た》て、その|御名《みな》を|呼《よ》び、バプテスマを|受《う》けて|汝《なんぢ》の|罪《つみ》を|洗《あら》ひ|去《さ》れ」[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|我《われ》エルサレムに|歸《かへ》り、|宮《みや》にて|祈《いの》りをるとき、|我《われ》を|忘《わす》れし|心地《ここち》して|主《しゅ》を|見《み》|奉《たてまつ》るに、|我《われ》に|斯《か》く|言《い》ひ|給《たま》ふ、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]「なんぢ|急《いそ》げ、|早《はや》くエルサレムを|去《さ》れ、|人々《ひとびと》われに|係《かかは》る|汝《なんぢ》の|證《あかし》を|受《う》けぬ|故《ゆゑ》なり」[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》いふ「|主《しゅ》よ、|我《われ》さきに|汝《なんぢ》を|信《しん》ずる|者《もの》を|獄《ひとや》に|入《い》れ、|諸《しょ》|會堂《くわいだう》にて|之《これ》を|※[#「てへん+卜」、第4水準2-12-88]《う》ち、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》なんぢの|證人《あかしびと》ステパノの|血《ち》の|流《なが》されしとき、|我《われ》もその|傍《かたは》らに|立《た》ちて|之《これ》を|可《よ》しとし、|殺《ころ》す|者《もの》どもの|衣《ころも》を|守《まも》りしことは、|彼《かれ》らの|知《し》る|所《ところ》なり」[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]われに|言《い》ひ|給《たま》ふ「|往《ゆ》け、|我《われ》なんぢを|遠《とほ》く|異邦人《いはうじん》に|遣《つかは》すなり」と』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》きき|居《ゐ》たりしが、|此《こ》の|言《ことば》に|及《およ》び、|聲《こゑ》を|揚《あ》げて|言《い》ふ『|斯《か》くのごとき|者《もの》をば|地《ち》より|除《のぞ》け、|生《い》かしおくべき|者《もの》ならず』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|叫《さけ》びつつ|其《そ》の|衣《ころも》を|脱《ぬ》ぎすて、|塵《ちり》を|空中《くうちゅう》に|撒《ま》きたれば、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|千卒長《せんそつちゃう》、|人々《ひとびと》が|何《なに》|故《ゆゑ》パウロにむかひて|斯《か》く|叫《さけ》び|呼《よば》はるかを|知《し》らんとし、|鞭《むち》うちて|訊《しら》ぶることを|命《めい》じて、|彼《かれ》を|陣營《ぢんえい》に|曳《ひ》き|入《い》れしむ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|革鞭《かはむち》をあてんとてパウロを|引《ひ》き|張《は》りし|時《とき》、かれ|傍《かたは》らに|立《た》つ|百卒長《ひゃくそつちゃう》に|言《い》ふ『ロマ|人《びと》たる|者《もの》を|罪《つみ》も|定《さだ》めずして|鞭《むち》うつは|可《よ》きか』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|百卒長《ひゃくそつちゃう》これを|聞《き》きて|千卒長《せんそつちゃう》に|往《ゆ》き、|告《つ》げて|言《い》ふ『なんぢ|何《なに》をなさんとするか、|此《こ》の|人《ひと》はロマ|人《びと》なり』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|千卒長《せんそつちゃう》きたりて|言《い》ふ『なんぢはロマ|人《びと》なるか、|我《われ》に|告《つ》げよ』かれ|言《い》ふ『|然《しか》り』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|千卒長《せんそつちゃう》こたふ『|我《われ》は|多《おほ》くの|金《きん》をもて|此《こ》の|民《たみ》|籍《せき》を|得《え》たり』パウロ|言《い》ふ『|我《われ》は|生《うま》れながらなり』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]ここに|訊《しら》べんとせし|者《もの》どもは|直《ただ》ちに|去《さ》り、|千卒長《せんそつちゃう》はそのロマ|人《びと》なるを|知《し》り、|之《これ》を|縛《しば》りしことを|懼《おそ》れたり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》、|千卒長《せんそつちゃう》かれが|何《なに》|故《ゆゑ》ユダヤ|人《びと》に|訴《うった》へられしか、|確《たしか》なる|事《こと》を|知《し》らんと|欲《ほっ》して、|彼《かれ》の|縛《なはめ》を|解《と》き、|命《めい》じて|祭司長《さいしちゃう》らと|全《ぜん》|議會《ぎくわい》とを|呼《よ》び|集《あつ》め、パウロを|曳《ひ》き|出《いだ》して|其《そ》の|前《まへ》に|立《た》たしめたり。 第二三章[#「第二三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|議會《ぎくわい》に|目《め》を|注《そそ》ぎて|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》たちよ、|我《われ》は|今日《けふ》に|至《いた》るまで|事《こと》|毎《ごと》に|良心《りゃうしん》に|從《したが》ひて|神《かみ》に|事《つか》へたり』[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|大《だい》|祭司《さいし》アナニヤ|傍《かたは》らに|立《た》つ|者《もの》どもに、|彼《かれ》の|口《くち》を|撃《う》つことを|命《めい》ず。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]ここにパウロ|言《い》ふ『|白《しろ》く|塗《ぬ》りたる|壁《かべ》よ、|神《かみ》なんぢを|撃《う》ち|給《たま》はん、なんぢ|律法《おきて》によりて|我《われ》を|審《さば》くために|坐《ざ》しながら、|律法《おきて》に|悖《もと》りて|我《われ》を|撃《う》つことを|命《めい》ずるか』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|傍《かたは》らに|立《た》つ|者《もの》いふ『なんぢ|神《かみ》の|大《だい》|祭司《さいし》を|罵《ののし》るか』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》たちよ、|我《われ》その|大《だい》|祭司《さいし》たることを|知《し》らざりき。|録《しる》して「なんぢの|民《たみ》の|司《つかさ》をそしる|可《べ》からず」とあればなり』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かくてパウロ、その|一部《いちぶ》はサドカイ|人《びと》、その|一部《いちぶ》はパリサイ|人《びと》たるを|知《し》りて、|議會《ぎくわい》のうちに|呼《よば》はりて|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》たちよ、|我《われ》はパリサイ|人《びと》にしてパリサイ|人《びと》の|子《こ》なり、|我《われ》は|死人《しにん》の|甦《よみが》へることの|希望《のぞみ》につきて|審《さば》かるるなり』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|言《い》ひしに|因《よ》りて、パリサイ|人《びと》とサドカイ|人《びと》との|間《あひだ》に|紛爭《あらそひ》おこりて、|會衆《くわいしゅう》|相《あひ》|分《わか》れたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]サドカイ|人《びと》は|復活《よみがへり》もなく|御使《みつかひ》も|靈《れい》もなしと|言《い》ひ、パリサイ|人《びと》は|兩《ふたつ》ながらありと|云《い》ふ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|遂《つひ》に|大《おほい》なる|喧噪《さわぎ》となりて、パリサイ|人《びと》の|中《うち》の|學者《がくしゃ》|數人《すにん》たちて|爭《あらそ》ひて|言《い》ふ『われら|此《こ》の|人《ひと》に|惡《あ》しき|事《こと》あるを|見《み》ず、もし|靈《れい》または|御使《みつかひ》かれに|語《かた》りたるならば|如何《いかん》』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|紛爭《あらそひ》いよいよ|激《はげ》しくなりたれば、|千卒長《せんそつちゃう》、パウロの|彼《かれ》らに|引《ひき》|裂《さ》かれんことを|恐《おそ》れ、|兵卒《へいそつ》どもに|命《めい》じて|下《くだ》りゆかしめ、|彼《かれ》らの|中《なか》より|引取《ひきと》りて|陣營《ぢんえい》に|連《つ》れ|來《きた》らしめたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|夜《よ》、|主《しゅ》パウロの|傍《かたは》らに|立《た》ちて|言《い》ひ|給《たま》ふ『|雄々《をを》しかれ、|汝《なんぢ》エルサレムにて|我《われ》につきて|證《あかし》をなしたる|如《ごと》く、ロマにても|證《あかし》をなすべし』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあけ》になりてユダヤ|人《びと》、|徒黨《とたう》を|組《く》み|盟約《うけひ》を|立《た》てて、パウロを|殺《ころ》すまでは|飮食《のみくひ》せじと|言《い》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]この|徒黨《とたう》を|結《むす》びたる|者《もの》は|四十《しじふ》|人《にん》|餘《あまり》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|祭司長《さいしちゃう》・|長老《ちゃうらう》らに|往《ゆ》きて|言《い》ふ『われらパウロを|殺《ころ》すまでは|何《なに》をも|味《あじは》ふまじと|堅《かた》く|盟約《うけひ》を|立《た》てたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》|等《ら》なほ|詳細《つまびらか》に|訊《しら》べんとする|状《さま》して、|彼《かれ》を|汝《なんぢ》らの|許《もと》に|連《つ》れ|下《くだ》らすることを、|議會《ぎくわい》とともに|千卒長《せんそつちゃう》に|訴《うった》へよ。|我等《われら》その|近《ちか》くならぬ|間《うち》に|殺《ころ》す|準備《そなへ》をなせり』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]パウロの|姉妹《しまい》の|子《こ》この|待伏《まちぶせ》の|事《こと》をきき、|往《ゆ》きて|陣營《ぢんえい》に|入《い》りパウロに|告《つ》げたれば、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|百卒長《ひゃくそつちゃう》の|一人《ひとり》を|呼《よ》びて|言《い》ふ『この|若者《わかもの》を|千卒長《せんそつちゃう》につれ|往《ゆ》け、|告《つ》ぐる|事《こと》あり』[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|百卒長《ひゃくそつちゃう》これを|携《たづさ》へ、|千卒長《せんそつちゃう》に|至《いた》りて|言《い》ふ『|囚人《めしうど》パウロ|我《われ》を|呼《よ》びて、この|若者《わかもの》なんぢに|言《い》ふべき|事《こと》ありとて、|汝《なんぢ》に|連《つ》れ|往《ゆ》くことを|請《こ》へり』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|千卒長《せんそつちゃう》その|手《て》を|執《と》り|退《しりぞ》きて、|私《ひそか》に|問《と》ふ『われに|告《つ》ぐる|事《こと》とは|何《なに》ぞ』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|若者《わかもの》いふ『ユダヤ|人《びと》は、|汝《なんぢ》がパウロの|事《こと》をなほ|詳細《つまびらか》に|訊《しら》ぶる|爲《ため》にとて、|明日《あす》かれを|議會《ぎくわい》に|連《つ》れ|下《くだ》ることを|汝《なんぢ》に|請《こ》はんと|申合《まうしあは》せたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》その|請《こひ》に|從《したが》ふな、|彼《かれ》らの|中《うち》にて|四十《しじふ》|人《にん》|餘《あまり》の|者《もの》、パウロを|待伏《まちぶ》せ、|之《これ》を|殺《ころ》すまでは|飮食《のみくひ》せじと|盟約《うけひ》を|立《た》て、|今《いま》その|準備《そなへ》をなして|汝《なんぢ》の|許諾《ゆるし》を|待《ま》てり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|千卒長《せんそつちゃう》、|若者《わかもの》に『これらの|事《こと》を|我《われ》に|訴《うった》へたりと|誰《たれ》にも|語《かた》るな』と|命《めい》じて|歸《かへ》せり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]さて|百卒長《ひゃくそつちゃう》を|兩《りゃう》|三人《さんにん》よびて|言《い》ふ『|今夜《こよひ》|九時《くじ》ごろカイザリヤに|向《む》けて|往《ゆ》くために、|兵卒《へいそつ》|二《に》|百《ひゃく》、|騎兵《きへい》|七《しち》|十《じふ》、|槍《やり》をとる|者《もの》|二《に》|百《ひゃく》を|整《ととの》へよ』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]また|畜《けもの》を|備《そな》へ、パウロを|乘《の》せて|安全《あんぜん》に|總督《そうとく》ペリクスの|許《もと》に|護送《ごそう》することを|命《めい》じ、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]かつ|左《さ》のごとき|書《ふみ》をかき|贈《おく》る。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]『クラウデオ・ルシヤ|謹《つつし》みて|總督《そうとく》ペリクス|閣下《かくか》の|平安《へいあん》を|祈《いの》る。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》はユダヤ|人《びと》に|捕《とら》へられて|殺《ころ》されんとせしを、|我《われ》そのロマ|人《びと》なるを|聞《き》き、|兵卒《へいそつ》どもを|率《ひき》ゐ|往《ゆ》きて|救《すく》へり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》の|彼《かれ》を|訴《うった》ふる|理由《りいう》を|知《し》らんと|欲《ほっ》して、その|議會《ぎくわい》に|引《ひ》き|往《ゆ》きたるに、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|律法《おきて》の|問題《もんだい》につき|訴《うった》へられたるにて、|死《し》もしくは|縛《なはめ》に|當《あた》る|罪《つみ》の|訴訟《うったへ》にあらざるを|知《し》りたり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》この|人《ひと》を|害《がい》せんとする|謀計《はかりごと》ありと|我《われ》に|聞《きこ》えたれば、われ|俄《にはか》にこれを|汝《なんぢ》のもとに|送《おく》り、これを|訴《うった》ふる|者《もの》に、なんぢの|前《まへ》にて|彼《かれ》を|訴《うった》へんことを|命《めい》じたり』[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]ここに|兵卒《へいそつ》ども|命《めい》ぜられたる|如《ごと》くパウロを|受《う》けとりて、|夜中《やちゅう》アンテパトリスまで|連《つ》れてゆき、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|翌日《よくじつ》これを|騎兵《きへい》に|委《ゆだ》ね、ともに|往《ゆ》かしめて|陣營《ぢんえい》に|歸《かへ》れり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|騎兵《きへい》はカイザリヤに|入《い》り、|總督《そうとく》に|書《ふみ》をわたし、パウロを|其《そ》の|前《まへ》に|立《た》たしむ。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|總督《そうとく》、|書《ふみ》を|讀《よ》みて、パウロのいづこの|國《くに》の|者《もの》なるかを|問《と》ひ、そのキリキヤ|人《ひと》なるを|知《し》りて、[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]『|汝《なんぢ》を|訴《うった》ふる|者《もの》の|來《きた》らんとき、|尚《なほ》つまびらかに|汝《なんぢ》のことを|聽《き》かん』と|言《い》ひ、かつ|命《めい》じて、ヘロデでの|官邸《くわんてい》に|之《これ》を|守《まも》らしめたり。 第二四章[#「第二四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|五日《いつか》ののち、|大《だい》|祭司《さいし》アナニヤ|數人《すにん》の|長老《ちゃうらう》およびテルトロと|云《い》ふ|辯護士《べんごし》とともに|下《くだ》りて、パウロを|總督《そうとく》に|訴《うった》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|呼《よ》び|出《いだ》されたれば、テルトロ|訴《うった》へ|出《い》でて|言《い》ふ『ペリクス|閣下《かくか》よ、われらは|汝《なんぢ》によりて|太平《たいへい》を|樂《たの》しみ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|先見《せんけん》によりて、|此《こ》の|國人《くにびと》のために|時《とき》に|隨《したが》ひ|處《ところ》に|隨《したが》ひて、|惡《あ》しき|事《こと》の|改《あらた》められたるを|感謝《かんしゃ》して|罷《や》まず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|喃々《くどくど》しく|陳《の》べて|汝《なんぢ》を|妨《さまた》ぐまじ、|願《ねが》はくは|寛容《くわんよう》をもて|我《わ》が|少《すこ》しの|言《ことば》を|聽《き》け。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》この|人《ひと》を|見《み》るに、|恰《あたか》も|疫病《えきびゃう》のごとくにて、|全世界《ぜんせかい》のユダヤ|人《びと》のあひだに|騷擾《さわぎ》をおこし、|且《かつ》ナザレ|人《びと》の|異端《いたん》の|首《かしら》にして、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|宮《みや》をさへ|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]《けが》さんとしたれば、|之《これ》を|捕《とら》へたり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》この|人《ひと》に|就《つ》きて|訊《ただ》さば、|我《われ》らの|訴《うった》ふる|所《ところ》をことごとく|知《し》り|得《う》べし』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》も|之《これ》に|加《くは》へて、|誠《まこと》にその|如《ごと》くなりと|主張《しゅちゃう》す。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|總督《そうとく》、|首《かうべ》にて|示《しめ》しパウロに|言《い》はしめたれば、|答《こた》ふ『なんぢが|年《とし》|久《ひさ》しくこの|國人《くにびと》の|審判《さばき》|人《ひと》たることを|我《われ》は|知《し》るゆゑに、|喜《よろこ》びて|我《わ》が|辯明《べんめい》をなさん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|知《し》り|得《う》べし、|我《わ》が|禮拜《れいはい》のためにエルサレムに|上《のぼ》りてより|僅《わづ》か|十二《じふに》|日《にち》に|過《す》ぎず、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》らは、|我《わ》が|宮《みや》にても|會堂《くわいだう》にても|市中《しちゅう》にても、|人《ひと》と|爭《あらそ》ひ|群衆《ぐんじゅう》を|騷《さわ》がしたるを|見《み》ず、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]いま|訴《うった》へたる|我《わ》が|事《こと》につきても|證明《しょうめい》すること|能《あた》はざるなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ただ|此《こ》の|一事《いちじ》を|汝《なんぢ》に|言《い》ひあらはさん、|即《すなは》ち|我《われ》は|彼《かれ》らが|異端《いたん》と|稱《とな》ふる|道《みち》に|循《したが》ひて、|我《わ》が|先祖《せんぞ》たちの|神《かみ》につかへ、|律法《おきて》と|預言者《よげんしゃ》の|書《ふみ》とに|録《しる》したる|事《こと》をことごとく|信《しん》じ、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かれら|自《みづか》らも|待《ま》てるごとく、|義者《ぎしゃ》と|不義者《ぎしゃ》との|復活《よみがへり》あるべしと、|神《かみ》を|仰《あふ》ぎて|望《のぞみ》を|懷《いだ》くなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、われ|常《つね》に|神《かみ》と|人《ひと》とに|對《たい》して|良心《りゃうしん》の|責《せめ》なからんことを|勉《つと》む。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|多《おほ》くの|年《とし》を|經《へ》てのち|歸《かへ》りきたり、|我《わ》が|民《たみ》に|施濟《ほどこし》をなし、また|献物《ささげもの》をささげゐたりしが、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》かれらは|我《わ》が|潔《きよめ》をなして|宮《みや》にをるを|見《み》たるのみにて、|群衆《ぐんじゅう》もなく|騷擾《さわぎ》もなかりしなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにアジアより|來《きた》れる|數人《すにん》のユダヤ|人《びと》ありて――もし|我《われ》に|咎《とが》むべき|事《こと》あらば、|彼《かれ》らが|汝《なんぢ》の|前《まへ》に|出《い》でて|訴《うった》ふることを|爲《す》べきなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|或《あるひ》はまた|此處《ここ》なる|人々《ひとびと》、わが|先《さき》に|議會《ぎくわい》に|立《た》ちしとき、|我《われ》に|何《なに》の|不義《ふぎ》を|認《みと》めしか|言《い》へ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|唯《ただ》われ|彼《かれ》らの|中《うち》に|立《た》ちて「|死人《しにん》の|甦《よみが》へる|事《こと》につきて|我《われ》けふ|汝《なんぢ》らの|前《まへ》にて|審《さば》かる」と|呼《よば》はりし|一言《ひとこと》の|他《ほか》には|何《なに》もなかるべし』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ペリクスこの|道《みち》のことを|詳《くは》しく|知《し》りたれば、|審判《さばき》を|延《のば》して|言《い》ふ『|千卒長《せんそつちゃう》ルシヤの|下《くだ》るを|待《ま》ちて|汝《なんぢ》らの|事《こと》を|定《さだ》むべし』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|百卒長《ひゃくそつちゃう》に|命《めい》じパウロを|守《まも》らせ、|寛《ゆるや》かならしめ、かつ|友《とも》の|之《これ》に|事《つか》ふるをも|禁《きん》ぜざらしむ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|數日《すにち》の|後《のち》ペリクス、その|妻《つま》なるユダヤ|人《びと》の|女《をんな》ドルシラとともに|來《きた》り、パウロを|呼《よ》びよせてキリスト・イエスに|對《たい》する|信仰《しんかう》のことを|聽《き》き、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]パウロが|正義《ただしき》と|節制《せつせい》と|來《きた》らんとする|審判《さばき》とにつきて|論《ろん》じたる|時《とき》、ペリクス|懼《おそ》れて|答《こた》ふ『|今《いま》は|去《さ》れ、よき|機《をり》を|得《え》てまた|招《まね》かん』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]かくてパウロより|金《かね》を|與《あた》へられんことを|望《のぞ》みて、|尚《なほ》しばしば|彼《かれ》を|呼《よ》びよせては|語《かた》れり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|二年《にねん》を|經《へ》てポルシオ・フェスト、ペリクスの|任《にん》に|代《かわ》りしが、ペリクス、ユダヤ|人《びと》の|意《こころ》を|迎《むか》へんとして、パウロを|繋《つな》ぎたるままに|差措《さしお》けり。 第二五章[#「第二五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]フェスト|任國《にんこく》にいたりて|三日《みっか》の|後《のち》、カイザリヤよりエルサレムに|上《のぼ》りたれば、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|祭司長《さいしちゃう》ら|及《およ》びユダヤ|人《びと》の|重立《おもだ》ちたる|者《もの》ども、パウロを|訴《うった》へ|之《これ》を|害《そこな》はんとして、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]フェストの|好意《かうい》にて|彼《かれ》をエルサレムに|召《め》し|出《いだ》されんことを|願《ねが》ふ。|斯《か》くして|道《みち》に|待伏《まちぶせ》し、|之《これ》を|殺《ころ》さんと|思《おも》へるなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにフェスト|答《こた》へて、パウロのカイザリヤに|囚《とら》はれ|在《あ》ることと、|己《おの》が|程《ほど》なく|歸《かへ》るべき|事《こと》とを|告《つ》げ、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]『もし|彼《かれ》に|不《ふ》|善《ぜん》あらんには、|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|然《しか》るべき|者《もの》ども|我《われ》とともに|下《くだ》りて|訴《うった》ふべし』と|言《い》ふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼處《かしこ》に|八日《やうか》|十日《とうか》ばかり|居《を》りてカイザリヤに|下《くだ》り、|明《あ》くる|日《ひ》、|審判《さばき》の|座《ざ》に|坐《ざ》し、|命《めい》じてパウロを|引出《ひきいだ》さしむ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]その|出《い》で|來《きた》りし|時《とき》、エルサレムより|下《くだ》りしユダヤ|人《びと》ら、これを|取圍《とりかこ》みて|樣々《さまざま》の|重《おも》き|罪《つみ》を|言《い》ひ|立《た》てて|訴《うった》ふれども、|證《あかし》すること|能《あた》はず。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]パウロは|辯明《べんめい》して|言《い》ふ『|我《われ》はユダヤ|人《びと》の|律法《おきて》に|對《たい》しても、|宮《みや》に|對《たい》しても、カイザルに|對《たい》しても、|罪《つみ》を|犯《をか》したる|事《こと》なし』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]フェスト、ユダヤ|人《びと》の|意《こころ》を|迎《むか》へんとしてパウロに|答《こた》へて|言《い》ふ『なんぢエルサレムに|上《のぼ》り、|彼處《かしこ》にて|我《わ》が|前《まへ》に|審《さば》かるることを|諾《うけが》ふか』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|言《い》ふ『|我《われ》はわが|審《さば》かるべきカイザルの|審判《さばき》の|座《ざ》の|前《まへ》に|立《た》ちをるなり。|汝《なんぢ》の|能《よ》く|知《し》るごとく、|我《われ》はユダヤ|人《びと》を|害《そこな》ひしことなし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しも|罪《つみ》を|犯《をか》して|死《し》に|當《あた》るべき|事《こと》をなしたらんには、|死《し》ぬるを|厭《いと》はじ。|然《さ》れど|此《こ》の|人々《ひとびと》の|訴《うった》ふること|實《まこと》ならずば、|誰《たれ》も|我《われ》を|彼《かれ》らに|付《わた》すことを|得《え》じ、|我《われ》はカイザルに|上訴《じゃうそ》せん』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ここにフェスト|陪席《ばいせき》の|者《もの》と|相《あひ》|議《はか》りて|答《こた》ふ『なんぢカイザルに|上訴《じゃうそ》せんとす、カイザルの|許《もと》に|往《ゆ》くべし』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|數日《すにち》を|經《へ》て|後《のち》、アグリッパ|王《わう》とベルニケとカイザリヤに|到《いた》りてフェストの|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|日《ひ》|留《とどま》りゐたれば、フェスト、パウロのことを|王《わう》に|告《つ》げて|言《い》ふ『ここにペリクスが|囚人《めしうど》として|遺《のこ》しおきたる|一人《ひとり》の|人《ひと》あり、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》エルサレムに|居《を》りしとき、ユダヤ|人《びと》の|祭司長《さいしちゃう》・|長老《ちゃうらう》ら|之《これ》を|訴《うった》へて|罪《つみ》に|定《さだ》めんことを|願《ねが》ひしが、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|答《こた》へて、|訴《うった》へらるる|者《もの》の|未《いま》だ|訴《うった》ふる|者《もの》の|面前《めんぜん》にて|辯明《べんめい》する|機《をり》を|與《あた》へられぬ|前《さき》に|付《わた》すは、ロマ|人《びと》の|慣例《ならはし》にあらぬ|事《こと》を|告《つ》げたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|彼《かれ》|等《ら》ここに|集《あつま》りたれば、|時《とき》を|延《のば》さず|次《つぎ》の|日《ひ》|審判《さばき》の|座《ざ》に|坐《ざ》し、|命《めい》じてかの|者《もの》を|引出《ひきいだ》さしむ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|訴《うった》ふる|者《もの》かれを|圍《かこ》みて|立《た》ちしが、|思《おも》ひしごとき|惡《あ》しき|事《こと》は|一《ひと》つも|陳《の》ぶる|所《ところ》なし。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ただ|己《おのれ》らの|宗教《しゅうけう》、またはイエスと|云《い》ふ|者《もの》の|死《し》にたるを|活《い》きたりと、パウロが|主張《しゅちゃう》するなどに|關《くわん》する|問題《もんだい》のみなれば、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]かかる|審理《しらべ》には|我《われ》も|當惑《たうわく》せし|故《ゆゑ》、かの|人《ひと》に「なんぢエルサレムに|往《ゆ》き|彼處《かしこ》にて|審《さば》かるる|事《こと》を|好《この》むか」と|問《と》ひしに、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]パウロは|上訴《じゃうそ》して|皇帝《くわうてい》の|判決《はんけつ》を|受《う》けん|爲《ため》に|守《まも》られんことを|願《ねが》ひしにより、|命《めい》じて|之《これ》をカイザルに|送《おく》るまで|守《まも》らせ|置《お》けり』[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]アグリッパ、フェストに|言《い》ふ『|我《われ》もその|人《ひと》に|聽《き》かんと|欲《ほっ》す』フェスト|言《い》ふ『なんぢ|明日《あす》かれに|聽《き》くべし』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|明《あ》くる|日《ひ》アグリッパとベルニケと|大《おほい》に|威儀《ゐぎ》を|整《ととの》へてきたり、|千卒長《せんそつちゃう》ら|及《およ》び|市《し》の|重立《おもだ》ちたる|者《もの》どもと|共《とも》に|訊問所《じんもんじょ》に|入《い》りたれば、フェストの|命《めい》によりてパウロ|引出《ひきいだ》さる。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]フェスト|言《い》ふ『アグリッパ|王《わう》、|竝《なら》びに|此處《ここ》に|居《を》る|凡《すべ》ての|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らの|見《み》るこの|人《ひと》は、ユダヤの|民衆《みんしゅう》が|擧《こぞ》りて|生《い》かしおくべきにあらずと|呼《よば》はりて、エルサレムにても|此處《ここ》にても|我《われ》に|訴《うった》へし|者《もの》なり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|我《われ》はその|死《し》に|當《あた》るべき|惡《あ》しき|事《こと》を|一《ひと》つだに|犯《をか》したるを|認《みと》めねば、|彼《かれ》の|自《みづか》ら|皇帝《くわうてい》に|上訴《じゃうそ》せんとする|隨《まま》にその|許《もと》に|送《おく》らんと|決《さだ》めたり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|彼《かれ》につきて|我《わ》が|主《しゅ》に|上書《じゃうしょ》すべき|實《じつ》|情《じゃう》を|得《え》ず。この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》|等《ら》のまへ、|特《こと》にアグリッパ|王《わう》よ、なんぢの|前《まへ》に|引出《ひきいだ》し、|訊問《しらべ》をなしてのち、|上書《じゃうしょ》すべき|箇條《かでう》を|得《え》んと|思《おも》へり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|囚人《めしうど》を|送《おく》るに|訴訟《うったへ》の|次第《しだい》を|陳《の》べざるは|道理《ことわり》ならずと|思《おも》ふ|故《ゆゑ》なり』 第二六章[#「第二六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]アグリッパ、パウロに|言《い》ふ『なんぢは|自己《みづから》のために|陳《の》ぶることを|許《ゆる》されたり』ここにパウロ|手《て》を|伸《の》べ、|辯明《べんめい》して|言《い》ふ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『アグリッパ|王《わう》よ、|我《われ》ユダヤ|人《びと》より|訴《うった》へられし|凡《すべ》ての|事《こと》につきて、|今日《けふ》なんぢらの|前《まへ》に|辯明《べんめい》するを|我《わ》が|幸福《さいはひ》とす。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》がユダヤ|人《びと》の|凡《すべ》ての|習慣《ならはし》と|問題《もんだい》とを|知《し》るによりて|殊《こと》に|然《しか》りとす。されば|請《こ》ふ、|忍《しの》びて|我《われ》に|聽《き》け。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]わが|始《はじめ》より|國人《くにびと》のうちに|又《また》エルサレムに|於《お》ける|幼《おさな》き|時《とき》よりの|生活《せいくわつ》の|状《さま》は、ユダヤ|人《びと》のみな|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》もし|證《あかし》せんと|思《おも》はば、わが|我《われ》らの|宗教《しゅうけう》の|最《もっと》も|嚴《きび》しき|派《は》に|從《したが》ひて、パリサイ|人《びと》の|生活《せいくわつ》をなしし|事《こと》を|始《はじめ》より|知《し》れり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》わが|立《た》ちて|審《さば》かるるは、|神《かみ》が|我《われ》らの|先祖《せんぞ》たちに|約束《やくそく》し|給《たま》ひしことの|希望《のぞみ》に|因《よ》りてなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|得《え》んことを|望《のぞ》みて、|我《わ》が|十二《じふに》の|族《やから》は|夜《よる》も|晝《ひる》も|熱心《ねっしん》に|神《かみ》に|事《つか》ふるなり。|王《わう》よ、この|希望《のぞみ》につきて、|我《われ》はユダヤ|人《びと》に|訴《うった》へられたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|死人《しにん》を|甦《よみが》へらせ|給《たま》ふとも、|汝《なんぢ》|等《ら》なんぞ|信《しん》じ|難《かた》しとするか。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》も|曩《さき》にはナザレ|人《びと》イエスの|名《な》に|逆《さから》ひて|樣々《さまざま》の|事《こと》をなすを|宜《よ》きことと|自《みづか》ら|思《おも》へり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》エルサレムにて|之《これ》をおこなひ、|祭司長《さいしちゃう》らより|權威《けんゐ》を|受《う》けて|多《おほ》くの|聖徒《せいと》を|獄《ひとや》にいれ、|彼《かれ》らの|殺《ころ》されし|時《とき》これに|同意《どうい》し、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|諸《しょ》|教會堂《けうくわいだう》にてしばしば|彼《かれ》らを|罰《ばっ》し、|強《し》ひて|※[#「さんずい+續のつくり」、第3水準1-87-29]言《けがしごと》を|言《い》はしめんとし、|甚《はなは》だしく|狂《くる》ひ、|迫害《はくがい》して|外國《ぐわいこく》の|町《まち》にまで|至《いた》れり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》のとき|祭司長《さいしちゃう》らより|權威《けんゐ》と|委任《ゐにん》とを|受《う》けてダマスコに|赴《おもむ》きしが、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》よ、その|途《みち》にて|正午《まひる》ごろ|天《てん》よりの|光《ひかり》を|見《み》たり、|日《ひ》にも|勝《まさ》りて|輝《かがや》き、|我《われ》と|伴侶《みちづれ》とを|圍《かこ》み|照《てら》せり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》みな|地《ち》に|倒《たふ》れたるに、ヘブルの|語《ことば》にて「サウロ、サウロ、|何《なに》ぞ|我《われ》を|迫害《はくがい》するか、|刺《とげ》ある|策《むち》を|蹴《け》るは|難《かた》し」といふ|聲《こゑ》を|我《われ》きけり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]われ|言《い》ふ「|主《しゅ》よ、なんぢは|誰《たれ》ぞ」|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ「われは|汝《なんぢ》が|迫害《はくがい》するイエスなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|起《お》きて|汝《なんぢ》の|足《あし》にて|立《た》て、わが|汝《なんぢ》に|現《あらは》れしは、|汝《なんぢ》をたてて|其《そ》の|見《み》しことと|我《わ》が|汝《なんぢ》に|現《あらは》れて|示《しめ》さんとする|事《こと》との|役者《えきしゃ》また|證人《あかしびと》たらしめん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢを|此《こ》の|民《たみ》および|異邦人《いはうじん》より|救《すく》はん、|又《また》なんぢを|彼《かれ》らに|遣《つかは》し、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]その|目《め》をひらきて|暗《くらき》より|光《ひかり》に、サタンの|權威《けんゐ》より|神《かみ》に|立《た》ち|歸《かへ》らせ、|我《われ》に|對《たい》する|信仰《しんかう》によりて|罪《つみ》の|赦《ゆるし》と|潔《きよ》められたる|者《もの》のうちの|嗣業《しげふ》とを|得《え》しめん」と。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》にアグリッパ|王《わう》よ、われは|天《てん》よりの|顯示《しめし》に|背《そむ》かずして、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|先《ま》づダマスコに|居《を》るもの、|次《つぎ》にエルサレム|及《およ》びユダヤ|全國《ぜんこく》、また|異邦人《いはうじん》にまで、|悔改《くいあらた》めて|神《かみ》に|立《た》ちかへり、|其《そ》の|悔改《くいあらため》にかなふ|業《わざ》をなすべきことを|宣傅《のべつた》へたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》がためにユダヤ|人《びと》われを|宮《みや》にて|捕《とら》へ、かつ|殺《ころ》さんとせり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|神《かみ》の|祐《たすけ》によりて|今日《けふ》に|至《いた》るまで|尚《なほ》|存《ながら》へて、|小《せう》なる|人《ひと》にも|大《だい》なる|人《ひと》にも|證《あかし》をなし、|言《い》ふところは|預言者《よげんしゃ》およびモーセが|必《かなら》ず|來《きた》るべしと|語《かた》りしことの|外《ほか》ならず。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ちキリストの|苦難《くるしみ》を|受《う》くべきこと、|最先《いやさき》に|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へる|事《こと》によりて、|民《たみ》と|異邦人《いはうじん》とに|光《ひかり》を|傳《つた》ふべきこと|是《これ》なり』[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|斯《か》く|辯明《べんめい》しつつある|時《とき》、フェスト|大聲《おほごゑ》に|言《い》ふ『パウロよ、なんぢ|狂氣《きゃうき》せり、|博學《はくがく》なんぢを|狂氣《きゃうき》せしめたり』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|言《い》ふ『フェスト|閣下《かくか》よ、|我《われ》は|狂氣《きゃうき》せず、|宣《の》ぶる|所《ところ》は|眞《まこと》にして|慥《たしか》なる|言《ことば》なり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》は|此《これ》|等《ら》のことを|知《し》るゆゑに、|我《われ》その|前《まへ》に|憚《はばか》らずして|語《かた》る。これらの|事《こと》は|片隅《かたすみ》に|行《おこな》はれたるにあらねば、|一《ひと》つとして|王《わう》の|眼《め》に|隱《かく》れたるはなしと|信《しん》ずるに|因《よ》る。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]アグリッパ|王《わう》よ、なんぢ|預言者《よげんしゃ》の|書《ふみ》を|信《しん》ずるか、|我《われ》なんぢの|信《しん》ずることを|知《し》る』[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]アグリッパ、パウロに|言《い》ふ『なんぢ|説《と》くこと|僅《わづか》にして|我《われ》をキリステアンたらしめんとするか』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|言《い》ふ『|説《と》くことの|僅《わづか》なるにもせよ、|多《おほ》きにもせよ、|神《かみ》に|願《ねが》ふは、|啻《ただ》に|汝《なんぢ》のみならず、|凡《すべ》て|今日《けふ》われに|聽《き》ける|者《もの》の、この|縲絏《なはめ》なくして|我《わ》がごとき|者《もの》とならんことなり』[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]ここに|王《わう》も|總督《そうとく》もベルニケも、|列座《れつざ》の|者《もの》どもも|皆《みな》ともに|立《た》つ、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|退《しりぞ》きてのち|相《あひ》|語《かた》りて|言《い》ふ『この|人《ひと》は|死罪《しざい》または|縲絏《なはめ》に|當《あた》るべき|事《こと》をなさず』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]アグリッパ、フェストに|言《い》ふ『この|人《ひと》カイザルに|上訴《じゃうそ》せざりしならば|釋《ゆる》さるべかりしなり』 第二七章[#「第二七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]すでに|我等《われら》をイタリヤに|渡《わた》らしむること|決《さだま》りたれば、パウロ|及《およ》びその|他《ほか》|數人《すにん》の|囚人《めしうど》を、|近衞《このゑ》|隊《たい》の|百卒長《ひゃくそつちゃう》ユリアスと|云《い》ふ|人《ひと》に|付《わた》せり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|我《われ》らアジヤの|海邊《うみべ》なる|各處《ところどころ》に|寄《よ》せゆくアドラミテオの|船《ふね》の|出帆《しゅっぱん》せんとするに|乘《の》りて|出《い》づ。テサロニケのマケドニヤ|人《びと》アリスタルコも|我《われ》らと|共《とも》にありき。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|次《つぎ》の|日《ひ》シドンに|著《つ》きたれば、ユリアス|懇切《ねんごろ》にパウロを|遇《あ》ひ、その|友《とも》らの|許《もと》にゆきて|歡待《もてなし》を|受《う》くることを|許《ゆる》せり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|此處《ここ》より|船出《ふなで》せしが、|風《かぜ》の|逆《さから》ふによりてクプロの|風下《かざしも》の|方《かた》をはせ、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]キリキヤ|及《およ》びパンフリヤの|沖《おき》を|過《す》ぎてルキヤのミラに|著《つ》く。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》にてイタリヤにゆくアレキサンデリヤの|船《ふね》に|遇《あ》ひたれば、|百卒長《ひゃくそつちゃう》われらを|之《これ》に|乘《の》らしむ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|日《ひ》のあひだ|船《ふね》の|進《すす》み|遲《おそ》く、|辛《から》うじてクニドに|對《むか》へる|處《ところ》に|到《いた》りしが、|風《かぜ》に|阻《さ》へられてサルモネの|沖《おき》を|過《す》ぎ、クレテの|風下《かざしも》の|方《かた》をはせ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|陸《をか》に|沿《そ》ひ|辛《から》うじて|良《よ》き|港《みなと》といふ|處《ところ》につく。その|近《ちか》き|處《ところ》にラサヤの|町《まち》あり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|船路《ふなぢ》|久《ひさ》しきを|歴《へ》て、|斷食《だんじき》の|期節《きせつ》も|既《すで》に|過《す》ぎたれば、|航海《かうかい》|危《あやふ》きにより、パウロ|人々《ひとびと》に|勸《すす》めて|言《い》ふ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]『|人々《ひとびと》よ、|我《われ》この|航海《かうかい》の|害《がい》あり|損《そん》|多《おほ》くして、ただ|積荷《つみに》と|船《ふね》とのみならず、|我《われ》らの|生命《いのち》にも|及《およ》ぶべきを|認《みと》む』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されど|百卒長《ひゃくそつちゃう》は、パウロの|言《い》ふ|所《ところ》よりも|船《ふな》|長《をさ》と|船《ふな》|主《ぬし》との|言《ことば》を|重《おも》んじたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》この|港《みなと》は|冬《ふゆ》を|過《すご》すに|不便《ふべん》なるより、|多數《たすう》の|者《もの》も、なし|得《え》んにはピニクスに|到《いた》り、|彼處《かしこ》にて|冬《ふゆ》を|過《すご》さんとて、|此處《ここ》を|船出《ふなで》するを|可《よ》しとせり。ピニクスはクレテの|港《みなと》にて|東《ひがし》|北《きた》と|東《ひがし》|南《みなみ》とに|向《むか》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|南《みなみ》|風《かぜ》おもむろに|吹《ふ》きたれば、|彼《かれ》ら|志望《こころざし》を|得《え》たりとして|錨《いかり》をあげ、クレテの|岸邊《きしべ》に|沿《そ》ひて|進《すす》みたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|幾程《いくほど》もなくユーラクロンといふ|疾風《はやて》その|島《しま》より|吹《ふ》きおろし、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》がために|船《ふね》は|吹《ふ》き|流《なが》され、|風《かぜ》に|向《むか》ひて|進《すす》むこと|能《あた》はねば、|船《ふね》は|風《かぜ》の|追《お》ふに|任《まか》す。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]クラウダといふ|小島《こじま》の|風下《かざしも》の|方《かた》にいたり、|辛《から》うじて|小艇《こぶね》を|收《をさ》め、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]これを|船《ふね》に|引上《ひきあ》げてのち、|備綱《そなへづな》にて|船體《せんたい》を|卷《ま》き|縛《しば》り、またスルテスの|洲《す》に|乘《の》りかけんことを|恐《おそ》れ、|帆《ほ》を|下《おろ》して|流《なが》る。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]いたく|暴風《あらし》に|惱《なやま》され、|次《つぎ》の|日《ひ》、|船《ふね》の|者《もの》ども|積荷《つみに》を|投《な》げすて、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|三日《みっか》めに|手《て》づから|船具《ふなぐ》を|棄《す》てたり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|數日《すにち》のあひだ|日《ひ》も|星《ほし》も|見《み》えず、|暴風《あらし》はげしく|吹《ふ》き|荒《すさ》びて、|我《われ》らの|救《すく》はるべき|望《のぞみ》ついに|絶《た》え|果《は》てたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》の|食《しょく》せぬこと|久《ひさ》しくなりたる|時《とき》、パウロその|中《なか》に|立《た》ちて|言《い》ふ『|人々《ひとびと》よ、なんぢら|前《さき》に|我《わ》が|勸《すすめ》をきき、クレテより|船出《ふなで》せずして、この|害《がい》と|損《そん》とを|受《う》けずあるべき|筈《はず》なりき。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]いま|我《われ》なんぢらに|勸《すす》む、|心《こころ》|安《やす》かれ、|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|一人《ひとり》だに|生命《いのち》をうしなふ|者《もの》なし、ただ|船《ふね》を|失《うしな》はん。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]わが|屬《ぞく》するところ|我《わ》が|事《つか》ふる|所《ところ》の|神《かみ》の|使《つかひ》、|昨夜《さくや》わが|傍《かたは》らに|立《た》ちて、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]「パウロよ、|懼《おそ》るな、なんぢ|必《かなら》ずカイザルの|前《まへ》に|立《た》たん、|視《み》よ、|神《かみ》は|汝《なんぢ》と|同船《どうせん》する|者《もの》をことごとく|汝《なんぢ》に|賜《たま》へり」と|云《い》ひたればなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|人々《ひとびと》よ、|心《こころ》|安《やす》かれ、|我《われ》はその|我《われ》に|語《かた》り|給《たま》ひしごとく|必《かなら》ず|成《な》るべしと|神《かみ》を|信《しん》ず。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|我《われ》らは|或《ある》|島《しま》に|推上《おしあ》げらるべし』[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|十《じふ》|四日《よっか》めの|夜《よる》に|至《いた》りて、アドリヤの|海《うみ》を|漂《ただよ》ひゆきたるに、|夜半《よなか》ごろ|水夫《かこ》ら|陸《をか》に|近《ちか》づきたりと|思《おも》ひて、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|水《みづ》を|測《はか》りたれば、|二《に》|十《じふ》|尋《ひろ》なるを|知《し》り、|少《こ》しく|進《すす》みてまた|測《はか》りたれば、|十《じふ》|五《ご》|尋《ひろ》なるを|知《し》り、[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|岩《いは》に|乘《の》り|上《あ》げんことを|恐《おそ》れて、|艫《とも》より|錨《いかり》を|四《よ》つ|投《おろ》して|夜明《よあけ》を|待《ま》ちわぶ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|水夫《かこ》ら|船《ふね》より|逃《のが》れ|去《さ》らんと|欲《ほっ》し、|舳《へさき》より|錨《いかり》を|曳《ひ》きゆくに|言《こと》|寄《よ》せて|小艇《こぶね》を|海《うみ》に|下《おろ》したれば、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]パウロ、|百卒長《ひゃくそつちゃう》と|兵卒《へいそつ》らとに|言《い》ふ『この|者《もの》ども|若《も》し|船《ふね》に|留《とどま》らずば、|汝《なんぢ》ら|救《すく》はるること|能《あた》はず』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ここに|兵卒《へいそつ》ら|小艇《こぶね》の|綱《つな》を|斷切《たちき》りて、その|流《なが》れゆくに|任《まか》す。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|夜《よ》の|明《あ》けんとする|頃《ころ》、パウロ|凡《すべ》ての|人《ひと》に|食《しょく》せんことを|勸《すす》めて|言《い》ふ『なんぢら|待《ま》ち|待《ま》ちて|食事《しょくじ》せぬこと|今日《けふ》にて|十《じふ》|四日《よっか》なり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》らに|食《しょく》せんことを|勸《すす》む、これ|汝《なんぢ》らが|救《すくひ》のためなり、|汝《なんぢ》らの|頭髮《かみのけ》|一筋《ひとすじ》だに|首《かうべ》より|落《お》つる|事《こと》なし』[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|言《い》ひて|後《のち》みづからパンを|取《と》り、|一同《いちどう》の|前《まへ》にて|神《かみ》に|謝《しゃ》し、|擘《さ》きて|食《しょく》し|始《はじ》めたれば、[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》もみな|心《こころ》を|安《やす》んじて|食《しょく》したり。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|船《ふね》に|居《を》る|我《われ》らは|凡《すべ》て|二《に》|百《ひゃく》|七《しち》|十《じふ》|六《ろく》|人《にん》なりき。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》|食《しょく》し|飽《あ》きてのち、|穀物《こくもつ》を|海《うみ》に|投《な》げ|棄《す》てて|船《ふね》を|輕《かろ》くせり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|夜明《よあけ》になりて、|孰《いづれ》の|土地《とち》かは|知《し》らねど、|砂濱《すなはま》の|入江《いりえ》を|見出《みいだ》し、なし|得《う》べくば|此處《ここ》に|船《ふね》を|寄《よ》せんと|相《あひ》|議《はか》り、[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|錨《いかり》を|斷《た》ちて|海《うみ》に|棄《す》つるとともに、|舵纜《かじづな》をゆるめ|舳《へさき》の|帆《ほ》を|揚《あ》げて、|風《かぜ》にまかせつつ|砂濱《すなはま》さして|進《すす》む。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|潮《うしほ》の|流《なが》れあふ|處《ところ》にいたりて|船《ふね》を|淺瀬《あさせ》に|乘《の》り|上《あ》げたれば、|舳《へさき》|膠著《いつ》きて|動《うご》かず、|艫《とも》は|浪《なみ》の|激《はげ》しきに|破《やぶ》れたり。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|兵卒《へいそつ》らは|囚人《めしうど》の|泳《およ》ぎて|逃《のが》れ|去《さ》らんことを|恐《おそ》れ、これを|殺《ころ》さんと|議《はか》りしに、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|百卒長《ひゃくそつちゃう》パウロを|救《すく》はんと|欲《ほっ》して、その|議《はか》るところを|阻《はば》み、|泳《およ》ぎうる|者《もの》に|命《めい》じ、|海《うみ》に|跳《と》び|入《い》りてまず|上陸《じゃうりく》せしめ、[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]その|他《ほか》の|者《もの》をば|或《あるひ》は|板《いた》あるひは|船《ふね》の|碎片《くだけ》に|乘《の》らしむ。|斯《か》くしてみな|上陸《じゃうりく》して|救《すく》はるるを|得《え》たり。 第二八章[#「第二八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]われら|救《すく》はれて|後《のち》、この|島《しま》のマルタと|稱《とな》ふるを|知《し》れり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|土人《どじん》ら|一方《ひとかた》ならぬ|情《なさけ》を|我《われ》らに|表《あらは》し、|降《ふ》りしきる|雨《あめ》と|寒氣《さむさ》とのために、|火《ひ》を|焚《た》きて|我《われ》ら|一同《いちどう》を|待遇《もてな》せり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|柴《しば》を|束《つか》ねて|火《ひ》にくべたれば、|熱《ねつ》によりて|蝮《まむし》いでて|其《そ》の|手《て》につく。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|蛇《へび》のその|手《て》に|懸《かか》りたるを|土人《どじん》ら|見《み》て|互《たがひ》に|言《い》ふ『この|人《ひと》は|必《かなら》ず|殺人者《ひとごろし》なるべし、|海《うみ》より|救《すく》はれしも、|天道《てんだう》はその|生《い》くるを|容《ゆる》さぬなり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]パウロ|蛇《へび》を|火《ひ》のなかに|振《ふ》り|落《おと》して|何《なに》の|害《がい》をも|受《う》けざりき。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》は|彼《かれ》が|腫《は》れ|出《い》づるか、または|忽《たちま》ち|倒《たふ》れ|死《し》ぬるならんと|候《うかが》ふ。|久《ひさ》しく|窺《うかが》ひたれど、|聊《いささ》かも|害《がい》を|受《う》けぬを|見《み》て、|思《おもひ》を|變《か》へて、|此《こ》は|神《かみ》なりと|言《い》ふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]この|處《ところ》の|邊《ほとり》に|島司《たうし》のもてる|土地《とち》あり、|島司《たうし》の|名《な》はポプリオといふ。|此《こ》の|人《ひと》われらを|迎《むか》へて|懇切《ねんごろ》に|三日《みっか》の|間《あひだ》もてなせり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ポプリオの|父《ちち》、|熱《ねつ》と|痢病《りびゃう》とに|罹《かか》りて|臥《ふ》し|居《ゐ》たれば、パウロその|許《もと》にいたり、|祈《いの》りかつ|手《て》を|按《お》きて|醫《いや》せり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|事《こと》ありてより、|島《しま》の|病《や》める|人々《ひとびと》みな|來《きた》りて|醫《いや》されたれば、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|禮《れい》を|厚《あつ》くして|我《われ》らを|敬《うやま》ひ、また|船出《ふなで》の|時《とき》には|必要《ひつえう》なる|品々《しなじな》を|贈《おく》りたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|三月《みつき》の|後《のち》、われらはこの|島《しま》に|冬籠《ふゆごもり》せしデオスクリの|號《しるし》あるアレキサンデリヤの|船《ふね》にて|出《い》で、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]シラクサにつきて|三日《みっか》とまり、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》より|繞《めぐ》りてレギオンにいたり、|一日《いちにち》を|過《す》ぎて|南《みなみ》|風《かぜ》ふき|起《おこ》りたれば、|我《われ》ら|二日《ふつか》めにポテオリに|著《つ》き、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》にて|兄弟《きゃうだい》たちに|逢《あ》ひ、その|勸《すすめ》によりて|七日《なぬか》のあひだ|留《とどま》り、|而《しか》して|遂《つひ》にロマに|往《ゆ》く。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かしこの|兄弟《きゃうだい》たち|我《われ》らの|事《こと》をききて、アピオポロおよびトレスタベルネまで|來《きた》りて|我《われ》らを|迎《むか》ふ。パウロこれを|見《み》て|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》し、その|心《こころ》|勇《いさ》みたり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らロマに|入《い》りて|後《のち》、パウロは|己《おのれ》を|守《まも》る|一人《ひとり》の|兵卒《へいそつ》とともに|別《べつ》に|住《す》むことを|許《ゆる》さる。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|三日《みっか》すぎてパウロ、ユダヤ|人《びと》の|重立《おもだ》ちたる|者《もの》を|呼《よ》び|集《あつ》む。その|集《あつま》りたる|時《とき》これに|言《い》ふ『|兄弟《きゃうだい》たちよ、|我《われ》はわが|民《たみ》わが|先祖《せんぞ》たちの|慣例《ならはし》に|悖《もと》ることを|一《ひと》つも|爲《な》さざりしに、エルサレムより|囚人《めしうど》となりて、ロマ|人《びと》の|手《て》に|付《わた》されたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かれら|我《われ》を|審《さば》きて|死《し》に|當《あた》ることなき|故《ゆゑ》に、|我《われ》を|釋《ゆる》さんと|思《おも》ひしに、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》さからひたれば、|餘義《よぎ》なくカイザルに|上訴《じゃうそ》せり。|然《さ》れど|我《わ》が|國人《くにびと》を|訴《うった》へんとせしにあらず。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》なんぢらに|會《あ》ひ、かつ|共《とも》に|語《かた》らんことを|願《ねが》へり、|我《われ》はイスラエルの|懷《いだ》く|希望《のぞみ》の|爲《ため》にこの|鎖《くさり》に|繋《つな》がれたり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]かれら|言《い》ふ『われら|汝《なんぢ》につきてユダヤより|書《ふみ》を|受《う》けず、また|兄弟《きゃうだい》たちの|中《うち》より|來《きた》りて、|汝《なんぢ》の|善《よ》からぬ|事《こと》を|告《つ》げたる|者《もの》も、|語《かた》りたる|者《もの》もなし。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ただ|我《われ》らは|汝《なんぢ》の|思《おも》ふところを|聞《き》かんと|欲《ほっ》するなり。それは|此《こ》の|宗旨《しゅうし》の|到《いた》る|處《ところ》にて|非《ひ》|難《なん》せらるるを|知《し》ればなり』[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ここに|日《ひ》を|定《さだ》めて|多《おほ》くの|人《ひと》パウロの|宿《やど》に|來《きた》りたれば、パウロ|朝《あした》より|夕《ゆふべ》まで|神《かみ》の|國《くに》のことを|説明《ときあか》して|證《あかし》をなし、かつモーセの|律法《おきて》と|預言者《よげんしゃ》の|書《ふみ》とを|引《ひ》きてイエスのことを|勸《すす》めたり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]パウロのいふ|言《ことば》を|或《ある》|者《もの》は|信《しん》じ、|或《ある》|者《もの》は|信《しん》ぜず。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|互《たがひ》に|相《あひ》|合《あ》はずして|退《しりぞ》かんとしたるに、パウロ|一言《ひとこと》を|述《の》べて|言《い》ふ『|宜《うべ》なるかな、|聖《せい》|靈《れい》は|預言者《よげんしゃ》イザヤによりて|汝《なんぢ》らの|先祖《せんぞ》たちに|語《かた》り|給《たま》へり。|曰《いは》く、 [#ここから2字下げ] [#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]「なんぢらこの|民《たみ》に|往《ゆ》きて|言《い》へ、 なんぢら|聞《き》きて|聞《き》けども|悟《さと》らず、 |見《み》て|見《み》れども|認《みと》めず、 [#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]この|民《たみ》の|心《こころ》はにぶく、 |耳《みみ》は|聞《き》くにものうく、 |目《め》は|閉《と》ぢたればなり。 これ|目《め》にて|見《み》、|耳《みみ》にて|聞《き》き、 |心《こころ》にてさとり、ひるがへりて |我《われ》に|醫《いや》さるることなからん|爲《ため》なり」 [#ここで字下げ終わり] [#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|汝《なんぢ》ら|知《し》れ、|神《かみ》のこの|救《すくひ》は|異邦人《いはうじん》に|遣《つかは》されたり、|彼《かれ》らは|之《これ》を|聽《き》くべし』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]パウロは|滿《まん》|二年《にねん》のあひだ、|己《おの》が|借《か》り|受《う》けたる|家《いへ》に|留《とどま》り、その|許《もと》にきたる|凡《すべ》ての|者《もの》を|迎《むか》へて、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|更《さら》に|臆《おく》せずまた|妨《さまた》げられずして、|神《かみ》の|國《くに》をのべ、|主《しゅ》イエス・キリストの|事《こと》を|教《をし》へたり。 [#改ページ] ロマ人への書[#「ロマ人への書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]キリスト・イエスの|僕《しもべ》、|召《め》されて|使徒《しと》となり、|神《かみ》の|福音《ふくいん》のために|選《えら》び|別《わか》たれたるパウロ――[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]この|福音《ふくいん》は|神《かみ》その|預言者《よげんしゃ》たちにより、|聖書《せいしょ》の|中《うち》に|預《あらか》じめ|御子《みこ》に|就《つ》きて|約《やく》し|給《たま》ひしものなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|御子《みこ》は|肉《にく》によれば、ダビデの|裔《すゑ》より|生《うま》れ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|潔《きよ》き|靈《れい》によれば、|死人《しにん》の|復活《よみがへり》により|大能《たいのう》をもて|神《かみ》の|子《こ》と|定《さだ》められ|給《たま》へり、|即《すなは》ち|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》その|御名《みな》の|爲《ため》にもろもろの|國人《くにびと》を|信仰《しんかう》に|從順《じゅうじゅん》ならしめんとて、|彼《かれ》より|恩惠《めぐみ》と|使徒《しと》の|職《つとめ》とを|受《う》けたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もその|中《うち》にあり、てイエス・キリストの|有《もの》とならん|爲《ため》に|召《め》されたるなり。――[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]われ|書《ふみ》をロマに|在《あ》りて|神《かみ》に|愛《あい》せられ、|召《め》されて|聖徒《せいと》となりたる|凡《すべ》ての|者《もの》に|贈《おく》る。|願《ねが》はくは|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》、|全世界《ぜんせかい》に|言《い》ひ|傳《つた》へられたれば、|我《われ》まづ|汝《なんぢ》ら|一同《いちどう》の|爲《ため》にイエス・キリストによりて|我《わ》が|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]その|御子《みこ》の|福音《ふくいん》に|於《おい》て|我《わ》が|靈《れい》をもて|事《つか》ふる|神《かみ》は、わが|絶《た》えず|祈《いのり》のうちに|汝《なんぢ》らを|覺《おぼ》え、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|如何《いか》にしてか|御意《みこころ》に|適《かな》ひ、いつか|汝《なんぢ》らに|到《いた》るべき|途《みち》を|得《え》んと、|常《つね》に|冀《こひね》がふことを|我《わ》がために|證《あかし》し|給《たま》ふなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らを|見《み》んことを|切《せつ》に|望《のぞ》むは、|汝《なんぢ》らの|堅《かた》うせられん|爲《ため》に|靈《れい》の|賜物《たまもの》を|分《わ》け|與《あた》へんとてなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|我《われ》なんぢらの|中《うち》にありて、|互《たがひ》の|信仰《しんかう》により|相《あひ》|共《とも》に|慰《なぐさ》められん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》ほかの|異邦人《いはうじん》の|中《うち》より|得《え》しごとく、|汝《なんぢ》らの|中《うち》よりも|實《み》を|得《え》んとて、|屡次《しばしば》なんぢらに|往《ゆ》かんとしたれど、|今《いま》に|至《いた》りてなほ|妨《さまた》げらる、|此《こ》の|事《こと》を|汝《なんぢ》らの|知《し》らざるを|欲《ほっ》せず。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はギリシヤ|人《びと》にも|夷人《えびす》にも、|智《かしこ》き|者《もの》にも|愚《おろか》なる|者《もの》にも|負債《おひめ》あり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》はロマに|在《あ》る|汝《なんぢ》らにも|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へんことを|頻《しき》りに|願《ねが》ふなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|福音《ふくいん》を|恥《はぢ》とせず、この|福音《ふくいん》はユダヤ|人《びと》を|始《はじ》めギリシヤ|人《びと》にも、|凡《すべ》て|信《しん》ずる|者《もの》に|救《すくひ》を|得《え》さする|神《かみ》の|力《ちから》たればなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|義《ぎ》はその|福音《ふくいん》のうちに|顯《あらは》れ、|信仰《しんかう》より|出《い》でて|信仰《しんかう》に|進《すす》ましむ。|録《しる》して『|義人《ぎじん》は|信仰《しんかう》によりて|生《い》くべし』とある|如《ごと》し。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》の|怒《いかり》は、|不義《ふぎ》をもて|眞理《まこと》を|阻《はば》む|人《ひと》の、もろもろの|不虔《ふけん》と|不義《ふぎ》とに|對《むか》ひて|天《てん》より|顯《あらは》る。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]その|故《ゆゑ》は、|神《かみ》につきて|知《し》り|得《う》べきことは|彼《かれ》らに|顯著《あらは》なればなり、|神《かみ》これを|顯《あらは》し|給《たま》へり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》の|見《み》るべからざる|永遠《とこしへ》の|能力《ちから》と|神性《しんせい》とは、|造《つく》られたる|物《もの》により|世《よ》の|創《はじめ》より|悟《さと》りえて|明《あきら》かに|見《み》るべければ、|彼《かれ》ら|言《い》ひ|遁《のが》るる|術《すべ》なし。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》を|知《し》りつつも|尚《なほ》これを|神《かみ》として|崇《あが》めず、|感謝《かんしゃ》せず、その|念《おもひ》は|虚《むな》しく、その|愚《おろか》なる|心《こころ》は|暗《くら》くなれり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|自《みづか》ら|智《かしこ》しと|稱《とな》へて|愚《おろか》となり、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|朽《く》つることなき|神《かみ》の|榮光《えいくわう》を|易《か》へて、|朽《く》つべき|人《ひと》および|禽獸《とりけもの》・|匍《は》ふ|物《もの》に|似《に》たる|像《かたち》となす。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》は|彼《かれ》らを|其《そ》の|心《こころ》の|慾《よく》にまかせて、|互《たがひ》にその|身《み》を|辱《はづか》しむる|汚穢《けがれ》に|付《わた》し|給《たま》へり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|神《かみ》の|眞《まこと》を|易《か》へて|虚僞《いつはり》となし、|造物主《つくりぬし》を|措《お》きて|造《つく》られたる|物《もの》を|拜《はい》し、|且《かつ》これに|事《つか》ふ、|造物主《つくりぬし》は|永遠《とこしへ》に|讃《ほ》むべき|者《もの》なり、アァメン。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|神《かみ》は|彼《かれ》らを|恥《は》づべき|慾《よく》に|付《わた》し|給《たま》へり。|即《すなは》ち|女《をんな》は|順性《じゅんせい》の|用《よう》を|易《か》へて|逆性《ぎゃくせい》の|用《よう》となし、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|男《をとこ》もまた|同《おな》じく|女《をんな》の|順性《じゅんせい》の|用《よう》を|棄《す》てて|互《たがひ》に|情《じゃう》|慾《よく》を|熾《もや》し、|男《をとこ》と|男《をとこ》と|恥《は》づることを|行《おこな》ひて、その|迷《まよひ》に|値《あたひ》すべき|報《むくい》を|己《おの》が|身《み》に|受《う》けたり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]また|神《かみ》を|心《こころ》に|存《と》むるを|善《よ》しとせざれば、|神《かみ》もその|邪曲《よこしま》なる|心《こころ》の|隨《まま》に|爲《す》まじき|事《こと》をするに|任《まか》せ|給《たま》へり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ちもろもろの|不義《ふぎ》・|惡《あく》・|慳貪《むさぼり》・|惡意《あくい》にて|滿《み》つる|者《もの》、また|嫉妬《ねたみ》・|殺意《さつい》・|紛爭《あらそひ》・|詭計《たばかり》・|惡念《あくねん》の|溢《あふ》るる|者《もの》、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|讒言《ざんげん》する|者《もの》・|謗《そし》る|者《もの》・|神《かみ》に|憎《にく》まるる|者《もの》・|侮《あなど》る|者《もの》・|高《たか》ぶる|者《もの》・|誇《ほこ》る|者《もの》・|惡事《あくじ》を|企《くはだ》つる|者《もの》・|父母《ふぼ》に|逆《さから》ふ|者《もの》、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|無知《むち》・|違約《ゐやく》・|無情《むじゃう》・|無《む》|慈悲《じひ》なる|者《もの》にして、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]かかる|事《こと》どもを|行《おこな》ふ|者《もの》の|死罪《しざい》に|當《あた》るべき|神《かみ》の|定《さだめ》を|知《し》りながら、|啻《ただ》に|自己《みづから》これらの|事《こと》を|行《おこな》ふのみならず、また|人《ひと》の|之《これ》を|行《おこな》ふを|可《よ》しとせり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|凡《すべ》て|人《ひと》を|審《さば》く|者《もの》よ、なんぢ|言《い》ひ|遁《のが》るる|術《すべ》なし、|他《ほか》の|人《ひと》を|審《さば》くは、|正《ただ》しく|己《おのれ》を|罪《つみ》するなり。|人《ひと》をさばく|汝《なんぢ》もみづから|同《おな》じ|事《こと》を|行《おこな》へばなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]かかる|事《こと》をおこなふ|者《もの》を|罪《つみ》する|神《かみ》の|審判《さばき》は|眞理《まこと》に|合《かな》へりと|我《われ》らは|知《し》る。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]かかる|事《こと》をおこなふ|者《もの》を|審《さば》きて|自己《みづから》これを|行《おこな》ふ|人《ひと》よ、なんぢ|神《かみ》の|審判《さばき》を|遁《のが》れんと|思《おも》ふか。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|仁慈《なさけ》なんぢを|悔改《くいあらため》に|導《みちび》くを|知《し》らずして、その|仁慈《なさけ》と|忍耐《にんたい》と|寛容《くわんよう》との|豐《ゆたか》なるを|輕《かろ》んずるか。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|頑固《かたくな》と|悔改《くいあらた》めぬ|心《こころ》とにより、|己《おのれ》のために|神《かみ》の|怒《いかり》を|積《つ》みて、その|正《ただ》しき|審判《さばき》の|顯《あらは》るる|怒《いかり》の|日《ひ》に|及《およ》ぶなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はおのおのの|所作《しわざ》に|隨《したが》ひて|報《むく》い、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|耐《た》へ|忍《しの》びて|善《ぜん》をおこない|光榮《くわうえい》と|尊貴《たふとき》と|朽《く》ちざる|事《こと》とを|求《もと》むる|者《もの》には、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》をもて|報《むく》い、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|徒黨《とたう》により|眞理《まこと》に|從《したが》はずして|不義《ふぎ》にしたがう|者《もの》には、|怒《いかり》と|憤恚《いきどほり》とをもて|報《むく》い|給《たま》はん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]すべて|惡《あく》をおこなふ|人《ひと》には、ユダヤ|人《びと》を|始《はじ》めギリシヤ|人《びと》にも|患難《なやみ》と|苦難《くるしみ》とあり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|善《ぜん》をおこなふ|人《ひと》には、ユダヤ|人《びと》を|始《はじ》めギリシヤ|人《びと》にも|光榮《くわうえい》と|尊貴《たふとき》と|平安《へいあん》とあらん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]そは|神《かみ》には|偏《かたよ》り|視《み》|給《たま》ふこと|無《な》ければなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|律法《おきて》なくして|罪《つみ》を|犯《をか》したる|者《もの》は|律法《おきて》なくして|滅《ほろ》び、|律法《おきて》ありて|罪《つみ》を|犯《をか》したる|者《もの》は|律法《おきて》によりて|審《さば》かるべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》を|聞《き》くもの|神《かみ》の|前《まへ》に|義《ぎ》たるにあらず、|律法《おきて》をおこなふ|者《もの》のみ|義《ぎ》とせらるべし。――[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》を|有《も》たぬ|異邦人《いはうじん》、もし|本性《うまれつき》のまま|律法《おきて》に|載《の》せたる|所《ところ》をおこなふ|時《とき》は、|律法《おきて》を|有《も》たずともおのづから|己《おの》が|律法《おきて》たるなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|律法《おきて》の|命《めい》ずる|所《ところ》のその|心《こころ》に|録《しる》されたるを|顯《あらは》し、おのが|良心《りゃうしん》もこれを|證《あかし》をなして、その|念《おもひ》、たがひに|或《あるひ》は|訴《うった》へ|或《あるひ》は|辯明《べんめい》す。――[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》わが|福音《ふくいん》に|云《い》へる|如《ごと》く、|神《かみ》のキリスト・イエスによりて|人々《ひとびと》の|隱《かく》れたる|事《こと》を|審《さば》きたまふ|日《ひ》に|成《な》るべし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ユダヤ|人《びと》と|稱《とな》へられ、|律法《おきて》に|安《やす》んじ、|神《かみ》を|誇《ほこ》り、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]その|御意《みこころ》を|知《し》り、|律法《おきて》に|教《をし》へられて|善惡《よしあし》を|辨《わきま》へ、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]また|律法《おきて》のうちに|知識《ちしき》と|眞理《しんり》との|式《かた》を|有《も》てりとして、|盲人《めしひ》の|手引《てびき》、|暗黒《くらき》にをる|者《もの》の|光明《ひかり》、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|愚《おろか》なる|者《もの》の|守役《もりやく》、|幼兒《をさなご》の|教師《けうし》なりと|自《みづか》ら|信《しん》ずる|者《もの》よ、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|何《なに》ゆゑ|人《ひと》に|教《をし》へて|己《おのれ》を|教《をし》へぬか、|竊《ぬす》む|勿《なか》れと|宣《の》べて|自《みづか》ら|竊《ぬす》むか、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|姦淫《かんいん》する|勿《なか》れと|言《い》ひて|姦淫《かんいん》するか、|偶像《ぐうざう》を|惡《にく》みて|宮《みや》の|物《もの》を|奪《うば》ふか、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》に|誇《ほこ》りて|律法《おきて》を|破《やぶ》り|神《かみ》を|輕《かろ》んずるか。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して『|神《かみ》の|名《な》は|汝《なんぢ》らの|故《ゆゑ》によりて|異邦人《いはうじん》の|中《なか》に|涜《けが》さる』とあるが|如《ごと》し。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|律法《おきて》を|守《まも》らば|割禮《かつれい》は|益《えき》あり、|律法《おきて》を|破《やぶ》らば|汝《なんぢ》の|割禮《かつれい》は|無《む》|割禮《かつれい》となるなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|割禮《かつれい》なき|者《もの》も|律法《おきて》の|義《ぎ》を|守《まも》らば、その|無《む》|割禮《かつれい》は|割禮《かつれい》とせらるるにあらずや。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|本性《うまれつき》のまま|割禮《かつれい》なくして|律法《おきて》を|全《まった》うする|者《もの》は、|儀文《ぎぶん》と|割禮《かつれい》とありてなほ|律法《おきて》をやぶる|汝《なんぢ》を|審《さば》かん。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]それ|表面《うはべ》のユダヤ|人《びと》はユダヤ|人《びと》たるにあらず、|肉《にく》に|在《あ》る|表面《うはべ》の|割禮《かつれい》は|割禮《かつれい》たるにあらず。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|隱《ひそか》なるユダヤ|人《びと》はユダヤ|人《びと》なり、|儀文《ぎぶん》によらず、|靈《れい》による|心《こころ》の|割禮《かつれい》は|割禮《かつれい》なり、その|譽《ほまれ》は|人《ひと》よりにあらず、|神《かみ》より|來《きた》るなり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]さらばユダヤ|人《びと》に|何《なに》の|優《すぐ》るる|所《ところ》ありや、また|割禮《かつれい》に|何《なに》の|益《えき》ありや。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|事《こと》に|益《えき》おほし、|先《ま》づ|第一《だいいち》に|彼《かれ》らは|神《かみ》の|言《ことば》を|委《ゆだ》ねられたり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されど|如何《いか》ん、ここに|信《しん》ぜざる|者《もの》ありとも、その|不《ふ》|信《しん》は|神《かみ》の|眞實《しんじつ》を|廢《す》つべきか。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|決《けっ》して|然《しか》らず、|人《ひと》をみな|虚僞《いつはり》|者《もの》とすとも|神《かみ》を|誠實《まこと》とすべし。|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『なんぢは|其《そ》の|言《ことば》にて|義《ぎ》とせられ、 |審《さば》かるるとき|勝《かち》を|得給《えたま》はん|爲《ため》なり』 [#ここで字下げ終わり] とあるが|如《ごと》し。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|若《も》し|我《われ》らの|不義《ふぎ》は|神《かみ》の|義《ぎ》を|顯《あらは》すとせば|何《なに》と|言《い》はんか、|怒《いかり》を|加《くは》へたまふ|神《かみ》は|不義《ふぎ》なるか(こは|人《ひと》の|言《い》ふごとく|言《い》ふなり)[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|決《けっ》して|然《しか》らず、|若《も》し|然《しか》あらば|神《かみ》は|如何《いか》にして|世《よ》を|審《さば》き|給《たま》ふべき。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]わが|虚僞《いつはり》によりて|神《かみ》の|誠實《まこと》いよいよ|顯《あらは》れ、その|榮光《えいくわう》とならんには、いかで|我《われ》なほ|罪人《つみびと》として|審《さば》かるる|事《こと》あらん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]また『|善《ぜん》を|來《きた》らせん|爲《ため》に|惡《あく》をなすは|可《よ》からずや』(|或《ある》|者《もの》われらを|譏《そし》りて|之《これ》を|我《われ》らの|言《ことば》なりといふ)かかる|人《ひと》の|罪《つみ》に|定《さだ》めらるるは|正《ただ》し。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]さらば|如何《いか》ん、|我《われ》らの|勝《まさ》る|所《ところ》ありや、|有《あ》ることなし。|我《われ》ら|既《すで》にユダヤ|人《びと》もギリシヤ|人《びと》もみな|罪《つみ》の|下《した》に|在《あ》りと|告《つ》げたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『|義人《ぎじん》なし、|一人《ひとり》だになし、 [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|聰《さと》き|者《もの》なく、 |神《かみ》を|求《もと》むる|者《もの》なし。 [#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]みな|迷《まよ》ひて|相《あひ》|共《とも》に|空《むな》しくなれり、 |善《ぜん》をなす|者《もの》なし、|一人《ひとり》だになし。 [#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|咽《のど》は|開《ひら》きたる|墓《はか》なり、 |舌《した》には|詭計《たばかり》あり、 |口唇《くちびる》のうちには|蝮《まむし》の|毒《どく》あり、 [#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]その|口《くち》は|詛《のろひ》と|苦《にがき》とにて|滿《み》つ。 [#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]その|足《あし》は|血《ち》を|流《なが》すに|速《はや》し、 [#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|破壞《やぶれ》と|艱難《なやみ》とその|道《みち》にあり、 [#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|平和《へいわ》の|道《みち》を|知《し》らず。 [#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]その|眼前《めのまへ》に|神《かみ》をおそるる|畏《おそれ》なし』 [#ここで字下げ終わり] とあるが|如《ごと》し。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]それ|律法《おきて》の|言《い》ふところは|律法《おきて》の|下《した》にある|者《もの》に|語《かた》ると|我《われ》らは|知《し》る、これは|凡《すべ》ての|口《くち》ふさがり、|神《かみ》の|審判《さばき》に|全世界《ぜんせかい》の|服《ふく》せん|爲《ため》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》の|行爲《おこなひ》によりては、|一人《ひとり》だに|神《かみ》のまへに|義《ぎ》とせられず、|律法《おきて》によりて|罪《つみ》は|知《し》らるるなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|今《いま》や|律法《おきて》の|外《ほか》に|神《かみ》の|義《ぎ》は|顯《あらは》れたり、これ|律法《おきて》と|預言者《よげんしゃ》とに|由《よ》りて|證《あかし》せられ、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエス・キリストを|信《しん》ずるに|由《よ》りて|凡《すべ》て|信《しん》ずる|者《もの》に|與《あた》へたまふ|神《かみ》の|義《ぎ》なり。|之《これ》には|何《なに》|等《ら》の|差別《さべつ》あるなし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》、|罪《つみ》を|犯《をか》したれば|神《かみ》の|榮光《えいくわう》を|受《う》くるに|足《た》らず、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|功《こう》なくして|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》により、キリスト・イエスにある|贖罪《あがなひ》によりて|義《ぎ》とせらるるなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|神《かみ》は|忍耐《にんたい》をもて|過來《すぎこ》しかたの|罪《つみ》を|見遁《みのが》し|給《たま》ひしが、|己《おのれ》の|義《ぎ》を|顯《あらは》さんとて、キリストを|立《た》て、その|血《ち》によりて|信仰《しんかう》によれる|宥《なだめ》の|供物《そなへもの》となし|給《たま》へり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]これ|今《いま》おのれの|義《ぎ》を|顯《あらは》して、|自《みづか》ら|義《ぎ》たらん|爲《ため》、またイエスを|信《しん》ずる|者《もの》を|義《ぎ》とし|給《たま》はん|爲《ため》なり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]さらば|誇《ほこ》るところ|何處《いづこ》にあるか。|既《すで》に|除《のぞ》かれたり、|何《なに》の|律法《おきて》に|由《よ》りてか、|行爲《おこなひ》の|律法《おきて》か、|然《しか》らず、|信仰《しんかう》の|律法《おきて》に|由《よ》りてなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|思《おも》ふ、|人《ひと》の|義《ぎ》とせらるるは、|律法《おきて》の|行爲《おこなひ》によらず、|信仰《しんかう》に|由《よ》るなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はただユダヤ|人《びと》のみの|神《かみ》なるか、また|異邦人《いはうじん》の|神《かみ》ならずや、|然《しか》り、また|異邦人《いはうじん》の|神《かみ》なり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|唯一《ゆゐいつ》にして、|割禮《かつれい》ある|者《もの》を|信仰《しんかう》によりて|義《ぎ》とし、|割禮《かつれい》なき|者《もの》をも|信仰《しんかう》によりて|義《ぎ》とし|給《たま》へばなり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》らば|我《われ》ら|信仰《しんかう》をもて|律法《おきて》を|空《むな》しくするか、|決《けっ》して|然《しか》らず、|反《かへ》つて|律法《おきて》を|堅《かた》うするなり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]さらば|我《われ》らの|先祖《せんぞ》アブラハムは|肉《にく》につきて|何《なに》を|得《え》たりと|言《い》はんか。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]アブラハム|若《も》し|行爲《おこなひ》によりて|義《ぎ》とせられたらんには|誇《ほこ》るべき|所《ところ》あり、|然《さ》れど|神《かみ》の|前《まへ》には|有《あ》ることなし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|聖書《せいしょ》に|何《なに》と|云《い》へるか『アブラハム|神《かみ》を|信《しん》ず、その|信仰《しんかう》を|義《ぎ》と|認《みと》められたり』と。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]それ|働《はたら》く|者《もの》への|報酬《むくい》は|恩惠《めぐみ》といはず、|負債《おひめ》と|認《みと》めらる。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]されど|働《はたら》く|事《こと》なくとも、|敬虔《けいけん》ならぬ|者《もの》を|義《ぎ》としたまふ|神《かみ》を|信《しん》ずる|者《もの》は、その|信仰《しんかう》を|義《ぎ》と|認《みと》めらるるなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ダビデもまた|行爲《おこなひ》なくして|神《かみ》に|義《ぎ》と|認《みと》めらるる|人《ひと》の|幸福《さいはひ》につきて|斯《か》く|云《い》へり。|曰《いは》く、 [#ここから2字下げ] [#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]『|不法《ふはふ》を|免《ゆる》され、 |罪《つみ》を|蔽《おほ》はれたる|者《もの》は|幸福《さいはひ》なるかな、 [#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》が|罪《つみ》を|認《みと》め|給《たま》はぬ|人《ひと》は|幸福《さいはひ》なるかな』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]されば|此《こ》の|幸福《さいはひ》はただ|割禮《かつれい》ある|者《もの》にのみあるか、また|割禮《かつれい》なき|者《もの》にもあるか、|我《われ》らは|言《い》ふ『アブラハムはその|信仰《しんかう》を|義《ぎ》と|認《みと》められたり』と。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|如何《いか》なるときに|義《ぎ》と|認《みと》められたるか、|割禮《かつれい》ののちか、|無《む》|割禮《かつれい》のときか、|割禮《かつれい》の|後《のち》ならず、|無《む》|割禮《かつれい》の|時《とき》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|無《む》|割禮《かつれい》のときの|信仰《しんかう》によれる|義《ぎ》の|印《いん》として|割禮《かつれい》の|徽《しるし》を|受《う》けたり、これ|無《む》|割禮《かつれい》にして|信《しん》ずる|凡《すべ》ての|者《もの》の|義《ぎ》と|認《みと》められん|爲《ため》に、その|父《ちち》となり、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]また|割禮《かつれい》のみに|由《よ》らず、|我《われ》らの|父《ちち》アブラハムの|無《む》|割禮《かつれい》のときの|信仰《しんかう》の|跡《あと》をふむ|割禮《かつれい》ある|者《もの》の|父《ちち》とならん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]アブラハム|世界《せかい》の|世嗣《よつぎ》たるべしとの|約束《やくそく》を、アブラハムとその|裔《すゑ》との|與《あた》へられしは、|律法《おきて》に|由《よ》らず、|信仰《しんかう》の|義《ぎ》に|由《よ》れるなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]もし|律法《おきて》による|者《もの》ども|世嗣《よつぎ》たらば、|信仰《しんかう》は|空《むな》しく|約束《やくそく》は|廢《すた》るなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]それ|律法《おきて》は|怒《いかり》を|招《まね》く、|律法《おきて》なき|所《ところ》には|罪《つみ》を|犯《をか》すこともなし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|世嗣《よつぎ》たることの|恩惠《めぐみ》に|干《あづか》らんために|信仰《しんかう》に|由《よ》るなり、|是《これ》かの|約束《やくそく》のアブラハムの|凡《すべ》ての|裔《すゑ》、すなわち|律法《おきて》による|裔《すゑ》のみならず、|彼《かれ》の|信仰《しんかう》に|效《なら》ふ|裔《すゑ》にも|堅《かた》うせられん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はその|信《しん》じたる|所《ところ》の|神《かみ》、すなはち|死人《しにん》を|活《いか》し、|無《な》きものを|有《あ》るものの|如《ごと》く|呼《よ》びたまふ|神《かみ》の|前《まへ》にて、|我等《われら》すべての|者《もの》の|父《ちち》たるなり。|録《しる》して『われ|汝《なんぢ》を|立《た》てて|多《おほ》くの|國人《くにびと》の|父《ちち》とせり』とあるが|如《ごと》し。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|望《のぞ》むべくもあらぬ|時《とき》になほ|望《のぞ》みて|信《しん》じたり、|是《これ》なんぢの|裔《すゑ》はかくの|如《ごと》くなるべしと|言《い》ひ|給《たま》ひしに|隨《したが》ひて、|多《おほ》くの|國人《くにびと》の|父《ちち》とならん|爲《ため》なりき。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|凡《おほよ》そ|百歳《ひゃくさい》に|及《およ》びて|己《おの》が|身《み》の|死《し》にたるがごとき|状《さま》なると、サラの|胎《たい》の|死《し》にたるが|如《ごと》きとを|認《みと》むれども、その|信仰《しんかう》よわらず、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|不《ふ》|信《しん》をもて|神《かみ》の|約束《やくそく》を|疑《うたが》はず、|信仰《しんかう》により|強《つよ》くなりて|神《かみ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》し、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|約《やく》し|給《たま》へることを、|成《な》し|得給《えたま》ふと|確信《かくしん》せり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|由《よ》りて|其《そ》の|信仰《しんかう》を|義《ぎ》と|認《みと》められたり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く『|義《ぎ》と|認《みと》められたり』と|録《しる》したるは、アブラハムの|爲《ため》のみならず、また|我《われ》らの|爲《ため》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|主《しゅ》イエスを|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|者《もの》を|信《しん》ずる|我《われ》らも、その|信仰《しんかう》を|義《ぎ》と|認《みと》められん。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》は|我《われ》らの|罪《つみ》のために|付《わた》され、|我《われ》らの|義《ぎ》とせられん|爲《ため》に|甦《よみが》へらせられ|給《たま》へるなり。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|我《われ》ら|信仰《しんかう》によりて|義《ぎ》とせられたれば、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストに|頼《よ》り、|神《かみ》に|對《たい》して|平和《へいわ》を|得《え》たり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》により|信仰《しんかう》によりて、|今《いま》|立《た》つところの|恩惠《めぐみ》に|入《い》ることを|得《え》、|神《かみ》の|榮光《えいくわう》を|望《のぞ》みて|喜《よろこ》ぶなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》のみならず|患難《なやみ》をも|喜《よろこ》ぶ、そは|患難《なやみ》は|忍耐《にんたい》を|生《しゃう》じ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|忍耐《にんたい》は|練達《れんたつ》を|生《しゃう》じ、|練達《れんたつ》は|希望《のぞみ》を|生《しゃう》ずと|知《し》ればなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|希望《のぞみ》は|恥《はぢ》を|來《きた》らせず、|我《われ》らに|賜《たま》ひたる|聖《せい》|靈《れい》によりて|神《かみ》の|愛《あい》われらの|心《こころ》に|注《そそ》げばなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》のなほ|弱《よわ》かりし|時《とき》、キリスト|定《さだま》りたる|日《ひ》に|及《およ》びて、|敬虔《けいけん》ならぬ|者《もの》のために|死《し》に|給《たま》へり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]それ|義人《ぎじん》のために|死《し》ぬるもの|殆《ほとん》どなし、|仁者《じんしゃ》のためには|死《し》ぬることを|厭《いと》はぬ|者《もの》もやあらん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|我等《われら》がなほ|罪人《つみびと》たりし|時《とき》、キリスト|我等《われら》のために|死《し》に|給《たま》ひしに|由《よ》りて、|神《かみ》は|我《われ》らに|對《たい》する|愛《あい》をあらはし|給《たま》へり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|今《いま》その|血《ち》に|頼《よ》りて|我《われ》ら|義《ぎ》とせられたらんには、まして|彼《かれ》によりて|怒《いかり》より|救《すく》はれざらんや。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》もし|敵《てき》たりしとき|御子《みこ》の|死《し》に|頼《よ》りて|神《かみ》と|和《やはら》ぐことを|得《え》たらんには、まして|和《やはら》ぎて|後《のち》その|生命《いのち》によりて|救《すく》はれざらんや。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》のみならず|今《いま》われらに|和睦《やはらぎ》を|得《え》させ|給《たま》へる|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストに|頼《よ》りて|神《かみ》を|喜《よろこ》ぶなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]それ|一人《ひとり》の|人《ひと》によりて|罪《つみ》は|世《よ》に|入《い》り、また|罪《つみ》によりて|死《し》は|世《よ》に|入《い》り、|凡《すべ》ての|人《ひと》|罪《つみ》を|犯《をか》しし|故《ゆゑ》に、|死《し》は|凡《すべ》ての|人《ひと》に|及《およ》べり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》のきたる|前《さき》にも|罪《つみ》は|世《よ》にありき、されど|律法《おきて》なくば|罪《つみ》は|認《みと》めらるること|無《な》し。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るにアダムよりモーセに|至《いた》るまで、アダムの|咎《とが》と|等《ひと》しき|罪《つみ》を|犯《をか》さぬ|者《もの》の|上《うへ》にも|死《し》は|王《わう》たりき。アダムは|來《きた》らんとする|者《もの》の|型《かた》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されど|恩惠《めぐみ》の|賜物《たまもの》は、かの|咎《とが》の|如《ごと》きにあらず、|一人《ひとり》の|咎《とが》によりて|多《おほ》くの|人《ひと》の|死《し》にたらんには、まして|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》と|一人《ひとり》の|人《ひと》イエス・キリストによる|恩惠《めぐみ》の|賜物《たまもの》とは、|多《おほ》くの|人《ひと》に|溢《あふ》れざらんや。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》この|賜物《たまもの》は|罪《つみ》を|犯《をか》しし|一人《ひとり》より|來《きた》れるものの|如《ごと》きにあらず、|審判《さばき》は|一人《ひとり》よりして|罪《つみ》を|定《さだ》むるに|至《いた》りしが、|恩惠《めぐみ》の|賜物《たまもの》は|多《おほ》くの|咎《とが》よりして|義《ぎ》とするに|至《いた》るなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]もし|一人《ひとり》の|咎《とが》のために|一人《ひとり》によりて|死《し》は|王《わう》となりたらんには、まして|恩惠《めぐみ》と|義《ぎ》の|賜物《たまもの》とを|豐《ゆたか》に|受《う》くる|者《もの》は、|一人《ひとり》のイエス・キリストにより|生命《いのち》に|在《あ》りて|王《わう》たらざらんや。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]されば|一《ひと》つの|咎《とが》によりて|罪《つみ》を|定《さだ》むることの|凡《すべ》ての|人《ひと》に|及《およ》びしごとく、|一《ひと》つの|正《ただ》しき|行爲《おこなひ》によりて|義《ぎ》とせられ|生命《いのち》を|得《う》るに|至《いた》ることも、|凡《すべ》ての|人《ひと》に|及《およ》べり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]それは|一人《ひとり》の|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》によりて|多《おほ》くの|人《ひと》の|罪人《つみびと》とせられし|如《ごと》く、|一人《ひとり》の|從順《じゅうじゅん》によりて|多《おほ》くの|人《ひと》、|義人《ぎじん》とせらるるなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》の|來《きた》りしは|咎《とが》の|増《ま》さんためなり。されど|罪《つみ》の|増《ま》すところには|恩惠《めぐみ》も|彌増《いやま》せり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]これ|罪《つみ》の|死《し》によりて|王《わう》たりし|如《ごと》く、|恩惠《めぐみ》も|義《ぎ》によりて|王《わう》となり、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストに|由《よ》りて|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》に|至《いた》らん|爲《ため》なり。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|何《なに》をか|言《い》はん、|恩惠《めぐみ》の|増《ま》さんために|罪《つみ》のうちに|止《とどま》るべきか、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|決《けっ》して|然《しか》らず、|罪《つみ》に|就《つ》きて|死《し》にたる|我《われ》らは|爭《いか》で|尚《なほ》その|中《うち》に|生《い》きんや。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]なんじら|知《し》らぬか、|凡《おほよ》そキリスト・イエスに|合《あ》ふバプテスマを|受《う》けたる|我《われ》らは、その|死《し》に|合《あ》ふバプテスマを|受《う》けしを。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らはバプテスマによりて|彼《かれ》とともに|葬《はうむ》られ、その|死《し》に|合《あは》せられたり。これキリスト|父《ちち》の|榮光《えいくわう》によりて|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせられ|給《たま》ひしごとく、|我《われ》らも|新《あたら》しき|生命《いのち》に|歩《あゆ》まんためなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らキリストに|接《つ》がれて、その|死《し》の|状《さま》にひとしくば、その|復活《よみがへり》にも|等《ひと》しかるべし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|知《し》る、われらの|舊《ふる》き|人《ひと》、キリストと|共《とも》に|十字架《じふじか》につけられたるは、|罪《つみ》の|體《からだ》ほろびて、|此《こ》ののち|罪《つみ》に|事《つか》へざらん|爲《ため》なるを。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]そは|死《し》にし|者《もの》は|罪《つみ》より|脱《のが》るるなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》もしキリストと|共《とも》に|死《し》にしならば、また|彼《かれ》とともに|活《い》きんことを|信《しん》ず。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]キリスト|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へりて|復《また》|死《し》に|給《たま》はず、|死《し》もまた|彼《かれ》に|主《しゅ》とならぬを|我《われ》ら|知《し》ればなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]その|死《し》に|給《たま》へるは|罪《つみ》につきて|一《ひと》たび|死《し》に|給《たま》へるにて、その|活《い》き|給《たま》へるは|神《かみ》につきて|活《い》き|給《たま》へるなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|汝《なんぢ》らも|己《おのれ》を|罪《つみ》につきては|死《し》にたるもの、|神《かみ》につきては、キリスト・イエスに|在《あ》りて|活《い》きたる|者《もの》と|思《おも》ふべし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]されば|罪《つみ》を|汝《なんぢ》らの|死《し》ぬべき|體《からだ》に|王《わう》たらしめて|其《そ》の|慾《よく》に|從《したが》ふことなく、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|肢體《したい》を|罪《つみ》に|献《ささ》げて|不義《ふぎ》の|器《うつは》となさず、|反《かへ》つて|死人《しにん》の|中《うち》より|活《い》き|返《かへ》りたる|者《もの》のごとく|己《おのれ》を|神《かみ》にささげ、その|肢體《したい》を|義《ぎ》の|器《うつは》として|神《かみ》に|献《ささ》げよ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|律法《おきて》の|下《した》にあらずして|恩惠《めぐみ》の|下《した》にあれば、|罪《つみ》は|汝《なんぢ》らに|主《しゅ》となる|事《こと》なきなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》らば|如何《いか》に、|我《われ》らは|律法《おきて》の|下《した》にあらず、|恩惠《めぐみ》の|下《した》にあるが|故《ゆゑ》に、|罪《つみ》を|犯《をか》すべきか、|決《けっ》して|然《しか》らず。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|知《し》らぬか、|己《おのれ》を|献《ささ》げ|僕《しもべ》となりて、|誰《たれ》に|從《したが》ふとも|其《そ》の|僕《しもべ》たることを。|或《あるひ》は|罪《つみ》の|僕《しもべ》となりて|死《し》に|至《いた》り、|或《あるひ》は|從順《じゅうじゅん》の|僕《しもべ》となりて|義《ぎ》に|至《いた》る。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す、|汝《なんぢ》|等《ら》はもと|罪《つみ》の|僕《しもべ》なりしが、|傳《つた》へられし|教《をしへ》の|範《のり》に|心《こころ》より|從《したが》ひ、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|罪《つみ》より|解放《ときはな》されて|義《ぎ》の|僕《しもべ》となりたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|人《ひと》の|事《こと》をかりて|言《い》ふは、|汝《なんぢ》らの|肉《にく》よわき|故《ゆゑ》なり。なんぢら|舊《もと》その|肢體《したい》をささげ、|穢《けがれ》と|不法《ふはふ》との|僕《しもべ》となりて|不法《ふはふ》に|到《いた》りしごとく、|今《いま》その|肢體《したい》をささげ、|義《ぎ》の|僕《しもべ》となりて|潔《きよき》に|到《いた》れ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|罪《つみ》の|僕《しもべ》たりしときは|義《ぎ》に|對《たい》して|自由《じいう》なりき。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》に|今《いま》は|恥《はぢ》とする|所《ところ》の|事《こと》によりて|何《なに》の|實《み》を|得《え》しか、これらの|事《こと》の|極《はて》は|死《し》なり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|今《いま》は|罪《つみ》より|解放《ときはな》されて|神《かみ》の|僕《しもべ》となりたれば、|潔《きよき》にいたる|實《み》を|得《え》たり、その|極《はて》は|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]それ|罪《つみ》の|拂《はら》ふ|價《あたひ》は|死《し》なり、|然《さ》れど|神《かみ》の|賜物《たまもの》は|我《われ》らの|主《しゅ》キリスト・イエスにありて|受《う》くる|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》なり。 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢら|知《し》らぬか、(われ|律法《おきて》を|知《し》る|者《もの》に|語《かた》る)|律法《おきて》は|人《ひと》の|生《い》ける|間《あひだ》のみ|之《これ》に|主《しゅ》たるなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|夫《をっと》ある|婦《をんな》は|律法《おきて》によりて|夫《をっと》の|生《い》ける|中《うち》は|之《これ》に|縛《しば》らる。|然《さ》れど|夫《をっと》|死《し》なば|夫《をっと》の|律法《おきて》より|解《と》かるるなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されば|夫《をっと》の|生《い》ける|中《うち》に|他《ほか》の|人《ひと》に|適《ゆ》かば|淫婦《いんぷ》と|稱《とな》へらるれど、|夫《をっと》|死《し》なばその|律法《おきて》より|解放《ときはな》さるる|故《ゆゑ》に、|他《ほか》の|人《ひと》に|適《ゆ》くとも|淫婦《いんぷ》とはならぬなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、|斯《か》くのごとく|汝《なんぢ》|等《ら》もキリストの|體《からだ》により|律法《おきて》に|就《つ》きて|死《し》にたり。これ|他《ほか》の|者《もの》、すなはち|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせられ|給《たま》ひし|者《もの》に|適《ゆ》き、|神《かみ》のために|實《み》を|結《むす》ばん|爲《ため》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]われら|肉《にく》に|在《あ》りしとき、|律法《おきて》に|由《よ》れる|罪《つみ》の|情《じゃう》は|我《われ》らの|肢體《したい》のうちに|働《はたら》きて、|死《し》のために|實《み》を|結《むす》ばせたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|縛《しば》られたる|所《ところ》に|就《つ》きて|我等《われら》いま|死《し》にて|律法《おきて》より|解《と》かれたれば、|儀文《ぎぶん》の|舊《ふる》きによらず、|靈《れい》の|新《あたら》しきに|從《したが》ひて|事《つか》ふることを|得《う》るなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]さらば|何《なに》をか|言《い》はん、|律法《おきて》は|罪《つみ》なるか、|決《けっ》して|然《しか》らず、|律法《おきて》に|由《よ》らでは、われ|罪《つみ》を|知《し》らず、|律法《おきて》に『|貪《むさぼ》る|勿《なか》れ』と|言《い》はずば、|慳貪《むさぼり》を|知《し》らざりき。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|罪《つみ》は|機《をり》に|乘《じょう》じ|誡命《いましめ》によりて|各樣《さまざま》の|慳貪《むさぼり》を|我《わ》がうちに|起《おこ》せり、|律法《おきて》なくば|罪《つみ》は|死《し》にたるものなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われ|曾《かつ》て|律法《おきて》なくして|生《い》きたれど、|誡命《いましめ》きたりし|時《とき》に|罪《つみ》は|生《い》き、|我《われ》は|死《し》にたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|我《われ》は|生命《いのち》にいたるべき|誡命《いましめ》の|反《かへ》つて|死《し》に|到《いた》らしむるを|見出《みいだ》せり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]これ|罪《つみ》は|機《をり》に|乘《じょう》じ|誡命《いましめ》によりて|我《われ》を|欺《あざむ》き、かつ|之《これ》によりて|我《われ》を|殺《ころ》せり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]それ|律法《おきて》は|聖《せい》なり、|誡命《いましめ》もまた|聖《せい》にして|正《ただ》しく、かつ|善《ぜん》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されば|善《ぜん》なるもの|我《われ》に|死《し》となりたるか。|決《けっ》して|然《しか》らず、|罪《つみ》は|罪《つみ》たることの|現《あらは》れんために、|善《ぜん》なる|者《もの》によりて|我《わ》が|内《うち》に|死《し》を|來《きた》らせたるなり。これ|誡命《いましめ》によりて|罪《つみ》の|甚《はなは》だしき|惡《あく》とならん|爲《ため》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]われら|律法《おきて》は|靈《れい》なるものと|知《し》る、されど|我《われ》は|肉《にく》なる|者《もの》にて|罪《つみ》の|下《した》に|賣《う》られたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]わが|行《おこな》ふことは|我《われ》しらず、|我《わ》が|欲《ほっ》する|所《ところ》は|之《これ》をなさず、|反《かへ》つて|我《わ》が|憎《にく》むところは|之《これ》を|爲《な》すなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]わが|欲《ほっ》せぬ|所《ところ》を|爲《な》すときは|律法《おきて》の|善《ぜん》なるを|認《みと》む。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|之《これ》を|行《おこな》ふは|我《われ》にあらず、|我《わ》が|中《うち》に|宿《やど》る|罪《つみ》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はわが|中《うち》、すなわち|我《わ》が|肉《にく》のうちに|善《ぜん》の|宿《やど》らぬを|知《し》る、|善《ぜん》を|欲《ほっ》すること|我《われ》にあれど、|之《これ》を|行《おこな》ふ|事《こと》なければなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]わが|欲《ほっ》する|所《ところ》の|善《ぜん》は|之《これ》をなさず、|反《かへ》つて|欲《ほっ》せぬ|所《ところ》の|惡《あく》は|之《これ》をなすなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もし|欲《ほっ》せぬ|所《ところ》の|事《こと》をなさば、|之《これ》を|行《おこな》ふは|我《われ》にあらず、|我《わ》が|中《うち》に|宿《やど》る|罪《つみ》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|善《ぜん》をなさんと|欲《ほっ》する|我《われ》に|惡《あく》ありとの|法《のり》を、われ|見出《みいだ》せり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]われ|中《うち》なる|人《ひと》にては|神《かみ》の|律法《おきて》を|悦《よろこ》べど、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]わが|肢體《したい》のうちに|他《ほか》の|法《のり》ありて、|我《わ》が|心《こころ》の|法《のり》と|戰《たたか》ひ、|我《われ》を|肢體《したい》の|中《うち》にある|罪《つみ》の|法《のり》の|下《した》に|虜《とりこ》とするを|見《み》る。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|噫《ああ》われ|惱《なや》める|人《ひと》なるかな、|此《こ》の|死《し》の|體《からだ》より|我《われ》を|救《すく》はん|者《もの》は|誰《たれ》ぞ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストに|頼《よ》りて|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す、|然《さ》れば|我《われ》みづから|心《こころ》にては|神《かみ》の|律法《おきて》につかへ、|内《うち》にては|罪《つみ》の|法《のり》に|事《つか》ふるなり。 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|今《いま》やキリスト・イエスに|在《あ》る|者《もの》は|罪《つみ》の|定《さだ》めらるることなし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]キリスト・イエスに|在《あ》る|生命《いのち》の|御靈《みたま》の|法《のり》は、なんじを|罪《つみ》と|死《し》との|法《のり》より|解放《ときはな》したればなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|肉《にく》によりて|弱《よわ》くなれる|律法《おきて》の|成《な》し|能《あた》はぬ|所《ところ》を|神《かみ》は|爲《な》し|給《たま》へり、|即《すなは》ち|己《おのれ》の|子《こ》を|罪《つみ》ある|肉《にく》の|形《かたち》にて|罪《つみ》のために|遣《つかは》し、|肉《にく》に|於《おい》て|罪《つみ》を|定《さだ》めたまへり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]これ|肉《にく》に|從《したが》はず|靈《れい》に|從《したが》ひて|歩《あゆ》む|我《われ》らの|中《うち》に、|律法《おきて》の|義《ぎ》の|完《まった》うせられん|爲《ため》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|肉《にく》にしたがふ|者《もの》は|肉《にく》の|事《こと》をおもひ、|靈《れい》にしたがふ|者《もの》は|靈《れい》の|事《こと》をおもふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|肉《にく》の|念《おもひ》は|死《し》なり、|靈《れい》の|念《おもひ》は|生命《いのち》なり、|平安《へいあん》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|肉《にく》の|念《おもひ》は|神《かみ》に|逆《さから》ふ、それは|神《かみ》の|律法《おきて》に|服《したが》はず、|否《いな》したがふこと|能《あた》はず、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]また|肉《にく》に|居《を》る|者《もの》は|神《かみ》を|悦《よろこ》ばすこと|能《あた》はざるなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|神《かみ》の|御靈《みたま》なんぢらの|中《うち》に|宿《やど》り|給《たま》はば、|汝《なんぢ》らは|肉《にく》に|居《を》らで|靈《れい》に|居《を》らん、キリストの|御靈《みたま》なき|者《もの》はキリストに|屬《ぞく》する|者《もの》にあらず。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しキリスト|汝《なんぢ》らに|在《いま》さば、|體《からだ》は|罪《つみ》によりて|死《し》にたる|者《もの》なれど、|靈《れい》は|義《ぎ》によりて|生命《いのち》に|在《あ》らん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しイエスを|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|者《もの》の|御靈《みたま》なんぢらの|中《うち》に|宿《やど》り|給《たま》はば、キリスト・イエスを|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|者《もの》は、|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|宿《やど》りたまふ|御靈《みたま》によりて、|汝《なんぢ》らの|死《し》ぬべき|體《からだ》をも|活《いか》し|給《たま》はん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]されば|兄弟《きゃうだい》よ、われらは|負債《おひめ》あれど、|肉《にく》に|負《お》ふ|者《もの》ならねば、|肉《にく》に|從《したが》ひて|活《い》くべきにあらず。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|肉《にく》に|從《したが》ひて|活《い》きなば、|死《し》なん。もし|靈《れい》によりて|體《からだ》の|行爲《おこなひ》を|殺《ころ》さば|活《い》くべし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]すべて|神《かみ》の|御靈《みたま》に|導《みちび》かるる|者《もの》は、これ|神《かみ》の|子《こ》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|再《ふたた》び|懼《おそれ》を|懷《いだ》くために|僕《しもべ》たる|靈《れい》を|受《う》けしにあらず、|子《こ》とせられたる|者《もの》の|靈《れい》を|受《う》けたり、|之《これ》によりて|我《われ》らはアバ|父《ちち》と|呼《よ》ぶなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|御靈《みたま》みづから|我《われ》らの|靈《れい》とともに|我《われ》らが|神《かみ》の|子《こ》たることを|證《あかし》す。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]もし|子《こ》たらば|世嗣《よつぎ》たらん、|神《かみ》の|嗣子《よつぎ》にしてキリストと|共《とも》に|世嗣《よつぎ》たるなり。これはキリストとともに|榮光《えいくわう》を|受《う》けん|爲《ため》に、その|苦難《くるしみ》をも|共《とも》に|受《う》くるに|因《よ》る。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]われ|思《おもひ》うに、|今《いま》の|時《とき》の|苦難《くるしみ》は、われらの|上《うへ》に|顯《あらは》れんとする|榮光《えいくわう》にくらぶるに|足《た》らず。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]それ|造《つく》られたる|者《もの》は、|切《せつ》に|慕《した》ひて|神《かみ》の|子《こ》たちの|現《あらは》れんことを|待《ま》つ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|造《つく》られたるものの|虚無《むなしき》に|服《ふく》せしは、|己《おの》が|願《ねがひ》によるにあらず、|服《ふく》せしめ|給《たま》ひし|者《もの》によるなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れどなほ|造《つく》られたる|者《もの》にも|滅亡《ほろび》の|僕《しもべ》たる|状《さま》より|解《と》かれて、|神《かみ》の|子《こ》たちの|光榮《くわうえい》の|自由《じいう》に|入《い》る|望《のぞみ》は|存《のこ》れり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|知《し》る、すべて|造《つく》られたるものの|今《いま》に|至《いた》るまで|共《とも》に|嘆《なげ》き、ともに|苦《くる》しむことを。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》のみならず、|御靈《みたま》の|初《はじめ》の|實《み》をもつ|我《われ》らも|自《みづか》ら|心《こころ》のうちに|嘆《なげ》きて、|子《こ》とせられんこと、|即《すなは》ちおのが|軆《からだ》の|贖《あがな》はれんことを|待《ま》つなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|望《のぞみ》によりて|救《すく》はれたり、|眼《め》に|見《み》ゆる|望《のぞみ》は|望《のぞみ》にあらず、|人《ひと》その|見《み》るところを|爭《いか》でなほ|望《のぞ》まんや。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》もし|其《そ》の|見《み》ぬところを|望《のぞ》まば、|忍耐《にんたい》をもて|之《これ》を|待《ま》たん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|御靈《みたま》も|我《われ》らの|弱《よわき》を|助《たす》けたまふ。|我《われ》らは|如何《いか》に|祈《いの》るべきかを|知《し》らざれども、|御靈《みたま》みづから|言《い》ひ|難《かた》き|歎《なげき》をもて|執成《とりな》し|給《たま》ふ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]また|人《ひと》の|心《こころ》を|極《きは》めたまふ|者《もの》は|御靈《みたま》の|念《おもひ》をも|知《し》りたまふ。|御靈《みたま》は|神《かみ》の|御意《みこころ》に|適《かな》ひて|聖徒《せいと》のために|執成《とりな》し|給《たま》へばなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》を|愛《あい》する|者《もの》、すなはち|御旨《みむね》によりて|召《め》されたる|者《もの》の|爲《ため》には、|凡《すべ》てのこと|相《あひ》|働《はたら》きて|益《えき》となるを|我《われ》らは|知《し》る。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|預《あらか》じめ|知《し》りたまふ|者《もの》を|御子《みこ》の|像《かたち》に|象《かたど》らせんと|預《あらか》じめ|定《さだ》め|給《たま》へり。これ|多《おほ》くの|兄弟《きゃうだい》のうちに、|御子《みこ》を|嫡子《ちゃくし》たらせんが|爲《ため》なり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》その|預《あらか》じめ|定《さだ》めたる|者《もの》を|召《め》し、|召《め》したる|者《もの》を|義《ぎ》とし、|義《ぎ》としたる|者《もの》には|光榮《くわうえい》を|得《え》させ|給《たま》ふ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|此《これ》|等《ら》の|事《こと》につきて|何《なに》をか|言《い》はん、|神《かみ》もし|我《われ》らの|味方《みかた》ならば、|誰《たれ》か|我《われ》らに|敵《てき》せんや。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|己《おのれ》の|御子《みこ》を|惜《をし》まずして|我《われ》ら|衆《すべて》のために|付《わた》し|給《たま》ひし|者《もの》は、などか|之《これ》にそへて|萬物《ばんもつ》を|我《われ》らに|賜《たま》はざらんや。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》か|神《かみ》の|選《えら》び|給《たま》へる|者《もの》を|訴《うった》へん、|神《かみ》は|之《これ》を|義《ぎ》とし|給《たま》ふ。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》か|之《これ》を|罪《つみ》に|定《さだ》めん、|死《し》にて|甦《よみが》へり|給《たま》ひしキリスト・イエスは|神《かみ》の|右《みぎ》に|在《いま》して、|我《われ》らの|爲《ため》に|執成《とりな》し|給《たま》ふなり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》をキリストの|愛《あい》より|離《はな》れしむる|者《もの》は|誰《たれ》ぞ、|患難《なやみ》か、|苦難《くるしみ》か、|迫害《はくがい》か、|飢《うゑ》か、|裸《はだか》か、|危險《あやふき》か、|劍《つるぎ》か。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『|汝《なんぢ》のために|我《われ》らは、|終日《ひねもす》ころされて |屠《ほふ》らるべき|羊《ひつじ》の|如《ごと》きものとせられたり』 [#ここで字下げ終わり] とあるが|如《ごと》し。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]されど|凡《すべ》てこれらの|事《こと》の|中《うち》にありても、|我《われ》らを|愛《あい》したまふ|者《もの》に|頼《よ》り、|勝《か》ち|得《え》て|餘《あまり》あり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]われ|確《かた》く|信《しん》ず、|死《し》も|生命《いのち》も、|御使《みつかひ》も、|權威《けんゐ》ある|者《もの》も、|今《いま》ある|者《もの》も|後《のち》あらん|者《もの》も、|力《ちから》ある|者《もの》も、[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|高《たか》きも|深《ふか》きも、|此《こ》の|他《ほか》の|造《つく》られたるものも、|我《われ》らの|主《しゅ》キリスト・イエスにある|神《かみ》の|愛《あい》より、|我《われ》らを|離《はな》れしむるを|得《え》ざることを。 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》キリストに|在《あ》りて|眞《まこと》をいひ|虚僞《いつはり》を|言《い》はず、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》に|大《おほい》なる|憂《うれひ》あることと|心《こころ》に|絶《た》えざる|痛《いたみ》あることとを、|我《わ》が|良心《りゃうしん》も|聖《せい》|靈《れい》によりて|證《あかし》す。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]もし|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》わが|骨肉《こつにく》の|爲《ため》にならんには、|我《われ》みづから|詛《のろ》はれてキリストに|棄《す》てらるるも|亦《また》ねがふ|所《ところ》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》はイスラエル|人《ひと》にして、|彼《かれ》らには|神《かみ》の|子《こ》とせられたることと、|榮光《えいくわう》と、もろもろの|契約《けいやく》と、|授《さづ》けられたる|律法《おきて》と、|禮拜《れいはい》と、もろもろの|約束《やくそく》とあり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|先祖《せんぞ》たちも|彼《かれ》|等《ら》のものなり、|肉《にく》によれば、キリストも|彼《かれ》|等《ら》より|出《い》で|給《たま》ひたり。キリストは|萬物《ばんもつ》の|上《うへ》にあり、|永遠《とこしへ》に|讃《ほ》むべき|神《かみ》なり、アァメン。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》の|言《ことば》は|廢《すた》りたるに|非《あら》ず。イスラエルより|出《い》づる|者《もの》みなイスラエルなるに|非《あら》ず。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》|等《ら》はアブラハムの|裔《すゑ》なればとて|皆《みな》その|子《こ》たるに|非《あら》ず『イサクより|出《い》づる|者《もの》は、なんぢの|裔《すゑ》と|稱《とな》へらるべし』とあり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|肉《にく》の|子《こ》らは|神《かみ》の|子《こ》らにあらず、ただ|約束《やくそく》の|子《こ》|等《ら》のみ|其《そ》の|裔《すゑ》と|認《みと》めらるるなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|約束《やくそく》の|御言《みことば》は|是《これ》なり、|曰《いは》く『|時《とき》ふたたび|巡《めぐ》り|來《きた》らば、|我《われ》きたりてサラに|男子《なんし》あらん』と。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》のみならず、レベカも|我《われ》らの|先祖《せんぞ》イサク|一人《ひとり》によりて|孕《みごも》りたる|時《とき》、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|子《こ》いまだ|生《うま》れず、|善《ぜん》も|惡《あく》もなさぬ|間《うち》に、|神《かみ》の|選《えらび》の|御旨《みむね》は|動《うご》かず、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|行爲《おこなひ》によらで|召《め》す|者《もの》によらん|爲《ため》に『|兄《あに》は|次弟《おとうと》に|事《つか》ふべし』とレベカに|宣《のたま》へり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]『われヤコブを|愛《あい》しエザウを|憎《にく》めり』と|録《しる》されたる|如《ごと》し。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]さらば|何《なに》をか|言《い》はん、|神《かみ》には|不義《ふぎ》あるか。|決《けっ》して|然《しか》らず。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]モーセに|言《い》ひ|給《たま》ふ『われ|憐《あはれ》まんとする|者《もの》をあはれみ、|慈悲《じひ》を|施《ほどこ》さんとする|者《もの》に|慈悲《じひ》を|施《ほどこ》すべし』と。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されば|欲《ほっ》する|者《もの》にも|由《よ》らず、|走《はし》る|者《もの》にも|由《よ》らず、ただ|憐《あはれ》みたまふ|神《かみ》に|由《よ》るなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]パロにつきて|聖書《せいしょ》に|言《い》ひ|給《たま》ふ『わが|汝《なんぢ》を|起《おこ》したるは|此《こ》の|爲《ため》なり、|即《すなは》ち|我《わ》が|能力《ちから》を|汝《なんぢ》によりて|顯《あらは》し、|且《かつ》わが|名《な》の|全世界《ぜんせかい》に|傳《つた》へられん|爲《ため》なり』と。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]されば|神《かみ》はその|憐《あはれ》まんと|欲《ほっ》する|者《もの》を|憐《あはれ》み、その|頑固《かたくな》にせんと|欲《ほっ》する|者《もの》を|頑固《かたくな》にし|給《たま》ふなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]さらば|汝《なんぢ》あるいは|我《われ》に|言《い》はん『|神《かみ》なんぞなほ|人《ひと》を|咎《とが》め|給《たま》ふか、|誰《たれ》かその|御定《みさだめ》に|悖《もと》る|者《もの》あらん』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ああ|人《ひと》よ、なんぢ|誰《たれ》なれば|神《かみ》に|言《い》ひ|逆《さから》ふか、|造《つく》られしもの|造《つく》りたる|者《もの》に|對《むか》ひて『なんぢ|何《なに》ぞ|我《われ》を|斯《か》く|造《つく》りし』と|言《い》ふべきか。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|陶工《すゑつくり》は|同《おな》じ|土塊《つちくれ》をもて、|此《これ》を|貴《たふと》きに|用《もち》ふる|器《うつは》とし、|彼《かれ》を|賤《いや》しきに|用《もち》ふる|器《うつは》とするの|權《けん》なからんや。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]もし|神《かみ》、|怒《いかり》をあらはし|權力《ちから》を|示《しめ》さんと|思《おぼ》しつつも、なほ|大《おほい》なる|寛容《くわんよう》をもて、|滅亡《ほろび》に|備《そなは》れる|怒《いかり》の|器《うつは》を|忍《しの》び、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]また|光榮《くわうえい》のために|預《あらか》じめ|備《そな》へ|給《たま》ひし|憐憫《あはれみ》の|器《うつは》に|對《むか》ひて、その|榮光《えいくわう》の|富《とみ》を|示《しめ》さんとし|給《たま》ひしならば|如何《いか》に。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]この|憐憫《あはれみ》の|器《うつは》は|我等《われら》にして、ユダヤ|人《びと》の|中《うち》よりのみならず、|異邦人《いはうじん》の|中《うち》よりも|召《め》し|給《たま》ひしものなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ホゼヤの|書《ふみ》に [#ここから2字下げ] 『|我《われ》わが|民《たみ》たらざる|者《もの》を|我《わ》が|民《たみ》と|呼《よ》び、 |愛《あい》せられざる|者《もの》を|愛《あい》せらるる|者《もの》と|呼《よ》ばん、 [#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]「なんぢら|我《わ》が|民《たみ》にあらず」と|言《い》ひし|處《ところ》にて、 |彼《かれ》らは|活《い》ける|神《かみ》の|子《こ》と|呼《よ》ばるべし』 [#ここで字下げ終わり] と|宣《のたま》へる|如《ごと》し。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]イザヤもイスラエルに|就《つ》きて|叫《さけ》べり『イスラエルの|子孫《しそん》の|數《かず》は|海《うみ》の|砂《すな》のごとくなりとも、|救《すく》はるるはただ|殘《のこり》の|者《もの》のみならん。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》、|地《ち》の|上《うへ》に|御言《みことば》をなし|了《を》へ、これを|遂《と》げ、これを|速《すみや》かにし|給《たま》はん』[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]また [#ここから2字下げ] 『|萬軍《ばんぐん》の|主《しゅ》われらに|裔《すゑ》を|遺《のこ》し|給《たま》はずば、 |我等《われら》ソドムの|如《ごと》くになり、ゴモラと|等《ひと》しかりしならん』 [#ここで字下げ終わり] とイザヤの|預言《よげん》せしが|如《ごと》し。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》らば|何《なに》をか|言《い》はん、|義《ぎ》を|追《お》ひ|求《もと》めざりし|異邦人《いはうじん》は|義《ぎ》を|得《え》たり、|即《すなは》ち|信仰《しんかう》による|義《ぎ》なり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]イスラエルは|義《ぎ》の|律法《おきて》を|追《お》ひ|求《もと》めたれど、その|律法《おきて》に|到《いた》らざりき。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|何《なに》の|故《ゆゑ》か、かれらは|信仰《しんかう》によらず、|行爲《おこなひ》によりて|追《お》ひ|求《もと》めたる|故《ゆゑ》なり。|彼《かれ》らは|躓《つまづ》く|石《いし》に|躓《つまづ》きたり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『|視《み》よ、|我《われ》つまづく|石《いし》さまたぐる|岩《いは》をシオンに|置《お》く、 |之《これ》に|依頼《よりたの》む|者《もの》は|辱《はづか》しめられじ』 [#ここで字下げ終わり] とあるが|如《ごと》し。 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、わが|心《こころ》のねがひ、|神《かみ》に|對《たい》する|祈《いのり》は、|彼《かれ》らの|救《すく》はれんことなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われ|彼《かれ》らが|神《かみ》のために|熱心《ねっしん》なることを|證《あかし》す、されど|其《そ》の|熱心《ねっしん》は|知識《ちしき》によらざるなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]それは|神《かみ》の|義《ぎ》を|知《し》らず、|己《おのれ》の|義《ぎ》を|立《た》てんとして、|神《かみ》の|義《ぎ》に|服《したが》はざればなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|凡《すべ》て|信《しん》ずる|者《もの》の|義《ぎ》とせられん|爲《ため》に|律法《おきて》の|終《をはり》となり|給《たま》へり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]モーセは、|律法《おきて》による|義《ぎ》をおこなふ|人《ひと》は|之《これ》によりて|生《い》くべしと|録《しる》したり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|信仰《しんかう》による|義《ぎ》は|斯《か》くいふ『なんぢ|心《こころ》に「|誰《たれ》か|天《てん》に|昇《のぼ》らん」と|言《い》ふなかれ』と。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]これキリストを|引下《ひきおろ》さんとするなり『また「たれか|底《そこ》なき|所《ところ》に|下《くだ》らん」と|言《い》ふなかれ』と。|是《これ》キリストを|死人《しにん》の|中《うち》より|引上《ひきあ》げんとするなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]さらば|何《なに》と|言《い》ふか『|御言《みことば》はなんぢに|近《ちか》し、なんぢの|口《くち》にあり、|汝《なんぢ》の|心《こころ》にあり』と。これ|我《われ》らが|宣《の》ぶる|信仰《しんかう》の|言《ことば》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち、なんぢ|口《くち》にてイエスを|主《しゅ》と|言《い》ひあらはし、|心《こころ》にて|神《かみ》の|之《これ》を|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひしことを|信《しん》ぜば、|救《すく》はるべし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]それ|人《ひと》は|心《こころ》に|信《しん》じて|義《ぎ》とせられ、|口《くち》に|言《い》ひあらはして|救《すく》はるるなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|聖書《せいしょ》にいふ『すべて|彼《かれ》を|信《しん》ずる|者《もの》は|辱《はづか》しめられじ』と。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》とギリシヤ|人《びと》との|區別《わかち》なし、|同一《どういつ》の|主《しゅ》は|萬民《ばんみん》の|主《しゅ》にましまして、|凡《すべ》て|呼《よ》び|求《もと》むる|者《もの》に|對《たい》して|豐《ゆたか》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]『すべて|主《しゅ》の|御名《みな》を|呼《よ》び|求《もと》むる|者《もの》は|救《すく》はるべし』とあればなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|未《いま》だ|信《しん》ぜぬ|者《もの》を|爭《いか》で|呼《よ》び|求《もと》むることをせん、|未《いま》だ|聽《き》かぬ|者《もの》を|爭《いか》で|信《しん》ずることをせん、|宣傳《のべつた》ふる|者《もの》なくば|爭《いか》で|聽《き》くことをせん。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|遣《つかは》されずば|爭《いか》で|宣傳《のべつた》ふることをせん『ああ|美《うるわ》しきかな、|善《よ》き|事《こと》を|告《つ》ぐる|者《もの》の|足《あし》よ』と|録《しる》されたる|如《ごと》し。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されど、みな|福音《ふくいん》に|從《したが》ひしにはあらず、イザヤいふ『|主《しゅ》よ、われらに|聞《き》きたる|言《ことば》を|誰《たれ》か|信《しん》ぜし』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|信仰《しんかう》は|聞《き》くにより、|聞《き》くはキリストの|言《ことば》による。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》いふ、|彼《かれ》ら|聞《きこ》えざりしか、|然《しか》らず [#ここから2字下げ] 『その|聲《こゑ》は|全地《ぜんち》にゆきわたり、 |其《そ》の|言《ことば》は|世界《せかい》の|極《はて》にまで|及《およ》べり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|言《い》ふ、イスラエルは|知《し》らざりしか、|先《ま》づモーセ|言《い》ふ『われ|民《たみ》ならぬ|者《もの》をもて|汝《なんぢ》らに|嫉《ねたみ》を|起《おこ》させ、|愚《おろか》なる|民《たみ》をもて|汝《なんぢ》らを|怒《いか》らせん』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]またイザヤ|憚《はばか》らずして|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 『|我《われ》を|求《もと》めざる|者《もの》に、われ|見出《みいだ》され、 |我《われ》を|尋《たづ》ねざる|者《もの》に|我《われ》あらはれたり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|更《さら》にイスラエルに|就《つ》きては『われ|服《したが》はずして|言《い》ひさからふ|民《たみ》に、|終日《ひねもす》|手《て》を|伸《の》べたり』と|云《い》へり。 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》いふ、|神《かみ》はその|民《たみ》を|棄《す》て|給《たま》ひしか。|決《けっ》して|然《しか》らず。|我《われ》もイスラエル|人《ひと》にしてアブラハムの|裔《すゑ》ベニヤミンの|族《やから》の|者《もの》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はその|預《あらか》じめ|知《し》り|給《たま》ひし|民《たみ》を|棄《す》て|給《たま》ひしにあらず。|汝《なんぢ》らエリヤに|就《つ》きて|聖書《せいしょ》に|云《い》へることを|知《し》らぬか、|彼《かれ》イスラエルを|神《かみ》に|訴《うった》へて|言《い》ふ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]『|主《しゅ》よ、|彼《かれ》らは|汝《なんぢ》の|預言者《よげんしゃ》たちを|殺《ころ》し、なんぢの|祭壇《さいだん》を|毀《こぼ》ち、|我《われ》ひとり|遺《のこ》りたるに、|亦《また》わが|生命《いのち》をも|求《もと》めんとするなり』と。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|御答《みこたへ》は|何《なに》と|云《い》へるか『われバアルに|膝《ひざ》を|屈《かが》めぬ|者《もの》、|七《しち》|千《せん》|人《にん》を|我《わ》がために|遺《のこ》し|置《お》けり』と。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|今《いま》もなほ|恩惠《めぐみ》の|選《えらび》によりて|遺《のこ》れる|者《もの》あり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]もし|恩惠《めぐみ》によるとせば、もはや|行爲《おこなひ》によるにあらず。|然《しか》らずば|恩惠《めぐみ》はもはや|恩惠《めぐみ》たらざるべし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]さらば|如何《いか》に、イスラエルはその|求《もと》むる|所《ところ》を|得《え》ず、|選《えら》ばれたる|者《もの》は|之《これ》を|得《え》たり、その|他《ほか》の|者《もの》は|鈍《にぶ》くせられたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]『|神《かみ》は|今日《こんにち》に|至《いた》るまで、|彼《かれ》らに|眠《ねむ》れる|心《こころ》、|見《み》えぬ|目《め》、|聞《きこ》えぬ|耳《みみ》を|與《あた》へ|給《たま》へり』と|録《しる》されたるが|如《ごと》し。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ダビデも|亦《また》いふ [#ここから2字下げ] 『かれらの|食卓《しょくたく》は|羂《わな》となれ、|網《あみ》となれ、 つまづきとなれ、|報《むくい》となれ、 [#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]その|眼《め》は|眩《くら》みて|見《み》えずなれ、 |常《つね》にその|背《せ》を|屈《かが》めしめ|給《たま》へ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》いふ、|彼《かれ》らの|躓《つまづ》きしは|倒《たふ》れんが|爲《ため》なりや。|決《けっ》して|然《しか》らず、|反《かへ》つて|其《そ》の|落度《おちど》によりて|救《すくひ》は|異邦人《いはうじん》に|及《およ》べり、これイスラエルを|勵《はげ》まさん|爲《ため》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]もし|彼《かれ》らの|落度《おちど》、|世《よ》の|富《とみ》となり、その|衰微《おとろへ》、|異邦人《いはうじん》の|富《とみ》となりたらんには、まして|彼《かれ》らの|數《かず》|滿《み》つるに|於《おい》てをや。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]われ|異邦人《いはうじん》なる|汝《なんぢ》|等《ら》にいふ、|我《われ》は|異邦人《いはうじん》の|使徒《しと》たるによりて|己《おの》が|職《つとめ》を|重《おも》んず。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]これ|或《あるひ》は|我《わ》が|骨肉《こつにく》の|者《もの》を|勵《はげ》まし、その|中《うち》の|幾許《いくばく》かを|救《すく》はん|爲《ため》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]もし|彼《かれ》らの|棄《す》てらるること|世《よ》の|平和《へいわ》となりたらんには、|其《そ》の|受《う》け|納《い》れらるるは、|死人《しにん》の|中《うち》より|活《い》くると|等《ひと》しからずや。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]もし|初穗《はつほ》の|粉《こな》|潔《きよ》くば、パンの|團塊《かたまり》も|潔《きよ》く、|樹《き》の|根《ね》|潔《きよ》くば、|其《そ》の|枝《えだ》も|潔《きよ》からん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しオリブの|幾許《いくばく》の|枝《えだ》きり|落《おと》されて|野《の》のオリブなる|汝《なんぢ》、その|中《うち》に|接《つ》がれ、|共《とも》にその|樹《き》の|液汁《うるほひ》ある|根《ね》に|與《あづか》らば、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かの|枝《えだ》に|對《むか》ひて|誇《ほこ》るな、たとひ|誇《ほこ》るとも|汝《なんぢ》は|根《ね》を|支《ささ》へず、|根《ね》は|反《かへ》つて|汝《なんぢ》を|支《ささ》ふるなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|或《あるひ》は|言《い》はん『|枝《えだ》の|折《を》られしは|我《わ》が|接《つ》がれん|爲《ため》なり』と。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|實《げ》に|然《しか》り、|彼《かれ》らは|不《ふ》|信《しん》によりて|折《を》られ、|汝《なんぢ》は|信仰《しんかう》によりて|立《た》てるなり、|高《たか》ぶりたる|思《おもひ》をもたず、|反《かへ》つて|懼《おそ》れよ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]もし|神《かみ》、|原《もと》|樹《き》の|枝《えだ》を|惜《をし》み|給《たま》はざりしならば、|汝《なんぢ》をも|惜《をし》み|給《たま》はじ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|仁慈《なさけ》と、その|嚴肅《きびしき》とを|見《み》よ。|嚴肅《きびしき》は|倒《たふ》れし|者《もの》にあり、|仁慈《なさけ》はその|仁慈《なさけ》に|止《とどま》る|汝《なんぢ》にあり、|若《も》しその|仁慈《なさけ》に|止《とどま》らずば、|汝《なんぢ》も|切《き》り|取《と》らるべし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らも|若《も》し|不《ふ》|信《しん》に|止《とどま》らずば、|接《つ》がるることあらん、|神《かみ》は|再《ふたた》び|彼《かれ》らを|接《つ》ぎ|得給《えたま》ふなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|生來《せいらい》の|野《の》のオリブより|切《き》り|取《と》られ、その|生來《せいらい》に|悖《もと》りて|善《よ》きオリブに|接《つ》がれたらんには、まして|原《もと》|樹《き》のままなる|枝《えだ》は|己《おの》がオリブに|接《つ》がれざらんや。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|汝《なんぢ》らが|自己《みづから》を|聰《さと》しとする|事《こと》なからん|爲《ため》に、この|奧義《おくぎ》を|知《し》らざるを|欲《ほっ》せず、|即《すなは》ち|幾許《いくばく》のイスラエルの|鈍《にぶ》くなれるは、|異邦人《いはうじん》の|入《い》り|來《きた》りて|數《かず》|滿《み》つるに|及《およ》ぶ|時《とき》までなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]かくしてイスラエルは|悉《ことご》とく|救《すく》はれん。|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『|救《すく》ふ|者《もの》シオンより|出《い》で|來《きた》りて、 ヤコブより|不虔《ふけん》を|取《と》り|除《のぞ》かん、 [#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]われその|罪《つみ》を|除《のぞ》くときに |彼《かれ》らに|立《た》つる|我《わ》が|契約《けいやく》は|是《これ》なり』 [#ここで字下げ終わり] とあるが|如《ごと》し。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|福音《ふくいん》につきて|云《い》へば、|汝《なんぢ》|等《ら》のために|彼《かれ》らは|敵《てき》とせられ、|選《えらび》につきて|云《い》へば、|先祖《せんぞ》たちの|爲《ため》に|彼《かれ》らは|愛《あい》せらるるなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》の|賜物《たまもの》と|召《めし》とは|變《かは》ることなし。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|前《さき》には|神《かみ》に|從《したが》はざりしが、|今《いま》は|彼《かれ》らの|不順《ふじゅん》によりて|憐《あはれ》まれたる|如《ごと》く、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らも|汝《なんぢ》らの|受《う》くる|憐憫《あはれみ》によりて|憐《あはれ》まれん|爲《ため》に、|今《いま》は|從《したが》はざるなり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|凡《すべ》ての|人《ひと》を|憐《あはれ》まんために、|凡《すべ》ての|人《ひと》を|不順《ふじゅん》の|中《うち》に|取籠《とりこ》め|給《たま》ひたり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]ああ|神《かみ》の|智慧《ちゑ》と|知識《ちしき》との|富《とみ》は|深《ふか》いかな、その|審判《さばき》は|測《はか》り|難《なん》く、その|途《みち》は|尋《たづ》ね|難《かた》し。 [#ここから2字下げ] [#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]『たれか|主《しゅ》の|心《こころ》を|知《し》りし、|誰《たれ》かその|議士《はかりびと》となりし。 [#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]たれか|先《ま》づ|主《しゅ》に|與《あた》へて|其《そ》の|報《むくい》を|受《う》けんや』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]これ|凡《すべ》ての|物《もの》は|神《かみ》より|出《い》で、|神《かみ》によりて|成《な》り、|神《かみ》に|歸《き》すればなり、|榮光《えいくわう》とこしへに|神《かみ》にあれ。アァメン。 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|兄弟《きゃうだい》よ、われ|神《かみ》のもろもろの|慈悲《じひ》によりて|汝《なんぢ》らに|勸《すす》む、|己《おの》が|身《み》を|神《かみ》の|悦《よろこ》びたまふ|潔《きよ》き|活《い》ける|供物《そなへもの》として|献《ささ》げよ、これ|靈《れい》の|祭《まつり》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》この|世《よ》に|效《なら》ふな、|神《かみ》の|御意《みこころ》の|善《ぜん》にして|悦《よろこ》ぶべく、かつ|全《まった》きことを|辨《わきま》へ|知《し》らんために、|心《こころ》を|更《か》へて|新《あらた》にせよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われ|與《あた》へられし|恩惠《めぐみ》によりて|汝《なんぢ》|等《ら》おのおのに|告《つ》ぐ、|思《おも》ふべき|所《ところ》を|超《こ》えて|自己《みづから》を|高《たか》しとすな。|神《かみ》のおのおのに|分《わか》ち|給《たま》ひし|信仰《しんかう》の|量《はかり》にしたがひ|愼《つつし》みて|思《おも》ふべし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》は|一《ひと》つ|體《からだ》におほくの|肢《えだ》あれども、|凡《すべ》ての|肢《えだ》その|運用《はたらき》を|同《おな》じうせぬ|如《ごと》く、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らも|多《おほ》くあれど、キリストに|在《あ》りて|一《ひと》つ|體《からだ》にして、|各人《おのおの》たがひに|肢《えだ》たるなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]われらが|有《も》てる|賜物《たまもの》はおのおの|與《あた》へられし|恩惠《めぐみ》によりて|異《こと》なる|故《ゆゑ》に、|或《あるひ》は|預言《よげん》あらば|信仰《しんかう》の|量《はかり》にしたがひて|預言《よげん》をなし、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|或《あるひ》は|務《つとめ》あらば|務《つとめ》をなし、|或《あるひ》は|教《をしへ》をなす|者《もの》は|教《をしへ》をなし、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|或《あるひ》は|勸《すすめ》をなす|者《もの》は|勸《すすめ》をなし、|施《ほどこ》す|者《もの》はをしみなく|施《ほどこ》し、|治《をさ》むる|者《もの》は|心《こころ》を|盡《つく》して|治《をさ》め、|憐憫《あはれみ》をなす|者《もの》は|喜《よろこ》びて|憐憫《あはれみ》をなすべし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》には|虚僞《いつはり》あらざれ、|惡《あく》はにくみ、|善《ぜん》はしたしみ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》の|愛《あい》をもて|互《たがひ》に|愛《いつく》しみ、|禮儀《れいぎ》をもて|相《あひ》|讓《ゆず》り、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|勤《つと》めて|怠《おこた》らず、|心《こころ》を|熱《あつ》くし、|主《しゅ》につかへ、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|望《のぞ》みて|喜《よろこ》び、|患難《なやみ》にたへ、|祈《いのり》を|恆《つね》にし、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|聖徒《せいと》の|缺乏《とぼしき》を|賑《にぎは》し、|旅人《たびびと》を|懇《ねんご》ろに|待《もてな》せ、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らを|責《せ》むる|者《もの》を|祝《しく》し、これを|祝《しく》して|詛《のろ》ふな。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|喜《よろこ》ぶ|者《もの》と|共《とも》によろこび、|泣《な》く|者《もの》と|共《とも》になけ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|相《あひ》|互《たがひ》に|心《こころ》を|同《おな》じうし、|高《たか》ぶりたる|思《おもひ》をなさず、|反《かへ》つて|卑《ひく》きに|附《つ》け。なんぢら|己《おのれ》を|聰《さと》しとすな。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|惡《あく》をもて|惡《あく》に|報《むく》いず、|凡《すべ》ての|人《ひと》のまへに|善《よ》からんことを|圖《はか》り、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|爲《な》し|得《う》るかぎり|力《つと》めて|凡《すべ》ての|人《ひと》と|相《あひ》|和《やはら》げ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、|自《みづか》ら|復讐《ふくしう》すな、ただ|神《かみ》の|怒《いかり》に|任《まか》せまつれ。|録《しる》して『|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ、|復讐《ふくしう》するは|我《われ》にあり、|我《われ》これに|報《むく》いん』とあり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]『もし|汝《なんぢ》の|仇《あた》|飢《う》ゑなば|之《これ》に|食《く》はせ、|渇《かわ》かば|之《これ》に|飮《の》ませよ、なんぢ|斯《かく》するは|熱《あつ》き|火《ひ》を|彼《かれ》の|頭《かうべ》に|積《つ》むなり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|惡《あく》に|勝《か》たるることなく、|善《ぜん》をもて|惡《あく》に|勝《か》て。 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》、|上《うへ》にある|權威《けんゐ》に|服《したが》ふべし。そは|神《かみ》によらぬ|權威《けんゐ》なく、あらゆる|權威《けんゐ》は|神《かみ》によりて|立《た》てらる。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|權威《けんゐ》にさからふ|者《もの》は|神《かみ》の|定《さだめ》に|悖《もと》るなり、|悖《もと》る|者《もの》は|自《みづか》らその|審判《さばき》を|招《まね》かん。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|長《をさ》たる|者《もの》は|善《よ》き|業《わざ》の|懼《おそれ》にあらず、|惡《あ》しき|業《わざ》の|懼《おそれ》なり、なんぢ|權威《けんゐ》を|懼《おそ》れざらんとするか、|善《ぜん》をなせ、|然《さ》らば|彼《かれ》より|譽《ほまれ》を|得《え》ん。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かれは|汝《なんぢ》を|益《えき》せんための|神《かみ》の|役者《えきしゃ》なり。|然《さ》れど|惡《あく》をなさば|懼《おそ》れよ、|彼《かれ》は|徒《いたづ》らに|劍《つるぎ》をおびず、|神《かみ》の|役者《えきしゃ》にして、|惡《あく》をなす|者《もの》に|怒《いかり》をもて|報《むく》ゆるなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|服《したが》はざるべからず、|啻《ただ》に|怒《いかり》の|爲《ため》のみならず、|良心《りゃうしん》のためなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]また|之《これ》がために|汝《なんぢ》ら|貢《みつぎ》を|納《をさ》む、|彼《かれ》らは|神《かみ》の|仕人《つかへびと》にして|此《こ》の|職《つとめ》に|勵《はげ》むなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》その|負債《おひめ》をおのおのに|償《つくの》へ、|貢《みつぎ》を|受《う》くべき|者《もの》に|貢《みつぎ》ををさめ、|税《ぜい》を|受《う》くべき|者《もの》に|税《ぜい》ををさめ、|畏《おそ》るべき|者《もの》をおそれ、|尊《たふと》ぶべき|者《もの》をたふとべ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》たがひに|愛《あい》を|負《お》ふのほか|何《なに》をも|人《ひと》に|負《お》ふな。|人《ひと》を|愛《あい》する|者《もの》は|律法《おきて》を|全《まった》うするなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]それ『|姦淫《かんいん》する|勿《なか》れ、|殺《ころ》すなかれ、|盜《ぬす》むなかれ、|貪《むさぼ》るなかれ』と|云《い》へるこの|他《ほか》なほ|誡命《いましめ》ありとも『おのれの|如《ごと》く|隣《となり》を|愛《あい》すべし』といふ|言《ことば》の|中《うち》にみな|籠《こも》るなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》は|隣《となり》を|害《そこな》はず、この|故《ゆゑ》に|愛《あい》は|律法《おきて》の|完全《まったき》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|時《とき》を|知《し》る|故《ゆゑ》に、いよいよ|然《しか》なすべし。|今《いま》は|眠《ねむり》より|覺《さ》むべき|時《とき》なり。|始《はじ》めて|信《しん》ぜし|時《とき》よりも|今《いま》は|我《われ》らの|救《すくひ》|近《ちか》ければなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|夜《よ》ふけて|日《ひ》|近《ちか》づきぬ、|然《さ》れば|我《われ》ら|暗黒《くらき》の|業《わざ》をすてて|光明《ひかり》の|甲《よろひ》を|著《き》るべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|晝《ひる》のごとく|正《ただ》しく|歩《あゆ》みて|宴樂《えんらく》・|醉酒《すゐしゅ》に、|淫樂《いんらく》・|好色《かうしょく》に、|爭鬪《あらそひ》・|嫉妬《ねたみ》に|歩《あゆ》むべきに|非《あら》ず。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ただ|汝《なんぢ》ら|主《しゅ》イエス・キリストを|衣《き》よ、|肉《にく》の|慾《よく》のために|備《そなへ》すな。 第一四章[#「第一四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|信仰《しんかう》の|弱《よわ》き|者《もの》を|容《い》れよ、その|思《おも》ふところを|詰《なじ》るな。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》は|凡《すべ》ての|物《もの》を|食《くら》ふを|可《よ》しと|信《しん》じ、|弱《よわ》き|人《ひと》はただ|野菜《やさい》を|食《くら》ふ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|食《くら》ふ|者《もの》は|食《くら》はぬ|者《もの》を|蔑《なみ》すべからず、|食《くら》はぬ|者《もの》は|食《くら》ふ|者《もの》を|審《さば》くべからず、|神《かみ》は|彼《かれ》を|容《い》れ|給《たま》へばなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|如何《いか》なる|者《もの》なれば、|他人《たにん》の|僕《しもべ》を|審《さば》くか、|彼《かれ》が|立《た》つも|倒《たふ》るるも|其《そ》の|主人《しゅじん》に|由《よ》れり。|彼《かれ》は|必《かなら》ず|立《た》てられん、|主《しゅ》は|能《よ》く|之《これ》を|立《た》たせ|給《たま》ふべし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》は|此《こ》の|日《ひ》を|彼《か》の|日《ひ》に|勝《まさ》ると|思《おも》ひ、|或《ある》|人《ひと》は|凡《すべ》ての|日《ひ》を|等《ひと》しとおもふ、|各人《おのおの》おのが|心《こころ》の|中《うち》に|確《かた》く|定《さだ》むべし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》を|重《おも》んずる|者《もの》は|主《しゅ》のために|之《これ》を|重《おも》んず。|食《くら》ふ|者《もの》は|主《しゅ》のために|食《くら》ふ、これ|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》すればなり。|食《くら》はぬ|者《もの》も|主《しゅ》のために|食《くら》はず、かつ|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》するなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》のうち|己《おのれ》のために|生《い》ける|者《もの》なく、|己《おのれ》のために|死《し》ぬる|者《もの》なし。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われら|生《い》くるも|主《しゅ》のために|生《い》き、|死《し》ぬるも|主《しゅ》のために|死《し》ぬ。|然《さ》れば|生《い》くるも|死《し》ぬるも|我《われ》らは|主《しゅ》の|有《もの》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]それキリストの|死《し》にて|復《また》|生《い》き|給《たま》ひしは、|死《し》にたる|者《もの》と|生《い》ける|者《もの》との|主《しゅ》とならん|爲《ため》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|何《なに》ぞその|兄弟《きゃうだい》を|審《さば》くか、|汝《なんぢ》なんぞ|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》を|蔑《なみ》するか、|我等《われら》はみな|神《かみ》の|審判《さばき》の|座《ざ》の|前《まへ》に|立《た》つべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ、|我《われ》は|生《い》くるなり、 |凡《すべ》ての|膝《ひざ》はわが|前《まへ》に|屈《かが》み、 |凡《すべ》ての|舌《した》は|神《かみ》を|讃《ほ》め|稱《とな》へん』 [#ここで字下げ終わり] とあり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》おのおの|神《かみ》のまへに|己《おのれ》の|事《こと》を|陳《の》ぶべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されば|今《いま》より|後《のち》、われら|互《たがひ》に|審《さば》くべからず、むしろ|兄弟《きゃうだい》のまへに|妨碍《さまたげ》または|躓物《つまづき》を|置《お》かぬように|心《こころ》を|決《さだ》めよ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]われ|如何《いか》なる|物《もの》も|自《みづか》ら|潔《きよ》からぬ|事《こと》なきを|主《しゅ》イエスに|在《あ》りて|知《し》り、かつ|確《かた》く|信《しん》ず。ただ|潔《きよ》からずと|思《おも》ふ|人《ひと》にのみ|潔《きよ》からぬなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]もし|食物《しょくもつ》によりて|兄弟《きゃうだい》を|憂《うれ》ひしめば、|汝《なんぢ》は|愛《あい》によりて|歩《あゆ》まざるなり、キリストの|代《かわ》りて|死《し》に|給《たま》ひし|人《ひと》を、|汝《なんぢ》の|食物《しょくもつ》によりて|亡《ほろぼ》すな。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|善《よ》きことの|譏《そし》られぬようにせよ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》の|國《くに》は|飮食《いんしょく》にあらず、|義《ぎ》と|平和《へいわ》と|聖《せい》|靈《れい》によれる|歡喜《よろこび》とに|在《あ》るなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かくしてキリストに|事《つか》ふる|者《もの》は|神《かみ》に|悦《よろこ》ばれ、|人々《ひとびと》に|善《よ》しとせらるるなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》ら|平和《へいわ》のことと|互《たがひ》に|徳《とく》を|建《た》つる|事《こと》とを|追《お》ひ|求《もと》むべし。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|食物《しょくもつ》のために|神《かみ》の|御業《みわざ》を|毀《こぼ》つな。|凡《すべ》ての|物《もの》は|潔《きよ》し、されど|之《これ》を|食《くら》ひて|人《ひと》を|躓《つまづ》かする|者《もの》には|惡《あく》とならん。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|肉《にく》を|食《くら》はず、|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|飮《の》まず、その|他《ほか》なんぢの|兄弟《きゃうだい》を|躓《つまづ》かする|事《こと》をせぬは|善《よ》し。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|有《も》てる|信仰《しんかう》を|己《おのれ》みづから|神《かみ》の|前《まへ》に|保《たも》て。|善《よ》しとする|所《ところ》につきて|自《みづか》ら|咎《とが》めなき|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|疑《うたが》ひつつ|食《くら》ふ|者《もの》は|罪《つみ》せらる。これ|信仰《しんかう》によらぬ|故《ゆゑ》なり、|凡《すべ》て|信仰《しんかう》によらぬ|事《こと》は|罪《つみ》なり。 第一五章[#「第一五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]われら|強《つよ》き|者《もの》はおのれを|喜《よろこ》ばせずして、|力《ちから》なき|者《もの》の|弱《よわき》を|負《お》ふべし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]おのおの|隣《となり》|人《ひと》の|徳《とく》を|建《た》てん|爲《ため》に、その|益《えき》を|圖《はか》りて|之《これ》を|喜《よろこ》ばすべし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]キリストだに|己《おのれ》を|喜《よろこ》ばせ|給《たま》はざりき。|録《しる》して『なんぢを|謗《そし》る|者《もの》の|謗《そしり》は|我《われ》に|及《およ》べり』とあるが|如《ごと》し。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|夙《はや》くより|録《しる》されたる|所《ところ》は、みな|我《われ》らの|教訓《をしへ》のために|録《しる》ししものにして、|聖書《せいしょ》の|忍耐《にんたい》と|慰安《なぐさめ》とによりて|希望《のぞみ》を|保《たも》たせんとてなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|忍耐《にんたい》と|慰安《なぐさめ》との|神《かみ》、なんぢらをしてキリスト・イエスに|效《なら》ひ、|互《たがひ》に|思《おもひ》を|同《おな》じうせしめ|給《たま》はん|事《こと》を。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]これ|汝《なんぢ》らが|心《こころ》を|一《ひと》つにし|口《くち》を|一《ひと》つにして、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|父《ちち》なる|神《かみ》を|崇《あが》めん|爲《ため》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|故《ゆゑ》にキリスト|汝《なんぢ》らを|容《い》れ|給《たま》ひしごとく、|汝《なんぢ》らも|互《たがひ》に|相《あひ》|容《い》れて|神《かみ》の|榮光《えいくわう》を|彰《あらは》すべし。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|言《い》ふ、キリストは|神《かみ》の|眞理《まこと》のために|割禮《かつれい》の|役者《えきしゃ》となり|給《たま》へり。これ|先祖《せんぞ》たちの|蒙《かうむ》りし|約束《やくそく》を|堅《かた》うし|給《たま》はん|爲《ため》、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|異邦人《いはうじん》も|憐憫《あはれみ》によりて|神《かみ》を|崇《あが》めんためなり。|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『この|故《ゆゑ》に、われ|異邦人《いはうじん》の|中《うち》にて |汝《なんぢ》を|讃《ほ》めたたへ、 |又《また》なんぢの|名《な》を|謳《うた》はん』 [#ここで字下げ終わり] とあるが|如《ごと》し。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 『|異邦人《いはうじん》よ、|主《しゅ》の|民《たみ》と|共《とも》に|喜《よろこ》べ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》いはく [#ここから2字下げ] 『もろもろの|國人《くにびと》よ、|主《しゅ》を|讃《ほ》め|奉《まつ》れ、 もろもろの|民《たみ》よ、|主《しゅ》を|稱《たた》へ|奉《まつ》れ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》イザヤ|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 『エツサイの|萠薛《ひこばえ》|生《しゃう》じ、 |異邦人《いはうじん》を|治《をさ》むるもの|興《おこ》らん。 |異邦人《いはうじん》は|彼《かれ》に|望《のぞみ》をおかん』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|希望《のぞみ》の|神《かみ》、|信仰《しんかう》より|出《い》づる|凡《すべ》ての|喜悦《よろこび》と|平安《へいあん》とを|汝《なんぢ》らに|滿《み》たしめ、|聖《せい》|靈《れい》の|能力《ちから》によりて|希望《のぞみ》を|豐《ゆたか》ならしめ|給《たま》はんことを。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、われは|汝《なんぢ》らが|自《みづか》ら|善《ぜん》に|滿《み》ち、もろもろの|知識《ちしき》に|滿《み》ちて|互《たがひ》に|訓戒《くんかい》し|得《う》ることを|確《かた》く|信《しん》ず。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》なほ|汝《なんぢ》らに|憶《おも》ひ|出《いだ》させん|爲《ため》に、ここかしこ|少《こ》しく|憚《はばか》らずして|書《か》きたる|所《ところ》あり、これ|神《かみ》の|我《われ》に|賜《たま》ひたる|恩惠《めぐみ》に|因《よ》る。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|異邦人《いはうじん》のためにキリスト・イエスの|仕人《つかへびと》となり、|神《かみ》の|福音《ふくいん》につきて|祭司《さいし》の|職《つとめ》をなす。これ|異邦人《いはうじん》の|聖《せい》|靈《れい》によりて|潔《きよ》められ、|御心《みこころ》に|適《かな》ふ|献物《ささげもの》とならん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されば、われ|神《かみ》の|事《こと》につきては、キリスト・イエスによりて|誇《ほこ》る|所《ところ》あり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は、キリストの|異邦人《いはうじん》を|服《したが》はせん|爲《ため》に|我《われ》を|用《もち》ひて、|言《ことば》と|業《わざ》と、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]また|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》との|能力《ちから》、および|聖《せい》|靈《れい》の|能力《ちから》にて|働《はたら》き|給《たま》ひし|事《こと》のほかは|敢《あ》へて|語《かた》らず、エルサレムよりイルリコの|地方《ちはう》に|到《いた》るまで、|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》くキリストの|福音《ふくいん》を|充《み》たせり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|努《つと》めて|他人《たにん》の|置《す》ゑたる|基礎《もとゐ》のうへに|建《た》てじとて、|未《いま》だキリストの|御名《みな》の|稱《とな》へられぬ|所《ところ》にのみ|福音《ふくいん》を|宣傅《のべつた》へり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『|未《いま》だ|彼《かれ》のことを|傳《つた》へられざりし|者《もの》は|見《み》、 いまだ|聞《き》かざりし|者《もの》は|悟《さと》るべし』 [#ここで字下げ終わり] とあるが|如《ごと》し。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、われ|汝《なんぢ》らに|往《ゆ》かんとせしが、しばしば|妨《さまた》げられたり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]されど|今《いま》は|此《こ》の|地方《ちはう》に|働《はたら》くべき|處《ところ》なく、|且《かつ》なんぢらに|往《ゆ》かんことを|多年《たねん》|切《せつ》に|望《のぞ》みゐたれば、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]イスパニヤに|赴《おもむ》かんとき|立寄《たちよ》りて|汝《なんぢ》らを|見《み》、ほぼ|意《こころ》に|滿《み》つるを|得《え》てのち|汝《なんぢ》らに|送《おく》られんとを|望《のぞ》むなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]されど|今《いま》、|聖徒《せいと》に|事《つか》へん|爲《ため》にエルサレムに|往《ゆ》かんとす。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]マケドニアとアカヤとの|人々《ひとびと》は、エルサレムに|在《あ》る|聖徒《せいと》の|貧《まづ》しき|者《もの》に|幾許《いくばく》かの|施與《ほどこし》をするを|善《よ》しとせり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|實《げ》に|之《これ》を|善《よ》しとせり、また|聖徒《せいと》に|對《たい》して|斯《か》くする|負債《おひめ》あり。|異邦人《いはうじん》もし|彼《かれ》らの|靈《れい》の|物《もの》に|與《あづか》りたらんには、|肉《にく》の|物《もの》をもて|彼《かれ》らに|事《つか》ふべきなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]されば|此《こ》の|事《こと》を|成《な》し|了《を》へ、この|果《み》を|付《わた》してのち、|汝《なんぢ》らを|歴《へ》てイスパニヤに|往《ゆ》かん。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|到《いた》るときは、キリストの|滿《み》ち|足《た》れる|祝福《しくふく》をもて|到《いた》らんことを|知《し》る。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストにより、また|御靈《みたま》の|愛《あい》によりて|汝《なんぢ》らに|勸《すす》む、なんぢらの|祈《いのり》のうちに、|我《われ》とともに|力《ちから》を|盡《つく》して|我《わ》がために|神《かみ》に|祈《いの》れ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]これユダヤにをる|從《したが》はぬ|者《もの》の|中《うち》より|我《わ》が|救《すく》はれ、|又《また》エルサレムに|對《たい》する|我《わ》が|務《つとめ》の|聖徒《せいと》の|心《こころ》に|適《かな》ひ、[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]かつ|神《かみ》の|御意《みこころ》により、|歡喜《よろこび》をもて|汝《なんぢ》|等《ら》にいたり、|共《とも》に|安《やす》んぜん|爲《ため》なり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|平和《へいわ》の|神《かみ》なんぢら|衆《すべて》と|偕《とも》に|在《いま》さんことを、アァメン。 第一六章[#「第一六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ケンクレヤの|教會《けうくわい》の|執事《しつじ》なる|我《われ》らの|姉妹《しまい》フィベを|汝《なんぢ》らに|薦《すす》む。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|主《しゅ》にありて|聖徒《せいと》たるに|相應《ふさは》しく|彼《かれ》を|容《い》れ、|何《なに》にても|其《そ》の|要《えう》する|所《ところ》を|助《たす》けよ、|彼《かれ》は|夙《はや》くより|多《おほ》くの|人《ひと》の|保護者《ほごしゃ》また|我《わ》が|保護者《ほごしゃ》たり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]プリスカとアクラとに|安否《あんぴ》を|問《と》へ、|彼《かれ》らはキリスト・イエスに|在《あ》る|我《わ》が|同勞者《どうらうしゃ》にして、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]わが|生命《いのち》のために|己《おのれ》の|首《くび》をも|惜《をし》まざりき。|彼《かれ》らに|感謝《かんしゃ》するは、ただ|我《われ》のみならず、|異邦人《いはうじん》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》もまた|然《しか》り。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》その|家《いへ》にある|教會《けうくわい》にも|安否《あんぴ》を|問《と》へ。|又《また》わが|愛《あい》するエパネトに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。|彼《かれ》はアジヤにて|結《むす》べるキリストの|初《はじめ》の|實《み》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のために|甚《いた》く|勞《らう》せしマリヤに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》とともに|囚人《めしうど》たりし|我《わ》が|同族《どうぞく》アンデロニコとユニアスとに|安否《あんぴ》を|問《と》へ、|彼《かれ》らは|使徒《しと》たちの|中《うち》に|名聲《きこえ》あり、かつ|我《われ》に|先《さき》だちてキリストに|歸《き》せし|者《もの》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》にありて|我《わ》が|愛《あい》するアンプリヤに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]キリストにある|我《われ》らの|同勞者《どうらうしゃ》ウルパノと|我《わ》が|愛《あい》するスタキスとに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]キリストに|在《あ》りて|錬達《れんたつ》せるアペレに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。アリストブロの|家《いへ》の|者《もの》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]わが|同族《どうぞく》ヘロデオンに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。ナルキソの|家《いへ》なる|主《しゅ》に|在《あ》る|者《もの》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》に|在《あ》りて|勞《らう》せしツルパナとツルポサとに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。|主《しゅ》に|在《あ》りて|甚《いた》く|勞《らう》せし|愛《あい》するペルシスに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》に|在《あ》りて|選《えら》ばれたるルポスと|其《そ》の|母《はは》とに|安否《あんぴ》を|問《と》へ、|彼《かれ》の|母《はは》は|我《われ》にもまた|母《はは》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]アスンクリト、フレゴン、ヘルメス、パトロバ、ヘルマス|及《およ》び|彼《かれ》らと|偕《とも》に|在《あ》る|兄弟《きゃうだい》たちに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ピロロゴ|及《およ》びユリヤ、ネレオ|及《およ》びその|姉妹《しまい》、またオルンパ|及《およ》び|彼《かれ》らと|偕《とも》に|在《あ》る|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|潔《きよ》き|接吻《くちつけ》をもて|互《たがひ》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ。キリストの|諸《しょ》|教會《けうくわい》みな|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|汝《なんぢ》らに|勸《すす》む、おほよそ|汝《なんぢ》らの|學《まな》びし|教《をしへ》に|背《そむ》きて|分離《ぶんり》を|生《しゃう》じ、|顛躓《つまづき》をおこす|者《もの》に|心《こころ》して|之《これ》に|遠《とほ》ざかれ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かかる|者《もの》は|我《われ》らの|主《しゅ》キリストに|事《つか》へず、|反《かへ》つて|己《おの》が|腹《はら》に|事《つか》へ、また|甘《あま》き|言《ことば》と|媚諂《こびへつらひ》とをもて|質朴《しつぼく》なる|人《ひと》の|心《こころ》を|欺《あざむ》くなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|從順《じゅうじゅん》は|凡《すべ》ての|人《ひと》に|聞《きこ》えたれば、|我《われ》なんぢらの|爲《ため》に|喜《よろこ》べり。|而《しか》して|我《わ》が|欲《ほっ》する|所《ところ》は、|汝《なんぢ》らが|善《ぜん》に|智《かしこ》く、|惡《あく》に|疏《うと》からんことなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|平和《へいわ》の|神《かみ》は|速《すみや》かにサタンを|汝《なんぢ》らの|足《あし》の|下《した》に|碎《くだ》き|給《たま》ふべし。|願《ねが》はくは|我《われ》らの|主《しゅ》イエスの|恩惠《めぐみ》、なんぢらと|偕《とも》に|在《あ》らんことを。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]わが|同勞者《どうらうしゃ》テモテ|及《およ》び|我《わ》が|同族《どうぞく》ルキオ、ヤソン、ソシパテロ|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]この|書《ふみ》を|書《か》ける|我《われ》テルテオも|主《しゅ》にありて|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》と|全《ぜん》|教會《けうくわい》との|家主《いへあるじ》ガイオ|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。|町《まち》の|庫司《くらづかさ》エラストと|兄弟《きゃうだい》クワルトと|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり][なし][#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|長《なが》き|世《よ》のあひだ|隱《かく》れたれども、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》|顯《あらは》れて、|永遠《とこしへ》の|神《かみ》の|命《めい》にしたがひ、|預言者《よげんしゃ》たちの|書《ふみ》によりて|信仰《しんかう》の|從順《じゅうじゅん》を|得《え》しめん|爲《ため》に、もろもろの|國人《くにびと》に|示《しめ》されたる|奧義《おくぎ》の|默示《もくし》に|循《したが》へる|我《わ》が|福音《ふくいん》と、イエス・キリストを|宣《の》ぶる|事《こと》とによりて、|汝《なんぢ》らを|堅《かた》うし|得《う》る、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|唯一《ゆゐいつ》の|智《かしこ》き|神《かみ》に、|榮光《えいくわう》|世々《よよ》|限《かぎ》りなくイエス・キリストに|由《よ》りて|在《あ》らんことを、アァメン。 [#改ページ] コリント人への前の書[#「コリント人への前の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|御意《みこころ》により|召《め》されてイエス・キリストの|使徒《しと》となれるパウロ|及《およ》び|兄弟《きゃうだい》ソステネ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|書《ふみ》をコリントに|在《あ》る|神《かみ》の|教會《けうくわい》、|即《すなは》ちいづれの|處《ところ》にありても、|我《われ》らの|主《しゅ》、ただに|我等《われら》のみならず|彼《かれ》らの|主《しゅ》なるイエス・キリストの|名《な》を|呼《よ》び|求《もと》むる|者《もの》とともに、|聖徒《せいと》となるべき|召《めし》を|蒙《かうむ》り、キリスト・イエスに|在《あ》りて|潔《きよ》められたる|汝《なんぢ》らに|贈《おく》る。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らがキリスト・イエスに|在《あ》りて|神《かみ》より|賜《たま》はりし|恩惠《めぐみ》に|就《つ》きて、|常《つね》に|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らはキリストに|在《あ》りて、|諸般《もろもろ》のこと|即《すなは》ち|凡《すべ》ての|言《ことば》と|凡《すべ》ての|悟《さとり》とに|富《と》みたればなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]これキリストの|證《あかし》なんぢらの|中《うち》に|堅《かた》うせられたるに|因《よ》る。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|汝《なんぢ》らは|凡《すべ》ての|賜物《たまもの》に|缺《か》くる|所《ところ》なくして、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|現《あらは》れ|給《たま》ふを|待《ま》てり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|汝《なんぢ》らを|終《をはり》まで|堅《かた》うして、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|日《ひ》に|責《せ》むべき|所《ところ》なからしめ|給《たま》はん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らを|召《め》して|其《そ》の|子《こ》われらの|主《しゅ》イエス・キリストの|交際《まじはり》に|入《い》らしめ|給《たま》ふ|神《かみ》は|眞實《まこと》なる|哉《かな》。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|名《な》に|頼《よ》りて|汝《なんぢ》らに|勸《すす》む、おのおの|語《かた》るところを|同《おな》じうし、|分爭《ぶんさう》する|事《こと》なく、|同《おな》じ|心《こころ》おなじ|念《おもひ》にて|全《まった》く|一《ひと》つになるべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、クロエの|家《いへ》の|者《もの》、なんぢらの|中《うち》に|紛爭《あらそひ》あることを|我《われ》に|知《し》らせたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|汝《なんぢ》|等《ら》おのおの『|我《われ》はパウロに|屬《ぞく》す』『われはアポロに』『|我《われ》はケパに』『|我《われ》はキリストに』と|言《い》ふこれなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|分《わか》たるる|者《もの》ならんや、パウロは|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|十字架《じふじか》につけられしや、|汝《なんぢ》らパウロの|名《な》に|頼《よ》りてバプテスマを|受《う》けしや。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|感謝《かんしゃ》す、クリスポとガイオとの|他《ほか》には、|我《われ》なんぢらの|中《うち》の|一人《ひとり》にもバプテスマを|施《ほどこ》さざりしを。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》わが|名《な》に|頼《よ》りて|汝《なんぢ》らがバプテスマを|受《う》けしと|人《ひと》の|言《い》ふ|事《こと》なからん|爲《ため》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]またステパノの|家族《かぞく》にバプテスマを|施《ほどこ》しし|事《こと》あり、|此《こ》の|他《ほか》には|我《われ》バプテスマを|施《ほどこ》しし|事《こと》ありや|知《し》らざるなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]そはキリストの|我《われ》を|遣《つかは》し|給《たま》へるはバプテスマを|施《ほどこ》させん|爲《ため》にあらず、|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へしめんとてなり。|而《しか》して|言《ことば》の|智慧《ちゑ》をもつてせず、|是《これ》キリストの|十字架《じふじか》の|虚《むな》しくならざらん|爲《ため》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]それ|十字架《じふじか》の|言《ことば》は|亡《ほろ》ぶる|者《もの》には|愚《おろか》なれど、|救《すく》はるる|我《われ》らには|神《かみ》の|能力《ちから》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して、 [#ここから2字下げ] 『われ|智者《ちしゃ》の|智慧《ちゑ》をほろぼし、 |慧《さと》き|者《もの》のさときを|空《むな》しうせん』 [#ここで字下げ終わり] とあればなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|智者《ちしゃ》いづこにか|在《あ》る、|學者《がくしゃ》いづこにか|在《あ》る、この|世《よ》の|論者《ろんしゃ》いづこにか|在《あ》る、|神《かみ》は|世《よ》の|智慧《ちゑ》をして|愚《おろか》ならしめ|給《たま》へるにあらずや。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》は|己《おのれ》の|智慧《ちゑ》をもて|神《かみ》を|知《し》らず(これ|神《かみ》の|智慧《ちゑ》に|適《かな》へるなり)この|故《ゆゑ》に|神《かみ》は|宣教《せんけう》の|愚《おろか》をもて、|信《しん》ずる|者《もの》を|救《すく》ふを|善《よ》しとし|給《たま》へり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》は|徴《しるし》を|請《こ》ひ、ギリシヤ|人《びと》は|智慧《ちゑ》を|求《もと》む。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》らは|十字架《じふじか》に|釘《つ》けられ|給《たま》ひしキリストを|宣傳《のべつた》ふ。これはユダヤ|人《びと》に|躓物《つまづき》となり、|異邦人《いはうじん》に|愚《おろか》となれど、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|召《め》されたる|者《もの》にはユダヤ|人《びと》にもギリシヤ|人《びと》にも、|神《かみ》の|能力《ちから》また|神《かみ》の|智慧《ちゑ》たるキリストなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|愚《おろか》は|人《ひと》よりも|智《かしこ》く、|神《かみ》の|弱《よわき》は|人《ひと》よりも|強《つよ》ければなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|召《めし》を|蒙《かうむ》れる|汝《なんぢ》らを|見《み》よ、|肉《にく》によれる|智《かしこ》き|者《もの》おほからず、|能力《ちから》ある|者《もの》おほからず、|貴《たふと》きもの|多《おほ》からず。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]されど|神《かみ》は|智《かしこ》き|者《もの》を|辱《はづか》しめんとて|世《よ》の|愚《おろか》なる|者《もの》を|選《えら》び、|強《つよ》き|者《もの》を|辱《はづか》しめんとて|弱《よわ》き|者《もの》を|選《えら》び、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|有《あ》る|者《もの》を|亡《ほろぼ》さんとて|世《よ》の|卑《いや》しきもの、|輕《かろ》んぜらるる|者《もの》、すなわち|無《な》きが|如《ごと》き|者《もの》を|選《えら》び|給《たま》へり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]これ|神《かみ》の|前《まへ》に|人《ひと》の|誇《ほこ》る|事《こと》なからん|爲《ため》なり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|神《かみ》に|頼《よ》りてキリスト・イエスに|在《あ》り、|彼《かれ》は|神《かみ》に|立《た》てられて|我《われ》らの|智慧《ちゑ》と|義《ぎ》と|聖《せい》と|救贖《あがなひ》とになり|給《たま》へり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]これ『|誇《ほこ》る|者《もの》は|主《しゅ》に|頼《よ》りて|誇《ほこ》るべし』と|録《しる》されたる|如《ごと》くならん|爲《ため》なり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|曩《さき》に|汝《なんぢ》らに|到《いた》りしとき、|神《かみ》の|證《あかし》を|傳《つた》ふるに|言《ことば》と|智慧《ちゑ》との|優《すぐ》れたるを|用《もち》ひざりき。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]イエス・キリスト|及《およ》びその|十字架《じふじか》に|釘《つ》けられ|給《たま》ひし|事《こと》のほかは、|汝《なんぢ》らの|中《うち》にありて|何《なに》をも|知《し》るまじと|心《こころ》を|定《さだ》めたればなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢらと|偕《とも》に|居《を》りし|時《とき》に、|弱《よわ》くかつ|懼《おそ》れ、|甚《いた》く|戰《おのの》けり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]わが|談話《だんわ》も、|宣教《せんけう》も、|智慧《ちゑ》の|美《うるわ》しき|言《ことば》によらずして、|御靈《みたま》と|能力《ちから》との|證明《しょうめい》によりたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]これ|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》の、|人《ひと》の|智慧《ちゑ》によらず、|神《かみ》の|能力《ちから》に|頼《よ》らん|爲《ため》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》らは|成人《せいじん》したる|者《もの》の|中《うち》にて|智慧《ちゑ》を|語《かた》る。これ|此《こ》の|世《よ》の|智慧《ちゑ》にあらず、|又《また》この|世《よ》の|廢《すた》らんとする|司《つかさ》たちの|智慧《ちゑ》にあらず、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|奧義《おくぎ》を|解《と》きて|神《かみ》の|智慧《ちゑ》を|語《かた》る、|即《すなは》ち|隱《かく》れたる|智慧《ちゑ》にして、|神《かみ》われらの|光榮《くわうえい》のために、|世《よ》の|創《はじめ》の|先《さき》より|預《あらか》じめ|定《さだ》め|給《たま》ひしものなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|世《よ》の|司《つかさ》には|之《これ》を|知《し》る|者《もの》なかりき、もし|知《し》らば|榮光《えいくわう》の|主《しゅ》を|十字架《じふじか》に|釘《つ》けざりしならん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『|神《かみ》のおのれを|愛《あい》する|者《もの》のために|備《そな》へ|給《たま》ひし|事《こと》は、 |眼《め》いまだ|見《み》ず、|耳《みみ》いまだ|聞《き》かず、 |人《ひと》の|心《こころ》いまだ|思《おも》はざりし|所《ところ》なり』 [#ここで字下げ終わり] と|有《あ》るが|如《ごと》し。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》らには|神《かみ》これを|御靈《みたま》によりて|顯《あらは》し|給《たま》へり。|御靈《みたま》はすべての|事《こと》を|究《きは》め、|神《かみ》の|深《ふか》き|所《ところ》まで|究《きは》むればなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]それ|人《ひと》のことは|己《おの》が|中《うち》にある|靈《れい》のほかに|誰《たれ》か|知《し》る|人《ひと》あらん、|斯《か》くのごとく|神《かみ》のことは|神《かみ》の|御靈《みたま》のほかに|知《し》る|者《もの》なし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|受《う》けし|靈《れい》は|世《よ》の|靈《れい》にあらず、|神《かみ》より|出《い》づる|靈《れい》なり、|是《これ》われらに|神《かみ》の|賜《たま》ひしものを|知《し》らんためなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》われら|之《これ》を|語《かた》るに|人《ひと》の|智慧《ちゑ》の|教《をし》ふる|言《ことば》を|用《もち》ひず、|御靈《みたま》の|教《をし》ふる|言《ことば》を|用《もち》ふ、|即《すなは》ち|靈《れい》の|事《こと》に|靈《れい》の|言《ことば》を|當《あ》つるなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|性來《うまれつき》のままなる|人《ひと》は|神《かみ》の|御靈《みたま》のことを|受《う》けず、|彼《かれ》には|愚《おろか》なる|者《もの》と|見《み》ゆればなり。また|之《これ》を|悟《さと》ること|能《あた》はず、|御靈《みたま》のことは|靈《れい》によりて|辨《わきま》ふべき|者《もの》なるが|故《ゆゑ》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されど|靈《れい》に|屬《ぞく》する|者《もの》は、すべての|事《こと》をわきまふ、|而《しか》して|己《おのれ》は|人《ひと》に|辨《わきま》へらるる|事《こと》なし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》か|主《しゅ》の|心《こころ》を|知《し》りて|主《しゅ》を|教《をし》ふる|者《もの》あらんや。|然《さ》れど|我《われ》らはキリストの|心《こころ》を|有《も》てり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|靈《れい》に|屬《ぞく》する|者《もの》に|對《たい》する|如《ごと》く|汝《なんぢ》らに|語《かた》ること|能《あた》はず、|反《かへ》つて|肉《にく》に|屬《ぞく》するもの、|即《すなは》ちキリストに|在《あ》る|幼兒《をさなご》に|對《たい》する|如《ごと》く|語《かた》れり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|乳《ちち》のみ|飮《の》ませて|堅《かた》き|食物《しょくもつ》を|與《あた》へざりき。|汝《なんぢ》|等《ら》そのとき|食《くら》ふこと|能《あた》はざりし|故《ゆゑ》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》もなほ|食《くら》ふこと|能《あた》はず、|今《いま》もなほ|肉《にく》に|屬《ぞく》する|者《もの》なればなり。|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|嫉妬《ねたみ》と|紛爭《あらそひ》とあるは、これ|肉《にく》に|屬《ぞく》する|者《もの》にして|世《よ》の|人《ひと》の|如《ごと》くに|歩《あゆ》むならずや。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|者《もの》は『われパウロに|屬《ぞく》す』といひ、|或《ある》|者《もの》は『われアポロに|屬《ぞく》す』と|言《い》ふ、これ|世《よ》の|人《ひと》の|如《ごと》くなるにあらずや。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]アポロは|何《なに》|者《もの》ぞ、パウロは|何《なに》|者《もの》ぞ、|彼《かれ》|等《ら》はおのおの|主《しゅ》の|賜《たま》ふところに|隨《したが》ひ、|汝《なんぢ》らをして|信《しん》ぜしめたる|役者《えきしゃ》に|過《す》ぎざるなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|植《う》ゑ、アポロは|水《みづ》|灌《そそ》げり、されど|育《そだ》てたるは|神《かみ》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されば|種《う》うる|者《もの》も、|水《みづ》|灌《そそ》ぐ|者《もの》も|數《かぞ》ふるに|足《た》らず、ただ|尊《たふと》きは|育《そだ》てたまふ|神《かみ》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|種《う》うる|者《もの》も、|水《みづ》|灌《そそ》ぐ|者《もの》も|歸《き》する|所《ところ》は|一《ひと》つなれど、|各自《おのおの》おのが|勞《らう》に|隨《したが》ひて|其《そ》の|値《あたひ》を|得《う》べし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|神《かみ》と|共《とも》に|働《はたら》く|者《もの》なり。|汝《なんぢ》らは|神《かみ》の|畠《はたけ》なり、また|神《かみ》の|建築物《たてもの》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|神《かみ》の|賜《たま》ひたる|恩惠《めぐみ》に|隨《したが》ひて、|熟錬《じゅくれん》なる|建築師《けんちくし》のごとく|基《もとゐ》を|据《す》ゑたり、|而《しか》して|他《ほか》の|人《ひと》その|上《うへ》に|建《た》つるなり。|然《さ》れど|如何《いか》にして|建《た》つべきか、おのおの|心《こころ》して|爲《な》すべし、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|置《お》きたる|基《もとゐ》のほかは|誰《たれ》も|据《す》うること|能《あた》はず、この|基《もとゐ》は|即《すなは》ちイエス・キリストなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|此《こ》の|基《もとゐ》の|上《うへ》に|金《きん》・|銀《ぎん》・|寳石《はうせき》・|木《き》・|草《くさ》・|藁《わら》をもつて|建《た》てなば、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|各人《おのおの》の|工《わざ》は|顯《あらは》るべし。かの|日《ひ》これを|明《あきら》かにせん、かの|日《ひ》は|火《ひ》をもつて|顯《あらは》れ、その|火《ひ》おのおのの|工《わざ》の|如何《いかん》を|驗《ため》すべければなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]その|建《た》つる|所《ところ》の|工《わざ》、もし|保《たも》たば|値《あたひ》を|得《え》、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]もし|其《そ》の|工《わざ》|燒《や》けなば|損《そん》すべし。|然《さ》れど|己《おのれ》は|火《ひ》より|脱《のが》れ|出《い》づる|如《ごと》くして|救《すく》はれん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|知《し》らずや、|汝《なんぢ》らは|神《かみ》の|宮《みや》にして、|神《かみ》の|御靈《みたま》なんぢらの|中《うち》に|住《す》み|給《たま》ふを。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|神《かみ》の|宮《みや》を|毀《こぼ》たば|神《かみ》かれを|毀《こぼ》ち|給《たま》はん。それ|神《かみ》の|宮《みや》は|聖《せい》なり、|汝《なんぢ》らも|亦《また》かくの|如《ごと》し。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|自《みづか》ら|欺《あざむ》くな。|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|此《こ》の|世《よ》にて|自《みづか》ら|智《かしこ》しと|思《おも》ふ|者《もの》は、|智《かしこ》くならんために|愚《おろか》なる|者《もの》となれ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]そは|此《こ》の|世《よ》の|智慧《ちゑ》は|神《かみ》の|前《まへ》に|愚《おろか》なればなり。|録《しる》して『|彼《かれ》は|智者《ちしゃ》をその|惡巧《たくみ》によりて|捕《とら》へ|給《たま》ふ』[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]また『|主《しゅ》は|智者《ちしゃ》の|念《おもひ》の|虚《むな》しきを|知《し》り|給《たま》ふ』とあるが|如《ごと》し。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]さらば|誰《たれ》も|人《ひと》を|誇《ほこり》とすな、|萬《よろづ》の|物《もの》は|汝《なんぢ》らの|有《もの》なればなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|或《あるひ》はパウロ、|或《あるひ》はアポロ、|或《あるひ》はケパ、|或《あるひ》は|世界《せかい》、あるひは|生《せい》、あるひは|死《し》、あるひは|現在《げんざい》のもの、|或《あるひ》は|未來《みらい》のもの、|皆《みな》なんぢらの|有《もの》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》はキリストの|有《もの》、キリストは|神《かみ》のものなり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》よろしく|我《われ》らをキリストの|役者《えきしゃ》また|神《かみ》の|奧義《おくぎ》を|掌《つかさ》どる|家《いへ》|司《つかさ》のごとく|思《おも》ふべし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]さて|家《いへ》|司《つかさ》に|求《もと》むべきは|忠實《ちゅうじつ》ならん|事《こと》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|汝《なんぢ》らに|審《さば》かれ、|或《あるひ》は|人《ひと》の|審判《さばき》によりて|審《さば》かるることを|最《いと》|小《ちひさ》き|事《こと》とし、また|自《みづか》らも|己《おのれ》を|審《さば》かず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》みづから|責《せ》むべき|所《ところ》あるを|覺《おぼ》えねど、|之《これ》に|由《よ》りて|義《ぎ》とせらるる|事《こと》なければなり。|我《われ》を|審《さば》きたまふ|者《もの》は|主《しゅ》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|主《しゅ》の|來《きた》り|給《たま》ふまでは|時《とき》に|先《さき》だちて|審判《さばき》すな。|主《しゅ》は|暗《くらき》にある|隱《かく》れたる|事《こと》を|明《あきら》かにし、|心《こころ》の|謀計《はかりごと》をあらはし|給《たま》はん。その|時《とき》おのおの|神《かみ》より|其《そ》の|譽《ほまれ》を|得《う》べし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|汝《なんぢ》|等《ら》のために|此《これ》|等《ら》のことを|我《われ》とアポロとの|上《うへ》に|當《あ》てて|言《い》へり。これ|汝《なんぢ》らが『|録《しる》されたる|所《ところ》を|踰《こ》ゆまじき』を|我《われ》らの|事《こと》によりて|學《まな》び、この|人《ひと》をあげ、かの|人《ひと》を|貶《おと》して|誇《ほこ》らざらん|爲《ため》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》をして|人《ひと》と|異《こと》ならしむる|者《もの》は|誰《たれ》ぞ、なんぢの|有《も》てる|物《もの》に|何《なに》か|受《う》けぬ|物《もの》あるか。もし|受《う》けしならば、|何《なに》ぞ|受《う》けぬごとく|誇《ほこ》るか。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|既《すで》に|飽《あ》き、|既《すで》に|富《と》めり、|我《われ》らを|差措《さしお》きて|王《わう》となれり。われ|實《じつ》に|汝《なんぢ》らが|王《わう》たらんことを|願《ねが》ふ、われらも|共《とも》に|王《わう》たることを|得《え》んが|爲《ため》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》おもふ、|神《かみ》は|使徒《しと》たる|我《われ》らを|死《し》に|定《さだ》められし|者《もの》のごとく、|後《しりへ》の|者《もの》として|見《み》せ|給《たま》へり。|實《じつ》に|我《われ》らは|宇宙《うちう》のもの、|即《すなは》ち|御使《みつかひ》にも、|衆人《ひとびと》にも、|觀物《みもの》にせられたるなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らはキリストのために|愚《おろか》なる|者《もの》となり、|汝《なんぢ》らはキリストに|在《あ》りて|慧《さと》き|者《もの》となれり。|我等《われら》は|弱《よわ》く|汝《なんぢ》らは|強《つよ》し、|汝《なんぢ》らは|尊《たふと》く|我《われ》らは|卑《いや》し。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》の|時《とき》にいたるまで|我《われ》らは|飢《う》ゑ、|渇《かわ》き、また|裸《はだか》となり、また|打《う》たれ、|定《さだま》れる|住家《すみか》なく、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|手《て》づから|働《はたら》きて|勞《らう》し、|罵《ののし》らるるときは|祝《しく》し、|責《せ》めらるるときは|忍《しの》び、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|譏《そし》らるるときは|勸《すすめ》をなせり。|我《われ》らは|今《いま》に|至《いた》るまで|世《よ》の|塵芥《あくた》のごとく、|萬《よろづ》の|物《もの》の|垢《あか》のごとくせられたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]わが|斯《か》く|書《しる》すは|汝《なんぢ》らを|辱《はづか》しめんとにあらず、|我《わ》が|愛《あい》する|子《こ》として|訓戒《くんかい》せんためなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》にはキリストに|於《お》ける|守役《もりやく》|一萬《いちまん》ありとも、|父《ちち》は|多《おほ》くあることなし。そはキリスト・イエスに|在《あ》りて|福音《ふくいん》により|汝《なんぢ》らを|生《う》みたるは、|我《われ》なればなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らに|勸《すす》む、|我《われ》に|效《なら》ふ|者《もの》とならんことを。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》がために|主《しゅ》にありて|忠實《ちゅうじつ》なる|我《わ》が|愛子《あいし》テモテを|汝《なんぢ》らに|遣《つかは》せり。|彼《かれ》は|我《わ》がキリストにありて|行《おこな》ふところ、|即《すなは》ち|常《つね》に|各地《かくち》の|教會《けうくわい》に|教《をし》ふる|所《ところ》を、|汝《なんぢ》らに|思《おも》ひ|出《いだ》さしむべし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]わが|汝《なんぢ》らに|到《いた》ること|無《な》しとして|誇《ほこ》る|者《もの》あり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]されど|主《しゅ》の|御意《みこころ》ならば|速《すみや》かに|汝《なんぢ》|等《ら》にいたり、|誇《ほこ》る|者《もの》の|言《ことば》にはあらで、その|能力《ちから》を|知《し》らんとす。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|國《くに》は|言《ことば》にあらず、|能力《ちから》にあればなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|何《なに》を|欲《ほっ》するか、われ|笞《しもと》をもて|到《いた》らんか、|愛《あい》と|柔和《にうわ》の|心《こころ》とをもて|到《いた》らんか。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|現《げん》に|聞《き》く|所《ところ》によれば、|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|淫行《いんかう》ありと、|而《しか》してその|淫行《いんかう》は|異邦人《いはうじん》の|中《うち》にもなき|程《ほど》にして、|或《ある》|人《ひと》その|父《ちち》の|妻《つま》を|有《も》てりと|云《い》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くてもなほ|汝《なんぢ》ら|誇《ほこ》ることをなし、かかる|行爲《おこなひ》をなしし|者《もの》の|除《のぞ》かれんことを|願《ねが》ひて|悲《かな》しまざるか。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われ|身《み》は|汝《なんぢ》らを|離《はな》れ|居《を》れども、|心《こころ》は|偕《とも》に|在《あ》りて|其處《そこ》に|居《を》るごとく、かかる|事《こと》を|行《おこな》ひし|者《もの》を|既《すで》に|審《さば》きたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]すなはち|汝《なんぢ》ら|及《およ》び|我《わ》が|靈《れい》の、|我《われ》らの|主《しゅ》イエスの|能力《ちから》をもて|偕《とも》に|集《あつま》らんとき、|主《しゅ》イエスの|名《な》によりて、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとき|者《もの》をサタンに|付《わた》さんとす、|是《これ》その|肉《にく》は|亡《ほろぼ》されて、|其《そ》の|靈《れい》は|主《しゅ》イエスの|日《ひ》に|救《すく》はれん|爲《ため》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|誇《ほこり》は|善《よ》からず。|少《すこ》しのパン|種《だね》の、|粉《こな》の|團塊《かたまり》をみな|膨《ふく》れしむるを|知《し》らぬか。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|新《あたら》しき|團塊《かたまり》とならんために|舊《ふる》きパン|種《だね》を|取《と》り|除《のぞ》け、|汝《なんぢ》らはパン|種《だね》なき|者《もの》なればなり。|夫《それ》われらの|過越《すぎこし》の|羔羊《こひつじ》すなはちキリスト|既《すで》に|屠《ほふ》られ|給《たま》へり、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》らは|舊《ふる》きパン|種《だね》を|用《もち》ひず、また|惡《あく》と|邪曲《よこしま》とのパン|種《だね》を|用《もち》ひず、|眞實《しんじつ》と|眞《まこと》との|種《たね》なしパンを|用《もち》ひて|祭《まつり》を|行《おこな》ふべし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われ|前《さき》の|書《ふみ》にて|淫行《いんかう》の|者《もの》と|交《まじは》るなと|書《か》き|贈《おく》りしは、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|世《よ》の|淫行《いんかう》の|者《もの》、または|貪欲《どんよく》のもの、|奪《うば》ふ|者《もの》、または|偶像《ぐうざう》を|拜《をが》む|者《もの》と|更《さら》に|交《まじは》るなと|言《い》ふにあらず(もし|然《しか》せば|世《よ》を|離《はな》れざるを|得《え》ず)[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]ただ|兄弟《きゃうだい》と|稱《とな》ふる|者《もの》の|中《うち》に、|或《あるひ》は|淫行《いんかう》のもの、|或《あるひ》は|貪欲《どんよく》のもの、|或《あるひ》は|偶像《ぐうざう》を|拜《をが》む|者《もの》、あるひは|罵《ののし》るもの、|或《あるひ》は|酒《さけ》に|醉《ゑ》ふもの、|或《あるひ》は|奪《うば》ふ|者《もの》あらば、|斯《か》かる|人《ひと》と|交《まじは》ることなく、|共《とも》に|食《しょく》する|事《こと》だにすなとの|意《こころ》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|外《そと》の|者《もの》を|審《さば》くことは|我《われ》の|干《あづか》る|所《ところ》ならんや、|汝《なんぢ》らの|審《さば》くは、ただ|内《うち》の|者《もの》ならずや。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|外《そと》にある|者《もの》は|神《かみ》これを|審《さば》き|給《たま》ふ。かの|惡《あ》しき|者《もの》を|汝《なんぢ》らの|中《うち》より|退《しりぞ》けよ。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|互《たがひ》に|事《こと》あるとき、|之《これ》を|聖徒《せいと》の|前《まへ》に|訴《うった》へずして、|正《ただ》しからぬ|者《もの》の|前《まへ》に|訴《うった》ふることを|敢《あ》へてする|者《もの》あらんや。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|知《し》らぬか、|聖徒《せいと》は|世《よ》を|審《さば》くべき|者《もの》なるを。|世《よ》もし|汝《なんぢ》らに|審《さば》かれんには、|汝《なんぢ》ら|最《いと》|小《ちひさ》き|事《こと》を|審《さば》くに|足《た》らぬ|者《もの》ならんや。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|知《し》らぬか、|我《われ》らは|御使《みつかひ》を|審《さば》くべき|者《もの》なるを、ましてこの|世《よ》の|事《こと》をや。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|汝《なんぢ》ら|審《さば》くべき|此《こ》の|世《よ》の|事《こと》のあるとき、|教會《けうくわい》にて|輕《かろ》しむる|所《ところ》の|者《もの》を|審判《さばき》の|座《ざ》に|坐《すわ》らしむるか。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]わが|斯《か》く|言《い》ふは|汝《なんぢ》らを|辱《はづか》しめんとてなり。|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|兄弟《きゃうだい》の|間《うち》のことを|審《さば》き|得《う》る|智《かしこ》きもの|一人《ひとり》だになく、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》は|兄弟《きゃうだい》を、|而《しか》も|不《ふ》|信者《しんじゃ》の|前《まへ》に|訴《うった》ふるか。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|互《たがひ》に|相《あい》|訴《うった》ふるは|既《すで》に|當《まさ》しく|汝《なんぢ》らの|失態《しったい》なり。|何《なに》|故《ゆゑ》むしろ|不義《ふぎ》を|受《う》けぬか、|何《なに》|故《ゆゑ》むしろ|欺《あざむ》かれぬか。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|汝《なんぢ》ら|不義《ふぎ》をなし、|詐欺《あざむき》をなし、|兄弟《きゃうだい》にも|之《これ》を|爲《な》す。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|知《し》らぬか、|正《ただ》しからぬ|者《もの》の|神《かみ》の|國《くに》を|嗣《つ》ぐことなきを。|自《みづか》ら|欺《あざむ》くな、|淫行《いんかう》のもの、|偶像《ぐうざう》を|拜《をが》むもの、|姦淫《かんいん》をなすもの、|男娼《だんしゃう》となるもの、|男色《なんしょく》を|行《おこな》ふ|者《もの》、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|盜《ぬすみ》するもの、|貪欲《どんよく》のもの、|酒《さけ》に|醉《ゑ》ふもの、|罵《ののし》るもの、|奪《うば》ふ|者《もの》などは、みな|神《かみ》の|國《くに》を|嗣《つ》ぐことなきなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|曩《さき》には|斯《か》くのごとき|者《もの》ありしかど、|主《しゅ》イエス・キリストの|名《な》により、|我《われ》らの|神《かみ》の|御靈《みたま》によりて、|己《おのれ》を|洗《あら》ひかつ|潔《きよ》められ、かつ|義《ぎ》とせらるることを|得《え》たり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|一切《すべて》のもの|我《われ》に|可《よ》からざるなし、|然《さ》れど|一切《すべて》のもの|益《えき》あるにあらず。|一切《すべて》のもの|我《われ》に|可《よ》からざるなし、されど|我《われ》は|何《なに》|物《もの》にも|支配《しはい》せられず、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|食物《しょくもつ》は|腹《はら》のため、|腹《はら》は|食物《しょくもつ》のためなり。されど|神《かみ》は|之《これ》をも|彼《かれ》をも|亡《ほろぼ》し|給《たま》はん。|身《み》は|淫行《いんかう》をなさん|爲《ため》にあらず、|主《しゅ》の|爲《ため》なり、|主《しゅ》はまた|身《み》の|爲《ため》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|既《すで》に|主《しゅ》を|甦《よみが》へらせ|給《たま》へり、|又《また》その|能力《ちから》をもて|我等《われら》をも|甦《よみが》へらせ|給《たま》はん。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|身《み》はキリストの|肢體《したい》なるを|知《し》らぬか、|然《さ》らばキリストの|肢體《したい》をとりて|遊女《あそびめ》の|肢體《したい》となすべきか、|決《けっ》して|然《しか》すべからず。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|遊女《あそびめ》につく|者《もの》は|彼《かれ》と|一《ひと》つ|體《からだ》となることを|知《し》らぬか『|二人《ふたり》のもの|一體《いったい》となるべし』と|言《い》ひ|給《たま》へり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》につく|者《もの》は|之《これ》と|一《ひと》つ|靈《れい》となるなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|淫行《いんかう》を|避《さ》けよ。|人《ひと》のをかす|罪《つみ》はみな|身《み》の|外《ほか》にあり、されど|淫行《いんかう》をなす|者《もの》は|己《おの》が|身《み》を|犯《をか》すなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|身《み》は、その|内《うち》にある|神《かみ》より|受《う》けたる|聖《せい》|靈《れい》の|宮《みや》にして、|汝《なんぢ》らは|己《おのれ》の|者《もの》にあらざるを|知《し》らぬか。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|價《あたひ》をもて|買《か》はれたる|者《もの》なり、|然《さ》らばその|身《み》をもて|神《かみ》の|榮光《えいくわう》を|顯《あらは》せ。 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らが|我《われ》に|書《か》きおくりし|事《こと》に|就《つ》きては、|男《をとこ》の|女《をんな》に|觸《ふ》れぬを|善《よ》しとす。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|淫行《いんかう》を|免《まぬか》れんために、|男《をとこ》はおのおの|其《そ》の|妻《つま》をもち、|女《をんな》はおのおの|其《そ》の|夫《をっと》を|有《も》つべし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|夫《をっと》はその|分《ぶん》を|妻《つま》に|盡《つく》し、|妻《つま》もまた|夫《をっと》に|然《しか》すべし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|妻《つま》は|己《おの》が|身《み》を|支配《しはい》する|權《けん》をもたず、|之《これ》を|持《も》つ|者《もの》は|夫《それ》なり。|斯《か》くのごとく|夫《をっと》も|己《おの》が|身《み》を|支配《しはい》する|權《けん》を|有《も》たず、|之《これ》を|有《も》つ|者《もの》は|妻《つま》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|相《あひ》|共《とも》に|拒《こば》むな、ただ|祈《いのり》に|身《み》を|委《ゆだ》ぬるため|合意《がふい》にて|暫《しばら》く|相《あひ》|別《わか》れ、|後《のち》また|偕《とも》になるは|善《よ》し。これ|汝《なんぢ》らが|情《じゃう》の|禁《きん》じがたきに|乘《じょう》じてサタンの|誘《いざな》ふことなからん|爲《ため》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《わ》が|斯《か》くいふは|命《めい》ずるにあらず、|許《ゆる》すなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]わが|欲《ほっ》する|所《ところ》は、すべての|人《ひと》の|我《わ》が|如《ごと》くならん|事《こと》なり。|然《さ》れど|神《かみ》より|各自《おのおの》おのが|賜物《たまもの》を|受《う》く、|此《これ》は|此《こ》のごとく、|彼《かれ》は|彼《かれ》のごとし。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|婚姻《こんいん》せぬ|者《もの》および|寡婦《やもめ》に|言《い》ふ。もし|我《わ》が|如《ごと》くにして|居《を》らば、|彼《かれ》|等《ら》のために|善《よ》し。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]もし|自《みづか》ら|制《せい》すること|能《あた》はずば|婚姻《こんいん》すべし、|婚姻《こんいん》するは|胸《むね》の|燃《も》ゆるよりも|勝《まさ》ればなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]われ|婚姻《こんいん》したる|者《もの》に|命《めい》ず(|命《めい》ずる|者《もの》は|我《われ》にあらず、|主《しゅ》なり)|妻《つま》は|夫《をっと》と|別《わか》るべからず。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]もし|別《わか》るる|事《こと》あらば、|嫁《とつ》がずして|居《を》るか、|又《また》は|夫《をっと》と|和《やはら》げ。|夫《をっと》もまた|妻《つま》を|去《さ》るべからず。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]その|外《ほか》の|人《ひと》に|我《われ》いふ(|主《しゅ》の|言《い》ひ|給《たま》ふにあらず)もし|或《ある》|兄弟《きゃうだい》に|不《ふ》|信者《しんじゃ》なる|妻《つま》ありて|偕《とも》に|居《を》ることを|可《よ》しとせば、|之《これ》を|去《さ》るな。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また|女《をんな》に|不《ふ》|信者《しんじゃ》なる|夫《をっと》ありて|偕《とも》に|居《を》ることを|可《よ》しとせば、|夫《をっと》を|去《さ》るな。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]そは|不《ふ》|信者《しんじゃ》なる|夫《をっと》は|妻《つま》によりて|潔《きよ》くなり、|不《ふ》|信者《しんじゃ》なる|妻《つま》は|夫《をっと》によりて|潔《きよ》くなりたればなり。|然《さ》なくば|汝《なんぢ》らの|子供《こども》は|潔《きよ》からず、されど|今《いま》は|潔《きよ》き|者《もの》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|不《ふ》|信者《しんじゃ》みづから|離《はな》れ|去《さ》らば、その|離《はな》るるに|任《まか》せよ。|斯《か》くのごとき|事《こと》あらば、|兄弟《きゃうだい》または|姉妹《しまい》、もはや|繋《つな》がるる|所《ところ》なし。|神《かみ》の|汝《なんぢ》らを|召《め》し|給《たま》へるは|平和《へいわ》を|得《え》させん|爲《ため》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|妻《つま》よ、|汝《なんぢ》いかで|夫《をっと》を|救《すく》ひ|得《う》るや|否《いな》やを|知《し》らん。|夫《をっと》よ、|汝《なんぢ》いかで|妻《つま》を|救《すく》ひ|得《う》るや|否《いな》やを|知《し》らん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|唯《ただ》おのおの|主《しゅ》の|分《わか》ち|賜《たま》ふところ、|神《かみ》の|召《め》し|給《たま》ふところに|循《したが》ひて|歩《あゆ》むべし。|凡《すべ》ての|教會《けうくわい》に|我《わ》が|命《めい》ずるは|斯《か》くのごとし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|割禮《かつれい》ありて|召《め》されし|者《もの》あらんか、その|人《ひと》、|割禮《かつれい》を|廢《す》つべからず。|割禮《かつれい》なくして|召《め》されし|者《もの》あらんか、その|人《ひと》、|割禮《かつれい》を|受《う》くべからず。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|割禮《かつれい》を|受《う》くるも|受《う》けぬも|數《かぞ》ふるに|足《た》らず、ただ|貴《たふと》きは|神《かみ》の|誡命《いましめ》を|守《まも》ることなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|各人《おのおの》その|召《め》されし|時《とき》の|状《さま》に|止《とどま》るべし。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|奴隷《どれい》にて|召《め》されたるか、|之《これ》を|思《おも》ひ|煩《わづら》ふな(もし|釋《ゆる》さるることを|得《え》ばゆるされよ)[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|召《め》されて|主《しゅ》にある|奴隷《どれい》は、|主《しゅ》につける|自主《じしゅ》の|人《ひと》なり。|斯《か》くのごとく|自主《じしゅ》にして|召《め》されたる|者《もの》は、キリストの|奴隷《どれい》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|價《あたひ》をもて|買《か》はれたる|者《もの》なり。|人《ひと》の|奴隷《どれい》となるな。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、おのおの|召《め》されし|時《とき》の|状《さま》に|止《とどま》りて|神《かみ》と|偕《とも》に|居《を》るべし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|處女《をとめ》のことに|就《つ》きては|主《しゅ》の|命《めい》を|受《う》けず、|然《さ》れど|主《しゅ》の|憐憫《あはれみ》によりて|忠實《ちゅうじつ》の|者《もの》となりたれば、|我《わ》が|意見《いけん》を|告《つ》ぐべし。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]われ|思《おも》ふに、|目前《まのあたり》の|患難《なやみ》のためには、|人《ひと》その|在《あ》るが|隨《まま》にて|止《とどま》るぞ|善《よ》き。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|妻《つま》に|繋《つな》がるる|者《もの》なるか、|釋《と》くことを|求《もと》むな。|妻《つま》に|繋《つな》がれぬ|者《もの》なるか、|妻《つま》を|求《もと》むな。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]たとひ|妻《つま》を|娶《めと》るとも|罪《つみ》を|犯《をか》すにはあらず。|處女《をとめ》もし|嫁《とつ》ぐとも|罪《つみ》を|犯《をか》すにあらず。|然《さ》れどかかる|者《もの》はその|身《み》、|苦難《くるしみ》に|遭《あ》はん、|我《われ》なんぢらを|苦難《くるしみ》に|遭《あ》はすに|忍《しの》びず。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|之《これ》を|言《い》はん、|時《とき》は|縮《ちぢま》れり。されば|此《これ》よりのち|妻《つま》を|有《も》てる|者《もの》は|有《も》たぬが|如《ごと》く、[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|泣《な》く|者《もの》は|泣《な》かぬが|如《ごと》く、|喜《よろこ》ぶ|者《もの》は|喜《よろこ》ばぬが|如《ごと》く、|買《か》ふ|者《もの》は|有《も》たぬが|如《ごと》く、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》を|用《もち》ふる|者《もの》は|用《もち》ひ|盡《つく》さぬが|如《ごと》くすべし。|此《こ》の|世《よ》の|状態《ありさま》は|過《す》ぎ|往《ゆ》くべければなり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]わが|欲《ほっ》する|所《ところ》は|汝《なんぢ》らが|思《おも》ひ|煩《わづら》はざらん|事《こと》なり。|婚姻《こんいん》せぬ|者《もの》は|如何《いか》にして|主《しゅ》を|喜《よろこ》ばせんと|主《しゅ》のことを|慮《おもん》ぱかり、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|婚姻《こんいん》せし|者《もの》は|如何《いか》にして|妻《つま》を|喜《よろこ》ばせんと、|世《よ》のことを|慮《おもん》ぱかりて|心《こころ》を|分《わか》つなり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|婚姻《こんいん》せぬ|女《をんな》と|處女《をとめ》とは|身《み》も|靈《れい》も|潔《きよ》くならんために|主《しゅ》のことを|慮《おもん》ぱかり、|婚姻《こんいん》せし|者《もの》は|如何《いか》にしてその|夫《をっと》を|喜《よろこ》ばせんと|世《よ》のことを|慮《おもん》ぱかるなり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]わが|之《これ》を|言《い》ふは|汝《なんぢ》らを|益《えき》せん|爲《ため》にして、|汝《なんぢ》らに|絆《ほだし》を|置《お》かんとするにあらず、|寧《むし》ろ|汝《なんぢ》らを|宣《よろ》しきに|適《かな》はせ、|餘念《よねん》なく|只管《ひたすら》、|主《しゅ》に|事《つか》へしめんとてなり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|處女《をとめ》たる|己《おの》が|娘《むすめ》に|對《たい》すること|宣《よろ》しきに|適《かな》はずと|思《おも》ひ、|年《とし》の|頃《ころ》もまた|過《す》ぎんとし、かつ|然《しか》せざるを|得《え》ずば、|心《こころ》のままに|行《おこな》ふべし。これ|罪《つみ》を|犯《をか》すにあらず、|婚姻《こんいん》せさすべし。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]されど|人《ひと》もし|其《そ》の|心《こころ》を|堅《かた》くし、|止《や》むを|得《え》ざる|事《こと》もなく、|又《また》おのが|心《こころ》の|隨《まま》になすを|得《え》て、その|娘《むすめ》を|留《とど》め|置《お》かんと|心《こころ》のうちに|定《さだ》めたらば、|然《しか》するは|善《よ》きなり。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]されば|其《そ》の|娘《むすめ》を|嫁《とつ》がする|者《もの》の|行爲《おこなひ》は|善《よ》し。されど|之《これ》を|嫁《とつ》がせぬ|者《もの》の|行爲《おこなひ》は|更《さら》に|善《よ》し。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|妻《つま》は|夫《をっと》の|生《い》ける|間《うち》は|繋《つな》がるるなり。|然《さ》れど|夫《をっと》もし|死《し》なば、|欲《ほっ》するままに|嫁《とつ》ぐ|自由《じいう》を|得《う》べし、また|主《しゅ》にある|者《もの》にのみ|適《ゆ》くべし。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|我《わ》が|意見《いけん》にては、その|儘《まま》に|止《とどま》らば|殊《こと》に|幸福《さいはひ》なり。|我《われ》もまた|神《かみ》の|御靈《みたま》に|感《かん》じたりと|思《おも》ふ。 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|偶像《ぐうざう》の|供物《そなへもの》に|就《つ》きては|我等《われら》みな|知識《ちしき》あることを|知《し》る。|知識《ちしき》は|人《ひと》を|誇《ほこ》らしめ、|愛《あい》は|徳《とく》を|建《た》つ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]もし|人《ひと》みづから|知《し》れりと|思《おも》はば、|知《し》るべき|程《ほど》の|事《こと》をも|知《し》らぬなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されど|人《ひと》もし|神《かみ》を|愛《あい》せば、その|人《ひと》、|神《かみ》に|知《し》られたるなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|偶像《ぐうざう》の|供物《そなへもの》を|食《くら》ふことに|就《つ》きては、|我《われ》ら|偶像《ぐうざう》の|世《よ》になき|者《もの》なるを|知《し》り、また|唯一《ゆゐいつ》の|神《かみ》の|外《ほか》には|神《かみ》なきを|知《し》る。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》と|稱《とな》ふるもの、|或《あるひ》は|天《てん》に|或《あるひ》は|地《ち》にありて、|多《おほ》くの|神《かみ》、おほくの|主《しゅ》あるが|如《ごと》くなれど、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らには|父《ちち》なる|唯一《ゆゐいつ》の|神《かみ》あるのみ、|萬物《ばんもつ》これより|出《い》で、|我《われ》らも|亦《また》これに|歸《き》す。また|唯一《ゆゐいつ》の|主《しゅ》イエス・キリストあるのみ、|萬物《ばんもつ》これに|由《よ》り、|我《われ》らも|亦《また》これに|由《よ》れり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されど|人《ひと》みな|此《こ》の|知識《ちしき》あるにあらず、|或《ある》|人《ひと》は|今《いま》もなほ|偶像《ぐうざう》に|慣《な》れ、|偶像《ぐうざう》の|献物《ささげもの》として|食《しょく》する|故《ゆゑ》に、その|良心《りゃうしん》よわくして|汚《けが》さるるなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らを|神《かみ》の|前《まへ》に|立《た》たしむるものは|食物《しょくもつ》にあらず、されば|食《しょく》するも|益《えき》なく、|食《しょく》せざるも|損《そん》なし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]されど|心《こころ》して|汝《なんぢ》らの|有《も》てる|此《こ》の|自由《じいう》を|弱《よわ》き|者《もの》の|躓物《つまづき》とすな。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|知識《ちしき》ある|汝《なんぢ》が|偶像《ぐうざう》の|宮《みや》にて|食事《しょくじ》するを|見《み》んに、その|人《ひと》|弱《よわ》きときは|良心《りゃうしん》そそのかされて|偶像《ぐうざう》の|献物《ささげもの》を|食《しょく》せざらんや。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]さらばキリストの|代《かわ》りて|死《し》に|給《たま》ひし|弱《よわ》き|兄弟《きゃうだい》は、|汝《なんぢ》の|知識《ちしき》によりて|亡《ほろ》ぶべし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|汝《なんぢ》ら|兄弟《きゃうだい》に|對《たい》して|罪《つみ》を|犯《をか》し、その|弱《よわ》き|良心《りゃうしん》を|傷《いた》めしむるは、キリストに|對《たい》して|罪《つみ》を|犯《をか》すなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、もし|食物《しょくもつ》わが|兄弟《きゃうだい》を|躓《つまづ》かせんには、|兄弟《きゃうだい》を|躓《つまづ》かせぬ|爲《ため》に、|我《われ》は|何時《いつ》までも|肉《にく》を|食《くら》はじ。 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|自主《じしゅ》の|者《もの》ならずや、|使徒《しと》にあらずや、|我《われ》らの|主《しゅ》イエスを|見《み》しにあらずや、|汝《なんぢ》らは|主《しゅ》に|在《あ》りて|我《わ》が|業《わざ》ならずや。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われ|他《ほか》の|人《ひと》には|使徒《しと》ならずとも|汝《なんぢ》らには|使徒《しと》なり。|汝《なんぢ》らは|主《しゅ》にありて|我《わ》が|使徒《しと》たる|職《つとめ》の|印《いん》なればなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われを|審《さば》く|者《もの》に|對《たい》する|我《わ》が|辯明《べんめい》は|斯《か》くのごとし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|飮食《いんしょく》する|權《けん》なきか。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|他《ほか》の|使徒《しと》たち|主《しゅ》の|兄弟《きゃうだい》たち|及《およ》びケパのごとく、|姉妹《しまい》たる|妻《つま》を|携《たづさ》ふる|權《けん》なきか。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ただ|我《われ》とバルナバとのみ|工《わざ》を|止《や》むる|權《けん》なきか。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》か|己《おのれ》の|財《たから》にて|兵卒《へいそつ》を|務《つと》むる|者《もの》あらんや。|誰《たれ》か|葡萄畑《ぶだうばたけ》を作りてその|果《み》を|食《くら》はぬ|者《もの》あらんや。|誰《たれ》か|群《むれ》を|牧《か》ひてその|乳《ちち》を|飮《の》まぬ|者《もの》あらんや。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ただ|人《ひと》の|思《おもひ》にのみ|由《よ》りて|此《これ》|等《ら》のことを|言《い》はんや、|律法《おきて》も|亦《また》かく|言《い》ふにあらずや。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]モーセの|律法《おきて》に『|穀物《こくもつ》を|碾《こな》す|牛《うし》には|口籠《くつご》を|繋《か》くべからず』と|録《しる》したり。|神《かみ》は|牛《うし》のために|慮《おもん》ぱかり|給《たま》へるか、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|專《もっぱ》ら|我等《われら》のために|之《これ》を|言《い》ひ|給《たま》ひしか、|然《しか》り、|我《われ》らのために|録《しる》されたり。それ|耕《たがや》す|者《もの》は|望《のぞみ》をもて|耕《たがや》し、|穀物《こくもつ》をこなす|者《もの》は|之《これ》に|與《あづか》る|望《のぞみ》をもて|碾《こな》すべきなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]もし|我《われ》ら|靈《れい》の|物《もの》を|汝《なんぢ》らに|蒔《ま》きしならば、|汝《なんぢ》らの|肉《にく》の|物《もの》を|刈《か》り|取《と》るは|過分《くわぶん》ならんや。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]もし|他《ほか》の|人《ひと》なんぢらに|對《たい》してこの|權《けん》あらんには、まして|我《われ》らをや。|然《さ》れど|我等《われら》はこの|權《けん》を|用《もち》ひざりき。|唯《ただ》キリストの|福音《ふくいん》に|障碍《さまたげ》なきやうに|一切《すべて》のことを|忍《しの》ぶなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|知《し》らぬか、|聖《せい》なる|事《こと》を|務《つと》むる|者《もの》は|宮《みや》のものを|食《しょく》し、|祭壇《さいだん》に|事《つか》ふる|者《もの》は|祭壇《さいだん》のものに|與《あづか》るを。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|主《しゅ》もまた|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》ふる|者《もの》の|福音《ふくいん》によりて|生活《すぎはひ》すべきことを|定《さだ》め|給《たま》へり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》は|此《これ》|等《ら》のことを|一《ひと》つだに|用《もち》ひし|事《こと》なし、また|自《みづか》ら|斯《か》くせられんために|之《これ》を|書《か》き|贈《おく》るにあらず、|斯《か》くせられんよりは|寧《むし》ろ|死《し》ぬるを|善《よ》しとすればなり。|誰《たれ》もわが|誇《ほこり》を|空《むな》しくせざるべし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われ|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》ふとも|誇《ほこ》るべき|所《ところ》なし、|已《や》むを|得《え》ざるなり。もし|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へずば、|我《われ》は|禍害《わざはひ》なるかな。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しわれ|心《こころ》より|之《これ》をなさば|報《むくい》を|得《え》ん、たとひ|心《こころ》ならずとも|我《われ》はその|務《つとめ》を|委《ゆだ》ねられたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》らば|我《わ》が|報《むくい》は|何《なに》ぞ、|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》ふるに、|人《ひと》をして|費《つひえ》なく|福音《ふくいん》を|得《え》しめ、|而《しか》も|福音《ふくいん》によりて|我《わ》が|有《も》てる|權《けん》を|用《もち》ひ|盡《つく》さぬこと|是《これ》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]われ|凡《すべ》ての|人《ひと》に|對《たい》して|自主《じしゅ》の|者《もの》なれど、|更《さら》に|多《おほ》くの|人《ひと》を|得《え》んために、|自《みづか》ら|凡《すべ》ての|人《ひと》の|奴隷《どれい》となれり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ユダヤ|人《びと》にはユダヤ|人《びと》の|如《ごと》くなれり、これユダヤ|人《びと》を|得《え》んが|爲《ため》なり。|律法《おきて》の|下《した》にある|者《もの》には――|律法《おきて》の|下《した》に|我《われ》はあらねど――|律法《おきて》の|下《した》にある|者《もの》の|如《ごと》くなれり。これ|律法《おきて》の|下《した》にある|者《もの》を|得《え》んが|爲《ため》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》なき|者《もの》には――われ|神《かみ》に|向《むか》ひて|律法《おきて》なきにあらず、|反《かへ》つてキリストの|律法《おきて》の|下《した》にあれど――|律法《おきて》なき|者《もの》の|如《ごと》くなれり、これ|律法《おきて》なき|者《もの》を|得《え》んがためなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|弱《よわ》き|者《もの》には|弱《よわ》き|者《もの》となれり、これ|弱《よわ》き|者《もの》を|得《え》んためなり。|我《われ》すべての|人《ひと》には|凡《すべ》ての|人《ひと》の|状《さま》に|從《したが》へり、これ|如何《いか》にもして|幾許《いくばく》かの|人《ひと》を|救《すく》はんためなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]われ|福音《ふくいん》のために|凡《すべ》ての|事《こと》をなす、これ|我《われ》も|共《とも》に|福音《ふくいん》に|與《あづか》らん|爲《ため》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|知《し》らぬか、|馳場《はせば》を|走《はし》る|者《もの》はみな|走《はし》れども、|褒美《はうび》を|得《う》る|者《もの》の、ただ|一人《ひとり》なるを。|汝《なんぢ》らも|得《え》んために|斯《か》く|走《はし》れ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]すべて|勝《かち》を|爭《あらそ》ふ|者《もの》は|何事《なにごと》をも|節《せっ》し|愼《つつし》む、|彼《かれ》らは|朽《く》つる|冠冕《かんむり》を|得《え》んが|爲《ため》なれど、|我《われ》らは|朽《く》ちぬ|冠冕《かんむり》を|得《え》んがために|之《これ》をなすなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|我《わ》が|走《はし》るは|目標《めあて》なきが|如《ごと》きにあらず、|我《わ》が|拳鬪《けんとう》するは|空《くう》を|撃《う》つが|如《ごと》きにあらず。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]わが|體《からだ》を|打《う》ち|擲《たた》きて|之《これ》を|服從《ふくじゅう》せしむ。|恐《おそ》らくは|他人《たにん》に|宣傳《のべつた》へて|自《みづか》ら|棄《す》てらるる|事《こと》あらん。 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》なんぢらが|之《これ》を|知《し》らぬを|好《この》まず。|即《すなは》ち|我《われ》らの|先祖《せんぞ》はみな|雲《くも》の|下《した》にあり、みな|海《うみ》をとほり、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]みな|雲《くも》と|海《うみ》とにてバプテスマを|受《う》けてモーセにつけり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|皆《みな》おなじく|靈《れい》なる|食物《くひもの》を|食《しょく》し、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]みな|同《おな》じく|靈《れい》なる|飮物《のみもの》を|飮《の》めり。これ|彼《かれ》らに|隨《したが》ひし|靈《れい》なる|岩《いは》より|飮《の》みたるなり、その|岩《いは》は|即《すなは》ちキリストなりき。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|彼《かれ》らのうち|多《おほ》くは|神《かみ》の|御意《みこころ》に|適《かな》はず、|荒野《あらの》にて|亡《ほろぼ》されたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことは|我《われ》らの|鑑《かがみ》にして、|彼《かれ》らが|貪《むさぼ》りし|如《ごと》く|惡《あく》を|貪《むさぼ》らざらん|爲《ため》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|中《うち》の|或《ある》|者《もの》に|效《なら》ひて|偶像《ぐうざう》を|拜《はい》する|者《もの》となるな、|即《すなは》ち『|民《たみ》は|坐《ざ》して|飮食《のみくひ》し|立《た》ちて|戯《たはむ》る』と|録《しる》されたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》かれらの|中《うち》の|或《ある》|者《もの》に|效《なら》ひて|我《われ》ら|姦淫《かんいん》すべからず、|姦淫《かんいん》を|行《おこな》ひしもの|一日《いちにち》に|二萬《にまん》|三《さん》|千《せん》|人《にん》|死《し》にたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》|等《ら》のうちの|或《ある》|者《もの》に|效《なら》ひて|我《われ》ら|主《しゅ》を|試《こころ》むべからず、|主《しゅ》を|試《こころ》みしもの|蛇《へび》に|亡《ほろぼ》されたり、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》かれらの|中《うち》の|或《ある》|者《もの》に|效《なら》ひて|呟《つぶや》くな、|呟《つぶや》きしもの|亡《ほろぼ》す|者《もの》に|亡《ほろぼ》されたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らが|遭《あ》へる|此《これ》|等《ら》のことは|鑑《かがみ》となれり、かつ|末《すゑ》の|世《よ》に|遭《あ》へる|我《われ》らの|訓戒《くんかい》のために|録《しる》されたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]さらば|自《みづか》ら|立《た》てりと|思《おも》ふ|者《もの》は|倒《たふ》れぬやうに|心《こころ》せよ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らが|遭《あ》ひし|試煉《こころみ》は|人《ひと》の|常《つね》ならぬはなし。|神《かみ》は|眞實《まこと》なれば、|汝《なんぢ》らを|耐《た》へ|忍《しの》ぶこと|能《あた》はぬほどの|試煉《こころみ》に|遭《あ》はせ|給《たま》はず。|汝《なんぢ》らが|試煉《こころみ》を|耐《た》へ|忍《しの》ぶことを|得《え》んために|之《これ》と|共《とも》に|遁《のが》るべき|道《みち》を|備《そな》へ|給《たま》はん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]さらば|我《わ》が|愛《あい》する|者《もの》よ、|偶像《ぐうざう》を|拜《はい》することを|避《さ》けよ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]され|慧《さと》き|者《もの》に|言《い》ふごとく|言《い》はん、|我《わ》が|言《い》ふところを|判斷《はんだん》せよ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らが|祝《いは》ふところの|祝《いはひ》の|酒杯《さかづき》は、これキリストの|血《ち》に|與《あづか》るにあらずや。|我《われ》らが|擘《さ》く|所《ところ》のパンは、これキリストの|體《からだ》に|與《あづか》るにあらずや。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]パンは|一《ひと》つなれば、|多《おほ》くの|我《われ》らも|一體《いったい》なり、|皆《みな》ともに|一《ひと》つのパンに|與《あづか》るに|因《よ》る。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|肉《にく》によるイスラエルを|視《み》よ、|供物《そなへもの》を|食《くら》ふ|者《もの》は|祭壇《さいだん》に|與《あづか》るにあらずや。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]さらば|我《わ》が|言《い》ふところは|何《なに》ぞ、|偶像《ぐうざう》の|供物《そなへもの》はあるものと|言《い》ふか、また、|偶像《ぐうざう》はあるものと|言《い》ふか。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|否《いな》、|我《われ》は|言《い》ふ、|異邦人《いはうじん》の|供《そな》ふる|物《もの》は|神《かみ》に|供《そな》ふるにあらず、|惡鬼《あくき》に|供《そな》ふるなりと。|我《われ》なんぢらが|惡鬼《あくき》と|交《まじは》るを|欲《ほっ》せず。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|主《しゅ》の|酒杯《さかづき》と|惡鬼《あくき》の|酒杯《さかづき》とを|兼《か》ね|飮《の》むこと|能《あた》はず。|主《しゅ》の|食卓《しょくたく》と|惡鬼《あくき》の|食卓《しょくたく》とに|兼《か》ね|與《あづか》ること|能《あた》はず。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]われら|主《しゅ》の|妬《ねたみ》を|惹起《ひきおこ》さんとするか、|我《われ》らは|主《しゅ》よりも|強《つよ》き|者《もの》ならんや。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|一切《すべて》のもの|可《よ》からざるなし、|然《さ》れど|一切《すべて》のもの|益《えき》あるにあらず、|一切《すべて》のもの|可《よ》からざるなし、されど、|一切《すべて》のもの|徳《とく》を|建《た》つるにあらず。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|各人《おのおの》おのが|益《えき》を|求《もと》むることなく、|人《ひと》の|益《えき》を|求《もと》めよ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]すべて|市場《いちば》にて|賣《う》る|物《もの》は、|良心《りゃうしん》のために|何《なに》をも|問《と》はずして|食《しょく》せよ。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]そは|地《ち》と|之《これ》に|滿《み》つる|物《もの》とは|主《しゅ》の|物《もの》なればなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]もし|不《ふ》|信者《しんじゃ》に|招《まね》かれて|往《ゆ》かんとせば、|凡《すべ》て|汝《なんぢ》らの|前《まへ》に|置《お》く|物《もの》を、|良心《りゃうしん》のために|何《なに》をも|問《と》はずして|食《しょく》せよ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|此《これ》は|犧牲《いけにへ》にせし|肉《にく》なりと|言《い》はば、|告《つ》げし|者《もの》のため、また|良心《りゃうしん》のために|食《しょく》すな。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|良心《りゃうしん》とは|汝《なんぢ》の|良心《りゃうしん》にあらず、かの|人《ひと》の|良心《りゃうしん》を|言《い》ふなり。|何《なに》ぞわが|自由《じいう》を|他《ほか》の|人《ひと》の|良心《りゃうしん》によりて|審《さば》かるる|事《こと》をせん。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]もし|感謝《かんしゃ》して|食《しょく》する|事《こと》をせば、|何《なに》ぞわが|感謝《かんしゃ》する|所《ところ》のものに|就《つ》きて|譏《そし》らるる|事《こと》をせん。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]さらば|食《くら》ふにも|飮《の》むにも|何事《なにごと》をなすにも、|凡《すべ》て|神《かみ》の|榮光《えいくわう》を|顯《あらは》すやうにせよ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》にもギリシヤ|人《びと》にも、また、|神《かみ》の|教會《けうくわい》にも|躓物《つまづき》となるな。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》も|凡《すべ》ての|事《こと》を|凡《すべ》ての|人《ひと》の|心《こころ》に|適《かな》ふやうに|力《つと》め、|人々《ひとびと》の|救《すく》はれんために、|己《おのれ》の|益《えき》を|求《もと》めずして|多《おほ》くの|人《ひと》の|益《えき》を|求《もと》むるなり。 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》がキリストに|效《なら》ふ|者《もの》なる|如《ごと》く、なんぢら|我《われ》に|效《なら》ふ|者《もの》となれ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|凡《すべ》ての|事《こと》につきて|我《われ》を|憶《おぼ》え、|且《かつ》わが|傳《つた》へし|所《ところ》をそのまま|守《まも》るに|因《よ》りて、|我《われ》なんぢらを|譽《ほ》む。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》なんぢらが|之《これ》を|知《し》らんことを|願《ねが》ふ。|凡《すべ》ての|男《をとこ》の|頭《かしら》はキリストなり、|女《をんな》の|頭《かしら》は|男《をとこ》なり、キリストの|頭《かしら》は|神《かみ》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]すべて|男《をとこ》は|祈《いのり》をなし、|預言《よげん》をなすとき、|頭《かしら》に|物《もの》を|被《かぶ》るは|其《そ》の|頭《かしら》を|辱《はづか》しむるなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]すべて|女《をんな》は|祈《いのり》をなし、|預言《よげん》をなすとき、|頭《かしら》に|物《もの》を|被《かぶ》らぬは|其《そ》の|頭《かしら》を|辱《はづか》しむるなり。これ|薙髮《ていはつ》と|異《こと》なる|事《こと》なし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》もし|物《もの》を|被《かぶ》らずば、|髮《かみ》をも|剪《き》るべし。されど|髮《かみ》を|剪《き》り|或《あるひ》は|薙《そ》ることを|女《をんな》の|恥《はぢ》とせば、|物《もの》を|被《かぶ》るべし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|男《をとこ》は|神《かみ》の|像《かたち》、|神《かみ》の|榮光《えいくわう》なれば、|頭《かしら》に|物《もの》を|被《かぶ》るべきにあらず、されど|女《をんな》は|男《をとこ》の|光榮《くわうえい》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|男《をとこ》は|女《をんな》より|出《い》でずして、|女《をんな》は|男《をとこ》より|出《い》で、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|男《をとこ》は|女《をんな》のために|造《つく》られずして、|女《をんな》は|男《をとこ》のために|造《つく》られたればなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|女《をんな》は|御使《みつかひ》たちの|故《ゆゑ》によりて|頭《かしら》に|權《けん》の|徽《しるし》を|戴《いただ》くべきなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されど|主《しゅ》に|在《あ》りては、|女《をんな》は|男《をとこ》に|由《よ》らざるなく、|男《をとこ》は|女《をんな》に|由《よ》らざるなし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》の|男《をとこ》より|出《い》でしごとく、|男《をとこ》は|女《をんな》によりて|出《い》づ。|而《しか》して|萬物《ばんもつ》はみな|神《かみ》より|出《い》づるなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》みづから|判斷《はんだん》せよ、|女《をんな》の|物《もの》を|被《かぶ》らずして|神《かみ》に|祈《いの》るは|宣《よろ》しき|事《こと》なるか。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|自然《しぜん》に|知《し》るにあらずや、|男《をとこ》もし|長《なが》き|髮《かみ》の|毛《け》あらば|恥《は》づべきことにして、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》もし|長《なが》き|髮《かみ》の|毛《け》あらばその|光榮《くわうえい》なるを。それ|女《をんな》の|髮《かみ》の|毛《け》は|被物《かぶりもの》として|賜《たま》はりたるなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|假令《たとひ》これを|坑辯《あらが》ふ|者《もの》ありとも、|斯《か》くのごとき|例《れい》は|我《われ》らにも|神《かみ》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》にもある|事《こと》なし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》これらの|事《こと》を|命《めい》じて|汝《なんぢ》らを|譽《ほ》めず。|汝《なんぢ》らの|集《あつま》ること|益《えき》を|受《う》けずして|損《そん》を|招《まね》けばなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|先《ま》づ|汝《なんぢ》らが|教會《けうくわい》に|集《あつま》るとき|分爭《あらそひ》ありと|聞《き》く、われ|略《ほぼ》これを|信《しん》ず。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]それは|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|是《これ》とせらるべき|者《もの》の|現《あらは》れんために|黨派《たうは》も|必《かなら》ず|起《おこ》るべければなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|一處《ひとつところ》に|集《あつま》るとき、|主《しゅ》の|晩餐《ばんさん》を|食《しょく》すること|能《あた》はず。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|食《しょく》する|時《とき》おのおの|人《ひと》に|先《さき》だちて|己《おのれ》の|晩餐《ばんさん》を|食《しょく》するにより、|饑《う》うる|者《もの》あり、|醉《ゑ》ひ|飽《あ》ける|者《もの》あればなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|飮食《のみくひ》すべき|家《いへ》なきか、|神《かみ》の|教會《けうくわい》を|輕《かろ》んじ、また|乏《とも》しき|者《もの》を|辱《はづか》しめんとするか、|我《われ》なにを|言《い》ふべきか、|汝《なんぢ》らを|譽《ほ》むべきか、|之《これ》に|就《つ》きては|譽《ほ》めぬなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]わが|汝《なんぢ》らに|傳《つた》へしことは|主《しゅ》より|授《さづ》けられたるなり。|即《すなは》ち|主《しゅ》イエス|付《わた》され|給《たま》ふ|夜《よ》、パンを|取《と》り、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|祝《しく》して|之《これ》を|擘《さ》き、|而《しか》して|言《い》ひ|給《たま》ふ『これは|汝《なんぢ》|等《ら》のための|我《わ》が|體《からだ》なり。|我《わ》が|記念《きねん》として|之《これ》を|行《おこな》へ』[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|夕餐《ゆふげ》ののち|酒杯《さかづき》をも|前《さき》の|如《ごと》くして|言《い》ひたまふ『この|酒杯《さかづき》は|我《わ》が|血《ち》によれる|新《あたら》しき|契約《けいやく》なり。|飮《の》むごとに|我《わ》が|記念《きねん》として|之《これ》をおこなへ』[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》このパンを|食《しょく》し、この|酒杯《さかづき》を|飮《の》むごとに、|主《しゅ》の|死《し》を|示《しめ》して|其《そ》の|來《きた》りたまふ|時《とき》にまで|及《およ》ぶなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]されば|宣《よろ》しきに|適《かな》はずして|主《しゅ》のパンを|食《しょく》し、|主《しゅ》の|酒杯《さかづき》を|飮《の》む|者《もの》は、|主《しゅ》の|體《からだ》と|血《ち》とを|犯《をか》すなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》みづから|省《かへり》みて|後《のち》、そのパンを|食《しょく》し、その|酒杯《さかづき》を|飮《の》むべし。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|御體《みからだ》を|辨《わきま》へずして|飮食《のみくひ》する|者《もの》は、その|飮食《のみくひ》によりて|自《みづか》ら|審判《さばき》を|招《まね》くべければなり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|弱《よわ》きもの|病《や》めるもの|多《おほ》くあり、また|眠《ねむり》に|就《つ》きたる|者《もの》も|少《すくな》からず。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》もし|自《みづか》ら|己《おのれ》を|辨《わきま》へなば|審《さば》かるる|事《こと》なからん。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]されど|審《さば》かるる|事《こと》のあるは、|我《われ》らを|世《よ》の|人《ひと》とともに|罪《つみ》に|定《さだ》めじとて、|主《しゅ》の|懲《こら》しめ|給《たま》ふなり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、わが|兄弟《きゃうだい》よ、|食《しょく》せんとて|集《あつま》るときは|互《たがひ》に|待《ま》ち|合《あは》せよ。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]もし|飢《う》うる|者《もの》あらば、|汝《なんぢ》らの|集會《あつまり》の|審判《さばき》を|招《まね》くこと|無《な》からん|爲《ため》に、|己《おの》が|家《いへ》にて|食《しょく》すべし。その|他《ほか》のことは|我《われ》いたらん|時《とき》これを|定《さだ》めん。 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|靈《れい》の|賜物《たまもの》に|就《つ》きては、|我《われ》なんぢらが|知《し》らぬを|好《この》まず。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|異邦人《いはうじん》なりしとき、|誘《さそ》はるるままに|物《もの》を|言《い》はぬ|偶像《ぐうざう》のもとに|導《みちび》き|往《ゆ》かれしは、|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|我《われ》なんぢらに|示《しめ》さん、|神《かみ》の|御靈《みたま》に|感《かん》じて|語《かた》る|者《もの》は、|誰《たれ》も『イエスは|詛《のろ》はるべき|者《もの》なり』と|言《い》はず、また|聖《せい》|靈《れい》に|感《かん》ぜざれば、|誰《たれ》も『イエスは|主《しゅ》なり』と|言《い》ふ|能《あた》はず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|賜物《たまもの》は|殊《こと》なれども、|御靈《みたま》は|同《おな》じ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|務《つとめ》は|殊《こと》なれども、|主《しゅ》は|同《おな》じ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|活動《はたらき》は|殊《こと》なれども、|凡《すべ》ての|人《ひと》のうちに|凡《すべ》ての|活動《はたらき》を|爲《な》したまふ|神《かみ》は|同《おな》じ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|御靈《みたま》の|顯現《あらはれ》をおのおのに|賜《たま》ひたるは、|益《えき》を|得《え》させんためなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》は|御靈《みたま》によりて|智慧《ちゑ》の|言《ことば》を|賜《たま》はり、|或《ある》|人《ひと》は|同《おな》じ|御靈《みたま》によりて|知識《ちしき》の|言《ことば》、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》は|同《おな》じ|御靈《みたま》によりて|信仰《しんかう》、ある|人《ひと》は|一《ひと》つ|御靈《みたま》によりて|病《やまひ》を|醫《いや》す|賜物《たまもの》、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》は|異能《ちから》ある|業《わざ》、ある|人《ひと》は|預言《よげん》、ある|人《ひと》は|靈《れい》を|辨《わきま》へ、|或《ある》|人《ひと》は|異言《いげん》を|言《い》ひ、|或《ある》|人《ひと》は|異言《いげん》を|釋《と》く|能力《ちから》を|賜《たま》はる。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|此《これ》|等《ら》のことは|同《おな》じ|一《ひと》つの|御靈《みたま》の|活動《はたらき》にして、|御靈《みたま》その|心《こころ》に|隨《したが》ひて|各人《おのおの》に|分《わ》け|與《あた》へたまふなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|體《からだ》は|一《ひと》つにして|肢《えだ》は|多《おほ》し、|體《からだ》の|肢《えだ》は|多《おほ》くとも|一《ひと》つの|體《からだ》なるが|如《ごと》く、キリストも|亦《また》|然《しか》り。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らはユダヤ|人《びと》・ギリシヤ|人《びと》・|奴隷《どれい》・|自主《じしゅ》の|別《わかち》なく、|一體《いったい》とならん|爲《ため》に、みな|一《ひと》つ|御靈《みたま》にてバプテスマを|受《う》けたり。|而《しか》してみな|一《ひと》つ|御靈《みたま》を|飮《の》めり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|體《からだ》は|一《ひとつ》|肢《えだ》より|成《な》らず、|多《おほ》くの|肢《えだ》より|成《な》るなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|足《あし》もし『|我《われ》は|手《て》にあらぬ|故《ゆゑ》に|體《からだ》に|屬《ぞく》せず』と|云《い》ふとも、|之《これ》によりて|體《からだ》に|屬《ぞく》せぬにあらず。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》もし『それは|眼《め》にあらぬ|故《ゆゑ》に|體《からだ》に|屬《ぞく》せず』と|云《い》ふとも、|之《これ》によりて|體《からだ》に|屬《ぞく》せぬにあらず。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]もし|全身《ぜんしん》、|眼《め》ならば、|聽《き》くところ|何《いづ》れか。もし|全身《ぜんしん》、|聽《き》く|所《ところ》ならば、|臭《か》ぐところ|何《いづ》れか。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]げに|神《かみ》は|御意《みこころ》のままに|肢《えだ》をおのおの|體《からだ》に|置《お》き|給《たま》へり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しみな|一《ひとつ》|肢《えだ》ならば、|體《からだ》は|何《いづ》れか。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]げに|肢《えだ》は|多《おほ》くあれど、|體《からだ》は|一《ひと》つなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|眼《め》は|手《て》に|對《むか》ひて『われ|汝《なんぢ》を|要《えう》せず』と|言《い》ひ、|頭《かしら》は|足《あし》に|對《むか》ひて『われ|汝《なんぢ》を|要《えう》せず』と|言《い》ふこと|能《あた》はず。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|否《いな》、からだの|中《うち》にて|最《もっと》も|弱《よわき》しと|見《み》ゆる|肢《えだ》は、|反《かへ》つて|必要《ひつえう》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|體《からだ》のうちにて|尊《たふと》からずと|思《おも》はるる|所《ところ》に、|物《もの》を|纏《まと》ひて|殊《こと》に|之《これ》を|尊《たふと》ぶ。|斯《か》く|我《われ》らの|美《うるわ》しからぬ|所《ところ》は、|一層《ひときは》すぐれて|美《うるわ》しくすれども、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|美《うるわ》しき|所《ところ》には、|物《もの》を|纏《まと》ふの|要《えう》なし。|神《かみ》は|劣《おと》れる|所《ところ》に|殊《こと》に|尊榮《たふとき》を|加《くは》へて、|人《ひと》の|體《からだ》を|調和《てうわ》したまへり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]これ|體《からだ》のうちに|分爭《あらそひ》なく、|肢々《えだえだ》|一致《いっち》して|互《たがひ》に|相《あひ》|顧《かへり》みんためなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]もし|一《ひと》つの|肢《えだ》|苦《くる》しまば、もろもろの|肢《えだ》ともに|苦《くる》しみ、|一《ひと》つの|肢《えだ》|尊《たふと》ばれなば、もろもろの|肢《えだ》ともに|喜《よろこ》ぶなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|乃《すなは》ち|汝《なんぢ》らはキリストの|體《からだ》にして|各自《おのおの》その|肢《えだ》なり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|第一《だいいち》に|使徒《しと》、|第二《だいに》に|預言者《よげんしゃ》、|第三《だいさん》に|教師《けうし》、その|次《つぎ》に|異能《ちから》ある|業《わざ》、|次《つぎ》に|病《やまひ》を|醫《いや》す|賜物《たまもの》、|補助《たすけ》をなす|者《もの》、|治《をさ》むる|者《もの》、|異言《いげん》などを|教會《けうくわい》に|置《お》きたまへり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》みな|使徒《しと》ならんや、みな|預言者《よげんしゃ》ならんや、みな|教師《けうし》ならんや、みな|異能《ちから》ある|業《わざ》を|行《おこな》ふ|者《もの》ならんや。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]みな|病《やまひ》を|醫《いや》す|賜物《たまもの》を|有《も》てる|者《もの》ならんや、みな|異言《いげん》を|語《かた》る|者《もの》ならんや、みな|異言《いげん》を|釋《と》く|者《もの》ならんや。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|優《すぐ》れたる|賜物《たまもの》を|慕《した》へ、|而《しか》して|我《われ》さらに|善《よ》き|道《みち》を|示《しめ》さん。 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]たとひ|我《われ》もろもろの|國人《くにびと》の|言《ことば》および|御使《みつかひ》の|言《ことば》を|語《かた》るとも、|愛《あい》なくば|鳴《な》る|鐘《かね》や|響《ひび》く|鐃※[#「金+拔のつくり」、第3水準1-93-6]《ねうはち》の|如《ごと》し。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|假令《たとひ》われ|預言《よげん》する|能力《ちから》あり、|又《また》すべての|奧義《おくぎ》と|凡《すべ》ての|知識《ちしき》とに|達《たっ》し、また|山《やま》を|移《うつ》すほどの|大《おほい》なる|信仰《しんかう》ありとも、|愛《あい》なくば|數《かぞ》ふるに|足《た》らず。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]たとひ|我《われ》わが|財産《ざいさん》をことごとく|施《ほどこ》し、|又《また》わが|體《からだ》を|燒《や》かるる|爲《ため》に|付《わた》すとも、|愛《あい》なくば|我《われ》に|益《えき》なし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》は|寛容《くわんよう》にして|慈悲《じひ》あり。|愛《あい》は|妬《ねたみ》まず、|愛《あい》は|誇《ほこ》らず、|驕《たかぶ》らず、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|非禮《ひれい》を|行《おこな》はず、|己《おのれ》の|利《り》を|求《もと》めず、|憤《いきど》ほらず、|人《ひと》の|惡《あく》を|念《おも》はず、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|不義《ふぎ》を|喜《よろこ》ばずして、|眞理《まこと》の|喜《よろこ》ぶところを|喜《よろこ》び、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|事《こと》|忍《しの》び、おほよそ|事《こと》|信《しん》じ、おほよそ|事《こと》|望《のぞ》み、おほよそ|事《こと》|耐《た》ふるなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》は|長久《いつ》までも|絶《た》ゆることなし。|然《さ》れど|預言《よげん》は|廢《すた》れ、|異言《いげん》は|止《や》み、|知識《ちしき》もまた|廢《すた》らん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]それ|我《われ》らの|知《し》るところ|全《まった》からず、|我《われ》らの|預言《よげん》も|全《まった》からず。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|全《まった》き|者《もの》の|來《きた》らん|時《とき》は|全《まった》からぬもの|廢《すた》らん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]われ|童子《わらべ》の|時《とき》は|語《かた》ることも|童子《わらべ》のごとく、|思《おも》ふことも|童子《わらべ》の|如《ごと》く、|論《ろん》ずる|事《こと》も|童子《わらべ》の|如《ごと》くなりしが、|人《ひと》と|成《な》りては|童子《わらべ》のことを|棄《す》てたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》われらは|鏡《かがみ》をもて|見《み》るごとく|見《み》るところ|朧《おぼろ》なり。|然《さ》れど、かの|時《とき》には|顏《かほ》を|對《あは》せて|相《あひ》|見《み》ん。|今《いま》わが|知《し》るところ|全《まった》からず、|然《さ》れど、かの|時《とき》には|我《わ》が|知《し》られたる|如《ごと》く|全《まった》く|知《し》るべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]げに|信仰《しんかう》と|希望《のぞみ》と|愛《あい》と|此《こ》の|三《み》つの|者《もの》は|限《かぎ》りなく|存《のこ》らん、|而《しか》して|其《そ》のうち|最《もっと》も|大《おほい》なるは|愛《あい》なり。 第一四章[#「第一四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》を|追《お》ひ|求《もと》めよ、また|靈《れい》の|賜物《たまもの》、ことに|預言《よげん》する|能力《ちから》を|慕《した》へ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|異言《いげん》を|語《かた》る|者《もの》は|人《ひと》に|語《かた》るにあらずして|神《かみ》に|語《かた》るなり。そは|靈《れい》にて|奧義《おくぎ》を|語《かた》るとも、|誰《たれ》も|悟《さと》る|者《もの》なければなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されど|預言《よげん》する|者《もの》は|人《ひと》に|語《かた》りて|其《そ》の|徳《とく》を|建《た》て、|勸《すすめ》をなし、|慰安《なぐさめ》を|與《あた》ふるなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|異言《いげん》を|語《かた》る|者《もの》は|己《おのれ》の|徳《とく》を|建《た》て、|預言《よげん》する|者《もの》は|教會《けうくわい》の|徳《とく》を|建《た》つ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》|等《ら》がみな|異言《いげん》を|語《かた》らんことを|欲《ほっ》すれど、|殊《こと》に|欲《ほっ》するは|預言《よげん》せん|事《こと》なり。|異言《いげん》を|語《かた》る|者《もの》、もし|釋《と》きて|教會《けうくわい》の|徳《とく》を|建《た》つるにあらずば、|預言《よげん》する|者《もの》のかた|勝《まさ》るなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》らば|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》もし|汝《なんぢ》らに|到《いた》りて|異言《いげん》をかたり、|或《あるひ》は|默示《もくし》、あるいは|知識《ちしき》、あるいは|預言《よげん》、あるいは|教《をしへ》をもて|語《かた》らずば、|何《なに》の|益《えき》かあらん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|生命《いのち》なくして|聲《こゑ》を|出《いだ》すもの、|或《あるひ》は|笛《ふえ》、あるいは|立琴《たてごと》、その|音《おと》もし|差別《わかち》なくば、|爭《いか》で|吹《ふ》くところ|彈《ひ》くところの|何《なに》たるを|知《し》らん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ラッパ|若《も》し|定《さだま》りなき|音《おと》を|出《いだ》さば、|誰《たれ》か|戰鬪《たたかひ》の|備《そなへ》をなさん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|汝《なんぢ》らも|舌《した》をもて|明《あきら》かなる|言《ことば》を|出《いだ》さずば、いかで|語《かた》るところの|何《なに》たるを|知《し》らん、これ|汝《なんぢ》|等《ら》ただ|空氣《くうき》に|語《かた》るのみ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》には|國語《くにことば》の|類《たぐひ》おほかれど、|一《ひと》つとして|意義《いぎ》あらぬはなし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もし|國語《くにことば》の|意義《いぎ》を|知《し》らずば、|語《かた》る|者《もの》に|對《たい》して|夷人《えびす》となり、|語《かた》る|者《もの》も|我《われ》に|對《たい》して|夷人《えびす》とならん、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》らば|汝《なんぢ》らも|靈《れい》の|賜物《たまもの》を|慕《した》ふ|者《もの》なれば、|教會《けうくわい》の|徳《とく》を|建《た》つる|目的《もくてき》にて|賜物《たまもの》の|豐《ゆたか》ならん|事《こと》を|求《もと》めよ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|異言《いげん》を|語《かた》る|者《もの》は|自《みづか》ら|釋《と》き|得《え》んことをも|祈《いの》るべし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もし|異言《いげん》をもて|祈《いの》らば、|我《わ》が|靈《れい》は|祈《いの》るなれど、|我《わ》が|心《こころ》は|果《み》を|結《むす》ばず。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》らば|如何《いか》にすべきか、|我《われ》は|靈《れい》をもて|祈《いの》り、また|心《こころ》をもて|祈《いの》らん。|我《われ》は|靈《れい》をもて|謳《うた》ひ、また|心《こころ》をもて|謳《うた》はん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》もし|然《しか》せずば、|靈《れい》をもて|祝《しく》するとき、|凡人《ただびと》は|汝《なんぢ》の|語《かた》ることを|知《し》らねば、その|感謝《かんしゃ》に|對《たい》し|如何《いか》にしてアァメンと|言《い》はんや。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|感謝《かんしゃ》はよし、|然《さ》れど、その|人《ひと》の|徳《とく》を|建《た》つることなし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢら|衆《すべて》の|者《もの》よりも|多《おほ》く|異言《いげん》を|語《かた》ることを|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|我《われ》は|教會《けうくわい》にて|異言《いげん》をもて|一萬《いちまん》|言《げん》を|語《かた》るよりも、|寧《むし》ろ|人《ひと》を|教《をし》へんために|我《わ》が|心《こころ》をもて|五言《いつことば》を|語《かた》らんことを|欲《ほっ》するなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|智慧《ちゑ》に|於《おい》ては|子供《こども》となるな、|惡《あく》に|於《おい》ては|幼兒《をさなご》となり、|智慧《ちゑ》に|於《おい》ては|成人《せいじん》となれ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》に|録《しる》して『|主《しゅ》、|宣《のたま》はく、|他《あだ》し|言《ことば》の|民《たみ》により、|他《あだ》し|國人《くにびと》の|口唇《くちびる》をもて|此《こ》の|民《たみ》に|語《かた》らん、|然《さ》れど|尚《なほ》かれらは|我《われ》に|聽《き》かじ』とあり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されば|異言《いげん》は、|信者《しんじゃ》の|爲《ため》ならで|不《ふ》|信者《しんじゃ》のための|徴《しるし》なり。|預言《よげん》は、|不《ふ》|信者《しんじゃ》の|爲《ため》ならで|信者《しんじゃ》のためなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]もし|全《ぜん》|教會《けうくわい》|一處《ひとつところ》に|集《あつま》れる|時《とき》、みな|異言《いげん》にて|語《かた》らば、|凡人《ただびと》または|不《ふ》|信者《しんじゃ》いり|來《きた》らんに、|汝《なんぢ》らを|狂《くる》へる|者《もの》と|言《い》はざらんや。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|若《も》しみな|預言《よげん》せば、|不《ふ》|信者《しんじゃ》または|凡人《ただびと》の|入《い》りきたるとき、|會衆《くわいしゅう》のために|自《みづか》ら|責《せ》められ、|會衆《くわいしゅう》のために|是非《ぜひ》せられ、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]その|心《こころ》の|秘密《ひみつ》あらはるる|故《ゆゑ》に、|伏《ふ》して|神《かみ》を|拜《はい》し『|神《かみ》は|實《じつ》に|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|在《いま》す』と|言《い》はん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、さらば|如何《いか》にすべきか、|汝《なんぢ》らの|集《あつま》る|時《とき》はおのおの|聖歌《せいか》あり、|教《をしへ》あり、|默示《もくし》あり、|異言《いげん》あり、|釋《と》く|能力《ちから》あり、みな|徳《とく》を|建《た》てん|爲《ため》にすべし。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]もし|異言《いげん》を|語《かた》る|者《もの》あらば、|二人《ふたり》、|多《おほ》くとも|三人《さんにん》、|順次《じゅんじ》に|語《かた》りて|一人《ひとり》これを|釋《と》くべし。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]もし|釋《と》く|者《もの》なき|時《とき》は、|教會《けうくわい》にては|默《もく》し、|而《しか》して|己《おのれ》に|語《かた》り、また|神《かみ》に|語《かた》るべし。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|預言者《よげんしゃ》は|二人《ふたり》もしくは|三人《さんにん》かたり、その|他《ほか》の|者《もの》はこれを|辨《わきま》ふべし。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]もし|坐《ざ》しをる、|他《ほか》のもの|默示《もくし》を|蒙《かうむ》らば、|先《さき》のもの|默《もく》すべし。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|皆《みな》すべての|人《ひと》に|學《まな》ばせ|勸《すすめ》を|受《う》けしめんために、|一人《ひとり》|一人《ひとり》|預言《よげん》することを|得《う》べければなり。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]また|預言者《よげんしゃ》の|靈《れい》は|預言者《よげんしゃ》に|制《せい》せらる。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》は|亂《みだれ》の|神《かみ》にあらず、|平和《へいわ》の|神《かみ》なり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|聖徒《せいと》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》のするごとく、|女《をんな》は|教會《けうくわい》にて|默《もく》すべし。|彼《かれ》らは|語《かた》ることを|許《ゆる》されず。|律法《おきて》に|云《い》へるごとく|順《したが》ふべき|者《もの》なり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|何事《なにごと》か|學《まな》ばんとする|事《こと》あらば、|家《いへ》にて|己《おの》が|夫《をっと》に|問《と》ふべし、|女《をんな》の|教會《けうくわい》にて|語《かた》るは|恥《は》づべき|事《こと》なればなり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|言《ことば》は|汝《なんぢ》|等《ら》より|出《い》でしか、また|汝《なんぢ》|等《ら》にのみ|來《きた》りしか。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|自己《みづから》を|預言者《よげんしゃ》とし、|或《あるひ》は|御靈《みたま》に|感《かん》じたる|者《もの》と|思《おも》はば、わが|汝《なんぢ》らに|書《か》きおくる|言《ことば》を|主《しゅ》の|命《めい》なりと|知《し》れ。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]もし|知《し》らずば|其《そ》の|知《し》らざるに|任《まか》せよ。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》よ、|預言《よげん》することを|慕《した》ひ、また|異言《いげん》を|語《かた》ることを|禁《きん》ずな。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|事《こと》、|宣《よろ》しきに|適《かな》ひ、かつ|秩序《ちつじょ》を|守《まも》りて|行《おこな》へ。 第一五章[#「第一五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|曩《さき》にわが|傳《つた》へし|福音《ふくいん》を|更《さら》に|復《また》なんぢらに示す。|汝《なんぢ》らは|之《これ》を|受《う》け、|之《これ》に|頼《よ》りて|立《た》ちたり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|徒《いたづ》らに|信《しん》ぜずして、|我《わ》が|傳《つた》へしままを|堅《かた》く|守《まも》らば、この|福音《ふくいん》に|由《よ》りて|救《すく》はれん。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]わが|第一《だいいち》に|汝《なんぢ》らに|傳《つた》へしは、|我《わ》が|受《う》けし|所《ところ》にして、キリスト|聖書《せいしょ》に|應《おう》じて|我《われ》らの|罪《つみ》のために|死《し》に、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|葬《はうむ》られ、|聖書《せいしょ》に|應《おう》じて|三日《みっか》めに|甦《よみが》へり、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ケパに|現《あらは》れ、|後《のち》に|十二《じふに》|弟子《でし》に|現《あらは》れ|給《たま》ひし|事《こと》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|次《つぎ》に|五《ご》|百《ひゃく》|人《にん》|以上《いじゃう》の|兄弟《きゃうだい》に|同時《どうじ》にあらはれ|給《たま》へり。その|中《うち》には|既《すで》に|眠《ねむ》りたる|者《もの》もあれど、|多《おほ》くは|今《いま》なほ|世《よ》にあり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|次《つぎ》にヤコブに|現《あらは》れ、|次《つぎ》にすべての|使徒《しと》に|現《あらは》れ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|最終《いやはて》には|月《つき》|足《た》らぬ|者《もの》のごとき|我《われ》にも|現《あらは》れ|給《たま》へり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|神《かみ》の|教會《けうくわい》を|迫害《はくがい》したれば、|使徒《しと》と|稱《とな》へらるるに|足《た》らぬ|者《もの》にて、|使徒《しと》のうち|最《いと》|小《ちひさ》き|者《もの》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|我《わ》が|今《いま》の|如《ごと》くなるは、|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》に|由《よ》るなり。|斯《か》くてその|賜《たま》はりし|御惠《みめぐみ》は|空《むな》しくならずして、|凡《すべ》ての|使徒《しと》よりも|我《われ》は|多《おほ》く|働《はたら》けり。これ|我《われ》にあらず、|我《われ》と|偕《とも》にある|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》にもせよ、|彼《かれ》|等《ら》にもせよ、|宣傳《のべつた》ふる|所《ところ》はかくの|如《ごと》くにして、|汝《なんぢ》らは|斯《か》くのごとく|信《しん》じたるなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へり|給《たま》へりと|宣傳《のべつた》ふるに、|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに、|死人《しにん》の|復活《よみがへり》なしと|云《い》ふ|者《もの》のあるは|何《なに》ぞや。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]もし|死人《しにん》の|復活《よみがへり》なくば、キリストもまた|甦《よみが》へり|給《たま》はざりしならん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]もしキリスト|甦《よみが》へり|給《たま》はざりしならば、|我《われ》らの|宣教《せんけう》も|空《むな》しく、|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》もまた|空《むな》しからん、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かつ|我《われ》らは|神《かみ》の|僞證《ぎしょう》|人《にん》と|認《みと》められん。|我《われ》ら|神《かみ》はキリストを|甦《よみが》へらせ|給《たま》へりと|證《あかし》したればなり。もし|死人《しにん》の|甦《よみが》へることなくば、|神《かみ》はキリストを|甦《よみが》へらせ|給《たま》はざりしならん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]もし|死人《しにん》の|甦《よみが》へる|事《こと》なくば、キリストも|甦《よみが》へり|給《たま》はざりしならん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しキリスト|甦《よみが》へり|給《たま》はざりしならば、|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》は|空《むな》しく、|汝《なんぢ》|等《ら》なほ|罪《つみ》に|居《を》らん。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》ればキリストに|在《あ》りて|眠《ねむ》りたる|者《もの》も|亡《ほろ》びしならん。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》この|世《よ》にあり、キリストに|頼《よ》りて|空《むな》しき|望《のぞ》みを|懷《いだ》くに|過《す》ぎずば、|我《われ》らは|凡《すべ》ての|人《ひと》の|中《うち》にて|最《もっと》も|憫《あはれ》むべき|者《もの》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|正《ただ》しくキリストは|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へり、|眠《ねむ》りたる|者《もの》の|初穗《はつほ》となり|給《たま》へり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]それ|人《ひと》によりて|死《し》の|來《きた》りし|如《ごと》く、|死人《しにん》の|復活《よみがへり》もまた|人《ひと》に|由《よ》りて|來《きた》れり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》、アダムに|由《よ》りて|死《し》ぬるごとく、|凡《すべ》ての|人《ひと》、キリストに|由《よ》りて|生《い》くべし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|各人《おのおの》その|順序《じゅんじょ》に|隨《したが》ふ。まづ|初穗《はつほ》なるキリスト、|次《つぎ》はその|來《きた》り|給《たま》ふときキリストに|屬《ぞく》する|者《もの》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|次《つぎ》には|終《をはり》きたらん、その|時《とき》キリストは、もろもろの|權能《けんのう》・|權威《けんゐ》・|權力《けんりょく》を|亡《ほろぼ》して|國《くに》を|父《ちち》なる|神《かみ》に|付《わた》し|給《たま》ふべし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|凡《すべ》ての|敵《てき》をその|足《あし》の|下《した》に|置《お》き|給《たま》ふまで、|王《わう》たらざるを|得《え》ざるなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|最後《いやはて》の|敵《てき》なる|死《し》もまた|亡《ほろぼ》されん。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]『|神《かみ》は|萬《よろづ》の|物《もの》を|彼《かれ》の|足《あし》の|下《した》に|服《したが》はせ|給《たま》ひ』たればなり。|萬《よろづ》の|物《もの》を|彼《かれ》に|服《したが》はせたりと|宣《のたま》ふときは、|萬《よろづ》の|物《もの》を|服《したが》はせ|給《たま》ひし|者《もの》のその|中《うち》になきこと|明《あきら》かなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|萬《よろづ》の|物《もの》かれに|服《したが》ふときは、|子《こ》も|亦《また》みづから|萬《よろづ》の|物《もの》を|己《おのれ》に|服《したが》はせ|給《たま》ひし|者《もの》に|服《したが》はん。これ|神《かみ》は|萬《よろづ》の|物《もの》に|於《おい》て|萬《よろづ》の|事《こと》となり|給《たま》はん|爲《ため》なり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]もし|復活《よみがへり》なくば、|死人《しにん》の|爲《ため》にバプテスマを|受《う》くるもの|何《なに》をなすか、|死人《しにん》の|甦《よみが》へること|全《まった》くなくば、|死人《しにん》のためにバプテスマを|受《う》くるは|何《なに》の|爲《ため》ぞ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》らが|何時《いつ》も|危険《あやふき》を|冒《をか》すは|何《なに》の|爲《ため》ぞ。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われらの|主《しゅ》イエス・キリストに|在《あ》りて、|汝《なんぢ》|等《ら》につき|我《わ》が|有《も》てる|誇《ほこり》によりて|誓《ちか》ひ、|我《われ》は|日々《ひび》に|死《し》すと|言《い》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》がエペソにて|獸《けもの》と|鬪《たたか》ひしこと、|若《も》し|人《ひと》のごとき|思《おもひ》にて|爲《な》ししならば、|何《なに》の|益《えき》あらんや。|死人《しにん》もし|甦《よみが》へる|事《こと》なくば『|我等《われら》いざ|飮食《のみくひ》せん、|明日《あす》|死《し》ぬべければなり』[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|欺《あざむ》かるな、|惡《あ》しき|交際《まじはり》は|善《よ》き|風儀《ならはし》を|害《そこな》ふなり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|醒《さ》めて|正《ただ》しうせよ、|罪《つみ》を|犯《をか》すな。|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|神《かみ》を|知《し》らぬ|者《もの》あり、|我《わ》が|斯《か》く|言《い》ふは|汝《なんぢ》|等《ら》を|辱《はづか》しめんとてなり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]されど|人《ひと》あるひは|言《い》はん、|死人《しにん》いかにして|甦《よみが》へるべきか、|如何《いか》なる|體《たい》をもて|來《きた》るべきかと。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]|愚《おろか》なる|者《もの》よ、なんぢの|播《ま》く|所《ところ》のもの|先《ま》づ|死《し》なずば|生《い》きず。[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》その|播《ま》く|所《ところ》のものは|後《のち》に|成《な》るべき|體《たい》を|播《ま》くにあらず、|麥《むぎ》にても|他《ほか》の|穀《こく》にても、ただ|種粒《たねつぶ》のみ。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|神《かみ》は|御意《みこころ》に|隨《したが》ひて|之《これ》に|體《たい》を|予《あた》へ、おのおのの|種《たね》にその|體《たい》を|予《あた》へたまふ。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|肉《にく》、おなじ|肉《にく》にあらず、|人《ひと》の|肉《にく》あり、|獸《けもの》の|肉《にく》あり、|鳥《とり》の|肉《にく》あり、|魚《うを》の|肉《にく》あり。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]|天上《てんじゃう》の|體《たい》あり、|地上《ちじゃう》の|體《たい》あり、されど|天上《てんじゃう》の|物《もの》の|光榮《くわうえい》は|地上《ちじゃう》の|物《もの》と|異《こと》なり。[#太字]四一[#「四一」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》の|光榮《くわうえい》あり、|月《つき》の|光榮《くわうえい》あり、|星《ほし》の|光榮《くわうえい》あり、|此《こ》の|星《ほし》は|彼《か》の|星《ほし》と|光榮《くわうえい》を|異《こと》にす。[#太字]四二[#「四二」は行右小書き][#太字終わり]|死人《しにん》の|復活《よみがへり》もまた|斯《か》くのごとし。|朽《く》つる|物《もの》にて|播《ま》かれ、|朽《く》ちぬものに|甦《よみが》へらせられ、[#太字]四三[#「四三」は行右小書き][#太字終わり]|卑《いや》しき|物《もの》にて|播《ま》かれ、|光榮《くわうえい》あるものに|甦《よみが》へらせられ、|弱《よわ》きものにて|播《ま》かれ、|強《つよ》きものに|甦《よみが》へらせられ、[#太字]四四[#「四四」は行右小書き][#太字終わり]|血氣《けっき》の|體《たい》にて|播《ま》かれ、|靈《れい》の|體《たい》に|甦《よみが》へらせられん。|血氣《けっき》の|體《たい》ある|如《ごと》く、また|靈《れい》の|體《たい》あり。[#太字]四五[#「四五」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して、|始《はじめ》の|人《ひと》アダムは、|活《い》ける|者《もの》となれるとあるが|如《ごと》し。|而《しか》して|終《をはり》のアダムは、|生命《いのち》を|與《あた》ふる|靈《れい》となれり。[#太字]四六[#「四六」は行右小書き][#太字終わり]|靈《れい》のものは|前《さき》にあらず、|反《かへ》つて|血氣《けっき》のもの|前《さき》にありて|靈《れい》のもの|後《のち》にあり。[#太字]四七[#「四七」は行右小書き][#太字終わり]|第一《だいいち》の|人《ひと》は|地《ち》より|出《い》でて|土《つち》に|屬《ぞく》し、|第二《だいに》の|人《ひと》は|天《てん》より|出《い》でたる|者《もの》なり。[#太字]四八[#「四八」は行右小書き][#太字終わり]この|土《つち》に|屬《ぞく》する|者《もの》に、すべて|土《つち》に|屬《ぞく》する|者《もの》は|似《に》、この|天《てん》に|屬《ぞく》する|者《もの》に、すべて|天《てん》に|屬《ぞく》する|者《もの》は|似《に》るなり。[#太字]四九[#「四九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ら|土《つち》に|屬《ぞく》する|者《もの》の|形《かたち》を|有《も》てるごとく、|天《てん》に|屬《ぞく》する|者《もの》の|形《かたち》をも|有《も》つべし。[#太字]五〇[#「五〇」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|之《これ》を|言《い》はん、|血肉《けつにく》は|神《かみ》の|國《くに》を|嗣《つ》ぐこと|能《あた》はず、|朽《く》つるものは|朽《く》ちぬものを|嗣《つ》ぐことなし。[#太字]五一[#「五一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、われ|汝《なんぢ》らに|奧義《おくぎ》を|告《つ》げん、|我《われ》らは|悉《ことご》とく|眠《ねむ》るにはあらず、[#太字]五二[#「五二」は行右小書き][#太字終わり]|終《をはり》のラッパの|鳴《な》らん|時《とき》みな|忽《たちま》ち|瞬間《またたくま》に|化《くわ》せん。ラッパ|鳴《な》りて|死人《しにん》は|朽《く》ちぬ|者《もの》に|甦《よみが》へり、|我《われ》らは|化《くわ》するなり。[#太字]五三[#「五三」は行右小書き][#太字終わり]そは|此《こ》の|朽《く》つる|者《もの》は|朽《く》ちぬものを|著《き》、この|死《し》ぬる|者《もの》は|死《し》なぬものを|著《き》るべければなり。[#太字]五四[#「五四」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|朽《く》つるものは|朽《く》ちぬものを|著《き》、この|死《し》ぬる|者《もの》は|死《し》なぬものを|著《き》んとき『|死《し》は|勝《かち》に|呑《の》まれたり』と|録《しる》されたる|言《ことば》は|成就《じゃうじゅ》すべし。[#太字]五五[#「五五」は行右小書き][#太字終わり]『|死《し》よ、なんぢの|勝《かち》は|何處《いづこ》にかある。|死《し》よ、なんぢの|刺《はり》は|何處《いづこ》にかある』[#太字]五六[#「五六」は行右小書き][#太字終わり]|死《し》の|刺《はり》は|罪《つみ》なり、|罪《つみ》の|力《ちから》は|律法《おきて》なり。[#太字]五七[#「五七」は行右小書き][#太字終わり]されど|感謝《かんしゃ》すべきかな、|神《かみ》は|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストによりて|勝《かち》を|與《あた》へたまふ。[#太字]五八[#「五八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|我《わ》が|愛《あい》する|兄弟《きゃうだい》よ、|確《かた》くして|搖《うご》くことなく、|常《つね》に|勵《はげ》みて|主《しゅ》の|事《こと》を|務《つと》めよ、|汝《なんぢ》|等《ら》その|勞《らう》の、|主《しゅ》にありて|空《むな》しからぬを|知《し》ればなり。 第一六章[#「第一六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|聖徒《せいと》たちの|爲《ため》にする|寄附《きふ》の|事《こと》に|就《つ》きては、|汝《なんぢ》らも|我《わ》がガラテヤの|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|命《めい》ぜしごとくせよ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|一週《ひとまはり》の|首《はじめ》の|日《ひ》ごとに、|各人《おのおの》その|得《う》る|所《ところ》にしたがひて|己《おの》が|家《いへ》に|貯《たくは》へ|置《お》け、これ|我《わ》が|到《いた》らんとき|始《はじ》めて|寄附《きふ》を|集《あつ》むる|事《こと》なからん|爲《ため》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われ|到《いた》らば、|汝《なんぢ》らが|選《えら》ぶところの|人々《ひとびと》に|添書《そへぶみ》をあたへ、|汝《なんぢ》らの|惠《めぐみ》む|物《もの》をエルサレムに|携《たづさ》へ|往《ゆ》かしめん。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]もし|我《われ》も|往《ゆ》くべきならば、|彼《かれ》らは|我《われ》と|共《とも》に|往《ゆ》くべし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》マケドニヤを|通《とほ》らんとすれば、マケドニヤを|過《す》ぎて|後《のち》に|汝《なんぢ》らの|許《もと》にゆかん。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|留《とどま》りゐて、|或《あるひ》は|冬《ふゆ》を|過《すご》すこともあらん、|是《これ》わが|何處《いづこ》に|往《ゆ》くも|汝《なんぢ》らに|送《おく》られん|爲《ため》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|今《いま》なんぢらを|途《みち》の|次《ついで》に|見《み》ることを|欲《ほっ》せず、|主《しゅ》ゆるし|給《たま》はば、|暫《しばら》く|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|留《とどま》らんことを|望《のぞ》む。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|五旬節《ごじゅんせつ》まではエペソに|留《とどま》らんとす。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]そは|活動《はたらき》のために|大《おほい》なる|門《もん》わが|前《まへ》にひらけ、また|逆《さから》ふ|者《もの》も|多《おほ》ければなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]テモテもし|到《いた》らば、|愼《つつし》みて|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|懼《おそれ》なく|居《を》らしめよ、|彼《かれ》は|我《われ》と|同《おな》じく|主《しゅ》の|業《わざ》を|務《つと》むる|者《もの》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されば|誰《たれ》も|之《これ》を|卑《いや》しむることなく、|安《やす》らかに|送《おく》りて|我《わ》が|許《もと》に|來《きた》らしめよ、|我《われ》かれが|兄弟《きゃうだい》たちと|共《とも》に|來《きた》るを|待《ま》てるなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》アポロに|就《つ》きては、|我《われ》かれに|兄弟《きゃうだい》たちと|共《とも》に|汝《なんぢ》らに|到《いた》らんことを|懇《ねんご》ろに|勸《すす》めたりしが、|今《いま》は|往《ゆ》くことを|更《さら》に|欲《ほっ》せず、されど|好《よ》き|機《をり》を|得《え》ば|往《ゆ》くべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|目《め》を|覺《さま》し、|堅《かた》く|信仰《しんかう》に|立《た》ち、|雄々《をを》しく、かつ|剛《つよ》かれ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|一切《すべて》のこと|愛《あい》をもて|行《おこな》へ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、ステパナの|家《いへ》はアカヤの|初穗《はつほ》にして、|彼《かれ》らが|身《み》を|委《ゆだ》ねて|聖徒《せいと》に|事《つか》へたることは、|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|勸《すす》む、|斯《か》くのごとき|人々《ひとびと》また|凡《すべ》て|之《これ》とともに|働《はたら》きて|勞《らう》する|者《もの》に|服《ふく》せよ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ステパナとポルトナトとアカイコとの|來《きた》るを|喜《よろこ》ぶ。かれらは|汝《なんぢ》らの|居《を》らぬを|補《おぎな》ひたればなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|我《わ》が|心《こころ》と|汝《なんぢ》らの|心《こころ》とを|安《やす》んじたり、|斯《か》くのどとき|者《もの》を|認《みと》めよ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]アジヤの|諸《しょ》|教會《けうくわい》なんぢらに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。アクラとプリスカ|及《およ》びその|家《いへ》の|教會《けうくわい》、|主《しゅ》に|在《あ》りて|懇《ねんご》ろに|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]すべての|兄弟《きゃうだい》なんぢらに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。なんぢら|潔《きよ》き|接吻《くちつけ》をもて|互《たがひ》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》パウロ|自筆《じひつ》をもて|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]もし|人《ひと》、|主《しゅ》を|愛《あい》せずば|詛《のろ》はるべし、|我《われ》らの|主《しゅ》きたり|給《たま》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》イエスの|恩惠《めぐみ》なんぢらと|偕《とも》にあらんことを。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]わが|愛《あい》はキリスト・イエスに|在《あ》りて|汝《なんぢ》|等《ら》すべての|者《もの》とともに|在《あ》るなり。 [#改ページ] コリント人への後の書[#「コリント人への後の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|御意《みこころ》によりてイエス・キリストの|使徒《しと》となれるパウロ|及《およ》び|兄弟《きゃうだい》テモテ、|書《ふみ》をコリントに|在《あ》る|神《かみ》の|教會《けうくわい》、ならびにアカヤ|全國《ぜんこく》に|在《あ》る|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》に|贈《おく》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|讃《ほ》むべき|哉《かな》、われらの|主《しゅ》イエス・キリストの|父《ちち》なる|神《かみ》、|即《すなは》ちもろもろの|慈悲《じひ》の|父《ちち》、|一切《すべて》の|慰安《なぐさめ》の|神《かみ》、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]われらを|凡《すべ》ての|患難《なやみ》のうちに|慰《なぐさ》め、|我等《われら》をして|自《みづか》ら|神《かみ》に|慰《なぐさ》めらるる|慰安《なぐさめ》をもて、|諸般《もろもろ》の|患難《なやみ》に|居《を》る|者《もの》を|慰《なぐさ》むることを|得《え》しめ|給《たま》ふ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]そはキリストの|苦難《くるしみ》われらに|溢《あふ》るる|如《ごと》く、|我《われ》らの|慰安《なぐさめ》も|亦《また》キリストによりて|溢《あふ》るればなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ら|或《あるひ》は|患難《なやみ》を|受《う》くるも|汝《なんぢ》らの|慰安《なぐさめ》と|救《すくひ》とのため、|或《あるひ》は|慰安《なぐさめ》を|受《う》くるも|汝《なんぢ》らの|慰安《なぐさめ》の|爲《ため》にして、その|慰安《なぐさめ》は|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|働《はたら》きて、|我《われ》らが|受《う》くる|如《ごと》き|苦難《くるしみ》を|忍《しの》ぶことを|得《え》しむるなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|汝《なんぢ》らが|苦難《くるしみ》に|與《あづか》るごとく、また|慰安《なぐさめ》にも|與《あづか》ることを|知《し》れば、|汝《なんぢ》らに|對《たい》する|我《われ》らの|望《のぞみ》は|堅《かた》し。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らがアジヤにて|遭《あ》ひし|患難《なやみ》を|汝《なんぢ》らの|知《し》らざるを|好《この》まず、すなはち|壓《あつ》せらるること|甚《はなは》だしく、|力《ちから》|耐《た》へがたくして、|生《い》くる|望《のぞみ》を|失《うしな》ひ、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|心《こころ》のうちに|死《し》を|期《き》するに|至《いた》れり。これ|己《おのれ》を|頼《たの》まずして、|死人《しにん》を|甦《よみが》へらせ|給《たま》ふ|神《かみ》を|頼《たの》まん|爲《ため》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|斯《か》かる|死《し》より|我《われ》らを|救《すく》ひ|給《たま》へり、また|救《すく》ひ|給《たま》はん。|我《われ》らは|後《のち》もなほ|救《すく》ひ|給《たま》はんことを|望《のぞ》みて|神《かみ》を|頼《たの》み、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らも|我《われ》らの|爲《ため》に|祈《いのり》をもて|助《たす》く。これ|多《おほ》くの|人《ひと》の|願望《ねがひ》によりて|賜《たま》はる|恩惠《めぐみ》を、|多《おほ》くの|人《ひと》の|感謝《かんしゃ》するに|至《いた》らん|爲《ため》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]われら|世《よ》に|在《あ》りて|殊《こと》に|汝《なんぢ》らに|對《たい》し、|神《かみ》の|清淨《きよき》と|眞實《しんじつ》とをもて、また|肉《にく》の|智慧《ちゑ》によらず、|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》によりて|行《おこな》ひし|事《こと》は、|我《われ》らの|良心《りゃうしん》の|證《あかし》する|所《ところ》にして、|我《われ》らの|誇《ほこり》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|書《か》き|贈《おく》ることは、|汝《なんぢ》らの|讀《よ》むところ|知《し》る|所《ところ》の|他《ほか》ならず。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|我《われ》は|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|或《ある》|者《もの》の|既《すで》に|知《し》れる|如《ごと》く、|我《われ》らの|主《しゅ》イエスの|日《ひ》に|我《われ》らが|汝《なんぢ》らの|誇《ほこり》、なんぢらが|我《われ》らの|誇《ほこり》たるを|終《をはり》まで|知《し》らんことを|望《のぞ》む。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]この|確信《かくしん》をもて|先《ま》づ|汝《なんぢ》らに|到《いた》り、|再《ふたた》び|益《えき》を|得《え》させ、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|汝《なんぢ》らを|經《へ》てマケドニアに|往《ゆ》き、マケドニアより|更《さら》に|復《また》なんぢらに|到《いた》り、|而《しか》して|汝《なんぢ》らに|送《おく》られてユダヤに|往《ゆ》かんことを|定《さだ》めたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かく|定《さだ》めたるは|浮《う》きたる|事《こと》ならんや。わが|定《さだ》むるところ|肉《にく》によりて|定《さだ》め、|然《しか》り|然《しか》り、|否《いな》|々《いな》と|言《い》ふが|如《ごと》きこと|有《あ》らんや。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|眞實《まこと》にて|在《いま》せば、|我《われ》らが|汝《なんぢ》らに|對《たい》する|言《ことば》も、|然《しか》りまた|否《いな》と|言《い》ふが|如《ごと》きにあらず。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ら|即《すなは》ちパウロ、シルワノ、テモテが|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|傳《つた》へたる|神《かみ》の|子《こ》キリスト・イエスは、|然《しか》りまた|否《いな》と|言《い》ふが|如《ごと》き|者《もの》にあらず、|然《しか》りと|言《い》ふことは|彼《かれ》によりて|成《な》りたるなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|約束《やくそく》は|多《おほ》くありとも、|然《しか》りと|言《い》ふことは|彼《かれ》によりて|成《な》りたれば、|彼《かれ》によりてアァメンあり、|我《われ》ら|神《かみ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》するに|至《いた》る。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らと|共《とも》に|我《われ》らをキリストに|堅《かた》くし、|且《かつ》われらに|膏《あぶら》を|注《そそ》ぎ|給《たま》ひし|者《もの》は|神《かみ》なり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はまた|我《われ》らに|印《いん》し、|保證《ほしょう》として|御靈《みたま》を|我《われ》らの|心《こころ》に|賜《たま》へり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》わが|靈魂《たましひ》を|賭《か》けて|神《かみ》の|證《あかし》を|求《もと》む、|我《わ》がコリントに|往《ゆ》くことの|遲《おそ》きは、|汝《なんぢ》らを|寛《ゆる》うせん|爲《ため》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》らは|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》を|掌《つかさ》どる|者《もの》にあらず、|汝《なんぢ》らの|喜悦《よろこび》を|助《たす》くる|者《もの》なり、|汝《なんぢ》らは|信仰《しんかう》によりて|立《た》てばなり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]われ|再《ふたた》び|憂《うれひ》をもて|汝《なんぢ》らに|到《いた》らじと|自《みづか》ら|定《さだ》めたり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もし|汝《なんぢ》らを|憂《うれ》ひしめば、|我《わ》が|憂《うれ》ひしむる|者《もの》のほかに|誰《たれ》か|我《われ》を|喜《よろこ》ばせんや。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われ|前《さき》に|此《こ》の|事《こと》を|書《か》き|贈《おく》りしは、|我《わ》が|到《いた》らんとき、|我《われ》を|喜《よろこ》ばすべきもの、|反《かへ》つて|我《われ》を|憂《うれ》ひしむる|事《こと》のなからん|爲《ため》にして、|汝《なんぢ》らは|皆《みな》わが|喜悦《よろこび》を|喜悦《よろこび》とするを|信《しん》ずるに|因《よ》りてなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]われ|大《おほい》なる|患難《なやみ》と|心《こころ》の|悲哀《かなしみ》とにより、|多《おほ》くの|涙《なみだ》をもて|汝《なんぢ》らに|書《か》き|贈《おく》れり。これ|汝《なんぢ》らを|憂《うれ》ひしめんとにあらず、|我《わ》が|汝《なんぢ》らに|對《たい》する|愛《あい》の|溢《あふ》るるばかりなるを|知《し》らしめん|爲《ため》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]もし|憂《うれ》ひしむる|人《ひと》あらば、|我《われ》を|憂《うれ》ひしむるにあらず、|幾許《いくばく》か|汝《なんぢ》ら|衆《すべて》を|憂《うれ》ひしむるなり。(|幾許《いくばく》かと|云《い》へるは、われ|激《はげ》しく|責《せ》むるを|好《この》まぬ|故《ゆゑ》なり)[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かかる|人《ひと》の|多數《たすう》の|者《もの》より|受《う》けたる|懲罰《こらしめ》は|足《た》れり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》ら|寧《むし》ろ|彼《かれ》を|恕《ゆる》し、かつ|慰《なぐさ》めよ、|恐《おそ》らくは|其《そ》の|人《ひと》、|甚《はなは》だしき|愁《うれひ》に|沈《しづ》まん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》なんぢらの|愛《あい》を|彼《かれ》に|顯《あらは》さんことを|勸《すす》む。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|前《さき》に|書《か》き|贈《おく》りしは、|凡《すべ》ての|事《こと》につきて|汝《なんぢ》らが|從順《じゅうじゅん》なりや|否《いな》やをも|試《こころ》み|知《し》らん|爲《ため》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|何事《なにごと》にても|人《ひと》を|恕《ゆる》さば、|我《われ》も|亦《また》これを|恕《ゆる》さん、われ|恕《ゆる》したる|事《こと》あらば、|汝《なんぢ》らの|爲《ため》にキリストの|前《まへ》に|恕《ゆる》したるなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]これサタンに|欺《あざむ》かれざらん|爲《ため》なり、|我等《われら》はその|詭謀《はかりごと》を|知《し》らざるにあらず。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》キリストの|福音《ふくいん》の|爲《ため》にトロアスに|到《いた》り、|主《しゅ》われに|門《もん》を|開《ひら》き|給《たま》ひたれど、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》テトスに|逢《あ》はぬによりて|心《こころ》に|平安《やすき》をえず、|彼處《かしこ》の|者《もの》に|別《わかれ》を|告《つ》げてマケドニヤに|往《ゆ》けり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|感謝《かんしゃ》すべきかな、|神《かみ》は|何時《いつ》にてもキリストにより、|我《われ》らを|執《とら》へて|凱旋《がいせん》し、|何處《いづこ》にても|我等《われら》によりてキリストを|知《し》る|知識《ちしき》の|馨《かをり》をあらはし|給《たま》ふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|救《すく》はるる|者《もの》にも|亡《ほろ》ぶる|者《もの》にも、|我《われ》らは|神《かみ》に|對《たい》してキリストの|香《かうば》しき|馨《かをり》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]この|人《ひと》には|死《し》よりいづる|馨《かをり》となりて|死《し》に|至《いた》らしめ、かの|人《ひと》には|生命《いのち》より|出《い》づる|馨《かをり》となりて|生命《いのち》に|至《いた》らしむ。|誰《たれ》か|此《こ》の|任《にん》に|耐《た》へんや。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|多《おほ》くの|人《ひと》のごとく|神《かみ》の|言《ことば》を|曲《ま》げず、|眞實《しんじつ》により|神《かみ》による|者《もの》のごとく、|神《かみ》の|前《まへ》にキリストに|在《あ》りて|語《かた》るなり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》ふたたび|己《おのれ》を|薦《すす》め|始《はじ》めんや、また|或《ある》|人《ひと》のごとく|人《ひと》の|推薦《すゐせん》の|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|齎《もたら》し、また|汝《なんぢ》|等《ら》より|受《う》くることを|要《えう》せんや。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|即《すなは》ち|我《われ》らの|書《ふみ》にして|我《われ》らの|心《こころ》に|録《しる》され、|又《また》すべての|人《ひと》に|知《し》られ、かつ|讀《よ》まるるなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|明《あきら》かに|我《われ》らの|職《つとめ》によりて|書《か》かれたるキリストの|書《ふみ》なり。|而《しか》も|墨《すみ》にあらで|活《い》ける|神《かみ》の|御靈《みたま》にて|録《しる》され、|石碑《せきひ》にあらで|心《こころ》の|肉碑《にくひ》に|録《しる》されたるなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らはキリストにより、|神《かみ》に|對《たい》して|斯《か》かる|確信《かくしん》あり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]されど|己《おのれ》は|何事《なにごと》をも|自《みづか》ら|定《さだ》むるに|足《た》らず、|定《さだ》むるに|足《た》るは|神《かみ》によるなり。 [#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|我《われ》らを|新約《しんやく》の|役者《えきしゃ》となるに|足《た》らしめ|給《たま》へり、|儀文《ぎぶん》の|役者《えきしゃ》にあらず、|靈《れい》の|役者《えきしゃ》なり。そは|儀文《ぎぶん》は|殺《ころ》し、|靈《れい》は|活《いか》せばなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|石《いし》に|彫《ゑ》り|書《しる》されたる|死《し》の|法《のり》の|職《つとめ》にも|光榮《くわうえい》ありて、イスラエルの|子《こ》|等《ら》はそのやがて|消《き》ゆべきモーセの|顏《かほ》の|光榮《くわうえい》を|見《み》つめ|得《え》ざりし|程《ほど》ならんには、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]まして|靈《れい》の|職《つとめ》は|光榮《くわうえい》なからんや。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|罪《つみ》を|定《さだ》むる|職《つとめ》もし|光榮《くわうえい》あらんには、まして|義《ぎ》とする|職《つとめ》は|光榮《くわうえい》に|溢《あふ》れざらんや。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]もと|光榮《くわうえい》ありし|者《もの》も|更《さら》に|勝《まさ》れる|光榮《くわうえい》に|比《くら》ぶれば、|光榮《くわうえい》なき|者《もの》となれり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]もし|消《き》ゆべき|者《もの》に|光榮《くわうえい》ありしならんには、まして|永存《ながら》ふるものに|光榮《くわうえい》なからんや。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|斯《か》くのごとき|希望《のぞみ》を|有《も》つゆゑに、|更《さら》に|臆《おく》せずして|言《い》ひ、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》モーセの|如《ごと》くせざるなり。|彼《かれ》は|消《き》ゆべき|者《もの》の|消《き》えゆくをイスラエルの|子《こ》らに|見《み》せぬために、|面※[#「巾+白」、第4水準2-8-83]《かほおほひ》を|顏《かほ》におほひたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|彼《かれ》らの|心《こころ》|鈍《にぶ》くなれり。キリストによりて|面※[#「巾+白」、第4水準2-8-83]《かほおほひ》の|廢《すた》るべきを|悟《さと》らねば、|今日《けふ》に|至《いた》るまで|舊約《きうやく》を|讀《よ》む|時《とき》その|面※[#「巾+白」、第4水準2-8-83]《かほおほひ》なほ|存《のこ》れり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|今日《けふ》に|至《いた》るまでモーセの|書《ふみ》を|讀《よ》むとき、|面※[#「巾+白」、第4水準2-8-83]《かほおほひ》は|彼《かれ》らの|心《こころ》のうへに|置《お》かれたり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|主《しゅ》に|歸《き》する|時《とき》、その|面※[#「巾+白」、第4水準2-8-83]《かほおほひ》は|取《と》り|除《のぞ》かるべし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》は|即《すなは》ち|御靈《みたま》なり、|主《しゅ》の|御靈《みたま》のある|所《ところ》には|自由《じいう》あり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》はみな|面※[#「巾+白」、第4水準2-8-83]《かほおほひ》なくして、|鏡《かがみ》に|映《うつ》るごとく|主《しゅ》の|榮光《えいくわう》を|見《み》、|榮光《えいくわう》より|榮光《えいくわう》にすすみ、|主《しゅ》たる|御靈《みたま》によりて|主《しゅ》と|同《おな》じ|像《かたち》に|化《くわ》するなり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》ら|憐憫《あはれみ》を|蒙《かうむ》りて|此《こ》の|職《つとめ》を|受《う》けたれば、|落膽《きおち》せず、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|恥《は》づべき|隱《かく》れたる|事《こと》をすて、|惡巧《わるだくみ》に|歩《あゆ》まず、|神《かみ》の|言《ことば》をみださず、|眞理《まこと》を|顯《あらは》して|神《かみ》の|前《まへ》に|己《おのれ》を|凡《すべ》ての|人《ひと》の|良心《りゃうしん》に|薦《すす》むるなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]もし|我《われ》らの|福音《ふくいん》おほはれ|居《を》らば、|亡《ほろ》ぶる|者《もの》に|覆《おほ》はれをるなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]この|世《よ》の|神《かみ》は|此《これ》|等《ら》の|不《ふ》|信者《しんじゃ》の|心《こころ》を|暗《くら》まして、|神《かみ》の|像《かたち》なるキリストの|榮光《えいくわう》の|福音《ふくいん》の|光《ひかり》を|照《てら》さざらしめたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|己《おのれ》の|事《こと》を|宣《の》べず、ただキリスト・イエスの|主《しゅ》たる|事《こと》と、|我《われ》らがイエスのために|汝《なんぢ》らの|僕《しもべ》たる|事《こと》とを|宣《の》ぶ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|光《ひかり》、|暗《やみ》より|照《て》り|出《い》でよと|宣《のたま》ひし|神《かみ》は、イエス・キリストの|顏《かほ》にある|神《かみ》の|榮光《えいくわう》を|知《し》る|知識《ちしき》を|輝《かがや》かしめんために、|我《われ》らの|心《こころ》を|照《てら》し|給《たま》へるなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》この|寶《たから》を|土《つち》の|器《うつは》に|有《も》てり、これ|優《すぐ》れて|大《おほい》なる|能力《ちから》の|我等《われら》より|出《い》でずして、|神《かみ》より|出《い》づることの|顯《あらは》れんためなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われら|四方《しはう》より|患難《なやみ》を|受《う》くれども|窮《きう》せず、|爲《せ》ん|方《かた》つくれども|希望《のぞみ》を|失《うしな》はず、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|責《せ》めらるれども|棄《す》てられず、|倒《たふ》さるれども|亡《ほろ》びず、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|常《つね》にイエスの|死《し》を|我《われ》らの|身《み》に|負《お》ふ。これイエスの|生命《いのち》の|我《われ》らの|身《み》にあらはれん|爲《ため》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]それ|我《われ》ら|生《い》ける|者《もの》の|常《つね》にイエスのため|死《し》に|付《わた》さるるは、イエスの|生命《いのち》の|我《われ》らの|死《し》ぬべき|肉體《にくたい》にあらはれん|爲《ため》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]さらば|死《し》は|我等《われら》のうちに|働《はたら》き、|生命《いのち》は|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|働《はたら》くなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して『われ|信《しん》ずるによりて|語《かた》れり』とあるごとく、|我等《われら》にも|同《おな》じ|信仰《しんかう》の|靈《れい》あり、|信《しん》ずるに|因《よ》りて|語《かた》るなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]これ|主《しゅ》イエスを|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|者《もの》の|我等《われら》をもイエスと|共《とも》に|甦《よみが》へらせ、|汝《なんぢ》らと|共《とも》に|立《た》たしめ|給《たま》ふことを|我《われ》ら|知《し》ればなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|事《こと》は|汝《なんぢ》らの|益《えき》なり。これ|多《おほ》くの|人《ひと》によりて|御惠《みめぐみ》の|増《ま》し|加《くは》はり、|感謝《かんしゃ》いや|増《まさ》りて|神《かみ》の|榮光《えいくわう》の|顯《あらは》れん|爲《ため》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》らは|落膽《きおち》せず、|我《われ》らが|外《そと》なる|人《ひと》は|壞《やぶ》るれども、|内《うち》なる|人《ひと》は|日々《ひび》に|新《あらた》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]それ|我《われ》らが|受《う》くる|暫《しばら》くの|輕《かろ》き|患難《なやみ》は、|極《きは》めて|大《おほい》なる|永遠《とこしへ》の|重《おも》き|光榮《くわうえい》を|得《え》しむるなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|顧《かへり》みる|所《ところ》は|見《み》ゆるものにあらで|見《み》えぬものなればなり。|見《み》ゆるものは|暫時《しばらく》にして、|見《み》えぬものは|永遠《とこしへ》に|至《いた》るなり。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|知《し》る、|我《われ》らの|幕屋《まくや》なる|地上《ちじゃう》の|家《いへ》、|壞《やぶ》るれば、|神《かみ》の|賜《たま》ふ|建造物《たてもの》、すなはち|天《てん》にある、|手《て》にて|造《つく》らぬ、|永遠《とこしへ》の|家《いへ》あることを。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》はその|幕屋《まくや》にありて|歎《なげ》き、|天《てん》より|賜《たま》ふ|住所《すみか》をこの|上《うへ》に|著《き》んことを|切《せつ》に|望《のぞ》む。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|著《き》るときは|裸《はだか》にてある|事《こと》なからん。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》この|幕屋《まくや》にありて|重荷《おもに》を|負《お》へる|如《ごと》くに|歎《なげ》く、|之《これ》を|脱《ぬ》がんとにあらで、|此《こ》の|上《うへ》に|著《き》んことを|欲《ほっ》すればなり。これ|死《し》ぬべき|者《もの》の|生命《いのち》に|呑《の》まれん|爲《ため》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らを|此《こ》の|事《こと》に|適《かな》ふものとなし、その|證《あかし》として|御靈《みたま》を|賜《たま》ひし|者《もの》は|神《かみ》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》らは|常《つね》に|心《こころ》|強《つよ》し、かつ|身《み》に|居《を》るうちは|主《しゅ》より|離《はな》れ|居《を》るを|知《し》る、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|見《み》ゆる|所《ところ》によらず、|信仰《しんかう》によりて|歩《あゆ》めばなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|心《こころ》|強《つよ》し、|願《ねが》ふところは|寧《むし》ろ|身《み》を|離《はな》れて|主《しゅ》と|偕《とも》に|居《を》らんことなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|身《み》に|居《を》るも|身《み》を|離《はな》るるも、ただ|御心《みこころ》に|適《かな》はんことを|力《つと》む。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》はみな|必《かなら》ずキリストの|審判《さばき》の|座《ざ》の|前《まへ》にあらはれ、|善《ぜん》にもあれ|惡《あく》にもあれ、|各人《おのおの》その|身《み》になしたる|事《こと》に|隨《したが》ひて|報《むくい》を|受《う》くべければなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|主《しゅ》の|畏《おそ》るべきを|知《し》るによりて|人々《ひとびと》に|説《と》き|勸《すす》む。われら|既《すで》に|神《かみ》に|知《し》られたり、|亦《また》なんぢらの|良心《りゃうしん》にも|知《し》られたりと|思《おも》ふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》は|再《ふたた》び|己《おのれ》を|汝《なんぢ》らに|薦《すす》むるにあらず、ただ|我等《われら》をもて|誇《ほこり》とする|機《をり》を|汝《なんぢ》らに|與《あた》へ、|心《こころ》によらず|外貌《うはべ》によりて|誇《ほこ》る|人々《ひとびと》に|答《こた》ふることを|得《え》させんとするなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》もし|心《こころ》|狂《くる》へるならば、|神《かみ》の|爲《ため》なり、|心《こころ》|慥《たしか》ならば、|汝《なんぢ》らの|爲《ため》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]キリストの|愛《あい》われらに|迫《せま》れり。|我《われ》ら|思《おも》ふに、|一人《ひとり》すべての|人《ひと》に|代《かわ》りて|死《し》にたれば、|凡《すべ》ての|人《ひと》すでに|死《し》にたるなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]その|凡《すべ》ての|人《ひと》に|代《かわ》りて|死《し》に|給《たま》ひしは、|生《い》ける|人《ひと》の|最早《もはや》おのれの|爲《ため》に|生《い》きず、|己《おのれ》に|代《かわ》り|死《し》にて|甦《よみが》へり|給《たま》ひし|者《もの》のために、|生《い》きん|爲《ため》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されば|今《いま》より|後《のち》われ|肉《にく》によりて|人《ひと》を|知《し》るまじ、|曾《かつ》て|肉《にく》によりてキリストを|知《し》りしが、|今《いま》より|後《のち》は|斯《か》くの|如《ごと》くに|知《し》ることをせじ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もしキリストに|在《あ》らば|新《あらた》に|造《つく》られたる|者《もの》なり、|古《ふる》きは|既《すで》に|過《す》ぎ|去《さ》り、|視《み》よ、|新《あたら》しくなりたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]これらの|事《こと》はみな|神《かみ》より|出《い》づ、|神《かみ》はキリストによりて|我《われ》らを|己《おのれ》と|和《やはら》がしめ、かつ|和《やはら》がしむる|職《つとめ》を|我《われ》らに|授《さづ》け|給《たま》へり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|神《かみ》はキリストに|在《あ》りて|世《よ》を|己《おのれ》と|和《やはら》がしめ、その|罪《つみ》を|之《これ》に|負《お》はせず、かつ|和《やはら》がしむる|言《ことば》を|我《われ》らに|委《ゆだ》ね|給《たま》へり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]されば|我等《われら》はキリストの|使者《つかひ》たり、|恰《あたか》も|神《かみ》の|我等《われら》によりて|汝《なんぢ》らを|勸《すす》め|給《たま》ふがごとし。|我等《われら》キリストに|代《かわ》りて|願《ねが》ふ、なんぢら|神《かみ》を|和《やはら》げ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|罪《つみ》を|知《し》り|給《たま》はざりし|者《もの》を|我《われ》らの|代《かわり》に|罪《つみ》となし|給《たま》へり、これ|我《われ》らが|彼《かれ》に|在《あ》りて|神《かみ》の|義《ぎ》となるを|得《え》んためなり。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|神《かみ》とともに|働《はたら》く|者《もの》なれば、|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》を|汝《なんぢ》らが|徒《いたづ》らに|受《う》けざらんことを|更《さら》に|勸《すす》む。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり](|神《かみ》いひ|給《たま》ふ [#ここから2字下げ] 『われ|惠《めぐみ》の|時《とき》に|汝《なんぢ》に|聽《き》き、 |救《すくひ》の|日《ひ》に|汝《なんぢ》を|助《たす》けたり』 [#ここで字下げ終わり] と。|視《み》よ、|今《いま》は|惠《めぐみ》のとき、|視《み》よ、|今《いま》は|救《すくひ》の|日《ひ》なり)[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》この|職《つとめ》の|謗《そし》られぬ|爲《ため》に|何事《なにごと》にも|人《ひと》を|躓《つまづ》かせず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|反《かへ》つて|凡《すべ》ての|事《こと》において|神《かみ》の|役者《えきしゃ》のごとく|己《おのれ》をあらはす、|即《すなは》ち|患難《なやみ》にも、|窮乏《ともしき》にも、|苦難《くるしみ》にも、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|打《う》たるるにも、|獄《ひとや》に|入《い》るにも、|騷擾《さわぎ》にも、|勞動《はたらき》にも、|眠《ねむ》らぬにも、|斷食《だんじき》にも、|大《おほい》なる|忍耐《にんたい》を|用《もち》ひ、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]また|廉潔《いさぎよき》と|知識《ちしき》と|寛容《くわんよう》と|仁慈《なさけ》と|聖《せい》|靈《れい》と|虚僞《いつはり》なき|愛《あい》と、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|眞《まこと》の|言《ことば》と|神《かみ》の|能力《ちから》と|左右《さいう》に|持《も》ちたる|義《ぎ》の|武器《ぶき》とにより、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]また|光榮《くわうえい》と|恥辱《はづかしめ》と|惡名《あしききこえ》と|美名《よききこえ》とによりて|表《あらは》す。|我《われ》らは|人《ひと》を|惑《まどは》す|者《もの》の|如《ごと》くなれども|眞《まこと》、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》に|知《し》られぬ|者《もの》の|如《ごと》くなれども|人《ひと》に|知《し》られ、|死《し》なんとする|者《もの》の|如《ごと》くなれども、|視《み》よ、|生《い》ける|者《もの》、|懲《こら》さるる|者《もの》の|如《ごと》くなれども|殺《ころ》されず、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|憂《うれ》ふる|者《もの》の|如《ごと》くなれども|常《つね》に|喜《よろこ》び、|貧《まづ》しき|者《もの》の|如《ごと》くなれども|多《おほ》くの|人《ひと》を|富《と》ませ、|何《なに》も|有《も》たぬ|者《もの》の|如《ごと》くなれども|凡《すべ》ての|物《もの》を|有《も》てり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]コリント|人《びと》よ、|我《われ》らの|口《くち》は|汝《なんぢ》らに|向《むか》ひて|開《ひら》け、|我《われ》らの|心《こころ》は|廣《ひろ》くなれり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|狹《せま》くせらるるは|我《われ》らに|因《よ》るにあらず、|反《かへ》つて|己《おの》が|心《こころ》に|因《よ》るなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らも|心《こころ》を|廣《ひろ》くして|我《われ》に|報《むくい》をせよ。(|我《われ》わが|子《こ》に|對《たい》する|如《ごと》く|言《い》ふなり)[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|不《ふ》|信者《しんじゃ》と|軛《くびき》を|同《おな》じうすな、|釣合《つりあ》はぬなり、|義《ぎ》と|不義《ふぎ》と|何《なに》の|干與《あづかり》かあらん、|光《ひかり》と|暗《やみ》と|何《なに》の|交際《まじはり》かあらん。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]キリストとベリアルと|何《なに》の|調和《てうわ》かあらん、|信者《しんじゃ》と|不《ふ》|信者《しんじゃ》と|何《なに》の|關係《かかはり》かあらん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|宮《みや》と|偶像《ぐうざう》と|何《なに》の|一致《いっち》かあらん、|我《われ》らは|活《い》ける|神《かみ》の|宮《みや》なり、|即《すなは》ち|神《かみ》の|言《い》ひ|給《たま》ひしが|如《ごと》し。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 『われ|彼《かれ》らの|中《うち》に|住《す》み、また|歩《あゆ》まん。 |我《われ》かれらの|神《かみ》となり、 |彼《かれ》|等《ら》わが|民《たみ》とならん』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に [#ここから2字下げ] 『|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ、 「|汝《なんぢ》|等《ら》かれらの|中《うち》より|出《い》で、|之《これ》を|離《はな》れ、 |穢《けが》れたる|者《もの》に|觸《ふ》るなかれ」と。 「さらば|我《われ》なんぢらを|受《う》け、 [#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らの|父《ちち》となり、 |汝《なんぢ》|等《ら》わが|息子《むすこ》むすめとならん」と、|全能《ぜんのう》の|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ』 [#ここで字下げ終わり] とあるなり。 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|愛《あい》する|者《もの》よ、|我《われ》らかかる|約束《やくそく》を|得《え》たれば、|肉《にく》と|靈《れい》との|汚穢《けがれ》より|全《まった》く|己《おのれ》を|潔《きよ》め、|神《かみ》を|畏《おそ》れてその|清潔《きよき》を|成就《じゃうじゅ》すべし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らを|受《う》け|容《い》れよ、われら|誰《たれ》にも|不義《ふぎ》をなしし|事《こと》なく、|誰《たれ》をも|害《そこな》ひし|事《こと》なく、|誰《たれ》をも|掠《かす》めし|事《こと》なし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]わが|斯《か》く|言《い》ふは、|汝《なんぢ》らを|咎《とが》めんとにあらず、そは|我《わ》が|既《すで》に|言《い》へる|如《ごと》く、|汝《なんぢ》らは|我《われ》らの|心《こころ》にありて、|共《とも》に|死《し》に|共《とも》に|生《い》くればなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢらを|信《しん》ずること|大《おほい》なり、また|汝《なんぢ》|等《ら》をもて|誇《ほこり》とすること|大《おほい》なり、|我《われ》は|慰安《なぐさめ》にみち、|凡《すべ》ての|患難《なやみ》の|中《うち》にも|喜悦《よろこび》あふるるなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]マケドニヤに|到《いた》りしとき、|我《われ》らの|身《み》はなほ|聊《いささ》かも|平安《やすき》を|得《え》ずして、|樣々《さまざま》の|患難《なやみ》に|遭《あ》ひ、|外《そと》には|分爭《あらそひ》、|内《うち》には|恐懼《おそれ》ありき。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|哀《あはれ》なる|者《もの》を|慰《なぐさ》むる|神《かみ》は、テトスの|來《きた》るによりて|我《われ》らを|慰《なぐさ》め|給《たま》へり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|唯《ただ》その|來《きた》るに|因《よ》りてのみならず、|彼《かれ》が|汝《なんぢ》らによりて|得《え》たる|慰安《なぐさめ》をもて|慰《なぐさ》め|給《たま》へり。|即《すなは》ち|汝《なんぢ》らの|我《われ》を|慕《した》ふこと、|歎《なげ》くこと、|我《われ》に|對《たい》して|熱心《ねっしん》なることを|我《われ》らに|告《つ》ぐるによりて、|我《われ》ますます|喜《よろこ》べり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|書《ふみ》をもて|汝《なんぢ》らを|憂《うれ》ひしめたれども|悔《く》いず、その|書《ふみ》の|汝《なんぢ》らを|暫《しばら》く|憂《うれ》ひしめしを|見《み》て、|前《さき》には|悔《く》いたれども|今《いま》は|喜《よろこ》ぶ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]わが|喜《よろこ》ぶは|汝《なんぢ》らの|憂《うれ》ひしが|故《ゆゑ》にあらず、|憂《うれ》ひて|悔改《くいあらため》に|至《いた》りし|故《ゆゑ》なり。|汝《なんぢ》らは|神《かみ》に|從《したが》ひて|憂《うれ》ひたれば、|我等《われら》より|聊《いささ》かも|損《そん》を|受《う》けざりき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》にしたがふ|憂《うれひ》は、|悔《くい》なきの|救《すくひ》を|得《う》るの|悔改《くいあらため》を|生《しゃう》じ、|世《よ》の|憂《うれひ》は|死《し》を|生《しゃう》ず。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|汝《なんぢ》らが|神《かみ》に|從《したが》ひて|憂《うれ》ひしことは、|如何《いか》ばかりの|奮勵《はげみ》・|辯明《べんめい》・|憤激《いきどほり》・|恐懼《おそれ》・|愛慕《したひ》・|熱心《ねっしん》・|罪《つみ》を|責《せ》むる|心《こころ》などを|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|生《しゃう》じたりしかを。|汝《なんぢ》|等《ら》かの|事《こと》に|就《つ》きては|全《まった》く|潔《きよ》きことを|表《あらは》せり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]されば|前《さき》に|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|書《か》き|贈《おく》りしも、|不義《ふぎ》をなしたる|人《ひと》の|爲《ため》にあらず、また|不義《ふぎ》を|受《う》けたり|人《ひと》の|爲《ため》にあらず、|我《われ》らに|對《たい》する|汝《なんぢ》らの|奮勵《はげみ》の、|神《かみ》の|前《まへ》にて|汝《なんぢ》らに|顯《あらは》れん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》らは|慰安《なぐさめ》を|得《え》たり。|慰安《なぐさめ》を|得《え》たる|上《うへ》にテトスの|喜悦《よろこび》によりて|更《さら》に|喜《よろこ》べり。そは|彼《かれ》の|心《こころ》なんぢら|一同《いちどう》によりて|安《やす》んぜられたればなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]われ|曩《さき》に|彼《かれ》の|前《まへ》に|汝《なんぢ》らに|就《つ》きて|誇《ほこ》りたれど|恥《は》づることなし、|我《われ》らが|汝《なんぢ》らに|語《かた》りし|事《こと》のみな|誠實《まこと》なりし|如《ごと》く、テトスの|前《まへ》に|誇《ほこ》りし|事《こと》もまた|誠實《まこと》となれり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|汝《なんぢ》|等《ら》みな|從順《じゅうじゅん》にして|畏《おそ》れ|戰《おのの》き、|己《おのれ》を|迎《むか》へしことを|思《おも》ひ|出《いだ》して、|心《こころ》を|汝《なんぢ》らに|寄《よ》すること|増々《ますます》|深《ふか》し。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われ|凡《すべ》ての|事《こと》に|汝《なんぢ》らに|就《つ》きて|心《こころ》|強《つよ》きを|喜《よろこ》ぶ。 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らマケドニヤの|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|賜《たま》ひたる|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》を|汝《なんぢ》らに|知《し》らす。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|患難《なやみ》の|大《おほい》なる|試練《こころみ》のうちに|彼《かれ》らの|喜悦《よろこび》あふれ、|又《また》その|甚《はなは》だしき|貧窮《まづしさ》は|吝《をし》みなく|施《ほどこ》す|富《とみ》の|溢《あふ》るるに|至《いた》れり。[#太字]三 四[#「三 四」は行右小書き][#太字終わり]われ|證《あかし》す、|彼《かれ》らは|聖徒《せいと》に|事《つか》ふることに|與《あづか》る|惠《めぐみ》を|切《せつ》に|我《われ》らに|請《こ》ひ|求《もと》め、みづから|進《すす》みて、|力《ちから》に|應《おう》じ、|否《いな》これに|過《す》ぎて|施濟《ほどこし》をなせり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|望《のぞみ》のほかに|先《ま》づ|己《おのれ》を|主《しゅ》にささげ、|神《かみ》の|御意《みこころ》によりて|我《われ》らにも|身《み》を|委《ゆだ》ねたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》らはテトスが|前《さき》に|此《こ》の|慈惠《めぐみ》のことを|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|始《はじ》めたれば、|又《また》これを|成就《じゃうじゅ》せんことを|勸《すす》めたり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もろもろの|事《こと》、すなはち|信仰《しんかう》に、|言《ことば》に、|知識《ちしき》に、|凡《すべ》ての|奮勵《はげみ》に、また|我《われ》らに|對《たい》する|愛《あい》に|富《と》めるごとく、|此《こ》の|慈惠《めぐみ》にも|富《と》むべし。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|斯《か》く|言《い》ふは|汝《なんぢ》らに|命《めい》ずるにあらず、ただ|他《ほか》の|人《ひと》の|奮勵《はげみ》によりて、|汝《なんぢ》らの|愛《あい》の|眞實《しんじつ》を|試《こころ》みん|爲《ため》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|恩惠《めぐみ》を|知《し》る。|即《すなは》ち|富《と》める|者《もの》にて|在《いま》したれど、|汝《なんぢ》|等《ら》のために|貧《まづ》しき|者《もの》となり|給《たま》へり。これ|汝《なんぢ》らが|彼《かれ》の|貧窮《まづしさ》によりて|富《と》める|者《もの》とならん|爲《ため》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|施濟《ほどこし》のことに|就《つ》きて|我《われ》ただ|意見《いけん》を|述《の》ぶ、これは|汝《なんぢ》らの|益《えき》なり。|汝《なんぢ》らは|此《こ》の|事《こと》をただに|一年《ひととせ》|前《まへ》より|人《ひと》に|先《さき》だちて|行《おこな》ひしのみならず、|又《また》これを|願《ねがひ》い|始《はじ》めし|事《こと》なれば、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》これを|成《な》し|遂《と》げよ、|汝《なんぢ》らが|心《こころ》より|願《ねが》ひしごとく、|所有《もちもの》に|應《おう》じて|成《な》し|遂《と》げよ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|志望《こころざし》あらば、|其《そ》の|有《も》たぬ|所《ところ》に|由《よ》るにあらず、|其《そ》の|有《も》つ|所《ところ》に|由《よ》りて|嘉納《かなふ》せらるるなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]これ|他《ほか》の|人《ひと》を|安《やす》くして|汝《なんぢ》らを|苦《くる》しめんとにあらず、|均《ひと》しくせんとするなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]すなはち|今《いま》なんぢらの|餘《あま》るところは|彼《かれ》らの|足《た》らざるを|補《おぎな》ひ、|後《のち》また|彼《かれ》らの|餘《あま》る|所《ところ》は|汝《なんぢ》らの|足《た》らざるを|補《おぎな》ひて、|均《ひと》しくなるに|至《いた》らんためなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して『|多《おほ》く|集《あつ》めし|者《もの》にも|餘《あま》る|所《ところ》なく、|少《すくな》く|集《あつ》めし|者《もの》にも|足《た》らざる|所《ところ》なかりき』とあるが|如《ごと》し。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らに|對《たい》する|同《おな》じ|熱心《ねっしん》をテトスの|心《こころ》にも|賜《たま》へる|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はただに|勸《すすめ》を|容《い》れしのみならず、|甚《はなは》だ|熱心《ねっしん》にして、|自《みづか》ら|進《すす》んで|汝《なんぢ》らに|往《ゆ》くなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》また|彼《かれ》とともに|一人《ひとり》の|兄弟《きゃうだい》を|遣《つかは》す。この|人《ひと》は|福音《ふくいん》をもて|諸《しょ》|教會《けうくわい》のうちに|譽《ほまれ》を|得《え》たる|上《うへ》に、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|榮光《えいくわう》と|我《われ》らの|志望《こころざし》とを|顯《あらは》さんがために、|掌《つかさ》どれる|此《こ》の|慈惠《めぐみ》に|就《つ》きて、|諸《しょ》|教會《けうくわい》より|我《われ》らの|道伴《みちづれ》として|選《えら》ばれたる|者《もの》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》を|遣《つかは》すは、|此《こ》の|大《おほい》なる|醵金《きょきん》を|掌《つかさ》どるに、|人《ひと》に|咎《とが》めらるる|事《こと》を|避《さ》けんためなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]そは|主《しゅ》の|前《まへ》のみならず、|人《ひと》の|前《まへ》にも|善《よ》からんことを|慮《おもん》ぱかりてなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]また|一人《ひとり》の|兄弟《きゃうだい》を|彼《かれ》らと|共《とも》につかはす、|我《われ》らは|多《おほ》くの|事《こと》につきて|屡次《しばしば》かれの|熱心《ねっしん》なるを|認《みと》めたり。|而《しか》して|今《いま》は|彼《かれ》が|汝《なんぢ》らを|深《ふか》く|信《しん》ずるに|因《よ》りて、その|熱心《ねっしん》の|更《さら》に|加《くは》はるを|認《みと》む。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]テトスのことを|言《い》へば、|我《わ》が|友《とも》なり、|汝《なんぢ》らに|對《たい》して|我《わ》が|同勞者《どうらうしゃ》なり。この|兄弟《きゃうだい》たちの|事《こと》をいへば、|彼《かれ》らは|諸《しょ》|教會《けうくわい》の|使《つかひ》なり、キリストの|榮光《えいくわう》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》らの|愛《あい》と|我《われ》らが|汝《なんぢ》らに|就《つ》きて|誇《ほこり》れる|事《こと》との|證《あかし》を、|諸《しょ》|教會《けうくわい》の|前《まへ》にて|彼《かれ》らに|顯《あらは》せ。 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|聖徒《せいと》に|施《ほどこ》すことに|就《つ》きては|汝《なんぢ》らに|書《か》きおくるに|及《およ》ばず、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢらの|志望《こころざし》あるを|知《し》ればなり。その|志望《こころざし》につき|汝《なんぢ》らの|事《こと》をマケドニヤ|人《びと》に|誇《ほこ》りて、アカヤは|既《すで》に|一年《ひととせ》|前《まへ》に|準備《じゅんび》をなせりと|云《い》へり。かくて|汝《なんぢ》らの|熱心《ねっしん》は|多《おほ》くの|人《ひと》を|勵《はげ》ましたり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されどわれ|兄弟《きゃうだい》たちを|遣《つかは》すは、|我《わ》が|言《い》ひしごとく|汝《なんぢ》らに|準備《じゅんび》をなさしめ、|之《これ》につきて|我《われ》らの|誇《ほこ》りし|事《こと》の|空《むな》しくならざらん|爲《ため》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]もしマケドニヤ|人《びと》われと|共《とも》に|來《きた》りて|汝《なんぢ》らの|準備《じゅんび》なきを|見《み》ば、|汝《なんぢ》らは|言《い》ふに|及《およ》ばず、|我《われ》らも|確信《かくしん》せしによりて|恐《おそ》らくは|恥《はぢ》を|受《う》けん。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|兄弟《きゃうだい》たちを|勸《すす》めて、|先《ま》づ|汝《なんぢ》らに|往《ゆ》かしめ、|曩《さき》に|汝《なんぢ》らが|約束《やくそく》したる|慈惠《めぐみ》を、|吝《をし》むが|如《ごと》くせずして、|惠《めぐ》む|心《こころ》よりせん|爲《ため》に|預《あらか》じめ|調《ととの》へしむるは、|必要《ひつえう》のことと|思《おも》へり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]それ|少《すくな》く|播《ま》く|者《もの》は|少《すくな》く|刈《か》り、|多《おほ》く|播《ま》く|者《もの》は|多《おほ》く|刈《か》るべし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]おのおの|吝《をし》むことなく、|強《し》ひてすることなく、その|心《こころ》に|定《さだ》めし|如《ごと》くせよ。|神《かみ》は|喜《よろこ》びて|與《あた》ふる|人《ひと》を|愛《あい》し|給《たま》へばなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|汝《なんぢ》|等《ら》をして|常《つね》に|凡《すべ》ての|物《もの》に|足《た》らざることなく、|凡《すべ》ての|善《よ》き|業《わざ》に|溢《あふ》れしめんために、|凡《すべ》ての|恩惠《めぐみ》を|溢《あふ》るるばかり|與《あた》ふることを|得給《えたま》ふなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して [#ここから2字下げ] 『|彼《かれ》は|散《ちら》して|貧《まづ》しき|者《もの》に|與《あた》へたり。 その|正義《ただしき》は|永遠《とこしへ》に|存《のこ》らん』 [#ここで字下げ終わり] とある|如《ごと》し。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|播《ま》く|人《ひと》に|種《たね》と|食《しょく》するパンとを|與《あた》ふる|者《もの》は、|汝《なんぢ》らにも|種《たね》をあたへ、|且《かつ》これを|殖《ふや》し、また|汝《なんぢ》らの|義《ぎ》の|果《み》を|増《ま》し|給《たま》ふべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|一切《すべて》に|富《と》みて|吝《をし》みなく|施《ほどこ》すことを|得《え》、かくて|我《われ》らの|事《こと》により、|人々《ひとびと》|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》するに|至《いた》るなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|施濟《ほどこし》の|務《つとめ》は、ただに|聖徒《せいと》の|窮乏《ともしき》を|補《おぎな》ふのみならず、|充《み》ち|溢《あふ》れて|神《かみ》に|對《たい》する|感謝《かんしゃ》を|多《おほ》からしむ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|彼《かれ》らは|此《こ》の|務《つとめ》を|證據《しょうこ》として、|汝《なんぢ》らがキリストの|福音《ふくいん》に|對《たい》する|言明《いひあらはし》に|順《したが》ふことと、|彼《かれ》らにも|凡《すべ》ての|人《ひと》にも|吝《をし》みなく|施《ほどこ》すこととに|就《つ》きて、|神《かみ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》し、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かつ|神《かみ》の|汝《なんぢ》らに|給《たま》ひし|優《すぐ》れたる|恩惠《めぐみ》により、|汝《なんぢ》らを|慕《した》ひて|汝《なんぢ》|等《ら》のために|祈《いの》らん。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|言《い》ひ|盡《つく》しがたき|神《かみ》の|賜物《たまもの》につきて|感謝《かんしゃ》す。 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らに|對《たい》し|面前《めんぜん》にては|謙《へりく》だり、|離《はな》れゐては|勇《いさ》ましき|我《われ》パウロ、|自《みづか》らキリストの|柔和《にうわ》と|寛容《くわんよう》とをもて|汝《なんぢ》らに|勸《すす》む。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らを|肉《にく》に|從《したが》ひて|歩《あゆ》むごとく|思《おも》ふ|者《もの》あれば、|斯《か》かる|者《もの》に|對《たい》しては|雄々《をを》しくせんと|思《おも》へど、|願《ねが》ふ|所《ところ》は|我《わ》が|汝《なんぢ》らに|逢《あ》ふとき|斯《か》く|勇《いさ》ましくせざらん|事《こと》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|肉《にく》にありて|歩《あゆ》めども、|肉《にく》に|從《したが》ひて|戰《たたか》はず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]それ|我《われ》らの|戰爭《たたかひ》の|武器《ぶき》は|肉《にく》に|屬《ぞく》するにあらず、|神《かみ》の|前《まへ》には|城砦《とりで》を|破《やぶ》るほどの|能力《ちから》あり、|我等《われら》はもろもろの|論説《ろんせつ》を|破《やぶ》り、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|示教《しめし》に|逆《さから》ひて|建《た》てたる|凡《すべ》ての|櫓《やぐら》を|毀《こぼ》ち、|凡《すべ》ての|念《おもひ》を|虜《とりこ》にしてキリストに|服《したが》はしむ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》なんぢらの|從順《じゅうじゅん》の|全《まった》くならん|時《とき》、すべての|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》を|罰《ばっ》せんと|覺悟《かくご》せり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|外貌《うはべ》のみを|見《み》る、|若《も》し|人《ひと》みづからキリストに|屬《ぞく》する|者《もの》と|信《しん》ぜば、|己《おの》がキリストに|屬《ぞく》する|如《ごと》く、|我《われ》らも|亦《また》キリストに|屬《ぞく》する|者《もの》なることを|更《さら》に|考《かんが》ふべし。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|假令《たとひ》われ|汝《なんぢ》らを|破《やぶ》る|爲《ため》ならずして|建《た》つる|爲《ため》に、|主《しゅ》が|我《われ》らに|賜《たま》ひたる|權威《けんゐ》につきて|誇《ほこ》ること|稍《やや》|過《す》ぐとも|恥《はぢ》とはならじ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われ|書《ふみ》をもて|汝《なんぢ》らを|嚇《おど》すと|思《おも》はざれ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|言《い》ふ『その|書《ふみ》は|重《おも》くかつ|強《つよ》し、その|逢《あ》ふときの|容貌《かたち》は|弱《よわ》く、|言《ことば》は|鄙《いや》し』と。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとき|人《ひと》は|思《おも》ふべし。|我《われ》らが|離《はな》れをる|時《とき》おくる|書《ふみ》の|言《ことば》のごとく、|逢《あ》ふときの|行爲《おこなひ》も|亦《また》|然《しか》るを。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|己《おのれ》を|譽《ほ》むる|人《ひと》と|敢《あ》へて|竝《なら》び、また|較《くら》ぶる|事《こと》をせず、|彼《かれ》らは|己《おのれ》によりて|己《おのれ》を|度《はか》り、|己《おのれ》をもて|己《おのれ》に|較《くら》ぶれば|智《ち》なき|者《もの》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|範圍《はんゐ》を|踰《こ》えて|誇《ほこ》らず、|神《かみ》の|我《われ》らに|分《わか》ち|賜《たま》ひたる|範圍《はんゐ》にしたがひて|誇《ほこ》らん。その|範圍《はんゐ》は|汝《なんぢ》らに|及《およ》べり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らに|及《およ》ばぬ|者《もの》のごとく|範圍《はんゐ》を|踰《こ》えて|身《み》を|延《のば》すに|非《あら》ず、キリストの|福音《ふくいん》を|傳《つた》へて|汝《なんぢ》らにまで|到《いた》れるなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|己《おの》が|範圍《はんゐ》を|踰《こ》えて|他《ほか》の|人《ひと》の|勞《らう》を|誇《ほこ》らず、|唯《ただ》なんぢらの|信仰《しんかう》の|彌増《いやま》すにより、|我《われ》らの|範圍《はんゐ》に|循《したが》ひて|汝《なんぢ》らのうちに|更《さら》に|大《おほい》ならんことを|望《のぞ》む。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]これ|他《ほか》の|人《ひと》の|範圍《はんゐ》に|既《すで》に|備《そなは》りたるものを|誇《ほこ》らず、|汝《なんぢ》らを|踰《こ》えて|外《ほか》の|處《ところ》に|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|誇《ほこ》る|者《もの》は|主《しゅ》によりて|誇《ほこ》るべし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]そは|是《これ》とせらるるは|己《おのれ》を|譽《ほ》むる|者《もの》にあらず、|主《しゅ》の|譽《ほ》め|給《たま》ふ|者《もの》なればなり。 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|汝《なんぢ》|等《ら》わが|少《すこ》しの|愚《おろか》を|忍《しの》ばんことを。|請《こ》ふ|我《われ》を|忍《しの》べ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われ|神《かみ》の|熱心《ねっしん》をもて|汝《なんぢ》らを|慕《した》ふ、われ|汝《なんぢ》らを|潔《きよ》き|處女《をとめ》として|一人《ひとり》の|夫《をっと》なるキリストに|献《ささ》げんとて、|之《これ》に|許嫁《いひなづけ》したればなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《わ》が|恐《おそ》るるは、|蛇《へび》の|惡巧《わるだくみ》によりてエバの|惑《まどは》されし|如《ごと》く、|汝《なんぢ》らの|心《こころ》|害《そこな》はれてキリストに|對《たい》する|眞心《まごころ》と|貞操《みさを》とを|失《うしな》はん|事《こと》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]もし|人《ひと》きたりて|我《われ》らの|未《いま》だ|宣《の》べざる|他《ほか》のイエスを|宣《の》ぶる|時《とき》、また|汝《なんぢ》らが|未《いま》だ|受《う》けざる|他《ほか》の|靈《れい》を|受《う》け、|未《いま》だ|受《う》け|容《い》れざる|他《ほか》の|福音《ふくいん》を|受《う》くるときは、|汝《なんぢ》ら|能《よ》く|之《これ》を|忍《しの》ばん。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|何事《なにごと》にもかの|大使徒《だいしと》たちに|劣《おと》らずと|思《おも》ふ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]われ|言《ことば》に|拙《つたな》けれども|知識《ちしき》には|然《しか》らず、|凡《すべ》ての|事《こと》にて|全《まった》く|之《これ》を|汝《なんぢ》らに|顯《あらは》せり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らを|高《たか》うせんために|自己《みづから》を|卑《ひく》うし、|價《あたひ》なくして|神《かみ》の|福音《ふくいん》を|傳《つた》へたるは|罪《つみ》なりや。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|他《ほか》の|教會《けうくわい》より|奪《うば》ひ|取《と》り、その|俸給《ほうきふ》をもて|汝《なんぢ》らに|事《つか》へたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》なんぢらの|中《うち》に|在《あ》りて|乏《とぼ》しかりしとき、|誰《たれ》をも|煩《わづら》はさず、マケドニヤより|來《きた》りし|兄弟《きゃうだい》たち|我《わ》が|窮乏《ともしき》を|補《おぎな》へり。|斯《か》く|凡《すべ》ての|事《こと》に|汝《なんぢ》らを|煩《わづら》はすまじと|愼《つつし》みたるが、|此《こ》の|後《のち》もなほ|愼《つつし》まん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》に|在《あ》るキリストの|誠實《まこと》によりて|言《い》ふ、|我《われ》この|誇《ほこり》をアカヤの|地方《ちはう》にて|阻《はば》まるる|事《こと》あらじ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]これ|何《なに》|故《ゆゑ》ぞ、|汝《なんぢ》らを|愛《あい》せぬに|因《よ》るか、|神《かみ》は|知《し》りたまふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》わが|行《おこな》ふ|所《ところ》をなほ|行《おこな》はん、これ|機會《をり》をうかがふ|者《もの》の|機會《をり》を|斷《た》ち、|彼《かれ》|等《ら》をしてその|誇《ほこ》る|所《ところ》につき|我《われ》らの|如《ごと》くならしめん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かくの|如《ごと》きは|僞《にせ》|使徒《しと》また|詭計《たばかり》の|勞動人《はたらきびと》にして、|己《おのれ》をキリストの|使徒《しと》に|扮《よそほ》へる|者《もの》どもなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]これ|珍《めづら》しき|事《こと》にあらず、サタンも|己《おのれ》を|光《ひかり》の|御使《みつかひ》に|扮《よそほ》へば、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]その|役者《えきしゃ》らが|義《ぎ》の|役者《えきしゃ》のごとく|扮《よそほ》ふは|大事《だいじ》にはあらず、|彼《かれ》|等《ら》の|終局《をはり》はその|業《わざ》に|適《かな》ふべし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われ|復《また》いはん、|誰《たれ》も|我《われ》を|愚《おろか》と|思《おも》ふな。もし|然《しか》おもふとも、|少《こ》しく|誇《ほこ》る|機《をり》を|我《われ》にも|得《え》させん|爲《ため》に、|愚《おろか》なる|者《もの》として|受《う》け|容《い》れよ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》いふ|所《ところ》は|主《しゅ》によりて|言《い》ふにあらず、|愚《おろか》なる|者《もの》として|大膽《だいたん》に|誇《ほこ》りて|言《い》ふなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|多《おほ》くの|人《ひと》、|肉《にく》によりて|誇《ほこ》れば、|我《われ》も|誇《ほこ》るべし。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|智《かしこ》き|者《もの》なれば|喜《よろこ》びて|愚《おろか》なる|者《もの》を|忍《しの》ぶなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|汝《なんぢ》らを|奴隷《どれい》とすとも、|食《く》ひ|盡《つく》すとも、|掠《かす》めとるとも、|驕《おご》るとも、|顏《かほ》を|打《う》つとも、|汝《なんぢ》らは|之《これ》を|忍《しの》ぶ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]われ|恥《は》ぢて|言《い》ふ、|我《われ》らは|弱《よわ》き|者《もの》の|如《ごと》くなりき。されど|人《ひと》の|雄々《をを》しき|所《ところ》は|我《われ》もまた|雄々《をを》し、われ|愚《おろか》にも|斯《か》く|言《い》ふなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らヘブル|人《びと》なるか、|我《われ》も|然《しか》り、|彼《かれ》らイスラエル|人《ひと》なるか、|我《われ》も|然《しか》り、|彼《かれ》らアブラハムの|裔《すゑ》なるか、|我《われ》も|然《しか》り。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らキリストの|役者《えきしゃ》なるか、われ|狂《くる》へる|如《ごと》く|言《い》ふ、|我《われ》はなほ|勝《まさ》れり。わが|勞《らう》は|更《さら》におほく、|獄《ひとや》に|入《い》れられしこと|更《さら》に|多《おほ》く、|鞭《むち》うたれしこと|更《さら》に|夥《おびた》だしく、|死《し》に|瀕《のぞ》みたりしこと|屡次《しばしば》なりき。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》より|四十《しじふ》に|一《ひと》つ|足《た》らぬ|鞭《むち》を|受《う》けしこと|五度《いつたび》、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|笞《しもと》にて|打《う》たれしこと|三《み》たび、|石《いし》にて|打《う》たれしこと|一《ひと》たび、|破船《はせん》に|遭《あ》ひしこと|三度《みたび》にして、|一晝夜《いちちうや》|海《うみ》にありき。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]しばしば|旅行《りょかう》して|河《かは》の|難《なん》、|盜賊《たうぞく》の|難《なん》、|同族《どうぞく》の|難《なん》、|異邦人《いはうじん》の|難《なん》、|市中《しちゅう》の|難《なん》、|荒野《あらの》の|難《なん》、|海上《かいじゃう》の|難《なん》、|僞《にせ》|兄弟《きゃうだい》の|難《なん》にあひ、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|勞《らう》し、|苦《くる》しみ、しばしば|眠《ねむ》らず、|飢《う》ゑ|渇《かわ》き、しばしば|斷食《だんじき》し、|凍《こご》え、|裸《はだか》なりき。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]ここに|擧《あ》げざる|事《こと》もあるに、なほ|日々《ひび》われに|迫《せま》る|諸《しょ》|教會《けうくわい》の|心勞《こころづかひ》あり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》か|弱《よわ》りて|我《われ》|弱《よわ》らざらんや、|誰《たれ》か|躓《つまづ》きて|我《われ》|燃《も》えざらんや。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]もし|誇《ほこ》るべくは、|我《わ》が|弱《よわ》き|所《ところ》につきて|誇《ほこ》らん。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|永遠《とこしへ》に|讃《ほ》むべき|者《もの》、すなはち|主《しゅ》イエスの|神《かみ》また|父《ちち》は、|我《わ》が|僞《いつは》らざるを|知《し》り|給《たま》ふ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]ダマスコにてアレタ|王《わう》の|下《もと》にある|總督《そうとく》、われを|捕《とら》へんとてダマスコ|人《ひと》の|町《まち》を|守《まも》りたれば、[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|籠《かご》にて|窓《まど》より|石垣傳《いしがきづた》ひに|縋《つ》り|下《おろ》されて|其《そ》の|手《て》を|脱《のが》れたり。 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]わが|誇《ほこ》るは|益《えき》なしと|雖《いへど》も|止《や》むを|得《え》ざるなり、|茲《ここ》に|主《しゅ》の|顯示《しめし》と|默示《もくし》とに|及《およ》ばん。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はキリストにある|一人《ひとり》の|人《ひと》を|知《し》る。この|人《ひと》、|十四年《じふよねん》|前《まへ》に|第三《だいさん》の|天《てん》にまで|取去《とりさ》られたり(|肉體《にくたい》にてか、われ|知《し》らず、|肉體《にくたい》を|離《はな》れてか、われ|知《し》らず、|神《かみ》しり|給《たま》ふ)[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われ|斯《か》くのごとき|人《ひと》を|知《し》る(|肉體《にくたい》にてか、|肉體《にくたい》の|外《ほか》にてか、われ|知《し》らず、|神《かみ》しり|給《たま》ふ)[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かれパラダイスに|取去《とりさ》られて、|言《い》ひ|得《え》ざる|言《ことば》、|人《ひと》の|語《かた》るまじき|言《ことば》を|聞《き》けり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]われ|斯《か》くのごとき|人《ひと》のために|誇《ほこ》らん、されど|我《わ》が|爲《ため》には|弱《よわ》き|事《こと》のほか|誇《ほこ》るまじ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]もし|自《みづか》ら|誇《ほこ》るとも|我《わ》が|言《い》ふところ|誠實《まこと》なれば、|愚《おろか》なる|者《もの》とならじ。されど|之《これ》を|罷《や》めん。|恐《おそ》らくは|人《ひと》の|我《われ》を|見《み》われに|聞《き》くところに|過《す》ぎて、|我《われ》を|思《おも》ふことあらん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|我《わ》が|蒙《かうむ》りたる|默示《もくし》の|鴻大《こうだい》なるによりて|高《たか》ぶることのなからん|爲《ため》に、|肉體《にくたい》に|一《ひと》つの|刺《とげ》を|與《あた》へらる、|即《すなは》ち|高《たか》ぶることなからん|爲《ため》に|我《われ》を|撃《う》つサタンの|使《つかひ》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|之《これ》がために|三度《みたび》まで|之《これ》を|去《さ》らしめ|給《たま》はんことを|主《しゅ》に|求《もと》めたるに、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|言《い》ひたまふ『わが|恩惠《めぐみ》なんぢに|足《た》れり、わが|能力《ちから》は|弱《よわ》きうちに|全《まった》うせらるればなり』さればキリストの|能力《ちから》の|我《われ》を|庇《おほ》はんために、|寧《むし》ろ|大《おほい》に|喜《よろこ》びて|我《わ》が|微弱《よわき》を|誇《ほこ》らん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》はキリストの|爲《ため》に|微弱《よわき》・|恥辱《はづかしめ》・|艱難《なやみ》・|迫害《はくがい》・|苦難《くるしみ》に|遭《あ》ふことを|喜《よろこ》ぶ、そは|我《われ》よわき|時《とき》に|強《つよ》ければなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|強《し》ひられて|愚《おろか》になれり、|我《われ》は|汝《なんぢ》らに|譽《ほ》めらるべかりしなり。|我《われ》は|數《かぞ》ふるに|足《た》らぬ|者《もの》なれども、|何事《なにごと》にもかの|大使徒《だいしと》たちに|劣《おと》らざりしなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》と|能力《ちから》ある|業《わざ》とを|行《おこな》ひ、|大《おほい》なる|忍耐《にんたい》を|用《もち》ひて|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|使徒《しと》の|徴《しるし》をなせり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|他《ほか》の|教會《けうくわい》に|何《なに》の|劣《おと》る|所《ところ》かある、|唯《ただ》わが|汝《なんぢ》らを|煩《わづら》はさざりし|事《こと》のみならずや、|此《こ》の|不義《ふぎ》は|請《こ》ふ|我《われ》に|恕《ゆる》せ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|茲《ここ》に|三度《みたび》なんぢらに|到《いた》らんとして|準備《じゅんび》したれど、|尚《なほ》なんぢらを|煩《わづら》はすまじ。|我《われ》は|汝《なんぢ》らの|所有《もの》を|求《もと》めず、ただ|汝《なんぢ》らを|求《もと》む。それ|子《こ》は|親《おや》のために|貯《たくは》ふべきにあらず、|親《おや》は|子《こ》のために|貯《たくは》ふべきなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|大《おほい》に|喜《よろこ》びて|汝《なんぢ》らの|靈魂《たましひ》のために|物《もの》を|費《つひや》し、また|身《み》をも|費《つひや》さん。|我《われ》なんぢらを|多《おほ》く|愛《あい》するによりて、|汝《なんぢ》ら|我《われ》を|少《すくな》く|愛《あい》するか。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》いはん、|我《われ》なんぢらを|煩《わづら》はさざりしも、|狡猾《かうくわつ》にして|詭計《たばかり》をもて|取《と》りしなりと。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|我《われ》なんぢらに|遣《つかは》しし|者《もの》のうちの|誰《たれ》によりて|汝《なんぢ》らを|掠《かす》めしや。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》テトスを|勸《すす》めて|汝《なんぢ》らに|遣《つかは》し、これと|共《とも》にかの|兄弟《きゃうだい》を|遣《つかは》せり、テトスは|汝《なんぢ》らを|掠《かす》めしや。|我《われ》らは|同《おな》じ|御靈《みたま》によりて|歩《あゆ》み、|同《おな》じ|足跡《あしあと》を|蹈《ふ》みしにあらずや。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|夙《はや》くより|我等《われら》なんぢらに|對《たい》して|辯明《べんめい》すと|思《おも》ひしならん。されど|我《われ》らはキリストに|在《あ》りて|神《かみ》の|前《まへ》にて|語《かた》る。|愛《あい》する|者《もの》よ、これ|皆《みな》なんぢらの|徳《とく》を|建《た》てん|爲《ため》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]わが|到《いた》りて|汝《なんぢ》らを|見《み》ん|時《とき》、わが|望《のぞみ》の|如《ごと》くならず、|汝《なんぢ》らが|我《われ》を|見《み》んとき、|亦《また》なんぢらの|望《のぞみ》の|如《ごと》くならざらんことを|恐《おそ》れ、かつ|分爭《あらそひ》・|嫉妬《ねたみ》・|憤恚《いきどほり》・|徒黨《とたう》・|誹謗《そしり》・|讒言《ざんげん》・|驕傲《たかぶり》・|騷亂《さわぎ》などの|有《あ》らんことを|恐《おそ》る。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]また|重《かさ》ねて|到《いた》らん|時《とき》、わが|神《かみ》われを|汝《なんぢ》|等《ら》のまへにて|辱《はづか》しめ、|且《かつ》おほくの|人《ひと》の、|前《さき》に|罪《つみ》を|犯《をか》して|行《おこな》ひし|不潔《ふけつ》と|姦淫《かんいん》と|好色《かうしょく》とを|悔改《くいあらた》めざるを|悲《かな》しましめ|給《たま》ふことあらん|乎《か》と|恐《おそ》る。 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》われ|三度《みたび》なんぢらに|到《いた》らんとす、|二《に》|三《さん》の|證人《しょうにん》の|口《くち》によりて|凡《すべ》てのこと|慥《たしか》めらるべし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われ|既《すで》に|告《つ》げたれど、|今《いま》|離《はな》れをりて、|二度《ふたたび》なんぢらに|逢《あ》ひし|時《とき》のごとく、|前《さき》に|罪《つみ》を|犯《をか》したる|者《もの》とその|他《ほか》の|凡《すべ》ての|人々《ひとびと》とに|預《あらか》じめ|告《つ》ぐ、われ|復《また》いたらば|決《けっ》して|宥《ゆる》さじ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らはキリストの|我《われ》にありて|語《かた》りたまふ|證據《しょうこ》を|求《もと》むればなり。キリストは|汝《なんぢ》らに|對《むか》ひて|弱《よわ》からず、|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|強《つよ》し。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|微弱《よわき》によりて|十字架《じふじか》に|釘《つ》けられ|給《たま》ひたれど、|神《かみ》の|能力《ちから》によりて|生《い》き|給《たま》へばなり。|我《われ》らもキリストに|在《あ》りて|弱《よわ》き|者《もの》なれど、|汝《なんぢ》らに|向《むか》ふ|神《かみ》の|能力《ちから》によりて|彼《かれ》と|共《とも》に|生《い》きん。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|信仰《しんかう》に|居《を》るや|否《いな》や、みづから|試《こころ》み|自《みづか》ら|驗《ため》しみよ。|汝《なんぢ》らみづから|知《し》らざらんや、|若《も》し|棄《す》てらるる|者《もの》ならずば、イエス・キリストの|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|在《いま》す|事《こと》を、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|我《われ》らの|棄《す》てらるる|者《もの》ならぬを|汝《なんぢ》らの|知《し》らんことを|望《のぞ》む。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|汝《なんぢ》らの|少《すこ》しにても|惡《あく》を|行《おこな》はざらんことを|神《かみ》に|祈《いの》る。これ|我《われ》らの|是《ぜ》とせらるるを|顯《あらは》さん|爲《ため》にあらず、よし|我《われ》らは|棄《す》てらるる|者《もの》の|如《ごと》くなるとも、|汝《なんぢ》らの|善《ぜん》を|行《おこな》はん|爲《ため》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|眞理《まこと》に|逆《さから》ひて|能力《ちから》なく、|眞理《まこと》のためには|能力《ちから》あり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われら|弱《よわ》くして|汝《なんぢ》らの|強《つよ》きことを|喜《よろこ》ぶ、また|之《これ》に|就《つ》きて|祈《いの》るは、|汝《なんぢ》らの|全《まった》くならん|事《こと》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]われ|離《はな》れ|居《を》りて|此《これ》|等《ら》のことを|書《か》き|贈《おく》るは、|汝《なんぢ》らに|逢《あ》ふとき、|主《しゅ》の|破《やぶ》る|爲《ため》ならずして|建《た》つる|爲《ため》に|我《われ》に|賜《たま》ひたる|權威《けんゐ》に|隨《したが》ひて|嚴《きび》しくせざらん|爲《ため》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|終《をはり》に|言《い》はん、|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》ら|喜《よろこ》べ、|全《まった》くなれ、|慰安《なぐさめ》を|受《う》けよ、|心《こころ》を|一《ひと》つにせよ、|睦《むつ》み|親《した》しめ、|然《さ》らば|愛《あい》と|平和《へいわ》との|神《かみ》なんぢらと|偕《とも》に|在《いま》さん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|潔《きよ》き|接吻《くちつけ》をもて|相《あひ》|互《たがひ》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》なんぢらに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》イエス・キリストの|恩惠《めぐみ》・|神《かみ》の|愛《あい》・|聖《せい》|靈《れい》の|交感《まじはり》、なんぢら|凡《すべ》ての|者《もの》と|偕《とも》にあらんことを。 [#改ページ] ガラテヤ人への書[#「ガラテヤ人への書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》よりに|非《あら》ず、|人《ひと》に|由《よ》るにも|非《あら》ず、イエス・キリスト|及《およ》び|之《これ》を|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|父《ちち》なる|神《かみ》に|由《よ》りて|使徒《しと》となれるパウロ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|及《およ》び|我《われ》と|偕《とも》にある|凡《すべ》ての|兄弟《きゃうだい》、|書《ふみ》をガラテヤの|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|贈《おく》る。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは、|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》は|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》の|御意《みこころ》に|隨《したが》ひて、|我《われ》らを|今《いま》の|惡《あ》しき|世《よ》より|救《すく》ひ|出《いだ》さんとて、|己《おの》が|身《み》を|我《われ》らの|罪《つみ》のために|與《あた》へたまへり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|榮光《えいくわう》、|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|神《かみ》にあらん|事《こと》を、アァメン。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|汝《なんぢ》らが|斯《か》くも|速《すみや》かにキリストの|恩惠《めぐみ》をもて|召《め》し|給《たま》ひし|者《もの》より|離《はな》れて、|異《こと》なる|福音《ふくいん》に|移《うつ》りゆくを|怪《あや》しむ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》は|福音《ふくいん》と|言《い》ふべき|者《もの》にあらず、ただ|或《ある》|人々《ひとびと》が|汝《なんぢ》らを|擾《みだ》してキリストの|福音《ふくいん》を|變《か》へんとするなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|我等《われら》にもせよ、|天《てん》よりの|御使《みつかひ》にもせよ、|我《われ》らの|曾《かつ》て|宣傳《のべつた》へたる|所《ところ》に|背《そむ》きたる|福音《ふくいん》を|汝《なんぢ》らに|宣傳《のべつた》ふる|者《もの》あらば|詛《のろ》はるべし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われら|前《さき》に|言《い》ひし|如《ごと》く|今《いま》また|言《い》はん、|汝《なんぢ》らの|受《う》けし|所《ところ》に|背《そむ》きたる|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》ふる|者《もの》あらば|詛《のろ》はるべし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》いま|人《ひと》に|喜《よろこ》ばれんとするか、|或《あるひ》は|神《かみ》に|喜《よろこ》ばれんとするか、|抑《そもそ》もまた|人《ひと》を|喜《よろこ》ばせんことを|求《もと》むるか。もし|我《われ》なほ|人《ひと》を|喜《よろこ》ばせをらば、キリストの|僕《しもべ》にあらじ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|汝《なんぢ》らに示す、わが|傳《つた》へたる|福音《ふくいん》は、|人《ひと》に|由《よ》れるものにあらず。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|人《ひと》より|之《これ》を|受《う》けず、また|教《をし》へられず、|唯《ただ》イエス・キリストの|默示《もくし》に|由《よ》れるなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》がユダヤ|教《けう》に|於《お》ける|曩《さき》の|日《ひ》の|擧動《ふるまひ》は、なんぢら|既《すで》に|聞《き》けり、|即《すなは》ち|烈《はげ》しく|神《かみ》の|教會《けうくわい》を|責《せ》め、かつ|暴《あら》したり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》わが|國人《くにびと》のうち、|我《われ》と|同《おな》じ|年輩《ねんぱい》なる|多《おほ》くの|者《もの》にも|勝《まさ》りてユダヤ|教《けう》に|進《すす》み、わが|先祖《せんぞ》たちの|言傳《いひつたへ》に|對《たい》して|甚《はなは》だ|熱心《ねっしん》なりき。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されど|母《はは》の|胎《たい》を|出《い》でしより|我《われ》を|選《えら》び|別《わか》ち、その|恩惠《めぐみ》をもて|召《め》し|給《たま》へる|者《もの》[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|御子《みこ》を|我《わ》が|内《うち》に|顯《あらは》して|其《そ》の|福音《ふくいん》を|異邦人《いはうじん》に|宣傳《のべつた》へしむるを|可《よ》しとし|給《たま》へる|時《とき》、われ|直《ただ》ちに|血肉《けつにく》と|謀《はか》らず、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》より|前《さき》に|使徒《しと》となりし|人々《ひとびと》に|逢《あ》はんとてエルサレムにも|上《のぼ》らず、アラビヤに|出《い》で|往《ゆ》きて|遂《つひ》にまたダマスコに|返《かへ》れり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]その|後《のち》|三年《さんねん》を|歴《へ》て、ケパを|尋《たづ》ねんとエルサレムに|上《のぼ》り、|十《じふ》|五《ご》|日《にち》の|間《あひだ》かれと|偕《とも》に|留《とどま》りしが、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|兄弟《きゃうだい》ヤコブのほか|孰《いづれ》の|使徒《しと》にも|逢《あ》はざりき。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり](|茲《ここ》に|書《か》きおくる|事《こと》は、|視《み》よ、|神《かみ》の|前《まへ》にて|僞《いつは》らざるなり)[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|後《のち》シリヤ、キリキヤの|地方《ちはう》に|往《ゆ》けり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]キリストにあるユダヤの|諸《しょ》|教會《けうくわい》は|我《わ》が|顏《かほ》を|知《し》らざりしかど、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]ただ|人々《ひとびと》の『われらを|前《さき》に|責《せ》めし|者《もの》、|曾《かつ》て|暴《あら》したる|信仰《しんかう》の|道《みち》を|今《いま》は|傳《つた》ふ』といふを|聞《き》き、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]わが|事《こと》によりて|神《かみ》を|崇《あが》めたり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]その|後《のち》|十四年《じふよねん》を|歴《へ》て、バルナバと|共《とも》にテトスをも|連《つ》れて、|復《また》エルサレムに|上《のぼ》れり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《わ》が|上《のぼ》りしは|默示《もくし》に|因《よ》りてなり。かくて|異邦人《いはうじん》の|中《うち》に|宣《の》ぶる|福音《ふくいん》を|彼《かれ》らに|告《つ》げ、また|名《な》ある|者《もの》どもに|私《ひそか》に|告《つ》げたり、これは|我《わ》が|走《はし》ること、|又《また》すでに|走《はし》りしことの|空《むな》しからざらん|爲《ため》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|我《われ》と|偕《とも》なるギリシヤ|人《びと》テトスすら|割禮《かつれい》を|強《し》ひられざりき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]これ|私《ひそか》に|入《い》りたる|僞《にせ》|兄弟《きゃうだい》あるに|因《よ》りてなり。|彼《かれ》らの|忍《しの》び|入《い》りたるは、|我《われ》らがキリスト・イエスに|在《あ》りて|有《も》てる|自由《じいう》を|窺《うかが》ひ、|且《かつ》われらを|奴隷《どれい》とせん|爲《ため》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|福音《ふくいん》の|眞理《まこと》の|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|留《とどま》らんために、|我《われ》ら|一《ひと》|時《とき》も|彼《かれ》らに|讓《ゆず》り|從《したが》はざりき。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに、かの|名《な》ある|者《もの》どもより――|彼《かれ》らは|如何《いか》なる|人《ひと》なるにもせよ、|我《われ》には|關係《かかはり》なし、|神《かみ》は|人《ひと》の|外面《うはべ》を|取《と》り|給《たま》はず――|實《げ》にかの|名《な》ある|者《もの》どもは|我《われ》に|何《なに》をも|加《くは》へず、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|反《かへ》つてペテロが|割禮《かつれい》ある|者《もの》に|對《たい》する|福音《ふくいん》を|委《ゆだ》ねられたる|如《ごと》く、|我《わ》が|割禮《かつれい》なき|者《もの》に|對《たい》する|福音《ふくいん》を|委《ゆだ》ねられたるを|認《みと》め、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり](ペテロに|能力《ちから》を|與《あた》へて|割禮《かつれい》ある|者《もの》の|使徒《しと》となし|給《たま》ひし|者《もの》は、|我《われ》にも|異邦人《いはうじん》のために|能力《ちから》を|與《あた》へ|給《たま》へり)[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》に|賜《たま》はりたる|恩惠《めぐみ》をさとりて、|柱《はしら》と|思《おも》はるるヤコブ、ケパ、ヨハネは、|交誼《まじはり》の|印《しるし》として|我《われ》とバルナバとに|握手《あくしゅ》せり。これは|我《われ》らが|異邦人《いはうじん》にゆき、|彼《かれ》らが|割禮《かつれい》ある|者《もの》に|往《ゆ》かん|爲《ため》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|唯《ただ》その|願《ねが》ふところは|我《われ》らが|貧《まづ》しき|者《もの》を|顧《かへり》みんことなり、|我《われ》も|固《もと》より|此《こ》の|事《こと》を|勵《はげ》みて|行《おこな》へり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されどケパがアンテオケに|來《きた》りしとき、|責《せ》むべき|事《こと》のありしをもて|面前《まのあたり》これと|諍《あらそ》ひたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]その|故《ゆゑ》はある|人々《ひとびと》のヤコブの|許《もと》より|來《きた》るまでは、かれ|異邦人《いはうじん》と|共《とも》に|食《しょく》しゐたるに、かの|人々《ひとびと》の|來《きた》りてよりは、|割禮《かつれい》ある|者《もの》どもを|恐《おそ》れ、|退《しりぞ》きて|異邦人《いはうじん》と|別《わか》れたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》のユダヤ|人《びと》も|彼《かれ》とともに|僞行《いつはりごと》をなし、バルナバまでもその|僞行《いつはりごと》に|誘《さそ》はれゆけり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》かれらが|福音《ふくいん》の|眞理《まこと》に|循《したが》ひて|正《ただ》しく|歩《あゆ》まざるを|見《み》て、|會衆《くわいしゅう》の|前《まへ》にてケパに|言《い》ふ『なんぢユダヤ|人《びと》なるにユダヤ|人《びと》の|如《ごと》くせず、|異邦人《いはうじん》のごとく|生活《せいくわつ》せば、|何《なに》ぞ|強《し》ひて|異邦人《いはうじん》をユダヤ|人《びと》の|如《ごと》くならしめんとするか』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|生來《うまれながら》のユダヤ|人《びと》にして、|罪人《つみびと》なる|異邦人《いはうじん》にあらざれども、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|義《ぎ》とせらるるは|律法《おきて》の|行爲《おこなひ》に|由《よ》らず、|唯《ただ》キリスト・イエスを|信《しん》ずる|信仰《しんかう》に|由《よ》るを|知《し》りて、キリスト・イエスを|信《しん》じたり。これ|律法《おきて》の|行爲《おこなひ》に|由《よ》らず、キリストを|信《しん》ずる|信仰《しんかう》によりて|義《ぎ》とせられん|爲《ため》なり。|律法《おきて》の|行爲《おこなひ》によりては|義《ぎ》とせらるる|者《もの》|一人《ひとり》だになし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しキリストに|在《あ》りて|義《ぎ》とせららんことを|求《もと》めて、なほ|罪人《つみびと》と|認《みと》められなば、キリストは|罪《つみ》の|役者《えきしゃ》なるか、|決《けっ》して|然《しか》らず。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もし|前《さき》に|毀《こぼ》ちしものを|再《ふたた》び|建《た》てなば、|己《おのれ》みづから|犯罪者《はんざいしゃ》たるを|表《あらは》す。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|神《かみ》に|生《い》きんために、|律法《おきて》によりて|律法《おきて》に|死《し》にたり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》キリストと|偕《とも》に|十字架《じふじか》につけられたり。|最早《もはや》われ|生《い》くるにあらず、キリスト|我《わ》が|内《うち》に|在《あ》りて|生《い》くるなり。|今《いま》われ|肉體《にくたい》に|在《あ》りて|生《い》くるは、|我《われ》を|愛《あい》して|我《わ》がために|己《おの》が|身《み》を|捨《す》て|給《たま》ひし|神《かみ》の|子《こ》を|信《しん》ずるに|由《よ》りて|生《い》くるなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》を|空《むな》しくせず、もし|義《ぎ》とせらるること|律法《おきて》に|由《よ》らば、キリストの|死《し》に|給《たま》へるは|徒然《いたづら》なり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|愚《おろか》なる|哉《かな》、ガラテヤ|人《びと》よ、|十字架《じふじか》につけられ|給《たま》ひしままなるイエス・キリスト、|汝《なんぢ》らの|眼前《めのまへ》に|顯《あらは》されたるに、|誰《たれ》が|汝《なんぢ》らを|誑《たぶら》かししぞ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|汝《なんぢ》|等《ら》より|唯《ただ》この|事《こと》を|聞《き》かんと|欲《ほっ》す。|汝《なんぢ》らが|御靈《みたま》を|受《う》けしは|律法《おきて》の|行爲《おこなひ》に|由《よ》るか、|聽《き》きて|信《しん》じたるに|由《よ》るか。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|斯《か》くも|愚《おろか》なるか、|御靈《みたま》によりて|始《はじま》りしに、|今《いま》|肉《にく》によりて|全《まった》うせらるるか。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|斯程《かほど》まで|多《おほ》くの|苦難《くるしみ》を|受《う》けしことは|徒然《いたづら》なるか、|徒然《いたづら》にはあるまじ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》らば|汝《なんぢ》らに|御靈《みたま》を|賜《たま》ひて|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|能力《ちから》ある|業《わざ》を|行《おこな》ひ|給《たま》へるは、|律法《おきて》の|行爲《おこなひ》に|由《よ》るか、|聽《き》きて|信《しん》ずるに|由《よ》るか。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して『アブラハム|神《かみ》を|信《しん》じ、その|信仰《しんかう》を|義《ぎ》とせられたり』とあるが|如《ごと》し。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されば|知《し》れ、|信仰《しんかう》に|由《よ》る|者《もの》は|是《これ》アブラハムの|子《こ》なるを。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|聖書《せいしょ》は|神《かみ》が|異邦人《いはうじん》を|信仰《しんかう》に|由《よ》りて|義《ぎ》とし|給《たま》ふことを|知《し》りて、|預《あらか》じめ|福音《ふくいん》をアブラハムに|傳《つた》へて|言《い》ふ『なんぢに|由《よ》りてもろもろの|國人《くにびと》は|祝福《しくふく》せられん』と。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|信仰《しんかう》による|者《もの》は、|信仰《しんかう》ありしアブラハムと|共《とも》に|祝福《しくふく》せらる。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|凡《すべ》て|律法《おきて》の|行爲《おこなひ》による|者《もの》は|詛《のろひ》の|下《した》にあり。|録《しる》して『|律法《おきて》の|書《ふみ》に|記《しる》されたる|凡《すべ》ての|事《こと》を|常《つね》に|行《おこな》はぬ|者《もの》はみな|詛《のろ》はるべし』とあればなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》に|由《よ》りて|神《かみ》の|前《まへ》に|義《ぎ》とせらるる|事《こと》なきは|明《あきら》かなり『|義人《ぎじん》は|信仰《しんかう》によりて|生《い》くべし』とあればなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》は|信仰《しんかう》に|由《よ》るにあらず、|反《かへ》つて『|律法《おきて》を|行《おこな》ふ|者《もの》は|之《これ》に|由《よ》りて|生《い》くべし』と|云《い》へり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|我等《われら》のために|詛《のろ》はるる|者《もの》となりて、|律法《おきて》の|詛《のろひ》より|我《われ》らを|贖《あがな》ひ|出《いだ》し|給《たま》へり。|録《しる》して『|木《き》に|懸《か》けらるる|者《もの》は|凡《すべ》て|詛《のろ》はるべし』と|云《い》へばなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]これアブラハムの|受《う》けたる|祝福《しくふく》の、イエス・キリストによりて|異邦人《いはうじん》におよび、|且《かつ》われらが|信仰《しんかう》に|由《よ》りて|約束《やくそく》の|御靈《みたま》を|受《う》けん|爲《ため》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われ|人《ひと》の|事《こと》を|藉《か》りて|言《い》はん、|人《ひと》の|契約《けいやく》すら|既《すで》に|定《さだ》むれば、|之《これ》を|廢《はい》しまた|加《くは》ふる|者《もの》なし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かの|約束《やくそく》はアブラハムと|其《そ》の|裔《すゑ》とに|與《あた》へ|給《たま》ひし|者《もの》なり。|多《おほ》くの|者《もの》を|指《さ》すごとく『|裔々《すゑずゑ》に』とは|云《い》はず、|一人《ひとり》を|指《さ》すごとく『なんぢの|裔《すゑ》に』と|云《い》へり、これ|即《すなは》ちキリストなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|我《われ》いはん、|神《かみ》の|預《あらか》じめ|定《さだ》め|給《たま》ひし|契約《けいやく》は、その|後《のち》|四百三十年《しひゃくさんじふねん》を|歴《へ》て|起《おこ》りし|律法《おきて》に|廢《はい》せらるることなく、その|約束《やくそく》も|空《むな》しくせらるる|事《こと》なし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]もし|嗣業《しげふ》を|受《う》くること|律法《おきて》に|由《よ》らば、もはや|約束《やくそく》には|由《よ》らず、|然《しか》るに|神《かみ》は|約束《やくそく》に|由《よ》りて|之《これ》をアブラハムに|賜《たま》ひたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|律法《おきて》は|何《なに》のためぞ。これ|罪《つみ》の|爲《ため》に|加《くは》へ|給《たま》ひしものにて、|御使《みつかひ》たちを|經《へ》て|中保《なかだち》の|手《て》によりて|立《た》てられ、|約束《やくそく》を|與《あた》へられたる|裔《すゑ》の|來《きた》らん|時《とき》にまで|及《およ》ぶなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり](|中保《なかだち》は|一方《いっぱう》のみの|者《もの》にあらず、|然《さ》れど|神《かみ》は|唯一《ゆゐいつ》に|在《いま》せり)[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]さらば|律法《おきて》は|神《かみ》の|約束《やくそく》に|悖《もと》るか、|決《けっ》して|然《しか》らず。もし|人《ひと》を|生《い》かすべき|律法《おきて》を|與《あた》へられたらんには、|實《げ》に|義《ぎ》とせらるるは|律法《おきて》に|由《よ》りしならん。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されど|聖書《せいしょ》は|凡《すべ》ての|者《もの》を|罪《つみ》の|下《した》に|閉《と》ぢ|籠《こ》めたり。これ|信《しん》ずる|者《もの》のイエス・キリストに|對《たい》する|信仰《しんかう》に|由《よ》れる|約束《やくそく》を|與《あた》へられん|爲《ため》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》の|出《い》で|來《きた》らぬ|前《さき》は、われら|律法《おきて》の|下《した》に|守《まも》られて、|後《のち》に|顯《あらは》れんとする|信仰《しんかう》の|時《とき》まで|閉《と》ぢ|籠《こ》められたり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]かく|信仰《しんかう》によりて|我《われ》らの|義《ぎ》とせられん|爲《ため》に、|律法《おきて》は|我《われ》らをキリストに|導《みちび》く|守役《もりやく》となれり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]されど|信仰《しんかう》の|出《い》で|來《きた》りし|後《のち》は、|我等《われら》もはや|守役《もりやく》の|下《した》に|居《を》らず。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|信仰《しんかう》によりキリスト・イエスに|在《あ》りて、みな|神《かみ》の|子《こ》たり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そバプテスマに|由《よ》りてキリストに|合《あ》ひし|汝《なんぢ》らは、キリストを|衣《き》たるなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》はユダヤ|人《びと》もギリシヤ|人《びと》もなく、|奴隷《どれい》も|自主《じしゅ》もなく、|男《をとこ》も|女《をんな》もなし、|汝《なんぢ》らは|皆《みな》キリスト・イエスに|在《あ》りて|一體《いったい》なり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もしキリストのものならば、アブラハムの|裔《すゑ》にして|約束《やくそく》に|循《したが》へる|世嗣《よつぎ》たるなり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]われ|言《い》ふ、|世嗣《よつぎ》は|全業《ぜんげふ》の|主《しゅ》なれども、|成人《おとな》とならぬ|間《あひだ》は|僕《しもべ》と|異《こと》なることなく、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》の|定《さだ》めし|時《とき》の|至《いた》るまでは|後見者《うしろみ》と|家令《かれい》との|下《した》にあり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|我《われ》らも|成人《おとな》とならぬほどは、|世《よ》の|小學《せうがく》の|下《した》にありて|僕《しもべ》たりしなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されど|時《とき》|滿《み》つるに|及《およ》びては、|神《かみ》その|御子《みこ》を|遣《つかは》し、これを|女《をんな》より|生《うま》れしめ、|律法《おきて》の|下《した》に|生《うま》れしめ|給《たま》へり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]これ|律法《おきて》の|下《した》にある|者《もの》をあがなひ、|我等《われら》をして|子《こ》たることを|得《え》しめん|爲《ため》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かく|汝《なんぢ》ら|神《かみ》の|子《こ》たる|故《ゆゑ》に、|神《かみ》は|御子《みこ》の|御靈《みたま》を|我《われ》らの|心《こころ》に|遣《つかは》して『アバ、|父《ちち》』と|呼《よ》ばしめ|給《たま》ふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されば|最早《もはや》なんぢは|僕《しもべ》にあらず、|子《こ》たるなり、|既《すで》に|子《こ》たらば|亦《また》|神《かみ》に|由《よ》りて|世嗣《よつぎ》たるなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》ら|神《かみ》を|知《し》らざりし|時《とき》は、その|實《じつ》|神《かみ》にあらざる|神々《かみがみ》に|事《つか》へたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》は|神《かみ》を|知《し》り、むしろ|神《かみ》に|知《し》られたるに、|何《なん》ぞ|復《また》かの|弱《よわ》くして|賤《いや》しき|小學《せうがく》に|還《かへ》りて、|再《ふたた》びその|僕《しもべ》たらんとするか。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|日《ひ》と|月《つき》と|季節《きせつ》と|年《とし》とを|守《まも》る。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|働《はたら》きし|事《こと》の|或《あるひ》は|無《む》|益《えき》にならんことを|恐《おそ》る。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》なんぢらに|請《こ》ふ、われ|汝《なんぢ》|等《ら》のごとく|成《な》りたれば、|汝《なんぢ》ら|我《わ》がごとく|成《な》れ。|汝《なんぢ》ら|何事《なにごと》にも|我《われ》を|害《そこな》ひしことなし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]わが|初《はじ》め|汝《なんぢ》らに|福音《ふくいん》を|傳《つた》へしは、|肉體《にくたい》の|弱《よわき》かりし|故《ゆゑ》なるを|汝《なんぢ》ら|知《し》る。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]わが|肉體《にくたい》に|汝《なんぢ》らの|試錬《こころみ》となる|者《もの》ありたれど|汝《なんぢ》ら|之《これ》を|卑《いや》しめず、|又《また》きらはず、|反《かへ》つて|我《われ》を|神《かみ》の|使《つかひ》の|如《ごと》く、キリスト・イエスの|如《ごと》く|迎《むか》へたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|其《そ》の|時《とき》の|幸福《さいはひ》はいま|何處《いづこ》に|在《あ》るか。|我《われ》なんぢらに|就《つ》きて|證《あかし》す、もし|爲《な》し|得《う》べくば|己《おの》が|目《め》を|抉《ゑぐ》りて|我《われ》に|與《あた》へんとまで|思《おも》ひしを。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|我《われ》なんぢらに|眞《まこと》を|言《い》ふによりて|仇《あた》となりたるか。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かの|人々《ひとびと》の|汝《なんぢ》らに|熱心《ねっしん》なるは|善《よ》き|心《こころ》にあらず、|汝《なんぢ》らを|我《われ》らより|離《はな》して|己《おのれ》らに|熱心《ねっしん》ならしめんとてなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|善《よ》き|心《こころ》より|熱心《ねっしん》に|慕《した》はるるは、|啻《ただ》に|我《わ》が|汝《なんぢ》らと|偕《とも》にをる|時《とき》のみならず、|何時《いつ》にても|宜《よろ》しき|事《こと》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]わが|幼兒《をさなご》よ、|汝《なんぢ》らの|衷《うち》にキリストの|形《かたち》|成《な》るまでは、|我《われ》ふたたび|産《うみ》の|苦痛《くるしみ》をなす。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》なんぢらに|到《いた》りて|我《わ》が|聲《こゑ》を|易《か》へんことを|願《ねが》ふ、|汝《なんぢ》らに|就《つ》きて|惑《まど》へばなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》の|下《した》にあらんと|願《ねが》ふ|者《もの》よ、|我《われ》にいへ、|汝《なんぢ》ら|律法《おきて》をきかぬか。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ちアブラハムに|子《こ》|二人《ふたり》あり、|一人《ひとり》は|婢女《はしため》より、|一人《ひとり》は|自主《じしゅ》の|女《をんな》より|生《うま》れたりと|録《しる》されたり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|婢女《はしため》よりの|子《こ》は|肉《にく》によりて|生《うま》れ、|自主《じしゅ》の|女《をんな》よりの|子《こ》は|約束《やくそく》による。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]この|中《うち》に|譬《たとへ》あり、|二人《ふたり》の|女《をんな》は|二《ふた》つの|契約《けいやく》なり、その|一《ひと》つはシナイ|山《やま》より|出《い》でて、|奴隷《どれい》たる|子《こ》を|生《う》む、これハガルなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]このハガルはアラビヤに|在《あ》るシナイ|山《やま》にして|今《いま》のエルサレムに|當《あた》る。エルサレムはその|子《こ》らとともに|奴隷《どれい》たるなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]されど|上《うへ》なるエルサレムは、|自主《じしゅ》にして|我《われ》らの|母《はは》なり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》していふ [#ここから2字下げ] 『|石女《うまずめ》にして|産《う》まぬものよ、|喜《よろこ》べ。 |産《うみ》の|苦痛《くるしみ》せぬ|者《もの》よ、|聲《こゑ》をあげて|呼《よば》はれ。 |獨住《ひとりずみ》の|女《をんな》の|子《こ》は|多《おほ》し、|夫《をっと》ある|者《もの》の|子《こ》よりも|多《おほ》し』 [#ここで字下げ終わり] とあり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢらはイサクのごとく|約束《やくそく》の|子《こ》なり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|其《そ》の|時《とき》、|肉《にく》によりて|生《うま》れし|者《もの》|御靈《みたま》によりて|生《うま》れし|者《もの》を|責《せ》めしごとく、|今《いま》なほ|然《しか》り。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|聖書《せいしょ》は|何《なに》と|云《い》へるか『|婢女《はしため》とその|子《こ》とを|逐《お》ひいだせ、|婢女《はしため》の|子《こ》は|自主《じしゅ》の|女《をんな》の|子《こ》と|共《とも》に|業《わざ》を|嗣《つ》ぐべからず』とあり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]されば|兄弟《きゃうだい》よ、われらは|婢女《はしため》の|子《こ》ならず、|自主《じしゅ》の|女《をんな》の|子《こ》なり。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|自由《じいう》を|得《え》させん|爲《ため》に|我《われ》らを|釋《と》き|放《はな》ちたまへり。されば|堅《かた》く|立《た》ちて|再《ふたた》び|奴隷《どれい》の|軛《くびき》に|繋《つな》がるな。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|我《われ》パウロ|汝《なんぢ》らに|言《い》ふ、もし|割禮《かつれい》を|受《う》けば、キリストは|汝《なんぢ》らに|益《えき》なし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》さらに|凡《すべ》て|割禮《かつれい》を|受《う》くる|人《ひと》に|證《あかし》す、かれは|律法《おきて》の|全體《ぜんたい》を|行《おこな》ふべき|負債《おひめ》あり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》に|由《よ》りて|義《ぎ》とせられんと|思《おも》ふ|汝《なんぢ》らは、キリストより|離《はな》れたり、|恩惠《めぐみ》より|墮《お》ちたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|御靈《みたま》により、|信仰《しんかう》によりて|希望《のぞみ》をいだき、|義《ぎ》とせらるることを|待《ま》てるなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]キリスト・イエスに|在《あ》りては、|割禮《かつれい》を|受《う》くるも|割禮《かつれい》を|受《う》けぬも|益《えき》なく、ただ|愛《あい》に|由《よ》りてはたらく|信仰《しんかう》のみ|益《えき》あり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|前《さき》には|善《よ》く|走《はし》りたるに、|誰《たれ》が|汝《なんぢ》らの|眞理《まこと》に|從《したが》ふを|阻《はば》みしか。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かかる|勸《すすめ》は|汝《なんぢ》らを|召《め》したまふ|者《もの》より|出《い》づるにあらず。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|少《すこ》しのパン|種《だね》は|粉《こな》の|團塊《かたまり》をみな|膨《ふく》れしむ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らに|就《つ》きては、その|聊《いささ》かも|異念《いねん》を|懷《いだ》かぬことを|主《しゅ》によりて|信《しん》ず。されど|汝《なんぢ》らを|擾《みだ》す|者《もの》は、|誰《たれ》にもあれ|審判《さばき》を|受《う》けん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》もし|今《いま》も|割禮《かつれい》を|宣傳《のべつた》へば、|何《なに》ぞなほ|迫害《はくがい》せられんや。もし|然《しか》せば|十字架《じふじか》の|顛躓《つまづき》も|止《や》みしならん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|汝《なんぢ》らを|亂《みだ》す|者《もの》どもの|自己《みづから》を|不具《ふぐ》にせんことを。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》らの|召《め》されたるは|自由《じいう》を|與《あた》へられん|爲《ため》なり。ただ|其《そ》の|自由《じいう》を|肉《にく》に|從《したが》ふ|機會《をり》となさず、|反《かへ》つて|愛《あい》をもて|互《たがひ》に|事《つか》へよ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]それ|律法《おきて》の|全體《ぜんたい》は『おのれの|如《ごと》くなんぢの|隣《となり》を|愛《あい》すべし』との|一言《いちげん》にて|全《まった》うせらるるなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|心《こころ》せよ、|若《も》し|互《たがひ》に|咬《か》み|食《くら》はば|相《あひ》|共《とも》に|亡《ほろぼ》されん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》いふ、|御靈《みたま》によりて|歩《あゆ》め、さらば|肉《にく》の|慾《よく》を|遂《と》げざるべし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|肉《にく》の|望《のぞ》むところは|御靈《みたま》にさからひ、|御靈《みたま》の|望《のぞ》むところは|肉《にく》にさからひて|互《たがひ》に|相《あひ》|戻《もど》ればなり。これ|汝《なんぢ》らの|欲《ほっ》する|所《ところ》をなし|得《え》ざらしめん|爲《ため》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|御靈《みたま》に|導《みちび》かれなば、|律法《おきて》の|下《した》にあらじ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]それ|肉《にく》の|行爲《おこなひ》はあらはなり。|即《すなは》ち|淫行《いんかう》・|汚穢《けがれ》・|好色《かうしょく》・[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|偶像《ぐうざう》|崇拜《すうはい》・|呪術《まじわざ》・|怨恨《うらみ》・|紛爭《あらそひ》・|嫉妬《ねたみ》・|憤恚《いきどほり》・|徒黨《とたう》・|分離《ぶんり》・|異端《いたん》・[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|猜忌《そねみ》・|醉酒《すゐしゅ》・|宴樂《えんらく》などの|如《ごと》し。|我《われ》すでに|警《いまし》めたるごとく、|今《いま》また|警《いまし》む。|斯《か》かることを|行《おこな》ふ|者《もの》は|神《かみ》の|國《くに》を|嗣《つ》ぐことなし。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されど|御靈《みたま》の|果《み》は|愛《あい》・|喜悦《よろこび》・|平和《へいわ》・|寛容《くわんよう》・|仁慈《なさけ》・|善良《ぜんりゃう》・|忠信《ちゅうしん》・[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|柔和《にうわ》・|節制《せつせい》なり。|斯《か》かるものを|禁《きん》ずる|律法《おきて》はあらず。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]キリスト・イエスに|屬《ぞく》する|者《もの》は、|肉《にく》とともに|其《そ》の|情《じゃう》と|慾《よく》とを|十字架《じふじか》につけたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]もし|我《われ》ら|御靈《みたま》に|由《よ》りて|生《い》きなば、|御靈《みたま》に|由《よ》りて|歩《あゆ》むべし。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|互《たがひ》に|挑《いど》み|互《たがひ》に|妬《ねた》みて、|虚《むな》しき|譽《ほまれ》を|求《もと》むることを|爲《す》な。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、もし|人《ひと》の|罪《つみ》を|認《みと》むることあらば、|御靈《みたま》に|感《かん》じたる|者《もの》、|柔和《にうわ》なる|心《こころ》をもて|之《これ》を|正《ただ》すべし、|且《かつ》おのおの|自《みづか》ら|省《かへり》みよ、|恐《おそ》らくは|己《おのれ》も|誘《さそ》はるる|事《こと》あらん。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|互《たがひ》に|重《おもき》を|負《お》へ、|而《しか》してキリストの|律法《おきて》を|全《まった》うせよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|有《あ》ること|無《な》くして|自《みづか》ら|有《あ》りとせば、|是《これ》みづから|欺《あざむ》くなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|各自《おのおの》おのが|行爲《おこなひ》を|驗《ため》し|見《み》よ、さらば|誇《ほこ》るところは|他《ほか》にあらで、ただ|己《おのれ》にあらん。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|各自《おのおの》おのが|荷《に》を|負《お》ふべければなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|御言《みことば》を|教《をし》へらるる|人《ひと》は、|教《をし》ふる|人《ひと》と|凡《すべ》ての|善《よ》き|物《もの》を|共《とも》にせよ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|自《みづか》ら|欺《あざむ》くな、|神《かみ》は|侮《あなど》るべき|者《もの》にあらず、|人《ひと》の|播《ま》く|所《ところ》は、その|刈《か》る|所《ところ》とならん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|己《おの》が|肉《にく》のために|播《ま》く|者《もの》は|肉《にく》によりて|滅亡《ほろび》を|刈《か》りとり、|御靈《みたま》のために|播《ま》く|者《もの》は|御靈《みたま》によりて|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|刈《か》りとらん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われら|善《ぜん》をなすに|倦《う》まざれ、もし|撓《たゆ》まずば、|時《とき》いたりて|刈《か》り|取《と》るべし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|機《をり》に|隨《したが》ひて、|凡《すべ》ての|人《ひと》、|殊《こと》に|信仰《しんかう》の|家族《かぞく》に|善《ぜん》をおこなへ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、われ|手《て》づから|如何《いか》に|大《おほい》なる|文字《もじ》にて|汝《なんぢ》らに|書《か》き|贈《おく》るかを。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|肉《にく》において|美《うるわ》しき|外觀《みえ》をなさんと|欲《ほっ》する|者《もの》は、|汝《なんぢ》らに|割禮《かつれい》を|強《し》ふ。これ|唯《ただ》キリストの|十字架《じふじか》の|故《ゆゑ》によりて|責《せ》められざらん|爲《ため》のみ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]そは|割禮《かつれい》をうくる|者《もの》すら|自《みづか》ら|律法《おきて》を|守《まも》らず、|而《しか》も|汝《なんぢ》らに|割禮《かつれい》をうけしめんと|欲《ほっ》するは、|汝《なんぢ》らの|肉《にく》につきて|誇《ほこ》らんが|爲《ため》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》には、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|十字架《じふじか》のほかに|誇《ほこ》る|所《ところ》あらざれ。|之《これ》によりて|世《よ》は|我《われ》に|對《たい》して|十字架《じふじか》につけられたり、|我《わ》が|世《よ》に|對《たい》するも|亦《また》|然《しか》り。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]それ|割禮《かつれい》を|受《う》くるも|受《う》けぬも、|共《とも》に|數《かぞ》ふるに|足《た》らず、ただ|貴《たふと》きは|新《あらた》に|造《つく》らるる|事《こと》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|法《のり》に|循《したが》ひて|歩《あゆ》む|凡《すべ》ての|者《もの》の|上《うへ》に、|神《かみ》のイスラエルの|上《うへ》に、|平安《へいあん》と|憐憫《あはれみ》とあれ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》よりのち|誰《たれ》も|我《われ》を|煩《わづら》はすな、|我《われ》はイエスの|印《しるし》を|身《み》に|佩《お》びたるなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|願《ねが》はくは|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|恩惠《めぐみ》、なんぢらの|靈《れい》とともに|在《あ》らんことを、アァメン。 [#改ページ] エペソ人への書[#「エペソ人への書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|御意《みこころ》によりてキリスト・イエスの|使徒《しと》となれるパウロ、|書《ふみ》をエペソに|居《を》る|聖徒《せいと》、キリストに|在《あ》りて|忠實《ちゅうじつ》なる|者《もの》に|贈《おく》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|讃《ほ》むべきかな、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|父《ちち》なる|神《かみ》、かれはキリストに|由《よ》りて|靈《れい》のもろもろの|祝福《しくふく》をもて|天《てん》の|處《ところ》にて|我《われ》らを|祝《しく》し、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|御前《みまへ》にて|潔《きよ》く|瑕《きず》なからしめん|爲《ため》に、|世《よ》の|創《はじめ》の|前《さき》より|我等《われら》をキリストの|中《うち》に|選《えら》び、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|御意《みこころ》のままにイエス・キリストに|由《よ》り|愛《あい》をもて|己《おの》が|子《こ》となさんことを|定《さだ》め|給《たま》へり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》その|愛《いつく》しみ|給《たま》ふ|者《もの》によりて|我《われ》らに|賜《たま》ひたる|恩惠《めぐみ》の|榮光《えいくわう》に|譽《ほまれ》あらん|爲《ため》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|彼《かれ》にありて|恩惠《めぐみ》の|富《とみ》に|隨《したが》ひ、その|血《ち》に|頼《よ》りて|贖罪《あがなひ》、すなはち|罪《つみ》の|赦《ゆるし》を|得《え》たり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|我《われ》らに|諸般《もろもろ》の|知慧《ちゑ》と|聰明《さとき》とを|與《あた》へてその|恩惠《めぐみ》を|充《みた》しめ、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|御意《みこころ》の|奧義《おくぎ》を|御意《みこころ》のままに|示《しめ》し|給《たま》へり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|時《とき》|滿《み》ちて|經綸《けいりん》にしたがひ、|天《てん》に|在《あ》るもの|地《ち》にあるものを、|悉《ことご》とくキリストに|在《あ》りて|一《ひと》つに|歸《き》せしめ|給《たま》ふ。これ|自《みづか》ら|定《さだ》め|給《たま》ひし|所《ところ》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは、|凡《すべ》ての|事《こと》を|御意《みこころ》の|思慮《おもんぱかり》のままに|行《おこな》ひたまふ|者《もの》の|御旨《みむね》によりて|預《あらか》じめ|定《さだ》められ、キリストに|在《あ》りて|神《かみ》の|産業《さんげふ》とせられたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]これ|夙《はや》くよりキリストに|希望《のぞみ》を|置《お》きし|我《われ》らが、|神《かみ》の|榮光《えいくわう》の|譽《ほまれ》とならん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もキリストに|在《あ》りて、|眞《まこと》の|言《ことば》すなはち|汝《なんぢ》らの|救《すくひ》の|福音《ふくいん》をきき、|彼《かれ》を|信《しん》じて|約束《やくそく》の|聖《せい》|靈《れい》にて|印《いん》せられたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]これは|我《われ》らが|受《う》くべき|嗣業《しげふ》の|保證《ほしょう》にして、|神《かみ》に|屬《つ》けるものの|贖《あがな》はれ、かつ|神《かみ》の|榮光《えいくわう》に|譽《ほまれ》あらん|爲《ため》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》も|汝《なんぢ》らが|主《しゅ》イエスに|對《たい》する|信仰《しんかう》と|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》に|對《たい》する|愛《あい》とを|聞《き》きて、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|絶《た》えず|汝《なんぢ》らのために|感謝《かんしゃ》し、わが|祈《いのり》のうちに|汝《なんぢ》らを|憶《おぼ》え、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|神《かみ》、|榮光《えいくわう》の|父《ちち》、なんぢらに|智慧《ちゑ》と|默示《もくし》との|靈《れい》を|與《あた》へて、|神《かみ》を|知《し》らしめ、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|心《こころ》の|眼《め》を|明《あきら》かにし、|神《かみ》の|召《めし》にかかはる|望《のぞみ》と、|聖徒《せいと》にある|神《かみ》の|嗣業《しげふ》の|榮光《えいくわう》の|富《とみ》と、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|大能《たいのう》の|勢威《いきほひ》の|活動《はたらき》によりて|信《しん》ずる|我《われ》らに|對《たい》する|能力《ちから》の|極《きは》めて|大《おほい》なるとを|知《し》らしめ|給《たま》はんことを|願《ねが》ふ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》はその|大能《たいのう》をキリストのうちに|働《はたら》かせて、|之《これ》を|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ、|天《てん》の|所《ところ》にて|己《おのれ》の|右《みぎ》に|坐《ざ》せしめ、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]もろもろの|政治《まつりごと》・|權威《けんゐ》・|能力《ちから》・|支配《しはい》、また|啻《ただ》に|此《こ》の|世《よ》のみならず、|來《きた》らんとする|世《よ》にも|稱《とな》ふる|凡《すべ》ての|名《な》の|上《うへ》に|置《お》き、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|萬《よろづ》の|物《もの》をその|足《あし》の|下《した》に|服《したが》はせ、|彼《かれ》を|萬《よろづ》の|物《もの》の|上《うへ》に|首《かしら》として|教會《けうくわい》に|與《あた》へ|給《たま》へり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]この|教會《けうくわい》は|彼《かれ》の|體《からだ》にして、|萬《よろづ》の|物《もの》をもて|萬《よろづ》の|物《もの》に|滿《みた》し|給《たま》ふ|者《もの》の|滿《み》つる|所《ところ》なり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|前《さき》には|咎《とが》と|罪《つみ》とによりて|死《し》にたる|者《もの》にして、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]この|世《よ》の|習慣《ならはし》に|從《したが》ひ、|空中《くうちゅう》の|權《けん》を|執《と》る|宰《つかさ》、すなはち|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》の|子《こ》らの|中《うち》に|今《いま》なほ|働《はたら》く|靈《れい》の|宰《つかさ》にしたがひて|歩《あゆ》めり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》もみな|前《さき》には|彼《かれ》らの|中《うち》にをり、|肉《にく》の|慾《よく》に|從《したが》ひて|日《ひ》をおくり、|肉《にく》と|心《こころ》との|欲《ほっ》する|隨《まま》をなし、|他《ほか》の|者《もの》のごとく|生《うま》れながら|怒《いかり》の|子《こ》なりき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されど|神《かみ》は|憐憫《あはれみ》に|富《と》み|給《たま》ふが|故《ゆゑ》に、|我《われ》らを|愛《あい》する|大《おほい》なる|愛《あい》をもて、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|咎《とが》によりて|死《し》にたる|我等《われら》をすら、キリスト・イエスに|由《よ》りてキリストと|共《とも》に|活《いか》し、(|汝《なんぢ》らの|救《すく》はれしは|恩惠《めぐみ》によれり)[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|共《とも》に|甦《よみが》へらせ、|共《とも》に|天《てん》の|處《ところ》に|坐《ざ》せしめ|給《たま》へり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]これキリスト・イエスに|由《よ》りて|我《われ》らに|施《ほどこ》したまふ|仁慈《なさけ》をもて、|其《そ》の|恩惠《めぐみ》の|極《きは》めて|大《おほい》なる|富《とみ》を、|來《きた》らんとする|後《のち》の|世々《よよ》に|顯《あらは》さんとてなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|恩惠《めぐみ》により、|信仰《しんかう》によりて|救《すく》はれたり、|是《これ》おのれに|由《よ》るにあらず、|神《かみ》の|賜物《たまもの》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|行爲《おこなひ》に|由《よ》るにあらず、これ|誇《ほこ》る|者《もの》のなからん|爲《ため》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|神《かみ》に|造《つく》られたる|者《もの》にして、|神《かみ》の|預《あらか》じめ|備《そな》へ|給《たま》ひし|善《よ》き|業《わざ》に|歩《あゆ》むべく、キリスト・イエスの|中《うち》に|造《つく》られたるなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されば|記憶《きおく》せよ、|肉《にく》によりては|異邦人《いはうじん》にして、|手《て》にて|肉《にく》に|行《おこな》ひたるかの|割禮《かつれい》ありと|稱《とな》ふる|者《もの》に|無《む》|割禮《かつれい》と|稱《とな》へらるる|汝《なんぢ》ら、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|曩《さき》にはキリストなく、イスラエルの|民《みん》|籍《せき》に|遠《とほ》く、|約束《やくそく》に|屬《ぞく》する|諸般《もろもろ》の|契約《けいやく》に|與《あづか》りなく、|世《よ》に|在《あ》りて|希望《のぞみ》なく、|神《かみ》なき|者《もの》なりき。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されど|前《さき》に|遠《とほ》かりし|汝《なんぢ》ら|今《いま》キリスト・イエスに|在《あ》りて、キリストの|血《ち》によりて|近《ちか》づくことを|得《え》たり。[#太字]一四 一五[#「一四 一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|我《われ》らの|平和《へいわ》にして、|己《おの》が|肉《にく》により、|樣々《さまざま》の|誡命《いましめ》の|規《のり》より|成《な》る|律法《おきて》を|廢《はい》して、|二《ふた》つのものを|一《ひと》つとなし、|怨《うらみ》なる|隔《へだて》の|中籬《なかがき》を|毀《こぼ》ち|給《たま》へり。これは|二《ふた》つのものを|己《おのれ》に|於《おい》て|一《ひと》つの|新《あたら》しき|人《ひと》に|造《つく》りて|平和《へいわ》をなし、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|十字架《じふじか》によりて|怨《うらみ》を|滅《ほろぼ》し、また|之《これ》によりて|二《ふた》つのものを|一《ひと》つの|體《からだ》となして|神《かみ》と|和《やはら》がしめん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かつ|來《きた》りて、|遠《とほ》かりし|汝《なんぢ》|等《ら》にも|平和《へいわ》を|宣《の》べ、|近《ちか》きものにも|平和《へいわ》を|宣《の》べ|給《たま》へり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]そはキリストによりて|我《われ》ら|二《ふた》つのもの|一《ひと》つ|御靈《みたま》にありて|父《ちち》に|近《ちか》づくことを|得《え》たればなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》|等《ら》はもはや|旅人《たびびと》また|寄寓人《やどりびと》にあらず、|聖徒《せいと》と|同《おな》じ|國人《くにびと》また|神《かみ》の|家族《かぞく》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|使徒《しと》と|預言者《よげんしゃ》との|基《もとゐ》の|上《うへ》に|建《た》てられたる|者《もの》にして、キリスト・イエス|自《みづか》らその|隅《すみ》の|首石《おやいし》たり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]おのおのの|建造物《たてもの》、かれに|在《あ》りて|建《た》て|合《あは》せられ、|彌増《いやまし》に|聖《せい》なる|宮《みや》、|主《しゅ》のうちに|成《な》るなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もキリストに|在《あ》りて|共《とも》に|建《た》てられ、|御靈《みたま》によりて|神《かみ》の|御住《みすまひ》となるなり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》ら|異邦人《いはうじん》のためにキリスト・イエスの|囚人《めしうど》となれる|我《われ》パウロ――[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のために|我《われ》に|賜《たま》ひたる|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》の|經綸《けいりん》は|汝《なんぢ》ら|聞《き》きしならん、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|我《われ》まへに|簡單《かんたん》に|書《か》きおくりし|如《ごと》く、この|奧義《おくぎ》は|默示《もくし》にて|我《われ》に|示《しめ》されたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》これを|讀《よ》みてキリストの|奧義《おくぎ》にかかはる|我《わ》が|悟《さとり》を|知《し》ることを|得《う》べし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]この|奧義《おくぎ》は、いま|御靈《みたま》によりて|聖《せい》|使徒《しと》と|聖《せい》|預言者《よげんしゃ》とに|顯《あらは》されし|如《ごと》くに、|前代《ぜんだい》には|人《ひと》の|子《こ》らに|示《しめ》されざりき。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|異邦人《いはうじん》が|福音《ふくいん》によりキリスト・イエスに|在《あ》りて|共《とも》に|世嗣《よつぎ》となり、|共《とも》に|一體《いったい》となり、|共《とも》に|約束《やくそく》に|與《あづか》る|者《もの》となる|事《こと》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はその|福音《ふくいん》の|役者《えきしゃ》とせらる。これ|神《かみ》の|能力《ちから》の|活動《はたらき》に|隨《したが》ひて|我《われ》に|賜《たま》ふ|惠《めぐみ》の|賜物《たまもの》によるなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》のうちの|最《いと》|小《ちひさ》き|者《もの》よりも|小《ちひさ》き|者《もの》なるに、キリストの|測《はか》るべからざる|富《とみ》を|異邦人《いはうじん》に|傳《つた》へ、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|萬物《ばんもつ》を|造《つく》り|給《たま》ひし|神《かみ》のうちに、|世々《よよ》|隱《かく》れたる|奧義《おくぎ》の|經綸《けいりん》の|如何《いか》なるもの|乎《か》をあらはす|恩惠《めぐみ》を|賜《たま》はりたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]いま|教會《けうくわい》によりて|神《かみ》の|豐《ゆたか》なる|知慧《ちゑ》を、|天《てん》の|處《ところ》にある|政治《まつりごと》と|權威《けんゐ》とに|知《し》らしめん|爲《ため》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]これは|永遠《とこしへ》より|我《われ》らの|主《しゅ》キリスト・イエスの|中《うち》に、|神《かみ》の|定《さだ》め|給《たま》ひし|御旨《みむね》によるなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|彼《かれ》に|在《あ》りて|彼《かれ》を|信《しん》ずる|信仰《しんかう》により、|臆《おく》せず|疑《うたが》はずして|神《かみ》に|近《ちか》づくことを|得《う》るなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》らに|請《こ》ふ、わが|汝《なんぢ》|等《ら》のために|受《う》くる|患難《なやみ》に|就《つ》きて|落膽《きおち》すな、|是《これ》なんぢらの|譽《ほまれ》なり。[#太字]一四 一五[#「一四 一五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》は|天《てん》と|地《ち》とに|在《あ》る|諸族《しょぞく》の|名《な》の|起《おこ》るところの|父《ちち》に|跪《ひざま》づきて|願《ねが》ふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》その|榮光《えいくわう》の|富《とみ》にしたがひて、|御靈《みたま》により|力《ちから》をもて|汝《なんぢ》らの|内《うち》なる|人《ひと》を|強《つよ》くし、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》によりてキリストを|汝《なんぢ》らの|心《こころ》に|住《すま》はせ、|汝《なんぢ》らをして|愛《あい》に|根《ね》ざし、|愛《あい》を|基《もとゐ》とし、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》とともにキリストの|愛《あい》の|廣《ひろ》さ・|長《なが》さ・|高《たか》さ・|深《ふか》さの|如何《いか》ばかりなるかを|悟《さと》り、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]その|測《はか》り|知《し》るべからざる|愛《あい》を|知《し》ることを|得《え》しめ、|凡《すべ》て|神《かみ》に|滿《み》てる|者《もの》を|汝《なんぢ》らに|滿《みた》しめ|給《たま》はん|事《こと》を。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|我《われ》らの|中《うち》にはたらく|能力《ちから》に|隨《したが》ひて、|我《われ》らの|凡《すべ》て|求《もと》むる|所《ところ》、すべて|思《おも》ふ|所《ところ》よりも|甚《いた》く|勝《まさ》る|事《こと》をなし|得《う》る|者《もの》に、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|榮光《えいくわう》|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|教會《けうくわい》によりて、|又《また》キリスト・イエスによりて|在《あ》らんことを、アァメン。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|主《しゅ》に|在《あ》りて|囚人《めしうど》たる|我《われ》なんぢらに|勸《すす》む。|汝《なんぢ》ら|召《め》されたる|召《めし》に|適《かな》ひて|歩《あゆ》み、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|事《こと》|毎《ごと》に|謙遜《けんそん》と|柔和《にうわ》と|寛容《くわんよう》とを|用《もち》ひ、|愛《あい》をもて|互《たがひ》に|忍《しの》び、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|平和《へいわ》の|繋《つなぎ》のうちに|勉《つと》めて|御靈《みたま》の|賜《たま》ふ|一致《いっち》を|守《まも》れ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|體《からだ》は|一《ひと》つ、|御靈《みたま》は|一《ひと》つなり。|汝《なんぢ》らが|召《めし》にかかはる|一《ひと》つ|望《のぞみ》をもて|召《め》されたるが|如《ごと》し。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》は|一《ひと》つ、|信仰《しんかう》は|一《ひと》つ、バプテスマは|一《ひと》つ、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|者《もの》の|父《ちち》なる|神《かみ》は|一《ひと》つなり。|神《かみ》は|凡《すべ》てのものの|上《うへ》に|在《いま》し、|凡《すべ》てのものを|貫《つらぬ》き、|凡《すべ》てのものの|内《うち》に|在《いま》したまふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》はキリストの|賜物《たまもの》の|量《はかり》に|隨《したが》ひて、おのおの|恩惠《めぐみ》を|賜《たま》はりたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されば|云《い》へることあり [#ここから2字下げ] 『かれ|高《たか》きところに|昇《のぼ》りしとき、|多《おほ》くの|虜《とりこ》をひきゐ、|人々《ひとびと》に|賜物《たまもの》を|賜《たま》へり』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|昇《のぼ》りしと|云《い》へば、まづ|地《ち》の|低《ひく》き|處《ところ》まで|降《くだ》りしにあらずや。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|降《くだ》りし|者《もの》は|即《すなは》ち|萬《よろづ》の|物《もの》に|滿《み》たん|爲《ため》に、もろもろの|天《てん》の|上《うへ》に|昇《のぼ》りし|者《もの》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|或《ある》|人《ひと》を|使徒《しと》とし、|或《ある》|人《ひと》を|預言者《よげんしゃ》とし、|或《ある》|人《ひと》を|傳道者《でんどうしゃ》とし、|或《ある》|人《ひと》を|牧師《ぼくし》・|教師《けうし》として|與《あた》へ|給《たま》へり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]これ|聖徒《せいと》を|全《まった》うして|職《つとめ》を|行《おこな》はせ、キリストの|體《からだ》を|建《た》て、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》をしてみな|信仰《しんかう》と|神《かみ》の|子《こ》を|知《し》る|知識《ちしき》とに|一致《いっち》せしめ、|全《まった》き|人《ひと》、すなはちキリストの|滿《み》ち|足《た》れるほどに|至《いた》らせ、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]また|我等《われら》はもはや|幼童《わらべ》ならず、|人《ひと》の|欺騙《あざむきごと》と|誘惑《まどはし》の|術《てだて》たる|惡巧《たくみ》とより|起《おこ》る|樣々《さまざま》の|教《をしへ》の|風《かぜ》に|吹《ふ》きまはされず、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ただ|愛《あい》をもて|眞《まこと》を|保《たも》ち、|育《そだ》ちて|凡《すべ》てのこと|首《かしら》なるキリストに|達《たっ》せん|爲《ため》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》を|本《もと》とし|全身《ぜんしん》は|凡《すべ》ての|節々《ふしぶし》の|助《たすけ》にて|整《ととの》ひ、かつ|聯《つらな》り、|肢體《したい》おのおの|量《はかり》に|應《おう》じて|働《はたら》くにより、その|體《からだ》|成長《せいちゃう》し、|自《みづか》ら|愛《あい》によりて|建《た》てらるるなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》これを|言《い》ひ、|主《しゅ》に|在《あ》りて|證《あかし》す、なんぢら|今《いま》よりのち、|異邦人《いはうじん》のその|心《こころ》の|虚無《むなしき》に|任《まか》せて|歩《あゆ》むが|如《ごと》く|歩《あゆ》むな。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|念《おもひ》|暗《くら》くなりて、|其《そ》の|内《うち》なる|無知《むち》により、|心《こころ》の|頑固《かたくな》によりて|神《かみ》の|生命《いのち》に|遠《とほ》ざかり、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|恥《はぢ》を|知《し》らず、|放縱《ほしいまま》に|凡《すべ》ての|汚穢《けがれ》を|行《おこな》はんとて|己《おのれ》を|好色《かうしょく》に|付《わた》せり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らはかくの|如《ごと》くならん|爲《ため》にキリストを|學《まな》べるにあらず。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|彼《かれ》に|聞《き》き、|彼《かれ》に|在《あ》りてイエスにある|眞理《まこと》に|循《したが》ひて|教《をし》へられしならん。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|汝《なんぢ》ら|誘惑《まどはし》の|慾《よく》のために|亡《ほろ》ぶべき|前《さき》の|動作《ふるまひ》に|屬《つ》ける|舊《ふる》き|人《ひと》を|脱《ぬ》ぎすて、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|心《こころ》の|靈《れい》を|新《あらた》にし、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|眞理《まこと》より|出《い》づる|義《ぎ》と|聖《せい》とにて、|神《かみ》に|象《かたど》り|造《つく》られたる|新《あたら》しき|人《ひと》を|著《き》るべきことなり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]されば|虚僞《いつはり》をすてて|各自《おのおの》その|隣《となり》に|實《まこと》をかたれ、|我《われ》ら|互《たがひ》に|肢《えだ》なればなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|怒《いか》るとも|罪《つみ》を|犯《をか》すな、|憤恚《いきどほり》を|日《ひ》の|入《い》るまで|續《つづ》くな。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|惡魔《あくま》に|機會《をり》を|得《え》さすな。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|盜《ぬすみ》する|者《もの》は|今《いま》よりのち|盜《ぬすみ》すな、むしろ|貧《まづ》しき|者《もの》に|分《わ》け|與《あた》へ|得《う》るために|手《て》づから|働《はたら》きて|善《よ》き|業《わざ》をなせ。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|惡《あ》しき|言《ことば》を|一切《いっさい》なんぢらの|口《くち》より|出《いだ》すな、ただ|時《とき》に|隨《したが》ひて|人《ひと》の|徳《とく》を|建《た》つべき|善《よ》き|言《ことば》を|出《いだ》して、|聽《き》く|者《もの》に|益《えき》を|得《え》させよ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|聖《せい》|靈《れい》を|憂《うれ》ひしむな、|汝《なんぢ》らは|贖罪《あがなひ》の|日《ひ》のために|聖《せい》|靈《れい》にて|印《いん》せられたるなり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|苦《にがき》・|憤恚《いきどほり》・|怒《いかり》・|喧噪《さわぎ》・|誹謗《そしり》、および|凡《すべ》ての|惡意《あくい》を|汝《なんぢ》|等《ら》より|棄《す》てよ。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]|互《たがひ》に|仁慈《なさけ》と|憐憫《あはれみ》とあれ、キリストに|在《あ》りて|神《かみ》の|汝《なんぢ》らを|赦《ゆる》し|給《たま》ひしごとく、|汝《なんぢ》らも|互《たがひ》に|赦《ゆる》せ。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》ら|愛《あい》せらるる|子供《こども》のごとく、|神《かみ》に|效《なら》ふ|者《もの》となれ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》キリストの|汝《なんぢ》らを|愛《あい》し、|我《われ》らのために|己《おのれ》を|馨《かうば》しき|香《かをり》の|献物《ささげもの》とし|犧牲《いけにへ》として、|神《かみ》に|献《ささ》げ|給《たま》ひし|如《ごと》く、|愛《あい》の|中《うち》をあゆめ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|聖徒《せいと》たるに|適《かな》ふごとく、|淫行《いんかう》、もろもろの|汚穢《けがれ》、また|慳貪《むさぼり》を|汝《なんぢ》らの|間《うち》にて|稱《とな》ふる|事《こと》だに|爲《す》な。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|恥《は》づべき|言《ことば》・|愚《おろか》なる|話《はなし》・|戯言《たはむれごと》を|言《い》ふな、これ|宜《よろ》しからぬ|事《こと》なり、|寧《むし》ろ|感謝《かんしゃ》せよ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|淫行《いんかう》のもの、|汚《けが》れたるもの、|貪《むさぼ》るもの、|即《すなは》ち|偶像《ぐうざう》を|拜《をが》む|者《もの》どもの、キリストと|神《かみ》との|國《くに》の|世嗣《よつぎ》たることを|得《え》ざるは、|汝《なんぢ》らの|確《かた》く|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|人《ひと》の|虚《むな》しき|言《ことば》に|欺《あざむ》かるな、|神《かみ》の|怒《いかり》はこれらの|事《こと》によりて|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》の|子《こ》らに|及《およ》ぶなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|彼《かれ》らに|與《くみ》する|者《もの》となるな。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|舊《もと》は|闇《やみ》なりしが、|今《いま》は|主《しゅ》に|在《あ》りて|光《ひかり》となれり、|光《ひかり》の|子供《こども》のごとく|歩《あゆ》め。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり](|光《ひかり》の|結《むす》ぶ|實《み》はもろもろの|善《ぜん》と|正義《ただしき》と|誠實《まこと》となり)[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|喜《よろこ》び|給《たま》ふところの|如何《いか》なるかを|辨《わきま》へ|知《し》れ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|實《み》を|結《むす》ばぬ|暗《くら》き|業《わざ》に|與《くみ》する|事《こと》なく、|反《かへ》つて|之《これ》を|責《せ》めよ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らが|隱《かく》れて|行《おこな》ふことは|之《これ》を|言《い》ふだに|恥《は》づべき|事《こと》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》てかかる|事《こと》は、|責《せ》めらるるとき|光《ひかり》にて|顯《あらは》さる、|顯《あらは》さるる|者《もの》はみな|光《ひかり》となるなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|言《い》ひ|給《たま》ふ [#ここから2字下げ] 『|眠《ねむ》れる|者《もの》よ、|起《お》きよ、|死人《しにん》の|中《うち》より|立《た》ち|上《あが》れ。 さらばキリスト|汝《なんぢ》を|照《てら》し|給《たま》はん』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されば|愼《つつし》みてその|歩《あゆ》むところに|心《こころ》せよ、|智《かしこ》からぬ|者《もの》の|如《ごと》くせず、|智《かしこ》き|者《もの》の|如《ごと》くし、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]また|機會《をり》をうかがへ、そは|時《とき》|惡《あ》しければなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|愚《おろか》とならず、|主《しゅ》の|御意《みこころ》の|如何《いかん》を|悟《さと》れ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|酒《さけ》に|醉《ゑ》ふな、|放蕩《はうたう》はその|中《うち》にあり、むしろ|御靈《みたま》にて|滿《みた》され、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|詩《し》と|讃美《さんび》と|靈《れい》の|歌《うた》とをもて|語《かた》り|合《あ》ひ、また|主《しゅ》に|向《むか》ひて|心《こころ》より|且《かつ》うたひ、かつ|讃美《さんび》せよ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|事《こと》に|就《つ》きて|常《つね》に|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|名《な》によりて|父《ちち》なる|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》し、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]キリストを|畏《おそれ》みて|互《たがひ》に|服《したが》へ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|妻《つま》たる|者《もの》よ、|主《しゅ》に|服《したが》ふごとく|己《おのれ》の|夫《をっと》に|服《したが》へ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|自《みづか》ら|體《からだ》の|救主《すくひぬし》にして|教會《けうくわい》の|首《かしら》なるごとく、|夫《をっと》は|妻《つま》の|首《かしら》なればなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|教會《けうくわい》のキリストに|服《したが》ふごとく、|妻《つま》も|凡《すべ》てのこと|夫《をっと》に|服《したが》へ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|夫《をっと》たる|者《もの》よ、キリストの|教會《けうくわい》を|愛《あい》し、|之《これ》がために|己《おのれ》を|捨《す》て|給《たま》ひしごとく、|汝《なんぢ》らも|妻《つま》を|愛《あい》せよ。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]キリストの|己《おのれ》を|捨《す》て|給《たま》ひしは、|水《みづ》の|洗《あらひ》をもて|言《ことば》によりて|教會《けうくわい》を|潔《きよ》め、これを|聖《せい》なる|者《もの》として、[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|汚點《しみ》なく|皺《しわ》なく、|凡《すべ》て|斯《か》くのごとき|類《たぐひ》なく、|潔《きよ》き|瑕《きず》なき|尊《たふと》き|教會《けうくわい》を、おのれの|前《まへ》に|建《た》てん|爲《ため》なり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|夫《をっと》はその|妻《つま》を|己《おのれ》の|體《からだ》のごとく|愛《あい》すべし。|妻《つま》を|愛《あい》するは|己《おのれ》を|愛《あい》するなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|己《おのれ》の|身《み》を|憎《にく》む|者《もの》は|曾《かつ》てあることなし、|皆《みな》これを|育《そだ》て|養《やしな》ふ、キリストの|教會《けうくわい》に|於《お》けるも|亦《また》かくの|如《ごと》し。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|彼《かれ》の|體《からだ》の|肢《えだ》なり、[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]『この|故《ゆゑ》に|人《ひと》は|父《ちち》|母《はは》を|離《はな》れ、その|妻《つま》に|合《あ》ひて|二人《ふたり》のもの|一體《いったい》となるべし』[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]この|奧義《おくぎ》は|大《おほい》なり、わが|言《い》ふ|所《ところ》はキリストと|教會《けうくわい》とを|指《さ》せるなり。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》おのおの|己《おのれ》のごとく|其《そ》の|妻《つま》を|愛《あい》せよ、|妻《つま》も|亦《また》その|夫《をっと》を|敬《うやま》ふべし。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|子《こ》たる|者《もの》よ、なんぢら|主《しゅ》にありて|兩親《ふたおや》に|順《したが》へ、これ|正《ただ》しき|事《こと》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]『なんぢの|父《ちち》|母《はは》を|敬《うやま》へ(これ|約束《やくそく》を|加《くは》へたる|誡命《いましめ》の|首《はじめ》なり)[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]さらばなんぢ|幸福《さいはひ》を|得《え》、また|地《ち》の|上《うへ》に|壽《いのち》|長《なが》からん』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》たる|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らの|子供《こども》を|怒《いか》らすな、ただ|主《しゅ》の|薫陶《くんたう》と|訓戒《くんかい》とをもて|育《そだ》てよ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》たる|者《もの》よ、キリストに|從《したが》ふごとく|畏《おそ》れをののき、|眞心《まごころ》をもて|肉《にく》につける|主人《しゅじん》に|從《したが》へ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》を|喜《よろこ》ばする|者《もの》の|如《ごと》く、ただ|目《め》の|前《まへ》の|事《こと》のみを|勤《つと》めず、キリストの|僕《しもべ》のごとく|心《こころ》より|神《かみ》の|御旨《みむね》をおこなひ、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》に|事《つか》ふる|如《ごと》くせず、|主《しゅ》に|事《つか》ふるごとく|快《こころよ》くつかへよ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]そは|奴隷《どれい》にもあれ、|自主《じしゅ》にもあれ、|各自《おのおの》おこなふ|善《よ》き|業《わざ》によりて|主《しゅ》より|其《そ》の|報《むくい》を|受《う》くることを|汝《なんぢ》ら|知《し》ればなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》たる|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らも|僕《しもべ》に|對《たい》し|斯《か》く|行《おこな》ひて|威嚇《おびやかし》を|止《や》めよ、そは|彼《かれ》らと|汝《なんぢ》らとの|主《しゅ》は|天《てん》に|在《いま》して、|偏《かたよ》り|視《み》たまふことなきを|汝《なんぢ》ら|知《し》ればなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|終《をはり》に|言《い》はん、|汝《なんぢ》ら|主《しゅ》にありて|其《そ》の|大能《たいのう》の|勢威《いきほひ》に|頼《よ》りて|強《つよ》かれ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|惡魔《あくま》の|術《てだて》に|向《むか》ひて|立《た》ち|得《え》んために、|神《かみ》の|武具《ぶぐ》をもて|鎧《よろ》ふべし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|血肉《けつにく》と|戰《たたか》ふにあらず、|政治《まつりごと》・|權威《けんゐ》、この|世《よ》の|暗黒《くらき》を|掌《つかさ》どるもの、|天《てん》の|處《ところ》にある|惡《あく》の|靈《れい》と|戰《たたか》ふなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》の|武具《ぶぐ》を|執《と》れ、|汝《なんぢ》ら|惡《あ》しき|日《ひ》に|遭《あ》ひて|仇《あた》に|立《た》ちむかひ、|凡《すべ》ての|事《こと》を|成就《じゃうじゅ》して|立《た》ち|得《え》んためなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|立《た》つに|誠《まこと》を|帶《おび》として|腰《こし》に|結《むす》び、|正義《ただしき》を|胸當《むねあて》として|胸《むね》に|當《あ》て、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|平和《へいわ》の|福音《ふくいん》の|備《そなへ》を|靴《くつ》として|足《あし》に|穿《は》け。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]この|他《ほか》なほ|信仰《しんかう》の|盾《たて》を|執《と》れ、|之《これ》をもて|惡《あ》しき|者《もの》の|凡《すべ》ての|火矢《ひや》を|消《け》すことを|得《え》ん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]また|救《すくひ》の|冑《かぶと》および|御靈《みたま》の|劍《つるぎ》、すなはち|神《かみ》の|言《ことば》を|執《と》れ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|常《つね》にさまざまの|祈《いのり》と|願《ねがひ》とをなし、|御靈《みたま》によりて|祈《いの》り、また|目《め》を|覺《さま》して|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》のためにも|願《ねが》ひて|倦《う》まざれ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》わが|口《くち》を|開《ひら》くとき|言《ことば》を|賜《たま》はり、|憚《はばか》らずして|福音《ふくいん》の|奧義《おくぎ》を|示《しめ》し、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|語《かた》るべき|所《ところ》を|憚《はばか》らず|語《かた》り|得《う》るように、|我《わ》がためにも|祈《いの》れ、|我《われ》はこの|福音《ふくいん》のために|使者《つかひ》となりて|鎖《くさり》に|繋《つな》がれたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|兄弟《きゃうだい》、|主《しゅ》に|在《あ》りて|忠實《まめやか》なる|役者《えきしゃ》テキコ、|我《わ》が|情況《ありさま》わが|爲《な》す|所《ところ》のことを、|具《つぶさ》に|汝《なんぢ》らに|知《し》らせん。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]われ|彼《かれ》を|遣《つかは》すは、|我《わ》が|事《こと》を|汝《なんぢ》らに|知《し》らせて、|汝《なんぢ》らの|心《こころ》を|慰《なぐさ》めしめん|爲《ため》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|平安《へいあん》と、|信仰《しんかう》に|伴《ともな》へる|愛《あい》と、|兄弟《きゃうだい》たちに|在《あ》らんことを。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|朽《く》ちぬ|愛《あい》をもて|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストを|愛《あい》する|凡《すべ》ての|者《もの》に|御惠《みめぐみ》あらんことを。 [#改ページ] ピリピ人への書[#「ピリピ人への書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]キリスト・イエスの|僕《しもべ》たる|我《われ》ら、パウロとテモテと、|書《ふみ》をピリピにをるキリスト・イエスに|在《あ》る|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》、および|監督《かんとく》たちと|執事《しつじ》たちとに|贈《おく》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らを|憶《おも》ふごとに、|我《わ》が|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》し、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|常《つね》に|汝《なんぢ》ら|衆《すべて》のために、|願《ねがひ》のつどつど|喜《よろこ》びて|願《ねがひ》をなす。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》なんぢら|初《はじめ》の|日《ひ》より|今《いま》に|至《いた》るまで、|福音《ふくいん》を|弘《ひろ》むることに|與《あづか》るが|故《ゆゑ》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|汝《なんぢ》らの|衷《うち》に|善《よ》き|業《わざ》を|始《はじ》め|給《たま》ひし|者《もの》の、キリスト・イエスの|日《ひ》まで|之《これ》を|全《まった》うし|給《たま》ふべきことを|確信《かくしん》す。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]わが|斯《か》くも|汝《なんぢ》ら|衆《すべて》を|思《おも》ふは|當然《たうぜん》の|事《こと》なり、|我《わ》が|縲絏《なはめ》にある|時《とき》にも、|福音《ふくいん》を|辯明《べんめい》して|之《これ》を|堅《かた》うする|時《とき》にも、|汝《なんぢ》らは|皆《みな》われと|共《とも》に|恩惠《めぐみ》に|與《あづか》るによりて、|我《わ》が|心《こころ》にあればなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》いかにキリスト・イエスの|心《こころ》をもて|汝《なんぢ》ら|衆《すべて》を|戀《こ》ひ|慕《した》ふか、その|證《あかし》をなし|給《たま》ふ|者《もの》は|神《かみ》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|祈《いの》る、|汝《なんぢ》らの|愛《あい》、|知識《ちしき》ともろもろの|悟《さとり》とによりて|彌《いや》が|上《うへ》にも|増《ま》し|加《くは》はり、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|善惡《よしあし》を|辨《わきま》へ|知《し》り、キリストの|日《ひ》に|至《いた》るまで|潔《いさぎ》よくして|躓《つまづ》くことなく、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]イエス・キリストによる|義《ぎ》の|果《み》を|充《みた》して、|神《かみ》の|榮光《えいくわう》と|譽《ほまれ》とを|顯《あらは》さん|事《こと》を。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》はわが|身《み》にありし|事《こと》の|反《かへ》つて|福音《ふくいん》の|進歩《しんぽ》の|助《たすけ》となりしを|汝《なんぢ》らが|知《し》らんことを|欲《ほっ》するなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|我《わ》が|縲絏《なはめ》のキリストの|爲《ため》なることは、|近衞《このゑ》の|全營《ぜんえい》にも、|他《ほか》の|凡《すべ》ての|人《ひと》にも|顯《あらは》れ、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かつ|兄弟《きゃうだい》のうちの|多《おほ》くの|者《もの》は、わが|縲絏《なはめ》によりて|主《しゅ》を|信《しん》ずる|心《こころ》を|厚《あつ》くし、|懼《おそ》るる|事《こと》なく、ますます|勇《いさ》みて|神《かみ》の|言《ことば》を|語《かた》るに|至《いた》れり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|者《もの》は|嫉妬《ねたみ》と|分爭《あらそひ》とによりてキリストを|宣傳《のべつた》へ、あるものは|善《よ》き|心《こころ》によりて|之《これ》を|宣傳《のべつた》ふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]これは|福音《ふくいん》を|辯明《べんめい》するために|我《わ》が|立《た》てられたることを|知《し》り、|愛《あい》によりてキリストを|宣《の》べ、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かれは|我《わ》が|縲絏《なはめ》に|患難《なやみ》を|加《くは》へんと|思《おも》ひ、|誠意《せいい》によらず、|徒黨《とたう》によりて|之《これ》を|宣《の》ぶ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]さらば|如何《いかん》、|外貌《うはべ》にもあれ、|眞《まこと》にもあれ、|孰《いづれ》も|宣《の》ぶる|所《ところ》はキリストなれば、|我《われ》これを|喜《よろこ》ぶ、また|之《これ》を|喜《よろこ》ばん。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]そは|此《こ》のことの|汝《なんぢ》らの|祈《いのり》とイエス・キリストの|御靈《みたま》の|賜物《たまもの》とによりて、|我《わ》が|救《すくひ》となるべきを|知《し》ればなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]これは|我《わ》が|何事《なにごと》をも|恥《は》ぢずして、|今《いま》も|常《つね》のごとく|聊《いささ》かも|臆《おく》することなく、|生《い》くるにも、|死《し》ぬるにも、|我《わ》が|身《み》によりてキリストの|崇《あが》められ|給《たま》はんことを|切《せつ》に|願《ねが》ひ、また|望《のぞ》むところに|適《かな》へるなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》にとりて、|生《い》くるはキリストなり、|死《し》ぬるもまた|益《えき》なり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されど|若《も》し|肉體《にくたい》にて|生《い》くる|事《こと》わが|勤勞《はたらき》の|果《み》となるならば、|孰《いづれ》を|選《えら》ぶべきか、|我《われ》これを|知《し》らず。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はこの|二《ふた》つの|間《あひだ》に|介《はさ》まれたり。わが|願《ねがひ》は|世《よ》を|去《さ》りてキリストと|偕《とも》に|居《を》らんことなり、これ|遙《はるか》に|勝《まさ》るなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》なほ|肉體《にくたい》に|留《とどま》るは|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|必要《ひつえう》なり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》これを|確信《かくしん》する|故《ゆゑ》に、なほ|存《ながら》へて|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》の|進歩《しんぽ》と|喜悦《よろこび》とのために、|汝《なんぢ》|等《ら》すべての|者《もの》と|偕《とも》に|留《とどま》らんことを|知《し》る。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]これは|我《わ》が|再《ふたた》び|汝《なんぢ》らに|到《いた》ることにより、|汝《なんぢ》らキリスト・イエスに|在《あ》りて|我《われ》にかかはる|誇《ほこり》を|増《ま》さん|爲《ため》なり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》ただキリストの|福音《ふくいん》に|相應《ふさは》しく|日《ひ》を|過《すご》せ、さらば|我《わ》が|往《ゆ》きて|汝《なんぢ》らを|見《み》るも、|離《はな》れゐて|汝《なんぢ》らの|事《こと》をきくも、|汝《なんぢ》らが|靈《れい》を|一《ひと》つにして|堅《かた》く|立《た》ち、|心《こころ》を|一《ひと》つにして|福音《ふくいん》の|信仰《しんかう》のために|共《とも》に|戰《たたか》ひ、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|事《こと》において|逆《さから》ふ|者《もの》に|驚《をどろ》かされぬを|知《し》ることを|得《え》ん。その|驚《をどろ》かされぬは、|彼《かれ》らには|亡《ほろび》の|兆《しるし》、なんぢらには|救《すくひ》の|兆《しるし》にて、|此《これ》は|神《かみ》より|出《い》づるなり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》はキリストのために|啻《ただ》に|彼《かれ》を|信《しん》ずる|事《こと》のみならず、また|彼《かれ》のために|苦《くる》しむ|事《こと》をも|賜《たま》はりたればなり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らが|遭《あ》ふ|戰鬪《たたかひ》は、|曩《さき》に|我《われ》の|上《うへ》に|見《み》しところ、|今《いま》また|我《われ》に|就《つ》きて|聞《き》くところに|同《おな》じ。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|若《も》しキリストによる|勸《すすめ》、|愛《あい》による|慰安《なぐさめ》、|御靈《みたま》の|交際《まじはり》、また|憐憫《あはれみ》と|慈悲《じひ》とあらば、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|念《おもひ》を|同《おな》じうし、|愛《あい》を|同《おな》じうし、|心《こころ》を|合《あは》せ、|思《おも》ふことを|一《ひと》つにして、|我《わ》が|喜悦《よろこび》を|充《みた》しめよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|何事《なにごと》にまれ、|徒黨《とたう》また|虚榮《きょえい》のためにすな、おのおの|謙遜《けんそん》をもて|互《たがひ》に|人《ひと》を|己《おのれ》に|勝《まさ》れりとせよ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]おのおの|己《おの》が|事《こと》のみを|顧《かへり》みず、|人《ひと》の|事《こと》をも|顧《かへり》みよ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らキリスト・イエスの|心《こころ》を|心《こころ》とせよ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|彼《かれ》は|神《かみ》の|貌《かたち》にて|居給《ゐたま》ひしが、|神《かみ》と|等《ひと》しくある|事《こと》を|固《かた》く|保《たも》たんとは|思《おも》はず、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|反《かへ》つて|己《おのれ》を|空《むな》しうし、|僕《しもべ》の|貌《かたち》をとりて|人《ひと》の|如《ごと》くなれり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|人《ひと》の|状《さま》にて|現《あらは》れ、|己《おのれ》を|卑《ひく》うして|死《し》に|至《いた》るまで、|十字架《じふじか》の|死《し》に|至《いた》るまで|順《したが》ひ|給《たま》へり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》は|彼《かれ》を|高《たか》く|上《あ》げて、|之《これ》に|諸般《もろもろ》の|名《な》にまさる|名《な》を|賜《たま》ひたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]これ|天《てん》に|在《あ》るもの、|地《ち》に|在《あ》るもの、|地《ち》の|下《した》にあるもの、|悉《ことご》とくイエスの|名《な》によりて|膝《ひざ》を|屈《かが》め、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》もろもろの|舌《した》の『イエス・キリストは|主《しゅ》なり』と|言《い》ひあらはして、|榮光《えいくわう》を|父《ちち》なる|神《かみ》に|歸《き》せん|爲《ため》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《わ》が|愛《あい》する|者《もの》よ、なんぢら|常《つね》に|服《したが》ひしごとく、|我《わ》が|居《を》る|時《とき》のみならず、|我《わ》が|居《を》らぬ|今《いま》もますます|服《したが》ひ、|畏《おそ》れ|戰《おのの》きて|己《おの》が|救《すくひ》を|全《まった》うせよ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|御意《みこころ》を|成《な》さんために|汝《なんぢ》らの|衷《うち》にはたらき、|汝《なんぢ》|等《ら》をして|志望《こころざし》をたて、|業《わざ》を|行《おこな》はしめ|給《たま》へばなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|呟《つぶや》かず|疑《うたが》はずして、|凡《すべ》ての|事《こと》をおこなへ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》なんぢら|責《せ》むべき|所《ところ》なく|素直《すなほ》にして、|此《こ》の|曲《まが》れる|邪惡《よこしま》なる|時代《じだい》に|在《あ》りて|神《かみ》の|瑕《きず》なき|子《こ》とならん|爲《ため》なり。|汝《なんぢ》らは|生命《いのち》の|言《ことば》を|保《たも》ちて、|世《よ》の|光《ひかり》のごとく|此《こ》の|時代《じだい》に|輝《かがや》く。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|我《わ》が|走《はし》りしところ|勞《らう》せしところ|空《むな》しからず、キリストの|日《ひ》にわれ|誇《ほこ》ることを|得《え》ん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]さらば|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》の|供物《そなへもの》と|祭《まつり》とに|加《くは》へて、|我《わ》が|血《ち》を|灌《そそ》ぐとも|我《われ》は|喜《よろこ》ばん、なんぢら|衆《すべて》と|共《とも》に|喜《よろこ》ばん。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かく|汝《なんぢ》|等《ら》もよろこべ、|我《われ》とともに|喜《よろこ》べ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らの|事《こと》を|知《し》りて|慰安《なぐさめ》を|得《え》んとて、|速《すみや》かにテモテを|汝《なんぢ》らに|遣《つかは》さんことを|主《しゅ》イエスに|頼《よ》りて|望《のぞ》む。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]そは|彼《かれ》のほかに|我《われ》と|同《おな》じ|心《こころ》をもて|眞實《しんじつ》に|汝《なんぢ》らのことを|慮《おもん》ぱかる|者《もの》なければなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》は|皆《みな》イエス・キリストの|事《こと》を|求《もと》めず、|唯《ただ》おのれの|事《こと》のみを|求《もと》む。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されどテモテの|錬達《れんたつ》なるは|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり、|即《すなは》ち|子《こ》の|父《ちち》に|於《お》ける|如《ごと》く|我《われ》とともに|福音《ふくいん》のために|勤《つと》めたり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》わが|身《み》の|成行《なりゆき》を|見《み》ば、|直《ただ》ちに|彼《かれ》を|遣《つかは》さんことを|望《のぞ》む。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もまた|速《すみや》かに|往《ゆ》くべきを|主《しゅ》によりて|確信《かくしん》す。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]されど|今《いま》は|先《まづ》われと|共《とも》に|働《はたら》き|共《とも》に|戰《たたか》ひし|兄弟《きゃうだい》、すなはち|汝《なんぢ》らの|使《つかひ》として|我《わ》が|窮乏《ともしき》を|補《おぎな》ひしエパフロデトを、|汝《なんぢ》らに|遣《つかは》すを|必要《ひつえう》のことと|思《おも》ふ。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|汝《なんぢ》|等《ら》すべての|者《もの》を|戀《こ》ひしたひ、|又《また》おのが|病《や》みたることの|汝《なんぢ》らに|聞《きこ》えしを|以《もっ》て|悲《かな》しみ|居《を》るに|因《よ》りてなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|實《じつ》に|病《やまひ》にかかりて|死《し》ぬばかりなりしが、|神《かみ》は|彼《かれ》を|憐《あはれ》みたまへり、|啻《ただ》に|彼《かれ》のみならず、|我《われ》をも|憐《あはれ》み、|憂《うれひ》に|憂《うれひ》を|重《かさ》ねしめ|給《たま》はざりき。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|急《いそ》ぎて|彼《かれ》を|遣《つかは》す、なんぢらが|再《ふたた》び|彼《かれ》を|見《み》て|喜《よろこ》ばん|爲《ため》なり。|又《また》わが|憂《うれひ》を|少《すくな》うせん|爲《ため》なり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》ら|主《しゅ》にありて|歡喜《よろこび》を|盡《つく》して|彼《かれ》を|迎《むか》へ、かつ|斯《か》くのごとき|人《ひと》を|尊《たふと》べ。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|汝《なんぢ》らが|我《われ》を|助《たす》くるに|當《あた》り、|汝《なんぢ》らの|居《を》らぬを|補《おぎな》はんとて、|己《おの》が|生命《いのち》を|賭《か》け、キリストの|事業《じげふ》のために|死《し》ぬばかりになりたればなり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|終《をはり》に|言《い》はん、|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢら|主《しゅ》に|在《あ》りて|喜《よろこ》べ。なんぢらに|同《おな》じことを|書《か》きおくるは、|我《われ》に|煩《わづら》はしきことなく、|汝《なんぢ》|等《ら》には|安然《あんぜん》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|犬《いぬ》に|心《こころ》せよ、|惡《あ》しき|勞動人《はたらきびと》に|心《こころ》せよ、|肉《にく》の|割禮《かつれい》ある|者《もの》に|心《こころ》せよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|御靈《みたま》によりて|禮拜《れいはい》をなし、キリスト・イエスによりて|誇《ほこ》り、|肉《にく》を|恃《たの》まぬ|我《われ》らは|眞《まこと》の|割禮《かつれい》ある|者《もの》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》は|肉《にく》にも|恃《たのみ》むことを|得《う》るなり。もし|他《ほか》の|人《ひと》、|肉《にく》に|恃《たのみ》むところありと|思《おも》はば、|我《われ》は|更《さら》に|恃《たのみ》む|所《ところ》あり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|八日《やうか》めに|割禮《かつれい》を|受《う》けたる|者《もの》にして、イスラエルの|血統《ちすぢ》、ベニヤミンの|族《やから》、ヘブル|人《びと》より|出《い》でたるヘブル|人《びと》なり。|律法《おきて》に|就《つ》きてはパリサイ|人《びと》、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|熱心《ねっしん》につきては|教會《けうくわい》を|迫害《はくがい》したるもの、|律法《おきて》によれる|義《ぎ》に|就《つ》きては|責《せ》むべき|所《ところ》なかりし|者《もの》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されど|曩《さき》に|我《わ》が|益《えき》たりし|事《こと》はキリストのために|損《そん》と|思《おも》ふに|至《いた》れり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》り、|我《われ》はわが|主《しゅ》キリスト・イエスを|知《し》ることの|優《すぐ》れたるために、|凡《すべ》ての|物《もの》を|損《そん》なりと|思《おも》ひ、|彼《かれ》のために|既《すで》に|凡《すべ》ての|物《もの》を|損《そん》せしが、|之《これ》を|塵芥《あくた》のごとく|思《おも》ふ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]これキリストを|獲《え》、かつ|律法《おきて》による|己《おの》が|義《ぎ》ならで、|唯《ただ》キリストを|信《しん》ずる|信仰《しんかう》による|義《ぎ》、すなはち|信仰《しんかう》に|基《もとづ》きて|神《かみ》より|賜《たま》はる|義《ぎ》を|保《たも》ち、キリストに|在《あ》るを|認《みと》められ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]キリストとその|復活《よみがへり》の|力《ちから》とを|知《し》り、|又《また》その|死《し》に|效《なら》ひて|彼《かれ》の|苦難《くるしみ》にあづかり、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|如何《いか》にもして|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へることを|得《え》んが|爲《ため》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]われ|既《すで》に|取《と》れり、|既《すで》に|全《まった》うせられたりと|言《い》ふにあらず、|唯《ただ》これを|捉《とら》へんとて|追《お》ひ|求《もと》む。キリストは|之《これ》を|得《え》させんとて|我《われ》を|捉《とら》へたまへり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われは|既《すで》に|捉《とら》へたりと|思《おも》はず、|唯《ただ》この|一事《いちじ》を|務《つと》む、|即《すなは》ち|後《うしろ》のものを|忘《わす》れ、|前《まへ》のものに|向《むか》ひて|勵《はげ》み、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|標準《めあて》を|指《さ》して|進《すす》み、|神《かみ》のキリスト・イエスに|由《よ》りて|上《うへ》に|召《め》したまふ|召《めし》にかかはる|褒美《はうび》を|得《え》んとて|之《これ》を|追《お》ひ|求《もと》む。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されば|我等《われら》のうち|成人《せいじん》したる|者《もの》は、みな|斯《か》くのごとき|思《おもひ》を|懷《いだ》くべし、|汝《なんぢ》|等《ら》もし|何事《なにごと》にても|異《こと》なる|思《おもひ》を|懷《いだ》き|居《を》らば、|神《かみ》これをも|示《しめ》し|給《たま》はん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]ただ|我等《われら》はその|至《いた》れる|所《ところ》に|隨《したが》ひて|歩《あゆ》むべし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢら|諸共《もろとも》に|我《われ》に|效《なら》ふものとなれ、|且《かつ》なんぢらの|模範《もはん》となる|我《われ》らに|循《したが》ひて|歩《あゆ》むものを|視《み》よ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]そは|我《われ》しばしば|汝《なんぢ》らに|告《つ》げ、|今《いま》また|涙《なみだ》を|流《なが》して|告《つ》ぐる|如《ごと》く、キリストの|十字架《じふじか》に|敵《てき》して|歩《あゆ》む|者《もの》おほければなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|終《をはり》は|滅亡《ほろび》なり。おのが|腹《はら》を|神《かみ》となし、|己《おの》が|恥《はぢ》を|光榮《くわうえい》となし、ただ|地《ち》の|事《こと》のみを|念《おも》ふ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》らの|國籍《こくせき》は|天《てん》に|在《あ》り、|我《われ》らは|主《しゅ》イエス・キリストの|救主《すくひぬし》として|其《そ》の|處《ところ》より|來《きた》りたまふを|待《ま》つ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|萬物《ばんもつ》を|己《おのれ》に|服《したが》はせ|得《う》る|能力《ちから》によりて、|我《われ》らの|卑《いや》しき|状《さま》の|體《からだ》を|化《か》へて、|己《おの》が|榮光《えいくわう》の|體《からだ》に|象《かたど》らせ|給《たま》はん。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《わ》が|愛《あい》するところ|慕《した》ふところの|兄弟《きゃうだい》、われの|喜悦《よろこび》われの|冠冕《かんむり》たる|愛《あい》する|者《もの》よ、|斯《か》くのごとく|主《しゅ》にありて|堅《かた》く|立《た》て。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ユウオデヤに|勸《すす》めスントケに|勸《すす》む、|主《しゅ》にありて|心《こころ》を|同《おな》じうせんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|眞實《しんじつ》に|我《われ》と|軛《くびき》を|共《とも》にする|者《もの》よ、なんぢに|求《もと》む。この|二人《ふたり》の|女《をんな》を|助《たす》けよ。|彼《かれ》らはクレメンス|其《そ》のほか|生命《いのち》の|書《ふみ》に|名《な》を|録《しる》されたる|我《わ》が|同勞者《どうらうしゃ》と|同《おな》じく、|福音《ふくいん》のために|我《われ》とともに|勤《つと》めたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|常《つね》に|主《しゅ》にありて|喜《よろこ》べ、|我《われ》また|言《い》ふ、なんぢら|喜《よろこ》べ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》に|汝《なんぢ》らの|寛容《くわんよう》を|知《し》らしめよ、|主《しゅ》は|近《ちか》し。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|何事《なにごと》をも|思《おも》ひ|煩《わづら》ふな、ただ|事《こと》ごとに|祈《いのり》をなし、|願《ねがひ》をなし、|感謝《かんしゃ》して|汝《なんぢ》らの|求《もとめ》を|神《かみ》に|告《つ》げよ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]さらば|凡《すべ》て|人《ひと》の|思《おもひ》にすぐる|神《かみ》の|平安《へいあん》は、|汝《なんぢ》らの|心《こころ》と|思《おもひ》とをキリスト・イエスによりて|守《まも》らん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|終《をはり》に|言《い》はん、|兄弟《きゃうだい》よ、|凡《おほよ》そ|眞《まこと》なること、|凡《おほよ》そ|尊《たふと》ぶべきこと、|凡《おほよ》そ|正《ただ》しきこと、|凡《おほよ》そ|潔《いさぎ》よきこと、|凡《おほよ》そ|愛《あい》すべきこと、|凡《おほよ》そ|令聞《よききこえ》あること、|如何《いか》なる|徳《とく》いかなる|譽《ほまれ》にても、|汝《なんぢ》|等《ら》これを|念《おも》へ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|我《われ》に|學《まな》びしところ、|受《う》けしところ、|聞《き》きしところ、|見《み》し|所《ところ》を|皆《みな》おこなへ、さらば|平和《へいわ》の|神《かみ》なんぢらと|偕《とも》に|在《いま》さん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らが|我《われ》を|思《おも》ふ|心《こころ》の|今《いま》また|萠《きざ》したるを、われ|主《しゅ》にありて|甚《いた》く|喜《よろこ》ぶ。|汝《なんぢ》らは|固《もと》より|我《われ》を|思《おも》ひゐたるなれど、|機《をり》を|得《え》ざりしなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]われ|窮乏《ともしき》によりて|之《これ》を|言《い》ふにあらず、|我《われ》は|如何《いか》なる|状《さま》に|居《を》るとも、|足《た》ることを|學《まな》びたればなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|卑賤《いやしき》にをる|道《みち》を|知《し》り、|富《とみ》にをる|道《みち》を|知《し》る。また|飽《あ》くことにも、|飢《う》うることにも、|富《と》むことにも、|乏《とも》しき|事《こと》にも、|一切《いっさい》の|秘訣《ひけつ》を|得《え》たり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》を|強《つよ》くし|給《たま》ふ|者《もの》によりて、|凡《すべ》ての|事《こと》をなし|得《う》るなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らが|我《わ》が|患難《なやみ》に|與《あづか》りしは|善《よ》き|事《こと》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ピリピ|人《ひと》よ、|汝《なんぢ》らも|知《し》る、わが|汝《なんぢ》らに|福音《ふくいん》を|傳《つた》ふる|始《はじめ》、マケドニヤを|離《はな》れ|去《さ》るとき、|授受《やりとり》して|我《わ》が|事《こと》に|與《あづか》りしは、|汝《なんぢ》|等《ら》のみにして、|他《ほか》の|教會《けうくわい》には|無《な》かりき。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|我《わ》がテサロニケに|居《を》りし|時《とき》に、|一度《いちど》ならず|二度《にど》までも|我《わ》が|窮乏《ともしき》に|物《もの》|贈《おく》れり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]これ|贈物《おくりもの》を|求《もと》むるにあらず、|唯《ただ》なんぢらの|益《えき》となる|實《み》の|繁《しげ》からんことを|求《もと》むるなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》には|凡《すべ》ての|物《もの》そなはりて|餘《あまり》あり、|既《すで》にエパフロデトより|汝《なんぢ》らの|贈物《おくりもの》を|受《う》けたれば、|飽《あ》き|足《た》れり。これは|馨《かうば》しき|香《にほひ》にして|神《かみ》の|享《う》け|給《たま》ふところ、|喜《よろこ》びたまふ|所《ところ》の|供物《そなへもの》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくてわが|神《かみ》は|己《おのれ》の|富《とみ》に|隨《したが》ひ、キリスト・イエスによりて|汝《なんぢ》らの|凡《すべ》ての|窮乏《ともしき》を|榮光《えいくわう》のうちに|補《おぎな》ひ|給《たま》はん。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|榮光《えいくわう》|世々《よよ》|限《かぎ》りなく、|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》にあれ、アァメン。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らキリスト・イエスに|在《あ》りて|聖徒《せいと》おのおのに|安否《あんぴ》を|問《と》へ、|我《われ》と|偕《とも》にある|兄弟《きゃうだい》たち|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》、|殊《こと》にカイザルの|家《いへ》のもの、|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》イエス・キリストの|恩惠《めぐみ》、なんぢらの|靈《れい》と|偕《とも》に|在《あ》らんことを。 [#改ページ] コロサイ人への書[#「コロサイ人への書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|御心《みこころ》によりてキリスト・イエスの|使徒《しと》となれるパウロ|及《およ》び|兄弟《きゃうだい》テモテ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|書《ふみ》をコロサイに|居《を》る|聖徒《せいと》、キリストにありて|忠實《ちゅうじつ》なる|兄弟《きゃうだい》に|贈《おく》る。|願《ねが》はくは|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》より|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|常《つね》に|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|祈《いの》りて、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|父《ちち》なる|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]これキリスト・イエスを|信《しん》ずる|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》と、|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》に|對《たい》する|汝《なんぢ》らの|愛《あい》とにつきて|聞《き》きたればなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]かく|聖徒《せいと》を|愛《あい》するは、|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|天《てん》に|蓄《たくは》へあるものを|望《のぞ》むに|因《よ》る。この|望《のぞみ》のことは|汝《なんぢ》らに|及《およ》べる|福音《ふくいん》の|眞《まこと》の|言《ことば》によりて|汝《なんぢ》らが|曾《かつ》て|聞《き》きし|所《ところ》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]この|福音《ふくいん》は|全世界《ぜんせかい》にも|及《およ》び、|果《み》を|結《むす》びて|増々《ますます》|大《おほい》になれり。|汝《なんぢ》らが|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》をききて|眞《まこと》に|之《これ》を|知《し》りし|日《ひ》より、|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|然《しか》りしが|如《ごと》し。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らが、|我《われ》らと|共《とも》に|僕《しもべ》たる|愛《あい》するエパフラスより|學《まな》びたるは、この|福音《ふくいん》なり。|彼《かれ》は|汝《なんぢ》らの|爲《ため》にキリストの|忠實《まめやか》なる|役者《えきしゃ》にして、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らが|御靈《みたま》によりて|懷《いだ》ける|愛《あい》を|我《われ》らに|告《つ》げたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》らこの|事《こと》を|聞《き》きし|日《ひ》より、|汝《なんぢ》|等《ら》のために|絶《た》えず|祈《いの》りかつ|求《もと》むるは、|汝《なんぢ》ら|靈《れい》のもろもろの|知慧《ちゑ》と|穎悟《さとり》とをもて|神《かみ》の|御意《みこころ》を|具《つぶさ》に|知《し》り、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》てのこと|主《しゅ》を|悦《よろこ》ばせんが|爲《ため》に、その|御意《みこころ》に|從《したが》ひて|歩《あゆ》み、|凡《すべ》ての|善《よ》き|業《わざ》によりて|果《み》を|結《むす》び、いよいよ|神《かみ》を|知《し》り、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]また|神《かみ》の|榮光《えいくわう》の|勢威《いきほひ》に|隨《したが》ひて|賜《たま》ふもろもろの|力《ちから》によりて|強《つよ》くなり、|凡《すべ》ての|事《こと》よろこびて|忍《しの》び、かつ|耐《た》へ、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|我《われ》らを|光《ひかり》にある|聖徒《せいと》の|嗣業《しげふ》に|與《あづか》るに|足《た》る|者《もの》とし|給《たま》ひし|父《ちち》に|感謝《かんしゃ》せん|事《こと》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》は|我《われ》らを|暗黒《くらき》の|權威《けんゐ》より|救《すく》ひ|出《いだ》して、その|愛《いつく》しみ|給《たま》ふ|御子《みこ》の|國《くに》に|遷《うつ》したまへり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|御子《みこ》に|在《あ》りて|贖罪《あがなひ》すなはち|罪《つみ》の|赦《ゆるし》を|得《う》るなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|見《み》|得《う》べからざる|神《かみ》の|像《かたち》にして、|萬《よろづ》の|造《つく》られし|物《もの》の|先《さき》に|生《うま》れ|給《たま》へる|者《もの》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|萬《よろづ》の|物《もの》は|彼《かれ》によりて|造《つく》らる、|天《てん》に|在《あ》るもの、|地《ち》に|在《あ》るもの、|見《み》ゆるもの、|見《み》えぬもの、|或《あるひ》は|位《くらゐ》、あるひは|支配《しはい》、あるひは|政治《まつりごと》、あるひは|權威《けんゐ》、みな|彼《かれ》によりて|造《つく》られ、|彼《かれ》のために|造《つく》られたればなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|萬《よろづ》の|物《もの》より|先《さき》にあり、|萬《よろづ》の|物《もの》は|彼《かれ》によりて|保《たも》つことを|得《う》るなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|彼《かれ》はその|體《からだ》なる|教會《けうくわい》の|首《かしら》なり、|彼《かれ》は|始《はじめ》にして|死人《しにん》の|中《うち》より|最先《いやさき》に|生《うま》れ|給《たま》ひし|者《もの》なり。これ|凡《すべ》ての|事《こと》に|就《つ》きて|長《をさ》とならん|爲《ため》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|凡《すべ》ての|滿《み》ち|足《た》れる|徳《とく》を|彼《かれ》に|宿《やど》して、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]その|十字架《じふじか》の|血《ち》によりて|平和《へいわ》をなし、|或《あるひ》は|地《ち》にあるもの、|或《あるひ》は|天《てん》にあるもの、|萬《よろづ》の|物《もの》をして|己《おのれ》と|和《やはら》がしむるを|善《よ》しとし|給《たま》ひたればなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もとは|惡《あ》しき|業《わざ》を|行《おこな》ひて|神《かみ》に|遠《とほ》ざかり、|心《こころ》にて|其《そ》の|敵《てき》となりしが、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》は|神《かみ》キリストの|肉《にく》の|體《からだ》をもて、|其《そ》の|死《し》により|汝《なんぢ》|等《ら》をして|己《おのれ》と|和《やはら》がしめ、|潔《きよ》く|瑕《きず》なく|責《せ》むべき|所《ところ》なくして、|己《おのれ》の|前《まへ》に|立《た》たしめんし|給《たま》ふなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|信仰《しんかう》に|止《とどま》り、|之《これ》に|基《もとづ》きて|堅《かた》く|立《た》ち、|福音《ふくいん》の|望《のぞみ》より|移《うつ》らずば、|斯《か》くせらるることを|得《う》べし。|此《こ》の|福音《ふくいん》は|汝《なんぢ》らの|聞《き》きし|所《ところ》、また|天《あめ》の|下《した》なる|凡《すべ》ての|造《つく》られし|物《もの》に|宣傳《のべつた》へられたるものにして、|我《われ》パウロはその|役者《えきしゃ》となれり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]われ|今《いま》なんぢらの|爲《ため》に|受《う》くる|苦難《くるしみ》を|喜《よろこ》び、|又《また》キリストの|體《からだ》なる|教會《けうくわい》のために、|我《わ》が|身《み》をもてキリストの|患難《なやみ》の|缺《か》けたるを|補《おぎな》ふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]われ|神《かみ》より|汝《なんぢ》|等《ら》のために|與《あた》へられたる|職《つとめ》に|隨《したが》ひて|教會《けうくわい》の|役者《えきしゃ》となれり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]これ|神《かみ》の|言《ことば》、すなはち|歴世《よよ》|歴代《よよ》かくれて、|今《いま》|神《かみ》の|聖徒《せいと》に|顯《あらは》れたる|奧義《おくぎ》を|宣傳《のべつた》へんとてなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|聖徒《せいと》をして|異邦人《いはうじん》の|中《うち》なるこの|奧義《おくぎ》の|榮光《えいくわう》の|富《とみ》の|如何《いか》ばかりなるかを|知《し》らしめんと|欲《ほっ》し|給《たま》へり、|此《こ》の|奧義《おくぎ》は|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|在《いま》すキリストにして|榮光《えいくわう》の|望《のぞみ》なり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|此《こ》のキリストを|傳《つた》へ、|知慧《ちゑ》を|盡《つく》して|凡《すべ》ての|人《ひと》を|訓戒《くんかい》し、|凡《すべ》ての|人《ひと》を|教《をし》ふ。これ|凡《すべ》ての|人《ひと》をしてキリストに|在《あ》り、|全《まった》くなりて|神《かみ》の|前《まへ》に|立《た》つことを|得《え》しめん|爲《ため》なり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]われ|之《これ》がために|我《わ》が|衷《うち》に|能力《ちから》をもて|働《はたら》き|給《たま》ふものの|活動《はたらき》にしたがひ、|力《ちから》を|盡《つく》して|勞《らう》するなり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢら|及《およ》びラオデキヤに|居《を》る|人々《ひとびと》、その|他《ほか》すべて|我《わ》が|肉體《にくたい》の|顏《かほ》をまだ|見《み》ぬ|人《ひと》のために、|如何《いか》に|苦心《くしん》するかを|汝《なんぢ》らの|知《し》らんことを|欲《ほっ》す。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]かく|苦心《くしん》するは、|彼《かれ》らが|心《こころ》|慰《なぐさ》められ、|愛《あい》をもて|相《あひ》|列《つらな》り、|全《まった》き|穎悟《さとり》の|凡《すべ》ての|富《とみ》を|得《え》て、|神《かみ》の|奧義《おくぎ》なるキリストを|知《し》らん|爲《ため》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]キリストには|知慧《ちゑ》と|知識《ちしき》との|凡《すべ》ての|寶《たから》|藏《かく》れあり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》これを|言《い》ふは、|巧《たくみ》なる|言《ことば》をもて|人《ひと》の|汝《なんぢ》らを|欺《あざむ》くこと|勿《なか》らん|爲《ため》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]われ|肉體《にくたい》にては|汝《なんぢ》らと|離《はな》れ|居《を》れど、|靈《れい》にては|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|居《を》りて|喜《よろこ》び、また|汝《なんぢ》らの|秩序《ちつじょ》あるとキリストに|對《たい》する|信仰《しんかう》の|堅《かた》きとを|見《み》るなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らキリスト・イエスを|主《しゅ》として|受《う》けたるにより、|其《そ》のごとく|彼《かれ》に|在《あ》りて|歩《あゆ》め。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》に|根《ね》ざしてその|上《うへ》に|建《た》てられ、かつ|教《をし》へられし|如《ごと》く|信仰《しんかう》を|堅《かた》くし、|溢《あふ》るるばかり|感謝《かんしゃ》せよ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|心《こころ》すべし、|恐《おそ》らくはキリストに|從《したが》はずして|人《ひと》の|言傳《いひつたへ》と|世《よ》の|小學《せうがく》とに|從《したが》ひ、|人《ひと》を|惑《まどは》す|虚《むな》しき|哲學《てつがく》をもて|汝《なんぢ》らを|奪《うば》ひ|去《さ》る|者《もの》あらん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》の|滿《み》ち|足《た》れる|徳《とく》はことごとく|形體《かたち》をなしてキリストに|宿《やど》れり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|彼《かれ》に|在《あ》りて|滿《み》ち|足《た》れるなり。|彼《かれ》は|凡《すべ》ての|政治《まつりごと》と|權威《けんゐ》との|首《かしら》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らまた|彼《かれ》に|在《あ》りて|手《て》をもてせざる|割禮《かつれい》を|受《う》けたり、|即《すなは》ち|肉《にく》の|體《からだ》を|脱《ぬ》ぎ|去《さ》るものにして、キリストの|割禮《かつれい》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らバプテスマを|受《う》けしとき、|彼《かれ》とともに|葬《はうむ》られ、|又《また》かれを|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|神《かみ》の|活動《はたらき》を|信《しん》ずるによりて、|彼《かれ》と|共《とも》に|甦《よみが》へらせられたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|前《さき》には|諸般《もろもろ》の|咎《とが》と|肉《にく》の|割禮《かつれい》なきとに|因《よ》りて|死《し》にたる|者《もの》なりしが、|神《かみ》は|汝《なんぢ》らを|彼《かれ》と|共《とも》に|生《い》かし、|我《われ》らの|凡《すべ》ての|咎《とが》を|赦《ゆる》し、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かつ|我《われ》らを|責《せ》むる|規《のり》の|證書《しょうしょ》、すなはち|我《われ》らに|逆《さから》ふ|證書《しょうしょ》を|塗抹《ぬりけ》し、これを|中間《ちゅうかん》より|取《と》り|去《さ》りて|十字架《じふじか》につけ、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|政治《まつりごと》と|權威《けんゐ》とを|褫《は》ぎて|之《これ》を|公然《おほやけ》に|示《しめ》し、|十字架《じふじか》によりて|凱旋《がいせん》し|給《たま》へり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|汝《なんぢ》ら|食物《くひもの》あるひは|飮物《のみもの》につき、|祭《まつり》あるいは|月朔《ついたち》あるいは|安息《あんそく》|日《にち》の|事《こと》につきて、|誰《たれ》にも|審《さば》かるな。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》はみな|來《きた》らんとする|者《もの》の|影《かげ》にして、|其《そ》の|本體《ほんたい》はキリストに|屬《つ》けり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|殊更《ことさら》に|謙遜《けんそん》をよそほひ|御使《みつかひ》を|拜《はい》する|者《もの》に、|汝《なんぢ》らの|褒美《はうび》を|奪《うば》はるな。かかる|者《もの》は|見《み》し|所《ところ》のものに|基《もとづ》き、|肉《にく》の|念《おもひ》に|隨《したが》ひて|徒《いたづ》らに|誇《ほこ》り、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|首《かしら》に|屬《つ》くことをせざるなり。|全體《ぜんたい》は、この|首《かしら》によりて|節々《ふしぶし》|維々《すぢすぢ》に|助《たす》けられ、|相《あひ》|聯《つらな》り、|神《かみ》の|育《そだて》にて|生長《せいちゃう》するなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もしキリストと|共《とも》に|死《し》にて|此《こ》の|世《よ》の|小學《せうがく》を|離《はな》れしならば、|何《なに》ぞなほ|世《よ》に|生《い》ける|者《もの》のごとく|人《ひと》の|誡命《いましめ》と|教《をしへ》とに|循《したが》ひて[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]『|捫《さは》るな、|味《あじは》ふな、|觸《ふ》るな』と|云《い》ふ|規《のり》の|下《した》に|在《あ》るか。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり](|此《これ》|等《ら》はみな|用《もち》ふれば|盡《つ》くる|物《もの》なり)[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]これらの|誡命《いましめ》は、みづから|定《さだ》めたる|禮拜《れいはい》と|謙遜《けんそん》と|身《み》を|惜《をし》まぬ|事《こと》とによりて|知慧《ちゑ》あるごとく|見《み》ゆれど、|實《じつ》は|肉《にく》|慾《よく》の|放縱《ほしいまま》を|防《ふせ》ぐ|力《ちから》なし。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もしキリストと|共《とも》に|甦《よみが》へらせられしならば、|上《うへ》にあるものを|求《もと》めよ、キリスト|彼處《かしこ》に|在《あ》りて|神《かみ》の|右《みぎ》に|坐《ざ》し|給《たま》ふなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|上《うへ》にあるものを|念《おも》ひ、|地《ち》に|在《あ》るものを|念《おも》ふな、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|死《し》にたる|者《もの》にして、|其《そ》の|生命《いのち》はキリストとともに|神《かみ》の|中《うち》に|隱《かく》れ|在《あ》ればなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|生命《いのち》なるキリストの|現《あらは》れ|給《たま》ふとき、|汝《なんぢ》らも|之《これ》とともに|榮光《えいくわう》のうちに|現《あらは》れん。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]されば|地《ち》にある|肢體《したい》、すなはち|淫行《いんかう》・|汚穢《けがれ》・|情《じゃう》|慾《よく》・|惡《あく》|慾《よく》・また|慳貪《むさぼり》を|殺《ころ》せ、|慳貪《むさぼり》は|偶像《ぐうざう》|崇拜《すうはい》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|怒《いかり》は、これらの|事《こと》によりて|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》の|子《こ》らに|來《きた》るなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らもかかる|人《ひと》の|中《なか》に|日《ひ》を|送《おく》りし|時《とき》は、これらの|惡《あ》しき|事《こと》に|歩《あゆ》めり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|今《いま》は|凡《すべ》て|此《これ》|等《ら》のこと|及《およ》び|怒《いかり》・|憤恚《いきどほり》・|惡意《あくい》を|棄《す》て、|譏《そしり》と|恥《は》づべき|言《ことば》とを|汝《なんぢ》らの|口《くち》より|棄《す》てよ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|互《たがひ》に|虚言《いつはり》をいふな、|汝《なんぢ》らは|既《すで》に|舊《ふる》き|人《ひと》とその|行爲《おこなひ》とを|脱《ぬ》ぎて、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|新《あたら》しき|人《ひと》を|著《き》たればなり。この|新《あたら》しき|人《ひと》は、これを|造《つく》り|給《たま》ひしものの|像《かたち》に|循《したが》ひ、いよいよ|新《あらた》になりて|知識《ちしき》に|至《いた》るなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かくてギリシヤ|人《びと》とユダヤ|人《びと》、|割禮《かつれい》と|無《む》|割禮《かつれい》、あるひは|夷狄《えびす》、スクテヤ|人《びと》・|奴隷《どれい》・|自主《じしゅ》の|別《わかれ》ある|事《こと》なし、それキリストは|萬《よろづ》の|物《もの》なり、|萬《よろづ》のものの|中《うち》にあり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らは|神《かみ》の|選民《せんみん》にして|聖《せい》なる|者《もの》また|愛《あい》せらるる|者《もの》なれば、|慈悲《じひ》の|心《こころ》・|仁慈《なさけ》・|謙遜《けんそん》・|柔和《にうわ》・|寛容《くわんよう》を|著《き》よ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また|互《たがひ》に|忍《しの》びあひ、|若《も》し|人《ひと》に|責《せ》むべき|事《こと》あらば|互《たがひ》に|恕《ゆる》せ、|主《しゅ》の|汝《なんぢ》らを|恕《ゆる》し|給《たま》へる|如《ごと》く|汝《なんぢ》らも|然《しか》すべし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|此《これ》|等《ら》のものの|上《うへ》に|愛《あい》を|加《くは》へよ、|愛《あい》は|徳《とく》を|全《まった》うする|帶《おび》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]キリストの|平和《へいわ》をして|汝《なんぢ》らの|心《こころ》を|掌《つかさ》どらしめよ、|汝《なんぢ》らの|召《め》されて|一體《いったい》となりたるはこれが|爲《ため》なり、|汝《なんぢ》ら|感謝《かんしゃ》の|心《こころ》を|懷《いだ》け。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]キリストの|言《ことば》をして|豐《ゆたか》に|汝《なんぢ》らの|衷《うち》に|住《す》ましめ、|凡《すべ》ての|知慧《ちゑ》によりて、|詩《し》と|讃美《さんび》と|靈《れい》の|歌《うた》とをもて、|互《たがひ》に|教《をし》へ|互《たがひ》に|訓戒《くんかい》し、|恩惠《めぐみ》に|感《かん》じて|心《こころ》のうちに|神《かみ》を|讃美《さんび》せよ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]また|爲《な》す|所《ところ》の|凡《すべ》ての|事《こと》、あるひは|言《ことば》あるひは|行爲《おこなひ》、みな|主《しゅ》イエスの|名《な》に|頼《よ》りて|爲《な》し、|彼《かれ》によりて|父《ちち》なる|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》せよ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|妻《つま》たる|者《もの》よ、その|夫《をっと》に|服《したが》へ、これ|主《しゅ》にある|者《もの》のなすべき|事《こと》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|夫《をっと》たる|者《もの》よ、その|妻《つま》を|愛《あい》せよ、|苦《にがき》をもて|之《これ》を|待《あしら》ふな。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|子《こ》たる|者《もの》よ、|凡《すべ》ての|事《こと》みな|兩親《ふたおや》に|順《したが》へ、これ|主《しゅ》の|喜《よろこ》びたまふ|所《ところ》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》たる|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らの|子供《こども》を|怒《いか》らすな、|或《あるひ》は|落膽《きおち》することあらん。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》たる|者《もの》よ、|凡《すべ》ての|事《こと》みな|肉《にく》につける|主人《しゅじん》にしたがへ、|人《ひと》を|喜《よろこ》ばする|者《もの》の|如《ごと》く、ただ|眼《め》の|前《まへ》の|事《こと》のみを|勤《つと》めず、|主《しゅ》を|畏《おそ》れ、|眞心《まごころ》をもて|從《したが》へ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|何事《なにごと》をなすにも|人《ひと》に|事《つか》ふる|如《ごと》くせず、|主《しゅ》に|事《つか》ふる|如《ごと》く|心《こころ》より|行《おこな》へ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|主《しゅ》より|報《むくい》として|嗣業《しげふ》を|受《う》くることを|知《し》ればなり。|汝《なんぢ》らは|主《しゅ》キリストに|事《つか》ふる|者《もの》なり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|不義《ふぎ》を|行《おこな》ふ|者《もの》はその|不義《ふぎ》の|報《むくい》を|受《う》けん、|主《しゅ》は|偏《かたよ》り|視《み》|給《たま》ふことなし。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|主人《しゅじん》たる|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らも|天《てん》に|主《しゅ》あるを|知《し》れば、|義《ぎ》と|公平《こうへい》とをもて|其《そ》の|僕《しもべ》をあしらへ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|感謝《かんしゃ》しつつ|目《め》を|覺《さま》して|祈《いのり》を|常《つね》にせよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》らの|爲《ため》にも|祈《いの》りて、|神《かみ》の|我《われ》らに|御言《みことば》を|傳《つた》ふる|門《もん》をひらき、|我等《われら》をしてキリストの|奧義《おくぎ》を|語《かた》らしめ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|我《わ》が|語《かた》るべき|如《ごと》く|顯《あらは》させ|給《たま》はんことを|願《ねが》へ、|我《われ》はこの|奧義《おくぎ》のために|繋《つな》がれたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|機《をり》をうかがひ、|外《そと》の|人《ひと》に|對《たい》し|知慧《ちゑ》をもて|行《おこな》へ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|言《ことば》は|常《つね》に|惠《めぐみ》を|用《もち》ひ、|鹽《しほ》にて|味《あぢ》つけよ。|然《さ》らば|如何《いか》にして|各人《おのおの》に|答《こた》ふべきかを|知《し》らん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|兄弟《きゃうだい》、|忠實《まめやか》なる|役者《えきしゃ》、|主《しゅ》にありて|我《われ》とともに|僕《しもべ》たるテキコ、|我《わ》がことを|具《つぶさ》に|汝《なんぢ》らに|知《し》らせん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|殊《こと》に|彼《かれ》を|汝《なんぢ》らに|遣《つかは》すは、|我《われ》らの|事《こと》を|知《し》らしめ、|又《また》なんぢらの|心《こころ》を|慰《なぐさ》めしめん|爲《ため》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》の|一人《ひとり》、|忠實《まめやか》なる|愛《あい》する|兄弟《きゃうだい》オネシモを|彼《かれ》と|共《とも》につかはす、|彼《かれ》|等《ら》この|處《ところ》の|事《こと》を|具《つぶさ》に|汝《なんぢ》らに|知《し》らせん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》と|共《とも》に|囚人《めしうど》となれるアリスタルコ|及《およ》びバルナバの|從弟《いとこ》なるマルコ、|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。|此《こ》のマルコに|就《つ》きては|汝《なんぢ》ら|既《すで》に|命《めい》を|受《う》けたり、|彼《かれ》もし|汝《なんぢ》らに|到《いた》らば|之《これ》を|接《う》けよ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]またユストと|云《い》へるイエス|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。|割禮《かつれい》の|者《もの》の|中《うち》ただ|此《こ》の|三人《さんにん》のみ、|神《かみ》の|國《くに》のために|働《はたら》く|我《わ》が|同勞者《どうらうしゃ》にして|我《わ》が|慰安《なぐさめ》となりたる|者《もの》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》の|一人《ひとり》にてキリスト・イエスの|僕《しもべ》なるエパフラス|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。|彼《かれ》は|常《つね》に|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|力《ちから》を|盡《つく》して|祈《いのり》をなし、|汝《なんぢ》らが|全《まった》くなり、|凡《すべ》て|神《かみ》の|御意《みこころ》を|確信《かくしん》して|立《た》たんことを|願《ねが》ふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》かれが|汝《なんぢ》らとラオデキヤ|及《およ》びヒエラポリスに|在《あ》る|者《もの》との|爲《ため》に|甚《いた》く|心《こころ》を|勞《らう》することを|證《あかし》す。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|醫者《いしゃ》ルカ|及《およ》びデマス|汝《なんぢ》らに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らラオデキヤにある|兄弟《きゃうだい》とヌンパ|及《およ》びその|家《いへ》にある|教會《けうくわい》とに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]この|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らの|中《うち》にて|讀《よ》みたらば、|之《これ》をラオデキヤ|人《ひと》の|教會《けうくわい》にも|讀《よ》ませ、|汝《なんぢ》|等《ら》はまたラオデキヤより|來《きた》る|書《ふみ》を|讀《よ》め。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]アルキポに|言《い》へ『|主《しゅ》にありて|受《う》けし|職《つとめ》を|愼《つつし》みて|盡《つく》せ』と。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》パウロ|手《て》づから|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。わが|縲絏《なはめ》を|記憶《きおく》せよ。|願《ねが》はくは|御惠《みめぐみ》なんぢらと|偕《とも》に|在《あ》らんことを。 [#改ページ] テサロニケ人への前の書[#「テサロニケ人への前の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]パウロ、シルワノ、テモテ、|書《ふみ》を|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストにあるテサロニケ|人《ひと》の|教會《けうくわい》に|贈《おく》る。|願《ねが》はくは|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われら|祈《いのり》のときに|汝《なんぢ》らを|憶《おぼ》えて、|常《つね》に|汝《なんぢ》ら|衆人《もろもろ》のために|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]これ|汝《なんぢ》らが|信仰《しんかう》のはたらき、|愛《あい》の|勞苦《らうく》、|主《しゅ》イエス・キリストに|對《たい》する|望《のぞみ》の|忍耐《にんたい》を、|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》の|前《まへ》に|絶《た》えず|念《おも》ふに|因《よ》りてなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》に|愛《あい》せらるる|兄弟《きゃうだい》よ、また|汝《なんぢ》らの|選《えら》ばれたることを|知《し》るに|因《よ》りてなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]それ|我《われ》らの|福音《ふくいん》の|汝《なんぢ》らに|至《いた》りしは、|言《ことば》にのみ|由《よ》らず、|能力《ちから》と|聖《せい》|靈《れい》と|大《おほい》なる|確信《かくしん》とに|由《よ》れり。|且《かつ》われらが|汝《なんぢ》らの|中《うち》にありて|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|如何《いか》なる|行爲《おこなひ》をなししかは、|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|汝《なんぢ》らは|大《おほい》なる|患難《なやみ》のうちにも、|聖《せい》|靈《れい》による|喜悦《よろこび》をもて|御言《みことば》をうけ、|我《われ》ら|及《およ》び|主《しゅ》に|效《なら》ふ|者《もの》となり、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》してマケドニヤ|及《およ》びアカヤに|在《あ》る|凡《すべ》ての|信者《しんじゃ》の|模範《もはん》となれり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]それは|主《しゅ》のことば|汝《なんぢ》|等《ら》より|出《い》でて、|啻《ただ》にマケドニヤ|及《およ》びアカヤに|響《ひび》きしのみならず、|神《かみ》に|對《たい》する|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》のことは|諸方《しょはう》に|弘《ひろま》りたるなり。されば|之《これ》に|就《つ》きては|何《なに》をも|語《かた》るに|及《およ》ばず。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》|親《した》しく|我《われ》らが|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|入《い》りし|状《さま》を|告《つ》げ、また|汝《なんぢ》らが|偶像《ぐうざう》を|棄《す》てて|神《かみ》に|歸《き》し、|活《い》ける|眞《まこと》の|神《かみ》に|事《つか》へ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせ|給《たま》ひし|御子《みこ》、すなはち|我《われ》らを|來《きた》らんとする|怒《いかり》より|救《すく》ひ|出《いだ》すイエスの、|天《てん》より|降《くだ》りたまふを|待《ま》ち|望《のぞ》むことを|告《つ》ぐればなり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らの|汝《なんぢ》らに|到《いた》りしことの|空《むな》しからざりしは、|汝《なんぢ》ら|自《みづか》ら|知《し》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|前《さき》に|我《われ》らは|汝《なんぢ》らの|知《し》るごとく、ピリピにて|苦難《くるしみ》と|侮辱《はづかしめ》とを|受《う》けたれど、|我《われ》らの|神《かみ》に|頼《よ》りて|大《おほい》なる|紛爭《あらそひ》のうちに、|憚《はばか》らず|神《かみ》の|福音《ふくいん》を|汝《なんぢ》らに|語《かた》れり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|勸《すすめ》は、|迷《まよひ》より|出《い》でず、|汚穢《けがれ》より|出《い》でず、|詭計《たばかり》を|用《もち》ひず、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》に|嘉《よみ》せられて|福音《ふくいん》を|委《ゆだ》ねられたる|者《もの》なれば、|人《ひと》を|喜《よろこ》ばせんとせず、|我《われ》らの|心《こころ》を|鑒《み》たまふ|神《かみ》を|喜《よろこ》ばせ|奉《たてま》つらんとして|語《かた》るなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|汝《なんぢ》らの|知《し》るごとく|何時《いつ》にても|諂諛《へつらひ》の|言《ことば》を|用《もち》ひず、|事《こと》によせて|慳貪《むさぼり》をなさず(|神《かみ》これを|證《あかし》し|給《たま》ふ)[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]キリストの|使徒《しと》として|重《おも》んぜらるべき|者《もの》なれども、|汝《なんぢ》らにも|他《ほか》の|者《もの》にも|人《ひと》よりは|譽《ほまれ》を|求《もと》めず、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》にありて|優《やさ》しきこと、|母《はは》の|己《おの》が|子《こ》を|育《そだ》てやしなふ|如《ごと》くなりき。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かく|我《われ》らは|汝《なんぢ》らを|戀《こ》ひ|慕《した》ひ、なんぢらは|我《われ》らの|愛《あい》する|者《もの》となりたれば、|啻《ただ》に|神《かみ》の|福音《ふくいん》のみならず、|我《われ》らの|生命《いのち》をも|與《あた》へんと|願《ねが》へり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢらは|我《われ》らの|勞《らう》と|苦難《くるしみ》とを|記憶《きおく》す、われらは|汝《なんぢ》らの|中《うち》の|一人《ひとり》をも|累《わずら》はすまじとて、|夜晝《よるひる》|工《わざ》をなし、|勞《らう》しつつ|福音《ふくいん》を|宣傳《のべつた》へたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|信《しん》じたる|汝《なんぢ》|等《ら》にむかひて、|如何《いか》に|潔《きよ》く|正《ただ》しく|責《せ》むべき|所《ところ》なく|行《おこな》ひしかは、|汝《なんぢ》らも|證《あかし》し|神《かみ》も|證《あかし》し|給《たま》ふなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|知《し》る、|我《われ》らが|父《ちち》のその|子《こ》に|對《たい》するごとく|各人《おのおの》に|對《たい》し、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|御國《みくに》と|榮光《えいくわう》とに|招《まね》きたまふ|神《かみ》の|心《こころ》に|適《かな》ひて|歩《あゆ》むべきことを|勸《すす》め、また|勵《はげ》まし、また|諭《さと》したるを。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かくてなほ|我《われ》ら|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》して|巳《や》まざるは、|汝《なんぢ》らが|神《かみ》の|言《ことば》を|我《われ》らより|聞《き》きし|時《とき》、これを|人《ひと》の|言《ことば》とせず、|神《かみ》の|言《ことば》として|受《う》けし|事《こと》なり。これは|誠《まこと》に|神《かみ》の|言《ことば》にして、|汝《なんぢ》ら|信《しん》ずる|者《もの》のうちに|働《はたら》くなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》らはユダヤに|於《お》けるキリスト・イエスにある|神《かみ》の|教會《けうくわい》に|效《なら》ふ|者《もの》となれり、|彼《かれ》らのユダヤ|人《びと》に|苦《くる》しめられたる|如《ごと》く、|汝《なんぢ》らも|己《おの》が|國人《くにびと》に|苦《くる》しめられたるなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]ユダヤ|人《びと》は|主《しゅ》イエスをも|預言者《よげんしゃ》をも|殺《ころ》し、|我《われ》らを|追《お》ひ|出《いだ》し、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らが|異邦人《いはうじん》に|語《かた》りて|救《すくひ》を|得《え》させんとするを|拒《こば》み、|神《かみ》を|悦《よろこ》ばせず、かつ|萬民《ばんみん》に|逆《さから》ひ、かくして|常《つね》に|己《おの》が|罪《つみ》を|充《みた》すなり。|而《しか》して|神《かみ》の|怒《いかり》はかれらに|臨《のぞ》みてその|極《きはみ》に|至《いた》れり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われら|心《こころ》は|離《はな》れねど、|顏《かほ》にて|暫時《しばし》なんぢらと|離《はな》れ|居《を》れば、|汝《なんぢ》らの|顏《かほ》を|見《み》んことを|愈々《いよいよ》|切《せつ》に|願《ねが》ひて、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり](|我《われ》パウロは|一度《ひとたび》ならず|再度《ふたたび》までも)なんぢらに|到《いた》らんと|爲《し》たれど、サタンに|妨《さまた》げられたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|主《しゅ》イエスの|來《きた》り|給《たま》ふとき、|御前《みまへ》における|我《われ》らの|希望《のぞみ》、また|喜悦《よろこび》、また|誇《ほこり》の|冠冕《かんむり》は|誰《たれ》ぞ、|汝《なんぢ》らならずや。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|實《げ》に|汝《なんぢ》らは|我《われ》らの|光榮《くわうえい》、|我《われ》らの|喜悦《よろこび》なり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、もはや|忍《しの》ぶこと|能《あた》はず、|我等《われら》のみアテネに|留《とどま》ることに|決《けっ》し、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]キリストの|福音《ふくいん》において|神《かみ》の|役者《えきしゃ》たる|我《われ》らの|兄弟《きゃうだい》テモテを|汝《なんぢ》らに|遣《つかは》せり。これは|汝《なんぢ》らを|堅《かた》うし、また|信仰《しんかう》につきて|勸《すす》め、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]この|患難《なやみ》によりて|動《うご》かさるる|者《もの》の|無《な》からん|爲《ため》なり。|患難《なやみ》に|遭《あ》ふことの|我《われ》らに|定《さだま》りたるは、|汝《なんぢ》|等《ら》みづから|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らが|患難《なやみ》に|遭《あ》ふべきことは、|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|在《あ》りしとき|預《あらか》じめ|告《つ》げたるが、|今《いま》|果《はた》して|汝《なんぢ》らの|知《し》るごとく|然《し》か|成《な》れり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|最早《もはや》われ|忍《しの》ぶこと|能《あた》はず、|試《こころ》むる|者《もの》の|汝《なんぢ》らを|試《こころ》みて、|我《われ》らの|勞《らう》の|空《むな》しくならんことを|恐《おそ》れ、なんぢらの|信仰《しんかう》を|知《し》らんとて|人《ひと》を|遣《つかは》せり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|今《いま》テモテ|汝《なんぢ》らより|歸《かへ》りて、|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》と|愛《あい》とにつきて|喜《よろこ》ばしき|音信《おとづれ》を|聞《き》かせ、|又《また》なんぢら|常《つね》に|我《われ》らを|懇《ねんご》ろに|念《おも》ひ、|我《われ》らに|逢《あ》はんことを|切《せつ》に|望《のぞ》み|居《を》るは、|我《われ》らが|汝《なんぢ》らに|逢《あ》はんことを|望《のぞ》むに|等《ひと》しと|告《つ》げたるによりて、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われらは|諸般《もろもろ》の|苦難《くるしみ》と|患難《なやみ》との|中《うち》にも、|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》によりて|慰安《なぐさめ》を|得《え》たり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|主《しゅ》に|在《あ》りて|堅《かた》く|立《た》たば|我《われ》らは|生《い》くるなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》につきて|我《われ》らの|神《かみ》の|前《まへ》によろこぶ|大《おほい》なる|喜悦《よろこび》のために、|如何《いか》なる|感謝《かんしゃ》をか|神《かみ》に|献《ささ》ぐべき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|夜晝《よるひる》|祈《いの》りて、|汝《なんぢ》らの|顏《かほ》を|見《み》んことと、|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》の|足《た》らぬ|所《ところ》を|補《おぎな》はんこととを|切《せつ》に|願《ねが》ふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》みづからと|我《われ》らの|主《しゅ》なるイエスと、|我《われ》らを|導《みちび》きて|汝《なんぢ》らに|到《いた》らせ|給《たま》はんことを。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》、なんぢら|相《あひ》|互《たがひ》の|愛《あい》および|凡《すべ》ての|人《ひと》に|對《たい》する|愛《あい》を|増《ま》し、かつ|豐《ゆたか》にして、|我《われ》らが|汝《なんぢ》らを|愛《あい》する|如《ごと》くならしめ、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かくして|汝《なんぢ》らの|心《こころ》を|堅《かた》うし、|我《われ》らの|主《しゅ》イエスの、|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》と|偕《とも》に|來《きた》りたまふ|時《とき》、われらの|父《ちち》なる|神《かみ》の|前《まへ》に|潔《きよ》くして|責《せ》むべき|所《ところ》なからしめ|給《たま》はんことを。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|兄弟《きゃうだい》よ、|終《をはり》に|我《われ》ら|主《しゅ》イエスによりて|汝《なんぢ》らに|求《もと》め、かつ|勸《すす》む。なんぢら|如何《いか》に|歩《あゆ》みて|神《かみ》を|悦《よろこ》ばすべきかを|我等《われら》より|學《まな》びし|如《ごと》く、また|歩《あゆ》みをる|如《ごと》くに|増々《ますます》|進《すす》まんことを。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らが|主《しゅ》イエスに|頼《よ》りて|如何《いか》なる|命令《めいれい》を|與《あた》へしかは、|汝《なんぢ》らの|知《し》る|所《ところ》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》の|御旨《みむね》は、なんぢらの|潔《きよ》からんことにして、|即《すなは》ち|淫行《いんかう》をつつしみ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|各人《おのおの》おのが|妻《つま》を|得《え》て、|潔《きよ》くかつ|貴《たふと》くし、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》を|知《し》らぬ|異邦人《いはうじん》のごとく|情《じゃう》|慾《よく》を|放縱《ほしいまま》にすまじきを|知《し》り、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かかる|事《こと》によりて|兄弟《きゃうだい》を|欺《あざむ》き、また|掠《かす》めざらんことなり。|凡《すべ》て|此《これ》|等《ら》のことを|行《おこな》ふ|者《もの》に|主《しゅ》の|報《むくい》し|給《たま》ふは、わが|既《すで》に|汝《なんぢ》らに|告《つ》げ、かつ|證《あかし》せしごとし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|我《われ》らを|招《まね》き|給《たま》ひしは、|汚穢《けがれ》を|行《おこな》はしめん|爲《ため》にあらず、|潔《きよ》からしめん|爲《ため》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|之《これ》を|拒《こば》む|者《もの》は|人《ひと》を|拒《こば》むにあらず、|汝《なんぢ》らに|聖《せい》|靈《れい》を|與《あた》へたまふ|神《かみ》を|拒《こば》むなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》の|愛《あい》につきては|汝《なんぢ》らに|書《か》きおくるに|及《およ》ばず。|汝《なんぢ》らは|互《たがひ》に|相《あひ》|愛《あい》する|事《こと》を|親《した》しく|神《かみ》に|教《をし》へられ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|既《すで》にマケドニヤ|全國《ぜんこく》に|在《あ》るすべての|兄弟《きゃうだい》を|愛《あい》するに|因《よ》りてなり。されど|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢらに|勸《すす》む。ますます|之《これ》を|行《おこな》ひ、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らが|前《さき》に|命《めい》ぜしことく|力《つと》めて|安靜《しづか》にし、|己《おのれ》の|業《わざ》をなし、|手《て》づから|働《はたら》け。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]これ|外《そと》の|人《ひと》に|對《たい》して|正《ただ》しく|行《おこな》ひ、また|自《みづか》ら|乏《とも》しきことなからん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|既《すで》に|眠《ねむ》れる|者《もの》のことに|就《つ》きては、|汝《なんぢ》らの|知《し》らざるを|好《この》まず、|希望《のぞみ》なき|他《ほか》の|人《ひと》のごとく|歎《なげ》かざらん|爲《ため》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|信《しん》ずる|如《ごと》く、イエスもし|死《し》にて|甦《よみが》へり|給《たま》ひしならば、|神《かみ》はイエスによりて|眠《ねむり》に|就《つ》きたる|者《もの》を、イエスと|共《とも》に|連《つ》れきたり|給《たま》ふべきなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]われら|主《しゅ》の|言《ことば》をもて|汝《なんぢ》らに|言《い》はん、|我等《われら》のうち|主《しゅ》の|來《きた》りたまふ|時《とき》に|至《いた》るまで|生《い》きて|存《のこ》れる|者《もの》は、|既《すで》に|眠《ねむ》れる|者《もの》に|決《けっ》して|先《さき》だたじ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]それ|主《しゅ》は、|號令《がうれい》と|御使《みつかひ》の|長《をさ》の|聲《こゑ》と|神《かみ》のラッパと|共《とも》に、みづから|天《てん》より|降《くだ》り|給《たま》はん。その|時《とき》キリストにある|死人《しにん》まづ|甦《よみが》へり、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|後《のち》に|生《い》きて|存《のこ》れる|我《われ》らは、|彼《かれ》らと|共《とも》に|雲《くも》のうちに|取《と》り|去《さ》られ、|空中《くうちゅう》にて|主《しゅ》を|迎《むか》へ、|斯《か》くていつまでも|主《しゅ》と|偕《とも》に|居《を》るべし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]されば|此《これ》|等《ら》の|言《ことば》をもて|互《たがひ》に|相《あひ》|慰《なぐさ》めよ。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|時《とき》と|期《き》とに|就《つ》きては|汝《なんぢ》らに|書《か》きおくるに|及《およ》ばず。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|主《しゅ》の|日《ひ》の|盜人《ぬすびと》の|夜《よる》きたるが|如《ごと》くに|來《きた》ることを、|自《みづか》ら|詳細《つまびらか》に|知《し》ればなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》の|平和《へいわ》|無事《ぶじ》なりと|言《い》ふほどに、|滅亡《ほろび》にはかに|彼《かれ》らの|上《うへ》に|來《きた》らん、|妊《はら》める|婦《をんな》に|産《うみ》の|苦痛《くるしみ》の|臨《のぞ》むがごとし、|必《かなら》ず|遁《のが》るることを|得《え》じ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されど|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》らは|暗《やみ》に|居《を》らざれば、|盜人《ぬすびと》の|來《きた》るごとく|其《そ》の|日《ひ》なんぢらに|追及《おひし》くことなし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]それ|汝《なんぢ》|等《ら》はみな|光《ひかり》の|子《こ》ども|晝《ひる》の|子供《こども》なり。|我《われ》らは|夜《よる》に|屬《つ》く|者《もの》にあらず、|暗《やみ》に|屬《つ》く|者《もの》にあらず。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されば|他《ほか》の|人《ひと》のごとく|眠《ねむ》るべからず、|目《め》を|覺《さま》して|愼《つつし》むべし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|眠《ねむ》る|者《もの》は|夜《よる》|眠《ねむ》り、|酒《さけ》に|醉《ゑ》ふ|者《もの》は|夜《よる》|醉《ゑ》ふなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》らは|晝《ひる》に|屬《つ》く|者《もの》なれば、|信仰《しんかう》と|愛《あい》との|胸當《むねあて》を|著《つ》け、|救《すくひ》の|望《のぞみ》の|兜《かぶと》をかむりて|愼《つつし》むべし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》は|我《われ》らを|怒《いかり》に|遭《あ》はせんとにあらず、|主《しゅ》イエス・キリストに|頼《よ》りて|救《すくひ》を|得《え》させんと|定《さだ》め|給《たま》へるなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|我等《われら》のために|死《し》に|給《たま》へるは、|我等《われら》をして|寤《さ》めをるとも|眠《ねむ》りをるとも|己《おのれ》と|共《とも》に|生《い》くることを|得《え》しめん|爲《ため》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|故《ゆゑ》に|互《たがひ》に|勸《すす》めて|各自《おのおの》の|徳《とく》を|建《た》つべし、これ|汝《なんぢ》らが|常《つね》に|爲《な》す|所《ところ》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》らに|求《もと》む。なんぢらの|中《うち》に|勞《らう》し、|主《しゅ》にありて|汝《なんぢ》らを|治《をさ》め、|汝《なんぢ》らを|訓戒《くんかい》する|者《もの》を|重《おも》んじ、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]その|勤勞《はたらき》によりて|厚《あつ》く|之《これ》を|愛《あい》し|敬《うやま》へ。また|互《たがひ》に|相《あひ》|和《やはら》ぐべし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》らに|勸《すす》む、|妄《みだり》なる|者《もの》を|訓戒《くんかい》し、|落膽《きおち》せし|者《もの》を|勵《はげ》まし、|弱《よわ》き|者《もの》を|扶《たす》け、|凡《すべ》ての|人《ひと》に|對《たい》して|寛容《くわんよう》なれ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|誰《たれ》も|人《ひと》に|對《たい》し|惡《あく》をもて|惡《あく》に|報《むく》いぬやう|愼《つつし》め。ただ|相《あひ》|互《たがひ》に、また|凡《すべ》ての|人《ひと》に|對《たい》して|常《つね》に|善《ぜん》を|追《お》ひ|求《もと》めよ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|常《つね》に|喜《よろこ》べ、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|絶《た》えず|祈《いの》れ、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》てのことを|感謝《かんしゃ》せよ、これキリスト・イエスに|由《よ》りて|神《かみ》の|汝《なんぢ》らに|求《もと》め|給《たま》ふ|所《ところ》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|御靈《みたま》を|熄《け》すな、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|預言《よげん》を|蔑《なみ》すな、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》てのこと|試《こころ》みて|善《よ》きものを|守《まも》り、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|惡《あく》の|類《たぐひ》に|遠《とほ》ざかれ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|平和《へいわ》の|神《かみ》、みづから|汝《なんぢ》らを|全《まった》く|潔《きよ》くし、|汝《なんぢ》らの|靈《れい》と|心《こころ》と|體《からだ》とを|全《まった》く|守《まも》りて、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|來《きた》り|給《たま》ふとき|責《せ》むべき|所《ところ》なからしめ|給《たま》はん|事《こと》を。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らを|召《め》したまふ|者《もの》は|眞實《まこと》なれば、|之《これ》を|成《な》し|給《たま》ふべし。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らのために|祈《いの》れ。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]きよき|接吻《くちつけ》をもて|凡《すべ》ての|兄弟《きゃうだい》の|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》によりて|汝《なんぢ》らに|命《めい》ず、この|書《ふみ》を|凡《すべ》ての|兄弟《きゃうだい》に|讀《よ》み|聞《き》かせよ。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》イエス・キリストの|恩惠《めぐみ》、なんぢらと|偕《とも》に|在《あ》らんことを。 [#改ページ] テサロニケ人への後の書[#「テサロニケ人への後の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]パウロ、シルワノ、テモテ、|書《ふみ》を|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストに|在《あ》るテサロニケ|人《ひと》の|教會《けうくわい》に|贈《おく》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、われら|汝《なんぢ》|等《ら》につきて|常《つね》に|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》せざるを|得《え》ず、これ|當然《たうぜん》の|事《こと》なり。そは|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》おほいに|加《くは》はり、|各自《おのおの》みな|互《たがひ》の|愛《あい》を|厚《あつ》くしたればなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》らは、|汝《なんぢ》らが|忍《しの》べる|凡《すべ》ての|迫害《はくがい》と|患難《なやみ》との|中《なか》にありて|保《たも》ちたる|忍耐《にんたい》と|信仰《しんかう》とを、|神《かみ》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》の|間《あいだ》に|誇《ほこ》る。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]これ|神《かみ》の|正《ただ》しき|審判《さばき》の|兆《しるし》にして、|汝《なんぢ》らが|神《かみ》の|國《くに》に|相應《ふさは》しき|者《もの》とならん|爲《ため》なり。|今《いま》その|御國《みくに》のために|苦難《くるしみ》を|受《う》く。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らに|患難《なやみ》を|加《くは》ふる|者《もの》に|患難《なやみ》をもて|報《むく》い、|患難《なやみ》を|受《う》くる|汝《なんぢ》らに、|我《われ》らと|共《とも》に|安息《あんそく》をもて|報《むく》い|給《たま》ふは、|神《かみ》の|正《ただ》しき|事《こと》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|主《しゅ》イエス|焔《ほのほ》の|中《なか》にその|能力《ちから》の|御使《みつかひ》たちと|共《とも》に|天《てん》より|顯《あらは》れ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》を|知《し》らぬ|者《もの》と|我《われ》らの|主《しゅ》イエスの|福音《ふくいん》に|服《したが》はぬ|者《もの》とに|報《むく》いをなし|給《たま》ふとき、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かかる|者《もの》どもは|主《しゅ》の|顏《かほ》とその|能力《ちから》の|榮光《えいくわう》とを|離《はな》れて、|限《かぎ》りなき|滅亡《ほろび》の|刑罰《けいばつ》を|受《う》くべし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》は|主《しゅ》おのが|聖徒《せいと》によりて|崇《あが》められ、|凡《すべ》ての|信《しん》ずる|者《もの》(なんぢらも|我《われ》らの|證《あかし》を|信《しん》じたる|者《もの》なり)によりて|讃《ほ》められんとて|來《きた》りたまふ|日《ひ》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]これに|就《つ》きて|我《われ》ら|常《つね》に|汝《なんぢ》らのために|祈《いの》るは、|我《われ》らの|神《かみ》の|汝《なんぢ》|等《ら》をして|召《めし》に|適《かな》ふ|者《もの》となし、|能力《ちから》をもて|汝《なんぢ》らの|凡《すべ》て|善《ぜん》に|就《つ》ける|願《ねがひ》と|信仰《しんかう》の|業《わざ》とを|成就《じゃうじゅ》せしめ|給《たま》はんことなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]これ|我《われ》らの|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストの|惠《めぐみ》によりて、|我《われ》らの|主《しゅ》イエスの|御名《みな》の|汝《なんぢ》らの|中《うち》に|崇《あが》められ、|又《また》なんぢらも|彼《かれ》に|在《あ》りて|崇《あが》められん|爲《ため》なり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|來《きた》り|給《たま》ふこと、|又《また》われらが|主《しゅ》の|許《もと》に|集《つど》ふことに|就《つ》きては、|汝《なんぢ》らに|求《もと》む。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|或《あるひ》は|靈《れい》により、|或《あるひ》は|言《ことば》により、|或《あるひ》は|我等《われら》より|出《い》でし|如《ごと》き|書《ふみ》により、|主《しゅ》の|日《ひ》すでに|來《きた》れりとて、|容易《たやす》く|心《こころ》を|動《うご》かしかつ|驚《をどろ》かざらん|事《こと》を。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|誰《た》が|如何《いか》にすとも、それに|欺《あざむ》かるな。その|日《ひ》の|前《さき》に|背教《はいけう》の|事《こと》あり、|不法《ふはふ》の|人《ひと》すなはち|滅亡《ほろび》の|子《こ》あらはれざるを|得《え》ず、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はすべて|神《かみ》と|稱《とな》ふる|者《もの》および|人《ひと》の|拜《をが》む|者《もの》に|逆《さから》ひ、|此《これ》|等《ら》よりも|己《おのれ》を|高《たか》くし、|遂《つひ》に|神《かみ》の|聖所《せいじょ》に|坐《ざ》し|己《おのれ》を|神《かみ》として|見《み》する|者《もの》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|在《あ》りし|時《とき》、これらの|事《こと》を|告《つ》げしを|汝《なんぢ》ら|憶《おぼ》えぬか。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》をして|己《おの》が|時《とき》に|至《いた》りて|顯《あらは》れしめんために、|彼《かれ》を|阻《とど》めをる|者《もの》を|汝《なんぢ》らは|知《し》る。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|不法《ふはふ》の|秘密《ひみつ》は|既《すで》に|働《はたら》けり、|然《さ》れど|此《これ》はただ|阻《とど》めをる|者《もの》の|除《のぞ》かるるまでなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かくて|其《そ》のとき|不法《ふはふ》の|者《もの》あらはれん、|而《しか》して|主《しゅ》イエス|御口《みくち》の|氣息《いき》をもて|彼《かれ》を|殺《ころ》し、|降臨《かうりん》の|輝耀《かがやき》をもて|彼《かれ》を|亡《ほろぼ》し|給《たま》はん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はサタンの|活動《はたらき》に|從《したが》ひて|來《きた》り、もろもろの|虚僞《いつはり》なる|力《ちから》と|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》と、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|不義《ふぎ》のもろもろの|誑惑《まどはし》とを|行《おこな》ひて、|亡《ほろ》ぶる|者《もの》どもに|向《むか》はん、|彼《かれ》らは|眞理《まこと》を|愛《あい》する|愛《あい》を|受《う》けずして、|救《すく》はるることを|爲《せ》ざればなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》は、|彼《かれ》らが|虚僞《いつはり》を|信《しん》ぜんために|惑《まどひ》をその|中《うち》に|働《はたら》かせ|給《たま》ふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]これ|眞理《まこと》を|信《しん》ぜず|不義《ふぎ》を|喜《よろこ》ぶ|者《もの》の、みな|審《さば》かれん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されど|主《しゅ》に|愛《あい》せらるる|兄弟《きゃうだい》よ、われら|常《つね》に|汝《なんぢ》|等《ら》のために|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》せざるを|得《え》ず。|神《かみ》は|御靈《みたま》によれる|潔《きよめ》と|眞理《まこと》に|對《たい》する|信仰《しんかう》とをもて、|始《はじめ》より|汝《なんぢ》らを|救《すくひ》に|選《えら》び、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|榮光《えいくわう》を|得《え》させんとて、|我《われ》らの|福音《ふくいん》をもて|汝《なんぢ》らを|招《まね》き|給《たま》へばなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]されば|兄弟《きゃうだい》よ、|堅《かた》く|立《た》ちて|我《われ》らの|言《ことば》あるひは|書《ふみ》に|由《よ》りて|教《をし》へられたる|傳《つたへ》を|守《まも》れ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリスト、|及《およ》び|我《われ》らを|愛《あい》し|恩惠《めぐみ》をもて|永遠《とこしへ》の|慰安《なぐさめ》と|善《よ》き|望《のぞみ》とを|與《あた》へ|給《たま》ふ|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|汝《なんぢ》らの|心《こころ》を|慰《なぐさ》めて、|凡《すべ》ての|善《よ》き|業《わざ》と|言《ことば》とに|堅《かた》うし|給《たま》はんことを。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|終《をはり》に|言《い》はん、|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らの|爲《ため》に|祈《いの》れ、|主《しゅ》の|言《ことば》の|汝《なんぢ》らの|中《うち》における|如《ごと》く、|疾《と》く|弘《ひろま》りて|崇《あが》められん|事《こと》と、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われらが|無法《むはふ》なる|惡人《あくにん》より|救《すく》はれんこととを|祈《いの》れ。そは|人《ひと》みな|信仰《しんかう》あるに|非《あら》ざればなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されど|神《かみ》は|眞實《まこと》なれば、|汝《なんぢ》らを|堅《かた》うし|汝《なんぢ》らを|護《まも》りて、|惡《あ》しき|者《もの》より|救《すく》ひ|給《たま》はん。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|我《われ》らの|命《めい》ずることを|汝《なんぢ》らが|今《いま》も|行《おこな》ひ、|後《のち》もまた|行《おこな》はんことを|主《しゅ》によりて|信《しん》ずるなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》なんぢらの|心《こころ》を、|神《かみ》の|愛《あい》とキリストの|忍耐《にんたい》とに|導《みちび》き|給《たま》はんことを。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|名《な》によりて|汝《なんぢ》らに|命《めい》ず、|我等《われら》より|受《う》けし|傳《つたへ》に|從《したが》はずして|妄《みだり》に|歩《あゆ》む|凡《すべ》ての|兄弟《きゃうだい》に|遠《とほ》ざかれ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|如何《いか》にして|我《われ》らに|效《なら》ふべきかは、|汝《なんぢ》らの|自《みづか》ら|知《し》る|所《ところ》なり。|我《われ》らは|汝《なんぢ》らの|中《うち》にありて|妄《みだり》なる|事《こと》をせず、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|價《あたひ》なしに|人《ひと》のパンを|食《しょく》せず、|反《かへ》つて|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|一人《ひとり》をも|累《わずら》はさざらんために|勞《らう》と|苦難《くるしみ》とをもて、|夜晝《よるひる》はたらけり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]これは|權《けん》|利《り》なき|故《ゆゑ》にあらず、|汝《なんぢ》|等《ら》をして|我《われ》らに|效《なら》はしめん|爲《ため》に、|自《みづか》ら|模範《もはん》となりたるなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|汝《なんぢ》らと|偕《とも》に|在《あ》りしとき、|人《ひと》もし|働《はたら》くことを|欲《ほっ》せずば|食《しょく》すべからずと|命《めい》じたりき。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|聞《き》く|所《ところ》によれば、|汝《なんぢ》|等《ら》のうちに|妄《みだり》に|歩《あゆ》みて|何《なに》の|業《わざ》をもなさず、|徒事《むだごと》にたづさはる|者《もの》ありと。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ら|斯《か》くのごとき|人《ひと》に、|靜《しづか》に|業《わざ》をなして|己《おのれ》のパンを|食《しょく》せんことを、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストに|由《よ》りて|命《めい》じかつ|勸《すす》む。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢら|善《ぜん》を|行《おこな》ひて|倦《う》むな。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]もし|此《こ》の|書《ふみ》にいへる|我《われ》らの|言《ことば》に|從《したが》はぬ|者《もの》あらば、その|人《ひと》を|認《みと》めて|交《まじは》ることをすな、|彼《かれ》みづから|恥《は》ぢんためなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|彼《かれ》を|仇《あた》の|如《ごと》くせず、|兄弟《きゃうだい》として|訓戒《くんかい》せよ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|平和《へいわ》の|主《しゅ》、みづから|何時《いつ》にても|凡《すべ》ての|事《こと》に|平和《へいわ》を|汝《なんぢ》らに|與《あた》へ|給《たま》はんことを。|願《ねが》はくは|主《しゅ》なんぢら|凡《すべ》ての|者《もの》と|偕《とも》に|在《いま》さん|事《こと》を。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》パウロ|手《て》づから|筆《ふで》を|執《と》りて|汝《なんぢ》らの|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。これ|我《わ》がすべての|書《ふみ》の|記章《しるし》なり。わが|書《か》けるものは|斯《か》くの|如《ごと》し。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|恩惠《めぐみ》なんぢら|凡《すべ》ての|者《もの》と|偕《とも》ならんことを。 [#改ページ] テモテへの前の書[#「テモテへの前の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|救主《すくひぬし》なる|神《かみ》と|我《われ》らの|希望《のぞみ》なるキリスト・イエスとの|命《めい》によりて、キリスト・イエスの|使徒《しと》となれるパウロ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|書《ふみ》を|信仰《しんかう》に|由《よ》りて|我《わ》が|眞實《しんじつ》の|子《こ》たるテモテに|贈《おく》る。|願《ねが》はくは|父《ちち》なる|神《かみ》および|我《われ》らの|主《しゅ》キリスト・イエスより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|憐憫《あはれみ》と|平安《へいあん》と、|汝《なんぢ》に|在《あ》らんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》マケドニヤに|往《ゆ》きしとき|汝《なんぢ》に|勸《すす》めし|如《ごと》く、|汝《なんぢ》なほエペソに|留《とど》まり、ある|人々《ひとびと》に|命《めい》じて、|異《こと》なる|教《をしへ》を|傳《つた》ふることなく、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|昔話《むかしばなし》と|窮《きはま》りなき|系圖《けいづ》とに|心《こころ》を|寄《よ》する|事《こと》なからしめよ。|此《これ》|等《ら》のことは|信仰《しんかう》に|基《もとづ》ける|神《かみ》の|經綸《けいりん》の|助《たすけ》とならず、|反《かへ》つて|議論《ぎろん》を|生《しゃう》ずるなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|命令《めいれい》の|目的《もくてき》は|清《きよ》き|心《こころ》と|善《よ》き|良心《りゃうしん》と|僞《いつは》りなき|信仰《しんかう》とより|出《い》づる|愛《あい》にあり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ある|人々《ひとびと》これらの|事《こと》より|外《はづ》れて|虚《むな》しき|物語《ものがたり》にうつり、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》の|教師《けうし》たらんと|欲《ほっ》して、|反《かへ》つて|其《そ》の|言《い》ふ|所《ところ》その|確證《かくしょう》する|所《ところ》を|自《みづか》ら|悟《さと》らず。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》は|道理《ことわり》に|循《したが》ひて|之《これ》を|用《もち》ひば|善《よ》き|者《もの》なるを|我《われ》らは|知《し》る。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》を|用《もち》ふる|者《もの》は、|律法《おきて》の|正《ただ》しき|人《ひと》の|爲《ため》にあらずして、|不法《ふはふ》のもの、|服從《ふくじゅう》せぬもの、|敬虔《けいけん》ならぬもの、|罪《つみ》あるもの、|潔《きよ》からぬもの、|妄《みだり》なるもの、|父《ちち》を|撃《う》つもの、|母《はは》を|撃《う》つもの、|人《ひと》を|殺《ころ》す|者《もの》、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|淫行《いんかう》のもの、|男色《なんしょく》を|行《おこな》ふもの、|人《ひと》を|誘拐《かどはか》すもの、|僞《いつは》るもの、いつはり|誓《ちか》ふ|者《もの》の|爲《ため》、そのほか|健全《けんぜん》なる|教《をしへ》に|逆《さから》ふ|凡《すべ》ての|事《こと》のために|設《まう》けられたるを|知《し》るべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]これは|我《われ》に|委《ゆだ》ね|給《たま》ひし|幸福《さいはひ》なる|神《かみ》の|榮光《えいくわう》の|福音《ふくいん》に|循《したが》へるなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》に|能力《ちから》を|賜《たま》ふ|我《われ》らの|主《しゅ》キリスト・イエスに|感謝《かんしゃ》す。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]われ|曩《さき》には|涜《けが》す|者《もの》、|迫害《はくがい》する|者《もの》、|暴行《ばうかう》の|者《もの》なりしに、|我《われ》を|忠實《ちゅうじつ》なる|者《もの》として、この|職《つとめ》に|任《にん》じ|給《たま》ひたればなり。われ|信《しん》ぜぬ|時《とき》に|知《し》らずして|行《おこな》ひし|故《ゆゑ》に|憐憫《あはれみ》を|蒙《かうむ》れり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|我《われ》らの|主《しゅ》の|恩惠《めぐみ》は、キリスト・イエスに|由《よ》れる|信仰《しんかう》および|愛《あい》とともに|溢《あふ》るるばかり|彌増《いやま》せり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]『キリスト・イエス|罪人《つみびと》を|救《すく》はん|爲《ため》に|世《よ》に|來《きた》り|給《たま》へり』とは、|信《しん》ずべく|正《ただ》しく|受《う》くべき|言《ことば》なり、|其《そ》の|罪人《つみびと》の|中《うち》にて|我《われ》は|首《かしら》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|我《わ》が|憐憫《あはれみ》を|蒙《かうむ》りしは、キリスト・イエス|我《われ》を|首《かしら》に|寛容《くわんよう》をことごとく|顯《あらは》し、この|後《のち》、かれを|信《しん》じて|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|受《う》けんとする|者《もの》の|模範《もはん》となし|給《たま》はん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|萬世《ばんせい》の|王《わう》、すなはち|朽《く》ちず|見《み》えざる|唯一《ゆゐいつ》の|神《かみ》に、|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|尊貴《たふとき》と|榮光《えいくわう》とあらん|事《こと》を、アァメン。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]わが|子《こ》テモテよ、|汝《なんぢ》を|指《さ》したる|凡《すべ》ての|預言《よげん》に|循《したが》ひて、|我《われ》この|命令《めいれい》を|汝《なんぢ》に|委《ゆだ》ぬ。これ|汝《なんぢ》がその|預言《よげん》により、|信仰《しんかう》と|善《よ》き|良心《りゃうしん》とを|保《たも》ちて、|善《よ》き|戰鬪《たたかひ》を|戰《たたか》はん|爲《ため》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》よき|良心《りゃうしん》を|棄《す》てて|信仰《しんかう》の|破船《はせん》をなせり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》にヒメナオとアレキサンデルとあり、|彼《かれ》らに|涜《けが》すまじきことを|學《まな》ばせんとて、|我《われ》これをサタンに|付《わた》せり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]さればわれ|第一《だいいち》に|勸《すす》む、|凡《すべ》ての|人《ひと》のため、|王《わう》たち|及《およ》び|凡《すべ》て|權《けん》を|有《も》つものの|爲《ため》に、おのおの|願《ねがひ》・|祈祷《いのり》・とりなし・|感謝《かんしゃ》せよ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》われら|敬虔《けいけん》と|謹嚴《きんげん》とを|盡《つく》して、|安《やす》らかに|靜《しづか》に|一生《いっしゃう》を|過《すご》さん|爲《ため》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くするは|美事《よきこと》にして、|我《われ》らの|救主《すくひぬし》なる|神《かみ》の|御意《みこころ》に|適《かな》ふことなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|凡《すべ》ての|人《ひと》の|救《すく》はれて、|眞理《しんり》を|悟《さと》るに|至《いた》らんことを|欲《ほっ》し|給《たま》ふ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》は|唯一《ゆゐいつ》なり、また|神《かみ》と|人《ひと》との|間《あいだ》の|中保《なかだち》も|唯一《ゆゐいつ》にして、|人《ひと》なるキリスト・イエス|是《これ》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|己《おのれ》を|與《あた》へて|凡《すべ》ての|人《ひと》の|贖價《あがなひ》となり|給《たま》へり、|時《とき》|至《いた》りて|證《あかし》せらる。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》これが|爲《ため》に|立《た》てられて|宣傳者《せんでんしゃ》となり、|使徒《しと》となり(|我《われ》は|眞《まこと》を|言《い》ひて|虚僞《いつはり》を|言《い》はず)また|信仰《しんかう》と|眞《まこと》とをもて|異邦人《いはうじん》を|教《をし》ふる|教師《けうし》となれり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]これ|故《ゆゑ》にわれ|望《のぞ》む、|男《をとこ》は|怒《いか》らず|爭《あらそ》はず、|何《いづ》れの|處《ところ》にても|潔《きよ》き|手《て》をあげて|祈《いの》らんことを。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|女《をんな》は|恥《はぢ》を|知《し》り、|愼《つつし》みて|宜《よろ》しきに|合《かな》ふ|衣《ころも》にて|己《おのれ》を|飾《かざ》り、|編《あ》みたる|頭髮《かみのけ》と|金《きん》と|眞珠《しんじゅ》と|價《あたひ》|貴《たか》き|衣《ころも》とを|飾《かざり》とせず、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|善《よ》き|業《わざ》をもて|飾《かざり》とせんことを。これ|神《かみ》を|敬《うやま》はんと|公言《こうげん》する|女《をんな》に|適《かな》へる|事《こと》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》は|凡《すべ》てのこと|從順《じゅうじゅん》にして|靜《しづか》に|道《みち》を|學《まな》ぶべし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]われ|女《をんな》の|教《をし》ふることと|男《をとこ》の|上《うへ》に|權《けん》を|執《と》ることとを|許《ゆる》さず、ただ|靜《しづか》にすべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]それアダムは|前《さき》に|造《つく》られ、エバは|後《のち》に|造《つく》られたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]アダムは|惑《まどは》されず、|女《をんな》は|惑《まどは》されて|罪《つみ》に|陷《おちい》りたるなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|女《をんな》もし|愼《つつし》みて|信仰《しんかう》と|愛《あい》と|潔《きよき》とに|居《を》らば、|子《こ》を|生《う》むことに|因《よ》りて|救《すく》はるべし。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]『|人《ひと》もし|監督《かんとく》の|職《つとめ》を|慕《した》はば、これよき|業《わざ》を|願《ねが》ふなり』とは、|信《しん》ずべき|言《ことば》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]それ|監督《かんとく》は|責《せ》むべき|所《ところ》なく、|一人《ひとり》の|妻《つま》の|夫《をっと》にして、|自《みづか》ら|制《せい》し、|愼《つつし》み、|品行《みもち》|正《ただ》しく、|旅人《たびびと》を|懇《ねんご》ろに|待《もてな》し、|能《よ》く|教《をし》へ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|酒《さけ》を|嗜《たし》まず、|人《ひと》を|打《う》たず、|寛容《くわんよう》にし、|爭《あらそ》はず、|金《かね》を|貪《むさぼ》らず、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|善《よ》く|己《おの》が|家《いへ》を|理《おさ》め、|謹嚴《きんげん》にして|子女《こども》を|從順《じゅうじゅん》ならしむる|者《もの》たるべし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり](|人《ひと》もし|己《おの》が|家《いへ》を|理《おさ》むることを|知《し》らずば、|爭《いか》でが|神《かみ》の|教會《けうくわい》を|扱《あつか》ふことを|得《え》ん)[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]また|新《あらた》に|教《をしへ》に|入《い》りし|者《もの》ならざるべし、|恐《おそ》らくは|傲慢《がうまん》になりて|惡魔《あくま》と|同《おな》じ|審判《さばき》を|受《う》くるに|至《いた》らん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|外《そと》の|人《ひと》にも|令聞《よききこえ》ある|者《もの》たるべし、|然《しか》らずば|誹謗《そしり》と|惡魔《あくま》の|羂《わな》とに|陷《おちい》らん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|執事《しつじ》もまた|同《おな》じく|謹嚴《きんげん》にして、|言《ことば》を|二《ふた》つにせず、|大酒《たいしゅ》せず、|恥《は》づべき|利《り》をとらず、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|潔《きよ》き|良心《りゃうしん》をもて|信仰《しんかう》の|奧義《おくぎ》を|保《たも》つものたるべし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]まづ|彼《かれ》らを|試《こころ》みて|責《せ》むべき|所《ところ》なくば、|執事《しつじ》の|職《つとめ》に|任《にん》ずべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》もまた|謹嚴《きんげん》にして|人《ひと》を|謗《そし》らず、|自《みづか》ら|制《せい》して|凡《すべ》ての|事《こと》に|忠實《まめやか》なる|者《もの》たるべし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|執事《しつじ》は|一人《ひとり》の|妻《つま》の|夫《をっと》にして、|子女《こども》と|己《おの》が|家《いへ》とを|善《よ》く|理《おさ》むる|者《もの》たるべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|善《よ》く|執事《しつじ》の|職《つとめ》をなす|者《もの》は|良《よ》き|地位《ちゐ》を|得《え》、かつキリスト・イエスに|於《お》ける|信仰《しんかう》につきて|大《おほい》なる|勇氣《ゆうき》を|得《う》るなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]われ|速《すみや》かに|汝《なんぢ》に|往《ゆ》かんことを|望《のぞ》めど、|今《いま》これらの|事《こと》を|書《か》きおくるは、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》し|遲《おそ》からんとき、|人《ひと》の|如何《いか》に|神《かみ》の|家《いへ》に|行《おこな》ふべきかを|汝《なんぢ》に|知《し》らしめん|爲《ため》なり。|神《かみ》の|家《いへ》は|活《い》ける|神《かみ》の|教會《けうくわい》なり、|眞理《しんり》の|柱《はしら》、|眞理《しんり》の|基《もとゐ》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|實《げ》に|大《おほい》なるかな、|敬虔《けいけん》の|奧義《おくぎ》 [#ここから2字下げ] 『キリストは|肉《にく》にて|顯《あらは》され、 |靈《れい》にて|義《ぎ》とせられ、 |御使《みつかひ》たちに|見《み》られ、 もろもろの|國人《くにびと》に|宣傳《のべつた》へられ、 |世《よ》に|信《しん》ぜられ、 |榮光《えいくわう》のうちに|上《あ》げられ|給《たま》へり』 [#ここで字下げ終わり] 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されど|御靈《みたま》あきらかに、|或《ある》|人《ひと》の|後《のち》の|日《ひ》に|及《およ》びて、|惑《まどは》す|靈《れい》と|惡鬼《あくき》の|教《をしへ》とに|心《こころ》を|寄《よ》せて、|信仰《しんかう》より|離《はな》れんことを|言《い》ひ|給《たま》ふ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]これ|虚僞《いつはり》をいふ|者《もの》の|僞善《ぎぜん》に|由《よ》りてなり。|彼《かれ》らは|良心《りゃうしん》を|燒金《やきがね》にて|烙《や》かれ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|婚姻《こんいん》するを|禁《きん》じ、|食《しょく》を|斷《た》つことを|命《めい》ず。されど|食《しょく》は|神《かみ》の|造《つく》り|給《たま》へる|物《もの》にして、|信《しん》じかつ|眞理《しんり》を|知《し》る|者《もの》の|感謝《かんしゃ》して|受《う》くべきものなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|造《つく》り|給《たま》へる|物《もの》はみな|善《よ》し、|感謝《かんしゃ》して|受《う》くる|時《とき》は|棄《す》つべき|物《もの》なし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]そは|神《かみ》の|言《ことば》と|祈《いのり》とによりて|潔《きよ》めらるるなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》もし|此《これ》|等《ら》のことを|兄弟《きゃうだい》に|教《をし》へば、|信仰《しんかう》と|汝《なんぢ》の|從《したが》ひたる|善《よ》き|教《をしへ》との|言《ことば》にて|養《やしな》はるる|所《ところ》のキリスト・イエスの|良《よ》き|役者《えきしゃ》たるべし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されど|妄《みだり》なる|談《はなし》と|老《お》いたる|女《をんな》の|昔話《むかしばなし》とを|捨《す》てよ、また|自《みづか》ら|敬虔《けいけん》を|修行《しゅぎゃう》せよ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|體《からだ》の|修行《しゅぎゃう》もいささかは|益《えき》あれど、|敬虔《けいけん》は|今《いま》の|生命《いのち》と|後《しりへ》の|生命《いのち》との|約束《やくそく》を|保《たも》ちて|凡《すべ》ての|事《こと》に|益《えき》あり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]これ|信《しん》ずべく|正《ただ》しく|受《う》くべき|言《ことば》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|之《これ》がために|勞《らう》しかつ|苦心《くしん》す、そは|我《われ》ら|凡《すべ》ての|人《ひと》、|殊《こと》に|信《しん》ずる|者《もの》の|救主《すくひぬし》なる|活《い》ける|神《かみ》に|望《のぞみ》を|置《お》けばなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》これらの|事《こと》を|命《めい》じかつ|教《をし》へよ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|年《とし》|若《わか》きをもて|人《ひと》に|輕《かろ》んぜらるな、|反《かへ》つて|言《ことば》にも、|行状《ぎゃうじゃう》にも、|愛《あい》にも、|信仰《しんかう》にも、|潔《きよめ》にも、|信者《しんじゃ》の|模範《もはん》となれ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]わが|到《いた》るまで、|讀《よ》むこと|勸《すす》むること|教《をし》ふる|事《こと》に|心《こころ》を|用《もち》ひよ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|長老《ちゃうらう》たちの|按手《あんしゅ》を|受《う》け、|預言《よげん》によりて|賜《たま》はりたる|賜物《たまもの》を|等閑《なほざり》にすな。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|心《こころ》を|傾《かたむ》けて|此《これ》|等《ら》のことを|專《もっぱ》ら|務《つと》めよ。|汝《なんぢ》の|進歩《しんぽ》の|明《あきら》かならん|爲《ため》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|己《おのれ》とおのれの|教《をしへ》とを|愼《つつし》みて|此《これ》|等《ら》のことに|怠《おこた》るな、|斯《か》くなして|己《おのれ》と|聽《き》く|者《もの》とを|救《すく》ふべし。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|老人《らうじん》を|譴責《けんせき》すな、|反《かへ》つて|之《これ》を|父《ちち》のごとく|勸《すす》め、|若《わか》き|人《ひと》を|兄弟《きゃうだい》の|如《ごと》くに、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|老《お》いたる|女《をんな》を|母《はは》の|如《ごと》くに|勸《すす》め、|若《わか》き|女《をんな》を|姉妹《しまい》の|如《ごと》くに|全《まった》き|貞潔《ていけつ》をもて|勸《すす》めよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|寡婦《やもめ》のうちの|眞《まこと》の|寡婦《やもめ》を|敬《うやま》へ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されど|寡婦《やもめ》に|子《こ》もしくは|孫《まご》あらば、|彼《かれ》ら|先《ま》づ|己《おのれ》の|家《いへ》に|孝《かう》を|行《おこな》ひて|親《おや》に|恩《おん》を|報《むく》ゆることを|學《まな》ぶべし。これ|神《かみ》の|御意《みこころ》にかなふ|事《こと》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|眞《まこと》の|寡婦《やもめ》にして|獨殘《ひとりのこ》りたる|者《もの》は、|望《のぞみ》を|神《かみ》におきて、|夜《よる》も|晝《ひる》も|絶《た》えず|願《ねがひ》と|祈《いのり》とを|爲《な》す。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|佚樂《たのしみ》を|放恣《ほしいまま》にする|寡婦《やもめ》は、|生《い》けりと|雖《いへど》も|死《し》にたる|者《もの》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]これらの|事《こと》を|命《めい》じて|彼《かれ》らに|責《せ》むべき|所《ところ》なからしめよ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|其《そ》の|親族《しんぞく》、|殊《こと》に|己《おの》が|家族《かぞく》を|顧《かへり》みずば、|信仰《しんかう》を|棄《す》てたる|者《もの》にて、|不《ふ》|信者《しんじゃ》よりも|更《さら》に|惡《あ》しきなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|六十歳《ろくじっさい》|以下《いか》の|寡婦《やもめ》は|寡婦《やもめ》の|籍《せき》に|記《しる》すべからず、|記《しる》すべきは|一人《ひとり》の|夫《をっと》の|妻《つま》たりし|者《もの》にして、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|善《よ》き|業《わざ》の|聲聞《きこえ》あり、|或《あるひ》は|子女《こども》をそだて、|或《あるひ》は|旅人《たびびと》を|宿《やど》し、|或《あるひ》は|聖徒《せいと》の|足《あし》を|洗《あら》ひ、|或《あるひ》は|惱《なや》める|者《もの》を|助《たす》くる|等《ら》、もろもろの|善《よ》き|業《わざ》に|從《したが》ひし|者《もの》たるべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|若《わか》き|寡婦《やもめ》は|籍《せき》に|記《しる》すな、|彼《かれ》らキリストに|背《そむ》きて|心《こころ》|亂《みだ》るる|時《とき》は、|嫁《とつ》ぐことを|欲《ほっ》し、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|初《はじめ》の|誓約《ちかひ》を|棄《す》つるに|因《よ》りて|批難《ひなん》を|受《う》くべければなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》はまた|懶惰《らんだ》に|流《なが》れて|家々《いへいへ》を|遊《あそ》びめぐる、|啻《ただ》に|懶惰《らんだ》なるのみならず、|言《ことば》|多《おほ》くして|徒事《むだごと》にたづさはり、|言《い》ふまじき|事《こと》を|言《い》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されば|若《わか》き|寡婦《やもめ》は|嫁《とつ》ぎて|子《こ》を|生《う》み、|家《いへ》を|理《おさ》めて|敵《てき》に|少《すこ》しにても|謗《そし》るべき|機《をり》を|與《あた》へざらんことを|我《われ》は|欲《ほっ》す。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|中《うち》には|既《すで》に|迷《まよ》ひてサタンに|從《したが》ひたる|者《もの》あり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|信者《しんじゃ》たる|女《をんな》もし|其《そ》の|家《いへ》に|寡婦《やもめ》あらば、|自《みづか》ら|之《これ》を|助《たす》けて|教會《けうくわい》を|煩《わづら》はすな。これ|眞《まこと》の|寡婦《やもめ》を|教會《けうくわい》の|助《たす》けん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|善《よ》く|治《をさ》むる|長老《ちゃうらう》、|殊《こと》に|言《ことば》と|教《をしへ》とをもて|勞《らう》する|長老《ちゃうらう》を|一層《ひときは》|尊《たふと》ぶべき|者《もの》とせよ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|聖書《せいしょ》に『|穀物《こくもつ》を|碾《こな》す|牛《うし》に|口籠《くつご》を|繋《か》くべからず』また『|勞動人《はたらきびと》のその|價《あたひ》を|得《う》るは|相應《ふさは》しきなり』と|云《い》へばなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|長老《ちゃうらう》に|對《たい》する|訴訟《うったへ》は|二三人《にさんにん》の|證人《しょうにん》なくば|受《う》くべからず。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|罪《つみ》を|犯《をか》せる|者《もの》をば|衆《すべて》の|前《まへ》にて|責《せ》めよ、これ|他《ほか》の|人《ひと》をも|懼《おそ》れしめんためなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]われ|神《かみ》とキリスト・イエスと|選《えら》ばれたる|御使《みつかひ》たちとの|前《まへ》にて|嚴《おごそ》かに|汝《なんぢ》に|命《めい》ず、|何事《なにごと》をも|偏《かたよ》り|行《おこな》はず、|偏頗《へんぱ》なく|此《これ》|等《ら》のことを|守《まも》れ、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|輕々《かるがる》しく|人《ひと》に|手《て》を|按《お》くな、|人《ひと》の|罪《つみ》に|與《あづか》るな、|自《みづか》ら|守《まも》りて|潔《きよ》くせよ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》よりのち|水《みづ》のみを|飮《の》まず、|胃《ゐ》のため、|又《また》しばしば|病《やまひ》に|罹《かか》る|故《ゆゑ》に、|少《すこ》しく|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|用《もち》ひよ。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|人《ひと》の|罪《つみ》は|明《あきら》かにして|先《さき》だちて|審判《さばき》に|往《ゆ》き、|或《ある》|人《ひと》の|罪《つみ》は|後《あと》にしたがふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|善《よ》き|業《わざ》も|明《あきら》かなり、|然《しか》らざる|者《もの》も|遂《つひ》には|隱《かく》るること|能《あた》はず。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|軛《くびき》の|下《した》にありて|奴隷《どれい》たる|者《もの》は、おのれの|主人《しゅじん》を|全《まった》く|尊《たふと》ぶべき|者《もの》とすべし。これ|神《かみ》の|名《な》と|教《をしへ》との|譏《そし》られざらん|爲《ため》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|信者《しんじゃ》たる|主人《しゅじん》を|有《も》てる|者《もの》は、その|兄弟《きゃうだい》なるに|因《よ》りて|之《これ》を|輕《かろ》んぜず、|反《かへ》つて|彌《いや》|増々《ますます》これに|事《つか》ふべし。その|益《えき》を|受《う》くる|主人《しゅじん》は|信者《しんじゃ》にして|愛《あい》せらるる|者《もの》なればなり。|汝《なんぢ》これらの|事《こと》を|教《をし》へかつ|勧《すす》めよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]もし|異《こと》なる|教《をしへ》を|傳《つた》へて、|健全《けんぜん》なる|言《ことば》すなはち|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|言《ことば》と、|敬虔《けいけん》にかなふ|教《をしへ》とを|肯《うけが》はぬ|者《もの》あらば、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]その|人《ひと》は|傲慢《がうまん》にして|何《なに》をも|知《し》らず、ただ|議論《ぎろん》と|言爭《いさかひ》とにのみ|耽《ふけ》るなり、|之《これ》によりて|嫉妬《ねたみ》・|爭鬪《あらそひ》・|惡《あ》しき|念《おもひ》おこり、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|心《こころ》|腐《くさ》りて|眞理《まこと》をはなれ、|敬虔《けいけん》を|利《り》|益《えき》の|道《みち》とおもふ|者《もの》の|爭論《さうろん》おこるなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|足《た》ることを|知《し》りて|敬虔《けいけん》を|守《まも》る|者《もの》は、|大《おほい》なる|利《り》|益《えき》を|得《う》るなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|何《なに》をも|携《たづさ》へて|世《よ》に|來《きた》らず、また|何《なに》をも|携《たづさ》へて|世《よ》を|去《さ》ること|能《あた》はざればなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ただ|衣食《いしょく》あらば|足《た》れりとせん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]されど|富《と》まんと|欲《ほっ》する|者《もの》は、|誘惑《まどはし》と|羂《わな》、また|人《ひと》を|滅亡《ほろび》と|沈淪《ちんりん》とに|溺《おぼ》らす|愚《おろか》にして|害《がい》ある|各樣《さまざま》の|慾《よく》に|陷《おちい》るなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]それ|金《かね》を|愛《あい》するは|諸般《もろもろ》の|惡《あ》しき|事《こと》の|根《ね》なり、ある|人々《ひとびと》これを|慕《した》ひて|信仰《しんかう》より|迷《まよ》ひ、さまざまの|痛《いたみ》をもて|自《みづか》ら|己《おのれ》を|刺《さ》しとほせり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|人《ひと》よ、なんぢは|此《これ》|等《ら》のことを|避《さ》けて、|義《ぎ》と|敬虔《けいけん》と|信仰《しんかう》と|愛《あい》と|忍耐《にんたい》と|柔和《にうわ》とを|追《お》ひ|求《もと》め、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》の|善《よ》き|戰闘《たたかひ》をたたかへ、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》をとらへよ。|汝《なんぢ》これが|爲《ため》に|召《めし》を|蒙《かうむ》り、また|多《おほ》くの|證人《しょうにん》の|前《まへ》にて|善《よ》き|言明《いひあらはし》をなせり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]われ|凡《すべ》ての|物《もの》を|生《い》かしたまふ|神《かみ》のまへ、|及《およ》びポンテオ・ピラトに|向《むか》ひて|善《よ》き|言明《いひあらはし》をなし|給《たま》ひしキリスト・イエスの|前《まへ》にて|汝《なんぢ》に|命《めい》ず。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》われらの|主《しゅ》イエス・キリストの|現《あらは》れたまふ|時《とき》まで|汚點《しみ》なく|責《せ》むべき|所《ところ》なく、|誡命《いましめ》を|守《まも》れ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》いたらば|幸福《さいはひ》なる|唯一《ゆゐいつ》の|君主《くんしゅ》、もろもろの|王《わう》の|王《わう》、もろもろの|主《しゅ》の|主《しゅ》、これを|顯《あらは》し|給《たま》はん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》は|唯《ただ》ひとり|不《ふ》|死《し》を|保《たも》ち|近《ちか》づきがたき|光《ひかり》に|住《す》み、|人《ひと》の|未《いま》だ|見《み》ず、また|見《み》ること|能《あた》はぬ|者《もの》なり。|願《ねが》はくは|尊貴《たふとき》と|限《かぎ》りなき|權力《ちから》と|彼《かれ》にあらんことを、アァメン。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》この|世《よ》の|富《と》める|者《もの》に|命《めい》ぜよ。|高《たか》ぶりたる|思《おもひ》をもたず、|定《さだめ》なき|富《とみ》をたのまずして、|唯《ただ》われらを|樂《たの》しませんとて|萬《よろづ》の|物《もの》を|豐《ゆたか》に|賜《たま》ふ|神《かみ》に|依頼《よりたの》み、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|善《ぜん》をおこなひ、|善《よ》き|業《わざ》に|富《と》み、|惜《をし》みなく|施《ほどこ》し、|分《わ》け|與《あた》ふることを|喜《よろこ》び、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|己《おのれ》のために|善《よ》き|基《もとゐ》を|蓄《たくは》へ、|未來《みらい》の|備《そなへ》をなして|眞《まこと》の|生命《いのち》を|捉《とら》ふることを|爲《せ》よと。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]テモテよ、なんぢ|委《ゆだ》ねられたる|事《こと》を|守《まも》り、|妄《みだり》なる|虚《むな》しき|物語《ものがたり》、また|僞《いつは》りて|知識《ちしき》と|稱《とな》ふる|反對論《はんたいろん》を|避《さ》けよ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ある|人々《ひとびと》この|知識《ちしき》を|裝《よそほ》ひて|信仰《しんかう》より|外《はづ》れたり。|願《ねが》はくは|御惠《みめぐみ》なんじと|偕《とも》に|在《あ》らんことを。 [#改ページ] テモテへの後の書[#「テモテへの後の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|御意《みこころ》により、キリスト・イエスにある|生命《いのち》の|約束《やくそく》に|循《したが》ひて、キリスト・イエスの|使徒《しと》になれるパウロ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|書《ふみ》を|我《わ》が|愛《あい》する|子《こ》テモテに|贈《おく》る。|願《ねが》はくは|父《ちち》なる|神《かみ》および|我《われ》らの|主《しゅ》キリスト・イエスより|賜《たま》ふ、|恩惠《めぐみ》と|憐憫《あはれみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》に|在《あ》らんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われ|夜《よる》も|晝《ひる》も|祈《いのり》の|中《うち》に|絶《た》えず|汝《なんぢ》を|思《おも》ひて、わが|先祖《せんぞ》に|效《なら》ひ|清《きよ》き|良心《りゃうしん》をもて|事《つか》ふる|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢの|涙《なみだ》を|憶《おぼ》え、わが|歡喜《よろこび》の|滿《み》ちん|爲《ため》に|汝《なんぢ》を|見《み》んことを|欲《ほっ》す。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|是《これ》なんぢに|在《あ》る|虚僞《いつはり》なき|信仰《しんかう》をおもひ|出《いだ》すに|因《よ》りてなり。その|信仰《しんかう》の|曩《さき》に|汝《なんぢ》の|祖母《そぼ》ロイス|及《およ》び|母《はは》ユニケに|宿《やど》りしごとく、|汝《なんぢ》にも|然《しか》るを|確信《かくしん》す。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、わが|按手《あんしゅ》に|因《よ》りて|汝《なんぢ》の|内《うち》に|得《え》たる|神《かみ》の|賜物《たまもの》をますます|熾《さかん》にせんことを|勸《すす》む。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]そは|神《かみ》の|我《われ》らに|賜《たま》ひたるは、|臆《おく》する|靈《れい》にあらず、|能力《ちから》と|愛《あい》と|謹愼《つつしみ》との|靈《れい》なればなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》われらの|主《しゅ》の|證《あかし》をなす|事《こと》と、|主《しゅ》の|囚人《めしうど》たる|我《われ》とを|恥《はぢ》とすな、ただ|神《かみ》の|能力《ちから》に|隨《したが》ひて|福音《ふくいん》のために|我《われ》とともに|苦難《くるしみ》を|忍《しの》べ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|我《われ》らを|救《すく》ひ|聖《せい》なる|召《めし》をもて|召《め》し|給《たま》へり。|是《これ》われらの|行爲《おこなひ》に|由《よ》るにあらず、|神《かみ》の|御旨《みむね》にて|創世《さうせい》の|前《まへ》にキリスト・イエスをもて|我《われ》らに|賜《たま》ひし|恩惠《めぐみ》に|由《よ》るなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|恩惠《めぐみ》は|今《いま》われらの|救主《すくひぬし》キリスト・イエスの|現《あらは》れ|給《たま》ふに|因《よ》りて|顯《あらは》れたり。|彼《かれ》は|死《し》をほろぼし、|福音《ふくいん》をもて|生命《いのち》と|朽《く》ちざる|事《こと》とを|明《あきら》かにし|給《たま》へり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はこの|福音《ふくいん》のために|立《た》てられて|宣傳者《せんでんしゃ》・|使徒《しと》・|教師《けうし》となれり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》がために|我《われ》これらの|苦難《くるしみ》に|遭《あ》ふ。されど|之《これ》を|恥《はぢ》とせず、|我《われ》わが|依頼《よりたの》む|者《もの》を|知《し》り、|且《かつ》わが|委《ゆだ》ねたる|者《もの》を、かの|日《ひ》に|至《いた》るまで|守《まも》り|得給《えたま》ふことを|確信《かくしん》すればなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》キリスト・イエスにある|信仰《しんかう》と|愛《あい》とをもて|我《われ》より|聽《き》きし|健全《けんぜん》なる|言《ことば》の|模範《もはん》を|保《たも》ち、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かつ|委《ゆだ》ねられたる|善《よ》きものを|我等《われら》のうちに|宿《やど》りたまふ|聖《せい》|靈《れい》に|頼《よ》りて|守《まも》るべし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]アジヤに|居《を》る|者《もの》みな|我《われ》を|棄《す》てしは|汝《なんぢ》の|知《し》る|所《ところ》なり、その|中《うち》にフゲロとヘルモゲネとあり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》オネシポロの|家《いへ》に|憐憫《あはれみ》を|賜《たま》はんことを。|彼《かれ》はしばしば|我《われ》を|慰《なぐさ》め、|又《また》わが|鎖《くさり》を|恥《はぢ》とせず。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]そのロマに|居《を》りし|時《とき》には|懇《ねんご》ろに|尋《たづ》ね|來《きた》りて、|遂《つひ》に|逢《あ》ひたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》かの|日《ひ》にいたり|主《しゅ》の|憐憫《あはれみ》を|彼《かれ》に|賜《たま》はんことを、|彼《かれ》がエペソにて|我《われ》に|事《つか》へしことの|如何《いか》ばかりなりしかは、|汝《なんぢ》の|能《よ》く|知《し》るところなり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]わが|子《こ》よ、|汝《なんぢ》キリスト・イエスにある|恩惠《めぐみ》によりて|強《つよ》かれ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》おほくの|證人《しょうにん》の|前《まへ》にて、|我《われ》より|聽《き》きし|所《ところ》のことを|他《ほか》の|者《もの》に|教《をし》へ|得《う》る|忠實《ちゅうじつ》なる|人々《ひとびと》に|委《ゆだ》ねよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》キリスト・イエスのよき|兵卒《へいそつ》として|我《われ》とともに|苦難《くるしみ》を|忍《しの》べ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|兵卒《へいそつ》を|務《つと》むる|者《もの》は|生活《なりはひ》のために|纏《まと》はるる|事《こと》なし、これ|募《つの》れる|者《もの》を|喜《よろこ》ばせんとすればなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|技《ぎ》を|競《きそ》ふ|者《もの》、もし|法《のり》に|隨《したが》ひて|競《きそ》はずば|冠冕《かんむり》を|得《え》ず。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|勞《らう》する|農夫《のうふ》まづ|實《み》の|分配《ぶんぱい》を|得《う》べきなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》わが|言《い》ふ|所《ところ》をおもへ、|主《しゅ》なんぢに|凡《すべ》ての|事《こと》に|就《つ》きて|悟《さとり》を|賜《たま》はん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]わが|福音《ふくいん》に|云《い》へる|如《ごと》く、ダビデの|裔《すゑ》にして|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へり|給《たま》へるイエス・キリストを|憶《おぼ》えよ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はこの|福音《ふくいん》のために|苦難《くるしみ》を|受《う》けて|惡人《あくにん》のごとく|繋《つな》がるるに|至《いた》れり、されど|神《かみ》の|言《ことば》は|繋《つな》がれたるにあらず。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》えらばれたる|者《もの》のために|凡《すべ》ての|事《こと》を|忍《しの》ぶ。これ|彼《かれ》|等《ら》をして|永遠《とこしへ》の|光榮《くわうえい》と|共《とも》にキリスト・イエスによる|救《すくひ》を|得《え》しめんとてなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]ここに|信《しん》ずべき|言《ことば》あり『|我等《われら》もし|彼《かれ》と|共《とも》に|死《し》にたる|者《もの》ならば、|彼《かれ》と|共《とも》に|生《い》くべし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]もし|耐《た》へ|忍《しの》ばば、|彼《かれ》と|共《とも》に|王《わう》となるべし。|若《も》し|彼《かれ》を|否《いな》まば、|彼《かれ》も|我《われ》らを|否《いな》み|給《たま》はん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|眞實《しんじつ》ならずとも、|彼《かれ》は|絶《た》えず|眞實《しんじつ》にましませり、|彼《かれ》は|己《おのれ》を|否《いな》み|給《たま》ふこと|能《あた》はざればなり』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》かれらに|此《これ》|等《ら》のことを|思《おも》ひ|出《いだ》さしめ、かつ|言爭《いさかひ》する|事《こと》なきやう|神《かみ》の|前《まへ》にて|嚴《おごそ》かに|命《めい》ぜよ、|言爭《いさかひ》は|益《えき》なくして|聞《き》く|者《もの》を|滅亡《ほろび》に|至《いた》らしむ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|眞理《しんり》の|言《ことば》を|正《ただ》しく|教《をし》へ、|恥《は》づる|所《ところ》なき|勞動人《はたらきびと》となりて、|神《かみ》の|前《まへ》に|錬達《れんたつ》せる|者《もの》とならんことを|勵《はげ》め。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]また|妄《みだり》なる|虚《むな》しき|物語《ものがたり》を|避《さ》けよ。かかる|者《もの》はますます|不《ふ》|敬虔《けいけん》に|進《すす》み、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]その|言《ことば》は|脱疽《だっそ》のごとく|腐《くさ》れひろがるべし、ヒメナオとピレトとは|斯《か》くのごとき|者《もの》の|中《うち》にあり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|眞理《しんり》より|外《はづ》れ、|復活《よみがへり》ははや|過《す》ぎたりと|云《い》ひて、|或《ある》|人々《ひとびと》の|信仰《しんかう》を|覆《くつが》へすなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]されど|神《かみ》の|据《す》ゑ|給《たま》へる|堅《かた》き|基《もとゐ》は|立《た》てり、|之《これ》に|印《いん》あり、|記《しる》して|曰《い》ふ『|主《しゅ》おのれの|者《もの》を|知《し》り|給《たま》ふ』また『|凡《すべ》て|主《しゅ》の|名《な》を|稱《とな》ふる|者《もの》は|不義《ふぎ》を|離《はな》るべし』と。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|大《おほい》なる|家《いへ》の|中《うち》には|金《きん》|銀《ぎん》の|器《うつは》あるのみならず、|木《き》また|土《つち》の|器《うつは》もあり、|貴《たふと》きに|用《もち》ふるものあり、また|賤《いや》しきに|用《もち》ふるものあり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|賤《いや》しきものを|離《はな》れて|自己《みづから》を|潔《いさぎ》よくせば|貴《たふと》きに|用《もち》ひらるる|器《うつは》となり、|淨《きよ》められて|主《しゅ》の|用《よう》に|適《かな》ひ、|凡《すべ》ての|善《よ》き|業《わざ》に|備《そな》へらるべし。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》わかき|時《とき》の|慾《よく》を|避《さ》け、|主《しゅ》を|清《きよ》き|心《こころ》にて|呼《よ》び|求《もと》むる|者《もの》とともに、|義《ぎ》と|信仰《しんかう》と|愛《あい》と|平和《へいわ》とを|追《お》ひ|求《もと》めよ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|愚《おろか》なる|無學《むがく》の|議論《ぎろん》を|棄《す》てよ、これより|分爭《あらそひ》の|起《おこ》るを|知《し》ればなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|僕《しもべ》は|爭《あらそ》ふべからず、|凡《すべ》ての|人《ひと》に|優《やさ》しく|能《よ》く|教《をし》へ|忍《しの》ぶことをなし、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|逆《さから》ふ|者《もの》をば|柔和《にうわ》をもて|戒《いまし》むべし、|神《かみ》あるひは|彼《かれ》らに|悔改《くいあらた》むる|心《こころ》を|賜《たま》ひて|眞理《しんり》を|悟《さと》らせ|給《たま》はん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|一度《ひとたび》は|惡魔《あくま》に|囚《とら》はれたれど、|醒《さ》めてその|羂《わな》をのがれ、|神《かみ》の|御心《みこころ》を|行《おこな》ふに|至《いた》らん。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》これを|知《し》れ、|末《すゑ》の|世《よ》に|苦《くる》しき|時《とき》きたらん。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》おのれを|愛《あい》する|者《もの》・|金《かね》を|愛《あい》する|者《もの》・|誇《ほこ》るもの・|高《たか》ぶる|者《もの》・|罵《ののし》るもの・|父《ちち》|母《はは》に|逆《さから》ふもの・|恩《おん》を|忘《わす》るる|者《もの》・|潔《きよ》からぬ|者《もの》、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|無情《むじゃう》なる|者《もの》・|怨《うらみ》を|解《と》かぬ|者《もの》・|譏《そし》る|者《もの》・|節制《せつせい》なき|者《もの》・|殘刻《ざんこく》なる|者《もの》・|善《ぜん》を|好《この》まぬ|者《もの》、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|友《とも》を|賣《う》る|者《もの》・|放縱《ほしいまま》なる|者《もの》・|傲慢《がうまん》なる|者《もの》・|神《かみ》よりも|快樂《けらく》を|愛《あい》する|者《もの》、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|敬虔《けいけん》の|貌《かたち》をとりてその|徳《とく》を|捨《す》つる|者《もの》とならん、|斯《か》かる|類《たぐひ》の|者《もの》を|避《さ》けよ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|中《うち》には|人《ひと》の|家《いへ》に|潜《もぐ》り|入《い》りて|愚《おろか》なる|女《をんな》を|虜《とりこ》にする|者《もの》あり、|斯《か》くせらるる|女《をんな》は|罪《つみ》を|積《つ》み|重《かさ》ねて|各樣《さまざま》の|慾《よく》に|引《ひ》かれ、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|常《つね》に|學《まな》べども|眞理《しんり》を|知《し》る|知識《ちしき》に|至《いた》ること|能《あた》はず。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《か》の|者《もの》らはヤンネとヤンブレとがモーセに|逆《さから》ひし|如《ごと》く、|眞理《しんり》に|逆《さから》ふもの、|心《こころ》の|腐《くさ》れたる|者《もの》、また|信仰《しんかう》につきて|棄《す》てられたる|者《もの》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]されど|此《こ》の|上《うへ》になほ|進《すす》むこと|能《あた》はじ、そはかの|二人《ふたり》のごとく|彼《かれ》らの|愚《おろか》なる|事《こと》も|亦《また》すべての|人《ひと》に|顯《あらは》るべければなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》は|我《わ》が|教誨《をしへ》・|品行《ひんかう》・|志望《こころざし》・|信仰《しんかう》・|寛容《くわんよう》・|愛《あい》・|忍耐《にんたい》・|迫害《はくがい》、および|苦難《くるしみ》を|知《し》り、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]またアンテオケ、イコニオム、ルステラにて|起《おこ》りし|事《こと》、わが|如何《いか》なる|迫害《はくがい》を|忍《しの》びしかを|知《し》る。|主《しゅ》は|凡《すべ》てこれらの|中《うち》より|我《われ》を|救《すく》ひ|出《いだ》したまへり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そキリスト・イエスに|在《あ》りて|敬虔《けいけん》をもて|一生《いっしゃう》を|過《すご》さんと|欲《ほっ》する|者《もの》は|迫害《はくがい》を|受《う》くべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|惡《あ》しき|人《ひと》と|人《ひと》を|欺《あざむ》く|者《もの》とは、ますます|惡《あく》にすすみ、|人《ひと》を|惑《まどは》し、また|人《ひと》に|惑《まどは》されん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》は|學《まな》びて|確信《かくしん》したる|所《ところ》に|常《つね》に|居《を》れ。なんぢ|誰《たれ》より|之《これ》を|學《まな》びしかを|知《し》り、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]また|幼《おさな》き|時《とき》より|聖《せい》なる|書《ふみ》を|識《し》りし|事《こと》を|知《し》ればなり。この|書《ふみ》はキリスト・イエスを|信《しん》ずる|信仰《しんかう》によりて|救《すくひ》に|至《いた》らしむる|知慧《ちゑ》を|汝《なんぢ》に|與《あた》へ|得《う》るなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|聖書《せいしょ》はみな|神《かみ》の|感動《かんどう》によるものにして、|教誨《をしへ》と|譴責《いましめ》と|矯正《けうせい》と|義《ぎ》を|薫陶《くんたう》するとに|益《えき》あり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]これ|神《かみ》の|人《ひと》の|全《まった》くなりて|諸般《もろもろ》の|善《よ》き|業《わざ》に|備《そなへ》を|全《まった》うせん|爲《ため》なり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]われ|神《かみ》の|前《まへ》また|生《い》ける|者《もの》と|死《し》にたる|者《もの》とを|審《さば》かんとし|給《たま》ふキリスト・イエスの|前《まへ》にて、その|顯現《あらはれ》と|御國《みくに》とをおもひて|嚴《おごそ》かに|汝《なんぢ》に|命《めい》ず。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|御言《みことば》を|宣傳《のべつた》へよ、|機《をり》を|得《う》るも|機《をり》を|得《え》ざるも|常《つね》に|勵《はげ》め、|寛容《くわんよう》と|教誨《をしへ》とを|盡《つく》して|責《せ》め、|戒《いまし》め、|勸《すす》めよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》|健全《けんぜん》なる|教《をしへ》に|堪《た》へず、|耳《みみ》|痒《かゆ》くして|私慾《しよく》のまにまに|己《おの》がために|教師《けうし》を|増《ま》し|加《くは》へ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》を|眞理《しんり》より|背《そむ》けて|昔話《むかしばなし》に|移《うつ》る|時《とき》|來《きた》らん。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》は|何事《なにごと》にも|愼《つつし》み、|苦難《くるしみ》を|忍《しの》び、|傳道者《でんどうしゃ》の|業《わざ》をなし、なんぢの|職《つとめ》を|全《まった》うせよ。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|今《いま》|供物《そなへもの》として|血《ち》を|灑《そそ》がんとす、わが|去《さ》るべき|時《とき》は|近《ちか》づけり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]われ|善《よ》き|戰鬪《たたかひ》をたたかひ、|走《はし》るべき|道程《みちのり》を|果《はた》し、|信仰《しんかう》を|守《まも》れり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》よりのち|義《ぎ》の|冠冕《かんむり》わが|爲《ため》に|備《そな》はれり。かの|日《ひ》に|至《いた》りて|正《ただ》しき|審判《さばき》|主《ぬし》なる|主《しゅ》、これを|我《われ》に|賜《たま》はん、|啻《ただ》に|我《われ》のみならず、|凡《すべ》てその|顯現《あらはれ》を|慕《した》ふ|者《もの》にも|賜《たま》ふべし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|勉《つと》めて|速《すみや》かに|我《われ》に|來《きた》れ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]デマスは|此《こ》の|世《よ》を|愛《あい》し、|我《われ》を|棄《す》ててテサロニケに|往《ゆ》き、クレスケンスはガラテヤに、テトスはダルマテヤに|往《ゆ》きて、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|唯《ただ》ルカのみ|我《われ》とともに|居《を》るなり。|汝《なんぢ》マルコを|連《つ》れて|共《とも》に|來《きた》れ、|彼《かれ》は|職《つとめ》のために|我《われ》に|益《えき》あればなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》テキコをエペソに|遣《つかは》せり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》きたる|時《とき》わがトロアスにてカルポの|許《もと》に|遺《のこ》し|置《お》きたる|外衣《うはぎ》を|携《たづさ》へきたれ、また|書物《しょもつ》、|殊《こと》に|羊皮紙《やうひし》のものを|携《たづさ》へきたれ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|金《かね》|細工人《ざいくにん》アレキサンデル|大《おほい》に|我《われ》を|惱《なやま》せり。|主《しゅ》はその|行爲《おこなひ》に|隨《したが》ひて|彼《かれ》に|報《むく》いたまふべし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》もまた|彼《かれ》に|心《こころ》せよ、かれは|甚《はなは》だしく|我《われ》らの|言《ことば》に|逆《さから》ひたり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]わが|始《はじめ》の|辯明《べんめい》のとき|誰《たれ》も|我《われ》を|助《たす》けず、みな|我《われ》を|棄《す》てたり、|願《ねが》はくはこの|罪《つみ》の|彼《かれ》らに|歸《き》せざらんことを。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されど|主《しゅ》われと|偕《とも》に|在《いま》して|我《われ》を|強《つよ》めたまへり。これ|我《われ》によりて|宣教《せんけう》の|全《まった》うせられ、|凡《すべ》ての|異邦人《いはうじん》のこれを|聞《き》かん|爲《ため》なり。|而《しか》して|我《われ》は|獅子《しし》の|口《くち》より|救《すく》ひ|出《いだ》されたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]また|主《しゅ》は|我《われ》を|凡《すべ》ての|惡《あ》しき|業《わざ》より|救《すく》ひ|出《いだ》し、その|天《てん》の|國《くに》に|救《すく》ひ|入《い》れたまはん。|願《ねが》はくは|榮光《えいくわう》|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|彼《かれ》にあらん|事《こと》を、アァメン。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》プリスカ|及《およ》びアクラ、またオネシポロの|家《いへ》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]エラストはコリントに|留《とどま》れり。トロピモは|病《やまひ》ある|故《ゆゑ》に|我《われ》かれをミレトに|遺《のこ》せり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|勉《つと》めて|冬《ふゆ》のまへに|我《われ》に|來《きた》れ、ユブロ、プデス、リノス、クラウデヤ、|及《およ》び|凡《すべ》ての|兄弟《きゃうだい》、なんぢに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》なんぢの|靈《れい》と|偕《とも》に|在《いま》し、|御惠《みめぐみ》なんぢらと|偕《とも》に|在《あ》らんことを。 [#改ページ] テトスへの書[#「テトスへの書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|僕《しもべ》またイエス・キリストの|使徒《しと》パウロ――|我《わ》が|使徒《しと》となれるは、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》の|望《のぞみ》に|基《もとづ》きて|神《かみ》の|選民《せんみん》の|信仰《しんかう》を|堅《かた》うし、また|彼《かれ》らを|敬虔《けいけん》にかなふ|眞理《しんり》を|知《し》る|知識《ちしき》に|至《いた》らしめん|爲《ため》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|僞《いつは》りなき|神《かみ》は、|創世《さうせい》の|前《まへ》に、この|生命《いのち》を|約束《やくそく》し|給《たま》ひしが、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|時《とき》いたりて|御言《みことば》を|宣教《せんけう》にて|顯《あらは》さんとし、その|宣教《せんけう》を|我《われ》らの|救主《すくひぬし》たる|神《かみ》の|命令《めいれい》をもて|我《われ》に|委《ゆだ》ねたまへり。――[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]われ|書《ふみ》を|同《おな》じ|信仰《しんかう》によりて|我《わ》が|眞實《しんじつ》の|子《こ》たるテトスに|贈《おく》る。|願《ねが》はくは|父《ちち》なる|神《かみ》および|我《われ》らの|救主《すくひぬし》キリスト・イエスより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と、|汝《なんぢ》にあらんことを。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]わが|汝《なんぢ》をクレテに|遣《つかは》し|置《お》きたる|故《ゆゑ》は、|汝《なんぢ》をして|缺《か》けたる|所《ところ》を|正《ただ》し、|且《かつ》わが|命《めい》ぜしごとく|町々《まちまち》に|長老《ちゃうらう》を|立《た》てしめん|爲《ため》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|長老《ちゃうらう》は|責《せ》むべき|所《ところ》なく、|一人《ひとり》の|女《をんな》の|夫《をっと》にして、|子女《こども》もまた|放蕩《はうたう》をもて|訴《うった》へらるる|事《こと》なく、|服從《ふくじゅう》せぬことなき|信者《しんじゃ》たるべきなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]それ|監督《かんとく》は|神《かみ》の|家《いへ》|司《つかさ》なれば、|責《せ》むべき|所《ところ》なく、|放縱《ほしいまま》ならず、|輕々《かるがる》しく|怒《いか》らず、|酒《さけ》を|嗜《たし》まず、|人《ひと》を|打《う》たず、|恥《は》づべき|利《り》を|取《と》らず、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|反《かへ》つて|旅人《たびびと》を|懇《ねんご》ろに|待《あしら》ひ、|善《ぜん》を|愛《あい》し、|謹愼《つつしみ》あり、|正《ただ》しく|潔《きよ》く|節制《せつせい》にして、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|教《をしへ》に|適《かな》ふ|信《しん》ずべき|言《ことば》を|守《まも》る|者《もの》たるべし。これ|健全《けんぜん》なる|教《をしへ》をもて|人《ひと》を|勸《すす》め、かつ|言《い》ひ|逆《さから》ふ|者《もの》を|言《い》ひ|伏《ふ》することを|得《え》んためなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|服從《ふくじゅう》せず、|虚《むな》しき|事《こと》をかたり、|人《ひと》の|心《こころ》を|惑《まどは》す|者《もの》おほし、|殊《こと》に|割禮《かつれい》ある|者《もの》のうちに|多《おほ》し。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|口《くち》を|箝《ふさ》がしむべし、|彼《かれ》らは|恥《は》づべき|利《り》を|得《え》んために、|教《をし》ふまじき|事《こと》を|教《をし》へて|全家《ぜんか》を|覆《くつが》へすなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]クレテ|人《びと》の|中《うち》なる|或《ある》る|預言者《よげんしゃ》いふ [#ここから2字下げ] 『クレテ|人《びと》は|常《つね》に|虚僞《いつはり》をいふ|者《もの》、 あしき|獸《けもの》、また|懶惰《らんだ》の|腹《はら》なり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]この|證《あかし》は|眞《まこと》なり。されば|汝《なんぢ》きびしく|彼《かれ》らを|責《せ》めよ、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らがユダヤ|人《びと》の|昔話《むかしばなし》と|眞理《しんり》を|棄《す》てたる|人《ひと》の|誡命《いましめ》とに|心《こころ》を|寄《よ》することなく、|信仰《しんかう》を|健全《けんぜん》にせん|爲《ため》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|潔《きよ》き|人《ひと》には|凡《すべ》ての|物《もの》きよく、|汚《けが》れたる|人《ひと》と|不《ふ》|信者《しんじゃ》とには|一《ひと》つとして|潔《きよ》き|物《もの》なし、|彼《かれ》らは|既《すで》に|心《こころ》も|良心《りゃうしん》も|汚《けが》れたり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]みづから|神《かみ》を|知《し》ると|言《い》ひあらはせど、|其《そ》の|行爲《おこなひ》にては|神《かみ》を|否《いな》む。|彼《かれ》らは|憎《にく》むべきもの、|服《したが》はぬ|者《もの》、すべての|善《よ》き|業《わざ》に|就《つ》きて|棄《す》てられたる|者《もの》なり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》は|健全《けんぜん》なる|教《をしへ》に|適《かな》ふことを|語《かた》れ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|老人《らうじん》には|自《みづか》ら|制《せい》することと|謹嚴《きんげん》と|謹愼《つつしみ》とを|勸《すす》め、また|信仰《しんかう》と|愛《あい》と|忍耐《にんたい》とに|健全《けんぜん》ならんことを|勸《すす》めよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|老《お》いたる|女《をんな》にも|同《おな》じく、|清潔《きよき》にかなふ|行爲《おこなひ》をなし、|人《ひと》を|謗《そし》らず、|大酒《たいしゅ》の|奴隷《どれい》とならず、|善《よ》き|事《こと》を|教《をし》ふる|者《もの》とならんことを|勸《すす》めよ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かつ|彼《かれ》|等《ら》をして|若《わか》き|女《をんな》に|夫《をっと》を|愛《あい》し、|子《こ》を|愛《あい》し、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|謹愼《つつしみ》と|貞操《みさを》とを|守《まも》り、|家《いへ》の|務《つとめ》をなし、|仁慈《なさけ》をもち、|己《おの》が|夫《をっと》に|服《したが》はんことを|教《をし》へしめよ。これ|神《かみ》の|言《ことば》の|汚《けが》されざらん|爲《ため》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|若《わか》き|人《ひと》にも|同《おな》じく|謹愼《つつしみ》を|勸《すす》め、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|自《みづか》ら|凡《すべ》ての|事《こと》につきて|善《よ》き|業《わざ》の|模範《もはん》を|示《しめ》せ。|教《をしへ》をなすには|邪曲《よこしま》なきことと|謹嚴《きんげん》と、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|責《せ》むべき|所《ところ》なき|健全《けんぜん》なる|言《ことば》とを|以《もっ》てすべし。これ|逆《さから》ふ|者《もの》をして|我《われ》らの|惡《あく》を|言《い》ふに|由《よし》なく、|自《みづか》ら|恥《は》づる|所《ところ》あらしめん|爲《ため》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|奴隷《どれい》には|己《おの》が|主人《しゅじん》に|服《したが》ひ、|凡《すべ》ての|事《こと》において|之《これ》を|喜《よろこ》ばせ、|之《これ》に|言《い》ひ|逆《さから》はず、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|物《もの》を|盜《ぬす》まず、|反《かへ》つて|全《まった》き|忠信《ちゅうしん》を|顯《あらは》すべきことを|勸《すす》めよ。これ|凡《すべ》ての|事《こと》において|我《われ》らの|救主《すくひぬし》なる|神《かみ》の|教《をしへ》を|飾《かざ》らん|爲《ため》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》に|救《すくひ》を|得《え》さする|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》は|既《すで》に|顯《あらは》れて、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|不《ふ》|敬虔《けいけん》と|世《よ》の|慾《よく》とを|棄《す》てて|謹愼《つつしみ》と|正義《ただしき》と|敬虔《けいけん》とをもて|此《こ》の|世《よ》を|過《すご》し、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なる|望《のぞみ》、すなはち|大《おほい》なる|神《かみ》、われらの|救主《すくひぬし》イエス・キリストの|榮光《えいくわう》の|顯現《あらはれ》を|待《ま》つべきを|我《われ》らに|教《をし》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|我等《われら》のために|己《おのれ》を|與《あた》へたまへり。|是《これ》われらを|諸般《もろもろ》の|不法《ふはふ》より|贖《あがな》ひ|出《いだ》して、|善《よ》き|業《わざ》に|熱心《ねっしん》なる|特選《とくせん》の|民《たみ》を|己《おの》がために|潔《きよ》めんとてなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|全《まった》き|權威《けんゐ》をもて|此《これ》|等《ら》のことを|語《かた》り、|勸《すす》め、また|責《せ》めよ。なんぢ|人《ひと》に|輕《かろ》んぜらるな。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》かれらに|司《つかさ》と|權威《けんゐ》ある|者《もの》とに|服《ふく》し、かつ|從《したが》ひ、|凡《すべ》ての|善《よ》き|業《わざ》をおこなふ|備《そなへ》をなし、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》を|謗《そし》らず、|爭《あらそ》はず、|寛容《くわんよう》にし、|常《つね》に|柔和《にうわ》を|凡《すべ》ての|人《ひと》に|顯《あらは》すべきことを|思《おも》ひ|出《いだ》させよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らも|前《さき》には|愚《おろか》なるもの、|順《したが》はぬもの、|迷《まよ》へる|者《もの》、さまざまの|慾《よく》と|快樂《けらく》とに|事《つか》ふるもの、|惡意《あくい》と|嫉妬《ねたみ》とをもて|過《すご》すもの、|憎《にく》むべき|者《もの》、また|互《たがひ》に|憎《にく》み|合《あ》ふ|者《もの》なりき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》らの|救主《すくひぬし》なる|神《かみ》の|仁慈《なさけ》と、|人《ひと》を|愛《あい》したまふ|愛《あい》との|顯《あらは》れしとき、[#太字]五 六[#「五 六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|行《おこな》ひし|義《ぎ》の|業《わざ》にはよらで、|唯《ただ》その|憐憫《あはれみ》により、|更生《うまれかはり》の|洗《あらひ》と、|我《われ》らの|救主《すくひぬし》イエス・キリストをもて|豐《ゆたか》に|注《そそ》ぎたまふ|聖《せい》|靈《れい》による|維新《ゐしん》とにて、|我《われ》らを|救《すく》ひ|給《たま》へり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]これ|我《われ》らが|其《そ》の|恩惠《めぐみ》によりて|義《ぎ》とせられ、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》の|望《のぞみ》にしたがひて|世嗣《よつぎ》とならん|爲《ため》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|言《ことば》は|信《しん》ずべきなれば、|我《われ》なんぢが|此《これ》|等《ら》につきて|確證《かくしょう》せんことを|欲《ほっ》す。|神《かみ》を|信《しん》じたる|者《もの》をして|愼《つつし》みて|善《よ》き|業《わざ》を|務《つと》めしめん|爲《ため》なり。かくするは|善《よ》き|事《こと》にして|人《ひと》に|益《えき》あり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]されど|愚《おろか》なる|議論《ぎろん》・|系圖《けいづ》・|爭鬪《さうとう》、また|律法《おきて》に|就《つ》きての|分爭《あらそひ》を|避《さ》けよ。これらは|益《えき》なくして|空《むな》しきものなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|異端《いたん》の|者《もの》をば|一度《ひとたび》もしくは|二度《ふたたび》、|訓戒《くんかい》して|後《のち》これを|棄《す》てよ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かかる|者《もの》は|汝《なんぢ》の|知《し》るごとく、|邪曲《よこしま》にして|自《みづか》ら|罪《つみ》を|認《みと》めつつ|尚《なほ》これを|犯《をか》すなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》アルテマス|或《あるひ》はテキコを|汝《なんぢ》に|遣《つかは》さん、その|時《とき》なんぢ|急《いそ》ぎてニコポリなる|我《わ》がもとに|來《きた》れ。われ|彼處《かしこ》にて|冬《ふゆ》を|過《すご》さんと|定《さだ》めたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|教法師《けうほふし》ゼナス|及《およ》びアポロを|懇《ねんご》ろに|送《おく》りて、|乏《とも》しき|事《こと》なからしめよ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|我《われ》らの|伴侶《ともがら》も|善《よ》き|業《わざ》を|務《つと》めて|必要《ひつえう》を|資《たす》けんことを|學《まな》ぶべし、これ|果《み》を|結《むす》ばぬ|事《こと》なからん|爲《ため》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》と|偕《とも》に|居《を》る|者《もの》みな|汝《なんぢ》に|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。|信仰《しんかう》に|在《あ》りて|我《われ》らを|愛《あい》する|者《もの》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ。|願《ねが》はくは|御惠《みめぐみ》、なんぢら|凡《すべ》ての|者《もの》と|偕《とも》にあらん|事《こと》を。 [#改ページ] ピレモンへの書[#「ピレモンへの書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]キリスト・イエスの|囚人《めしうど》たるパウロ|及《およ》び|兄弟《きゃうだい》テモテ、|書《ふみ》を|我《われ》らが|愛《あい》する|同勞者《どうらうしゃ》ピレモン、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|姉妹《しまい》アピヤ、|我《われ》らと|共《とも》に|戰鬪《たたかひ》をなせるアルキポ|及《およ》び|汝《なんぢ》の|家《いへ》にある|教會《けうくわい》に|贈《おく》る。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|我《われ》らの|父《ちち》なる|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と、|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]われ|祈《いの》るとき|常《つね》に|汝《なんぢ》をおぼえて|我《わ》が|神《かみ》に|感謝《かんしゃ》す。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]これ|主《しゅ》イエスと|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》とに|對《たい》する|汝《なんぢ》の|愛《あい》と|信仰《しんかう》とを|聞《き》きたればなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》ふところは、|汝《なんぢ》の|信仰《しんかう》の|交際《まじはり》の|活動《はたらき》により、|人々《ひとびと》われらの|中《うち》なる|凡《すべ》ての|善《よ》き|業《わざ》を|知《し》りて、|榮光《えいくわう》をキリストに|歸《き》するに|至《いた》らんことなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》なんぢの|愛《あい》によりて|大《おほい》なる|勸喜《よろこび》と|慰安《なぐさめ》とを|得《え》たり。|聖徒《せいと》の|心《こころ》は|汝《なんぢ》によりて|安《やす》んぜられたればなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、われキリストに|在《あ》りて、|汝《なんぢ》になすべき|事《こと》を|聊《いささ》かも|憚《はばか》らず|命《めい》じ|得《う》れど、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]むしろ|愛《あい》の|故《ゆゑ》によりて|汝《なんぢ》にねがふ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|年《とし》|老《お》いて|今《いま》はキリスト・イエスの|囚人《めしうど》となれる|我《われ》パウロ、|縲絏《なはめ》の|中《うち》にて|生《う》みし|我《わ》が|子《こ》オネシモの|事《こと》をなんぢに|願《ねが》ふ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かれ|前《さき》には|汝《なんぢ》に|益《えき》なき|者《もの》なりしが、|今《いま》は|汝《なんぢ》にも|我《われ》にも|益《えき》ある|者《もの》となれり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》かれを|汝《なんぢ》に|歸《かへ》す、かれは|我《わ》が|心《こころ》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|彼《かれ》をわが|許《もと》に|留《とど》めおきて、|我《わ》が|福音《ふくいん》のために|縲絏《なはめ》にある|間《あひだ》、なんぢに|代《かわ》りて|我《われ》に|事《つか》へしめんと|欲《ほっ》したれど、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|承諾《しょうだく》を|經《へ》ずして|斯《か》くするを|好《この》まざりき、|是《これ》なんぢの|善《ぜん》の|止《や》むを|得《え》ざるに|出《い》でずして|心《こころ》より|出《い》でんことを|欲《ほっ》したればなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》が|暫時《しばらく》なんぢを|離《はな》れしは、|或《あるひ》は|汝《なんぢ》かれを|永遠《とこしへ》に|保《たも》ち、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]もはや|奴隷《どれい》の|如《ごと》くせず、|奴隷《どれい》に|勝《まさ》りて|愛《あい》する|兄弟《きゃうだい》の|如《ごと》くせん|爲《ため》なりしやも|知《し》るべからず。|我《われ》は|殊《こと》に|彼《かれ》を|愛《あい》す、まして|汝《なんぢ》は|肉《にく》によりても|主《しゅ》によりても、|之《これ》を|愛《あい》せざる|可《べ》けんや。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》もし|我《われ》を|友《とも》とせば、|請《こ》ふ、われを|納《い》るるごとく|彼《かれ》を|納《い》れよ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》もし|汝《なんぢ》に|不義《ふぎ》をなし、または|汝《なんぢ》に|負債《おひめ》あらば、|之《これ》を|我《われ》に|負《お》はせよ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》パウロ|手《て》づから|之《これ》を|記《しる》す、われ|償《つくの》はん、|汝《なんぢ》われに|身《み》を|以《もっ》て|償《つくの》ふべき|負債《おひめ》あれど、|我《われ》これを|言《い》はず。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|請《こ》ふ、なんぢ|主《しゅ》に|在《あ》りて|我《われ》に|益《えき》を|得《え》させよ、キリストに|在《あ》りて|我《わ》が|心《こころ》を|安《やす》んぜよ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢの|從順《じゅうじゅん》を|確信《かくしん》して|之《これ》を|書《か》き|贈《おく》る。わが|言《い》ふところに|勝《まさ》りて|汝《なんぢ》の|行《おこな》はんことを|知《し》るなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|我《わ》がために|宿《やど》を|備《そな》へよ、|我《われ》なんぢらの|祈《いのり》により、|遂《つひ》に|我《わ》が|身《み》の|汝《なんぢ》らに|與《あた》へられんことを|望《のぞ》めばなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]キリスト・イエスに|在《あ》りて|我《われ》とともに|囚人《めしうど》となれるエパフラス、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|及《およ》び|我《わ》が|同勞者《どうらうしゃ》マルコ、アリスタルコ、デマス、ルカ|皆《みな》なんぢに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》イエス・キリストの|恩惠《めぐみ》、なんぢらの|靈《れい》と|偕《とも》にあらんことを。 [#改ページ] ヘブル人への書[#「ヘブル人への書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》むかしは|預言者《よげんしゃ》|等《たち》により、|多《おほ》くに|分《わか》ち、|多《おほ》くの|方法《はうはふ》をもて|先祖《せんぞ》たちに|語《かた》り|給《たま》ひしが、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]この|末《すゑ》の|世《よ》には|御子《みこ》によりて、|我《われ》らに|語《かた》り|給《たま》へり。|神《かみ》は|曾《かつ》て|御子《みこ》を|立《た》てて|萬《よろづ》の|物《もの》の|世嗣《よつぎ》となし、また|御子《みこ》によりて|諸般《もろもろ》の|世界《せかい》を|造《つく》り|給《たま》へり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|御子《みこ》は|神《かみ》の|榮光《えいくわう》のかがやき、|神《かみ》の|本質《ほんしつ》の|像《かた》にして、|己《おの》が|權能《ちから》の|言《ことば》をもて|萬《よろづ》の|物《もの》を|保《たも》ちたまふ。また|罪《つみ》の|潔《きよめ》をなして、|高《たか》き|處《ところ》にある|稜威《みいつ》の|右《みぎ》に|坐《ざ》し|給《たま》へり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]その|受《う》け|給《たま》ひし|名《な》の|御使《みつかひ》の|名《な》に|勝《まさ》れるごとく、|御使《みつかひ》よりは|更《さら》に|勝《まさ》る|者《もの》となり|給《たま》へり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|孰《いづれ》の|御使《みつかひ》に|曾《かつ》て|斯《か》くは|言《い》ひ|給《たま》ひしぞ [#ここから2字下げ] 『なんぢは|我《わ》が|子《こ》なり、 われ|今日《けふ》なんぢを|生《う》めり』 [#ここで字下げ終わり] と。また [#ここから2字下げ] 『われ|彼《かれ》の|父《ちち》となり、 |彼《かれ》わが|子《こ》とならん』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]また|初子《うひご》を|再《ふたた》び|世《よ》に|入《い》れ|給《たま》ふとき [#ここから2字下げ] 『|神《かみ》の|凡《すべ》ての|使《つかひ》は|之《これ》を|拜《はい》すべし』 [#ここで字下げ終わり] と|言《い》ひ|給《たま》ふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]また|御使《みつかひ》たちに|就《つ》きては [#ここから2字下げ] 『|神《かみ》は、その|使《つかひ》たちを|風《かぜ》となし、 その|事《つか》ふる|者《もの》を|焔《ほのほ》となす』 [#ここで字下げ終わり] と|言《い》ひ|給《たま》ふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|御子《みこ》に|就《つ》きては [#ここから2字下げ] 『|神《かみ》よ、なんじの|御座《みくら》は|世々《よよ》|限《かぎ》りなく、 |汝《なんぢ》の|國《くに》の|杖《つゑ》は|正《ただ》しき|杖《つゑ》なり。 [#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢは|義《ぎ》を|愛《あい》し、|不法《ふはふ》をにくむ。 この|故《ゆゑ》に|神《かみ》なんぢの|神《かみ》は|歡喜《よろこび》の|油《あぶら》を、 |汝《なんぢ》の|友《とも》に|勝《まさ》りて|汝《なんぢ》にそそぎ|給《たま》へり』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また [#ここから2字下げ] 『|主《しゅ》よ、なんぢ|太初《はじめ》に|地《ち》の|基《もとゐ》を|置《お》きたまへり、 |天《てん》も|御手《みて》の|業《わざ》なり。 [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]これらは|滅《ほろ》びん、されど|汝《なんぢ》は|常《つね》に|存《ながら》へたまはん。 これらはみな|衣《ころも》のごとく|舊《ふる》びん。 [#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|汝《なんぢ》これらを|袍《うはぎ》のごとく|疊《たた》み|給《たま》はん、 これらは|衣《ころも》のごとく|變《かは》らん。 されど|汝《なんぢ》はかはり|給《たま》ふことなく |汝《なんぢ》の|齡《よはひ》は|終《をは》らざるなり』 [#ここで字下げ終わり] と|言《い》ひたまふ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》いづれの|御使《みつかひ》に|曾《かつ》て|斯《か》くは|言《い》ひ|給《たま》ひしぞ [#ここから2字下げ] 『われ|汝《なんぢ》の|仇《あた》を|汝《なんぢ》の|足臺《あしだい》となすまでは、 |我《わ》が|右《みぎ》に|坐《ざ》せよ』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》はみな|事《つか》へまつる|靈《れい》にして、|救《すくひ》を|嗣《つ》がんとする|者《もの》のために|職《つとめ》を|執《と》るべく|遣《つかは》されたる|者《もの》にあらずや。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》ら|聞《き》きし|所《ところ》をいよいよ|篤《あつ》く|愼《つつし》むべし、|恐《おそ》らくは|流《なが》れ|過《す》ぐる|事《こと》あらん。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》し|御使《みつかひ》によりて|語《かた》り|給《たま》ひし|言《ことば》すら|堅《かた》くせられて、|咎《とが》と|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》とみな|正《ただ》しき|報《むくい》を|受《う》けたらんには、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》ら|斯《か》くのごとき|大《おほい》なる|救《すくひ》を|等閑《なほざり》にして|爭《いか》でか|遁《のが》るることを|得《え》ん。この|救《すくひ》は|初《はじ》め|主《しゅ》によりて|語《かた》り|給《たま》ひしものにして、|聞《き》きし|者《もの》ども|之《これ》を|我《われ》らに|確《かた》うし、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》また|徴《しるし》と|不思議《ふしぎ》とさまざまの|能力《ちから》ある|業《わざ》と、|御旨《みむね》のままに|分《わか》ち|與《あた》ふる|聖《せい》|靈《れい》とをもて|證《あかし》を|加《くは》へたまへり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》は|我《われ》らの|語《かた》るところの|來《きた》らんとする|世界《せかい》を、|御使《みつかひ》たちには|服《したが》はせ|給《たま》はざりき。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|篇《へん》に|人《ひと》|證《あかし》して|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 『|人《ひと》は|如何《いか》なる|者《もの》なれば、 |之《これ》を|御心《みこころ》にとめ|給《たま》ふか。 |人《ひと》の|子《こ》は|如何《いか》なる|者《もの》なれば、 |之《これ》を|顧《かへり》み|給《たま》ふか。 [#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》これを|御使《みつかひ》よりも|少《こ》しく|卑《ひく》うし、 |光榮《くわうえい》と|尊貴《たふとき》とを|冠《かむ》らせ、 [#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|萬《よろづ》の|物《もの》をその|足《あし》の|下《した》の|服《したが》はせ|給《たま》へり』 [#ここで字下げ終わり] と。|既《すで》に|萬《よろづ》の|物《もの》を|之《これ》に|服《したが》はせ|給《たま》ひたれば、|服《したが》はぬものは|一《ひと》つだに|殘《のこ》さるる|事《こと》なし。されど|今《いま》もなほ|我《われ》らは|萬《よろづ》の|物《もの》の|之《これ》に|服《したが》ひたるを|見《み》ず。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ただ|御使《みつかひ》よりも|少《こ》しく|卑《ひく》くせられしイエスの、|死《し》の|苦難《くるしみ》を|受《う》くるによりて|榮光《えいくわう》と|尊貴《たふとき》とを|冠《かむ》らせられ|給《たま》へるを|見《み》る。これ|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》によりて|萬民《ばんみん》のために|死《し》を|味《あぢは》ひ|給《たま》はんとてなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]それ|多《おほ》くの|子《こ》を|光榮《くわうえい》に|導《みちび》くに、その|救《すくひ》の|君《きみ》を|苦難《くるしみ》によりて|全《まった》うし|給《たま》ふは、|萬《よろづ》の|物《もの》の|歸《き》するところ、|萬《よろづ》の|物《もの》を|造《つく》りたまふ|所《ところ》の|者《もの》に|相應《ふさは》しき|事《こと》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|潔《きよ》めたまふ|者《もの》も、|潔《きよ》めらるる|者《もの》も、|皆《みな》ただ|一《ひと》つより|出《い》づ。この|故《ゆゑ》に|彼《かれ》らを|兄弟《きゃうだい》と|稱《とな》ふるを|恥《はぢ》とせずして|言《い》ひ|給《たま》ふ、 [#ここから2字下げ] [#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]『われ|御名《みな》を|我《わ》が|兄弟《きゃうだい》たちに|告《つ》げ、 |集會《つどひ》の|中《うち》にて|汝《なんぢ》を|讃《ほ》め|歌《うた》はん』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また [#ここから2字下げ] 『われ|彼《かれ》に|依頼《よりたの》まん』 [#ここで字下げ終わり] |又《また》 [#ここから2字下げ] 『|視《み》よ、|我《われ》と|神《かみ》の|我《われ》に|賜《たま》ひし|子《こ》|等《ら》とは……』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|子《こ》|等《ら》はともに|血肉《けつにく》を|具《そな》ふれば、|主《しゅ》もまた|同《おな》じく|之《これ》を|具《そな》へ|給《たま》ひしなり。これは|死《し》の|權力《ちから》を|有《も》つもの、|即《すなは》ち|惡魔《あくま》を|死《し》によりて|亡《ほろぼ》し、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かつ|死《し》の|懼《おそれ》によりて|生涯《しゃうがい》、|奴隷《どれい》となりし|者《もの》どもを|解放《ときはな》ち|給《たま》はんためなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|實《げ》に|主《しゅ》は|御使《みつかひ》を|扶《たす》けずしてアブラハムの|裔《すゑ》を|扶《たす》けたまふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》の|事《こと》につきて|憐憫《あはれみ》ある|忠實《ちゅうじつ》なる|大《だい》|祭司《さいし》となりて、|民《たみ》の|罪《つみ》を|贖《あがな》はんために、|凡《すべ》ての|事《こと》において|兄弟《きゃうだい》の|如《ごと》くなり|給《たま》ひしは|宜《うべ》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》は|自《みづか》ら|試《こころ》みられて|苦《くる》しみ|給《たま》ひたれば、|試《こころ》みられるる|者《もの》を|助《たす》け|得《う》るなり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|共《とも》に|天《てん》の|召《めし》を|蒙《かうむ》れる|聖《せい》なる|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らが|言《い》ひあらはす|信仰《しんかう》の|使徒《しと》たり|大《だい》|祭司《さいし》たるイエスを|思《おも》ひ|見《み》よ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》の|己《おのれ》を|立《た》て|給《たま》ひし|者《もの》に|忠實《ちゅうじつ》なるは、モーセが|神《かみ》の|全家《ぜんか》に|忠實《ちゅうじつ》なりしが|如《ごと》し。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|家《いへ》を|造《つく》る|者《もの》の|家《いへ》より|勝《まさ》りて|尊《たふと》ばるる|如《ごと》く、|彼《かれ》もモーセに|勝《まさ》りて|大《おほい》なる|榮光《えいくわう》を|受《う》くるに|相應《ふさは》しき|者《もの》とせられ|給《たま》へり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|家《いへ》は|凡《すべ》て|之《これ》を|造《つく》る|者《もの》あり、|萬《よろづ》の|物《もの》を|造《つく》り|給《たま》ひし|者《もの》は|神《かみ》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]モーセは|後《のち》に|語《かた》り|傳《つた》へられんと|爲《す》ることの|證《あかし》をせんために、|僕《しもべ》として|神《かみ》の|全家《ぜんか》に|忠實《ちゅうじつ》なりしが、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|子《こ》として|神《かみ》の|家《いへ》を|忠實《ちゅうじつ》に|掌《つかさ》どり|給《たま》へり。|我等《われら》もし|確信《かくしん》と|希望《のぞみ》の|誇《ほこり》とを|終《をはり》まで|堅《かた》く|保《たも》たば、|神《かみ》の|家《いへ》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|聖《せい》|靈《れい》の|言《い》ひ|給《たま》ふごとく [#ここから2字下げ] 『|今日《けふ》なんぢら|神《かみ》の|聲《こゑ》を|聞《き》かば、 [#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]その|怒《いかり》を|惹《ひ》きし|時《とき》のごとく、 |荒野《あらの》の|嘗試《こころみ》の|日《ひ》のごとく、 こころを|頑固《かたくな》にするなかれ。 [#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|彼處《かしこ》にて|汝《なんぢ》らの|先祖《せんぞ》たちは |我《われ》をこころみて|驗《ため》し、 かつ|四十《しじふ》|年《ねん》の|間《あひだ》わが|業《わざ》を|見《み》たり。 [#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》この|代《よ》の|人《ひと》を|憤《いきど》ほりて|云《い》へり、 「|彼《かれ》らは|常《つね》に|心《こころ》まよい、 わが|途《みち》を|知《し》らざりき」と。 [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]われ|怒《いかり》をもて「|彼《かれ》らは、 |我《わ》が|休《やすみ》に|入《い》るべからず」と|誓《ちか》へり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|心《こころ》せよ、|恐《おそ》らくは|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|活《い》ける|神《かみ》を|離《はな》れんとする|不《ふ》|信仰《しんかう》の|惡《あ》しき|心《こころ》を|懷《いだ》く|者《もの》あらん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|誰《たれ》も|罪《つみ》の|誘惑《まどはし》によりて|頑固《かたくな》にならぬやう、|今日《けふ》と|稱《とな》ふる|間《うち》に|日々《ひび》|互《たがひ》に|相《あひ》|勸《すす》めよ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]もし|始《はじめ》の|確信《かくしん》を|終《をはり》まで|堅《かた》く|保《たも》たば、|我《われ》らはキリストに|與《あづか》る|者《もの》となるなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]それ [#ここから2字下げ] 『|今日《けふ》なんじら|神《かみ》の|聲《こゑ》を|聞《き》かば、 その|怒《いかり》を|惹《ひ》きし|時《とき》のごとく、 こころを|頑固《かたくな》にするなかれ』 [#ここで字下げ終わり] と|云《い》へ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|聞《き》きてなほ|怒《いかり》を|惹《ひ》きし|者《もの》は|誰《たれ》なるか、モーセによりてエジプトを|出《い》でし|凡《すべ》ての|人《ひと》にあらずや。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]また|四十《しじふ》|年《ねん》のあひだ、|神《かみ》は|誰《たれ》に|對《たい》して|憤《いきど》ほり|給《たま》ひしか、|罪《つみ》を|犯《をか》してその|死屍《しかばね》を|荒野《あらの》に|横《よこ》たへし|人々《ひとびと》にあらずや。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》かれらは|我《わ》が|安息《やすみ》に|入《い》るべからずとは、|誰《たれ》に|對《たい》して|誓《ちか》ひ|給《たま》ひしか、|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》なる|者《もの》にあらずや。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|見《み》れば、|彼《かれ》らの|入《い》ること|能《あた》はざりしは、|不《ふ》|信仰《しんかう》によりてなり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|我《われ》ら|懼《おそ》るべし、その|安息《やすみ》に|入《い》るべき|約束《やくそく》はなほ|遺《のこ》れども、|恐《おそ》らくは|汝《なんぢ》らの|中《うち》これに|達《たっ》せざる|者《もの》あらん。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]それは|彼《かれ》らのごとく|我《われ》らも|善《よ》き|音信《おとづれ》を|傳《つた》へられたり、|然《さ》れど|彼《かれ》らには|聞《き》きし|所《ところ》の|言《ことば》|益《えき》なかりき。|聞《き》くもの|之《これ》に|信仰《しんかう》をまじへざりしに|因《よ》る。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われら|信《しん》じたる|者《もの》は、かの|休《やすみ》に|入《い》ることを|得《う》るなり。 [#ここから2字下げ] 『われ|怒《いかり》をもて「|彼《かれ》らは、 わが|休《やすみ》に|入《い》るべからず」と|誓《ちか》へり』 [#ここで字下げ終わり] と|云《い》ひ|給《たま》ひしが|如《ごと》し。されど|世《よ》の|創《はじめ》より|御業《みわざ》は|既《すで》に|成《な》れるなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|篇《へん》に|七日《なぬか》めに|就《つ》きて|斯《か》く|云《い》へり『|七日《なぬか》めに|神《かみ》その|凡《すべ》ての|業《わざ》を|休《やす》みたまへり』と。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|茲《ここ》に [#ここから2字下げ] 『かれらは、 |我《わ》が|休《やすみ》に|入《い》るべからず』 [#ここで字下げ終わり] と|云《い》へり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|之《これ》に|入《い》るべき|者《もの》なほ|在《あ》り、|曩《さき》に|善《よ》き|音信《おとづれ》を|傳《つた》へられし|者《もの》らは、|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》によりて|入《い》ることを|得《え》ざりしなれば、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|久《ひさ》しきを|經《へ》てのち|復《また》、|日《ひ》を|定《さだ》めダビデによりて『|今日《けふ》』と|言《い》ひ|給《たま》ふ。|曩《さき》に|記《しる》したるが|如《ごと》し。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 『|今日《けふ》なんじら|神《かみ》の|聲《こゑ》を|聞《き》かば、 こころを|頑固《かたくな》にするなかれ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しヨシュア|既《すで》に|休《やすみ》を|彼《かれ》らに|得《え》しめしならば、|神《かみ》はその|後《のち》、ほかの|日《ひ》につきて|語《かた》り|給《たま》はざりしならん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|神《かみ》の|民《たみ》の|爲《ため》になほ|安息《あんそく》は|遺《のこ》れり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|神《かみ》の|休《やすみ》に|入《い》りたる|者《もの》は、|神《かみ》のその|業《わざ》を|休《やす》み|給《たま》ひしごとく、|己《おの》が|業《わざ》を|休《やす》めり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]されば|我等《われら》はこの|休《やすみ》に|入《い》らんことを|務《つと》むべし、|是《これ》かの|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》の|例《れい》にならひて|誰《たれ》も|墮《お》つることなからん|爲《ため》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|言《ことば》は|生命《いのち》あり、|能力《ちから》あり、|兩刃《もろは》の|劍《つるぎ》よりも|利《と》くして、|精神《せいしん》と|靈魂《たましひ》、|關節《ふしぶし》と|骨髓《こつずゐ》を|透《とほ》して|之《これ》を|割《わか》ち、|心《こころ》の|念《おもひ》と|志望《こころざし》とを|驗《ため》すなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また|造《つく》られたる|物《もの》に|一《ひと》つとして|神《かみ》の|前《まへ》に|顯《あらは》れぬはなし、|萬《よろづ》の|物《もの》は|我《われ》らが|係《かかは》れる|神《かみ》の|目《め》のまへに|裸《はだか》にて|露《あらは》るるなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》には、もろもろの|天《てん》を|通《とほ》り|給《たま》ひし|偉《おほひ》なる|大《だい》|祭司《さいし》、|神《かみ》の|子《こ》イエスあり。|然《さ》れば|我《われ》らが|言《い》ひあらはす|信仰《しんかう》を|堅《かた》く|保《たも》つべし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|大《だい》|祭司《さいし》は|我《われ》らの|弱《よわき》を|思《おも》ひ|遣《や》ること|能《あた》はぬ|者《もの》にあらず、|罪《つみ》を|外《ほか》にして|凡《すべ》ての|事《こと》、われらと|等《ひと》しく|試《こころ》みられ|給《たま》へり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》らは|憐憫《あはれみ》を|受《う》けんが|爲《ため》、また|機《をり》に|合《あ》ふ|助《たすけ》となる|惠《めぐみ》を|得《え》んがために、|憚《はばか》らずして|惠《めぐみ》の|御座《みくら》に|來《きた》るべし。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|大《だい》|祭司《さいし》は|人《ひと》の|中《うち》より|選《えら》ばれ、|罪《つみ》のために|供物《そなへもの》と|犧牲《いけにへ》とを|献《ささ》げんとて、|人《ひと》にかはりて|神《かみ》に|事《つか》ふることを|任《にん》ぜらる。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|自《みづか》らも|弱《よわき》に|纒《まと》はるるが|故《ゆゑ》に、|無知《むち》なるもの、|迷《まよ》へる|者《もの》を|思《おも》ひ|遣《や》ることを|得《う》るなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|民《たみ》のために|爲《な》すごとく、また|己《おのれ》のためにも|罪《つみ》に|就《つ》きて|献物《ささげもの》をなさざるべからず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》この|貴《たふと》き|位《くらゐ》はアロンのごとく|神《かみ》に|召《め》さるるにあらずば、|誰《たれ》も|自《みづか》ら|之《これ》を|取《と》る|者《もの》なし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くの|如《ごと》くキリストも|己《おのれ》を|崇《あが》めて|自《みづか》ら|大《だい》|祭司《さいし》となり|給《たま》はず。|之《これ》に|向《むか》ひて [#ここから2字下げ] 『なんじは|我《わ》が|子《こ》なり、 われ|今日《けふ》なんじを|生《う》めり』 [#ここで字下げ終わり] と|語《かた》り|給《たま》ひし|者《もの》、これを|立《た》てたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》の|篇《へん》に [#ここから2字下げ] 『なんじは|永遠《とこしへ》にメルキゼデクの|位《くらゐ》に|等《ひと》しき|祭司《さいし》たり』 [#ここで字下げ終わり] と|言《い》ひ|給《たま》へるが|如《ごと》し。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|肉體《にくたい》にて|在《いま》ししとき、|大《おほい》なる|叫《さけび》と|涙《なみだ》とをもて、|己《おのれ》を|死《し》より|救《すく》ひ|得《う》る|者《もの》に|祈《いのり》と|願《ねがひ》とを|献《ささ》げ、その|恭敬《うやうやしき》によりて|聽《き》かれ|給《たま》へり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|御子《みこ》なれど、|受《う》けし|所《ところ》の|苦難《くるしみ》によりて|從順《じゅうじゅん》を|學《まな》び、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かつ|全《まった》うせられたれば、|凡《すべ》て|己《おのれ》に|順《したが》ふ|者《もの》のために|永遠《とこしへ》の|救《すくひ》の|原《もと》となりて、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》よりメルキゼデクの|位《くらゐ》に|等《ひと》しき|大《だい》|祭司《さいし》と|稱《とな》へられ|給《たま》へり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|就《つ》きて|我《われ》ら|多《おほ》くの|言《い》ふべき|事《こと》あれど、|汝《なんぢ》ら|聞《き》くに|鈍《にぶ》くなりたれば|釋《と》き|難《かた》し。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]なんじら|時《とき》を|經《へ》ること|久《ひさ》しければ、|教師《けうし》となるべき|者《もの》なるに、|今《いま》また|神《かみ》の|言《ことば》の|初歩《しょほ》を|人《ひと》より|教《をし》へられざるを|得《え》ず、|汝《なんぢ》らは|堅《かた》き|食物《しょくもつ》ならで|乳《ちち》を|要《えう》する|者《もの》となれり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|乳《ちち》を|用《もち》ふる|者《もの》は|幼兒《をさなご》なれば、|未《いま》だ|義《ぎ》の|言《ことば》に|熟《じゅく》せず、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|堅《かた》き|食物《しょくもつ》は|智力《ちりょく》を|練習《れんしふ》して|善惡《ぜんあく》を|辨《わきま》ふる|成人《おとな》の|用《もち》ふるものなり。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》らはキリストの|教《をしへ》の|初歩《しょほ》に|止《とどま》ることなく、|再《ふたた》び|死《し》にたる|行爲《おこなひ》の|悔改《くいあらため》と|神《かみ》に|對《たい》する|信仰《しんかう》との|基《もとゐ》、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]また|各樣《さまざま》のバプテスマと|按手《あんしゅ》と、|死人《しにん》の|復活《よみがへり》と|永遠《とこしへ》の|審判《さばき》との|教《をしへ》の|基《もとゐ》を|置《お》かずして|完全《まったき》に|進《すす》むべし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》もし|許《ゆる》し|給《たま》はば、|我《われ》ら|之《これ》をなさん。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|一《ひと》たび|照《てら》されて|天《てん》よりの|賜物《たまもの》を|味《あぢは》ひ、|聖《せい》|靈《れい》に|與《あづか》る|者《もの》となり、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|善《よ》き|言《ことば》と|來世《らいせい》の|能力《ちから》とを|味《あぢは》ひて|後《のち》、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|墮落《だらく》する|者《もの》は|更《さら》にまた|自《みづか》ら|神《かみ》の|子《こ》を|十字架《じふじか》に|釘《つ》けて|肆《さら》し|者《もの》とする|故《ゆゑ》に、|再《ふたた》びこれを|悔改《くいあらため》に|立返《たちかへ》らすること|能《あた》はざるなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]それ|地《ち》しばしば|其《そ》の|上《うへ》に|降《ふ》る|雨《あめ》を|吸《す》ひ|入《い》れて|耕《たがや》す|者《もの》の|益《えき》となるべき|作物《さくもつ》を|生《しゃう》ぜば、|神《かみ》より|祝福《しくふく》を|受《う》く。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|茨《いばら》と|薊《あざみ》とを|生《しゃう》ぜば、|棄《す》てられ、かつ|詛《のろひ》に|近《ちか》く、その|果《は》ては|焚《や》かるるなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、われら|斯《か》くは|語《かた》れど、|汝《なんぢ》らには|更《さら》に|善《よ》きこと、|即《すなは》ち|救《すくひ》にかかはる|事《こと》あるを|深《ふか》く|信《しん》ず。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|不義《ふぎ》に|在《いま》さねば、|汝《なんぢ》らの|勤勞《はたらき》と、|前《さき》に|聖徒《せいと》につかへ、|今《いま》もなほ|之《これ》に|事《つか》へて|御名《みな》のために|顯《あらは》したる|愛《あい》とを|忘《わす》れ|給《たま》ふことなし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|汝《なんぢ》|等《ら》がおのおの|終《をはり》まで|前《まへ》と|同《おな》じ|勵《はげみ》をあらはして|全《まった》き|望《のぞみ》を|保《たも》ち、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|怠《おこた》ることなく、|信仰《しんかう》と|耐忍《しのび》とをもて|約束《やくそく》を|嗣《つ》ぐ|人々《ひとびと》に|效《なら》はんことを|求《もと》む。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]それ|神《かみ》はアブラハムに|約《やく》し|給《たま》ふとき、|指《さ》して|誓《ちか》ふべき|己《おのれ》より|大《おほい》なる|者《もの》なき|故《ゆゑ》に、|己《おのれ》を|指《さ》して|誓《ちか》ひて|言《い》ひ|給《たま》へり、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]『われ|必《かなら》ず、なんぢを|惠《めぐ》み|惠《めぐ》まん、なんぢを|殖《ふや》し|殖《ふや》さん』と、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くの|如《ごと》くアブラハムは|耐《た》へ|忍《しの》びて|約束《やくそく》のものを|得《え》たり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|人《ひと》は|己《おのれ》より|大《おほい》なる|者《もの》を|指《さ》して|誓《ちか》ふ、その|誓《ちかひ》はすべての|爭論《あらそひ》を|罷《や》むる|保證《ほしょう》たり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》は|約束《やくそく》を|嗣《つ》ぐ|者《もの》に|御旨《みむね》の|變《かは》らぬことを|充分《じゅうぶん》に|示《しめ》さんと|欲《ほっ》して|誓《ちかひ》を|加《くは》へ|給《たま》へり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]これ|神《かみ》の|※[#「言+荒」の「亡」に代えて「氓のへん」、第4水準2-88-68]《いつは》ること|能《あた》はぬ|二《ふた》つの|變《かは》らぬものによりて、|己《おのれ》の|前《まへ》に|置《お》かれたる|希望《のぞみ》を|捉《とら》へんとて|遁《のが》れたる|我《われ》らに|強《つよ》き|奨勵《しゃうれい》を|與《あた》へん|爲《ため》なり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]この|希望《のぞみ》は|我《われ》らの|靈魂《たましひ》の|錨《いかり》のごとく|安全《あんぜん》にして|動《うご》かず、かつ|幔《まく》の|内《うち》に|入《い》る。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]イエス|我等《われら》のために|前驅《さきがけ》し、|永遠《とこしへ》にメルキゼデクの|位《くらゐ》に|等《ひと》しき|大《だい》|祭司《さいし》となりて、その|處《ところ》に|入《い》り|給《たま》へり。 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》のメルキゼデクはサレムの|王《わう》にて|至高《いとたか》き|神《かみ》の|祭司《さいし》たりしが、|王《わう》たちを|破《やぶ》りて|還《かへ》るアブラハムを|迎《むか》へて|祝福《しくふく》せり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]アブラハムは|彼《かれ》に|凡《すべ》ての|物《もの》の|十分《じふぶん》の|一《いち》を|分《わ》け|與《あた》へたり。その|名《な》を|釋《と》けば|第一《だいいち》に|義《ぎ》の|王《わう》、|次《つぎ》にサレムの|王《わう》、すなはち|平和《へいわ》の|王《わう》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》なく、|母《はは》なく、|系圖《けいづ》なく、|齡《よはひ》の|始《はじめ》なく、|生命《いのち》の|終《をはり》なく、|神《かみ》の|子《こ》の|如《ごと》くにして|限《かぎ》りなく|祭司《さいし》たり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|先祖《せんぞ》アブラハム|分捕物《ぶんどりもの》のうち|十分《じふぶん》の|一《いち》、|最《もっと》も|善《よ》き|物《もの》を|之《これ》に|與《あた》へたれば、その|人《ひと》の|如何《いか》に|尊《たふと》きかを|思《おも》ふべし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]レビの|子《こ》|等《ら》のうち|祭司《さいし》の|職《つとめ》を|受《う》くる|者《もの》は、|律法《おきて》によりて、|民《たみ》すなはちアブラハムの|腰《こし》より|出《い》でたる|己《おの》が|兄弟《きゃうだい》より、|十分《じふぶん》の|一《いち》を|取《と》ることを|命《めい》ぜらる。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|此《こ》の|血脈《ちすぢ》にあらぬ|彼《かれ》は、アブラハムより|十分《じふぶん》の|一《いち》を|取《と》りて|約束《やくそく》を|受《う》けし|者《もの》を|祝福《しくふく》せり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]それ|小《せう》なる|者《もの》の|大《だい》なる|者《もの》に|祝福《しくふく》せらるるは|論《ろん》なき|事《こと》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かつ|此所《ここ》にては|死《し》ぬべき|者《もの》|十分《じふぶん》の|一《いち》を|受《う》くれども、|彼處《かしこ》にては『|活《い》くるなり』と|證《あかし》せられた|者《もの》これを|受《う》く。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|十分《じふぶん》の|一《いち》を|受《う》くるレビすら、アブラハムに|由《よ》りて|十分《じふぶん》の|一《いち》を|納《をさ》めたりと|云《い》ふも|可《か》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]そはメルキゼデクのアブラハムを|迎《むか》へし|時《とき》に、レビはなほ|父《ちち》の|腰《こし》に|在《あ》りたればなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]もしレビの|系《すぢ》なる|祭司《さいし》によりて|全《まった》うせらるる|事《こと》ありしならば(|民《たみ》は|之《これ》によりて|律法《おきて》を|受《う》けたり)|何《なに》ぞなほ|他《ほか》にアロンの|位《くらゐ》に|等《ひと》しからぬメルキゼデクの|位《くらゐ》に|等《ひと》しき|祭司《さいし》の|起《おこ》る|必要《ひつえう》あらんや。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|祭司《さいし》の|易《かは》る|時《とき》には|律法《おきて》も|亦《また》|必《かなら》ず|易《かは》るべきなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことは|曾《かつ》て|祭壇《さいだん》に|事《つか》へたることなき|他《ほか》の|族《やから》に|屬《ぞく》する|者《もの》をさして|云《い》へるなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]それ|我《われ》らの|主《しゅ》のユダより|出《い》で|給《たま》へるは|明《あきら》かにして、|此《こ》の|族《やから》につき、モーセは|聊《いささ》かも|祭司《さいし》に|係《かかは》ることを|云《い》はざりき。[#太字]一五 一六[#「一五 一六」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》メルキゼデクのごとき|他《ほか》の|祭司《さいし》おこり、|肉《にく》の|誡命《いましめ》の|法《のり》に|由《よ》らず、|朽《く》ちざる|生命《いのち》の|能力《ちから》によりて|立《た》てられたれば、|我《わ》が|言《い》ふ|所《ところ》いよいよ|明《あきら》かなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]そは『なんぢは|永遠《とこしへ》にメルキゼデクの|位《くらゐ》に|等《ひと》しき|祭司《さいし》たり』と|證《あかし》せられ|給《たま》へばなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|前《さき》の|誡命《いましめ》は|弱《よわ》く、かつ|益《えき》なき|故《ゆゑ》に|廢《はい》せられ、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり](|律法《おきて》は|何《なに》をも|全《まった》うせざりしなり)|更《さら》に|優《すぐ》れたる|希望《のぞみ》を|置《お》かれたり、この|希望《のぞみ》によりて|我《われ》らは|神《かみ》に|近《ちか》づくなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]かの|人々《ひとびと》は|誓《ちかひ》なくして|祭司《さいし》とせられたれども、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|誓《ちかひ》なくしては|爲《せ》られず、|誓《ちかひ》をもて|祭司《さいし》とせられ|給《たま》へり。|即《すなは》ち|彼《かれ》に|就《つ》きて [#ここから2字下げ] 『|主《しゅ》ちかひて|悔《く》い|給《たま》はず、 「なんじは|永遠《とこしへ》に|祭司《さいし》たり」』 [#ここで字下げ終わり] と|言《い》ひ|給《たま》ひしが|如《ごと》し。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]イエスは|斯《か》くも|優《すぐ》れたる|契約《けいやく》の|保證《ほしょう》となり|給《たま》へり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]かの|人々《ひとびと》は|死《し》によりて|永《なが》くその|職《つとめ》に|留《とどま》ることを|得《え》ざる|故《ゆゑ》に、|祭司《さいし》となりし|者《もの》の|數《かず》|多《おほ》かりき。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》は|永遠《とこしへ》に|在《いま》せば|易《かは》ることなき|祭司《さいし》の|職《つとめ》を|保《たも》ちたまふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|彼《かれ》は|己《おのれ》に|頼《よ》りて|神《かみ》にきたる|者《もの》のために|執成《とりなし》をなさんとて|常《つね》に|生《い》くれば、|之《これ》を|全《まった》く|救《すく》ふこと|得給《えたま》ふなり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとき|大《だい》|祭司《さいし》こそ|我《われ》らに|相應《ふさは》しき|者《もの》なれ、|即《すなは》ち|聖《せい》にして|惡《あく》なく、|穢《けがれ》なく、|罪人《つみびと》より|遠《とほ》ざかり、|諸般《もろもろ》の|天《てん》よりも|高《たか》くせられ|給《たま》へり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|他《ほか》の|大《だい》|祭司《さいし》のごとく|先《ま》づ|己《おのれ》の|罪《つみ》のため、|次《つぎ》に|民《たみ》の|罪《つみ》のために|日々《ひび》|犧牲《いけにへ》を|献《ささ》ぐるを|要《えう》し|給《たま》はず、その|一《ひと》たび|己《おのれ》を|献《ささ》げて|之《これ》を|成《な》し|給《たま》ひたればなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|律法《おきて》は|弱《よわき》みある|人々《ひとびと》を|立《た》てて|大《だい》|祭司《さいし》とすれども、|律法《おきて》の|後《のち》なる|誓《ちかひ》の|御言《みことば》は、|永遠《とこしへ》に|全《まった》うせられ|給《たま》へる|御子《みこ》を|大《だい》|祭司《さいし》となせり。 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》いふ|所《ところ》の|要點《やうてん》は|斯《か》くのごとき|大《だい》|祭司《さいし》の|我《われ》らにある|事《こと》なり。|彼《かれ》は|天《てん》にては|稜威《みいつ》の|御座《みくら》の|右《みぎ》に|坐《ざ》し、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|聖所《せいじょ》および|眞《まこと》の|幕屋《まくや》に|事《つか》へたまふ。この|幕屋《まくや》は|人《ひと》の|設《まう》くるものにあらず、|主《しゅ》の|設《まう》けたまふ|所《ところ》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]おおよそ|大《だい》|祭司《さいし》の|立《た》てらるるは|供物《そなへもの》と|犧牲《いけにへ》とを|献《ささ》げん|爲《ため》なり、この|故《ゆゑ》に|彼《かれ》もまた|献《ささ》ぐべき|物《もの》あるべきなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|若《も》し|地《ち》に|在《いま》さば、|既《すで》に|律法《おきて》に|循《したが》ひて|供物《そなへもの》を|献《ささ》ぐる|祭司《さいし》|等《ら》あるによりて|祭司《さいし》とはなり|給《たま》はざるべし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らの|事《つか》ふるは、|天《てん》にある|物《もの》の|型《かた》と|影《かげ》となり。モーセが|幕屋《まくや》を|建《た》てんとする|時《とき》に『|愼《つつし》め、|山《やま》にて|汝《なんぢ》が|示《しめ》されたる|式《かた》に|效《なら》ひて|凡《すべ》ての|物《もの》を|造《つく》れ』との|御告《みつげ》を|受《う》けしが|如《ごと》し。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されどキリストは|更《さら》に|勝《まさ》れる|約束《やくそく》に|基《もとづ》きて|立《た》てられし|勝《まさ》れる|契約《けいやく》の|中保《なかだち》となりたれば、|更《さら》に|勝《まさ》る|職《つとめ》を|受《う》け|給《たま》へり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かつ|初《はじめ》の|契約《けいやく》もし|虧《か》くる|所《ところ》なくば、|第二《だいに》の|契約《けいやく》を|求《もと》むる|事《こと》なかりしならん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|彼《かれ》らを|咎《とが》めて|言《い》ひ|給《たま》ふ [#ここから2字下げ] 『|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ「|視《み》よ、 |我《われ》イスラエルの|家《いへ》とユダの|家《いへ》とに、 |新《あたら》しき|契約《けいやく》を|設《まう》くる|日《ひ》|來《きた》らん。 [#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|契約《けいやく》は|我《われ》かれらの|先祖《せんぞ》の|手《て》を|執《と》りて、 エジプトの|地《ち》より|導《みちび》き|出《いだ》しし|時《とき》に |立《た》てし|所《ところ》の|如《ごと》きにあらず、 |彼《かれ》らは|我《わ》が|契約《けいやく》にとどまらず、 |我《われ》も|彼《かれ》らを|顧《かへり》みざりしなり」 [#ここで字下げ終わり] と|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ。 [#ここから2字下げ] [#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]「されば、かの|日《ひ》の|後《のち》に|我《わ》がイスラエルの|家《いへ》と|立《た》つる|契約《けいやく》は|是《これ》なり」 [#ここで字下げ終わり] と|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ。 [#ここから2字下げ] 「われ|我《わ》が|律法《おきて》を|彼《かれ》らの|念《おもひ》に|置《お》き、 そのこころに|之《これ》を|記《しる》さん、 また|我《われ》かれらの|神《かみ》となり、 |彼《かれ》らは|我《わ》が|民《たみ》とならん。 [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らはまた|各人《おのおの》その|國人《くにびと》に、 その|兄弟《きゃうだい》に|教《をし》へて、 なんじ|主《しゅ》を|知《し》れと|言《い》はざるべし。 そは|小《せう》より|大《だい》に|至《いた》るまで、 |皆《みな》われを|知《し》らん。 [#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》もその|不義《ふぎ》を|憐《あはれ》み、 この|後《のち》また|其《そ》の|罪《つみ》を|思《おも》ひ|出《い》でざるべし』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に『|新《あたら》し』と|言《い》ひ|給《たま》へば、|初《はじめ》のものを|舊《ふる》しとし|給《たま》へるなり、|舊《ふる》びて|衰《おとろ》ふるものは、|消失《きえう》せんとするなり。 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|初《はじめ》の|契約《けいやく》には|禮拜《れいはい》の|定《さだめ》と|世《よ》に|屬《ぞく》する|聖所《せいじょ》とありき。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|設《まう》けられたる|幕屋《まくや》あり、|前《まへ》なるを|聖所《せいじょ》と|稱《とな》へ、その|中《うち》に|燈臺《とうだい》と|案《つくゑ》と|供《そなへ》のパンとあり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|第二《だいに》の|幕《まく》の|後《うしろ》に|至《し》|聖所《せいじょ》と|稱《とな》ふる|幕屋《まくや》あり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]その|中《うち》に|金《きん》の|香壇《かうだん》と|金《きん》にて|※[#「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34]《あまね》く|覆《おほ》ひたる|契約《けいやく》の|櫃《ひつ》とあり、この|中《うち》にマナを|納《い》れたる|金《きん》の|壺《つぼ》と|芽《めざ》したるアロンの|杖《つゑ》と|契約《けいやく》の|石碑《いしぶみ》とあり、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|櫃《ひつ》の|上《うへ》に|榮光《えいくわう》のケルビムありて|贖罪所《しょくざいしょ》を|覆《おほ》ふ。これらの|物《もの》に|就《つ》きては、|今《いま》|一々《いちいち》|言《い》ふこと|能《あた》はず、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のもの|斯《か》く|備《そなは》りたれば、|祭司《さいし》たちは|常《つね》に|前《まへ》なる|幕屋《まくや》に|入《い》りて|禮拜《れいはい》をおこなふ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されど|奧《おく》なる|幕屋《まくや》には、|大《だい》|祭司《さいし》のみ|年《とし》に|一度《ひとたび》おのれと|民《たみ》との|過失《あやまち》のために|献《ささ》ぐる|血《ち》を|携《たづさ》へて|入《い》るなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》によりて|聖《せい》|靈《れい》は|前《まへ》なる|幕屋《まくや》のなほ|存《そん》するあひだ、|至《し》|聖所《せいじょ》に|入《い》る|道《みち》の|未《いま》だ|顯《あらは》れざるを|示《しめ》し|給《たま》ふ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|幕屋《まくや》はその|時《とき》のために|設《まう》けられたる|比喩《たとへ》なり、|之《これ》に|循《したが》ひて|献《ささ》げたる|供物《そなへもの》と|犧牲《いけにへ》とは、|禮拜《れいはい》をなす|者《もの》の|良心《りゃうしん》を|全《まった》うすること|能《あた》はざりき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》はただ|食物《くひもの》・|飮物《のみもの》さまざまの|濯事《すすぎごと》などに|係《かかは》り、|肉《にく》に|屬《ぞく》する|定《さだめ》にして、|改革《かいかく》の|時《とき》まで|負《おは》せられたるのみ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れどキリストは|來《きた》らんとする|善《よ》き|事《こと》の|大《だい》|祭司《さいし》として|來《きた》り、|手《て》にて|造《つく》らぬ|此《こ》の|世《よ》に|屬《ぞく》せぬ|更《さら》に|大《おほい》なる|全《まった》き|幕屋《まくや》を|經《へ》て、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|山羊《やぎ》と|犢《こうし》との|血《ち》を|用《もち》ひず、|己《おの》が|血《ち》をもて|只《ただ》|一《ひと》たび|至《し》|聖所《せいじょ》に|入《い》りて、|永遠《とこしへ》の|贖罪《あがなひ》を|終《を》へたまへり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]もし|山羊《やぎ》および|牡牛《をうし》の|血《ち》、|牝牛《めうし》の|灰《はひ》などを|穢《けが》れし|者《もの》にそそぎて|其《そ》の|肉體《にくたい》を|潔《きよ》むることを|得《え》ば、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]まして|永遠《とこしへ》の|御靈《みたま》により|瑕《きず》なくして|己《おのれ》を|神《かみ》に|献《ささ》げ|給《たま》ひしキリストの|血《ち》は、|我《われ》らの|良心《りゃうしん》を|死《し》にたる|行爲《おこなひ》より|潔《きよ》めて|活《い》ける|神《かみ》に|事《つか》へしめざらんや。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|彼《かれ》は|新《あたら》しき|契約《けいやく》の|中保《なかだち》なり。これ|初《はじめ》の|契約《けいやく》の|下《した》に|犯《をか》したる|咎《とが》を|贖《あがな》ふべき|死《し》あるによりて、|召《め》されたる|者《もの》に|約束《やくそく》の|永遠《とこしへ》の|嗣業《しげふ》を|受《う》けさせん|爲《ため》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]それ|遺言《ゆゐごん》は|必《かなら》ず|遺言《ゆゐごん》|者《しゃ》の|死《し》を|要《えう》す。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|遺言《ゆゐごん》は|遺言《ゆゐごん》|者《しゃ》|死《し》にてのち|始《はじ》めて|效《かう》あり、|遺言《ゆゐごん》|者《しゃ》の|生《い》くる|間《うち》は|效《かう》なきなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|初《はじめ》の|契約《けいやく》も|血《ち》なくして|立《た》てしにあらず。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]モーセ|律法《おきて》に|循《したが》ひて|諸般《もろもろ》の|誡命《いましめ》をすべての|民《たみ》に|告《つ》げてのち、|犢《こうし》と|山羊《やぎ》との|血《ち》また|水《みづ》と|緋色《ひいろ》の|毛《け》とヒソプとをとりて、|書《ふみ》および|凡《すべ》ての|民《たみ》にそそぎて|言《い》ふ、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]『これ|神《かみ》の|汝《なんぢ》らに|命《めい》じたまふ|契約《けいやく》の|血《ち》なり』と。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]また|同《おな》じく|幕屋《まくや》と|祭《まつり》のすべての|器《うつは》とに|血《ち》をそそげり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|律法《おきて》によれば、|萬《よろづ》のもの|血《ち》をもて|潔《きよ》めらる。もし|血《ち》を|流《なが》すことなくば、|赦《ゆる》さるることなし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|天《てん》に|在《あ》るものに|象《かたど》りたる|物《もの》は|此《これ》|等《ら》にて|潔《きよ》められ、|天《てん》にある|物《もの》は|此《これ》|等《ら》に|勝《まさ》りたる|犧牲《いけにへ》をもて|潔《きよ》めらるべきなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]キリストは|眞《まこと》のものに|象《かたど》れる、|手《て》にて|造《つく》りたる|聖所《せいじょ》に|入《い》らず、|眞《まこと》の|天《てん》に|入《い》りて|今《いま》より|我等《われら》のために|神《かみ》の|前《まへ》にあらはれ|給《たま》ふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]これ|大《だい》|祭司《さいし》が|年《とし》ごとに|他《ほか》の|物《もの》の|血《ち》をもて|聖所《せいじょ》に|入《い》るごとく、|屡次《しばしば》おのれを|献《ささ》ぐる|爲《ため》にあらず。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]もし|然《しか》らずば|世《よ》の|創《はじめ》より|以來《このかた》しばしば|苦難《くるしみ》を|受《う》け|給《たま》ふべきなり。|然《さ》れど|今《いま》、|世《よ》の|季《すゑ》にいたり|己《おのれ》を|犧牲《いけにへ》となして|罪《つみ》を|除《のぞ》かんために|一《ひと》たび|現《あらは》れたまへり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|一《ひと》たび|死《し》ぬることと|死《し》にてのち|審判《さばき》を|受《う》くることとの|人《ひと》に|定《さだま》りたる|如《ごと》く、[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]キリストも|亦《また》おほくの|人《ひと》の|罪《つみ》を|負《お》はんが|爲《ため》に|一《ひと》たび|献《ささ》げられ、|復《また》|罪《つみ》を|負《お》ふことなく、|己《おのれ》を|待《まち》|望《のぞ》む|者《もの》に|再《ふたた》び|現《あらは》れて|救《すくひ》を|得《え》させ|給《たま》ふべし。 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]それ|律法《おきて》は|來《きた》らんとする|善《よ》き|事《こと》の|影《かげ》にして|眞《まこと》の|形《かたち》にあらねば、|年毎《としごと》にたえず|献《ささ》ぐる|同《おな》じ|犧牲《いけにへ》にて、|神《かみ》にきたる|者《もの》を|何時《いつ》までも|全《まった》うすることを|得《え》ざるなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]もし|之《これ》を|得《え》ば、|禮拜《れいはい》をなす|者《もの》、|一《ひと》たび|潔《きよ》められて|復《また》|心《こころ》に|罪《つみ》を|憶《おぼ》えねば、|献《ささ》ぐることを|止《や》めしならん。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|犧牲《いけにへ》によりて、|年《とし》ごとに|罪《つみ》を|憶《おぼ》ゆるなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]これ|牡牛《をうし》と|山羊《やぎ》との|血《ち》は|罪《つみ》を|除《のぞ》くこと|能《あた》はざるに|因《よ》る。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》にキリスト|世《よ》に|來《きた》るとき|言《い》ひ|給《たま》ふ [#ここから2字下げ] 『なんぢ|犧牲《いけにへ》と|供物《そなへもの》とを|欲《ほっ》せず、 |唯《ただ》わが|爲《ため》に|體《からだ》を|備《そな》へたまへり。 [#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|燔祭《はんさい》と|罪祭《ざいさい》とを|悦《よろこ》び|給《たま》はず、 [#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》われ|言《い》ふ「|神《かみ》よ、|我《われ》なんぢの |御意《みこころ》を|行《おこな》はんとて|來《きた》る」 |我《われ》につきて|書《ふみ》の|卷《まき》に|録《しる》されたるが|如《ごと》し』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|先《さき》には『|汝《なんぢ》いけにへと|供物《そなへもの》と|燔祭《はんさい》と|罪祭《ざいさい》と(|即《すなは》ち|律法《おきて》に|循《したが》ひて|献《ささ》ぐる|物《もの》)を|欲《ほっ》せず、また|悦《よろこ》ばず』と|言《い》ひ、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|後《のち》に『|視《み》よ、|我《われ》なんぢの|御意《みこころ》を|行《おこな》はんとて|來《きた》る』と|言《い》ひ|給《たま》へり。その|後《のち》なる|者《もの》を|立《た》てん|爲《ため》に、その|先《さき》なる|者《もの》を|除《のぞ》き|給《たま》ふなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|御意《みこころ》に|適《かな》ひてイエス・キリストの|體《からだ》の|一《ひと》たび|献《ささ》げられしに|由《よ》りて|我《われ》らは|潔《きよ》められたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]すべての|祭司《さいし》は|日毎《ひごと》に|立《た》ちて|事《つか》へ、いつまでも|罪《つみ》を|除《のぞ》くこと|能《あた》はぬ|同《おな》じ|犧牲《いけにへ》をしばしば|献《ささ》ぐ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れどキリストは|罪《つみ》のために|一《ひと》つの|犧牲《いけにへ》を|献《ささ》げて|限《かぎ》りなく|神《かみ》の|右《みぎ》に|坐《ざ》し、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くて|己《おの》が|仇《あた》の|己《おの》が|足臺《あしだい》とせられん|時《とき》を|待《ま》ちたまふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]そは|潔《きよ》めらるる|者《もの》を|一《ひと》つの|供物《そなへもの》にて|限《かぎ》りなく|全《まった》うし|給《たま》ふなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|聖《せい》|靈《れい》も|亦《また》われらに|之《これ》を|證《あかし》して [#ここから2字下げ] [#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]『「この|日《ひ》の|後《のち》、われ|彼《かれ》らと|立《た》つる|契約《けいやく》は|是《これ》なり」 [#ここで字下げ終わり] と|主《しゅ》いひ|給《たま》ふ。また [#ここから2字下げ] 「わが|律法《おきて》をその|心《こころ》に|置《お》き、その|念《おもひ》に|銘《しる》さん」』 [#ここで字下げ終わり] と|言《い》ひ|給《たま》ひて、 [#ここから2字下げ] [#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]『この|後《のち》また|彼《かれ》らの|罪《つみ》と|不法《ふはふ》とを|思《おも》ひ|出《い》でざるべし』 [#ここで字下げ終わり] と|言《い》ひたまふ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かかる|赦《ゆるし》ある|上《うへ》は、もはや|罪《つみ》のために|献物《ささげもの》をなす|要《えう》なし。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|兄弟《きゃうだい》よ、|我《われ》らイエスの|血《ち》により、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]その|肉體《にくたい》たる|幔《まく》を|經《へ》て|我《われ》らに|開《ひら》き|給《たま》へる|新《あたら》しき|活《い》ける|路《みち》より|憚《はばか》らずして|至《し》|聖所《せいじょ》に|入《い》ることを|得《え》、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]かつ|神《かみ》の|家《いへ》を|治《をさ》むる|大《おほい》なる|祭司《さいし》を|得《え》たれば、[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|心《こころ》は|濯《すす》がれて|良心《りゃうしん》の|咎《とが》をさり、|身《み》は|清《きよ》き|水《みづ》にて|洗《あら》はれ、|眞《まこと》の|心《こころ》と|全《まった》き|信仰《しんかう》とをもて|神《かみ》に|近《ちか》づくべし。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]また|約束《やくそく》し|給《たま》ひし|者《もの》は|忠實《ちゅうじつ》なれば、|我《われ》ら|言《い》ひあらはす|所《ところ》の|望《のぞみ》を|動《うご》かさずして|堅《かた》く|守《まも》り、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|互《たがひ》に|相《あひ》|顧《かへり》み、|愛《あい》と|善《よ》き|業《わざ》とを|勵《はげ》まし、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|集會《あつまり》をやむる|或《ある》|人《ひと》の|習慣《ならはし》の|如《ごと》くせず、|互《たがひ》に|勸《すす》め|合《あ》ひ、かの|日《ひ》のいよいよ|近《ちか》づくを|見《み》て、ますます|斯《か》くの|如《ごと》くすべし。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》もし|眞理《しんり》を|知《し》る|知識《ちしき》をうけたる|後《のち》、ことさらに|罪《つみ》を|犯《をか》して|止《や》めずば、|罪《つみ》のために|犧牲《いけにへ》、もはや|無《な》し。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]ただ|畏《おそ》れつつ|審判《さばき》を|待《ま》つことと、|逆《さから》ふ|者《もの》を|焚《や》きつくす|烈《はげ》しき|火《ひ》とのみ|遺《のこ》るなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]モーセの|律法《おきて》を|蔑《なみ》する|者《もの》は|慈悲《じひ》を|受《う》くることなく、|二三人《にさんにん》の|證人《しょうにん》によりて|死《し》に|至《いた》る。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]まして|神《かみ》の|子《こ》を|蹈《ふ》みつけ、|己《おの》が|潔《きよ》められし|契約《けいやく》の|血《ち》を|潔《きよ》からずとなし、|恩惠《めぐみ》の|御靈《みたま》を|侮《あなど》る|者《もの》の|受《う》くべき|罰《ばつ》の|重《おも》きこと|如何許《いかばかり》とおもふか。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]『|仇《あた》を|復《かへ》すは|我《われ》に|在《あ》り、われ|之《これ》を|報《むく》いん』と|言《い》ひ、また『|主《しゅ》その|民《たみ》を|審《さば》かん』と|言《い》ひ|給《たま》ひし|者《もの》を|我《われ》らは|知《し》るなり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|活《い》ける|神《かみ》の|御手《みて》に|陷《おちい》るは|畏《おそ》るべきかな。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|御光《みひかり》を|受《う》けしのち|苦難《くるしみ》の|大《おほい》なる|戰鬪《たたかひ》に|耐《た》へし|前《さき》の|日《ひ》を|思《おも》ひ|出《い》でよ。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|或《あるひ》は|誹謗《そしり》と|患難《なやみ》とに|遭《あ》ひて|觀物《みもの》にせられ、|或《あるひ》は|斯《か》かることに|遭《あ》ふ|人《ひと》の|友《とも》となれり。[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]また|囚人《めしうど》となれる|者《もの》を|思《おも》ひやり、|永《なが》く|存《そん》する|尤《もっと》も|勝《まさ》れる|所有《もちもの》の|己《おのれ》にあるを|知《し》りて、|我《わ》が|所有《もちもの》を|奪《うば》はるるをも|喜《よろこ》びて|忍《しの》びたり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]されば|大《おほい》なる|報《むくい》を|受《う》くべき|汝《なんぢ》らの|確信《かくしん》を|投《な》げすつな。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|神《かみ》の|御意《みこころ》を|行《おこな》ひて|約束《やくそく》のものを|受《う》けん|爲《ため》に|必要《ひつえう》なるは|忍耐《にんたい》なり。 [#ここから2字下げ] [#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]『いま|暫《しばら》くせば、 |來《きた》るべき|者《もの》きたらん、 |遲《おそ》からじ。[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》に|屬《つ》ける|義人《ぎじん》は、|信仰《しんかう》によりて|活《い》くべし。 もし|退《しりぞ》かば、わが|心《こころ》これを|喜《よろこ》ばじ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|我《われ》らは|退《しりぞ》きて|滅亡《ほろび》に|至《いた》る|者《もの》にあらず、|靈魂《たましひ》を|得《う》るに|至《いた》る|信仰《しんかう》を|保《たも》つ|者《もの》なり。 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]それ|信仰《しんかう》は|望《のぞ》むところを|確信《かくしん》し、|見《み》ぬ|物《もの》を|眞實《まこと》とするなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|古《いにし》への|人《ひと》は|之《これ》によりて|證《あかし》せられたり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》によりて|我等《われら》は、もろもろの|世界《せかい》の|神《かみ》の|言《ことば》にて|造《つく》られ、|見《み》ゆる|物《もの》の|顯《あらは》るる|物《もの》より|成《な》らざるを|悟《さと》る。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてアベルはカインよりも|勝《まさ》れる|犧牲《いけにへ》を|神《かみ》に|献《ささ》げ、|之《これ》によりて|正《ただ》しと|證《あかし》せられたり。|神《かみ》その|供物《そなへもの》につきて|證《あかし》し|給《たま》へばなり。|彼《かれ》は|死《し》ぬれども、|信仰《しんかう》によりて|今《いま》なほ|語《かた》る。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてエノクは|死《し》を|見《み》ぬように|移《うつ》されたり。|神《かみ》これを|移《うつ》し|給《たま》ひたれば|見出《みいだ》されざりき。その|移《うつ》さるる|前《さき》に|神《かみ》に|喜《よろこ》ばるることを|證《あかし》せられたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》なくしては|神《かみ》に|悦《よろこ》ばるること|能《あた》はず、そは|神《かみ》に|來《きた》る|者《もの》は、|神《かみ》の|在《いま》すことと|神《かみ》の|己《おのれ》を|求《もと》むる|者《もの》に|報《むく》い|給《たま》ふこととを、|必《かなら》ず|信《しん》ずべければなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてノアは、|未《いま》だ|見《み》ざる|事《こと》につきて|御告《みつげ》を|蒙《かうむ》り、|畏《おそれ》みてその|家《いへ》の|者《もの》を|救《すく》はん|爲《ため》に|方舟《はこぶね》を|造《つく》り、かつ|之《これ》によりて|世《よ》の|罪《つみ》を|定《さだ》め、また|信仰《しんかう》に|由《よ》る|義《ぎ》の|世嗣《よつぎ》となれり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてアブラハムは|召《め》されしとき|嗣業《しげふ》として|受《う》くべき|地《ち》に|出《い》で|往《ゆ》けとの|命《めい》に|遵《したが》ひ、その|往《ゆ》く|所《ところ》を|知《し》らずして|出《い》で|往《ゆ》けり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》により|異國《ことくに》に|在《あ》るごとく|約束《やくそく》の|地《ち》に|寓《やど》り、|同《おな》じ|約束《やくそく》を|嗣《つ》ぐべきイサクとヤコブと|共《とも》に|幕屋《まくや》に|住《す》めり、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]これ|神《かみ》の|營《いとな》み|造《つく》りたまふ|基礎《もとゐ》ある|都《みやこ》を|望《のぞ》めばなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてサラも|約束《やくそく》したまふ|者《もの》の|忠實《ちゅうじつ》なるを|思《おも》ひし|故《ゆゑ》に、|年《とし》|邁《す》ぎたれど|胤《たね》をやどす|力《ちから》を|受《う》けたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|死《し》にたる|者《もの》のごとき|一人《ひとり》より|天《てん》の|星《ほし》のごとく、また|海邊《うみべ》の|數《かぞ》へがたき|砂《すな》のごとく|夥多《おびただ》しく|生《うま》れ|出《い》でたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》はみな|信仰《しんかう》を|懷《いだ》きて|死《し》にたり、|未《いま》だ|約束《やくそく》の|物《もの》を|受《う》けざりしが、|遙《はるか》にこれを|見《み》て|迎《むか》へ、|地《ち》にては|旅人《たびびと》また|寓《やど》れる|者《もの》なるを|言《い》ひあらはせり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》く|言《い》ふは、|己《おの》が|故郷《ふるさと》を|求《もと》むることを|表《あらは》すなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しその|出《い》でし|處《ところ》を|念《おも》はば、|歸《かへ》るべき|機《をり》ありしなるべし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》らの|慕《した》ふ|所《ところ》は|天《てん》にある|更《さら》に|勝《まさ》りたる|所《ところ》なり。この|故《ゆゑ》に|神《かみ》は|彼《かれ》らの|神《かみ》と|稱《とな》へらるるを|恥《はぢ》とし|給《たま》はず、そは|彼《かれ》|等《ら》のために|都《みやこ》を|備《そな》へ|給《たま》へばなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてアブラハムは|試《こころ》みられし|時《とき》イサクを|献《ささ》げたり、|彼《かれ》は|約束《やくそく》を|喜《よろこ》び|受《う》けし|者《もの》なるに、その|獨子《ひとりご》を|献《ささ》げたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》に|對《たい》しては『イサクより|出《い》づる|者《もの》なんぢの|裔《すゑ》と|稱《とな》へらるべし』と|云《い》ひ|給《たま》ひしなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かれ|思《おも》へらく、|神《かみ》は|死人《しにん》の|中《うち》より|之《これ》を|甦《よみが》へらすることを|得給《えたま》ふと、|乃《すなは》ち|死《し》より|之《これ》を|受《う》けしが|如《ごと》くなりき。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてイサクは|來《きた》らんとする|事《こと》につきヤコブとエサウとを|祝福《しくふく》せり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてヤコブは|死《し》ぬる|時《とき》ヨセフの|子《こ》|等《ら》をおのおの|祝福《しくふく》し、その|杖《つゑ》の|頭《かしら》によりて|禮拜《れいはい》せり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてヨセフは|生命《いのち》の|終《をは》らんとする|時《とき》、イスラエルの|子《こ》らの|出《い》で|立《た》つことに|就《つ》きて|語《かた》り、|又《また》おのが|骨《ほね》のことを|命《めい》じたり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りて|兩親《ふたおや》はモーセの|生《うま》れたる|時《とき》、その|美《うるわ》しき|子《こ》なるを|見《み》て、|王《わう》の|命《めい》をも|畏《おそ》れずして|三月《みつき》の|間《あひだ》これを|匿《かく》したり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてモーセは|人《ひと》と|成《な》りしときパロの|女《むすめ》の|子《こ》と|稱《とな》へらるるを|否《いな》み、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|罪《つみ》のはかなき|歡樂《たのしみ》を|受《う》けんよりは、|寧《むし》ろ|神《かみ》の|民《たみ》とともに|苦《くる》しまんことを|善《よ》しとし、[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]キリストに|因《よ》る|謗《そしり》はエジプトの|財寶《たから》にまさる|大《おほい》なる|富《とみ》と|思《おも》へり、これ|報《むくい》を|望《のぞ》めばなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りて|彼《かれ》は|王《わう》の|憤恚《いきどほり》を|畏《おそ》れずしてエジプトを|去《さ》れり。これ|見《み》えざる|者《もの》を|見《み》るがごとく|耐《た》ふる|事《こと》をすればなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りて|彼《かれ》は|過越《すぎこし》と|血《ち》を|灑《そそ》ぐこととを|行《おこな》へり、これ|初子《うひご》を|滅《ほろび》す|者《もの》の|彼《かれ》らに|觸《ふ》れざらん|爲《ため》なり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りてイスラエル|人《ひと》は|紅海《こうかい》を|乾《かわ》ける|地《ち》のごとく|渡《わた》りしが、エジプト|人《ひと》は|然《しか》せんと|試《こころ》みて|溺《おぼ》れ|死《し》にたり。[#太字]三〇[#「三〇」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りて|七日《なぬか》のあいだ|廻《まは》りたればエリコの|石垣《いしがき》は|崩《くづ》れたり。[#太字]三一[#「三一」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》に|由《よ》りて|遊女《あそびめ》ラハブは|平和《へいわ》をもて|間者《かんじゃ》を|接《う》けたれば、|不《ふ》|從順《じゅうじゅん》の|者《もの》とともに|亡《ほろ》びざりき。[#太字]三二[#「三二」は行右小書き][#太字終わり]この|外《ほか》なにを|言《い》ふべきか、ギデオン、バラク、サムソン、エフタ、またダビデ、サムエル|及《およ》び|預言者《よげんしゃ》たちに|就《つ》きて|語《かた》らば、|時《とき》|足《た》らざるべし。[#太字]三三[#「三三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|信仰《しんかう》によりて|國々《くにぐに》を|服《したが》へ、|義《ぎ》をおこなひ、|約束《やくそく》のものを|得《え》、|獅子《しし》の|口《くち》をふさぎ、[#太字]三四[#「三四」は行右小書き][#太字終わり]|火《ひ》の|勢力《いきほひ》を|消《け》し、|劍《つるぎ》の|刃《は》をのがれ、|弱《よわき》よりして|強《つよ》くせられ、|戰爭《いくさ》に|勇《いさ》ましくなり、|異國人《ことくにびと》の|軍勢《ぐんぜい》を|退《しりぞ》かせたり。[#太字]三五[#「三五」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》は|死《し》にたる|者《もの》の|復活《よみがへり》を|得《え》、ある|人《ひと》は|更《さら》に|勝《まさ》りたる|復活《よみがへり》を|得《え》んために、|免《ゆる》さるることを|願《ねが》はずして|極刑《きょくけい》を|甘《あま》んじたり。[#太字]三六[#「三六」は行右小書き][#太字終わり]その|他《ほか》の|者《もの》は|嘲笑《あざけり》と|鞭《むち》と、また|縲絏《なはめ》と|牢獄《ひとや》との|試錬《こころみ》を|受《う》け、[#太字]三七[#「三七」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|者《もの》は|石《いし》にて|撃《う》たれ、|試《こころ》みられ、|鐵鋸《のこぎり》にて|挽《ひ》かれ、|劍《つるぎ》にて|殺《ころ》され、|羊《ひつじ》・|山羊《やぎ》の|皮《かは》を|纏《まと》ひて|經《へ》あるき、|乏《とも》しくなり、|惱《なやま》され、|苦《くる》しめられ、[#太字]三八[#「三八」は行右小書き][#太字終わり](|世《よ》は|彼《かれ》らを|置《お》くに|堪《た》へず)|荒野《あらの》と|山《やま》と|洞《ほら》と|地《ち》の|穴《あな》とに|徨《さまよ》へり。[#太字]三九[#「三九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》はみな|信仰《しんかう》に|由《よ》りて|證《あかし》せられたれども|約束《やくそく》のものを|得《え》ざりき。[#太字]四〇[#「四〇」は行右小書き][#太字終わり]これ|神《かみ》は|我《われ》らの|爲《ため》に|勝《まさ》りたるものを|備《そな》へ|給《たま》ひし|故《ゆゑ》に、|彼《かれ》らも|我《われ》らと|偕《とも》ならざれば、|全《まった》うせらるる|事《こと》なきなり。 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》らは|斯《か》く|多《おほ》くの|證人《しょうにん》に|雲《くも》のごとく|圍《かこ》まれたれば、|凡《すべ》ての|重荷《おもに》と|纏《まと》へる|罪《つみ》とを|除《のぞ》け、|忍耐《にんたい》をもて|我《われ》らの|前《まへ》に|置《お》かれたる|馳場《はせば》をはしり、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|信仰《しんかう》の|導師《みちびきて》また|之《これ》を|全《まった》うする|者《もの》なるイエスを|仰《あふ》ぎ|見《み》るべし。|彼《かれ》はその|前《まへ》に|置《お》かれたる|歡喜《よろこび》のために、|恥《はぢ》をも|厭《いと》はずして|十字架《じふじか》をしのび、|遂《つひ》に|神《かみ》の|御座《みくら》の|右《みぎ》に|坐《ざ》し|給《たま》へり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]なんじら|倦《う》み|疲《つか》れて|心《こころ》を|喪《うしな》ふこと|莫《なか》らんために、|罪人《つみびと》らの|斯《か》く|己《おのれ》に|逆《さから》ひしことを|忍《しの》び|給《たま》へる|者《もの》をおもへ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|罪《つみ》と|鬪《たたか》ひて|未《いま》だ|血《ち》を|流《なが》すまで|抵抗《てむかひ》しことなし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|子《こ》に|告《つ》ぐるごとく|汝《なんぢ》らに|告《つ》げ|給《たま》ひし|勸言《すすめ》を|忘《わす》れたり。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 『わが|子《こ》よ、|主《しゅ》の|懲戒《こらしめ》を|輕《かろ》んずるなかれ、 |主《しゅ》に|戒《いまし》めらるるとき|倦《う》むなかれ。 [#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]そは|主《しゅ》、その|愛《あい》する|者《もの》を|懲《こら》しめ、 |凡《すべ》てその|受《う》け|給《たま》ふ|子《こ》を|鞭《むち》うち|給《たま》へばなり』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|忍《しの》ぶは|懲戒《こらしめ》の|爲《ため》なり、|神《かみ》は|汝《なんぢ》らを|子《こ》のごとく|待《あしら》ひたまふ、|誰《たれ》か|父《ちち》の|懲《こら》しめぬ|子《こ》あらんや。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》の|受《う》くる|懲戒《こらしめ》、もし|汝《なんぢ》らに|無《な》くば、それは|私生兒《かくしご》にして|眞《まこと》の|子《こ》にあらず、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》らの|肉體《にくたい》の|父《ちち》は、|我《われ》らを|懲《こら》しめし|者《もの》なるに|尚《なほ》これを|敬《うやま》へり、|況《ま》して|靈魂《たましひ》の|父《ちち》に|服《したが》ひて|生《い》くることを|爲《せ》ざらんや。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]そは|肉體《にくたい》の|父《ちち》は|暫《しばら》くの|間《あひだ》その|心《こころ》のままに|懲《こら》しむることを|爲《せ》しが、|靈魂《たましひ》の|父《ちち》は|我《われ》らを|益《えき》するために、その|聖潔《きよき》に|與《あづか》らせんとて|懲《こら》しめ|給《たま》へばなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|懲戒《こらしめ》、|今《いま》は|喜《よろこ》ばしと|見《み》えず、|反《かへ》つて|悲《かな》しと|見《み》ゆ、されど|後《のち》これに|由《よ》りて|練習《れんしふ》する|者《もの》に、|義《ぎ》の|平安《へいあん》なる|果《み》を|結《むす》ばしむ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]されば|衰《おとろ》へたる|手《て》、|弱《よわ》りたる|膝《ひざ》を|強《つよ》くし、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|足蹇《あしな》へたる|者《もの》の|履《あゆ》み|外《はづ》すことなく、|反《かへ》つて|醫《いや》されんために|汝《なんぢ》らの|足《あし》に|直《すぐ》なる|途《みち》を|備《そな》へよ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|力《つと》めて|凡《すべ》ての|人《ひと》と|和《やはら》ぎ、|自《みづか》ら|潔《きよ》からんことを|求《もと》めよ。もし|潔《きよ》からずば、|主《しゅ》を|見《み》ること|能《あた》はず。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]なんじら|愼《つつし》め、|恐《おそ》らくは|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》に|至《いた》らぬ|者《もの》あらん。|恐《おそ》らくは|苦《にが》き|根《ね》はえいでて|汝《なんぢ》らを|惱《なやみ》し、|多《おほ》くの|人《ひと》これに|由《よ》りて|汚《けが》されん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|恐《おそ》らくは|淫行《いんかう》のもの、|或《あるひ》は|一飯《いっぱん》のために|長子《ちゃうし》の|特權《とくけん》を|賣《う》りしエサウの|如《ごと》き|妄《みだり》なるもの|起《おこ》らん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|知《し》るごとく、|彼《かれ》はそののち|祝福《しくふく》を|受《う》けんと|欲《ほっ》したれども|棄《す》てられ、|涙《なみだ》を|流《なが》して|之《これ》を|求《もと》めたれど|囘復《くわいふく》の|機《をり》を|得《え》ざりき。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|近《ちか》づきたるは、|火《ひ》の|燃《も》ゆる|觸《さは》り|得《う》べき|山《やま》・|黒《くろ》|雲《くも》・|黒闇《くらやみ》・|嵐《あらし》、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]ラッパの|音《おと》、|言《ことば》の|聲《こゑ》にあらず、この|聲《こゑ》を|聞《き》きし|者《もの》は|此《こ》の|上《うへ》に|言《ことば》の|加《くは》へられざらんことを|願《ねが》へり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]これ『|獸《けもの》すら|山《やま》に|觸《ふ》れなば、|石《いし》にて|撃《うた》るべし』と|命《めい》ぜられしを、|彼《かれ》らは|忍《しの》ぶこと|能《あた》はざりし|故《ゆゑ》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|現《あらは》れしところ|極《きは》めて|怖《おそろ》しかりしかば、モーセは『われ|甚《いた》く|怖《おそ》れ|戰《おのの》けり』と|云《い》へり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らの|近《ちか》づきたるはシオンの|山《やま》、|活《い》ける|神《かみ》の|都《みやこ》なる|天《てん》のエルサレム、|千萬《ちよろづ》の|御使《みつかひ》の|集會《あつまり》、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》に|録《しる》されたる|長子《ちゃうし》どもの|教會《けうくわい》、|萬民《ばんみん》の|審判《さばき》|主《ぬし》なる|神《かみ》、|全《まった》うせられたる|義人《ぎじん》の|靈魂《たましひ》、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|新約《しんやく》の|仲保《なかだち》なるイエス|及《およ》びアベルの|血《ち》に|勝《まさ》りて|物《もの》|言《い》ふ|灑《そそぎ》の|血《ち》なり、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]なんじら|心《こころ》して|語《かた》りたまふ|者《もの》を|拒《こば》むな、もし|地《ち》にて|示《しめ》し|給《たま》ひし|時《とき》これを|拒《こば》みし|者《もの》ども|遁《のが》るる|事《こと》なかりしならば、|況《ま》して|天《てん》より|示《しめ》し|給《たま》ふとき、|我《われ》ら|之《これ》を|退《しりぞ》けて|遁《のが》るることを|得《え》んや。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》、その|聲《こゑ》、|地《ち》を|震《ふる》へり、されど|今《いま》は|誓《ちか》ひて|言《い》ひたまふ『|我《われ》なほ|一《ひと》たび|地《ち》のみならず、|天《てん》をも|震《ふる》はん』と。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の『なほ|一度《ひとたび》』とは|震《ふる》はれぬ|物《もの》の|存《のこ》らんために、|震《ふる》はるる|物《もの》すなはち|造《つく》られたる|物《もの》の|取《と》り|除《のぞ》かるることを|表《あらは》すなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》らは|震《ふる》はれぬ|國《くに》を|受《う》けたれば、|感謝《かんしゃ》して|恭敬《うやうやしき》と|畏懼《おそれ》とをもて|御心《みこころ》にかなふ|奉仕《つとめ》を|神《かみ》になすべし。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|神《かみ》は|燒《や》き|盡《つく》す|火《ひ》なればなり。 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》の|愛《あい》を|常《つね》に|保《たも》つべし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|旅人《たびびと》の|接待《せったい》を|忘《わす》るな、|或《ある》|人《ひと》これに|由《よ》り、|知《し》らずして|御使《みつかひ》を|舍《やど》したり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|己《おのれ》も|共《とも》に|繋《つな》がるるごとく|囚人《めしうど》を|思《おも》へ、また|己《おのれ》も|肉體《にくたい》に|在《あ》れば、|苦《くる》しむ|者《もの》を|思《おも》へ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|人《ひと》、|婚姻《こんいん》のことを|貴《たふと》べ、また|寢床《ねどこ》を|汚《けが》すな。|神《かみ》は|淫行《いんかう》のもの、|姦淫《かんいん》の|者《もの》を|審《さば》き|給《たま》ふべければなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|金《かね》を|愛《あい》することなく、|有《も》てるものを|以《もっ》て|足《た》れりとせよ。|主《しゅ》みづから『われ|更《さら》に|汝《なんぢ》を|去《さ》らず、|汝《なんぢ》を|捨《す》てじ』と|言《い》ひ|給《たま》ひたればなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れば|我《われ》ら|心《こころ》を|強《つよ》くして|斯《か》く|言《い》はん [#ここから2字下げ] 『|主《しゅ》わが|助主《たすけぬし》なり、|我《われ》おそれじ。 |人《ひと》われに|何《なに》をなさん』 [#ここで字下げ終わり] と。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|言《ことば》を|汝《なんぢ》らに|語《かた》りて|汝《なんぢ》らを|導《みちび》きし|者《もの》どもを|思《おも》へ、その|行状《ぎゃうじゃう》の|終《をはり》を|見《み》てその|信仰《しんかう》に|效《なら》へ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]イエス・キリストは|昨日《きのふ》も|今日《けふ》も|永遠《とこしへ》までも|變《かは》り|給《たま》ふことなし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|各樣《さまざま》の|異《こと》なる|教《をしへ》のために|惑《まどは》さるな。|飮食《いんしょく》によらず、|恩惠《めぐみ》によりて|心《こころ》を|堅《かた》うするは|善《よ》し、|飮食《いんしょく》によりて|歩《あゆ》みたる|者《もの》は|益《えき》を|得《え》ざりき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らに|祭壇《さいだん》あり、|幕屋《まくや》に|事《つか》ふる|者《もの》は|之《これ》より|食《しょく》する|權《けん》を|有《も》たず。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|大《だい》|祭司《さいし》、|罪《つみ》のために|活物《いきもの》の|血《ち》を|携《たづさ》へて|至《し》|聖所《せいじょ》に|入《い》り、その|活物《いきもの》の|體《からだ》は|陣營《ぢんえい》の|外《そと》にて|燒《や》かるるなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》にイエスも|己《おの》が|血《ち》をもて|民《たみ》を|潔《きよ》めんが|爲《ため》に、|門《もん》の|外《そと》にて|苦難《くるしみ》を|受《う》け|給《たま》へり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されば|我《われ》らは|彼《かれ》の|恥《はぢ》を|負《お》ひ、|陣營《ぢんえい》より|出《い》でてその|御許《みもと》に|往《ゆ》くべし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]われら|此處《ここ》には|永遠《とこしへ》の|都《みやこ》なくして、ただ|來《きた》らんとする|者《もの》を|求《もと》むればなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|故《ゆゑ》に|我《われ》らイエスによりて|常《つね》に|讃美《さんび》の|供物《そなへもの》を|神《かみ》に|献《ささ》ぐべし、|乃《すなは》ちその|御名《みな》を|頌《ほ》むる|口唇《くちびる》の|果《み》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かつ|仁慈《なさけ》と|施濟《ほどこし》とを|忘《わす》るな、|神《かみ》は|斯《か》くのごとき|供物《そなへもの》を|喜《よろこ》びたまふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らを|導《みちび》く|者《もの》に|順《したが》ひ|之《これ》に|服《ふく》せよ。|彼《かれ》らは|己《おの》が|事《こと》を|神《かみ》に|陳《の》ぶべき|者《もの》なれば、|汝《なんぢ》らの|靈魂《たましひ》のために|目《め》を|覺《さま》しをるなり。|彼《かれ》らを|歎《なげ》かせず、|喜《よろこ》びて|斯《か》く|爲《な》さしめよ、|然《しか》らずば|汝《なんぢ》らに|益《えき》なかるべし。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|爲《ため》に|祈《いの》れ、|我《われ》らは|善《よ》き|良心《りゃうしん》ありて|凡《すべ》てのこと|正《ただ》しく|行《おこな》はんと|欲《ほっ》するを|信《しん》ずるなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]われ|速《すみや》かに|汝《なんぢ》らに|歸《かへ》ることを|得《え》んために、|汝《なんぢ》らの|祈《いの》らんことを|殊《こと》に|求《もと》む。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|永遠《とこしへ》の|契約《けいやく》の|血《ち》によりて、|羊《ひつじ》の|大牧者《だいぼくしゃ》となれる|我《われ》らの|主《しゅ》イエスを、|死人《しにん》の|中《うち》より|引上《ひきあ》げ|給《たま》ひし|平和《へいわ》の|神《かみ》、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|悦《よろこ》びたまふ|所《ところ》を、イエス・キリストに|由《よ》りて|我《われ》らの|衷《うち》に|行《おこな》ひ、|御意《みこころ》を|行《おこな》はしめん|爲《ため》に|凡《すべ》ての|善《よ》き|事《こと》につきて、|汝《なんぢ》らを|全《まった》うし|給《たま》はんことを。|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|榮光《えいくわう》、かれに|在《あ》れ、アァメン。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|請《こ》ふ|我《わ》が|勸《すすめ》の|言《ことば》を|容《い》れよ、|我《われ》なんじらに|手短《てみじか》く|書《か》き|贈《おく》りたるなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]なんじら|知《し》れ、|我《われ》らの|兄弟《きゃうだい》テモテは|釋《ゆる》されたり。|彼《かれ》もし|速《すみや》かに|來《きた》らば、|我《われ》かれと|偕《とも》に|汝《なんぢ》らを|見《み》ん。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|凡《すべ》ての|導《みちび》く|者《もの》、および|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ。イタリヤの|人々《ひとびと》、なんぢらに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|恩惠《めぐみ》なんぢら|衆《すべて》と|偕《とも》に|在《あ》らんことを。 [#改ページ] ヤコブの書[#「ヤコブの書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》および|主《しゅ》イエス・キリストの|僕《しもべ》ヤコブ、|散《ち》り|居《を》る|十二《じふに》の|族《やから》の|平安《へいあん》を|祈《いの》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢら|各樣《さまざま》の|試錬《こころみ》に|遭《あ》ふとき、|只管《ひたすら》これを|歡喜《よろこび》とせよ。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]そは|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》の|驗《ためし》は、|忍耐《にんたい》を|生《しゃう》ずるを|知《し》ればなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|忍耐《にんたい》をして|全《まった》き|活動《はたらき》をなさしめよ。これ|汝《なんぢ》らが|全《まった》くかつ|備《そなは》りて、|缺《か》くる|所《ところ》なからん|爲《ため》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》もし|智慧《ちゑ》の|缺《か》くる|者《もの》あらば、|咎《とが》むることなくまた|惜《をし》む|事《こと》なく、|凡《すべ》ての|人《ひと》に|與《あた》ふる|神《かみ》に|求《もと》むべし、さらば|與《あた》へられん。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|但《ただ》し|疑《うたが》ふことなく、|信仰《しんかう》をもて|求《もと》むべし。|疑《うたが》ふ|者《もの》は、|風《かぜ》に|動《うご》かされて|翻《ひるが》へる|海《うみ》の|波《なみ》のごときなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かかる|人《ひと》は|主《しゅ》より|何《なに》|物《もの》をも|受《う》くと|思《おも》ふな。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》かる|人《ひと》は|二心《ふたごころ》にして、|凡《すべ》てその|歩《あゆ》むところの|途《みち》|定《さだま》りなし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|卑《ひく》き|兄弟《きゃうだい》は、おのが|高《たか》くせられたるを|喜《よろこ》べ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|富《と》める|者《もの》は、おのが|卑《ひく》くせられたるを|喜《よろこ》べ。そは|草《くさ》の|花《はな》のごとく|過《す》ぎゆくべければなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|日《ひ》|出《い》で|熱《あつ》き|風《かぜ》|吹《ふ》きて|草《くさ》を|枯《か》らせば、|花《はな》|落《お》ちてその|麗《うるは》しき|姿《すがた》ほろぶ。|富《と》める|者《もの》もまた|斯《か》くのごとく、その|途《みち》の|半《なかば》にして|己《おのれ》まづ|消《き》え|失《う》せん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|試錬《こころみ》に|耐《た》ふる|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり、|之《これ》を|善《よ》しとせらるる|時《とき》は、|主《しゅ》のおのれを|愛《あい》する|者《もの》に、|約束《やくそく》し|給《たま》ひし|生命《いのち》の|冠冕《かんむり》を|受《う》くべければなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》|誘《いざな》はるるとき『|神《かみ》われを|誘《いざな》ひたまふ』と|言《い》ふな、|神《かみ》は|惡《あく》に|誘《いざな》はれ|給《たま》はず、|又《また》みづから|人《ひと》を|誘《いざな》ひ|給《たま》ふことなし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|誘《いざな》はるるは|己《おのれ》の|慾《よく》に|引《ひ》かれて|惑《まどは》さるるなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|慾《よく》|孕《はら》みて|罪《つみ》を|生《う》み、|罪《つみ》|成《な》りて|死《し》を|生《う》む。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]わが|愛《あい》する|兄弟《きゃうだい》よ、|自《みづか》ら|欺《あざむ》くな。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|善《よ》き|賜物《たまもの》と|凡《すべ》ての|全《まった》き|賜物《たまもの》とは、|上《うへ》より、もろもろの|光《ひかり》の|父《ちち》より|降《くだ》るなり。|父《ちち》は|變《かは》ることなく、また|囘轉《くわいてん》の|影《かげ》もなき|者《もの》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]その|造《つく》り|給《たま》へる|物《もの》の|中《うち》にて|我《われ》らを|初穗《はつほ》のごとき|者《もの》たらしめんとて、|御旨《みむね》のままに|眞理《しんり》の|言《ことば》をもて、|我《われ》らを|生《う》み|給《たま》へり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]わが|愛《あい》する|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》らは|之《これ》を|知《し》る。されば、おのおの|聽《き》くことを|速《すみや》かにし、|語《かた》ることを|遲《おそ》くし、|怒《いか》ることを|遲《おそ》くせよ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》の|怒《いかり》は|神《かみ》の|義《ぎ》を|行《おこな》はざればなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]されば|凡《すべ》ての|穢《けがれ》と|溢《あふ》るる|惡《あく》とを|捨《す》て、|柔和《にうわ》をもて|其《そ》の|植《う》ゑられたる|所《ところ》の|靈魂《たましひ》を|救《すく》ひ|得《う》る|言《ことば》を|受《う》けよ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]ただ|御言《みことば》を|聞《き》くのみにして、|己《おのれ》を|欺《あざむ》く|者《もの》とならず、|之《これ》を|行《おこな》ふ|者《もの》となれ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]それ|御言《みことば》を|聞《き》くのみにして|之《これ》を|行《おこな》はぬ|者《もの》は、|鏡《かがみ》にて|己《おの》が|生來《うまれつき》の|顏《かほ》を|見《み》る|人《ひと》に|似《に》たり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|己《おのれ》をうつし|見《み》て|立《た》ち|去《さ》れば、|直《ただ》ちにその|如何《いか》なる|姿《すがた》なりしかを|忘《わす》る。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]されど|全《まった》き|律法《おきて》、すなはち|自由《じいう》の|律法《おきて》を|懇《ねんご》ろに|見《み》て|離《はな》れぬ|者《もの》は、|業《わざ》を|行《おこな》ふ|者《もの》にして、|聞《き》きて|忘《わす》るる|者《もの》にあらず、その|行爲《おこなひ》によりて|幸福《さいはひ》ならん。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|自《みづか》ら|信心《しんじん》ふかき|者《もの》と|思《おも》ひて、その|舌《した》に|轡《くつわ》を|著《つ》けず、|己《おの》が|心《こころ》を|欺《あざむ》かば、その|信心《しんじん》は|空《むな》しきなり。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》なる|神《かみ》の|前《まへ》に|潔《きよ》くして|穢《けがれ》なき|信心《しんじん》は、|孤兒《みなしご》と|寡婦《やもめ》とをその|患難《なやみ》の|時《とき》に|見舞《みま》ひ、また|自《みづか》ら|守《まも》りて|世《よ》に|汚《けが》されぬ|是《これ》なり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、|榮光《えいくわう》の|主《しゅ》なる|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストに|對《たい》する|信仰《しんかう》を|保《たも》たんには、|人《ひと》を|偏《かたよ》り|視《み》るな。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|金《きん》の|指輪《ゆびわ》をはめ|華美《はなやか》なる|衣《ころも》を|著《き》たる|人《ひと》、なんぢらの|會堂《くわいだう》に|入《い》りきたり、また|粗末《そまつ》なる|衣《ころも》を|著《き》たる|貧《まづ》しき|者《もの》いり|來《きた》らんに、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》その|華美《はなやか》なる|衣《ころも》を|著《き》たる|人《ひと》を|重《おも》んじ|視《み》て『なんぢ|此《こ》の|善《よ》き|處《ところ》に|坐《ざ》せよ』と|言《い》ひ、また|貧《まづ》しき|者《もの》に『なんぢ|彼處《かしこ》に|立《た》つか、|又《また》はわが|足下《あしもと》に|坐《ざ》せよ』と|言《い》はば、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》にて|區別《わかち》をなし、また|惡《あ》しき|思《おもひ》をもてる|審判《さばき》|人《ひと》となるに|非《あら》ずや。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]わが|愛《あい》する|兄弟《きゃうだい》よ、|聽《き》け、|神《かみ》は|世《よ》の|貧《まづ》しき|者《もの》を|選《えら》びて|信仰《しんかう》に|富《と》ませ、|神《かみ》を|愛《あい》する|者《もの》に|約束《やくそく》し|給《たま》ひし|國《くに》の|世繼《よつぎ》たらしめ|給《たま》ひしに|非《あら》ずや。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|汝《なんぢ》らは|貧《まづ》しき|者《もの》を|輕《かろ》んじたり、|汝《なんぢ》らを|虐《しへた》げ、また|裁判所《さいばんしょ》に|曳《ひ》くものは、|富《と》める|者《もの》にあらずや。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|汝《なんぢ》らの|上《うへ》に|稱《とな》へらるる|尊《たふと》き|名《な》を|汚《けが》すものに|非《あら》ずや。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|聖書《せいしょ》にある『おのれの|如《ごと》く|汝《なんぢ》の|隣《となり》を|愛《あい》すべし』との|尊《たふと》き|律法《おきて》を|全《まった》うせば、その|爲《な》すところ|善《よ》し。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]されど|若《も》し|人《ひと》を|偏《かたよ》り|視《み》れば、これ|罪《つみ》を|行《おこな》ふなり。|律法《おきて》、なんぢらを|犯罪者《はんざいしゃ》と|定《さだ》めん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》、|律法《おきて》|全體《ぜんたい》を|守《まも》るとも、その|一《ひと》つに|躓《つまづ》かば|是《これ》すべてを|犯《をか》すなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]それ『|姦淫《かんいん》する|勿《なか》れ』と|宣《のたま》ひし|者《もの》、また『|殺《ころ》す|勿《なか》れ』と|宣《のたま》ひたれば、なんぢ|姦淫《かんいん》せずとも、|若《も》し|人《ひと》を|殺《ころ》さば|律法《おきて》を|破《やぶ》る|者《もの》となるなり、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|自由《じいう》の|律法《おきて》によりて|審《さば》かれんとする|者《もの》のごとく|語《かた》り、かつ|行《おこな》ふべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|憐憫《あはれみ》を|行《おこな》はぬ|者《もの》は|憐憫《あはれみ》なき|審判《さばき》を|受《う》けん、|憐憫《あはれみ》は|審判《さばき》にむかひて|勝《か》ち|誇《ほこ》るなり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、|人《ひと》みづから|信仰《しんかう》ありと|言《い》ひて、もし|行爲《おこなひ》なくば|何《なに》の|益《えき》かあらん、かかる|信仰《しんかう》は|彼《かれ》を|救《すく》ひ|得《え》んや。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]もし|兄弟《きゃうだい》|或《あるひ》は|姉妹《しまい》、|裸體《はだか》にて|日用《にちよう》の|食物《しょくもつ》に|乏《とも》しからんとき、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち、|或《ある》|人《ひと》これに『|安《やす》らかにして|往《ゆ》け、|温《あたた》かなれ、|飽《あ》くことを|得《え》よ』といひて|體《からだ》に|無《な》くてならぬ|物《もの》を|與《あた》へずば、|何《なに》の|益《えき》かあらん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|信仰《しんかう》もし|行爲《おこなひ》なくば、|死《し》にたる|者《もの》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もまた|言《い》はん『なんぢ|信仰《しんかう》あり、われ|行爲《おこなひ》あり、|汝《なんぢ》の|行爲《おこなひ》なき|信仰《しんかう》を|我《われ》に|示《しめ》せ、|我《われ》わが|行爲《おこなひ》によりて|信仰《しんかう》を|汝《なんぢ》に|示《しめ》さん』と。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|神《かみ》は|唯一《ゆゐいつ》なりと|信《しん》ずるか、かく|信《しん》ずるは|善《よ》し、|惡鬼《あくき》も|亦《また》|信《しん》じて|慄《わなな》けり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]ああ|虚《むな》しき|人《ひと》よ、なんぢ|行爲《おこなひ》なき|信仰《しんかう》の|徒然《いたづら》なるを|知《し》らんと|欲《ほっ》するか。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|父《ちち》アブラハムはその|子《こ》イサクを|祭壇《さいだん》に|献《ささ》げしとき、|行爲《おこなひ》によりて|義《ぎ》とせられたるに|非《あら》ずや。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|見《み》るべし、その|信仰《しんかう》、|行爲《おこなひ》と|共《とも》にはたらき、|行爲《おこなひ》によりて|全《まった》うせられたるを。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]またアブラハム|神《かみ》を|信《しん》じ、その|信仰《しんかう》を|義《ぎ》と|認《みと》められたりと|云《い》へる|聖書《せいしょ》は|成就《じゃうじゅ》し、かつ|彼《かれ》は|神《かみ》の|友《とも》と|稱《とな》へられたり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]かく|人《ひと》の|義《ぎ》とせらるるは、ただ|信仰《しんかう》のみに|由《よ》らずして|行爲《おこなひ》に|由《よ》ることは、|汝《なんぢ》らの|見《み》る|所《ところ》なり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]また|遊女《あそびめ》ラハブも|使者《つかひ》を|受《う》け、これを|他《ほか》の|途《みち》より|去《さ》らせたるとき、|行爲《おこなひ》によりて|義《ぎ》とせられたるに|非《あら》ずや。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|靈魂《たましひ》なき|體《からだ》の|死《し》にたる|者《もの》なるが|如《ごと》く、|行爲《おこなひ》なき|信仰《しんかう》も|死《し》にたるものなり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、なんぢら|多《おほ》く|教師《けうし》となるな。|教師《けうし》たる|我《われ》らの|更《さら》に|嚴《きび》しき|審判《さばき》を|受《う》くることを、|汝《なんぢ》ら|知《し》ればなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|皆《みな》しばしば|躓《つまづ》く|者《もの》なり、|人《ひと》もし|言《ことば》に|蹉跌《つまづき》なくば、これ|全《まった》き|人《ひと》にして|全身《ぜんしん》に|轡《くつわ》を|著《つ》け|得《う》るなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]われら|馬《うま》を|己《おのれ》に|馴《したが》はせんために|轡《くつわ》をその|口《くち》に|置《お》くときは、その|全身《ぜんしん》を|馭《まは》し|得《う》るなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|船《ふね》を|見《み》よ、その|形《かたち》は|大《おほき》く、かつ|激《はげ》しき|風《かぜ》に|追《お》はるるとも、|最《いと》|小《ちひさ》き|舵《かぢ》にて|舵人《かぢとり》の|欲《ほっ》するままに|運《まは》すなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|舌《した》もまた|小《ちひさ》きものなれど、その|誇《ほこ》るところ|大《おほい》なり。|視《み》よ、いかに|小《ちひさ》き|火《ひ》の、いかに|大《おほい》なる|林《はやし》を|燃《もや》すかを。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|舌《した》は|火《ひ》なり、|不義《ふぎ》の|世界《せかい》なり、|舌《した》は|我《われ》らの|肢體《したい》の|中《うち》にて、|全身《ぜんしん》を|汚《けが》し、また|地獄《じごく》より|燃《も》え|出《い》でて|一生《いっしゃう》の|車輪《しゃりん》を|燃《もや》すものなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|獸《けもの》・|鳥《とり》・|匍《は》ふもの・|海《うみ》にあるもの|等《など》、さまざまの|種類《しゅるゐ》みな|制《せい》せらる、|既《すで》に|人《ひと》に|制《せい》せられたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|誰《たれ》も|舌《した》を|制《せい》すること|能《あた》はず、|舌《した》は|動《うご》きて|止《や》まぬ|惡《あく》にして|死《し》の|毒《どく》の|滿《み》つるものなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われら|之《これ》をもて|主《しゅ》たる|父《ちち》を|讃《ほ》め、また|之《これ》をもて|神《かみ》に|象《かたど》りて|造《つく》られたる|人《ひと》を|詛《のろ》ふ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|讃美《さんび》と|呪詛《のろひ》と|同《おな》じ|口《くち》より|出《い》づ。わが|兄弟《きゃうだい》よ、かかる|事《こと》はあるべきにあらず。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|泉《いづみ》は|同《おな》じ|穴《あな》より|甘《あま》き|水《みづ》と|苦《にが》き|水《みづ》とを|出《いだ》さんや。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、|無花果《いちぢく》の|樹《き》オリブの|實《み》を|結《むす》び、|葡萄《ぶだう》の|樹《き》、|無花果《いちぢく》の|實《み》を|結《むす》ぶことを|得《え》んや。|斯《か》くのごとく|鹽《しほ》|水《みづ》は|甘《あま》き|水《みづ》を|出《いだ》すこと|能《あた》はず。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|智《かしこ》くして|慧《さと》き|者《もの》は|誰《たれ》なるか、その|人《ひと》は|善《よ》き|行状《ぎゃうじゃう》により|柔和《にうわ》なる|智慧《ちゑ》をもて|行爲《おこなひ》を|顯《あらは》すべし。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》|等《ら》もし|心《こころ》のうちに|苦《にが》き|妬《ねたみ》と|黨派心《たうはしん》とを|懷《いだ》かば、|誇《ほこ》るな、|眞理《しんり》に|悖《もと》りて|僞《いつは》るな。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かかる|智慧《ちゑ》は|上《うへ》より|下《くだ》るにあらず、|地《ち》に|屬《ぞく》し、|情《じゃう》|慾《よく》に|屬《ぞく》し、|惡鬼《あくき》に|屬《ぞく》するものなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|妬《ねたみ》と|黨派心《たうはしん》とある|所《ところ》には|亂《みだれ》と|各樣《さまざま》の|惡《あ》しき|業《わざ》とあればなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されど|上《うへ》よりの|智慧《ちゑ》は|第一《だいいち》に|潔《いさぎ》よく、|次《つぎ》に|平和《へいわ》・|寛容《くわんよう》・|温順《おんじゅん》また|憐憫《あはれみ》と|善《よ》き|果《み》とに|滿《み》ち、|人《ひと》を|偏《かたよ》り|視《み》ず、|虚僞《いつはり》なきものなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|義《ぎ》の|果《み》は|平和《へいわ》をおこなふ|者《もの》の|平和《へいわ》をもて|播《ま》くに|因《よ》るなり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうちの|戰爭《いくさ》は|何處《いづこ》よりか、|分爭《あらそひ》は|何處《いづこ》よりか、|汝《なんぢ》らの|肢體《したい》のうちに|戰《たたか》ふ|慾《よく》より|來《きた》るにあらずや。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|貪《むさぼ》れども|得《え》ず、|殺《ころ》すことをなし、|妬《ねた》むことを|爲《す》れども|得《う》ること|能《あた》はず、|汝《なんぢ》らは|爭《あらそ》ひまた|戰《いくさ》す。|汝《なんぢ》らの|得《え》ざるは|求《もと》めざるに|因《よ》りてなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》ら|求《もと》めてなほ|受《う》けざるは|慾《よく》のために|費《つひや》さんとて|妄《みだり》に|求《もと》むるが|故《ゆゑ》なり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|姦淫《かんいん》をおこなふ|者《もの》よ、|世《よ》の|友《とも》となるは、|神《かみ》に|敵《てき》するなるを|知《し》らぬか、|誰《たれ》にても|世《よ》の|友《とも》とならんと|欲《ほっ》する|者《もの》は、|己《おのれ》を|神《かみ》の|敵《てき》とするなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|聖書《せいしょ》に『|神《かみ》は|我《われ》らの|衷《うち》に|住《す》ませ|給《たま》ひし|靈《れい》を、|妬《ねた》むほどに|慕《した》ひたまふ』と|云《い》へるを|虚《むな》しきことと|汝《なんぢ》ら|思《おも》ふか。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|更《さら》に|大《おほい》なる|恩惠《めぐみ》を|賜《たま》ふ。されば|言《い》ふ『|神《かみ》は|高《たか》ぶる|者《もの》を|拒《ふせ》ぎ、へりくだる|者《もの》に|恩惠《めぐみ》を|與《あた》へ|給《たま》ふ』と。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》ら|神《かみ》に|服《したが》へ、|惡魔《あくま》に|立《た》ち|向《むか》へ、さらば|彼《かれ》なんぢらを|逃《に》げ|去《さ》らん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》に|近《ちか》づけ、さらば|神《かみ》なんぢらに|近《ちか》づき|給《たま》はん。|罪人《つみびと》よ、|手《て》を|淨《きよ》めよ、|二心《ふたごころ》の|者《もの》よ、|心《こころ》を|潔《いさぎ》よくせよ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|惱《なや》め、|悲《かな》しめ、|泣《な》け、なんぢらの|笑《わらひ》を|悲歎《かなしみ》に、なんぢらの|歡喜《よろこび》を|憂《うれひ》に|易《か》へよ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》の|前《まへ》に|己《おのれ》を|卑《ひく》うせよ、|然《さ》らば|主《しゅ》なんぢらを|高《たか》うし|給《たま》はん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|互《たがひ》に|謗《そし》るな。|兄弟《きゃうだい》を|謗《そし》る|者《もの》、|兄弟《きゃうだい》を|審《さば》く|者《もの》は、これ|律法《おきて》を|誹《そし》り、|律法《おきて》を|審《さば》くなり。|汝《なんぢ》もし|律法《おきて》を|審《さば》かば、|律法《おきて》をおこなふ|者《もの》にあらずして|審判《さばき》|人《ひと》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|立法者《りっぽふしゃ》また|審判者《さばきびと》は|唯《ただ》|一人《ひとり》にして、|救《すく》ふことをも|滅《ほろ》ぼすことをも|爲《な》し|得《う》るなり。なんぢ|誰《たれ》なれば|隣《となり》を|審《さば》くか。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|聽《き》け『われら|今日《けふ》もしくは|明日《あす》それがしの|町《まち》に|往《ゆ》きて、|一年《ひととせ》の|間《あひだ》かしこに|留《とどま》り、|賣買《うりかひ》して|利《り》を|得《え》ん』と|言《い》ふ|者《もの》よ、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|明日《あす》のことを|知《し》らず、|汝《なんぢ》らの|生命《いのち》は|何《なに》ぞ、|暫《しばら》く|現《あらは》れて|遂《つひ》に|消《き》ゆる|霧《きり》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》その|言《い》ふところに|易《か》へて『|主《しゅ》の|御意《みこころ》ならば、|我《われ》ら|活《い》きて|此《こ》のこと、|或《あるひ》は|彼《か》のことを|爲《な》さん』と|言《い》ふべきなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されど|今《いま》なんぢらは|高《たか》ぶりて|誇《ほこ》る、|斯《か》くのごとき|誇《ほこり》はみな|惡《あ》しきなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》|善《ぜん》を|行《おこな》ふことを|知《し》りて、|之《これ》を|行《おこな》はぬは|罪《つみ》なり。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|聽《き》け、|富《と》める|者《もの》よ、なんぢらの|上《うへ》に|來《きた》らんとする|艱難《なやみ》のために|泣《な》きさけべ。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|財《たから》は|朽《く》ち、|汝《なんぢ》らの|衣《ころも》は|蠧《むしば》み、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|金《きん》|銀《ぎん》は|錆《さ》びたり。この|錆《さび》なんぢらに|對《むか》ひて|證《あかし》をなし、かつ|火《ひ》のごとく|汝《なんぢ》らの|肉《にく》を|蝕《く》はん。|汝《なんぢ》|等《ら》この|末《すゑ》の|世《よ》に|在《あ》りてなほ|財《たから》を|蓄《たくは》へたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|汝《なんぢ》|等《ら》がその|畑《はた》を|刈《か》り|入《い》れたる|勞動人《はたらきびと》に|拂《はら》はざりし|値《あたひ》は|叫《さけ》び、その|刈《か》りし|者《もの》の|呼聲《よびごゑ》は|萬軍《ばんぐん》の|主《しゅ》の|耳《みみ》に|入《い》れり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|地《ち》にて|奢《おご》り|樂《たの》しみ、|屠《ほふ》らるる|日《ひ》に|在《あ》りて|尚《なほ》おのが|心《こころ》を|飽《あ》かせり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|正《ただ》しき|者《もの》を|罪《つみ》に|定《さだ》め、|且《かつ》これを|殺《ころ》せり、|彼《かれ》は|汝《なんぢ》らに|抵抗《ていかう》することなし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|主《しゅ》の|來《きた》り|給《たま》ふまで|耐《た》へ|忍《しの》べ。|視《み》よ、|農夫《のうふ》は|地《ち》の|貴《たふと》き|實《み》を、|前《まへ》と|後《あと》との|雨《あめ》を|得《う》るまで|耐《た》へ|忍《しの》びて|待《ま》つなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らも|耐《た》へ|忍《しの》べ、なんぢらの|心《こころ》を|堅《かた》うせよ。|主《しゅ》の|來《きた》り|給《たま》ふこと|近《ちか》づきたればなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|互《たがひ》に|怨言《うらみごと》をいふな、|恐《おそ》らくは|審《さば》かれん。|視《み》よ、|審判《さばき》|主《ぬし》、|門《もん》の|前《まへ》に|立《た》ちたまふ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|主《しゅ》の|名《な》によりて|語《かた》りし|預言者《よげんしゃ》たちを|苦難《くるしみ》と|耐忍《しのび》との|模範《もはん》とせよ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|我《われ》らは|忍《しの》ぶ|者《もの》を|幸福《さいはひ》なりと|思《おも》ふ。なんぢらヨブの|忍耐《にんたい》を|聞《き》けり、|主《しゅ》の|彼《かれ》に|成《な》し|給《たま》ひし|果《み》を|見《み》たり、|即《すなは》ち|主《しゅ》は|慈悲《じひ》ふかく、かつ|憐憫《あはれみ》あるものなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、|何事《なにごと》よりも|先《ま》づ|誓《ちか》ふな、|或《あるひ》は|天《てん》、あるひは|地《ち》、あるひは|其《そ》の|他《ほか》のものを|指《さ》して|誓《ちか》ふな。|只《ただ》なんぢら|然《しか》りは|然《しか》り|否《いな》は|否《いな》とせよ、|罪《つみ》に|定《さだ》めらるる|事《こと》なからん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|苦《くる》しむ|者《もの》あるか、その|人《ひと》、|祈《いのり》せよ。|喜《よろこ》ぶ|者《もの》あるか、その|人《ひと》、|讃美《さんび》せよ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|病《や》める|者《もの》あるか、その|人《ひと》、|教會《けうくわい》の|長老《ちゃうらう》たちを|招《まね》け。|彼《かれ》らは|主《しゅ》の|名《な》により|其《そ》の|人《ひと》に|油《あぶら》をぬりて|祈《いの》るべし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]さらば|信仰《しんかう》の|祈《いのり》は|病《や》める|者《もの》を|救《すく》はん、|主《しゅ》かれを|起《おこ》し|給《たま》はん、もし|罪《つみ》を|犯《をか》しし|事《こと》あらば|赦《ゆる》されん。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|互《たがひ》に|罪《つみ》を|言《い》ひ|表《あらは》し、かつ|癒《いや》されんために|相《あひ》|互《たがひ》に|祈《いの》れ、|正《ただ》しき|人《ひと》の|祈《いのり》ははたらきて|大《おほい》なる|力《ちから》あり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]エリヤは|我《われ》らと|同《おな》じ|情《じゃう》をもてる|人《ひと》なるに、|雨《あめ》|降《ふ》らざることを|切《せつ》に|祈《いの》りしかば、|三年《さんねん》|六个月《ろくかげつ》のあひだ|地《ち》に|雨《あめ》|降《ふ》らざりき。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かくて|再《ふたた》び|祈《いの》りたれば、|天《てん》|雨《あめ》を|降《ふ》らし、|地《ち》その|果《み》を|生《しゃう》ぜり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]わが|兄弟《きゃうだい》よ、|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|眞理《しんり》より|迷《まよ》ふ|者《もの》あらんに、|誰《たれ》か|之《これ》を|引囘《ひきかへ》さば、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]その|人《ひと》は|知《し》れ、|罪人《つみびと》をその|迷《まよ》へる|道《みち》より|引囘《ひきかへ》す|者《もの》は、かれの|靈魂《たましひ》を|死《し》より|救《すく》ひ、|多《おほ》くの|罪《つみ》を|掩《おほ》ふことを。 [#改ページ] ペテロの前の書[#「ペテロの前の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス・キリストの|使徒《しと》ペテロ、|書《ふみ》をポント、ガラテヤ、カパドキヤ、アジヤ、ピテニヤに|散《ち》りて|宿《やど》れる|者《もの》、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|父《ちち》なる|神《かみ》の|預《あらか》じめ|知《し》り|給《たま》ふところに|隨《したが》ひて、|御靈《みたま》の|潔《きよめ》により|柔順《じうじゅん》ならんため、イエス・キリストの|血《ち》の|灑《そそぎ》を|受《う》けんために|選《えら》ばれたる|者《もの》に|贈《おく》る。|願《ねが》はくは|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|増《ま》さんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|讃《ほ》むべきかな、|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|父《ちち》なる|神《かみ》、その|大《おほい》なる|憐憫《あはれみ》に|隨《したが》ひ、イエス・キリストの|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へり|給《たま》へることに|由《よ》り、|我《われ》らを|新《あらた》に|生《うま》れしめて|生《い》ける|望《のぞみ》を|懷《いだ》かせ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|天《てん》に|蓄《たくは》へある、|朽《く》ちず|汚《けが》れず|萎《しぼ》まざる|嗣業《しげふ》を|繼《つ》がしめ|給《たま》へり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|終《をはり》のときに|顯《あらは》れんとて|備《そなは》りたる|救《すくひ》を|得《え》んために、|信仰《しんかう》によりて|神《かみ》の|力《ちから》に|護《まも》らるるなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》ら|今《いま》しばしの|程《ほど》さまざまの|試煉《こころみ》によりて|憂《うれ》へざるを|得《え》ずとも、なほ|大《おほい》に|喜《よろこ》べり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》の|驗《ためし》は、|壞《く》つる|金《きん》の|火《ひ》にためさるるよりも|貴《たふと》くして、イエス・キリストの|現《あらは》れ|給《たま》ふとき|譽《ほまれ》と|光榮《くわうえい》と|尊貴《たふとき》とを|得《う》べきなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らイエスを|見《み》しことなけれど|之《これ》を|愛《あい》し、|今《いま》|見《み》ざれども|之《これ》を|信《しん》じて、|言《い》ひがたく、かつ|光榮《くわうえい》ある|喜悦《よろこび》をもて|喜《よろこ》ぶ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]これ|信仰《しんかう》の|極《はて》、すなはち|靈魂《たましひ》の|救《すくひ》を|受《う》くるに|因《よ》る。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|受《う》くべき|恩惠《めぐみ》を|預言《よげん》したる|預言者《よげんしゃ》たちは、この|救《すくひ》につきて|具《つぶさ》に|尋《たづ》ね|査《しら》べたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|彼《かれ》らは|己《おの》が|中《うち》に|在《いま》すキリストの|靈《れい》の、キリストの|受《う》くべき|苦難《くるしみ》および|其《そ》の|後《のち》の|榮光《えいくわう》を|預《あらか》じめ|證《あかし》して、|何時《いつ》のころ|如何《いか》なる|時《とき》を|示《しめ》し|給《たま》ひしかを|査《しら》べたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》はその|勤《つと》むるところ|己《おのれ》のためにあらず、|汝《なんぢ》らの|爲《ため》なることを|默示《もくし》によりて|知《し》れり。|即《すなは》ち|天《てん》より|遣《つかは》され|給《たま》へる|聖《せい》|靈《れい》によりて|福音《ふくいん》を|宣《の》ぶる|者《もの》どもの、|汝《なんぢ》らに|傳《つた》へたる|所《ところ》にして、|御使《みつかひ》たちも|之《これ》を|懇《ねんご》ろに|視《み》んと|欲《ほっ》するなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、なんぢら|心《こころ》の|腰《こし》に|帶《おび》し、|愼《つつし》みてイエス・キリストの|現《あらは》れ|給《たま》ふときに、|與《あた》へられんとする|恩惠《めぐみ》を|疑《うたが》はずして|望《のぞ》め。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|從順《じゅうじゅん》なる|子《こ》|等《ら》の|如《ごと》くして、|前《さき》の|無知《むち》なりし|時《とき》の|慾《よく》に|效《なら》はず、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らを|召《め》し|給《たま》ひし|聖者《しゃうじゃ》に|效《なら》ひて、|自《みづか》ら|凡《すべ》ての|行状《ぎゃうじゃう》に|潔《きよ》かれ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|録《しる》して『われ|聖《せい》なれば、|汝《なんぢ》らも|聖《せい》なるべし』とあればなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]また|偏《かたよ》ることなく|各人《おのおの》の|業《わざ》に|隨《したが》ひて|審《さば》きたまふ|者《もの》を|父《ちち》と|呼《よ》ばば、|畏《おそれ》をもて|世《よ》に|寓《やど》る|時《とき》を|過《すご》せ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢらが|先祖《せんぞ》たちより|傳《つた》はりたる|虚《むな》しき|行状《ぎゃうじゃう》より|贖《あがな》はれしは、|銀《ぎん》や|金《きん》のごとき|朽《く》つる|物《もの》に|由《よ》るにあらず、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|瑕《きず》なく|汚點《しみ》なき|羔羊《こひつじ》の|如《ごと》きキリストの|貴《たふと》き|血《ち》に|由《よ》ることを|知《し》ればなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|世《よ》の|創《はじめ》の|前《さき》より|預《あらか》じめ|知《し》られたまひしが、この|末《すゑ》の|世《よ》に|現《あらは》れ|給《たま》へり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]これは|彼《かれ》を|死人《しにん》の|中《うち》より|甦《よみが》へらせて|之《これ》に|榮光《えいくわう》を|與《あた》へ|給《たま》ひし|神《かみ》を、|彼《かれ》によりて|信《しん》ずる|汝《なんぢ》らの|爲《ため》なり、この|故《ゆゑ》に|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》と|希望《のぞみ》とは|神《かみ》に|由《よ》れり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|眞理《しんり》に|從《したが》ふによりて|靈魂《たましひ》をきよめ、|僞《いつは》りなく|兄弟《きゃうだい》を|愛《あい》するに|至《いた》りたれば、|心《こころ》より|熱《あつ》く|相《あひ》|愛《あい》せよ。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|朽《く》つる|種《たね》に|由《よ》らで、|朽《く》つることなき|種《たね》、すなはち|神《かみ》の|活《い》ける|限《かぎ》りなく|保《たも》つ|言《ことば》に|由《よ》りて|新《あらた》に|生《うま》れたればなり。 [#ここから2字下げ] [#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]『|人《ひと》はみな|草《くさ》のごとく、 その|光榮《くわうえい》はみな|草《くさ》の|花《はな》の|如《ごと》し、 |草《くさ》は|枯《か》れ、|花《はな》は|落《お》つ。 [#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]されど|主《しゅ》の|御言《みことば》は|永遠《とこしへ》に|保《たも》つなり』 [#ここで字下げ終わり] |汝《なんぢ》らに|宣傅《のべつた》へたる|福音《ふくいん》の|言《ことば》は|即《すなは》ちこれなり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されば|凡《すべ》ての|惡意《あくい》、すべての|詭計《たばかり》・|僞善《ぎぜん》・|嫉妬《ねたみ》および|凡《すべ》ての|謗《そしり》を|棄《す》てて、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]いま|生《うま》れし|嬰兒《みどりご》のごとく|靈《れい》の|眞《まこと》の|乳《ちち》を|慕《した》へ、|之《これ》により|育《そだ》ちて|救《すくひ》に|至《いた》らん|爲《ため》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|既《すで》に|主《しゅ》の|仁慈《なさけ》あることを|味《あぢは》ひ|知《し》りたらんには、|然《しか》すべきなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》は|人《ひと》に|棄《す》てられ|給《たま》へど、|神《かみ》に|選《えら》ばれたる|貴《たふと》き|活《い》ける|石《いし》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|彼《かれ》にきたり、|活《い》ける|石《いし》のごとく|建《た》てられて|靈《れい》の|家《いへ》となれ。これ|潔《きよ》き|祭司《さいし》となり、イエス・キリストに|由《よ》りて|神《かみ》に|喜《よろこ》ばるる|靈《れい》の|犧牲《いけにへ》を|献《ささ》げん|爲《ため》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|聖書《せいしょ》に [#ここから2字下げ] 『|視《み》よ、|選《えら》ばれたる|貴《たふと》き |隅《すみ》の|首石《おやいし》を|我《われ》シオンに|置《お》く。 |之《これ》に|依頼《よりたの》む|者《もの》は|辱《はづか》しめられじ』 [#ここで字下げ終わり] とあるなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されば|信《しん》ずる|汝《なんぢ》らには|尊《たふと》きなれど、|信《しん》ぜぬ|者《もの》には『|造家者《いへつくり》らの|棄《す》てたる|石《いし》は、|隅《すみ》の|首石《おやいし》となれる』にて、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]『つまづく|石《いし》、|礙《さまた》ぐる|岩《いは》』となるなり。|彼《かれ》らは|服《したが》はぬに|因《よ》りて|御言《みことば》に|躓《つまづ》く。これは|斯《か》く|定《さだ》められたるなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》らは|選《えら》ばれたる|族《やから》、|王《わう》なる|祭司《さいし》・|潔《きよ》き|國人《くにびと》・|神《かみ》に|屬《つ》ける|民《たみ》なり、これ|汝《なんぢ》らを|暗黒《くらき》より|召《め》して、|己《おのれ》の|妙《たへ》なる|光《ひかり》に|入《い》れ|給《たま》ひし|者《もの》の|譽《ほまれ》を|顯《あらは》させん|爲《ため》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|前《さき》には|民《たみ》にあらざりしが、|今《いま》は|神《かみ》の|民《たみ》なり。|前《さき》には|憐憫《あはれみ》を|蒙《かうむ》らざりしが、|今《いま》は|憐憫《あはれみ》を|蒙《かうむ》れり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、われ|汝《なんぢ》らに|勸《すす》む。|汝《なんぢ》らは|旅人《たびびと》また|宿《やど》れる|者《もの》なれば、|靈魂《たましひ》に|逆《さから》ひて|戰《たたか》ふ|肉《にく》の|慾《よく》を|避《さ》け、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|異邦人《いはうじん》の|中《うち》にありて|行状《ぎゃうじゃう》を|美《うるわ》しく|爲《せ》よ、これ|汝《なんぢ》らを|謗《そし》りて|惡《あく》をおこなふ|者《もの》と|云《い》へる|人々《ひとびと》の、|汝《なんぢ》らの|善《よ》き|行爲《おこなひ》を|見《み》て、|反《かへ》つて|眷顧《かへりみ》の|日《ひ》に|神《かみ》を|崇《あが》めん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|主《しゅ》のために|凡《すべ》て|人《ひと》の|立《た》てたる|制度《せいど》に|服《したが》へ。|或《あるひ》は|上《かみ》に|在《あ》る|王《わう》、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|或《あるひ》は|惡《あく》をおこなふ|者《もの》を|罰《ばっ》し、|善《ぜん》をおこなふ|者《もの》を|賞《しゃう》せんために|王《わう》より|遣《つかは》されたる|司《つかさ》に|服《したが》へ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|善《ぜん》を|行《おこな》ひて|愚《おろか》なる|人《ひと》の|無知《むち》の|言《ことば》を|止《とど》むるは、|神《かみ》の|御意《みこころ》なればなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|自由《じいう》なる|者《もの》のごとくすとも、その|自由《じいう》をもて|惡《あく》の|覆《おほひ》となさず、|神《かみ》の|僕《しもべ》のごとくせよ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|凡《すべ》ての|人《ひと》を|敬《うやま》ひ、|兄弟《きゃうだい》を|愛《あい》し、|神《かみ》を|畏《おそ》れ、|王《わう》を|尊《たふと》べ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|僕《しもべ》たる|者《もの》よ、|大《おほい》なる|畏《おそれ》をもて|主人《しゅじん》に|服《したが》へ、|啻《ただ》に|善《よ》きもの、|寛容《くわんよう》なる|者《もの》にのみならず、|情《じゃう》なき|者《もの》にも|服《したが》へ、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|受《う》くべからざる|苦難《くるしみ》を|受《う》け、|神《かみ》を|認《みと》むるに|因《よ》りて|憂《うれひ》に|堪《た》ふる|事《こと》をせば、これ|譽《ほ》むべきなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]もし|罪《つみ》を|犯《をか》して|撻《う》たるるとき、|之《これ》を|忍《しの》ぶとも|何《なに》の|功《こう》かある。されど|若《も》し|善《ぜん》を|行《おこな》ひてなほ|苦《くる》しめらるる|時《とき》これを|忍《しの》ばば、これ|神《かみ》の|譽《ほ》めたまふ|所《ところ》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|之《これ》がために|召《め》されたり、キリストも|汝《なんぢ》らの|爲《ため》に|苦難《くるしみ》をうけ、|汝《なんぢ》らを|其《そ》の|足跡《あしあと》に|隨《したが》はしめんとて|模範《もはん》を|遺《のこ》し|給《たま》へるなり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|罪《つみ》を|犯《をか》さず、その|口《くち》に|虚僞《いつはり》なく、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]また|罵《ののし》られて|罵《ののし》らず、|苦《くる》しめられて|脅《おびや》かさず、|正《ただ》しく|審《さば》きたまふ|者《もの》に|己《おのれ》を|委《ゆだ》ね、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|木《き》の|上《うへ》に|懸《かか》りて、みづから|我《われ》らの|罪《つみ》を|己《おの》が|身《み》に|負《お》ひ|給《たま》へり。これ|我《われ》らが|罪《つみ》に|就《つ》きて|死《し》に、|義《ぎ》に|就《つ》きて|生《い》きん|爲《ため》なり。|汝《なんぢ》らは|彼《かれ》の|傷《きず》によりて|癒《いや》されたり。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|前《さき》には|羊《ひつじ》のごとく|迷《まよ》ひたりしが、|今《いま》は|汝《なんぢ》らの|靈魂《たましひ》の|牧者《ぼくしゃ》たる|監督《かんとく》に|歸《かへ》りたり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一 二[#「一 二」は行右小書き][#太字終わり]|妻《つま》たる|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らもその|夫《をっと》に|服《したが》へ。たとひ|御言《みことば》に|遵《したが》はぬ|夫《をっと》ありとも、|汝《なんぢ》らの|潔《きよ》く、かつ|恭敬《うやうや》しき|行状《ぎゃうじゃう》を|見《み》て、|言《ことば》によらず|妻《つま》の|行状《ぎゃうじゃう》によりて|救《すくひ》に|入《い》らん|爲《ため》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|髮《かみ》を|辮《あ》み、|金《きん》をかけ、|衣服《ころも》を|裝《よそほ》ふごとき|表面《うはべ》のものを|飾《かざり》とせず、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|心《こころ》のうちの|隱《かく》れたる|人《ひと》、すなはち|柔和《にうわ》、|恬靜《しづやか》なる|靈《れい》の|朽《く》ちぬ|物《もの》を|飾《かざり》とすべし、|是《これ》こそは|神《かみ》の|前《まへ》にて|價《あたひ》|貴《たふと》きものなれ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]むかし|神《かみ》に|望《のぞみ》を|置《お》きたる|潔《きよ》き|女《をんな》たちも、かくの|如《ごと》くその|夫《をっと》に|服《したが》ひて|己《おのれ》を|飾《かざ》りたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ちサラがアブラハムを|主《しゅ》と|呼《よ》びて|之《これ》に|服《したが》ひし|如《ごと》し。|汝《なんぢ》らも|善《ぜん》を|行《おこな》ひて|何事《なにごと》にも|戰《おのの》き|懼《おそ》れずばサラの|子《こ》たるなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|夫《をっと》たる|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らその|妻《つま》を|己《おのれ》より|弱《よわ》き|器《うつは》の|如《ごと》くし、|知識《ちしき》にしたがひて|偕《とも》に|棲《す》み、|生命《いのち》の|恩惠《めぐみ》を|共《とも》に|嗣《つ》ぐ|者《もの》として|之《これ》を|貴《たふと》べ、これ|汝《なんぢ》らの|祈《いのり》に|妨害《さまたげ》なからん|爲《ため》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|終《をはり》に|言《い》ふ、|汝《なんぢ》らみな|心《こころ》を|同《おな》じうし、|互《たがひ》に|思《おも》ひ|遣《や》り、|兄弟《きゃうだい》を|愛《あい》し、|憐《あはれ》み、へりくだり、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|惡《あく》をもて|惡《あく》に、|謗《そしり》をもて|謗《そしり》に|報《むく》ゆることなく、|反《かへ》つて|之《これ》を|祝福《しくふく》せよ。|汝《なんぢ》らの|召《め》されたるは|祝福《しくふく》を|嗣《つ》がん|爲《ため》なればなり。 [#ここから2字下げ] [#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]『|生命《いのち》を|愛《あい》し、|善《よ》き|日《ひ》を|送《おく》らんとする|者《もの》は、 |舌《した》を|抑《おさ》へて|惡《あく》を|避《さ》け、 |口唇《くちびる》を|抑《おさ》へて|虚僞《いつはり》を|語《かた》らず、 [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|惡《あく》より|遠《とほ》ざかりて|善《ぜん》をおこなひ、|平和《へいわ》を|求《もと》めて|之《これ》を|追《お》ふべし。 [#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]それ|主《しゅ》の|目《め》は|義人《ぎじん》の|上《うへ》にとどまり、 その|耳《みみ》は|彼《かれ》らの|祈《いのり》にかたむく。 されど|主《しゅ》の|御顏《みかほ》は|惡《あく》をおこなふ|者《もの》に|向《むか》ふ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》もし|善《ぜん》に|熱心《ねっしん》ならば、|誰《たれ》か|汝《なんぢ》らを|害《そこな》はん。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]たとひ|義《ぎ》のために|苦《くる》しめらるる|事《こと》ありとも、|汝《なんぢ》ら|幸福《さいはひ》なり『|彼《かれ》|等《ら》の|威嚇《おどし》を|懼《おそ》るな、また|心《こころ》を|騷《さわ》がすな』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|心《こころ》の|中《うち》にキリストを|主《しゅ》と|崇《あが》めよ、また|汝《なんぢ》らの|衷《うち》にある|望《のぞみ》の|理由《りいう》を|問《と》ふ|人《ひと》には、|柔和《にうわ》と|畏懼《おそれ》とをもて|常《つね》に|辯明《べんめい》すべき|準備《そなへ》をなし、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かつ|善《よ》き|良心《りゃうしん》を|保《たも》て。これ|汝《なんぢ》|等《ら》のキリストに|在《あ》りて|行《おこな》ふ|善《よ》き|行状《ぎゃうじゃう》を|罵《ののし》る|者《もの》の、その|謗《そし》ることに|就《つ》きて|自《みづか》ら|愧《は》ぢん|爲《ため》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]もし|善《ぜん》をおこなひて|苦難《くるしみ》を|受《う》くること|神《かみ》の|御意《みこころ》ならば、|惡《あく》を|行《おこな》ひて|苦難《くるしみ》を|受《う》くるに|勝《まさ》るなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]キリストも|汝《なんぢ》らを|神《かみ》に|近《ちか》づかせんとて、|正《ただ》しきもの|正《ただ》しからぬ|者《もの》に|代《かわ》りて、|一《ひと》たび|罪《つみ》のために|死《し》に|給《たま》へり、|彼《かれ》は|肉體《にくたい》にて|殺《ころ》され、|靈《れい》にて|生《い》かされ|給《たま》へるなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]また|靈《れい》にて|往《ゆ》き、|獄《ひとや》にある|靈《れい》に|宣傅《のべつた》へたまへり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]これらの|靈《れい》は、|昔《むかし》ノアの|時代《じだい》に|方舟《はこぶね》の|備《そな》へらるるあひだ|寛容《くわんよう》をもて|神《かみ》の|待《ま》ち|給《たま》へるとき、|服《したが》はざりし|者《もの》どもなり、その|方舟《はこぶね》に|入《い》り|水《みづ》を|經《へ》て|救《すく》はれし|者《もの》は、|僅《わづか》にしてただ|八人《はちにん》なりき。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|水《みづ》に|象《かたど》れるバプテスマは|肉《にく》の|汚穢《けがれ》を|除《のぞ》くにあらず、|善《よ》き|良心《りゃうしん》の|神《かみ》に|對《たい》する|要求《もとめ》にして、イエス・キリストの|復活《よみがへり》によりて|今《いま》なんぢらを|救《すく》ふ。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|天《てん》に|昇《のぼ》りて|神《かみ》の|右《みぎ》に|在《いま》す。|御使《みつかひ》たち|及《およ》びもろもろの|權威《けんゐ》と|能力《ちから》とは|彼《かれ》に|服《したが》ふなり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]キリスト|肉體《にくたい》にて|苦難《くるしみ》を|受《う》け|給《たま》ひたれば、|汝《なんぢ》らも|亦《また》おなじ|心《こころ》をもて|自《みづか》ら|鎧《よろ》へ。――|肉體《にくたい》にて|苦難《くるしみ》を|受《う》くる|者《もの》は|罪《つみ》を|止《や》むるなり――[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]これ|今《いま》よりのち、|人《ひと》の|慾《よく》に|從《したが》はず、|神《かみ》の|御意《みこころ》に|從《したが》ひて、|肉體《にくたい》に|寓《やど》れる|殘《のこり》の|時《とき》を|過《すご》さん|爲《ため》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|過《す》ぎにし|日《ひ》は、|異邦人《いはうじん》の|好《この》む|所《ところ》をおこなひ、|好色《かうしょく》・|慾《よく》|情《じゃう》・|酩酊《めいてい》・|宴樂《えんらく》・|暴飮《ばういん》・|律法《おきて》にかなはぬ|偶像《ぐうざう》|崇拜《すうはい》に|歩《あゆ》みて、もはや|足《た》れり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|汝《なんぢ》らの|己《おのれ》とともに|放蕩《はうたう》の|極《きはみ》に|走《はし》らぬを|怪《あや》しみて|譏《そし》るなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|生《い》ける|者《もの》と|死《し》にたる|者《もの》とを|審《さば》く|準備《そなへ》をなし|給《たま》へる|者《もの》に|己《おのれ》のことを|陳《の》ぶべし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|福音《ふくいん》の|死《し》にたる|者《もの》に|宣傅《のべつた》へられしは、|彼《かれ》らが|肉體《にくたい》にて|人《ひと》のごとく|審《さば》かれ、|靈《れい》にて|神《かみ》のごとく|生《い》きん|爲《ため》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|萬《よろづ》の|物《もの》のをはり|近《ちか》づけり、|然《さ》れば|汝《なんぢ》ら|心《こころ》を|慥《たしか》にし、|愼《つつし》みて|祈《いのり》せよ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|何事《なにごと》よりも|先《ま》づ|互《たがひ》に|熱《あつ》く|相《あひ》|愛《あい》せよ。|愛《あい》は|多《おほ》くの|罪《つみ》を|掩《おほ》へばなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|吝《をし》むことなく|互《たがひ》に|懇《ねんご》ろに|待《もてな》せ。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》のさまざまの|恩惠《めぐみ》を|掌《つかさ》どる|善《よ》き|家《いへ》|司《つかさ》のごとく、|各人《おのおの》その|受《う》けし|賜物《たまもの》をもて|互《たがひ》に|事《つか》へよ。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]もし|語《かた》るならば、|神《かみ》の|言《ことば》をかたる|者《もの》のごとく|語《かた》り、|事《つか》ふるならば、|神《かみ》の|與《あた》へたまふ|能力《ちから》を|受《う》けたる|者《もの》のごとく|事《つか》へよ。|是《これ》イエス・キリストによりて|事々《ことごと》に|神《かみ》の|崇《あが》められ|給《たま》はん|爲《ため》なり。|榮光《えいくわう》と|權力《ちから》とは|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|彼《かれ》に|歸《き》するなり、アァメン。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らを|試《こころ》みんとて|來《きた》れる|火《ひ》のごとき|試煉《こころみ》を|異《こと》なる|事《こと》として|怪《あや》しまず、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|反《かへ》つてキリストの|苦難《くるしみ》に|與《あづか》れば、|與《あづか》るほど|喜《よろこ》べ、なんぢら|彼《かれ》の|榮光《えいくわう》の|顯《あらは》れん|時《とき》にも|喜《よろこ》び|樂《たの》しまん|爲《ため》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]もし|汝《なんぢ》|等《ら》キリストの|名《な》のために|謗《そし》られなば|幸福《さいはひ》なり。|榮光《えいくわう》の|御靈《みたま》すなはち|神《かみ》の|御靈《みたま》なんじらの|上《うへ》に|留《とどま》り|給《たま》へばなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|誰《たれ》にても|或《あるひ》は|殺人《ひとごろし》、あるひは|盜人《ぬすびと》、あるひは|惡《あく》を|行《おこな》ふ|者《もの》、あるひは|妄《みだり》に|他人《たにん》の|事《こと》に|干渉《かんせふ》する|者《もの》となりて|苦難《くるしみ》に|遭《あ》ふな。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]されど|若《も》しキリステアンたるをもて|苦難《くるしみ》を|受《う》けなば、|之《これ》を|恥《は》づることなく、|反《かへ》つて|此《こ》の|名《な》によりて|神《かみ》を|崇《あが》めよ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|既《すで》に|時《とき》いたれり、|審判《さばき》は|神《かみ》の|家《いへ》より|始《はじま》るべし。まづ|我等《われら》より|始《はじま》るとせば、|神《かみ》の|福音《ふくいん》に|從《したが》はざる|者《もの》のその|結局《はて》は|如何《いか》にぞや。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|義人《ぎじん》もし|辛《から》うじて|救《すく》はるるならば、|不《ふ》|敬虔《けいけん》なるもの、|罪《つみ》ある|者《もの》は|何處《いづこ》にか|立《た》たん。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]されば|神《かみ》の|御意《みこころ》に|從《したが》ひて|苦難《くるしみ》を|受《う》くる|者《もの》は、|善《ぜん》を|行《おこな》ひて|己《おの》が|靈魂《たましひ》を|眞實《まこと》なる|造物主《つくりぬし》にゆだね|奉《まつ》るべし。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》らの|中《うち》なる|長老《ちゃうらう》たちに|勸《すす》む(|我《われ》は|汝《なんぢ》らと|同《おな》じく|長老《ちゃうらう》たる|者《もの》、またキリストの|苦難《くるしみ》の|證人《しょうにん》、|顯《あらは》れんとする|榮光《えいくわう》に|與《あづか》る|者《もの》なり)[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|中《うち》にある|神《かみ》の|群羊《むれ》を|牧《か》へ。|止《や》むを|得《え》ずして|爲《な》さず、|神《かみ》に|從《したが》ひて|心《こころ》より|爲《な》し、|利《り》を|貪《むさぼ》るために|爲《な》さず、|悦《よろこ》びてなし、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|委《ゆだ》ねられたる|者《もの》の|主《しゅ》とならず、|群羊《むれ》の|模範《もはん》となれ。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]さらば|大牧者《だいぼくしゃ》の|現《あらは》れ|給《たま》ふとき、|萎《しぼ》まざる|光榮《くわうえい》の|冠冕《かんむり》を|受《う》けん。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|若《わか》き|者《もの》よ、なんぢら|長老《ちゃうらう》たちに|服《したが》へ、かつ|皆《みな》たがひに|謙遜《けんそん》をまとへ『|神《かみ》は|高《たか》ぶる|者《もの》を|拒《ふせ》ぎ、へりくだる|者《もの》に|恩惠《めぐみ》を|與《あた》へ|給《たま》ふ』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》の|能力《ちから》ある|御手《みて》の|下《した》に|己《おのれ》を|卑《ひく》うせよ、さらば|時《とき》に|及《およ》びて|神《かみ》なんぢらを|高《たか》うし|給《たま》はん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》もろもろの|心勞《こころづかひ》を|神《かみ》に|委《ゆだ》ねよ、|神《かみ》なんぢらの|爲《ため》に|慮《おもん》ぱかり|給《たま》へばなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|愼《つつし》みて|目《め》を|覺《さま》しをれ、|汝《なんぢ》らの|仇《あた》なる|惡魔《あくま》、ほゆる|獅子《しし》のごとく|歴迴《へめぐ》りて|呑《の》むべきものを|尋《たづ》ぬ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|信仰《しんかう》を|堅《かた》うして|彼《かれ》を|禦《ふせ》げ、なんぢらは|世《よ》にある|兄弟《きゃうだい》たちの|同《おな》じ|苦難《くるしみ》に|遭《あ》ふを|知《し》ればなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]もろもろの|恩惠《めぐみ》の|神《かみ》、すなはち|永遠《とこしへ》の|榮光《えいくわう》を|受《う》けしめんとて、キリストによりて|汝《なんぢ》らを|召《め》し|給《たま》へる|神《かみ》は、|汝《なんぢ》らが|暫《しばら》く|苦難《くるしみ》をうくる|後《のち》、なんぢらを|全《まった》うし、|堅《かた》うし、|強《つよ》くして、その|基《もとゐ》を|定《さだ》め|給《たま》はん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|權力《ちから》|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|神《かみ》にあれ、アァメン。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]われ|忠實《ちゅうじつ》なる|兄弟《きゃうだい》なりと|思《おも》ふシルワノに|由《よ》りて、|簡單《かんたん》に|書《か》き|贈《おく》りて|汝《なんぢ》らに|勸《すす》め、かつ|此《これ》は|神《かみ》の|眞《まこと》の|恩惠《めぐみ》なることを|證《あかし》す、|汝《なんぢ》|等《ら》この|恩惠《めぐみ》に|立《た》て。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らと|共《とも》に|選《えら》ばれてバビロンに|在《あ》る|教會《けうくわい》、なんぢらに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ、わが|子《こ》マルコも|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|愛《あい》の|接吻《くちつけ》をもて|互《たがひ》に|安否《あんぴ》を|問《と》へ。|願《ねが》はくはキリストに|在《あ》る|汝《なんぢ》ら|衆《すべて》に|平安《へいあん》あらんことを。 [#改ページ] ペテロの後の書[#「ペテロの後の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス・キリストの|僕《しもべ》また|使徒《しと》なるシメオン・ペテロ、|書《ふみ》を|我《われ》らの|神《かみ》および|救主《すくひぬし》イエス・キリストの|義《ぎ》によりて、|我《われ》らと|同《おな》じ|貴《たふと》き|信仰《しんかう》を|受《う》けたる|者《もの》に|贈《おく》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|神《かみ》および|我《われ》らの|主《しゅ》イエスを|知《し》るによりて、|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|増《ま》さんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]キリストの|神《かみ》たる|能力《ちから》は、|生命《いのち》と|敬虔《けいけん》とに|係《かかは》る|凡《すべ》てのものを|我《われ》らに|賜《たま》へり。|是《これ》おのれの|榮光《えいくわう》と|徳《とく》とをもて|召《め》し|給《たま》へる|者《もの》を|我《われ》ら|知《し》るに|因《よ》りてなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]その|榮光《えいくわう》と|徳《とく》とによりて|我《われ》らに|貴《たふと》き|大《おほい》なる|約束《やくそく》を|賜《たま》へり、これは|汝《なんぢ》らが|世《よ》に|在《あ》る|慾《よく》の|滅亡《ほろび》をのがれ、|神《かみ》の|性質《せいしつ》に|與《あづか》る|者《もの》とならん|爲《ため》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|勵《はげ》み|勉《つと》めて|汝《なんぢ》らの|信仰《しんかう》に|徳《とく》を|加《くは》へ、|徳《とく》に|知識《ちしき》を、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|知識《ちしき》に|節制《せつせい》を、|節制《せつせい》に|忍耐《にんたい》を、|忍耐《にんたい》に|敬虔《けいけん》を、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|敬虔《けいけん》に|兄弟《きゃうだい》の|愛《あい》を、|兄弟《きゃうだい》の|愛《あい》に|博愛《はくあい》を|加《くは》へよ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のもの|汝《なんぢ》らの|衷《うち》にありて|彌増《いやま》すときは、|汝《なんぢ》|等《ら》われらの|主《しゅ》イエス・キリストを|知《し》るに|怠《おこた》ることなく、|實《み》を|結《むす》ばぬこと|無《な》きに|至《いた》らん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のものの|無《な》きは|盲人《めしひ》にして|遠《とほ》く|見《み》ること|能《あた》はず、|己《おの》が|舊《ふる》き|罪《つみ》を|潔《きよ》められしことを|忘《わす》れたるなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|兄弟《きゃうだい》よ、ますます|勵《はげ》みて|汝《なんぢ》らの|召《め》されたること、|選《えら》ばれたることを|堅《かた》うせよ。|若《も》し|此《これ》|等《ら》のことを|行《おこな》はば|躓《つまづ》くことなからん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かくて|汝《なんぢ》らは|我《われ》らの|主《しゅ》なる|救主《すくひぬし》イエス・キリストの|永遠《とこしへ》の|國《くに》に|入《い》る|恩惠《めぐみ》を|豐《ゆたか》に|與《あた》へられん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》らは|此《これ》|等《ら》のことを|知《し》り、|既《すで》に|受《う》けたる|眞理《しんり》に|堅《かた》うせられたれど、|我《われ》つねに|此《これ》|等《ら》のことを|思《おも》ひ|出《いだ》させんとするなり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》は|尚《なほ》この|幕屋《まくや》に|居《を》るあいだ、|汝《なんぢ》らに|思《おも》ひ|出《いだ》させて|勵《はげ》ますを|正當《せいたう》なりと|思《おも》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]そは|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|我《われ》に|示《しめ》し|給《たま》へるごとく、|我《われ》わが|幕屋《まくや》を|脱《ぬ》ぎ|去《さ》ることの|速《すみや》かなるを|知《し》ればなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|汝《なんぢ》|等《ら》をして|我《わ》が|世《よ》を|去《さ》らん|後《のち》にも、|常《つね》に|此《これ》|等《ら》のことを|思《おも》ひ|出《いだ》させんと|勉《つと》むべし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|能力《ちから》と|來《きた》りたまふ|事《こと》とを|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐるに、|巧《たくみ》なる|作話《つくりばなし》を|用《もち》ひざりき、|我《われ》らは|親《した》しくその|稜威《みいつ》を|見《み》し|者《もの》なり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]いとも|貴《たふと》き|榮光《えいくわう》の|中《うち》より|聲《こゑ》|出《い》でて『こは|我《わ》が|愛《いつく》しむ|子《こ》なり、|我《われ》これを|悦《よろこ》ぶ』と|言《い》ひ|給《たま》へるとき、|主《しゅ》は|父《ちち》なる|神《かみ》より|尊貴《たふとき》と|榮光《えいくわう》とを|受《う》け|給《たま》へり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らも|彼《かれ》と|偕《とも》に|聖《せい》なる|山《やま》に|在《あ》りしとき、|天《てん》より|出《い》づる|此《こ》の|聲《こゑ》をきけり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|我《われ》らが|有《も》てる|預言《よげん》の|言《ことば》は|堅《かた》うせられたり。|汝《なんぢ》|等《ら》この|言《ことば》を|暗《くら》き|處《ところ》にかがやく|燈火《ともしび》として、|夜明《よあ》け、|明星《みゃうじゃう》の|汝《なんぢ》らの|心《こころ》の|中《うち》にいづるまで|顧《かへり》みるは|善《よ》し。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]なんじら|先《ま》づ|知《し》れ、|聖書《せいしょ》の|預言《よげん》は、すべて|己《おの》がままに|釋《と》くべきものにあらぬを。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|預言《よげん》は|人《ひと》の|心《こころ》より|出《い》でしにあらず、|人々《ひとびと》|聖《せい》|靈《れい》に|動《うご》かされ、|神《かみ》によりて|語《かた》れるものなればなり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]されど|民《たみ》のうちに|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》おこりき、その|如《ごと》く|汝《なんぢ》らの|中《うち》にも|僞《にせ》|教師《けうし》あらん。|彼《かれ》らは|滅亡《ほろび》にいたる|異端《いたん》を|持《も》ち|入《い》れ、|己《おのれ》らを|買《か》ひ|給《たま》ひし|主《しゅ》をさへ|否《いな》みて、|速《すみや》かなる|滅亡《ほろび》を|自《みづか》ら|招《まね》くなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]また|多《おほ》くの|人《ひと》かれらの|好色《かうしょく》に|隨《したが》はん、|之《これ》によりて|眞《まこと》の|道《みち》を|譏《そし》らるべし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|貪慾《どんよく》によりて|飾言《かざりことば》を|設《まう》け、|汝《なんぢ》|等《ら》より|利《り》をとらん。|彼《かれ》らの|審判《さばき》は|古《いにし》へより|定《さだ》められたれば|遲《おそ》からず、その|滅亡《ほろび》は|寢《い》ねず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|罪《つみ》を|犯《をか》しし|御使《みつかひ》たちを|赦《ゆる》さずして|地獄《じごく》に|投《な》げいれ、|之《これ》を|黒闇《くらやみ》の|穴《あな》におきて|審判《さばき》の|時《とき》まで|看守《かんしゅ》し、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|古《ふる》き|世《よ》を|容《ゆる》さずして、ただ|義《ぎ》の|宣傅者《せんでんしゃ》なるノアと|他《ほか》の|七人《しちにん》とをのみ|護《まも》り、|敬虔《けいけん》ならぬ|者《もの》の|世《よ》に|洪水《こうずゐ》を|來《きた》らせ、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]またソドムとゴモラとの|町《まち》を|滅亡《ほろび》に|定《さだ》めて|灰《はひ》となし、|後《のち》の|不《ふ》|敬虔《けいけん》をおこなふ|者《もの》の|鑑《かがみ》とし、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ただ|無法《むはふ》の|者《もの》どもの|好色《かうしょく》の|擧動《ふるまひ》を|憂《うれ》ひし|正《ただ》しきロトのみを|救《すく》ひ|給《たま》へり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり](この|正《ただ》しき|人《ひと》は|彼《かれ》らの|中《うち》に|住《す》みて、|日々《ひび》その|不法《ふはふ》の|行爲《おこなひ》を|見《み》|聞《きき》して、|己《おの》が|正《ただ》しき|心《こころ》を|傷《いた》めたり)[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かく|主《しゅ》は|敬虔《けいけん》なる|者《もの》を|試煉《こころみ》の|中《うち》より|救《すく》ひ、また|正《ただ》しからぬ|者《もの》を|審判《さばき》の|日《ひ》まで|看守《かんしゅ》して|之《これ》を|罰《ばっ》し、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|別《わ》けて、|肉《にく》に|隨《したが》ひて、|汚《けが》れたる|情《じゃう》|慾《よく》のうちを|歩《あゆ》み、|權《けん》ある|者《もの》を|輕《かろ》んずる|者《もの》を|罰《ばっ》することを|知《し》り|給《たま》ふ。この|曹輩《ともがら》は|膽《きも》|太《ふと》く|放縱《ほしいまま》にして、|尊《たふと》き|者《もの》どもを|譏《そし》りて|畏《おそ》れぬなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》たちはかの|尊《たふと》き|者《もの》どもに|勝《まさ》りて、|大《おほい》なる|權勢《けんせい》と|能力《ちから》とあれど、|彼《かれ》らを|主《しゅ》の|御前《みまへ》に|譏《そし》り|訴《うった》ふることをせず。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど、かの|曹輩《ともがら》は|恰《あたか》も|捕《とら》へられ|屠《ほふ》らるるために|生《うま》れたる|辯別《わきまへ》なき|生物《いきもの》のごとし、|知《し》らぬことを|譏《そし》り、|不義《ふぎ》の|價《あたひ》をえて|必《かなら》ず|亡《ほろぼ》さるべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|晝《ひる》もなほ|酒食《しゅしょく》を|快樂《けらく》とし|誘惑《まどはし》を|樂《たの》しみ、|汝《なんぢ》らと|共《とも》に|宴席《ふるまひ》に|與《あづか》りて、|汚點《しみ》となり|瑕《きず》となる。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]その|目《め》は|淫婦《いんぷ》にて|滿《み》ち|罪《つみ》に|飽《あ》くことなし、|彼《かれ》らは|靈魂《たましひ》の|定《さだめ》らぬ|者《もの》を|惑《まどは》し、その|心《こころ》は|貪欲《どんよく》に|慣《な》れて|呪詛《のろひ》の|子《こ》たり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|正《ただ》しき|道《みち》を|離《はな》れて|迷《まよ》ひいで、ベオルの|子《こ》バラムの|道《みち》に|隨《したが》へり。バラムは|不義《ふぎ》の|報《むくい》を|愛《あい》して、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]その|不法《ふはふ》を|咎《とが》められたり。|物《もの》|言《い》はぬ|驢馬《ろば》、|人《ひと》の|聲《こゑ》して|語《かた》り、かの|預言者《よげんしゃ》の|狂《くるひ》を|止《とど》めたればなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]この|曹輩《ともがら》は|水《みづ》なき|井《ゐ》なり、|颶風《はやて》に|逐《お》はるる|雲霧《くもきり》なり、|黒《くろ》き|闇《やみ》かれらの|爲《ため》に|備《そな》へられたり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|虚《むな》しき|誇《ほこり》をかたり、|迷《まよひ》の|中《うち》にある|者《もの》どもより|辛《から》うじて|遁《のが》れたる|者《もの》を、|肉《にく》の|慾《よく》と|好色《かうしょく》とをもて|惑《まどは》し、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|自由《じいう》を|與《あた》ふることを|約《やく》すれど、|自己《みづから》は|滅亡《ほろび》の|奴隷《どれい》たり、|敗《ま》くる|者《もの》は|勝《か》つ|者《もの》に|奴隷《どれい》とせらるればなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》もし|主《しゅ》なる|救主《すくひぬし》イエス・キリストを|知《し》るによりて、|世《よ》の|汚穢《けがれ》をのがれしのち、|復《また》これに|纏《まと》はれて|敗《ま》くる|時《とき》は、その|後《のち》の|状《さま》は|前《まへ》よりもなほ|惡《あ》しくなるなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|義《ぎ》の|道《みち》を|知《し》りて、その|傳《つた》へられたる|聖《せい》なる|誡命《いましめ》を|去《さ》り|往《ゆ》かんよりは|寧《むし》ろ|義《ぎ》の|道《みち》を|知《し》らぬを|勝《まさ》れりとす。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|俚諺《ことわざ》に『|犬《いぬ》おのが|吐《は》きたる|物《もの》に|歸《かへ》り|來《きた》り、|豚《ぶた》|身《み》を|洗《あら》ひてまた|泥《どろ》の|中《なか》に|轉《まろ》ぶ』と|云《い》へるは|眞《まこと》にして、|能《よ》く|彼《かれ》らに|當《あた》れり。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、われ|今《いま》この|第二《だいに》の|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|書《か》き|贈《おく》り、|第一《だいいち》なると|之《これ》とをもて|汝《なんぢ》らに|思《おも》ひ|出《いだ》させ、その|潔《いさぎ》よき|心《こころ》を|勵《はげ》まし、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|聖《せい》なる|預言者《よげんしゃ》たちの|預《あらか》じめ|云《い》ひし|言《ことば》、および|汝《なんぢ》らの|使徒《しと》たちの|傳《つた》へし|主《しゅ》なる|救主《すくひぬし》の|誡命《いましめ》を|憶《おぼ》えさせんとす。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》|等《ら》まづ|知《し》れ、|末《すゑ》の|世《よ》には|嘲《あざけ》る|者《もの》|嘲笑《あざけり》をもて|來《きた》り、おのが|慾《よく》に|隨《したが》ひて|歩《あゆ》み、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かつ|言《い》はん『|主《しゅ》の|來《きた》りたまふ|約束《やくそく》は|何處《いづこ》にありや、|先祖《せんぞ》たちの|眠《ねむ》りしのち、|萬《よろづ》のもの|開闢《かいびゃく》の|初《はじめ》と|等《ひと》しくして|變《かは》らざるなり』と。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|殊更《ことさら》に|次《つぎ》の|事《こと》を|知《し》らざるなり、|即《すなは》ち|古《いにし》へ|神《かみ》の|言《ことば》によりて|天《てん》あり、|地《ち》は|水《みづ》より|出《い》で|水《みづ》によりて|成立《なりた》ちしが、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]その|時《とき》の|世《よ》は|之《これ》により|水《みづ》に|淹《おぼ》はれて|滅《ほろ》びたり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]されど|同《おな》じ|御言《みことば》によりて|今《いま》の|天《てん》と|地《ち》とは|蓄《たくは》へられ、|火《ひ》にて|燒《や》かれん|爲《ため》に、|敬虔《けいけん》ならぬ|人々《ひとびと》の|審判《さばき》と|滅亡《ほろび》との|日《ひ》まで|保《たも》たるるなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、なんぢら|此《こ》の|一事《いちじ》を|忘《わす》るな。|主《しゅ》の|御前《みまへ》には|一日《いちにち》は|千年《せんねん》のごとく、|千年《せんねん》は|一日《いちにち》のごとし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》その|約束《やくそく》を|果《はた》すに|遲《おそ》きは、|或《ある》|人《ひと》の|遲《おそ》しと|思《おも》ふが|如《ごと》きにあらず、ただ|一人《ひとり》の|亡《ほろ》ぶるをも|望《のぞ》み|給《たま》はず、|凡《すべ》ての|人《ひと》の|悔改《くいあらため》に|至《いた》らんことを|望《のぞ》みて|汝《なんぢ》らを|永《なが》く|忍《しの》び|給《たま》ふなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|主《しゅ》の|日《ひ》は|盜人《ぬすびと》のごとく|來《きた》らん、その|日《ひ》には|天《てん》とどろきて|去《さ》り、もろもろの|天體《てんたい》は|燒《や》け|崩《くづ》れ、|地《ち》とその|中《うち》にある|工《わざ》とは|燒《や》け|盡《つ》きん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]かく|此《これ》|等《ら》のものはみな|崩《くづ》るべければ、|汝《なんぢ》|等《ら》いかに|潔《きよ》き|行状《ぎゃうじゃう》と|敬虔《けいけん》とをもて、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|日《ひ》の|來《きた》るを|待《ま》ち|之《これ》を|速《すみや》かにせんことを|勉《つと》むべきにあらずや、その|日《ひ》には|天《てん》|燃《も》え|崩《くづ》れ、もろもろの|天體《てんたい》|燒《や》け|溶《と》けん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》らは|神《かみ》の|約束《やくそく》によりて、|義《ぎ》の|住《す》むところの|新《あたら》しき|天《てん》と|新《あたら》しき|地《ち》とを|待《ま》つ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|愛《あい》する|者《もの》よ、|汝《なんぢ》|等《ら》これを|待《ま》てば、|神《かみ》の|前《まへ》に|汚點《しみ》なく|瑕《きず》なく|安然《やすらか》に|在《あ》らんことを|勉《つと》めよ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》われらの|主《しゅ》の|寛容《くわんよう》を|救《すくひ》なりと|思《おも》へ、これは|我《われ》らの|愛《あい》する|兄弟《きゃうだい》パウロも、その|與《あた》へられたる|智慧《ちゑ》にしたがひ|曾《かつ》て|汝《なんぢ》らに|書《か》き|贈《おく》りし|如《ごと》し。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》はその|凡《すべ》ての|書《ふみ》にも|此《これ》|等《ら》のことに|就《つ》きて|語《かた》る、その|中《うち》には|悟《さと》りがたき|所《ところ》あり、|無學《むがく》のもの|心《こころ》の|定《さだま》らぬ|者《もの》は、|他《ほか》の|聖書《せいしょ》のごとく|之《これ》をも|強《し》ひ|釋《と》きて|自《みづか》ら|滅亡《ほろび》を|招《まね》くなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]されば|愛《あい》する|者《もの》よ、なんぢら|預《あらか》じめ|之《これ》を|知《し》れば、|愼《つつし》みて|無法《むはふ》の|者《もの》の|迷《まよひ》にさそはれて|己《おの》が|堅《かた》き|心《こころ》を|失《うしな》はず、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]ますます|我《われ》らの|主《しゅ》なる|救主《すくひぬし》イエス・キリストの|恩寵《めぐみ》と|主《しゅ》を|知《し》る|知識《ちしき》とに|進《すす》め。|願《ねが》はくは|今《いま》および|永遠《とこしへ》の|日《ひ》までも|榮光《えいくわう》かれに|在《あ》らんことを。 [#改ページ] ヨハネの第一の書[#「ヨハネの第一の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|太初《はじめ》より|有《あ》りし|所《ところ》のもの、|我等《われら》が|聞《き》きしところ、|目《め》にて|見《み》し|所《ところ》、つらつら|視《み》て|手觸《てさは》りし|所《ところ》のもの、|即《すなは》ち|生命《いのち》の|言《ことば》につきて、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]――この|生命《いのち》すでに|顯《あらは》れ、われら|之《これ》を|見《み》て|證《あかし》をなし、その|曾《かつ》て|父《ちち》と|偕《とも》に|在《いま》して、|今《いま》われらに|顯《あらは》れ|給《たま》へる|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ――[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|見《み》しところ|聞《き》きし|所《ところ》を|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐ、これ|汝《なんぢ》|等《ら》をも|我《われ》らの|交際《まじはり》に|與《あづか》らしめん|爲《ため》なり。|我《われ》らは|父《ちち》および|其《そ》の|子《こ》イエス・キリストの|交際《まじはり》に|與《あづか》るなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|此《これ》|等《ら》のことを|書《か》き|贈《おく》るは、|我《われ》らの|喜悦《よろこび》の|滿《み》ちん|爲《ため》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らが|彼《かれ》より|聞《き》きて、また|汝《なんぢ》らに|告《つ》ぐる|音信《おとづれ》は|是《これ》なり、|即《すなは》ち|神《かみ》は|光《ひかり》にして|少《すこ》しの|暗《くら》き|所《ところ》なし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]もし|神《かみ》と|交際《まじはり》ありと|言《い》ひて|暗《くら》きうちを|歩《あゆ》まば、|我《われ》ら|僞《いつは》りて|眞理《まこと》を|行《おこな》はざるなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]もし|神《かみ》の|光《ひかり》のうちに|在《いま》すごとく|光《ひかり》のうちを|歩《あゆ》まば、|我《われ》ら|互《たがひ》に|交際《まじはり》を|得《え》、また|其《そ》の|子《こ》イエスの|血《ち》、すべての|罪《つみ》より|我《われ》らを|潔《きよ》む。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]もし|罪《つみ》なしと|言《い》はば、|是《これ》みづから|欺《あざむ》けるにて|眞理《まこと》われらの|中《うち》になし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]もし|己《おのれ》の|罪《つみ》を|言《い》ひあらはさば、|神《かみ》は|眞實《まこと》にして|正《ただ》しければ、|我《われ》らの|罪《つみ》を|赦《ゆる》し、|凡《すべ》ての|不義《ふぎ》より|我《われ》らを|潔《きよ》め|給《たま》はん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]もし|罪《つみ》を|犯《をか》したる|事《こと》なしといはば、これ|神《かみ》を|僞《いつはり》|者《もの》とするなり、|神《かみ》の|言《ことば》われらの|中《うち》になし。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]わが|若子《わくご》よ、これらの|事《こと》を|書《か》き|贈《おく》るは、|汝《なんぢ》らが|罪《つみ》を|犯《をか》さざらん|爲《ため》なり。|人《ひと》もし|罪《つみ》を|犯《をか》さば、|我等《われら》のために|父《ちち》の|前《まへ》に|助主《たすけぬし》あり、|即《すなは》ち|義《ぎ》なるイエス・キリストなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|我《われ》らの|罪《つみ》のために|宥《なだめ》の|供物《そなへもの》たり、|啻《ただ》に|我《われ》らの|爲《ため》のみならず、また|全世界《ぜんせかい》の|爲《ため》なり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らその|誡命《いましめ》を|守《まも》らば、|之《これ》によりて|彼《かれ》を|知《し》ることを|自《みづか》ら|悟《さと》る。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]『われ|彼《かれ》を|知《し》る』と|言《い》ひて|其《そ》の|誡命《いましめ》を|守《まも》らぬ|者《もの》は|僞《いつはり》|者《もの》にして|眞理《まこと》その|衷《うち》になし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]その|御言《みことば》を|守《まも》る|者《もの》は|誠《まこと》に|神《かみ》の|愛《あい》、その|衷《うち》に|全《まった》うせらる。|之《これ》によりて|我《われ》ら|彼《かれ》に|在《あ》ることを|悟《さと》る。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》に|居《を》ると|言《い》ふ|者《もの》は、|彼《かれ》の|歩《あゆ》み|給《たま》ひしごとく|自《みづか》ら|歩《あゆ》むべきなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、わが|汝《なんぢ》らに|書《か》き|贈《おく》るは、|新《あたら》しき|誡命《いましめ》にあらず、|汝《なんぢ》らが|初《はじめ》より|有《も》てる|舊《ふる》き|誡命《いましめ》なり。この|舊《ふる》き|誡命《いましめ》は|汝《なんぢ》らが|聞《き》きし|所《ところ》の|言《ことば》なり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|然《さ》れど|我《わ》が|汝《なんぢ》らに|書《か》き|贈《おく》るところは、また|新《あたら》しき|誡命《いましめ》にして、|主《しゅ》にも|汝《なんぢ》らにも|眞《まこと》なり、その|故《ゆゑ》は|眞《まこと》の|光《ひかり》すでに|照《て》りて、|暗黒《くらき》はややに|過《す》ぎ|去《さ》ればなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|光《ひかり》に|在《あ》りと|言《い》ひて|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》を|憎《にく》むものは、|今《いま》もなほ|暗黒《くらき》にあるなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]その|兄弟《きゃうだい》を|愛《あい》する|者《もの》は、|光《ひかり》に|居《を》りて|顛躓《つまづき》その|衷《うち》になし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|兄弟《きゃうだい》を|憎《にく》む|者《もの》は|暗黒《くらき》にあり、|暗《くら》きうちを|歩《あゆ》みて|己《おの》が|往《ゆ》くところを|知《し》らず、これ|暗黒《くらき》はその|眼《め》を|矇《くらま》したればなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|若子《わくご》よ、|我《われ》この|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|贈《おく》るは、なんぢら|主《しゅ》の|御名《みな》によりて|罪《つみ》を|赦《ゆる》されたるに|因《よ》る。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》たちよ、|我《われ》この|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|贈《おく》るは、|汝《なんぢ》ら|太初《はじめ》より|在《いま》す|者《もの》を|知《し》りたるに|因《よ》る。|若《わか》き|者《もの》よ、|我《われ》この|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|贈《おく》るは、なんぢら|惡《あ》しき|者《もの》に|勝《か》ちたるに|因《よ》る。|子供《こども》よ、|我《われ》この|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|贈《おく》りたるは、|汝《なんぢ》ら|御父《みちち》を|知《し》りたるに|因《よ》る。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》たちよ、|我《われ》この|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|贈《おく》りたるは、|汝《なんぢ》ら|太初《はじめ》より|在《いま》す|者《もの》を|知《し》りたるに|因《よ》る。|若《わか》き|者《もの》よ、|我《われ》この|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|贈《おく》りたるは、|汝《なんぢ》ら|強《つよ》くかつ|神《かみ》の|言《ことば》その|衷《うち》に|留《とどま》り、また|惡《あ》しき|者《もの》に|勝《か》ちたるに|因《よ》る。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|世《よ》をも|世《よ》にある|物《もの》をも|愛《あい》すな。|人《ひと》もし|世《よ》を|愛《あい》せば、|御父《みちち》を|愛《あい》する|愛《あい》その|衷《うち》になし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|世《よ》にあるもの、|即《すなは》ち|肉《にく》の|慾《よく》、|眼《め》の|慾《よく》、|所有《もちもの》の|誇《ほこり》などは、|御父《みちち》より|出《い》づるにあらず、|世《よ》より|出《い》づるなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》と|世《よ》の|慾《よく》とは|過《す》ぎ|往《ゆ》く、されど|神《かみ》の|御意《みこころ》をおこなふ|者《もの》は|永遠《とこしへ》に|在《とどま》るなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|子供《こども》よ、|今《いま》は|末《すゑ》の|時《とき》なり、|汝《なんぢ》らが|非《ひ》キリスト|來《きた》らんと|聞《き》きしごとく、|今《いま》や|非《ひ》キリスト|多《おほ》く|起《おこ》れり、|之《これ》によりて|我等《われら》その|末《すゑ》の|時《とき》なるを|知《し》る。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|我等《われら》より|出《い》でゆきたれど、|固《もと》より|我等《われら》のものに|非《あら》ざりき。|我《われ》らの|屬《もの》ならば、|我《われ》らと|共《とも》に|留《とどま》りしならん。されどその|出《い》でゆきしは、|皆《みな》われらの|屬《もの》ならぬことの|顯《あらは》れん|爲《ため》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|聖《せい》なる|者《もの》より|油《あぶら》を|注《そそ》がれたれば、|凡《すべ》ての|事《こと》を|知《し》る。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》この|書《ふみ》を|汝《なんぢ》らに|贈《おく》るは、|汝《なんぢ》ら|眞理《しんり》を|知《し》らぬ|故《ゆゑ》にあらず、|眞理《しんり》を|知《し》り、かつ|凡《すべ》ての|虚僞《いつはり》の|眞理《しんり》より|出《い》でぬことを|知《し》るに|因《よ》る。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|僞《いつはり》|者《もの》は|誰《たれ》なるか、イエスのキリストなるを|否《いな》む|者《もの》にあらずや。|御父《みちち》と|御子《みこ》とを|否《いな》む|者《もの》は|非《ひ》キリストなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そ|御子《みこ》を|否《いな》む|者《もの》は|御父《みちち》をも|有《も》たず、|御子《みこ》を|言《い》ひあらはす|者《もの》は|御父《みちち》をも|有《も》つなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|初《はじめ》より|聞《き》きし|所《ところ》を|汝《なんぢ》らの|衷《うち》に|居《を》らしめよ。|初《はじめ》より|聞《き》きしところ|汝《なんぢ》らの|衷《うち》に|居《を》らば、|汝《なんぢ》らも|御子《みこ》と|御父《みちち》とに|居《を》らん。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らに|約《やく》し|給《たま》ひし|約束《やくそく》は|是《これ》なり、|即《すなは》ち|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》なり。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らを|惑《まどは》す|者《もの》どもに|就《つ》きて|我《われ》これらの|事《こと》を|書《か》き|贈《おく》る。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢらの|衷《うち》には、|主《しゅ》より|注《そそ》がれたる|油《あぶら》とどまる|故《ゆゑ》に、|人《ひと》の|汝《なんぢ》らに|物《もの》を|教《をし》ふる|要《えう》なし。|此《こ》の|油《あぶら》は|汝《なんぢ》らに|凡《すべ》ての|事《こと》を|教《をし》へ、かつ|眞《まこと》にして|虚僞《いつはり》なし、|汝《なんぢ》|等《ら》はその|教《をし》へしごとく|主《しゅ》に|居《を》るなり。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]されば|若子《わくご》よ、|主《しゅ》に|居《を》れ。これ|主《しゅ》の|現《あらは》れ|給《たま》ふときに|臆《おく》することなく、|其《そ》の|來《きた》り|給《たま》ふときに|恥《は》づることなからん|爲《ため》なり。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|主《しゅ》を|正《ただ》しと|知《し》らば、|凡《すべ》て|正義《ただしき》をおこなふ|者《もの》の|主《しゅ》より|生《うま》れたることを|知《し》らん。 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|父《ちち》の|我《われ》らに|賜《たま》ひし|愛《あい》の|如何《いか》に|大《おほい》なるかを。|我《われ》ら|神《かみ》の|子《こ》と|稱《とな》へらる。|既《すで》に|神《かみ》の|子《こ》たり、|世《よ》の|我《われ》らを|知《し》らぬは、|父《ちち》を|知《し》らぬによりてなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、|我等《われら》いま|神《かみ》の|子《こ》たり、|後《のち》いかん、|未《いま》だ|顯《あらは》れず、|主《しゅ》の|現《あらは》れたまふ|時《とき》われら|之《これ》に|肖《に》んことを|知《し》る。|我《われ》らその|眞《まこと》の|状《さま》を|見《み》るべければなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|主《しゅ》による|此《こ》の|希望《のぞみ》を|懷《いだ》く|者《もの》は、その|清《きよ》きがごとく|己《おのれ》を|潔《きよ》くす。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]すべて|罪《つみ》をおこなふ|者《もの》は|不法《ふはふ》を|行《おこな》ふなり、|罪《つみ》は|即《すなは》ち|不法《ふはふ》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|知《し》る、|主《しゅ》の|現《あらは》れ|給《たま》ひしは|罪《つみ》を|除《のぞ》かん|爲《ため》なるを。|主《しゅ》には|罪《つみ》あることなし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|主《しゅ》に|居《を》る|者《もの》は|罪《つみ》を|犯《をか》さず、おほよそ|罪《つみ》を|犯《をか》す|者《もの》は|未《いま》だ|主《しゅ》を|見《み》ず、|主《しゅ》を|知《し》らぬなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|若子《わくご》よ、|人《ひと》に|惑《まどは》さるな、|義《ぎ》をおこなふ|者《もの》は|義人《ぎじん》なり、|即《すなは》ち|主《しゅ》の|義《ぎ》なるがごとし。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|罪《つみ》を|行《おこな》ふものは|惡魔《あくま》より|出《い》づ、|惡魔《あくま》は|初《はじめ》より|罪《つみ》を|犯《をか》せばなり。|神《かみ》の|子《こ》の|現《あらは》れ|給《たま》ひしは、|惡魔《あくま》の|業《わざ》を|毀《こぼ》たん|爲《ため》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|神《かみ》より|生《うま》るる|者《もの》は|罪《つみ》を|行《おこな》はず、|神《かみ》の|種《たね》、その|衷《うち》に|止《とどま》るに|由《よ》る。|彼《かれ》は|神《かみ》より|生《うま》るる|故《ゆゑ》に|罪《つみ》を|犯《をか》すこと|能《あた》はず。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|由《よ》りて|神《かみ》の|子《こ》と|惡魔《あくま》の|子《こ》とは|明《あきら》かなり。おほよそ|義《ぎ》を|行《おこな》はぬ|者《もの》および|己《おの》が|兄弟《きゃうだい》を|愛《あい》せぬ|者《もの》は|神《かみ》より|出《い》づるにあらず。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]われら|互《たがひ》に|相《あひ》|愛《あい》すべきは|汝《なんぢ》らが|初《はじめ》より|聞《き》きし|音信《おとづれ》なり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]カインに|效《なら》ふな、|彼《かれ》は|惡《あ》しき|者《もの》より|出《い》でて|己《おの》が|兄弟《きゃうだい》を|殺《ころ》せり。|何《なに》|故《ゆゑ》ころしたるか、|己《おの》が|行爲《おこなひ》は|惡《あ》しく、その|兄弟《きゃうだい》の|行爲《おこなひ》は|正《ただ》しかりしに|因《よ》る。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》よ、|世《よ》は|汝《なんぢ》らを|憎《にく》むとも|怪《あや》しむな。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]われら|兄弟《きゃうだい》を|愛《あい》するによりて、|死《し》より|生命《いのち》に|移《うつ》りしを|知《し》る、|愛《あい》せぬ|者《もの》は|死《し》のうちに|居《を》る。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|兄弟《きゃうだい》を|憎《にく》む|者《もの》は|即《すなは》ち|人《ひと》を|殺《ころ》す|者《もの》なり、|凡《おほよ》そ|人《ひと》を|殺《ころ》す|者《もの》の、その|内《うち》に|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》なきを|汝《なんぢ》らは|知《し》る。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》は|我《われ》らの|爲《ため》に|生命《いのち》を|捨《す》てたまへり、|之《これ》によりて|愛《あい》といふことを|知《し》りたり、|我等《われら》もまた|兄弟《きゃうだい》のために|生命《いのち》を|捨《す》つべきなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》の|財寶《たから》をもちて|兄弟《きゃうだい》の|窮乏《ともしき》を|見《み》、|反《かへ》つて|憐憫《あはれみ》の|心《こころ》を|閉《と》づる|者《もの》は、いかで|神《かみ》の|愛《あい》その|衷《うち》にあらんや。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|若子《わくご》よ、われら|言《ことば》と|舌《した》とをもて|相《あひ》|愛《あい》することなく、|行爲《おこなひ》と|眞實《まこと》とを|以《もっ》てすべし。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|由《よ》りて|我《われ》ら|眞理《まこと》より|出《い》でしを|知《し》り、|且《かつ》われらの|心《こころ》われらを|責《せ》むとも|神《かみ》の|前《まへ》に|心《こころ》を|安《やす》んずべし。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|我《われ》らの|心《こころ》よりも|大《おほい》にして|一切《すべて》のことを|知《し》り|給《たま》へばなり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、|我《われ》らが|心《こころ》みづから|責《せ》むる|所《ところ》なくば、|神《かみ》に|向《むか》ひて|懼《おそれ》なし。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》すべて|求《もと》むる|所《ところ》を|神《かみ》より|受《う》くべし。|是《これ》その|誡命《いましめ》を|守《まも》りて|御心《みこころ》にかなふ|所《ところ》を|行《おこな》へばなり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]その|誡命《いましめ》はこれなり、|即《すなは》ち|我《われ》ら|神《かみ》の|子《こ》イエス・キリストの|名《な》を|信《しん》じ、その|命《めい》じ|給《たま》ひしごとく|互《たがひ》に|相《あひ》|愛《あい》すべきことなり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|誡命《いましめ》を|守《まも》る|者《もの》は|神《かみ》に|居《を》り、|神《かみ》もまた|彼《かれ》に|居給《ゐたま》ふ。|我《われ》らその|賜《たま》ふところの|御靈《みたま》に|由《よ》りて|其《そ》の|我《われ》らに|居給《ゐたま》ふことを|知《し》るなり。 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、|凡《すべ》ての|靈《れい》を|信《しん》ずな、その|靈《れい》の|神《かみ》より|出《い》づるか|否《いな》かを|試《こころ》みよ。|多《おほ》くの|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》|世《よ》に|出《い》でたればなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そイエス・キリストの|肉體《にくたい》にて|來《きた》り|給《たま》ひしことを|言《い》ひあらはす|靈《れい》は|神《かみ》より|出《い》づ、なんぢら|之《これ》によりて|神《かみ》の|御靈《みたま》を|知《し》るべし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そイエスを|言《い》ひ|表《あらは》さぬ|靈《れい》は|神《かみ》より|出《い》でしにあらず、これは|非《ひ》キリストの|靈《れい》なり。その|來《きた》ることは|汝《なんぢ》ら|聞《き》けり、この|靈《れい》いま|既《すで》に|世《よ》にあり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|若子《わくご》よ、|汝《なんぢ》らは|神《かみ》より|出《い》でし|者《もの》にして|既《すで》に|彼《かれ》らに|勝《か》てり。|汝《なんぢ》らに|居給《ゐたま》ふ|者《もの》は|世《よ》に|居《を》る|者《もの》よりも|大《おほい》なればなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|世《よ》より|出《い》でし|者《もの》なり、|之《これ》によりて|世《よ》の|事《こと》をかたり、|世《よ》も|亦《また》かれらに|聽《き》く。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|神《かみ》より|出《い》でし|者《もの》なり。|神《かみ》を|知《し》る|者《もの》は|我《われ》らに|聽《き》き、|神《かみ》より|出《い》でぬ|者《もの》は|我《われ》らに|聽《き》かず。|之《これ》によりて|眞理《しんり》の|靈《れい》と|迷謬《まよひ》の|靈《れい》とを|知《し》る。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、われら|互《たがひ》に|相《あひ》|愛《あい》すべし。|愛《あい》は|神《かみ》より|出《い》づ、おほよそ|愛《あい》ある|者《もの》は、|神《かみ》より|生《うま》れ|神《かみ》を|知《し》るなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》なき|者《もの》は、|神《かみ》を|知《し》らず、|神《かみ》は|愛《あい》なればなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|愛《あい》われらに|顯《あらは》れたり。|神《かみ》はその|生《う》み|給《たま》へる|獨子《ひとりご》を|世《よ》に|遣《つかは》し、|我等《われら》をして|彼《かれ》によりて|生命《いのち》を|得《え》しめ|給《たま》ふに|因《よ》る。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》といふは、|我《われ》ら|神《かみ》を|愛《あい》せしにあらず、|神《かみ》われらを|愛《あい》し、その|子《こ》を|遣《つかは》して|我《われ》らの|罪《つみ》のために|宥《なだめ》の|供物《そなへもの》となし|給《たま》ひし|是《これ》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、|斯《か》くのごとく|神《かみ》われらを|愛《あい》し|給《たま》ひたれば、|我《われ》らも|亦《また》たがひに|相《あひ》|愛《あい》すべし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|未《いま》だ|神《かみ》を|見《み》し|者《もの》あらず、|我等《われら》もし|互《たがひ》に|相《あひ》|愛《あい》せば、|神《かみ》われらに|在《いま》し、その|愛《あい》も|亦《また》われらに|全《まった》うせらる。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》、|御靈《みたま》を|賜《たま》ひしに|因《よ》りて、|我《われ》ら|神《かみ》に|居《を》り|神《かみ》われらに|居給《ゐたま》ふことを|知《し》る。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》われら|父《ちち》のその|子《こ》を|遣《つかは》して|世《よ》の|救主《すくひぬし》となし|給《たま》ひしを|見《み》て、その|證《あかし》をなすなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そイエスを|神《かみ》の|子《こ》と|言《い》ひあらはす|者《もの》は、|神《かみ》かれに|居《を》り、かれ|神《かみ》に|居《を》る。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らに|對《たい》する|神《かみ》の|愛《あい》を|我《われ》ら|既《すで》に|知《し》り、かつ|信《しん》ず。|神《かみ》は|愛《あい》なり、|愛《あい》に|居《を》る|者《もの》は|神《かみ》に|居《を》り、|神《かみ》も|亦《また》かれに|居給《ゐたま》ふ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]かく|我《われ》らの|愛《あい》|完全《まったき》をえて、|審判《さばき》の|日《ひ》に|懼《おそれ》なからしむ。|我等《われら》この|世《よ》にありて|主《しゅ》の|如《ごと》くなるに|因《よ》る。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》には|懼《おそれ》なし、|全《まった》き|愛《あい》は|懼《おそれ》を|除《のぞ》く、|懼《おそれ》には|苦難《くるしみ》あればなり。|懼《おそ》るる|者《もの》は、|愛《あい》いまだ|全《まった》からず。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らの|愛《あい》するは、|神《かみ》まづ|我《われ》らを|愛《あい》し|給《たま》ふによる。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし『われ|神《かみ》を|愛《あい》す』と|言《い》ひて、その|兄弟《きゃうだい》を|憎《にく》まば、これ|僞《いつはり》|者《もの》なり。|既《すで》に|見《み》るところの|兄弟《きゃうだい》を|愛《あい》せぬ|者《もの》は、|未《いま》だ|見《み》ぬ|神《かみ》を|愛《あい》すること|能《あた》はず。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》を|愛《あい》する|者《もの》は|亦《また》その|兄弟《きゃうだい》をも|愛《あい》すべし。|我等《われら》この|誡命《いましめ》を|神《かみ》より|受《う》けたり。 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そイエスをキリストと|信《しん》ずる|者《もの》は、|神《かみ》より|生《うま》れたるなり。おほよそ|之《これ》を|生《う》み|給《たま》ひし|神《かみ》を|愛《あい》する|者《もの》は、|神《かみ》より|生《うま》れたる|者《もの》をも|愛《あい》す。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》もし|神《かみ》を|愛《あい》して、その|誡命《いましめ》を|行《おこな》はば、|之《これ》によりて|神《かみ》の|子供《こども》を|愛《あい》することを|知《し》る。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|誡命《いましめ》を|守《まも》るは|即《すなは》ち|神《かみ》を|愛《あい》するなり、|而《しか》してその|誡命《いましめ》は|難《かた》からず。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]おほよそ|神《かみ》より|生《うま》るる|者《もの》は|世《よ》に|勝《か》つ、|世《よ》に|勝《か》つ|勝利《しょうり》は|我《われ》らの|信仰《しんかう》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|世《よ》に|勝《か》つものは|誰《たれ》ぞ、イエスを|神《かみ》の|子《こ》と|信《しん》ずる|者《もの》にあらずや。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]これ|水《みづ》と|血《ち》とに|由《よ》りて|來《きた》り|給《たま》ひし|者《もの》、|即《すなは》ちイエス・キリストなり。|啻《ただ》に|水《みづ》のみならず、|水《みづ》と|血《ち》とをもて|來《きた》り|給《たま》ひしなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|證《あかし》する|者《もの》は|御靈《みたま》なり。|御靈《みたま》は|眞理《まこと》なればなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|證《あかし》する|者《もの》は|三《み》つ、|御靈《みたま》と|水《みづ》と|血《ち》となり。この|三《み》つ|合《あ》ひて|一《ひと》つとなる。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|我等《われら》もし|人《ひと》の|證《あかし》を|受《う》けんには、|神《かみ》の|證《あかし》は|更《さら》に|大《おほい》なり。|神《かみ》の|證《あかし》はその|子《こ》につきて|證《あかし》し|給《たま》ひし|是《これ》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|子《こ》を|信《しん》ずる|者《もの》はその|衷《うち》にこの|證《あかし》をもち、|神《かみ》を|信《しん》ぜぬ|者《もの》は|神《かみ》を|僞《いつはり》|者《もの》とす。これ|神《かみ》その|子《こ》につきて|證《あかし》せし|證《あかし》を|信《しん》ぜぬが|故《ゆゑ》なり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|證《あかし》はこれなり、|神《かみ》は|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|我《われ》らに|賜《たま》へり、この|生命《いのち》はその|子《こ》にあり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|御子《みこ》をもつ|者《もの》は|生命《いのち》をもち、|神《かみ》の|子《こ》をもたぬ|者《もの》は|生命《いのち》をもたず。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]われ|神《かみ》の|子《こ》の|名《な》を|信《しん》ずる|汝《なんぢ》らに|此《これ》|等《ら》のことを|書《か》き|贈《おく》るは、|汝《なんぢ》らに|自《みづか》ら|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|有《も》つことを|知《し》らしめん|爲《ため》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らが|神《かみ》に|向《むか》ひて|確信《かくしん》する|所《ところ》は|是《これ》なり、|即《すなは》ち|御意《みこころ》にかなふ|事《こと》を|求《もと》めば、|必《かなら》ず|聽《き》き|給《たま》ふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かく|求《もと》むるところ、|何事《なにごと》にても|聽《き》き|給《たま》ふと|知《し》れば、|求《もと》めし|願《ねがひ》を|得《え》たる|事《こと》をも|知《し》るなり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|其《そ》の|兄弟《きゃうだい》の|死《し》に|至《いた》らぬ|罪《つみ》を|犯《をか》すを|見《み》ば、|神《かみ》に|求《もと》むべし。さらば|彼《かれ》に、|死《し》に|至《いた》らぬ|罪《つみ》を|犯《をか》す|人々《ひとびと》に|生命《いのち》を|與《あた》へ|給《たま》はん。|死《し》に|至《いた》る|罪《つみ》あり、|我《われ》これに|就《つ》きて|請《こ》ふべしと|言《い》はず。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|不義《ふぎ》は|罪《つみ》なり、されど|死《し》に|至《いた》らぬ|罪《つみ》あり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|神《かみ》より|生《うま》れたる|者《もの》の|罪《つみ》を|犯《をか》さぬことを|我《われ》らは|知《し》る。|神《かみ》より|生《うま》れ|給《たま》ひし|者《もの》、これを|守《まも》りたまふ|故《ゆゑ》に、|惡《あ》しきもの|觸《ふ》るる|事《こと》をせざるなり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》らは|神《かみ》より|出《い》で、|全世界《ぜんせかい》は|惡《あ》しき|者《もの》に|屬《ぞく》するを|我《われ》らは|知《し》る。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]また|神《かみ》の|子《こ》すでに|來《きた》りて|我《われ》らに|眞《まこと》の|者《もの》を|知《し》る|知識《ちしき》を|賜《たま》ひしを|我《われ》らは|知《し》る。|而《しか》して|我《われ》らは|眞《まこと》の|者《もの》に|居《を》り、その|子《こ》イエス・キリストに|居《を》るなり、|彼《かれ》は|眞《まこと》の|神《かみ》にして|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|若子《わくご》よ、|自《みづか》ら|守《まも》りて|偶像《ぐうざう》に|遠《とほ》ざかれ。 [#改ページ] ヨハネの第二の書[#「ヨハネの第二の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|長老《ちゃうらう》、|書《ふみ》を|選《えら》ばれたる|婦人《ふじん》および|其《そ》の|子供《こども》に|贈《おく》る。われ|眞《まこと》をもて|汝《なんぢ》らを|愛《あい》す。|啻《ただ》に|我《われ》のみならず、|凡《すべ》て|眞理《まこと》を|知《し》る|者《もの》はみな|汝《なんぢ》らを|愛《あい》す。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]これは|我《われ》らの|衷《うち》に|止《とどま》りて|永遠《とこしへ》に|偕《とも》にあらんとする|眞理《まこと》に|因《よ》りてなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|父《ちち》なる|神《かみ》および|父《ちち》の|子《こ》イエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|憐憫《あはれみ》と|平安《へいあん》とは、|眞《まこと》と|愛《あい》との|中《うち》にて|我《われ》らと|偕《とも》にあらん。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》の|子供《こども》のうちに、|我《われ》らが|父《ちち》より|誡命《いましめ》を|受《う》けし|如《ごと》く、|眞理《まこと》に|循《したが》ひて|歩《あゆ》む|者《もの》あるを|見《み》て|甚《はなは》だ|喜《よろこ》べり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|婦人《ふじん》よ、われ|今《いま》なんぢに|願《ねが》ふは、|我《われ》らが|互《たがひ》に|相《あひ》|愛《あい》すべき|事《こと》なり。これは|新《あたら》しき|誡命《いましめ》を|書《か》き|贈《おく》るにあらず、|我《われ》らが|初《はじめ》より|有《も》てる|誡命《いましめ》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》の|誡命《いましめ》に|循《したが》ひて|歩《あゆ》むは|即《すなは》ち|愛《あい》なり、|汝《なんぢ》らが|初《はじめ》より|聞《き》きしごとく、|愛《あい》に|歩《あゆ》むは|即《すなは》ち|誡命《いましめ》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》を|惑《まどは》すもの|多《おほ》く|世《よ》にいで、イエス・キリストの|肉體《にくたい》にて|來《きた》り|給《たま》ひしことを|言《い》ひ|表《あらは》さず、かかる|者《もの》は|人《ひと》を|惑《まどは》す|者《もの》にして、|非《ひ》キリストなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢら|我《われ》らが|働《はたら》きし|所《ところ》を|空《むな》しくせず、|滿《み》ち|足《た》れる|報《むくい》を|得《え》んために|自《みづか》ら|心《こころ》せよ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|凡《おほよ》そキリストの|教《をしへ》に|居《を》らずして、|之《これ》を|越《こ》えゆく|者《もの》は|神《かみ》を|有《も》たず、キリストの|教《をしへ》にをる|者《もの》は|父《ちち》と|子《こ》とを|有《も》つなり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|此《こ》の|教《をしへ》を|有《も》たずして|汝《なんぢ》らに|來《きた》らば、|之《これ》を|家《いへ》に|入《い》るな、|安《やす》かれと|言《い》ふな。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|安《やす》かれと|言《い》ふ|者《もの》は、その|惡《あ》しき|行爲《おこなひ》に|與《くみ》するなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なほ|汝《なんぢ》らに|書《か》き|贈《おく》ること|多《おほ》くあれど、|紙《かみ》と|墨《すみ》とにてするを|好《この》まず、|我《われ》らの|歡喜《よろこび》を|充《みた》さんために|汝《なんぢ》|等《ら》にいたり、|顏《かほ》をあわせて|語《かた》らんことを|望《のぞ》む。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|選《えら》ばれたる|汝《なんぢ》の|姉妹《しまい》の|子供《こども》、なんぢに|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。 [#改ページ] ヨハネの第三の書[#「ヨハネの第三の書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|長老《ちゃうらう》、|書《ふみ》を|愛《あい》するガイオ、わが|眞《まこと》をもて|愛《あい》する|者《もの》に|贈《おく》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、|我《われ》なんぢが|靈魂《たましひ》の|榮《さか》ゆるごとく|汝《なんぢ》すべての|事《こと》に|榮《さか》え、かつ|健《すこや》かならんことを|祈《いの》る。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|兄弟《きゃうだい》たち|來《きた》りて|汝《なんぢ》が|眞理《まこと》を|保《たも》つこと、|即《すなは》ち|眞理《まこと》に|循《したが》ひて|歩《あゆ》むことを|證《あかし》したれば、われ|甚《はなは》だ|喜《よろこ》べり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》には|我《わ》が|子供《こども》の、|眞理《まこと》に|循《したが》ひて|歩《あゆ》むことを|聞《き》くより|大《おほい》なる|喜悦《よろこび》はなし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、なんぢ|旅人《たびびと》なる|兄弟《きゃうだい》たちにまで|行《おこな》ふ|所《ところ》みな|忠實《ちゅうじつ》をもて|爲《な》せり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かれら|教會《けうくわい》の|前《まへ》にて|汝《なんぢ》の|愛《あい》につきて|證《あかし》せり。なんぢ|神《かみ》の|御意《みこころ》に|適《かな》ふやうに|彼《かれ》らを|見《み》|送《おく》らば、その|行《おこな》ふところ|善《よ》からん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|異邦人《いはうじん》より|何《なに》をも|受《う》けずして|御名《みな》のために|旅立《たびだち》せり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されば|斯《か》かる|人《ひと》を|助《たす》くべきなり、|我《われ》らも|彼《かれ》らと|共《とも》に|眞理《しんり》のために|働《はたら》く|者《もの》とならん|爲《ため》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われ|曩《さき》に|聊《いささ》か|教會《けうくわい》に|書《か》きおくれり。|然《さ》れど|彼《かれ》らの|中《うち》に|長《をさ》たらんと|欲《ほっ》するデオテレペス|我《われ》らを|受《う》けず。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|我《われ》もし|往《ゆ》かば、その|行《おこな》へる|業《わざ》を|思《おも》ひ|出《いだ》させん。|彼《かれ》は|惡《あ》しき|言《ことば》をもて|我《われ》らを|罵《ののし》り、なほ|足《た》れりとせずして|自《みづか》ら|兄弟《きゃうだい》たちを|接《う》けず、|之《これ》を|接《う》けんとする|者《もの》をも|拒《こば》みて|教會《けうくわい》より|逐《お》ひ|出《いだ》す。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、|惡《あく》に|效《なら》ふな、|善《ぜん》にならへ。|善《ぜん》をおこなふ|者《もの》は|神《かみ》より|出《い》で、|惡《あく》をおこなふ|者《もの》は|未《いま》だ|神《かみ》を|見《み》ざるなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]デメテリオは|凡《すべ》ての|人《ひと》にも|眞理《しんり》にも|證《あかし》せらる。|我等《われら》もまた|證《あかし》す、なんぢ|我《われ》らの|證《あかし》の|眞《まこと》なるを|知《し》る。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なほ|汝《なんぢ》に|書《か》き|贈《おく》ること|多《おほ》くあれど、|墨《すみ》と|筆《ふで》とにてするを|欲《ほっ》せず、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|速《すみや》かに|汝《なんぢ》を|見《み》、たがひに|顏《かほ》をあはせて|語《かた》らんことを|望《のぞ》む。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》に|平安《へいあん》あれ、|朋友《とも》たち|安否《あんぴ》を|問《と》ふ。なんぢ|名《な》をさして|友《とも》たちに|安否《あんぴ》を|問《と》へ。 [#改ページ] ユダの書[#「ユダの書」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]イエス・キリストの|僕《しもべ》にしてヤコブの|兄弟《きゃうだい》なるユダ、|書《ふみ》を|召《め》されたる|者《もの》、すなはち|父《ちち》なる|神《かみ》に|愛《あい》せられ、イエス・キリストの|爲《ため》に|守《まも》らるる|者《もの》に|贈《おく》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|憐憫《あはれみ》と|平安《へいあん》と|愛《あい》と、なんぢらに|増《ま》さんことを。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、われ|我《われ》らが|共《とも》に|與《あづか》る|救《すくひ》につき|勵《はげ》みて|汝《なんぢ》らに|書《か》き|贈《おく》らんとせしが、|聖徒《せいと》の|一《ひと》たび|傳《つた》へられたる|信仰《しんかう》のために|戰《たたか》はんことを|勸《すす》むる|書《ふみ》を、|汝《なんぢ》らに|贈《おく》るを|必要《ひつえう》と|思《おも》へり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]そは|敬虔《けいけん》ならずして|我《われ》らの|神《かみ》の|恩惠《めぐみ》を|好色《かうしょく》に|易《か》へ、|唯一《ゆゐいつ》の|主《しゅ》なる|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストを|否《いな》むものども|潜《もぐ》り|入《い》りたればなり。|彼《かれ》らが|此《こ》の|審判《さばき》を|受《う》くべきことは|昔《むかし》より|預《あらか》じめ|録《しる》されたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らは|固《もと》より|凡《すべ》ての|事《こと》を|知《し》れど、|我《われ》さらに|汝《なんぢ》|等《ら》をして|思《おも》ひ|出《いだ》さしめんとする|事《こと》あり、|即《すなは》ち|主《しゅ》エジプトの|地《ち》より|民《たみ》を|救《すく》ひ|出《いだ》して、|後《のち》に|信《しん》ぜぬ|者《もの》を|亡《ほろぼ》し|給《たま》へり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》おのが|位《くらゐ》を|保《たも》たずして|己《おの》が|居所《ゐどころ》を|離《はな》れたる|御使《みつかひ》を、|大《おほい》なる|日《ひ》の|審判《さばき》まで、|闇黒《くらやみ》のうちに|長久《とことは》の|繩目《なはめ》をもて|看守《かんしゅ》し|給《たま》へり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ソドム、ゴモラ|及《およ》びその|周圍《まはり》の|町々《まちまち》も|亦《また》これと|同《おな》じく、|淫行《いんかう》に|耽《ふけ》り、|背倫《はいりん》の|肉《にく》|慾《よく》に|走《はし》り、|永遠《とこしへ》の|火《ひ》の|刑罰《けいばつ》をうけて|鑑《かがみ》とせられたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かくの|如《ごと》くかの|夢《ゆめ》|見《み》る|者《もの》どもも|肉《にく》を|汚《けが》し、|權威《けんゐ》ある|者《もの》を|輕《かろ》んじ、|尊《たふと》き|者《もの》を|罵《ののし》る。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》の|長《をさ》ミカエル|惡魔《あくま》と|論《ろん》じてモーセの|屍體《しかばね》を|爭《あらそ》ひし|時《とき》に、|敢《あ》へて|罵《ののし》りて|審《さば》かず、|唯《ただ》『ねがはくは|主《しゅ》なんぢを|戒《いまし》め|給《たま》はんことを』と|云《い》へり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|此《こ》の|人々《ひとびと》は|知《し》らぬことを|罵《ののし》り、|無知《むち》の|獸《けもの》のごとく、|自然《しぜん》に|知《し》る|所《ところ》によりて|亡《ほろ》ぶるなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|禍害《わざはひ》なるかな、|彼《かれ》らはカインの|道《みち》にゆき、|利《り》のためにバラムの|迷《まよひ》に|走《はし》り、またコラの|如《ごと》き|謀反《むほん》によりて|亡《ほろ》びたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|汝《なんぢ》らと|共《とも》に|宴席《ふるまひ》に|與《あづか》り、その|愛餐《あいさん》の|暗礁《かくれいは》たり、|憚《はばか》らずして|自己《みづから》をやしなふ|牧者《ぼくしゃ》、|風《かぜ》に|逐《お》はるる|水《みづ》なき|雲《くも》、|枯《か》れて|又《また》かれ、|根《ね》より|拔《ぬ》かれたる|果《み》なき|秋《あき》の|木《き》、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]おのが|恥《はぢ》を|湧《わ》き|出《いだ》す|海《うみ》のあらき|波《なみ》、さまよふ|星《ほし》なり。|彼《かれ》らの|爲《ため》に|暗《くら》き|闇《やみ》、とこしへに|蓄《たくは》へ|置《お》かれたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]アダムより|七代《しちだい》に|當《あた》るエノク|彼《かれ》らに|就《つ》きて|預言《よげん》せり。|曰《いは》く『|視《み》よ、|主《しゅ》はその|聖《せい》なる|千萬《ちよろづ》の|衆《しゅう》を|率《ひき》ゐて|來《きた》りたまへり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]これ|凡《すべ》ての|人《ひと》の|審判《さばき》をなし、すべて|敬虔《けいけん》ならぬ|者《もの》の|不《ふ》|敬虔《けいけん》を|行《おこな》ひたる|不《ふ》|敬虔《けいけん》の|凡《すべ》ての|業《わざ》と、|敬虔《けいけん》ならぬ|罪人《つみびと》の、|主《しゅ》に|逆《さから》ひて|語《かた》りたる|凡《すべ》ての|甚《はなは》だしき|言《ことば》とを|責《せ》め|給《たま》はんとてなり』[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|呟《つぶや》くもの、|不滿《ふまん》をならす|者《もの》にして、おのが|慾《よく》に|隨《したが》ひて|歩《あゆ》み、|口《くち》に|誇《ほこり》をかたり、|利《り》のために|人《ひと》に|諂《へつら》ふなり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|愛《あい》する|者《もの》よ、|汝《なんぢ》らは|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|使徒《しと》たちの|預《あらか》じめ|言《い》ひし|言《ことば》を|憶《おぼ》えよ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|汝《なんぢ》らに|曰《いへ》らく『|末《すゑ》の|時《とき》に|嘲《あざけ》る|者《もの》おこり、|己《おの》が|不《ふ》|敬虔《けいけん》なる|慾《よく》に|隨《したが》ひて|歩《あゆ》まん』と。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|分裂《ぶんれつ》をなし、|情《じゃう》|慾《よく》に|屬《ぞく》し、|御靈《みたま》を|有《も》たぬ|者《もの》なり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|愛《あい》する|者《もの》よ、なんぢらは|己《おの》がいと|潔《きよ》き|信仰《しんかう》の|上《うへ》に|徳《とく》を|建《た》て、|聖《せい》|靈《れい》によりて|祈《いの》り、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|愛《あい》のうちに|己《おのれ》をまもり、|永遠《とこしへ》の|生命《いのち》を|得《う》るまで|我《われ》らの|主《しゅ》イエス・キリストの|憐憫《あはれみ》を|待《ま》て。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]また|彼《かれ》らの|中《うち》なる|疑《うたが》ふ|者《もの》をあはれみ、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|或《ある》|者《もの》を|火《ひ》より|取出《とりいだ》して|救《すく》ひ、|或《ある》|者《もの》をその|肉《にく》に|汚《けが》れたる|下衣《したぎ》をも|厭《いと》ひ、かつ|懼《おそ》れつつ|憐《あはれ》め。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|汝《なんぢ》らを|守《まも》りて|躓《つまづ》かしめず、|瑕《きず》なくして|榮光《えいくわう》の|御前《みまへ》に|歡喜《よろこび》をもて|立《た》つことを|得《え》しめ|給《たま》ふ|者《もの》、[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|我《われ》らの|救主《すくひぬし》なる|唯一《ゆゐいつ》の|神《かみ》に、|榮光《えいくわう》・|稜威《みいつ》・|權力《ちから》・|權威《けんゐ》、われらの|主《しゅ》イエス・キリストに|由《よ》りて、|萬《よろづ》|世《よ》の|前《まへ》にも|今《いま》も|萬《よろづ》|世《よ》までも|在《あ》らんことを、アァメン [#改ページ] ヨハネの默示録[#「ヨハネの默示録」は大見出し] 第一章[#「第一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]これイエス・キリストの|默示《もくし》なり。|即《すなは》ち、かならず|速《すみや》かに|起《おこ》るべき|事《こと》を、その|僕《しもべ》どもに|顯《あらは》させんとて、|神《かみ》の|彼《かれ》に|與《あた》へしものなるを、|彼《かれ》その|使《つかひ》を|僕《しもべ》ヨハネに|遣《つかは》して|示《しめ》し|給《たま》へるなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネは|神《かみ》の|言《ことば》とイエス・キリストの|證《あかし》とに|就《つ》きて、その|見《み》しところを|悉《ことご》とく|證《あかし》せり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|此《こ》の|預言《よげん》の|言《ことば》を|讀《よ》む|者《もの》と|之《これ》を|聽《き》きて|其《そ》の|中《なか》に|録《しる》されたることを|守《まも》る|者《もの》どもとは|幸福《さいはひ》なり、|時《とき》|近《ちか》ければなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ヨハネ|書《ふみ》をアジヤに|在《あ》る|七《なな》つの|教會《けうくわい》に|贈《おく》る。|願《ねが》はくは|今《いま》|在《いま》し、|昔《むかし》|在《いま》し、|後《のち》|來《きた》りたまふ|者《もの》、および|其《そ》の|御座《みくら》の|前《まへ》にある|七《なな》つの|靈《れい》、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|忠實《ちゅうじつ》なる|證人《しょうにん》、|死人《しにん》の|中《うち》より|最先《いやさき》に|生《うま》れ|給《たま》ひしもの、|地《ち》の|諸《しょ》|王《わう》の|君《きみ》なるイエス・キリストより|賜《たま》ふ|恩惠《めぐみ》と|平安《へいあん》と|汝《なんぢ》らに|在《あ》らんことを。|願《ねが》はくは|我《われ》らを|愛《あい》し、その|血《ち》をもて|我《われ》らを|罪《つみ》より|解放《ときはな》ち、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]われらを|其《そ》の|父《ちち》なる|神《かみ》のために|國民《こくみん》となし|祭司《さいし》となし|給《たま》へる|者《もの》に、|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|榮光《えいくわう》と|權力《ちから》とあらんことを、アァメン。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|彼《かれ》は|雲《くも》の|中《うち》にありて|來《きた》りたまふ、|諸衆《もろもろ》の|目《め》、|殊《こと》に|彼《かれ》を|刺《さ》したる|者《もの》これを|見《み》ん、かつ|地上《ちじゃう》の|諸族《しょぞく》みな|彼《かれ》の|故《ゆゑ》に|歎《なげ》かん、|然《しか》り、アァメン。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》いまし、|昔《むかし》いまし、|後《のち》きたり|給《たま》ふ|主《しゅ》なる|全能《ぜんのう》の|神《かみ》いひ|給《たま》ふ『|我《われ》はアルパなり、オメガなり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》らの|兄弟《きゃうだい》にして|汝《なんぢ》らと|共《とも》にイエスの|艱難《なやみ》と|國《くに》と|忍耐《にんたい》とに|與《あづか》る|我《われ》ヨハネ、|神《かみ》の|言《ことば》とイエスの|證《あかし》との|爲《ため》にパトモスといふ|島《しま》に|在《あ》りき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]われ|主日《しゅじつ》に|御靈《みたま》に|感《かん》じゐたるに、|我《わ》が|後《うしろ》にラッパのごとき|大《おほい》なる|聲《こゑ》を|聞《き》けり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|曰《いは》く『なんぢの|見《み》る|所《ところ》のことを|書《ふみ》に|録《しる》して、エペソ、スミルナ、ペルガモ、テアテラ、サルデス、ヒラデルヒヤ、ラオデキヤに|在《あ》る|七《なな》つの|教會《けうくわい》に|贈《おく》れ』[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]われ|振反《ふりかへ》りて|我《われ》に|語《かた》る|聲《こゑ》を|見《み》んとし、|振反《ふりかへ》り|見《み》れば|七《なな》つの|金《きん》の|燈臺《とうだい》あり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また|燈臺《とうだい》の|間《あひだ》に|人《ひと》の|子《こ》のごとき|者《もの》ありて、|足《あし》まで|垂《た》るる|衣《ころも》を|著《き》、|胸《むね》に|金《きん》の|帶《おび》を|束《つか》ね、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]その|頭《かしら》と|頭髮《かみのけ》とは|白《しろ》き|毛《け》のごとく|雪《ゆき》のごとく|白《しろ》く、その|目《め》は|焔《ほのほ》のごとく、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]その|足《あし》は|爐《ろ》にて|燒《や》きたる|輝《かがや》ける|眞鍮《しんちゅう》のごとく、その|聲《こゑ》は|衆《おほく》の|水《みづ》の|聲《こゑ》のごとし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]その|右《みぎ》の|手《て》に|七《なな》つの|星《ほし》を|持《も》ち、その|口《くち》より|兩刃《もろは》の|利《と》き|劍《つるぎ》いで、その|顏《かほ》は|烈《はげ》しく|照《て》る|日《ひ》のごとし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》これを|見《み》しとき|其《そ》の|足下《あしもと》に|倒《たふ》れて|死《し》にたる|者《もの》の|如《ごと》くなれり。|彼《かれ》その|右《みぎ》の|手《て》を|我《われ》に|按《お》きて|言《い》ひたまふ『|懼《おそ》るな、|我《われ》は|最先《いやさき》なり、|最後《いやはて》なり、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|活《い》ける|者《もの》なり、われ|曾《かつ》て|死《し》にたりしが、|視《み》よ、|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|生《い》く。また|死《し》と|陰府《よみ》との|鍵《かぎ》を|有《も》てり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》が|見《み》しことと|今《いま》あることと、|後《のち》に|成《な》らんとする|事《こと》とを|録《しる》せ、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|即《すなは》ち|汝《なんぢ》が|見《み》しところの|我《わ》が|右《みぎ》の|手《て》にある|七《なな》つの|星《ほし》と|七《なな》つの|金《きん》の|燈臺《とうだい》との|奧義《おくぎ》なり。|七《なな》つの|星《ほし》は|七《なな》つの|教會《けうくわい》の|使《つかひ》にして、|七《なな》つの|燈臺《とうだい》は|七《なな》つの|教會《けうくわい》なり。 第二章[#「第二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]エペソに|在《あ》る|教會《けうくわい》の|使《つかひ》に|書《か》きおくれ。「|右《みぎ》の|手《て》に|七《なな》つの|星《ほし》を|持《も》つ|者《もの》、|七《なな》つの|金《きん》の|燈臺《とうだい》の|間《あひだ》に|歩《あゆ》むもの|斯《か》く|言《い》ふ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》の|行爲《おこなひ》と|勞《らう》と|忍耐《にんたい》とを|知《し》る。また|汝《なんぢ》が|惡《あ》しき|者《もの》を|忍《しの》び|得《え》ざることと、|自《みづか》ら|使徒《しと》と|稱《とな》へて|使徒《しと》にあらぬ|者《もの》どもを|試《こころ》みて、その|虚僞《いつはり》なるを|見《み》あらはししこととを|知《し》る。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]なんぢは|忍耐《にんたい》を|保《たも》ち、|我《わ》が|名《な》のために|忍《しの》びて|倦《う》まざりき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》なんぢに|責《せ》むべき|所《ところ》あり、なんぢは|初《はじめ》の|愛《あい》を|離《はな》れたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]さればなんぢ|何處《いづこ》より|墜《お》ちしかを|思《おも》へ、|悔改《くいあらた》めて|初《はじめ》の|行爲《おこなひ》をなせ、|然《しか》らずして|若《も》し|悔改《くいあらた》めずば、|我《われ》なんぢに|到《いた》り|汝《なんぢ》の|燈臺《とうだい》を、その|處《ところ》より|取除《とりのぞ》かん。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]されど|汝《なんぢ》に|取《と》るべき|所《ところ》あり、|汝《なんぢ》はニコライ|宗《しゅう》の|行爲《おこなひ》を|憎《にく》む、|我《われ》も|之《これ》を|憎《にく》むなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》ある|者《もの》は|御靈《みたま》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|言《い》ひ|給《たま》ふことを|聽《き》くべし、|勝《かち》を|得《う》る|者《もの》には、われ|神《かみ》のパラダイスに|在《あ》る|生命《いのち》の|樹《き》の|實《み》を|食《くら》ふことを|許《ゆる》さん」[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]スミルナに|在《あ》る|教會《けうくわい》の|使《つかひ》に|書《か》きおくれ。「|最先《いやさき》にして|最後《いやはて》なる|者《もの》、|死人《しにん》となりて|復《また》|生《い》きし|者《もの》かく|言《い》ふ。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》の|艱難《なやみ》と|貧窮《まづしさ》とを|知《し》る――されど|汝《なんぢ》は|富《と》める|者《もの》なり。|我《われ》はまた|自《みづか》らユダヤ|人《びと》と|稱《とな》へてユダヤ|人《びと》にあらず、サタンの|會《くわい》に|屬《つ》く|者《もの》より|汝《なんぢ》が|譏《そしり》を|受《う》くるを|知《し》る。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|受《う》けんとする|苦難《くるしみ》を|懼《おそ》るな、|視《み》よ、|惡魔《あくま》なんぢらを|試《こころ》みんとて、|汝《なんぢ》らの|中《うち》の|或《ある》|者《もの》を|獄《ひとや》に|入《い》れんとす。|汝《なんぢ》ら|十日《とをか》のあひだ|患難《なやみ》を|受《う》けん、なんぢ|死《し》に|至《いた》るまで|忠實《ちゅうじつ》なれ、|然《さ》らば|我《われ》なんぢに|生命《いのち》の|冠冕《かんむり》を|與《あた》へん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》ある|者《もの》は|御靈《みたま》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|言《い》ひ|給《たま》ふことを|聽《き》くべし。|勝《かち》を|得《う》るものは|第二《だいに》の|死《し》に|害《そこな》はるることなし」[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]ペルガモに|在《あ》る|教會《けうくわい》の|使《つかひ》に|書《か》きおくれ。「|兩刃《もろは》の|利《と》き|劍《つるぎ》を|持《も》つもの|斯《か》く|言《い》ふ、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》の|住《す》むところを|知《し》る、|彼處《かしこ》にはサタンの|座位《くらゐ》あり、|汝《なんぢ》わが|名《な》を|保《たも》ち、わが|忠實《ちゅうじつ》なる|證人《しょうにん》アンテパスが、|汝《なんぢ》|等《ら》のうち|即《すなは》ちサタンの|住《す》む|所《ところ》にて|殺《ころ》されし|時《とき》も、なほ|我《われ》を|信《しん》ずる|信仰《しんかう》を|棄《す》てざりき。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》なんぢに|責《せ》むべき|一二《いちに》の|事《こと》あり、|汝《なんぢ》の|中《うち》にバラムの|教《をしへ》を|保《たも》つ|者《もの》どもあり、バラムはバラクに|教《をし》へ、|彼《かれ》をしてイスラエルの|子孫《しそん》の|前《まへ》に|躓物《つまづき》を|置《お》かしめ、|偶像《ぐうざう》に|献《ささ》げし|物《もの》を|食《くら》はせ、かつ|淫行《いんかう》をなさしめたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くのごとく|汝《なんぢ》らの|中《うち》にもニコライ|宗《しゅう》の|教《をしへ》を|保《たも》つ|者《もの》あり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]さらば|悔改《くいあらた》めよ、|然《しか》らずば|我《われ》すみやかに|汝《なんぢ》に|到《いた》り、わが|口《くち》の|劍《つるぎ》にて|彼《かれ》らと|戰《たたか》はん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》ある|者《もの》は|御靈《みたま》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|言《い》ひ|給《たま》ふことを|聽《き》くべし、|勝《かち》を|得《う》る|者《もの》には|我《われ》かくれたるマナを|與《あた》へん、また|受《う》くる|者《もの》の|外《ほか》たれも|知《し》らざる|新《あたら》しき|名《な》を|録《しる》したる|白《しろ》き|石《いし》を|與《あた》へん」[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]テアテラに|在《あ》る|教會《けうくわい》の|使《つかひ》に|書《か》きおくれ。「|目《め》は|焔《ほのほ》のごとく、|足《あし》は|輝《かがや》ける|眞鍮《しんちゅう》の|如《ごと》くなる|神《かみ》の|子《こ》かく|言《い》ふ、[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》の|行爲《おこなひ》および|汝《なんぢ》の|愛《あい》と|信仰《しんかう》と|職《つとめ》と|忍耐《にんたい》とを|知《し》る、|又《また》なんぢの|初《はじめ》の|行爲《おこなひ》よりは|後《のち》の|行爲《おこなひ》の|多《おほ》きことを|知《し》る。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]されど|我《われ》なんぢに|責《せ》むべき|所《ところ》あり、|汝《なんぢ》はかの|自《みづか》ら|預言者《よげんしゃ》と|稱《とな》へて|我《わ》が|僕《しもべ》を|教《をし》へ|惑《まどは》し、|淫行《いんかう》をなさしめ、|偶像《ぐうざう》に|献《ささ》げし|物《もの》を|食《くら》はしむる|女《をんな》イゼベルを|容《い》れおけり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》かれに|悔改《くいあらた》むる|機《をり》を|與《あた》ふれど、その|淫行《いんかう》を|悔改《くいあらた》むることを|欲《ほっ》せず。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|我《われ》かれを|牀《とこ》に|投《な》げ|入《い》れん、|又《また》かれと|共《とも》に|姦淫《かんいん》を|行《おこな》ふ|者《もの》も、その|行爲《おこなひ》を|悔改《くいあらた》めずば、|大《おほい》なる|患難《なやみ》に|投《な》げ|入《い》れん。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》かれの|子供《こども》を|打《う》ち|殺《ころ》さん、|斯《か》くてもろもろの|教會《けうくわい》は、わが|人《ひと》の|腎《むらと》と|心《こころ》とを|究《きは》むる|者《もの》なるを|知《し》るべし、|我《われ》は|汝《なんぢ》|等《ら》おのおのの|行爲《おこなひ》に|隨《したが》ひて|報《むく》いん。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》この|他《ほか》のテアテラの|人《ひと》にして|未《いま》だかの|教《をしへ》を|受《う》けず、|所謂《いはゆる》サタンの|深《ふか》きところを|知《し》らぬ|汝《なんぢ》らに|斯《か》くいふ、|我《われ》ほかの|重《おもき》を|汝《なんぢ》らに|負《お》はせじ。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]ただ|汝《なんぢ》|等《ら》はその|有《も》つところを|我《わ》が|到《いた》らん|時《とき》まで|保《たも》て。[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|勝《かち》を|得《え》て|終《をはり》に|至《いた》るまで|我《わ》が|命《めい》ぜしことを|守《まも》る|者《もの》には、|諸國《しょこく》の|民《たみ》を|治《をさ》むる|權威《けんゐ》を|與《あた》へん。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|鐵《てつ》の|杖《つゑ》をもて|之《これ》を|治《をさ》め、|土《つち》の|器《うつは》を|碎《くだ》くが|如《ごと》くならん、|我《わ》が|父《ちち》より|我《わ》が|受《う》けたる|權威《けんゐ》のごとし。[#太字]二八[#「二八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|彼《かれ》に|曙《あけ》の|明星《みゃうじゃう》を|與《あた》へん。[#太字]二九[#「二九」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》ある|者《もの》は|御靈《みたま》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|言《い》ひ|給《たま》ふことを|聽《き》くべし」 第三章[#「第三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]サルデスに|在《あ》る|教會《けうくわい》の|使《つかひ》に|書《か》きおくれ。「|神《かみ》の|七《なな》つの|靈《れい》と|七《なな》つの|星《ほし》とを|持《も》つ|者《もの》かく|言《い》ふ、われ|汝《なんぢ》の|行爲《おこなひ》を|知《し》る、|汝《なんぢ》は|生《い》くる|名《な》あれど|死《し》にたる|者《もの》なり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ|目《め》を|覺《さま》し、|殆《ほとん》ど|死《し》なんとする|殘《のこり》のものを|堅《かた》うせよ、|我《われ》なんぢの|行爲《おこなひ》のわが|神《かみ》の|前《まへ》に|全《まった》からぬを|見《み》とめたり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]されば|汝《なんぢ》の|如何《いか》に|受《う》けしか、|如何《いか》に|聽《き》きしかを|思《おも》ひいで、|之《これ》を|守《まも》りて|悔改《くいあらた》めよ。もし|目《め》を|覺《さま》さずば、|盜人《ぬすびと》のごとく|我《われ》きたらん、|汝《なんぢ》わが|何《いづ》れの|時《とき》きたるかを|知《し》らざるべし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]されどサルデスにて|衣《ころも》を|汚《けが》さぬもの|數名《すめい》あり、|彼《かれ》らは|白《しろ》き|衣《ころも》を|著《き》て|我《われ》とともに|歩《あゆ》まん、|斯《か》くするに|相應《ふさは》しき|者《もの》なればなり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|勝《かち》を|得《う》る|者《もの》は|斯《か》くのごとく|白《しろ》き|衣《ころも》を|著《き》せられん、|我《われ》その|名《な》を|生命《いのち》の|書《ふみ》より|消《け》し|落《おと》さず、|我《わ》が|父《ちち》のまへと|御使《みつかひ》の|前《まへ》とにてその|名《な》を|言《い》ひあらはさん。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》ある|者《もの》は|御靈《みたま》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|言《い》ひ|給《たま》ふことを|聽《き》くべし」[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]ヒラデルヒヤにある|教會《けうくわい》の|使《つかひ》に|書《か》きおくれ。「|聖《せい》なるもの|眞《まこと》なる|者《もの》、ダビデの|鍵《かぎ》を|持《も》ちて、|開《ひら》けば|閉《と》づる|者《もの》なく、|閉《と》づれば|開《ひら》く|者《もの》なき|者《もの》かく|言《い》ふ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》の|行爲《おこなひ》を|知《し》る、|視《み》よ、|我《われ》なんぢの|前《まへ》に|開《ひら》けたる|門《もん》を|置《お》く、これを|閉《と》ぢ|得《う》る|者《もの》なし。|汝《なんぢ》すこしの|力《ちから》ありて、|我《わ》が|言《ことば》を|守《まも》り、|我《わ》が|名《な》を|否《いな》まざりき。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、|我《われ》サタンの|會《くわい》、すなはち|自《みづか》らユダヤ|人《びと》と|稱《とな》へてユダヤ|人《びと》にあらず、ただ|虚僞《いつはり》をいふ|者《もの》の|中《うち》より、|或《ある》|者《もの》をして|汝《なんぢ》の|足下《あしもと》に|來《きた》り|拜《はい》せしめ、わが|汝《なんぢ》を|愛《あい》せしことを|知《し》らしめん。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》わが|忍耐《にんたい》の|言《ことば》を|守《まも》りし|故《ゆゑ》に、|我《われ》なんぢを|守《まも》りて、|地《ち》に|住《す》む|者《もの》どもを|試《こころ》むるために|全世界《ぜんせかい》に|來《きた》らんとする|試錬《こころみ》のときに|免《まぬか》れしめん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]われ|速《すみや》かに|來《きた》らん、|汝《なんぢ》の|有《も》つものを|守《まも》りて、|汝《なんぢ》の|冠冕《かんむり》を|人《ひと》に|奪《うば》はれざれ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]われ|勝《かち》を|得《う》る|者《もの》を|我《わ》が|神《かみ》の|聖所《せいじょ》の|柱《はしら》とせん、|彼《かれ》は|再《ふたた》び|外《そと》に|出《い》でざるべし、|又《また》かれの|上《うへ》に、わが|神《かみ》の|名《な》および|我《わ》が|神《かみ》の|都《みやこ》、すなはち|天《てん》より|我《わ》が|神《かみ》より|降《くだ》る|新《あたら》しきエルサレムの|名《な》と、|我《わ》が|新《あたら》しき|名《な》とを|書《か》き|記《しる》さん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》ある|者《もの》は|御靈《みたま》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|言《い》ひ|給《たま》ふことを|聽《き》くべし」[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ラオデキヤに|在《あ》る|教會《けうくわい》の|使《つかひ》に|書《か》きおくれ。「アァメンたる|者《もの》、|忠實《ちゅうじつ》なる|眞《まこと》なる|證人《しょうにん》、|神《かみ》の|造《つく》り|給《たま》ふものの|本源《ほんげん》たる|者《もの》かく|言《い》ふ、[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]われ|汝《なんぢ》の|行爲《おこなひ》を|知《し》る、なんぢは|冷《ひやや》かにもあらず|熱《あつ》きにもあらず、|我《われ》はむしろ|汝《なんぢ》が|冷《ひやや》かならんか、|熱《あつ》からんかを|願《ねが》ふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かく|熱《あつ》きにもあらず、|冷《ひやや》かにもあらず、ただ|微温《ぬる》きが|故《ゆゑ》に、|我《われ》なんぢを|我《わ》が|口《くち》より|吐《は》き|出《いだ》さん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]なんぢ、|我《われ》は|富《と》めり、|豐《ゆたか》なり、|乏《とも》しき|所《ところ》なしと|言《い》ひて、|己《おの》が|惱《なや》める|者《もの》・|憐《あはれ》むべき|者《もの》・|貧《まづ》しき|者《もの》・|盲目《めしひ》なる|者《もの》・|裸《はだか》なる|者《もの》たるを|知《し》らざれば、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》なんぢに|勸《すす》む、なんぢ|我《われ》より|火《ひ》にて|煉《ね》りたる|金《きん》を|買《か》ひて|富《と》め、|白《しろ》き|衣《ころも》を|買《か》ひて|身《み》に|纏《まと》ひ、なんぢの|裸體《はだか》の|恥《はぢ》を|露《あらは》さざれ、|眼藥《めぐすり》を|買《か》ひて|汝《なんぢ》の|目《め》に|塗《ぬ》り、|見《み》ることを|得《え》よ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》てわが|愛《あい》する|者《もの》は、|我《われ》これを|戒《いまし》め|之《これ》を|懲《こら》す。この|故《ゆゑ》に、なんぢ|勵《はげ》みて|悔改《くいあらた》めよ。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、われ|戸《と》の|外《そと》に|立《た》ちて|叩《たた》く、|人《ひと》もし|我《わ》が|聲《こゑ》を|聞《き》きて|戸《と》を|開《ひら》かば、|我《われ》その|内《うち》に|入《い》りて|彼《かれ》とともに|食《しょく》し、|彼《かれ》もまた|我《われ》とともに|食《しょく》せん。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|勝《かち》を|得《う》る|者《もの》には|我《われ》とともに|我《わ》が|座位《くらゐ》に|坐《ざ》することを|許《ゆる》さん、|我《われ》の|勝《かち》を|得《え》しとき、|我《わ》が|父《ちち》とともに|其《そ》の|御座《みくら》に|坐《ざ》したるが|如《ごと》し。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|耳《みみ》ある|者《もの》は|御靈《みたま》の|諸《しょ》|教會《けうくわい》に|言《い》ひ|給《たま》ふことを|聽《き》くべし」』 第四章[#「第四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》われ|見《み》しに、|視《み》よ、|天《てん》に|開《ひら》けたる|門《もん》あり。|初《はじめ》に|我《われ》に|語《かた》るを|聞《き》きしラッパのごとき|聲《こゑ》いふ『ここに|登《のぼ》れ、|我《われ》この|後《のち》おこるべき|事《こと》を|汝《なんぢ》に|示《しめ》さん』[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|直《ただ》ちに、われ|御靈《みたま》に|感《かん》ぜしが、|視《み》よ、|天《てん》に|御座《みくら》|設《まう》けあり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]その|御座《みくら》に|坐《ざ》したまふ|者《もの》あり、その|坐《ざ》し|給《たま》ふものの|状《さま》は|碧玉《へきぎょく》・|赤瑪瑙《あかめのう》のごとく、かつ|御座《みくら》の|周圍《まはり》には|緑玉《りょくぎょく》のごとき|虹《にじ》ありき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|御座《みくら》のまはりに|二十四《にじふし》の|座位《くらゐ》ありて、|二十四人《にじふよにん》の|長老《ちゃうらう》、|白《しろ》き|衣《ころも》を|纏《まと》ひ、|首《かうべ》に|金《きん》の|冠冕《かんむり》を|戴《いただ》きて、その|座位《くらゐ》に|坐《ざ》せり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|御座《みくら》より|數多《あまた》の|電光《いなづま》と|聲《こゑ》と|雷霆《いかづち》と|出《い》づ。また|御座《みくら》の|前《まへ》に|燃《も》えたる|七《なな》つの|燈火《ともしび》あり、これ|神《かみ》の|七《なな》つの|靈《れい》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|御座《みくら》のまへに|水晶《すゐしゃう》に|似《に》たる|玻璃《ぱり》の|海《うみ》あり。|御座《みくら》の|中央《ちゅうおう》と|御座《みくら》の|周圍《まはり》とに|四《よ》つの|活物《いきもの》ありて、|前《まへ》も|後《うしろ》も|數々《かずかず》の|目《め》にて|滿《み》ちたり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|第一《だいいち》の|活物《いきもの》は|獅子《しし》のごとく、|第二《だいに》の|活物《いきもの》は|牛《うし》のごとく、|第三《だいさん》の|活物《いきもの》は|面《かほ》のかたち|人《ひと》のごとく、|第四《だいし》の|活物《いきもの》は|飛《と》ぶ|鷲《わし》のごとし。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|四《よ》つの|活物《いきもの》おのおの|六《む》つの|翼《つばさ》あり、|翼《つばさ》の|内《うち》も|外《そと》も|數々《かずかず》の|目《め》にて|滿《み》ちたり、|日《ひる》も|夜《よる》も|絶間《たえま》なく|言《い》ふ、 [#ここから2字下げ] 『|聖《せい》なるかな、|聖《せい》なるかな、|聖《せい》なるかな、 |昔《むかし》いまし、|今《いま》いまし、のち|來《きた》りたまふ |主《しゅ》たる|全能《ぜんのう》の|神《かみ》』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|活物《いきもの》ら|御座《みくら》に|坐《ざ》し、|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|活《い》きたまふ|者《もの》に|榮光《えいくわう》と|尊崇《たうとき》とを|歸《き》し、|感謝《かんしゃ》する|時《とき》、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|二十四人《にじふよにん》の|長老《ちゃうらう》、|御座《みくら》に|坐《ざ》したまふ|者《もの》のまへに|伏《ふ》し、|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|活《い》きたまふ|者《もの》を|拜《はい》し、おのれの|冠冕《かんむり》を|御座《みくら》のまへに|投《な》げ|出《いだ》して|言《い》ふ、 [#ここから2字下げ] [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]『|我《われ》らの|主《しゅ》なる|神《かみ》よ、|榮光《えいくわう》と|尊崇《たうとき》と|能力《ちから》とを |受《う》け|給《たま》ふは|宜《うべ》なり。|汝《なんぢ》は|萬物《ばんもつ》を|造《つく》りたまひ、 |萬物《ばんもつ》は|御意《みこころ》によりて|存《そん》し、かつ|造《つく》られたり』 [#ここで字下げ終わり] 第五章[#「第五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|御座《みくら》に|坐《ざ》し|給《たま》ふ|者《もの》の|右《みぎ》の|手《て》に、|卷《まき》|物《もの》のあるを|見《み》たり、その|裏表《うらおもて》に|文字《もじ》あり、|七《なな》つの|印《いん》をもて|封《ふう》ぜらる。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]また|大聲《おほごゑ》に『|卷《まき》|物《もの》を|開《ひら》きてその|封印《ふういん》を|解《と》くに|相應《ふさは》しき|者《もの》は|誰《たれ》ぞ』と|呼《よば》はる|強《つよ》き|御使《みつかひ》を|見《み》たり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|然《しか》るに|天《てん》にも|地《ち》にも、|地《ち》の|下《した》にも、|卷《まき》|物《もの》を|開《ひら》きて|之《これ》を|見《み》|得《う》る|者《もの》なかりき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|卷《まき》|物《もの》を|開《ひら》き、これを|見《み》るに|相應《ふさは》しき|者《もの》の|見《み》えざりしに|因《よ》りて、|我《われ》いたく|泣《な》きゐたりしに、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|長老《ちゃうらう》の|一人《ひとり》われに|言《い》ふ『|泣《な》くな、|視《み》よ、ユダの|族《やから》の|獅子《しし》・ダビデの|萠蘗《ひこばえ》、すでに|勝《かち》を|得《え》て|卷《まき》|物《もの》とその|七《なな》つの|封印《ふういん》とを|開《ひら》き|得《う》るなり』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|御座《みくら》および|四《よ》つの|活物《いきもの》と|長老《ちゃうらう》たちとの|間《あひだ》に、|屠《ほふ》られたるが|如《ごと》き|羔羊《こひつじ》の|立《た》てるを|見《み》たり、|之《これ》に|七《なな》つの|角《つの》と|七《なな》つの|目《め》とあり、この|目《め》は|全世界《ぜんせかい》に|遣《つかは》されたる|神《かみ》の|七《なな》つの|靈《れい》なり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かれ|來《きた》りて|御座《みくら》に|坐《ざ》したまふ|者《もの》の|右《みぎ》の|手《て》より|卷《まき》|物《もの》を|受《う》けたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|卷《まき》|物《もの》を|受《う》けたるとき、|四《よ》つの|活物《いきもの》および|二十四人《にじふよにん》の|長老《ちゃうらう》、おのおの|立琴《たてごと》と|香《かう》の|滿《み》ちたる|金《きん》の|鉢《はち》とをもちて、|羔羊《こひつじ》の|前《まへ》に|平伏《ひれふ》せり、|此《こ》の|香《かう》は|聖徒《せいと》の|祈祷《いのり》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|新《あたら》しき|歌《うた》を|謳《うた》ひて|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 『なんぢは|卷《まき》|物《もの》を|受《う》け、その|封印《ふういん》を|解《と》くに|相應《ふさは》しきなり、|汝《なんぢ》は|屠《ほふ》られ、その|血《ち》をもて|諸種《もろもろ》の|族《やから》・|國語《くにことば》・|民《たみ》・|國《くに》の|中《うち》より|人々《ひとびと》を|神《かみ》のために|買《か》ひ、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》を|我《われ》らの|神《かみ》のために|國民《こくみん》となし、|祭司《さいし》となし|給《たま》へばなり。|彼《かれ》らは|地《ち》の|上《うへ》に|王《わう》となるべし』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|見《み》しに、|御座《みくら》と|活物《いきもの》と|長老《ちゃうらう》たちとの|周圍《まはり》にをる|多《おほ》くの|御使《みつかひ》の|聲《こゑ》を|聞《き》けり。その|數《かず》、|千々萬々《せんせんまんまん》にして、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|大聲《おほごゑ》にいふ [#ここから2字下げ] 『|屠《ほふ》られ|給《たま》ひし|羔羊《こひつじ》こそ、|能力《ちから》と|富《とみ》と|知慧《ちゑ》と、|勢威《いきほひ》と|尊崇《たうとき》と、|榮光《えいくわう》と|讃美《さんび》とを|受《う》くるに|相應《ふさは》しけれ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|天《てん》に、|地《ち》に、|地《ち》の|下《した》に、|海《うみ》にある|萬《よろづ》の|造《つく》られたる|物《もの》、また|凡《すべ》てその|中《うち》にある|物《もの》の|云《い》へるを|聞《き》けり。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 『|願《ねが》はくは|御座《みくら》に|坐《ざ》し|給《たま》ふものと|羔羊《こひつじ》とに、|讃美《さんび》と|尊崇《たうとき》と|榮光《えいくわう》と|權力《ちから》と|世々《よよ》|限《かぎ》りなくあらん|事《こと》を』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|四《よ》つの|活物《いきもの》はアァメンと|言《い》ひ、|長老《ちゃうらう》たちは|平伏《ひれふ》して|拜《はい》せり。 第六章[#「第六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|羔羊《こひつじ》その|七《なな》つの|封印《ふういん》の|一《ひと》つを|解《と》き|給《たま》ひし|時《とき》、われ|見《み》しに、|四《よ》つの|活物《いきもの》の|一《ひと》つが|雷霆《いかづち》のごとき|聲《こゑ》して『|來《きた》れ』と|言《い》ふを|聞《き》けり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]また|見《み》しに、|視《み》よ、|白《しろ》き|馬《うま》あり、|之《これ》に|乘《の》るもの|弓《ゆみ》を|持《も》ち、かつ|冠冕《かんむり》を|與《あた》へられ、|勝《か》ちて|復《また》|勝《か》たんとて|出《い》でゆけり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|第二《だいに》の|封印《ふういん》を|解《と》き|給《たま》ひたれば、|第二《だいに》の|活物《いきもの》の『|來《きた》れ』と|言《い》ふを|聞《き》けり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|赤《あか》き|馬《うま》いで|來《きた》り、これに|乘《の》るもの|地《ち》より|平和《へいわ》を|奪《うば》ひ|取《と》ることと、|人《ひと》をして|互《たがひ》に|殺《ころ》さしむる|事《こと》とを|許《ゆる》され、また|大《おほい》なる|劍《つるぎ》を|與《あた》へられたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|第三《だいさん》の|封印《ふういん》を|解《と》き|給《たま》ひたれば、|第三《だいさん》の|活物《いきもの》の『|來《きた》れ』と|言《い》ふを|聞《き》けり。われ|見《み》しに、|視《み》よ、|黒《くろ》き|馬《うま》あり、|之《これ》に|乘《の》るもの|手《て》に|權衝《はかり》を|持《も》てり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かくてわれ|四《よ》つの|活物《いきもの》の|間《あひだ》より|出《い》づるごとき|聲《こゑ》を|聞《き》けり。|曰《いは》く『|小麥《こむぎ》|五合《ごがふ》は|一《いち》デナリ、|大麥《おほむぎ》|一升《いちしょう》|五合《ごがふ》は|一《いち》デナリなり、|油《あぶら》と|葡萄酒《ぶだうしゅ》とを|害《そこな》ふな』[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|第四《だいし》の|封印《ふういん》を|解《と》き|給《たま》ひたれば、|第四《だいし》の|活物《いきもの》の『|來《きた》れ』と|言《い》ふを|聞《き》けり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]われ|見《み》しに、|視《み》よ、|青《あを》ざめたる|馬《うま》あり、|之《これ》に|乘《の》る|者《もの》の|名《な》を|死《し》といひ、|陰府《よみ》これに|隨《したが》ふ。かれらは|地《ち》の|四《し》|分《ぶん》の|一《いち》を|支配《しはい》し、|劍《つるぎ》と|饑饉《ききん》と|死《し》と|地《ち》の|獸《けもの》とをもて|人《ひと》を|殺《ころ》すことを|許《ゆる》されたり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|第五《だいご》の|封印《ふういん》を|解《と》き|給《たま》ひたれば、|曾《かつ》て|神《かみ》の|言《ことば》のため、|又《また》その|立《た》てし|證《あかし》のために|殺《ころ》されし|者《もの》の|靈魂《たましひ》の|祭壇《さいだん》の|下《した》に|在《あ》るを|見《み》たり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はりて|言《い》ふ『|聖《せい》にして|眞《まこと》なる|主《しゅ》よ、|何時《いつ》まで|審《さば》かずして|地《ち》に|住《す》む|者《もの》に|我《われ》らの|血《ち》の|復讐《ふくしう》をなし|給《たま》はぬか』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]ここにおのおの|白《しろ》き|衣《ころも》を|與《あた》へられ、かつ|己《おのれ》|等《ら》のごとく|殺《ころ》されんとする|同《おな》じ|僕《しもべ》たる|者《もの》と|兄弟《きゃうだい》との|數《かず》の|滿《み》つるまで、なほ|暫《しばら》く|安《やす》んじて|待《ま》つべきを|言《い》ひ|聞《き》けられたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|第六《だいろく》の|封印《ふういん》を|解《と》き|給《たま》ひし|時《とき》、われ|見《み》しに、|大《おほい》なる|地震《ぢしん》ありて|日《ひ》は|荒《あら》き|毛《け》|布《ぬの》のごとく|黒《くろ》く、|月《つき》は|全面《ぜんめん》|血《ち》の|如《ごと》くなり、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》の|星《ほし》は|無花果《いちぢく》の|樹《き》の|大風《おほかぜ》に|搖《ゆ》られて、|生《な》り|後《おくれ》の|果《み》の|落《お》つるごとく|地《ち》におち、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》は|卷《まき》|物《もの》を|卷《ま》くごとく|去《さ》りゆき、|山《やま》と|島《しま》とは|悉《ことご》とくその|處《ところ》を|移《うつ》されたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|地《ち》の|王《わう》たち・|大臣《だいじん》・|將校《しゃうこう》・|富《と》める|者《もの》・|強《つよ》き|者《もの》・|奴隷《どれい》・|自主《じしゅ》の|人《ひと》、みな|洞《ほら》と|山《やま》の|巖間《いはま》とに|匿《かく》れ、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|山《やま》と|巖《いは》とに|對《むか》ひて|言《い》ふ『|請《こ》ふ、|我《われ》らの|上《うへ》に|墜《お》ちて|御座《みくら》に|坐《ざ》したまふ|者《もの》の|御顏《みかほ》より、|羔羊《こひつじ》の|怒《いかり》より、|我《われ》らを|隱《かく》せ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]そは|御怒《みいかり》の|大《おほい》なる|日《ひ》|既《すで》に|來《きた》ればなり。|誰《たれ》か|立《た》つことを|得《え》ん』 第七章[#「第七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》、われ|四人《よにん》の|御使《みつかひ》の|地《ち》の|四隅《よすみ》に|立《た》つを|見《み》たり、|彼《かれ》らは|地《ち》の|四方《しはう》の|風《かぜ》を|引止《ひきと》めて、|地《ち》にも|海《うみ》にも|諸種《もろもろ》の|樹《き》にも|風《かぜ》を|吹《ふ》かせざりき。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》の|一人《ひとり》の|御使《みつかひ》の、|活《い》ける|神《かみ》の|印《いん》を|持《も》ちて|日《ひ》の|出《い》づる|方《かた》より|登《のぼ》るを|見《み》たり、かれ|地《ち》と|海《うみ》とを|害《そこな》ふ|權《けん》を|與《あた》へられたる|四人《よにん》の|御使《みつかひ》にむかひ、|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はりて|言《い》ふ、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]『われらが|我《われ》らの|神《かみ》の|僕《しもべ》の|額《ひたひ》に|印《いん》するまでは、|地《ち》をも|海《うみ》をも|樹《き》をも|害《そこな》ふな』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]われ|印《いん》せられたる|者《もの》の|數《かず》を|聽《き》きしに、イスラエルの|子《こ》|等《ら》のもろもろの|族《やから》の|中《うち》にて|印《いん》せられたるもの|合《あは》せて|十四萬《じふしまん》|四千《しせん》あり。 [#ここから2字下げ] [#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]ユダの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》|印《いん》せられ、 ルベンの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 ガドの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 [#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]アセルの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 ナフタリの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 マナセの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 [#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]シメオンの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 レビの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 イサカルの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 [#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ゼブルンの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 ヨセフの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》、 ベニヤミンの|族《やから》の|中《うち》にて|一萬《いちまん》|二千《にせん》|印《いん》せられたり。 [#ここで字下げ終わり] [#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》われ|見《み》しに、|視《み》よ、もろもろの|國《くに》・|族《やから》・|民《たみ》・|國語《くにことば》の|中《うち》より、|誰《たれ》も|數《かぞ》へつくすこと|能《あた》はぬ|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》、しろき|衣《ころも》を|纏《まと》ひて|手《て》に|棕梠《しゅろ》の|葉《は》をもち、|御座《みくら》と|羔羊《こひつじ》との|前《まへ》に|立《た》ち、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はりて|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 『|救《すくひ》は|御座《みくら》に|坐《ざ》したまふ|我《われ》らの|神《かみ》と|羔羊《こひつじ》とにこそ|在《あ》れ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》みな|御座《みくら》および|長老《ちゃうらう》たちと|四《よ》つの|活物《いきもの》との|周圍《まはり》に|立《た》ちて、|御座《みくら》の|前《まへ》に|平伏《ひれふ》し|神《かみ》を|拜《はい》して|言《い》ふ、 [#ここから2字下げ] [#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]『アァメン、|讃美《さんび》・|榮光《えいくわう》・|知慧《ちゑ》・|感謝《かんしゃ》・|尊貴《たふとき》・|能力《ちから》・|勢威《いきほひ》、|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|我《われ》らの|神《かみ》にあれ、アァメン』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|長老《ちゃうらう》たちの|一人《ひとり》われに|向《むか》ひて|言《い》ふ『この|白《しろ》き|衣《ころも》を|著《き》たるは|如何《いか》なる|者《もの》にして|何處《いづこ》より|來《きた》りしか』[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》いふ『わが|主《しゅ》よ、なんぢ|知《し》れり』かれ|言《い》ふ『かれらは|大《おほい》なる|患難《なやみ》より|出《い》できたり、|羔羊《こひつじ》の|血《ち》に|己《おの》が|衣《ころも》を|洗《あら》ひて|白《しろ》くしたる|者《もの》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|神《かみ》の|御座《みくら》の|前《まへ》にありて、|晝《ひる》も|夜《よる》もその|聖所《せいじょ》にて|神《かみ》に|事《つか》ふ。|御座《みくら》に|坐《ざ》したまふ|者《もの》は|彼《かれ》らの|上《うへ》に|幕屋《まくや》を|張《は》り|給《たま》ふべし。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|重《かさ》ねて|飢《う》ゑず、|重《かさ》ねて|渇《かわ》かず、|日《ひ》も|熱《ねつ》も|彼《かれ》らを|侵《をか》すことなし。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|御座《みくら》の|前《まへ》にいます|羔羊《こひつじ》は、|彼《かれ》らを|牧《ぼく》して|生命《いのち》の|水《みづ》の|泉《いづみ》にみちびき、|神《かみ》は|彼《かれ》らの|目《め》より|凡《すべ》ての|涙《なみだ》を|拭《ぬぐ》ひ|給《たま》ふべければなり』 第八章[#「第八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|第七《だいしち》の|封印《ふういん》を|解《と》き|給《たま》ひたれば、|凡《おほよ》そ|半時《はんとき》のあひだ|天《てん》|靜《しづか》なりき。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われ|神《かみ》の|前《まへ》に|立《た》てる|七人《しちにん》の|御使《みつかひ》を|見《み》たり、|彼《かれ》らは|七《なな》つのラッパを|與《あた》へられたり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|他《ほか》の|一人《ひとり》の|御使《みつかひ》、|金《きん》の|香爐《かうろ》を|持《も》ちきたりて|祭壇《さいだん》の|前《まへ》に|立《た》ち、|多《おほ》くの|香《かう》を|與《あた》へられたり。これは|凡《すべ》ての|聖徒《せいと》の|祈《いのり》に|加《くは》へて、|御座《みくら》の|前《まへ》なる|金《きん》の|香壇《かうだん》の|上《うへ》に|献《ささ》げんためなり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|香《かう》の|煙《けむり》、|御使《みつかひ》の|手《て》より|聖徒《せいと》たちの|祈《いのり》とともに|神《かみ》の|前《まへ》に|上《のぼ》れり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》その|香爐《かうろ》をとり、|之《これ》に|祭壇《さいだん》の|火《ひ》を|盛《も》りて|地《ち》に|投《な》げたれば、|數多《あまた》の|雷霆《いかづち》と|聲《こゑ》と|電光《いなづま》と、また|地震《ぢしん》おこれり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]ここに|七《なな》つのラッパをもてる|七人《しちにん》の|御使《みつかひ》これを|吹《ふ》く|備《そなへ》をなせり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|第一《だいいち》の|御使《みつかひ》ラッパを|吹《ふ》きしに、|血《ち》の|混《まじ》りたる|雹《へう》と|火《ひ》とありて、|地《ち》にふりくだり、|地《ち》の|三分《さんぶん》の|一《いち》|燒《や》け|失《う》せ、|樹《き》の|三分《さんぶん》の|一《いち》|燒《や》け|失《う》せ、もろもろの|青《あを》|草《くさ》|燒《や》け|失《う》せたり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|第二《だいに》の|御使《みつかひ》ラッパを|吹《ふ》きしに、|火《ひ》にて|燃《も》ゆる|大《おほい》なる|山《やま》の|如《ごと》きもの|海《うみ》に|投《な》げ|入《い》れられ、|海《うみ》の|三分《さんぶん》の|一《いち》|血《ち》に|變《へん》じ、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|海《うみ》の|中《なか》の|造《つく》られたる|生命《いのち》あるものの|三分《さんぶん》の|一《いち》|死《し》に、|船《ふね》の|三分《さんぶん》の|一《いち》|滅《ほろ》びたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|第三《だいさん》の|御使《みつかひ》ラッパを|吹《ふ》きしに、|燈火《ともしび》のごとく|燃《も》ゆる|大《おほい》なる|星《ほし》、|天《てん》より|隕《お》ちきたり、|川《かは》の|三分《さんぶん》の|一《いち》と|水《みづ》の|源泉《みなもと》との|上《うへ》におちたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]この|星《ほし》の|名《な》は|苦艾《にがよもぎ》といふ。|水《みづ》の|三分《さんぶん》の|一《いち》は|苦艾《にがよもぎ》となり、|水《みづ》の|苦《にが》くなりしに|因《よ》りて|多《おほ》くの|人《ひと》|死《し》にたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|第四《だいし》の|御使《みつかひ》ラッパを|吹《ふ》きしに、|日《ひ》の|三分《さんぶん》の|一《いち》と|月《つき》の|三分《さんぶん》の|一《いち》と|星《ほし》の|三分《さんぶん》の|一《いち》と|撃《う》たれて、その|三分《さんぶん》の|一《いち》は|暗《くら》くなり、|晝《ひる》も|三分《さんぶん》の|一《いち》は|光《ひかり》なく、|夜《よる》も|亦《また》おなじ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また|見《み》しに、|一《ひと》つの|鷲《わし》の|中空《なかぞら》を|飛《と》び、|大《おほい》なる|聲《こゑ》して|言《い》ふを|聞《き》けり。|曰《いは》く『|地《ち》に|住《す》める|者《もの》どもは|禍害《わざはひ》なるかな、|禍害《わざはひ》なるかな、|禍害《わざはひ》なるかな、|尚《な》ほかに|三人《さんにん》の|御使《みつかひ》の|吹《ふ》かんとするラッパの|聲《こゑ》あるに|因《よ》りてなり』 第九章[#「第九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|第五《だいご》の|御使《みつかひ》ラッパを|吹《ふ》きしに、われ|一《ひと》つの|星《ほし》の|天《てん》より|地《ち》に|隕《お》ちたるを|見《み》たり。この|星《ほし》は|底《そこ》なき|坑《あな》の|鍵《かぎ》を|與《あた》へられたり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|底《そこ》なき|坑《あな》を|開《ひら》きたれば、|大《おほい》なる|爐《ろ》の|煙《けむり》のごとき|煙《けむり》、|坑《あな》より|立《た》ちのぼり、|日《ひ》も|空《そら》も|坑《あな》の|煙《けむり》にて|暗《くら》くなれり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|煙《けむり》の|中《うち》より|蝗《いなご》|地上《ちじゃう》に|出《い》でて、|地《ち》の|蝎《さそり》のもてる|力《ちから》のごとき|力《ちから》を|與《あた》へられ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|地《ち》の|草《くさ》すべての|青《あを》きもの|又《また》すべての|樹《き》を|害《そこな》ふことなく、ただ|額《ひたひ》に|神《かみ》の|印《いん》なき|人《ひと》をのみ|害《そこな》ふことを|命《めい》ぜられたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]されど|彼《かれ》らを|殺《ころ》すことを|許《ゆる》されず、|五月《いつつき》のあひだ|苦《くる》しむることを|許《ゆる》さる、その|苦痛《くるしみ》は、|蝎《さそり》に|刺《さ》されたる|苦痛《くるしみ》のごとし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]このとき|人々《ひとびと》、|死《し》を|求《もと》むとも|見出《みいだ》さず、|死《し》なんと|欲《ほっ》すとも|死《し》は|逃《に》げ|去《さ》るべし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かの|蝗《いなご》の|形《かたち》は|戰爭《いくさ》の|爲《ため》に|具《そな》へたる|馬《うま》のごとく、|頭《かしら》には|金《きん》に|似《に》たる|冠冕《かんむり》の|如《ごと》きものあり、|顏《かほ》は|人《ひと》の|顏《かほ》のごとく、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|之《これ》に|女《をんな》の|頭髮《かみのけ》のごとき|頭髮《かみのけ》あり、|齒《は》は|獅子《しし》の|齒《は》のごとし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]また|鐵《てつ》の|胸當《むねあて》のごとき|胸當《むねあて》あり、その|翼《つばさ》の|音《おと》は|軍車《いくさぐるま》の|轟《とどろ》くごとく、|多《おほ》くの|馬《うま》の|戰鬪《たたかひ》に|馳《は》せゆくが|如《ごと》し。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|蝎《さそり》のごとき|尾《を》ありて|之《これ》に|刺《はり》あり、この|尾《を》に|五月《いつつき》のあひだ|人《ひと》を|害《そこな》ふ|力《ちから》あり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]この|蝗《いなご》に|王《わう》あり。|底《そこ》なき|所《ところ》の|使《つかひ》にして、|名《な》をヘブル|語《ご》にてアバドンと|云《い》ひ、ギリシヤ|語《ご》にてアポルオンと|云《い》ふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|第一《だいいち》の|禍害《わざはひ》すぎ|去《さ》れり、|視《み》よ、|此《こ》の|後《のち》なほ|二《ふた》つの|禍害《わざはひ》きたらん。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|第六《だいろく》の|御使《みつかひ》ラッパを|吹《ふ》きしに、|神《かみ》の|前《まへ》なる|金《きん》の|香壇《かうだん》の|四《よ》つの|角《つの》より|聲《こゑ》ありて、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]ラッパを|持《も》てる|第六《だいろく》の|御使《みつかひ》に『|大《おほい》なるユウフラテ|川《がは》の|邊《ほとり》に|繋《つな》がれをる|四人《よにん》の|御使《みつかひ》を|解放《ときはな》て』と|言《い》ふを|聞《き》けり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]かくてその|時《とき》その|日《ひ》その|月《つき》その|年《とし》に|至《いた》りて、|人《ひと》の|三分《さんぶん》の|一《いち》を|殺《ころ》さん|爲《ため》に|備《そな》へられたる|四人《よにん》の|御使《みつかひ》は|解放《ときはな》たれたり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|騎兵《きへい》の|數《かず》は|二億《におく》なり、|我《われ》その|數《かず》を|聞《き》けり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]われ|幻影《まぼろし》にてその|馬《うま》と|之《これ》に|乘《の》る|者《もの》とを|見《み》しに、|彼《かれ》らは|火《ひ》・|煙《けむり》・|硫黄《いわう》の|色《いろ》したる|胸當《むねあて》を|著《つ》く。|馬《うま》の|頭《かしら》は|獅子《しし》の|頭《かしら》のごとくにて、その|口《くち》よりは|火《ひ》と|煙《けむり》と|硫黄《いわう》と|出《い》づ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]この|三《み》つの|苦痛《くるしみ》、すなはち|其《そ》の|口《くち》より|出《い》づる|火《ひ》と|煙《けむり》と|硫黄《いわう》とに|因《よ》りて、|人《ひと》の|三分《さんぶん》の|一《いち》|殺《ころ》されたり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|馬《うま》の|力《ちから》はその|口《くち》とその|尾《を》とにあり、その|尾《を》は|蛇《へび》の|如《ごと》くにして|頭《かしら》あり、|之《これ》をもて|人《ひと》を|害《そこな》ふなり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]これらの|苦痛《くるしみ》にて|殺《ころ》されざりし|殘《のこり》の|人々《ひとびと》は、おのが|手《て》の|業《わざ》を|悔改《くいあらた》めずして、なほ|惡鬼《あくき》を|拜《はい》し、|見《み》ること|聞《き》くこと|歩《あゆ》むこと|能《あた》はぬ、|金《きん》・|銀《ぎん》・|銅《どう》・|石《いし》・|木《き》の|偶像《ぐうざう》を|拜《はい》せり、[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》その|殺人《ひとごろし》・|咒術《まじわざ》・|淫行《いんかう》・|竊盜《ぬすみ》を|悔改《くいあらた》めざりき。 第一〇章[#「第一〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|一人《ひとり》の|強《つよ》き|御使《みつかひ》の、|雲《くも》を|著《き》て|天《てん》より|降《くだ》るを|見《み》たり。その|頭《かしら》の|上《うへ》に|虹《にじ》あり、その|顏《かほ》は|日《ひ》の|如《ごと》く、その|足《あし》は|火《ひ》の|柱《はしら》のごとし。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]その|手《て》には|展《ひら》きたる|小《ちひさ》き|卷《まき》|物《もの》をもち、|右《みぎ》の|足《あし》を|海《うみ》の|上《うへ》におき、|左《ひだり》の|足《あし》を|地《ち》の|上《うへ》におき、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|獅子《しし》の|吼《ほ》ゆる|如《ごと》く|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はれり、|呼《よば》はりたるとき|七《なな》つの|雷霆《いかづち》おのおの|聲《こゑ》を|出《いだ》せり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|七《なな》つの|雷霆《いかづち》の|語《かた》りし|時《とき》、われ|書《か》き|記《しる》さんとせしに、|天《てん》より|聲《こゑ》ありて『|七《なな》つの|雷霆《いかづち》の|語《かた》りしことは|封《ふう》じて|書《か》き|記《しる》すな』といふを|聞《き》けり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|我《わ》が|見《み》しところの|海《うみ》と|地《ち》とに|跨《またが》り|立《た》てる|御使《みつかひ》は、|天《てん》にむかひて|右《みぎ》の|手《て》を|擧《あ》げ、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》および|其《そ》の|中《なか》に|在《あ》るもの、|地《ち》および|其《そ》の|中《なか》にあるもの、|海《うみ》および|其《そ》の|中《なか》にある|物《もの》を|造《つく》り|給《たま》ひし、|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|生《い》きたまふ|者《もの》を|指《さ》し、|誓《ちか》ひて|言《い》ふ『この|後《のち》、|時《とき》は|延《の》ぶることなし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|第七《だいしち》の|御使《みつかひ》の|吹《ふ》かんとするラッパの|聲《こゑ》の|出《い》づる|時《とき》に|至《いた》りて、|神《かみ》の|僕《しもべ》なる|預言者《よげんしゃ》たちに|示《しめ》し|給《たま》ひし|如《ごと》く、その|奧義《おくぎ》は|成就《じゃうじゅ》せらるべし』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]かくて|我《わ》が|前《さき》に|天《てん》より|聞《き》きし|聲《こゑ》のまた|我《われ》に|語《かた》りて『なんぢ|往《ゆ》きて、|海《うみ》と|地《ち》とに|跨《またが》り|立《た》てる|御使《みつかひ》の|手《て》にある|展《ひら》きたる|卷《まき》|物《もの》を|取《と》れ』と|言《い》ふを|聞《き》けり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]われ|御使《みつかひ》のもとに|往《ゆ》きて、|小《ちひさ》き|卷《まき》|物《もの》を|我《われ》に|與《あた》へんことを|請《こ》ひたれば、|彼《かれ》いふ『これを|取《と》りて|食《くら》ひ|盡《つく》せ、さらば|汝《なんぢ》の|腹《はら》|苦《にが》くならん、|然《さ》れど|其《そ》の|口《くち》には|蜜《みつ》のごとく|甘《あま》からん』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]われ|御使《みつかひ》の|手《て》より|小《ちひさ》き|卷《まき》|物《もの》をとりて|食《くら》ひ|盡《つく》したれば、|口《くち》には|蜜《みつ》のごとく|甘《あま》かりしが、|食《くら》ひし|後《のち》わが|腹《はら》は|苦《にが》くなれり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]また|或《ある》|物《もの》われに|言《い》ふ『なんぢ|再《ふたた》び|多《おほ》くの|民《たみ》・|國《くに》・|國語《くにことば》・|王《わう》たちに|就《つ》きて|預言《よげん》すべし』 第一一章[#「第一一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]ここにわれ|杖《つゑ》のごとき|間竿《けんざを》を|與《あた》へられたり、かくて|或《ある》|者《もの》いふ『|立《た》ちて|神《かみ》の|聖所《せいじょ》と|香壇《かうだん》と|其處《そこ》に|拜《はい》する|者《もの》どもとを|度《はか》れ、[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|聖所《せいじょ》の|外《そと》の|庭《には》は|差措《さしお》きて|度《はか》るな、これは|異邦人《いはうじん》に|委《ゆだ》ねられたり、|彼《かれ》らは|四十《しじふ》|二个月《にかげつ》のあひだ|聖《せい》なる|都《みやこ》を|蹂躙《ふみにじ》らん。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》わが|二人《ふたり》の|證人《しょうにん》に|權《けん》を|與《あた》へん、|彼《かれ》らは|荒布《あらぬの》を|著《き》て|千二百《せんにひゃく》|六十日《ろくじふにち》のあひだ|預言《よげん》すべし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|地《ち》の|主《しゅ》の|御前《みまへ》に|立《た》てる|二《ふた》つのオリブの|樹《き》、|二《ふた》つの|燈臺《とうだい》なり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]もし|彼《かれ》らを|害《そこな》はんとする|者《もの》あらば、|火《ひ》その|口《くち》より|出《い》でてその|敵《てき》を|焚《や》き|盡《つく》さん。もし|彼《かれ》らを|害《そこな》はんとする|者《もの》あらば、|必《かなら》ず|斯《か》くのごとく|殺《ころ》さるべし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|預言《よげん》するあひだ|雨《あめ》を|降《ふ》らせぬやうに|天《てん》を|閉《と》づる|權力《ちから》あり、また|水《みづ》を|血《ち》に|變《かは》らせ、|思《おも》ふままに|幾度《いくたび》にても|諸種《もろもろ》の|苦難《くるしみ》をもて|地《ち》を|撃《う》つ|權力《ちから》あり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》がその|證《あかし》を|終《を》へんとき、|底《そこ》なき|所《ところ》より|上《のぼ》る|獸《けもの》ありて|之《これ》と|戰鬪《たたかひ》をなし、|勝《か》ちて|之《これ》を|殺《ころ》さん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]その|屍體《しかばね》は|大《おほい》なる|都《みやこ》の|衢《ちまた》に|遺《のこ》らん。この|都《みやこ》を|譬《たと》へてソドムと|云《い》ひ、エジプトの|云《い》ふ、|即《すなは》ち|彼《かれ》らの|主《しゅ》もまた|十字架《じふじか》に|釘《つ》けられ|給《たま》ひし|所《ところ》なり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]もろもろの|民《たみ》・|族《やから》・|國語《くにことば》・|國《くに》のもの、|三日半《みっかはん》の|間《あひだ》その|屍體《しかばね》を|見《み》、かつ|其《そ》の|屍體《しかばね》を|墓《はか》に|葬《はうむ》ることを|許《ゆる》さざるべし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|地《ち》に|住《す》む|者《もの》どもは|彼《かれ》らに|就《つ》きて|喜《よろこ》び|樂《たの》しみ|互《たがひ》に|禮物《れいもつ》を|贈《おく》らん、|此《こ》の|二人《ふたり》の|預言者《よげんしゃ》は|地《ち》に|住《す》む|者《もの》を|苦《くる》しめたればなり』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|三日半《みっかはん》ののち|生命《いのち》の|息《いき》、|神《かみ》より|出《い》でて|彼《かれ》らに|入《い》り、かれら|足《あし》にて|起《た》ちたれば、|之《これ》を|見《み》るもの|大《おほい》に|懼《おそ》れたり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》より|大《おほい》なる|聲《こゑ》して『ここに|昇《のぼ》れ』と|言《い》ふを|彼《かれ》ら|聞《き》きたれば、|雲《くも》に|乘《の》りて|天《てん》に|昇《のぼ》れり、その|敵《てき》も|之《これ》を|見《み》たり、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]このとき|大《おほい》なる|地震《ぢしん》ありて、|都《みやこ》の|十分《じふぶん》の|一《いち》は|倒《たふ》れ、|地震《ぢしん》のために|死《し》にしもの|七《しち》|千《せん》|人《にん》にして、|遺《のこ》れる|者《もの》は|懼《おそれ》をいだき|天《てん》の|神《かみ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》したり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|第二《だいに》の|禍害《わざはひ》すぎ|去《さ》れり、|視《み》よ、|第三《だいさん》の|禍害《わざはひ》すみやかに|來《きた》るなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|第七《だいしち》の|御使《みつかひ》ラッパを|吹《ふ》きしに、|天《てん》に|數多《あまた》の|大《おほい》なる|聲《こゑ》ありて [#ここから2字下げ] 『この|世《よ》の|國《くに》は|我《われ》らの|主《しゅ》および|其《そ》のキリストの|國《くに》となれり。|彼《かれ》は|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|王《わう》たらん』 [#ここで字下げ終わり] と|言《い》ふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|神《かみ》の|前《まへ》にて|座位《くらゐ》に|坐《ざ》する|二十四人《にじふよにん》の|長老《ちゃうらう》ひれふし|神《かみ》を|拜《はい》して|言《い》ふ、 [#ここから2字下げ] [#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]『|今《いま》いまし、|昔《むかし》います|主《しゅ》たる|全能《ぜんのう》の|神《かみ》よ、なんぢの|大《おほい》なる|能力《ちから》を|執《と》りて|王《わう》と|成《な》り|給《たま》ひしことを|感謝《かんしゃ》す。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|諸國《しょこく》の|民《たみ》|怒《いかり》をいだけり、なんぢの|怒《いかり》も|亦《また》いたれり、|死《し》にたる|者《もの》を|審《さば》き、なんぢの|僕《しもべ》なる|預言者《よげんしゃ》および|聖徒《せいと》、また|小《せう》なるも|大《だい》なるも|汝《なんぢ》の|名《な》を|畏《おそ》るる|者《もの》に|報賞《むくい》をあたへ、|地《ち》を|亡《ほろぼ》す|者《もの》を|亡《ほろぼ》したまふ|時《とき》いたれり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》くて|天《てん》にある|神《かみ》の|聖所《せいじょ》ひらけ、|聖所《せいじょ》のうちに|契約《けいやく》の|櫃《ひつ》|見《み》え、|數多《あまた》の|電光《いなづま》と|聲《こゑ》と|雷霆《いかづち》と、また|地震《ぢしん》と|大《おほい》なる|雹《へう》とありき。 第一二章[#「第一二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]また|天《てん》に|大《おほい》なる|徴《しるし》|見《み》えたり。|日《ひ》を|著《き》たる|女《をんな》ありて、|其《そ》の|足《あし》の|下《した》に|月《つき》あり、|其《そ》の|頭《かしら》に|十二《じふに》の|星《ほし》の|冠冕《かんむり》あり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]かれは|孕《みごも》りをりしが、|子《こ》を|産《う》まんとして|産《う》みの|苦痛《くるしみ》と|惱《なやみ》とのために|叫《さけ》べり、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|天《てん》に|他《ほか》の|徴《しるし》|見《み》えたり。|視《み》よ、|大《おほい》なる|赤《あか》き|龍《たつ》あり、これに|七《なな》つの|頭《かしら》と|十《じふ》の|角《つの》とありて、|頭《かしら》には|七《なな》つの|冠冕《かんむり》あり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]その|尾《を》は|天《てん》の|星《ほし》の|三分《さんぶん》の|一《いち》を|引《ひ》きて|之《これ》を|地《ち》に|落《おと》せり。|龍《たつ》は|子《こ》を|産《う》まんとする|女《をんな》の|前《まへ》に|立《た》ち、|産《う》むを|待《ま》ちて|其《そ》の|子《こ》を|食《くら》ひ|盡《つく》さんと|構《かま》へたり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》は|男子《なんし》を|産《う》めり、この|子《こ》は|鐵《てつ》の|杖《つゑ》もて|諸種《もろもろ》の|國人《くにびと》を|治《をさ》めん。かれは|神《かみ》の|許《もと》に、その|御座《みくら》の|下《もと》に|擧《あ》げられたり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》は|荒野《あらの》に|逃《に》げゆけり。|彼處《かしこ》に|千二百《せんにひゃく》|六十日《ろくじふにち》の|間《あひだ》かれが|養《やしな》はるる|爲《ため》に|神《かみ》の|備《そな》へ|給《たま》へる|所《ところ》あり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かくて|天《てん》に|戰爭《いくさ》おこれり、ミカエル|及《およ》びその|使《つかひ》たち|龍《たつ》とたたかふ。|龍《たつ》もその|使《つかひ》たちも|之《これ》と|戰《たたか》ひしが、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|勝《か》つこと|能《あた》はず、|天《てん》には、はや|其《そ》の|居《を》る|所《ところ》なかりき。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かの|大《おほい》なる|龍《たつ》、すなわち|惡魔《あくま》と|呼《よ》ばれ、サタンと|呼《よ》ばれたる|全世界《ぜんせかい》をまどはす|古《ふる》き|蛇《へび》は|落《おと》され、|地《ち》に|落《おと》され、その|使《つかひ》たちも|共《とも》に|落《おと》されたり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|天《てん》に|大《おほい》なる|聲《こゑ》ありて [#ここから2字下げ] 『われらの|神《かみ》の|救《すくひ》と|能力《ちから》と|國《くに》と|神《かみ》のキリストの|權威《けんゐ》とは、|今《いま》すでに|來《きた》れり。|我《われ》らの|兄弟《きゃうだい》を|訴《うった》へ|夜晝《よるひる》われらの|神《かみ》の|前《まへ》に|訴《うった》ふるもの|落《おと》されたり。 [#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》して|兄弟《きゃうだい》たちは|羔羊《こひつじ》の|血《ち》と|己《おの》が|證《あかし》の|言《ことば》とによりて|勝《か》ち、|死《し》に|至《いた》るまで|己《おの》が|生命《いのち》を|惜《をし》まざりき。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に|天《てん》および|天《てん》に|住《す》める|者《もの》よ、よろこべ、|地《ち》と|海《うみ》とは|禍害《わざはひ》なるかな、|惡魔《あくま》おのが|時《とき》の|暫時《しばし》なるを|知《し》り、|大《おほい》なる|憤恚《いきどほり》をいだきて|汝《なんぢ》|等《ら》のもとに|下《くだ》りたればなり』 [#ここで字下げ終わり] と|云《い》ふを|聞《き》けり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]かくて|龍《たつ》はおのが|地《ち》に|落《おと》されしを|見《み》て、|男子《なんし》を|生《う》みし|女《をんな》を|責《せ》めたりしが、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》は|荒野《あらの》なる|己《おの》が|處《ところ》に|飛《と》ぶために、|大《おほい》なる|鷲《わし》の|兩《ふたつ》の|翼《つばさ》を|與《あた》へられたれば、|其處《そこ》にいたり、|一年《いちねん》、|二年《にねん》、また|半年《はんねん》のあひだ|蛇《へび》のまへを|離《はな》れて|養《やしな》はれたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|蛇《へび》はその|口《くち》より|水《みづ》を|川《かは》のごとく、|女《をんな》の|背後《うしろ》に|吐《は》きて|之《これ》を|流《なが》さんとしたれど、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|地《ち》は|女《をんな》を|助《たす》け、その|口《くち》を|開《ひら》きて|龍《たつ》の|口《くち》より|吐《は》きたる|川《かは》を|呑《の》み|盡《つく》せり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|龍《たつ》は|女《をんな》を|怒《いか》りてその|裔《すゑ》の|殘《のこ》れるもの、|即《すなは》ち|神《かみ》の|誡命《いましめ》を|守《まも》りイエスの|證《あかし》を|有《も》てる|者《もの》に、|戰鬪《たたかひ》を|挑《いど》まんとて|出《い》でゆき、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|海邊《うみべ》の|砂《すな》の|上《うへ》に|立《た》てり。 第一三章[#「第一三章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|一《ひと》つの|獸《けもの》の|海《うみ》より|上《のぼ》るを|見《み》たり。|之《これ》に|十《とを》の|角《つの》と|七《なな》つの|頭《かしら》とあり、その|角《つの》に|十《とを》の|冠冕《かんむり》あり、|頭《かしら》の|上《うへ》には|神《かみ》を|涜《けが》す|名《な》あり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]わが|見《み》し|獸《けもの》は|豹《へう》に|似《に》て、その|足《あし》は|熊《くま》のごとく、その|口《くち》は|獅子《しし》の|口《くち》のごとし。|龍《たつ》はこれに|己《おの》が|能力《ちから》と|己《おの》が|座位《くらゐ》と|大《おほい》なる|權威《けんゐ》とを|與《あた》へたり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》その|頭《かしら》の|一《ひと》つ|傷《きず》つけられて|死《し》ぬばかりなるを|見《み》しが、その|死《し》ぬべき|傷《きず》いやされたれば、|全地《ぜんち》の|者《もの》これを|怪《あや》しみて|獸《けもの》に|從《したが》へり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|龍《たつ》おのが|權威《けんゐ》を|獸《けもの》に|與《あた》へしによりて、|彼《かれ》ら|龍《たつ》を|拜《はい》し、|且《かつ》その|獸《けもの》を|拜《はい》して|言《い》ふ『たれか|此《こ》の|獸《けもの》に|等《ひと》しき|者《もの》あらん、|誰《たれ》か|之《これ》と|戰《たたか》ふことを|得《え》ん』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|獸《けもの》また|大言《たいげん》と|涜言《けがしごと》とを|語《かた》る|口《くち》を|與《あた》へられ、|四十《しじふ》|二个月《にかげつ》のあひだ|働《はたら》く|權威《けんゐ》を|與《あた》へらる。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|口《くち》をひらきて|神《かみ》を|涜《けが》し、|又《また》その|御名《みな》とその|幕屋《まくや》すなはち|天《てん》に|住《す》む|者《もの》どもとを|涜《けが》し、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]また|聖徒《せいと》に|戰鬪《たたかひ》を|挑《いど》みて、|之《これ》に|勝《か》つことを|許《ゆる》され、|且《かつ》もろもろの|族《やから》・|民《たみ》・|國語《くにことば》・|國《くに》を|掌《つかさ》どる|權威《けんゐ》を|與《あた》へらる。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|地《ち》に|住《す》む|者《もの》にて、|其《そ》の|名《な》を|屠《ほふ》られ|給《たま》ひし|羔羊《こひつじ》の|生命《いのち》の|書《ふみ》に、|世《よ》の|創《はじめ》より|記《しる》されざる|者《もの》は、これを|拜《はい》せん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|人《ひと》もし|耳《みみ》あらば|聽《き》くべし。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|虜《とりこ》にせらるべき|者《もの》は|虜《とりこ》にせられん、|劍《つるぎ》にて|殺《ころ》す|者《もの》はおのれも|劍《つるぎ》にて|殺《ころ》さるべし、|聖徒《せいと》たちの|忍耐《にんたい》と|信仰《しんかう》とは|茲《ここ》にあり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|他《ほか》の|獸《けもの》の|地《ち》より|上《のぼ》るを|見《み》たり。これに|羔羊《こひつじ》のごとき|角《つの》|二《ふた》つありて|龍《たつ》のごとく|語《かた》り、[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|先《さき》の|獸《けもの》の|凡《すべ》ての|權威《けんゐ》を|彼《かれ》の|前《まへ》にて|行《おこな》ひ、|地《ち》と|地《ち》に|住《す》む|者《もの》とをして|死《し》ぬべき|傷《きず》の|醫《いや》されたる|先《さき》の|獸《けもの》を|拜《はい》せしむ。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また|大《おほい》なる|徴《しるし》をおこなひ、|人々《ひとびと》の|前《まへ》にて|火《ひ》を|天《てん》より|地《ち》に|降《ふ》らせ、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かの|獸《けもの》の|前《まへ》にて|行《おこな》ふことを|許《ゆる》されし|徴《しるし》をもて|地《ち》に|住《す》む|者《もの》どもを|惑《まどは》し、|劍《つるぎ》にうたれてなほ|生《い》ける|獸《けもの》の|像《ざう》を|造《つく》ることを|地《ち》に|住《す》む|者《もの》どもに|命《めい》じたり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|而《しか》してその|獸《けもの》の|像《ざう》に|息《いき》を|與《あた》へて|物《もの》|言《い》はしめ、|且《かつ》その|獸《けもの》の|像《ざう》を|拜《はい》せぬ|者《もの》をことごとく|殺《ころ》さしむる|事《こと》を|許《ゆる》され、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]また|凡《すべ》ての|人《ひと》をして、|大小《だいせう》・|貧富《ひんぷ》・|自主《じしゅ》・|奴隷《どれい》の|別《わかち》なく、|或《あるひ》はその|右《みぎ》の|手《て》、あるいは|其《そ》の|額《ひたひ》に|徽章《しるし》を|受《う》けしむ。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]この|徽章《しるし》を|有《も》たぬ|凡《すべ》ての|者《もの》に|賣買《うりかひ》することを|得《え》ざらしめたり。その|徽章《しるし》は|獸《けもの》の|名《な》、もしくは|其《そ》の|名《な》の|數字《すうじ》なり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|智慧《ちゑ》は|茲《ここ》にあり、|心《こころ》ある|者《もの》は|獸《けもの》の|數字《すうじ》を|算《かぞ》へよ。|獸《けもの》の|數字《すうじ》は|人《ひと》の|數字《すうじ》にして、その|數字《すうじ》は|六《ろく》|百《ひゃく》|六十《ろくじふ》|六《ろく》なり。 第一四章[#「第一四章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]われ|見《み》しに、|視《み》よ、|羔羊《こひつじ》シオンの|山《やま》に|立《た》ちたまふ。|十四萬《じふしまん》|四千《しせん》の|人《ひと》これと|偕《とも》に|居《を》り、その|額《ひたひ》には|羔羊《こひつじ》の|名《な》および|羔羊《こひつじ》の|父《ちち》の|名《な》|記《しる》しあり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]われ|天《てん》よりの|聲《こゑ》を|聞《き》けり、|多《おほ》くの|水《みづ》の|音《おと》のごとく、|大《おほい》なる|雷霆《いかづち》の|聲《こゑ》のごとし。わが|聞《き》きし|此《こ》の|聲《こゑ》は|彈琴者《ことひき》の|立琴《たてごと》を|彈《ひ》く|音《おと》のごとし。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]かれら|新《あたら》しき|歌《うた》を|御座《みくら》の|前《まへ》および|四《よ》つの|活物《いきもの》と|長老《ちゃうらう》たちとの|前《まへ》にて|歌《うた》ふ。この|歌《うた》は|地《ち》より|贖《あがな》はれたる|十四萬《じふしまん》|四千《しせん》|人《にん》の|他《ほか》は|誰《たれ》も|學《まな》びうる|者《もの》なかりき。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|女《をんな》に|汚《けが》されぬ|者《もの》なり、|潔《きよ》き|者《もの》なり、|何處《いづこ》にまれ|羔羊《こひつじ》の|往《ゆ》き|給《たま》ふところに|隨《したが》ふ。|彼《かれ》らは|人《ひと》の|中《うち》より|贖《あがな》はれて|神《かみ》と|羔羊《こひつじ》とのために|初穗《はつほ》となれり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]その|口《くち》に|虚僞《いつはり》なし、|彼《かれ》らは|瑕《きず》なき|者《もの》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|他《ほか》の|御使《みつかひ》の|中空《なかぞら》を|飛《と》ぶを|見《み》たり。かれは|地《ち》に|住《す》むもの、|即《すなは》ちもろもろの|國《くに》・|族《やから》・|國語《くにことば》・|民《たみ》に|宣傳《のべつた》へんとて、|永遠《とこしへ》の|福音《ふくいん》を|携《たづさ》へ、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|大聲《おほごゑ》にて|言《い》ふ『なんぢら|神《かみ》を|畏《おそ》れ、|神《かみ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》せよ。その|審判《さばき》のとき|既《すで》に|至《いた》りたればなり。|汝《なんぢ》ら|天《てん》と|地《ち》と|海《うみ》と|水《みづ》の|源泉《みなもと》とを|造《つく》り|給《たま》ひし|者《もの》を|拜《はい》せよ』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]ほかの|第二《だいに》の|御使《みつかひ》、かれに|從《したが》ひて|言《い》ふ『|倒《たふ》れたり、|倒《たふ》れたり。|大《おほい》なるバビロン、|己《おの》が|淫行《いんかう》より|出《い》づる|憤恚《いきどほり》の|葡萄酒《ぶだうしゅ》をもろもろの|國人《くにびと》に|飮《の》ませし|者《もの》』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]ほかの|第三《だいさん》の|御使《みつかひ》、かれらに|從《したが》ひ|大聲《おほごゑ》にて|言《い》ふ『もし|獸《けもの》とその|像《ざう》とを|拜《はい》し、|且《かつ》その|額《ひたひ》あるいは|手《て》に|徽章《しるし》を|受《う》くる|者《もの》あらば、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|必《かなら》ず|神《かみ》の|怒《いかり》の|酒杯《さかづき》に|盛《も》りたる|混《まじ》りなき|憤恚《いきどほり》の|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|飮《の》み、かつ|聖《せい》なる|御使《みつかひ》たち|及《およ》び|羔羊《こひつじ》の|前《まへ》にて、|火《ひ》と|硫黄《いわう》とにて|苦《くる》しめらるべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|苦痛《くるしみ》の|煙《けむり》は|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|立《た》ち|昇《のぼ》りて、|獸《けもの》とその|像《ざう》とを|拜《はい》する|者《もの》、また|其《そ》の|名《な》の|徽章《しるし》を|受《う》けし|者《もの》は、|夜《よる》も|晝《ひる》も|休息《やすみ》を|得《え》ざらん。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》の|誡命《いましめ》とイエスを|信《しん》ずる|信仰《しんかう》とを|守《まも》る|聖徒《せいと》の|忍耐《にんたい》は|茲《ここ》にあり』[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|天《てん》より|聲《こゑ》ありて『|書《か》き|記《しる》せ「|今《いま》よりのち|主《しゅ》にありて|死《し》ぬる|死人《しにん》は|幸福《さいはひ》なり」|御靈《みたま》も|言《い》ひたまふ「|然《しか》り、|彼《かれ》|等《ら》はその|勞役《はたらき》を|止《や》めて|息《やす》まん。その|業《わざ》これに|隨《したが》ふなり」』と|言《い》ふを|聞《き》けり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]また|見《み》しに、|視《み》よ、|白《しろ》き|雲《くも》あり、その|雲《くも》の|上《うへ》に|人《ひと》の|子《こ》の|如《ごと》きもの|坐《ざ》して、|首《かうべ》には|金《きん》の|冠冕《かんむり》をいただき、|手《て》には|利《と》き|鎌《かま》を|持《も》ちたまふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》ほかの|御使《みつかひ》、|聖所《せいじょ》より|出《い》で、|雲《くも》のうへに|坐《ざ》したまふ|者《もの》にむかひ、|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はりて『なんぢの|鎌《かま》を|入《い》れて|刈《か》れ、|地《ち》の|穀物《こくもつ》は|全《まった》く|熟《じゅく》し、|既《すで》に|刈《か》り|取《と》るべき|時《とき》|至《いた》ればなり』と|言《い》ふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かくて|雲《くも》の|上《うへ》に|坐《ざ》したまふ|者《もの》その|鎌《かま》を|地《ち》に|入《い》れたれば、|地《ち》の|穀物《こくもつ》は|刈《か》り|取《と》られたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》ほかの|御使《みつかひ》、|天《てん》の|聖所《せいじょ》より|出《い》で、|同《おな》じく|利《と》き|鎌《かま》を|持《も》てり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|又《また》ほかの|火《ひ》を|掌《つかさ》どる|御使《みつかひ》、|祭壇《さいだん》より|出《い》で、|利《と》き|鎌《かま》を|持《も》つ|者《もの》にむかひ|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はりて『なんぢの|利《と》き|鎌《かま》を|入《い》れて|地《ち》の|葡萄《ぶだう》の|樹《き》の|房《ふさ》を|刈《か》り|收《をさ》めよ、|葡萄《ぶだう》は|既《すで》に|熟《じゅく》したり』と|言《い》ふ。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》その|鎌《かま》を|地《ち》に|入《い》れて|地《ち》の|葡萄《ぶだう》を|刈《か》りをさめ、|神《かみ》の|憤恚《いきどほり》の|大《おほい》なる|酒槽《さかぶね》に|投《な》げ|入《い》れたり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|都《みやこ》の|外《そと》にて|酒槽《さかぶね》を|踐《ふ》みしに、|血《ち》|酒槽《さかぶね》より|流《なが》れ|出《い》でて|馬《うま》の|轡《くつわ》に|達《とど》くほどになり、|一《いち》|千《せん》|六《ろく》|百《ひゃく》|町《ちゃう》に|廣《ひろ》がれり。 第一五章[#「第一五章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|天《てん》に|他《ほか》の|大《おほい》なる|怪《あや》しむべき|徴《しるし》を|見《み》たり。|即《すなは》ち|七人《しちにん》の|御使《みつかひ》ありて|最後《いやはて》の|七《なな》つの|苦難《くるしみ》を|持《も》てり、|神《かみ》の|憤恚《いきどほり》は|之《これ》にて|全《まった》うせらるるなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|火《ひ》の|混《まじ》りたる|玻璃《ぱり》の|海《うみ》を|見《み》しに、|獸《けもの》とその|像《ざう》とその|名《な》の|數字《すうじ》とに|勝《か》ちたる|者《もの》ども、|神《かみ》の|立琴《たてごと》を|持《も》ちて|玻璃《ぱり》の|海《うみ》の|邊《ほとり》に|立《た》てり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》ら|神《かみ》の|僕《しもべ》モーセの|歌《うた》と|羔羊《こひつじ》の|歌《うた》とを|歌《うた》ひて|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 『|主《しゅ》なる|全能《ぜんのう》の|神《かみ》よ、なんぢの|御業《みわざ》は|大《おほい》なるかな、|妙《たへ》なるかな、|萬國《ばんこく》の|王《わう》よ、なんぢの|道《みち》は|義《ぎ》なるかな、|眞《まこと》なるかな。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|主《しゅ》よ、たれか|汝《なんぢ》を|畏《おそ》れざる、|誰《たれ》か|御名《みな》を|尊《たふと》ばざる、|汝《なんぢ》のみ|聖《せい》なり、|諸種《もろもろ》の|國人《くにびと》きたりて|御前《みまへ》に|拜《はい》せん。なんぢの|審判《さばき》は|既《すで》に|現《あらは》れたればなり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》われ|見《み》しに、|天《てん》にある|證《あかし》の|幕屋《まくや》の|聖所《せいじょ》ひらけて、[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]かの|七《なな》つの|苦難《くるしみ》を|持《も》てる|七人《しちにん》の|御使《みつかひ》、きよき|輝《かがや》ける|亞麻《あま》|布《ぬの》を|著《き》、|金《きん》の|帶《おび》を|胸《むね》に|束《つか》ねて|聖所《せいじょ》より|出《い》づ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|四《よ》つの|活物《いきもの》の|一《ひと》つ、その|七人《しちにん》の|御使《みつかひ》に、|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|生《い》きたまふ|神《かみ》の|憤恚《いきどほり》の|滿《み》ちたる|七《なな》つの|金《きん》の|鉢《はち》を|與《あた》へしかば、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|聖所《せいじょ》は|神《かみ》の|榮光《えいくわう》とその|權力《ちから》とより|出《い》づる|煙《けむり》にて|滿《み》ち、|七人《しちにん》の|御使《みつかひ》の|七《なな》つの|苦難《くるしみ》の|終《をは》るまでは、|誰《たれ》も|聖所《せいじょ》に|入《い》ること|能《あた》はざりき。 第一六章[#「第一六章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|聖所《せいじょ》より|大《おほい》なる|聲《こゑ》ありて、|七人《しちにん》の|御使《みつかひ》に『|往《ゆ》きて|神《かみ》の|憤恚《いきどほり》の|七《なな》つの|鉢《はち》を|地《ち》の|上《うへ》に|傾《かたむ》けよ』と|言《い》ふを|聞《き》けり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]かくて|第一《だいいち》の|者《もの》ゆきて|其《そ》の|鉢《はち》を|地《ち》の|上《うへ》に|傾《かたむ》けたれば、|獸《けもの》の|徽章《しるし》を|有《も》てる|人々《ひとびと》とその|像《ざう》を|拜《はい》する|人々《ひとびと》との|身《み》に、|惡《あ》しき|苦《くる》しき|腫物《しゅもつ》|生《しゃう》じたり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|第二《だいに》の|者《もの》その|鉢《はち》を|海《うみ》の|上《うへ》に|傾《かたむ》けたれば、|海《うみ》は|死人《しにん》の|血《ち》の|如《ごと》くなりて、|海《うみ》にある|生物《いきもの》ことごとく|死《し》にたり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|第三《だいさん》の|者《もの》その|鉢《はち》をもろもろの|河《かは》と、もろもろの|水《みづ》の|源泉《みなもと》との|上《うへ》に|傾《かたむ》けたれば、みな|血《ち》となれり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]われ|水《みづ》を|掌《つかさ》どる|御使《みつかひ》の『いま|在《いま》し|昔《むかし》います|聖《せい》なる|者《もの》よ、なんぢの|斯《か》く|定《さだ》め|給《たま》ひしは|正《ただ》しき|事《こと》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|聖徒《せいと》と|預言者《よげんしゃ》との|血《ち》を|流《なが》したれば、|之《これ》に|血《ち》を|飮《の》ませ|給《たま》ひしは|相應《ふさは》しきなり』と|云《い》へるを|聞《き》けり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|祭壇《さいだん》の|物《もの》|言《い》ふを|聞《き》けり『|然《しか》り、|主《しゅ》なる|全能《ぜんのう》の|神《かみ》よ、なんぢの|審判《さばき》は|眞《まこと》なるかな、|義《ぎ》なるかな』と。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|第四《だいし》の|者《もの》その|鉢《はち》を|太陽《たいやう》の|上《うへ》に|傾《かたむ》けたれば、|太陽《たいやう》は|火《ひ》をもて|人《ひと》を|燒《や》くことを|許《ゆる》さる。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|人々《ひとびと》|烈《はげ》しき|熱《ねつ》に|燒《や》かれて、|此《これ》|等《ら》の|苦難《くるしみ》を|掌《つかさ》どる|權威《けんゐ》を|有《も》たちまふ|神《かみ》の|名《な》を|涜《けが》し、かつ|悔改《くいあらた》めずして|神《かみ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》せざりき。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|第五《だいご》の|者《もの》その|鉢《はち》を|獸《けもの》の|座位《くらゐ》の|上《うへ》に|傾《かたむ》けたれば、|獸《けもの》の|國《くに》|暗《くら》くなり、その|國人《くにびと》|痛《いたみ》によりて|己《おのれ》の|舌《した》を|齧《か》み、[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|痛《いたみ》と|腫物《しゅもつ》とによりて|天《てん》の|神《かみ》を|涜《けが》し、かつ|己《おの》が|行爲《おこなひ》を|悔改《くいあらた》めざりき。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|第六《だいろく》の|者《もの》その|鉢《はち》を|大《おほい》なる|河《かは》ユウフラテの|上《うへ》に|傾《かたむ》けたれば、|河《かは》の|水《みづ》|涸《か》れたり。これ|日《ひ》の|出《い》づる|方《かた》より|來《きた》る|王《わう》たちの|途《みち》を|備《そな》へん|爲《ため》なり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|龍《たつ》の|口《くち》より、|獸《けもの》の|口《くち》より、|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》の|口《くち》より、|蛙《かはづ》のごとき|三《み》つの|穢《けが》れし|靈《れい》の|出《い》づるを|見《み》たり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]これは|徴《しるし》をおこなふ|惡鬼《あくき》の|靈《れい》にして、|全能《ぜんのう》の|神《かみ》の|大《おほい》なる|日《ひ》の|戰鬪《たたかひ》のために|全世界《ぜんせかい》の|王《わう》たちを|集《あつ》めんとて、その|許《もと》に|出《い》でゆくなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり](|視《み》よ、われ|盜人《ぬすびと》のごとく|來《きた》らん、|裸《はだか》にて|歩《あゆ》み|羞所《はぢどころ》を|見《み》らるることなからん|爲《ため》に、|目《め》を|覺《さま》してその|衣《ころも》を|守《まも》る|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり)[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]かの|三《み》つの|靈《れい》、|王《わう》たちをヘブル|語《ご》にてハルマゲドンと|稱《とな》ふる|處《ところ》に|集《あつ》めたり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|第七《だいしち》の|者《もの》その|鉢《はち》を|空中《くうちゅう》に|傾《かたむ》けたれば、|聖所《せいじょ》より|御座《みくら》より|大《おほい》なる|聲《こゑ》いでて『|事《こと》すでに|成《な》れり』と|言《い》ふ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]かくて|數多《あまた》の|電光《いなづま》と|聲《こゑ》と|雷霆《いかづち》とあり、また|大《おほい》なる|地震《ぢしん》おこれり、|人《ひと》の|地《ち》の|上《うへ》に|在《あ》りし|以來《このかた》かかる|大《おほい》なる|地震《ぢしん》なかりき。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|大《おほい》なる|都《みやこ》は|三《み》つに|裂《さ》かれ、|諸國《しょこく》の|町々《まちまち》は|倒《たふ》れ、|大《おほい》なるバビロンは|神《かみ》の|前《まへ》におもひ|出《いだ》されて、|劇《はげ》しき|御怒《みいかり》の|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|盛《も》りたる|酒杯《さかづき》を|與《あた》へられたり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》ての|島《しま》は|逃《に》げさり、|山《やま》は|見《み》えずなれり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]また|天《てん》より|百《ひゃく》|斤《きん》ほどの|大《おほい》なる|雹《へう》、|人々《ひとびと》の|上《うへ》に|降《ふ》りしかば、|人々《ひとびと》|雹《へう》の|苦難《くるしみ》によりて|神《かみ》を|涜《けが》せり。|是《これ》その|苦難《くるしみ》|甚《はなは》だしく|大《おほい》なればなり。 第一七章[#「第一七章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|七《なな》つの|鉢《はち》を|持《も》てる|七人《しちにん》の|御使《みつかひ》の|一人《ひとり》きたり、|我《われ》に|語《かた》りて|言《い》ふ『|來《きた》れ、われ|多《おほ》くの|水《みづ》の|上《うへ》に|坐《ざ》する|大淫婦《だいいんぷ》の|審判《さばき》を|汝《なんぢ》に|示《しめ》さん。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|地《ち》の|王《わう》たちは|之《これ》と|淫《いん》をおこなひ、|地《ち》に|住《す》む|者《もの》らは|其《そ》の|淫行《いんかう》の|葡萄酒《ぶだうしゅ》に|醉《ゑ》ひたり』[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]かくてわれ|御靈《みたま》に|感《かん》じ、|御使《みつかひ》に|携《たづさ》へられて|荒野《あらの》にゆき、|緋色《ひいろ》の|獸《けもの》に|乘《の》れる|女《をんな》を|見《み》たり、この|獸《けもの》の|體《からだ》は|神《かみ》を|涜《けが》す|名《な》にて|覆《おほ》はれ、また|七《なな》つの|頭《かしら》と|十《とを》の|角《つの》とあり。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|女《をんな》は|紫色《むらさき》と|緋《ひ》とを|著《き》、|金《きん》・|寶石《はうせき》・|眞珠《しんじゅ》にて|身《み》を|飾《かざ》り、|手《て》には|憎《にく》むべきものと|己《おの》が|淫行《いんかう》の|汚《けがれ》とにて|滿《み》ちたる|金《きん》の|酒杯《さかづき》を|持《も》ち、[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|額《ひたひ》には|記《しる》されたる|名《な》あり。|曰《いは》く『|奧義《おくぎ》|大《おほい》なるバビロン、|地《ち》の|淫婦《いんぷ》らと|憎《にく》むべき|者《もの》との|母《はは》』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》この|女《をんな》を|見《み》るに、|聖徒《せいと》の|血《ち》とイエスの|證人《しょうにん》の|血《ち》とに|醉《ゑ》ひたり。|我《われ》これを|見《み》て|大《おほい》に|怪《あや》しみたれば、[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》われに|言《い》ふ『なにゆゑ|怪《あや》しむか、|我《われ》この|女《をんな》と|之《これ》を|乘《の》せたる|七《なな》つの|頭《かしら》、|十《とを》の|角《つの》ある|獸《けもの》との|奧義《おくぎ》を|汝《なんぢ》に|告《つ》げん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|見《み》し|獸《けもの》は|前《さき》に|有《あ》りしも|今《いま》あらず、|後《のち》に|底《そこ》なき|所《ところ》より|上《のぼ》りて|滅亡《ほろび》に|往《ゆ》かん、|地《ち》に|住《す》む|者《もの》にて|世《よ》の|創《はじめ》より|其《そ》の|名《な》を|生命《いのち》の|書《ふみ》に|記《しる》されざる|者《もの》は、|獸《けもの》の|前《さき》にありて|今《いま》あらず、|後《のち》に|來《きた》るを|見《み》て|怪《あや》しまん。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|智慧《ちゑ》の|心《こころ》は|茲《ここ》にあり。|七《なな》つの|頭《かしら》は|女《をんな》の|坐《ざ》する|七《なな》つの|山《やま》なり、また|七人《しちにん》の|王《わう》なり。[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|五《ご》|人《にん》は|既《すで》に|倒《たふ》れて|一人《ひとり》は|今《いま》あり、|他《ほか》の|一人《ひとり》は|未《いま》だ|來《きた》らず、|來《きた》らば|暫時《しばし》のほど|止《とどま》るべきなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|前《さき》にありて|今《いま》あらぬ|獸《けもの》は|第八《だいはち》なり、|前《まへ》の|七人《しちにん》より|出《い》でたる|者《もの》にして|滅亡《ほろび》に|往《ゆ》くなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|汝《なんぢ》の|見《み》し|十《とを》の|角《つの》は|十《じふ》|人《にん》の|王《わう》にして|未《いま》だ|國《くに》を|受《う》けざれども、|一時《ひととき》のあひだ|獸《けもの》と|共《とも》に|王《わう》のごとき|權威《けんゐ》を|受《う》くべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|心《こころ》を|一《ひと》つにして|己《おの》が|能力《ちから》と|權威《けんゐ》とを|獸《けもの》にあたふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らは|羔羊《こひつじ》と|戰《たたか》はん。|而《しか》して|羔羊《こひつじ》かれらに|勝《か》ち|給《たま》ふべし、|彼《かれ》は|主《しゅ》の|主《しゅ》、|王《わう》の|王《わう》なればなり。これと|偕《とも》なる|召《め》されたるもの、|選《えら》ばれたるもの、|忠實《ちゅうじつ》なる|者《もの》も|勝《かち》を|得《う》べし』[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》また|我《われ》に|言《い》ふ『なんぢの|見《み》し|水《みづ》、すなわち|淫婦《いんぷ》の|坐《ざ》する|處《ところ》は、もろもろの|民《たみ》・|群衆《ぐんじゅう》・|國《くに》・|國語《くにことば》なり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|見《み》し|十《とを》の|角《つの》と|獸《けもの》とは、かの|淫婦《いんぷ》を|憎《にく》み、|之《これ》をして|荒涼《あれすさ》ばしめ、|裸《はだか》ならしめ、|且《かつ》その|肉《にく》を喰ひ、|火《ひ》をもて|之《これ》を|燒《や》き|盡《つく》さん。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|神《かみ》は|彼《かれ》らに|御旨《みむね》を|行《おこな》ふことと、|心《こころ》を|一《ひと》つにすることと、|神《かみ》の|御言《みことば》の|成就《じゃうじゅ》するまで|國《くに》を|獸《けもの》に|與《あた》ふることとを|思《おも》はしめ|給《たま》ひたればなり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|見《み》し|女《をんな》は|地《ち》の|王《わう》たちを|宰《つかさ》どる|大《おほい》なる|都《みやこ》なり』 第一八章[#「第一八章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》また|他《ほか》の|一人《ひとり》の|御使《みつかひ》の|大《おほい》なる|權威《けんゐ》を|有《も》ちて|天《てん》より|降《くだ》るを|見《み》しに、|地《ち》はその|榮光《えいくわう》によりて|照《てら》されたり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]かれ|強《つよ》き|聲《こゑ》にて|呼《よば》はりて|言《い》ふ『|大《おほい》なるバビロンは|倒《たふ》れたり、|倒《たふ》れたり、かつ|惡魔《あくま》の|住家《すみか》、もろもろの|穢《けが》れたる|靈《れい》の|檻《をり》、もろもろの|穢《けが》れたる|憎《にく》むべき|鳥《とり》の|檻《をり》となれり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]もろもろの|國人《くにびと》はその|淫行《いんかう》の|憤恚《いきどほり》の|葡萄酒《ぶだうしゅ》を|飮《の》み、|地《ち》の|王《わう》たちは|彼《かれ》と|淫《いん》をおこなひ、|地《ち》の|商人《あきうど》らは|彼《かれ》の|奢《おごり》の|勢力《ちから》によりて|富《と》みたればなり』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]また|天《てん》より|他《ほか》の|聲《こゑ》あるを|聞《き》けり。|曰《いは》く『わが|民《たみ》よ、かれの|罪《つみ》に|干《あづか》らず、|彼《かれ》の|苦難《くるしみ》を|共《とも》に|受《う》けざらんため、その|中《うち》を|出《い》でよ。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]かれの|罪《つみ》は|積《つも》りて|天《てん》にいたり、|神《かみ》その|不義《ふぎ》を|憶《おぼ》え|給《たま》ひたればなり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》が|爲《な》しし|如《ごと》く|彼《かれ》に|爲《な》し、その|行爲《おこなひ》に|應《おう》じ|倍《ばい》して|之《これ》を|報《むく》い、かれが|酌《く》み|與《あた》へし|酒杯《さかづき》に|倍《ばい》して|之《これ》に|酌《く》み|與《あた》へよ。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]かれが|自《みづか》ら|尊《たふと》びみづから|奢《おご》りしと|同《おな》じほどの|苦難《くるしみ》と|悲歎《かなしみ》とを|之《これ》に|與《あた》へよ。|彼《かれ》は|心《こころ》のうちに「われは|女王《にょわう》の|位《くらゐ》に|坐《ざ》する|者《もの》にして|寡婦《やもめ》にあらず、|決《けっ》して|悲歎《かなしみ》を|見《み》ざるべし」と|言《い》ふ。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]この|故《ゆゑ》に、さまざまの|苦難《くるしみ》、|一日《いちにち》のうちに|彼《かれ》の|身《み》にきたらん、|即《すなは》ち|死《し》と|悲歎《かなしみ》と|饑饉《ききん》となり。|彼《かれ》また|火《ひ》にて|燒《や》き|盡《つく》されん、|彼《かれ》を|審《さば》きたまふ|主《しゅ》なる|神《かみ》は|強《つよ》ければなり。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》と|淫《いん》をおこなひ、|彼《かれ》とともに|奢《おご》りたる|地《ち》の|王《わう》たちは、|其《そ》の|燒《や》かるる|煙《けむり》を|見《み》て|泣《な》きかつ|歎《なげ》き、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]その|苦難《くるしみ》を|懼《おそ》れ、|遙《はるか》に|立《た》ちて「|禍害《わざはひ》なるかな、|禍害《わざはひ》なるかな、|大《おほい》なる|都《みやこ》、|堅固《けんご》なる|都《みやこ》バビロンよ、|汝《なんぢ》の|審判《さばき》は|時《とき》の|間《ま》に|來《きた》れり」と|言《い》はん。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|地《ち》の|商人《あきうど》かれが|爲《ため》に|泣《な》き|悲《かな》しまん。|今《いま》より|後《のち》その|商品《しゃうひん》を|買《か》ふ|者《もの》なければなり。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]その|商品《しゃうひん》は|金《きん》・|銀《ぎん》・|寶石《はうせき》・|眞珠《しんじゅ》・|細布《ほそぬの》・|紫色《むらさき》・|絹《きぬ》・|緋色《ひいろ》および|各樣《さまざま》の|香木《かうぼく》、また|象牙《ざうげ》のさまざまの|器《うつは》、|價《あたひ》|貴《たか》き|木《き》、|眞鍮《しんちゅう》・|鐵《てつ》・|蝋石《らうせき》などの|各樣《さまざま》の|器《うつは》、[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]また|肉桂《にくけい》・|香料《かうれう》・|香《かう》・|香《にほひ》|油《あぶら》・|乳香《にうかう》・|葡萄酒《ぶだうしゅ》・オリブ|油《ゆ》・|麥粉《むぎこ》・|麥《むぎ》・|牛《うし》・|羊《ひつじ》・|馬《うま》・|車《くるま》・|奴隷《どれい》および|人《ひと》の|靈魂《たましひ》なり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]なんぢの|靈魂《たましひ》の|嗜《たし》みたる|果物《くだもの》は|汝《なんぢ》を|去《さ》り、すべての|美味《びみ》、|華美《はなやか》なる|物《もの》は|亡《ほろ》びて|汝《なんぢ》を|離《はな》れん、|今《いま》より|後《のち》これを|見《み》ること|無《な》かるべし。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]これらの|物《もの》を|商《あきな》ひ、バビロンに|由《よ》りて|富《とみ》を|得《え》たる|商人《あきうど》らは、|其《そ》の|苦難《くるしみ》を|懼《おそ》れて|遙《はるか》に|立《た》ち、|泣《な》き|悲《かな》しみて|言《い》はん、[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]「|禍害《わざはひ》なるかな、|禍害《わざはひ》なるかな、|細布《ほそぬの》と|紫色《むらさき》と|緋《ひ》とを|著《き》、|金《きん》・|寶石《はうせき》・|眞珠《しんじゅ》をもて|身《み》を|飾《かざ》りたる|大《おほい》なる|都《みやこ》、[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|斯《か》ばかり|大《おほい》なる|富《とみ》の|時《とき》の|間《ま》に|荒涼《あれすさ》ばんとは」|而《しか》して|凡《すべ》ての|船《ふな》|長《をさ》、すべて|海《うみ》をわたる|人々《ひとびと》、|舟子《かこ》および|海《うみ》によりて|生活《すぎはひ》を|爲《な》すもの|遙《はるか》かに|立《た》ち、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]バビロンの|燒《や》かるる|煙《けむり》を|見《み》て|叫《さけ》び「いづれの|都《みやこ》か、この|大《おほい》なる|都《みやこ》に|比《くら》ぶべき」と|言《い》はん。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》|等《ら》また|塵《ちり》をおのが|首《かうべ》に|被《かぶ》りて|泣《な》き|悲《かな》しみ|叫《さけ》びて「|禍害《わざはひ》なるかな、|禍害《わざはひ》なるかな、|此《こ》の|大《おほい》なる|都《みやこ》、その|奢《おごり》によりて|海《うみ》に|船《ふね》を|有《も》てる|人々《ひとびと》の|富《とみ》を|得《え》たる|都《みやこ》、かく|時《とき》の|間《ま》に|荒涼《あれすさ》ばんとは」と|言《い》はん。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》よ、|聖徒《せいと》・|使徒《しと》・|預言者《よげんしゃ》よ、この|都《みやこ》につきて|喜《よろこ》べ、|神《かみ》なんぢらの|爲《ため》に|之《これ》を|審《さば》き|給《たま》ひたればなり』[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]ここに|一人《ひとり》の|強《つよ》き|御使《みつかひ》、|大《おほい》なる|碾臼《ひきうす》のごとき|石《いし》を|擡《もた》げ|海《うみ》に|投《な》げて|言《い》ふ『おほいなる|都《みやこ》バビロンは|斯《か》くのごとく|烈《はげ》しく|撃《う》ち|倒《たふ》されて、|今《いま》より|後《のち》|見《み》えざるべし。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》よりのち|立琴《たてごと》を|彈《ひ》くもの、|樂《がく》を|奏《そう》するもの、|笛《ふえ》を|吹《ふ》く|者《もの》、ラッパを|鳴《なら》す|者《もの》の|聲《こゑ》なんぢの|中《うち》に|聞《きこ》えず、|今《いま》より|後《のち》さまざまの|細工《さいく》をなす|細工人《さいくにん》なんぢの|中《うち》に|見《み》えず、|碾臼《ひきうす》の|音《おと》なんぢの|中《うち》に|聞《きこ》えず、[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》よりのち|燈火《ともしび》の|光《ひかり》なんぢの|中《うち》に|輝《かがや》かず、|今《いま》よりのち|新郎《はなむこ》・|新婦《はなよめ》の|聲《こゑ》なんぢの|中《うち》に|聞《きこ》えざるべし。そは|汝《なんぢ》の|商人《あきうど》は|地《ち》の|大臣《だいじん》となり、|諸種《もろもろ》の|國人《くにびと》はなんぢの|咒術《まじわざ》に|惑《まどは》され、[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]また|預言者《よげんしゃ》・|聖徒《せいと》および|凡《すべ》て|地《ち》の|上《うへ》に|殺《ころ》されし|者《もの》の|血《ち》は、この|都《みやこ》の|中《うち》に|見出《みいだ》されたればなり』 第一九章[#「第一九章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]この|後《のち》われ|天《てん》に|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》の|大聲《おほごゑ》のごとき|者《もの》ありて、かく|言《い》ふを|聞《き》けり。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 『ハレルヤ、|救《すくひ》と|榮光《えいくわう》と|權力《ちから》とは、|我《われ》らの|神《かみ》のものなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]その|御審《みさばき》は|眞《まこと》にして|義《ぎ》なるなり、|己《おの》が|淫行《いんかう》をもて|地《ち》を|汚《けが》したる|大淫婦《だいいんぷ》を|審《さば》き、|神《かみ》の|僕《しもべ》らの|血《ち》の|復讐《ふくしう》を|彼《かれ》になし|給《たま》ひしなり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|再《ふたた》び|言《い》ふ『ハレルヤ、|彼《かれ》の|燒《や》かるる|煙《けむり》は|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|立《た》ち|昇《のぼ》るなり』[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]ここに|二十四人《にじふよにん》の|長老《ちゃうらう》と|四《よ》つの|活物《いきもの》と|平伏《ひれふ》して|御座《みくら》に|坐《ざ》したまふ|神《かみ》を|拜《はい》し『アァメン、ハレルヤ』と|言《い》へり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]また|御座《みくら》より|聲《こゑ》|出《い》でて|言《い》ふ [#ここから2字下げ] 『すべて|神《かみ》の|僕《しもべ》たるもの、|神《かみ》を|畏《おそ》るる|者《もの》よ、|小《せう》なるも|大《だい》なるも、|我《われ》らの|神《かみ》を|讃《ほ》め|奉《まつ》れ』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]われ|大《おほい》なる|群衆《ぐんじゅう》の|聲《こゑ》おほくの|水《みづ》の|音《おと》のごとく、|烈《はげ》しき|雷霆《いかづち》の|聲《こゑ》の|如《ごと》きものを|聞《き》けり。|曰《いは》く [#ここから2字下げ] 『ハレルヤ|全能《ぜんのう》の|主《しゅ》、われらの|神《かみ》は|統治《すべし》らすなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]われら|喜《よろこ》び|樂《たの》しみて|之《これ》に|榮光《えいくわう》を|歸《き》し|奉《まつ》らん。そは|羔羊《こひつじ》の|婚姻《こんいん》の|時《とき》いたり、|既《すで》にその|新婦《はなよめ》みづから|準備《そなへ》したればなり。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|輝《かがや》ける|潔《きよ》き|細布《ほそぬの》を|著《き》ることを|許《ゆる》されたり、|此《こ》の|細布《ほそぬの》は|聖徒《せいと》たちの|正《ただ》しき|行爲《おこなひ》なり』 [#ここで字下げ終わり] [#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》また|我《われ》に|言《い》ふ『なんぢ|書《か》き|記《しる》せ、|羔羊《こひつじ》の|婚姻《こんいん》の|宴席《ふるまひ》に|招《まね》かれたる|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり』と。また|我《われ》に|言《い》ふ『これ|神《かみ》の|眞《まこと》の|言《ことば》なり』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》その|足下《あしもと》に|平伏《ひれふ》して|拜《はい》せんとしたれば、|彼《かれ》われに|言《い》ふ『|愼《つつし》みて|然《しか》すな、|我《われ》は|汝《なんぢ》およびイエスの|證《あかし》を|保《たも》つ|汝《なんぢ》の|兄弟《きゃうだい》とともに|僕《しもべ》たるなり。なんぢ|神《かみ》を|拜《はい》せよ、イエスの|證《あかし》は|即《すなは》ち|預言《よげん》の|靈《れい》なり』[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|天《てん》の|開《ひら》けたるを|見《み》しに、|視《み》よ、|白《しろ》き|馬《うま》あり、|之《これ》に|乘《の》りたまふ|者《もの》は「|忠實《ちゅうじつ》また|眞《まこと》」と|稱《とな》へられ、|義《ぎ》をもて|審《さば》きかつ|戰《たたか》ひたまふ。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》の|目《め》は|焔《ほのほ》のごとく、その|頭《かうべ》には|多《おほ》くの|冠冕《かんむり》あり、また|記《しる》せる|名《な》あり、|之《これ》を|知《し》る|者《もの》は|彼《かれ》の|他《ほか》になし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|血《ち》に|染《そ》みたる|衣《ころも》を|纏《まと》へり、その|名《な》は「|神《かみ》の|言《ことば》」と|稱《とな》ふ。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|天《てん》に|在《あ》る|軍勢《ぐんぜい》は|白《しろ》く|潔《きよ》き|細布《ほそぬの》を|著《き》、|白《しろ》き|馬《うま》に|乘《の》りて|彼《かれ》にしたがふ。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》の|口《くち》より|利《と》き|劍《つるぎ》いづ、|之《これ》をもて|諸國《しょこく》の|民《たみ》をうち、|鐵《てつ》の|杖《つゑ》をもて|之《これ》を|治《をさ》め|給《たま》はん。また|自《みづか》ら|全能《ぜんのう》の|神《かみ》の|烈《はげ》しき|怒《いかり》の|酒槽《さかぶね》を|踐《ふ》みたまふ。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]その|衣《ころも》と|股《もも》とに『|王《わう》の|王《わう》、|主《しゅ》の|主《しゅ》』と|記《しる》せる|名《な》あり。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|一人《ひとり》の|御使《みつかひ》の|太陽《たいやう》のなかに|立《た》てるを|見《み》たり。|大聲《おほごゑ》に|呼《よば》はりて、|中空《なかぞら》を|飛《と》ぶ|凡《すべ》ての|鳥《とり》に|言《い》ふ『いざ、|神《かみ》の|大《おほい》なる|宴席《ふるまひ》に|集《つど》ひきたりて、[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|王《わう》たちの|肉《にく》、|將校《しゃうこう》の|肉《にく》、|強《つよ》き|者《もの》の|肉《にく》、|馬《うま》と|之《これ》に|乘《の》る|者《もの》との|肉《にく》、すべての|自主《じしゅ》および|奴隷《どれい》、|小《せう》なるもの|大《だい》なる|者《もの》の|肉《にく》を|食《くら》へ』[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|獸《けもの》と|地《ち》の|王《わう》たちと|彼《かれ》らの|軍勢《ぐんぜい》とが|相《あひ》|集《あつま》りて、|馬《うま》に|乘《の》りたまふ|者《もの》および|其《そ》の|軍勢《ぐんぜい》に|對《むか》ひて|戰鬪《たたかひ》を|挑《いど》むを|見《み》たり。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]かくて|獸《けもの》は|捕《とら》へられ、|又《また》その|前《まへ》に|不思議《ふしぎ》を|行《おこな》ひて|獸《けもの》の|徽章《しるし》を|受《う》けたる|者《もの》と、その|像《ざう》を|拜《はい》する|者《もの》とを|惑《まどは》したる|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》も、|之《これ》とともに|捕《とら》へられ、|二《ふた》つながら|生《い》きたるまま|硫黄《いわう》の|燃《も》ゆる|火《ひ》の|池《いけ》に|投《な》げ|入《い》れられたり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]その|他《ほか》の|者《もの》は|馬《うま》に|乘《の》りたまふ|者《もの》の|口《くち》より|出《い》づる|劍《つるぎ》にて|殺《ころ》され、|凡《すべ》ての|鳥《とり》その|肉《にく》を|食《くら》ひて|飽《あ》きたり。 第二〇章[#「第二〇章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|一人《ひとり》の|御使《みつかひ》の|底《そこ》なき|所《ところ》の|鍵《かぎ》と|大《おほい》なる|鎖《くさり》とを|手《て》に|持《も》ちて、|天《てん》より|降《くだ》るを|見《み》たり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》は|龍《たつ》、すなわち|惡魔《あくま》たりサタンたる|古《ふる》き|蛇《へび》を|捕《とら》へて、|之《これ》を|千年《せんねん》のあひだ|繋《つな》ぎおき、[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|底《そこ》なき|所《ところ》に|投《な》げ|入《い》れ|閉《と》ぢ込めて、その|上《うへ》に|封印《ふういん》し、|千年《せんねん》の|終《をは》るまでは|諸國《しょこく》の|民《たみ》を|惑《まどは》すことなからしむ。その|後《のち》、|暫時《しばし》のあひだ|解放《ときはな》さるべし。[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|多《おほ》くの|座位《くらゐ》を|見《み》しに、|之《これ》に|座《ざ》する|者《もの》あり、|審判《さばき》する|權威《けんゐ》を|與《あた》へられたり。|我《われ》またイエスの|證《あかし》および|神《かみ》の|御言《みことば》のために|馘《くびき》られし|者《もの》の|靈魂《たましひ》、また|獸《けもの》をもその|像《ざう》をも|拜《はい》せず、|己《おの》が|額《ひたひ》あるいは|手《て》にその|徽章《しるし》を|受《う》けざりし|者《もの》どもを|見《み》たり。|彼《かれ》らは|生《い》きかへりて|千年《せんねん》の|間《あひだ》キリストと|共《とも》に|王《わう》となれり。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり](その|他《ほか》の|死人《しにん》は|千年《せんねん》の|終《をは》るまで|生《い》きかへらざりき)これは|第一《だいいち》の|復活《よみがへり》なり。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|幸福《さいはひ》なるかな、|聖《せい》なるかな、|第一《だいいち》の|復活《よみがへり》に|干《あづか》る|人《ひと》。この|人々《ひとびと》に|對《たい》して|第二《だいに》の|死《し》は|權威《けんゐ》を|有《も》たず、|彼《かれ》らは|神《かみ》とキリストとの|祭司《さいし》となり、キリストと|共《とも》に|千年《せんねん》のあひだ|王《わう》たるべし。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|千年《せんねん》|終《をは》りて|後《のち》サタンは|其《そ》の|檻《をり》より|解放《ときはな》たれ、[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]|出《い》でて|地《ち》の|四方《しはう》の|國《くに》の|民《たみ》、ゴグとマゴグとを|惑《まどは》し|戰鬪《たたかひ》のために|之《これ》を|集《あつ》めん、その|數《かず》は|海《うみ》の|砂《すな》のごとし。[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かくて|彼《かれ》らは|地《ち》の|全面《ぜんめん》に|上《あが》りて、|聖徒《せいと》たちの|陣營《ぢんえい》と|愛《あい》せられたる|都《みやこ》とを|圍《かこ》みしが、|天《てん》より|火《ひ》くだりて|彼《かれ》|等《ら》を|燒《や》き|盡《つく》し、[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》らを|惑《まどは》したる|惡魔《あくま》は、|火《ひ》と|硫黄《いわう》との|池《いけ》に|投《な》げ|入《い》れられたり。ここは|獸《けもの》も|僞《にせ》|預言者《よげんしゃ》もまた|居《を》る|所《ところ》にして、|彼《かれ》らは|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|晝《ひる》も|夜《よる》も|苦《くる》しめらるべし。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|大《おほい》なる|白《しろ》き|御座《みくら》および|之《これ》に|座《ざ》し|給《たま》ふものを|見《み》たり。|天《てん》も|地《ち》もその|御顏《みかほ》の|前《まへ》を|遁《のが》れて|跡《あと》だに|見《み》えずなりき。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|死《し》にたる|者《もの》の|大《だい》なるも|小《せう》なるも|御座《みくら》の|前《まへ》に|立《た》てるを|見《み》たり。|而《しか》して|數々《かずかず》の|書《ふみ》|展《ひら》かれ、|他《ほか》にまた|一《ひと》つの|書《ふみ》ありて|展《ひら》かる、|即《すなは》ち|生命《いのち》の|書《ふみ》なり、|死人《しにん》は|此《これ》|等《ら》の|書《ふみ》に|記《しる》されたる|所《ところ》の、その|行爲《おこなひ》に|隨《したが》ひて|審《さば》かれたり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|海《うみ》はその|中《なか》にある|死人《しにん》を|出《いだ》し、|死《し》も|陰府《よみ》もその|中《なか》にある|死人《しにん》を|出《いだ》したれば、|各自《おのおの》その|行爲《おこなひ》に|隨《したが》ひて|審《さば》かれたり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]かくて|死《し》も|陰府《よみ》も|火《ひ》の|池《いけ》に|投《な》げ|入《い》れられたり、|此《こ》の|火《ひ》の|池《いけ》は|第二《だいに》の|死《し》なり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]すべて|生命《いのち》の|書《ふみ》に|記《しる》されぬ|者《もの》はみな|火《ひ》の|池《いけ》に|投《な》げ|入《い》れられたり。 第二一章[#「第二一章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|新《あたら》しき|天《てん》と|新《あたら》しき|地《ち》とを|見《み》たり。これ|前《さき》の|天《てん》と|前《さき》の|地《ち》とは|過《す》ぎ|去《さ》り、|海《うみ》も|亦《また》なきなり。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》また|聖《せい》なる|都《みやこ》、|新《あたら》しきエルサレムの、|夫《をっと》のために|飾《かざ》りたる|新婦《はなよめ》のごとく|準備《そなへ》して、|神《かみ》の|許《もと》をいで、|天《てん》より|降《くだ》るを|見《み》たり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]また|大《おほい》なる|聲《こゑ》の|御座《みくら》より|出《い》づるを|聞《き》けり。|曰《いは》く『|視《み》よ、|神《かみ》の|幕屋《まくや》、|人《ひと》と|偕《とも》にあり、|神《かみ》、|人《ひと》と|偕《とも》に|住《す》み、|人《ひと》、|神《かみ》の|民《たみ》となり、|神《かみ》みづから|人《ひと》と|偕《とも》に|在《いま》して、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]かれらの|目《め》の|涙《なみだ》をことごとく|拭《ぬぐ》ひ|去《さ》り|給《たま》はん。|今《いま》よりのち|死《し》もなく、|悲歎《かなしみ》も|號叫《さけび》も|苦痛《くるしみ》もなかるべし。|前《さき》のもの|既《すで》に|過《す》ぎ|去《さ》りたればなり』[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]かくて|御座《みくら》に|坐《ざ》し|給《たま》ふもの|言《い》ひたまふ『|視《み》よ、われ|一切《すべて》のものを|新《あらた》にするなり』また|言《い》ひたまふ『|書《か》き|記《しる》せ、これらの|言《ことば》は|信《しん》ずべきなり、|眞《まこと》なり』[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》に|言《い》ひたまふ『|事《こと》すでに|成《な》れり、|我《われ》はアルパなり、オメガなり、|始《はじめ》なり、|終《をはり》なり、|渇《かわ》く|者《もの》には|價《あたひ》なくして|生命《いのち》の|水《みづ》の|泉《いづみ》より|飮《の》むことを|許《ゆる》さん。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|勝《かち》を|得《う》る|者《もの》は|此《これ》|等《ら》のものを|嗣《つ》がん、|我《われ》はその|神《かみ》となり、|彼《かれ》は|我《わ》が|子《こ》とならん。[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]されど|臆《おく》するもの、|信《しん》ぜぬもの、|憎《にく》むべきもの、|人《ひと》を|殺《ころ》すもの、|淫行《いんかう》のもの、|咒術《まじわざ》をなすもの、|偶像《ぐうざう》を|拜《はい》する|者《もの》および|凡《すべ》て|僞《いつは》る|者《もの》は、|火《ひ》と|硫黄《いわう》との|燃《も》ゆる|池《いけ》にて|其《そ》の|報《むくい》を|受《う》くべし、これ|第二《だいに》の|死《し》なり』[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]|最後《いやはて》の|七《なな》つの|苦難《くるしみ》の|滿《み》ちたる|七《なな》つの|鉢《はち》を|持《も》てる|七人《しちにん》の|御使《みつかひ》の|一人《ひとり》きたり、|我《われ》に|語《かた》りて|言《い》ふ『|來《きた》れ、われ|羔羊《こひつじ》の|妻《つま》なる|新婦《はなよめ》を|汝《なんぢ》に|見《み》せん』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》、|御靈《みたま》に|感《かん》じたる|我《われ》を|携《たづさ》へて|大《おほい》なる|高《たか》き|山《やま》にゆき、|聖《せい》なる|都《みやこ》エルサレムの、|神《かみ》の|榮光《えいくわう》をもて|神《かみ》の|許《もと》を|出《い》でて|天《てん》より|降《くだ》るを|見《み》せたり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]その|都《みやこ》の|光輝《かがやき》はいと|貴《たふと》き|玉《たま》のごとく、|透徹《すきとほ》る|碧玉《へきぎょく》のごとし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|此處《ここ》に|大《おほい》なる|高《たか》き|石垣《いしがき》ありて|十二《じふに》の|門《もん》あり、|門《もん》の|側《かたは》らに|一人《ひとり》づつ|十二《じふに》の|御使《みつかひ》あり、|門《もん》の|上《うへ》に|一《ひと》つづつイスラエルの|子孫《しそん》の|十二《じふに》の|族《やから》の|名《な》を|記《しる》せり。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|東《ひがし》に|三《み》つの|門《もん》、|北《きた》に|三《み》つの|門《もん》、|南《みなみ》に|三《み》つの|門《もん》、|西《にし》に|三《み》つの|門《もん》あり。[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]|都《みやこ》の|石垣《いしがき》には|十二《じふに》の|基《もとゐ》あり、これに|羔羊《こひつじ》の|十二《じふに》の|使徒《しと》の|十二《じふに》の|名《な》を|記《しる》せり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》と|語《かた》る|者《もの》は|都《みやこ》と|門《もん》と|石垣《いしがき》とを|測《はか》らん|爲《ため》に|金《きん》の|間竿《けんざを》を|持《も》てり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]|都《みやこ》は|方形《はうけい》にして、その|長《なが》さ|廣《ひろ》さ|相《あひ》|均《ひと》し。|彼《かれ》は|間竿《けんざを》にて|都《みやこ》を|測《はか》りしに|一千《いちせん》|二百《にひゃく》|町《ちゃう》あり、|長《なが》さ|廣《ひろ》さ|高《たか》さみな|相《あひ》|均《ひと》し。[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]また|石垣《いしがき》を|測《はか》りしに、|人《ひと》の|度《はかり》すなはち|御使《みつかひ》の|度《はかり》に|據《よ》れば|百《ひゃく》|四十《しじふ》|四《し》|尺《しゃく》あり。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]|石垣《いしがき》は|碧玉《へきぎょく》にて|築《きづ》き、|都《みやこ》は|清《きよ》らかなる|玻璃《ぱり》のごとき|純金《じゅんきん》にて|造《つく》れり。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|都《みやこ》の|石垣《いしがき》の|基《もとゐ》はさまざまの|寶石《はうせき》にて|飾《かざ》れり。|第一《だいいち》の|基《もとゐ》は|碧玉《へきぎょく》、|第二《だいに》は|瑠璃《るり》、|第三《だいさん》は|玉髓《ぎょくずい》、|第四《だいし》は|緑玉《りょくぎょく》、[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]|第五《だいご》は|紅縞《あかじま》|瑪瑙《めのう》、|第六《だいろく》は|赤瑪瑙《あかめのう》、|第七《だいしち》は|貴橄欖石《きかんらんせき》、|第八《だいはち》は|緑柱石《りょくちゅうせき》、第|九《く》は|黄玉石《くわうぎょくせき》、第|十《じふ》は|緑玉髓《りょくぎょくずい》、第|十《じふ》|一《いち》は|青玉《せいぎょく》、第|十二《じふに》は|紫《むらさき》|水晶《ずゐしゃう》なり。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|十二《じふに》の|門《もん》は|十二《じふに》の|眞珠《しんじゅ》なり、おのおのの|門《もん》は|一《ひと》つの|眞珠《しんじゅ》より|成《な》り、|都《みやこ》の|大路《おほじ》は|透徹《すきとほ》る|玻璃《ぱり》のごとき|純金《じゅんきん》なり。[#太字]二二[#「二二」は行右小書き][#太字終わり]われ|都《みやこ》の|内《うち》にて|宮《みや》を|見《み》ざりき、|主《しゅ》なる|全能《ぜんのう》の|神《かみ》および|羔羊《こひつじ》はその|宮《みや》なり。[#太字]二三[#「二三」は行右小書き][#太字終わり]|都《みやこ》は|日月《じつげつ》の|照《てら》すを|要《えう》せず、|神《かみ》の|榮光《えいくわう》これを|照《てら》し、|羔羊《こひつじ》はその|燈火《あかり》なり。[#太字]二四[#「二四」は行右小書き][#太字終わり]|諸國《しょこく》の|民《たみ》は|都《みやこ》の|光《ひかり》のなかを|歩《あゆ》み、|地《ち》の|王《わう》たちは|己《おの》が|光榮《くわうえい》を|此處《ここ》にたづさへきたる。[#太字]二五[#「二五」は行右小書き][#太字終わり]|都《みやこ》の|門《もん》は|終日《ひねもす》|閉《と》ぢず(|此處《ここ》に|夜《よ》あることなし)[#太字]二六[#「二六」は行右小書き][#太字終わり]|人々《ひとびと》は|諸國《しょこく》の|民《たみ》の|光榮《くわうえい》と|尊貴《たふとき》とを|此處《ここ》にたづさえ|來《きた》らん。[#太字]二七[#「二七」は行右小書き][#太字終わり]|凡《すべ》て|穢《けが》れたる|者《もの》また|憎《にく》むべき|事《こと》と|虚僞《いつはり》とを|行《おこな》ふ|者《もの》は、|此處《ここ》に|入《い》らず、|羔羊《こひつじ》の|生命《いのち》の|書《ふみ》に|記《しる》されたる|者《もの》のみ|此處《ここ》に|入《い》るなり。 第二二章[#「第二二章」は中見出し] [#太字]一[#「一」は行右小書き][#太字終わり]|御使《みつかひ》また|水晶《すゐしゃう》のごとく|透徹《すきとほ》れる|生命《いのち》の|水《みづ》の|河《かは》を|我《われ》に|見《み》せたり。この|河《かは》は|神《かみ》と|羔羊《こひつじ》との|御座《みくら》より|出《い》でて|都《みやこ》の|大路《おほじ》の|眞中《まなか》を|流《なが》る。[#太字]二[#「二」は行右小書き][#太字終わり]|河《かは》の|左右《さいう》に|生命《いのち》の|樹《き》ありて|十二《じふに》|種《しゅ》の|實《み》を|結《むす》び、その|實《み》は|月《つき》|毎《ごと》に|生《しゃう》じ、その|樹《き》の|葉《は》は|諸國《しょこく》の|民《たみ》を|醫《いや》すなり。[#太字]三[#「三」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》よりのち|詛《のろ》はるべき|者《もの》は|一《ひと》つもなかるべし。|神《かみ》と|羔羊《こひつじ》との|御座《みくら》は|都《みやこ》の|中《うち》にあり。その|僕《しもべ》らは|之《これ》に|事《つか》へ、[#太字]四[#「四」は行右小書き][#太字終わり]|且《かつ》その|御顏《みかほ》を|見《み》ん、その|御名《みな》は|彼《かれ》らの|額《ひたひ》にあるべし。[#太字]五[#「五」は行右小書き][#太字終わり]|今《いま》よりのち|夜《よ》ある|事《こと》なし、|燈火《ともしび》の|光《ひかり》をも|日《ひ》の|光《ひかり》をも|要《えう》せず、|主《しゅ》なる|神《かみ》かれらを|照《てら》し|給《たま》へばなり。|彼《かれ》らは|世々《よよ》|限《かぎ》りなく|王《わう》たるべし。[#太字]六[#「六」は行右小書き][#太字終わり]|彼《かれ》また|我《われ》に|言《い》ふ『これらの|言《ことば》は|信《しん》ずべきなり、|眞《まこと》なり、|預言者《よげんしゃ》たちの|靈魂《たましひ》の|神《かみ》たる|主《しゅ》は、|速《すみや》かに|起《おこ》るべき|事《こと》をその|僕《しもべ》どもに|示《しめ》さんとて、|御使《みつかひ》を|遣《つかは》し|給《たま》へるなり。[#太字]七[#「七」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、われ|速《すみや》かに|到《いた》らん、この|書《ふみ》の|預言《よげん》の|言《ことば》を|守《まも》る|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり』[#太字]八[#「八」は行右小書き][#太字終わり]これらの|事《こと》を|聞《き》き、かつ|見《み》し|者《もの》は|我《われ》ヨハネなり。かくて|見《み》|聞《きき》せしとき|我《われ》これらの|事《こと》を|示《しめ》したる|御使《みつかひ》の|足下《あしもと》に|平伏《ひれふ》して|拜《はい》せんとせしに、[#太字]九[#「九」は行右小書き][#太字終わり]かれ|言《い》ふ『つつしみて|然《しか》すな、われは|汝《なんぢ》および|汝《なんぢ》の|兄弟《きゃうだい》たる|預言者《よげんしゃ》、また|此《こ》の|書《ふみ》の|言《ことば》を|守《まも》る|者《もの》と|等《ひと》しく|僕《しもべ》たるなり、なんじ|神《かみ》を|拜《はい》せよ』[#太字]一〇[#「一〇」は行右小書き][#太字終わり]また|我《われ》に|言《い》ふ『この|書《ふみ》の|預言《よげん》の|言《ことば》を|封《ふう》ずな、|時《とき》|近《ちか》ければなり。[#太字]一一[#「一一」は行右小書き][#太字終わり]|不義《ふぎ》をなす|者《もの》はいよいよ|不義《ふぎ》をなし|不淨《ふじゃう》なる|者《もの》はいよいよ|不淨《ふじゃう》をなし、|義《ぎ》なる|者《もの》はいよいよ|義《ぎ》をおこなひ、|清《きよ》き|者《もの》はいよいよ|清《きよ》くすべし。[#太字]一二[#「一二」は行右小書き][#太字終わり]|視《み》よ、われ|報《むくい》をもて|速《すみや》かに|到《いた》らん、|各人《おのおの》の|行爲《おこなひ》に|隨《したが》ひて|之《これ》を|與《あた》ふべし。[#太字]一三[#「一三」は行右小書き][#太字終わり]|我《われ》はアルパなり、オメガなり、|最先《いやさき》なり、|最後《いやはて》なり、|始《はじめ》なり、|終《をはり》なり、[#太字]一四[#「一四」は行右小書き][#太字終わり]おのが|衣《ころも》を|洗《あら》ふ|者《もの》は|幸福《さいはひ》なり、|彼《かれ》らは|生命《いのち》の|樹《き》にゆく|權威《けんゐ》を|與《あた》へられ、|門《もん》を|通《とほ》りて|都《みやこ》に|入《い》ることを|得《う》るなり。[#太字]一五[#「一五」は行右小書き][#太字終わり]|犬《いぬ》および|咒術《まじわざ》をなすもの、|淫行《いんかう》のもの、|人《ひと》を|殺《ころ》すもの、|偶像《ぐうざう》を|拜《はい》する|者《もの》、また|凡《すべ》て|虚僞《いつはり》を|愛《あい》して|之《これ》を|行《おこな》ふ|者《もの》は|外《そと》にあり。[#太字]一六[#「一六」は行右小書き][#太字終わり]われイエスは|我《わ》が|使《つかひ》を|遣《つかは》して|諸《しょ》|教會《けうくわい》のために|此《これ》|等《ら》のことを|汝《なんぢ》らに|證《あかし》せり。|我《われ》はダビデの|萠蘗《ひこばえ》また|其《そ》の|裔《すゑ》なり、|輝《かがや》ける|曙《あけ》の|明星《みゃうじゃう》なり』[#太字]一七[#「一七」は行右小書き][#太字終わり]|御靈《みたま》も|新婦《はなよめ》もいふ『|來《きた》りたまへ』|聞《き》く|者《もの》も|言《い》へ『きたり|給《たま》へ』と、|渇《かわ》く|者《もの》はきたれ、|望《のぞ》む|者《もの》は|價《あたひ》なくして|生命《いのち》の|水《みづ》を|受《う》けよ。[#太字]一八[#「一八」は行右小書き][#太字終わり]われ|凡《すべ》てこの|書《ふみ》の|預言《よげん》の|言《ことば》を|聞《き》く|者《もの》に|證《あかし》す。もし|之《これ》に|加《くは》ふる|者《もの》あらば、|神《かみ》はこの|書《ふみ》に|記《しる》されたる|苦難《くるしみ》を|彼《かれ》に|加《くは》へ|給《たま》はん。[#太字]一九[#「一九」は行右小書き][#太字終わり]|若《も》しこの|預言《よげん》の|書《ふみ》の|言《ことば》を|省《はぶ》く|者《もの》あらば、|神《かみ》はこの|書《ふみ》に|記《しる》されたる|生命《いのち》の|樹《き》、また|聖《せい》なる|都《みやこ》より|彼《かれ》の|受《う》くべき|分《ぶん》を|省《はぶ》き|給《たま》はん。[#太字]二〇[#「二〇」は行右小書き][#太字終わり]これらの|事《こと》を|證《あかし》する|者《もの》いひ|給《たま》ふ『|然《しか》り、われ|速《すみや》かに|到《いた》らん』アァメン、|主《しゅ》イエスよ、|來《きた》りたまへ。[#太字]二一[#「二一」は行右小書き][#太字終わり]|願《ねが》はくは|主《しゅ》イエスの|恩惠《めぐみ》なんぢら|凡《すべ》ての|者《もの》と|偕《とも》に|在《あ》らんことを。 [#改ページ] 底本:「新約聖書 改訳」日本聖書協会 1950年発行(第四版) (初版は1917年) 2010年9月14日作成 ※テキストを修正した場合には、当サイトの名前を使用してはいけません。